説明

強誘電体薄膜形成用液状組成物および強誘電体薄膜の製造方法

低温度での焼成でも優れた特性の強誘電体薄膜を作製可能な薄膜形成用液状組成物、およびそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法を提供する。液状媒体中に、一般式(Bi2+(Bim−1Ti3.5m−0.52−[mは1〜5の整数である。]又は一般式(Bi2+(Am−1Ti3.5m−0.52−[AはBi3+およびLa3+であり、La3+/Bi3+の比が0.05〜0.5であり、mは1〜5の整数である。]で表される、平均一次粒子径が100nm以下の結晶性強誘電体酸化物粒子が分散し、加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解したことを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強誘電体薄膜形成用液状組成物およびそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい半導体メモリ素子として注目を集めている強誘電体メモリ(FeRAM)は、強誘電体薄膜の自発分極特性を積極的に利用して情報の読み書きを行うもので、不揮発性、書込み速度、信頼性、セル面積などの点において、これまでのDRAM、SRAM、FLASHメモリなどの有する欠点を克服できる、優れたメモリとして期待されている。
【0003】
FeRAM用の強誘電体材料としては、これまでにチタン酸ジルコン酸鉛系(PZT、PLZT)、ビスマス系層状ペロブスカイト強誘電体(BLSF)などの金属酸化物系材料が提案され、検討されてきている。
【0004】
一般に、これらの強誘電体薄膜の成膜方法としては、スパッタリング法などの物理的気相成膜法(PVD)やMOCVD法などの化学的気相成長法、および化学的溶液成膜法(溶液法)が提案されている。このうち、溶液法は、特殊で高価な装置を必要とせず、最も安価かつ簡便に強誘電体薄膜を成膜できることが知られている。また溶液法は精密な組成制御が容易であり、多くの強誘電体材料に見られる、組成の違いによる特性変動を抑制できるというメリットがあるため、非常に有効な強誘電体薄膜作製方法の一つとして検討が進められている。
【0005】
溶液法による強誘電体薄膜の作製は、原料となる各成分の金属化合物(前駆体)を均質に溶解させた溶液を基板に塗布し、塗膜を乾燥し、必要に応じて仮焼成(Pre−bake)した後、例えば空気中で約700℃もしくはそれ以上の温度で焼成して結晶性の金属酸化物の薄膜を形成することにより強誘電体薄膜を成膜する方法である。原料の可溶性金属化合物としては、金属アルコキシドやその部分加水分解物もしくは有機酸塩やキレート錯体化合物といった有機金属化合物が一般に使用されている。
【0006】
一方、上記FeRAMを使用するセル構造については、これまでに幾つかのセル構造が提案されてきている。現在実用化されているのは強誘電体キャパシタとトランジスタを局所配線で接続した、いわゆるプレーナ構造と呼ばれるものであり、セル面積の縮小化、すなわち高集積化という観点からは不利な構造である。
【0007】
これらを解決する構造として、プラグ上に強誘電体キャパシタを形成するスタック構造が提案されているが、多層配線形成時の還元雰囲気が強誘電体薄膜に致命的な特性劣化を引き起こすため問題となっている。さらに、これらの問題を解決する構造として、多層配線の形成を行った後、すなわちロジックプロセスの終了後、最上層に強誘電体薄膜とプレート線を形成する構造が提案されている。この構造においては論理回路上への成膜となるため、強誘電体薄膜形成時の焼成温度は400〜450℃程度まで低下させることが求められている。
【0008】
これに対応するため、溶液法による強誘電体薄膜の作製においても結晶化温度の低下に関して様々な手法が提案されてきている。例えば、特許第2967189号公報などに示される前駆体の構造を適切に制御する方法や、常誘電体であるケイ酸ビスマスをあらかじめコート液に添加しておく方法(Ferroelectrics,271巻,289頁(2002年))、チタン酸鉛層をシード層として用いる方法(Jpn.J.Appl.Phys.,35巻,4896頁(1996年))、適宜の基材の選択(J.Am.Ceram.Soc.,75巻,2785頁(1992年))、減圧アニール法(Jpn.J.Appl.Phys.,38巻,5346頁(1999年))などである。しかし、これら従来の方法における焼成温度は、いずれも550℃程度までの低下が限界であった。
【0009】
特に、チタン酸ビスマスに代表されるBLSFは、PZT系の強誘電体材料に比較して低電圧動作が可能であるとされており(Nature,401巻,682頁(1999年))、BLSFを用いたFeRAMに関しては高い関心が払われてきたが、鉛系の強誘電体材料に比較してBLSFの結晶化温度の低下は難しいとされてきた。このために、従来、溶液法による場合には、高集積化に必要な論理回路上への強誘電体薄膜の形成は事実上困難であるとされていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記したような従来技術の問題点に鑑み、溶液法で成膜して強誘電体薄膜を得る場合に、比較的低温度での焼成でも高集積化に必要な論理回路上に強誘電体薄膜を形成でき、かつ高抗電界性、自発分極性、特に疲労特性などの点で優れた強誘電体特性を有する薄膜を作製可能な薄膜形成用液状組成物、およびそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記の構成を有することを特徴とするものである。
(1)液状媒体中に、一般式(Bi2+(Bim−1Ti3.5m−0.52−[mは1〜5の整数である。]で表される、平均一次粒子径が100nm以下の結晶性強誘電体酸化物粒子が分散し、加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解したことを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0012】
(2)液状媒体中に、一般式(Bi2−(Am−1Ti3.5m−0.52−[AはBi3−およびLa3−であり、La3−/Bi3+の比が0.05〜0.5であり、mは1〜5の整数である。]で表される、平均一次粒子径が100nm以下の結晶性強誘電体酸化物粒子が分散し、加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解したことを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0013】
(3)前記一般式において、m=3である上記(1)または(2)に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0014】
(4)前記可溶性金属化合物が、加熱により一般式(Bi2+(A’n−12−[A’は、Bi3−、Ba2−、Sr2+、Ca2−、Pb2−、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti、Nb5+、Ta5+、Mo、WおよびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、nは1〜8の整数であり、xは酸素数である。]で表される強誘電体酸化物を形成する化合物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0015】
(5)前記一般式において、A’がBi3+(ただし、Bi3+の5〜50%がLa3+に置換されていてもよい。)であり、BがTi4−であり、n=3であり、x=10である上記(4)に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0016】
(6)前記結晶性強誘電体酸化物粒子が、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる粒子である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0017】
(7)前記結晶性強誘電体酸化物粒子/前記可溶性金属化合物の含有比率が、酸化物換算の質量比で5/95〜95/5である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0018】
(8)前記結晶性強誘電体酸化物粒子と、前記可溶性金属化合物との合計含有量が1〜50質量%である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【0019】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の液状組成物を基板上に塗布し、550℃以下で焼成を行うことを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶液法で成膜してビスマス系強誘電体薄膜を得る場合に、比較的低温度、特に、550℃以下、さらには500℃以下の温度で焼成できるために、高集積化に必要な論理回路上への強誘電体薄膜の形成が可能になり、かつ疲労特性の点で優れた強誘電体特性を有する薄膜を作製可能な薄膜形成用組成物、およびそれを用いた強誘電体薄膜の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明における、一般式(Bi2+(Bim−1Ti3.5m−0.52−[mは1〜5の整数である。]で表される結晶性強誘電体酸化物粒子は、本発明の組成物中の根幹となる必須の成分である。本発明では、かかる高い結晶性を有する、層状ペロブスカイト構造を有するチタン酸ビスマス結晶粒子が液状媒体中に分散した液状組成物を用いることによって、ビスマス系強誘電体薄膜を溶液法により成膜する際に必要な焼成温度を飛躍的に低下させることが可能となる。かかるチタン酸ビスマス(BIT)結晶粒子は、上記一般式においてm=3の、BiTi12で表される組成式を有するものが好ましい。
【0022】
また、一般式(Bi2+(Am−1Ti3.5m−0.52−[AはBi3+およびLa3+であり、La3+/Bi3+の比が0.05〜0.5であり、mは1〜5の整数である。]で表される、Biを部分的にLaで置換したチタン酸ビスマスランタン(BLT)も用いることができる。かかるBLT粒子は、上記一般式においてm=3の組成式を有するものが好ましい。以下、BIT粒子とBLT粒子とを合わせて単にチタン酸ビスマス結晶粒子ともいう。
【0023】
チタン酸ビスマス結晶粒子は、その平均一次粒子径が100nm以下であることが必要である。平均一次粒子径がこれより大きいと、薄膜形成時の表面の凹凸が粗くなったり、薄膜中での充填率が上がらず誘電特性が低下する。なかでも、平均一次粒子径が好ましくは50nm以下、特に好ましくは、10〜30nmが好適である。平均一次粒子径が10nm未満では、粒子の強誘電特性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0024】
上記特性を有するチタン酸ビスマス結晶粒子としては、特に高い結晶性を有することから、ガラスマトリックス中でチタン酸ビスマスを結晶化させた後ガラスマトリックス成分を除去することによって得られる粒子が好ましい。すなわち、ガラス母材融液中に強誘電体酸化物結晶粒子として析出させる成分を溶解させておき、融液を急速冷却してガラス化させた後、再度加熱アニールを行うことで母材中に微結晶を析出させるガラス結晶化法により得られる粒子である。析出した微結晶は、ガラスマトリックスを適宜の薬液等によって溶解させることにより取り出される。
【0025】
上記ガラス母材としては、ホウ酸塩系、リン酸塩系、ケイ酸塩系などが使用できるが、溶融性や目的酸化物との複合化合物の製造のし易さやマトリックスの溶離の容易性などの点から、ホウ酸塩系のガラス母材が好ましく用いられる。
【0026】
以下に、チタン酸ビスマス結晶粒子の製造を具体的に説明すると、次の(1)〜(4)の工程でチタン酸ビスマス結晶粒子を得ることができる。
【0027】
(1)ガラス形成成分(例えば、酸化ホウ素)と、目的とする強誘電体酸化物組成の金属酸化物(例えば、酸化ビスマスと酸化チタン)とを混合し、1200℃以上の温度で全体を溶融させる[溶融]。
(2)溶融ガラスを急速冷却させることによって強誘電体酸化物組成の金属イオンを含むガラスを得る[ガラス化]。
(3)550℃〜700℃程度の温度でアニール処理を行うことでガラス中に強誘電体酸化物の結晶核を形成させ、アニール条件を制御して所定の粒子径まで成長させる[結晶化]。
(4)酸、水、あるいはその混合物によりガラス形成成分(例えば、酸化ホウ素)を取り除きチタン酸ビスマス結晶粒子(例えば、BiTi12)を得る[リーチング]。
【0028】
この方法によれば、アニール温度領域の非常に粘度の高いガラスを母材として結晶化を行っているため、粒子径や粒子形態の制御が容易であり、また結晶性の高い微粒子が得られるという特長がある。
【0029】
かかるガラスマトリックス中で結晶化させた超微粒子は、形態の制御が容易であり、アニール処理の条件等によって比較的異方性の大きい微粒子を作製しやすく、アスペクト比の大きい粒子が得られ易いという利点も併せ有している。
【0030】
一方、本発明における、加熱により強誘電性酸化物を形成する可溶性金属化合物(以下、単に可溶性金属化合物ともいう)とは、加熱による熱分解などによって酸化物に転化して強誘電性を示しうる化合物である。目的とする強誘電体酸化物が複合酸化物である場合には、2種以上の可溶性金属化合物を所定の比率で混合して用いるか、もしくは2種以上の金属を所定の割合で含む複合金属化合物を用いる。これらの可溶性金属化合物としては、硝酸塩などの無機酸塩、エチルヘキサン酸塩などの有機酸塩、アセチルアセトン錯体などの有機金属錯体、または金属アルコキシドなどが用いられる。特に有機酸塩、有機金属錯体、または金属アルコキシドが好ましい。
【0031】
本発明の強誘電体薄膜形成用液状組成物から強誘電体薄膜を形成する過程において、上記可溶性金属化合物は、チタン酸ビスマス結晶粒子の結合剤としても働き、この可溶性金属化合物は前述のチタン酸ビスマス結晶粒子を核として結晶成長できるため、より低温からの結晶化が可能となる。また、可溶性金属化合物は、熱処理による焼成後にチタン酸ビスマス結晶粒子間の空隙において強誘電体酸化物を形成することにより、得られる強誘電体薄膜全体としての誘電特性を向上させる働きをも有する。
【0032】
上記可溶性金属化合物は、焼成後にチタン酸ビスマス結晶粒子と略同じ組成の強誘電体を形成するような組成を有していてもよいし、チタン酸ビスマス結晶粒子と異なる組成の強誘電体を形成するような組成を有していてもよい。具体的には、液状組成物の加熱により一般式(Bi2+(A’n−12−[A’は、Bi3+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Ti4+、Nb5+、Ta5+、Mo6+、W6+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、nは1〜8の整数であり、xは酸素数である。]で表される、層状ペロブスカイト構造を有する強誘電体酸化物を形成する化合物であると好ましい。
【0033】
しかし、チタン酸ビスマス結晶粒子が結晶核として働くことを考慮すると、チタン酸ビスマス結晶粒子と可及的に同じ組成の強誘電体を形成するようにすることが好ましい。上記一般式においてA’がBi3+(ただし、Bi3+の5〜50%がLa3+に置換されていてもよい。)であり、BがTi4+であり、n=3であり、x=10であると特に好ましい。
【0034】
本発明において、チタン酸ビスマス結晶粒子と可溶性金属化合物の含有比率は、可溶性金属化合物が加熱により酸化物になった際の酸化物換算の質量比で5/95〜95/5であることが好ましい。チタン酸ビスマス結晶粒子の含有比率がこの範囲よりも大きくなると結合剤成分が不足し、形成された薄膜が基板に密着しなくなるおそれがある。逆に、上記範囲よりも小さい場合、チタン酸ビスマス結晶粒子の添加効果が発現しにくい。上記比率は、30/70〜70/30が特に好ましい。
【0035】
上記チタン酸ビスマス結晶粒子と可溶性金属化合物は、適当な液状媒体中にチタン酸ビスマス結晶粒子を分散させ、かつ、可溶性金属化合物を溶解させた液状組成物として、強誘電体薄膜形成用の塗布液などに使用される。上記液状組成物を形成する場合、チタン酸ビスマス結晶粒子と可溶性金属化合物とを混合して液状媒体中に溶解または分散してもよいし、それぞれを同一または異なる液状媒体中に分散または溶解したものを混合してもよい。
【0036】
液状媒体としては可溶性金属化合物を溶解しうるものであれば特に限定はされないが、一般的には、水、アルコール(エタノール、2−プロパノールなど)、エーテルアルコール(2−エトキシエタノール、2−エトキシプロパノールなど)、エステル(酢酸ブチル、乳酸エチルなど)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトンなど)、エーテル(ジブチルエーテル、ジオキサンなど)、脂肪族炭化水素(シクロヘキサン、デカンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン)、含窒素有機溶媒(アセトニトリル、N−メチルピロリドンなど)、あるいはこれらの2種以上の混合溶媒を用いることができる。具体的な液状媒体としては、組成物中の結晶粒子の種類や表面状態、可溶性金属化合物の種類、さらには塗布方法によって適宜選択、混合して用いられる。なお、液状媒体中に、可溶性金属化合物の未溶解分が一部、含まれていてもよい。
【0037】
本発明の液状組成物中の固形分(チタン酸ビスマス結晶粒子と可溶性金属化合物の合計)の含有量としては、目的とする強誘電体膜厚や液状物の塗布方法などによって適宜調整されるが、通常、1〜50質量%であることが好ましい。固形分の含有量が上記範囲より小さい場合には塗布により得られる薄膜の厚みが非常に小さくなり、所望の厚みにするために非常に多くの回数の塗布を繰り返す必要があるし、上記範囲より大きい場合には、液の安定性が低下するおそれがある。
【0038】
また、本発明の液状組成物を形成する上記チタン酸ビスマス結晶粒子や可溶性金属化合物を媒体中に溶解または分散させる場合には、例えば、ビーズミル、サンドミルなどのメディアミル、超音波式、撹拌式など各種ホモジナイザー、ジェットミル、ロールミルなど、既知の方法や装置が使用できる。
【0039】
本発明の液状組成物中には、上記チタン酸ビスマス結晶粒子や可溶性金属化合物を分散させるための分散剤や、塗膜のレオロジー特性などを改善させるために各種界面活性剤や表面処理剤、樹脂成分等を含有せしめてもよい。しかし、あまりこれらが多量に添加されていると焼成後に残炭分として残りやすくなるため、必要最小限の量にするのが好ましい。
【0040】
本発明の液状組成物を基板上に塗布し、焼成を行うことによって強誘電体薄膜を製造することができる。塗布の方法としては、既知の方法を用いることができる。好ましい具体例としては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、転写印刷法などが挙げられる。なかでも、得られる薄膜の均質性や生産性の点から、スピンコート法が最も好適に用いられる。
【0041】
本発明において薄膜の形成に使用される基板としては、Si、GaAsなどの単結晶半導体基板やBaTiO、SrTiO、MgO、Alなどの単結晶誘電体基板、これら表面上に多結晶Siや電極層として、Pt、Ir、IrO、Ru、RuOなどを堆積させたもの、または半導体基板と上記電極層との間にSiO、Si等の絶縁層やTi、Taといったバッファ層を設けたものなどが挙げられる。しかし、基板としては、焼成温度程度の耐熱性があるものであれば、これらに限定されるものではない。
【0042】
これら基板上に、本発明の液状組成物を塗布した後、好ましくは、液状媒体の除去のために通常、100〜400℃で1分〜2時間乾燥した後、300℃以上で焼成が行われる。ここでの焼成は、上記したように本発明では、低温度範囲の採用が可能であり、好ましくは550℃以下、場合により500℃以下で行われる。焼成温度としてはもちろん、550℃を超える温度の採用も可能であり、用途によってはかかる高温度での焼成が有利な場合がある。焼成時間は温度や雰囲気によっても異なるが、好ましくは1分〜2時間で行われる。この焼成は、可溶性金属化合物を分解、および/または結晶化させるもので、雰囲気としては大気中、酸素中、不活性ガス中など、適宜選択して使用可能である。焼成には、通常の拡散炉のような電気炉も使用可能であるが、急速昇温の可能なホットプレートや赤外線ランプアニール炉(RTA)などを用いると、さらに結晶化を進行させやすいために好ましい。
【0043】
上記のようにして、本発明において強誘電体薄膜を形成する場合、塗布−乾燥−焼成からなる一回のプロセスで所望の膜厚が得られない場合には、このプロセスを繰り返して行うことができることはもちろんである。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるわけではない。なお、例6〜例8は比較例である。
【0045】
[例1]チタン酸ビスマス結晶粒子(BIT)の作製
酸化ホウ素、酸化ビスマス、および酸化チタン(ルチル)を、B、Bi、およびTiOとしてそれぞれ50.0モル%、38.0モル%、および12.0モル%含むように秤量し、エタノール少量を用いて自動乳鉢でよく湿式混合した後乾燥させて原料粉末とした。得られた原料粉末を、融液滴下用のノズルのついた白金製容器(ロジウム10%含有)に充填し、ケイ化モリブデンを発熱体とした電気炉において1350℃で2時間加熱し、完全に溶融させた。次いでノズル部を加熱し、融液を電気炉の下に設置された双ロール(ロール径150mm、ロール回転数50rpm、ロール表面温度30℃)に滴下しフレーク状固形物を得た。
【0046】
得られたフレーク状固形物は透明を呈し、粉末X線回折の結果、非晶質物質であることが確認された。得られたフレーク状固形物を、550℃で8時間加熱することにより、Bガラスマトリックス中でチタン酸ビスマス結晶を析出させた。さらに、80℃に保った1mol/Lの酢酸水溶液中に得られたフレーク粉を添加し6時間撹拌したのち遠心分離、水洗浄、乾燥を行って白色粉末を得た。
【0047】
得られた白色粉末を粉末X線回折によって同定したところ、チタン酸ビスマス結晶(BiTi12)のみからなる粉末であることが判った。また、透過型電子顕微鏡によって観察を行った結果、この結晶径は30nmであった。
【0048】
[例2]強誘電体薄膜の作製
例1で得られたBIT結晶粒子を、湿式ジェットミルを用いてエタノール中に分散させた後、遠心分離によって粗大粒を除去し、10質量%のBITを含む分散液Aを得る。該分散液Aの分散粒子径をレーザー散乱粒度分布計を用いて測定すると90nmであり、良好な分散体である。
【0049】
エチルヘキサン酸ビスマス(トルエン溶液)とチタニウムテトラブトキシドを金属存在比としてBi:Ti=4.2:3.0となるようブタノール/エタノール混合溶媒(50/50容量%)に添加し溶解させる。この溶液を窒素中80℃で12時間還流加熱して可溶性金属化合物溶液Bとする。なお、結晶化後のBITとして10質量%となるように溶媒の量を調整する。
ついで、分散液Aと可溶性金属化合物溶液Bを質量比50/50となるよう混合して本発明のコーティング組成物とする。
【0050】
基板として表面にPt(200nm)/Ti(20nm)/熱酸化SiO(800nm)が積層されたシリコン単結晶基板を用い、Pt上にスピンコート法によってコーティング組成物を塗布し、ホットプレート上200℃で30分間乾燥させる。この、塗布−乾燥の処理を3回行った後、RTA炉を用いて酸素中500℃15分間の熱処理を行う。
【0051】
得られる被膜は厚さ100nmであり、X線回折の結果、BIT結晶相のみからなる被膜である。さらにこの被膜上にDCスパッタ法によって0.1mmφのPt電極を作製し、RTA炉500℃5分間のポストアニール処理を行ってキャパシタを作製して強誘電体ヒステレシス特性を測定すると、3V印加時の抗電界32kV/cm、自発分極5.6μC/cmとなる。得られる強誘電体キャパシタの疲労特性を評価すると、3V、10回のサイクルを繰り返した後にも自発分極の値の変化量は5%以内に抑えられる。
【0052】
[例3]強誘電体薄膜の作製
ストロンチウム金属、エチルヘキサン酸ビスマス(トルエン溶液)とタンタルペンタエトキシドを、脱水した2−メトキシエタノールに金属の存在比でSr:Bi:Ta=1.0:2.1:2.0となるように溶解させた。溶液濃度は、SBT(ストロンチウム−ビスマス−タンタル)酸化物として10質量%となるようにして可溶性金属化合物溶液Cを調製する。
ついで、前記分散液Aと可溶性金属化合物溶液Cを質量比20/80となるよう混合して本発明のコーティング組成物とする。
【0053】
該コーティング組成物を、例2と同様にしてPt(200nm)/Ti(20nm)/熱酸化SiO(500nm)が積層されたシリコン基板上に塗布−乾燥−焼成を行ってBIT−SBTからなる被膜を得る。
【0054】
得られる被膜は厚さ110nmであり、X線回折の結果、BITおよびSBTの結晶相のみからなる被膜である。さらにこの被膜上にDCスパッタ法によって0.1mmφのPt電極を作製し、RTA炉500℃5分間のポストアニール処理を行ってキャパシタを作製して強誘電体ヒステレシス特性を測定すると、3V印加時の抗電界31kV/cm、自発分極5.5μC/cmとなる。得られた強誘電体キャパシタの疲労特性を評価すると、3V、10回のサイクルを繰り返した後も自発分極の値の変化量は5%以内に抑えられる。
【0055】
[例4〜6(例6は比較例)]
例2の分散液Aと可溶性金属化合物溶液Bとの混合比を表1に示す割合で変化させ、例2と同様にして強誘電体薄膜を作製し、評価を行う。
【0056】
[例7(比較例)]
例2の分散液Aの代わりに、固相法で作製した平均一次粒子径1.2μmの球状BIT結晶粒子を10質量%含む分散液Dを用いて、例2と同様にして成膜/評価を行う。得られる相はBIT単相からなる強誘電体相であり、分極特性も例2で得られた被膜と同等のものであるが、疲労特性の評価では3V、10回のサイクルで自発分極はほとんどゼロとなり、劣化が著しいものである。
【0057】
[評価]
例2〜7における強誘電体薄膜の成膜条件を表1に、例2〜7により得られた強誘電体薄膜の誘電特性、疲労特性を表2に示す。なお、表2において、疲労特性とは、サイクル試験において自発分極が初期の5%以上減少するサイクル数を示す。
【0058】

【0059】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の強誘電体薄膜は、半導体デバイスおよびその他のデバイスの製造において有利に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体中に、一般式(Bi2+(Bim−1Ti3.5m−0.52−[mは1〜5の整数である。]で表される、平均一次粒子径が100nm以下の結晶性強誘電体酸化物粒子が分散し、加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解したことを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項2】
液状媒体中に、一般式(Bi2+(Am−1Ti3.5m−0.52−[AはBi3+およびLa3+であり、La3+/Bi3+の比が0.05〜0.5であり、mは1〜5の整数である。]で表される、平均一次粒子径が100nm以下の結晶性強誘電体酸化物粒子が分散し、加熱により強誘電体酸化物を形成する可溶性金属化合物が溶解したことを特徴とする強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項3】
前記一般式において、m=3である請求項1または2に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項4】
前記可溶性金属化合物が、液状組成物の加熱により一般式(Bi2+(A’n−12−[A’はBi3+、La3+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Pb2+、KおよびNaからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、BはTi4+、Nb5+、Ta5+、Mo6+、W6+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、nは1〜8の整数であり、xは酸素数である。]で表される強誘電体酸化物を形成する化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項5】
前記一般式において、A’がBi3+(ただし、Bi3−の5〜50%がLa3+に置換されていてもよい。)であり、BがTi4+であり、n=3であり、x=10である請求項4に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項6】
前記結晶性強誘電体酸化物粒子が、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる粒子である請求項1〜5のいずれか1項に記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項7】
前記結晶性強誘電体酸化物粒子/前記可溶性金属化合物の含有比率が、酸化物換算の質量比で5/95〜95/5である請求項1〜6のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項8】
前記結晶性強誘電体酸化物粒子と、前記可溶性金属化合物との合計含有量が1〜50質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の強誘電体薄膜形成用液状組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の液状組成物を基板上に塗布し、550℃以下で焼成を行うことを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/010895
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512052(P2005−512052)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010636
【国際出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】