説明

弾性表面波装置及び通信機器

【課題】高域側フィルタ素子及び低域側フィルタ素子を備え、これらフィルタ素子の帯域外減衰特性を改善する。
【解決手段】本発明の弾性表面波装置は、圧電基板300の一方主面に低域側の送信用フィルタ素子TX及び高域側の受信用フィルタ素子RXが形成され、送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXは、回路基板200の上面にフェースダウンで実装されている。受信用フィルタ素子RXの接地電極322は回路基板200に形成された3本の直線状貫通導体221′に接続されておりインダクタンスは小さく、送信用フィルタ素子TXの接地電極312は回路基板200に形成されたクランク状貫通導体211′に接続されインダクタンスは大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ素子、デュプレクサなどに好適に使用され、異なる周波数の通過帯域を持つ複数の弾性表面波素子を搭載した弾性表面波装置、及びこれを具備する通信機器に関するものである。この通信機器は、携帯電話機等の移動体通信機器などに使用される。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の通信機器において、送信信号と受信信号とを分離するデュプレクサとして、IDT電極(Inter Digital Transducer)を備えた弾性表面波素子を用いた弾性表面波装置が使用されている。弾性表面波装置は、小型で、急峻なフィルタ素子特性を有し、量産性に優れる等の優れた特長を有するものである。
【特許文献1】特表平11-510666号公報
【特許文献2】特表2002-504773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特に最近、通信機器の小型・軽量化のために、弾性表面波装置の中に、送信用フィルタ素子と、受信用フィルタ素子とが一体化された、小型の弾性表面波装置が要求されている。また、フィルタ素子として低挿入損失であるのはもちろんのこと、帯域外減衰特性に関しても、さらに大きな減衰量が要求されている。
もし送信用フィルタ素子及び受信用フィルタ素子の帯域外減衰量が劣化した場合には、不要な無線信号を送信したり、又は受信したりすることとなり、受信した無線信号の品質が低下したり、他の無線通信機器への妨害等の問題が発生したりする可能性がある。
【0004】
以上のような要求に対しては、従来の弾性表面波装置の帯域外減衰特性では十分に対応できず、さらに改善が望まれている。
本発明は、以上のような要望に鑑みて案出されたものであり、その目的は、高域側フィルタ素子及び低域側フィルタ素子を備え、これらフィルタ素子の帯域外減衰特性が優れており、小型化が可能で、かつ高信頼性のある弾性表面波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板の一主面に形成された、第1の入出力電極、第1の接地電極及び第1のIDT電極を含む第1のフィルタ素子と、前記圧電基板の同じ面に形成された、第2の入出力電極、第2の接地電極及び第2のIDT電極を含む、第1のフィルタ素子と周波数帯域の異なる第2のフィルタ素子と、前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面を実装するための回路基板とを備え、前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面において、前記第1の接地電極と、前記第2の接地電極とが電気的に分離されて形成され、前記回路基板の前記圧電基板を実装する面において、前記第1の接地電極が接続される第1の接地用導体端子と、前記第2の接地電極に接続される第2の接地用導体端子とが分離されて形成され、前記回路基板の前記圧電基板を実装する面と反対側の面又は前記回路基板のいずれかの内層面において、第3の接地電極が設けられ、前記第1の接地用導体端子及び前記第2の接地用導体端子に接続され、前記回路基板を、前記第3の接地電極の位置までそれぞれ貫通する第1及び第2の貫通導体が設けられているものである。
【0006】
この構成によれば、2つのフィルタ素子を同一の圧電基板上に形成できるので、別々の圧電基板上に形成するのに比べて弾性表面波装置を小型化することができ、回路基板への実装面積を小さくできる。また、各フィルタ素子の接地用に、それぞれ第1及び第2の貫通導体を設けることにより、第1のフィルタ素子及び第2のフィルタ素子の帯域外減衰特性をそれぞれ所望の値にまで低下させることが可能となり、高信頼性の弾性表面波装置を提供することができる。
【0007】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記第1のフィルタ素子の通過周波数帯域が、前記第2のフィルタ素子の通過周波数帯域よりも低く、前記第1の接地電極、前記第1の接地用導体端子及び前記第1の貫通導体の直列インダクタンスが、前記第2の接地電極、前記第2の接地用導体端子及び前記第2の貫通導体の直列インダクタンスよりも高いものである。
【0008】
前記第1のフィルタ素子及び第2のフィルタ素子は、それぞれ、入出力電極間に接続された直列IDT電極と、信号線路と接地との間につながれた、並列IDT電極を備えているものである。
以下、この構成による効果を説明する。
図1は、IDT電極の等価回路を示す図である。このIDT電極のインピーダンスを複素数Z1で表す。
【0009】
前記第1の接地電極、第1の接地用導体端子及び前記第1の貫通導体で形成される直列インダクタンスをLg1で表し、前記第2の接地電極、第2の接地用導体端子及び前記第2の貫通導体で形成される直列インダクタンスをLg2で表す。Lg1,Lg2を総称して"Lg"で表す。
図2は、図1の回路に、直列インダクタンスLgを直列接続した回路を示す。図2の回路のインピーダンスは、Z1とLgとの和で表され、これを"Z"と表記する。そして、Zのリアクタンス成分をX、抵抗成分をRとする。
【0010】
図3は、縦軸にリアクタンスX、横軸に周波数をとったグラフである。グラフの各曲線のパラメータは、Lgの値としている。
リアクタンスXは、ある周波数fr0で共振(resonance)点を持ち、それよりも高い周波数fa0で反共振(anti-resonance)点を持つ。
グラフから分かるように、Lgの値が大きいほど、曲線は上に持ち上がり、共振周波数fr0、反共振周波数fa0ともに、低くなる。
【0011】
図4は、前記第1のフィルタ素子の並列IDT電極と、直列IDT電極と、前記第2のフィルタ素子の並列IDT電極と直列IDT電極の各インピーダンスの絶対値|Z|を縦軸にあらわしたグラフと、前記第1のフィルタ素子及び第2のフィルタ素子の減衰量を縦軸に表したグラフとを示す。横軸には、共通の周波数をとっている。
この複合されたグラフから、矢印に示すように、前記第1のフィルタ素子の並列IDT電極のインピーダンスを反共振周波数付近で下げることにすれば、前記第1のフィルタ素子の通過帯域外の高域側の減衰量を大きくすることができる(矢印参照)。また、矢印に示すように、前記第2のフィルタ素子の並列IDT電極のインピーダンスを共振周波数付近で下げることにすれば、前記第2のフィルタ素子の通過帯域外の低域側の減衰量を大きくすることができる(矢印参照)。
【0012】
前記第1のフィルタ素子の並列IDT電極のインピーダンスを反共振周波数付近で下げるためには、図3の矢印に示すように、第1のフィルタ素子の直列インダクタンスLg1を大きくすればよく、前記第2のフィルタ素子の並列IDT電極のインピーダンスを共振周波数付近で下げるには、矢印に示すように、第2のフィルタ素子の直列インダクタンスLg2を小さくすればよいことがわかる。
【0013】
このようにして、第2のフィルタ素子の接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを低減させると、第2のフィルタ素子の並列IDT電極について、第1のフィルタ素子の周波数帯域と重なる帯域におけるインピーダンスZを小さくすることができる。
この結果、その周波数帯域と重なる帯域を通過する信号を効果的に阻止することが可能となり、第2のフィルタ素子の低域周波数側の帯域外減衰特性を向上させることが可能となる。
【0014】
また、第1のフィルタ素子の接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを増加させると、第1のフィルタ素子の並列IDT電極について、第2のフィルタ素子の周波数帯域と重なる帯域におけるインピーダンスZを小さくすることができる。
この結果、その周波数帯域と重なる帯域を通過する信号を効果的に阻止することが可能となり、第1のフィルタ素子の高域周波数側の帯域外減衰特性を向上させることが可能となる。
【0015】
以上のような寄生インダクタンスの低減及び増大を実現するためには、前記第1の接地電極の圧電基板上の面積を、前記第2の接地電極の圧電基板上の面積よりも小さくしたり、前記第1の貫通導体の本数を、前記第2の貫通導体の本数よりも少なくしたり、前記第1の貫通導体をクランク形状にし、前記第2の貫通導体を直線状にしたり、前記第1の貫通導体の断面積を、前記第2の貫通導体の断面積よりも小さくしたりすることが考えられる。これらの寄生インダクタンスの低減及び増大を実現するための構成は、単独で用いてもよく、それぞれを組み合わせて用いてもよい。
【0016】
以上の構成の弾性表面波装置において、もし、受信用フィルタ素子の通過周波数帯域が送信用フィルタ素子の通過周波数帯域に比べて高い場合には、受信用フィルタ素子の接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを低減させ、送信用フィルタ素子の接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを増加させることにより、それぞれ目的とする帯域外減衰特性の向上を図ることが可能となり、通信機器のデュプレクサに用いた場合に良好な通信品質を得ることが可能となる。
【0017】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面に、前記第1,第2のフィルタ素子を取り囲んで環状電極が形成され、前記回路基板の前記圧電基板を実装する面において、前記環状電極に接続される環状導体が形成されているという構造を有する。この構造では、圧電基板と回路基板とこれら環状電極と環状導体とによって、弾性表面波素子を気密封止して外気から保護することができるので、弾性表面波素子を長期にわたって安定に動作させることができ、高信頼性の弾性表面波装置とすることが可能となる。
【0018】
なお前記環状導体は、各フィルタ素子を個別に囲っている構成であってもよい。各々のフィルタ素子に対して、各環状電極が電磁的なシールドの役割を果たすので、各々のフィルタ素子の電磁的な結合を無くすことができ、フィルタ素子間の干渉を抑えることができる。
また、本発明の弾性表面波装置は、前記第2のフィルタ素子の第2の接地電極を環状電極に接続し、前記第2の接地用導体端子としての環状導体を複数の第2の貫通導体によって前記第3の接地電極に接続する構造を採用するものである。
【0019】
この構造は、接地電極のインダクタンスを小さくするために、環状電極及び環状導体を利用している。
また、本発明の弾性表面波装置は、第2の接地用導体端子を前記環状導体に接続し、前記環状導体を複数の第3の貫通導体によって前記第3の接地電極に接続する構造を採用するものである。
【0020】
この構造は、接地用導体端子のインダクタンスを小さくするために環状導体を利用している。
これらの構造によれば、第2のフィルタ素子に新たに広い面積の接地電極又は接地用導体端子を作製することなしに、寄生インダクタンスを低減させることができ、より小型の本発明の弾性表面波装置を実現することができる。
【0021】
本発明の通信機器は、前記弾性表面波装置と、該弾性表面波装置を回路素子とする受信回路及び/又は送信回路とを具備するものである。
この通信機器は、従来のように大型の誘電体フィルタ素子を必要とせず、大幅な小型化ができるので、小型で通信品質の優れ通信機器を提供することができる。
そして、良好な帯域外減衰特性を有する高域側フィルタ素子を、例えば受信用フィルタ素子に用いることで、不要な帯域外信号を十分に取り除くことができ、受信信号の品質を向上させることが可能となる。また良好な帯域外減衰特性を有する低域側フィルタ素子を例えば送信用フィルタ素子に用いることにより、不要な帯域外信号を送信することなく、品質の優れた通信信号を送信することができ、また耐電力性の優れた通信機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図5は、本発明の弾性表面波装置の一実施の形態を示す図であり、弾性表面波素子100の一方主面側の平面図である。図6は、弾性表面波素子100が実装される回路基板200上面の平面図である。
弾性表面波素子100は、圧電基板300上に形成され、通過周波数帯域の異なる2種類のフィルタ素子を形成している。
【0023】
低い周波数帯域のフィルタ素子は、本発明の実施の形態では、送信用フィルタ素子TXに使用され、高い周波数帯域のフィルタ素子は、受信用フィルタ素子RXに使用される。
図5において、圧電基板300の一方主面には、送信用フィルタ素子TXのIDT電極110、接地電極312及び信号入出力電極311が形成され、受信用フィルタ素子RXのIDT電極120、接地電極322及び信号入出力電極321が形成されている。
【0024】
前記送信用フィルタ素子TXのIDT電極110は、入出力電極311間に接続された直列IDT電極と、信号線路と接地との間につながれた、並列IDT電極から構成される。
前記受信用フィルタ素子RXのIDT電極120は、入出力電極321間に接続された直列IDT電極と、信号線路と接地との間につながれた、並列IDT電極から構成される。
さらに、圧電基板300の一方主面において、IDT電極110及びIDT電極120等に対してこれらを取り囲むように、略四角形状の環状電極330が形成されている。
【0025】
このような環状電極330を圧電基板300の外縁部に沿って設けることにより、IDT電極110及びIDT電極120等をその内側に広い面積を利用して有効に配置することができる。
なお、環状電極330として、送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXをそれぞれ個別に取り囲むように形成してもよい。環状電極330がこれら送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXを個別に取り囲むように形成されているときには、各々のフィルタ素子に対して環状電極330が電磁的なシールドの役割を果たすので、各々のフィルタ素子の電磁的な結合をなくすことができ、フィルタ素子間の干渉を抑えることができる。
【0026】
図6は、圧電基板300を実装するための回路基板200を示す。この回路基板200の上面には、送信用フィルタ素子TXの信号入出力導体端子411,送信用フィルタ素子TXの接地用導体端子412,受信用フィルタ素子RXの信号入出力導体端子421,受信用フィルタ素子RXの複数の接地用導体端子422が、それぞれ形成されている。
前記信号入出力導体端子411は圧電基板300の信号入出力端子311に対応し、前記接地用導体端子412は圧電基板300の接地電極312に対応し、前記信号入出力導体端子421は圧電基板300の信号入出力端子321に対応し、前記接地用導体端子422は圧電基板300の接地電極322に対応して形成されている。そして、これら端子を取り囲むように、圧電基板300の環状電極330に対応させて環状導体430が形成されている。
【0027】
なお、図示しないが、環状導体430は、回路基板200の内部又は下面に形成された接地用導体に、貫通導体を通して接続されている。これにより、送信用フィルタ素子のIDT電極で発生した熱をそのIDT電極を取り囲むように形成されている接地用環状電極430を介して拡散させることができる。
また、回路基板200の裏面には、図6に破線ハッチングで示すように、それぞれビア(via)導体を通して、信号入出力導体端子411につながる裏面信号導体212、信号入出力導体端子421につながる裏面信号導体222、接地用導体端子412,422につながる裏面接地用導体端子220が形成されている。
【0028】
裏面接地用導体端子220は、回路基板200の裏面の大きな面積に形成されていて、送信用フィルタ素子TXの接地用導体端子412、受信用フィルタ素子RXの接地用導体端子422に対して、共通の接地端子となっている。この接地電極は、第3の接地電極として機能する。
以上のような圧電基板300及び回路基板200を用いた本発明の弾性表面波装置は、圧電基板300の各電極が回路基板200の各導体端子に導体バンプを介して接続されるとともに、この環状電極330が回路基板200の上面にこれに対応させて形成された環状導体430に、半田等のろう材を用いて、環状に封止するようにして接続されている。
【0029】
このようにして、圧電基板の一方主面に送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXを形成した弾性表面波素子100を、回路基板200の上面に一方主面を対向させて実装することができる。
前記環状の封止により、圧電基板300の動作面側の気密性を保つことができるので、弾性表面波素子100を外装保護材500等による影響なく安定して動作させることができるとともに、その動作を長期間にわたって安定して行わせることができ、高信頼性の弾性表面波装置とすることが可能となる。
【0030】
また、これら環状電極330及び環状導体430により環状に気密封止された内部に、さらに例えば不活性ガスである窒素ガス等を封入することにより、各電極,各導体端子の酸化等による劣化を効果的に防止することができるので、さらに高信頼性とすることが可能となる。
なお環状電極330の幅としては、半田等のろう材による封止性や位置合わせ精度を考慮して、例えば0.05mmから0.15mmの範囲内で形成することが好ましい。0.05mmより狭い幅では、半田による封止性や機械的応力による信頼性を満足させることが困難となる。また、必要以上に幅を大きくして環状電極330を設けることは、送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXをその内側に広い面積を用いて有効に配置させることが困難となるので、弾性表面波装置に要求される特性や仕様に応じて適切に設定すればよい。
【0031】
また、この例においては送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXを1つずつ形成してこれらを取り囲むように1つの環状電極330を形成しているが、環状電極330の内側に配置する送信用フィルタ素子TXを複数設け、受信用フィルタ素子RXを複数設けても良い。
また、前述したように、圧電基板300の一方主面を複数の領域に分けて、それぞれの領域に送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXとこれらを取り囲むように環状電極330を形成してもよい。このような場合は、各環状電極330で取り囲まれた弾性表面波装置部間での送信信号又は受信信号の相互干渉を大幅に低減することが可能となる。
【0032】
送信用フィルタ素子TXのIDT電極110、接地電極312及び信号入出力電極311、受信用フィルタ素子RXのIDT電極120、接地電極322及び信号入出力電極321は、例えばタンタル酸リチウム等の圧電基板の一方主面にスパッタリング法等の真空成膜技術によりアルミニウム等の金属膜を成膜し、その後、フォトリソグラフィ等の手段を用いて所望のレジストパターンを形成し、それをマスクとして不要な箇所をエッチングにより除去することによって形成される。
【0033】
圧電基板には、例えば36°±3°YカットX伝搬のタンタル酸リチウム単結晶,42°±3°YカットX伝搬のタンタル酸リチウム単結晶,64°±3°YカットX伝搬のニオブ酸リチウム単結晶,41°±3°YカットX伝搬のニオブ酸リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬の四ホウ酸リチウム単結晶が、それぞれ電気機械結合係数が大きく、かつ周波数温度係数が小さいため好適に用いることができる。
【0034】
また圧電基板の厚さは、0.1mm〜0.5mm程度が好適である。0.1mm未満の厚さでは圧電基板が割れやすくなり、0.5mm超では部品寸法が大きくなり小型化を達成することが困難となる。
前記IDT電極110及びIDT電極120は、直列及び並列にはしご型に接続したラダー型フィルタ素子を構成することによって、急峻でかつ低損失なフィルタ素子特性を実現することができる。
【0035】
図7は、以上に説明した図5の圧電基板300上の弾性表面波素子と、図6の回路基板200とを接合して構成した弾性表面波装置を、A−A線で切った断面図である。
回路基板200は、複数の絶縁層、この例では3層の絶縁層が積層されて作製されている。
412は、回路基板200の上面に形成された送信用フィルタ素子TXの接地用導体端子、211は、回路基板200の内部に形成された送信側貫通導体である。
【0036】
送信側貫通導体211は、回路基板200の上面から下面にかけて、上下方向に複数の貫通導体211aを、絶縁層間に形成された導体層211bで接続して形成されたものである。送信側貫通導体211は、回路基板200の上面で接地用導体端子412に接続され、回路基板200の裏面で、裏面接地用導体端子220に接続される。
422は、回路基板200の上面に形成された受信用フィルタ素子RXの接地用導体端子、221は回路基板200の上面から裏面にかけて直線状に形成された受信側貫通導体である。
【0037】
受信側貫通導体221は、回路基板200の上面から下面にかけて、上下方向に複数の貫通導体221aを、絶縁層間に形成された導体層221bで接続して形成されたものであって、回路基板200の上面で接地用導体端子422に接続され、回路基板200の裏面で、裏面接地用導体端子220に接続される。
112,122はそれぞれ導体バンプであり、112は送信用フィルタ素子TX接続バンプ、122は受信用フィルタ素子RX接続バンプである。
【0038】
図7に示すように、圧電基板300の一方主面が回路基板200の上面に対向して配置され、送信用フィルタ素子TXの接地電極312と回路基板200の接地用導体端子412とが送信用フィルタ素子TX接続バンプ112で接続され、受信用フィルタ素子RXの接地電極322と回路基板200の接地用導体端子422とが受信用フィルタ素子RX接続バンプ122でそれぞれ電気的に接続されており、これによって弾性表面波素子100が回路基板200の上面に実装される。
【0039】
なお、図7には示されないが、送信用フィルタ素子TXの信号入出力端子311と回路基板200の上面に形成された送信用フィルタ素子TXの信号入出力導体端子とが、同様に導体バンプで接続されている。受信用フィルタ素子RXの信号入出力端子と回路基板200の上面に形成された受信用フィルタ素子RXの信号入出力導体端子も、同様に導体バンプで接続されている。
【0040】
このようにして、受信用フィルタ素子RXの接地電極322は、受信用フィルタ素子RX接続バンプ122、回路基板200に上面から下面にかけて直線状に形成された複数の貫通導体221を介して裏面接地用導体端子220に接続され、送信用フィルタ素子TXの接地電極312は、送信用フィルタ素子TX接続バンプ112、回路基板200に上面から下面にかけて形成された貫通導体211を介して裏面接地用導体端子220に接続される。
【0041】
なお、図6、図7の例では、回路基板200の裏面で受信用フィルタ素子RXの接地電極322と送信用フィルタ素子TXの接地電極312とを電気的に接続する裏面接地用導体端子220を設けたが、図17,図18に示すように、弾性表面波装置1の中では、受信用フィルタ素子RXの接地電極322と送信用フィルタ素子TXの接地電極312とを、電気的に接続せずに、複数の裏面接地用導体端子220′を設け、それらを弾性表面波装置1が搭載される通信機器のPCB(Printed Circuit Board)の接地電極230によって接続してもかまわない。
【0042】
貫通導体211a,221aは、1本あたり0.03mmから0.2mm程度の直径で形成することができる。貫通導体を0.03mmよりも小さな直径にすると、回路基板200の絶縁層間に形成した導体層211b,221bとの位置ずれが生じることなどによって、接続信頼性の低下を引き起こす場合がある。直径0.2mmを超えると、回路基板200の絶縁層の材料である例えばセラミックスと金属からなる貫通導体との間において熱膨張係数差が大きくなり、貫通導体近傍の絶縁層にクラック等の亀裂を発生させることになり、接続信頼性の低下を引き起こす場合がある。
【0043】
また、複数本の直線状貫通導体221を形成して受信用フィルタ素子RXの接地電極322と接続する場合には、それら複数本の直線状貫通導体221は、例えば0.02mmから0.2mm程度の間隔で細密に配置させることによって小さい面積で小さいインダクタンスを達成することができる。
前記回路基板200の絶縁層には、例えばアルミナを主成分とするセラミックスや、低温で焼結可能なガラスセラミックス、又は有機材料を主成分とするガラスエポキシ樹脂等が用いられる。セラミックスやガラスセラミックスを用いる場合には、セラミックス等の金属酸化物と有機バインダとを有機溶剤等で均質混練したスラリーをシート状に成型したグリーンシートを作製し、所望の配線パターンや内部導体接続用ビアホール(貫通導体)パターンを形成した後、これらグリーンシートを積層し圧着することにより一体形成して焼成することによって作製される。
【0044】
前記各絶縁層に形成される導体パターンは、Au,Cu,Ag,Ag−Pd,W等の金属導体をスクリーン印刷あるいは蒸着やスパッタリング等の成膜法とエッチングとの組合せ等により形成される。各導体パターンには、さらに弾性表面波素子100との良好な接合に必要であれば、表面にNiあるいはAu等のめっきを施してもよい。
送信用フィルタ素子TX接続バンプ112及び受信用フィルタ素子RX接続バンプ122は、半田やAu等の導体材料により形成される。半田で形成する場合には、例えばスクリーン印刷により接地電極312,322、入出力電極311,321にクリーム半田を塗布した後、その半田を溶融させることで導体バンプを形成することができる。また、金で形成する場合は、例えば金線を接地電極312,322、入出力電極311,321にワイヤボンディングし、これを短い長さに切断することで導体バンプを形成することができる。
【0045】
また、回路基板200の接地用導体端子412,422、信号入出力導体端子411,421に半田印刷を行い、これを導体バンプとすることによっても、接地電極312,322及び信号入出力端子311,321との接続が可能である。あるいは、導体バンプによる接続に際して、熱もしくは超音波等を加えながら圧着することを行なってもよく、確実で良好な接続が可能である。
さらに、図7において、500は、回路基板200上に実装された弾性表面波素子100を保護するための外装保護材であり、この例では、圧電基板300の側面まで回り込んで弾性表面波素子100を保持するように形成されている。外装保護材500は、エポキシ樹脂やビフェノール樹脂,ポリイミド樹脂,固形分であるフィラーとしてアルミナや窒化アルミニウムや窒化珪素等のフィラーを混合した樹脂から成っている。あるいはAu,Ag,Cu,Sn,Al,Pb、又はこれらのうち少なくとも1つを主成分とする合金等の金属皮膜等であってもよい。かかる外装保護材500により圧電基板300を、機械的衝撃や水分・薬品等から保護することが可能となり、高信頼性の弾性表面波装置1とすることができる。なお、外装保護材500は、圧電基板300が露出しないよう圧電基板300のIDT電極等を形成した面以外の全ての面を覆うようにしてもかまわない。このようにすることにより、さらに機械的衝撃に対する耐性を確保することができる。
【0046】
図8は、図5の圧電基板300上の弾性表面波素子と図6の回路基板200とを接合して構成した弾性表面波装置の回路図である。図8の上半分が送信用フィルタ素子TXを構成する回路を示し、下半分が受信用フィルタ素子RXを構成する回路を示す。両回路は、共通の裏面接地用導体端子220により、接地されている。
本発明の弾性表面波装置1によれば、受信用フィルタ素子RXの接地電極322は、回路基板200に上面から下面にかけて設けられた複数本の貫通導体221に接続されているのに対して、送信用フィルタ素子TXの接地電極312は、回路基板200に上面から下面にかけて設けられた1本の貫通導体211に接続されていることから、送信用フィルタ素子TXの接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを増加させることができる。
【0047】
これによって送信用フィルタ素子TXの並列IDT電極について、高域側フィルタ素子の周波数帯域、すなわち受信用フィルタ素子RXの受信周波数帯域と重なる帯域におけるインピーダンスを小さくすることができるため、その受信周波数帯域と重なる帯域を通過する信号を効果的に阻止することが可能となる。したがって、送信用フィルタ素子TXの高域周波数側の帯域外減衰特性を大幅に向上させることが可能となる。
【0048】
また、本発明の弾性表面波装置1によれば、受信用フィルタ素子RXの接地電極322は、回路基板200に上面から下面にかけて直線状に形成された複数本の直線状貫通導体221に接続されていることから、受信用フィルタ素子RXの接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを低減させることができる。
これによって受信用フィルタ素子RXの並列IDT電極について、低域側フィルタ素子の周波数帯域、すなわち送信用フィルタ素子TXの送信周波数帯域と重なる帯域におけるインピーダンスを小さくすることができるため、その送信周波数帯域と重なる帯域を通過する信号を効果的に阻止することが可能となる。したがって、受信用フィルタ素子RXの低域周波数側帯域外減衰特性を良好に向上させることが可能となる。
【0049】
以上の実施形態では、送信用フィルタ素子TXの接地貫通導体の数を、受信用フィルタ素子RXの接地貫通導体の数よりも少なくすることによって(図5の例では受信用フィルタ素子RXの貫通導体が8本あるのに対して送信用フィルタ素子TXの貫通導体は1本とした)、送信用フィルタ素子TXの接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを増加させていた。
【0050】
しかしこれとともに、あるいはこれ以外の方法として、送信用フィルタ素子TXの接地貫通導体の形状を、クランク状に曲げて形成する方法がある。
図9は、送信用フィルタ素子TXの接地貫通導体の形状を変えた例を示す。
211′は回路基板200の内部に形成された送信側貫通導体である。貫通導体211′は、絶縁層の上面から下面にかけて上下方向の位置をずらせて形成された複数の貫通導体211a′を回路基板200内の絶縁層間に形成された導体層211b′で接続して形成されており、回路基板200の上面で接地用導体端子412に接続されている。
【0051】
422は回路基板200の上面に形成された受信用フィルタ素子RXの接地用導体端子、221′は回路基板200の上面から下面にかけて直線状に形成された複数の直線状貫通導体である。
このように、受信用フィルタ素子RXの接地電極322はバンプ122を介して回路基板200に上面から下面にかけて直線状に形成された複数本の直線状貫通導体221′に接続され、かつ、送信用フィルタ素子TXの接地電極312はバンプ112を介して回路基板200の上面から下面にかけて上下方向の位置をずらして設けられた貫通導体211a′を回路基板200内の絶縁層間に形成された導体層211b′で接続して形成されたクランク状貫通導体211′に接続されて、図9の弾性表面波装置1が構成されている。
【0052】
このクランク状の貫通導体211′が設けられていることから、送信用フィルタ素子TXの接地用導体端子312に生じる寄生インダクタンスを増加させることができ、これによって送信用フィルタ素子TXの並列IDT電極について、受信用フィルタ素子RXの受信周波数帯域と重なる帯域におけるインピーダンスを小さくすることができる。そのため、受信周波数帯域と重なる帯域を通過する信号を効果的に阻止することが可能となるので、送信用フィルタ素子TXの高域周波数側帯域外減衰特性を大幅に向上させることが可能となる。
【0053】
さらに、回路基板200に上面から下面にかけて直線状の貫通導体221′を複数本設けて並列接続したため、インダクタンス値をさらに小さくすることができるので、受信用フィルタ素子RXの接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスをさらに低減させることができ、受信用フィルタ素子RXの帯域外減衰特性をさらに大幅に向上させることが可能となる。
【0054】
以上の実施形態では、送信用フィルタ素子TXの貫通導体211′をクランク状にすることによってインピーダンスを大きくし、受信用フィルタ素子RXの直線状貫通導体221′の本数を増やすことによってインピーダンスを小さくしていた。しかしこれ以外の方法として、接地貫通導体の直径を変える方法、接地貫通導体の長さを変える方法がある。
図10は、受信用フィルタ素子RXの接地貫通導体の長さを短くした例を示す断面図である。この回路基板200は、圧電基板300以外の素子も搭載するモジュール用の回路基板200であることを想定している。
【0055】
211″は回路基板200の内部に形成された1本の送信側貫通導体を示す。この貫通導体211″は、図7に示したものと同じ構造である。
221a″は回路基板200の上面に形成された受信用フィルタ素子RXの接地用導体端子から内層接地電極221c″にかけて形成された短い貫通導体を示す。
この例では、多層の回路基板200の内面、例えば図10に示すX-X′面にベタの内層接地電極221c″を設け、この内層接地電極221c″をこの図面外のどこかの共通の接地電位に接続している。
【0056】
なお、内層接地電極221c″は、送信用フィルタ素子TXの貫通導体211″と接触しないように、貫通導体211″の通る箇所に孔をあけておくことが必要である。
このように、貫通導体221a″を内層接地電極221c″に接続することにより、その長さを回路基板200の厚みよりも短くすることができ、貫通導体221a″によるインダクタンスLgを、送信用フィルタ素子TXの貫通導体211″のインダクタンスより小さくすることができる。
【0057】
また、図示して説明しないが、前に述べた貫通導体の直径の許容範囲内で、送信用フィルタ素子TXの貫通導体の直径を、受信用フィルタ素子RXの貫通導体の直径よりも相対的に小さくすることも有効である。具体的には、直線状貫通導体のインダクタンスを小さくする目的からは貫通導体を0.1mm以上の直径とすればよい。
次に、本発明の弾性表面波装置の他の実施形態を説明する。
【0058】
図14は、弾性表面波素子の一主面側を示す平面図である。図15は、弾性表面波素子が実装される回路基板200の上面を示す平面図である。図16は、図15の回路基板200をB−B線で切った断面図である。
この例において、図5から図7に示したのと同一の部材には、同一の番号を付し、重複した説明は省略するものとする。
【0059】
この構成と、図5から図7に示した構成との相違点は、受信用フィルタ素子RXの接地電極を、圧電基板300上の導体パターン330aとして形成し、この導体パターン330a を環状電極330に接続していることである。そして、回路基板200の上面に形成され、環状電極330に接続される環状導体430を、回路基板200の四辺に設けた複数本の貫通導体231を介して、回路基板200の裏面に形成された接地用導体端子220に接続している。
【0060】
本構成では、図5に示した接地電極322の面積を、環状電極330を利用することによって確保したことが特徴である。
この構成により、環状電極330の広い面積を利用して、受信用フィルタ素子RXの接地インダクタンスLg2を、低い値に設定することができる。
このような構成とすることにより、より小型の弾性表面波装置を実現することができる。また、環状電極430が接地されていることにより、外部からの干渉をより小さくすることができる。
【0061】
なお、前記導体パターン330a を環状電極330に接続する構成に代えて、圧電基板上では図19に示すように、受信用フィルタ素子RXの接地電極322と環状電極330とを分離して形成し、回路基板200上で図20に示すように受信用フィルタ素子RXの接地電極に接続される接地用導体端子422を導体パターンとして形成し、この導体パターンを、回路基板200上で環状導体430に接続する構成を採用してもよい。この環状導体430を、図21に示したように、回路基板200の四辺に設けた複数本の貫通導体231を介して、回路基板200の裏面に形成された接地導体端子220に接続する。
【0062】
この構造においては、環状導体430の大きな面積を利用することにより、受信用フィルタ素子RXの接地インダクタンスLg2を、低い値に設定することができる。したがって、より小型の弾性表面波装置を実現することができる。
以上のような構成の本発明の弾性表面波装置は、通信機器、特にマルチバンドを扱う通信機器に好適に使用される。このような通信機器を、図11を用いて説明する。
【0063】
図11は、アンテナ、送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXを備える本発明の弾性表面波装置1を適用した送受信周波数帯を分離する送受信分波回路(以下、デュプレクサと呼ぶ)DPX、送信電力増幅器PA、受信低雑音増幅器LNA、及び段間の送信用フィルタ素子TX′及び段間の受信用フィルタ素子RX′により構成される通信機器を示すブロック図である。なお、段間の送信用フィルタ素子TX′及び段間の受信用フィルタ素子RX′を同一圧電基板上に作製し、本発明の弾性表面波装置1′を構成してもよい。
【0064】
この通信機器において、送信回路(図示せず)から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号を送信用バンドパスフィルタ素子TX′で減衰させ、その後、送信電力増幅器PAで送信信号を増幅して、デュプレクサDPXを通してアンテナより送信する。
前記デュプレクサDPXにおいて、受信用フィルタ素子RXの無線信号通過周波数帯域は、送信用フィルタ素子TXの無線信号通過周波数帯域に比べて高く設定されている。
【0065】
アンテナで受信された受信信号は、デュプレクサDPXを通った後受信低雑音増幅器LNAで増幅され、その後、受信用バンドパスフィルタ素子RX′で不要信号が減衰され、ミキサ(図示せず)でキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送する。
以上のような本発明の弾性表面波装置の構成によって受信用フィルタ素子RXの接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを低減させ、送信用フィルタ素子TXの接地用導体端子に生じる寄生インダクタンスを増加させることにより、それぞれ目的とする帯域外減衰特性の向上を図ることが可能となり、無線通信機器として良好な送受分離性能を得ることが可能となる。
【0066】
なお、本発明の通信機器において、本発明の弾性表面波装置による効果を十分に発揮させるには、今まで説明した構成のように、弾性表面波装置1に送信用フィルタ素子TXと受信用フィルタ素子RXとの両方が搭載されていることが好ましい。これによって送信信号及び受信信号の不要な信号をともに十分低減することができ、通信品質を向上させることが可能となるとともに、送信用フィルタ素子TX及び受信用フィルタ素子RXを一体化して小型のフィルタ素子を構成することができるため、小型で高品質な通信機器とすることができる。
【0067】
以上のような本発明の弾性表面波装置及び通信機器においては、低域側IDT電極により構成される低域側フィルタ素子を送信用フィルタ素子TXとして用い、高域側IDT電極により構成される高域側フィルタ素子を受信用フィルタ素子RXとして用いる場合を例にとって説明したが、これに対し、低域側IDT電極により構成される低域側フィルタ素子を受信用フィルタ素子RXとして用い、高域側IDT電極により構成される高域側フィルタ素子を送信用フィルタ素子TXとして用いてもよい。この場合にも、以上と同様の作用効果を奏する弾性表面波装置及び通信機器となる。
【0068】
本発明の弾性表面波装置及び通信機器に適用される送信周波数帯域及び受信周波数帯域の例としては、例えば米国のCDMA方式の場合であれば、Cellularバンドでは送信周波数帯域を824MHzから849MHzとし、受信周波数帯域を869MHzから894MHzとして、低域側フィルタ素子を送信用フィルタ素子TXに、高域側フィルタ素子を受信用フィルタ素子RXに設定する。この設定により、この通信方式に使用するデュプレクサとして適用させることが可能となる。また、PCS(Personal Communication Services)バンドでは、送信周波数帯域を1850MHzから1910MHzとし、受信周波数帯域を1930MHzから1990MHzとして、同じく低域側フィルタ素子を送信用フィルタ素子TXに、高域側フィルタ素子を受信用フィルタ素子RXに設定すればよい。また、日本国内CDMA方式の場合であれば、送信周波数帯域は887MHzから925MHzとし、受信周波数帯域は832MHzから870MHzとして、それぞれ高域側フィルタ素子を送信用フィルタ素子TXに、低域側フィルタ素子を受信用フィルタ素子RXに用いて通過帯域を設定することにより、この通信方式に使用するデュプレクサとして適用させることが可能となる。
【0069】
なお、本発明は上述の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更・改良等が可能である。例えば、フィルタ素子はDMS(Double Mode SAW)フィルタ素子やラティス型フィルタ素子等の構造を含んでいても構わない。フィルタ素子は、少なくとも1個の直列IDT電極と1個の並列IDT電極とを備えていれば良い。
【0070】
さらに、本発明の弾性表面波装置を電子回路モジュール等の実装用基板へ実装する際の実装形態も任意でよく、前述のCSP(Chip Size Package)方式だけでなく、ワイヤボンディング方式やフリップチップ方式等の種々の形態を適用することができる。
また、回路基板内に、受信用フィルタ素子RXと送信用フィルタ素子TXとの間のアイソレーションを良好にするために、蛇行状の位相整合線路やインダクタ及びキャパシタによる整合回路を配置することも可能である。これらは、アンテナ端子から見た受信用フィルタ素子RXのインピーダンスが受信周波数帯域のうち送信周波数帯域と重なる帯域において無限大に限りなく近づくようにすることにより、送信端子から送信用フィルタ素子TXを通過してきた送信信号に対して、位相整合線路又はインダクタ及びキャパシタによる整合回路から受信用フィルタ素子RX側を電気的に開放されているように見せるように機能する。この結果、送信信号は、損失を増大させることなくアンテナ端子から出力させることが可能となる。
【実施例】
【0071】
図7及び図8に示した弾性表面波装置を製造した。
弾性表面波素子は、圧電基板として38.7°YカットX方向伝搬のタンタル酸リチウム単結晶基板を用い、この一主面上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)のAl合金から成るIDT電極110,120と、接地電極312,322と、入出力電極311,321と、これらを電気的に接続する配線電極と接地用環状電極330とを形成した。
【0072】
これらの電極の作製は、スパッタリング法によりAl合金薄膜を形成した後、ステッパー及びコーターデベロッパー装置等によりフォトリソグラフィを行い、RIE(反応性イオンエッチング)装置等によりエッチングし所定の各パターンとすることにより行った。
回路基板は、複数の絶縁層が積層されて作製されている。これらの絶縁層には、アルミナを主成分とするセラミックス(誘電率9)を用い、セラミックス等のグリーンシートを作製し、所望の配線パターンや貫通導体を設けた後、これらグリーンシートを積層し圧着することにより一体形成して焼成することにより作製した。
【0073】
回路基板の上面には、前記圧電基板上の各電極に対応する導体端子あるいは環状導体を形成し、各導体端子及び環状導体に半田を形成して、前記圧電基板上の各電極を接合した。
このようにして作製した弾性表面波装置の送信用フィルタ素子TXの信号減衰量及び受信用フィルタ素子RXの信号減衰量の、周波数特性を測定した。
【0074】
その結果を図12および図13のグラフに示す。グラフの横軸は周波数、縦軸は減衰量を表す。
図12は送信用フィルタ素子TXのLg1および受信用フィルタ素子RXのLg2を、接地貫通導体の数を同じ本数とすることにより共に0.2nHとした比較例の場合の周波数特性である。図12によると、受信帯域における送信用フィルタ素子TXの信号減衰量は、893MHzにおいて41.2dBとなっている。
【0075】
図13は、送信用フィルタ素子TXのLg1を1.2nH、受信用フィルタ素子RXのLg2を0.2nHとした場合の周波数特性である。図13によると、受信帯域における送信用フィルタ素子TXの信号減衰量は、893MHzにおいて45.9dBとなっており、図12の場合に比較して、減衰量の差が4.7dBと大きく改善している。
以上の測定結果により、低損失かつ、帯域外において十分な減衰特性を持つ送信用フィルタ素子及び受信用フィルタ素子が、1つの圧電基板に実現できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】IDT電極の等価回路を示す図である。
【図2】IDT電極に直列インダクタンスLgを直列接続した回路図である。
【図3】図2の回路のインピーダンスZのリアクタンス成分Xを縦軸に、横軸に周波数をとったグラフである。
【図4】第1のフィルタ素子の並列IDT電極と直列IDT電極、及び第2のフィルタ素子の並列IDT電極と直列IDT電極の各インピーダンスの絶対値を縦軸に表したグラフと、前記第1のフィルタ素子及び第2のフィルタ素子の通過減衰特性を縦軸に表したグラフとを合成した図である。
【図5】本発明の弾性表面波装置の一実施の形態を示す図であり、弾性表面波素子100の一方主面側の平面図である。
【図6】弾性表面波素子100が実装される回路基板200上面の平面図である。
【図7】図5の圧電基板300上の弾性表面波素子と、図6の回路基板200とを接合して構成した弾性表面波装置を示す断面図である。
【図8】図5の圧電基板300上の弾性表面波素子と図6の回路基板200とを接合して構成した弾性表面波装置の回路図である。
【図9】送信用フィルタ素子TXの接地貫通導体の形状をクランク状にした例を示す断面図である。
【図10】受信用フィルタ素子RXの接地貫通導体の長さを短くした例を示す断面図である。
【図11】アンテナ、本発明の弾性表面波装置を用いたデュプレクサDPX1、送信電力増幅器PA、受信低雑音増幅器LNA、ならびに本発明の弾性表面波装置を用いた段間の弾性表面波装置1′を含む通信機器を示すブロック図である。
【図12】送信用フィルタ素子TXの信号減衰量及び受信用フィルタ素子RXの信号減衰量を測定したグラフである。
【図13】送信用フィルタ素子TXの信号減衰量及び受信用フィルタ素子RXの信号減衰量を測定したグラフである。
【図14】本発明の弾性表面波装置の他の実施の形態を示す図であり、圧電基板300の一方主面側の平面図である。
【図15】弾性表面波素子が実装される回路基板200上面の平面図である。
【図16】図15のB−Bにおける断面図である。
【図17】弾性表面波素子100が実装される回路基板200上面の平面図である。
【図18】図17のC−Cにおける断面図である。
【図19】本発明の弾性表面波装置の他の実施の形態を示す図であり、圧電基板300の一方主面側の平面図である。
【図20】本発明の弾性表面波装置が実装される回路基板200上面の平面図である。
【図21】図20のD−Dにおける断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 弾性表面波装置
110 第1のIDT電極
120 第2のIDT電極
200 回路基板
211 第1の貫通導体
220 第3の接地電極
221 第2の貫通導体
300 圧電基板と、
311 第1の入出力電極
312 第1の接地電極
321 第2の入出力電極
322 第2の接地電極
330 環状電極が形成され、
412 第1の接地用導体端子
422 第2の接地用導体端子
430 環状導体
TX 第1のフィルタ素子
RX 第2のフィルタ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板の一主面に形成された、第1の入出力電極、第1の接地電極及び第1のIDT電極を含む第1のフィルタ素子と、
前記圧電基板の同じ面に形成された、第2の入出力電極、第2の接地電極及び第2のIDT電極を含む、前記第1のフィルタ素子と周波数帯域の異なる第2のフィルタ素子と、
前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面を実装するための回路基板とを備え、
前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面において、前記第1の接地電極と、前記第2の接地電極とが電気的に分離されて形成され、
前記回路基板の前記圧電基板を実装する面において、前記第1の接地電極が接続される第1の接地用導体端子と、前記第2の接地電極に接続される第2の接地用導体端子とが分離されて形成され、
前記回路基板の前記圧電基板を実装する面と反対側の面又は前記回路基板のいずれかの内層面において、第3の接地電極が設けられ、
前記第1の接地用導体端子及び前記第2の接地用導体端子に接続され、前記回路基板を、前記第3の接地電極の位置までそれぞれ貫通する第1及び第2の貫通導体が設けられている弾性表面波装置。
【請求項2】
前記第1のフィルタ素子の通過周波数帯域が、前記第2のフィルタ素子の通過周波数帯域よりも低く、
前記第1の接地電極、前記第1の接地用導体端子及び前記第1の貫通導体の直列インダクタンスが、前記第2の接地電極、前記第2の接地用導体端子及び前記第2の貫通導体の直列インダクタンスよりも高い請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記第1の接地電極の圧電基板上の面積が、前記第2の接地電極の圧電基板上の面積よりも小さい請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記第1の貫通導体の本数が、前記第2の貫通導体の本数よりも少ない請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記第1の貫通導体がクランク形状を有する請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記第2の貫通導体は直線状を有する請求項5記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記第1の貫通導体の断面積が、前記第2の貫通導体の断面積よりも小さい請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
前記第1のIDT電極は、前記第1の入出力電極間に接続された直列IDT電極と、信号線路と接地との間につながれた並列IDT電極とを有し、
前記第2のIDT電極は、前記第2の入出力電極間に接続された直列IDT電極と、信号線路と接地との間につながれた、並列IDT電極を有する請求項1から請求項7のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項9】
前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面に、前記第1,第2のフィルタ素子を取り囲む環状電極が形成され、
前記回路基板の前記圧電基板を実装する面において、前記環状電極に接続される環状導体が形成されている請求項1から請求項8のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項10】
前記環状電極は、前記第1,第2のフィルタ素子をそれぞれ取り囲む2つの環状電極であり、
前記環状導体は、前記2つの環状電極にそれぞれ接続される請求項9記載の弾性表面波装置。
【請求項11】
前記第2の接地電極は、前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面に、前記第1,第2のフィルタ素子を取り囲むようにして形成された環状電極に接続され、
前記第2の接地用導体端子は、前記回路基板の前記圧電基板を実装する面において、前記環状電極に接続されるように形成された環状導体である請求項1から請求項8のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項12】
前記圧電基板の前記第1,第2のフィルタ素子の形成された面に、前記第1,第2のフィルタ素子を取り囲む環状電極が形成され、
前記回路基板の前記圧電基板を実装する面において、前記環状電極に接続されるように形成された環状導体が設けられ、
前記第2の接地用導体端子は、前記回路基板の前記圧電基板を実装する面に形成された環状導体に接続されており、
前記第2の貫通導体に代えて、あるいは第2の貫通導体とともに、前記環状導体に接続され、前記回路基板を、前記第3の接地電極の位置まで貫通する第3の貫通導体が設けられている請求項1から請求項8のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の弾性表面波装置と、該弾性表面波装置を回路素子とする送信回路を具備する通信機器。
【請求項14】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の弾性表面波装置と、該弾性表面波装置を回路素子とする受信回路を具備する通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−14296(P2006−14296A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156028(P2005−156028)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】