形状測定方法
【課題】形状測定装置自体の振動や蛇行の影響を受けずに測定対象の形状を正確に測定すること。
【解決手段】高さ方向に関する測定対象の形状を左右同時に測定する測定ステップ(STP1)と、測定対象の右側及び左側の面全体を走査する走査ステップ(STP2)と、測定対象の右側測定データと左側測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップ(STP3)と、短周期成分を除去した右側測定データと左側測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップ(STP4)とを含む。
【解決手段】高さ方向に関する測定対象の形状を左右同時に測定する測定ステップ(STP1)と、測定対象の右側及び左側の面全体を走査する走査ステップ(STP2)と、測定対象の右側測定データと左側測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップ(STP3)と、短周期成分を除去した右側測定データと左側測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップ(STP4)とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉等の大規模設備の内壁面の形状を測定する形状測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉のような大規模設備の検査の一つとして、設備内壁(例えば炉内炉壁)の形状を測定することによって設備内壁の劣化状態を評価する形状測定方法がある。この形状測定方法では、形状測定装置を設備内に装入し、当該装置を前進させることにより内壁全体を走査しながら設備内壁の形状測定を行うことが一般的である。ところが、このような形状測定方法では、形状測定装置自体の振動や蛇行の影響が形状測定結果に含まれてしまうことがある。このため、この形状測定方法では、測定した情報から形状測定装置自体の振動や蛇行に起因する成分を除去することが重要である。
【0003】
このような背景から、形状測定装置の振動や蛇行の状態を炉外から測定することにより、形状測定装置に起因する振動・蛇行成分を除去する形状測定方法が提案されている。例えば、特許文献1記載の形状測定方法は、炉内の形状測定装置に設置した光源からの照射光と、炉外から炉体に照射したスリット光源からの反射光とを炉外撮像装置で検出し、その画像内の検出位置から形状測定装置とコークス炉の位置関係を求めるものである。また、特許文献2記載の形状測定方法は、コークス炉壁の健全時の形状を既知とし、健全時の形状に最も良く合致するように測定データを当てはめることにより、形状測定装置の振動や蛇行の影響がなく炉壁の劣化部を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−258593号公報
【特許文献2】特開2005−249698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の形状測定方法では、振動により光源と撮像装置との位置関係が歪み、検出誤差が大きくなるという問題がある。また、炉壁の全面計測を行う場合、新たな専用設備を設けることになるが、必ずしも適切な位置に装置増設ができるとは限らない。一方、特許文献2記載の形状測定方法は、健全時のコークス炉壁の形状が平面であると仮定し、測定データから平面部を求め、その部分からの差異を劣化部分と判断しているので、劣化の激しい炉の場合、平面部が少ないため、劣化を正確に判定できないことがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、形状測定装置自体の振動や蛇行の影響を受けずに測定対象の形状を正確に測定可能な形状測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる形状測定方法は、形状測定装置の進行方向右側及び左側にて測定対象の高さ方向の形状を同時に測定する測定ステップと、前記測定対象の進行方向右側面の測定データと前記測定対象の進行方向左側面の測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップと、前記振動除去ステップで短周期成分を除去した前記測定対象の進行方向右側面の測定データと前記測定対象の進行方向左側面の測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップと、前記振動除去ステップ及び前記蛇行除去ステップによる処理後の前記右側測定データ及び前記左側測定データを用いて測定対象の形状を評価する評価ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる形状測定方法によれば、形状測定装置自体の振動や蛇行の影響を受けずに測定対象の形状を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、コークス炉の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、コークス炉の炭化室内部を上方から見た断面図である。
【図3】図3は、炭化室内における形状測定装置を中心とする座標系を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法のフローチャートである。
【図5】図5は、振動除去ステップのフローチャートである。
【図6】図6は、蛇行除去ステップのフローチャートである。
【図7】図7は、炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図である(その1)。
【図8】図8は、振動および蛇行を含む形状測定データを示すシミュレーション図である(その1)。
【図9】図9は、振動および蛇行成分の除去方法を適用したシミュレーション図である(その1)。
【図10】図10は、炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図である(その2)。
【図11】図11は、振動および蛇行を含む形状測定データを示すシミュレーション図である(その2)。
【図12】図12は、振動および蛇行成分の除去方法を適用したシミュレーション図である(その2)。
【図13】図13は、本発明の効果を検証するための比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
始めに、図1および図2を参照して、本発明の実施形態にかかる形状測定方法について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法の測定対象の例となるコークス炉1の構成を示す斜視図である。図1に示すように、コークス炉1は、複数の炭化室2及び燃焼室3を有する。複数の炭化室2及び燃焼室3は、蓄熱室4の上部に交互に形成され、各炭化室2の天井部には、複数の装炭口5が形成されている。
【0013】
複数の装炭口5は、コークス炉1の上部を走行する装炭車6によって運ばれた石炭を炭化室2内に装入するためのものである。装炭口5から炭化室2に装入された石炭は、燃焼室3からの熱を受けて乾留し、赤熱コークスとなって炭化室2から押出機7によって押し出される。炭化室2から押し出された赤熱コークスは、ガイド車8を経て消火車9に受け渡され、消火車9によって搬出される。炭化室2は、押出機7の押出ラム10が挿入される入側窯口と赤熱コークスが押し出される出側窯口とを有する。
【0014】
図2は、炭化室2の内部を上方から見た断面図である。図2における(a)および(b)は、炭化室2を形状測定装置11により測定する際の正常位置と振動・蛇行位置との違いを示すものである。図2に示されるように、炭化室2は、多数のレンガを積み上げることによって形成された炭化室炉壁2a,2bにより構成されている。なお、図2に示された炭化室2は、幅が入側350mm、出側450mm程度のテーパがついた長さ約15m、高さ約7mの例である。
【0015】
本発明の実施形態である形状測定方法は、図2(a)に示されるように、押出ラム10の先端部に形状測定装置11を取り付け、押出ラム10を炭化室2に装入して移動させて行う。形状測定装置11は、炭化室炉壁2a,2bと形状測定装置11の間の距離(Zl,Zr)を測長することができる装置である。したがって、形状測定装置11が、炭化室2の中心線上を前進しながら炭化室炉壁2a,2bの高さ方向についての1次元的な測長を行えば、炭化室炉壁2a,2bの全体の走査を行うことができる。
【0016】
しかしながら、形状測定装置11が前進する際に炉底に残っているコークスに乗り上げたり、形状測定装置11自体が傾いたりすることにより振動・蛇行が発生すると、図2(b)に示されるように、炭化室炉壁2a,2bに対して形状測定装置11の位置が変化する。その場合、炭化室炉壁2a,2bと形状測定装置11の間の距離(Zl,Zr)も変化してしまい、正確な測定ができない。
【0017】
以下、本発明の実施形態に従い、上記のように発生してしまう形状測定装置11の振動・蛇行に起因する振動・蛇行成分を測定データから除去する方法について説明する。なお、以下では、形状測定装置11が装置両側の炉壁形状を同じタイミングで測定可能なものとし、その装置から左右炉壁の全長全高の測定データが得られているものとし、左右の測定データに同じ振動・蛇行成分が含まれているものとする。
【0018】
以下の説明を容易にするため、図3に示すように、形状測定装置11を中心とする炭化室2内のXYZ座標系を定める。すなわち、形状測定装置11の直進方向をX軸とし、炭化室炉壁2a,2bの凹凸方向(形状測定装置11から見て左右方向)をZ軸とし、炭化室2の高さ方向(図3において紙面垂直方向)をY軸とする。また、このような座標軸を設けた場合に、形状測定装置11の左右に得られる全長全高の測定データをそれぞれZl(x,y),Zr(x,y)とする。なお、上記座標軸の定義からZl(x,y)>0,Zr(x,y)<0となる。
【0019】
図4は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法のフローチャートである。本発明の実施形態である形状測定方法は、図4に示されるように、測定対象の形状を測定する測定ステップと(ステップSTP1)、測定対象の面全体を走査する走査ステップ(ステップSTP2)と、振動を除去するステップと(ステップSTP3)、蛇行を除去するステップ(ステップSTP4)との4つのステップに大別される。
【0020】
測定ステップでは、形状測定装置11の進行方向の右側及び左側にて炭化室炉壁2a,2bの高さ方向の形状を左右同時に測定する(ステップSTP1)。走査ステップでは、形状測定装置11の前進に従い、炭化室炉壁2a,2bの面全体の走査する(ステップSTP2)。
【0021】
そして、振動除去ステップでは、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する(ステップSTP3)。振動は短い空間周期であるため、必ずしも左右での振動の位相が厳密には合わないという理由から、左右の測定データそれぞれに振動除去処理を施す。
【0022】
その後、蛇行除去ステップでは、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する(ステップSTP4)。蛇行は長い空間周期であり左右間で多少の空間位相のずれは許容できるので、左右両方の測定データを用いて蛇行成分の推定精度を向上させる。
【0023】
短周期成分、長周期成分とはそれぞれ、振動、蛇行の持つ支配的な周期のことを指し、測定データから判断して設定するものである。測定データに振動による数十mm周期の成分と左右に倒れながら蛇行した数百mm周期の成分が観測された場合には、例えば100mm以下を振動による短周期成分、100mm以上を蛇行による長周期成分として扱えばよい。周期で分ける理由は、振動的な成分の空間位相のずれが左右炉壁の測定データ間で許容できるかどうかで処理をわける必要があるためであり、振動・蛇行が周期では区別がつけられない場合でも空間位相のずれを考慮して周期に閾値を設定し、閾値以下の短周期成分を振動、閾値以上の長周期成分を蛇行とみなして扱えばよい。
【0024】
以下では、図5および図6に示されるフローチャートを参照しながら、上記振動除去ステップと蛇行除去ステップとについて、より具体的な例を挙げながら説明する。
【0025】
炭化室2から得られた形状測定データは、1)炭化室2の形状に起因するテーパ成分と、2)レンガ目地部分の損耗等による低周期の形状成分と、3)装炭口から石炭を入れること等によるレンガ数個分に及ぶ損耗による長周期の形状成分と、4)低周期の振動成分と、5)長周期の蛇行成分とからなると考えることが出来る。また、振動と蛇行は形状測定装置11がX方向に走査する際にZ方向に装置が移動して生じる成分であるため、Y方向のどの地点におけるX−Z平面内でも同じ振動・蛇行が観測され、言い換えるとX方向のどの地点におけるY−Z平面内でも振動的な成分はないということを仮定している。
【0026】
はじめに、図5に示されるフローチャートを参照しながら、振動除去ステップについて説明する。まず、振動除去ステップでは、長周期成分を除外するためにX方向1ラインごとにハイパスフィルタを適用する。これにより、テーパ成分と長周期の形状成分と蛇行成分が除外され、低周期の形状成分と振動成分が残る。例えばハイパスフィルタに関しては、以下のような実施をすることができる。
【0027】
まず、測定したデータをデータ1と呼ぶことにし、データ1に対してローパスフィルタの一種である移動平均フィルタをかけたものをデータ2とする(ステップS1)。データ1からデータ2を減算したものをデータ3とすれば(ステップS2)、実装が容易な移動平均フィルタを用いてハイパスフィルタを実現できる。なお、上記ステップS1およびステップS2の処理を施したデータ3は、低周期の形状成分と振動成分の形状を含むデータである。
【0028】
その後、低周期の形状成分と振動成分の形状を含むデータ3について、Y方向にメディアンフィルタを適用し、この結果をデータ4とする(ステップS3)。Y方向には振動成分がないため、Y方向にメディアンフィルタを用いると、測定対象本来の細かい形状(低周期の形状成分)のみを除外することが出来るため、振動成分(データ4)を分離することができる。最後にデータ1から分離した振動成分であるデータ4を減算することで振動除去を行う(ステップS4)。
【0029】
上記振動除去ステップを行った段階で、形状測定データは、1)炭化室2の形状に起因するテーパ成分と、2)レンガ目地部分の損耗等による低周期の形状成分と、3)装炭口から石炭を入れること等によるレンガ数個分に及ぶ損耗による長周期の形状成分と、5)長周期の蛇行成分とで構成されている。次に、図6に示されるフローチャートを参照しながら、蛇行除去ステップについて説明する。
【0030】
まず、蛇行除去ステップでは、左右の測定データ(左の測定データをデータ1’、右の測定データをデータ2’とする)を加算平均し、この結果をデータ3’とする(ステップS5)。具体的には、データ1’をZl(x,y)としデータ2’をZr(x,y)とした場合、データ3’は(Zl(x,y)+Zr(x,y))/2である。測定データに含まれるテーパ成分はX−Z平面内でX方向に対して逆方向に増減する(xが増加するに従ってZl(x,y)は増加、Zr(x,y)は減少する)ものであるのに対し、蛇行成分は、形状計測装置11がZ方向に蛇行することにより生じるため、X−Z平面内でX方向に対して位相の揃った周期成分である。そのため、このステップS5により、1)テーパ成分を相殺し、2)蛇行成分を測定対象本来の形状成分に対して相対的に強調することができる。
【0031】
その後、データ3’をY方向に関して平均化する処理をして、X方向に関する1次元データを取得し、これをデータ4’とする(ステップS6)。データ3’は測定対象本来の形状成分と蛇行成分で構成されるが、Y方向には蛇行成分は一様であるため、このステップS6により、炭化室炉壁2a,2bの形状は平均化されて影響が小さくなり、形状測定装置11に起因する蛇行成分を相対的に強調することができる。
【0032】
次に、このステップ6の処理により蛇行成分が強調された1次元データであるデータ4’に対して、ローパスフィルタを適用して測定対象本来の形状成分を除外し蛇行成分を抽出して、この結果をデータ5’とする(ステップS7)。なお、この場合のローパスフィルタは移動平均でよい。そして、データ5’を元の測定データ(データ1’またはデータ2’)から減算することにより、蛇行除去を行う(ステップS8)。
【0033】
以下では、上述の本発明の実施形態にかかる形状測定方法をコークス炉壁測定へ適用することを想定し、振動・蛇行除去のシミュレーションを行ったものを説明する。
【0034】
〔実施シミュレーション1〕
図7は、炭化室炉壁2a,2bの目地のみが劣化部であるとして作成したシミュレーション図である。すなわち、図7は、本シミュレーションにおける炉壁形状のオリジナル形状データを示している。グレースケールのカラーバーは炉壁面垂直方向(つまりZ方向)の距離を表し、単位はmmである(以下すべての図にて同じ)。レンガは縦130mm、横340mmとした。レンガの目地部分の劣化として、幅40mm、深さ10mmの逆山形の溝を設定している。炭化室炉壁2a,2bのZ方向のテーパはX=0mm時に窯幅が350mm、X=2000mm時に窯幅が450mmとした。また、左右の炉壁はX−Y平面に対して対称な形状とした。
【0035】
図8は、上記設定の炭化室炉壁2a,2bを形状測定装置11で測定した場合における、振動および蛇行成分を含む形状測定データを示すシミュレーション図である。つまり、上述説明におけるデータ1に相当するデータである。具体的には、図7に示されるデータに対して、振動として空間周期50mmで振幅20mmの正弦波と、蛇行として空間周期500mmで振幅50mmの正弦波とを加えたものである。
【0036】
図9は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法を、上記振動および蛇行成分を含む形状測定データ(図8に示される形状測定データ)に適用したシミュレーション図である。図9(a)(b)(c)は、それぞれ上述の振動および蛇行成分の除去処理を1〜3回施したものである。なお、下の図ほど端領域のデータが切れているのは、X方向の移動平均フィルタ長に足りない端領域を表示させていないためであり、本発明における本質的部分ではない。
【0037】
図9に示されるように、本発明の実施形態にかかる形状測定方法によれば、段階的に振動および蛇行成分の除去できていることが確認できる。3回の処理を施したデータ(図9(c)に示されるデータ)と炉壁形状のオリジナル形状データ(図7に示されるデータ)との差分を取り、この差の標準偏差を計算すると0.2mmであった。すなわち、本シミュレーションによれば、形状測定データに含まれていた振幅20mmの振動と振幅50mmの蛇行が精度良く除去できることが示されている。
【0038】
なお、上記シミュレーションにおける設定パラメータは以下のとおりである。振動除去ステップにおけるX方向のハイパスフィルタは、フィルタ長100mmの移動平均をかけたデータを元のデータから減算する処理により実施した(図5ステップS1およびS2参照)。また、Y方向のメディアンフィルタにはフィルタ長260mmのメディアンフィルタである(図5ステップS3参照)。メディアンフィルタ長は本来の凹凸形状と振動を分離するために想定される本来の凹凸形状幅より十分大きく設定する必要がある。今回は目地部分が最も劣化して凹凸が大きいと想定し、レンガの縦の長さの2倍とした。蛇行除去ステップにおける蛇行抽出のためのローパスフィルタは、フィルタ長200mmの移動平均を用いた(図6ステップS7参照)。
【0039】
〔実施シミュレーション2〕
2つ目の実施シミュレーションとして、右側の炉壁のみに炉壁の一部欠損がある場合のシミュレーションを行った。
【0040】
図10は、本シミュレーションにおける炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図である。具体的には、図7に示した炉壁形状のオリジナル形状データから、高さ300mm、幅113mm、最深20mmの半楕円体の形状を欠損させたものを右側炉壁の形状としたものである。なお左側の炉壁は、図7に示した炉壁形状と同じ平面的な炉壁モデルをX−Y平面に対して対称に移したものとした。
【0041】
図11は、上記設定の炭化室炉壁2a,2bを形状測定装置11で測定した場合における、振動および蛇行を含む形状測定データを示すシミュレーション図である。具体的には、図10に示されるデータに対して、振動として空間周期50mmで振幅20mmの正弦波と、蛇行として空間周期500mmで振幅50mmの正弦波とを加えたものである。
【0042】
図12は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法を、上記振動および蛇行を含む形状測定データ(図11に示される形状測定データ)に適用したシミュレーション図である。図12(a)(b)(c)は、それぞれ上述の振動および蛇行成分の除去処理を1〜3回施したものである。なお、下の図ほど端領域のデータが切れているのは、X方向の移動平均フィルタ長に足りない端領域を表示させていないためであり、本発明における本質的部分ではない。なお、本シミュレーションにおける設定パラメータは、上述実施シミュレーション1と同じである。
【0043】
図12に示されるように、本発明の実施形態にかかる形状測定方法によれば、段階的に振動および蛇行成分を除去できていることが確認できる。3回の処理を施したデータ(図12(c)に示されるデータ)と炉壁形状のオリジナル形状データ(図10に示されるデータ)との差分を取り、この差の標準偏差を計算すると1.3mmである。すなわち、本シミュレーションによれば、形状測定データに含まれていた振幅20mmの振動と振幅50mmの蛇行が精度良く除去できているが、炉壁に欠損が無い場合のシミュレーションに比べると精度が悪化している。そこで、以下では、本シミュレーションの結果についてより詳細な検証をする。
【0044】
図13は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法の効果を検証するための比較図である。図13(a)は、炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図であり、図10に示した図と同じものである。図13(b)は、上記振動および蛇行を含む形状測定データに振動および蛇行成分の除去処理を3回施した結果のシミュレーション図であり、図12(c)に示した図と同じものである。図13(c)は、図13(a)および(b)に示された除去処理前および除去処理後の測定データについての、Y=600mmにおける断面プロットである。真のデータ(a)と比較して、除去処理後のデータ(b)は欠損部が浅くなっており、最大で4.9mmの差がある。これは真データの欠損最大深さ20mmに対して約25%の違いが有ることになる。
【0045】
上記のような誤差が発生する理由は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法が左右の測定データにおける長周期の同相成分(左右がZ方向に同じ方向で動く成分)は蛇行とみなして除去するように構成されているためである。しかしながら、1)測定対象物の本来の形状の空間周期と、振動・蛇行の空間周期とが可能な限り離れるように装置上の設計を行い、2)発明の実施形態にかかる形状測定方法におけるフィルタ長を、上記振動・蛇行の空間周期に対して適切に設定することを行えば、振動・蛇行除去の精度を向上させることが可能である。
【0046】
以上より、本発明の実施にかかる形状測定方法によれば、形状測定装置11の進行方向右側及び左側にて、高さ方向に関する炭化室炉壁2a,2bの形状を左右同時に測定する測定ステップと、形状測定装置11の前進に従い、炭化室炉壁2a,2bの右側及び左側の面全体を走査して、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとを取得する走査ステップと、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップと、振動除去ステップにより短周期成分を除去した左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップとを含むので、形状測定装置11の位置情報も炭化室炉壁2a,2bの健常状態の情報も必要とせずに、形状測定装置11が取得した測定データから形状測定装置11に起因する振動および蛇行成分を除去することができる。
【0047】
さらに、本発明の実施にかかる形状測定方法によれば、振動除去ステップが、形状測定装置11の進行方向に関する1画素ラインごとに左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとからハイパスフィルタによって長周期成分を除去する長周期成分除去ステップと、長周期成分除去ステップの結果から、高さ方向に関する1画素ラインごとに振動と炭化室炉壁2a,2bの形状とをメディアンフィルタによって分離する振動分離ステップと、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから振動分離ステップの結果を減算する振動減算ステップとを含むので、形状測定装置11に起因する蛇行成分と炭化室2の形状に起因するテーパ成分とを除去しつつも、炭化室炉壁2a,2b本来の細かい形状を損なわずに振動を分離することができる。
【0048】
また、本発明の実施にかかる形状測定方法によれば、蛇行除去ステップが、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとを対応する位置ごとに加算平均するテーパ相殺ステップと、テーパ相殺ステップの結果を高さ方向に関する1画素ラインごとに加算平均して、形状測定装置11の進行方向に関する1次元データを得る形状相殺ステップと、当該1次元データから長周期成分をローパスフィルタにより抽出する蛇行抽出ステップと、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから蛇行抽出ステップの結果を減算する蛇行減算ステップとを含むので、炭化室2の形状に起因するテーパ成分を相殺し且つ炭化室炉壁2a,2bの形状の影響を小さくして、その結果、強調された形状測定装置11に起因する蛇行成分を除去することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 コークス炉
2 炭化室
2a,2b 炭化室炉壁
3 燃焼室
4 蓄熱室
5 装炭口
6 装炭車
7 押出機
8 ガイド車
9 消火車
10 押出ラム
11 形状測定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉等の大規模設備の内壁面の形状を測定する形状測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉のような大規模設備の検査の一つとして、設備内壁(例えば炉内炉壁)の形状を測定することによって設備内壁の劣化状態を評価する形状測定方法がある。この形状測定方法では、形状測定装置を設備内に装入し、当該装置を前進させることにより内壁全体を走査しながら設備内壁の形状測定を行うことが一般的である。ところが、このような形状測定方法では、形状測定装置自体の振動や蛇行の影響が形状測定結果に含まれてしまうことがある。このため、この形状測定方法では、測定した情報から形状測定装置自体の振動や蛇行に起因する成分を除去することが重要である。
【0003】
このような背景から、形状測定装置の振動や蛇行の状態を炉外から測定することにより、形状測定装置に起因する振動・蛇行成分を除去する形状測定方法が提案されている。例えば、特許文献1記載の形状測定方法は、炉内の形状測定装置に設置した光源からの照射光と、炉外から炉体に照射したスリット光源からの反射光とを炉外撮像装置で検出し、その画像内の検出位置から形状測定装置とコークス炉の位置関係を求めるものである。また、特許文献2記載の形状測定方法は、コークス炉壁の健全時の形状を既知とし、健全時の形状に最も良く合致するように測定データを当てはめることにより、形状測定装置の振動や蛇行の影響がなく炉壁の劣化部を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−258593号公報
【特許文献2】特開2005−249698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の形状測定方法では、振動により光源と撮像装置との位置関係が歪み、検出誤差が大きくなるという問題がある。また、炉壁の全面計測を行う場合、新たな専用設備を設けることになるが、必ずしも適切な位置に装置増設ができるとは限らない。一方、特許文献2記載の形状測定方法は、健全時のコークス炉壁の形状が平面であると仮定し、測定データから平面部を求め、その部分からの差異を劣化部分と判断しているので、劣化の激しい炉の場合、平面部が少ないため、劣化を正確に判定できないことがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、形状測定装置自体の振動や蛇行の影響を受けずに測定対象の形状を正確に測定可能な形状測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる形状測定方法は、形状測定装置の進行方向右側及び左側にて測定対象の高さ方向の形状を同時に測定する測定ステップと、前記測定対象の進行方向右側面の測定データと前記測定対象の進行方向左側面の測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップと、前記振動除去ステップで短周期成分を除去した前記測定対象の進行方向右側面の測定データと前記測定対象の進行方向左側面の測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップと、前記振動除去ステップ及び前記蛇行除去ステップによる処理後の前記右側測定データ及び前記左側測定データを用いて測定対象の形状を評価する評価ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる形状測定方法によれば、形状測定装置自体の振動や蛇行の影響を受けずに測定対象の形状を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、コークス炉の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、コークス炉の炭化室内部を上方から見た断面図である。
【図3】図3は、炭化室内における形状測定装置を中心とする座標系を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法のフローチャートである。
【図5】図5は、振動除去ステップのフローチャートである。
【図6】図6は、蛇行除去ステップのフローチャートである。
【図7】図7は、炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図である(その1)。
【図8】図8は、振動および蛇行を含む形状測定データを示すシミュレーション図である(その1)。
【図9】図9は、振動および蛇行成分の除去方法を適用したシミュレーション図である(その1)。
【図10】図10は、炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図である(その2)。
【図11】図11は、振動および蛇行を含む形状測定データを示すシミュレーション図である(その2)。
【図12】図12は、振動および蛇行成分の除去方法を適用したシミュレーション図である(その2)。
【図13】図13は、本発明の効果を検証するための比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
始めに、図1および図2を参照して、本発明の実施形態にかかる形状測定方法について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法の測定対象の例となるコークス炉1の構成を示す斜視図である。図1に示すように、コークス炉1は、複数の炭化室2及び燃焼室3を有する。複数の炭化室2及び燃焼室3は、蓄熱室4の上部に交互に形成され、各炭化室2の天井部には、複数の装炭口5が形成されている。
【0013】
複数の装炭口5は、コークス炉1の上部を走行する装炭車6によって運ばれた石炭を炭化室2内に装入するためのものである。装炭口5から炭化室2に装入された石炭は、燃焼室3からの熱を受けて乾留し、赤熱コークスとなって炭化室2から押出機7によって押し出される。炭化室2から押し出された赤熱コークスは、ガイド車8を経て消火車9に受け渡され、消火車9によって搬出される。炭化室2は、押出機7の押出ラム10が挿入される入側窯口と赤熱コークスが押し出される出側窯口とを有する。
【0014】
図2は、炭化室2の内部を上方から見た断面図である。図2における(a)および(b)は、炭化室2を形状測定装置11により測定する際の正常位置と振動・蛇行位置との違いを示すものである。図2に示されるように、炭化室2は、多数のレンガを積み上げることによって形成された炭化室炉壁2a,2bにより構成されている。なお、図2に示された炭化室2は、幅が入側350mm、出側450mm程度のテーパがついた長さ約15m、高さ約7mの例である。
【0015】
本発明の実施形態である形状測定方法は、図2(a)に示されるように、押出ラム10の先端部に形状測定装置11を取り付け、押出ラム10を炭化室2に装入して移動させて行う。形状測定装置11は、炭化室炉壁2a,2bと形状測定装置11の間の距離(Zl,Zr)を測長することができる装置である。したがって、形状測定装置11が、炭化室2の中心線上を前進しながら炭化室炉壁2a,2bの高さ方向についての1次元的な測長を行えば、炭化室炉壁2a,2bの全体の走査を行うことができる。
【0016】
しかしながら、形状測定装置11が前進する際に炉底に残っているコークスに乗り上げたり、形状測定装置11自体が傾いたりすることにより振動・蛇行が発生すると、図2(b)に示されるように、炭化室炉壁2a,2bに対して形状測定装置11の位置が変化する。その場合、炭化室炉壁2a,2bと形状測定装置11の間の距離(Zl,Zr)も変化してしまい、正確な測定ができない。
【0017】
以下、本発明の実施形態に従い、上記のように発生してしまう形状測定装置11の振動・蛇行に起因する振動・蛇行成分を測定データから除去する方法について説明する。なお、以下では、形状測定装置11が装置両側の炉壁形状を同じタイミングで測定可能なものとし、その装置から左右炉壁の全長全高の測定データが得られているものとし、左右の測定データに同じ振動・蛇行成分が含まれているものとする。
【0018】
以下の説明を容易にするため、図3に示すように、形状測定装置11を中心とする炭化室2内のXYZ座標系を定める。すなわち、形状測定装置11の直進方向をX軸とし、炭化室炉壁2a,2bの凹凸方向(形状測定装置11から見て左右方向)をZ軸とし、炭化室2の高さ方向(図3において紙面垂直方向)をY軸とする。また、このような座標軸を設けた場合に、形状測定装置11の左右に得られる全長全高の測定データをそれぞれZl(x,y),Zr(x,y)とする。なお、上記座標軸の定義からZl(x,y)>0,Zr(x,y)<0となる。
【0019】
図4は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法のフローチャートである。本発明の実施形態である形状測定方法は、図4に示されるように、測定対象の形状を測定する測定ステップと(ステップSTP1)、測定対象の面全体を走査する走査ステップ(ステップSTP2)と、振動を除去するステップと(ステップSTP3)、蛇行を除去するステップ(ステップSTP4)との4つのステップに大別される。
【0020】
測定ステップでは、形状測定装置11の進行方向の右側及び左側にて炭化室炉壁2a,2bの高さ方向の形状を左右同時に測定する(ステップSTP1)。走査ステップでは、形状測定装置11の前進に従い、炭化室炉壁2a,2bの面全体の走査する(ステップSTP2)。
【0021】
そして、振動除去ステップでは、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する(ステップSTP3)。振動は短い空間周期であるため、必ずしも左右での振動の位相が厳密には合わないという理由から、左右の測定データそれぞれに振動除去処理を施す。
【0022】
その後、蛇行除去ステップでは、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する(ステップSTP4)。蛇行は長い空間周期であり左右間で多少の空間位相のずれは許容できるので、左右両方の測定データを用いて蛇行成分の推定精度を向上させる。
【0023】
短周期成分、長周期成分とはそれぞれ、振動、蛇行の持つ支配的な周期のことを指し、測定データから判断して設定するものである。測定データに振動による数十mm周期の成分と左右に倒れながら蛇行した数百mm周期の成分が観測された場合には、例えば100mm以下を振動による短周期成分、100mm以上を蛇行による長周期成分として扱えばよい。周期で分ける理由は、振動的な成分の空間位相のずれが左右炉壁の測定データ間で許容できるかどうかで処理をわける必要があるためであり、振動・蛇行が周期では区別がつけられない場合でも空間位相のずれを考慮して周期に閾値を設定し、閾値以下の短周期成分を振動、閾値以上の長周期成分を蛇行とみなして扱えばよい。
【0024】
以下では、図5および図6に示されるフローチャートを参照しながら、上記振動除去ステップと蛇行除去ステップとについて、より具体的な例を挙げながら説明する。
【0025】
炭化室2から得られた形状測定データは、1)炭化室2の形状に起因するテーパ成分と、2)レンガ目地部分の損耗等による低周期の形状成分と、3)装炭口から石炭を入れること等によるレンガ数個分に及ぶ損耗による長周期の形状成分と、4)低周期の振動成分と、5)長周期の蛇行成分とからなると考えることが出来る。また、振動と蛇行は形状測定装置11がX方向に走査する際にZ方向に装置が移動して生じる成分であるため、Y方向のどの地点におけるX−Z平面内でも同じ振動・蛇行が観測され、言い換えるとX方向のどの地点におけるY−Z平面内でも振動的な成分はないということを仮定している。
【0026】
はじめに、図5に示されるフローチャートを参照しながら、振動除去ステップについて説明する。まず、振動除去ステップでは、長周期成分を除外するためにX方向1ラインごとにハイパスフィルタを適用する。これにより、テーパ成分と長周期の形状成分と蛇行成分が除外され、低周期の形状成分と振動成分が残る。例えばハイパスフィルタに関しては、以下のような実施をすることができる。
【0027】
まず、測定したデータをデータ1と呼ぶことにし、データ1に対してローパスフィルタの一種である移動平均フィルタをかけたものをデータ2とする(ステップS1)。データ1からデータ2を減算したものをデータ3とすれば(ステップS2)、実装が容易な移動平均フィルタを用いてハイパスフィルタを実現できる。なお、上記ステップS1およびステップS2の処理を施したデータ3は、低周期の形状成分と振動成分の形状を含むデータである。
【0028】
その後、低周期の形状成分と振動成分の形状を含むデータ3について、Y方向にメディアンフィルタを適用し、この結果をデータ4とする(ステップS3)。Y方向には振動成分がないため、Y方向にメディアンフィルタを用いると、測定対象本来の細かい形状(低周期の形状成分)のみを除外することが出来るため、振動成分(データ4)を分離することができる。最後にデータ1から分離した振動成分であるデータ4を減算することで振動除去を行う(ステップS4)。
【0029】
上記振動除去ステップを行った段階で、形状測定データは、1)炭化室2の形状に起因するテーパ成分と、2)レンガ目地部分の損耗等による低周期の形状成分と、3)装炭口から石炭を入れること等によるレンガ数個分に及ぶ損耗による長周期の形状成分と、5)長周期の蛇行成分とで構成されている。次に、図6に示されるフローチャートを参照しながら、蛇行除去ステップについて説明する。
【0030】
まず、蛇行除去ステップでは、左右の測定データ(左の測定データをデータ1’、右の測定データをデータ2’とする)を加算平均し、この結果をデータ3’とする(ステップS5)。具体的には、データ1’をZl(x,y)としデータ2’をZr(x,y)とした場合、データ3’は(Zl(x,y)+Zr(x,y))/2である。測定データに含まれるテーパ成分はX−Z平面内でX方向に対して逆方向に増減する(xが増加するに従ってZl(x,y)は増加、Zr(x,y)は減少する)ものであるのに対し、蛇行成分は、形状計測装置11がZ方向に蛇行することにより生じるため、X−Z平面内でX方向に対して位相の揃った周期成分である。そのため、このステップS5により、1)テーパ成分を相殺し、2)蛇行成分を測定対象本来の形状成分に対して相対的に強調することができる。
【0031】
その後、データ3’をY方向に関して平均化する処理をして、X方向に関する1次元データを取得し、これをデータ4’とする(ステップS6)。データ3’は測定対象本来の形状成分と蛇行成分で構成されるが、Y方向には蛇行成分は一様であるため、このステップS6により、炭化室炉壁2a,2bの形状は平均化されて影響が小さくなり、形状測定装置11に起因する蛇行成分を相対的に強調することができる。
【0032】
次に、このステップ6の処理により蛇行成分が強調された1次元データであるデータ4’に対して、ローパスフィルタを適用して測定対象本来の形状成分を除外し蛇行成分を抽出して、この結果をデータ5’とする(ステップS7)。なお、この場合のローパスフィルタは移動平均でよい。そして、データ5’を元の測定データ(データ1’またはデータ2’)から減算することにより、蛇行除去を行う(ステップS8)。
【0033】
以下では、上述の本発明の実施形態にかかる形状測定方法をコークス炉壁測定へ適用することを想定し、振動・蛇行除去のシミュレーションを行ったものを説明する。
【0034】
〔実施シミュレーション1〕
図7は、炭化室炉壁2a,2bの目地のみが劣化部であるとして作成したシミュレーション図である。すなわち、図7は、本シミュレーションにおける炉壁形状のオリジナル形状データを示している。グレースケールのカラーバーは炉壁面垂直方向(つまりZ方向)の距離を表し、単位はmmである(以下すべての図にて同じ)。レンガは縦130mm、横340mmとした。レンガの目地部分の劣化として、幅40mm、深さ10mmの逆山形の溝を設定している。炭化室炉壁2a,2bのZ方向のテーパはX=0mm時に窯幅が350mm、X=2000mm時に窯幅が450mmとした。また、左右の炉壁はX−Y平面に対して対称な形状とした。
【0035】
図8は、上記設定の炭化室炉壁2a,2bを形状測定装置11で測定した場合における、振動および蛇行成分を含む形状測定データを示すシミュレーション図である。つまり、上述説明におけるデータ1に相当するデータである。具体的には、図7に示されるデータに対して、振動として空間周期50mmで振幅20mmの正弦波と、蛇行として空間周期500mmで振幅50mmの正弦波とを加えたものである。
【0036】
図9は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法を、上記振動および蛇行成分を含む形状測定データ(図8に示される形状測定データ)に適用したシミュレーション図である。図9(a)(b)(c)は、それぞれ上述の振動および蛇行成分の除去処理を1〜3回施したものである。なお、下の図ほど端領域のデータが切れているのは、X方向の移動平均フィルタ長に足りない端領域を表示させていないためであり、本発明における本質的部分ではない。
【0037】
図9に示されるように、本発明の実施形態にかかる形状測定方法によれば、段階的に振動および蛇行成分の除去できていることが確認できる。3回の処理を施したデータ(図9(c)に示されるデータ)と炉壁形状のオリジナル形状データ(図7に示されるデータ)との差分を取り、この差の標準偏差を計算すると0.2mmであった。すなわち、本シミュレーションによれば、形状測定データに含まれていた振幅20mmの振動と振幅50mmの蛇行が精度良く除去できることが示されている。
【0038】
なお、上記シミュレーションにおける設定パラメータは以下のとおりである。振動除去ステップにおけるX方向のハイパスフィルタは、フィルタ長100mmの移動平均をかけたデータを元のデータから減算する処理により実施した(図5ステップS1およびS2参照)。また、Y方向のメディアンフィルタにはフィルタ長260mmのメディアンフィルタである(図5ステップS3参照)。メディアンフィルタ長は本来の凹凸形状と振動を分離するために想定される本来の凹凸形状幅より十分大きく設定する必要がある。今回は目地部分が最も劣化して凹凸が大きいと想定し、レンガの縦の長さの2倍とした。蛇行除去ステップにおける蛇行抽出のためのローパスフィルタは、フィルタ長200mmの移動平均を用いた(図6ステップS7参照)。
【0039】
〔実施シミュレーション2〕
2つ目の実施シミュレーションとして、右側の炉壁のみに炉壁の一部欠損がある場合のシミュレーションを行った。
【0040】
図10は、本シミュレーションにおける炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図である。具体的には、図7に示した炉壁形状のオリジナル形状データから、高さ300mm、幅113mm、最深20mmの半楕円体の形状を欠損させたものを右側炉壁の形状としたものである。なお左側の炉壁は、図7に示した炉壁形状と同じ平面的な炉壁モデルをX−Y平面に対して対称に移したものとした。
【0041】
図11は、上記設定の炭化室炉壁2a,2bを形状測定装置11で測定した場合における、振動および蛇行を含む形状測定データを示すシミュレーション図である。具体的には、図10に示されるデータに対して、振動として空間周期50mmで振幅20mmの正弦波と、蛇行として空間周期500mmで振幅50mmの正弦波とを加えたものである。
【0042】
図12は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法を、上記振動および蛇行を含む形状測定データ(図11に示される形状測定データ)に適用したシミュレーション図である。図12(a)(b)(c)は、それぞれ上述の振動および蛇行成分の除去処理を1〜3回施したものである。なお、下の図ほど端領域のデータが切れているのは、X方向の移動平均フィルタ長に足りない端領域を表示させていないためであり、本発明における本質的部分ではない。なお、本シミュレーションにおける設定パラメータは、上述実施シミュレーション1と同じである。
【0043】
図12に示されるように、本発明の実施形態にかかる形状測定方法によれば、段階的に振動および蛇行成分を除去できていることが確認できる。3回の処理を施したデータ(図12(c)に示されるデータ)と炉壁形状のオリジナル形状データ(図10に示されるデータ)との差分を取り、この差の標準偏差を計算すると1.3mmである。すなわち、本シミュレーションによれば、形状測定データに含まれていた振幅20mmの振動と振幅50mmの蛇行が精度良く除去できているが、炉壁に欠損が無い場合のシミュレーションに比べると精度が悪化している。そこで、以下では、本シミュレーションの結果についてより詳細な検証をする。
【0044】
図13は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法の効果を検証するための比較図である。図13(a)は、炉壁形状のオリジナル形状データを示すシミュレーション図であり、図10に示した図と同じものである。図13(b)は、上記振動および蛇行を含む形状測定データに振動および蛇行成分の除去処理を3回施した結果のシミュレーション図であり、図12(c)に示した図と同じものである。図13(c)は、図13(a)および(b)に示された除去処理前および除去処理後の測定データについての、Y=600mmにおける断面プロットである。真のデータ(a)と比較して、除去処理後のデータ(b)は欠損部が浅くなっており、最大で4.9mmの差がある。これは真データの欠損最大深さ20mmに対して約25%の違いが有ることになる。
【0045】
上記のような誤差が発生する理由は、本発明の実施形態にかかる形状測定方法が左右の測定データにおける長周期の同相成分(左右がZ方向に同じ方向で動く成分)は蛇行とみなして除去するように構成されているためである。しかしながら、1)測定対象物の本来の形状の空間周期と、振動・蛇行の空間周期とが可能な限り離れるように装置上の設計を行い、2)発明の実施形態にかかる形状測定方法におけるフィルタ長を、上記振動・蛇行の空間周期に対して適切に設定することを行えば、振動・蛇行除去の精度を向上させることが可能である。
【0046】
以上より、本発明の実施にかかる形状測定方法によれば、形状測定装置11の進行方向右側及び左側にて、高さ方向に関する炭化室炉壁2a,2bの形状を左右同時に測定する測定ステップと、形状測定装置11の前進に従い、炭化室炉壁2a,2bの右側及び左側の面全体を走査して、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとを取得する走査ステップと、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップと、振動除去ステップにより短周期成分を除去した左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップとを含むので、形状測定装置11の位置情報も炭化室炉壁2a,2bの健常状態の情報も必要とせずに、形状測定装置11が取得した測定データから形状測定装置11に起因する振動および蛇行成分を除去することができる。
【0047】
さらに、本発明の実施にかかる形状測定方法によれば、振動除去ステップが、形状測定装置11の進行方向に関する1画素ラインごとに左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとからハイパスフィルタによって長周期成分を除去する長周期成分除去ステップと、長周期成分除去ステップの結果から、高さ方向に関する1画素ラインごとに振動と炭化室炉壁2a,2bの形状とをメディアンフィルタによって分離する振動分離ステップと、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから振動分離ステップの結果を減算する振動減算ステップとを含むので、形状測定装置11に起因する蛇行成分と炭化室2の形状に起因するテーパ成分とを除去しつつも、炭化室炉壁2a,2b本来の細かい形状を損なわずに振動を分離することができる。
【0048】
また、本発明の実施にかかる形状測定方法によれば、蛇行除去ステップが、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとを対応する位置ごとに加算平均するテーパ相殺ステップと、テーパ相殺ステップの結果を高さ方向に関する1画素ラインごとに加算平均して、形状測定装置11の進行方向に関する1次元データを得る形状相殺ステップと、当該1次元データから長周期成分をローパスフィルタにより抽出する蛇行抽出ステップと、左側の炭化室炉壁2aの測定データと右側の炭化室炉壁2bの測定データとから蛇行抽出ステップの結果を減算する蛇行減算ステップとを含むので、炭化室2の形状に起因するテーパ成分を相殺し且つ炭化室炉壁2a,2bの形状の影響を小さくして、その結果、強調された形状測定装置11に起因する蛇行成分を除去することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 コークス炉
2 炭化室
2a,2b 炭化室炉壁
3 燃焼室
4 蓄熱室
5 装炭口
6 装炭車
7 押出機
8 ガイド車
9 消火車
10 押出ラム
11 形状測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状測定装置の進行方向右側及び左側にて、高さ方向に関する測定対象の形状を左右同時に測定する測定ステップと、
前記形状測定装置の前進に従い、前記測定対象の右側及び左側の面全体を走査して、前記測定対象の右側測定データと左側測定データとを取得する走査ステップと、
前記測定対象の右側測定データと左側測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップと、
前記振動除去ステップにより短周期成分を除去した前記右側測定データと前記左側測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップと、
を含むことを特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
前記振動除去ステップは、
前記形状測定装置の進行方向に関する1画素ラインごとに前記右側測定データと前記左側測定データとから長周期成分を除去する長周期成分除去ステップと、
前記長周期成分除去ステップの結果から、前記高さ方向に関する1画素ラインごとに振動と前記測定対象の形状とを分離する振動分離ステップと、
前記右側測定データと前記左側測定データとから前記振動分離ステップの結果を減算する振動減算ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記長周期成分除去ステップは、ハイパスフィルタによって長周期成分を除去し、
前記振動分離ステップは、メディアンフィルタによって振動と前記測定対象の形状とを分離する、
ことを特徴とする請求項2に記載の形状測定方法。
【請求項4】
前記蛇行除去ステップは、
前記右側測定データと前記左側測定データとを対応する位置ごとに平均化するテーパ相殺ステップと、
前記テーパ相殺ステップの結果を前記高さ方向に関する1画素ラインごとに平均化して、前記形状測定装置の進行方向に関する1次元データを得る形状相殺ステップと、
前記1次元データから長周期成分を抽出する蛇行抽出ステップと、
前記右側測定データと前記左側測定データとから前記蛇行抽出ステップの結果を減算する蛇行減算ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の形状測定方法。
【請求項5】
前記テーパ相殺ステップは、前記右側測定データと前記左側測定データとを対応する位置ごとに加算平均し、
前記形状相殺ステップは、前記高さ方向に関する1画素ラインごとに加算平均にし、
前記蛇行抽出ステップは、ローパスフィルタにより長周期成分を抽出する、
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の振動および形状測定方法。
【請求項1】
形状測定装置の進行方向右側及び左側にて、高さ方向に関する測定対象の形状を左右同時に測定する測定ステップと、
前記形状測定装置の前進に従い、前記測定対象の右側及び左側の面全体を走査して、前記測定対象の右側測定データと左側測定データとを取得する走査ステップと、
前記測定対象の右側測定データと左側測定データとから、それぞれ独立に短周期成分を除去する振動除去ステップと、
前記振動除去ステップにより短周期成分を除去した前記右側測定データと前記左側測定データとの両方を用いて長周期成分を除去する蛇行除去ステップと、
を含むことを特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
前記振動除去ステップは、
前記形状測定装置の進行方向に関する1画素ラインごとに前記右側測定データと前記左側測定データとから長周期成分を除去する長周期成分除去ステップと、
前記長周期成分除去ステップの結果から、前記高さ方向に関する1画素ラインごとに振動と前記測定対象の形状とを分離する振動分離ステップと、
前記右側測定データと前記左側測定データとから前記振動分離ステップの結果を減算する振動減算ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記長周期成分除去ステップは、ハイパスフィルタによって長周期成分を除去し、
前記振動分離ステップは、メディアンフィルタによって振動と前記測定対象の形状とを分離する、
ことを特徴とする請求項2に記載の形状測定方法。
【請求項4】
前記蛇行除去ステップは、
前記右側測定データと前記左側測定データとを対応する位置ごとに平均化するテーパ相殺ステップと、
前記テーパ相殺ステップの結果を前記高さ方向に関する1画素ラインごとに平均化して、前記形状測定装置の進行方向に関する1次元データを得る形状相殺ステップと、
前記1次元データから長周期成分を抽出する蛇行抽出ステップと、
前記右側測定データと前記左側測定データとから前記蛇行抽出ステップの結果を減算する蛇行減算ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の形状測定方法。
【請求項5】
前記テーパ相殺ステップは、前記右側測定データと前記左側測定データとを対応する位置ごとに加算平均し、
前記形状相殺ステップは、前記高さ方向に関する1画素ラインごとに加算平均にし、
前記蛇行抽出ステップは、ローパスフィルタにより長周期成分を抽出する、
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の振動および形状測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−177595(P2012−177595A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40157(P2011−40157)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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