説明

形状測定方法

【課題】周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面の測定データと設計形状とのフィッティングを高精度に行う。
【解決手段】被測定面の測定点列から段差領域と段差の高さとを特定する(S3)。そして、点列に対する段差高さの移動を行う(S4)。即ち、段差をなくすような処理を行い、段差のないフィッティング対象データを得る(S5)。一方、設計形状から複数の設計段差のない参照形状を取得する(S6、7)。そして、フィッティング対象データと参照形状とを、例えば最小二乗法などによりフィッティングする(S8)。フィッティング対象データと参照形状とから段差形状成分を除去しているため、フィッティングを高精度に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された、例えば、光学素子やこれを作るための金型などの面形状を高精度に測定する形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像カメラをはじめレーザビームプリンタ、複写機、半導体露光装置など各種光学装置の性能向上に伴い、これらの光学装置に組み込まれる光学素子に求められる要求はますます高度化してきている。特に近年では、光の回折現象を利用した回折格子光学素子が、様々な製品に利用されている。このような回折格子光学素子では、表面に数nmから数十μmの凹凸を規則的に配置することで光の位相差をつけて、回折現象を発生させている構造のものが多い。このように光学素子の面形状、または光学素子成形用金型の面形状を高精度に測定するために、測定した複数の測定点のデータを設計形状に高精度にフィッティングすることでワークのセッティング誤差を除去する必要がある。ここで、測定データと設計形状とのフィッティングとは、測定データと設計形状とを合わせることに加えて、設計形状のパラメータを動かして設計形状と測定データとを合わせたり、それぞれ所定の変換を行って合わせたりすることも含む。
【0003】
ところで、周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面の測定データと設計形状とをフィッティングすることは、段差部分の存在により難しい。このため、このような測定データと設計形状とをフィッティングする方法として、次のようなものがある。即ち、被測定面を測定した複数の測定点列を最小二乗法を用いて段差がない非球面や球面などの近似形状とし、設計形状は設計段差の成分がない非段差形状とする。そして、これら近似形状と非段差形状とをフィッティングさせる(特許文献1参照)。このような構成の場合、段差部分の成分がないため、フィッティング自体は行い易いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−167013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された発明の場合、測定点列から求めた近似形状にフィッティングするための設計形状には段差形状成分が含まれていないため、近似形状に含まれる段差形状成分の影響を受けてフィッティング精度を良好にできない。即ち、被測定面は段差形状成分と、非段差形状成分(例えば曲面形状成分)とを足し合わせた形状からなり、形状測定機はその形状に倣って測定するため、測定点列は非段差形状成分と段差形状成分とが含まれたものとなる。したがって、最小二乗法などにより求めた近似形状も段差形状成分が含まれたものとなる。一方、フィッティングするための設計形状には非段差形状成分のみを用いている。
【0006】
したがって、設計形状に段差形状成分が含まれていない分、フィッティングを行った場合に近似形状の段差形状成分が測定ノイズのような影響を受けてしまい、フィッティング精度を良好にできない。言い換えれば、段差形状成分を含んだ形状と含まない形状とをフィッティングさせるため、精度良くフィッティングさせることは難しい。フィッティング精度が良くなければ、ワークのセッティング誤差を高精度に除去できず、この結果、測定精度も低下する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面の測定データと設計形状とのフィッティングを高精度に行える形状測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面の形状を、プローブにより走査して測定する形状測定方法において、前記プローブにより前記被測定面を走査して複数の測定点を取得する測定工程と、前記複数の測定点から、前記被測定面に形成された複数の段差がそれぞれ存在する複数の段差領域と前記複数の段差のそれぞれの高さとを特定する段差特定工程と、前記複数の段差領域から外れた複数の非段差領域のうち、それぞれの段差領域を挟むように隣接する一対の非段差領域の一方の非段差領域の複数の測定点を前記段差の高さ分移動させることにより、前記一方の非段差領域の複数の測定点の高さを、前記一対の非段差領域の他方の非段差領域の複数の測定点の高さに合わせて、フィッティング対象データを得る対象データ作成工程と、前記設計形状から前記複数の設計段差のない参照形状を取得する参照形状取得工程と、前記フィッティング対象データと前記参照形状とをフィッティングするフィッティング工程と、を有し、フィッティングした前記フィッティング対象データと前記参照形状とから残差を求めて前記被測定面の形状を測定する、ことを特徴とする形状測定方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の場合、測定データから段差形状成分を除去したフィッティング対象データと、設計形状から取得する段差形状成分のない参照形状とをフィッティングさせている。このため、周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面の測定データと設計形状とのフィッティングを高精度に行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る3次元形状測定装置の概略構成図。
【図2】形状測定装置のプローブの構成の2例を説明するための概略構成斜視図。
【図3】本実施形態でフィッティング処理を行うまでのフローチャート。
【図4】(a)はプローブによる被測定面の走査について説明するための斜視図、(b)はそれにより得られた測定点列を模式的に示す平面図、(c)はその測定点列をYZ平面に2次元化した図。
【図5】フィッティング対象データを説明するために、複数の測定点を段差の高さ分移動させる工程を順番に示す模式図。
【図6】フィッティング対象データと参照形状とのフィッティングを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、図1ないし図6を用いて説明する。
【0012】
[形状測定装置]
まず、図1により本実施形態の形状測定装置について説明する。形状測定装置1は、プローブ2と、定盤3と、プローブ2を支持移動させる移動手段4と、プローブ2の変位を測定する変位測定手段5と、制御部6と、を備える。そして、定盤3の上に載置された被測定物(ワーク)Wの被測定面Sの形状を測定する。特に、本実施形態の場合、被測定物Wとして、被測定面Sに数nmから数十μmの凹凸からなる回折格子を有する回折格子光学素子、或いは、光学素子成形用金型のように、滑らかでない面を有するものを対象としている。また、このような被測定物Wは、上述の回折格子に相当する周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面Sを有する。言い換えれば、被測定面Sには、これら複数の設計段差に対応した(回折格子の)複数の段差が形成されている。
【0013】
プローブ2は、先端に小さい曲率半径の球(先端球)21を有する棒状の部材で、先端を被測定物Wの被測定面Sに接触させる。先端の曲率半径は、数nmから数十μmの凹凸を検知可能な程度に小さい。即ち、プローブ2の先端球21は、回折格子の段差の谷部付近に接触可能な程度の小さい曲率半径を有する。このような接触式のプローブ2は、プローブ2に対して球21を何らかの固定方法により配置した構造であっても、プローブ2と球21とを一体とした構造であっても良い。
【0014】
定盤3は、プローブ2の先端と対向するように配置され、表面をプローブ2の配設方向(Z方向)と直角な平面(XY平面)としている。そして、この表面(載置面)に被測定物Wを被測定面Sがプローブ2側となるように載置している。なお、定盤3は、床からの振動による影響を抑えるために、除振機能を備えていることが好ましい。例えば、床との設置部と載置面との間にゴムなどの弾性部材を設置する。
【0015】
移動手段4は、X軸ステージ41と、Y軸ステージ42と、Z軸ステージ43と、これら各ステージの駆動用の例えばステッピングモータなどのモータ44、45、46とを備える。そして、モータ44によりX軸ステージ41をX軸方向に、モータ45によりY軸ステージ42をY軸方向に、モータ46によりZ軸ステージ43をZ軸方向に、それぞれ例えばボールねじ機構などを介して移動させる。
【0016】
プローブ2は、Z軸ステージ43の一部にZ軸方向に配設され、Z軸ステージ43は、Y軸ステージ42に、Y軸ステージ42はX軸ステージ41に、それぞれ支持されている。したがって、プローブ2は、図2(a)に示すように、被測定物Wに対してプローブ先端球21を接触させながら、3軸並進方向、即ち、互いに直角な方向であるX、Y、Zの各方向に移動可能である。
【0017】
なお、定盤3をX軸及びY軸方向に移動可能とし、プローブ2をZ軸方向にのみ移動可能としても良い。この場合もプローブ2は、定盤3に載置された被測定物Wに対して3軸並進方向に移動可能である。また、プローブ2の移動方向は、例えば、1軸回転方向と2軸並進方向とすることもできる。例えば、X軸ステージ41又はY軸ステージ42の何れか一方のステージに変えて、Z軸方向と平行な中心軸を中心とした回転方向(R方向)に回転可能なステージとする。なお、この構造の場合も、X軸方向(或いはY軸方向)とR方向の移動を定盤3に行わせるようにしても良い。
【0018】
変位測定手段(位置検出センサ)5は、プローブ2の基端部に反射ミラーを設け、干渉計測などを利用して、プローブ2の3次元位置を測定する。例えば、プローブ2の基端部の周囲に基準ミラーを設け、レーザにより反射ミラーと基準ミラーとの距離を測定することにより、プローブ2の3次元位置を測定する。なお、位置検出センサとしては、リニアスケールエンコーダなど、他の位置検出センサを用いることもできる。
【0019】
制御部6は、データサンプリング装置61と、演算装置である制御/解析用コンピュータ62と、XY軸制御装置63と、Z軸制御装置64とを有する。変位測定手段5により測定されたプローブ2の3次元位置は、データサンプリング装置61において、所定の時間間隔でサンプリングされる。サンプリングされた離散データは、制御/解析用コンピュータ62内のメモリに測定データとして保存され、制御/解析用コンピュータ62による被測定面Sの形状の演算に使用される。即ち、制御/解析用コンピュータ62は、CPUなどを主体として構成される図示しないプロセッサ、同じく図示しないハードディスクドライブやその他の記憶手段(メモリ)によって構成される。このような制御/解析用コンピュータ62には、形状測定プログラムがインストールされている。
【0020】
また、制御/解析用コンピュータ62は、移動手段4を制御して、プローブ2を予め設定された走査軌跡に沿って移動させる。即ち、各モータ44、45、46は、XY軸制御装置63、Z軸制御装置64から駆動制御信号に基づく電力供給がなされることで駆動され、各ステージ41、42、43がそれぞれ移動する。XY軸制御装置63及びZ軸制御装置64は、制御/解析用コンピュータ62からの駆動制御信号に応じて動作する。このように移動手段4を制御してプローブ2を走査軌跡に沿って移動させて、プローブ先端球21の中心位置の移動軌跡を変位測定手段5により検出する。検出された移動軌跡データは、上述のようにデータサンプリング装置61に転送され、制御/解析用コンピュータ62による被測定面Sの形状の演算に使用される。
【0021】
ここで、形状測定時におけるZ軸ステージ43の駆動について詳細に説明する。本実施形態の場合、接触式のプローブ2の被測定物Wに対する接触力を検出する接触力検出部22を備えている。接触力検出部22は、検出した接触力の大きさに応じた接触力信号を出力し、この信号はZ軸制御装置64に取り込まれる。Z軸制御装置64には、DSP(デジタル信号処理)などを主体として構成される図示しないプロセッサ、および同じく図示しないROMなどで構成される記憶手段(メモリ)が内蔵されている。そして、接触力検出信号により検出した接触力信号を常に一定に保つような制御を行うための制御プログラムがインストールされている。Z軸制御装置64は、この制御プログラムに従い、接触力信号を一定値に維持するようなZ軸駆動電力を出力し、出力された駆動電力はZ軸ステージ43の駆動用モータ46に供給される。そして、プローブ2の被測定物Wに対する接触力を一定に維持するように、Z軸ステージ43が駆動される。
【0022】
次に、形状測定時におけるX、Y各軸ステージ41、42の駆動について詳細に説明する。制御/解析用コンピュータ62は、形状測定時に実行される上述の形状測定プログラムの命令に従い、XY軸制御装置63に対し駆動制御信号を送信する。XY軸制御装置63は制御/解析用コンピュータ62から受信した駆動制御信号に基づき、X、Y軸の各ステージ41、42の駆動用モータ44、45に駆動電力を供給する。そして、駆動電力に従い動作するモータ44、45によってX軸ステージ41、及びY軸ステージ42が駆動され、プローブ2、詳しくはプローブ先端球21の中心位置が、被測定物Wに対しXY軸方向に位置決め制御される。
【0023】
上述のように、プローブ2は、X、Y、Z各軸ステージ41、42、43の駆動により、前述の形状測定プログラムで設定される測定経路に従い、被測定物Wの被測定面S上を走査する。プローブ走査中、プローブ先端球21の中心位置を検出する変位測定手段5の出力信号は、データサンプリング装置61によって一定のサンプリング間隔で取り込まれる。更に取り込まれたデータはデータサンプリング装置61から制御/解析用コンピュータ62へ、形状測定プログラムが設定する測定条件に応じた適切なサンプリング間隔で逐次測定され、被測定面形状データがX、Y、Z座標点群データとして取得される。最終的には、プローブ走査終了後の後述する形状解析を実施することで表面形状データが得られる。
【0024】
なお、本実施形態の場合、図2(a)に示すように、接触式のプローブ2を使用しているが、図2(b)に示すように、非接触式のプローブ2aを使用しても良い。非接触式のプローブ2aは、被測定物Wの被測定面Sにレーザなどの光波を照射しながら、X、Y、Z各軸方向に相対的に移動自在となるように支持されている。上述のように接触式のプローブ2の場合、被測定物Wに対する接触力を一定に保つようにZ軸ステージ43を駆動するのに対して、非接触式のプローブ2aの場合、プローブ2aと被測定物Wとの距離を検出する機能を備えている。そして、この距離を一定に保つように制御しながらZ軸ステージが駆動させられる点が異なる。その他の装置構成については、接触式のプローブを備える形状測定装置と同様である。なお、図1に示す座標系は3次元形状測定装置における座標系であり、図2(a)及び図2(b)に示す座標系は被測定物Wにおける座標系であり、両者は異なるものである。
【0025】
[形状測定方法]
このように構成される形状測定装置1により、次のような形状測定方法で、周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定物Wの被測定面Sの形状を測定する。即ち、移動手段4によりプローブ2を被測定面Sに接触させた状態で倣い走査させる。そして、プローブ2の3次元位置を変位測定手段5により測定し、以下のように、測定データと設計形状とをフィッティングさせて、被測定面Sの形状を測定する。
【0026】
本実施形態の形状測定方法は、測定工程と、段差特定工程と、対象データ作成工程と、参照形状取得工程と、フィッティング工程とを有する。図3に示すように、測定が開始されると(S1)、まず、測定工程で、被測定物Wの形状測定を行う。即ち、プローブ2により被測定面Sを走査して複数の測定点を取得する(S2)。このような複数の測定点は、例えばプローブ2の走査方向の点列データとして取得する。
【0027】
次に、段差特定工程で、測定工程で取得した複数の測定点から、被測定面Sの段差が存在する段差領域と段差の高さとを特定する(S3)。段差領域及び段差の高さを特定したら、対象データ作成工程で、点列に対する段差高さの移動を行う。即ち、段差領域を挟んで隣接する一対の非段差領域を考える。これら一対の非段差領域の点列のうちの一方の非段差領域の点列を、段差の高さ分移動させる。そして、一方の非段差領域の点列の高さを他方の非段差領域の点列の高さに合わせる(S4)。即ち、段差をなくすような処理を行う。このような一方の非段差領域の移動を全ての段差部分で行い(S5)、段差のないフィッティング対象データを得る。
【0028】
一方、参照形状取得工程で、設計形状から複数の設計段差のない参照形状を取得する。本実施形態では、被測定物Wの元になる設計形状に対しても、段差高さの移動を行う。即ち、設計形状の設計段差を挟んで存在する一対の設計非段差形状のうちの一方の設計非段差形状を設計段差の高さ分移動させる。そして、一方の設計非段差形状の高さを他方の設計非段差形状の高さに合わせる(S6)。即ち、設計段差をなくすような処理を行う。このような、一方の設計非段差形状の移動を全ての設計段差部分で行って、設計形状を設計段差のない参照形状に変換する(S7)。フィッティング工程では、上述のS4及びS5で得たフィッティング対象データと、上述のS6及びS7で変換した参照形状とを、例えば最小二乗法などによりフィッティングする(S9)。そして、セッティング誤差を除去し、フィッティングしたフィッティング対象データと参照形状とから残差を求めて、被測定面Sの形状を測定して、終了する(S9)。以下、各工程について詳しく説明する。
【0029】
[測定工程]
測定工程では、図4(a)に示すように、プローブ2を被測定面S上を走査させる。即ち、プローブ2を被測定面S上に形成された段差の周期性に合わせて走査させる。例えば、被測定面Sが円形状で、段差が被測定面Sの中心から同心円状に複数形成されているとする。この場合、プローブ2が被測定面Sの中心を通るように被測定面Sの直径方向に移動させる。そして、図4(b)に示すような、複数の測定点からなる1ラインの点列データ101を得る。このような点列データ101は、各測定点がプローブ2の走査方向に対して直角な方向に僅かにずれてしまうことが避けられない。例えば、プローブ2をY軸方向に直線走査しても、図4(b)の点列データ101はX軸方向に誤差を持つ。このため、本実施形態の場合、光軸(Z軸)方向に平行な平面102(走査方向がY軸方向であればYZ平面)に、点列データ101を投影し、図4(c)の投影点列データ103のように2次元化を行う。
【0030】
このような被測定面Sの走査は、被測定面Sの円周方向複数個所で行い、それぞれで得られた点列データ101についても、投影点列データ103を得て、次述するデータ処理に使用する。なお、上述の説明では、点列データ101を2次元化しているが、各点列データを3次元のデータとして扱っても良い。
【0031】
[段差特定工程]
段差特定工程では、上述のように得られた投影点列データ103から、被測定面Sに形成された複数の段差がそれぞれ存在する複数の段差領域と複数の段差のそれぞれの高さとを特定する。まず、段差領域の特定について説明する。図5(a)は、被測定面S上の段差501が存在する所定の段差領域502と、この段差領域502から外れた所定の非段差領域503とを示している。被測定面Sは、前述のように周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成されている。したがって、被測定面Sには、周期的に複数の段差が形成されている。このため、段差領域502の特定には、このような周期的な段差の特徴を利用する。
【0032】
例えば、投影点列データ103をフーリエ変換し、所定の閾値内の周波数が含まれる点列領域を段差領域と特定する。即ち、段差が存在する領域とそうでない領域とでは周波数特性が異なるため、所定の閾値を実験や経験則などから設定し、その閾値内の周波数が含まれる領域を段差が存在する段差領域と特定する。
【0033】
或いは、自己相関処理を行うことで、周期的な段差の存在を判定し、判定した段差が位置する所定の領域、即ち、段差位置からの横座標(走査方向の座標)の所定の範囲内の点列を段差領域と特定する。特に、判定した段差の位置に基づく段差ピッチ(隣接する段差の横座標の距離)が被測定面Sの全面について一定でない場合、段差ピッチの幅に応じて区間を分け、その区間においてそれぞれ横座標の所定の範囲を定義して段差領域を特定する。例えば、段差ピッチが短い区間では所定の範囲を小さく、段差ピッチが長い区間では所定の範囲を大きくする。
【0034】
或いは、測定工程で測定した複数の測定点と設計形状とを比較して、設計段差が位置する所定の領域を段差領域と特定する。具体的には、測定した全点列データ、即ち、被測定面S全面の測定データに設計形状を当てはめることで段差位置を特定し、その段差位置から横座標の所定の範囲内の点列を段差領域とする。
【0035】
なお、上述のように複数の段差領域を特定できれば、複数の段差領域から外れた複数の非段差領域も特定できる。本実施形態では、これら複数の非段差領域に番号を付して特定するようにしている。例えば、被測定面Sが円形状で、段差が被測定面Sの中心から同心円状に複数形成されている場合、中心から順番に番号を付し、その非段差領域が中心から何番目の非段差領域であるかを分かるようにする。
【0036】
次に、段差の高さの特定について説明する。特定の方法の1つとして、設計形状を利用する方法が挙げられる。即ち、上述のように特定された複数の段差領域にそれぞれ存在する段差の高さを、設計形状の複数の設計段差のうちの対応する設計段差の高さとする。
【0037】
或いは、以下のように段差の高さを特定することもできる。即ち、複数の非段差領域のうち、それぞれの段差領域を挟むように隣接する一対の非段差領域を考える。この場合に、上述のように特定された複数の段差領域にそれぞれ存在する段差の高さを、一対の非段差領域のうちの一方の非段差領域の複数の測定点から導き出せる近似線と、他方の非段差領域の複数の測定点から導き出せる近似線との間隔とする。
【0038】
より具体的に説明する。図5(a)に示すように、段差領域502には、プローブが段差を通過することにより生じる飛び跳ね等の影響で、測定データとして信頼性の低い点列が含まれる。一方、段差501から離れた非段差領域503は、プローブの飛び跳ねなどの影響が殆どないため、測定データとして信頼性の高い点列からなる。そこで、図5(b)に示すように、非段差領域503内の複数の測定点から、例えば最小二乗法により近似線504を導き出す。
【0039】
ここで、この近似線504を段差の高さを求めるための近似線としても良いが、段差領域502内にも測定データとして信頼性の高い点列が含まれている場合もある。そこで、本実施形態では、以下のように段差の高さを求める近似線を導き出すための領域を広げる。具体的には、上述の近似線504と平行で、この近似線504から段差の高さ方向の所定の閾値としてのライン505を導出する。この所定の閾値は、実験や経験則などから設定する。
【0040】
次いで、図5(c)に示すように、このライン505以下、即ち所定の閾値内の測定点が存在する領域まで、近似線を求めるための領域を広げる。即ち、ライン505で規定する閾値の範囲内において、段差領域502へも近似線を求めるための領域を広げていき、閾値より外れた点列に当たった時点で、領域の拡大を終了し、その手前の測定点の範囲を、近似線を求めるための新たな領域506とする。そして、この領域506内の複数の測定点から、最小二乗法などにより第2の近似線507を導き出す。この第2の近似線507は、上述の近似線504よりも広い範囲の測定データから導き出しているため、測定データにより見合った近似線であると言える。
【0041】
同様に、上述の非段差領域(例えば一方の非段差領域)503と段差領域502を挟んで隣接する(他方の)非段差領域についても、第2の近似線508を導き出す。そして、両方の第2の近似線507、508をそれぞれ段差501まで延長し、これら両方の第2の近似線507、508の間隔509を、求める段差の高さとする。
【0042】
[対象データ作成工程]
対象データ作成工程では、上述のように特定した段差領域と段差の高さから、測定データの段差形状成分を除去して、フィッティング対象データを得る。即ち、段差領域を挟むように隣接する一方の非段差領域の複数の測定点を段差の高さ分移動させることにより、一方の非段差領域の複数の測定点の高さを、段差領域を挟むように隣接する他方の非段差領域の複数の測定点の高さに合わせる。そして、測定データから段差形状成分を除去して、フィッティング対象データを得る。ここで、このように非段差領域の複数の測定点を、段差の高さ分移動させることを、段差の押し上げと言う。以下、具体的に説明する。
【0043】
まず、上述のように第2の近似線507、508を求めるための領域506内の複数の測定点は、測定データとして信頼性の高いものである。したがって、図5(d)に示すように、領域506内の複数の測定点からなる信頼性の高い測定点列510が得られる。
【0044】
次いで、前述のように、非段差領域に対応して取得した番号と、その番号での段差高さを用いて、段差の押し上げを行う。即ち、図5(d)の測定点列510を、図5(c)で求めた段差の高さ(間隔509)分、同図の上側に押し上げ、図5(e)に示すような点列511を得る。このような段差の押し上げ処理を、円形状の被測定面Sの中央に存在する中央段差から順次行い、一つ外側の段差については、内側の累積段差高さだけ高さ方向に押し上げていく。
【0045】
なお、このような段差の押し上げは、円形状の被測定面Sの外側から行っても良い。また、非段差領域の複数の測定点の移動は、上述のような押し上げ方向ではなく、押し下げ方向であっても良い。何れにしても、段差押し上げ処理或いは段差の押し下げ処理を被測定面S上の全段差、全ラインに対して行い、図6に示すような段差形状成分を除去した測定点列(フィッティング対象データ)601を得る。
【0046】
なお、上述の説明では、フィッティング対象データを得るために、第2の近似線507、508を求めるための領域506内の複数の測定点を移動させたが、非段差領域503内の複数の測定点のみを移動させても良い。即ち、図5の(b)〜(d)の工程をなくして、図5(e)の工程で、測定点列511に代えて非段差領域503内の複数の測定点を押し上げるようにしても良い。要は、非段差領域503の測定データを使用して、段差形状成分を除去できれば良く、使用するデータの領域は任意に設定できる。但し、領域506の方が非段差領域503よりも範囲が広いため、より精密にフィッティング対象データが得られる。
【0047】
[参照形状取得工程]
参照形状取得工程では、設計形状から段差形状成分を除去して参照形状を得る。即ち、設計形状を、設計段差を挟むように隣接する一対の設計非段差形状の一方の設計非段差形状を設計段差の高さ分移動させることにより、一方の設計非段差形状の高さを、一対の設計非段差形状の他方の設計非段差形状の高さに合わせる。そして、設計形状を設計段差のない参照形状に変換する。以下、具体的に説明する。
【0048】
即ち、設計形状に関しても、上述の測定データと同様に、設計段差の押し上げ或いは押し下げを行う。ここで、設計形状は、設計段差と設計非段差形状とからなる。設計非段差形状とは、設計形状の隣接する段差同士の間部分の形状である。また、本明細書及び特許請求の範囲では、設計形状に関する段差と非段差形状とを、上述の測定データと区別するために便宜上、設計段差と設計非段差形状と言う。
【0049】
このような設計形状に関しても、中心から順番に設計非段差形状に番号を付している。そして、その番号での設計段差の高さを用いて、段差の押し上げ(或いは押し下げ、以下同様)を行う。このような段差の押し上げ処理は、円形状の設計形状の中央に存在する中央段差から順次行い、一つ外側の段差については、内側の累積段差高さだけ高さ方向に押し上げていく。そして、段差押し上げ処理を設計形状の全設計段差、全ラインに対して行い、図6に示すような段差形状成分を除去した参照形状602を得る。なお、段差高さは測定データから得られた段差高さを用いても良い。また、設計形状とは、設計形状そのもの、或いは、設計形状の形状パラメータを変化させた形状のことを表している。
【0050】
[フィッティング工程]
フィッティング工程では、上述のように求めた測定点列(フィッティング対象データ)601と参照形状602とをフィッティングする。即ち、測定点列601と参照形状602とを、最小二乗法などを用いてフィッティングする。
【0051】
これにより、被測定物Wのセッティング誤差、即ち、形状測定装置1への設置誤差を除去する。そして、フィッティングした測定点列601と参照形状602とから残差を求めて被測定面Sの形状を測定する。
【0052】
本実施形態の場合、測定データから段差形状成分を除去した測定点列601と、設計形状から取得する段差形状成分のない参照形状602とをフィッティングさせている。このため、周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面Sの測定データと設計形状とのフィッティングを高精度に行える。フィッティングを高精度に行えれば、セッティング誤差も高精度に除去でき、被測定面Sの形状測定も高精度に行える。
【0053】
なお、上述の説明ではライン同士をフィッティングさせているが、フィッティングは面形状同士で行っても良い。
【0054】
また、段差特定工程で特定した段差領域と段差高さの情報を用いて、図5(e)の段差高さ押し上げ処理を、ライン単位に押し上げを行わず、面形状全体のままで行っても良い。その場合、全ライン一括で処理を行うことができ計算速度は向上する。また、2次元化された点列は投影の影響で誤差が追加されるため、3次元点列のままで押し上げ処理を行うと計算精度も向上する。
【0055】
また、設計形状の押し上げ処理は、段差を予め除去した形状成分と曲面形状成分を足し合わせた、段差のない平滑な参照形状を準備しておくことでもよい。これにより、設計形状の段差押し上げ処理が不要となり、計算速度が向上する。
【0056】
更に、図3のS8で、フィッティング、即ち、段差を押し上げた状態でセッティング誤差補正を行うが、そこで得られたセッティング誤差量を用いて、再度、図3のS3へ戻っても良い。これにより、高精度にセッティング誤差量が把握できた状態で、段差位置の特定ができるため、精度が向上する。
【符号の説明】
【0057】
1・・・形状測定装置、2・・・プローブ、3・・・定盤、4・・・移動手段、5・・・変位測定手段、6・・・制御部、103・・・投影点列データ(複数の測定点)、502・・・段差領域、503・・・非段差領域、504・・・近似線、507、508・・・第2の近似線、510・・・測定点列(複数の測定点)、601・・・測定点列(フィッティング対象データ)、602・・・参照形状、W・・・被測定物、S・・・被測定面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な複数の設計段差を有する設計形状に基づいて形成された被測定面の形状を、プローブにより走査して測定する形状測定方法において、
前記プローブにより前記被測定面を走査して複数の測定点を取得する測定工程と、
前記複数の測定点から、前記被測定面に形成された複数の段差がそれぞれ存在する複数の段差領域と前記複数の段差のそれぞれの高さとを特定する段差特定工程と、
前記複数の段差領域から外れた複数の非段差領域のうち、それぞれの段差領域を挟むように隣接する一対の非段差領域の一方の非段差領域の複数の測定点を前記段差の高さ分移動させることにより、前記一方の非段差領域の複数の測定点の高さを、前記一対の非段差領域の他方の非段差領域の複数の測定点の高さに合わせて、フィッティング対象データを得る対象データ作成工程と、
前記設計形状から前記複数の設計段差のない参照形状を取得する参照形状取得工程と、
前記フィッティング対象データと前記参照形状とをフィッティングするフィッティング工程と、を有し、
フィッティングした前記フィッティング対象データと前記参照形状とから残差を求めて前記被測定面の形状を測定する、
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
前記参照形状取得工程は、前記設計形状を、前記設計段差を挟むように隣接する一対の設計非段差形状の一方の設計非段差形状を前記設計段差の高さ分移動させることにより、前記一方の設計非段差形状の高さを、前記一対の設計非段差形状の他方の設計非段差形状の高さに合わせように変換し、参照形状として取得する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記段差特定工程は、前記複数の測定点をフーリエ変換し、所定の閾値内の周波数が含まれる領域を前記段差領域と特定する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の形状測定方法。
【請求項4】
前記段差特定工程は、前記複数の測定点を自己相関処理して、周期的な段差の存在を判定し、判定した段差が位置する所定の領域を前記段差領域と特定する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の形状測定方法。
【請求項5】
前記段差特定工程は、前記複数の測定点と前記設計形状とを比較して、前記設計段差が位置する所定の領域を前記段差領域と特定する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の形状測定方法。
【請求項6】
前記段差特定工程で特定される前記複数の段差のそれぞれの高さは、前記設計形状の前記複数の設計段差のうちの対応する前記設計段差の高さとする、
ことを特徴とする、請求項1ないし5のうちの何れか1項に記載の形状測定方法。
【請求項7】
前記段差特定工程で特定される前記複数の段差のそれぞれの高さは、前記一方の非段差領域の複数の測定点から導き出せる近似線と、前記他方の非段差領域の複数の測定点から導き出せる近似線との間隔とする、
ことを特徴とする、請求項1ないし5のうちの何れか1項に記載の形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132749(P2012−132749A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284198(P2010−284198)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】