説明

弾性表面波共振器およびこれを用いた弾性表面波フィルタ、アンテナ共用器

【課題】本発明は、スプリアスを抑え、かつ、Q値が高く、さらに減衰量も大きい弾性表面波共振器およびこれを用いた弾性表面波フィルタ、アンテナ共用器を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明の弾性表面波共振器は、ニオブ酸リチウムからなる基板1と、この基板1の上面に設けられアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された少なくとも1つの櫛型電極2と、この櫛型電極2を覆うとともに表面に凹凸形状を有する保護膜4とを備え、前記基板1の回転Y板のカット角を0〜+25度とし、かつ、前記櫛型電極2の膜厚をh、波長をλとしたときに、規格化電極膜厚(h/λ)を7.8〜9.8%としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振子や帯域フィルタとして用いられる弾性表面波共振器およびこれを用いた弾性表面波フィルタ、アンテナ共用器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の弾性表面波共振器としては、LiNbO3基板上にSiO2の薄膜層を形成するとともに、前記LiNbO3基板の回転Y板のカット角度を−10度〜+30度とし、前記薄膜層の膜厚寸法をH、前記弾性表面波の動作中心周波数の波長をλとしたときに、規格化電極膜厚(H/λ)の値を0.115から0.31としていた。
【0003】
これにより、Q値が高く、電気機械結合係数k2が大きく、かつ周波数温度特性の優れた弾性表面波共振器を得ていた。
【0004】
また、LiNbO3基板においては、カット角が64°や41°の場合には、ロスやスプリアスの観点から、規格化電極膜厚は、約4%、もしくは2.5%以上7.5%以下が適しているとされている。
【0005】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1〜3が知られている。
【特許文献1】特開2003−209458号公報
【特許文献2】特開平5−267990号公報
【特許文献3】特開平9−121136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の弾性表面波共振器においては、櫛型電極の膜厚が考慮されていないため、スプリアスを抑えて、かつ、Q値が高い櫛型電極の膜厚を備えた弾性表面波共振器を得ることができないという課題を有していた。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、スプリアスを抑えて、かつ、Q値が高い櫛型電極の膜厚を備えた弾性表面波共振器を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を有するものである。
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明は、ニオブ酸リチウムからなる基板と、この基板の上面に設けられアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された少なくとも1つの櫛型電極と、この櫛型電極を覆うとともに表面に凹凸形状を有する保護膜とを備え、前記基板の回転Y板のカット角を0〜+25度とし、かつ、前記櫛型電極の膜厚をh、波長をλとしたときに、規格化電極膜厚(h/λ)を7.8〜9.8%としたもので、この構成によれば、Q値が高く、さらに減衰量も大きい弾性表面波共振器が得られるという作用効果が得られる。
【0010】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、規格化電極膜厚を8.5〜9.0%としたもので、この構成によれば、Q値がより高く、さらに減衰量もより大きい弾性表面波共振器が得られるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、保護膜の凹凸形状の1ピッチあたりのピッチ幅をL、前記保護膜の凹凸形状の1ピッチあたりの凸部の幅をL1、凹部の幅をL2、櫛型電極の1ピッチあたりのピッチ幅をp、前記櫛型電極を構成する電極指1本あたりの幅をp1、前記電極指間の幅をp2としたとき、L1≦p1かつL2≧p2(ただし、p1+p2=p、L1+L2=Lの関係を満たす)であるもので、この構成によれば、スプリアスの抑制、挿入損失の低減をすることができるという作用効果が得られる。
【0012】
本発明の請求項4に記載の発明は、特に、請求項1記載の弾性表面波共振器を直並列に梯子型に接続した弾性表面波フィルタであって、少なくとも1つの前記弾性表面波共振器の規格化電極膜厚を7.8〜9.8%とした弾性表面波フィルタであるもので、この構成によれば、Q値が高く、さらに減衰量も大きい弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0013】
本発明の請求項5に記載の発明は、特に、請求項1記載の弾性表面波共振器を複数、弾性表面波の伝播方向に沿って位置させ、かつ前記複数の弾性表面波共振器を構成する櫛型電極同士を近接させ、少なくとも1つの前記弾性表面波共振器の規格化電極膜厚の値を7.8〜9.8%とした弾性表面波フィルタであるもので、この構成によれば、Q値が高く、さらに減衰量も大きい弾性表面波フィルタが得られるという作用効果が得られる。
【0014】
本発明の請求項6に記載の発明は、特に、請求項4または5記載の弾性表面波フィルタを、信号の入力側および出力側に配置したアンテナ共用器であるもので、この構成によれば、Q値が高く、減衰量も大きいアンテナ共用器が得られるという作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明の弾性表面波共振器は、基板の回転Y板のカット角を0〜+25度とし、かつ、櫛型電極の膜厚をh、波長をλとしたときに、規格化電極膜厚(h/λ)を7.8〜9.8%としているため、Q値が高く、さらに減衰量も大きい弾性表面波共振器が得られる。そして、保護膜の表面を凹凸形状としているため、スプリアスを抑えた弾性表面波共振器を実現することができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の一実施の形態における弾性表面波共振器の主要部の上面図、図2は図1のA−A線断面図であり、ニオブ酸リチウムからなる基板1と、この基板1の上面に設けられ、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された櫛型電極2および反射器電極3と、この櫛型電極2および反射器電極3を覆うとともに表面に凹凸形状を有する保護膜4とを備えている。
【0017】
また、前記基板1の回転Y板のカット角を0〜+25度とし、かつ、前記櫛型電極2の膜厚をh、波長をλとしたときに、規格化電極厚h/λの値を7.8〜9.8%としている。
【0018】
上記構成において、前記基板1は、X軸周りにZ軸方向へ数度回転させたY板から切り出したニオブ酸リチウムからなるもので、その回転の角度が0〜+25度となっている。
【0019】
前記櫛型電極2および反射器電極3は、基板1の上面にそれぞれ一対形成され、アルミニウム(以下、「Al」とする。)またはAl合金からなるものである。
【0020】
前記保護膜4は、好ましくは二酸化シリコン(以下、「SiO2」とする。)からなるもので、図3に示すように、その上面は凹凸形状を備えている。保護膜4の凸部分4aは、基板1の上面の櫛型電極2、反射器電極3を有する部分の上方に備わっている。また、保護膜4の凹部分4bは、凸部分4a間の櫛型電極2、反射器電極3が基板1の上面に存在しない部分およびその近傍に備わっている。
【0021】
ここで、図3において、保護膜4の凸部分4a、凹部分4b各々1つを1ピッチとし、この1ピッチあたりのピッチ幅をLとし、保護膜4の凸部分4aの幅をL1とし、保護膜4の凹部分4bの幅をL2(L=L1+L2が成り立つこと)とする。また、1つの櫛型電極2の電極指2aおよび一方が隣り合う電極指2aの存在する部分までを櫛型電極2の1ピッチ幅pとする。さらに、電極指2aの1本あたりの幅をp1とし、隣り合う電極指間の幅をp2(p=p1+p2が成り立つこと)とする。
【0022】
また、保護膜4と接している基板1の表面から保護膜4の凹部分4bまでの高さである保護膜4の膜厚をtとし、櫛型電極2の膜厚をhとする。なお、図3においては、櫛型電極2の電極子2aを2本のみ示している。
【0023】
上記の場合において、L1≦p1かつL2≧p2の関係を満たし、弾性表面波の動作中心周波数の波長をλ(=2×p)としたとき、規格化電極膜厚h/λは、7.8〜9.8%の範囲内にある。
【0024】
次に、本発明の一実施の形態における弾性表面波共振器の製造方法について説明する。
【0025】
図4は本発明の一実施の形態における弾性表面波共振器の製造方法を説明する断面図である。
【0026】
まず、図4(a)に示すように、基板1の上面にAlまたはAl合金を蒸着またはスパッタ等の方法により櫛型電極2および反射器電極3となる電極膜3aを成膜する。
【0027】
次に、図4(b)に示すように、電極膜3aの上面にレジスト膜5を形成する。
【0028】
次に、図4(c)に示すように、電極膜3aを櫛型電極2や反射器電極3等が所望の形状となるように露光・現像技術等を用いてレジスト膜5を加工する。
【0029】
次に、図4(d)に示すように、ドライエッチング技術等を用いてレジスト膜5を除去する。
【0030】
次に、図4(e)に示すように、電極膜3aを覆うようにSiO2を蒸着またはスパッタ等の方法により、保護膜4を形成する。
【0031】
次に、図4(f)に示すように、保護膜4の表面にレジスト膜6を形成する。
【0032】
次に、図4(g)に示すように、露光、現像技術等を用いてレジスト膜6を所望の形状に加工する。
【0033】
最後に、図4(h)に示すように、ドライエッチング技術等を用いて、電気信号取出しのためのパッド(図示せず)等の保護膜4が不要な部分の保護膜4を取り除き、その後レジスト膜6を除去する。
【0034】
図5は、本発明の一実施の形態の弾性表面波共振器における規格化電極膜厚h/λと共振点のQ値(規格化Qs)との関係を示す図、図6は、同弾性表面波共振器における規格化電極膜厚h/λと反共振点のQ値(規格化Qp)との関係を示す図、図7は、同弾性表面波共振器における通過特性を示す図、図8は、同弾性表面波共振器における規格化電極膜厚と減衰量との関係を示す図である。ここで、規格化Qs、規格化Qpは、従来使用されていた規格化電極膜厚が5.8%のときのQs、Qpで規格化した値である。
【0035】
このとき、L1≦p1かつL2≧p2の関係を満たし、保護膜4としては、酸化ケイ素を用いており、その膜厚をtと波長λとの関係式である保護膜4の規格化膜厚t/λを20%としたものを使用した。
【0036】
図5〜図6から明らかなように、規格化電極膜厚h/λを7.8〜9.8%とすると、規格化Qs、規格化Qpは1.2倍以上になっており、Q値が高い弾性表面波共振器が得られることがわかる。特に、規格化電極膜厚h/λが8.5〜9.0%のとき、Q値が最も良くなる。
【0037】
さらに、図7に、本発明における弾性表面波共振器の通過特性を示す。図7(a)は、規格化電極膜厚が8.7%のときの通過特性であり、図7(b)は規格化電極膜厚が5.8%のときの通過特性である。図7から明らかなように、規格化電極膜厚h/λを7.8〜9.8%の範囲とすることにより、減衰量は規格化電極膜厚が5.8%のときに比べて約6dB大きくなる(周波数がずれているのは、規格化電極膜厚が異なるためであり、対数や交差幅等の弾性表面波共振器の構成としては同一である。)。また、図8に減衰量の規格化膜厚依存性を示す。図8より、規格化電極膜厚h/λを7.8〜9.8%の範囲とすることにより、減衰量は規格化電極膜厚が5.8%のときに比べて約5dB以上大きくなる。特に、規格化電極膜厚h/λが8.5〜9.0%のとき、減衰量が最も良くなる。
【0038】
また、図9に本発明の弾性表面波共振器をラダー型に接続したフィルタ特性を示す。ラダー型フィルタとしては、直列共振器を1段、並列共振器を1段とした構成である。図9(a)はフィルタ特性、図9(b)は縦軸の拡大図である。また、図9において、901は並列共振器の規格化電極膜厚が7.8%、直列共振器の規格化電極膜厚が8.3%のときのフィルタ特性であり、902は並列共振器の規格化電極膜厚が5.8%、直列共振器の規格化電極膜厚が6.2%のときのフィルタ特性である。図9から明らかなように、規格化電極膜厚h/λを7.8〜9.8%の範囲とすることにより、挿入損失が0.1dB改善されている(周波数がずれているのは、規格化電極膜厚が異なるためであり、対数や交差幅等の弾性表面波共振器の構成や配置としては同一である。)。
【0039】
なお、本実施の形態においては、保護膜として酸化ケイ素を用いているが、これに限るものではなく、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素など他の材料を組み合わせてもかまわない。
【0040】
また、アンテナ共用器を構成する場合には、送信側フィルタと受信側フィルタとで電極指のピッチが異なるため、規格化電極膜厚が異なる。この場合には、送信側フィルタと受信側フィルタとで電極膜厚を変えることにより、さらに最適な構成とすることができる。
【0041】
さらに、フィルタを構成する場合には、直列共振器と並列共振器で電極指のピッチが異なるため、規格化電極膜厚が異なる。この場合には、直列共振器と並列共振器とで電極膜厚を変えることにより、さらに最適な構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る弾性表面波共振器は、スプリアスを抑え、かつ、Q値が高く、さらに減衰量も大きいという効果を有するものであり、共振子や帯域フィルタとして用いられる弾性表面波共振器およびこれを用いた弾性表面波フィルタ、アンテナ共用器等において有用となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態における弾性表面波共振器の主要部の上面図
【図2】同弾性表面波共振器における図1のA−A線断面図
【図3】同弾性表面波共振器における断面図
【図4】同弾性表面波共振器の製造方法を説明する断面図
【図5】同弾性表面波共振器における規格化電極膜厚と共振点のQ値との関係を示す図
【図6】同弾性表面波共振器における規格化電極膜厚と反共振点のQ値との関係を示す図
【図7】同弾性表面波共振器における通過特性を示す図
【図8】同弾性表面波共振器における規格化電極膜厚と減衰量との関係を示す図
【図9】同弾性表面波共振器を用いたラダー型フィルタのフィルタ特性を示す図
【符号の説明】
【0044】
1 基板
2 櫛型電極
2a 電極指
4 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウムからなる基板と、この基板の上面に設けられアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された少なくとも1つの櫛型電極と、この櫛型電極を覆うとともに表面に凹凸形状を有する保護膜とを備え、前記基板の回転Y板のカット角を0〜+25度とし、かつ、前記櫛型電極の膜厚をh、波長をλとしたときに、規格化電極膜厚(h/λ)を7.8〜9.8%とした弾性表面波共振器。
【請求項2】
規格化電極膜厚を8.5〜9.0%とした請求項1記載の弾性表面波共振器。
【請求項3】
保護膜の凹凸形状の1ピッチあたりのピッチ幅をL、前記保護膜の凹凸形状の1ピッチあたりの凸部の幅をL1、凹部の幅をL2、櫛型電極の1ピッチあたりのピッチ幅をp、前記櫛型電極を構成する電極指1本あたりの幅をp1、前記電極指間の幅をp2としたとき、
L1≦p1かつL2≧p2
(ただし、p1+p2=p、L1+L2=Lの関係を満たす)である請求項1に記載の弾性表面波共振器。
【請求項4】
請求項1記載の弾性表面波共振器を直並列に梯子型に接続した弾性表面波フィルタであって、少なくとも1つの前記弾性表面波共振器の規格化電極膜厚を7.8〜9.8%とした弾性表面波フィルタ。
【請求項5】
請求項1記載の弾性表面波共振器を複数、弾性表面波の伝播方向に沿って位置させ、かつ前記複数の弾性表面波共振器を構成する櫛型電極同士を近接させ、少なくとも1つの前記弾性表面波共振器の規格化電極膜厚を7.8〜9.8%とした弾性表面波フィルタ。
【請求項6】
請求項4または5記載の弾性表面波フィルタを、信号の入力側および出力側に配置したアンテナ共用器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−78981(P2008−78981A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255588(P2006−255588)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】