説明

建築鉄骨構造物の裏受金溶接方法

【課題】鉄骨建築鋼管柱とダイアフラムとの溶接は、ルートギャップを約7mm程度確保して鋼管柱側の内面に密着させて裏当金を当接させた後、片側溶接で継手溶接しているため、裏当金を鋼管柱内部に密着セットして溶接仮止めするため作業が難しく、ルート部に欠陥が出やすく応力集中が働きやすいという問題がある。
【解決手段】本発明では、鋼管柱側の内面から柱の半径方向に離した位置で、柱より軽いダイアフラムの外面側に裏受金を仮付溶接した後、その裏受金付きダイアフラムを鋼管柱内に挿入することにより、これらの問題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築鉄骨構造物の鋼管柱を溶接接合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築鉄骨鋼管構造物においては、従来、図1に示すように、小組立で鋼管製短管とダイアフラムからサイコロ2を製作し、中組立で該サイコロに梁ブラケット4を取り付けるパネルゾーン2の製作をし、大組立で該パネルゾーン2に鋼管シャフト5を取り付けて梁ブラケット付き柱即ち一節柱の製作を行う。即ち、3つの組立工程に分かれて製作を行う。
【0003】
そして、建築鉄骨構造物の角形鋼管又は円形鋼管の柱と、ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロと突合せ溶接接合する場合においては、図1及び図2に一例を示すように、通常、角形鋼管又は円形鋼管の柱5の端部にレ形開先34を施し、柱5の端部裏側に裏当金10を密着して宛がい開先のある側から片側溶接を行う。
【0004】
一方、鋼管シャフト・鋼管短管・ダイアフラム等から一度に組立溶接とその後の本溶接で柱を製作してから梁ブラケットを取り付け一節柱の製作を行う方法がある。この方法は柱体工法という。この柱体工法では、柱が長いため柱を水平に寝かして梁ブラケットを柱の上に鉛直に立てるか又は梁ブラケットを柱の横に水平に宛がうことになり、それぞれ梁ブラケットの柱への取付溶接はそれぞれ横向き溶接か立向き溶接になる。
【0005】
また、一方、裏当金を用いない片側溶接には次の方法がある。
図3に示すように、溶接部材を突き合わせて、裏波溶接を行う方法。
図4に示すように、溶接部材を突き合わせて、裏側に銅などの非消耗製裏当金を当てて裏波溶接を行う方法。(特願平8−60098)
図5に示すように、一方の部材端部の裏面に溶接肉盛して片側溶接する方法。(特願2000−202582、WAWO工法という)
図6に示すように、溶接される板1の溶接箇所に予め置きビード38を置いてそれに開先を合わせてセットして表側から溶接する方法(特願平4−162208)
【特許文献1】特願平8−60098
【特許文献2】特願2000−202582
【特許文献3】特願平4−162208
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1及び図2に一例を示すように、通常、角形鋼管又は円形鋼管の柱5の端部にレ形開先34を施し、柱5の端部裏側即ち内面に裏当金10を密着して当てて、柱の内部の奥で仮付溶接したのち、柱5とダイアフラム1とを突き合わせて開先のある側から片側溶接を行う方法は、裏当金をセットする工数が掛かり、その上部材5と部材1の両方にルート部が存在してその両方を初層溶接で十分な溶け込みを行わないとルート部に欠陥が発生しやすいという問題がある。その為、ルート部の間隔即ちギャップを7mm程度という大きな値を用いなければいけない。従って、溶接開先内の溶着量が増加して工数の増大になるという問題がある。また、この従来工法では、角形鋼管又は円形鋼管の柱5の端部と裏当金10との間に隙間が残り角形鋼管又は円形鋼管の柱5と裏当金10との間に応力集中が働き柱継手の強度を低減させるという問題がある。
【0007】
一方、裏当金を用いないで施工する方法が存在する。
図3に示すように、溶接部材35を突き合わせて、裏波溶接36を行う方法は、裏当金が無いため溶融金属が溶け落ちないように裏波ビードを適正に得る為にはかなり高度な技量と開先精度の確保が必要で、実際には鉄骨材料の精度及び鉄骨部品の製作精度の確保が現状では極めて難しく、裏波溶接が普及していないのが現状である。
【0008】
図4に示すように、溶接部材1と5を突き合わせて、裏側に銅などの非消耗製裏当金10Aを当てて裏波溶接を行う方法は、柱の片側溶接では柱の内面に銅などの非消耗製裏当金を宛がうことは出来ないので、非実用的である。
【0009】
図5に示すように、一方の部材端部の裏面に溶接肉盛して片側溶接する方法は肉盛溶接をする工数が掛かる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するためには、応力集中を防ぎ、溶接開先断面積を減らして溶接工数を減らし、裏当金の取付セット工数を減らし、更に、材料及び製作精度に依存しない施工方法が開発されねばならない。これらの問題別に個々に検討し最適な方法を検討した結果、従来、鋼管柱端部の裏側に裏当金を密着して当てて取り付けていた方法を取り止めて、裏当金を鋼管柱端部の裏面から分離して、裏受金と称するディスク状又は矩形断面のリング状鋼板を、ダイアフラム、ベースプレート、中実サイコロ側、又は該鋼管側に取付けて、しかも柱鋼管端部と該裏受材が密着せず当てないで、該鋼管端部の内面と該突合せ溶接用の該裏受金外面との面間距離が周の一部又はほぼ全周に亘って1〜5mmが確保できるようにセットすれば、これを裏受材溶接方法又は工法と称し、これらの問題が全て解決することが明らかになった。
【0011】
このようにすれば、該鋼管端部の内面と該突合せ溶接用の該裏受金外面との距離がほぼ1〜5mmが確保できるので、従来のような裏当金を鋼管柱内面に密着して当てた状態でないので応力集中が緩和され、開先ルート部が溶けやすくなりブローホール、アンダーカットや溶け込み不良等の溶接欠陥が少なくなる。また、裏受金を、長い柱鋼管よりも質量の小さなダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロの外面に取付位置精度1〜5mmで取り付けるので、重量及び寸法の大きい長い柱鋼管の端部内面に密着して裏当金を取り付けるよりもはるかに容易で作業時間も短縮できる。或いは、裏受金を、比較的短くて軽い鋼管側の内面に取り付ければ、同様に、従来のような裏当金を鋼管柱内面に密着して当てた状態でないので応力集中が緩和され、開先ルート部が溶けやすくなりブローホール、アンダーカットや溶け込み不良等の溶接欠陥が少なくなる。即ち、本発明では、柱鋼管端部の寸法精度が少々悪くても施工が容易で速く、応力集中が緩和できる。尚、この裏受金は、ルート溶接時の溶融金属を受けるだけでルート部を十分溶かすことが出来るので、裏当金方式のように必ずしも裏当金を溶かす必要はない。また、この裏受金溶接施工方法は、鋼管柱を組立して継手溶接してから梁ブラケットを取り付ける手順と、梁と柱の接合部即ち仕口部のサイコロを製作してから梁ブラケットを溶接で取り付け鋼管柱シャフトを継手溶接する方法のどちらにでも適用できる。
【0012】
また、該裏受金溶接施工を行う場合、少なくとも該鋼管端部の内面と該突合せ溶接用の裏受金外面との間に、金属粉、カットワイヤ、被覆溶接棒又はこれらの混合物を充填又は設置すれば、該鋼管端部の内面と該突合せ溶接用の裏受金外面との隙間が大きくても、該鋼管柱と該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとを突合せ溶接した場合に、溶融金属が該隙間に入り込まず応力集中が更に低減し且つ溶接効率が向上して溶接作業工数が更に低減できる。金属粉、カットワイヤ、被覆溶接棒又はこれらの混合物を該鋼管柱と該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとの開先内にも充填又は設置すれば、溶接効率が向上して溶接作業工数が更に低減できる。
【0013】
請求項1に係る発明では、発明の第1の構成は、建築鉄骨構造物において、該鋼管端部の内面と該突合せ溶接用の裏受金外面との距離がほぼ全周に亘って1〜5mmが確保できるように該裏受金の外径及び位置を決めることであり、発明の第2の構成は、柱側に裏受金を取り付けるのではなく、該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロ側に該裏受金を仮付溶接することであり、発明の第3の構成は、該裏受金を仮付溶接した後に該鋼管端部と該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとを突合せ溶接することである。
【0014】
請求項2に係る発明では、発明の第1の構成は、建築鉄骨構造物において、角形鋼管柱又は円形鋼管柱と、ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロと突合せ溶接接合する場合に、該鋼管柱端部の内面と、ディスク状又はリング状の裏受金外面との面間距離で1〜5mm程度が確保できるようにすることであり、発明の第2の構成は、該裏受金の外径及び位置を決めて、該角形鋼管柱又は円形鋼管柱側に該裏受金を仮付溶接することであり、発明の第3の構成は、該鋼管端部と該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとを突合せ溶接することを特徴とする鉄骨柱製作方法である。
【0015】
請求項3に係る発明では、請求項1に係る発明の構成に加えて、発明の第4の構成は、
該突合せ溶接の表側開先部において、少なくとも該鋼管端部の内面と該突合せ溶接用の裏受金外面との間に、金属粉、カットワイヤ、被覆溶接棒又はこれらの混合物を充填又は設置することである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、次の効果がある
柱鋼管と裏受金との間に、密着した隙間がなくこの部分の応力が低減されてこの継手の曲げ延性や疲労強度の高い継手強度が得られる。
柱鋼管と裏受金との間に、密着した隙間がないため、継手ルート部の溶け込みが容易でルート部のブローホール、アンダーカットや溶け込み不良等の欠陥が発生しにくい。
ルート部の溶け込みが良いため、従来よりもルートギャップを小さくでき、鋼管柱とダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとの開先ギャップは平均2.5mmであり、従来方法の開先ギャップ平均7mmと比較すれば開先断面積が減少して溶接量が約30%低減できる。
裏受金は鋼管柱側ではなくて、ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロ側に取り付けられるので、裏受金を、長い柱鋼管よりも質量の小さなダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロの外面に精度1〜5mmで取り付けるので、重量及び寸法の大きい柱鋼管の端部内面に密着して裏当金を取り付けるよりもはるかに容易で作業時間も短縮できる。
柱鋼管の寸法精度が少々悪くても施工が容易で速い。
柱体工法だけではなく、サイコロ組立、パネルゾーンの組立、柱の組立の三つに分けた従来工法及び柱を先に組みたてる柱先工法にも応用できる。
【0017】
請求項1に係る発明では、次の効果がある
柱鋼管と裏受金との間に、密着した隙間がなくこの部分の応力が低減されてこの継手の曲げ延性や疲労強度の高い継手強度が得られる。
柱鋼管と裏受金との間に、密着した隙間がないため、継手ルート部の溶け込みが容易でルート部のブローホール、アンダーカットや溶け込み不良等の欠陥が発生しにくい。
ルート部の溶け込みが良いため、従来よりもルートギャップを小さくでき、鋼管柱とダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとの開先ギャップは平均2.5mmであり、従来方法の開先ギャップ平均7mmと比較すれば開先断面積が減少して溶接量が約30%低減できる。
柱鋼管の寸法精度が少々悪くても施工が容易で速い。
柱体工法だけではなく、サイコロ組立、パネルゾーンの組立、柱の組立の三つに分けた従来工法及び柱を先に組みたてる柱先工法にも応用できる。
【0018】
請求項3に係る発明では、請求項1に掛かる発明に加えて、次の効果がある
請求項1に掛かる発明よりも、応力集中の低減が大きい。
請求項1に掛かる発明よりも、溶接効率が向上して溶接作業工数が更に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
建築鉄骨構造物の裏受金溶接方法について実施例を次に述べる。
【実施例1】
【0020】
図7に本発明の請求項1に係る裏受金の一例を示す。図7(イ)は、角形鋼管の内径形状に合わせて挿入する裏受金の外径を設定した隅角の丸い四角のディスク状裏受金であり、その板厚40Tは3〜25mm程度、望むらくは4〜8mm程度で、裏受金の外径40Dは鋼管の内径に対し1〜12mm程度、望むらく2〜8mm程度の小さめに設定する。ボックスコラム柱に対して用いる場合、ディスク状裏受金の角が直角か又はボックスコラム柱の裏当金の断面を切り欠いた形になる。円形鋼管の場合はディスク状裏受金正面全体が円形になる。図7(ロ)は、角形鋼管柱の内径形状に合わせて挿入する裏受金の外径を設定した矩形断面のフラットバーを曲げ加工して矩形断面裏受金をリング(輪)状に製作したものであり、その板厚40Tは4〜12mm程度、望むらくは6〜9mm程度で、その板幅40Bは3〜25mm程度、望むらくは4〜8mm程度で、裏受金の外径40Dは鋼管柱の内径に対し1〜12mm程度望むらくは2〜8mm程度の小さめに設定する。通常、「コ」の字状外観で2分割されて使われるが、「ロ」の字状外観で一体化されたリング(輪)状態で使用することが可能である。ロの字状矩形断面裏受金の方がダイアフラムへのセットが容易である。建築鉄骨を製作する場合には、角形鋼管又は円形鋼管の内径が設計図面で予め示されているので、事前に裏受金40の外径を設定し裏受金を製作前に用意することが出来る。
【実施例2】
【0021】
本発明の請求項1に係る実施例として、図8(イ)に、ダイアフラム1の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、柱5・ダイアフラム1・ディスク状裏受金40を組み合わせた一例を示す。図8(ロ)に、同じくダイアフラム1の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、柱5・中実サイコロ32・ディスク状裏受金40を組み合わせた一例を示す。図8(イ)(ロ)共に、柱5・ダイアフラム1・ディスク状裏受金40を組み合わせて継手の初層溶接を一部実施した状況を示すが、組立手順は、図8(イ)の場合、図9(イ)又は(ロ)のようにダイアフラム1と裏受金40を仮付溶接8した後、柱5とダイアフラム1又は裏受金40と組立溶接し、しかる後に、柱5とダイアフラム1をする手順となる。図9(イ)は、ディスク状裏受金の中心部に開けた孔の内側に仮付溶接する場合であり、ディスク状の裏受金は中央部に例えば約60mm径の孔を開けて、ダイアフラムの中央孔の約40mmの径に同心円にして合わせて、位置決めし、図9(ロ)は、ディスク状裏受金の外周部に仮付溶接する場合であり、いずれの場合も、裏受金の仮付作業が従来のように裏受金は鋼管柱側ではなくて、裏受金を、外面に開放された状態で柱鋼管よりも質量のより小さな軽いダイアフラム側に径方向精度1〜5mmで取り付けられるので、従来方式で重量及び寸法の大きい柱鋼管の端部内面に密着して裏当金を鋼管内部で仮付溶接により取り付けるよりもはるかに容易で作業時間も短縮できる。
【実施例3】
【0022】
本発明の請求項1に係る実施例として、図10(イ)(ロ)に、柱5・ダイアフラム1・ディスク状裏受金40を組み合わせた場合の開先セット状況を示す。図10(イ)は、ダイアフラム1にディスク状裏受金40の中心部の孔のところに仮付溶接した場合であり、図10(ロ)は、ダイアフラム1にディスク状裏受金40の外周部のところに仮付溶接8した場合である。図10(イ)の場合は、開先角度が35°では開先ギャップgは0〜5mm程度であり、望むらくは1〜4mm程度であり、鋼管柱5と裏受金40との隙間hは1〜5mm程度であり、望むらくは2〜3mm程度である。図10(ロ)の場合は、開先角度が35°では開先ギャップgは0〜6mm程度であり、望むらくは1〜5mm程度であり、鋼管柱5と裏受金40との隙間hは1〜7mm程度であり、望むらくは2〜5mm程度である。この場合、ダイアフラム1と裏受金40の間で4mm程度の脚長のすみ肉溶接で裏受金を部分又は全周に亘ってダイアフラムに取り付けるとダイアフラム1と鋼管柱とのルート溶接の溶け込みが得やすい。図10(イ)(ロ)では、ダイアフラムとディスク状裏受金の組合せのケースについて述べたが、ディスク状裏受金の代わりに矩形断面リング状裏受金を用いた場合及びダイアフラムの代わりに一体化サイコロを用いた場合も同様である。ディスク状裏受金及び矩形断面裏受金はいずれの外径寸法の鋼管柱にも適用できるが、材料使用量及び費用から、鋼管柱の外径が大凡400mm以上では矩形断面裏受金の方が効率良い。
【実施例4】
【0023】
本発明の請求項1に係る実施例として、図11に、従来方式でダイアフラムが柱外面より25〜30mm突出する場合の柱5・ダイアフラム1・ディスク状裏受金40を組み合わせて継手の初層溶接を一部実施した状況を示すが、組立手順は、実施例2と同様にダイアフラム1と裏受金5を仮付溶接8した後、柱5とダイアフラム1又は裏受金40と組立溶接し、しかる後に、柱5とダイアフラム1を継手溶接する手順となる。また、図12に、矩形断面裏受金を使用した裏受金溶接方法を従来工法方式仕口部に適用した場合の断面図を示す。図12に、従来方式でダイアフラムが柱外面より25〜30mm突出する場合の柱5・ダイアフラム1・矩形断面裏受金40を組み合わせて継手の初層溶接を一部実施した状況を示すが、組立手順は、実施例2と同様にダイアフラム1と裏受金40を仮付溶接8した後、柱5とダイアフラム1又は裏受金40と組立溶接し、しかる後に、柱5とダイアフラム1を継手溶接する手順となる。
【実施例5】
【0024】
本発明の請求項1に係る実施例として、図13に、鋼管柱5の端部に開先加工をしないで、ダイアフラム1の端部に開先加工を施工して鋼管柱5の外面より突出しないようにして、柱5・ダイアフラム1・ディスク状裏受金40を組み合わせて継手の初層溶接を一部実施した状況を示すが、組立手順は、実施例2と同様にダイアフラム1と裏受金40を仮付溶接8した後、柱5とダイアフラム1又は裏受金40と組立溶接し、しかる後に、柱5とダイアフラム1を継手溶接する手順となる。いずれも、開先部の詳細は実施例と同様である。
【実施例6】
【0025】
本発明の請求項1に係る実施例として、図8(イ)に、ダイアフラム1の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、裏受金40の離し置き溶接方法の開先セットの実施例の一例を示したが、図14に示すように、この適用例の柱5とダイアフラム1との継手溶接17を完了させて柱5を完成させてから、ブラケット梁3のフランジ13を仕口部のダイアフラム1に取付けて溶接17し、その後、該溶接17の上に柱5とダイアフラム1との継手溶接と重ね合わせて冶金的に一体化させる。
【実施例7】
【0026】
本発明の請求項1に係る実施例として、図8(ロ)に、中実サイコロ32の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、裏受金40の離し置き溶接方法の開先セットの実施例の一例を示したが、図15に示すように、この適用例の柱5と中実サイコロ32との継手溶接17を完了させて柱5を完成させてから、ブラケット梁3のフランジ13を仕口部の中実サイコロ32端部に取付けて溶接接合17し、同時に、柱5と中実サイコロ32との継手溶接と重ね合わせて冶金的に一体化させる
【実施例8】
【0027】
本発明の請求項1に係る実施例として、図13に、ディスク状裏受金を使った裏受金離し置き溶接方法を、開先なし鋼管柱と開先付きダイアフラムを使った仕口部に適用し、図16に示すように、この適用例の柱5と開先付きダイアフラム1との継手溶接17を完了させて柱5を完成させてから、ブラケット梁3のフランジ13を仕口部の開先付きダイアフラム溶接部17に取付けて溶接接合17し、同時に、柱5と開先付きダイアフラム1との継手溶接と重ね合わせて冶金的に一体化させる。
【実施例9】
【0028】
本発明の請求項1及び2に係る実施例として、用いる溶接方法は 炭酸ガス溶接、マグ溶接、ミグ溶接、ティグ溶接等のアーク溶接のいずれでも可能である。また、その継手溶接姿勢は、下向き、横向き、立向きのいずれでも可能である。
【実施例10】
【0029】
本発明の請求項2に係る実施例として、図18に、角形鋼管又は円形鋼管柱5にリング状裏受金40をセットとした状態の断面図を示す。
図18(イ)では、該鋼管5の端部内側に、裏受金8の一部を挿入し、鋼管5の内面と裏受金40の外面との隙間41を1〜5mmに保ちながら、該鋼管5と裏受金40とを鋼管5の端部又は裏受金40の奥の端部で仮付溶接8を実施する。この後、ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロと仮付溶接した後、継手溶接を実施する。このような作業は図18(ロ)に示すように、ディスク状裏受金を用いた場合でも可能であるが、仮付溶接8は鋼管5の端部側鹿家のでは無い。リング状裏受金は鋼管5の外径が大きい方が有利であり、ディスク状裏受金は鋼管5の外径が小さい方が裏受金の重量・製作コストなどの理由で有利である。
【実施例11】
【0030】
請求項3の発明に係る実施例を図17に示す。図17(イ)では、鋼管柱5とダイアフラム1との継手溶接にディスク形裏受金40を用い、該鋼管柱5の端部の内面と該ディスク形裏受金40の外面との間に、金属粉又はカットワイヤ39等を充填した状態である。金属粉又はカットワイヤ39等はバラの状態で充填するか又は水ガラス等で固め手充填するか、又はガラス繊維を編んだチューブに充填して挟み込むなどして充填する。このような状態で、図17(ロ)に示すように、鋼管柱5とダイアフラム1との継手溶接を実施する。このようにすれば、継手溶接の初層溶接31が安定して実施できる。また、該鋼管柱5の端部の内面と該ディスク状裏受金40の外面との間だけでなく開先内に充填すれば、開先への溶着効率が向上して溶接能率の向上に役立つ。また、図17(ハ)に示すように、該ディスク状裏受金40の代わりに、矩形断面帯形裏受金を用いても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の建築鉄骨柱梁接合部の立体図の一例
【図2】従来の建築鉄骨柱梁接合部の鋼管・ダイアフラム・梁フランジ接合部の断面図
【図3】通常の裏波溶接。(イ)は開先セット図、(ロ)は裏波溶接施工図である。
【図4】開先の裏側に銅などの非消耗製の裏当金を置いて開先側から継手溶接を実施した場合の断面図
【図5】部材13の端部に肉盛溶接し該部材端部及び該肉盛溶接部14を共に開先加工して継手溶接した状態の断面図
【図6】開先の裏側に置きビードを置いて開先側から継手溶接を実施した場合の断面図
【図7】裏受金。(イ)はディスク状裏受金。(ロ)は矩形断面裏受金。
【図8】裏受金離し置き溶接方法の適用例。(イ) ダイアフラム1の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、柱5・ダイアフラム1・ディスク状裏受金40を組み合わせた一例。(ロ)中実サイコロ1の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、柱5・中実サイコロ32・ディスク状裏受金40を組み合わせた一例
【図9】ディスク状裏受金とダイアフラムとを組み合わせる仮付溶接の仕方の断面図(イ)は、ディスク状裏受金の中心部に開けた孔の内側に仮付溶接する場合であり、(ロ)は、ディスク状裏受金の外周部に仮付溶接する場合である。
【図10】柱5・ダイアフラム1・ディスク状裏受金40を組み合わせた場合の開先セット状況
【図11】ディスク状裏受金を使った裏受金離し置き溶接方法を従来工法方式仕口部に適用した場合の断面図
【図12】矩形断面裏受金を使用した裏受金離し置き溶接方法を従来工法方式仕口部に適用した場合の断面図
【図13】ディスク状裏受金を使った裏受金離し置き溶接方法を、開先なし鋼管柱と開先付きダイアフラムを使った仕口部に適用した場合の断面図
【図14】ダイアフラム1の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、裏受金40の離し置き溶接方法の開先をセットして、柱5の継手溶接を実施した後、梁ブラケットをダイアフラム1に接合させ、柱5の溶接部と梁ブラケットの溶接部を重ねて一体化させる例
【図15】ディスク状裏受金を使った裏受金離し置き溶接方法を、中実サイコロ1の外径が柱5の外径とほぼ等しい場合に、柱5・中実サイコロ32・ディスク状裏受金40を組み合わせ柱5の継手溶接を実施した後、梁ブラケットを中実サイコロ1に接合させた例
【図16】ディスク状裏受金を使った裏受金離し置き溶接方法を、開先なし鋼管柱と開先付きダイアフラムを使った仕口部に適用し柱5の継手溶接を実施した後、梁ブラケットを柱5の継手溶接に溶接接合した場合の断面図
【図17】鋼管柱とダイアフラムとの継手溶接にディスク形裏受金40を用い、該鋼管柱端部の内面と該ディスク形裏受金外面との間に、金属粉又はカットワイヤ等を充填し、溶接した場合の断面図。(イ)は金属粉又はカットワイヤ等を充填した状態(ロ)は溶接した状態
【図18】鋼管柱にリング状裏受金をセットとした状態の断面図
【符号の説明】
【0032】
1 建築鉄骨柱梁接合部のダイアフラム
1A 建築鉄骨柱梁接合部のH形鋼フランジ
1T 建築鉄骨柱梁接合部の厚板の内ダイアフラム
1U 建築鉄骨柱梁接合部の薄板の内ダイアフラム
2 ダイアフラム間の鋼管5の短管。1と2から構成される部材をサイコロという。また、この部分をパネルゾーンともいう。
3 H形鋼梁
3A 異なった方向から柱に接合されるH形鋼梁
4 H形鋼梁フランジ又は梁ブラケット
4A H形鋼梁フランジ端部断面
5 鋼管による柱
5W 鋼管による柱とH形鋼ウエブ又はスティフナーを取り付ける溝溶接部又はスロット溶接部
6 鋼管とダイアフラムとの溶接
7 梁フランジとダイアフラムとの溶接
8 仮付又は組立溶接
9 H形鋼梁ウエブ
10 裏当金
10A 銅又は銅合金当金
11 スカラップ
12 非消耗式当て金(銅など)
12P 非消耗式当て金(銅など)の突起
13 梁フランジ又は鋼管などの部材
13C 部材13の開先切断位置
14 部材裏面又は表面に施工された肉盛溶接
15 肉盛溶接部14及び母材を含めた開先面
16 相手部材
17 継手溶接
18 部材13の板厚又は肉厚
19 部材16と13の溶接部の実効のど厚
20 梁フランジ側面・上面又は裏面の肉盛溶接
21 梁応力集中部
22 鋼管による柱と内ダイアフラム又はH形鋼フランジを取り付ける溝溶接又はスロット溶接部
23 鋼管とH形鋼梁ウエブとの溶接
24 H形鋼フランジ又は内ダイアフラムの中央に開けた貫通孔
24A H形鋼フランジ又は内ダイアフラムの角部に開けた貫通孔
25 柱内H形鋼ウエブ
25A スティフナー
26 フランジと柱内H形鋼ウエブとを接合するすみ肉溶接又は突合せ溶接
27 鋼管側面に明けた貫通長孔即ちスロット。
27A ガス切断、プラズマ切断、レーザ切断により加工した貫通長孔の中央辺
27B 鋼管側面に明けた貫通長孔即ちスロットの端部に開けた錐孔
27C 鋼管側面に明けた全周貫通長孔即ち全周スロット
28 薄鋼板
29 全周貫通溝における広幅溝端部の円弧又は楕円弧
30 H形鋼フランジ又はダイアフラムを鋼管柱内にセットする際に、位置決めの為に用いるストッパー。ストッパーは鋼管内に仮付溶接される。
31 初層ルート溶接
32 柱梁接合部に用いる中実のサイコロ
34 レ形開先
35 母材
36 裏波ビード
37 溶接トーチ
38 ビードオンプレート溶接又は置きビード
39 金属粉、カットワイヤ、被覆溶接棒又はこれらの混合物
40 裏受金
40D 裏受金の外径
40D1 裏受金の外径1
40D2 裏受金の外径2
40T 裏受金の板厚
40B 裏受金の幅
41 裏受金テストピース鋼管との隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築鉄骨構造物において、
角形鋼管柱又は円形鋼管柱と、ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロと突合せ溶接接合する場合に、
該鋼管柱端部の内面と、ディスク状又はリング状の裏受金外面との面間距離で1〜5mm程度が確保できるように、該裏受金の外径及び位置を決めて、該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロ側に該裏受金を仮付溶接し、
該鋼管端部と該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとを突合せ溶接することを特徴とする鉄骨柱製作方法
【請求項2】
建築鉄骨構造物において、
角形鋼管柱又は円形鋼管柱と、ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロと突合せ溶接接合する場合に、
該鋼管柱端部の内面と、ディスク状又はリング状の裏受金外面との面間距離で1〜5mm程度が確保できるように、該裏受金の外径及び位置を決めて、該角形鋼管柱又は円形鋼管柱側に該裏受金を仮付溶接し、
該鋼管端部と該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとを突合せ溶接することを特徴とする鉄骨柱製作方法
【請求項3】
請求項1及び2に係る発明において、
該突合せ溶接の開先部において、少なくとも該鋼管柱端部の内面と該突合せ溶接用の裏受金外面との間に、金属粉、カットワイヤ、被覆溶接棒又はこれらの混合物を充填又は設置して、該鋼管と該ダイアフラム、ベースプレート又は中実サイコロとを突合せ溶接することを特徴とする鉄骨柱製作方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−21562(P2007−21562A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210053(P2005−210053)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(503318518)株式会社アークリエイト (16)
【Fターム(参考)】