説明

強化繊維、および繊維強化複合材料

【課題】強化繊維との接着性に優れ、取扱い性および射出成形時の繊維分散性が良好な強化繊維を提供すること。
【解決手段】強化繊維(A)100重量部に、(a)芳香族ビニル系単量体単位10〜50重量%、(b)(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位50〜90重量%、(c)(a)および(b)と共重合可能な他のビニル系単量体単位0〜30重量%からなる共重合体(B)0.01〜30重量部が付着されてなる強化繊維、また、該強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス樹脂との接着性、取扱い性に優れ、かつ射出成形時の繊維分散性が良好な強化繊維を提供することを目的とする。とりわけ、炭素繊維と熱可塑性樹脂からなる繊維強化複合材料において、接着性、取扱い性に優れ、かつ射出成形時の繊維分散性が良好な強化繊維を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
強化繊維をマトリックス樹脂中に分散させた繊維強化樹脂成形品は、力学特性や寸法安定性に優れることから、自動車、航空機、電気・電子機器、玩具、家電製品などの幅広い分野で使用されている。中でも炭素繊維は軽量、高強度、高剛性であることから近年注目を集めている。
【0003】
しかし、官能基の少ない強化繊維や、マトリックス樹脂を用いた繊維強化複合材料成形品では、強化繊維とマトリックス樹脂との界面接着性が十分でなく、成形品の力学特性が満足いくものではなかった。そこで、強化繊維の取扱い性や界面接着性を改善するために、表面処理やサイジング剤の付与などの試みが行われてきた。
【0004】
特許文献1には、炭素繊維のサイジング剤として、エポキシ樹脂からなるサイジング剤が開示されているが、集束性は十分であるが、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合のマトリックス樹脂との接着が不十分である。また、特許文献2には、アイオノマー樹脂が0.1〜8重量%付着した炭素繊維が開示されている。同様に特許文献3には、炭素繊維に自己乳化型ポリプロピレン系樹脂を0.1〜8重量%付着した炭素繊維について記載されている。いずれの特許文献も、炭素繊維へのマトリックス樹脂の含浸阻害を防ぐことを目的としており、接着性の改善と射出成形時の炭素繊維の分散が不十分である。
【0005】
このように、従来技術では優れた接着性と取扱い性、さらに、射出成形時の強化繊維の分散性を両立することが困難であり、これらの特性を満足できる強化繊維の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平5−132874号公報
【特許文献2】特開2006−124852号公報
【特許文献3】特開2006−233346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の背景に鑑み、強化繊維との接着性に優れ、取扱い性、および、射出成形時の繊維分散性が良好な強化繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記課題を達成することができる、次の強化繊維を見出した。
【0008】
(1)強化繊維(A)100重量部に、(a)芳香族ビニル系単量体単位10〜50重量%、(b)(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位50〜90重量%、(c)(a)および(b)と共重合可能な他のビニル系単量体単位0〜30重量%からなる共重合体(B)0.01〜30重量部が付着されてなる強化繊維。
【0009】
(2)前記成分(B)がアミノ基で変性されてなる、(1)に記載の強化繊維。
【0010】
(3)前記成分(b)が、エステル末端にアミノ基を含有するビニル系単量体である、(2)に記載の強化繊維。
【0011】
(4)前記成分(B)のアミノ基が3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩である、(2)または(3)のいずれかに記載の強化繊維。
【0012】
(5)前記成分(B)のアミン価が1〜100mg eq/gである、(2)〜(4)のいずれかに記載の強化繊維。
【0013】
(6)前記成分(B)のガラス転移温度が30〜100℃である、(1)〜(5)のいずれかに記載の強化繊維。
【0014】
(7)前記成分(B)の重量平均分子量が1,000〜500,000である、(1)〜(6)のいずれかに記載の強化繊維。
【0015】
(8)前記単量体(b)が、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、およびオクチル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種を有する、(1)〜(7)のいずれかに記載の強化繊維。
【0016】
(9)前記成分(A)が、炭素繊維、アラミド繊維、および鉱物繊維から選択される少なくとも1種である、(1)〜(8)のいずれかに記載の強化繊維。
【0017】
(10)前記炭素繊維が、X線光電子分光法によって測定される表面酸素濃度比が0.05〜0.5である、(9)に記載の炭素繊維。
【0018】
(11)前記強化繊維が、その単繊維を10,000〜200,000本集束してなる強化繊維である、(1)〜(10)のいずれかに記載の強化繊維。
【0019】
(12)(1)〜(11)に記載の強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料。
【0020】
(13)前記マトリックス樹脂がオレフィン系、アミド系、およびエステル系から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂である(12)に記載の繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0021】
本発明の強化繊維は、特定の共重合体を用いることにより、強化繊維との接着性、取扱い性に優れ、かつ射出成形時の繊維分散性が良好な強化繊維である。本発明の強化繊維を用いた成形品は力学特性や寸法安定性にも優れることから、自動車、電気・電子機器、家電製品などの各種部品・部材に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、強化繊維(A)100重量部に、(a)芳香族ビニル系単量体単位10〜50重量%、(b)(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位50〜90重量%、(c)(a)および(b)と共重合可能な他のビニル系単量体単位0〜30重量%からなる共重合体(B)0.1〜30重量部が付着されてなる強化繊維である。
【0023】
本発明に係る強化繊維としては、例えば、炭素繊維、鉱物繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0024】
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが例示できる。
【0025】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0026】
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とする。
【0027】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0028】
また、強化繊維の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。強化繊維の単糸数には、特に制限はなく、100〜350,000本の範囲内で使用することができ、とりわけ1,000〜250,000本の範囲内、より好ましくは10,000〜200,000本の範囲内で使用することが取扱い性の観点から好ましい。
【0029】
ここで(a)芳香族ビニル系単量体としては、芳香族を有するビニル系単量体であれば特に限定されるものではないが、スチレン、α―メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−エトキシスチレン、4−ヒドロキシメチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、4−クロロ−3−メチルスチレン、2,4−ジクロロスレン、2,6−ジクロロスチレン、1−ビニルナフタレン等が挙げられる。それぞれを単独でまたは2種以上を混合して使用しても良い。
【0030】
(b)(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、フッ素含有(メタ)アクリレート、アミノ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
アルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。フッ素含有(メタ)アクリレート類としては、例えば、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、8,8,8,7,7−ペンタフルオロ−n−オクチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。アミノ基含有(メタ)アクリレート類としては、例えば、アミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−(n−ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、(メタ)アクリレート類以外の(メタ)アクリレート類として、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−アルキルフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フタル酸のモノ(エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート)/2−ヒドロキシエチル混合エステル等を挙げることができる。それぞれを単独でまたは2種以上を混合して使用しても良い。
【0032】
(c)(a)および(b)と共重合可能なその他のビニル系単量体としては、特に限定されるものではないが、不飽和アミド化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和エポキシ化合物、ビニルエステル化合物、カルボニル基含有不飽和化合物、不飽和カルボン酸塩化合物、不飽和スルホン酸塩化合物が挙げられる。不飽和アミド化合物としては、例えば、アクリルアミド、N−メチルアミノアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノアクリアミドメチルクロリド4級塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロリド4級塩、N−メチルアミノプロピルアクリルアミド等を挙げることができる。シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができる。また、ハロゲン化ビニル化合物としては、例えば、フッ化ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等を挙げることができる。ビニルエステル類としては、例えば、酢酸ビニル、脂肪酸ビニルエステル等を挙げることができる。不飽和エポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、メチルグリシジルアクリレート等を挙げることができる。また、カルボニル基含有不飽和化合物としては、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、2 − アセトキシエチルアクリレート、カプロラクトン変性アセトキシアクリレート等を挙げることができる。それぞれを単独でまたは2種以上を混合して使用しても良い。
【0033】
本発明の共重合体(B)における(a)の含有率は、10〜50重量%であることが必要であり、20〜40重量%であるとより好ましい。10重量%以下では、共重合体のガラス転移温度が低下し、室温で柔軟な共重合体となるため、強化繊維の取扱い性が低下する。また、50重量%以上では、強化繊維表面との接着性が低下し、力学特性が不十分となる場合がある。
【0034】
本発明の共重合体(B)における(b)の含有率は、50〜90重量%であることが必要であり、60〜80重量%であるとより好ましい。50重量%以下では、強化繊維表面との接着性が低下し、力学特性が不十分となる。また、90重量%以上では、強化繊維表面との接着性は十分であるが、共重合体のガラス転移温度が低下し、室温で柔軟な共重合体となるため、強化繊維の取扱い性が低下する場合がある。
【0035】
本発明の共重合体(B)における(c)の含有率は、0〜30重量%であることが必要であり、0〜20重量%であるとより好ましい。30重量%以上では、強化繊維の取扱い性と接着性の両立が難しく、好ましくない。一方、本発明の共重合体(B)における(c)の含有率が0重量%、すなわち、該共重合体(B)が、実質的に(a)と(b)のみからなる共重合体であっても差し支えは無い。
【0036】
共重合体(B)を、強化繊維に付着させることで、該強化繊維を取り扱う際の集束性がよく、また擦れによる毛羽の発生を抑制することができる。さらにマトリックス樹脂と溶融混練する場合に、マトリックス樹脂と強化繊維との接着性を向上させ、かつ、強化繊維をマトリックス樹脂中へ容易に分散することができる。
【0037】
また、共重合体の強化繊維への付着量、すなわち、共重合体の強化繊維100重量部に対し、0.01〜30重量部である。より好ましくは0.05〜25重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部である。0.01重量部未満の場合は、強化繊維全体に付着できずに、得られる成形品において十分な力学特性が得られない。一方、付着量が30重量部を超えると、成形品の力学特性が低下する場合がある。
【0038】
ここで、付着量測定は、特に限定されないが、強化繊維を約5g取り、120℃で3時間乾燥、その重量をW(g)とし、次いで強化繊維を窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、室温まで冷却した重量W(g)を用いて付着量は次式にて算出した。
【0039】
付着量=[(W−W)/W]×100/W(重量部)。
【0040】
本発明の共重合体(B)は、アミノ基で変性されていることが特に好ましい。アミノ基変性されることにより、取扱い性を維持しつつ、強化繊維との接着性を向上させることができる。アミノ基変性の方法としては、特に制限はしないが、共重合体(B)のアミノ化合物を修飾させることや、共重合体(B)を構成する単量体としてアミノ基変性の単量体を用いても良い。
【0041】
アミン化合物修飾の方法としては、特に限定しないが、単軸押出機、同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸押出機、加熱ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、共重合体(B)とアミン変性剤とを混練製造することができる。アミン変性剤としては、特に限定しないが、1級または2級のアミンを有するアリルアミンが好ましい。
単量体として、アミノ基変性の単量体を用いる方法としては、(a)、(b)、(c)いずれの成分にアミノ基変性の単量体を用いても良いが、中でも成分(b)に、エステル末端にアミノ基を含有するビニル系単量体を用いることが、射出成形時の繊維分散性を維持しつつ、接着性を向上するため好ましい。
【0042】
また、本発明における共重合体(B)のアミン価は1〜100mg eq/gことが好ましく、より好ましくは10〜80mg eq/gである。1〜100mg eq/gであると、取扱い性や射出成形時の繊維分散性を維持しつつ、接着性を向上する。
【0043】
ここでアミン価は、ASTM D2074に従って測定する1,2,3級アミンの総数を示す指標で、成分1gを中和するのにようする塩酸に等量のKOHのmg数で表す。
【0044】
本発明の共重合体(B)は、強化繊維の取扱い性の観点から、共重合体(B)のガラス転移温度は30〜100℃であることが好ましく、より好ましくは、40〜90℃である。共重合体(B)のガラス転移温度が30℃〜100℃であると、取扱い性が良好であり、かつ射出成形時の繊維分散性と力学特性のバランスが良く好ましい。
【0045】
共重合体(B)は得られる成形品の力学特性の観点から、共重合体(B)の重量平均分子量は1,000〜500,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜400,000である。重量平均分子量を上記範囲とすることで、成形品の力学特性を良好に保てるために好ましい。なお重量平均分子量の測定は一般公知のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することから得る。
【0046】
共重合体(B)における前記単量体繰り返し単位の同定には、IR、NMR、質量分析および元素分析等の通常の高分子化合物の分析手法を用いて行うことができる。
【0047】
ここで、本発明の共重合体(B)における(b)としては、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートの中から選ばれる少なくとも1種用いることが、接着性と成形時の強化繊維の流動性のバランスが良く、好ましい。なお、それぞれを単独でまたは2種以上を混合して使用しても良い。
【0048】
強化繊維に付着させる方法については、特に制限はないが、均一に単繊維間に付着させやすいという観点から、共重合体の溶液、もしくはエマルジョンを強化繊維に付与したのちに乾燥させる方法が好ましい。強化繊維にエマルジョンを付与する方法としては、ローラー浸漬法、ローラー転写法、スプレー法などの既存の手法により付与する方法を用いることができる。
【0049】
本発明の強化繊維には、共重合体(B)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分が付着していても良い。例えば、共重合体(B)をエマルジョン形態として強化繊維に付与する場合は、エマルジョンを安定化させる界面活性剤などを別途加えていても良い。
【0050】
本発明における強化繊維の好ましい形状の一つとして、連続繊維であるロービング、ロービングを所定の長さにカットしたチョップド糸、粉砕したミルド糸が挙げられる。チョップド糸における繊維長さは特に限定されるものでは無いが、集束性を十分に発揮しカットされたあとの形状を十分に維持しつつ、押出機への供給性が良好なことから1〜30mmの範囲が好ましく、2〜15mmの範囲がより好ましい。
【0051】
上記成形材料を構成するマトリックス樹脂としては、特に制限されるものではなく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂いずれでも良い。例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱効果性樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)などのアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂、さらにはエチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体、エチレン/一酸化炭素/ジエン共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン/酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルエーテルエラストマー、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリエステルアミドエラストマー、ポリエステルエステルエラストマーなどの各種エラストマー類などが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用しても良い。リサイクル性の観点から熱可塑性樹脂が好ましく、特に汎用性の高い、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系の樹脂が好ましい。中でもコスト、成形品の軽量性の観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、より好ましくはポリプロピレンあるいは変性ポリプロピレン樹脂、特に酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0052】
本発明で得られる成形品は、優れた力学特性を活かし種々の用途に展開できる。特にインストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、プラズマディスプレーなどの電気・電子部品、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品に好適である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0054】
(1)共重合体(B)の重量平均分子量測定
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。GPCカラムにはポリスチレン架橋ゲルを充填したものを用いた。溶媒に1,2,4−トリクロロベンゼンを用い、150℃にて測定した。分子量は標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0055】
(2)曲げ特性評価
ASTM D−790の規格に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。試験機として、“インストロン”(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数は、n=5とし、平均値を曲げ強度および曲げ弾性率とした。試験片の水分率0.1%以下、雰囲気温度23℃、および湿度50重量%の条件下において、曲げ特性を求めた。
【0056】
(3)Izod衝撃特性評価
ASTM D256規格に従い、ノッチ付きIzod衝撃試験を行った。試験片の水分率0.1%以下、雰囲気温度23℃、湿度50重量%の条件下において、ノッチ付きIzod衝撃強度(J/m)を求めた。測定数は8回とし、その平均をIzod衝撃強度とした。
【0057】
(4)強化繊維の取扱い性評価
強化繊維をジグザグに配置したステンレス製のドラム3本を介し、30m/minの早さにて引き出した際に、毛羽発生が全く見られない、もしくは、数本の毛羽が見られる場合には○(取扱い性良好である)、毛羽立ちが多く、著しい単糸切れが見られる場合には×(取扱い性が悪い)とした。
【0058】
以下、実施例にて使用した材料について参考例として示す。
【0059】
参考例1.強化繊維
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0060】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:0.8g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.06
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
ここで表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行ったあとの炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0061】
参考例2.共重合体(A−1)エマルジョン
ガラス製反応容器に、攪拌しながらイオン交換水 150重量部にラウリル硫酸ナトリウム 1重量部を添加し、反応容器内の温度を65℃まで昇温した。
【0062】
また、スチレン 40重量部、n−ブチルアクリレート 30重量部、及びN、N−ジメチルアミノエチルアクリレート 20重量部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロリド4級塩 10重量部からなる単量体混合液を調整した。この単量体混合液の一部を、重合開始剤の添加前開始前に添加を行った。反応容器内で十分攪拌した後、クメンハイドロパーオキサイドのオレイン酸カリウム水溶液を3時間にわたって連続滴下して重合を完結させた。また、残りの短慮唄い混合液は開始剤の添加開始から2時間にわたって連続滴下し、共重合体(A−1)エマルジョンを得た。このときの重合転化率は98%以上であり、重合中凝固物の発生はほとんどみられなかった。エマルジョンを100メッシュの金網で過し、残存物は認められなかった。
【0063】
重量平均分子量 100,000
固形分濃度 40重量%
参考例3.共重合体(A−2)エマルジョン
単量体として、スチレン 20重量部、n−ブチルアクリレート 80重量部を用いた以外は、参考例2と同様にして、共重合体(A−2)エマルジョンを得た。
【0064】
重量平均分子量 400,000
固形分濃度 40重量%
参考例4.付着化合物(B−1)
付着化合物(B−1)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(油化シェル(株)製“EP8007”(登録商標)、平均分子量2900) 50重量部、ビスフェノール型エポキシ樹脂(油化シェル(株)製“EP834”(登録商標)、平均分子量380) 50重量部、1,3−フェニレンビス−2−オキサゾリン 5重量部を混合し、メチルエチルケトンにて、10重量%に希釈した。
【0065】
参考例5.付着化合物(B−2)
付着化合物(B−2)は、ポリスチレン(日本ポリスチレン(株)製“G120K”(登録商標))を、メチルエチルケトンにて、10重量%に希釈した。
【0066】
参考例6.付着化合物(B−3)
付着化合物(B−3)は、ポリメチルメタクリレート(旭化成ケミカルズ(株)製“560F”(登録商標))を、メチルエチルケトンにて、10重量%に希釈した。
【0067】
実施例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維を、参考例2で調整した共重合体エマルジョン(A−1)を固形分濃度40重量%に浸漬し、150℃で30分間乾燥し、水分を除去した。カートリッジカッターを用いて該連続炭素繊維を6mm長のチョップド炭素繊維にカットし、共重合体(A−1)が10重量%付着したチョップド炭素繊維を得た。
【0068】
得られたチョップド炭素繊維を31重量部(炭素繊維のみの含有率が30重量部となるように設定した、共重合体(A−1)は1重量部)と、未変性ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製“ノバックPP”MA3(登録商標))のペレット39重量部と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”QE800(登録商標))のペレット30重量部とを、V型混合機を用いて、仕込量5kg、回転30rpmで120秒間混合し成形材料とした。
【0069】
得られた成形材料を、日本製鋼所(株)製J350ELIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度60℃にて特性評価用試験片を成形した。射出成形機のノズル、スクリュー、シリンダーは汎用仕様のもので、成形条件は背圧0.3MPa、スクリュー回転数25rpm、軽量時間は20秒以内とした。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0070】
実施例2.
参考例2で調整した共重合体エマルジョン(A−2)の炭素繊維への付着量を3重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして射出成形品を作成した。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0071】
比較例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維をそのまま、チョップド炭素繊維を作成した以外は、実施例1と同様にして射出成形品を作成した。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0072】
比較例2.
参考例4に記載したエポキシを用い、炭素繊維への付着量を3重量部とした以外は、実施例1と同様にして射出成形品を作成した。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0073】
比較例3.
参考例5に記載したポリスチレンを用い、炭素繊維への付着量を3重量部とした以外は、実施例1と同様にして射出成形品を作成した。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0074】
比較例4.
参考例6に記載したポリメチルメタクリレートを用い、炭素繊維への付着量を10重量部とした以外は、実施例1と同様にして射出成形品を作成した。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
なお、表1において、(B)成分の付着量は、(A)成分100重量部に対する(B)成分の付着量[重量部]を表している。
【0075】
【表1】

【0076】
以上のように、実施例1〜2においては、強化繊維は取扱い性に優れ、射出成形品にした際の繊維分散性が良好であり、力学特性に優れた成形品を得ることができた。
【0077】
一方比較例1においては、炭素繊維に何も付着させておらず、毛羽が多く発生し、取扱い性が極めて悪い状態であり、成形不可能であった。また、比較例2では強化繊維の取扱い性および繊維分散性は良好であったが、力学特性が劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維(A)100重量部に、(a)芳香族ビニル系単量体単位10〜50重量%、(b)(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位50〜90重量%、(c)(a)および(b)と共重合可能な他のビニル系単量体単位0〜30重量%からなる共重合体(B)0.01〜30重量部が付着されてなる強化繊維。
【請求項2】
前記成分(B)がアミノ基で変性されてなる、請求項1に記載の強化繊維。
【請求項3】
前記成分(b)が、エステル末端にアミノ基を含有するビニル系単量体である、請求項2に記載の強化繊維。
【請求項4】
前記成分(B)のアミノ基が3級アミンおよび/または4級アンモニウム塩である、請求項2または3のいずれかに記載の強化繊維。
【請求項5】
前記成分(B)のアミン価が1〜100mg eq/gである、請求項2〜4のいずれかに記載の強化繊維。
【請求項6】
前記成分(B)のガラス転移温度が30〜100℃である、請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維。
【請求項7】
前記成分(B)の重量平均分子量が1,000〜500,000である、請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維。
【請求項8】
前記単量体(b)が、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、およびオクチル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の強化繊維。
【請求項9】
前記成分(A)が、炭素繊維、アラミド繊維、および鉱物繊維から選択される少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれかに記載の強化繊維。
【請求項10】
前記炭素繊維が、X線光電子分光法によって測定される表面酸素濃度比が0.05〜0.5である、請求項9に記載の炭素繊維。
【請求項11】
前記強化繊維が、その単繊維を10,000〜200,000本集束してなる強化繊維である、請求項1〜10のいずれかに記載の強化繊維。
【請求項12】
請求項1〜11に記載の強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料。
【請求項13】
前記マトリックス樹脂がオレフィン系、アミド系、およびエステル系から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項12記載の繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2009−197359(P2009−197359A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39668(P2008−39668)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】