説明

弾性表面波フィルタ、アンテナ共用器、およびそれらの製造方法

【課題】本発明は、弾性表面波共振器のスプリアスを抑えて、リップルの小さい優れた特性を有する弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明の弾性表面波フィルタは、圧電基板上に形成された並列腕の弾性表面波共振器1201と直列腕の弾性表面波共振器1202とにより構成され、弾性表面波共振器の上部はSiO2薄膜で覆われている。並列腕の弾性表面波共振器1201の共振周波数は、直列腕の弾性表面波共振器1202の共振周波数より低く設定されており、並列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが直列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波フィルタ、アンテナ共用器、およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、広帯域な特性を有する弾性表面波フィルタを実現するためには、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)基板などの電気機械結合係数の大きな圧電基板が用いられていた。しかし、この種の基板を用いた弾性表面波フィルタは、一般に、温度特性が悪いという欠点を有していた。温度特性の改善としては、LiNbO3基板上にSiO2の薄膜層を形成するとともに、前記LiNbO3基板の回転Y板のカット角度を−10度〜+30度とし、前記薄膜層の膜厚寸法をH、前記弾性表面波の動作中心周波数の波長をλとしたときに、H/λの値を0.115から0.31とする構成が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような基板上に形成される弾性表面波共振器をラダー型に接続することにより、広帯域な特性を有する弾性表面波フィルタを構成することができる。
【0004】
図15に示すのは、従来の弾性表面波共振器の構成図である。図15において、(a)は弾性表面波共振器の構成であり、(b)はA−A’の断面図である。圧電基板1501上に櫛型電極1502と反射器電極1503が形成され、その上に、SiO2薄膜1504が形成される構成である。このような弾性表面波共振器の特性を図16に示す。図16において、(a)は通過特性、(b)はアドミッタンス(Y11)である。ここで、圧電基板としては、LiNbO3基板の回転Y板のカット角が5度の基板であり、電極とSiO薄膜の膜厚は、波長で規格化した値で、それぞれ8%、20%である。また、電極としては、Alを主成分とした構成である。図に示すように、弾性表面波共振器には、複数のスプリアスが存在する。
【0005】
この種の基板を用いた場合には、横モードによるスプリアスが存在する場合がある。このスプリアスの抑圧には、一般には、櫛型電極に重み付けする方法がある。図17に示すのは、アポタイズ重み付けされた弾性表面波共振器を示す。アポタイズ重み付けは櫛型電極1701において、交差幅が中央部から端に向かって小さくなる構成である。このときの弾性表面波共振器の特性を図18に示す。図18において、(a)は通過特性、(b)はアドミッタンスである。図に示すように、弾性表面波共振器の特性において、横モードによるスプリアスが抑圧されている。
【特許文献1】特開2003−209458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の弾性表面波共振器においては、横モードによるスプリアスは抑圧されているが、共振周波数より低い側に、抑圧できないレイリーモードに起因すると考えられるスプリアスが存在する。通過特性におけるスプリアス1801のレベルは0.2dB、アドミッタンスにおけるスプリアス1802のレベルは1.0dBと大きい値であり、このような弾性表面波共振器を用いてラダー型フィルタやアンテナ共用器を構成した場合に、帯域内のリップルとして特性を劣化させるという課題を有していた。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、弾性表面波共振器のスプリアスを抑えて、リップルの小さい優れた特性を有する弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器を提供することを目的とするものである。また、そのような弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を有するものである。
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明は、ニオブ酸リチウムからなる基板と、前記基板の上面に設けられた櫛型電極と、前記櫛型電極を覆う誘電体薄膜とを備えた複数の弾性表面波共振器により構成される弾性表面波フィルタであって、共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0010】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、前記基板の回転Y板のカット角を−10〜+30度としたもので、この構成によれば、広帯域で、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、前記誘電体薄膜がSiO2薄膜としたもので、この構成によれば、良好な温度特性を有した、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0012】
本発明の請求項4に記載の発明は、特に、前記誘電体薄膜が凹凸形状を有する構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0013】
本発明の請求項5に記載の発明は、特に、前記複数の弾性表面波共振器が同一基板上に形成されている構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0014】
本発明の請求項6に記載の発明は、特に、直列腕の弾性表面波共振器と並列腕の弾性表面波共振器とを備えた弾性表面波フィルタであって、直列腕の弾性表面波共振器の共振周波数が、並列腕の弾性表面波共振器の共振周波数よりも高く設定されており、並列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、直列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0015】
本発明の請求項7に記載の発明は、特に、直列腕の弾性表面波共振器と並列腕の弾性表面波共振器とを備えた弾性表面波フィルタであって、並列腕の弾性表面波共振器の共振周波数が、直列腕の弾性表面波共振器の共振周波数よりも高く設定されており、直列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、並列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0016】
本発明の請求項8に記載の発明は、特に、少なくとも2つの直列腕の弾性表面波共振器を備えた弾性表面波フィルタであって、前記直列腕の弾性表面波共振器のうち共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0017】
本発明の請求項9に記載の発明は、特に、少なくとも2つの並列腕の弾性表面波共振器を備えた弾性表面波フィルタであって、前記並列腕の弾性表面波共振器のうち共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0018】
本発明の請求項10に記載の発明は、受信フィルタと送信フィルタとを含むアンテナ共用器であって、前記受信フィルタおよび前記送信フィルタは、ニオブ酸リチウムからなる基板と、前記基板の上面に設けられた櫛型電極と、前記櫛型電極を覆う誘電体薄膜とを備えた複数の弾性表面波共振器よりなる弾性表面波フィルタで構成され、共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【0019】
本発明の請求項11に記載の発明は、特に、前記基板の回転Y板のカット角を−10〜+30度としたもので、この構成によれば、広帯域で、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【0020】
本発明の請求項12に記載の発明は、特に、前記誘電体薄膜がSiO2薄膜としたもので、この構成によれば、良好な温度特性を有した、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【0021】
本発明の請求項13に記載の発明は、特に、前記誘電体薄膜が凹凸形状を有する構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【0022】
本発明の請求項14に記載の発明は、特に、前記複数の弾性表面波共振器が同一基板上に形成されている構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【0023】
本発明の請求項15に記載の発明は、特に、受信フィルタと送信フィルタとを含むアンテナ共用器であって、受信フィルタの通過帯域が送信フィルタの通過帯域よりも高く設定されており、送信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、受信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【0024】
本発明の請求項16に記載の発明は、特に、受信フィルタと送信フィルタとを含むアンテナ共用器であって、送信フィルタの通過帯域が送信フィルタの通過帯域よりも高く設定されており、受信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、送信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成としたもので、この構成によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【0025】
本発明の請求項17に記載の発明は、ニオブ酸リチウムからなる基板上に、櫛型電極を形成する工程と、前記櫛型電極を覆うように誘電体薄膜を形成する工程とを備えた弾性表面波フィルタの製造方法であって、前記弾性表面波フィルタを構成する弾性表面波共振器において、共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きくなるように櫛型電極を形成するもので、この方法によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0026】
本発明の請求項18に記載の発明は、受信フィルタと送信フィルタとが複数の弾性表面波共振器より構成され、この弾性表面波共振器を構成するニオブ酸リチウムからなる基板上に、櫛型電極を形成する工程と、前記櫛型電極を覆うように誘電体薄膜を形成する工程とを備えたアンテナ共用器の製造方法であって、前記アンテナ共用器を構成する弾性表面波共振器において、共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションよりも大きくなるように櫛型電極を形成するもので、この方法によれば、リップルが小さく、優れたフィルタ特性を有するアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように本発明の弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器は、スプリアスを抑えて、優れた特性を実現することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施の形態における弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器について説明する。
【0029】
まず、誘電体薄膜としてSiO2薄膜の形状について検討を行い、弾性表面波共振器の特性を評価した。図1に示すのは、圧電基板101上の電極102の上に形成されたSiO2薄膜103の構成図である。図1において、(a)は、電極上のSiO2薄膜の凸部の上部の長さLaが長く、(b)は、電極上のSiO薄膜の凸部の上部の長さLbが短く、La>Lbとなる。このような形状は、例えば、SiO2成膜時に基板にバイアス電圧を印加することで実現することができる。バイアス電圧を大きくすることで、SiO2の形状を図1の(a)から(b)へと制御することができる。
【0030】
図2に示すのは、図17の構成の弾性表面波共振器のバイアス電圧を大きくしてSiO2薄膜を成膜した場合の弾性表面波共振器の特性である。この場合の弾性表面波共振器のSiO2薄膜の形状は、図17に比べて、電極上のSiO2薄膜の凸部の上部の長さが短くなっている。図2において、(a)は通過特性、(b)はアドミッタンスである。図2に示すように、通過特性のスプリアス201は0.05dB、アドミッタンスのスプリアス202は0.1dBと抑圧されている。このように、SiO薄膜の成膜条件を制御することで、スプリアスを抑圧することができる。しかしながら、この方法によると、共振器特性が若干劣化してしまう。特に、反共振点での特性として、Q値が180から120へと低下し、減衰極のレベルも24.5dBから22.0dBへと劣化する。このことは、ラダー型フィルタの並列腕共振器として使用した場合に、通過特性のロスの劣化に繋がる。
【0031】
次に、櫛型電極のメタライゼーションレシオによる共振器特性の評価を行った。ここで、メタライゼーションレシオ(η)は、図3に示すように、櫛型電極301のピッチをP、電極幅をWとするとη=W/Pで表される。また、SiO2の成膜条件は同一である。図4に、反共振点のQ値とメタライゼーションレシオの関係と示す。縦軸は、η=0.50のQ値で規格化している。図4より、ηが大きくなるにつれてQ値が向上する。図5から図7に、弾性表面波共振器の特性を示す。図5から図7において、図5はη=0.45、図6はη=0.50、図7は、η=0.55であり、(a)、(b)はそれぞれ、通過特性、アドミッタンスである。ここで、ピッチはP=1.00μmであり、圧電基板としては、LiNbO3基板の回転Y板のカット角が5度の基板であり、電極とSiO薄膜の膜厚は、波長で規格化した値で、それぞれ8%、20%である。また、電極としては、Alを主成分とした構成である。図において、共振周波数よりも高い側のスプリアスに関しては、横モードによるもので、前述のアポタイズ重み付けにより抑圧することは可能であるが、共振周波数より低い側のスプリアス501、502、601、602、701、702に関しては、ηを大きくするにつれて大きくなっているのが分かる。図8に示すのは、スプリアスとメタライゼーションレシオとの関係である。図8において、(a)は通過特性のスプリアス、(b)はアドミッタンスのスプリアスである。図に示すように、ηを大きくするにつれてスプリアスは大きくなる。このように、メタライゼーションレシオを大きくすると、Q値や減衰極のレベルは向上するものの、スプリアスが大きくなるということが明らかになった。すなわち、メタライゼーションレシオが小さい場合には、SiO薄膜の成膜条件としては、例えば、バイアス電圧を低くすることができ、特性を向上することができる。
【0032】
さらに、櫛型電極のピッチによる共振器特性の評価を行った。ここで、ピッチは櫛型電極の間隔を意味し、図3に示すPである。図9から図10に、弾性表面波共振器の特性を示す。図9から図10において、図9はP=0.95、図10はP=1.05であり、(a)、(b)はそれぞれ、通過特性、アドミッタンスである。ここで、ηは0.50であり、P=1.00の弾性表面波共振器の特性は、図6に対応する。図において、共振周波数よりも高い側のスプリアスに関しては、横モードによるもので、前述のアポタイズ重み付けにより抑圧することは可能であるが、共振周波数より低い側のスプリアス901、902、1001、1002に関しては、Pを小さくするにつれて大きくなっているのが分かる。図11に示すのは、スプリアスとピッチとの関係である。図11において、(a)は通過特性のスプリアス、(b)はアドミッタンスのスプリアスである。図に示すように、ηを大きくするにつれてスプリアスは大きくなる。すわなち、弾性表面波共振器の共振周波数が高いほど、スプリアスが大きくなる。
【0033】
以上説明したように、共振周波数より低い側のスプリアスに関して、弾性表面波共振器の構成との3つの関係が明らかになった。第1の関係は、共振周波数より低い側のスプリアスに関して、SiO2薄膜の成膜条件、例えばバイアス電圧を大きくして、SiO2薄膜の形状を制御することにより、スプリアスを抑圧することができるが、弾性表面波共振器の特性、特に、反共振点の特性が劣化するということである。第2の関係は、櫛型電極のメタライゼーションレシオを大きくすると、弾性表面波共振器の反共振点Q値は向上するが、スプリアスが大きくなるということである。第3の関係は、櫛型電極のピッチが小さいほど、すわなち、櫛型電極の共振周波数が大きいほどスプリアスが大きいということである。
【0034】
一般に、弾性表面波共振器を用いてラダー型フィルタを構成する場合、直列腕と並列腕に使用する弾性表面波共振器はその共振周波数が異なる。バンドパスフィルタ特性を実現するには、直列腕の共振周波数は並列腕の共振周波数より高く設定される。このとき、SiO薄膜の成膜条件、例えば、バイアス電圧を直列腕の弾性表面波共振器の共振周波数より低い側のスプリアスを抑圧するように設定すると、並列腕の弾性表面波共振器に関しては、バイアス電圧が大きく、弾性表面波共振器の特性を劣化させてしまう。しかしながら、前述の弾性表面波共振器とスプリアスの評価から導き出された3つの関係を用いると、並列腕の弾性表面波共振器の特性劣化を改善することができ、良好な弾性表面波フィルタを実現することができることが明らかになった。
【0035】
図12に示すのは、本実施の形態における弾性表面波フィルタの構成図である。圧電基板上(図示せず)に形成された並列腕の弾性表面波共振器1201と直列腕の弾性表面波共振器1202とにより構成され、弾性表面波共振器の上部はSiO2薄膜(図示せず)で覆われている。ここで、弾性表面波共振器1201のピッチをPp、櫛型電極の電極幅をWpとすると、メタライゼーションレシオはηp=Wp/Ppで表され、弾性表面波共振器1202のピッチをPs、櫛型電極の電極幅をWsとすると、メタライゼーションレシオはηs=Ws/Psで表される。ここで、バンドパスフィルタを構成するために、並列腕の弾性表面波共振器1201の共振周波数は、直列腕の弾性表面波共振器1202の共振周波数より低く設定されており、ピッチの関係はPs<Ppである。また、メタライゼーションレシオに関しては、ηp>ηsの関係としている。ここで、それぞれの弾性表面波共振器は同一の基板上に形成されており、すなわち、ピッチの小さい直列腕の弾性表面波共振器に関しては、十分にスプリアスが抑圧され、かつ並列腕の弾性表面波共振器に関しては、例えば、前述のSiO2成膜時のバイアス電圧がかかりすぎているため、メタライゼーションレシオを大きくしてもスプリアスは抑圧され、さらにQ値も向上させることができる。すなわち、直列腕の弾性表面波共振器のスプリアスを抑圧した構成において、並列腕の弾性表面波共振器の特性を改善することができる。
【0036】
以上の構成とすることにより、ピッチの小さい直列腕の弾性表面波共振器のスプリアスを抑圧し、かつ、ピッチの大きい並列腕の弾性表面波共振器に関しては、メタライゼーションレシオを大きくすることにより、共振器特性としてQ値を向上させることができ、ラダー型フィルタとして良好なフィルタ特性を有する弾性表面波フィルタを実現することができる。
【0037】
なお、本実施の形態においては、バンドパスフィルタに関して説明したが、例えば、ノッチフィルタを構成する場合には、直列腕と並列腕の共振周波数の関係が逆になることがある。この場合には、直列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオを並列腕のそれよりも大きくして、スプリアスの抑圧する条件を並列腕に設定すればよく、共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが共振周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成であればよい。
【0038】
また、本実施の形態においては、並列腕と直列腕の2つの弾性表面波共振器を用いた弾性表面波フィルタの構成について説明したが、弾性表面波共振器の数や配置についてはこれに限るものではなく、複数の弾性表面波共振器を用いた構成で、櫛型電極のメタライゼーションレシオとピッチとの関係が本実施の形態の関係を満足していればよい。例えば、図13に示すような構成であってもかまわない。図13は、本実施の形態における弾性表面波フィルタの他の構成を示す図である。図13において、1301、1302、1303、1304は直列腕の弾性表面波共振器であり、1305、1306は並列腕の弾性表面波共振器である。弾性表面波共振器は圧電基板上に形成された櫛型電極、SiO2薄膜を含む構成である。ここで、弾性表面波共振器1301、1302、1303、1304、1305、1306のピッチをそれぞれP1、P2、P3、P4、P5、P6とし、メタライゼーションレシオはそれぞれη1、η2、η3、η4、η5、η6とする。本発明においては、直列腕の弾性表面波共振器においても、例えばP1>P2の関係であれば、η1>η2とすれば直列腕の弾性表面波共振器の特性を改善することができる。また、直列腕の弾性表面波共振器においても、例えばP5>P6の関係であれば、η5>η6とすれば直列腕の弾性表面波共振器の特性を改善することができる。すなわち、本発明におけるメタライゼーションレシオとピッチの関係は並列腕と直列腕に限るものではなく、弾性表面波フィルタを構成する他の弾性表面波共振器に適用しても効果を得ることができる。
【0039】
また、本発明におけるメタライゼーションレシオとピッチの関係は、アンテナ共用器に適用することも可能である。図14に示すのは、本発明の実施の形態におけるアンテナ共用器の構成図である。図14において、アンテナ共用器は送信フィルタ1401と受信フィルタ1402とを含む構成である。ここで、送信フィルタ1401、及び受信フィルタ1402は圧電基板上に形成された弾性表面波フィルタであり、SiO2薄膜が形成されている。このとき、受信フィルタの通過帯域周波数が送信フィルタの通過帯域周波数よりも高い場合には、送信フィルタ1401を構成する少なくとも1つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが受信フィルタ1402を構成する少なくとも1つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きければ、本発明の効果はアンテナ共用器においても得ることができる。また、送信フィルタ1401と受信フィルタ1402の周波数関係が前述とは逆の場合には、メタライゼーションレシオの関係も前述の逆とすればよい。
【0040】
また、本実施の形態においては、圧電基板として、LiNbO3基板の回転Y板のカット角が5度の基板であり、電極とSiO薄膜の膜厚は、波長で規格化した値で、それぞれ8%、20%であるとして説明したが、これらに限るものではなく、LiNbO3基板の回転Y板のカット角については、−10から+30度程度の範囲であれば、本発明の構成を適用することにより、広帯域でかつ温度特性に優れ、通過特性の良い弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器を実現することができる。
【0041】
また、電極の材料に関しては、Alを主成分とする材料としているが、これに限るものではなく、Cuやその他の材料を用いてもかまわない。
【0042】
また、誘電体薄膜としてのSiO2薄膜を用いた構成として説明したが、これは他の材料であってもかまわない。
【0043】
また、櫛型電極の構成に関しても、これに限るものではなく、ダミー電極を設けてもよく、また、アポタイズ重み付けに関してもこの形状に限るものではない。
【0044】
また、本発明は、同一基板上に形成される弾性表面波共振器を有する弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器の製造方法に適用することもできる。圧電基板上に、複数の弾性表面波共振器の櫛型電極を形成する工程と、櫛型電極を覆うようにSiO薄膜を形成する工程とを備えた弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器の製造方法であって、ピッチの大きい弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオがピッチの小さい弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きい構成となるように製造する弾性表面波フィルタ、及びアンテナ共用器の製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器は、リップルの少ない優れたフィルタ特性を有するという効果が実現できる。本発明に係る弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器の製造方法は、スプリアスを抑えて、かつ、優れた特性を有するという弾性表面波フィルタ、およびアンテナ共用器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】SiO2薄膜の構成図
【図2】弾性表面波共振器における特性図
【図3】櫛型電極におけるメタライゼーションレシオの説明図
【図4】Q値とメタライゼーションレシオの関係図
【図5】η=0.45の弾性表面波共振器における特性図
【図6】η=0.50の弾性表面波共振器における特性図
【図7】η=0.55の弾性表面波共振器における特性図
【図8】スプリアスとメタライゼーションレシオの関係図
【図9】P=0.95の弾性表面波共振器における特性図
【図10】P=1.05の弾性表面波共振器における特性図
【図11】スプリアスとピッチの関係図
【図12】本実施の形態における弾性表面波フィルタの構成図
【図13】本実施の形態における弾性表面波フィルタの他の構成図
【図14】本実施の形態におけるアンテナ共用器の構成図
【図15】従来の弾性表面波共振器の構成図
【図16】従来の弾性表面波共振器における特性図
【図17】従来のアポタイズ重み付け弾性表面波共振器の構成図
【図18】従来のアポタイズ重み付け弾性表面波共振器における特性図
【符号の説明】
【0047】
101 圧電基板
102 電極
103 SiO2薄膜
201 通過特性のスプリアス
202 アドミッタンスのスプリアス
301 櫛型電極
501 通過特性のスプリアス
502 アドミッタンスのスプリアス
601 通過特性のスプリアス
602 アドミッタンスのスプリアス
701 通過特性のスプリアス
702 アドミッタンスのスプリアス
901 通過特性のスプリアス
902 アドミッタンスのスプリアス
1001 通過特性のスプリアス
1002 アドミッタンスのスプリアス
1201 並列腕の弾性表面波共振器
1202 直列腕の弾性表面波共振器
1301 弾性表面波共振器
1302 弾性表面波共振器
1303 弾性表面波共振器
1304 弾性表面波共振器
1305 弾性表面波共振器
1306 弾性表面波共振器
1401 送信フィルタ
1402 受信フィルタ
1501 圧電基板
1502 櫛型電極
1503 反射器電極
1504 SiO2薄膜
1701 アポタイズ重み付けされた櫛型電極
1801 通過特性のスプリアス
1802 アドミッタンスのスプリアス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウムからなる基板と、前記基板の上面に設けられた櫛型電極と、前記櫛型電極を覆う誘電体薄膜とを備えた複数の弾性表面波共振器により構成される弾性表面波フィルタであって、
共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記基板の回転Y板のカット角を−10〜+30度としたことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体薄膜がSiO2薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
前記誘電体薄膜が凹凸形状を有することを特徴とする請求項3に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項5】
前記複数の弾性表面波共振器が同一基板上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項6】
直列腕の弾性表面波共振器と並列腕の弾性表面波共振器とを備えた弾性表面波フィルタであって、
直列腕の弾性表面波共振器の共振周波数が、並列腕の弾性表面波共振器の共振周波数よりも高く設定されており、
並列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、直列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項7】
直列腕の弾性表面波共振器と並列腕の弾性表面波共振器とを備えた弾性表面波フィルタであって、
並列腕の弾性表面波共振器の共振周波数が、直列腕の弾性表面波共振器の共振周波数よりも高く設定されており、
直列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、並列腕の弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項8】
少なくとも2つの直列腕の弾性表面波共振器を備えた弾性表面波フィルタであって、
前記直列腕の弾性表面波共振器のうち共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項9】
少なくとも2つの並列腕の弾性表面波共振器を備えた弾性表面波フィルタであって、
前記並列腕の弾性表面波共振器のうち共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項10】
受信フィルタと送信フィルタとを含むアンテナ共用器であって、前記受信フィルタおよび前記送信フィルタは、ニオブ酸リチウムからなる基板と、前記基板の上面に設けられた櫛型電極と、前記櫛型電極を覆う誘電体薄膜とを備えた複数の弾性表面波共振器よりなる弾性表面波フィルタで構成され、
共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とするアンテナ共用器。
【請求項11】
前記基板の回転Y板のカット角を−10〜+30度としたことを特徴とする請求項10に記載のアンテナ共用器。
【請求項12】
前記誘電体薄膜がSiO2薄膜であることを特徴とする請求項11に記載のアンテナ共用器。
【請求項13】
前記誘電体薄膜が凹凸形状を有することを特徴とする請求項10に記載のアンテナ共用器。
【請求項14】
前記複数の弾性表面波共振器が同一基板上に形成されていることを特徴とする請求項10に記載のアンテナ共用器。
【請求項15】
受信フィルタの通過帯域が送信フィルタの通過帯域よりも高く設定されており、送信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、受信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とする請求項10に記載のアンテナ共用器。
【請求項16】
送信フィルタの通過帯域が送信フィルタの通過帯域よりも高く設定されており、受信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、送信フィルタを構成する少なくとも一つの弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きいことを特徴とする請求項10に記載のアンテナ共用器。
【請求項17】
ニオブ酸リチウムからなる基板上に、櫛型電極を形成する工程と、前記櫛型電極を覆うように誘電体薄膜を形成する工程とを備えた弾性表面波フィルタの製造方法であって、
前記弾性表面波フィルタを構成する弾性表面波共振器において、共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きくなるように櫛型電極を形成することを特徴とする弾性表面波フィルタの製造方法。
【請求項18】
受信フィルタと送信フィルタとが複数の弾性表面波共振器より構成され、この弾性表面波共振器を構成するニオブ酸リチウムからなる基板上に、櫛型電極を形成する工程と、前記櫛型電極を覆うように誘電体薄膜を形成する工程とを備えたアンテナ共用器の製造方法であって、
前記アンテナ共用器を構成する弾性表面波共振器において、共振周波数の低い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオが、周波数の高い弾性表面波共振器のメタライゼーションレシオよりも大きくなるように櫛型電極を形成することを特徴とするアンテナ共用器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−131128(P2008−131128A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311174(P2006−311174)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】