説明

強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法および製造装置

【課題】塗布斑や目付バラツキの小さい強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂供給手段から計量、吐出される樹脂をバックアップロール上を走行する離型フィルムに塗布する際に、離型フィルムが減圧吸引把持手段上を走行する、あるいは、コーティングロール上に計量された
樹脂が転写によりバックアップロール上を走行する離型フィルムに塗布する際に、離型フィルムが減圧吸引把持手段上を走行し、かつ、コーティングロール速度C、離型フィルム速度Fが次の関係にある強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
C/F≧1.0 ・・・・(1)
また、バックアップロールを備えたコーターからなる強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム製造装置において、コーターで樹脂を塗布される、もしくは塗布された、走行する離型フィルムを減圧吸引把持する手段を設けた強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料を製造する際の中間基材である強化繊維プリプレグを製造するための樹脂を塗布した離型フィルム(本願では、強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムと呼ぶ)の製造方法のうち、塗布速度の変動を抑制し、その結果樹脂塗布ムラを小さくする製造方法、および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料、例えば、軽量ゴルフシャフトや釣竿などのスポーツ用途に適した繊維強化複合材料を製造する中間基材である強化繊維プリプレグにおいては、成形品の品質、寸法のバラツキ等を小さく抑えるために、樹脂目付のバラツキを極力小さくすることが望まれる。とくに、長尺の強化繊維プリプレグを使用する場合などには、その強化繊維プリプレグの長手方向における樹脂目付のバラツキを極力小さくすることが望まれる。
【0003】
強化繊維プリプレグの代表的な製造方法として、強化繊維からなるシートに対し、樹脂を塗布、担持させた離型フィルムを重ね、離型フィルムに塗布されていた樹脂を強化繊維シート側に転写させて強化繊維シート内に含浸させる方法が知られている。プリプレグから得られる繊維強化複合材料をより軽量かつ強度の高いものにする目的で、プリプレグの強化繊維含有率が高められるが、そのために低樹脂目付の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム等を得るための各種提案がなされている。強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムは、一般的に、塗布する樹脂量をコーティングロール上に計量し、それをバックアップロール上を走行する基材に転写することによって塗布するトップフィードリバースロールコーター、コンマリバースコーター、リップリバースコーター等を含むロールコーターや、それとは異なり、リップコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ナイフコーター等、コーティングロールを有せず樹脂供給手段から樹脂を計量、吐出し基材に塗布する各種コーターが使用される方法が知られている。一般的に、強化繊維プリプレグ製造用樹脂は、粘調が高いものが多いため、塗布する際にはこれを加温して溶融状態にするが、加温しても、まだかなり粘調が高い場合が多いため、これを薄く、また、均一に塗布することが困難であった。例えば、樹脂をロールコーターで離型フィルムに塗布する際に、離型フィルムを加熱することによって樹脂フィルムを均一な目付に塗布する提案がなされている(例えば、特許文献1)。ところが、離型フィルムを加熱しても、樹脂はやはりかなり粘調が高いため、樹脂が離型フィルムに塗布される瞬間に、離型フィルムの走行方向とは逆に樹脂からの抵抗力が働くことで、離型フィルムの走行速度が不安定になり、結果として、樹脂目付のバラツキを十分に満足できるレベルまで小さくできていない問題があった。
【0004】
また、ロールコーターで、ロールの速度を変えて樹脂フィルムの目付を均一に塗布する提案がなされている(たとえば、特許文献2、または3)。ところが、やはり上記同様に、粘調が高い樹脂を離型フィルムに塗布する際に、樹脂が離型フィルム走行の抵抗となるため、走行速度にムラができ目付バラツキを大きくすることがあるので、この目付バラツキを十分に満足できるレベルまで小さくできてはいない。
【特許文献1】特開昭60−2313号公報
【特許文献2】特開平3−123670号公報
【特許文献3】特開平11−254435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、離型フィルムの走行速度を安定にした、樹脂目付バラツキの小さな強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法は、次の構成からなる。すなわち、樹脂供給手段から計量、吐出される樹脂をバックアップロール上を走行する離型フィルムに塗布する強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムを製造する方法において、離型フィルムが減圧吸引把持手段上を走行することを特徴とする方法である。ここで挙げたコーターとしては、リップコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ナイフコーター等コーティングロールを用いないものであり、例えば、ナイフやダイなどで樹脂を計量、基材に吐出する樹脂供給手段を有する一般的な各種コーターを適宜選ぶことができる。
また、上記課題を解決するために、本発明に係る強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法の別の態様としては、次の構成からなる。すなわち、コーティングロール上に計量された樹脂が転写によりバックアップロール上を走行する離型フィルムに塗布する強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムを製造する方法において、離型フィルムが減圧吸引把持手段上を走行し、かつ、コーティングロール速度C、離型フィルム速度Fが次の関係にあることを特徴とする強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法である。
【0007】
C/F≧1.0 ・・・・(1)
ここでコーティングロールとは、予め計量した樹脂を表面上にのせ、基材の進行方向と逆あるいは正方向に回転しながら、樹脂を基材の上に転写、塗布するものである。このようなロールコーターとしては、例えば、トップフィードリバースロールコーター、コンマロールコーター、リップリバースコーター等を含むロールコーターを適宜選ぶことができる。中でも、メタリングロールとコーティングロールおよびバックアップロールを備えたリバースロールコーターが、高い粘調の樹脂を塗布するのに好適に用いることができる。
【0008】
ここで、C/Fを1.0未満とした場合、コーティングロール上の樹脂を離型フィルムに塗布するに当たり樹脂を引き伸ばしながら塗布することになるので、離型フィルムの走行に対して引っ張る方向に樹脂の抵抗力が大きく働くため、離型フィルムの走行速度が不安定になる。このため、(1)の範囲とすることで、離型フィルムの走行を安定にできる。ただし、C/Fを大きくするほど、コーティングロールで計量された樹脂量に対し、離型フィルム上に塗布される樹脂目付が大きくなるため、樹脂を低目付で塗布するには、1.0≦C/F≦2.0、さらには、1.0≦C/F≦1.5の範囲にあるのが好ましい。
さらに、離型フィルムを減圧吸引把持手段上にて走行させることによって、離型フィルムを安定な速度に走行させることができる。また、ここで、離型フィルム速度Fとバックアップロール速度Bの関係は、樹脂目付ムラを小さくするために、次の関係にあることが好ましい。
【0009】
0.9≦F/B≦1.1 ・・・・(2)
本発明における減圧吸引把持手段とは、離型フィルムの片側の面を減圧吸引によって吸着把持する装置であって、この吸着した部分が駆動走行することで離型フィルムを把持搬送できるものである。これは、複数の吸引口を有する駆動ロール、もしくは駆動ベルトからなるものでも良く、具体的には、サクションロールやサクションベルト装置などを挙げることができる。この減圧吸引把持手段は、離型フィルムの走行速度ムラを小さくして把持搬送するために、設置位置はバックアップロール以前、以後であっても、また、バックアップロールそのものが減圧吸引把持手段であっても構わない。
離型フィルムは、樹脂が塗布された後、巻取機で連続的にロール状に巻き取られても良く、この方法によって、連続した長尺の樹脂フィルムを製造することができる。この場合も、やはり前記減圧吸引把持手段は、バックアップロール以前、以後に設置されていても良いが、バックアップロールから巻取機の間に設置して、離型フィルムをその上を走行させることで、好適に離型フィルムを安定に走行することができるので好ましい。
離型フィルム速度Fに対する減圧吸引把持手段速度S(減圧吸引把持手段であるベルト、ロール等の駆動速度)の関係は、離型フィルムを安定した速度で搬送するため、F/Sは1 もしくは1より小さいことが好ましいが、F/Sが1よりあまり小さくなると減圧吸引把持手段上で離型フィルムが滑りかえって離型フィルム速度を不安定にすることがあるので、好ましくは次の範囲にあることが好ましい。
【0010】
0.9≦F/S≦1.0 ・・・・(3)
ここで減圧吸引把持手段は、バックアップロールの駆動に連動し、それぞれの速度も連動して決定されても良い。例えば、バックアップロールの速度Bを基準にして減圧吸引把持手段速度Sが決定され、S/Bが1以上に制御されても良い。例えば、前記した式(2)、式(3)を満たす範囲で好適な条件を選ぶことができる。
【0011】
本発明において、用いる樹脂としては、その最低粘度が0.1〜300ポイズの熱硬化性樹脂であることが好ましい。粘度がこの範囲よりも低いと、塗布後の樹脂が離型フィルム上で動きやすく、所望の塗布厚み、つまり所望の樹脂目付で塗布することが困難となり、逆に粘度が高すぎると、均一でかつ薄膜な塗布厚みに調整することが困難になるばかりか、離型紙上に樹脂が塗布される際の樹脂の抵抗力が大きく働くため、離型フィルムの走行速度が不安定になりやすい。ここで、前記樹脂粘度は、動的粘弾性法を用いて測定できる。例えば、レオメトリックス社製RDA−II型装置などを用いることができる。本願における最低粘度は、温度を上昇しながら測定する場合、樹脂粘度は徐々に低下し、ついには硬化反応が起こり粘度上昇に転じるが、この転移の直前の粘度の最小値のことを言う。また、この最低粘度を示す温度を最低粘度温度と言う。
【0012】
上記樹脂としては、通常強化繊維プリプレグ製造用に用いられているいずれの樹脂の使用も可能であり、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂などが挙げられ、とくに、エポキシ樹脂や、エポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物を使用することができる。
【0013】
また、上記離型フィルムとしては、プラスチックフィルム等の使用も可能であるが、とくに、離型性の良い離型紙からなることが好ましい。
上記樹脂は、離型フィルムに塗布される際の粘度が10〜10000ポイズにあるものが好ましく、粘度がこの範囲よりも低いと、やはり前記したのと同様に均一あるいは薄膜に塗布するのが困難になるばかりか、離型フィルムの走行速度が不安定になりやすい。
上記樹脂が離型フィルムに塗布される際に、離型フィルムを加熱することが好ましい。離型フィルムを加熱することによって、塗布される際の上記樹脂の粘調を低下させることができる。離型フィルムの加熱は、バックアップロールを加熱ロールとして直接行うか、バックアップロール近傍に加熱設備をおいて接触、非接触式のいずれの方法で加熱しても良い。離型フィルムは40〜200℃の範囲で加熱されることが好ましいが、熱硬化樹脂を塗布用に用いる場合、加熱温度が高くなると樹脂の変質が起こりやすくなるため、好ましくは40〜130℃である。あるいは、離型フィルムに樹脂を塗布後、室温以下の冷風を樹脂に吹きかけたり、室温以下の冷却プレートに離型フィルムを接触させたりすることで離型フィルムと樹脂を冷却する方法等をとっても良い。
また、本発明の装置は次の構成からなる。すなわち、少なくともバックアップロールを備えたロールコーターからなる強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム製造装置において、コーターで樹脂を塗布される、もしくは塗布された、走行する離型フィルムを減圧吸引把持する手段を設けた装置である。
ここで、前記減圧吸着把持手段が、複数の吸引口を有する駆動ロールもしくは駆動ベルトからなるものであっても良く、また、前記バックアップロールおよび/もしくはバックアップロール近傍に加熱手段を設けたものであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、離型フィルムに樹脂を塗布する際に働く樹脂からの抵抗力による離型フィルムの速度変動を抑制し、安定に走行できることで、塗布される樹脂目付のバラツキを小さくできる強化繊維プリプレグ用樹脂フィルムの製造方法およびその製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施態様に係る強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法を示している。離型フィルムのロール体1から巻き出された離型フィルム2は、フリーロールからなるガイドロール3を経て、バックアップロール4へと送られ、樹脂計量手段5によって一定量に計量された樹脂が塗布され、強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム6となって、巻取機7によって連続的なロール体として巻き取られる。
図2〜5は、各種コーター方式の例として、樹脂計量手段5にあたる部分を図示している。図2および図3は樹脂供給手段で樹脂を計量、吐出し基材に塗布する手段を例示している。図2はダイコーター方式の一例であり、ダイ11から吐出された一定量の樹脂12がバックアップロール4上を搬送された離型フィルム2の上に塗布され、強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム6となる。図3はナイフコーター方式の一例であり、堰14に蓄えられた樹脂溜まり15に対してナイフ13を離型フィルム2に一定のクリアランスで設けることにより一定量の樹脂が離型フィルム2に塗布される。
図4および図5はコーティングロールで計量した樹脂を基材に転写、塗布する手段を例示している。図4はリバースロールコーター方式の一例であり、バックアップロール4上を搬送された離型フィルム2の上にコーティングロール16の表面上の樹脂12が転写、塗布される。この方式では、樹脂12は、メタリングロール17とコーティングロール16とのクリアランス、それぞれのロール速度比によって計量されながら所定の厚みでコーティングロール16の表面上に供給されることから、比較的粘調の高い樹脂を薄くコーティングできるので好ましく選択できる。また、図5はコンマロールコーターの一例であり、図4のメタリングロール17に相当する回転しないコンマロール18とコーティングロール16のクリアランスによってコーティングロール16上に一定量の樹脂が計量され、これがバックアップロール4上を搬送された離型フィルム2上に転写、塗布されることから、やはりリバースロールコーターと同様の理由で好ましく選択できる方式である。
上記したリバースロールコーターやコンマロールコーターでは、コーティングロール速度Cとバックアップロール上を把持搬送される離型フィルムの速度Fの関係が、C/F≧1.0、にあることが好ましく、この範囲を外れるとコーティングロールから離型フィルムに転写される際に樹脂が引き伸ばされるため、離型フィルムの走行方向と逆方向の力が掛かる結果、離型フィルムの走行が乱れ、塗布斑が起こることがある。
【0017】
本発明では離型フィルムは減圧吸引把持手段8上を走行する。図6および図7は、減圧吸引把持手段の一例を示している。本例では、多数の孔からなるベルト開口部21aを有するベルト21が、駆動ロール22により駆動され、フリーロール23により案内されながら、筐体24内で周回され、周回経路の上面側で、ベルト21が露出されている。筐体24内から、吸引口25を通して、適当な吸引手段により吸引することにより、筐体24内が減圧され、さらにこの減圧吸引により、周回中のベルト21の上面に走行中の離型フィルム20が吸着把持され搬送される。このような減圧吸引把持手段においては、図8および図9に示すように、上記ベルト21に代えて、多数の孔からなるロール開口部26aを有するロール26を用いることもできる。
上記減圧吸引把持手段速度S、すなわちベルト21の走行速度やロール26の周速度は、上記したように離型フィルム20の速度Fに対し等速に近いほど好ましく、0.9≦F/S≦1.0の関係にあれば良く、また、バックアップロール速度Bを検出して、これを基準に等速、もしくはそれ以上になるように連動駆動するようにしても良い。ここでベルト21やロール26の材質は金属製、樹脂製、ゴム製など特に制限無く用いることができ、減圧による離型フィルムの吸着むらを小さくするために、ベルト21やロール26の離型フィルム接触面は鏡面、エンボス、あるいは小さな溝を具備して加工しても良い。ベルトやロールの開口部の直径は好ましくはφ50mm以下であると、吸引把持された際に離型フィルム面に凹凸等ができにくくなり良い。また、減圧吸引把持手段の離型フィルム接触面のうち、開口部は10〜70%の面積であれば良好な吸引把持ができ好ましい。
上記減圧吸引把持手段の設置位置は、離型フィルムに樹脂が塗布される前後、例えば図1で例示される装置において、離型フィルムの巻出しであるロール体1から巻取機7の間であればいずれでも良く、離型フィルムの走行速度ムラを小さくして把持搬送できる好適な設置位置を選べばよい。また、バックアップロール4そのものが図8および図9に示されるような減圧吸引把持手段であっても良い。さらには、これらを複数用いても構わない。
本発明では、このような減圧吸引把持手段上を離型フィルムが走行することによって、離型フィルムの走行を安定にしてコーティングができ、その結果離型フィルムへの樹脂塗布斑を抑制することができるようになる。離型フィルムの走行の安定度を示すものとして、バックアップロール速度Bに対する離型フィルム走行速度Fの関係が、0.9≦F/B≦1.1、にあればより樹脂塗布斑が抑制されるので好ましい。
本発明では、離型フィルムに樹脂をコーティングする際に、離型フィルムを加熱するのが、樹脂の粘調を低下できるので好ましい。図1にはバックアップロール4の近傍に加熱ヒーター9を設置して離型フィルムを非接触に加熱する例を示しているが、バックアップロール4そのものを加熱して接触式に離型フィルムを加熱しても良い。
図10は、上記のように製造された強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムを用いて、強化繊維プリプレグを製造する方法を示している。複数の強化繊維束のパッケージ31から引き出された強化繊維束32は、引き揃えロール33、34、コーム35を介して、複数の強化繊維束32が互いに並行にシート状に引き揃えられた強化繊維シート36の形態とされる。強化繊維シート36に対して、上側の離型フィルムのロール体37から引き出された上側の離型フィルム40が導入ロール38、39を介して強化繊維シート36の上面側に配置されるとともに、下側の離型フィルムのロール体41から引き出された下側の離型フィルム44が導入ロール42、43を介して強化繊維シート36の下面側に配置される。上下の離型フィルム40、44の少なくとも一方に、前述の如く樹脂が塗布、担持されており、本実施態様では、少なくとも上側の離型フィルム40に樹脂が塗布、担持されている。但し、両離型フィルム40、44に樹脂が塗布、担持されていてもよい。
【0018】
このように両側から離型フィルム40、44で挟まれた強化繊維シート36は、ヒーター45で加熱されて離型フィルムに塗布されていた樹脂が加熱、軟化され、含浸ロール46、47でニップされて加圧されることにより、樹脂が強化繊維シート36中に含浸される。樹脂が含浸された強化繊維シート36は、引取ロール48、49の位置で、樹脂が強化繊維シート36側に転写された後の上側の離型フィルム50がロール体53として巻き取られ回収される。樹脂が含浸された強化繊維シート36は、強化繊維プリプレグ51として、ロール体52として巻き取られる。本実施態様では、下側の離型フィルム44も強化繊維プリプレグ51とともに巻き取られ、強化繊維プリプレグ51が巻き出されて複合材料成形用に使用される際に、離型材として機能する。
このようにして製造された樹脂フィルムは、塗布斑が小さく、より均一な目付でコーティングされていることから、これを用いて製造した強化繊維プリプレグは、塗布斑によってできる表面に樹脂のない欠陥や、目付斑が抑制されるので品位良好な製品となり、好ましい。
【実施例】
【0019】
上記のような装置を用いて、強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムおよび強化繊維プリプレグを製造した結果について説明する。
実施例1
塗布装置は、図1および図3に示したナイフコーターを用いた。減圧吸引把持手段には、図6および図7に示したサクションベルト装置を用い、これをバックアップロール4と巻取機7の間に設置した。塗布する樹脂は、予め下記の組成で調製し、最低粘度25ポイズ、最低粘度温度120℃とした樹脂組成物を用いた。ここで、樹脂粘度は、レオメトリックス社製RDA−II型装置を用い、操作モード:ダイナミック、振動3.14ラディアン/秒、昇温速度:1.5℃/分、プレート:平行板(半径25mm)、ギャップ:1.0mmの条件で測定した。
【0020】
塗布した樹脂の組成は下記の通りである。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 :30重量部
(エピコート828、登録商標、ジャパン エポキシ レジン(株)製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 :20重量部
(エピコート1001、登録商標、ジャパン エポキシ レジン(株)製)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂 :45重量部
(エピコート154、登録商標、ジャパン エポキシ レジン(株)製)
ポリビニルホルマール :5重量部
(ビニレック K、商品名、チッソ(株)製)
3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア:10重量部
(DCMU99、型番、保土ヶ谷化学工業(株)製)
離型フィルムは、炭素繊維プリプレグ用剥離工程紙(WBE90R−DT、商品名、リンテック(株)製)、幅1080mmのものを用いた。
【0021】
樹脂溜まり15中の樹脂の温度を70℃に加温して、溶融状となった上記樹脂組成物を下記の条件で離型フィルムに1000mm幅で塗布した。ここで、上記樹脂組成物の70℃における粘度は300ポイズであった。
【0022】
バックアップロール速度B :15m/分
ナイフクリアランス :30μm
サクションベルト速度S :15.5m/分
サクションベルト吸引 : ON
連続して樹脂を塗布したときの離型フィルム、すなわち樹脂フィルムの速度Fは、15±0.5m/分であった。従って、F/Bは0.97〜1.03となる。
【0023】
得られた樹脂フィルムは、見た目の塗布斑は無く、樹脂のない欠点もない品位良好なものであった。この樹脂フィルムを5mの長さでサンプリングし、フィルムの中央部100mm角のサンプルをフィルム長手方向に100mm間隔で50点測定したときの個別最大値と最小値の差Rを目付バラツキとし、評価した。樹脂目付は、離型フィルムからへらなどで掻き取った樹脂重量を天秤で測定したものから求めることができる。平均樹脂目付と目付の長手方向のバラツキを測定した結果、次の通りとなった。結果は表1にまとめた。
【0024】
平均目付 :35.5g/m2
長手方向のばらつきR :1.8g/m2
実施例2
塗布装置は、図1および図4に示したリバースロールコーターを用いた。減圧吸引把持手段には、図6および図7に示したサクションベルト装置を用い、これをバックアップロール4と巻取機7の間に設置した。塗布する樹脂および離型フィルムは実施例1と同じものを用いた。
【0025】
メタリングロール17、コーティングロール16、バックアップロール4の表面温度を70℃に加温して、溶融状となった上記樹脂組成物を下記の条件で離型フィルムに1000mm幅で塗布した。
【0026】
メタリングロール速度M :12m/分
コーティングロール速度C :15.5m/分
バックアップロール速度B :15m/分
ロールクリアランス :30μm
サクションベルト速度S :15.5m/分
サクションベルト吸引 : ON
連続して樹脂を塗布したときの離型フィルム、すなわち樹脂フィルムの速度Fは、15±0.2m/分であった。従って、C/Fは1.02〜1.05、F/Bは0.99〜1.01、F/Sは0.95〜0.98となる。
【0027】
得られた樹脂フィルムは、見た目の塗布斑は無く、樹脂のない欠点もない品位良好なものであった。この樹脂フィルムを実施例1と同様に平均樹脂目付と目付の長手方向のバラツキRを測定した結果、次の通りとなった。結果は表1にまとめた。
【0028】
平均目付 :30.4g/m2
長手方向のばらつきR :1.3g/m2
実施例3
塗布装置は、図1および図5に示したコンマロールコーターを用いた。減圧吸引把持手段には、図6および図7に示したサクションベルト装置を用い、これをバックアップロール4と巻取機7の間に設置した。さらにバックアップロール4に図8および図9に示したサクションロールを用いた。塗布する樹脂および離型フィルムは実施例1と同じものを用いた。
【0029】
コンマロール18、コーティングロール16、バックアップロール4の表面温度を70℃に加温し、さらに、バックアップロール4に把持搬送される離型フィルム2を70℃に加温するよう加熱ヒータ9をバックアップロールの近傍に設置した。溶融状となった上記樹脂組成物を下記の条件で離型フィルムに1000mm幅で塗布した。
【0030】
コーティングロール速度C :20m/分
バックアップロール速度B :18m/分
ロールクリアランス :28μm
サクションベルト速度S :18.2m/分
サクションベルト吸引 : ON
サクションロール吸引 : ON
連続して樹脂を塗布したときの離型フィルム、すなわち樹脂フィルムの速度Fは、18±0.2m/分であった。従って、C/Fは1.10〜1.12、F/Bは0.98〜1.02、F/Sは0.99〜1.00となる。
【0031】
得られた樹脂フィルムは、見た目の塗布斑は無く、樹脂のない欠点もない品位良好なものであった。この樹脂フィルムを実施例1と同様に平均樹脂目付と目付の長手方向のバラツキRを測定した結果、次の通りとなった。結果は表1にまとめた。
【0032】
平均目付 :30.6g/m2
長手方向のばらつきR :1.6g/m2
比較例1
実施例1と樹脂、離型フィルム、装置、ロール速度等は同じにして、サクションベルトは使用せず、樹脂フィルムを製造した結果を表1にまとめた。
【0033】
平均目付 :35.7g/m2
長手方向のばらつきR :6.4g/m2
比較例2
実施例2と樹脂、離型フィルム、装置、ロール速度等は同じにして、サクションベルトは使用せず、樹脂フィルムを製造した結果を表1にまとめた。
【0034】
平均目付 :30.2g/m2
長手方向のばらつきR :3.5g/m2
比較例3
実施例3と樹脂、離型フィルム、装置、ロール速度等は同じにして、サクションベルトは使用せず、またバックアップロールにはサクション機能のない金属ロールを使用した。これで樹脂フィルムを製造した結果を表1にまとめた。
【0035】
平均目付 :30.8g/m2
長手方向のばらつきR :6.9g/m2
実施例4
実施例1で得た樹脂フィルムと強化繊維から、図10に示した強化繊維プリプレグ製造装置を用いて、強化繊維プリプレグを製造した。
【0036】
強化繊維には、平均単繊維径7μm、単繊維数12,000本、引張強度4.9GPa、引張弾性率230GPaの炭素繊維束(繊度:0.8g/m)を125本用いた。これらの炭素繊維束を引き揃えた炭素繊維シートに、実施例1で得た樹脂フィルム1枚を下から押し当て、上からは樹脂を塗布していない離型フィルムを当てて挟み、ヒーター45、および含浸ロール46、47を130℃に加温し、速度8m/分、線圧4kg/cmで加圧、樹脂を炭素繊維束に含浸させ、炭素繊維プリプレグを得た。この炭素繊維プリプレグのプリプレグ目付は135.7g/m2、繊維目付は100.5g/m2、重量繊維含有率は74.1%であった。
【0037】
この炭素繊維プリプレグを5mの長さでサンプリングし、プリプレグの中央部100mm角のサンプルを長手方向に100mm間隔で50点測定したときの個別最大値と最小値の差Rを目付バラツキとし、評価した結果、次の通りとなった。結果は表2にまとめた。
【0038】
長手方向のばらつき : 1.4g/m2
実施例5〜6
実施例4と同様に、実施例2〜3で製造した樹脂フィルムをそれぞれ用いて強化繊維プリプレグを製造した結果を、表2にまとめた。
比較例4〜6
実施例4と同様に、比較例1〜3で製造した樹脂フィルムをそれぞれ用いて強化繊維プリプレグを製造した結果を、表2にまとめた。プリプレグ表面には、樹脂塗布斑に起因する表面に樹脂がない部分や、毛羽が発生され品位が良くなかった。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】

本発明は、ゴルフシャフトや釣竿などのスポーツ、レジャー用途向けにだけでなく航空機用途や土木建築などの一般産業用途などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施態様に係る強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法を実施するための装置の概略側面図である。
【図2】図1の装置の樹脂計量手段の一例を示す概略部分側面図である。
【図3】図1の装置の樹脂計量手段の一例を示す概略部分側面図である。
【図4】図1の装置の樹脂計量手段の一例を示す概略部分側面図である。
【図5】図1の装置の樹脂計量手段の一例を示す概略部分側面図である。
【図6】本発明の一実施態様に係る減圧吸引把持手段の例を示す概略側面図である。
【図7】図6の減圧吸引把持手段の概略平面図である。
【図8】図6の減圧吸引把持手段の別の例を示す拡大概略部分側面図である。
【図9】図8の減圧吸引把持手段の概略斜視図である。
【図10】本発明の一実施態様に係る強化繊維プリプレグを製造するための装置の概略側面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 離型フィルムのロール体
2 離型フィルム
3 ガイドロール
4 バックアップロール
5 樹脂計量手段
6 強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム
7 巻取機
8 減圧吸引把持手段
9 加熱ヒーター
11 ダイ
12 樹脂
13 ナイフ
14 堰
15 樹脂溜まり
16 コーティングロール
17 メタリングロール
18 コンマロール
20 離型フィルム
21 ベルト
21a ベルト開口部
22 駆動ロール
23 フリーロール
24 筐体
25 吸引口
26 ロール
26a ロール開口部
31 強化繊維束のパッケージ
32 強化繊維束
33、34 引揃えロール
35 コーム
36 強化繊維シート
37 上側の離型フィルムのロール体
38、39 導入ロール
40 上側の離型フィルム
41 下側の離型フィルムのロール体
42、43 導入ロール
44 下側の離型フィルム
45 ヒーター
46、47 含浸ロール
48、49 引取ロール
50 上側の離型フィルム
51 強化繊維プリプレグ
52 強化繊維プリプレグのロール体
53 上側の離型フィルムのロール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂供給手段から計量、吐出される樹脂をバックアップロール上を走行する離型フィルムに塗布する強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムを製造する方法において、離型フィルムが減圧吸引把持手段上を走行することを特徴とする、強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
コーティングロール上に計量された樹脂が転写によりバックアップロール上を走行する離型フィルムに塗布される強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムを製造する方法において、離型フィルムが減圧吸引把持手段上を走行し、かつ、コーティングロール速度C、離型フィルム速度Fが次の関係にあることを特徴とする強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
C/F≧1.0 ・・・・(1)
【請求項3】
前記バックアップロール速度Bと離型フィルム速度Fが次の関係にあることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
0.9≦F/B≦1.1 ・・・・(2)
【請求項4】
離型フィルムに樹脂を塗布した後、巻取機で連続的にロール状に巻取られることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
離型フィルムが樹脂を塗布された後、離型フィルムが巻取機で巻き取られる前に前記減圧吸着把持手段で把持されることを特徴とする、請求項4に記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
離型フィルムが、複数の吸引口を有する駆動ロールもしくは駆動ベルトからなる減圧吸着把持手段に把持されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記減圧吸着把持手段速度Sと離型フィルム速度Fが次の関係にあることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
0.9≦F/S≦1.0 ・・・・(3)
【請求項8】
前記樹脂が、その最低粘度が0.1〜300ポイズの熱硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂が、エポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物からなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂が離型フィルムに塗布される際の樹脂の粘度を10〜10000ポイズの範囲に保つことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂が離型フィルムに塗布される際に、離型フィルムを加熱することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかの方法で製造された強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルムを用いて製造することを特徴とする強化繊維プリプレグの製造方法。
【請求項13】
バックアップロールを備えたコーターからなる強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム製造装置において、コーターで樹脂を塗布される、もしくは塗布された、走行する離型フィルムを減圧吸引把持する手段を設けた強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム製造装置。
【請求項14】
前記減圧吸着把持手段が、複数の吸引口を有する駆動ロールもしくは駆動ベルトからなることを特徴とする、請求項12に記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム製造装置。
【請求項15】
前記バックアップロールおよび/もしくはバックアップロール近傍に加熱手段を設けたことを特徴とする、請求項12もしくは13に記載の強化繊維プリプレグ製造用樹脂フィルム製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−212803(P2006−212803A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25059(P2005−25059)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】