説明

弾性表面波装置及び通信装置

【課題】 通過帯域内の挿入損失が向上し、リップル発生を抑制することのできる、優れた特性の弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波素子31の3個のIDT電極2〜4の不平衡入力端子側12または不平衡出力端子12側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線27と、不平衡入力端子12または不平衡出力端子12と弾性表面波素子31とを接続した全ての信号用引き出し配線19,20とが、絶縁体15,16を介して交差して配設された交差配線部23,24をそれぞれ形成しており、交差配線部23、24は、3個のIDT電極2〜4において中央に配設されたIDT電極3を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部23,24によって生じる抵抗が略同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器等の弾性表面波装置及びこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、高減衰量等の諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。また、近年、移動体通信機器において、小型化のためアンテナが従来のホイップアンテナから誘電体セラミックス等を用いた内蔵アンテナに移行してきている。そのため、アンテナのゲインを充分に得ることが難しくなり、弾性表面波フィルタに対してさらに挿入損失を改善させる要求が増大している。
【0003】
このような広帯域化、低損失化を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT電極(Inter Digital Transducer)を設け、縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0004】
特に、隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、共振モードの状態を制御することにより広帯域化及び低損失化が図られていた(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
また、近年、移動体通信機器等の小型化、軽量化のため、弾性表面波装置の小型化が要求され、実装形態も従来のワイヤボンディング方式を用いたパッケージ実装から、フリップチップ実装方式を用いたCSP(Chip Scale Package)タイプへと変遷してきている。そのため、実装形態のみならず弾性表面波装置自体の小型化をよりいっそう進める傾向にある。
【0006】
図7は、従来の弾性表面波フィルタの電極構造を模式的に示す平面図である。圧電基板201上に並列接続させた弾性表面波フィルタ212,213を配置させ、弾性表面波フィルタ212,213は、それぞれ3個のIDT電極202,203,204及び205,206,207と、その両側に配置された反射器電極208,209及び210,211とから構成されている。
【0007】
不平衡信号端子231に接続された弾性表面波フィルタ212,213は、さらに、弾性表面波共振子214,215を介して、弾性表面波フィルタ216,217に接続されている。不平衡信号端子231に接続されたIDT電極203,206は、一対の互いに対向させた櫛歯状電極に電界を加えられ、弾性表面波を励振させる。励振された弾性表面波が中央のIDT電極203,206からIDT電極202,204,205,207に伝搬される。また、中央のIDT電極203の位相は、中央のIDT電極206の位相に対して180°異なった逆相となっており、最終的に中央のIDT電極203,206の一方の櫛状電極から平衡出力信号端子232,233へ信号が伝わり平衡出力される。このような構造により、平衡−不平衡変換機能を実現している。さらに、弾性表面波素子及び弾性表面波共振子間の配線の一部に、絶縁体241〜248を介した立体配線構造を採用することにより、弾性表面波素子自体の小型化を実現している(例えば、特許文献2を参照。)。
【0008】
なお、弾性表面波フィルタ216は、IDT電極218〜220及び反射器電極224,225から成り、弾性表面波フィルタ217は、IDT電極221〜223及び反射器電極226,227から成る。また、図7において250は接地端子である。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特開2004−282707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図7に示すような特許文献2に開示されている従来の弾性表面波装置(弾性表面波フィルタ)を用いた場合、弾性表面波素子間の配線の一部に立体配線を採用することにより、弾性表面波装置の小型化を実現することができる。しかしながら、平衡信号用配線または不平衡信号用配線の片側のみに立体配線構造を用いた場合、弾性表面波フィルタの通過帯域の周波数特性において、通過帯域内でのリップルが発生するため挿入損失が劣化する問題があった。
【0010】
また、特許文献1に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けると、弾性表面波が結合した状態で電極指ピッチが異なる部分が存在するため、通過帯域におけるフィルタ特性のリップルが大きくなり、肩特性が劣化して通過帯域の平坦な特性が得られない。また、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けるだけでは、弾性表面波の励振に利用できる基本的な共振モードの数が縦1次モードと縦3次モードの2つに限定され、他の共振モードが利用できないので、設計の自由度が小さくなっていた。そのため、通過帯域におけるフィルタ特性の平坦性を向上させ、広帯域化しつつ、挿入損失を向上させるには不充分であった。
【0011】
従って、本発明は、上述した従来の諸問題に鑑み提案されたものであり、その目的は、弾性表面波装置の小型化を実現するとともに、弾性表面波装置の通過帯域における挿入損失を劣化させず、かつリップルの発生を抑制することができ、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能できる弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の弾性表面波装置は、1)圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子が形成されており、前記弾性表面波素子が、不平衡入力端子及び不平衡出力端子に接続されている弾性表面波装置であって、前記弾性表面波素子の前記IDT電極の不平衡入力端子側または不平衡出力端子側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、前記不平衡入力端子または不平衡出力端子と前記弾性表面波素子とを接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴するとするものである。
【0013】
また、本発明の弾性表面波装置は、2)圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子が形成されており、前記第1及び第2の弾性表面波素子は、不平衡入力端子または不平衡出力端子が接続されているとともに、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされた弾性表面波装置であって、前記第1及び第2の弾性表面波素子の前記IDT電極の不平衡入力端子側または不平衡出力端子側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、前記不平衡入力端子または不平衡出力端子と前記弾性表面波素子とを接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の弾性表面波装置は、3)上記1)または2)の構成において、前記弾性表面波素子と前記不平衡入力端子または前記不平衡出力端子との間に、弾性表面波共振子が配置されており、前記不平衡入力端子または前記不平衡出力端子と前記弾性表面波共振子とが接続されていることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の弾性表面波装置は、4)上記2)または3)の構成において、前段としての前記第1及び第2の弾性表面波素子の後段に、弾性表面波共振子と第3及び第4の弾性表面波素子とのうちの少なくとも一方が配置されており、前記前段と前記後段とが接続されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の弾性表面波装置は、5)圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子が形成されており、前記第1及び第2の弾性表面波素子は、IDT電極及び反射器電極からなるとともに不平衡入力端子または不平衡出力端子が接続された弾性表面波共振子を介して並列接続されており、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央の前記IDT電極に平衡出力端子または平衡入力端子が接続されている弾性表面波装置であって、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央の前記IDT電極に接続された接地用引き出し配線と、前記弾性表面波共振子と前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれとを接続した信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の通信装置は、6)上記1)乃至5)のいずれかの構成の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の弾性表面波素子によれば、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子が形成されており、弾性表面波素子が、不平衡入力端子及び不平衡出力端子に接続されている弾性表面波装置であって、弾性表面波素子のIDT電極の不平衡入力端子側または不平衡出力端子側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、不平衡入力端子または不平衡出力端子と弾性表面波素子とを接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、交差配線部は、奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることにより、図9に示すように、図1の交差配線部15,16における抵抗R1,R2及び容量C1,C2が略同じであることにより、配線を流れる電流I1,I2が実質的に同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。
【0019】
なお、交差配線部に生じる抵抗は、例えば、交差配線部の上側の配線が部分的に薄い部分が生じたり、上や下に曲がったり、段差が生じるといった細かな厚みや形状の変化によって生じるものであり、他の配線部よりも若干高い抵抗になり易い。このような他の配線部と変わった抵抗値を示す交差配線部について、各々の交差配線部の抵抗を略同じにすることによって上記のような効果(挿入損失向上等の効果)を得ることができる。また、各々の交差配線部の抵抗を略同じにするには、例えば、その形成方法、即ちスパッタリング法等による配線部の形成条件、CVD法,フォトリソグラフィ法やビルドアップ法等の絶縁体の形成条件を同じにすることによって達成することができる。
【0020】
また、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子が形成されており、第1及び第2の弾性表面波素子は、不平衡入力端子または不平衡出力端子が接続されているとともに、第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされた弾性表面波装置であって、第1及び第2の弾性表面波素子のIDT電極の不平衡入力端子側または不平衡出力端子側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、不平衡入力端子または不平衡出力端子と弾性表面波素子とを接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、交差配線部は、奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることにより、上記と同様に、2つの交差配線部及び交差配線部における抵抗及び容量が略同じであることにより、配線を流れる電流が実質的に同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。さらに、交差配線部が、奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているので、弾性表面波装置の等価回路上導入される抵抗及び容量を、第1の弾性表面波素子及び第2の弾性表面波素子において微妙かつ高精度に調整することが可能となり、振幅平衡度及び位相平衡度を向上させることができる。
【0021】
また、上記構成により、不平衡入力端子または不平衡出力端子と縦結合共振器型弾性表面波フィルタとの間に接地用パッド電極等を配設する必要がなくなり、接地用パッド電極等のパターンを弾性表面波素子と不平衡入(出)力端子との間以外の外側にレイアウトすることが可能となり、装置面積を極力低減して弾性表面波装置を小型化することが可能となる。
【0022】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において好ましくは、弾性表面波素子と不平衡入力端子または不平衡出力端子との間に、弾性表面波共振子が配置されており、不平衡入力端子または不平衡出力端子と弾性表面波共振子とが接続されていることにより、上記と同様に、図9に示すように、図1の交差配線部15,16における抵抗R1,R2及び容量C1,C2が略同じであることにより、配線を流れる電流I1,I2が実質的に同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。さらに、弾性表面波素子のIDT電極の交差幅を従来の弾性表面波素子の半分まで狭くすることができ、従来の弾性表面波装置と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。
【0023】
また、弾性表面波共振子を介して、不平衡信号端子に第1及び第2の弾性表面波素子が並列接続されているので、従来の弾性表面波装置と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。
【0024】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記の構成において好ましくは、前段としての第1及び第2の弾性表面波素子の後段に、弾性表面波共振子と第3及び第4の弾性表面波素子とのうちの少なくとも一方が配置されており、前段と後段とが接続されていることにより、通過帯域外減衰量を大幅に低減することができる。また、この場合、弾性表面波共振子及び弾性表面波素子の交差幅を、従来の半分まで狭くすることができ、さらに、第1及び第2の弾性表面波素子が並列接続されているので、従来の弾性表面波装置と比べて抵抗損失を小さくすることができ、弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。
【0025】
また、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子が形成されており、第1及び第2の弾性表面波素子は、IDT電極及び反射器電極からなるとともに不平衡入力端子または不平衡出力端子が接続された弾性表面波共振子を介して並列接続されており、第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央のIDT電極に平衡出力端子または平衡入力端子が接続されている弾性表面波装置であって、第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央のIDT電極に接続された接地用引き出し配線と、弾性表面波共振子と第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれとを接続した信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、交差配線部は、奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることにより、上記と同様に、2つの交差配線部及び交差配線部における抵抗及び容量が略同じであることにより、配線を流れる電流が実質的に同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。さらに、交差配線部が、奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているので、弾性表面波装置の等価回路上導入される抵抗及び容量を、第1の弾性表面波素子及び第2の弾性表面波素子において、微妙かつ高精度に調整することが可能となり、振幅平衡度及び位相平衡度を向上させることができる。
【0026】
また、上記の構成により、弾性表面波共振子と第1及び第2の弾性表面波素子との間に接地用パッド電極等を配設する必要がなくなり、接地用パッド電極等のパターンを素子間以外の外側にレイアウトすることが可能となり、装置面積を極力低減して弾性表面波装置を小型化することが可能である。
【0027】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、通過帯域内のリップルの発生を抑制することができ、従来より要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、消費電力が低減されかつ感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の弾性表面波装置の実施の形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波装置について、共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成の部位には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0029】
図1に本発明の弾性表面波装置の電極構造についての平面図を示す。図1に示すように、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板1上に、この圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極2〜4と、奇数個のIDT電極2〜4の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極8,9とを有する弾性表面波素子31が形成されており、弾性表面波素子31が、不平衡入力端子12及び不平衡出力端子12に接続されており、弾性表面波素子31のIDT電極2〜4の不平衡入力端子12側または不平衡出力端子12側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線27と、不平衡入力端子11または不平衡出力端子11と弾性表面波素子31とを接続した全ての信号用引き出し配線19,20とが、絶縁体15、16を介して交差して配設された交差配線部23,24をそれぞれ形成しており、交差配線部23,24は、奇数個のIDT電極2〜4において中央に配設されたIDT電極3を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部23,24によって生じる抵抗が略同じである。
【0030】
これにより、交差配線部23,24における抵抗及び容量が略同じであることにより、信号用引出し配線19,20を流れる電流が実質的に同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。
【0031】
また、上記の構成により、不平衡入力端子12または不平衡出力端子12と弾性表面波素子31との間に接地用パッド電極等を配設する必要がなくなり、接地用パッド電極等のパターンを弾性表面波素子31と不平衡入(出)力端子12との間以外の外側にレイアウトすることが可能となり、装置面積を極力低減して弾性表面波装置を小型化することが可能となる。
【0032】
本発明において、交差配線部23,24によって生じる抵抗は1.5Ω程度以下であり、1.5Ωを超えると、抵抗の増大によって信号の損失が大きくなる。また、交差配線部23,24によって生じる抵抗は略同じであるが、交差配線部23の抵抗と交差配線部24の抵抗との差は10%以下であればよい。10%を超えると、2つの平衡出(入)力信号の振幅の差が大きくなって振幅平衡度が劣化し易くなる。
【0033】
また、交差配線部23,24には電気的な容量も生じており、その値は0.1pF程度以下であり、交差配線部23,24によって生じるそれぞれの容量も略同じである。交差配線部23の容量と交差配線部24の容量との差は10%以下であればよい。10%を超えると、2つの平衡出(入)力信号の所定の位相差(位相差180°)からのずれが大きくなって位相平衡度が劣化し易くなる。
【0034】
また、交差配線部23,24は、奇数個のIDT電極2〜4において中央に配設されたIDT電極3を中心に対称的に形成されているが、例えば、IDT電極3の弾性表面波の伝搬方向に直交する方向に平行な中心軸、換言すれば電極指の長手方向に平行な中心軸に関して、線対称に形成されている。
【0035】
本発明の絶縁体15,16としては、酸化シリコン,ポリイミド系樹脂,アクリル系レジスト等を用いることがよい。これにより、接地用引き出し配線27と信号用引き出し配線19,20との間の絶縁性を良好に保つことができる。
【0036】
絶縁体15,16の厚みは1.0μm〜10.0μm程度がよく、1.0μm未満では、配線間の絶縁性を確保することが難しくなり、10.0μmを超えると、配線の断線の発生を抑制することが難しくなって弾性表面波装置の信頼性が低下し易くなる。
【0037】
また、絶縁体15,16は、ビルドアップ法等の方法で形成される。絶縁体15,16を形成する際に、複数の絶縁層を積層させた構成としてもよい。
【0038】
また、絶縁体15,16中にアルミナセラミックス等からなる絶縁体粒子や銀等からなる金属粒子を混入させることによって、あるいは絶縁体15,16を多数の気泡が形成された多孔質体とすることによって、絶縁体15,16の誘電率を所望のものに調整することができる。
【0039】
なお、交差配線部23,24は、例えば以下のようにして形成する。まず、圧電基板1の主面上に、IDT電極2〜4や反射器電極8,9の各電極となる金属層の成膜を行う。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金等を用いる。次に、金属層上にフォトレジストを0.5μm程度の厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させる。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行い、パターニングを終了し、弾性表面波装置を構成する各電極パターンを得る。この後、電極の所定領域上に保護膜及び絶縁体15,16を形成する。即ち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極パターン及び圧電基板1上に保護膜及び絶縁体15,16となるSiO膜を1.0μm程度の厚みで形成する。さらに、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等により絶縁体15,16以外の箇所のSiO膜をエッチングして、膜厚を0.2μm程度までに調整加工する。その後、スパッタリング装置を使用し、Al−Cu合金にて信号用引き出し電極19,20を成膜する。これにより、交差配線部23,24を有する弾性表面波装置が作製される。
【0040】
また、絶縁体15,16としてポリイミド系樹脂等の樹脂を用いる場合、例えば、各電極パターン及び圧電基板1上に保護膜となるSiO膜を0.01μm程度の厚みで形成し、そのSiO膜上に絶縁体15,16となる樹脂層を2〜3μm程度の厚みにスピンコートし、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等により絶縁体15,16以外の箇所の樹脂層を除去して、SiO膜及び樹脂層が積層されて成る絶縁体15,16を形成する。
【0041】
また、図2に本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例の平面図を示す。図2に示すように、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板1上に、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極2〜4,5〜7と、奇数個のIDT電極2〜4,5〜7の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極8〜11とを有する第1及び第2の弾性表面波素子31,32が形成されており、第1及び第2の弾性表面波素子31,32は、不平衡入力端子12または不平衡出力端子12が接続されているとともに、第1及び第2の弾性表面波素子31,32のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされた弾性表面波装置であって、第1及び第2の弾性表面波素子31,32のIDT電極の不平衡入力端子12側または不平衡出力端子12側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線27,28と、不平衡入力端子12または不平衡出力端子12と弾性表面波素子31,32とを接続した全ての信号用引き出し配線19〜22とが、絶縁体15〜18を介して交差して配設された交差配線部23〜26をそれぞれ形成しており、交差配線部23〜26は、奇数個のIDT電極2〜7において中央に配設されたIDT電極3,6を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部23〜26によって生じる抵抗が略同じである。
【0042】
この構成により、上記と同様に、2つの交差配線部23,24及び交差配線部25,26における抵抗及び容量が略同じであることにより、配線を流れる電流が略同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。さらに、交差配線部23,24及び25,26が、奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7において中央に配設されたIDT電極3及び6を中心に対称的に形成されているので、弾性表面波装置の等価回路上導入される抵抗及び容量を、第1の弾性表面波素子31及び第2の弾性表面波素子32において、微妙かつ高精度に調整することが可能となり、振幅平衡度及び位相平衡度を向上させることができる。
【0043】
また、図3に本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例の平面図を示す。図3に示すように、本発明の弾性表面波装置は、上記の構成において好ましくは、弾性表面波素子31,32と不平衡入力端子12または不平衡出力端子12との間に、弾性表面波共振子33が配置されており、不平衡入力端子12または不平衡出力端子12と弾性表面波共振子33とが接続されている。
【0044】
これにより、3個のIDT電極及びその両側の反射器電極を有する弾性表面波素子と弾性表面波共振子とから成る従来の弾性表面波装置に対して、IDT電極の電気的な容量を同じとすれば、弾性表面波素子31,32のIDT電極の交差幅を半分にまで狭くすることができ、従来の弾性表面波装置と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。また、弾性表面波共振子33を介して、第1及び第2の弾性表面波素子31,32が並列接続されているので、従来の弾性表面波装置と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。
【0045】
また、図4に本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例の平面図を示す。図4に示すように、本発明の弾性表面波装置は、上記の構成において好ましくは、前段としての第1及び第2の弾性表面波素子31,32の後段に、弾性表面波共振子34,35が配置されており、前段と後段とが接続されている。
【0046】
また、図5に本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例の平面図を示す。図5に示すように、本発明の弾性表面波装置は、上記の構成において好ましくは、前段としての第1及び第2の弾性表面波素子31,32の後段に、第3及び第4の弾性表面波素子36,37が配置されており、前段と後段とがそれぞれ弾性表面波共振子34,35を介して接続されている。
【0047】
これにより、上記と同様に、交差配線部23,24おける抵抗及び容量、また交差配線部25,26における抵抗及び容量が略同じであることにより、信号用引出し配線19,20を流れる電流、また信号用引出し配線21,22を流れる電流が略同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。また、通過帯域外減衰量を大幅に低減することができる。
【0048】
また、この場合、前段として1つの弾性表面波素子、後段として1つの弾性表面波素子及び断間に1つの弾性表面波共振子を設けた従来の弾性表面波装置に対して、IDT電極の電気的な容量を同じとすれば、弾性表面波共振子34,35及び弾性表面波素子31,32,36,37の交差幅を半分にまで狭くすることができ、さらに、第1及び第2の弾性表面波素子31,32が並列接続されているので、従来の弾性表面波装置と比べて抵抗損失を小さくすることができるので、弾性表面波装置の挿入損失を向上させることができる。
【0049】
また、後段の第3及び第4の弾性表面波素子36,37においても、信号用引出し配線19a,20aと接地用引き出し配線27aとの交差部に交差配線部23a,24aが形成され、信号用引出し配線21a,22aと接地用引き出し配線28aとの交差部に交差配線部25a,26aが形成されており、交差配線部23a,24aおける抵抗及び容量、また交差配線部25a,26aにおける抵抗及び容量が略同じとされている。なお、15a〜18aは絶縁体である。なお、第3及び第4の弾性表面波素子36,37において、2a〜7aはIDT電極、8a〜11aは反射器電極である。
【0050】
また、図6に本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例の平面図を示す。図6に示すように、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板上1に、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7と、奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極8〜11とを有する第1及び第2の弾性表面波素子31,32が形成されており、第1及び第2の弾性表面波素子31,32は、IDT電極及び反射器電極からなるとともに不平衡入力端子12または不平衡出力端子12が接続された弾性表面波共振子34,35を介して並列接続されており、第1及び第2の弾性表面波素子31,32のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、第1及び第2の弾性表面波素子31,32のそれぞれの中央のIDT電極3,6に平衡出力端子13,14または平衡入力端子13,14が接続されている弾性表面波装置であって、第1及び第2の弾性表面波素子31,32のそれぞれの中央のIDT電極3,6に接続された接地用引き出し配線27,28と、弾性表面波共振子34,35と第1及び第2の弾性表面波素子31,32のそれぞれとを接続した信号用引き出し配線19〜22とが、絶縁体15〜18を介して交差して配設された交差配線部23〜26をそれぞれ形成しており、交差配線部23〜26は、奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7において中央に配設されたIDT電極3,6を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部23〜26によって生じる抵抗が略同じである。
【0051】
これにより、配線を流れる電流が略同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。さらに、交差配線部23,24及び25,26が、奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7において中央に配設されたIDT電極3及び6を中心に対称的に形成されているので、弾性表面波装置の等価回路上導入される抵抗及び容量を、第1の弾性表面波素子31及び第2の弾性表面波素子32において、微妙かつ高精度に調整することが可能となり、振幅平衡度及び位相平衡度を向上させることができる。
【0052】
さらに、上記の構成により、第1及び第2の弾性表面波共振子34,35と第1及び第2の弾性表面波素子31,32との間に接地用パッド電極等を配設する必要がなくなり、接地用パッド電極等のパターンを、弾性表面波素子31,32間や弾性表面波素子31,32と弾性表面波共振子34,35との間以外の外側の領域にレイアウトすることが可能となり、装置面積を極力低減して弾性表面波装置を小型化することが可能となる。
【0053】
なお、IDT電極2〜7,反射器電極8〜11,弾性表面波共振子33〜35の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれらの形状を簡略化して図示している。
【0054】
また、弾性表面波装置用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶が、電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため圧電基板1として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた圧電基板1であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板1の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板1が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0055】
また、IDT電極及び反射器電極は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD法等の薄膜形成法により形成する。電極厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが弾性表面波装置としての特性を得る上で好適である。
【0056】
さらに、本発明に係る弾性表面波装置の電極及び圧電基板1上の弾性表面波の伝搬部に、SiO,SiN,Si,Alを保護膜として形成して、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0057】
また、本発明の弾性表面波装置を通信装置に適用することができる。即ち、少なくとも受信回路及び送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。従って、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、弾性表面波装置の挿入損失が改善されるため、消費電力が低減され感度が格段に良好な優れた通信装置を提供できる。
【0058】
なお、上述した実施の形態の説明では、簡単のために圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する3つのIDT電極を配設した例を示したが、これに限定されるものではなく、IDT電極を5個以上の奇数個配設するようにしてもよく、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【実施例】
【0059】
本発明の弾性表面波装置(弾性表面波フィルタ)の実施例について以下に説明する。
【0060】
図3に示す弾性表面波装置を具体的に作製した実施例について説明する。38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO単結晶の圧電基板1上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)による微細な電極パターンを形成した。また、各電極パターンの作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを施すことにより行った。
【0061】
まず、圧電基板1をアセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板1の乾燥を行った後、各電極となる金属層の成膜を行った。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。このときの金属層の厚みは約0.18μmとした。
【0062】
次に、金属層上にフォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させた。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行い、パターニングを終了し、弾性表面波装置を構成する各電極パターンを得た。
【0063】
この後、電極の所定領域上に保護膜及び絶縁体15〜18を形成した。即ち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極パターン及び圧電基板1上に保護膜及び絶縁体15〜18となるSiO膜を約1.0μmの厚みで形成した。
【0064】
さらに、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等により絶縁体15〜18以外の箇所のSiO膜をエッチングして、膜厚を0.2μmまでに調整加工した。その後、スパッタリング装置を使用し、Al−Cu合金にて信号用引き出し電極19〜22を成膜した。さらに、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置でフリップチップ用窓開け部のエッチングを行った。その後、スパッタリング装置を使用し、Alを主体とするパッド電極を成膜した。このときのパッド電極の膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジスト及び不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、弾性表面波装置を外部回路基板等にフリップチップするための導体バンプを形成するためのパッド電極を完成した。
【0065】
次に、上記パッド電極上にAuからなるフリップチップ用の導体バンプをバンプボンディング装置を使用して形成した。導体バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0066】
次に、圧電基板1に分割線に沿ってダイシング加工を施し、各弾性表面波装置(チップ)ごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極パッドの形成面を下面にしてパッケージ内に収容し接着した。その後、N雰囲気中でベーキングを行い、パッケージ化された弾性表面波装置を完成した。パッケージは、セラミック層を多層積層して成る2.5×2.0mm角の積層構造のものを用いた。
【0067】
また、比較例のサンプルとして、図8に示すような弾性表面波共振子33と第1及び第2の弾性表面波素子31,32において、片側の信号用引き出し電極19及び22と接地用引き出し電極27及び28とが立体交差した交差配線部23,26が形成された弾性表面波装置を上記と同様の工程で作製した。
【0068】
尚、比較例のサンプルとして用いた図8の弾性表面波装置の上記以外の構成は、本実施例である図3に示す弾性表面波装置の構成と同様である。
【0069】
次に、本実施例及び比較例の弾性表面波装置の特性測定を行った。0dBmの信号を入力し、周波数1640〜2140MHz、測定ポイントを801ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)である。
【0070】
通過帯域近傍の周波数特性のグラフを図10に示す。図10の実線は、弾性表面波フィルタの伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。本実施例品のフィルタ特性は非常に良好であった。即ち、図10の実線に示すように、本実施例品の弾性表面波フィルタの通過帯域内にはリップルの発生は見られず、挿入損失が向上した良好なフィルタ特性が得られた。
【0071】
一方、図10の破線に示すように、比較例の弾性表面波フィルタの通過帯域内にはリップル)が発生し、挿入損失が劣化している。
【0072】
このように本実施例では、通過帯域内に発生するリップルの発生を抑制して、挿入損失を向上させた弾性表面波装置を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図4】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図5】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図6】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図7】従来の弾性表面波装置を示す平面図である。
【図8】比較例の弾性表面波装置を示す平面図である。
【図9】図1の弾性表面波装置の等価回路を示す平面図である。
【図10】実施例及び比較例の弾性表面波装置の通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0074】
1:圧電基板
31:第1の弾性表面波素子
32:第2の弾性表面波素子
36:第3の弾性表面波素子
37:第4の弾性表面波素子
33〜35:弾性表面波共振子
2〜7:IDT電極
8〜11:反射器電極
27,28:接地用引き出し配線
19〜22:信号用引き出し配線
15〜18:絶縁体
12:不平衡入(出)力端子
13,14:平衡出(入)力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波素子が形成されており、
前記弾性表面波素子が、不平衡入力端子及び不平衡出力端子に接続されている弾性表面波装置であって、
前記弾性表面波素子の前記IDT電極の不平衡入力端子側または不平衡出力端子側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、前記不平衡入力端子または不平衡出力端子と前記弾性表面波素子とを接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、
前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子が形成されており、
前記第1及び第2の弾性表面波素子は、不平衡入力端子または不平衡出力端子が接続されているとともに、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされた弾性表面波装置であって、
前記第1及び第2の弾性表面波素子の前記IDT電極の不平衡入力端子側または不平衡出力端子側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、前記不平衡入力端子または不平衡出力端子と前記弾性表面波素子とを接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、
前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項3】
前記弾性表面波素子と前記不平衡入力端子または前記不平衡出力端子との間に、弾性表面波共振子が配置されており、前記不平衡入力端子または前記不平衡出力端子と前記弾性表面波共振子とが接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前段としての前記第1及び第2の弾性表面波素子の後段に、弾性表面波共振子と第3及び第4の弾性表面波素子とのうちの少なくとも一方が配置されており、前記前段と前記後段とが接続されていることを特徴とする請求項2または3記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する第1及び第2の弾性表面波素子が形成されており、
前記第1及び第2の弾性表面波素子は、IDT電極及び反射器電極からなるとともに不平衡入力端子または不平衡出力端子が接続された弾性表面波共振子を介して並列接続されており、
前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央の前記IDT電極に平衡出力端子または平衡入力端子が接続されている弾性表面波装置であって、
前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央の前記IDT電極に接続された接地用引き出し配線と、前記弾性表面波共振子と前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれとを接続した信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、
前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極において中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−28824(P2008−28824A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200677(P2006−200677)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】