説明

形状測定方法、及び形状測定装置

【課題】 高精度で面形状を測定でき、そのために短時間で加工を終了できる形状測定装置及び形状測定方法を提供する。
【解決手段】 形状を測定する被測定物の加工面に所定の接触力で接触する接触体と、この接触体を前記加工面に対して進退可能に保持する保持部と、前記被測定物を載置するステージと、予め定められた所定軌跡で相対移動させ、前記被測定物の加工面形状と前記所定軌跡とのズレを、前記接触体の前記保持部に対する所定閾値以上の前記移動量変動の有無によって検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の光学面形状を測定する測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、非球面レンズやその金型を加工した後又はインプロセスでその形状を測定する2軸又は3軸以上の形状測定装置が知られている。被測定物となるワークをステージに載置し、そのワークの加工面を接触体で追従させる。ステージ又は接触体を保持する保持部がその対向方向とは直交する方向に直線移動することにより、ワークの形状に追随して接触体が前進又は後退する。この接触体の前進量又は後退量がワークの形状を反映する(例えば、「特許文献1」、「特許文献2」参照。)。
【0003】
接触体の移動量は、接触体の移動に連動して移動するスケールを取り付け、そのスケールを読み取って計測する干渉走査方式が知られている。この干渉走査方式によるスケールと読取部との構成を図13に示す。
【0004】
図13に示すように、スケール16には、DIADUR位相格子が所定の格子ピッチで並んでいる。このスケール16と対向して読取部17たる受光素子が配置されている。また、スケールと受光素子との間には、透過位相格子を配した走査レクチル17aが介在している。
【0005】
この干渉走査方式では、光波が走査レクチル17aを通過するとほぼ同等の光度を有する反射回折次数−1,0,1の3つの部分波に回折される。この部分波はスケール16でさらに回折されて反射回折次数−1と1として検出される。これらの部分波が再び走査レクチル17aで一つになり、回折されて干渉し、3つの位相差がある波が作られる。これらの波が異なる角度で走査レクチル17aを通過し、受光素子17に捉えられる。回折格子が1格子ピッチ移動すると、1波長分移動するため、干渉走査方式では、この波長の移動を捉えることで接触体の移動量を読み取っている。
【0006】
また、接触体の移動量を計測する方式としてはレーザによる光干渉法も知られている(例えば「特許文献3」参照。)。
【0007】
これら方式でワークの形状を表した接触体の移動量を読み取り、移動量を走査に対応してプロットしたグラフを検証することでワークの加工面が所望の形状となっているか判断する。ワークの加工面が所望の形状となっていなければ、加工工程に戻り、加工と形状測定とを繰り返す。
【0008】
【特許文献1】特開2005−147746号公報
【特許文献2】特開2005−502876号公報
【特許文献3】特開2002−357415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のスケールを用いた干渉走査方式では、スケールの格子ピッチに起因する読み値の誤差が発生することが知られている。この誤差は、格子ピッチの±1%程度の範囲で生ずる。非球面レンズやその金型は、その形状に高精度が要求されるため、この誤差を抑えるためには、格子ピッチの小さいスケールが必要となるが、このようなスケールは一般的に高価である。また、上記のレーザによる光干渉法を用いることもできるが、この場合、測定装置が大型化してしまい、昨今の加工装置に形状測定装置を搭載するようなタイプでは適さない。また、構成が複雑化して高価なものとなってしまう。
【0010】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、高精度で面形状を測定でき、そのために短時間で加工を終了できる形状測定装置及び形状測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様は、形状を測定する被測定物の加工面に所定の接触力で接触する接触体と、前記接触体を前記加工面に対して進退可能に保持する保持部と、前記被測定物を載置するステージと、前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出する検出部と、を有する形状測定装置を用いた形状測定方法であって、前記ステージと前記保持部とを予め定められた所定軌跡で相対移動させる移動ステップと、前記被測定物の加工面形状と前記所定軌跡とのズレを、前記接触体の前記保持部に対する所定閾値以上の前記移動量変動の有無によって検出する検出ステップと、を有すること、を特徴とする。
【0012】
本発明の第2の態様は、前記検出ステップでは、前記所定閾値以上の前記移動量変動が無ければ前記被測定物の表面形状は前記所定軌跡に沿うと判定すること、を特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記移動ステップでは、前記ステージは、少なくとも、前記接触体が前記保持部に対して進退する方向と平行な方向に移動すること、を特徴とする。
【0014】
本発明の第4の態様は、前記移動ステップでは、前記保持部は、少なくとも、前記接触体と共に前記進退する方向に移動すること、を特徴とする。
【0015】
本発明の第5の態様は、前記移動ステップでは、前記ステージと前記保持部のそれぞれが、少なくとも、前記接触体が前記保持部に対して進退する方向に移動すること、を特徴とする。
【0016】
本発明の第6の態様は、前記検出部は、前記接触体の前記保持部からの進退に連動するスケール部と、前記スケール部の移動量を読み取る読取部とを含み、前記検出ステップでは、前記スケール部の前記所定以上の移動量変動の有無を前記読取部で検知することによって、前記接触体の前記保持部に対する所定閾値以上の前記移動量変動の有無を検出すること、を特徴とする。
【0017】
本発明の第7の態様は、前記ステージに測定基準物を載置して、前記測定基準物の加工面形状の軌跡データを予め生成する生成ステップをさらに含み、前記生成ステップでは、記測定基準物を載置した前記ステージと前記保持部とを前記接触体が進退する方向と直交する方向に相対移動させ、前記相対移動による前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量に基づき、前記測定基準物の加工面形状の軌跡データを生成し、前記移動ステップでは、前記軌跡データに従った前記所定軌跡で、前記ステージと前記保持部とを相対移動させること、を特徴とする。
【0018】
本発明の第8の態様は、前記生成ステップでは、前記ステージに測定基準物を載置して、生成した軌跡データに従って前記ステージと前記保持部とを相対移動させて前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出し、この移動量が所定値以下になるように前記軌跡データを補正すること、を特徴とする。
【0019】
本発明の第9の態様は、被測定物の加工面形状を測定する形状測定装置であって、形状を測定する被測定物の加工面に所定の接触力で接触する接触体と、前記接触体を前記加工面に対して進退可能に保持する保持部と、前記被測定物を載置するステージと、前記ステージと前記保持部とを予め定められた所定軌跡で相対移動させる駆動制御部と、前記被測定物の加工面形状と前記所定軌跡とのズレを、前記接触体の前記保持部に対する所定閾値以上の前記移動量変動の有無によって検出する検出部と、を備えること、を特徴とする。
【0020】
本発明の第10の態様は、前記駆動制御部は、少なくとも、前記ステージを前記接触体が保持部に対して進退する方向に移動させること、を特徴とする。
【0021】
本発明の第11の態様は、前記駆動制御部は、少なくとも、前記保持部を前記進退する方向に移動すること、を特徴とする。
【0022】
本発明の第12の態様は、前記検出部は、前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動に連動するスケール部と、前記スケール部の移動量を読み取る読取部と、を含むこと、を特徴とする。
【0023】
本発明の第13の態様は、前記所定軌跡として測定基準物の加工面形状に従った軌跡データを予め生成する生成する生成部をさらに備え、前記駆動制御部は、前記軌跡データに従った前記所定軌跡で、前記ステージと前記保持部とを相対移動させること、を特徴とする。
【0024】
本発明の第14の態様は、前記駆動制御部は、前記軌跡データの生成のために、前記測定基準物を載置した前記ステージと前記保持部とを前記接触体が保持部に対して進退する方向と直交する方向に相対移動させ、前記検出部は、前記相対移動による前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出し、前記生成部は、前記検出部で検出された前記移動量に基づき、前記測定基準物の加工面形状の軌跡データを生成すること、を特徴とする。
【0025】
本発明の第15の態様は、前記駆動制御部は、前記軌跡データの生成のために、生成した軌跡データに従って前記ステージと前記保持部とを相対移動させ、前記検出部は、この相対移動による前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出し、前記生成部は、この移動量が所定値以下になるように前記軌跡データを補正すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、スケールの読値が変動したかしていないかという精度誤差の少ない検出方法で被測定物の加工面が所定軌跡に沿っているかを測定できるため、精度の高い測定が可能となる。さらにはこの読値は、所定軌跡と被測定物の加工面形状との差分しか移動しないため、格子ピッチ内での僅かな移動で収まり、格子ピッチに起因する誤差が生じにくい。高精度で計測できれば、加工と計測を繰り返す回数は、低減され、加工が短時間に終了する。また、精度の高いスケールを用いる必要もなく安価で、レーザ測定方式のように大型化してしまうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る形状測定方法及び形状測定装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る形状測定装置の構成を示す図である。
【0029】
形状測定装置は、ワークWを加工する加工機(図示せず)に搭載された装置であり、ワークWを加工した後、ワークWを載置させたまま加工形状を測定する。この被測定物たるワークWは、例えば非球面レンズやその金型である。形状測定装置は、この非球面レンズや金型の光学面形状を測定する。この形状測定装置は、形状測定装置本体1とNC装置18とデータ生成装置19とにより構成される。
【0030】
形状測定装置本体1は、ワークWを載置する平面を有するステージ10を備える。ステージ10は、平面をXY平面として、X軸方向及びY軸方向にワークWをスライドさせる。ワークWは、加工面をY軸方向に向けてX軸方向に拡がるように載置される。
【0031】
ステージ10に載置されたワークWにはY軸方向からその加工面に接触体11が所定接触力で接触する。所定接触力とは、ワークWを押し出さず、ワークWの加工面を常に追従する程度の接触力をいう。接触体11は、ロッド12の先端に取り付けられている。ロッド12は、Y軸方向に延び、軸受け13に支持されている。軸受け13は、ロッド12をX軸方向に摺動可能に支持している。ロッド12は、図示しないエアシリンダによって後端から圧力を受けて突出し、伴って接触体11が保持部14から前進して加工面に接触する。接触体11がワークWの加工面が迫り出す等して押圧力を受けると、ロッド12が埋没し、伴って接触体11が後退する。
【0032】
ロッド12は、保持部14に対してY軸方向に突出及び埋没可能に取り付けられている。即ち、保持部14は、ロッド12を介して接触体11をY軸方向に進退可能に保持している。保持部14は、形状測定装置本体1のベース15に図示しないレールを介して取り付けられており、レールを摺動することでZ軸方向に移動可能となっている。
【0033】
ロッド12には、スケール16が固定されている。スケール16は、DIADUL位相格子が所定ピッチで並ぶ所謂物差しである。例えばこのスケール16は、本実施形態の計測方式によると格子ピッチが1μm以上のものを用いることができる。このスケール16は、ロッド12の突出及び埋没に伴って進退する。即ち、接触体11とスケール16のX軸方向への進退は連動している。このスケール16の上方には読取部17が設置されている。読取部17は、受光素子であり、受光素子とスケール16との間に配された走査レクチル17aを含む。走査レクチル17aには、透過位相格子が貫設されている。読取部17は、走査レクチル17aを介してスケール16から反射した光を受光してスケール16の移動量を検出している。即ち、接触体11の保持部14かに対する進退方向への移動量を検出している。
【0034】
NC装置18は、この形状測定装置本体1の駆動を制御する。ステージ10をXY平面上にスライドさせ、また保持部14をZ軸方向にスライドさせることにより、ステージ10と保持部14とを相対的に所定の軌跡を描かせる。また、ステージ10をロッド12の延びと直交する方向にスライドさせることによりステージ10と保持部14とを平行移動させる。
【0035】
データ生成装置19は、所謂コンピュータである。このデータ生成装置19は、NC装置18に軌跡データを出力する。NC装置18は、この軌跡データに従って保持部14とステージ10とを相対移動させる。データ生成装置19には、読取部17が読み取った接触体11の移動量が入力される。データ生成装置19は、この移動量をプロットして軌跡データを生成する。
【0036】
図2及び図3は、この形状測定装置のワークWの形状を測定する態様模式図である。形状測定装置では、ステージ10と保持部14とを所定軌跡で相対的に移動させてワークWの形状を計測する。図2は、ワークWを載置したステージ10を移動させることによりステージ10と保持部14とを所定軌跡で相対的に移動させた場合を示す図であり、図3は、保持部14を移動させることによりステージ10と保持部14とを所定軌跡で相対的に移動させた場合を示す図である。尚、保持部14を移動させる場合には、保持部14側にもXY平面に保持部14をスライド可能な機構を備える。また、ステージ10と保持部14とを接触体11の進退方向、即ちY軸方向に移動させ、同時にこの進退方向と直交する方向、即ちX軸方向に移動させ、相対的に軌跡データMSTに沿うように移動させるようにしてもよい。
【0037】
このワークWの測定の前に、データ生成装置19からは、NC装置18へ測定基準物の光学面形状を測定して得た測定基準物の光学面形状の軌跡データMSTが出力される。測定基準物は、目標となる高精度の光学面形状を有する非球面レンズやその金型である。ワークWは、この測定基準物の光学面形状に近似するように加工される。
【0038】
NC装置18は、ステージ10と保持部14とをこの軌跡データMSTに従った軌跡で相対的に移動させる。即ち、ステージ10若しくは保持部14又は双方を接触体11の進退方向、即ちY軸方向に移動させ、同時にこの進退方向と直交する方向、即ちX軸方向に移動させ、相対的に軌跡データMSTに沿うように移動させる。尚、図2に示すように、ステージ10を移動させる場合には、軌跡データMSTをX軸を中心に反転させて、その反転させた軌跡データMSTに従った軌跡で移動させる。
【0039】
ステージ10と保持部14とを軌跡データMSTに沿って相対的に移動させると、接触体11はワークWの加工面を追従する。ワークWの加工面が軌跡データMSTと近似していると、軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とが離れれば、その離れた分だけワークWの追従箇所が迫り出すはずであり、追従箇所と保持部14との距離は変わらないため接触体11に作用する押圧力は変わらず、接触体11は保持部14に対して進退方向に移動しない。従って、スケール16も移動せず読取部17の読値も変わらない。
【0040】
また、ワークWの加工面が軌跡データMSTと近似していると、軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とが近づけば、その近づいた分だけワークWの追従箇所が深くなるはずであり、追従箇所と保持部14との距離は変わらないため接触体11に作用する押圧力は変わらず、接触体11は保持部14に対して進退方向に移動しない。従って、スケール16も移動せず読取部17の読値も変わらない。
【0041】
一方、ワークWの加工面と軌跡データMSTとが異なる追従箇所があると、軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とが離れても、その離れた分だけワークWの追従箇所が迫り出さず、追従箇所と保持部14との距離が変わるため接触体11はロッド12の後端から圧力によって保持部14に対して進退方向に前進する。従って、スケール16も連動して進退方向に前進し、読取部17の読値が変動する。この読値は、ワークWの加工面と軌跡データMSTのズレが表れた値である。
【0042】
また、ワークWの加工面と軌跡データMSTとが異なる追従箇所があると、軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とが近づいても、その近づいた分だけワークWの追従箇所が深くならず、追従箇所と保持部14との距離が変わるため接触体11は保持部14に対して進退方向に後退する。従って、スケール16も連動して進退方向に後退し、読取部17の読値が変動する。
【0043】
例えば、ステージ10と保持部14とが相対移動してステージと保持部14とが距離D1だけ近づいたものとする。そして、そのときの接触体11の追従箇所は距離D2だけ深くなったとする。この距離D1とD2とが略同値であれば、その追従箇所は測定基準物の対応箇所と近似していると判断できる。一方、読値の初期値から距離D1と距離D2との差分(D1−D2)の値への所定閾値を超える変動を読取部17が検出すれば、少なくともその追従箇所で測定基準物の対応箇所と異なっていると判断できる。
【0044】
このように、この形状測定装置では、軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とを相対移動させ、軌跡データMSTとワークWとが異なる箇所があればそれを読値の変動により検出することにより、測定基準物とワークWとの相違点箇所を計測することができる。
【0045】
図4は、この形状測定装置によって測定基準物の光学面形状が近似したワークWの加工面を計測して得た読値のグラフである。また、図5は、この形状測定装置によって測定基準物の光学面形状と異なるワークWの加工面を計測して得た読値のグラフである。これらグラフは、所定のZ軸高さにおけるワークWの2次元形状を測定したものである。
【0046】
図4に示すように、測定基準物の光学面形状が近似したワークWを計測すると、グラフは平坦になり、読値の所定閾値を超える変動はなく、変動範囲は一定以下となる。ここでは、スケール16に並ぶ格子の格子ピッチSPの4分の1、即ちSP/4を閾値とし、このSP/4までの読値変動は、移動無しとする。また、SP/4を超える読値の変動は、移動があったとする。読値には、格子ピッチSPの100分の1程度の精度誤差が生じるが、読値が変動したかしていないかであれば、高精度に形状を把握することができる。読値の変動がこのSP/4以下の範囲であれば、ワークWの加工面が測定基準物の光学面形状に近似していると判断できる。
【0047】
一方、図5に示すように、測定基準物の光学面形状と異なるワークWの加工面を計測すると、グラフにはSP/4を超える読値の変動箇所が表れる。SP/4を超える読値の変動が検出されると、その追従箇所で接触体11のSP/4を超える移動量の変動があったと検出されたこととなり、その追従箇所で測定基準物の光学面形状とワークWの加工面とは異なることがわかる。図5では、加工面の最深部以外は、全体的に接触体11の移動が検出されており、最深部以外の箇所の加工があまいことが計測できる。
【0048】
このような形状測定装置による形状測定方法を図6に示す。図6は、この形状測定装置による形状測定の動作を示すフローチャートである。
【0049】
ステージ10に載置されたワークWが加工されると(S11)、形状測定装置は、接触体11を進退方向に前進させてワークWの加工面に所定接触で接触させる(S12)。ロッド12の後端に圧力を与えてロッド12を接触体11が加工面に突き当たるまで突出させることにより、接触体11が前進する。
【0050】
次に、形状測定装置は、ステージ10と保持部14とを測定基準物の軌跡データMSTに従って相対移動させる(S13)。
【0051】
データ生成装置19からは軌跡データMSTがNC装置18に出力され、NC装置18は、例えば保持部14を固定したまま、軌跡データMSTをX軸を中心として反転させたデータに従う軌跡を描くようにX軸方向及びY軸方向にステージ10をスライドさせる。また、NC装置18は、例えばステージ10を固定したまま、軌跡データMSTに従う軌跡を描くようにX軸方向及びY軸方向に保持部14をスライドさせる。または、NC装置18は、例えばステージ10と保持部14とをともにX軸方向及びY軸方向にスライドさせ、全体として軌跡データMSTに従う軌跡を描くように相対移動させる。そして、XY平面方向に走査したあと、Y軸方向を副走査方向として保持部14を所定量移動させてまたXY平面方向に走査する。
【0052】
この相対移動の間、接触体11が保持部14に対して進退方向に所定閾値以上移動することで、所定閾値を超える移動量変動が検出されれば(S14,No)、ワークWの加工面は測定基準物の許容範囲内にはないと判定する(S16)。一方、接触体11が保持部14に対して進退方向への移動が所定閾値以内であるため、所定閾値を超える移動量変動が検出されなければ(S14,Yes)、ワークWの加工面は測定基準物の許容範囲内で一致していると判定する(S15)。
【0053】
相対移動の間、読取部17は、スケール16から読値を読み取る。接触体11が保持部14に対してSP/4以上移動し、読値がSP/4以上で変動すれば、ワークWの加工面は測定基準物の許容範囲内にないと判断できる。
【0054】
このように、本実施形態の形状測定方法及び装置によれば、ワークWの形状測定に際し、ワークWを載置したステージ10と接触体11を保持した保持部14とをワークWの理想形状であるワーク加工物の軌跡データMSTに従って相対移動させるようにした。
【0055】
従って、スケール16の読値が変動したかしていないかという精度誤差の少ない検出方法でワークWの加工面が軌跡データMSTに沿っているかを測定できるため、精度の高い測定が可能となる。さらにはこの読値は、軌跡データMSTとワークWの加工面形状との差分しか移動しないため、格子ピッチ内での僅かな移動で収まり、格子ピッチに起因する誤差が生じにくい。高精度で計測できれば、加工と計測を繰り返す回数は、低減され、加工が短時間に終了する。
【0056】
また、精度の高いスケール16を用いる必要もなく安価で、レーザ測定方式のように大型化してしまうことがない。
【0057】
次に、この形状測定装置による軌跡データMSTの生成について図7乃至図12に基づき詳細に説明する。図7は、形状測定装置による軌跡データMSTの生成の動作を示すフローチャートである。
【0058】
まず、軌跡データMSTを採取する測定基準物MWをステージ10に載置し(S21)、ステージ10と保持部14の何れかを進退方向と直交する方向、即ちX軸方向に沿って直線移動させて接触体11を保持部14に対して測定基準物の光学面MSの形状に合わせて前進又は後退移動させる(S22)。即ち、測定基準物MWの形状を測定する。図8は、この測定基準物MWの形状測定を示す模式図である。
【0059】
図8に示すように、光学面MSをY軸方向に向けて測定基準物MWをステージ10に載置し、接触体11を前進させて光学面MSの一端に接触させる。そして、ステージ10又は保持部14をX軸方向に直線的にスライドさせる。このスライドに伴い、接触体11は、光学面MSの一端から他端へ光学面MSを追従する。このとき、ステージ10と保持部14とは、ロッド12が突出又は埋没する方向の離間距離が変わらないため、接触体11は、光学面MSの形状に合わせて保持部14から前進又は後退することにより光学面MSを追従する。
【0060】
光学面MSの他端まで接触体11が追従すると、Z軸方向を副走査方向として保持部14をZ軸方向に所定間隔移動させ、そのXY平面において再度接触体11を光学面MSに追従させる。このXY平面における主走査とZ軸方向への副走査を繰り返し、3次元的に測定基準物MWの光学面MSを追従させる。
【0061】
接触体11が保持部14から前進又は後退することにより光学面MSを追従すると、形状測定装置は、保持部14からの接触体11の移動量を計測する(S23)。接触体11の保持部14からの前進又は後退に連動してスケール16が移動し、その移動量を表す読み値を読取部17で読み取る。
【0062】
接触体11の移動量を計測すると、形状測定装置は、読値で得られる接触体11の移動量をプロットすることで測定基準物MWの軌跡データMSTを生成する(S24)。
【0063】
図9は、生成された軌跡データMSTを示すグラフである。読取部17が読み取った読値は、接触体11の追従に連動して連続的にデータ生成装置19に出力される。データ生成装置19は、この読値を追従箇所に対応付けてプロットしていく。読値は、接触体11の移動量であり、追従箇所の深さを表す。従ってこの読値をプロットして得たグラフ形状が測定基準物MWの光学面MSの形状を表し、このグラフが軌跡データMSTとなる。
【0064】
この軌跡データMSTが生成されると、次に形状測定装置は、測定基準物MWを載置させたまま、この軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とを相対移動させる(S25)。図10は、この軌跡データMSTに従ったステージ10と保持部14との相対移動を示す模式図である。同図では、ステージ10を固定して保持部14を軌跡データMSTに従って移動させる場合を示している。
【0065】
データ生成装置19は、軌跡データMSTを生成すると、この軌跡データMSTをNC装置18に出力する。NC装置18は、軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とを相対的に移動させる。
【0066】
測定基準物MWの光学面MSの形状と軌跡データMSTが表す軌跡形状とが精度良く一致していれば、ステージ10と保持部14とが近づけば、その分だけ測定基準物MWの光学面MSは深くなり、ステージ10と保持部14とが離れれば、その分だけ測定基準物MWの光学面MSは迫り上がるため、接触体11は保持部14から前進も後退もしない。
【0067】
軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とを相対移動させると、形状計測装置は、接触体11保持部14に対する進退方向への前進又は後退移動を検出する(S26)。
【0068】
図11は、軌跡データMSTに従ってステージ10と保持部14とを相対移動させることにより測定基準物MWの形状を測定した測定結果を示す図である。保持部14から接触体11が前進又は後退すると、連動してスケール16が移動し、その移動量を読取部17が読み取る。読み取った読値をプロットしたグラフ形状のうち、一部でもSP/4を超えていれば、接触体11が保持部14から前進又は後退したことが検出されたこととなる。
【0069】
SP/4を超える移動量変動が検出されれば(S26,Yes)、データ生成装置19は、この読値をプロットしたグラフを補正データCDとして生成する(S27)。
【0070】
SP/4を超えた移動量で前進又は後退した箇所は、測定基準物MWと軌跡データMSTが相違している箇所を意味している。この測定基準物MWと軌跡データMSTとの相違は、格子ピッチによって生じる読み取り誤差、X軸及びY軸方向へのスライドの進捗度誤差、及び接触体11の真球度により生じ、このグラフ形状を表す補正データCDは、この読み取り誤差と進捗度誤差と真球度を反映している。
【0071】
一方、SP/4を超える移動量変動が検出されなければ(S26,No)、軌跡データMSTは、測定基準物MWの光学面MSの形状に沿っていることを示し、軌跡データMSTの生成を終了する。
【0072】
補正データCDを生成すると、データ生成装置19は、軌跡データMSTにこの補正データCDを加算して(S28)、軌跡データMSTを補正する。図12は、この軌跡データMSTの補正を示すグラフである。読値がSP/4を超えたところは、最深部を基準としてその読値の分だけ相対移動が足りなかったことを意味する。従って、データ生成装置19は、補正データCDが示す読値を軌跡データMSTの対応箇所の値に加算して、新たな軌跡データMSTを生成する。
【0073】
そして、この補正された軌跡データMSTを用いてS25〜S28を繰り返し、軌跡データMSTが測定基準物MWの光学面MSの形状に沿うまで、即ち保持部14から接触体11が前進又は後退しなくなるまで(S26,No)、軌跡データMSTを補正する。
【0074】
このようにして生成された測定基準物MWの光学面MSの形状に沿う軌跡データMSTが生成され、ワークWの測定基準物MWとの形状比較を主とした形状計測に用いられる。この補正データCDの加算を繰り返すことにより、軌跡データMSTは、格子ピッチによって生じる読み取り誤差、X軸及びY軸方向へのスライドの進捗度誤差、及び接触体11の真球度を解消したデータとなっている。
【0075】
尚、本実施形態では、測定基準物MWを測定することで軌跡データMSTを生成したが、データ生成装置19によって理想的な軌跡データMSTを計算により求めるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本実施形態に係る形状測定装置の構成を示す図である。
【図2】ステージを移動させることによりステージと保持部とを所定軌跡で相対的に移動させた場合のワークの形状を測定する態様を示す模式図である。
【図3】保持部を移動させることによりステージと保持部とを所定軌跡で相対的に移動させた場合のワークの形状を測定する態様を示す模式図である。
【図4】形状測定装置によって測定基準物の光学面形状が近似したワークの加工面を計測して得た読値のグラフである。
【図5】形状測定装置によって測定基準物の光学面形状と異なるワークの加工面を計測して得た読値のグラフである。
【図6】形状測定装置による形状測定の動作を示すフローチャートである。
【図7】形状測定装置による軌跡データの生成の動作を示すフローチャートである。
【図8】測定基準物の形状測定を示す模式図である。
【図9】生成された軌跡データを示すグラフである。
【図10】軌跡データの生成過程における軌跡データに従ったステージと保持部との相対移動を示す模式図である。
【図11】人体像上の識別表示部位の選択に対応してリスト表示事項を識別表示する動作を示すフローチャートである。
【図12】軌跡データに従ってステージと保持部とを相対移動させることにより測定基準物MWの形状を測定した測定結果を示す図である。
【図13】干渉走査方式におけるスケールと読取部とを示す模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1 形状測定装置本体
10 ステージ
11 接触体
12 ロッド
13 軸受け
14 保持部
15 ベース
16 スケール
17 読取部
17a 走査レクチル
18 NC装置
19 データ生成装置
W ワーク
MW 測定基準物
MS 光学面
MST 軌跡データ
CD 補正データ
SP 格子ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状を測定する被測定物の加工面に所定の接触力で接触する接触体と、前記接触体を前記加工面に対して進退可能に保持する保持部と、前記被測定物を載置するステージと、前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出する検出部と、を有する形状測定装置を用いた形状測定方法であって、
前記ステージと前記保持部とを予め定められた所定軌跡で相対移動させる移動ステップと、
前記被測定物の加工面形状と前記所定軌跡とのズレを、前記接触体の前記保持部に対する所定閾値以上の前記移動量変動の有無によって検出する検出ステップと、
を有すること、
を特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
前記検出ステップでは、前記所定閾値以上の前記移動量変動が無ければ前記被測定物の表面形状は前記所定軌跡に沿うと判定すること、
を特徴とする請求項1記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記移動ステップでは、
前記ステージは、少なくとも、前記接触体が前記保持部に対して進退する方向と平行な方向に移動すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の形状測定方法。
【請求項4】
前記移動ステップでは、
前記保持部は、少なくとも、前記接触体と共に前記進退する方向に移動すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の形状測定方法。
【請求項5】
前記移動ステップでは、
前記ステージと前記保持部のそれぞれが、少なくとも、前記接触体が前記保持部に対して進退する方向に移動すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の形状測定方法。
【請求項6】
前記検出部は、前記接触体の前記保持部からの進退に連動するスケール部と、前記スケール部の移動量を読み取る読取部とを含み、
前記検出ステップでは、前記スケール部の前記所定以上の移動量変動の有無を前記読取部で検知することによって、前記接触体の前記保持部に対する所定閾値以上の前記移動量変動の有無を検出すること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の形状測定方法。
【請求項7】
前記ステージに測定基準物を載置して、前記測定基準物の加工面形状の軌跡データを予め生成する生成ステップをさらに含み、
前記生成ステップでは、
前記測定基準物を載置した前記ステージと前記保持部とを前記接触体が進退する方向と直交する方向に相対移動させ、
前記相対移動による前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量に基づき、前記測定基準物の加工面形状の軌跡データを生成し、
前記移動ステップでは、前記軌跡データに従った前記所定軌跡で、前記ステージと前記保持部とを相対移動させること、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の形状測定方法。
【請求項8】
前記生成ステップでは、
前記ステージに測定基準物を載置して、生成した軌跡データに従って前記ステージと前記保持部とを相対移動させて前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出し、
この移動量が所定値以下になるように前記軌跡データを補正すること、
を特徴とする請求項7記載の形状測定方法。
【請求項9】
被測定物の加工面形状を測定する形状測定装置であって、
形状を測定する被測定物の加工面に所定の接触力で接触する接触体と、
前記接触体を前記加工面に対して進退可能に保持する保持部と、
前記被測定物を載置するステージと、
前記ステージと前記保持部とを予め定められた所定軌跡で相対移動させる駆動制御部と、
前記被測定物の加工面形状と前記所定軌跡とのズレを、前記接触体の前記保持部に対する所定閾値以上の前記移動量変動の有無によって検出する検出部と、
を備えること、
を特徴とする形状測定装置。
【請求項10】
前記駆動制御部は、少なくとも、前記ステージを前記接触体が保持部に対して進退する方向に移動させること、
を特徴とする請求項9記載の形状測定装置。
【請求項11】
前記駆動制御部は、少なくとも、前記保持部を前記進退する方向に移動すること、
を特徴とする請求項9記載の形状測定装置。
【請求項12】
前記検出部は、
前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動に連動するスケール部と、
前記スケール部の移動量を読み取る読取部と、
を含むこと、
を特徴とする請求項9記載の形状測定装置。
【請求項13】
前記所定軌跡として測定基準物の加工面形状に従った軌跡データを予め生成する生成する生成部をさらに備え、
前記駆動制御部は、
前記軌跡データに従った前記所定軌跡で、前記ステージと前記保持部とを相対移動させること、
を特徴とする請求項9乃至12の何れかに記載の形状測定装置。
【請求項14】
前記駆動制御部は、
前記軌跡データの生成のために、前記測定基準物を載置した前記ステージと前記保持部とを前記接触体が保持部に対して進退する方向と直交する方向に相対移動させ、
前記検出部は、
前記相対移動による前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出し、
前記生成部は、
前記検出部で検出された前記移動量に基づき、前記測定基準物の加工面形状の軌跡データを生成すること、
を特徴とする請求項13記載の形状測定装置。
【請求項15】
前記駆動制御部は、
前記軌跡データの生成のために、生成した軌跡データに従って前記ステージと前記保持部とを相対移動させ、
前記検出部は、
この相対移動による前記接触体の前記保持部に対する進退方向の移動量を検出し、
前記生成部は、
この移動量が所定値以下になるように前記軌跡データを補正すること、
を特徴とする請求項14記載の形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−249344(P2008−249344A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87511(P2007−87511)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】