弾性表面波装置およびその製造方法ならびに通信装置
【課題】 送信側フィルタおよび受信側フィルタを同一の圧電基板上に作製した弾性表面波素子ではアイソレーション特性が悪かった。
【解決手段】 圧電基板2の一方主面にそれぞれ励振電極3と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13が形成され、他方主面に導体層16が形成された弾性表面波素子1を、実装用基体上に一方主面を対面させて実装しており、導体層16は、多数の導体非形成部を点在させて形成されている弾性表面波装置である。従来、圧電基板2の励振電極3の形成面とは異なる他方主面全面に、弾性表面波素子作製工程で発生する焦電破壊を防止するために設けていた導体層16を、多数の導体非形成部を点在させて形成することにより、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8間に形成されていた寄生容量を低減することができ、これにより、アイソレーション特性を改善することができる。
【解決手段】 圧電基板2の一方主面にそれぞれ励振電極3と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13が形成され、他方主面に導体層16が形成された弾性表面波素子1を、実装用基体上に一方主面を対面させて実装しており、導体層16は、多数の導体非形成部を点在させて形成されている弾性表面波装置である。従来、圧電基板2の励振電極3の形成面とは異なる他方主面全面に、弾性表面波素子作製工程で発生する焦電破壊を防止するために設けていた導体層16を、多数の導体非形成部を点在させて形成することにより、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8間に形成されていた寄生容量を低減することができ、これにより、アイソレーション特性を改善することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置およびその製造方法ならびに通信装置に関する。より詳しくは、同一の圧電基板上に送信側フィルタおよび受信側フィルタの両方を配置した、分波器として使用する弾性表面波装置であり、特に送信側フィルタと受信側フィルタとの間のアイソレーション特性を改善した弾性表面波装置およびその製造方法ならびにその弾性表面波装置を用いた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機端末の多機能化に伴い、実装部品はより小型・軽量化することが求められている。その中で送信側周波数帯(例えば低周波側周波数帯)の信号と受信側周波数帯(例えば高周波側周波数帯)の信号とを分離する分波器には、従来、誘電体を用いたものが使用されてきた。しかし、誘電体分波器は現状の通信規格の周波数帯では原理的に小型化できず、また、通過帯域近傍の減衰特性を急峻にできないため、送信側周波数帯と受信側周波数帯とが接近している通信規格では満足のいく特性が得られなかった。
【0003】
そこで近年、弾性表面波素子を用いたフィルタを分波器に利用する試みがなされている。従来から弾性表面波フィルタは段間のフィルタとして使用されていたが、分波器として使用するには耐電力性が低かった。しかし、近年この耐電力性の問題は励振電極の電極構造や電極材料を工夫することで解決することができるようになってきたため、誘電体分波器より小型で通過帯域近傍の減衰特性の良い弾性表面波分波器(以下ではSAW−DPXと記す。)が現れ始めている。
【特許文献1】特開1995−122961公報
【特許文献2】国際公開第99/54995号パンフレット
【非特許文献1】松田聡、斉藤康之、川内治、宮本晶規,「弾性波観測によるSAW共振子特性の改善」,第33回EMシンポジウム予稿集,2004年5月20日,p.77−82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
段間で使用される従来のSAWフィルタでは、異なる周波数帯のフィルタを同一の圧電基板に形成することにより、フィルタ全体が実装ボード上に占める割合を小さくしてきた(以下ではこのようなSAWフィルタをDual−SAWフィルタと記す。)。同様にSAW−DPXにおいても、送信側周波数帯のフィルタ(以下ではTxフィルタと記す。)と受信側周波数帯のフィルタ(以下ではRxフィルタと記す。)とを同一の圧電基板上に形成することにより小型化を図ることができる。
【0005】
しかし、実際に同一の圧電基板上にTxフィルタとRxフィルタとを形成すると、両フィルタ間でのアイソレーション特性が通信機端末における要求仕様を満足できないことが問題となっていた。このアイソレーション特性とは、一方のフィルタから他方のフィルタに漏れる信号の特性のことであり、このような信号の漏れはできるだけ小さく抑える必要がある。特に分波器においては、送信側で増幅された電力の大きい送信信号がTxフィルタからRxフィルタに漏れて受信側に漏れると、もともと電力の小さい受信信号を受信することができなくなってしまう。このため、分波器に要求されるアイソレーション特性の仕様では信号の漏れを極めて小さく抑えることが要求されており、段間で使用されるDual−SAWフィルタに要求される仕様に比べて非常に厳しくなっている。
【0006】
このフィルタ間でのアイソレーション特性の劣化の原因の一つは、弾性表面波の漏れであると考えられる。特にSAW−DPXでは、Txフィルタを形成する励振電極で励振された弾性表面波をその励振電極中に充分に閉じ込めることができず、Txフィルタの励振電極から漏れた弾性表面波が圧電基板の表面を伝搬し、これがRxフィルタを形成する励振電極によって受信されてしまうことにより、TxフィルタからRxフィルタへと信号が漏れてしまい、アイソレーション特性が劣化すると考えられる。その概念を図6にSAW−DPXの弾性表面波素子の一例を示す上面図に示す。
【0007】
図6において、1は弾性表面波素子であり、圧電基板2の一方主面にTxフィルタ領域12およびRxフィルタ領域13が設けられ、各領域にはそれぞれ複数の励振電極3および励振電極3間を接続する接続電極4からなる弾性表面波フィルタが形成されている。5はTxフィルタの入力パッド部、6はアンテナへ接続されるTxフィルタの出力パッド部、7はアンテナへ接続されるRxフィルタの入力パッド部、8はRxフィルタの出力パッド部である。また、9は接地電極であり、10はTxフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを個別に取り囲むように形成された環状導体である。
【0008】
この弾性表面波素子1においては、Txフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを個別に環状導体10で取り囲むことによって電気的に分離しているが、Txフィルタ領域12の励振電極3とRxフィルタ領域13の励振電極3とが、それぞれの弾性表面波の伝搬経路の方向とが重なるように配置されているため、Txフィルタ領域12の励振電極3からRxフィルタ領域13の励振電極3に図6中に矢印で示すように弾性表面波の漏れ14が生じてしまい、これによってアイソレーション特性が劣化してしまうという問題点があった。
【0009】
このような問題点に対して、同一の圧電基板2に形成していたTxフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを別個の圧電基板に形成して分断することにより、弾性表面波の漏れ14の伝搬を遮断してアイソレーション特性を改善する試みがなされている(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、このような試みでは確かにアイソレーション特性は改善するが、もともと一体に形成していたTxフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを別個の圧電基板に分断して形成するので、TxフィルタとRxフィルタとを実装用基体に実装した場合に分波器として機能する領域の占める面積は、Txフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを同一の圧電基板2に一体に形成した場合に比べて大きくなってしまうため、小型化の要求に応えることができないという問題点がある。
【0010】
そこで、従来は図6に示すように配置していたTxフィルタ領域12およびRxフィルタ領域13の励振電極3を、弾性表面波の伝搬経路が重ならないように、例えば図8に示す弾性表面波素子の上面図におけるように配置すると、Txフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを別個の圧電基板に分断することなく同一の圧電基板2上に形成して小型化を図りつつ、アイソレーション特性が改善された小型のSAW−DPXとすることができるはずである。図8において図6と同様の箇所には同じ符号を付してあり、図8に示す弾性表面波素子では、Txフィルタ領域12およびRxフィルタ領域13のそれぞれの励振電極3を弾性表面波の伝搬経路が平行となるように配置しており、Txフィルタ領域12の励振電極3から弾性表面波が漏れても、それをRxフィルタ領域13の励振電極3で受けることがないので、アイソレーション特性は劣化しないというものである。
【0011】
しかし、本発明者らが詳細な実験を行なったところ、図8に示すような励振電極の配置としてもアイソレーション特性は改善されなかった。これはアイソレーション特性の劣化の原因が弾性表面波の漏れだけではないことを意味している。
【0012】
そこで、本発明者らが詳細に検討を重ねた結果、アイソレーション特性の劣化に関して従来は知られていなかった原因を見出し、その解決手段として本発明を案出するに至った。
【0013】
本発明は、以上のように従来のDual−SAWフィルタでは問題では無かったが同一の圧電基板にTxフィルタとRxフィルタとを一体に形成したSAW−DPXでは問題となっていたアイソレーション特性を改善するべく案出されたものであり、その目的は、TxフィルタとRxフィルタとを別個の圧電基板に分断することなしに、小型で優れたアイソレーション特性を有する弾性表面波装置およびその製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、TxフィルタとRxフィルタとを一体に集積したデュプレクサ以外の分波器にも適用することができる、小型で優れたアイソレーション特性を有する弾性表面波装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、詳細な実験とシミュレーションとによって、アイソレーション特性の劣化が圧電基板の一方主面に形成されたTxフィルタの入力電極とRxフィルタの出力電極とが、通常は圧電基板の他方主面(以下では裏面とも記す。)の全面にわたって形成されている裏面導体層を介して容量的に結合していることが原因であることを突き止めた。このシミュレーション結果およびシミュレーションに使用した回路の概念図を図9に示す。
【0016】
図9において、(a)は寄生容量が無い場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図であり、(b)は寄生容量がある場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図である。図9(b)で示した寄生容量はTxフィルタの入力パッド部とRxフィルタの出力パッド部との間に存在する寄生容量であり、50fF程度の非常に微小な寄生容量である。図9に示す結果から、このような非常に微小な寄生容量が存在するだけで、アイソレーション特性が劣化していることが分かる。すなわち、図9(a)および(b)の比較から分かるように、869MHzから894MHzでの信号強度が、このような寄生容量がある場合には(b)に示すように−30〜−40dBであったものが、寄生容量がない場合には(a)に示すように−50dB以下となっており、寄生容量がないことによってアイソレーション特性が大きく改善していることが分かる。
【0017】
このような50fF程度の寄生容量は、例えば圧電基板に厚み250μmのタンタル酸リチウム単結晶基板を用いた場合であれば、比誘電率を42.7として計算すると、圧電基板の表面と裏面とに一辺が約180μmの方形の電極が対向してある場合に形成される容量に相当する。通常、弾性表面波フィルタの入出力パッド部の面積はこの程度のものとなるため、シミュレーションで寄生容量として挿入した値は妥当に現実を反映した値であると言える。なお、アイソレーション特性に最も影響を与えるのは、ここで説明したTxフィルタの入力パッド部とRxフィルタの出力パッド部との間の寄生容量であるが、各フィルタの励振電極を接続する接続電極と各フィルタの入出力パッド部との間および一方のフィルタの励振電極を接続する接続電極と他方のフィルタの励振電極を接続する接続電極との間に発生する寄生容量も、同様にアイソレーション特性を劣化させる。
【0018】
弾性表面波素子は圧電基板上に作製される櫛歯状の励振電極を用いた素子である。通常、圧電体は急激な温度変化により焦電性を示すため、圧電基板を用いて素子を作製する際に急激な温度変化のある工程を通すと、圧電基板の焦電性のためスパークが発生して素子を破壊(焦電破壊)してしまうこととなる。そこで、なるべく圧電基板に電荷が蓄積しないようにするために、圧電基板の裏面の全面にわたって導体層を成膜することが一般的となっている。しかし、本発明者らは、この裏面導体層は素子作製工程中は焦電破壊防止に有効であるが、弾性表面波素子のアイソレーション特性には有害であるということを見出した。
【0019】
ところで、この裏面導体層を実装用基体の接地電極と導通させることにより各フィルタの入出力パッド部間の容量的な結合はある程度小さくすることができるが、この対策ではアイソレーション特性の改善は充分ではない。また、圧電基板の裏面(裏面導体層の形成面)と実装用基体の主面とを対向させて弾性表面波素子を実装する場合には実装用基体の主面に接地電極を設ければよいが、この場合は改めて圧電基板の表面側に振動空間を確保して励振電極を外部から守るために、リッドやカバーを取着することによって圧電基板の表面を保護する必要がある。しかし、この場合にはリッドやカバーを取着する面積が別途必要なため、弾性表面波装置の小型化には不利である。また、圧電基板の表面(励振電極の形成面)と実装用基体の主面とを対向させてその間に振動空間を確保して実装(フリップチップ実装)する場合は、小型化には有利であるが、圧電基板の裏面の裏面導体層が接地電位のとれる実装用基体の主面と空間的に離れてしまうので、裏面導体層から実装用基体の主面上の接地電極まで接地を取るには余分な工程を必要とするため製造コストが高くなってしまうという問題点がある。
【0020】
そこで本発明では以下のような弾性表面波装置とし、また以下のような製造方法により弾性表面波装置を作製するものである。
【0021】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板の一方主面にそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板の前記他方主面の前記導体非形成部の表面粗さが、前記導体層が形成されている領域の表面粗さよりも大きいことを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板の前記一方主面に前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、この環状導体が前記実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されていることを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記励振電極が抵抗体を介して前記環状導体に電気的に接続されており、この環状導体が接地電位とされていることを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板は、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成ることを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記一方主面側が圧電材料から成り、前記他方主面側が前記圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成ることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を分波器として用いたことを特徴とするものである。
【0031】
本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法は、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、次に、前記圧電基板を前記弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程と、次に、前記弾性表面波素子を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程とを具備するとともに、前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とするものである。
【0032】
本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法は、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、次に、前記圧電基板の前記弾性表面波素子領域を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と、次に、前記圧電基板および前記実装用基体を前記弾性表面波素子領域毎に分離する工程とを具備するとともに、前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とするものである。
【0033】
また、本発明の弾性表面波装置の第1および第2の製造方法は、上記構成において、前記導体層を部分的に除去する際に、除去する部分の前記他方主面の表面粗さを除去しない部分の表面粗さよりも大きくすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の他方主面に形成された導体層が、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることから、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量を、従来のように他方主面の全面にわたって導体層が形成されている場合よりも、他方主面の導体層の形成部分の面積が小さくなった分だけ小さくすることができるため、その寄生容量に起因するアイソレーション特性の劣化を他方主面の導体層の面積が小さくなった分に応じて抑えることができ、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0035】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、導体非形成部が、導体層の送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量をさらに小さくできるため、さらにアイソレーション特性を改善することができる。
【0036】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、導体非形成部が、導体層の送信側フィルタ領域の入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域の出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量をさらに小さくできるため、さらにアイソレーション特性を改善することができる。
【0037】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、導体非形成部が、導体層の送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量をさらに一層小さくできるため、さらに一層アイソレーション特性を改善することができる。
【0038】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の他方主面の導体非形成部の表面粗さが、導体層が形成されている領域の表面粗さよりも大きいときには、アイソレーション特性のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分をも低減することができる。アイソレーション特性の劣化の主要因はこれまでに述べてきたように寄生容量によるものであるが、アイソレーション特性は、共振器の励振電極で弾性表面波に変換されずバルク波となってしまった音響波が、一方のフィルタ領域から圧電基板の内部を伝搬し、圧電基板の他方主面で反射され、他方のフィルタ領域に形成されている共振器の励振電極に結合することによっても劣化する。このバルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化は寄生容量による劣化に比べると小さいが、アイソレーション特性に求められる厳しい要求を完全に満たすためにはこのバルク波による劣化をも抑制することが好ましい。これに対し、導体非形成部において部分的に表面粗さを大きくした圧電基板の他方主面でバルク波が散乱されるため、一方のフィルタ領域の励振電極から発生したバルク波が他方のフィルタ領域に形成されている励振電極に十分に結合しないようにすることができるので、アイソレーション特性をさらに改善することができる。
【0039】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の一方主面に送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、この環状導体が実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されているときには、これら環状導体および基体側環状導体を接合することによって弾性表面波素子を実装用基体上に強固に、かつ励振電極および入力パッド部および出力パッド部を気密に封止した状態で実装することができるため、後述するように実装用基体上に弾性表面波素子を実装して後に圧電基板の他方主面の導体層を加工する際に、圧電基板の一方主面に形成されている励振電極にダメージを与えずに加工することができる。なお、この環状導体の形状は、送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を個別に囲む形状であっても、共に囲む形状であっても構わない。
【0040】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、励振電極が抵抗体を介して環状導体に電気的に接続されており、この環状導体が接地電位とされているときには、励振電極は直流的には接地電位に接続されているが、弾性表面波装置が使用される周波数帯ではほぼ接地電位からは絶縁されている状態とすることができるため、フィルタの通過帯域特性に影響を与えずに励振電極に電荷が蓄積することを防止できる。従って、圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも、弾性表面波装置の焦電破壊を確実に防止することができる。
【0041】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板が、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成るときには、この圧電基板は、励振電極を環状導体に電気的に接続する抵抗体と同様に、直流的には導体に見えるが弾性表面波装置が使用される周波数帯ではほぼ絶縁体に見えるという性質を持つ。従って、これを弾性表面波装置の基板として使用することによって、フィルタの通過帯域特性に影響を与えずに励振電極に電荷が蓄積することを防止できる。従って、圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも、弾性表面波装置の焦電破壊を防止することができ、しかも、焦電破壊を防止するために弾性表面波装置の製造工程において工程数を増加させることがない。
【0042】
また、以上の本発明の弾性表面波装置においては、圧電基板の他方主面の導体層が、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることにより、さらにこれに加えて上記のような各構成とすることにより送信側フィルタ領域の入力パッド部と受信側フィルタ領域の出力パッド部との間に発生する寄生容量を低減してきたが(これは寄生容量を形成する電極の面積を小さくすることに相当する。)、これらに加えて、圧電基板が、一方主面側が圧電材料から成り、他方主面側がその圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成るときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部と受信側フィルタ領域の出力パッド部との間の実効誘電率を小さくすることができ、これによっても寄生容量を低減することができる(これは寄生容量を形成する電極間の誘電率を小さくすることに相当する。)ので、アイソレーション特性をさらに改善することができる。特に、この圧電材料として、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を使用すると、焦電破壊を良好に防止する効果と実効誘電率を小さくする効果との両方を得ることができる。
【0043】
そして、本発明の通信装置によれば、以上のような本発明の弾性表面波装置を分波器として用いたことにより、分波器に対して要求されている厳しいアイソレーション特性を満たすことができるものが得られ、また、弾性表面波装置が良好なアイソレーション特性を有する分波器でありながら小型であるので、他部品の実装面積をより大きく取ることができ、部品の選択の幅が広がるため、高機能な通信装置を実現することができる。
【0044】
以上のような本発明の弾性表面波装置を作製するには、以下のような本発明の弾性表面波装置の製造方法が好適である。
【0045】
本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法によれば、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、圧電基板の他方主面の導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する場合には、多数個の弾性表面波素子が一体に形成された圧電基板に対して他方主面の導体層に対する除去処理を一括して行なえるため、除去工程における効率が良いものとなる。また、弾性表面波素子を実装用基体に一方主面を対面させて実装する工程の後に圧電基板の他方主面の導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する場合には、実装工程で温度履歴がかかることによって起こる可能性のある弾性表面波素子の焦電破壊を確実に防止することができる。
【0046】
本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法によれば、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、圧電基板の他方主面の導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する場合には、多数個の弾性表面波素子が一体に形成された圧電基板に対して他方主面の導体層に対する除去処理を一括して行なえるため、除去工程における効率が良いものとなる。また、圧電基板の弾性表面波素子領域を実装用基体に一方主面を対面させて実装する工程の後に圧電基板の他方主面の導体層を部分的に除去する場合には、実装工程で温度履歴がかかることによって起こる可能性のある弾性表面波素子の焦電破壊を確実に防止することができる。さらに、多数個の弾性表面波素子領域が作製されている圧電基板を実装用基体に実装した状態で他方主面の導体層に対する除去処理を行なえるため、除去工程における効率も良いものとなる。もちろん、他方主面の導体層に対する除去処理は、圧電基板および実装用基体を弾性表面波素子領域毎に分離する工程の後に行なっても構わない。また、この分離する工程では、圧電基板と実装用基体のどちらか片方を先に分離しても、圧電基板と実装用基体とを同時に分離しても構わない。
【0047】
ところで、バルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化は、元々表面を大きく荒らした圧電基板を使用すれば抑制することができるが、弾性表面波を伝搬させる励振電極を形成している一方主面は鏡面である必要があるため、他方主面のみが大きく荒れた圧電基板は温度変化により大きく反ってしまい、弾性表面波素子の作製工程中に破損しやすいという問題点がある。一方、近年の電子部品への小型化・低背化の要求から、弾性表面波素子の圧電基板の厚みが次第に薄くされているが、圧電基板の厚みが薄くなるとますます破損する確率は大きくなってしまう。
【0048】
これに対し、本発明の弾性表面波装置の製造方法によれば、圧電基板の他方主面に形成した導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する際に、除去する部分の他方主面の表面粗さを除去しない領域の他方主面の表面粗さよりも大きくするようにしたときには、薄型化が進められている圧電基板についても破損する危険性を大きくせずに、バルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化を効率良く抑えることができる。また、これを寄生容量によるアイソレーション特性の劣化に対する対策と同時に行なえるため、効率的である。
【0049】
以上のように、本発明によれば、同一の圧電基板上に送信側フィルタと受信側フィルタとを、アイソレーション特性を大幅に改善して、一体に形成することができる。従って、送信側フィルタと受信側フィルタとを別個の圧電基板に作製したものよりも小型のSAW−DPXを作製することができる。また、1枚の圧電基板から多数個の弾性表面波装置を得ることができるので、弾性表面波装置の低価格化を実現することができる。また、圧電基板の一方主面(励振電極の形成面)を実装用基体の主面に対向させた実装(フリップチップ実装)を行なっても、Txフィルタの入力電極とRxフィルタの出力電極とが他方主面の導体層を介して容量結合することがないので、小型のSAW−DPXでありながらアイソレーション特性を劣化させない弾性表面波装置を得ることができ、しかも、作製工程において圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも弾性表面波素子の焦電破壊を防止することができる。また、近年の部品に対する小型化・低背化の要求から、弾性表面波装置に対しても圧電基板の厚みを薄くすることが求められているが、圧電基板が薄くなるほど圧電基板の一方主面の電極と他方主面の導体層との間の容量は大きくなり、従って寄生容量を介した容量結合によって起こるアイソレーション特性の劣化はさらに深刻化することとなるが、これに対しても、他方主面の導体層を部分的に除去することにより、薄型でかつ良好なアイソレーション特性を有する弾性表面波装置を得ることができる。
【0050】
そして、本発明の弾性表面波装置は、良好なアイソレーション特性を有するものでありながら小型である、分波器として好適なものであるので、他部品の実装面積を大きく取れる等により、高機能を実現できる通信装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の弾性表面波装置およびその製造方法の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同じ符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、あるいは電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものであるので、これらに限定されるものではない。
【0052】
<実施の形態の例1>
本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図は、図6と同様である。また、この例1における弾性表面波素子の他方主面の上面図を図1に示す。
【0053】
図6に示すように、弾性表面波素子1の圧電基板2上には送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13が形成されている。送信側フィルタ(本例ではTxフィルタ)領域12には、共振器を構成する複数の励振電極3およびこれらを接続する接続電極4と、弾性表面波素子1と実装用基体(図示せず)とを接続するための励振電極3に電気的に接続された入力パッド部5および出力パッド部6が形成されている。同様に受信側フィルタ(本例ではRxフィルタ)領域13には、共振器を構成する複数の励振電極3およびこれらを接続する接続電極4と、弾性表面波素子1と実装用基体とを接続するための励振電極3に電気的に接続された入力パッド部7および出力パッド部8が形成されている。
【0054】
また、環状導体10は半田等を用いて実装用基体の上面にこれに対応させて形成された、接地電極としても機能する基体側環状導体と接続される。この例では、環状導体10は送信側フィルタ領域12と受信側フィルタ領域13とを個別に取り囲むようにして一体に形成されており、受信側フィルタ領域13のRxフィルタの接地電極として機能するとともに圧電基板2と実装用基体とを封止する役割を持つ。なお、この例では、送信側フィルタ領域12のTxフィルタの接地は、接地電極パッド11を実装用基体の接地電極と接続することでとっており、圧電基板2上では環状導体10に接続していない。
【0055】
また、図1に示すように、圧電基板2の他方主面には導体層16が、多数の導体非形成領域を点在させて、この例では導体層16が格子状となるように形成されている。導体層16を例えばこのような形状とすることにより、従来のように他方主面の全面にわたって導体層16を形成するよりも導体層の面積を減らすことができ、この導体層16と入力パッド部5,7および出力パッド部6,8との間に発生する寄生容量を低減すくことができる。また、導体層16のパターン自体は圧電基板2の他方主面の広い領域にわたって連続して形成されているため、電荷が他方主面の一部の領域に蓄積されることを防止することができるので、焦電破壊の発生を確実に防止することができる。
【0056】
なお、図1には導体層16の例として、導体非形成部を四角形状として縦横に並べた単純な格子状パターンを示したが、この他に、例えば図5に同様の上面図で示すような、導体非形成部を円形状として縦横に並べたパターンとしてもよく、この場合でも効果は同じである。また、図1に示すような格子状パターンが、例えば45度のような角度を持って傾斜して形成されていてもよい。
【0057】
また、本例では環状導体10をRxフィルタの接地電極として利用したが、RxフィルタにおいてもTxフィルタと同様に、環状導体10を接地電極として用いずに実装用基体の接地電極に直接接続しても構わない。また逆に、環状導体10をTxフィルタの接地電極として用い、Rxフィルタを実装用基体の接地電極に直接接続しても構わない。特に、Txフィルタの通過帯域がRxフィルタの通過帯域より低周波側に位置するときには、図6に示すように、Txフィルタの接地電極を環状導体10に接続しない構成が、Txフィルタの通過帯域のうち高域側のRxフィルタの通過帯域に相当する周波数で高い減衰量を得る上で望ましいものとなる。
【0058】
<実施の形態の例2>
図2に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例2における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図を示す。この例では、圧電基板2の一方主面側の構成は例1と同じであるが、他方主面の導体層16のパターンが異なっている。この例2では、導体層16のパターンは図2に示したように、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5に対向する領域とその周囲および受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8に対向する領域とその周囲を除いて、小さな四角形状の導体非形成部を縦横に並べて格子状のパターンとされている。また、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8に対向する領域では、四角形状の導体非形成部の面積を大きくして、その占める面積の割合を他の領域よりも大きくしている。このようにすることによって、送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8との、導体層16との間で発生する寄生容量を介しての容量的な結合が、導体非形成部の占有率を大きくしているために、より確実に防止することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善することができる。
【0059】
なお、この例2では、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8に対向する領域の両方で導体非形成部の占める面積の割合が他の領域よりも大きいものとしたが、導体非形成部の占める面積の割合を大きくするのはどちらか一方の領域でもよく、その場合にも送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合を防止することができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0060】
<実施の形態の例3>
図3に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例3における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図を示す。この例では、圧電基板2の一方主面側の構成は例2と同じであるが、他方主面の導体層16のパターンが異なっている。例2では、導体層16のパターンは図2に示したように、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5に対向する領域とその周囲および受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8に対向する領域とその周囲において導体非形成部の占める面積の割合が大きいパターンを用いたが、この例3では、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域および受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域において、四角形状の導体非形成部を大きくするとともに密に配置することによって、導体非形成部の占める割合が他の領域よりも大きい導体層16が形成されている。このようにすることにより、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合をより確実に抑えることができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0061】
なお、この例3では、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域の両方で導体非形成部の占める面積の割合が他の領域よりも大きいものとしたが、導体非形成部の占める面積の割合を大きくするのはどちらか一方の領域でもよく、その場合にも送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合を防止することができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0062】
また、この例3のように導体層16のうち圧電基板2の一方主面の入力パッド部5から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域の少なくとも一方と対向する領域において面積の割合を大きくして多数の導体非形成部を点在させているときには、他の導体非形成部とともに、とりわけその導体非形成部の表面粗さを、導体層16が形成されている領域の表面粗さよりも大きくすることにより、より広い面積で表面粗さを大きくしてバルク波の伝搬をより確実に抑制することができ、アイソレーション特性の劣化のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分も効果的に低減することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善するのに有利なものとなる。
【0063】
なお、このように導体層16に多数点在させている導体非形成部の表面粗さを導体層16が形成されている領域の表面粗さよりも大きくすることによる、バルク波の伝搬により劣化していた分のアイソレーション特性の改善の効果は、例1および例2においても同様である。
【0064】
<実施の形態の例4>
本例では、圧電基板2の一方主面側の構成は図6に示す例と同様とし、送信側フィルタ領域12と受信側フィルタ領域13との容量的な結合をさらに確実に抑えるために、導体層16に四角形状の導体非形成部を多数点在させるとともに、圧電基板2の他方主面の送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13の少なくとも一方と対向する領域において、導体層16に多数点在させた導体非形成部の占める面積の割合を他の領域よりも大きくした。その導体層16のパターンを図4に図1〜図3と同様の上面図で示す。
【0065】
図4に示す例4では、送信側フィルタ領域12と対向する領域における導体非形成部の占める面積の割合を、他の領域、この場合は受信側フィルタ領域13よりも大きくしている。これに対して、受信側フィルタ領域13と対向する領域における導体非形成部の占める面積の割合を送信側フィルタ領域12よりも大きくしてもよく、送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13と対向する領域の両方における導体非形成部の占める面積の割合を他の領域よりも大きくしてもよい。いずれの場合でも、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合を防止することができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0066】
また、この例4の場合にも、その導体非形成部の表面粗さを、導体層16が形成されている領域の表面粗さよりも大きくすることにより、より広い面積で表面粗さを大きくしてバルク波の伝搬をより確実に抑制することができ、アイソレーション特性の劣化のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分も効果的に低減することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善するのに有利なものとなる。
【0067】
<実施の形態の例5>
本例では、圧電基板2の一方主面側の構成は図7に示す例と同様とし、全ての励振電極3が環状導体10と直流的に導通するように、共振器を形成する励振電極3と環状導体10とを抵抗体15を介して接続した。また、環状電極10は実装用基体の接地電極に接続して接地電位としている。このように、励振電極3が抵抗体15を介して環状導体10に電気的に接続されており、この環状導体10が接地電位とされているものとすることにより、圧電基板2の一方主面から実装用基体の接地電極に電荷を逃がすことができるため、弾性表面波素子1の焦電破壊を効果的に防止することができる。
【0068】
なお、この抵抗体15は、送信側フィルタおよび受信側フィルタが使用される周波数帯においては十分に高抵抗で、ほとんど絶縁体に見える抵抗値となるように選択する。抵抗体15の材料としては、シリコンや酸化チタン等の高抵抗半導体を用いるのが好適である。これらの材料は、微量にホウ素等の元素を添加したり、組成比を調整したりすることにより、抵抗値を適正な値に制御することができる。
【0069】
<実施の形態の例6>
この例では、さらに簡単に焦電破壊を防止する構成として、圧電基板2に、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を用いた。これらの材料は前述の抵抗体15と同様に、直流的には導体に見えても送信側フィルタおよび受信側フィルタが使用される周波数帯においては十分に高抵抗で、ほとんど絶縁体に見えるという性質を有している。従って、これらの材料を圧電基板2に使用することによって、送信側フィルタおよび受信側フィルタの帯域通過特性に影響を与えずに励振電極3に電荷が蓄積することを防止できるので、圧電基板2の他方主面の全面に導体層16が無くとも、弾性表面波素子1の焦電破壊を良好に防止することができる。しかも、焦電破壊を防止するために弾性表面波装置の製造工程において工程数を増加させることがない点でも好都合となる。
【0070】
<実施の形態の例7>
本例では、圧電基板2の一方主面の各電極(励振電極3,接続電極4,入力パッド部5,出力パッド部6,入力パッド部7および出力パッド部8)と他方主面の導体層16との間の実効誘電率を小さくすることにより、寄生容量の低減を図った。具体的には、圧電基板2に、一方主面側がタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等の圧電材料から成り、他方主面側が一方主面側の圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成るものを用いることにより、必要な圧電特性を確保しつつ実現することができる。
【0071】
この圧電材料としては、弾性表面波素子に使用される種々の圧電材料を用いればよいが、特に前述の酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を使用すると、焦電破壊を良好に防止する効果と実効誘電率を小さくする効果との両方を得ることができる。また、低誘電率の誘電体材料としては、例えば水晶,シリコン,シリコンカーバイド,ガラス等を用いることができる。このような2種類の材料から成る圧電基板2は、これら圧電材料から成る基板と誘電体材料から成る基板とを貼り合わせることによって得ることができる。
【0072】
次に、本発明の弾性表面波装置の製造方法の実施の形態の例について、工程に従って説明する。
【0073】
<実施の形態の例8>
図10(a)〜(j)に本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法の実施の形態の一例を工程毎の断面図で示す。
【0074】
まず、図10(a)に示すように、(1)圧電基板の一方主面に導体層を形成し、図10(b)に示すように、(2)圧電基板の一方主面の導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成し、図10(c)に示すように、(3)圧電基板の他方主面に導体層を形成する。ここまでの工程は、以上の順番以外に(1),(3),(2)または(3),(1),(2)の順番で行なっても構わない。
【0075】
ここで、圧電基板としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
【0076】
また、一方主面上の導体層にはアルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料から成る層との積層膜を用いることができる。導体層の成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0077】
この導体層をパターニングする方法としては、導体層の成膜後にフォトリソグラフィを行ない、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行なう方法がある。または、導体層の成膜前に圧電基板の一方主面にレジストを形成しフォトリソグラフィを行なって所望のパターンを開口した後、導体層を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層ごと除去するリフトオフプロセスを行なってもよい。
【0078】
また、圧電基板の他方主面の導体層の材料としてはアルミニウム等を用いることができる。その成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0079】
次に、図10(d)に示すように、励振電極を保護するための保護膜を成膜する。保護膜の材料としてはシリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。この保護膜成膜工程においては、良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合において他方主面の導体層は焦電破壊の防止に有効に機能する。
【0080】
次に、図10(e)に示すように、(4)入力パッド部および出力パッド部の上に新たな導体層を積層して、入力パッドおよび出力パッドを形成する。この新たな導体層は弾性表面波素子と実装用基体とを高い信頼性で電気的および/または構造的に接続するためのものであり、例えば接続に半田を用いる場合であれば、半田の濡れ性を確保し拡散を防止する機能を持ち、また接続に金バンプを用いる場合であれば、パッドの硬度を、金を超音波等を用いて接着できるように調整する機能を持つ。このような新たな導体層の材料・構造としては、クロム/ニッケル/金あるいはクロム/銀/金の積層膜や、金やアルミニウムの厚膜を用いることができる。成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。なお、この新たな導体層成膜工程においても良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合においても他方主面の導体層は焦電破壊の防止に有効に機能する。
【0081】
ここまでの工程で作製した圧電基板の一方主面の励振電極や入力パッド部および出力パッド部等のパターンは図6に示したものと同様である。ただし、図6では保護膜は図示していない。
【0082】
次に、ここまで1枚の圧電基板に多数個の弾性表面波素子領域を形成したいわゆる多数個取りの方法で作製を行なってきた場合は、図10(g)に示すように、(5)圧電基板を弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る。分離する方法としては、例えばダイシングブレードを用いたダイシング法やレーザ加工によるレーザカッティング法等を用いることができる。
【0083】
次に、図10(h)に示すように、(6)弾性表面波素子を実装用基体上に一方主面を対面させて実装する。ここで、(1)〜(3)の工程の後、例えば図10(f)に示すように、(5)の多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、または(6)の実装する工程の後に、圧電基板の他方主面の導体層を格子状となるように部分的に除去して、多数の導体非形成部を点在させて設ける。
【0084】
このように部分的に除去する方法としては、(4)の工程の前および(5)の工程の前においては、圧電基板の一方主面をレジスト等で保護した後、圧電基板の他方主面にレジストを形成してフォトリソグラフィを行ない、必要部分のレジストを開口した後、その開口部分の導体層をウェットエッチング,RIE(Reactive Ion Etching),サンドブラスト,グラインディング等の方法で除去すればよい。このとき、主として化学的な作用により導体層をエッチングして除去する方法を用いると、圧電基板に大きなダメージを与えずに他方主面の導体層を部分的に確実に除去することができる。また、主として物理的な作用により導体層を研削して除去する方法を用いると、導体層を除去すると同時にその部分の圧電基板の他方主面を元々の状態よりも粗くすることができ、これにより、一方のフィルタ領域から圧電基板の内部を伝搬し、圧電基板の他方主面で反射され、他方のフィルタ領域に形成されている励振電極に結合してアイソレーション特性を劣化させていたバルク波を、圧電基板の他方主面のこの部分で散乱させることができ、さらにアイソレーション特性を改善することができる。
【0085】
その後に、圧電基板の一方主面側のレジストおよび他方主面側のレジストを除去する。
【0086】
これらの工程においては複数の弾性表面波素子が形成された圧電基板に対してそれぞれの処理が行なえるため、複数の弾性表面波素子を一括して処理することができ、効率的である。また、(6)の工程の後においては既に圧電基板の一方主面が実装用基体に対向して配置されているため、一方主面を保護する工程を省略することができる。特に環状導体を用いて封止している場合は、弾性表面波素子は実装用基体に強固に固定されており、また、外気からも遮断されているため、前述のようにウェットエッチング,RIE(Reactive Ion Etching),サンドブラスト,グラインディング等の方法を用いて処理したい部分の導体層を効率良く除去することができる。また、他方主面の導体層は、リューターやサンドペーパーを用い研削・研磨して除去してもよい。
【0087】
そして、この例では、図11(i)に示すように、(7)実装用基体上に実装された弾性表面波素子を封止樹脂を用いて樹脂モールドし、次いで図11(j)に示すように、(8)実装用基体を弾性表面波素子毎にモールド樹脂とともにダイシング等により分断して、本発明の弾性表面波装置を得る。
【0088】
なお、この例では圧電基板の他方主面に形成した導体層の所定の領域、例えば送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を格子状に部分的に除去して、多数の導体非形成部を点在させた導体層としたが、この部分的な除去は導体層のさらに送信側フィルタ領域の入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域の出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域をさらに除去してもよい。さらにまた、他方主面の導体層のさらに送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域を、例えば格子状に部分的に除去して、多数の導体非形成部を点在させてもよい。
【0089】
<実施の形態の例9>
実施の形態の例8では、(5)の工程で多数個の弾性表面波素子を形成した圧電基板を弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程を経た後、(6)の工程で実装用基体に実装したが、本例では図11(a)〜(j)に図10(a)〜(j)と同様の工程毎の断面図で示すように、図11(f)に示す工程で、弾性表面波素子領域毎に分離する前に実装用基体上に多数個の弾性表面波素子領域が形成された圧電基板の一方主面を対面させて実装し(この工程を(7)とする。)、その後、図11(h)に示すように、実装用基体と一体となった圧電基板をいわゆるハーフダイシングにより弾性表面波素子領域毎に分割し、次いで図11(i)に示すように、実装用基体上に実装された弾性表面波素子を封止樹脂を用いて樹脂モールドし、次に、実装用基体をモールド樹脂とともに弾性表面波素子領域毎に分離し(この工程を(8)とする。)てもよい。この例9の場合は、(1)〜(3)の工程の後(7)の実装する工程の前に、または図11(g)に示すように(7)の工程の後に、圧電基板の他方主面に形成した導体層の所定の領域、例えば送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において導体層を部分的に除去して、導体層に多数の導体非形成部を設ける。この除去方法は前述と同様である。
【0090】
なお、ここでも他方主面に形成した導体層の送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域を部分的に除去して導体非形成部を点在させて設けたが、導体層のさらに送信側フィルタ領域の入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域の出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域を部分的に除去して多数の導体非形成部を点在させて設けてもよい。また、導体層のさらに送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域を部分的に除去して多数の導体非形成部を点在させて設けてもよい。
【実施例】
【0091】
<第1の実施例>
まず、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板から成る圧電基板2(基板厚みは250μm)の一方主面にスパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の導体層を成膜した。膜厚はそれぞれ6nm/209nm/6nm/209nmである。次に、この導体層をフォトリソグラフィとRIEによりパターニングしてそれぞれ励振電極3と入力パッド部5,7と出力パッド部6,8とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13を有する多数の弾性表面波素子領域を形成した。このときのエッチングガスにはBCl3およびCl2の混合ガスを用いた。励振電極3を形成する櫛歯状電極の線幅および隣り合う櫛歯状電極間の距離はどちらも約1μmである。
【0092】
次に、スパッタリング法により圧電基板2の他方主面に純Alから成る導体層16を形成した。この導体層16の厚みは200nmである。
【0093】
次に、入力パッド部5,7および出力パッド部6,8の上に新たなCr/Ni/Auからなる導体層を積層して入力パッドおよび出力パッドを形成した。この新たな導体層の厚みはそれぞれ10nm/1000nm/100nmである。
【0094】
次に、圧電基板2の一方主面をフォトレジストで保護し、その後、他方主面にもフォトレジストを塗布しフォトリソグラフィを行ない、次いで硝酸と燐酸と酢酸との混酸によるウェットエッチングによって圧電基板2の他方主面の導体層16を図1に示すように格子状にパターニングした。
【0095】
次に、フォトレジストを除去した後、圧電基板2を弾性表面波素子領域毎にダイシングによって分離して多数個の弾性表面波素子1を得た。
【0096】
次に、弾性表面波素子1をLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板からなる実装用基体上に一方主面を対面させて実装した。ここで、LTCC基板は圧電基板2の一方主面に形成した環状導体10に対応する基体側環状導体および弾性表面波素子1の入出力パッドと接続されるパッド電極を有しており、予めこれら基体側環状導体およびパッド電極には半田を印刷しておいた。これに弾性表面波素子1を実装するにおいては、これら半田パターンに一致するように弾性表面波素子1を配置して超音波を印加することにより仮固定し、その後、加熱することにより半田を溶融することによって環状導体10と基体側環状導体とを、および入出力パッドとパッド電極とを接続した。これにより、弾性表面波素子1の励振電極3および入出力パッドは、LTCC基板の基体側環状導体とこれに接続された環状導体10とによって完全に気密封止される。なお、弾性表面波素子1の実装工程は窒素雰囲気下で行なった。
【0097】
次に、樹脂モールドを行ない、弾性表面波素子1の他方主面(裏面)をモールド樹脂で保護し、最後に実装用基体を各弾性表面波素子間でダイシングすることにより、本発明の弾性表面波装置を得た。
【0098】
このようにして作製した本発明の弾性表面波装置について、図12にそのアイソレーション特性を線図で示す。このアイソレーション特性は、Txフィルタの入力端子にRF信号を印加し、Rxフィルタの出力端子からの信号を測定することによって求めた(なお、通常は分波器として使用されるときにTxフィルタとRxフィルタとの間に挿入されるマッチングネットワークは組み込まない状態で測定した。)。図12に示す結果から分かるように、この例の本発明の弾性表面波装置は、非常に良好なアイソレーション特性を有している。
【0099】
<第2の実施例>
最初に、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板から成る圧電基板2(基板厚みは250μm)の一方主面にスパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の導体層を成膜した。膜厚はそれぞれ6nm/209nm/6nm/209nmである。
【0100】
次に、スパッタリング法により圧電基板2の他方主面に純Alから成る導体層16を形成した。この導体層16の厚みは200nmである。
【0101】
次に、圧電基板2の一方主面上の導体層をフォトリソグラフィとRIEとによりパターニングして、それぞれ励振電極3と入力パッド部5,7と出力パッド部6,8とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13を有する多数の弾性表面波素子領域を形成した。このRIEにおけるエッチングガスにはBCl3およびCl2を用いた。励振電極3である櫛歯状電極の線幅および隣り合う櫛歯状電極間の距離はどちらも約1μmである。
【0102】
次に、プラズマCVD法により圧電基板2の一方主面上にシリカから成る保護膜を成膜した。この成膜温度は300℃、膜厚は20nmである。
【0103】
次に、プラズマCVD法により圧電基板2の一方主面上にシリカから成る保護膜を成膜した。この成膜温度は300℃、膜厚は20nmである。
【0104】
次に、この保護膜の一部をフォトリソグラフィとRIEとによって除去し、その部分にスパッタリング法によりホウ素を微量に添加したシリコンから成る抵抗体15を成膜し、励振電極3をこの抵抗体15を介して環状導体10と接続した。
【0105】
次に、入力パッド部5,7および出力パッド部6,8の上に新たなCr/Ni/Auから成る導体層を積層して入力パッドおよび出力パッドを形成した。この新たな導体層の厚みはそれぞれ10nm/1000nm/100nmである。
【0106】
次に、圧電基板2の一方主面をフォトレジストで保護し、その後、他方主面にもフォトレジストを塗布しフォトリソグラフィを行ない、次いで硝酸と燐酸と酢酸との混酸によるウェットエッチングによって他方主面の導体層16を図1に示すように格子状にパターニングして多数の導体非形成部を点在させた。
【0107】
次に、フォトレジストを除去した後、圧電基板2を弾性表面波素子領域毎にダイシングすることによって分離して、多数個の弾性表面波素子1を得た。この後の実装工程は第1の実施例と同様である。
【0108】
この第2の実施例では、第1の実施例では実装工程中にスパークによる破壊が起こることがあったが、抵抗体15によって励振電極3を直流的に接地電位に接続することにより、スパークによる破壊は起こらなかった。
【0109】
<第3の実施例>
第1の実施例および第2の実施例では他方主面の導体層16を、所定の領域に多数の導体非形成部を点在させるために部分的に除去する工程でウェットエッチングを用いたが、本例ではサンドペーパーによる機械的研磨を用いた。弾性表面波素子1の作製工程は第1および第2の実施例における工程と同様であるが、他方主面の導体層16の多数の導体非形成部を点在させるための部分的な除去は、弾性表面波素子1を実装用基体であるLTCC基板に実装した後に行なった。ここで、サンドペーパーは、#1500,#400および#220の粗さのものを用いた。そして、これを用いて導体層16を部分的に除去した後のその部分の圧電基板2の他方主面の表面粗さは、各サンドペーパーの粗さに対応した粗さとなった。
【0110】
このようにして作製した弾性表面波装置について、使用した各サンドペーパーの粗さに対するアイソレーション特性の変化を図12に線図で示したものと同様に測定した。なお、このアイソレーション特性の測定は、マッチングネットワークを挿入した図9(a)に示す回路の状態で行なった。
【0111】
その結果、サンドペーパーの粗さを粗くするほどアイソレーション特性はより改善されており、#220のものを使用した場合では非常に顕著にアイソレーション特性が改善した。また、サンドペーパーの粗さを粗くするほど圧電基板2の他方主面の表面粗さが粗くなることから、アイソレーション特性の波形に見られるバルク波に起因する細かいリップルが小さくなることが分かった。
【0112】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、2組以上の分波器を同一の圧電基板上に設けてもよいし、また、分波器のアイソレーション特性には影響しない他のフィルタを同じ圧電基板上に設けてもよい。その場合には複数の弾性表面波素子を別々に作製した場合に比べて全体の占める面積を小型にすることができる。
【0113】
また、図6等ではラダー型フィルタを用いた場合を示したが、本発明はフィルタの構造を限定するものではなく、DMS型やIIDT型のフィルタを用いてもよい。また、入出力端子の配置も図6等に示したものに限定されるものではなく、アンテナに接続される端子が圧電基板の対角上に位置していても構わない。この場合、共振器の励振電極から漏洩した弾性表面波による各フィルタ間でのアイソレーション特性の劣化を小さくすることができるものとなる。
【0114】
また、他方主面の導体層16のパターンは図1等で示したものに限定されるものではなく、一方主面に形成したフィルタの形状に合わせて変化するものである。
【0115】
また、図3に示す例では、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12の入力パッド部5から励振電極3まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8から励振電極3まで直流的に接続されている部分と対向する領域を同じ形状で他の領域と分離するパターンとしているものを示したが、これは互いに異なるパターンとしても構わない。
【0116】
さらに、以上の例では圧電基板2の他方主面に導体層16を一旦形成してから所定の領域を分離するに当たってその周囲の導体層16を部分的に除去することを主に説明したが、導体層16の所定の領域を他の領域と分離するために導体層16を形成しない部分を予め設定しておいて、その部分以外に導体層16を形成するようにして所定の領域を他の領域と分離するようにしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例2における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図3】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例3における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図4】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例4における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図5】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1の他の例における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図6】アイソレーション特性の劣化の原因の概念を示す、SAW−DPXの弾性表面波素子の一例を示す上面図である。
【図7】本発明の弾性表面波装置の一例を表す弾性表面波素子の上面図である。
【図8】SAW−DPXの弾性表面波素子の他の例を示す上面図である。
【図9】(a)は寄生容量が無い場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図であり、(b)は寄生容量がある場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図である。
【図10】(a)〜(j)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図である。
【図11】(a)〜(j)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図である。
【図12】本発明の第1の実施例で作製した弾性表面波装置のアイソレーション特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0118】
1:弾性表面波素子
2:圧電基板
3:励振電極
4:接続電極
5:送信側フィルタの入力パッド部
6:送信側フィルタの出力パッド部
7:受信側フィルタの入力パッド部
8:受信側フィルタの出力パッド部
9:接地電極
10:環状導体
11:接地電極パッド
12:送信側フィルタ領域
13:受信側フィルタ領域
14:弾性表面波の漏れ
15:抵抗体
16:他方主面の導体層
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置およびその製造方法ならびに通信装置に関する。より詳しくは、同一の圧電基板上に送信側フィルタおよび受信側フィルタの両方を配置した、分波器として使用する弾性表面波装置であり、特に送信側フィルタと受信側フィルタとの間のアイソレーション特性を改善した弾性表面波装置およびその製造方法ならびにその弾性表面波装置を用いた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機端末の多機能化に伴い、実装部品はより小型・軽量化することが求められている。その中で送信側周波数帯(例えば低周波側周波数帯)の信号と受信側周波数帯(例えば高周波側周波数帯)の信号とを分離する分波器には、従来、誘電体を用いたものが使用されてきた。しかし、誘電体分波器は現状の通信規格の周波数帯では原理的に小型化できず、また、通過帯域近傍の減衰特性を急峻にできないため、送信側周波数帯と受信側周波数帯とが接近している通信規格では満足のいく特性が得られなかった。
【0003】
そこで近年、弾性表面波素子を用いたフィルタを分波器に利用する試みがなされている。従来から弾性表面波フィルタは段間のフィルタとして使用されていたが、分波器として使用するには耐電力性が低かった。しかし、近年この耐電力性の問題は励振電極の電極構造や電極材料を工夫することで解決することができるようになってきたため、誘電体分波器より小型で通過帯域近傍の減衰特性の良い弾性表面波分波器(以下ではSAW−DPXと記す。)が現れ始めている。
【特許文献1】特開1995−122961公報
【特許文献2】国際公開第99/54995号パンフレット
【非特許文献1】松田聡、斉藤康之、川内治、宮本晶規,「弾性波観測によるSAW共振子特性の改善」,第33回EMシンポジウム予稿集,2004年5月20日,p.77−82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
段間で使用される従来のSAWフィルタでは、異なる周波数帯のフィルタを同一の圧電基板に形成することにより、フィルタ全体が実装ボード上に占める割合を小さくしてきた(以下ではこのようなSAWフィルタをDual−SAWフィルタと記す。)。同様にSAW−DPXにおいても、送信側周波数帯のフィルタ(以下ではTxフィルタと記す。)と受信側周波数帯のフィルタ(以下ではRxフィルタと記す。)とを同一の圧電基板上に形成することにより小型化を図ることができる。
【0005】
しかし、実際に同一の圧電基板上にTxフィルタとRxフィルタとを形成すると、両フィルタ間でのアイソレーション特性が通信機端末における要求仕様を満足できないことが問題となっていた。このアイソレーション特性とは、一方のフィルタから他方のフィルタに漏れる信号の特性のことであり、このような信号の漏れはできるだけ小さく抑える必要がある。特に分波器においては、送信側で増幅された電力の大きい送信信号がTxフィルタからRxフィルタに漏れて受信側に漏れると、もともと電力の小さい受信信号を受信することができなくなってしまう。このため、分波器に要求されるアイソレーション特性の仕様では信号の漏れを極めて小さく抑えることが要求されており、段間で使用されるDual−SAWフィルタに要求される仕様に比べて非常に厳しくなっている。
【0006】
このフィルタ間でのアイソレーション特性の劣化の原因の一つは、弾性表面波の漏れであると考えられる。特にSAW−DPXでは、Txフィルタを形成する励振電極で励振された弾性表面波をその励振電極中に充分に閉じ込めることができず、Txフィルタの励振電極から漏れた弾性表面波が圧電基板の表面を伝搬し、これがRxフィルタを形成する励振電極によって受信されてしまうことにより、TxフィルタからRxフィルタへと信号が漏れてしまい、アイソレーション特性が劣化すると考えられる。その概念を図6にSAW−DPXの弾性表面波素子の一例を示す上面図に示す。
【0007】
図6において、1は弾性表面波素子であり、圧電基板2の一方主面にTxフィルタ領域12およびRxフィルタ領域13が設けられ、各領域にはそれぞれ複数の励振電極3および励振電極3間を接続する接続電極4からなる弾性表面波フィルタが形成されている。5はTxフィルタの入力パッド部、6はアンテナへ接続されるTxフィルタの出力パッド部、7はアンテナへ接続されるRxフィルタの入力パッド部、8はRxフィルタの出力パッド部である。また、9は接地電極であり、10はTxフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを個別に取り囲むように形成された環状導体である。
【0008】
この弾性表面波素子1においては、Txフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを個別に環状導体10で取り囲むことによって電気的に分離しているが、Txフィルタ領域12の励振電極3とRxフィルタ領域13の励振電極3とが、それぞれの弾性表面波の伝搬経路の方向とが重なるように配置されているため、Txフィルタ領域12の励振電極3からRxフィルタ領域13の励振電極3に図6中に矢印で示すように弾性表面波の漏れ14が生じてしまい、これによってアイソレーション特性が劣化してしまうという問題点があった。
【0009】
このような問題点に対して、同一の圧電基板2に形成していたTxフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを別個の圧電基板に形成して分断することにより、弾性表面波の漏れ14の伝搬を遮断してアイソレーション特性を改善する試みがなされている(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、このような試みでは確かにアイソレーション特性は改善するが、もともと一体に形成していたTxフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを別個の圧電基板に分断して形成するので、TxフィルタとRxフィルタとを実装用基体に実装した場合に分波器として機能する領域の占める面積は、Txフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを同一の圧電基板2に一体に形成した場合に比べて大きくなってしまうため、小型化の要求に応えることができないという問題点がある。
【0010】
そこで、従来は図6に示すように配置していたTxフィルタ領域12およびRxフィルタ領域13の励振電極3を、弾性表面波の伝搬経路が重ならないように、例えば図8に示す弾性表面波素子の上面図におけるように配置すると、Txフィルタ領域12とRxフィルタ領域13とを別個の圧電基板に分断することなく同一の圧電基板2上に形成して小型化を図りつつ、アイソレーション特性が改善された小型のSAW−DPXとすることができるはずである。図8において図6と同様の箇所には同じ符号を付してあり、図8に示す弾性表面波素子では、Txフィルタ領域12およびRxフィルタ領域13のそれぞれの励振電極3を弾性表面波の伝搬経路が平行となるように配置しており、Txフィルタ領域12の励振電極3から弾性表面波が漏れても、それをRxフィルタ領域13の励振電極3で受けることがないので、アイソレーション特性は劣化しないというものである。
【0011】
しかし、本発明者らが詳細な実験を行なったところ、図8に示すような励振電極の配置としてもアイソレーション特性は改善されなかった。これはアイソレーション特性の劣化の原因が弾性表面波の漏れだけではないことを意味している。
【0012】
そこで、本発明者らが詳細に検討を重ねた結果、アイソレーション特性の劣化に関して従来は知られていなかった原因を見出し、その解決手段として本発明を案出するに至った。
【0013】
本発明は、以上のように従来のDual−SAWフィルタでは問題では無かったが同一の圧電基板にTxフィルタとRxフィルタとを一体に形成したSAW−DPXでは問題となっていたアイソレーション特性を改善するべく案出されたものであり、その目的は、TxフィルタとRxフィルタとを別個の圧電基板に分断することなしに、小型で優れたアイソレーション特性を有する弾性表面波装置およびその製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、TxフィルタとRxフィルタとを一体に集積したデュプレクサ以外の分波器にも適用することができる、小型で優れたアイソレーション特性を有する弾性表面波装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、詳細な実験とシミュレーションとによって、アイソレーション特性の劣化が圧電基板の一方主面に形成されたTxフィルタの入力電極とRxフィルタの出力電極とが、通常は圧電基板の他方主面(以下では裏面とも記す。)の全面にわたって形成されている裏面導体層を介して容量的に結合していることが原因であることを突き止めた。このシミュレーション結果およびシミュレーションに使用した回路の概念図を図9に示す。
【0016】
図9において、(a)は寄生容量が無い場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図であり、(b)は寄生容量がある場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図である。図9(b)で示した寄生容量はTxフィルタの入力パッド部とRxフィルタの出力パッド部との間に存在する寄生容量であり、50fF程度の非常に微小な寄生容量である。図9に示す結果から、このような非常に微小な寄生容量が存在するだけで、アイソレーション特性が劣化していることが分かる。すなわち、図9(a)および(b)の比較から分かるように、869MHzから894MHzでの信号強度が、このような寄生容量がある場合には(b)に示すように−30〜−40dBであったものが、寄生容量がない場合には(a)に示すように−50dB以下となっており、寄生容量がないことによってアイソレーション特性が大きく改善していることが分かる。
【0017】
このような50fF程度の寄生容量は、例えば圧電基板に厚み250μmのタンタル酸リチウム単結晶基板を用いた場合であれば、比誘電率を42.7として計算すると、圧電基板の表面と裏面とに一辺が約180μmの方形の電極が対向してある場合に形成される容量に相当する。通常、弾性表面波フィルタの入出力パッド部の面積はこの程度のものとなるため、シミュレーションで寄生容量として挿入した値は妥当に現実を反映した値であると言える。なお、アイソレーション特性に最も影響を与えるのは、ここで説明したTxフィルタの入力パッド部とRxフィルタの出力パッド部との間の寄生容量であるが、各フィルタの励振電極を接続する接続電極と各フィルタの入出力パッド部との間および一方のフィルタの励振電極を接続する接続電極と他方のフィルタの励振電極を接続する接続電極との間に発生する寄生容量も、同様にアイソレーション特性を劣化させる。
【0018】
弾性表面波素子は圧電基板上に作製される櫛歯状の励振電極を用いた素子である。通常、圧電体は急激な温度変化により焦電性を示すため、圧電基板を用いて素子を作製する際に急激な温度変化のある工程を通すと、圧電基板の焦電性のためスパークが発生して素子を破壊(焦電破壊)してしまうこととなる。そこで、なるべく圧電基板に電荷が蓄積しないようにするために、圧電基板の裏面の全面にわたって導体層を成膜することが一般的となっている。しかし、本発明者らは、この裏面導体層は素子作製工程中は焦電破壊防止に有効であるが、弾性表面波素子のアイソレーション特性には有害であるということを見出した。
【0019】
ところで、この裏面導体層を実装用基体の接地電極と導通させることにより各フィルタの入出力パッド部間の容量的な結合はある程度小さくすることができるが、この対策ではアイソレーション特性の改善は充分ではない。また、圧電基板の裏面(裏面導体層の形成面)と実装用基体の主面とを対向させて弾性表面波素子を実装する場合には実装用基体の主面に接地電極を設ければよいが、この場合は改めて圧電基板の表面側に振動空間を確保して励振電極を外部から守るために、リッドやカバーを取着することによって圧電基板の表面を保護する必要がある。しかし、この場合にはリッドやカバーを取着する面積が別途必要なため、弾性表面波装置の小型化には不利である。また、圧電基板の表面(励振電極の形成面)と実装用基体の主面とを対向させてその間に振動空間を確保して実装(フリップチップ実装)する場合は、小型化には有利であるが、圧電基板の裏面の裏面導体層が接地電位のとれる実装用基体の主面と空間的に離れてしまうので、裏面導体層から実装用基体の主面上の接地電極まで接地を取るには余分な工程を必要とするため製造コストが高くなってしまうという問題点がある。
【0020】
そこで本発明では以下のような弾性表面波装置とし、また以下のような製造方法により弾性表面波装置を作製するものである。
【0021】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板の一方主面にそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板の前記他方主面の前記導体非形成部の表面粗さが、前記導体層が形成されている領域の表面粗さよりも大きいことを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板の前記一方主面に前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、この環状導体が前記実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されていることを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記励振電極が抵抗体を介して前記環状導体に電気的に接続されており、この環状導体が接地電位とされていることを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板は、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成ることを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記一方主面側が圧電材料から成り、前記他方主面側が前記圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成ることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を分波器として用いたことを特徴とするものである。
【0031】
本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法は、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、次に、前記圧電基板を前記弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程と、次に、前記弾性表面波素子を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程とを具備するとともに、前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とするものである。
【0032】
本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法は、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、次に、前記圧電基板の前記弾性表面波素子領域を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と、次に、前記圧電基板および前記実装用基体を前記弾性表面波素子領域毎に分離する工程とを具備するとともに、前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とするものである。
【0033】
また、本発明の弾性表面波装置の第1および第2の製造方法は、上記構成において、前記導体層を部分的に除去する際に、除去する部分の前記他方主面の表面粗さを除去しない部分の表面粗さよりも大きくすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の他方主面に形成された導体層が、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることから、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量を、従来のように他方主面の全面にわたって導体層が形成されている場合よりも、他方主面の導体層の形成部分の面積が小さくなった分だけ小さくすることができるため、その寄生容量に起因するアイソレーション特性の劣化を他方主面の導体層の面積が小さくなった分に応じて抑えることができ、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0035】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、導体非形成部が、導体層の送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量をさらに小さくできるため、さらにアイソレーション特性を改善することができる。
【0036】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、導体非形成部が、導体層の送信側フィルタ領域の入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域の出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量をさらに小さくできるため、さらにアイソレーション特性を改善することができる。
【0037】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、導体非形成部が、導体層の送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量をさらに一層小さくできるため、さらに一層アイソレーション特性を改善することができる。
【0038】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の他方主面の導体非形成部の表面粗さが、導体層が形成されている領域の表面粗さよりも大きいときには、アイソレーション特性のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分をも低減することができる。アイソレーション特性の劣化の主要因はこれまでに述べてきたように寄生容量によるものであるが、アイソレーション特性は、共振器の励振電極で弾性表面波に変換されずバルク波となってしまった音響波が、一方のフィルタ領域から圧電基板の内部を伝搬し、圧電基板の他方主面で反射され、他方のフィルタ領域に形成されている共振器の励振電極に結合することによっても劣化する。このバルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化は寄生容量による劣化に比べると小さいが、アイソレーション特性に求められる厳しい要求を完全に満たすためにはこのバルク波による劣化をも抑制することが好ましい。これに対し、導体非形成部において部分的に表面粗さを大きくした圧電基板の他方主面でバルク波が散乱されるため、一方のフィルタ領域の励振電極から発生したバルク波が他方のフィルタ領域に形成されている励振電極に十分に結合しないようにすることができるので、アイソレーション特性をさらに改善することができる。
【0039】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の一方主面に送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、この環状導体が実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されているときには、これら環状導体および基体側環状導体を接合することによって弾性表面波素子を実装用基体上に強固に、かつ励振電極および入力パッド部および出力パッド部を気密に封止した状態で実装することができるため、後述するように実装用基体上に弾性表面波素子を実装して後に圧電基板の他方主面の導体層を加工する際に、圧電基板の一方主面に形成されている励振電極にダメージを与えずに加工することができる。なお、この環状導体の形状は、送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を個別に囲む形状であっても、共に囲む形状であっても構わない。
【0040】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、励振電極が抵抗体を介して環状導体に電気的に接続されており、この環状導体が接地電位とされているときには、励振電極は直流的には接地電位に接続されているが、弾性表面波装置が使用される周波数帯ではほぼ接地電位からは絶縁されている状態とすることができるため、フィルタの通過帯域特性に影響を与えずに励振電極に電荷が蓄積することを防止できる。従って、圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも、弾性表面波装置の焦電破壊を確実に防止することができる。
【0041】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板が、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成るときには、この圧電基板は、励振電極を環状導体に電気的に接続する抵抗体と同様に、直流的には導体に見えるが弾性表面波装置が使用される周波数帯ではほぼ絶縁体に見えるという性質を持つ。従って、これを弾性表面波装置の基板として使用することによって、フィルタの通過帯域特性に影響を与えずに励振電極に電荷が蓄積することを防止できる。従って、圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも、弾性表面波装置の焦電破壊を防止することができ、しかも、焦電破壊を防止するために弾性表面波装置の製造工程において工程数を増加させることがない。
【0042】
また、以上の本発明の弾性表面波装置においては、圧電基板の他方主面の導体層が、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることにより、さらにこれに加えて上記のような各構成とすることにより送信側フィルタ領域の入力パッド部と受信側フィルタ領域の出力パッド部との間に発生する寄生容量を低減してきたが(これは寄生容量を形成する電極の面積を小さくすることに相当する。)、これらに加えて、圧電基板が、一方主面側が圧電材料から成り、他方主面側がその圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成るときには、送信側フィルタ領域の入力パッド部と受信側フィルタ領域の出力パッド部との間の実効誘電率を小さくすることができ、これによっても寄生容量を低減することができる(これは寄生容量を形成する電極間の誘電率を小さくすることに相当する。)ので、アイソレーション特性をさらに改善することができる。特に、この圧電材料として、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を使用すると、焦電破壊を良好に防止する効果と実効誘電率を小さくする効果との両方を得ることができる。
【0043】
そして、本発明の通信装置によれば、以上のような本発明の弾性表面波装置を分波器として用いたことにより、分波器に対して要求されている厳しいアイソレーション特性を満たすことができるものが得られ、また、弾性表面波装置が良好なアイソレーション特性を有する分波器でありながら小型であるので、他部品の実装面積をより大きく取ることができ、部品の選択の幅が広がるため、高機能な通信装置を実現することができる。
【0044】
以上のような本発明の弾性表面波装置を作製するには、以下のような本発明の弾性表面波装置の製造方法が好適である。
【0045】
本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法によれば、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、圧電基板の他方主面の導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する場合には、多数個の弾性表面波素子が一体に形成された圧電基板に対して他方主面の導体層に対する除去処理を一括して行なえるため、除去工程における効率が良いものとなる。また、弾性表面波素子を実装用基体に一方主面を対面させて実装する工程の後に圧電基板の他方主面の導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する場合には、実装工程で温度履歴がかかることによって起こる可能性のある弾性表面波素子の焦電破壊を確実に防止することができる。
【0046】
本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法によれば、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、圧電基板の他方主面の導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する場合には、多数個の弾性表面波素子が一体に形成された圧電基板に対して他方主面の導体層に対する除去処理を一括して行なえるため、除去工程における効率が良いものとなる。また、圧電基板の弾性表面波素子領域を実装用基体に一方主面を対面させて実装する工程の後に圧電基板の他方主面の導体層を部分的に除去する場合には、実装工程で温度履歴がかかることによって起こる可能性のある弾性表面波素子の焦電破壊を確実に防止することができる。さらに、多数個の弾性表面波素子領域が作製されている圧電基板を実装用基体に実装した状態で他方主面の導体層に対する除去処理を行なえるため、除去工程における効率も良いものとなる。もちろん、他方主面の導体層に対する除去処理は、圧電基板および実装用基体を弾性表面波素子領域毎に分離する工程の後に行なっても構わない。また、この分離する工程では、圧電基板と実装用基体のどちらか片方を先に分離しても、圧電基板と実装用基体とを同時に分離しても構わない。
【0047】
ところで、バルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化は、元々表面を大きく荒らした圧電基板を使用すれば抑制することができるが、弾性表面波を伝搬させる励振電極を形成している一方主面は鏡面である必要があるため、他方主面のみが大きく荒れた圧電基板は温度変化により大きく反ってしまい、弾性表面波素子の作製工程中に破損しやすいという問題点がある。一方、近年の電子部品への小型化・低背化の要求から、弾性表面波素子の圧電基板の厚みが次第に薄くされているが、圧電基板の厚みが薄くなるとますます破損する確率は大きくなってしまう。
【0048】
これに対し、本発明の弾性表面波装置の製造方法によれば、圧電基板の他方主面に形成した導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する際に、除去する部分の他方主面の表面粗さを除去しない領域の他方主面の表面粗さよりも大きくするようにしたときには、薄型化が進められている圧電基板についても破損する危険性を大きくせずに、バルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化を効率良く抑えることができる。また、これを寄生容量によるアイソレーション特性の劣化に対する対策と同時に行なえるため、効率的である。
【0049】
以上のように、本発明によれば、同一の圧電基板上に送信側フィルタと受信側フィルタとを、アイソレーション特性を大幅に改善して、一体に形成することができる。従って、送信側フィルタと受信側フィルタとを別個の圧電基板に作製したものよりも小型のSAW−DPXを作製することができる。また、1枚の圧電基板から多数個の弾性表面波装置を得ることができるので、弾性表面波装置の低価格化を実現することができる。また、圧電基板の一方主面(励振電極の形成面)を実装用基体の主面に対向させた実装(フリップチップ実装)を行なっても、Txフィルタの入力電極とRxフィルタの出力電極とが他方主面の導体層を介して容量結合することがないので、小型のSAW−DPXでありながらアイソレーション特性を劣化させない弾性表面波装置を得ることができ、しかも、作製工程において圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも弾性表面波素子の焦電破壊を防止することができる。また、近年の部品に対する小型化・低背化の要求から、弾性表面波装置に対しても圧電基板の厚みを薄くすることが求められているが、圧電基板が薄くなるほど圧電基板の一方主面の電極と他方主面の導体層との間の容量は大きくなり、従って寄生容量を介した容量結合によって起こるアイソレーション特性の劣化はさらに深刻化することとなるが、これに対しても、他方主面の導体層を部分的に除去することにより、薄型でかつ良好なアイソレーション特性を有する弾性表面波装置を得ることができる。
【0050】
そして、本発明の弾性表面波装置は、良好なアイソレーション特性を有するものでありながら小型である、分波器として好適なものであるので、他部品の実装面積を大きく取れる等により、高機能を実現できる通信装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の弾性表面波装置およびその製造方法の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同じ符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、あるいは電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものであるので、これらに限定されるものではない。
【0052】
<実施の形態の例1>
本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図は、図6と同様である。また、この例1における弾性表面波素子の他方主面の上面図を図1に示す。
【0053】
図6に示すように、弾性表面波素子1の圧電基板2上には送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13が形成されている。送信側フィルタ(本例ではTxフィルタ)領域12には、共振器を構成する複数の励振電極3およびこれらを接続する接続電極4と、弾性表面波素子1と実装用基体(図示せず)とを接続するための励振電極3に電気的に接続された入力パッド部5および出力パッド部6が形成されている。同様に受信側フィルタ(本例ではRxフィルタ)領域13には、共振器を構成する複数の励振電極3およびこれらを接続する接続電極4と、弾性表面波素子1と実装用基体とを接続するための励振電極3に電気的に接続された入力パッド部7および出力パッド部8が形成されている。
【0054】
また、環状導体10は半田等を用いて実装用基体の上面にこれに対応させて形成された、接地電極としても機能する基体側環状導体と接続される。この例では、環状導体10は送信側フィルタ領域12と受信側フィルタ領域13とを個別に取り囲むようにして一体に形成されており、受信側フィルタ領域13のRxフィルタの接地電極として機能するとともに圧電基板2と実装用基体とを封止する役割を持つ。なお、この例では、送信側フィルタ領域12のTxフィルタの接地は、接地電極パッド11を実装用基体の接地電極と接続することでとっており、圧電基板2上では環状導体10に接続していない。
【0055】
また、図1に示すように、圧電基板2の他方主面には導体層16が、多数の導体非形成領域を点在させて、この例では導体層16が格子状となるように形成されている。導体層16を例えばこのような形状とすることにより、従来のように他方主面の全面にわたって導体層16を形成するよりも導体層の面積を減らすことができ、この導体層16と入力パッド部5,7および出力パッド部6,8との間に発生する寄生容量を低減すくことができる。また、導体層16のパターン自体は圧電基板2の他方主面の広い領域にわたって連続して形成されているため、電荷が他方主面の一部の領域に蓄積されることを防止することができるので、焦電破壊の発生を確実に防止することができる。
【0056】
なお、図1には導体層16の例として、導体非形成部を四角形状として縦横に並べた単純な格子状パターンを示したが、この他に、例えば図5に同様の上面図で示すような、導体非形成部を円形状として縦横に並べたパターンとしてもよく、この場合でも効果は同じである。また、図1に示すような格子状パターンが、例えば45度のような角度を持って傾斜して形成されていてもよい。
【0057】
また、本例では環状導体10をRxフィルタの接地電極として利用したが、RxフィルタにおいてもTxフィルタと同様に、環状導体10を接地電極として用いずに実装用基体の接地電極に直接接続しても構わない。また逆に、環状導体10をTxフィルタの接地電極として用い、Rxフィルタを実装用基体の接地電極に直接接続しても構わない。特に、Txフィルタの通過帯域がRxフィルタの通過帯域より低周波側に位置するときには、図6に示すように、Txフィルタの接地電極を環状導体10に接続しない構成が、Txフィルタの通過帯域のうち高域側のRxフィルタの通過帯域に相当する周波数で高い減衰量を得る上で望ましいものとなる。
【0058】
<実施の形態の例2>
図2に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例2における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図を示す。この例では、圧電基板2の一方主面側の構成は例1と同じであるが、他方主面の導体層16のパターンが異なっている。この例2では、導体層16のパターンは図2に示したように、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5に対向する領域とその周囲および受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8に対向する領域とその周囲を除いて、小さな四角形状の導体非形成部を縦横に並べて格子状のパターンとされている。また、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8に対向する領域では、四角形状の導体非形成部の面積を大きくして、その占める面積の割合を他の領域よりも大きくしている。このようにすることによって、送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8との、導体層16との間で発生する寄生容量を介しての容量的な結合が、導体非形成部の占有率を大きくしているために、より確実に防止することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善することができる。
【0059】
なお、この例2では、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8に対向する領域の両方で導体非形成部の占める面積の割合が他の領域よりも大きいものとしたが、導体非形成部の占める面積の割合を大きくするのはどちらか一方の領域でもよく、その場合にも送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合を防止することができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0060】
<実施の形態の例3>
図3に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例3における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図を示す。この例では、圧電基板2の一方主面側の構成は例2と同じであるが、他方主面の導体層16のパターンが異なっている。例2では、導体層16のパターンは図2に示したように、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5に対向する領域とその周囲および受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8に対向する領域とその周囲において導体非形成部の占める面積の割合が大きいパターンを用いたが、この例3では、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12(Txフィルタ)の入力パッド部5から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域および受信側フィルタ領域13(Rxフィルタ)の出力パッド部8から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域において、四角形状の導体非形成部を大きくするとともに密に配置することによって、導体非形成部の占める割合が他の領域よりも大きい導体層16が形成されている。このようにすることにより、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合をより確実に抑えることができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0061】
なお、この例3では、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域の両方で導体非形成部の占める面積の割合が他の領域よりも大きいものとしたが、導体非形成部の占める面積の割合を大きくするのはどちらか一方の領域でもよく、その場合にも送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合を防止することができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0062】
また、この例3のように導体層16のうち圧電基板2の一方主面の入力パッド部5から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8から励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域の少なくとも一方と対向する領域において面積の割合を大きくして多数の導体非形成部を点在させているときには、他の導体非形成部とともに、とりわけその導体非形成部の表面粗さを、導体層16が形成されている領域の表面粗さよりも大きくすることにより、より広い面積で表面粗さを大きくしてバルク波の伝搬をより確実に抑制することができ、アイソレーション特性の劣化のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分も効果的に低減することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善するのに有利なものとなる。
【0063】
なお、このように導体層16に多数点在させている導体非形成部の表面粗さを導体層16が形成されている領域の表面粗さよりも大きくすることによる、バルク波の伝搬により劣化していた分のアイソレーション特性の改善の効果は、例1および例2においても同様である。
【0064】
<実施の形態の例4>
本例では、圧電基板2の一方主面側の構成は図6に示す例と同様とし、送信側フィルタ領域12と受信側フィルタ領域13との容量的な結合をさらに確実に抑えるために、導体層16に四角形状の導体非形成部を多数点在させるとともに、圧電基板2の他方主面の送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13の少なくとも一方と対向する領域において、導体層16に多数点在させた導体非形成部の占める面積の割合を他の領域よりも大きくした。その導体層16のパターンを図4に図1〜図3と同様の上面図で示す。
【0065】
図4に示す例4では、送信側フィルタ領域12と対向する領域における導体非形成部の占める面積の割合を、他の領域、この場合は受信側フィルタ領域13よりも大きくしている。これに対して、受信側フィルタ領域13と対向する領域における導体非形成部の占める面積の割合を送信側フィルタ領域12よりも大きくしてもよく、送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13と対向する領域の両方における導体非形成部の占める面積の割合を他の領域よりも大きくしてもよい。いずれの場合でも、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5と受信側フィルタ領域13の出力パッド部8との寄生容量を介しての容量的な結合を防止することができるので、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0066】
また、この例4の場合にも、その導体非形成部の表面粗さを、導体層16が形成されている領域の表面粗さよりも大きくすることにより、より広い面積で表面粗さを大きくしてバルク波の伝搬をより確実に抑制することができ、アイソレーション特性の劣化のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分も効果的に低減することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善するのに有利なものとなる。
【0067】
<実施の形態の例5>
本例では、圧電基板2の一方主面側の構成は図7に示す例と同様とし、全ての励振電極3が環状導体10と直流的に導通するように、共振器を形成する励振電極3と環状導体10とを抵抗体15を介して接続した。また、環状電極10は実装用基体の接地電極に接続して接地電位としている。このように、励振電極3が抵抗体15を介して環状導体10に電気的に接続されており、この環状導体10が接地電位とされているものとすることにより、圧電基板2の一方主面から実装用基体の接地電極に電荷を逃がすことができるため、弾性表面波素子1の焦電破壊を効果的に防止することができる。
【0068】
なお、この抵抗体15は、送信側フィルタおよび受信側フィルタが使用される周波数帯においては十分に高抵抗で、ほとんど絶縁体に見える抵抗値となるように選択する。抵抗体15の材料としては、シリコンや酸化チタン等の高抵抗半導体を用いるのが好適である。これらの材料は、微量にホウ素等の元素を添加したり、組成比を調整したりすることにより、抵抗値を適正な値に制御することができる。
【0069】
<実施の形態の例6>
この例では、さらに簡単に焦電破壊を防止する構成として、圧電基板2に、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を用いた。これらの材料は前述の抵抗体15と同様に、直流的には導体に見えても送信側フィルタおよび受信側フィルタが使用される周波数帯においては十分に高抵抗で、ほとんど絶縁体に見えるという性質を有している。従って、これらの材料を圧電基板2に使用することによって、送信側フィルタおよび受信側フィルタの帯域通過特性に影響を与えずに励振電極3に電荷が蓄積することを防止できるので、圧電基板2の他方主面の全面に導体層16が無くとも、弾性表面波素子1の焦電破壊を良好に防止することができる。しかも、焦電破壊を防止するために弾性表面波装置の製造工程において工程数を増加させることがない点でも好都合となる。
【0070】
<実施の形態の例7>
本例では、圧電基板2の一方主面の各電極(励振電極3,接続電極4,入力パッド部5,出力パッド部6,入力パッド部7および出力パッド部8)と他方主面の導体層16との間の実効誘電率を小さくすることにより、寄生容量の低減を図った。具体的には、圧電基板2に、一方主面側がタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等の圧電材料から成り、他方主面側が一方主面側の圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成るものを用いることにより、必要な圧電特性を確保しつつ実現することができる。
【0071】
この圧電材料としては、弾性表面波素子に使用される種々の圧電材料を用いればよいが、特に前述の酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を使用すると、焦電破壊を良好に防止する効果と実効誘電率を小さくする効果との両方を得ることができる。また、低誘電率の誘電体材料としては、例えば水晶,シリコン,シリコンカーバイド,ガラス等を用いることができる。このような2種類の材料から成る圧電基板2は、これら圧電材料から成る基板と誘電体材料から成る基板とを貼り合わせることによって得ることができる。
【0072】
次に、本発明の弾性表面波装置の製造方法の実施の形態の例について、工程に従って説明する。
【0073】
<実施の形態の例8>
図10(a)〜(j)に本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法の実施の形態の一例を工程毎の断面図で示す。
【0074】
まず、図10(a)に示すように、(1)圧電基板の一方主面に導体層を形成し、図10(b)に示すように、(2)圧電基板の一方主面の導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成し、図10(c)に示すように、(3)圧電基板の他方主面に導体層を形成する。ここまでの工程は、以上の順番以外に(1),(3),(2)または(3),(1),(2)の順番で行なっても構わない。
【0075】
ここで、圧電基板としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
【0076】
また、一方主面上の導体層にはアルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料から成る層との積層膜を用いることができる。導体層の成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0077】
この導体層をパターニングする方法としては、導体層の成膜後にフォトリソグラフィを行ない、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行なう方法がある。または、導体層の成膜前に圧電基板の一方主面にレジストを形成しフォトリソグラフィを行なって所望のパターンを開口した後、導体層を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層ごと除去するリフトオフプロセスを行なってもよい。
【0078】
また、圧電基板の他方主面の導体層の材料としてはアルミニウム等を用いることができる。その成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0079】
次に、図10(d)に示すように、励振電極を保護するための保護膜を成膜する。保護膜の材料としてはシリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。この保護膜成膜工程においては、良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合において他方主面の導体層は焦電破壊の防止に有効に機能する。
【0080】
次に、図10(e)に示すように、(4)入力パッド部および出力パッド部の上に新たな導体層を積層して、入力パッドおよび出力パッドを形成する。この新たな導体層は弾性表面波素子と実装用基体とを高い信頼性で電気的および/または構造的に接続するためのものであり、例えば接続に半田を用いる場合であれば、半田の濡れ性を確保し拡散を防止する機能を持ち、また接続に金バンプを用いる場合であれば、パッドの硬度を、金を超音波等を用いて接着できるように調整する機能を持つ。このような新たな導体層の材料・構造としては、クロム/ニッケル/金あるいはクロム/銀/金の積層膜や、金やアルミニウムの厚膜を用いることができる。成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。なお、この新たな導体層成膜工程においても良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合においても他方主面の導体層は焦電破壊の防止に有効に機能する。
【0081】
ここまでの工程で作製した圧電基板の一方主面の励振電極や入力パッド部および出力パッド部等のパターンは図6に示したものと同様である。ただし、図6では保護膜は図示していない。
【0082】
次に、ここまで1枚の圧電基板に多数個の弾性表面波素子領域を形成したいわゆる多数個取りの方法で作製を行なってきた場合は、図10(g)に示すように、(5)圧電基板を弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る。分離する方法としては、例えばダイシングブレードを用いたダイシング法やレーザ加工によるレーザカッティング法等を用いることができる。
【0083】
次に、図10(h)に示すように、(6)弾性表面波素子を実装用基体上に一方主面を対面させて実装する。ここで、(1)〜(3)の工程の後、例えば図10(f)に示すように、(5)の多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、または(6)の実装する工程の後に、圧電基板の他方主面の導体層を格子状となるように部分的に除去して、多数の導体非形成部を点在させて設ける。
【0084】
このように部分的に除去する方法としては、(4)の工程の前および(5)の工程の前においては、圧電基板の一方主面をレジスト等で保護した後、圧電基板の他方主面にレジストを形成してフォトリソグラフィを行ない、必要部分のレジストを開口した後、その開口部分の導体層をウェットエッチング,RIE(Reactive Ion Etching),サンドブラスト,グラインディング等の方法で除去すればよい。このとき、主として化学的な作用により導体層をエッチングして除去する方法を用いると、圧電基板に大きなダメージを与えずに他方主面の導体層を部分的に確実に除去することができる。また、主として物理的な作用により導体層を研削して除去する方法を用いると、導体層を除去すると同時にその部分の圧電基板の他方主面を元々の状態よりも粗くすることができ、これにより、一方のフィルタ領域から圧電基板の内部を伝搬し、圧電基板の他方主面で反射され、他方のフィルタ領域に形成されている励振電極に結合してアイソレーション特性を劣化させていたバルク波を、圧電基板の他方主面のこの部分で散乱させることができ、さらにアイソレーション特性を改善することができる。
【0085】
その後に、圧電基板の一方主面側のレジストおよび他方主面側のレジストを除去する。
【0086】
これらの工程においては複数の弾性表面波素子が形成された圧電基板に対してそれぞれの処理が行なえるため、複数の弾性表面波素子を一括して処理することができ、効率的である。また、(6)の工程の後においては既に圧電基板の一方主面が実装用基体に対向して配置されているため、一方主面を保護する工程を省略することができる。特に環状導体を用いて封止している場合は、弾性表面波素子は実装用基体に強固に固定されており、また、外気からも遮断されているため、前述のようにウェットエッチング,RIE(Reactive Ion Etching),サンドブラスト,グラインディング等の方法を用いて処理したい部分の導体層を効率良く除去することができる。また、他方主面の導体層は、リューターやサンドペーパーを用い研削・研磨して除去してもよい。
【0087】
そして、この例では、図11(i)に示すように、(7)実装用基体上に実装された弾性表面波素子を封止樹脂を用いて樹脂モールドし、次いで図11(j)に示すように、(8)実装用基体を弾性表面波素子毎にモールド樹脂とともにダイシング等により分断して、本発明の弾性表面波装置を得る。
【0088】
なお、この例では圧電基板の他方主面に形成した導体層の所定の領域、例えば送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を格子状に部分的に除去して、多数の導体非形成部を点在させた導体層としたが、この部分的な除去は導体層のさらに送信側フィルタ領域の入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域の出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域をさらに除去してもよい。さらにまた、他方主面の導体層のさらに送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域を、例えば格子状に部分的に除去して、多数の導体非形成部を点在させてもよい。
【0089】
<実施の形態の例9>
実施の形態の例8では、(5)の工程で多数個の弾性表面波素子を形成した圧電基板を弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程を経た後、(6)の工程で実装用基体に実装したが、本例では図11(a)〜(j)に図10(a)〜(j)と同様の工程毎の断面図で示すように、図11(f)に示す工程で、弾性表面波素子領域毎に分離する前に実装用基体上に多数個の弾性表面波素子領域が形成された圧電基板の一方主面を対面させて実装し(この工程を(7)とする。)、その後、図11(h)に示すように、実装用基体と一体となった圧電基板をいわゆるハーフダイシングにより弾性表面波素子領域毎に分割し、次いで図11(i)に示すように、実装用基体上に実装された弾性表面波素子を封止樹脂を用いて樹脂モールドし、次に、実装用基体をモールド樹脂とともに弾性表面波素子領域毎に分離し(この工程を(8)とする。)てもよい。この例9の場合は、(1)〜(3)の工程の後(7)の実装する工程の前に、または図11(g)に示すように(7)の工程の後に、圧電基板の他方主面に形成した導体層の所定の領域、例えば送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において導体層を部分的に除去して、導体層に多数の導体非形成部を設ける。この除去方法は前述と同様である。
【0090】
なお、ここでも他方主面に形成した導体層の送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域を部分的に除去して導体非形成部を点在させて設けたが、導体層のさらに送信側フィルタ領域の入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域の出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域を部分的に除去して多数の導体非形成部を点在させて設けてもよい。また、導体層のさらに送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域を部分的に除去して多数の導体非形成部を点在させて設けてもよい。
【実施例】
【0091】
<第1の実施例>
まず、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板から成る圧電基板2(基板厚みは250μm)の一方主面にスパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の導体層を成膜した。膜厚はそれぞれ6nm/209nm/6nm/209nmである。次に、この導体層をフォトリソグラフィとRIEによりパターニングしてそれぞれ励振電極3と入力パッド部5,7と出力パッド部6,8とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13を有する多数の弾性表面波素子領域を形成した。このときのエッチングガスにはBCl3およびCl2の混合ガスを用いた。励振電極3を形成する櫛歯状電極の線幅および隣り合う櫛歯状電極間の距離はどちらも約1μmである。
【0092】
次に、スパッタリング法により圧電基板2の他方主面に純Alから成る導体層16を形成した。この導体層16の厚みは200nmである。
【0093】
次に、入力パッド部5,7および出力パッド部6,8の上に新たなCr/Ni/Auからなる導体層を積層して入力パッドおよび出力パッドを形成した。この新たな導体層の厚みはそれぞれ10nm/1000nm/100nmである。
【0094】
次に、圧電基板2の一方主面をフォトレジストで保護し、その後、他方主面にもフォトレジストを塗布しフォトリソグラフィを行ない、次いで硝酸と燐酸と酢酸との混酸によるウェットエッチングによって圧電基板2の他方主面の導体層16を図1に示すように格子状にパターニングした。
【0095】
次に、フォトレジストを除去した後、圧電基板2を弾性表面波素子領域毎にダイシングによって分離して多数個の弾性表面波素子1を得た。
【0096】
次に、弾性表面波素子1をLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板からなる実装用基体上に一方主面を対面させて実装した。ここで、LTCC基板は圧電基板2の一方主面に形成した環状導体10に対応する基体側環状導体および弾性表面波素子1の入出力パッドと接続されるパッド電極を有しており、予めこれら基体側環状導体およびパッド電極には半田を印刷しておいた。これに弾性表面波素子1を実装するにおいては、これら半田パターンに一致するように弾性表面波素子1を配置して超音波を印加することにより仮固定し、その後、加熱することにより半田を溶融することによって環状導体10と基体側環状導体とを、および入出力パッドとパッド電極とを接続した。これにより、弾性表面波素子1の励振電極3および入出力パッドは、LTCC基板の基体側環状導体とこれに接続された環状導体10とによって完全に気密封止される。なお、弾性表面波素子1の実装工程は窒素雰囲気下で行なった。
【0097】
次に、樹脂モールドを行ない、弾性表面波素子1の他方主面(裏面)をモールド樹脂で保護し、最後に実装用基体を各弾性表面波素子間でダイシングすることにより、本発明の弾性表面波装置を得た。
【0098】
このようにして作製した本発明の弾性表面波装置について、図12にそのアイソレーション特性を線図で示す。このアイソレーション特性は、Txフィルタの入力端子にRF信号を印加し、Rxフィルタの出力端子からの信号を測定することによって求めた(なお、通常は分波器として使用されるときにTxフィルタとRxフィルタとの間に挿入されるマッチングネットワークは組み込まない状態で測定した。)。図12に示す結果から分かるように、この例の本発明の弾性表面波装置は、非常に良好なアイソレーション特性を有している。
【0099】
<第2の実施例>
最初に、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板から成る圧電基板2(基板厚みは250μm)の一方主面にスパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の導体層を成膜した。膜厚はそれぞれ6nm/209nm/6nm/209nmである。
【0100】
次に、スパッタリング法により圧電基板2の他方主面に純Alから成る導体層16を形成した。この導体層16の厚みは200nmである。
【0101】
次に、圧電基板2の一方主面上の導体層をフォトリソグラフィとRIEとによりパターニングして、それぞれ励振電極3と入力パッド部5,7と出力パッド部6,8とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13を有する多数の弾性表面波素子領域を形成した。このRIEにおけるエッチングガスにはBCl3およびCl2を用いた。励振電極3である櫛歯状電極の線幅および隣り合う櫛歯状電極間の距離はどちらも約1μmである。
【0102】
次に、プラズマCVD法により圧電基板2の一方主面上にシリカから成る保護膜を成膜した。この成膜温度は300℃、膜厚は20nmである。
【0103】
次に、プラズマCVD法により圧電基板2の一方主面上にシリカから成る保護膜を成膜した。この成膜温度は300℃、膜厚は20nmである。
【0104】
次に、この保護膜の一部をフォトリソグラフィとRIEとによって除去し、その部分にスパッタリング法によりホウ素を微量に添加したシリコンから成る抵抗体15を成膜し、励振電極3をこの抵抗体15を介して環状導体10と接続した。
【0105】
次に、入力パッド部5,7および出力パッド部6,8の上に新たなCr/Ni/Auから成る導体層を積層して入力パッドおよび出力パッドを形成した。この新たな導体層の厚みはそれぞれ10nm/1000nm/100nmである。
【0106】
次に、圧電基板2の一方主面をフォトレジストで保護し、その後、他方主面にもフォトレジストを塗布しフォトリソグラフィを行ない、次いで硝酸と燐酸と酢酸との混酸によるウェットエッチングによって他方主面の導体層16を図1に示すように格子状にパターニングして多数の導体非形成部を点在させた。
【0107】
次に、フォトレジストを除去した後、圧電基板2を弾性表面波素子領域毎にダイシングすることによって分離して、多数個の弾性表面波素子1を得た。この後の実装工程は第1の実施例と同様である。
【0108】
この第2の実施例では、第1の実施例では実装工程中にスパークによる破壊が起こることがあったが、抵抗体15によって励振電極3を直流的に接地電位に接続することにより、スパークによる破壊は起こらなかった。
【0109】
<第3の実施例>
第1の実施例および第2の実施例では他方主面の導体層16を、所定の領域に多数の導体非形成部を点在させるために部分的に除去する工程でウェットエッチングを用いたが、本例ではサンドペーパーによる機械的研磨を用いた。弾性表面波素子1の作製工程は第1および第2の実施例における工程と同様であるが、他方主面の導体層16の多数の導体非形成部を点在させるための部分的な除去は、弾性表面波素子1を実装用基体であるLTCC基板に実装した後に行なった。ここで、サンドペーパーは、#1500,#400および#220の粗さのものを用いた。そして、これを用いて導体層16を部分的に除去した後のその部分の圧電基板2の他方主面の表面粗さは、各サンドペーパーの粗さに対応した粗さとなった。
【0110】
このようにして作製した弾性表面波装置について、使用した各サンドペーパーの粗さに対するアイソレーション特性の変化を図12に線図で示したものと同様に測定した。なお、このアイソレーション特性の測定は、マッチングネットワークを挿入した図9(a)に示す回路の状態で行なった。
【0111】
その結果、サンドペーパーの粗さを粗くするほどアイソレーション特性はより改善されており、#220のものを使用した場合では非常に顕著にアイソレーション特性が改善した。また、サンドペーパーの粗さを粗くするほど圧電基板2の他方主面の表面粗さが粗くなることから、アイソレーション特性の波形に見られるバルク波に起因する細かいリップルが小さくなることが分かった。
【0112】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、2組以上の分波器を同一の圧電基板上に設けてもよいし、また、分波器のアイソレーション特性には影響しない他のフィルタを同じ圧電基板上に設けてもよい。その場合には複数の弾性表面波素子を別々に作製した場合に比べて全体の占める面積を小型にすることができる。
【0113】
また、図6等ではラダー型フィルタを用いた場合を示したが、本発明はフィルタの構造を限定するものではなく、DMS型やIIDT型のフィルタを用いてもよい。また、入出力端子の配置も図6等に示したものに限定されるものではなく、アンテナに接続される端子が圧電基板の対角上に位置していても構わない。この場合、共振器の励振電極から漏洩した弾性表面波による各フィルタ間でのアイソレーション特性の劣化を小さくすることができるものとなる。
【0114】
また、他方主面の導体層16のパターンは図1等で示したものに限定されるものではなく、一方主面に形成したフィルタの形状に合わせて変化するものである。
【0115】
また、図3に示す例では、圧電基板2の一方主面の送信側フィルタ領域12の入力パッド部5から励振電極3まで直流的に接続されている部分および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8から励振電極3まで直流的に接続されている部分と対向する領域を同じ形状で他の領域と分離するパターンとしているものを示したが、これは互いに異なるパターンとしても構わない。
【0116】
さらに、以上の例では圧電基板2の他方主面に導体層16を一旦形成してから所定の領域を分離するに当たってその周囲の導体層16を部分的に除去することを主に説明したが、導体層16の所定の領域を他の領域と分離するために導体層16を形成しない部分を予め設定しておいて、その部分以外に導体層16を形成するようにして所定の領域を他の領域と分離するようにしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例2における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図3】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例3における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図4】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例4における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図5】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1の他の例における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図6】アイソレーション特性の劣化の原因の概念を示す、SAW−DPXの弾性表面波素子の一例を示す上面図である。
【図7】本発明の弾性表面波装置の一例を表す弾性表面波素子の上面図である。
【図8】SAW−DPXの弾性表面波素子の他の例を示す上面図である。
【図9】(a)は寄生容量が無い場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図であり、(b)は寄生容量がある場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図である。
【図10】(a)〜(j)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図である。
【図11】(a)〜(j)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図である。
【図12】本発明の第1の実施例で作製した弾性表面波装置のアイソレーション特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0118】
1:弾性表面波素子
2:圧電基板
3:励振電極
4:接続電極
5:送信側フィルタの入力パッド部
6:送信側フィルタの出力パッド部
7:受信側フィルタの入力パッド部
8:受信側フィルタの出力パッド部
9:接地電極
10:環状導体
11:接地電極パッド
12:送信側フィルタ領域
13:受信側フィルタ領域
14:弾性表面波の漏れ
15:抵抗体
16:他方主面の導体層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一方主面にそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記圧電基板の前記他方主面の前記導体非形成部の表面粗さが、前記導体層が形成されている領域の表面粗さよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記圧電基板の前記一方主面に前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、該環状導体が前記実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記励振電極が抵抗体を介して前記環状導体に電気的に接続されており、該環状導体が接地電位とされていることを特徴とする請求項6記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
前記圧電基板は、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項9】
前記圧電基板は、前記一方主面側が圧電材料から成り、前記他方主面側が前記圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の弾性表面波装置を分波器として用いたことを特徴とする通信装置。
【請求項11】
圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、
前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、
前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、
次に、前記圧電基板を前記弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程と、
次に、前記弾性表面波素子を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と
を具備するとともに、
前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項12】
圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、
前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、
前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、
次に、前記圧電基板の前記弾性表面波素子領域を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と、
次に、前記圧電基板および前記実装用基体を前記弾性表面波素子領域毎に分離する工程と
を具備するとともに、
前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項13】
前記導体層を部分的に除去する際に、除去する部分の前記他方主面の表面粗さを除去しない部分の前記他方主面の表面粗さよりも大きくすることを特徴とする請求項11または請求項12記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項1】
圧電基板の一方主面にそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、多数の導体非形成部を点在させて形成されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記受信側フィルタ領域の前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記導体非形成部は、前記導体層の前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域の少なくとも一方と対向する領域において、その占める面積の割合が他の領域よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記圧電基板の前記他方主面の前記導体非形成部の表面粗さが、前記導体層が形成されている領域の表面粗さよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記圧電基板の前記一方主面に前記送信側フィルタ領域および前記受信側フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、該環状導体が前記実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記励振電極が抵抗体を介して前記環状導体に電気的に接続されており、該環状導体が接地電位とされていることを特徴とする請求項6記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
前記圧電基板は、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項9】
前記圧電基板は、前記一方主面側が圧電材料から成り、前記他方主面側が前記圧電材料よりも低誘電率の誘電体材料から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の弾性表面波装置を分波器として用いたことを特徴とする通信装置。
【請求項11】
圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、
前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、
前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、
次に、前記圧電基板を前記弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程と、
次に、前記弾性表面波素子を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と
を具備するとともに、
前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記多数個の弾性表面波素子を得る工程の前に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項12】
圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、
前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、
前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、
次に、前記圧電基板の前記弾性表面波素子領域を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と、
次に、前記圧電基板および前記実装用基体を前記弾性表面波素子領域毎に分離する工程と
を具備するとともに、
前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層を多数の導体非形成部が点在するように部分的に除去する工程を具備することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項13】
前記導体層を部分的に除去する際に、除去する部分の前記他方主面の表面粗さを除去しない部分の前記他方主面の表面粗さよりも大きくすることを特徴とする請求項11または請求項12記載の弾性表面波装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−14097(P2006−14097A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190559(P2004−190559)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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