説明

建設機械の走行モータ制御装置

【課題】 暖機運転後の走行開始時に走行モータのヒートバランスが崩れることを抑制し、熱膨張差による作動不良や故障の発生を抑制する。
【解決手段】 建設機械の上位体と下位体との間に配置されるスイベルジョイント11を介してポンプ及びタンクに接続される走行モータ20と、ポンプ及びタンクの走行モータ20への接続状態を切り換えて走行モータ20を制御するモータ制御弁21とを備える。モータ制御弁21は、中立位置21aと正転位置21bと逆転位置21dとを有し、操縦装置からの指令及び走行モータ20の流入側の圧力に基づいて位置が切り換わる。モータ制御弁21は、下位体に配置されるとともに走行モータ20に対して一体的に形成される。暖機運転の際は、ポンプから吐出された圧油がスイベルジョイント11とモータ制御弁21とを介して上位体にあるタンクに循環される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポンプ及びタンクにスイベルジョイントを介して接続される走行モータと、ポンプ及びタンクの走行モータへの接続状態を切り換えて走行モータを停止状態、正転状態、及び逆転状態のいずれかの状態に制御するモータ制御弁とを備える建設機械の走行モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行モータとその運転状態を制御するモータ制御弁とを備える建設機械の走行モータ制御装置(以下、単に「走行モータ制御装置」ともいう)が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されているような従来の走行モータ制御装置においては、そのモータ制御弁は、走行モータ以外の他のアクチュエータの作動を制御する制御弁とともに一体的に形成されており、スイベルジョイントよりも上方の部分である建設機械の上位体に配置されている。このような走行モータ制御装置を備えた建設機械を冬季の寒冷地などの気温の低い環境で運転する場合は、始動時における作動油の粘土が高くなっているため、まず暖気運転が行われることになる。暖気運転中は、作動油がポンプと各制御弁とタンクとの間を循環するため、作動油が暖められることになる。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−249707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の走行モータ制御装置を備える建設機械において上述の暖気運転が行われた場合、暖気運転中にポンプから各制御弁を経てタンクへと作動油が循環するもののモータ制御弁と走行モータとの間は作動油が循環しない。このため、モータ制御弁と走行モータとの間は、暖気運転で暖められた作動油が流れることもなく、暖気運転中も冷えたままの状態になっている。このような状態で建設機械の走行が開始されると、暖められた作動油が冷えたままの状態の走行モータに急激に供給されることになり、走行モータにおけるヒートバランスが崩れてしまうことになる。即ち、走行モータにおいて、暖められた作動油に接した一部の部品が急激に暖められる一方、他の部品が冷えた状態のままとなってしまうことになる。このように、従来の走行モータ制御装置においては、暖気運転後の走行開始時に発生する熱膨張の差に起因して、走行モータの作動不良や故障を誘発してしまう虞があった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、建設機械の走行モータ制御装置に関し、暖気運転後の走行開始時において走行モータのヒートバランスが崩れてしまうことを抑制し、走行モータ内で熱膨張差が生じてしまうことによる走行モータの作動不良や故障の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明に係る建設機械の走行モータ制御装置は、上位体と下位体との間にスイベルジョイントが配置されている建設機械に備えられ、ポンプ及びタンクに前記スイベルジョイントを介して接続される走行モータと、前記ポンプ及び前記タンクの前記走行モータへの接続状態を切り換えて前記走行モータを停止状態又は正転状態又は逆転状態に制御するモータ制御弁とを備え、前記モータ制御弁は、前記停止状態とするための中立位置と、前記正転状態とするための正転位置と、前記逆転状態とするための逆転位置とを有し、操縦者が操作する操縦装置からの指令及び前記走行モータへの圧油の流入側の圧力に基づいて前記中立位置又は前記正転位置又は前記逆転位置に切り換わる建設機械の走行モータ制御装置において、前記モータ制御弁は、前記走行モータが配置されている前記下位体に配置されるとともに前記走行モータに対して一体的に形成され、暖機運転の際は、前記ポンプから吐出された圧油が前記スイベルジョイントと前記モータ制御弁とを介して前記上位体に配置されている前記タンクに循環されることを特徴とする。
【0007】
この構成によると、建設機械の暖気運転が行われると、走行モータが配置されている下位体に配置されたモータ制御弁までポンプから吐出された作動油が循環することになる。このため、循環して暖められる作動油によってモータ制御弁が暖められるとともに、モータ制御弁が一体的に形成された走行モータまで暖められることになる。従って、本発明の構成によると、建設機械の走行モータ制御装置に関し、暖気運転後の走行開始時において走行モータのヒートバランスが崩れてしまうことを抑制し、走行モータ内で熱膨張差が生じてしまうことによる走行モータの作動不良や故障の発生を抑制することができる。
【0008】
また、本発明に係る建設機械の走行モータ制御装置は、前記モータ制御弁は、前記走行モータとは異なる他の油圧アクチュエータの制御弁とタンデム接続又はシリアル接続されるとともに、前記他の油圧アクチュエータの制御弁の下流側に設けられていることが望ましい。
【0009】
この構成によると、ポンプから供給される圧油は、他の油圧アクチュエータの制御弁を通過した後に、モータ制御弁に供給されることになる。このため、モータ制御弁を下位体に配置することに対応する長さ分だけ配管長が長くなってしまうことによる圧力損失が、他の油圧アクチュエータに影響することがない。従って、エネルギー効率の低下を招いてしまうことを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る建設機械の走行モータ制御装置が備えられる油圧回路を例示したものである。図1に示す油圧回路10が配設される建設機械は、クローラ車体として構成される下位体とその上方に配置される上位体とを備えて構成されており、上位体と下位体との間にはスイベルジョイント11が配置されている。この建設機械には、上位体に第1ポンプ12及び第2ポンプ13の少なくとも2つの油圧ポンプとタンク14とが配置されるとともに、これらのポンプ(12、13)から圧油が供給される各種油圧アクチュエータが設けられている。下位体には、ポンプ(12、13)及びタンク14にスイベルジョイント11を介して接続される走行モータが設けられている。なお、この建設機械には右走行モータ20と左走行モータとが設けられているが、図1ではその一方の右走行モータ20のみを図示している。一方、上位体には、走行モータとは異なる他の油圧アクチュエータとして、バケットを動作させるバケットシリンダ、ブームを動作させるブームシリンダ、旋回(スイング)モータ、アームを動作させるアームシリンダなどが設けられている。
【0011】
また、図1に示すように、この建設機械の油圧回路10は、上位体に配置されるメインコントロールバルブ15と、本実施形態に係る建設機械の走行モータ制御装置1(以下、単に「走行モータ制御装置1」という)とを備えて構成されている。
【0012】
メインコントロールバルブ15には、旋回モータへの圧油の供給を制御するスイング用方向切換弁16、アームシリンダへの圧油の供給を制御するアーム用方向切換弁17、バケットシリンダへの圧油の供給を制御するバケット用方向切換弁18、ブームシリンダへの圧油の供給を制御するブーム用方向切換弁19などが備えられている。なお、スイング用方向切換弁16及びアーム用方向切換弁17は第1ポンプ12の下流側に接続されており、バケット用方向切換弁18及びブーム用方向切換弁19は第2ポンプ13の下流側に接続されている。
【0013】
走行モータ制御装置1は、右走行モータ20、左走行モータなどを備えて構成されている。そして更に、走行モータ制御装置1は、右走行モータ20に対応するモータ制御弁21、リモコン弁22、パイロット圧制御弁23(23a、23b)等を備え、同様に、左走行モータに対応する図示しないモータ制御弁、リモコン弁、パイロット圧制御弁等を備えて構成されている(図1では、右走行モータ20に対応するもののみを図示している)。なお、以下の走行モータ制御装置1についての説明では、右走行モータ20及びそのモータ制御弁21等についてのみ説明し、左走行モータ及びそのモータ制御弁等については重複するため説明を省略する。
【0014】
走行モータ制御装置1の走行モータ20は前述のように下位体に配置されており、モータ制御弁21及びパイロット圧制御弁23も下位体に配置されている。一方、リモコン弁22は、上位体に配置されている。そして、モータ制御弁21は、走行モータ20に対して一体的に取り付けられている(一体的に形成されている)。また、モータ制御弁21は、他の油圧アクチュエータの制御弁(16、17、18、19)とタンデム接続又はシリアル接続されるとともに、これらの他の油圧アクチュエータの制御弁(16〜19)の下流側に設けられている。
【0015】
モータ制御弁21は、ポンプ(12、13)及びタンク14の走行モータ20への接続状態を切り換えて走行モータ20を停止状態、正転状態(建設機械が前進する方向に回転している状態)、及び逆転状態(建設機械が後進する方向に回転している状態)のいずれかの状態に制御する。このモータ制御弁21は、中立位置21a、正転位置21b及び21c、逆転位置21d及び21eを有しており、中立位置21aに切り換えられているときは走行モータ20が停止状態となる。一方、走行モータ制御弁21が正転位置21b(又は21c)に切り換えられているときは走行モータ20が正転状態となり、逆転位置21d(又は21e)に切り換えられているときは走行モータ20が逆転状態となるように構成されている。このモータ制御弁21は、後述するように、リモコン弁22からの指令及び走行モータ20への圧油の流入側の圧力に基づいて中立位置21a、正転位置21b及び21c、逆転位置21d及び21eのいずれかの位置に切り換わるように構成されている。
【0016】
また、モータ制御弁21には、このモータ制御弁21を切換作動させるパイロット圧が作用するパイロット室24(24a、24b)が設けられている。パイロット室24aにパイロット圧が作用することでモータ制御弁21が中立位置21aから正転位置21bへ更に正転位置21cへと切り換わり、パイロット室24bにパイロット圧が作用することでモータ制御弁21が中立位置21aから逆転位置21dへ更に逆転位置21eへと切り換わることになる。パイロット室24に作用するパイロット圧はリモコン弁22にて発生するようになっている。即ち、リモコン弁22は、建設機械の操縦者(図示せず)の操作に基づいてパイロット圧による指令を発生させる操縦装置を構成している。なお、パイロット室24が、本実施形態における第1のパイロット室を構成している。
【0017】
また、走行モータ制御装置1には、更に、リモコン弁22とモータ制御弁21のパイロット室24との接続状態を切り換えるパイロット圧制御弁23と、このパイロット圧制御弁23に設けられるばね26及びパイロット室27と、始動用通路28とが備えられている。
【0018】
パイロット圧制御弁23は、パイロット室24aとの接続状態を切り換えるパイロット圧制御弁23aと、パイロット室24bとの接続状態を切り換えるパイロット圧制御弁23bとで構成されている。そして、これらのパイロット圧制御弁23は、パイロット室24とタンク14とを接続する排出位置25aと、リモコン弁22からのパイロット圧が誘導される通路29とパイロット室24とを接続する供給位置25bとを有している。
【0019】
ばね26は、パイロット圧制御弁23における一方の側に配設されており、パイロット圧制御弁23が排出位置25a側に切り換わる方向に向かってこのパイロット圧制御弁23を付勢するようになっている。一方、パイロット室27は、パイロット圧制御弁23における他方の側に配設されており、パイロット圧制御弁23が供給位置25b側に切り換わる方向に向かってこのパイロット圧制御弁23を付勢するように、走行モータ20への流入側の圧油の圧力が通路30を介して作用するようになっている。なお、パイロット室27が、本実施形態における第2のパイロット室を構成している。
【0020】
上述した構成を備えるパイロット圧制御弁23、ばね26、及びパイロット室27により、パイロット圧制御弁23の切り換えに伴ってモータ制御弁21が切換作動されるようになっている。例えば、パイロット圧制御弁23aのパイロット室27に走行モータ20の流入側の圧油の圧力が作用することでばね26による付勢力に抗してパイロット圧制御弁23aが供給位置25bに切り換えられると、通路29を経て誘導されるリモコン弁22からのパイロット圧がパイロット室24aに作用する。これにより、モータ制御弁21が正転位置21bや21cに切り換えられることになる。一方、ばね26による付勢力に対してパイロット室27に圧油が作用することによる付勢力の方が小さくなってパイロット圧制御弁23aが排出位置25aに切り換えられると、パイロット室24aにパイロット圧を作用させている圧油が絞り31を介してタンク14へと排出される。そして、モータ制御弁21が正転位置21cから正転位置21bへ更に中立位置21aへと切り換えられることになる。
【0021】
始動用通路28(28a、28b)は、リモコン弁22とパイロット室24とをモータ制御弁21を介して接続するように構成されている。始動用通路28aがリモコン弁22とパイロット室24aとを接続し、始動用通路28bがリモコン弁22とパイロット室24bとを接続するようになっている。そして、始動用通路28は、モータ制御弁21内に形成される通路でその一部が構成されており、モータ制御弁21が中立位置21aの状態にあるときにリモコン弁22とパイロット室24とを接続するようになっている。なお、モータ制御弁21の状態が正転位置21b・21cのときは始動用通路28aは遮断され、逆転位置21d・21eのときは始動用通路28bが遮断されるようになっている。
【0022】
次に、走行モータ制御装置1の作動について説明する。図1に示す状態は、モータ制御弁21が中立位置21aである状態を示しており、この状態では、走行モータ20は停止状態になっている。この走行モータ制御装置1が備えられている建設機械を寒冷地の冬季等の気温の低い環境下で運転する場合は、まず、暖気運転が行われる。この暖気運転の際は、ポンプ(12、13)が起動されて各油圧アクチュエータへ圧油が供給されない状態(各制御弁が操作されない状態)で圧油(作動油)の循環が行われる。
【0023】
このとき、ポンプ(12、13)から吐出された圧油は、各制御弁(16,17、18、19、21)を経てタンク14へと循環しながら暖められることになり、スイベルジョイント11とモータ制御弁21とを介して上位体に配置されているタンク14へと至る経路でも循環されることになる。即ち、暖気運転の際は、走行モータ20が配置されている下位体に配置されたモータ制御弁21までポンプ(12、13)から吐出された圧油が循環する。このため、循環して暖められた圧油によってモータ制御弁21が暖められるとともに、モータ制御弁12が一体的に形成された走行モータ20まで暖められることになる。
【0024】
暖気運転が行われた後に左右走行モータの始動が行われて建設機械が走行を開始することになるが、ここでは、建設機械を前進させるために走行モータが正転状態となるように操作される場合における右走行モータ20の場合を例にとって説明する。この場合、まず、リモコン弁22が操縦者によって操作されることで、通路32を介して作用するパイロット圧である前進走行指令(正転方向の走行指令)のパイロット圧が発生する。
【0025】
前進走行指令のパイロット圧が発生したとき、モータ制御弁21は中立位置21aにあるため始動用通路28aは連通状態であり、この始動用通路28aを介してパイロット室24aにパイロット圧が作用することになる。このとき、始動用通路28aの下流側となるパイロット圧制御弁23aは、走行モータ20の流入側の圧油が低いためにばね26の付勢力によって排出位置25aの状態になっている。このため、始動用通路28aを通じてパイロット室24aに作用するパイロット圧を生じさせている圧油はタンク14へと排出される。しかし、タンク14へと至る経路には絞り31が設けられてその開度が適宜絞られるように設定されているため、モータ制御弁21の切換作動に必要な程度の圧力のパイロット圧が始動用通路28aを介してパイロット室24aに作用するように調整されている。
【0026】
このように始動用通路28aを介してパイロット室24aにパイロット圧が作用することにより、モータ制御弁21が正転位置21bへと切り換えられることになる。これにより、走行モータ20が正転状態で回転する方向に圧油が供給され、建設機械が前進を開始することになる。また、走行モータ20に圧油の供給が開始されると、走行モータ20の流入側の圧油の圧力が高くなるため、この高くなった圧力が通路30を介してパイロット圧制御弁23aのパイロット室27に作用する。これにより、パイロット圧制御弁23aがばね26による付勢力に抗して供給位置25bへと切り換えられ、パイロット圧が通路29を介してパイロット室24aに作用して正転位置21b又は21cに切り換えられた状態でモータ制御弁21が保持されることになる。そして、モータ制御弁21が正転位置21b又は21cに切り換えられた状態では始動用通路28aは遮断された状態になっている。このように、走行モータ制御装置1では、パイロット圧制御弁23が供給位置25aに切り換わるまでの間は始動用通路28を介してリモコン弁22とパイロット室24とが接続され、供給位置25aに切り換わるときにモータ制御弁21によって始動用通路28が遮断されるようになっている。
【0027】
ここで、モータ制御弁21における中立位置21aからの切換作動について更に詳しく説明する。図2は、センターバイパス型の制御弁であるモータ制御弁21が中立位置21aから正転位置(21b、21c)又は逆転位置(21d、21e)へと切り換わるときにおける各通路の開口面積の変化を説明する図である。なお、図2では、点Pと点Nとの間のセンターバイパス通路である通路(P→N)、点Pと点Ma(走行モータ20の正転時の圧油の流入側)との間の通路(P→Ma)、点Mb(走行モータ20の正転時の圧油の流出側)とタンク14との間の通路(Mb→T)、点Rと点Paとの間の始動用通路28である通路(R→Pa)等の開口面積の変化を示している。また、図2では、通路(R→Pa)の開口面積の変化についてはパターンIとパターンIIとの2つのパターンを例示している。パターンIは、図中(R→Pa−I)で示す軌跡のように開口面積が変化するようにモータ制御弁21内における始動用通路28が形成されている場合を示している。一方、パターンIIは、図中点線で示す(R→Pa−II)の軌跡のように開口面積が変化するようにモータ制御弁21内における始動用通路28が形成されている場合を示している。
【0028】
中立位置21aから正転位置(21b、21c)に向かってモータ制御弁21の切り換えが開始されると、センターバイパス通路である通路(P→N)の開度が絞られていき、走行モータ20の流入側の通路(P→Ma)の開度が開かれていく。このとき、始動用通路28(即ち、通路(R→Pa))は連通したままの状態になっている。そして、パターンIの場合は、モータ制御弁21が中立位置21aから正転位置(21b、21c)へと切り換わるときに、始動用通路28である通路(R→Pa)が遮断された後、走行モータ20からの圧油の流出側とタンク14との間の通路(Mb→T)とが接続されることになる。一方、パターンIIの場合は、モータ制御弁21が中立位置21aから正転位置(21b、21c)へと切り換わるときに、通路(Mb→T)が接続された後に、始動用通路28である通路(R→Pa)が遮断されるようになっている。
【0029】
また、パターンI及びパターンIIのいずれの場合でも、始動用通路28が遮断されるときには、センターバイパス通路である通路(P→N)の開度は、所定の開度ΔAが確保されているように設定されている。この開度ΔAは、ポンプ(12、13)の吐出量が最小状態においても、ばね26による付勢力に抗して供給位置25bへとパイロット圧制御弁23aを切り換え可能な圧力が走行モータ20の流入側に発生してパイロット室24aに作用するように設定されている。
【0030】
以上説明した走行モータ制御装置1では、建設機械の暖気運転が行われると、走行モータ20が配置されている下位体に配置されたモータ制御弁21までポンプ(12、13)から吐出された圧油が循環することになる。このため、循環して暖められる圧油によってモータ制御弁21が暖められるとともに、モータ制御弁21が一体的に形成された走行モータ20まで暖められることになる。従って、走行モータ制御装置1によると、暖気運転後の走行開始時において走行モータ20のヒートバランスが崩れてしまうことを抑制し、走行モータ20内で熱膨張差が生じてしまうことによる走行モータ20の作動不良や故障の発生を抑制することができる。
【0031】
また、建設機械が下り坂を走行中の状態から停止状態になるときに、走行モータ20からの圧油の流出側は高圧になってしまう。このため、従来の建設機械の走行モータ制御装置の場合であれば、モータ制御弁と走行モータとの間を接続する配管について高圧に耐えられるように高い強度を備えた配管を用いる必要があり、高価な配管が必要となる。しかしながら、走行モータ制御装置1によると、モータ制御弁21が走行モータ20に対して一体的に形成されるため、モータ制御弁21と走行モータ20との間を接続する配管を不要とすることも可能となる。
【0032】
また、走行モータ制御装置1では、モータ制御弁21が、走行モータ20以外の他の油圧アクチュエータの制御弁とタンデム接続(又はシリアル接続)されるとともに、他の油圧アクチュエータの制御弁(16〜19)の下流側に設けられている。これにより、ポンプ(12、13)から供給される圧油は、他の油圧アクチュエータの制御弁(16〜19)を通過した後に、モータ制御弁21に供給されることになる。このため、モータ制御弁21を下位体に配置することに対応する長さ分だけ配管長が長くなってしまうことによる圧力損失が、他の油圧アクチュエータに影響することがない。従って、エネルギー効率の低下を招いてしまうことを抑制できる。
【0033】
また、走行モータ制御装置1では、パイロット圧制御弁23が供給位置25bに切り換わるまでの間であっても始動用通路28を介してリモコン弁22とパイロット室24とが接続される。このため、絞り31を設けることで排出位置25aにおける開口を小さく絞るようにパイロット圧制御弁23を形成することができ、供給位置25bに切り換わるまでの間もパイロット室24に十分なパイロット圧を作用させることができる。これにより、モータ制御弁21が中立位置21aから切り換わる切換開始時の初期の状態において切換動作が遅くなって始動時の走行速度の立ち上がりが遅くなってしまうことを防止することができる。そして、パイロット圧制御弁23が供給位置25bに切り換わった後は、モータ制御弁21によって始動用通路28が遮断されてパイロット圧制御弁23を介してのみパイロット圧がパイロット室24に作用することになる。
【0034】
また、走行モータ制御装置1では、建設機械が自走し始めて走行モータ20への圧油の流入側の圧力が低下したときには、パイロット室27に作用する圧油の圧力が低下することになる。このため、ばね26の付勢力によってパイロット圧制御弁23が排出位置25aに切り換えられて、リモコン弁22とパイロット室24との間の通路がより絞られた状態又は遮断された状態へと移行することになる。これにより、モータ制御弁21を中立位置21a側に向かって移動させ、走行モータ20における圧油の流出側をより絞った状態へと速やかに移行させることができ、走行モータ20のキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0035】
従って、走行モータ制御装置1によると、建設機械の走行モータ制御装置に関し、カウンタバランス弁を用いなくてもキャビテーションの発生をより確実に抑制できるとともに、始動時の走行速度の立ち上がりが遅くなってしまうことも防止することができる。
【0036】
また、モータ制御弁21内における始動用通路28の開口面積が前述のパターンIの例で変化するように形成した走行モータ制御装置1では、モータ制御弁21が中立位置21aから切り換えられるときには、まず始動用通路28が遮断され、次いで走行モータ20の流出側とタンク14とが接続される。このため、切り換えの際に建設機械が自走し始めて走行モータ20の流出側の圧力が低下しても、始動用通路28が遮断されるまではモータ制御弁21によって走行モータ20の流出側が遮断された状態に保たれ、キャビテーションの発生をより抑制することができる。
【0037】
また、モータ制御弁21内における始動用通路28の開口面積が前述のパターンIIの例で変化するように形成した走行モータ制御装置1では、切り換えの際に建設機械が自走し始めて走行モータ20の流出側の圧力が低下してしまいパイロット圧制御弁23が供給位置25b側に十分に切り換わらなくても、パイロット室24には始動用通路28を介してパイロット圧が作用するため、モータ制御弁21における走行モータ20の流出側が急激に遮断されてしまうことがなく、衝撃の発生を抑制できる。
【0038】
また、走行モータ制御装置1では、センターバイパス通路である通路(P→N)の開度が、前述した所定の開度ΔAが確保されるように設定されている。これにより、パイロット室24へとパイロット圧が作用する経路を、始動用通路28からパイロット圧制御弁23を介した通路へとスムーズに切り換えることができるため、走行モータ20の始動時の衝撃、即ちパイロット圧制御弁23の切り換え時の衝撃を軽減することができる。また、モータ制御弁21内における始動用通路28の開口面積が前述のパターンIIの例で変化するように形成した走行モータ制御装置1の場合には、走行モータ20が始動してその流出側が開く前に、パイロット室24にパイロット圧が作用する経路がパイロット圧制御弁23を介した通路へと切り換わっているため、パイロット圧制御弁23の切り換え時に走行モータ20に衝撃を発生させてしまうことを防止できる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係る建設機械の走行モータ制御装置が備えられる油圧回路を例示したものである。
【図2】図1に示す走行モータ制御装置においてモータ制御弁の位置が切り換わるときの各通路の開口面積の変化を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
1 建設機械の走行モータ制御装置
10 油圧回路
11 スイベルジョイント
12 第1ポンプ
13 第2ポンプ
14 タンク
20 走行モータ
21 モータ制御弁
21a 中立位置
21b、21c 正転位置
21d、21e 逆転位置
22 リモコン弁(操縦装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位体と下位体との間にスイベルジョイントが配置されている建設機械に備えられ、
ポンプ及びタンクに前記スイベルジョイントを介して接続される走行モータと、前記ポンプ及び前記タンクの前記走行モータへの接続状態を切り換えて前記走行モータを停止状態又は正転状態又は逆転状態に制御するモータ制御弁とを備え、
前記モータ制御弁は、前記停止状態とするための中立位置と、前記正転状態とするための正転位置と、前記逆転状態とするための逆転位置とを有し、操縦者が操作する操縦装置からの指令及び前記走行モータへの圧油の流入側の圧力に基づいて前記中立位置又は前記正転位置又は前記逆転位置に切り換わる建設機械の走行モータ制御装置において、
前記モータ制御弁は、前記走行モータが配置されている前記下位体に配置されるとともに前記走行モータに対して一体的に形成され、
暖機運転の際は、前記ポンプから吐出された圧油が前記スイベルジョイントと前記モータ制御弁とを介して前記上位体に配置されている前記タンクに循環されることを特徴とする建設機械の走行モータ制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御弁は、前記走行モータとは異なる他の油圧アクチュエータの制御弁とタンデム接続又はシリアル接続されるとともに、前記他の油圧アクチュエータの制御弁の下流側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建設機械の走行モータ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−283852(P2006−283852A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103304(P2005−103304)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】