説明

建築用下地材の施工方法

【課題】 建築用下地材を施工場所で切断して使用するときに、切断した木口面の防水性およびコーキング剤の密着性を向上させる。
【解決手段】 基板として使用されるMDF3と、このMDF3の表面に設けられる防水層5と、この防水層5の上に設けられる凹凸層7とを含む建築用下地材1を切断した後、壁の躯体に固定する建築用下地材の施工方法において、建築用下地材1を切断した木口面9にウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢酸ビニール樹脂などの各エマルジョン、あるいはアクリル樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスとの混合物からなる木口面処理剤12を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用下地材、特にその表面にモルタルや漆喰などを塗布する建築用下地材の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築用下地材の施工方法としては、たとえば基板の表面に防水層および凹凸層をこの順に設けた建築用下地材を予め工場で製造し、この下地材を施工場所(施工現場)で柱、間柱などの構造躯体に固定し、さらに、その表面にモルタルを塗布することによりモルタル層を形成することが行われている(下記特許文献1、2)。
【特許文献1】実公昭56−18667号公報
【特許文献2】実公昭58−18510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、施工の際の建築用下地材の取り合いの関係から、建築用下地材を所望の寸法に切断する必要がある場合がある。建築用下地材を所望の寸法に切断して使用する場合、切断した木口面から吸水、吸湿あるいは乾燥することによって基板が伸縮する。基板が伸縮すると建築用下地材に塗着されたモルタル層に割れが発生するおそれが生ずる。さらに、基板が吸水し高湿の状態が長時間継続すると木材腐朽菌やかびが繁殖するおそれもある。
【0004】
また、切断した木口面には木粉が付着していることが通常である。木口面に木粉が付着していると、特に木口面に対するコーキング剤の密着性が悪化する。木口面が建築用下地材同士の目地部分に当るときには、充填されたコーキング剤の木口面に対する密着性が悪く目地部分の防水性が確保されない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、建築用下地材を施工場所で切断して使用するときに、切断した木口面の防水性およびコーキング剤との密着性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、基板として使用される繊維板と、該繊維板の表面に設けられる防水層と、該防水層の上に設けられる凹凸層とを含む建築用下地材を切断した後、壁の躯体に固定する建築用下地材の施工方法において、前記建築用下地材を切断した木口面に合成樹脂エマルジョンまたは合成ゴムラテックスあるいは合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスとの混合物からなる木口面処理剤を塗布することを特徴とする。
【0007】
このようにすることにより、建築用下地材の切断した木口面に合成樹脂エマルジョンまたは合成ゴムラテックスあるいは合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスとの混合物からなる木口面処理剤を塗布するので、切断した木口面からの吸水、吸湿あるいは乾燥がほとんどなくなり基板が伸縮しない。したがって、基板の伸縮によるモルタル層の割れが発生しない。さらに、基板に水分が吸収されないので、基板内の木材腐朽やかび繁殖がほとんどなく、建築用下地材としての品質を維持する。
【0008】
また、基板として使用される繊維板の切断木口面には木粉が多量に付着しているが、上記木口処理剤を塗布することにより、木口処理剤は木粉とともに表面の密着性が良好な木口処理層を形成する。特に、切断した木口面が建築用下地材同士の目地部分に当り、この目地部分にコーキング剤が充填されるときには、木口面に対するコーキング剤の密着性が向上するとともに目地部分の防水性を向上させる。
【0009】
次に本発明を構成する各要件についてさらに詳しく説明する。本建築用下地材は、壁の躯体に固定された後に、その表面にセメントモルタルを塗布してモルタル層(漆喰を含む)が形成されるもので、建築物の内外壁の下地材として用いられる。壁の躯体は、柱、間柱、梁、胴縁などで形成される構造躯体である。この躯体に本建築用下地材を固定する際、取り合いの関係から建築用下地材を所望の寸法に切断しなければならない場合がある。このような場合、切断した木口面に後述の木口面処理剤を塗布する。
【0010】
木口面処理剤は、建築用下地材を躯体に固定する前に塗布しても良いし、建築用下地材を躯体に固定した後に塗布しても良い。木口面処理剤としては、合成樹脂エマルジョン、合成ゴムラテックスまたは合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスとの混合物である。
【0011】
合成樹脂エマルジョンとしては、アクリル樹脂を使用でき、合成ゴムラテックスとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、メチルメタクリレートブタジエンゴム(MBR)、クロロプレンゴム(CR)などを使用できる。木口面処理剤として合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスとの混合物を使用する場合、その組成は合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスを等量ずつ混合することを標準とするが、混合物の成分、組成、下地材の用途などに応じて増減する。
【0012】
上記木口面処理剤は、後述の基板の表面に形成される防水層の塗布剤としても使用できるが、木口面処理剤のみに使用できるものとして、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢酸ビニール樹脂などの各エマルジョンがある。これらの木口面処理剤は、好ましくは切断した建築用下地材を躯体に固定した後に塗布することが好ましい。これは、これらの樹脂は乾燥すると硬化し、釘打ちまたはビス止めの際のひび割れを回避するためである。
【0013】
また、木口面処理剤の塗布量は、後述の基材の表面に塗布する防水層と同程度とし、120〜250g/mとする。
【0014】
繊維板は、JIS A5905に規定されるドライプロセスによって製造され比重が0.35以上であるミディアムデンシティファイバーボード(MDF)、同じく同規格に規定されるウェットプロセスによって製造され比重が0.80以上であるハードファイバーボード(HB)などの中から選択される。
【0015】
繊維板の平均比重は0.5〜1.05であることが好ましい。これが0.5未満であると、繊維板自体の硬さが不十分で構造材としての強度及び剛性が不足する。平均比重が1.05を越えるものとなると、繊維板自体が硬くなりすぎて、建築用下地材として要求される釘打ち性またはビス止め性が悪くなる。さらに、平均比重が1.05を越えるものとなると、重くなり施工の際の取扱い性が悪くなる。また、繊維板を製造する際の熱圧条件が厳しくなってコスト高となる。
【0016】
また、繊維板は、その厚さ方向において中心層と、この中心層より比重及び非透水性が高い表面側及び裏面側の硬質層とが設けられており、且つ、高比重の表裏硬質層が繊維板の表裏面に露出している。
【0017】
硬質層の比重は、非透水性を与えるとともに表裏面の硬度を大きくして耐傷性を向上させるために0.7以上であり、且つ、過度に比重が高くなると釘打ち性やビス止め性も悪くなることから1.2以下とする。
【0018】
また、基板としての繊維板は、予め一般的に行われている防虫・防蟻・防カビ・防腐などの処理を施しておくことが好ましい。さらに、建築用下地材を外壁を形成する壁の下地板として使用する場合は、繊維板の中でも特にMDFを基板に用いることが好ましい。この理由は下記の通りである。
【0019】
建物の壁の屋外側と室内側の温度差に起因して壁内に生ずる結露水、屋外から侵入する雨水、外壁面への太陽光の照射などにより、外壁に用いられる建築用下地板の基板の含水率は大きく変動し、しかもこの変動が長期に亘って繰り返されることになる。MDFは、その製造工程において風送中の木質繊維に対して接着剤が添加され、木質繊維同士の接点を接着剤により三次元的に固定して成形されるのに対し、ハードボードは接着剤をほとんど使用せず、木質繊維同士が単に絡み合った状態で成形される。
【0020】
このため、長期に亘って含水率が変化した場合、MDFは収縮膨張の動きが小さく初期状態を維持する性能に優れているが、ハードボードは収縮膨張の動きが大きいため、その表面に設けられた防水層及び凹凸層の干割れや剥離あるいはハードボード基板自体の膨れなどの問題が生じやすい。これらの理由により、特に外壁用の建築用下地材の基板としては、繊維板の中でもMDFを用いることが好ましい。
【0021】
なお、MDFを成形する際には、フェノール系、ウレタン系、メラミン系、ユリア・メラミン系、アクリル系などの合成樹脂系接着剤、タンニン系などの天然系接着剤を単独または任意複合して使用し、必要に応じパラフィン、ワックス、ロジン、クマロンなどの耐水性サイジング剤を添加して、前述の各要件を満たしたMDFを得る。
【0022】
防水層は、基板の表面に、合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスの混合物を、ロールコーターやフローコーターなどの塗布装置にて均一に塗布し、乾燥させることにより形成される。塗布量はたとえば120〜250g/mであり、乾燥条件はたとえば80度で5〜10分間である。
【0023】
合成樹脂エマルジョンとしては、アクリル樹脂、塩化ビニール樹脂、合成ゴムラテックスとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、メチルメタクリレートブタジエンゴム(MBR)、クロロプレンゴム(CR)を使用することができる。
【0024】
また、防水層にはタール、アスファルトなどの瀝青質物質、クレー、タルク、炭酸カルシウム、パーライト、金属粉などの増量剤や分散剤などの助剤を添加混合しても良い。防水層は、基板の少なくとも表面に形成されるものであり、さらに基板の裏面にも防水層を形成することができる。
【0025】
凹凸層は、防水層の表面に、ポルトランドセメント、白色セメントなどのセメントと、合成樹脂、ラテックスまたは瀝青質物質と、炭酸カルシウム、珪砂などの骨材と、メチルセルロース、界面活性剤、消泡剤などの成形助剤と、水の混合物をロールコーターなどの塗布装置にて層状に塗布し、乾燥させることにより形成される。凹凸層を形成する混合物の組成は、たとえば、セメント150部(重量部、以下同じ)、骨材150部、ラテックス40部、エマルジョン40部、メチルセルロース0.3部、界面活性剤1部である。
【0026】
凹凸層における合成樹脂、ラテックスまたは瀝青質物質は、防水層に用いたものと同系のものを用いることが好ましく、これにより防水層中の物質と凹凸層中の物質との間で分子間引力が働き、それらの密着強度を増大させることができる。凹凸の形成は、たとえば、形成しようとする凹凸層の凹凸に対応する目切りロールや該凹凸に対応する網を巻いた網巻きロールなどを、防水層の表面に塗布直後の未硬化状態の混合物塗布面に転動させることによって形成することができる。凹凸層の高さは最大2.5mm程度である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、建築用下地材を施工場所で切断して使用するときに、切断した木口面に木口面処理剤を塗布することにより、木口面の防水性およびコーキング剤との密着性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る建築用下地材の施工方法の一実施形態を図面に基いて詳細に説明する。なお、図1、2において、同一または同等部分には同一符号を付けて示す。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明に係る建築用下地材の施工方法において使用する建築用下地材の断面図である。建築用下地材1は、基板として使用されるMDF(繊維板)3と、このMDF3の表面に設けられる防水層5と、この防水層3の上に設けられる凹凸層7から形成される。基板として使用されるMDF3は、厚さ9mm、平均比重0.75である。凹凸層7は、不規則な凹凸模様を有しており、その高さhは約2mmである。
【0030】
防水層5は、アクリル樹脂エマルジョンと先に記した合成ゴムラテックスとの混合物、または塩化ビニール樹脂エマルジョンを塗布することにより形成される。凹凸層7は、たとえば、セメント150部(重量部、以下同じ)、骨材150部、ラテックス40部、エマルジョン40部、メチルセルロース0.3部、界面活性剤1部からなる混合物をロールコーターなどの塗布装置にて層状に塗布し、乾燥させることにより形成される。
【0031】
さらに、建築用下地材1を切断した木口面9には、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン酢ビ樹脂などの合成樹脂エマルジョンである木口面処理剤12が塗布され、木口面処理層11が形成される。
【0032】
図2は、建築用下地材1を目地部分に使用した状態の断面図である。図2を使用して建築用下地材の施工方法を説明する。先ず建築用下地材を所望の寸法に切断した建築用下地材1を、柱などの躯体15の表面に所定の間隔を開けて位置決めする。位置決めした建築用下地材1の凹凸層7の上から躯体15に対して釘23を打ち込み(またはビス止め)固定する。
【0033】
次に、建築用下地材1の切断した木口面9に木口面処理剤12を塗布し木口面処理層11を形成する。この場合、木口面処理剤12は、建築用下地材1を躯体15に釘23で固定する前に予め塗布しておいても良い。建築用下地材1に塗布した木口面処理剤12が乾燥し硬化した後、コーキング剤17を目地部分の隙間およびその隙間近傍の凹凸層7の上に充填、塗布する。次に、充填したコーキング剤が乾燥する前に、目地部分を覆うとともに塗布したコーキング剤の全幅を覆い、かつ凹凸層7の一部まで覆うように網状シート19を張り付ける。最後に、セメントモルタルを塗布しモルタル層21を形成する。
【0034】
コーキング剤17は、アクリル系、アクリルウレタン系、ポリウレタン系、その他変性シリコーン系などの合成樹脂が使用される。網状シート19は、ガラス繊維、炭素繊維などの無機系繊維またはビニロン繊維、ポリプロピレン繊維などの有機系繊維あるいは綿、麻などの植物性繊維などから形成された横糸と縦糸とを直交する格子状に形成したもので、建築用下地材1の目地部分を覆い、目地部分の強度を高めるために設けられるものである。
【0035】
次に、本実施形態の建築用下地材の施工方法について、その作用を図1、2を利用して説明する。建築用下地材を切断した木口面9に合成樹脂エマルジョンまたは合成ゴムラテックスあるいは合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスとの混合物の木口面処理剤12を塗布するので、切断した木口面9からの吸水、吸湿あるいは乾燥がほとんどなくなり、基板が伸縮しない。したがって、MDF3の伸縮によるモルタル層の割れが発生しない。さらに、MDF3中に水分が吸収されないので、MDF3内の木材腐朽やかび繁殖がほとんどない。
【0036】
また、切断した木口面9に上記木口面処理剤12を塗布することにより、木口処理剤12は木口面に付着している木粉とともにコーキング剤17に対する密着性が良好な木口面処理層11を形成するので、図2に示すような木口面9が建築用下地材同士の目地部分に相当する場合、この目地部分にコーキング剤17を充填しても、コーキング剤17は木口面9に密着し、コーキングによる防水性を向上させる。
【0037】
以上この発明を図示の実施形態について詳しく説明したが、それを以ってこの発明をそれらの実施形態のみに限定するものではない。要するに、この発明の精神を逸脱せずして種々改変を加えて多種多様の変形をなし得ることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、個別住宅、集合住宅あるいは業務用ビルなどの建築物の内外壁の建築用下地材の施工方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る建築用下地材の施工方法において使用する建築用下地材の断面図である。
【図2】建築用下地材を目地部分に使用した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 建築用下地材
3 MDF(繊維板)
5 防水層
7 凹凸層
9 切断した木口面
11 木口面処理層
12 木口面処理剤
15 壁の躯体
17 コーキング剤
19 網状シート
21 モルタル層
23 釘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板として使用される繊維板と、該繊維板の表面に設けられる防水層と、該防水層の上に設けられる凹凸層とを含む建築用下地材を切断した後、壁の躯体に固定する建築用下地材の施工方法において、前記建築用下地材を切断した木口面に合成樹脂エマルジョンまたは合成ゴムラテックスあるいは合成樹脂エマルジョンと合成ゴムラテックスとの混合物からなる木口面処理剤を塗布することを特徴とする建築用下地材の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−348479(P2006−348479A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172373(P2005−172373)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(390030340)株式会社ノダ (146)
【Fターム(参考)】