説明

微小構造を製造するための方法および装置

本発明は、微小構造を製造するための方法であって、基板の表面上にマスクを配置する工程;ならびに前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に層を形成するために当該圧力で実施される当該蒸着条件下で原料物質を蒸着させる工程を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小構造を製造するための技術に関する。
【0002】
本出願は、2006年9月21日に出願された先行する米国特許仮出願第60/826,483号に基づいており、前記特許出願からの優先権の利益を主張する;その全内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
Fischer and Zingsheim(U.Ch.Fischer & H.P.Zingsheim,J.Vac.Sci.Technol.,Vol.19,pp.881−885,1981)ならびにDeckman and Dunsmuir(H.W.Deckman & J.H.Dunsmuir,Appl.Phys.Lett.,Vol.41,pp.377−379,1982)の将来性に富む研究以降、表面吸着させたコロイド粒子は、ナノパターン形成法のための大規模マスクとしての一般的用途を見いだしてきた。図1に図示したように、マスクは、それらが支持構造の表面を防護するエッチングプロセス(図1(a)を参照)において、または隣接粒子間の間隙内でのみ追加の形態の形成を可能にする材料溶着(図1(b)を参照)のためのいずれかで使用できる。エッチングプロセスの場合は、通常は薄膜1が固体基板2上に形成される(工程1)。コロイドマスク3の溶着後、薄膜1は、反応性イオンエッチングなどの破壊的処理4において構築される。そこで、薄膜1の、コロイドマスク3によって保護される領域だけが安定性である(工程2)。溶着プロセスの場合は、コロイドマスク3が基板2上に配置される(工程1)。次に薄膜1が、溶着する工程5中にマスク3内の間隙を通して構築される(工程2)。これらの2種の技術は、補完的パターンを生み出す。このエッチングプロセスおよび溶着プロセスの基本概念は、以下に略述する様々な多数の方法で適用かつ修飾されてきた。
【0004】
初期には、コロイド粒子が六角形高密度構造を形成するために表面上に溶着させられ、ナノ構造は粒子間の間隙を通しての熱蒸発による材料溶着によって形成された(Fischer & Zingsheim,Deckman & Dunsmuir,F.Burmeister et al.,Langmuir,Vol.13,pp.2983,1997)。また別のアプローチは、六角形高密度粒子層内で粒径を小さくするためにエッチングする工程を最初に適用した。次に、材料は表面の陰になっていない領域上に蒸着によって溶着させられ、それによって網状ナノ構造が形成された(C.Haginoya et al.,Appl.Phys.Lett.,Vol.71,pp.2934−2936,1997;D.−G.Choi et al.,Chem.Mater.,Vol.16,pp.4208−4211,2004)。後になり、リソグラフィマスクとしてのコロイド粒子の使用は、低密度の、および規則的ではない配列の粒子へ拡大されてきた。標準的な溶着スキームおよび結果として生じるコロイドマスクについての概観に関しては、例えば、Himmelhaus & Takei(M.Himmelhaus & H.Takei,Phys.Chem.Chem.Phys.,Vol.4,pp.496−506,2002)およびその中で挙げられた参考文献を参照されたい。
【0005】
Bonebergら(J.Boneberg et al.,Langmuir,Vol.13,pp.7080−7084,1997)は、コロイド懸濁液を乾燥させるプロセスを使用して、乾燥させる工程の前に懸濁液に有機分子を添加することによって、球形コロイド粒子と基板との接触点の周囲で有機環を形成した。Aizpuruaら(J.Aizpurua et al.,Phys.Rev.Lett.,Vol.90,pp.057401/1−4,2003)は、アルゴンイオンビームエッチング法を使用して、最初に表面の陰になっていない部分から金属を削摩し、次にアルゴンイオンとの衝突によって粒子の下方の陰になった領域を充填することによって環状金属構造を製造した。
【0006】
Van Duyne(C.L.Haynes et al.,J.Phys.Chem.B,Vol.106,pp.1898−1902,2002)は、コロイドマスクの間隙内で様々に形成されたナノ構造を実現するために、表面に対して相違する溶着角でのコロイドマスク上への金属溶着を利用した。
【0007】
Yangおよび共同研究者ら(D.−G.Choi et al.,J.Am.Chem.Soc,Vol.127,pp.1636−1637,2005)は、高密度コロイド二重層を使用してナノ細孔を作製した。1μmの平均粒径を備えるポリスチレン(PS)ラテックス懸濁液が50nmの平均粒径を備えるシリカナノ粒子懸濁液と混合された。混合物を基板上に溶着させ、引き続いて乾燥させた後に、シリカホストマトリックス内に埋め込まれたPSビーズ二重層が形成された。その後の反応性イオンエッチング(RIE)の工程は、ビーズの除去およびビーズのパターン形成ならびにシリカナノ細孔構造の形成をもたらした。
【0008】
Chilkotiおよび共同研究者ら(W.Frey et al.,Adv.Mater.,Vol.12,pp.1515−1519,2000)は、マイカ上でのコロイドリソグラフィとその後のリフトオフプロセスとを結合して、パターンの形成にもかかわらずいかなるトポロジーも欠如する超平坦二元ナノパターンを実現した。そのような形態は、界面化学が界面トポロジーから適正に識別されなければならないあらゆる用途において有用である。
【0009】
Renおよび共同研究者ら(Y.Wang et al.,Nanotechnol.,Vol.16,pp.819−822,2005)は、スパッタリングおよび蒸着プロセスの組み合わせにおいてコロイドマスクを使用して、複雑な二次無機マスクを形成した。次に、この複雑な二次無機マスクは、三角格子アレイを調製するために使用された。この研究は、凸形粒子層上でのスパッタリングと蒸着との相違を初めて開示しているために重要である。
【0010】
近年の研究においてHimmelhausおよび共同研究者ら(J.Wright et al.,Adv.Mater.,Vol.18,pp.421−426,2006)は、このスパッタリングと蒸着との相違をChilkotiおよび共同研究者らによって提案されたリフトオフプロセスと結び付けて利用し、超平坦三元パターンを形成した。この技術の鍵は、スパッタリングが接近可能な基板表面全体を被覆し、コロイド粒子と直接接触している表面上の領域だけを被覆せずに残すが、蒸着は陰になっていない領域だけを被覆することにある。したがって、蒸着とその後のスパッタリングとを組み合わせると、基板上に二元無機パターンが形成される。コロイド粒子を除去し、残っている開口部を埋め戻すと、その後のリフトオフプロセスによって接近可能になる三元構造が形成される。
【0011】
無機材料、例えば金属もしくは金属酸化物を溶着させるためには、当業者には周知であるように、主として標準的な蒸着プロセスおよびスパッタリングプロセスが適用されてきた。しかし、Okazaki and Sambles(N.Okazaki & J.R.Sambles,A New Fabrication Technique and Current−Voltage Properties of a Au/LB/Au Structure,Extended Abstracts,Intl.Symposium on Organic Molecular Electronics,Nagoya,Japan,18−19 May 2000,pp.66−67)ならびに後のPetersonおよび共同研究者ら(R.M.Metzger et al.,J.Phys.Chem.B,Vol.105,pp.7280−7290,2001)は、通常よりはるかに高い基本圧(約5×10−3hPaまで)での金属蒸着を使用して、有機超薄膜上への蒸着金属原子のソフトランディングを実現した。これは、使用時の蒸発器の低い基本圧(約10−6hPa)をアルゴンによって上昇させることによって実現された。これに先行して、1つの表面上に有機超薄膜を有する基板は、被覆面が蒸着源に面さないように蒸着チャンバの内側に取り付けられた。したがって、アルゴン原子との衝突によって後方散乱させられた金属原子だけを有機膜上に蒸着させることができた。後方散乱原子は衝撃が小さいために、有機膜は蒸着プロセス中に損傷しなかった。これらの活動は、分子電子学における用途のための金属−有機膜−金属のサンドイッチ層を作製することを目的としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の関連分野において発生する可能性がある問題を解決するために実現されてきた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様による微小構造を製造する方法は、基板の表面上にマスクを溶着させる工程;ならびに前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に層を形成するために当該圧力で実施される当該蒸着条件下で原料物質を蒸着させる工程を含む。
【0014】
本発明のまた別の態様による生成物は、上述した微小構造を製造する方法によって製造された生成物である。
【0015】
本発明のまた別の態様による装置は、その中でマスクを有する基板が前記基板の表面上に配置される真空チャンバ;層を形成するために原料物質を加熱する加熱器;ならびに前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に層を形成するために当該圧力を導入する真空装置を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】関連技術のコロイドマスクの典型的な適用を示している略図である。図1(a)は、コロイドマスクをエッチングマスクとして適用するエッチングプロセスを示しており、図1(b)は、コロイドマスクを溶着マスクとして適用する溶着プロセスを示している。
【図2】蒸着プロセスおよびスパッタリングプロセスを示している略図である。図2(a)は、高真空条件下の蒸着プロセスを示しており、図2(b)は、低真空条件下のスパッタリングプロセスを示している。
【図3】スパッタリングによって生成されるパターンの画像である。図3(a)は、パターンの走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、図3(b)は、図3(a)の部分拡大画像である。
【図4】本明細書に開示した方法による蒸着によって生成されるパターンのSEM画像である。
【図5】図4に示した個別環構造の高分解能原子間力顕微鏡(AFM)スキャンの画像である。
【図6】AFMデータから入手した、図5に示した環構造を横断する幾何学的線に沿った点P1〜P6の高さ形状を示すグラフである。
【図7】本発明の1つの実施形態による微小構造を製造するためのポンプシステムを示す略図である。
【図8】本発明の実施形態による微小パターンを作製するための基本スキーム(I)および(II)を示す略図である。
【図9】本発明の実施形態による図8に示した基本スキームを適用して微小パターンを作製するためのスキーム(I)を示す略図である。
【図10】本発明の実施形態による図8に示した基本スキームを適用して微小パターンを作製するためのスキーム(II)を示す略図である。
【図11】本発明の実施形態による図8に示した基本スキームを適用して微小パターンを作製するためのスキーム(III)を示す略図である。
【図12】本発明の実施形態による図8に示した基本スキームを適用して微小パターンを作製するためのスキーム(IV)を示す略図である。
【図13】本発明の実施形態による微小パターンを作製するためのスキーム(V)を示す略図である。
【図14】本発明の実施形態による微小パターンを作製するためのスキーム(VI)を示す略図である。
【図15】2つの剛体球の衝突を示している、座標系についての状態を示す略図である。
【図16】蒸着材料としてのクロムのための作業ガスおよび数種の実用的な作業ガスの散乱角θの関数としての蒸着材料の散乱角θを示す略図である。
【図17】六角形高密度マスク内に形成された間隙の容積Vintを示す略図である。図17(a)はマスクの側面図であり、図17(b)はマスクの平面図である。
【図18】約1×10−3hPaでのガスアシスト蒸着にガスのタイプが及ぼす作用についての走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図19】鋳型としてのポリスチレンビーズの小クラスタおよび7×10−4hPaの作動圧での作業ガスとしてのアルゴンを用いて形成された構造を示す図である。
【図20】鋳型としてのポリスチレンビーズの小クラスタを用いて形成できる構造に相違するガス作動圧および2種の作業ガスが及ぼす作用を示す図である。
【図21】鋳型としてのポリスチレンビーズの大きく、相当に高密度のアッセンブリを用いて形成できる構造に相違するガス作動圧および2種の作業ガスが及ぼす作用を示す図である。
【図22】鋳型としてのポリスチレンビーズの大きく、相当に高密度のアッセンブリを用いて形成できる構造に相違するガス作動圧および他の2種の作業ガスが及ぼす作用を示す図である。
【図23】コロイドマスク上に形成できる構造を示す図である。
【図24】シリコンウエハピース上に吸着された500nmポリスチレンビーズのコロイドマスク上に蒸着させた銀を用いて得られた構造を示す図である。
【図25】3種の溶着速度を用いて得られた構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、添付の図面を参照しながら本発明に関連する典型的な実施形態を詳細に説明する。
【0018】
最初に、実施形態の基本概念および前記概念の背景を以下で説明する。
【0019】
明確に規定されたトポグラフィを備える複雑な小パターン、例えばナノパターンもしくはミクロパターンを製造するためのこれらの実施形態に提示した新規な作成技術は、凸形粒子から作製されたコロイドマスクと組み合わせて使用した場合に、蒸着およびスパッタリングプロセスが相違する溶着特性を示すという観察に基づいている。図2は、蒸着プロセスおよびスパッタリングプロセスを示している略図である。図2(a)に示したように、典型的には<10−5hPaのチャンバ圧を用いる高真空条件下で実施される蒸着プロセスにおいては、チャンバ(図2には示していない)内での蒸着原子4間または蒸着原子と残留ガス5との衝突は余り起こりそうにない。このため、粒子軌道は、装置の形状によってのみ制限される強い方向性を示し、そしてシャドーイング効果は、基板2の全自由領域中で蒸着起源との直接透視線内にある領域だけが蒸着材料で被覆されるように発生する。全面積の他の自由部分は、被覆されないままとなる。これとは対照的に、図2(b)に示したようなスパッタリングプロセスにおける真空は低いが、これはチャンバ内の残留圧力がスパッタリングにおいて不可欠であるプラズマ放電プロセスを許容しなければならないためである。詳細には、放電プロセスは、所望のスパッタ速度を生じさせ、それによって残留チャンバ圧について典型的には10−3hPa〜10−1hPaの下限を設定するために十分に強度でなければならない。そこで、スパッタリングされた原子もしくはクラスタと残留ガス5との衝突は、相当に起こる可能性が高い。これらの衝突は粒子の角速度分布を拡大し、全自由表面中の、指示された溶着プロセスにおいて陰になった領域もまた被覆することを引き起こす。
【0020】
このため、凸形素子を含むマスク、例えば球形粒子から形成されたコロイドマスクと組み合わせて使用した場合は、基板表面は2種の方法によって異なる範囲内で被覆される。蒸着の場合には、陰になっていない、すなわち蒸着源の直接透視線内にある表面領域だけが被覆される。対照的に、スパッタリングが適用される場合は、全自由表面領域が、すなわち特別にはスパッタリング標的の直接透視線内にはない領域もまた被覆されるようになる。被覆されない領域は、マスク素子と基板との接触点、および/または相互の接触点に限定されるので、そこで所与サイズの凸形マスク素子から形成できるパターン化されていない構造のサイズが有意に減少する。
【0021】
近年の研究では、本出願の本発明者らは、これらの技術における潜在的な相違を利用してマイカ上に超平坦三元ナノパターンを上首尾で作製してきた(Wright et al.,Advanced Materials,Vol.18,pp.421−426,2006)。しかし驚くべきことに、本発明者らがマイカ以外の他の基板、例えばシリコンウエハの使用を試みた時点に、本発明者らは、スパッタリングプロセスが被覆された表面領域と被覆されない表面領域との明確なコントラストを生じさせないことを見いだした。図3(a)におけるFEG−SEM画像は、ビーズの除去後に、シリコンウエハ上に形成されたナノビーズリソグラフィマスクを通して金属がスパッタリングされる(50nmのTiが、500nmポリスチレンラテックスビーズのマスク上に5×10−3hPaのチャンバ圧でスパッタリングされた)場合の典型的なシリコンサンプルを示している。形状が高度に顆粒化されている大規模な格子状の金網構造が明白に観察される。しかしそれに加えて、図3(b)に示した高倍率画像から明白なように、金属は細孔内で無作為に溶着されてもいるので、このため、例えば自己集合単層(SAM)技術を使用することによってシリコン基板へ選択的に接近することに関連する将来の用途を制限する。明らかに、溶着プロセス中に、材料はコロイド粒子の下方でクリープさせられており、これは基板へのコロイドマスクの不良な付着を示唆している。本発明者らは、プラズマ中の電子およびイオンの存在および/または相当に高いチャンバ圧に起因する帯電効果がそのような歪みを誘発すると推測している。さらに、コロイドマスクの剥離は、シリコンへのより不良な付着に起因して、マイカに比較してシリコンに好都合である可能性がある。
【0022】
スパッタリングに関連する問題を回避するために、本発明者らは、中性不活性ガスとして純窒素を導入し、それにより蒸着金属原子の角速度分布を拡大させる目的でチャンバ内の金属原子と残留ガスとの衝突頻度を増加させることによって上昇させたチャンバ圧での蒸着を利用した。このアプローチの明白な利点は、不活性かつ非帯電ガスを使用できるので自由電荷担体を回避できること、そしてプラズマ放電条件を満たす必要もなければスパッタ速度を調整する必要もないため、添加ガスの分圧について下限がないことである。導入されるガス圧は、蒸着材料の角速度分布を拡大する目的にのみ役立つ。このため、溶着速度はチャンバ圧から独立して選択することができ、そして圧力および/または溶着速度は、溶着が進行中にさえ自由に変化させることができる。この目的に使用されるガスは、以下では「作業ガス」または「残留ガス」と呼ばれる。
【0023】
そのようなガスアシスト蒸着がスパッタリングを使用した場合に観察されるコーティングに類似するコーティングを生成できることを検証するために、本発明者らは、窒素雰囲気下においてシリコンウエハ上で500nmポリスチレン粒子のビーズから形成されたコロイドマスク上に20nmのCrを溶着させた。純窒素を使用してチャンバ圧を10−3hPaへ上昇させた。図4に示したように、Cr網は、以前にスパッタリングを用いて見いだされたもの(図3を参照されたい)と同様に形成された。これらの細孔を取り囲んでいるのは、蒸着中かつビーズ抜去の前にCr金属がビーズに向けて集積している隆起した領域である(図5も参照されたい)。しかしこの時点に、コロイド粒子とシリコン基板との接触点は、六角形パターンの中心にある暗色のドットによって示されるように、むき出しのままとなる。
【0024】
図5は図4に示した個別環構造の高分解能AFMスキャンの画像を示し、図6は図5に示した環構造を横断する幾何学的線に沿った高さ形状を示すグラフである。図5および6に示したように、中心細孔内の基板の清浄度は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて単一細孔を横断してスキャンすることによってナノスケールで検証することもできる。図6における線形状は、細孔の中心における表面が極めて平坦かつ平滑であり、それによりスパッタリングの場合のような意図しない溶着材料の存在が排除されることを明らかにしている(図3を参照されたい)。
【0025】
本明細書に記載したガスアシスト蒸着法は、蒸着材料の原子もしくは分子とホストガスとの衝突を使用して、基板の任意の形状の全自由表面領域を被覆する。他の方法、例えばスパッタリングとは対照的に、使用するパラメータ、例えばチャンバ圧およびホストガスの選択に関する制限がはるかに少ない。スパッタリングに比して優れた1つの特定の利点は、雰囲気中に帯電イオンもしくは粒子が全く存在しないことであり、これは望ましくない作用、例えば表面の帯電およびガス相内の原子もしくは分子の相互間および/または表面との反発相互作用を防止する。さらに、選択されるパラメータは蒸着の全プロセスを通して自由に変動させることができるので、同一鋳型から相違するトポロジーおよび/または化学組成の構造さえ作製することができる。その後の材料溶着のために蒸着チャンバからサンプルを取り出す必要がないため、全プロセスの清浄度は、サンプルを典型的には相違する機器間で移動させなければならないスパッタリングを後に行う蒸着に比較して有意に改良される。したがって、隣接層間の付着もまた、例えば、気中浮遊汚染物質および/または酸化物層の構築が回避されることに起因して、改善することができる。
【0026】
実施例3〜5は、伝統的スパッタリングに比した新規方法の一部の利点を例示しており、様々な微小パターンを調製できることを証明している。
【0027】
上記の観察に基づいて、本発明者らは、さらに各々相違する圧力での少なくとも2つの蒸着プロセスを結合することによって、新規な三元微小構造を製造できることに気付いた。以下では、少なくとも2つの蒸着プロセスを結合することによってそのような構造を製造するためのポンプシステムおよび結合した蒸着プロセスの適用に関する複数のスキームについて説明する。
【0028】
基本的には、任意の標準的蒸発器を利用して、その上に基板が配置されるチャンバに少なくとも2種の圧力を導入できる条件で微小構造を製造することができる。図7は、実施例のポンプシステムの略図である。ポンプシステム10は、真空チャンバ11、チャンバ圧力計12、高真空バルブ13、液体窒素トラップ14、ターボ分子ポンプ15、フレキシブル連結部16、背圧バルブ17、背圧計18、粗引きバルブ(roughing valve)19、排気バルブ20、焼結フィルタ21、ニードルバルブ22、真空連動スイッチ23、チャンバ圧力計24、補助真空側配管用トラップ(foreline trap)25、フレキシブル連結部26、回転ポンプ27、オイルミストフィルタ28、および排気口29を含む。ニードルバルブ22は、真空チャンバ11の内側のガス圧を制御するために配置されている。ニードルバルブ22は、圧力を必要とされる範囲内、すなわち約10−7〜10−1hPaで微調整できなければならない。
【0029】
ポンプシステム10を作動させるには、真空チャンバ11が最初に開放され、サンプル装填が可能にさせられる。次に、チャンバは閉鎖される。同様に高真空バルブ13および背圧バルブ17もターボ分子ポンプ15が高圧損傷するのを防止するために閉鎖される。次に、粗引きバルブ19は、システム内に侵入する油およびその他の汚染物を濾過するために使用される補助真空側配管用トラップ25、およびフレキシブル連結部26を経由して、真空チャンバを回転ポンプ27へ接続するために開放される。オイルミストフィルタ28は、ポンプオイルが研究室内の空気を汚染することを防止し、出口29は、回転ポンプ27によって送り出される空気を環境内に流入させる。回転ポンプ27は、真空チャンバ11の内側で約0.1hPaの圧力を達成する。チャンバ圧は、チャンバ圧力計24によって監視できる。真空連動スイッチ23は、システムが現在真空下にあるという信号を制御電子回路に送る。最小圧に達すると、粗引きバルブ19が閉鎖され、高真空バルブ13および背圧バルブ17が開放される。チャンバはこれで、回転ポンプ27、開放された背圧バルブ17、補助真空側配管用トラップ25、ならびにフレキシブル連結部16および26によって大気圧に対する背圧が加えられるターボ分子ポンプ15に接続されている。圧力計18は、背圧を制御するために使用される。ターボ分子ポンプシステムは、排気してチャンバ圧を10−6hPa未満へ低下させる。このプロセスは、ポンプ作用で送り出すのが困難な汚染物質、例えば水をしめ出すことによって加速することができる。このためには、液体窒素トラップ14に液体窒素を充填し、約−196℃の温度に冷却させることができる。チャンバ圧力計24は、超低圧を測定できるほど十分な高感度ではない。このため、今度は、より高感度の圧力計12のスイッチを入れなければならない(それ以前には、高圧損傷するのを防止するためにスイッチが切られていた)。典型的には<10−6hPaのシステムの基本圧に達した後に、システムは蒸着のために使用できる。より高いチャンバ圧が望ましい場合は、バルブの入口に接続されなければならない不活性ガスを極めて低流速でチャンバ内に流入させるために、ニードルバルブ22を慎重に開放することができる。チャンバ圧は、現在はニードルバルブを通る流入とターボ分子ポンプシステムを通る流出との間で繊細に平衡している。このため圧力上限は、ターボ分子ポンプシステムの約10−1hPaの損傷限界によって与えられる。膜溶着後、圧力計12のスイッチが切られ、高真空バルブ13、粗引きバルブ19、およびニードルバルブ22は閉鎖され、大気圧に達するまでチャンバから排気するために排気バルブ20が開放される。焼結フィルタ21は、チャンバ内に流入する前に空気を濾過して、塵粒によりシステムが汚染することを回避する。チャンバが大気圧に達した後、チャンバを開放して新しいサイクルを開始することができる。
【0030】
以下では、本発明者らは、単純な三元パターンから出発してより複雑なシステムへの、実施例3〜5に示した二元パターンより優れた新規な方法の最も重要な適用についての実施例スキームを提供する。明確かつ単純にするために、凸形素子を含むマスクは、以下に示す実施例において球形コロイド粒子から製造される。しかし、凸形素子を含む任意の他の種類のマスクも適切に作用し、類似の結果を生じさせる。
【0031】
基本スキーム(I)および(II)
単一材料の溶着より優れた微小パターン形成へのガスアシスト蒸着法の最も単純な適用は、各々2種のチャンバ圧でのコロイドマスクへの2種の材料の溶着である。図8に示したように、2つの選択肢があるが、それは第1または第2蒸着のいずれも各々第2または第1蒸着より低い圧力下で実施できるためである。基本スキーム(I)では、コロイド粒子が基板上にマスクとして配置された(工程1)後、第1蒸着法が低いチャンバ圧下、すなわち高真空条件下で実施される(工程2)。したがって、材料は、散乱していない蒸着原子もしくは分子の流れが直接的に接近できる間隙内にのみ配置される。その後の工程では、第2材料が上昇したチャンバ圧で溶着させられ、それにより蒸着原子もしくは分子の散乱が引き起こされ、これは順にサンプルの全自由表面領域を被覆する(工程3)。または、基本スキーム(II)では、第1蒸着は高チャンバ圧で実施され、それによって蒸着材料により全自由表面領域が被覆される(工程2)。続いて、第2材料が、材料の散乱を回避するために十分に高い真空条件下で溶着させられ、相違する溶着特性が生じる(工程3)。図8の例示から、基本スキーム(I)は外部から接近可能な微小構造を作製するために基板および/または鋳型粒子の除去を必要とするが、他方基本スキーム(II)はそのような除去を行わずに使用できることは自明である。
【0032】
これらの2つの基本スキーム(I)および(II)を結合して、その後に任意の様式で適用すると、以下で説明するより複雑な微小構造を製造することができる。
【0033】
図9〜12は、より複雑な微小構造の作製に上記の基本スキーム(I)および(II)を拡大している、相違するスキーム例(I)〜(IV)を示している。スキーム(IIIa)および(IV)を除いて、それらの全部が、溶着プロセスのためにコロイド粒子とともに鋳型として使用される基板の抜去に依存している。
【0034】
スキーム(I)
図9のスキーム(I)は、図8に示した基本スキーム(I)による連続材料溶着による三元パターンの作製を示している。基本スキーム(I)(工程1)の後に、コロイドマスクが抜去され(工程2)、次に基板が上部から付着させられる(工程3)。引き続いて、元の基板はリフトオフされ、有機材料を用いて選択的に機能化された、超平坦三元パターンが得られる(工程4、工程4’)(図9〜14では、参照番号A、BおよびC(および図13ではD)は、相違する表面修飾、すなわち有機分子を表す)。結果として生じる構造は、本発明者らが近年の研究(Wright et al.,Adv.Mater.2006)においてスパッタリングと蒸着との組み合わせを用いて実現した構造に類似するが、現在はこれをより広範囲の材料に適用できる。第1材料の溶着厚さについては、既にWrightらにおいて考察された制限と同一の制限が当てはまる。すなわち溶着厚さDはD=30% R(式中、2Rはコロイドマスクとして使用される粒子の直径である)を超えてはならない。だがWrightらに記載された研究とは対照的に、2つのその後の溶着工程間に表面を環境に露出させる必要はない。したがって現在では、環境への短時間の露出中にさえ発生する可能性がある第1層の酸化、汚染もしくは任意の他の劣化を回避できる。このため、2つの溶着材料間の付着ならびにプロセス全体の清浄度が改善される。
【0035】
スキーム(II)
図10に示したスキーム(II)は、微小細孔、例えばナノ細孔の作製を示しており、このとき細孔の内面は2種の材料からなる。このため、選択的機能化、例えばパターンの2種の材料への相違する有機分子の選択的親和性を利用する選択的自己集合によるその後のプロセスでは、細孔は2種の有機分子を用いて機能化できる。例えば、物学的受容体分子を細孔の底部に埋め込み、他方では細孔内部容積への接近を調節する分子を細孔入口の周囲に埋め込むことが望ましい場合がある。作製法は以下のとおりである。基本スキーム(I)(工程1)の後に、ホスト材料がコロイドマスクの上部に配置され、それによってコロイド粒子が埋め込まれる(工程2)。その後のリフトオフプロセスでは、元の基板が抜去される(工程3)。次に、コロイド粒子が、例えばそれらを適切な溶媒もしくはエッチング剤中に溶解させることによって抜去され、マトリックス材料内には各々上部および底部に溶着された2種の材料からなる開口している細孔が残される(工程4)。引き続いて、2種の材料は、例えば選択的自己集合を使用することによって(生物)機能化することができる(工程4’)。
【0036】
または、コロイドマスクは、表面内に保持して、直接的に(生物)機能化することができる(工程3’)。これは、例えば、表面上で三元パターンを得るために、または特異的結合事象を光学的に感知するために使用できる光学キャビティをコロイド粒子が形成する場合には望ましいことがある。コロイド粒子の下方に埋め込まれた材料キャップは、次に例えば所望の光学特性を増幅させるための共振器として使用できる。
【0037】
スキーム(III)
図11に示したスキーム(III)は、逆の溶着順序、すなわち基本スキーム(II)(工程1)を利用する。スキーム(IIIa)では、この構造を使用して、選択的に、例えば選択的自己集合によって機能化できる(工程2、工程2’)コロイドマスクを抜去した後にトポロジー的に構造化した表面が形成される。スキーム(IIIb)では、トポロジー的に隆起した構造は、コロイドマスクを抜去した後にホストマトリックス内に埋め込まれる(工程3)。次に、元の基板から構造をリフトオフした後に超平坦表面が得られる(工程4)。表面は、この場合には二元パターンを示すが、他方第3材料(すなわち、高真空条件下で溶着される材料)は最初に溶着された材料の下方に埋め込まれる(工程4’)。最初に溶着された材料は、環境への直接露出を全く伴わずに、例えば光学的もしくは磁気共鳴構造として使用できる。
【0038】
スキーム(IV)
図12に示したスキーム(IV)は、低真空および高真空条件下でいくつかの(図示では3つの)溶着工程を利用する。図8に示した基本スキーム(II)の後には、第3材料が低真空下で溶着させられる(工程1)。コロイドマスクの抜去(工程2)後、選択的に機能化できるトポロジー的に隆起した構造が形成される(工程2’)(図12では、参照番号A、B、およびCは、基板、第1材料、および第3材料各々の有機表面機能化を表しており、他方第2材料は、第1および第3材料によって包み込まれるので、機能化されないまま残される)。
【0039】
スキーム(V)
以下の2つのスキーム(V)および(VI)は、同一(図示では低い)真空下でいくつか(1つまたは複数;図示では3つ)の溶着工程によって実施される。図13に示したスキーム(V)は、低真空下(工程1)での3つの溶着工程を利用して、ビーズの抜去(工程2)後に相違する材料からなる井戸構造の形成をもたらす。スキーム(IIIa)に類似して、トポロジー的に隆起した構造が得られる(工程2’)(図13では、参照番号A、B、C、およびDは、基板、第1材料、第2材料、および第3材料各々の有機表面機能化を表す)。
【0040】
スキーム(VI)
図14に示したスキーム(VI)は、1つまたは複数の材料の溶着中にスキーム(V)において形成された構造とその後のリフトオフプロセスとを結合している(工程1)。それによって、コロイドマスクは適正な厚さのホスト材料内に埋め込まれ(工程2)、次に元の基板が抜去される(工程3)。スキーム(VI−b)では、結果として生じる平坦な表面は有機分子を用いて、例えば選択的自己集合によって機能化される(工程3’)(図14の工程3’では、参照番号AおよびBは、コロイドマスクおよび第1材料各々の有機表面機能化を表す)。スキーム(VI−a)では、粒子が抜去され(工程4)、それによってコロイドマスクのホスト材料内に細孔が形成される。これらの細孔の内壁の表面は、コロイドマスク上の第1材料として溶着させた単一材料からなる。したがって、構造の自由表面は、単一分子のみを用いて機能化できる(工程4’)(図14の工程4’では、参照番号Aは、第1材料の有機表面機能化を表す)。コアの下方に埋め込まれた構造は、生体分子事象を感知できるように、または細孔の内部への(生物)分子もしくは粒子の誘引を促進するために特定の光学特性もしくは磁気特性を示すことができる。
【0041】
適用できる材料および条件:
基板に関して、蒸着システムにおける使用に関する一般的制限、例えば真空条件およびフィラメントの高温以外は、基板への特定の制限はない。したがって、基板は必要とされる真空条件での主要なガス放出も、蒸着のために使用されるフィラメントから発生する赤外線に起因する溶融も示してはならない。さらに、基板は、コロイドマスクの形成と適合しなければならない。さらに、スキーム(I)、(II)、(IIIb)、および(VI)の場合には、所望のプロセス工程において基板の除去が可能でなければならない。実際に、基板は、金属、例えば遷移金属、アルミニウムなどであってよい。基板は、半導体、例えばシリコンウエハ、ゲルマニウムウエハ、またはIII−VもしくはII−VI複合半導体ウエハ(例えば、ヒ化ガリウムなど)であってよい。さらに、非導電性無機および有機材料、例えばマイカまたはプラスチック、例えばポリメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン、ポリスチレン、もしくは蒸着において金属被膜で被覆できる他のプラスチックを適用できる。
【0042】
マスクに関して、プロセス条件に適合し、凸形素子を含む任意のマスクを使用できる。この状況における「凸形素子」は、マスクによって形成される横構造が、基板と直接接触はしていないが基板上方のゼロではない高さでその最高外側伸長部を有していることを意味する。次に、基板の自由表面の部分、すなわちマスクと直接接触していない表面は、指向性溶着プロセスにおいてマスクによって陰になる。本実施形態とともに使用されるマスクは、基板の少なくとも一部の場所でそのような凸形素子を含んでいなければならない。
【0043】
例えば、標準的フォトリソグラフィによるマイクロおよびナノ構造化において使用されるフォトレジストマスクは、それらが形成される横構造の所定のアンダーエッチングを示す場合は、本実施形態のマスクとして使用できる。アンダーエッチングされた構造を製造するためには、当業者に公知である多数の技術を適用できる。その他の適切なマスクは、例えばシリコンにおいて例えば非等方性エッチングによって調製できる。さらに、電気化学的溶着は、凸形素子を含むマスクを形成するために、例えば有限高さの抜去可能なマスクの上方での溶着材料の過剰増殖によって使用できる。好ましい実施形態では、コロイド粒子は、それらの典型的球形に起因して自然に凸形素子を示すので、マスクとして使用できる。そこでコロイド粒子によって、凸形素子を含むマスクの形成は、ミリメートルからセンチメートル領域内の大きな外側伸長部を備えるマスクのためでさえ特に単純かつ容易である。このため、以下に示す実施例では、コロイドマスクは作用例として使用される。実際に、市販で入手できるいずれかのコロイド懸濁液、例えばポリマーラテックス、またはシリカもしくはチタン懸濁液を使用できる。ポリマーとしては、典型的にはポリスチレン、メラミン樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ならびにフォトレジストおよび電子線レジストを使用できる。さらにコロイド粒子は、ブロックコポリマー、ミセルおよび/または生体分子、例えばタンパク質からなってよい、または構成されてよい。さらに、マスクは、色素もしくは他の蛍光体、例えば半導体量子ドットもしくはカーボン・ナノチューブ、または金属クラスタをさらに含有してもよい。
【0044】
以下に提示する実施例はサブミクロン寸法を備えるコロイド粒子から構成されるコロイドマスクを用いて実施したが、ナノ粒子だけではなく他の微小粒子、例えばその径が約50〜100μmもしくは100μm超さえのミクロ粒子も使用できる。どの構造サイズがより良好に適合するかどうかに関しては用途に依存する。同じことは、他の適切なマスク、例えば上述のフォトリソグラフィ、シリコン、もしくは電気化学的マスクにも当てはまる。個々の構造の形状は、サブミクロン領域内にある必要はない。細孔の場合には、例えば、孔径が1ミクロンを超える場合は細孔内への(生物)分子の有意な拡散を実現することはより容易である。他方、入口での(生物)分子を用いた機能化(図10、工程4’による)による細孔内への流入の制御は、ナノスケール上の方が良好に機能するが、それはこのスケールが(生物)分子の寸法に適合するためである。このため、両方の領域が適合する。一般に、ナノ領域は、用途が包含される(生物)分子の寸法に適合する必要がある場合には、常に有益である。これは、細孔の生化学的接近を制御するため、(生物)分子を配向性固定化するため、人工細胞膜および細胞区画を作製するため、ならびに細胞接着、細胞増殖、細胞制御、膜貫通機能、および細胞採取のために該当する可能性がある。さらに、本明細書に記載した方法を、詳細には医療用機器のための検出素子の作製へ適用する態様からは、より小型の検出器を利用することによりそのような機器を構築することへの要望がある。例えば、患者由来の標本を分析するための診断機器は、それが極めて少量の試料とともに機能し、それにより患者に起こり得る損傷を減少させる場合は、利点を有する。
【0045】
溶着材料に関して、蒸着プロセスにおいて使用できる任意の材料は、当業者には公知であるように使用できる。実際に、遷移金属、アルミニウム、金属酸化物、半導体、半導体酸化物を使用できる。特別には、貨幣金属、例えば金、銀、ならびに他の磁性金属、例えばニッケル、コバルト、および鉄は関心対象である。酸化物中では、好ましくは酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、および酸化チタンが使用される。
【0046】
散乱ガスに関しては、蒸着プロセスの条件下で不活性である任意のガスが適している。ほとんどの場合に窒素が適用されるが、ガスの分子量を操作し、そこで衝突中のその衝撃を変化させることが役立つ場合がある。このため、任意の他のタイプの不活性ガス、例えば希ガス、好ましくはヘリウム、アルゴン、クリプトン、およびキセノンが関心対象な場合がある。高原子量を備えるガスの方が、他のガスより良好に適合する可能性がある。
【0047】
蒸着中の高圧の圧力範囲の上限に関しては、10−1hPaが安全な上限であるが、それはこの圧力では高散乱に起因して溶着速度が極めて緩徐であるためである。さらに、このレベルでは、ターボポンプシステムを作動させてはならない。しかし、ターボポンプシステムを相違するポンプシステムと取り替える、または溶着プロセス中にはターボポンプシステムを迂回することもまた可能な場合がある。圧力の下限および上限は、単純な計算から導き出せる。チャンバ内部の残留ガスの密度は、理想気体の法則にしたがって、
【0048】
【化1】

(式中、nは単位容積当たりの分子数、pはチャンバ内部の圧力、kはBoltzman(ボルツマン)定数、およびTはチャンバ内部のガスの温度である)として与えられる。蒸着源から離れる蒸着原子が基板上に溶着するまでに平均して経験する衝突の回数zは、単純に、
【0049】
【化2】

(式中、Lは溶着のために使用される蒸着源と基板との距離であり、σはいわゆる「衝突断面積」である)である。衝突断面積は、衝突する原子もしくは分子の原子もしくは分子半径から、
【0050】
【化3】

(式中、revは蒸着材料の原子半径であり、rresはチャンバ内部の残留ガスの原子もしくは分子半径である)にしたがって計算できる。窒素についての分子半径rN2=1.87×10−10mおよび典型的な遷移金属の原子半径rmet=1.65×10−10mを用いると、相違する圧力について以下の衝突回数zが得られる(T=298K、L=0.3m)。
【0051】
【表1】

【0052】
表1は、10−5hPa以下の圧力範囲からは、チャンバ内部での蒸着原子と残留窒素分子との衝突がほぼ起こりそうもないこと明らかにしている。このため、溶着は、蒸着源と直接透視線内にある基板表面上の領域に限定される。さらに、圧力範囲の上限も表から見て取ることができる。1hPaの圧力では、蒸着源と基板との間で極めて多数回の衝突が起こるので、それらの各々が原子の伝搬方向の変化を引き起こす、原子が基板に到達することは極めて起こりそうにない。このため、加えるべき圧力の合理的上限は、およそ10−2〜10−1hPaである。この単純な推定は、散乱事象に起因して蒸着源から基板への蒸着原子の道程経路の長さにおける増加を無視することに留意されたい。後者のため、全道程経路はLよりはるかに長くなり、そこでさらにその後の衝突についての確率を増加させる可能性がある。そこで本明細書に提示した推定は、圧力上限についての安全な上限である。
【0053】
上述したように、圧力は、溶着が進行中の間でさえ、任意に変化させることができる。すなわち、各スキームの各蒸着工程は、1つの圧力だけではなく複数の圧力で実施できる。これを言い換えると、各層を形成するための各蒸着条件は、少なくとも1つの圧力下で実施できる。
【実施例1】
【0054】
2つの剛体球間の衝突
原料物質の蒸着原子と蒸着中の蒸着チャンバ内で所望の圧力を設定するために使用される作業ガスの原子もしくは分子との間で発生する衝突は、散乱理論の枠組み内で説明することができる。衝突相手は典型的には中性であるので、それらの間の主要な相互作用は典型的にはファン・デル・ワールス(van−der−Waals)力によって規定され、これから順に式:
【0055】
【化4】

(式中、εは、ポテンシャル井戸の深さを表し、σは、大まかにはポテンシャルの斥力部分から引力部分を分離する、起源からの距離に対応する)の形のレナード・ジョーンズ(Lennard−Jones)ポテンシャルから近似値を導き出すことができる。
【0056】
蒸着原子の高温および対応する高速に起因して、〔化〕の引力項は最初の概算では無視することができ、斥力項〔化〕は、式:
【0057】
【化5】

(式中、Rは球の半径である)の剛体球ポテンシャルによって概算できる。
【0058】
そこで最初の概算では、2つの中性衝突相手間の衝突は、半径RおよびRを備える、衝突する2つの剛体球によって説明することができる。
【0059】
図15は、球2に固定されている座標系についての状況の略図である。そこで、この座標系では、球2は静止している。球1は、左から速度vで球2に近付いている。衝突は中心または非中心であってよいが、これは球2の質量中心が移動している球1の質量中心の軌道上に位置していてもいなくてもよいことを意味する。球2の質量中心と球1の軌道との距離は、図15に略図で示されているように、「衝突パラメータ」bと呼ばれている。剛体球ポテンシャル、方程式2の場合には、球は、b<R+Rである場合にのみ衝突する。他の場合には、球は相互作用しない。衝突は、運動量保存則:
【0060】
【化6】

(式中、mおよびmは各々球1および球2の質量であり、vは衝突前の球1の速度であり、そしてv’およびv’は各々衝突後の球1および球2の速度である)によって規定される。方程式3は、速度のベクトル特性に起因するベクトル方程式であることに留意されたい。さらに、エネルギー保存則:
【0061】
【化7】

(式中、Qは潜在的内部励起、すなわち球のエネルギー取り込みである)が適用される。Q=0の場合には、衝突は「弾性」、さもなければ「非弾性」と呼ばれる。本実施形態のためには、実施例において使用されるガスのほとんどは、使用される条件下では内部励起され得ない単一原子である。しかし、窒素は2原子性であり、以下の実施例で使用する条件下では、回転および振動などの内部分子エネルギーレベルが励起されることがあり、そこで蒸着原子との衝突を少なくともある部分までは非弾性にさせることがある。
【0062】
運動量保存則から、3つの速度ベクトルは同一平面上にあることを直接的に見ることができる。そこで、衝突を、以下のスカラー方程式が独立して適用されるこの平面内の運動量の縦方向成分および横方向成分によって説明するのが便宜的である。
【0063】
【化8】

【0064】
ここで、θおよびθは、図15に示した散乱角である。以下では、角度は左旋回に対して正であると仮定する。球の質量、半径の関数としての速度v’およびv’ならびに散乱角θおよびθ、および球1の初期速度vを決定することによって、衝突を完全に記述することができる。方程式4および5は、3つの独立した方程式を提供する。第4の方程式から、剛体球ポテンシャルの場合には、単純に衝突パラメータbならびに球の半径RおよびRの関数である散乱角θについて引き出すことができる。
【0065】
【化9】

【0066】
本実施形態のために最も重要な場合である弾性散乱の場合は、方程式4(Q=0)および5を結合すると最終的に、
【0067】
【化10】

が得られ、球2の散乱角および球質量の比の関数としての球1の散乱角が得られる。方程式7からすぐに明らかなように、m>mについては、括弧内の項は常に負である。さらに、対称性の理由から、0>θ>−π/2の範囲内にあるθを観察できれば十分であるので、正弦関数は常に負であり、したがってm>mの場合には方程式7の右側の式を>0にさせる。これから、0<θ<π/2が生じる。すなわち蒸着原子の後方散乱は、それらの質量が作業ガスの原子もしくは分子の質量より大きい場合は発生しない。
【0068】
前方散乱の場合における最大散乱角は、衝突相手の質量と方程式6による衝突パラメータbの質量の比の関数である。
【0069】
方程式7に基づいて、図16は、蒸着材料としてのクロム(=球1)および数種の実用可能な作業ガス(=球2)についてのθの関数としてのθを示している。さらに、例示のために特別な場合m=mが示されている。Krの場合には方程式7の連続解が示されているが、それは不連続解は物理的に意味がないためであることに留意されたい。
【0070】
θ=0度の散乱角は、中心衝突の特別な場合に対応する。したがって、質量比に依存して、流入する球1は、散乱しない(θ=0)か、または180度後方散乱する。He、NおよびArによって散乱させられるCrについて該当するm>mの場合には、θはθ=−90度に対しては最大値を通過した後に0度へ低下するが、これはb=R+Rの場合、つまり球が相互にまさに接触する場合に対応する。明らかに、最大散乱角は質量比に依存し、本発明の場合にはArについてが最大である。m=mについては、グラフは、球が相互に対して垂直方向に衝突点から離れる周知の観察を例示している。
【0071】
Cr蒸着の場合には、相違する作業ガスを用いて実現できる蒸着Cr原子についての最大散乱角は、ほぼ以下のように与えられる(図15から決定されるように)。
He:4.4度、N:32.6度、Ar:50.2度、Kr:180度
【0072】
さらにNはこの場合には弾性散乱体と見なされる、すなわち内部励起が計算において無視されることに留意されたい。これらの結果は、本実施形態の作業ガスとしてHeを使用した場合に、表面の陰になった領域への重要な被覆を引き起こすには単一散乱では十分ではないことを示している。このためにより低い作業ガス圧力で既に陰になった領域の有意な被覆を実現するためには、より重いガスがより所望である可能性が高い。
【実施例2】
【0073】
ナノ構造内の衝突回数
本実施形態のために最も重要であるのは、構造化のために使用される凸形マスクの自由容積内での作業ガスと蒸着材料との間の十分な数の散乱事象である。この容積は形状とともに減少するので、以下ではナノスケールマスクだけを考察する。例えば、基板は500nm径のポリスチレン球を用いて修飾される。ビーズは、六角形の高密度で、または無作為法で充填することができる。図17に示したように、六角形高密度マスクは、蒸着材料が微小間隙を通ってのみ基板の表面に進行することを許容する。したがって、これらの間隙の容積は、マスクの下方の陰になった領域にも蒸着材料の溶着を許容するために十分な散乱体を含有していなければならない。図17に示したように、そのような間隙の容積Vintは、
【0074】
【化11】

(式中、rは球の半径である)であると推定できる。無作為に充填された球形マスクの場合は、マスク内の典型的な空隙は2×2ビーズ径の寸法を有する。高さは同様に球の約1半径rであるので、この場合の典型的な容積は、
【0075】
【化12】

によって与えられる。
【0076】
上述したように、作業ガスの密度は、理想気体の法則によって関連圧力領域内の近似値へ記述できる。したがって、ガスの密度は、単純に圧力および温度の関数である。温度については、本発明者らは、ガスはチャンバと平衡していると仮定する。以下に示す実施例では、溶着中の温度上昇は常に小さかったことに留意されたい。達成された最高温度は、約38℃であった。表2〜4は、2つの温度についての圧力ならびに500nmの直径を備える球についての間隙および無作為マスク空隙内で結果として生じる分子数の関数としての作業ガス分子の密度を示している。表から明らかなように、無作為マスクについては、1×10−4hPaの圧力で所与サイズの空隙内では平均すると作業ガスの約1つの原子があり、そこでこの場合には実用可能なより低い限界を含む。六角形高密度マスク、すなわち間隙内の溶着については、最高の所与の圧力でさえ1つの間隙について平均すると0.5個の散乱体しか存在しない。このため、この場合には陰になった領域の希薄な修飾しか予測できない。本明細書に提示したすべての数は、凸形マスクとして500nm径の球を使用した例に関する。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【実施例3】
【0080】
作業ガスのタイプが及ぼす作用
条件:作業ガス圧 約1×10−3hPa
使用したガス:He(純度>99.95%)、N(純度>99.998%)、Ar(純度>99.99%)、Kr(純度>99.999%)
圧力較正:製造業者の取扱説明書(BocEdwards,UK,CP25 Penning Gauge Instruction Manual)および/または真空技術に関する書籍「Wutz Handbuch Vakuumtechnik」,ed.K.Jousten,Vieweg Verlag,Wiesbaden,Germany,2004にしたがって、Penning圧力計についての以下のガス較正係数を使用した。He:0.18、N:1.0、Ar:1.4、Kr:1.83。次に、真の圧力は、Penning圧力計のメータ示度から、
(真の圧力)=(メータ示度)/(ガス較正係数)
として計算できる。
基板:シリコンウエハピース
コロイドマスク(凸形粒子):オゾン浄化Siウエハピース上での希釈懸濁液の乾燥によって溶着させた500nm径のポリスチレンビーズ。この方法は、表面上で粒子の高密度領域ならびに低密度領域を作り出す。ここに提示した実施例のために、まばらなビーズ装飾の領域内の表面上の単一ビーズを分析した。
金属溶着:コロイドマスクの上部での20nmのCr
マスクの抜去:純クロロホルム中での5分間の超音波処理
分析:日立走査型電子顕微鏡S−4200
【0081】
図18は、約10−3hPaの圧力範囲内の相違する作業ガスを使用することによって単一の500nmポリスチレンビーズを用いて形成された典型的な構造を示している。この比較的高い圧力では、環構造の形成は、溶着を伴わない中心孔の周囲で観察できる。環構造の周囲は、最小である環の直近から自由表面上の金属の溶着高さへ半径方向に厚さが増加する井戸領域である。この領域の直径には、最初のビーズ直径が関連する可能性がある。
【0082】
溶着のために使用されるガスに依存して、以下を一般的に観察することができる。
i)環構造の品質は、環状性および均質性に関して変動する
ii)環構造の直径は変動する。
【0083】
アルゴンは、最高品質および相当に大きな直径を備える環構造を作り出す。クリプトンは、対照的に、許容できる品質ではあるが、相当に小さな直径を備える構造を作り出す。窒素アシスト構造は、中間の直径およびほとんどはより低い品質の構造を形成する。ヘリウムアシスト構造は、アルゴンアシスト構造に類似するが、前者より品質が低い。
【0084】
これらのタイプの構造は、サンプルの表面全体で見いだすことができる。
【0085】
相違するガスの使用によって達成される相違の尺度として、表5は、図18に示した4枚の画像について、環の内径(すなわち、溶着を含まない中心)対ビーズの外径(すなわち、前者のビーズのサイズを表すと仮定されている、黒化した円形領域の直径)の比を提供する。円形性からの偏差を説明するために、直径を水平および垂直方向に測定し、次に平均化した。
【0086】
【表5】

【0087】
裸眼によって既に明らかなように、アルゴンおよびヘリウムは相当に類似の環および粒径の比を有するが、他方クリプトンは最小値を生じ、窒素はその中間である。
【0088】
実施例1に述べたように、形成された構造における差は、ガスの物理的特性における差によって潜在的に引き起こされる。例えば、クリプトンはクロムより重いので、KrとCrとの衝突はCr原子の後方散乱を引き起こす可能性がある。このため、Krの使用によって、散乱角の分布は、おそらく他のガスと比較してより高い数値へシフトさせられ、結果としてビーズのこの「重度の過小充填」を生じさせる。アルゴンは、対照的に、クロムに近い原子量を有するので、極めて効率的散乱体である。窒素は、他方、2原子分子であり、このために回転および振動などの一部の内部励起を受ける可能性があるので、特別な役割を有する。したがって、さらに散乱角の分布に影響を及ぼす可能性がある弾性散乱に加えて非弾性散乱を引き起こす可能性がある。
【0089】
アルゴンを使用することによってビーズの小クラスタを用いて形成できる高品質の環構造の例は、図19に示されている。
【実施例4】
【0090】
作業ガス圧が及ぼす作用
条件:作業ガス圧は、1×10−5〜1×10−3hPaへ変動した。
使用したガス:He(純度>99.95%)、N(純度>99.998%)、Ar(純度>99.99%)、Kr(純度>99.999%)
ガス較正係数:He:0.18、N:1.0、Ar:1.4、Kr:1.83。真の圧力は、次にPenning圧力計のメータ示度から、
(真の圧力)=(メータ示度)/(ガス較正係数)
として計算できる。
基板:シリコンウエハピース
コロイドマスク(凸形粒子):オゾン浄化Siウエハピース上での希釈懸濁液の乾燥によって溶着させた500nm径のポリスチレンビーズ。この方法は、基板上で粒子の高密度ならびに低密度領域を作り出す。ここに提示した実施例のためには、単離したビーズならびに相当に高密度の領域が分析された。
金属溶着:コロイドマスクの上部での20nmのCr
マスクの抜去:純クロロホルム中での5分間の超音波処理
分析:日立走査型電子顕微鏡S−4200
【0091】
相違するガス圧で蒸着させる工程の作用は、例えば図18および19に示した単離したビーズならびにより大きなビーズ凝集体から観察できる。図20は、単離した、小クラスタを用いて得られたいくつかの実施例を示している。
【0092】
図示した最低圧力(Nについては10−4hPaおよびHeについては10−5hPa)では、ガスの作用は無視できる。これは、顕著なシャドーイング効果に起因する前者のビーズ位置での鋭い辺縁から見て取ることができる。粒子の中心において認められる曖昧な輪は、後のコントロール実験において確証されたようにクロロホルム内での超音波ビーズ除去中には完全に除去されていなかった残留ポリマーに起因する可能性が最も高い。5×10−4hPaの圧力では、どちらのガスも斜めの壁を備える極めてきれいな井戸構造を生じさせる。1×10−3hPaでは、上記で既に考察した環構造が形成された。
【0093】
特別には、特にそれらを形成するための条件が最適化されていない場合は、環構造の形成を回避することが望ましい場合があることを述べておかなければならない。しかし、伝統的なArを使用して、スパッタリングは、必要とされるプラズマ放電条件を満たすために、典型的には1×10−3hPa以上の圧力で実施される。そのような場合には、環構造の形成を回避できない。例えば、Aizpuruaおよび共同研究者らは、Arプラズマスパッタリングを適用した場合のそのような構造の形成について報告した(J.Aizpurua et al.,Phys.Rev.Lett.,Vol.90,pp.057401/1−4,2003)。本発明者らの結果は、ガスアシスト蒸着の方法を用いると、プラズマ放電条件が満たされる必要のない場合は、環形成の問題を回避できることを明確に示している。
【0094】
状況は、高密度粒子層上への溶着の場合には変わる。その理由は単純である。ビーズの下方の自由表面の陰になった部分は、隣接粒子によって部分的に遮蔽されるため、したがって高散乱角下のビーズの下方で移動する金属原子の流量を減少させる。したがって、高圧でさえ、これらの場合における環構造の形成を観察するのは、再外側のビーズが単離したビーズもしくは小クラスタと同一条件を経験する凝集体の縁を除いて困難である。それでも、4種の作動圧で利用した4種のガスについて20nmのCrを高密度コロイドマスク上に溶着させ、引き続いてマスクを除去した後に得られる構造を示している図21および22に示したように、圧およびガス依存性の差を観察できる。
【0095】
図から明らかなように、構造は最低圧での作業ガスの存在による影響を受けない、すなわち顕著なシャドーイング効果を明らかにするが、圧力が増加した場合は識別できる網構造の形成を示す。使用した最高圧力では、網構造が優勢であり、以前に存在したビーズの下方での金属溶着に起因して構造縁の有意な軟化を観察できる。最も興味深いことに、クリプトンの使用は、もう一度最も傾斜した拡大縁を示す。特別には、この後者の場合には、個々の構造の縁が相互に接触して連結網を形成することが注目に値する。使用した条件下では、この効果は、他のガスを使用した場合と同程度までは観察できない。
【0096】
さらにもう1つのことを観察できる。最低圧は網構造の形成を誘発しない、または構造縁の有意な軟化を生じさせないが、ビーズと基板との以前の接触点周囲での部分的環形成は、特に窒素を使用すると識別できる。この効果は、この低圧での同一原子の2つの続いて起こる散乱事象間のクロム原子の大きな平均自由経路に関連する可能性がある。
【実施例5】
【0097】
コロイドマスク上での構造の形成
条件:作業ガス圧は、1×10−5〜1×10−3hPaへ変動した。
使用したガス:He(純度>99.95%)、N(純度>99.998%)、Ar(純度>99.99%)、Kr(純度>99.999%)
ガス較正係数:He:0.18、N:1.0、Ar:1.4、Kr:1.83。真の圧力は、次にPenning圧力計のメータ示度から、
(真の圧力)=(メータ示度)/(ガス較正係数)
として計算できる。
基板:シリコンウエハピース
コロイドマスク(凸形粒子):オゾン浄化Siウエハピース上での希釈懸濁液の乾燥によって溶着させた500nm径のポリスチレンビーズ。この方法は、基板上で粒子の高密度ならびに低密度領域を作り出す。ここに提示した実施例のためには、相当に高密度の領域が分析された。
金属溶着:コロイドマスクの上部での20nmのCr
マスクの抜去:マスクの抜去なし
分析:日立走査型電子顕微鏡S−4200
【0098】
サンプルを金属溶着後ではあるがマスク除去前にも試験した。この段階においても、図23に例示したように、いくつの興味深いことを観察できよう。
【0099】
図から明らかなように、相違するガスおよび作動圧の使用は、様々な方法でコロイドマスク上への金属溶着を引き起こす。一部には、作用は対立する。例えば、接触点はHeおよびNについては低圧で、しかし対照的にKrについては高圧で、相互接続金属格子を形成する材料で有意に充填される。特別には、Heを使用して低圧で形成された構造は興味深いと思われるが、それはすべてのビーズが相互接続され、他方では間隙は明白に目に見える開口部を形成し、これは他の場合にはこの程度まで識別できないためである。さらに、特に低圧の場合には、わずかに離れている隣接ビーズ間の網様相互接続の形成を観察できる。これが特に低圧で起こる理由は今までのところ不明であるが、おそらくはこの場合には金属原子のより長い自由平均経路に関連する可能性がある。きれいに形成された相互接続の他に、図23の右下にある画像(Kr@1×10−5hPa)は、例えばサンプルの冷却中に、おそらく過剰な機械適応力の構築に起因して破損した結線の例をさらに示している。この破損した線は、将来における多数の用途、例えばナノ電子回路、ナノ光学、ナノプラズモニクス、(ナノ)バイオセンシング、電気化学、マイクロ流体システム、(ナノ)生化学、(ナノ)(生物)化学合成、ナノバイオテクノロジーおよび関連技術において興味深い可能性があるナノスケールの電極対に似ている。
【実施例6】
【0100】
蒸着原料物質が及ぼす作用
条件:作業ガス圧 5×10−4mbar
使用したガス:Ar(純度>99.99%)、Kr(純度>99.999%)
圧力較正:上記と同様:Ar:1.4、Kr:1.83
基板:シリコンウエハピース
コロイドマスク(凸形粒子):オゾン浄化Siウエハピース上での希釈懸濁液の乾燥によって溶着させた500nm径のポリスチレンビーズ。この方法は、基板上で粒子の高密度ならびに低密度領域を作り出す。ここに提示した実施例のためには、単一ビーズ、小クラスタ、ならびに相当に高密度の領域が分析された。
金属溶着:コロイドマスクの上部での30nmのAg
マスクの抜去:純クロロホルム中での5分間の超音波処理
分析:日立走査型電子顕微鏡S−4200
【0101】
この実施例では、蒸着材料としてクロムの代わりに銀を使用する。実施例1によると、作業ガス原子もしくは分子2と衝突する蒸着原子1の最大散乱角は、質量比m/m(方程式7を参照)に依存するので、この比における変化は凸形マスクの下方で相違する溶着を生じさせる可能性がある。使用した作業ガス中、Crより大きな質量を有するのはKrだけであるので、その場合にのみCr原子の後方散乱が可能である。しかし107.87g/モルの分子量を備えるAgはKrより思いので、そこでこの場合には同様に前方散乱を引き起こす。実際に、mCr/mAr=1.30に極めて近いmAg/mKr=1.29であるので、結果として生じる構造の直接比較は方程式7の妥当性に関する洞察を提供する。
【0102】
図24は、シリコンウエハピース上に吸着された500nmポリスチレンビーズのコロイドマスク上に蒸着させた銀を用いて得られた構造を示している。銀は、ウエハ表面のSiOへの弱い付着を有するので、形態の一部はコロイドマスクを除去するために使用された超音波処理中に除去されている可能性がある。さらに銀は再結晶化に対してより感受性であり、SEM画像から明らかなように、相当に大きな顆粒が形成され、それによって境界では特別にはナノ構造が修飾される。それでも、以前に存在したコロイド粒子の下方にある環構造の形成は明白に識別可能である。明らかに、Arの場合には、これらの環構造は直接蒸着、すなわち、溶着材料への露出を特徴付ける境界の極めて近くで形成されるが、他方Krを用いた場合は、それらは以前のビーズ位置の中心のより近くで形成される。実施例3において以前に実施されたような「環径/ビーズ径」の比を決定する図24の単一ビーズ画像の評価は、Arの場合には0.90およびKrの場合には0.69の比を生じさせる。後者の数値は、類似の質量比を備えて0.61(実施例3を参照)を生じたCr/Arの組み合わせにおいて見出される数値と良好に一致しており、そこで方程式7の妥当性を確証している。
【0103】
このため質量比m/m比を使用すると、本発明の実施形態によって形成されたナノ構造に影響を及ぼすことができる。
【実施例7】
【0104】
蒸着原料物質の溶着速度に及ぼす作用
条件:作業ガス圧 3.6×10−4mbar
使用したガス:Ar(純度>99.99%)
圧力較正:上述したとおり:Ar:1.4
基板:シリコンウエハピース
コロイドマスク(凸形粒子):オゾン浄化Siウエハピース上での希釈懸濁液の乾燥によって溶着させた500nm径のポリスチレンビーズ。この方法は、基板上で粒子の高密度ならびに低密度領域を作り出す。ここに提示した実施例のために、単一ビーズおよび相当に高密度の領域が分析された。
金属溶着:a)0.05nm/s、b)0.15nm/s、およびc)0.3nm/sの3種の速度でコロイドマスクの上部への20nmのCr
マスクの抜去:純クロロホルム中での5分間の超音波処理
分析:日立走査型電子顕微鏡S−4200
【0105】
この実施例では、結果として生じる構造に溶着速度が及ぼす作用について試験される。3種の溶着速度が選択されているが、その他の全パラメータは、以前のサンプルで使用した数値で一定に維持された。図25は、得られた構造を比較している。明らかなように、実現された環構造は極めて類似するように見える。さらに、粒子高密度領域(図25の右側)では、形成された壁の傾斜は基本的に同一であると思われる。一部のわずかな相違は、おそらくサンプル間変動に起因する。そこで、ここで試験した範囲では、溶着速度は本発明の実施形態によって形成された微小構造に有意な影響を及ぼさない。これは蒸着原子と作業ガス分子間の衝突が優勢であり、蒸着原子間の衝突を無視できる限り予測できる。
【0106】
これまで、本発明は実施形態を参照して説明されている。しかし、実施形態には様々な変更または改良を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小構造を製造するための方法であって、
基板の表面上にマスクを溶着させる工程;および
前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に層を形成するために当該圧力で実施される当該蒸着条件下で原料物質を蒸着させる工程を含む方法。
【請求項2】
圧力は、その中に基板が配置されるチャンバ内に不活性ガスを導入する工程によって加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不活性ガスは、アルゴンガスまたはクリプトンガスである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
圧力は、約5×10−4hPa以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
不活性ガスはクリプトンガスであり、圧力は約1×10−3hPa以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
不活性ガスはヘリウムガスまたは窒素ガスであり、圧力は約1×10−5hPa以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
不活性ガスはクリプトンガスであり、圧力は約1×10−5hPa以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
第1原料物質は、前記第1原料物質の第1層を形成するために第1圧力で実施される第1蒸着条件下で蒸着させられる;および
第2原料物質は、前記第2原料物質の第2層を形成するために前記第1圧力とは異なる第2圧力で実施される第2蒸着条件下で蒸着させられる;および
低圧は、前記マスクおよび前記基板の陰になっていない表面領域上に層を形成するために第1蒸着または第2蒸着へ加えられる、ならびに高圧は、前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に層を形成するために第1蒸着または第2蒸着へ加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記マスクは、凸形状を備える顕微的粒子を有するコロイドマスクである、請求項1または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
低圧は約10−5hPa以下であり、高圧は約10−4〜10−1hPaである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
高圧は、その中に前記基板が配置されるチャンバ内に不活性ガスを導入する工程によって加えられる、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
不活性ガスは、窒素ガスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第1原料物質もしくは第2原料物質と同一であっても相違していてもよい1つまたは複数の原料物質を第1または第2蒸着条件下で蒸着させる工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
第1原料物質は、前記マスクおよび前記基板の陰になっていない表面領域上に第1層を形成するために低圧で蒸着させられる;および
第2原料物質は、前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に第2層を形成するために高圧で蒸着させられる、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
マスク上に形成された第1層および第2層を備える前記マスクを前記基板から除去する工程;
前記基板の表面上に残っている前記第1層および前記第2層を被覆するために前記基板の表面上にホスト材料を配置する工程;および
前記ホスト材料上に残っている前記第1層および前記第2層を前記ホスト材料の外側へ露出させるために前記基板を前記ホスト材料から除去する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
マスク上に形成された第2層を被覆するために前記基板の表面上にホスト材料を配置する工程;および
前記ホスト材料上に残っている前記第1層および前記第2層を前記ホスト材料の外側へ露出させるために前記基板を前記ホスト材料から除去する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ホスト材料上に残っている第1層および第2層を前記ホスト材料の外側へ露出させるために前記マスクを前記基板から除去する工程をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1原料物質は、前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に第1層を形成するために高圧で蒸着させられる;および
第2原料物質は、前記マスクおよび前記基板の陰になっていない表面領域上に第2層を形成するために低圧で蒸着させられる、請求項8に記載の方法。
【請求項19】
基板の表面上に残っている第1層および第2層を露出させるために前記マスク上に形成された前記第1層および前記第2層を備える前記マスクを前記基板から除去する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
基板の表面上に残っている第1層および第2層を被覆するために前記基板の表面上にホスト材料を配置する工程;および
前記ホスト材料上に残っている前記第1層を前記ホスト材料の外側へ露出させるために前記基板を前記ホスト材料から除去する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に第3原料物質の第3層を形成するために高圧で第3原料物質を蒸着させる工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記基板の表面上に形成された第1層、第2層および第3層を残すために前記マスク上に形成された前記第1層、前記第2層および前記第3層を備える前記マスクを前記基板の表面から除去する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第3層を被覆するために前記基板の表面上にホスト材料を配置する工程;および
前記ホスト材料上に残っている前記第1層および前記マスクを前記ホスト材料の外側へ露出させるために前記基板を前記ホスト材料から除去する工程をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ホスト材料上に残っている前記第1層を前記ホスト材料の外側へ露出させるために前記マスクを前記ホスト材料から除去する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1の方法によって製造された生成物。
【請求項26】
微小構造を製造するための装置であって、
マスクを有する基板が前記基板の表面上に蒸着させられる真空チャンバ;
層を形成するために原料物質を加熱する加熱器;および
前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に層を形成するために当該圧力を導入する真空装置を含む装置。
【請求項27】
前記加熱器は、第1層を形成するために第1原料物質を、または第2層を形成するために第2原料物質を加熱する;
前記第1層を形成するための第1圧力および前記第2層を形成するために前記第1圧力とは異なる第2圧力を前記チャンバ内へ導入する真空装置;および
前記低圧は、前記マスクおよび前記基板の陰になっていない表面領域上に層を形成するために第1蒸着または第2蒸着へ加えられる;および前記高圧は、前記マスクおよび前記基板の陰になった表面領域上および陰になっていない表面領域上の両方に層を形成するために第1蒸着または第2蒸着へ加えられる、請求項26に記載の装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公表番号】特表2010−504421(P2010−504421A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512349(P2009−512349)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/JP2007/069120
【国際公開番号】WO2008/035818
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】