説明

微粒子中の炭素分析方法

【課題】微粒子が均一に加熱されない為に、得られた燃焼プロファイルに幾つものピークが出現してベースラインの決定が困難となり、正確な炭素の定量値を求めることが非常に難しくなるという問題を解決し、複雑な設備を設けること無く、微粒子に含まれる炭素量を正確にかつ短時間で定量する。
【解決手段】フィルタ2に捕集した微粒子を前記フィルタ2ごと酸素気流中で加熱して、前記微粒子中の炭素を一酸化炭素および/または二酸化炭素となし、その後、前記一酸化炭素および/または二酸化炭素の量から前記微粒子中の炭素量を求める分析方法であって、前記酸素気流中での加熱時において、箔状の助燃剤1を前記フィルタ2に接するように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子中の炭素量の分析方法に関し、さらに詳しくは、フィルタに捕集した微粒子中に含まれる微量な炭素量を正確に分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気粉塵(特に空気動力学的直径が2.5μm以下の粒子)は呼吸器疾患を引き起こすものと考えられており、正確な発生源の特定が重要である。しかし、特徴的な化学成分が知られていない発生源の寄与は、明確にできない。また、従来のモデルで考えられていた発生源以外に、粉塵の発生源が存在している可能性もある。これらのことから、大気紛塵中の炭素量を明らかにすることが、発生源解析に対し重要な情報となると考えられており、大気粉塵中の炭素定量が実施されている。大気粉塵中の炭素定量方法は、石英やガラス繊維フィルタにローボリュームサンプラー等で大気粉塵を採取し、採取した大気粉塵をフィルタごと加熱し燃焼させて紛塵中の炭素を一酸化炭素または/および二酸化炭素量とし、その後、赤外分光法により当該一酸化炭素または/および二酸化炭素量から炭素量を求める方法が代表的である。
【0003】
また、鋼中に析出した炭素を含んだ化合物は、材料の特性に非常に大きな影響を及ぼすことが知られており、鋼中化合物としての炭素の量を求めることは非常に重要である。鋼中化合物に含まれる炭素は、分析対象の鋼材の鉄母相を溶解し、その溶解液から鋼中化合物を含んだ抽出残渣を無機質フィルタにろ過捕集し、当該析出物抽出残渣をフィルタごと酸素気流中で加熱して、鋼中化合物型炭素を一酸化炭素および/または二酸化炭素とし、その後、当該一酸化炭素および/または二酸化炭素の量を測定することで、その量を求めることができる。例えば、非特許文献1に具体的に開示されている。
【0004】
一方で、これら粉塵や鋼中化合物といった微粒子に含まれる炭素の定量分析は、当該炭素量がppmオーダーと微量である為、非常に困難を極める。環境、特に大気から試料表面に炭素が付着し、分析誤差を引き起こすからである(この環境由来の炭素を、本明細書では汚染炭素と呼ぶ)。そこで、例えば特許文献1、特許文献2もしくは特許文献3に開示されているように、酸素気流中での燃焼時に助燃剤を用いることで、汚染炭素と試料中の微量炭素とを分離する手法が提案されている。
【特許文献1】特開平03−037566号公報
【特許文献2】特開平06−123690号公報
【特許文献3】特開平09−166590号公報
【非特許文献1】黒澤文男、佐伯正夫共著、「鉄鋼材料の状態分析の将来」、鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、1990年、第76巻、p.483
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2もしくは特許文献3の実施例に沿った方法で、フィルタに捕集した微粒子中の炭素量を分析すると、当該微粒子が均一に加熱されない為に、得られた燃焼プロファイルに幾つものピークが出現してベースラインの決定が困難となり、正確な定量値を求めることが非常に難しくなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決し、複雑な設備を設けること無く、微粒子に含まれる炭素量を正確にかつ短時間で定量する分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
捕集後の微粒子は、フィルタを含めて薄膜状であると考えることができる。この様な膜状の物質を加熱し燃焼させると、膜の端の方がエネルギー的に活性化しやすく周囲から効率良く加熱されて燃えていく為、結果として、端と中心部とでは燃焼するタイミングに時間差が生じていると推測している。そこで、この時間差を少しでも小さくする為に、助燃剤を箔状にして捕集した微粒子ごとフィルタに接して配し、熱伝導を均一かつ速やかに伝わるようにすることを想到するに至った。ここで、箔状の助燃剤を直接微粒子に接触させる必要が無いのは、微粒子がフィルタに、ほぼ密着している状態である為、フィルタへの加熱が均一かつ迅速であれば、担持されている微粒子への加熱もフィルタを介して均一かつ迅速となるからである。特許文献1、特許文献2もしくは特許文献3に開示されている方法のように粒状の助燃剤では、フィルタ上に配することしかできず、また配した時に空隙が多くなり熱伝導の均一化を期待できない上に、空隙を無くそうとすると膨大な量の助燃剤を必要とし、経済的にも不利となる。
【0008】
以上の知見に基づきなされた本発明は、以下に示す構成からなる。
(1)上記課題を解決するため、本発明に係る微粒子中の炭素分析方法は、フィルタに捕集した微粒子を前記フィルタごと酸素気流中で加熱して、前記微粒子中の炭素を一酸化炭素および/または二酸化炭素となし、その後、前記一酸化炭素および/または二酸化炭素の量から前記微粒子中の炭素量を求める分析方法であって、前記酸素気流中での加熱時において、箔状の助燃剤を前記フィルタに接するように配置する。
(2)上記(1)において、箔状の助燃剤の厚みを0.05mm以上、0.3mm以下とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、酸素気流中で加熱する際に、微粒子を捕集したフィルタに箔状の助燃剤を接するように配置することで、微粒子に対し均一に加熱し燃焼できるので、得られる一酸化炭素および/または二酸化炭素の燃焼プロファイルを定量性に適した形状にすることができる。また、加熱損失が減少し加熱時間を短縮することができる。さらに、特別な設備も必要しない。加えて、箔状の助燃剤を使用する為、粒状の助燃剤を使用する場合に比較して助燃剤の量を効率的に使用することができ、経済的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る分析方法の代表的な分析フローを説明する。
(1)分析対象とする微粒子を、フィルタに捕集する。
(2)箔状の助燃剤と共に、捕集された微粒子をフィルタごと酸素気流中で加熱し、微粒子中の炭素を一酸化炭素または/および二酸化炭素となす。
(3)上記一酸化炭素または/および二酸化炭素を、上記酸素気流にのせて検出器に導入する。
(4)上記検出器にて、上記一酸化炭素または/および二酸化炭素の量を測定し、炭素量に換算する。
【0011】
微粒子を捕集する為に用いるフィルタは、内部炭素量の少ない石英や、ガラス繊維フィルタを用いることが望ましい。さらに、フィルタ表面の付着炭素を除去するため、使用前にフィルタを電気炉内にて450℃で30分以上加熱したものを用いると、なお良い。
【0012】
また、本発明においては分析対象である微粒子は、フィルタに捕集することが可能である、大きさ数nmから数10μmの微粒子に適用することができる。
【0013】
微粒子の捕集方法は、対象となる微粒子それぞれに対応した基準法に則り、適宜決定する。例えば大気粉塵なら、環境測定の基準測定法であるローボリューム法、鋼中化合物であれば、非特許文献1にある化学的溶解法や電解抽出法等を利用して捕集することが望ましい。
【0014】
捕集された微粒子は、フィルタごと燃焼ボートに入れ、同時に当該フィルタに接するように箔状の助燃剤を配置する。その配置の一例を模式的に示したのが図1である。図1中の1が箔状の助燃剤、2が微粒子を担持したフィルタ、3が燃焼ボートである。燃焼ボート3内に、微粒子を担持したフィルタ2を折りたたんで入れ、さらにその上に、微粒子を担持したフィルタ2を被うように箔状の助燃剤1を配置した(図1(b)を参照)。この時、箔状の助燃剤1は、その一部がフィルタに接していれば良いが、熱伝導効率を上げるためには、箔状の助燃剤1とフィルタ2は、極力、全面が接するように配置するのが好ましい。また、微粒子を担持したフィルタ2は、燃焼ボート3の形状に合わせて切断したりはしない。汚染炭素が付着するのを防ぐためである。
【0015】
無論、発明の効果を奏する限り、箔状の助燃剤1の配置方法は、この例に限ったものでは無い。例えば、燃焼ボート3内に、箔状の助燃剤1を入れた後、その箔状の助燃剤1の上に微粒子を担持させたフィルタ2を載せても良い。あるいは、微粒子を担持したままフィルタ2全体を箔状の助燃剤1で包んだ後に燃焼ボート3に載せても良い。
【0016】
箔状の助燃剤1は、使用前に50vol%HCl水溶液で酸洗し、さらにその後、微粒子を捕集したフィルタに接して配置する直前に400℃以上、600℃以下で数秒間空焼きして、汚染炭素を除去したものを用いる。なお、箔状の助燃剤1の材質は、微粒子の加熱とそれに伴う燃焼を促進する金属箔であれば特に制限はなく、例えば、銅、錫、タングステンもしくはこれら材質の2種類以上の合金であっても同様の効果が得られる。また、当該箔状の助燃剤1は、フィルタに捕集した微粒子の捕集面積よりも大きいことが望ましい。但し、大きすぎると箔状の助燃剤1に対し僅かに残った汚染炭素により、ブランク値(空焼き済みのフィルタ2と箔状の助燃剤1のみでの炭素量)の上昇の原因となるので、分析結果を見ながら好適な大きさを決定する。さらに、発明者等の検討範囲においては、当該箔状の助燃剤1の質量は、分析対象である微粒子の20倍程度で効果が飽和した。よって、フィルタの捕集面積と分析結果より箔状の助燃剤の大きさを決めてから、当該微粒子の20倍程度の質量となるように、箔状の助燃剤1の厚みを決定するのが望ましい。当該微粒子を鋼中の化合物とした場合、この化合物は多くて0.02g程度なので、箔状の助燃剤1はその20倍の0.4g程度必要である。箔状の助燃剤1はフィルタ2を被うことが望ましいので、面積との兼合いから、箔状の助燃剤1の厚みは0.05mm以上、0.3mm以下とすれば、大抵の鋼中化合物分析の場合に対応可能となり、好ましい。
【実施例】
【0017】
微粒子として鋼中の化合物を用いた場合の、本発明の実施例を示す。先ず、鋼中化合物を電界抽出法にて、フィルタに捕集した。10mass%アセチルアセトン−1mass%テトラメチルアンモニウムクロライド−メタノール溶液で鉄母相を1g溶解し、その溶解液を25mmφのガラス繊維フィルタでろ過して、フィルタに鋼中化合物を捕集した。その後、箔状の助燃剤と共に、鋼中化合物をフィルタごと1250℃で加熱した。箔状の助燃剤は、材質が銅、形状が、厚み0.15mm、縦17mm、横17mm、質量で0.35g相当のものを使用した。定量の為の検出器は、赤外分光装置を用いた。検出器により得られた、時間に対する炭素による赤外線吸収強度の燃焼プロファイルを図2に示す。比較例として、上述の条件にて箔状の助燃剤を用いなかった場合の燃焼プロファイルを図3に示す。
【0018】
図2から分かる様に、本実施例によれば、燃焼プロファイルは定量に適切なピーク形状が得られた上に、加熱時間は約40秒だった。一方、図3の比較例の場合は、フィルタ位置による加熱タイミングの違いで、燃焼プロファイルに幾つものピークが出現した。さらに、加熱時間も約90秒と長かった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】箔状の助燃剤を配置した例を示した図。
【図2】本発明の実施例における微粒子の炭素による赤外線吸収強度の時間に対する燃焼プロファイル。
【図3】助燃剤を用いなかった場合における微粒子の炭素による赤外線吸収強度の時間に対する燃焼プロファイル。
【符号の説明】
【0020】
1 箔状の助燃剤
2 フィルタ(微粒子を担持している)
3 燃焼ボート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタに捕集した微粒子を前記フィルタごと酸素気流中で加熱して、前記微粒子中の炭素を一酸化炭素および/または二酸化炭素となし、その後、前記一酸化炭素および/または二酸化炭素の量から前記微粒子中の炭素量を求める分析方法であって、
前記酸素気流中での加熱時において、箔状の助燃剤を前記フィルタに接するように配置することを特徴とする微粒子中の炭素分析方法。
【請求項2】
箔状の助燃剤の厚みを0.05mm以上、0.3mm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の微粒子中の炭素分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−147479(P2007−147479A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343228(P2005−343228)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】