説明

形状可変ミラー及び形状可変ミラーの製造方法

【課題】発生力の大きな積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーであって、そのサイズを小型にできる形状可変ミラーを提供する。
【解決手段】
形状可変ミラーが備える支持基板には、分割された2つの領域7a、7bから成り、積層型の圧電アクチュエータ5と接合される導電性の接合部が設けられる。圧電アクチュエータ5の接合面5aには、電気的に接続されない第1の領域11aと第2の領域11bとに分断された第1の金属膜11が設けられる。圧電アクチュエータ5の側面には、第1の共通電極10aと第1の領域11aとを、また、第2の共通電極10bと第2の領域11bとを、それぞれ電気的に接続する第2の金属膜12が設けられる。圧電アクチュエータ5は、第1の金属膜11の各領域11a、11bが、それぞれ、接合部の異なる領域7a、7bと電気的に接続するに接合部に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ装置等の光学装置の光学系に備えられ、鏡面の形状を変形して、入射する光ビームの光学的歪みの補正等を行う形状可変ミラーの構造に関する。また、本発明は、形状可変ミラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、その鏡面の形状を変形して、入射する光ビームの光学的歪み等を補正する形状可変ミラーについて種々の提案がなされており、光ピックアップ装置や画像処理装置等、幅広い分野で用いられている。
【0003】
例えば、光ピックアップ装置の分野では、特許文献1や特許文献2に示すように、CD(コンパクトディスク)やDVD(デジタル多用途ディスク)等の光ディスクの情報を読み書きする際に、光ディスクのディスク面が光軸に対して傾いた時に発生するコマ収差や、光ディスクの記録面を保護する透明樹脂(保護層)の厚みの違いが原因となって発生する球面収差といった波面収差の補正を行うために、形状可変ミラーが用いられている。
【0004】
このような形状可変ミラーの構造としては、特許文献1のように圧電素子を使用したユニモルフ又はバイモルフ形状の形状可変ミラーや、特許文献2のように圧電膜等の薄膜を積層させて形成する形状可変ミラーが、従来、種々紹介されている。
【0005】
その他の形状可変ミラーとしては、特許文献3に紹介されるように、柱状に形成される圧電素子(圧電アクチュエータ)の縦方向(上下方向)の伸縮を利用して、鏡面を変形させる形状可変ミラーがある。そして、圧電素子の縦方向の伸縮を利用して鏡面を変形させる形状可変ミラーは、その製造のし易さ等に利点があり、また、特許文献2のように、薄膜を積層させて形成する形状可変ミラーに比べて、コスト面において有利である等の利点も有する。
【0006】
また、圧電素子の縦方向の伸縮を利用する場合、特許文献3にも示されているが、圧電素子の構成を積層型の圧電アクチュエータ(層状の圧電体と層状の内部電極とが交互に積層されて成るもの;特許文献4も参照)とすると、発生力を大きくできるため、特許文献1や特許文献2の構成の形状可変ミラーに比べて、鏡面の変形を大きくできるといった利点も有する。
【0007】
しかしながら、特許文献3に示すような構成で、積層型の圧電アクチュエータを用いる構成とすると、圧電アクチュエータに電圧を印加するために設けられる配線が複雑となり、その取り付け作業が難しくなるといった問題があった。そして、特に、光ピックアップ装置の光学系等、形状可変ミラーのサイズが小型であることが要求される場合には、配線の形成が困難を極め、実質的に積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーを適用できないといった問題もあった。
【特許文献1】特開2004−109562号公報
【特許文献2】特開2005−196859号公報
【特許文献3】特開平5−333274号公報
【特許文献4】特開2003−159697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の問題点に鑑み、本発明の目的は、発生力の大きな積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーであって、そのサイズを小型にでき、圧電アクチュエータに電圧を印加するための配線形成が容易である形状可変ミラーを提供することである。また、本発明の他の目的は、発生力の大きな積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーを容易に形成できる形状可変ミラーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、支持基板と、該支持基板と対向配置され、前記支持基板と対向する面と反対側の面に鏡面を有するミラー基板と、前記支持基板上に設けられて、前記ミラー基板を固定する固定部材と、前記ミラー基板の前記固定部材によって固定された部分に囲まれる領域を変形できるように、前記支持基板上に配置される少なくとも1つの圧電アクチュエータと、を備え、前記圧電アクチュエータは、層状の圧電体と層状の電極とを交互に複数積層して成り、前記層状の電極は、交互に異なる極の電極と成るように、前記圧電アクチュエータの前記積層方向と略平行となる側面に設けられる第1の共通電極と第2の共通電極とに交互に接続され、前記第1及び第2の共通電極の間に電圧を印加することにより、前記ミラー基板の変形と伴に前記鏡面を変形する形状可変ミラーにおいて、前記支持基板には、分割された2つの領域から成り、前記圧電アクチュエータと接合する導電性の接合部が少なくとも1つ形成され、前記圧電アクチュエータの接合面上には、電気的に接続されない第1の領域と第2の領域とに分断される第1の金属膜が設けられ、前記圧電アクチュエータの前記側面上には、前記第1の共通電極と前記第1の領域とを、また、前記第2の共通電極と前記第2の領域とを、それぞれ電気的に接続する第2の金属膜が設けられることを特徴としている。
【0010】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーにおいて、前記第1の金属膜と前記第2の金属膜とは同一の材質であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーにおいて、前記支持基板には、前記接合部の分割された2つの領域のそれぞれから引き出されて、外部からの給電を可能とする配線パターンが形成されることを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーにおいて、前記第1の金属膜は、熱を加えて圧着することにより、前記圧電アクチュエータと前記接合部とを接合する接合膜として機能することを特徴としている。
【0013】
また、上記目的を達成するために本発明は、前記第1の金属膜は、Auの膜であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーの製造方法において、支持基板と、該支持基板と対向配置され、前記支持基板と対向する面と反対側の面に鏡面を有するミラー基板と、前記支持基板上に設けられて、前記ミラー基板を固定する固定部材と、前記ミラー基板の前記固定部材によって固定された部分に囲まれる領域を変形できるように前記支持基板上に配置される少なくとも1つの圧電アクチュエータと、を備え、前記圧電アクチュエータは、前記支持基板上に層状の圧電体と層状の電極とを交互に複数積層して成り、前記層状の電極は、交互に異なる極の電極と成るように、前記圧電アクチュエータの前記積層方向と略平行となる側面に設けられる第1の共通電極と第2の共通電極とに交互に接続され、前記第1及び第2の共通電極の間に電圧を印加することにより、前記ミラー基板の変形と伴に前記鏡面を変形する形状可変ミラーの製造方法であって、前記支持基板に、2つの領域に分割され、前記圧電アクチュエータと接合される導電性の接合部を少なくとも1つ形成する第1の工程と、前記圧電アクチュエータの側面に設けられる第1及び第2の共通電極と、前記圧電アクチュエータの前記接合部と接合される接合面と、が電気的に接続されるように、且つ前記第1の共通電極と前記第2の共通電極とが電気的に接続されないように、前記接合面上と前記側面上とに金属膜を設ける第2の工程と、前記第2の工程の処理が行われた前記圧電アクチュエータを、前記第1の工程で得られた前記接合部上に配置し、加熱状態で圧着して前記接合部と接合する第3の工程と、を有することを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーの製造方法において、前記第1の工程で、前記接合部の形成とともに、前記接合部のそれぞれの領域から引き出されて、外部からの給電を可能とする配線パターンを形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の構成によれば、圧電アクチュエータに電圧を印加するためのプラスとマイナスの2つの電極について、支持基板上のみで取り出しが可能となるために、形状可変ミラーの鏡面を変形させるために、いわゆる積層型の圧電アクチュエータを用いた場合について、配線を複雑とせずに簡易なものとできる。このため、支持基板とミラー基板との間にワイヤ状の配線が設けられることもなく、圧電アクチュエータの支持基板上に設けられる素子を高密度に配置することが可能となり、形状可変ミラーの小型化を図ることが可能となる。また、配線が複雑とならないので、形状可変ミラーの製造時の作業負担を軽減できる。
【0017】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の形状可変ミラーにおいて、圧電アクチュエータの支持基板と接合される接合面に形成される第1の金属膜と、第1の金属膜と圧電アクチュエータの側面に形成される共通電極とを接続する第2の金属膜が同一の材質から成るために、第1の金属膜と第2の金属膜とを形成する作業効率を向上することができる。
【0018】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1又は第2の構成の形状可変ミラーにおいて、支持基板に形成される導電性の接合部の形成と同時に、外部からの給電を可能とする配線パターンの形成もできるため、製造時の作業効率を向上できる。
【0019】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1から第3のいずれかの構成の形状可変ミラーにおいて、形状可変ミラーを構成する圧電アクチュエータを、圧電アクチュエータに形成される金属膜を接合膜として支持基板に接合できるために、形状可変ミラーの形成に際し、各部の接合を接着剤によらず、全て金属膜を用いた熱圧着による接合に統一できる。すなわち、形状可変ミラーを形成する際の接合層をいずれも薄くでき、これにより、変形量の大きな形状可変ミラーを得ることが可能となる。
【0020】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第4の構成の形状可変ミラーにおいて、Auを金属膜として用いているために、圧電アクチュエータと支持基板の接合を、接合強度の強い接合とでき、形状可変ミラーの破壊が起き難い、信頼性の高い形状可変ミラーの提供が可能となる。
【0021】
また、本発明の第6の構成によれば、積層型の圧電アクチュエータに電圧を印加するためのプラスとマイナスの2つの電極について、支持基板上のみで取り出しが可能となり、更には、ワイヤ(リード線)を用いた配線も不要であるために、積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーを製造する際の作業負担が低減される。また、ワイヤ(リード線)を用いた配線が不要であることから、支持基板上の素子の高密度化が可能となり、光ピックアップ装置の小型化を可能とする。
【0022】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第6の構成の形状可変ミラーの製造方法において、支持基板上に設けられる導電性の接合部の形成と同時に、外部からの給電を可能とする配線パターンの形成もできるため、製造時の作業効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。なお、ここで示す実施形態は一例であり、本発明はここに示す実施形態に限定されるものではない。また、図面中の各部材の大きさや厚み等は理解を容易にする目的のためのものであり、実際の構成とは必ずしも一致しない。
【0024】
(形状可変ミラーの構成)
図1は、本発明の形状可変ミラーの実施形態を示す図で、形状可変ミラーを構成するミラー基板が接合される前の状態を示す概略斜視図である。図2は、本実施形態の形状可変ミラーが備える支持基板の構成を示す平面図である。図3は、図1のミラー基板が接合された形状可変ミラーについて、図1のA−Aの位置で切った形状可変ミラーの概略断面図である。主に、この図1から図3を参照しながら、本実施形態の形状可変ミラーの構成について説明する。
【0025】
1は、形状可変ミラーであり、その鏡面を変形可能に設けられ、入射する光ビームの光学的な歪みを補正する場合等に用いられる。この形状可変ミラー1は、支持基板2と、支持基板2と対向して設けられるミラー基板3と、支持基板2上に設けられてミラー基板3を固定する固定部材4と、支持基板2上に設けられて、その伸縮によりミラー基板3を突き上げて鏡面3aを変形可能とする圧電アクチュエータ5と、を備える。以下、各部について詳細に説明する。
【0026】
支持基板2は、固定部材4及び圧電アクチュエータ5を支持する役割を果たす。支持基板2は、絶縁性の部材で構成され、例えば、ガラスやセラミックス等で形成される。支持基板2上には、図2に示されるように、導電性を有する部材から成る配線パターン6と、圧電アクチュエータ5と接合する接合部7と、が設けられる。本実施形態においては、配線パターン6及び接合部7は、シリコン(Si)で形成されている。
【0027】
接合部7は、分割された2つの領域から成り、お互いは電気的に接続されていない。接合部7を2つの領域に分割する理由については後述する。また、配線パターン6は、接合部7の分割された領域のそれぞれから引き出されている。この配線パターン6は、外部から圧電アクチュエータ5への給電を可能とする。
【0028】
なお、本実施形態では、導電性を有する部材としてシリコンを選択して、配線パターン6と接合部7とを形成しているが、配線パターン6と接合部7とは、導電性の部材で形成されれば良く、絶縁性の支持基板2上に金属でパターン形成する構成等としても、もちろん構わない。
【0029】
ミラー基板3は、支持基板2と略平行に対向配置され、支持基板2と対向する面と反対側の面に鏡面3aが形成されている。このミラー基板3は、圧電アクチュエータ5の伸縮に伴って変形し、それに伴って鏡面3aを変形する構成であるために、その厚みを薄く形成する必要がある。また、ミラー基板3は圧電アクチュエータ5の伸縮に伴う変形で破壊されるようでは困るために、剛性を有する物質で形成される必要がある。このような点を考慮して、本実施形態においては、このミラー基板3をシリコン(Si)基板によって形成しており、シリコン基板の厚さは100μm程度としている。
【0030】
なお、本実施形態においては、ミラー基板3を構成する物質としてシリコンを用いているが、これに限定される趣旨ではなく、薄くすることが可能で、剛性を有する物質であれば、他の物質でも構わない。また、シリコン基板3の厚さは、本実施形態の厚さによらず、その目的等に応じて変更可能である。
【0031】
ミラー基板3の鏡面3aは、ミラー基板3上にアルミニウム(Al)の層を形成することにより得ている。Alの層の形成は、蒸着法やスパッタリング法等の方法で形成される。なお、鏡面3aは、アルミニウムに限らず、形状可変ミラー1の鏡面3aに入射する光ビームの反射光について所望の反射率を得られる物質であれば、例えば金(Au)や銀(Ag)等、種々の変更が可能である。また、本実施形態においては、ミラー基板3の上面全体を鏡面3aとする構成としているが、これに限定されず、入射する光ビームの入射径を考慮して、鏡面3aの領域を決定し、その部分にのみ反射層を形成する構成等としても構わない。
【0032】
また、ミラー基板3の支持基板2と対向する面には、図3に示すように、圧電アクチュエータ5と接触する凸部3bが設けられている。これは、圧電アクチュエータ5の伸縮によってミラー基板3に加えられる力を効率良く伝達するためのものである。この凸部3bの形成は、例えばエッチング処理によって行われる。なお、本実施形態では凸部3bを形成する構成としているが、もちろん、凸部3bを設けない構成としても構わない。
【0033】
固定部材4は、支持基板2上に配置されてミラー基板3を固定する役割を果たす。本実施形態においては、固定部材4は、ミラー基板3を、その四隅と、矩形に形成されるミラー基板3の外周側各辺の中央部(四隅に配置される固定部材4のうちの2つに挟まれる位置)と、の計8箇所で支持している。なお、固定部材4の配置については、本実施形態の構成に限定される趣旨ではなく、ミラー基板3の外周側を確実に固定できる構成であれば、種々の変更が可能である。
【0034】
この固定部材4は、例えば、ガラスやセラミックス等で形成される。固定部材4の支持基板2への接合、及び固定部材4とミラー基板3との接合は、いずれも、その間に接合層となるAu層を介在させ、例えば400℃から550℃の間の高温下、圧力を加えて接合する方式によって行っている。なお、接合層は、Au層に限らず他の金属層でも構わず、例えば、Au−Sn合金の層等としても構わない。また、これらの接合を、接着剤を用いて行う構成としても構わない。
【0035】
圧電アクチュエータ5は、電圧を印加することにより伸縮し、これによりミラー基板3と伴に鏡面3aを変形可能とする。圧電アクチュエータ5は、支持基板2上に配置されるが、ミラー基板3の外周側に配置されてミラー基板3を固定する固定部材4よりも内側に配置される。
【0036】
そして、支持基板2上に十字方向に4つ配置され、更に、向かい合う圧電アクチュエータ5同士が、鏡面3aの中心を通り鏡面3aと直交する軸に対して対称位置となるように配置されている。このように圧電アクチュエータ5を配置するのは、圧電アクチュエータ5の数を多くしすぎず、鏡面3aの変形をバランス良く行い易いからである。ただし、圧電アクチュエータ5の配置及び数は、この構成に限定される趣旨ではなく、ミラー基板3の鏡面3aをその目的に応じて変形することができれば良く、種々の変更が可能である。
【0037】
また、本実施形態においては、圧電アクチュエータ5はミラー基板3と接合されず、ミラー基板3に形成される凸部3bと接触するように配置される。圧電アクチュエータ5をミラー基板3と接合しない理由は、圧電アクチュエータ5とミラー基板3とを接合した場合にミラー基板3の鏡面3aに発生する歪みをできる限り低減する狙いからである。
【0038】
この圧電アクチュエータ5は、いわゆる積層型の圧電アクチュエータである。図4は、本実施形態の圧電アクチュエータ5の構成を示す概略断面図である。なお、図4においては、圧電アクチュエータ5が接合される接合部7(接合部7を形成する2つの領域7a、7b)についても示している。
【0039】
図4に示すように、圧電アクチュエータ5は、層状の圧電体8と層状の内部電極9とが交互に積層される構成となっている。内部電極9には、内部電極9aと内部電極9bとの2種類があり、それぞれ、圧電アクチュエータ5の対向する2つの側面にそれぞれ設けられる、第1の共通電極10a、第2の共通電極10bに接続される。すなわち、圧電アクチュエータ5に設けられる内部電極9は、交互に異なる極(プラス極とマイナス極)と成るように形成されている。
【0040】
また、内部電極9a、9bの間に挟まれる圧電体8は、図4に矢印で示す方向に分極するように、分極処理されている。なお、ここで言う分極処理とは、温度を加えながら、直流強電界を印加して、圧電体8内部の電気双極子を一定方向に揃えて、圧電活性を与えることを指す。
【0041】
図4に示されるように、圧電アクチュエータ5を構成する圧電体8は、交互に分極方向が逆となるように配置されている。このように構成することで、交互にプラス極とマイナス極となる内部電極9に電圧を印加した場合に(第1の共通電極10aと第2の共通電極10bに、いずれか一方がプラス極、他方がマイナス極となるように電圧を印加する)、各圧電体8がいずれも伸びるか、いずれも縮むか、のどちらかとなる。すなわち、この構成により、公知のように低い駆動電力で、大きな変位を得る(大きな発生力を得る)ことが可能となる。
【0042】
なお、本実施形態においては、圧電アクチュエータ5を構成する圧電体8のうち、上端及び下端の圧電体8は分極処理されていない。これは、圧電アクチュエータ5の上端及び下端が、導電性の部材と接触することを考慮するものである。この点、本実施形態においては、特に、下端の圧電体8を分極処理しない構成とする点で重要であり、その理由については後述する。
【0043】
圧電体8を構成する部材としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)やチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(ZrxTi1-x)O3)のような圧電セラミックスであれば、その種類は特に限定されるものではないが、本実施形態においては、圧電特性が優れるチタン酸ジルコン酸鉛を用いている。
【0044】
このように形成される積層型の圧電アクチュエータ5では、その側面に形成される第1の共通電極10a及び第2の共通電極10bから配線を引き出す必要があるが、本発明の形状可変ミラー1では、支持基板2上に配置する固定部材4や圧電アクチュエータ5といった素子を高密度に配置できるように、更には、配線を形成する作業が形状可変ミラー1を製造する際に負担とならないように工夫されている。
【0045】
圧電アクチュエータ5の支持基板2との接合面5aには、第1の金属膜11が設けられている。そして、第1の金属膜11は、本実施形態においては、図4に示すように、接合面5aの中央部において分断されて、第1の領域11aと第2の領域11bとを形成している。なお、第1の領域11aと第2の領域11bとは、電気的に接続されていない。そして、第1の領域11aは、第2の金属膜12によって、第1の共通電極10aと電気的に接続され、第2の領域11bは、第2の金属膜12によって、第2の共通電極10bと電気的に接続されている。
【0046】
上述のように圧電アクチュエータ5は、支持基板2に設けられる接合部7上に配置されるが、第1の金属膜11における第1の領域11aと第2の領域11bとが、2つの領域7a、7bから成る接合部7のそれぞれ異なる領域と接合するように配置される。このため、第1の共通電極10aは、第1の金属膜11及び第2の金属膜12を介して導電性の部材で形成される接合部7の領域7aと電気的に接続される。また、第2の共通電極10bは、第1の金属膜11及び第2の金属膜12を介して導電性の部材で形成される接合部7の領域7bと電気的に接続される。なお、接合部7の2つの領域7a、7bは、上述したように電気的に接続されていないために、第1の共通電極10aと第2の共通電極10bとはショートしていない。
【0047】
以上により、本実施形態の形状可変ミラー1においては、支持基板2に設けられる接合部7で、圧電アクチュエータ5に電圧を印加するためのプラス極とマイナス極との両方を取り出すことが可能となっている。そして、接合部7のそれぞれの領域7a、7bからは、配線パターン6が引き出されて、外部からの給電が可能となっている。従って、従来のように、圧電アクチュエータ5に配線を半田付けやワイヤボンディングによって配線処理する必要がなく、配線の構成が複雑とならず、形状可変ミラー1の製造作業負担を低減でき、更には配線によって占められる空間をなくせるために、支持基板2上に高密度に固定部材4及び圧電アクチュエータ5を配置でき、形状可変ミラー1の小型化が可能となる。
【0048】
なお、接合部7からの配線の引き出しは、本実施形態のように、支持基板2のミラー基板3と対向する面に配線パターン6を形成する構成でなく、接合部7に貫通穴を設けて、この部分に配線を形成する構成等としても構わない。ただし、支持基板2の接合部7が形成される面と同一面に、配線パターン6も形成する構成とする方が、接合部7と配線パターン6とを効率良く形成できて好ましい。
【0049】
また、本実施形態においては、第1の金属膜11として、金(Au)の金属膜を用いており、この第1の金属膜11の存在により、圧電アクチュエータ5と接合部7とは、後述する熱圧着の方式によって接合可能となっている。このため、圧電アクチュエータ5の電極の取り出しを圧電アクチュエータ5の接合と同時に行うことができるという利点も有している。
【0050】
なお、本実施形態においては、第1の金属膜11にAuの膜を用いているが、これに限定される趣旨ではなく、圧電アクチュエータ5と接合部7とを熱圧着できる金属であれば他の金属膜でも構わず、例えば、金と錫の合金(Au−Sn合金)等とすることも可能である。
【0051】
また、圧電アクチュエータ5と接合部7との接合を熱圧着方式によらず行えるように、圧電アクチュエータ5と接合部7との間に導電性の接着剤を用いる構成としても構わず、この場合にも、圧電アクチュエータ5の電極の取り出しを圧電アクチュエータ5の接合と同時に行うことができるという利点を有する。そして、この場合には、第1の金属膜11は、熱圧着できる金属膜でなくても良い。
【0052】
また、本実施形態では、第2の金属膜12についてもAuの膜を用いている。これは、第1の金属膜11と第2の金属膜12とで同一の材質とした方が、製造が容易となる点を考慮したものである。なお、作業効率は悪くなるが、もちろん、第2の金属膜12を第1の金属膜11と異なる種類の金属膜としても構わない。
【0053】
また、上述したように、圧電アクチュエータ5を構成する圧電体8のうち、接合部7と接合される位置に配置される圧電体8(下端の圧電体8)は、分極処理さていない。これは、本実施形態の構成の場合、下端の圧電体8は内部電極9aと、互いに異なる極となる第1の共通電極10a又は第2の共通電極10bと接続される接合部7の2つの領域7a、7bと、の間に挟まれるために、この部分の圧電体8を分極処理していると、積層型の圧電アクチュエータ5に電圧を印加した場合に、下端の圧電体8において伸縮しない部分と伸縮する部分が発生し、圧電アクチュエータ5の伸縮方向に傾きが生じるといった悪影響を及ぼすことが考えられるためである。
【0054】
(形状可変ミラーの動作)
このように構成される形状可変ミラー1の動作について説明する。図5は、図3に示す形状可変ミラー1について、圧電アクチュエータ5が伸びた状態を示す図である。図5に示すように、圧電アクチュエータ5が伸びた場合、ミラー基板3が持ち上げられて、鏡面3aが変形する。一方、圧電アクチュエータ5とミラー基板3とは接合されていないために、ミラー基板3は変形しない。なお、図5においては、左右の圧電アクチュエータ5に同一の電圧が印加されて、同じように伸びた状態を示しているが、所望の鏡面3aの変形が得られるように、各圧電アクチュエータ5に印加される電圧はそれぞれ別々に制御され、異なる電圧が印加されることもある。
【0055】
また、本実施形態においては、圧電アクチュエータ5が縮んだ場合には、鏡面3aが変形しない構成としているが、圧電アクチュエータ5とミラー基板3とを接合することにより、圧電アクチュエータ5の伸縮とともにミラー基板3の鏡面3aが変形する構成としても、もちろん構わない。
【0056】
(形状可変ミラーの製造方法)
次に、本実施形態の形状可変ミラーの製造方法について説明する。まず、ガラスにシリコンを接合して支持基板2が形成される。支持基板2を構成するシリコンは、例えば、エッチングやサンドブラストによる処理が施されて、接合部7及び接合部7から引き出される配線パターン6となる部分を除いて除去される。
【0057】
公知の方法により作製された圧電アクチュエータ5の接合面5aに第1の金属膜11(Auの膜)が、例えば、蒸着法やスパッタリング法によって形成される。この際、第1の金属膜11における第1の領域11aと第2の領域11bとが、ショートしないように、第1の領域11aと第2の領域11bとの間に隙間を形成する。隙間の形成は、隙間を作製したい部分にマスクを施して蒸着を行う等の方法により行われる。
【0058】
次に、圧電アクチュエータ5の側面の第1の共通電極10a及び第2の共通電極10bとが、第1の金属膜11と電気的に接続されるように、圧電アクチュエータ5の側面に形成される第1の共通電極10aと第2の共通電極10bとが第2の金属膜12(Auの膜)によって、例えば、蒸着法やスパッタリング法によって覆われる。
【0059】
なお、本実施形態では、図4に示すように、第1の共通電極10aと第2の共通電極10bとについて、第2の金属膜12によって、その全体が覆われる構成となっているが、これに限らず、第2の金属膜12は、第1の共通電極10aと第1の領域11aとを、また、第2の共通電極10bと第2の領域11bとを、を電気的に接続できる程度に、圧電アクチュエータ5の側面に設けられれば良い。
【0060】
次に、高さの調整された固定部材4及び圧電アクチュエータ5を支持基板2上に、熱圧着方式により接合する。熱圧着方式による接合は、各部材の接合したい部分にAuの膜を、例えば蒸着法やスパッタリング法により形成(圧電アクチュエータ5には先に示した工程で金属膜が形成されている)し、その後、加熱状態(例えば、400℃〜550℃)で、固定部材4及び圧電アクチュエータ5に所定の圧力(例えば、0.2MPa)を加えることにより行われる。
【0061】
なお、本実施形態においては、熱圧着を行うためにAuの膜を形成する構成としているが、これに限定されず、例えば金と錫の合金(Au−Sn合金)を用いる構成等としても構わない。ただし、Auの膜を用いた場合には、接合強度が増すために、Auの膜を用いて熱圧着するのが好ましい。
【0062】
次に、ミラー基板3の鏡面3aが形成される面の反対側に、Auの膜が例えば、蒸着法やスパッタリング法によって形成された後、ミラー基板3と固定部材4との接合が、加熱状態(例えば、400℃〜550℃)で、固定部材4に所定の圧力(例えば、0.2MPa)を加えることにより行われる。この場合においても、熱圧着は、Auの膜でなく、例えば、Au−Sn合金の膜を用いて行っても構わない。
【0063】
以上で、本実施形態の形状可変ミラーの製造が完了するが、形状可変ミラー1の製造方法はこれに限定される趣旨ではなく、種々の変更が可能である。この点、例えば、固定部材4と支持基板2、固定部材4とミラー基板3、圧電アクチュエータ5と支持基板2(支持基板2の接合部7)の接合は、本実施形態では、熱圧着により方式としているが、接着剤による構成等としても構わない。ただし、ミラー基板3と固定部材4との接合は、ミラー基板3を効率良く変形させる等の理由で、薄い接合膜を形成できる熱圧着方式の接合が好ましく、このことから、各部材の接合は全て熱圧着方式によるのが好ましい。
【0064】
(その他)
以上に示した実施形態では、形状可変ミラー1は、図1に示すように全体の形状が矩形状であるが、特にこの形状に制限されるものでなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更が可能である。例えば、支持基板2やミラー基板3等が円形に構成されていても構わない。また、固定部材4や圧電アクチュエータ5の形状も本実施形態の形状に限定されず、例えば、円柱状等としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の形状可変ミラーは、発生力の大きな積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーを小型化することが可能で、更に、その構成により、製造時の作業負担を低減することが可能である。このため、鏡面の変形量が大きく、小型な形状可変ミラーを必要とする光学装置に対して特に有用であり、例えば、光ピックアップ装置、ビデオプロジェクタ、デジタルカメラ等に、特に有用である。
【0066】
また、本発明の形状可変ミラーの製造方法によれば、積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーの製造時の作業負担が軽減できるために、積層型の圧電アクチュエータを備える形状可変ミラーの製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】は、本実施形態の形状可変ミラーの構成を示す図で、形状可変ミラーを構成するミラー基板が接合される前の状態を示した概略斜視図である。
【図2】は、本実施形態の形状可変ミラーが備える支持基板の構成を示す平面図である。
【図3】は、図1の形状可変ミラーが組立てられた状態において、図1のA−Aで切った概略断面図である。
【図4】は、本実施形態の圧電アクチュエータの構成を示す概略断面図である。
【図5】は、図3に示す形状可変ミラーについて、圧電アクチュエータが伸びた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 形状可変ミラー
2 支持基板
3 ミラー基板
3a 鏡面
4 固定部材
5 圧電アクチュエータ
5a 圧電アクチュエータの接合面
6 配線パターン
7 接合部
8 圧電体
9 内部電極(層状の電極)
10a 第1の共通電極
10b 第2の共通電極
11 第1の金属膜
11a 第1の領域
11b 第2の領域
12 第2の金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
該支持基板と対向配置され、前記支持基板と対向する面と反対側の面に鏡面を有するミラー基板と、
前記支持基板上に設けられて、前記ミラー基板を固定する固定部材と、
前記ミラー基板の前記固定部材によって固定された部分に囲まれる領域を変形できるように、前記支持基板上に配置される少なくとも1つの圧電アクチュエータと、
を備え、
前記圧電アクチュエータは、層状の圧電体と層状の電極とを交互に複数積層して成り、
前記層状の電極は、交互に異なる極の電極と成るように、前記圧電アクチュエータの前記積層方向と略平行となる側面に設けられる第1の共通電極と第2の共通電極とに交互に接続され、
前記第1及び第2の共通電極の間に電圧を印加することにより、前記ミラー基板の変形と伴に前記鏡面を変形する形状可変ミラーにおいて、
前記支持基板には、分割された2つの領域から成り、前記圧電アクチュエータと接合する導電性の接合部が少なくとも1つ形成され、
前記圧電アクチュエータの接合面上には、電気的に接続されない第1の領域と第2の領域とに分断される第1の金属膜が設けられ、
前記圧電アクチュエータの前記側面上には、前記第1の共通電極と前記第1の領域とを、また、前記第2の共通電極と前記第2の領域とを、それぞれ電気的に接続する第2の金属膜が設けられることを特徴とする形状可変ミラー。
【請求項2】
前記第1の金属膜と前記第2の金属膜とは同一の材質であることを特徴とする請求項1に記載の形状可変ミラー。
【請求項3】
前記支持基板には、前記接合部の分割された2つの領域のそれぞれから引き出されて、外部からの給電を可能とする配線パターンが形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の形状可変ミラー。
【請求項4】
前記第1の金属膜は、熱を加えて圧着することにより、前記圧電アクチュエータと前記接合部とを接合する接合膜として機能することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の形状可変ミラー。
【請求項5】
前記第1の金属膜は、Auの膜であることを特徴とする請求項4に記載の形状可変ミラー。
【請求項6】
支持基板と、
該支持基板と対向配置され、前記支持基板と対向する面と反対側の面に鏡面を有するミラー基板と、
前記支持基板上に設けられて、前記ミラー基板を固定する固定部材と、
前記ミラー基板の前記固定部材によって固定された部分に囲まれる領域を変形できるように前記支持基板上に配置される少なくとも1つの圧電アクチュエータと、
を備え、
前記圧電アクチュエータは、前記支持基板上に層状の圧電体と層状の電極とを交互に複数積層して成り、
前記層状の電極は、交互に異なる極の電極と成るように、前記圧電アクチュエータの前記積層方向と略平行となる側面に設けられる第1の共通電極と第2の共通電極とに交互に接続され、
前記第1及び第2の共通電極の間に電圧を印加することにより、前記ミラー基板の変形と伴に前記鏡面を変形する形状可変ミラーの製造方法であって、
前記支持基板に、2つの領域に分割され、前記圧電アクチュエータと接合される導電性の接合部を少なくとも1つ形成する第1の工程と、
前記圧電アクチュエータの側面に設けられる第1及び第2の共通電極と、前記圧電アクチュエータの前記接合部と接合される接合面と、が電気的に接続されるように、且つ前記第1の共通電極と前記第2の共通電極とが電気的に接続されないように、前記接合面上と前記側面上とに金属膜を設ける第2の工程と、
前記第2の工程の処理が行われた前記圧電アクチュエータを、前記第1の工程で得られた前記接合部上に配置し、加熱状態で圧着して前記接合部と接合する第3の工程と、
を有することを特徴とする形状可変ミラーの製造方法。
【請求項7】
前記第1の工程で、前記接合部の形成とともに、前記接合部のそれぞれの領域から引き出されて、外部からの給電を可能とする配線パターンを形成することを特徴とする形状可変ミラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−40299(P2008−40299A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216638(P2006−216638)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】