心筋梗塞の治療方法
治療有効量の化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ蛋白質阻害剤を哺乳動物に投与することにより哺乳動物の心筋梗塞を治療するものであり、心筋梗塞の治療用医薬の製造における前記阻害剤化合物の使用も提供する。予防量の前記阻害剤を哺乳動物に投与することにより心筋梗塞を予防することもできる。阻害剤はピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及びその混合物から構成される群から選択されるSrc蛋白質阻害剤が好ましい。Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を使用して心筋梗塞の治療用医薬を製造することもできる。化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含有する製品も開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般には医薬分野に関し、特に哺乳動物の心筋梗塞の治療方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管傷害、疾患又は他の外傷による血管透過性は組織損傷に関連する血管漏出及び浮腫の主要原因である。例えば、脳血管障害(CVA)又は脳もしくは脊髄組織の他の血管傷害に関連する脳血管疾患は神経障害の最も一般的な原因であり、身体障害の主要原因である。典型的に、CVAの領域における脳又は脊髄組織の損傷は血管漏出及び/又は浮腫を伴う。典型的に、CVAは正常な脳血流の遮断である脳虚血;一過性血流障害に起因する脳機能不全;頭蓋内又は頭蓋外動脈の塞栓又は血栓に起因する梗塞;出血;及び動静脈奇形に起因する傷害を伴うことがある。虚血性脳卒中及び脳出血は突然発生し、発生の影響は一般に損傷した脳の領域を反映する(The Merck Manual,16th ed.Chp.123,1992参照)。
【0003】
CVA以外に中枢神経系(CNS)感染又は疾患も脳及び脊柱の血管を冒すことがあり、例えば細菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎、及び脳膿瘍形成のように炎症と浮腫を伴うことがある(The Merck Manual,16th ed.Chp.125,1992参照)。全身疾患の症状は、更に血管を弱化したり、血管漏出及び浮腫を生じることがある(例えば糖尿病、腎臓病、アテローム性硬化症、心筋梗塞等)。従って、血管漏出及び浮腫は癌とは別個独立の重大な症状であり、種々の傷害、外傷又は疾患状態に関連して有効な特定治療介入を必要とする。
【0004】
心筋梗塞は心筋への血液供給の閉塞による心臓組織の死滅である。心筋梗塞は西側諸国で入院患者の最も一般的な診断の1種である。米国では年間約110万人が急性心筋梗塞と診断されていると報告されている。心筋梗塞の死亡率は53%を上回り、生き延びた患者の66%が完全に回復することができない。死亡率が僅か1%低下するだけで年間3400人もの生命を救うことができる。心筋梗塞と付随する浮腫は一般に冠動脈が閉塞して動脈閉塞により心臓組織への酸素供給が遮断されるときに生じる。血液供給が遮断されると、閉塞した動脈により正常に血液を供給される組織は虚血状態になる。最終的に酸素が欠乏した心臓組織は死滅する(壊死)。Honkanenらは米国特許第5,914,242に心臓虚血の発症後に患者に所定のセリン/スレオニンホスファターゼ酵素阻害剤及び関連ポリペプチドを投与することを含む心筋梗塞の緩和方法を記載している。このような酵素とポリペプチドは高価であり、医薬用に製造及び精製するのは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らはSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害が一般に冠動脈血管構造の閉塞に起因する浮腫とその結果として生じる冠動脈組織の壊死を減少させ、それによって心筋梗塞の組織損傷作用を緩和することにより心筋梗塞の治療に有用な方法を提供することを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害による心筋梗塞(MI)の治療方法に関する。本方法は有効量のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与して、冠動脈血管閉塞した哺乳動物の冠動脈組織を治療することを含む。哺乳動物はヒト患者でもよいし、非ヒト哺乳動物でもよい。治療する冠動脈組織は冠動脈血管閉塞による虚血(即ち血流低下)状態の心臓の任意部分とすることができる。治療処置は化学的(即ち非ペフチド)Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含む有効量の所望の医薬組成物とターゲット冠動脈組織を接触させることにより実施される。有害な血管閉塞が発生中であるか又は発生した領域に近い領域の疾患冠動脈組織の治療に有用である。方法は一般に冠動脈血管閉塞に起因する組織壊死(梗塞)を減少させる。
【0007】
本発明の別の側面は包装材料と包装材料内に収容された医薬組成物を含む製品であり、医薬組成物は冠動脈血管閉塞による血流低下状態の冠動脈組織の壊死を減少させることができる。包装材料は医薬組成物を心筋梗塞の治療に使用できること及び、医薬組成物は医薬的に許容可能なキャリヤー中に治療有効量のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含有することを示すラベルを含む。
【0008】
本発明の目的に適したSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤としては4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1872)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1879)等のピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;ラディシコールR2146、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA等の大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;PD173955等のピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;SKI−606等の4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;及びその混合物が挙げられる。
【0009】
本発明の方法は心筋梗塞の治療に有用である。特に、本発明の方法は心臓病、傷害又は外傷による冠動脈血管閉塞に起因する心臓組織壊死の改善に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
A.定義
本明細書で使用する「アミノ酸残基」なる用語はポリペプチドがそのペプチド結合部位で化学的に消化(加水分解)されて形成されるアミノ酸を意味する。本明細書に記載するアミノ酸残基は「L」異性形が好ましい。しかし、所望機能特性がポリペプチドにより維持される限り、任意L−アミノ酸残基を「D」異性形に置換してもよい。NH2とはポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を意味する。COOHとは(J Biol. Chem.,243:3552−59(1969)に記載され、37 CFR §1.822(b)(2)で認可された)標準ポリペプチド命名法に従ってポリペプチドのカルボキシル末端に存在する遊離カルボキシル基を意味する。
【0011】
なお、本明細書では慣用方法に従って左から右に向かってアミノ末端(N末端)からカルボキシル末端(C末端)に向かう方向で全アミノ酸残基配列を示す。更に、アミノ酸残基配列の始点と終点のダッシュは1個以上のアミノ酸残基のさらなる配列とのペプチド結合を示す。
【0012】
本明細書で使用する「ポリペプチド」なる用語は近接したアミノ酸残基のα−アミノ基とカルボキシル基の間のペプチド結合により相互に結合したアミノ酸残基の直鎖系列を意味する。
【0013】
本明細書で使用する「ペプチド」なる用語はポリペプチドのように相互に結合した約50アミノ酸残基以下の直鎖系列を意味する。
【0014】
本明細書で使用する「蛋白質」なる用語はポリペプチドのように相互に結合した50アミノ酸残基を上回る直鎖系列を意味する。
【0015】
B.一般事項
本発明は一般に(1)VEGFにより誘導される血管透過性(VP)がSrcやYes等のチロシンキナーゼ蛋白質により特異的に媒介され、Srcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害によりVPを調節できるという発見;及び(2)Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤をin vivo投与すると、疾患又は傷害に関連する血管浸透性の増加に起因する組織損傷が減少するという発見に関する。
【0016】
この発見は血管透過性が各種疾患プロセスに果たす役割により重要である。本発明はSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害により血管透過性を特異的に調節し、改善することができるという発見に関する。特に、本発明はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤をin vivo投与すると、癌又は形成新生に関連しない疾患又は傷害に関連する血管透過性の増加に起因する組織損傷が減少するという発見に関する。
【0017】
血管透過性は血管の外傷による急激なVP増加により組織損傷が生じる種々の疾患プロセスに関与している。従って、VPを特異的に調節できるならば、脳卒中の有害な作用を減らすために有効な新規治療が可能になる。
【0018】
Srcファミリーキナーゼ阻害剤を使用する特異的阻害調節が有効である疾患又は傷害により誘導される血管漏出及び/又は浮腫に関連する組織の例としてはリウマチ様関節炎、糖尿病性網膜症、炎症性疾患、再狭窄、脳卒中、心筋梗塞等が挙げられる。
【0019】
VEGF受容体IgG融合蛋白質を使用してVEGF蛋白質を全身中和すると、脳虚血後の梗塞サイズが減少することが報告されている。この効果はVEGFにより媒介される血管透過性の低下に起因すると考えられている。N.van Bruggenら,J.Clin.Inves.104:1613−1620(1999)。しかし、VEGFではなく、Srcが血管透過性増加の重要なメディエーターであることが分かった。更に、SrcはVEGF以外の刺激により活性化されることができる。例えば、Erpelら.,Cell Biology,7:176−182(1995)参照。
【0020】
本発明は特に、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、特にSrcの阻害剤が冠動脈血管閉塞による哺乳動物の冠動脈組織損傷を改善することにより心筋梗塞を治療するために有用であるという発見に関する。
【0021】
C.Srcファミリーチロシンキナーゼ蛋白質
本明細書と、クレームで使用する「Srcファミリーチロシンキナーゼ蛋白質」なる用語とその文法的変形は特にv−Src、N末端ミリストイル化に相同なアミノ酸配列をもち、N末端可変領域に続いてSH3ドメイン、SH2ドメイン、チロシンキナーゼ触媒ドメイン及びC末端調節ドメインをもつ保存ドメイン構造をもつ蛋白質を意味する。「Src蛋白質」及び「Src」なる用語は60kDa分子量と、2個のPKCリン酸化部位と1個のPKAリン酸化部位を含むN末端可変領域と、他のSrcファミリーサブグループの公知メンバー(例えばYes,Fyn,Lck,及びLyn)よりも公知Src蛋白質に比較的高い総アミノ酸配列一致度をもち、配列番号2の416位のチロシンに等価のチロシンのリン酸化により活性化される各種形態のチロシンキナーゼSrc蛋白質の総称として使用される。「Yes蛋白質」及び「Yes」なる用語は62kDa分子量と、リン酸化部位を全くもたないN末端可変領域と、他のSrcファミリーサブグループの公知メンバー(例えば、Src,Fyn,Lck,及びLyn)よりも公知Yes蛋白質に比較的高い総アミノ酸配列一致度をもち、配列番号4の426位のチロシンに等価のチロシンのリン酸化により活性化される各種形態のチロシンキナーゼYes蛋白質の総称として使用される。
【0022】
冠動脈虚血を測定するために好適なアッセイは下記に詳細に記載するように冠動脈結紮によりラットに虚血を誘導し、心筋梗塞のサイズをMRI、心エコー等の技術により経時的に測定することを含む。
【0023】
D.心筋梗塞の治療及び予防方法
本発明の方法は少なくとも1種の化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物と虚血性冠動脈組織を接触させることを含む。
【0024】
本発明の目的に適したSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤としては、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及び4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤等の化学的Src阻害剤が挙げられる。
【0025】
好ましいピラゾロピリミジンクラスの阻害剤としては、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP1又はAGL1872と言う場合もある)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP2又はAGL1879と言う場合もある)等が挙げられ、製造の詳細についてはWaltenbergerら,Circ.Res.,85:12−22(1999)に記載されており、その関連開示内容を参考資料として本明細書に組込む。AGL1872とAGL1879の化学構造を図8に示す。AGL1872(PP1)はPfizer,Inc.からのライセンスに基づきBiomolから入手可能である。AGL1879(PP2)はPfizer,Inc.からのライセンスに基づきCalbiochemから入手可能である(Hankeら,J.Biol.Chem.271(2):695−701(1996)も参照)。
【0026】
好ましい大環状ジエノン阻害剤としては、例えばラディシコールR2146、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA等が挙げられる。ラディシコールR2146、ゲルダナマイシン及びハービマイシンAの構造を図9に示す。ゲルダナマイシンはLife Technologiesから入手可能である。ハービマイシンAはSigmaから入手可能である。ラディシコールは各社(例えばCalbiochem,RBI,Sigma)から市販されており、非特異的蛋白質チロシンキナーゼ阻害剤としても作用する抗真菌大環状ラクトン抗生物質であり、Srcキナーゼ活性を阻害することが分かった。大環状ジエノン阻害剤はα,β,γ,δ−ビス−不飽和ケトン(即ちジエノン)部分と酸素化アリール部分を大環状環の一部として含む12〜20炭素の大環状ラクタム又はラクトン環構造を含む。
【0027】
好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラス阻害剤としては例えばPD173955等が挙げられる。Parke Davisにより開発された阻害剤であるPD173955の構造はMoasserら,Cancer Res.,59:6145−6152(1999)に開示されており、その関連開示内容を参考資料として本明細書に組込む。PD172955の化学構造を図10に示す。
【0028】
好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラス阻害剤としては例えばWyethから入手可能であるSKI−606が挙げられる。4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrc阻害剤の例は米国特許公開第2001/0051520号及び2002/00260052号に開示されており、その関連開示内容を参考資料として本明細書に組込む。
【0029】
本発明の方法及び組成物で有用な他の特定Srcキナーゼ阻害剤としてはParke Davisにより開発されたPD162531(Owensら,Mol.Biol.Cell 11:51−64(2000))が挙げられるが、その構造は文献に記載されていない。
【0030】
化学的阻害剤としてはピラゾロピリミジン阻害剤が好ましく、AGL1872とAGL1879がより好ましく、AGL1872が最も好ましい化学的阻害剤である。別の好ましいSrc阻害剤は4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606としても知られる)である。
【0031】
他の適切なSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤も当業者に公知の標準アッセイを使用して同定及び特性決定することができる。例えば、Src又は他のチロシンキナーゼの強力な選択的阻害剤に関する化合物のスクリーニングは実施されており、その結果、Srcファミリーチロシンキナーゼの強力な阻害剤で有用な化学的部分が同定されている。
【0032】
例えば、天然物質に由来する多数のチロシンキナーゼ阻害剤の重要な結合エレメントとしてカテコールが同定され、c−Srcの選択的阻害剤の組み合わせターゲット選択により選択された化合物の中に発見されている。Malyら“Combinatorial target−guided ligand assembly:Identification of potent subtype−selective c−Src inhibitors”PNAS(USA)97(6):2419−2424(2000)参照。Src阻害に重要であることが分かっている部分を出発点として使用して候補阻害剤化合物をコンビナトリアル化学に基づいてスクリーニングすることは、Srcファミリーチロシンキナーゼの他の化学的阻害剤を単離及び特性決定するために強力且つ有効な手段である。
【0033】
しかし、ポリペプチドと核酸に存在する広範な官能基の摸倣の可能性に基づいて潜在的結合エレメントを注意深く選択することは、活性阻害剤のコンビナトリアルスクリーニングを実施するすることに使用できる。例えば、O−メチルヒドロキシルアミンと多数の市販アルデヒドのいずれかとの縮合によりライブラリーが容易に作製されるならば、O−メチルオキシムライブラリーがこの作業に特に適している。O−アルキルオキシム形成は生理的pHで安定な広範な官能基と適合可能である。Malyら,前出参照。
【0034】
当然のことながら本発明の原理は本方法が非ヒト哺乳動物についても有効であるが、本発明の態様である方法により治療することができる哺乳動物はヒトが望ましい。この点で、哺乳動物とは組織損傷に関連する血管漏出又は浮腫の治療が望ましい任意の哺乳動物種、農業用及び家庭哺乳動物種、並びにヒトを含むと理解すべきである。
【0035】
好ましい治療方法は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、特に化学的(即ち非ペプチド)Src阻害剤を含有する治療有効量の生理的に許容可能な組成物を心筋梗塞の哺乳動物に投与することを含む。
【0036】
心筋梗塞の好ましい予防方法は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、特に化学的(即ち非ペプチド)Src阻害剤を含有する予防量の生理的に許容可能な組成物を心筋梗塞の危険のある哺乳動物に投与することを含む。
【0037】
AGL1872やSKI−606等の化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の投与用量範囲は約0.1mg/kg体重〜約100mg/kg体重、又は活性剤の医薬キャリヤー溶解限界までとすることができる。好ましい用量は約1.5mg/kg体重である。本発明の態様である医薬組成物は経口投与することもできる。具体的経口投与剤形としてはカプセル、タブレット等とすることができ、腸溶コーティングを付けても付けなくてもよい。
【0038】
急性傷害又は外傷の場合には、事故の発生後できるだけ早く治療薬を投与することが最善である。しかし、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の有効投与時間は急性事故の場合には傷害又は外傷の発生から約48時間以内とすることができる。発生から約24時間以内に投与することが好ましく、6時間以内がより好ましい。Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を傷害から約45分以内に患者に投与することが最も好ましい。初期傷害から48時間後に投与しても後続血管漏出又は浮腫による後続組織損傷を改善するのに適していると思われるが、このような場合には初期組織損傷に対する有益な効果は減ると思われる。
【0039】
外科手術に関連する心筋梗塞を予防するため、又は診断基準の素因をもつ場合に予防投与する際には、いかなる急性冠動脈血管閉塞の前、又は例えば冠動脈血管形成等の経皮的心臓血管介入のような閉塞の原因となるイベント中に投与することができる。冠動脈血管閉塞の原因となる慢性症状の治療には、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を連続投与レジメンで投与することができる。一般に、用量は年齢、症状、性別及び患者の被った傷害の程度により変えることができ、当業者が決定することができる。用量は合併症の場合には個々の主治医が調節することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物は、好ましくは注射又は逐次輸液により経時的に非経口投与される。治療する組織は典型的に全身投与により体内に供給することができるので、治療組成物の静脈内投与により治療することが最も多いが、標的組織が標的分子を含む可能性がある場合には他の組織及び送達手段も考えられる。従って、本発明の組成物は静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、経皮、経口投与することができ、蠕動手段により投与することもできる。
【0041】
静脈内投与は例えば単位用量の注射により実施される。本発明の治療組成物に関して使用する場合に「単位用量」なる用語は必要な希釈剤、即ちキャリヤー又はビークルと共に所望治療効果を生じるように計算された所定量の活性材料を各々含有する単位であり、患者への単位用量として適した物理的に分離した単位を意味する。
【0042】
1好適態様では、一回用量で活性剤を静脈内投与する。局所投与は直接注射又は解剖学的に分離された区画、標的臓器系の微量循環、循環系の再潅流、又は疾患組織に関連する血管構造の標的領域のカテーテルによる一時的閉塞を分離することにより実施することができる。
【0043】
医薬組成物は投与製剤に適合可能な方法で治療有効量を投与する。本明細書と特許請求の範囲で医薬組成物に関して使用する「治療有効量」及び「予防量」なる用語は臨床医が望む患者の生物学的又は医学的応答(例えば、組織損傷の改善又は心筋梗塞の予防)を誘発する医薬組成物の量を意味する。
【0044】
投与量と時機は治療する対象、患者の系が活性成分を利用する能力、及び所望される治療効果の程度により異なる。活性成分の厳密な投与量は医師の判断により異なり、各個体に固有である。しかし、全身投与に適した用量範囲は本明細書に開示する通りであり、投与経路による異なる。適切な投与レジメンも多様であるが、典型的には、初期投与後に後続注射又は他の投与(例えば経口投与)により1時間以上の間隔で連続投与する。あるいは、in vivo治療に特定される範囲の血中濃度を維持するために十分な連続静脈内輸液も考えられる。
【0045】
各種形態の冠動脈疾患に関連する冠動脈血管閉塞又は心臓の傷害もしくは外傷に起因する組織損傷を改善する本発明の方法は疾患の症状を改善し、疾患によっては疾患の治癒に寄与することができる。組織における壊死の程度、従って本発明により達成される阻害の程度は種々の方法により評価することができる。特に、本発明の方法は心筋梗塞の治療に特に適している。
【0046】
冠動脈血管閉塞に起因する組織損傷の改善は治療組成物の投与後短時間に得ることができる。急性の傷害又は外傷の場合には、殆どの治療効果は投与から24時間以内に目視確認することができる。他方、慢性治療効果は容易には現れない。
【0047】
律速因子としては組織吸収速度、細胞内取込み、(治療に応じて)蛋白質転位又は核酸翻訳及び蛋白質ターゲティングが挙げられる。従って、組織損傷の調整効果は阻害剤の投与から1時間ほどの短時間で得ることができる。心臓組織は適正な条件を使用してSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤と追加又は延長接触させることができる。従って、このようなパラメーターを調節することにより種々の所望治療時間枠を設計することができる。
【0048】
E.治療用組成物
本明細書に記載するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤は心筋梗塞の治療用医薬を製造するために使用することができる。阻害剤は本明細書に記載する治療又は予防方法を実施するために有用な医薬組成物に配合することができる。本発明の医薬組成物は本明細書に記載する化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を活性成分として生理的に許容可能なキャリヤーに溶解又は分散することができる。1好適態様では、治療目的でヒト等の哺乳動物患者に投与する場合には医薬組成物は非免疫原性である。
【0049】
組成物、キャリヤー、希釈剤及び試薬に関して本明細書で使用する「医薬的に許容可能」、「生理的に許容可能」なる用語とその文法的変形は同義に使用し、悪心、めまい、胃の異常等の望ましくない生理的作用を生じることなく哺乳動物に材料を投与できることを意味する。
【0050】
溶解又は分散された活性成分を含む医薬組成物の製造は当業者に周知であり、製剤により限定する必要はない。典型的に、このような組成物は液体溶液又は懸濁液形態の注射液として製造される。使用前に液体に溶解又は懸濁するのに適した固体形態を製造することもできる。製剤は乳化してもよいし、リポソーム組成物としてもよい。
【0051】
活性成分は医薬的に許容可能で活性成分と適合可能な賦形剤と、本明細書に記載する治療方法で使用するのに適した量を混合することができる。適切な賦形剤は例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等及びその組み合わせである。更に、所望により、活性成分の効果を増す量の湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤等の助剤を組成物に添加することができる。
【0052】
本発明の治療用組成物は活性成分の医薬的に許容可能な塩を含むことができる。医薬的に許容可能な塩としては、例えば塩酸やリン酸等の無機酸又は酢酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸等と共に形成される(ポリペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)酸付加塩を含む。遊離カルボキシル基と共に形成される塩も例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは水酸化第二鉄等の無機塩基又はイソプルピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等の有機塩基から誘導することができる。
【0053】
生理的に許容可能なキャリヤーも当業者に周知である。液体キャリヤーの例は活性成分と水以外の材料を含まない滅菌水溶液か、又は生理的pH値のリン酸ナトリウム、生理的食塩水もしくは両者を含有する緩衝液(例えばリン酸緩衝食塩水)を含む滅菌水溶液である。更に、水性キャリヤーは2種以上の緩衝液塩や、塩化ナトリウム、塩化カリウム、デキストロース、ポリエチレングリコール及び他の溶質等の塩を含有することができる。
【0054】
液体組成物は更に水に加え、及び水を含まずに、液相を含むこともできる。このような付加液相の例はグリセリン、植物油(例えば綿実油)、及び水−油エマルションである。
【0055】
本発明の化学的治療用組成物はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を活性成分として溶解又は分散した生理的に許容可能なキャリヤーを含む。
【0056】
適切なSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤はSrcファミリーチロシンキナーゼのチロシンキナーゼ生物活性を阻害する。より適切なSrcファミリーチロシンキナーゼはSrc蛋白質の活性の阻害に主特異性をもち、最も近縁のSrcファミリーチロシンキナーゼを二次的に阻害する。
【0057】
F.製品
本発明は治療有効量のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を提供するためのラベル付き容器である製品も意図する。阻害剤は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の単一パッケージでもよいし、2種以上の阻害剤の組み合わせでもよい。製品は包装材料と包装材料内に収容された薬剤を含む。製品は相乗作用により冠動脈血管閉塞に起因する組織損傷を改善する2種以上の治療有効量を下回る量の医薬組成物を併用してもよい。
【0058】
本明細書で使用する包装材料なる用語は固定手段の内側に薬剤を保持することが可能なガラス、プラスチック、紙、箔等の材料を意味する。従って、例えば、包装材料は薬剤を含有する医薬組成物を収容するために使用されるプラスチック又はガラスバイアル、積層エンベロープ等の容器とすることができる。
【0059】
好ましい態様では、包装材料は製品の内容物と収容された薬剤の用途について記載した有形表現であるラベルを含む。
【0060】
製品に含まれる薬剤は開示指定に従って本明細書に記載するような医薬的に許容可能な形態に製剤化されたSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を提供するのに適した本発明の組成物の任意のものである。本発明の目的に適したSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤としては4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン等のピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;ラディシコールR2146、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA等の大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;PD173955等のピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;SKI−606等の4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;及びその混合物等の化学的Src阻害剤が挙げられる。製品は単位又は多回投与で本明細書に指定する適応症の治療に使用するのに十分な量の薬剤を含有する。
【0061】
包装材料は収容した薬剤の用途、例えば血管透過性増加の阻害により助長される症状等の本明細書に開示する症状を治療するために使用できることを指示したラベルを含む。ラベルは更に使用説明及び販売に必要な関連情報を記載することができる。包装材料は薬剤の保存容器を含むことができる。
【0062】
本発明に関する以下の実施例は例証であり、当然のことながら、本発明を特に限定するものと解釈すべきではない。更に、当業者に現在公知であるか又は将来開発される本発明の同等の変形も特許請求の範囲に記載する本発明の範囲内に含むものとみなす。
【実施例1】
【0063】
VEGFにより媒介されるVP活性はSrc及びYesに依存するが、Fynには依存しない。
【0064】
Srcと同様に内皮細胞で発現されることが知られているFyn又はYes等のSFKに関連するVEGFにより誘導されるVP活性を試験することにより、VPに関するSrc要求の特異性を検討した(Bullら,FEBS Letters,361:41−44(1994);Kieferら.,Curr.Biol.4:100−109(1994))。これらの3種のSFKは野生型マウスの大動脈で同等に発現されることが確認された。src−/−マウスと同様に、Yesを欠損する動物はVEGFにより誘導されるVPも欠損していた。しかし、驚くべきことに、Fynを欠損するマウスはVEGFに応答して高いVPを維持し、対照動物と有意差がなかった。src−/−又はyes−/−マウスにおけるVEGFにより誘導されるVPの破壊は、特異的SFKのキナーゼ活性が血管新生ではなくVP活性を誘導するVEGFにより媒介されるシグナリングイベントに必須であることを実証するものである。
【0065】
エバンスブルー色素を予め静脈内注射したマウスに食塩水又はVEGF(400ng)を皮内注射することにより、src+/−(図5A,左パネル)又はsrc−/−(図5A,右パネル)マウスの皮膚におけるVEGFの血管透過性を測定した。15分後に皮膚パッチを写真撮影した(スケールバー1mm)。星印は注射部位を示す。VEGF、bFGF又は食塩水の注射部位の周囲の領域を剥離し、エバンスブルー色素をホルムアミドに58℃で24時間溶出させてVPを定量し、500nmの吸光度を測定した(図5B,左グラフ)。炎症関連VPを誘導することが知られている炎症メディエーター(イソチオシアン酸アリル)の能力をsrc+/−又はsrc−/−マウスで試験した(図5B,右)。
【0066】
VEGFがVPを誘導する能力をsrc−/−、fyn−/−、又はyes−/−マウスでMilesアッセイにて比較した(図5C)。動物3匹の平均±SDとしてMilesアッセイの各々のデータを表す。対照動物に比較してsrc−/−及びyes−/−のVP欠損は統計的に有意(*p<0.05,対応t検定)であったが、VEGFを投与したfyn−/−マウスとイソチオシアン酸アリルを投与したsrc+/−マウスのVP欠損は統計的に有意ではなかった(**p<0.05)。
【実施例2】
【0067】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与したマウスとSrc−/−マウスは無投与野生型マウスに比較して血管外傷又は傷害に関連する組織損傷の低下を示す。
【0068】
Srcファミリーキナーゼの阻害剤は脳卒中等の血管傷害又は障害後の病的血管漏出及び透過性を低下させる。血管内皮細胞は多数の合図に応答して腫瘍の血管新生中に新血管の発生等のプロセスを調節し、脳卒中により誘導される浮腫及び組織損傷中に血管壁の透過性を調節する動的細胞種である。
【0069】
2種のマウス脳卒中モデルではSrc経路の薬剤阻害により血管透過性を低下させれば虚血により誘導される血管漏出を減少させることにより脳損傷を抑制するために十分である。更に、遺伝的にSrcを欠損し、血管漏出/透過性が低下しているマウスでは、梗塞体積も小さい。合成Src阻害剤データの組み合わせは、脳卒中及び他の関連モデルにおける血管漏出が低下しているという遺伝的証拠の支えとともに、このアプローチが脳卒中後の脳損傷を減少させるのに生理的に適切であることは明らかである。これらのシグナリングカスケードの各種市販Srcファミリーキナーゼ阻害剤によるこれらの経路の阻害は血管透過性に関連する組織損傷に起因する脳損傷を緩和する治療効果がある。
【0070】
局所脳虚血の誘導方法として2種の異なる方法を使用した。どちらの局所脳虚血動物モデルもよく確立され、脳卒中研究で広く使用されている。どちらのモデルも脳虚血の病態生理を検討し、新規脳卒中治療薬を試験するために従来使用されている。
【0071】
(a)マウスを2,2,2,−トリブロモエタノール(AVERTIN(登録商標))で麻酔し、加温パッド上に動物を保持することにより体温を維持した。右耳と右眼の間を切開した。側頭筋を押しのけて頭蓋を露出させ、中大脳動脈(MCA)間の領域に小さいバーホールをあけた。髄膜を除去し、加熱フィラメントを使用して凝固させることにより右MCAを閉塞させた。動物を回復させ、そのケージに戻した。24時間後に脳を潅流し、摘出し、1mm横断面切片に切断した。切片を塩化2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム(TTC)の2%溶液に浸漬し、生存(赤)組織に囲まれた未染色(白色)組織として梗塞脳領域を識別した。切片の未染色面積にその厚さを掛けた積の合計として梗塞体積を計算した。
【0072】
Src欠損マウス(Src−/−)を使用して脳虚血におけるSrcの役割を試験した。Src+/−マウスを対照として使用した。Src−/−マウスの梗塞体積は傷害から24時間後に26±10mm3から対照の16±4mm3まで減少することが確認された。血管閉塞から30分後にC57B16野生型マウスに1.5mg/kg AGL1872を腹腔内(i.p.)注射すると、効果は更に顕著であった。梗塞サイズは未投与群では31±12mm3であったが、AGL1872投与群では8±2mm3まで減少した。
【0073】
(b)第2の局所脳虚血モデルでは、MCAの始点に塞栓を配置することによりMCAを閉塞した。変形PE−50カテーテルを使用して発生から24時間後の単一の無傷フィブリンリッチ同種血栓をMCAの始点に配置した。対側片麻痺に対する同側片麻痺の脳血流の減少により脳虚血の誘導を確認した。24時間後に脳を摘出し、連続切片を作成し、ヘマトキシリン−エオシン(HE)で染色した。連続HE切片における梗塞面積に各切片間の距離を掛けた値を合計することにより梗塞体積を計算した。
【0074】
本試験で使用したAGL1872の用量(1.5mg/kg i.p.)は経験により選択した。VEGFは脳虚血から約3時間後にまず脳で発現され、12〜24時間後に最大となることが知られている。本試験では、梗塞の発生から30分後にAGL1872を投与し、VEGFにより誘導される血管透過性増加を完全に阻止した。典型的VEGF発現の時間経過に従って、Src阻害剤投与の潜在的治療有効血中濃度投与量は脳卒中後12時間までとすることができる。血管透過性の持続的な増加を伴う疾患では、Src阻害薬の慢性投与が適切である。
【0075】
図6は傷害後のマウス脳における平均梗塞体積(mm3)の比較結果を示すグラフであり、マウスは、異種Src(Src+/−)、ドミナント陰性Src突然変異体(Src−/−)、野生型マウス(WET)、又は1.5mg/kg AGL1872を投与した野生型マウスであった。
【0076】
図7はCNS傷害の誘導処置後に摘出潅流したマウス脳のサンプル連続MRIスキャンを示し、AGL1872を投与した動物のスキャン推移(右)は対照無投与動物のスキャン推移(左)よりも脳梗塞が明らかに少ない。
【実施例3】
【0077】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与したラットとSrc−/−マウスは無投与野生型マウスに比較して冠動脈血管外傷又は傷害に関連する組織損傷の減少を示す。
【0078】
Sprague−Dawleyラットの左前下行冠動脈を結紮することにより心筋虚血を誘導した。虚血誘導後にピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤AGL1872又はSKI−606の腹腔内(i.p.)注射により悪影響を与えられた心臓組織を化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤と接触させた。術後24時間後に高分解能磁気共鳴イメージング(MRI)、乾燥重量測定値、梗塞サイズ、心臓体積、及び危険面積を測定した。心筋梗塞(MI)後に用量約1.5mg/kgの阻害剤をi.p.注射したラットで術後4週間後に生存率と心エコーを測定した。
【0079】
図11はエオシン色素で染色(生体染色)した投与(左)及び対照(右)ラット心臓組織の顕微鏡写真を示す。対照組織(右上写真)は組織の周辺部に大面積の壊死を示す。他方、投与組織(左上写真)は壊死組織を殆ど示さない。
【0080】
図12は投与から24時間後の梗塞サイズ(mg組織)を阻害剤(AGL1872)濃度の関数として示す棒グラフである。最適阻害レベルは約1.5mg/kgの用量で達成された。約3mg/kgの用量では梗塞サイズの有意減少は生じなかった。
【0081】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与した結果、梗塞サイズと危険面積は術後24時間以内に用量依存的に減少した。梗塞誘導から約45分後に用量約1.5mg/kgの阻害剤が送達された場合に梗塞サイズの約68%(p<0.05)の最大阻害が達成された(図13)。阻害剤は虚血誘導から約6時間後に投与した場合にも有効であり、梗塞サイズは約42%減少した(p<0.05)。免疫組織化学分析によると、Src阻害は虚血組織におけるVEGF発現を妨げなかった。梗塞サイズの減少は心筋含水率の低下(約5%±1.3%;p<0.05)とMRIにより検出される浮腫組織の体積減少を伴い、Src阻害の有益な効果がVEGFにより媒介されるVPの予防に関連することを示している(図14)。術後約4週間後の心エコーにより測定した短縮率は対照で約29%であり、投与ラットでは約34%であった(p<0.05)。注目すべき点として、処理ラットの4週間生存率(100%)は対照ラット(約63%)に比較して予想外に高かった。
【0082】
浮腫を精密にin vivoモニターするために、高分解能磁気共鳴イメージング(MRI)を使用し、永続的左前下行(LAD)閉塞後にSrc阻害剤AGL1872又はSKI−606を投与するか又は投与しないラットの心臓組織を評価した。浮腫領域は含水率が増加するので非浮腫領域よりもT2緩和時間が長いと予想される。浮腫を定量するために、T2>49ms(通常通りに潅流した心筋の平均を上回る2個の標準偏差よりも大)の領域を決定した。虚血発生の1時間後にT2加重シグナリングはSrc阻害が初期細胞毒性浮腫に影響しないことを示した。しかし、24時間後には、AGL1872による心筋関連心筋浮腫はビヒクルに比較して47%減少することが計算T2マップから判明した(n=2 AGL1872群,n=1 ビヒクル群)。この結果は非虚血心筋の湿潤/乾燥重量を使用してex−vivo計算した心筋含水率に相関する。AGL1872は浮腫及び梗塞サイズを用量依存的に減少させ、1.5mg/kgで最大の減少が得られた(各群n>5,P<0.001)。SKI−606もマウス及びラットで永続的閉塞後に投与した場合に梗塞サイズの有意減少を生じた。この応答の動力学を評価するために、閉塞後各種時点でAGL1872を投与した。最大効果(梗塞サイズの50%減少)は閉塞から45分後の投与に達成されたが、6時間後に投与した場合にも25%の保護が得られた(各群n=5,P<0.05)。
【0083】
心エコーによると、Src阻害は4週間にわたって未投与ラットに比較して短縮率と拡張期左室(LV)径の有意維持をもたらすことが判明し、救済組織における収縮機能が長期間維持されることを示した。Src阻害は収縮期LV径と局所壁運動にも好ましい効果があった(表1)。SKI−606 Src阻害剤を投与した場合にも短縮率と局所壁運動スコアに好ましい効果があった(各群n=7,P<0.01)。MI後の生存率を評価するために、LAD結紮後の顕著な死亡率(>40%)を特徴とするモデルとして2年齢C57ブラックマウスを使用した。MIから45分後にAGL1872(1.5mg/kg)を投与すると、生存率は最初の4週間以内に対照よりも増加し(58.3%に対して91.7%,各群n=12)、Src阻害の長期治療効果が実証された。
【0084】
【表1】
【0085】
梗塞後には慢性心筋線維症が発生し、MI後の組織壊死の程度を直接反映する。ラットでMIから4週間後の線維症に及ぼすSrc阻害の効果を評価するために、弾性トリクロム染色を使用して線維組織の組織病理分析を実施した。Src阻害は対照に比較してLV線維組織の52%減少を生じた(40.0±3.0%に対して19.1±2.2%,各群n=4,P<0.01)。これに一致して、Src阻害剤を投与したサンプルには心筋繊維とLV構造の良好な保存が観察され、Src阻害はMI後の心筋に長期保護効果をもつことが判明した。
【0086】
一過性虚血後のSrc阻害の有効性を立証するために、ラットを閉塞後に再潅流した後、24時間後の心室機能と梗塞サイズを評価した。AGL1872によるSrc阻害は対照に比較して左室(LV)短縮率と共に梗塞サイズの減少を維持した(各群n=4,P<0.05)。虚血−再潅流後の梗塞サイズの18%減少は低酸素刺激により誘導されるVEGF発現が維持される間の永続的閉塞後の50%減少に匹敵する。更に、SKI−606(5mg/kg)は虚血−再潅流モデルで梗塞サイズの43%減少を生じた(各群n=5,P<0.01)。総合すると、このデータは一過性虚血後のSrc阻害の有益な効果を実証するものである。
【実施例4】
【0087】
梗塞周囲ゾーンにおける血管完全性と筋細胞生存能に対するMIの効果
VEGF発現は主に梗塞周囲ゾーンで増加するので、Src阻害がこの領域の小血管に及ぼす超微細構造効果をMIから3〜24時間後に試験した。表2は透過型電子顕微鏡を使用して各群250本の血管を試験した観察結果の要約である。正常心筋組織とは対照的に梗塞組織では梗塞周囲ゾーンの多数の損傷例が観察された。間質には明らかに近傍血管から漏出したと思われる遊出血球(RBC、血小板、及び好中球)が存在していた。内皮細胞(EC)が膨潤し、血管内腔の一部を閉塞している場合もあり、多くは電子が光り、多数の小窩を含んでいた。内皮細胞には大きな円形液胞があり、多くはEC厚みの数倍であった。筋細胞傷害はMI後の時間と共に増加し、隣接細胞間で異なり、ミトコンドリア破壊、ミトコンドリアクリスタ障害、細胞内浮腫、及び筋フィラメント分解として識別可能であった。最も損傷度の高い筋細胞は多くが傷害血管又は遊離血球に隣接していた。傷害への急性応答に関与し、VEGF産生に寄与すると思われる好中球はMIから24時間後に観察されることが多かった。
【0088】
【表2】
【0089】
各群について左室組織を透過型電子顕微鏡で4時間(微小血管約250本)試験し、観察結果を計数し、以下の群に分類した。
(a)ECバリアー機能障害:ギャップ、開窓、遊出血球;
(b)血小板活性化/接着:血小板、脱顆粒血小板、血小板クラスター、血小板のECM接着;
(c)EC傷害:電子が光るEC、膨潤EC、大きなEC液胞、閉塞血管内腔;及び
(d)心臓損傷:ミトコンドリア膨潤、クリスタ変性、筋フィラメント分解。
【0090】
MIから3時間後に隣接EG間にギャップが高頻度で観察され、周囲間質スペースへの血球の遊出を説明することができた。驚くべきことに、ギャップの多くは血小板で塞がれていた。血小板がEC間に露出した基底膜に接触している場合もあったが、基底膜が破壊しているように見える場合もあった。血小板が脱顆粒し、循環血小板の更なる活性化、接着、及び凝集を増強する可能性のある場合もあった。これらの血小板プラグはそれ以上の血管漏出を防いでいる可能性もあるが、微小血栓形成により小血管の潅流低下という負の効果があり、更に虚血関連組織疾患を誘発する恐れがある。
【実施例5】
【0091】
MIと全身VEGF注射は同様の血管応答を生じる。
【0092】
複合疾患又はMIに及ぼすVEGFの効果を調べるために、VEGFを正常マウスに静脈内注射し、30分後に心臓組織を超微細構造レベルで評価した。驚くべきことに、VEGFにより誘導される内皮細胞バリアー機能障害と血管傷害の程度はMI後の梗塞周囲ゾーンで観察されるのと同等であった(表2)。EC基底膜への著しい血小板接着が筋細胞損傷と同様に観察された。全身VEGF注射後にも同様の脳損傷が認められ、これらの効果が全身性であることが示唆された。これらの結果はVEGFにより媒介されるVPがMI後の血管効果の多くと類似していることを示す。
【0093】
VEGFがMIに関連する長期疾患を媒介するに十分であるか否かを試験するために、マウスにVEGFを2時間にわたって4回注射した。この処置によりMIから24時間後に観察されると同様の損傷が生じた。血小板接着、好中球、及び有意筋細胞損傷が認められ、更に多数のECは電子が光り、その多くは膨潤し、血管内腔を閉塞していた。以上をまとめると、MIから3時間後に観察されると同様の超微細構造を誘導するためにはVEGFに30分間暴露すれば十分であり、この時間までにVEGF発現は梗塞周囲ゾーンで有意に増加した。更に長時間VEGF暴露すると、MIから24時間後に組織に観察されると同様の血管リモデリングが誘発された。
【0094】
Src欠損マウスがMI後に保護され、局所VEGF注射後に皮膚と脳にVPを欠損していたという事実は、Src欠損マウスを、心臓においてVEGFが誘導したVPから免れさせたことを示唆している。Src阻害剤結果と一致して、野生型マウスにおけるギャップ、血小板活性、EC障害、及び遊出血球と比較して、pp60Src−/−マウス(表2)ではVEGF注射後の血管応答の徴候は認められなかった。応答の完全な阻止はVEGFにより媒介されるSrc活性が虚血疾患中にVPにより誘導される傷害をもたらすカスケードを開始することを示唆している。
【0095】
考察
マウスにVE−カドヘリン抗体を全身投与すると、VEGF投与後に観察される損傷と超微細構造レベルで類似すると思われる、心臓及び肺のVP、間質浮腫、及び暴露した基底膜の病巣を生じた。マウス胚では、β−カテニン−ヌル血管は頻繁な出血に関連する平板な有窓内皮細胞を含む。従来のin vitro試験によると、VEGFはVE−カドヘリン機能の調節に関与するとされている。流動条件下のECでは、VE−カドヘリンはFlkと複合体を形成する。VE−カドヘリン−VEGF複合体をin vivo評価するために、VEGFを注射したマウスと注射しないマウスから心臓溶解液を調製した。これらの溶解液を抗Flkで免疫沈降後にVE−カドヘリンとβ−カテニンについてイムノブロットした。対照マウスでは、血管中にFlk、β−カテニン及びVE−カドヘリンの既存複合体が観察された。この複合体はVEGF刺激後2〜5分以内に迅速に破壊され、in vivo血管内で15分までに再会合した。複合体の解離時間はFlk、β−カテニン、及びVE−カドヘリンリン酸化とVE−カドヘリンからのβ−カテニンの解離と全く同様であった。Flk−カドヘリン−カテニンシグナリング複合体は無傷のままであり、Src阻害剤を予め投与したVEGF刺激マウスではβ−カテニンとVE−カドヘリンのリン酸化は生じなかったので、これらのVEGFにより媒介されるイベントはSrc依存的であった。これらのイベントは血管透過性を促進しない類似血管新生増殖因子である塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)の注射後には観察されなかった。
【0096】
VEGFの単回注射により可逆的で迅速な一過性シグナリング応答が生じ、15分以内に基線に戻ったが、(30分間隔で)4回VEGF注射すると、長期シグナリング応答を生じた。例えば、長期VEGF暴露後にFlk−カテニン解離とErkリン酸化は維持された。MI後の生理的状況では低酸素症によりVEGF発現が増加し、数日間発現が続くが、このような状況にもこのモデルを適用することができる。
【0097】
Srcは急性MI又は全身VEGF投与後にVPで生理的及び分子的役割を果たす。MI後の不良転帰の一因は明らかに梗塞ゾーンの周囲の潅流心臓微細血管の透過性亢進である。これらの血管はVEGFによる悪影響を受け、Src依存的にVPが増加する結果、血管閉塞又は崩壊を招き、最終的に周囲筋細胞の損傷に至る。これは再潅流中の血管開口にも拘わらず、MI後に報告されている不良な組織潅流の持続及び高い死亡率と一致する。MIから6時間後のSrc阻害でもVEGFにより誘導されるVPに対して有意保護が得られ、臨床条件下でこのアプローチが適切であることを示している。MI後のSrc阻害剤の投与は内皮バリアー機能を維持するFlk−カドヘリン−カテニン複合体の解離を防止することによりVPを制限すると思われる。
【0098】
超微細構造データによると、MI後のVEGFの初期効果は内皮細胞接合部の開口により内皮細胞基底膜を露出することを含むと思われる。血小板の多くは脱顆粒、活性化され、これらの部位と接着している。血小板はVEGFを含み、血小板活性化により局所的に放出されるとVP応答を増加することができるのでこの点は重要である。実際に、Src阻害の有益な効果の一部は血小板活性化に対するその効果に起因する可能性がある。本データから明らかなように、MI後の初期イベントは浮腫蓄積、組織損傷とそれに伴う線維症及び心臓組織のリモデリングに至るカスケードを開始する。リモデリングした線維状心臓組織は正常心臓組織よりも機能的に劣る点を留意すべきである。従って、傷害の影響を早期に制限することにより、心臓組織をリモデリングする必要を減らすことにより長期効果を期待することができる。単一冠動脈の遮断が梗塞ゾーンの増殖、線維症及び場合によっては死に至る急性傷害を促進するので、このプロセスへの有効な早期介入は長期保護及び効果をもたらすと考えられる。
【0099】
本データによると、Src阻害剤はこのような役割を十分に果たすと考えられる。Src阻害はFlk−カドヘリン−カテニン複合体を維持し、内皮細胞接合部をVEGFの透過性促進効果を受けにくくする。
【0100】
驚くべきことに、VEGFを全身注射すると、MI後に認められる心臓血管への超微細構造効果の多くを生じた。内皮細胞バリアー機能障害及び血管損傷をin vivoで誘導するにはVEGF単独で十分であった。同様に、SrcをSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤で遮断することを含む本発明の方法はMI後のこれらのイベントを抑制するのみならず、全身VEGF注射後にも抑制した。Src阻害はVEGF刺激にも拘わらずFlk−カドヘリン−カテニン複合体を安定化した。VEGFにより誘導されるVPの他の要因としては、小窩又は小胞−液胞オルガネラ(VVOs)及び有窓が挙げられる。pp60Src−/−マウスはVEGF注射後に透過性の徴候を示さなかったので、これらの透過性形態もSrc依存的であると考えられた。あるいは、内皮細胞ギャップ、遊出血球、及び露出基底膜も有窓及びVVOsを誘導すると考えられる。
【0101】
VEGFは種々の因子(サイトカイン、癌遺伝子、低酸素症)に応答してin vivo発現され、透過性及び血管新生に加え、内皮細胞増殖、遊走及びアポトーシスからの保護を誘導するように作用する。腫瘍は血流中に検出可能な多量のVEGFを産生する。実際に、腫瘍内又は近傍の血管はVEGF注射後に本試験で観察される特徴の多く(例えば有窓性内皮細胞、内皮細胞間接合部の開口、及び融合小窩クラスター)をもつ。種々の癌患者における血清VEGF値は100〜3000pg/mlであるが、局所細胞又は組織VEGF値は10〜100倍となる。MI後の患者では、血清VEGF値は100〜400pg/mlであると報告されており、急性MI患者のほうが安定狭心症よりも高い。所定の原発性及び転移性腫瘍では、梗塞周囲領域における局所VEGF値は血清値を優に上回る。循環系におけるVEGF蓄積の増加は血小板を吸引して血流低下をもたらすVP応答を誘発するので、本データは所定癌患者で血栓性疾患が増加するという知見を説明することができる。更に、最近報告された所見から末期癌に関連する胸水と一般的な浮腫を説明することができる。Srcの阻害は癌関連浮腫性疾患にも顕著な効果があると考えられる。
【0102】
AGL1872はSrcファミリーチロシンキナーゼを阻害するだけでなく種々の他のキナーゼも破壊するが、SKI−606はSrcとYesにより選択性が高いと報告されている。これらの阻害剤はいずれもSrc欠損マウスで認められる効果とよく似た同様の生物活性パターンを示した。薬理的Src阻害剤を野生型動物に投与すると、組織傷害、生化学及び心臓血管の超微細構造にノックアウトマウスで認められると同一の効果を生じたという事実は、効果が主にECにより媒介される漏出に起因し、これらの動物の遺伝的素因に関連しないことを示唆している。VEGFにより媒介されるVP応答と、脳の虚血性傷害後の梗塞組織の増殖にはSrcとYesが必須であるが、Fynは必須ではない。以上をまとめると、このデータはMI後のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤投与の有益な効果が実際にSrcキナーゼ阻害の機能であり、関与している可能性が最も高いSrcキナーゼはpp60Srcとpp62Yesであることを意味している。
【0103】
MI又は直接VEGF注射後に本質的に同一の超微細構造変化が観察された。VEGFが主に内皮細胞に作用し、他の細胞種には作用しないという事実はScrがECの内部で阻止されたことが超微細構造所見となったことを説明している。更に、観察された変化の大半はEC細胞−細胞接触と血管完全性の変化に直接関係があり、このような変化はSrcノックアウト動物やSrc阻害剤を投与した野生型動物には全く認められなかった。重要な点として、VPにおけるSrcの役割はVE−カドヘリンとβ−カテニンをリン酸化し、これらの接合蛋白質とVEGF受容体であるFlkとの複合体の解離を促進できる点にあると考えられる。
【0104】
Srcファミリーチロシンキナーゼ作用の標的阻害は傷害からの回復に有益でありうる他のVEGFにより誘導される応答に長期効果を与えずにVPに阻害を集中するので、本発明の方法はVPにより誘導される組織損傷、特に心筋梗塞に起因する組織損傷の特異的改善に特に適切である。
【0105】
SrcはVEGFにより媒介される血管透過性に作用することにより組織損傷を調節すると思われ、従って、心筋虚血の病態生理における新規治療ターゲットである。Srcファミリーチロシンキナーゼの急性薬理阻害により冠動脈閉塞後の心筋損傷の程度を有意に低下させることができる。
【0106】
比較的小分子の合成化学的阻害剤の使用は一般に比較的大型の蛋白質を使用するよりも安全で監理し易い。従って、このような阻害剤は治療活性剤として好ましい。
【0107】
以上の記載に基づいて当業者は本発明を実施することができる。実際に、本明細書に教示及び記載したもの以外の本発明の種々の変形が上記記載から当業者に自明であり、特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1−1】Braeuningerら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:10411−10415(1991)により最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。この配列はGenBankアクセション番号X59932 X71157で入手可能である。この配列は2187ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置134〜1486位である。
【図1−2】Braeuningerら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:10411−10415(1991)により最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。この配列はGenBankアクセション番号X59932 X71157で入手可能である。この配列は2187ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置134〜1486位である。
【図1−3】Braeuningerら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:10411−10415(1991)により最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。この配列はGenBankアクセション番号X59932 X71157で入手可能である。この配列は2187ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置134〜1486位である。
【図2】図1に示すコーディング配列によりコードされるヒトc−Srcのアミノ酸残基配列(配列番号2)である。
【図3−1】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−2】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−3】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−4】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図4−1】c−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図4−2】c−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図5】Src、Fyn及びYesを欠損するマウスの皮膚におけるVEGFのVPに関する改変Milesアッセイの結果を示す。図5Aは治療後の耳の写真である。図5Bは各種欠損マウスの刺激の実験結果のグラフである。図5Cは投与後の組織により溶出されたエバンスブルー色素の量のプロットである。
【図6】Src+/−、Src−/−、野生型(WET)、及びAGL1872(即ち4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン)を投与した野生型マウスにおける脳梗塞の相対サイズを示すグラフである。用量は1.5mg/kg体重とした。
【図7】対照とAGL1872を投与したマウス脳の連続MRIスキャンを示し、AGL1872を投与した動物(右)は対照動物(左)よりも脳梗塞が少ないことを示す。
【図8】本発明の好ましいピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の構造を示す。
【図9】本発明の好ましい大環状ジエノンSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の構造を示す。
【図10】本発明の好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の構造を示す。
【図11】心筋梗塞を誘導するように外傷を与えた生体染色ラット心臓組織の顕微鏡写真を示し、右側の写真は対照であり、有意レベルの壊死を示し、左側の写真は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(AGL1872)を投与した組織であり、壊死レベルの劇的な低下を示す。
【図12】阻害剤(AGL1872)濃度の関数として心筋梗塞のサイズを示す棒グラフである。
【図13】阻害剤(AGL1872)投与後の時間の関数として心筋梗塞のサイズを示す棒グラフである。
【図14】阻害剤(AGL1872)濃度の関数として心筋含水量を示す棒グラフである。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般には医薬分野に関し、特に哺乳動物の心筋梗塞の治療方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管傷害、疾患又は他の外傷による血管透過性は組織損傷に関連する血管漏出及び浮腫の主要原因である。例えば、脳血管障害(CVA)又は脳もしくは脊髄組織の他の血管傷害に関連する脳血管疾患は神経障害の最も一般的な原因であり、身体障害の主要原因である。典型的に、CVAの領域における脳又は脊髄組織の損傷は血管漏出及び/又は浮腫を伴う。典型的に、CVAは正常な脳血流の遮断である脳虚血;一過性血流障害に起因する脳機能不全;頭蓋内又は頭蓋外動脈の塞栓又は血栓に起因する梗塞;出血;及び動静脈奇形に起因する傷害を伴うことがある。虚血性脳卒中及び脳出血は突然発生し、発生の影響は一般に損傷した脳の領域を反映する(The Merck Manual,16th ed.Chp.123,1992参照)。
【0003】
CVA以外に中枢神経系(CNS)感染又は疾患も脳及び脊柱の血管を冒すことがあり、例えば細菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎、及び脳膿瘍形成のように炎症と浮腫を伴うことがある(The Merck Manual,16th ed.Chp.125,1992参照)。全身疾患の症状は、更に血管を弱化したり、血管漏出及び浮腫を生じることがある(例えば糖尿病、腎臓病、アテローム性硬化症、心筋梗塞等)。従って、血管漏出及び浮腫は癌とは別個独立の重大な症状であり、種々の傷害、外傷又は疾患状態に関連して有効な特定治療介入を必要とする。
【0004】
心筋梗塞は心筋への血液供給の閉塞による心臓組織の死滅である。心筋梗塞は西側諸国で入院患者の最も一般的な診断の1種である。米国では年間約110万人が急性心筋梗塞と診断されていると報告されている。心筋梗塞の死亡率は53%を上回り、生き延びた患者の66%が完全に回復することができない。死亡率が僅か1%低下するだけで年間3400人もの生命を救うことができる。心筋梗塞と付随する浮腫は一般に冠動脈が閉塞して動脈閉塞により心臓組織への酸素供給が遮断されるときに生じる。血液供給が遮断されると、閉塞した動脈により正常に血液を供給される組織は虚血状態になる。最終的に酸素が欠乏した心臓組織は死滅する(壊死)。Honkanenらは米国特許第5,914,242に心臓虚血の発症後に患者に所定のセリン/スレオニンホスファターゼ酵素阻害剤及び関連ポリペプチドを投与することを含む心筋梗塞の緩和方法を記載している。このような酵素とポリペプチドは高価であり、医薬用に製造及び精製するのは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らはSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害が一般に冠動脈血管構造の閉塞に起因する浮腫とその結果として生じる冠動脈組織の壊死を減少させ、それによって心筋梗塞の組織損傷作用を緩和することにより心筋梗塞の治療に有用な方法を提供することを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害による心筋梗塞(MI)の治療方法に関する。本方法は有効量のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与して、冠動脈血管閉塞した哺乳動物の冠動脈組織を治療することを含む。哺乳動物はヒト患者でもよいし、非ヒト哺乳動物でもよい。治療する冠動脈組織は冠動脈血管閉塞による虚血(即ち血流低下)状態の心臓の任意部分とすることができる。治療処置は化学的(即ち非ペフチド)Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含む有効量の所望の医薬組成物とターゲット冠動脈組織を接触させることにより実施される。有害な血管閉塞が発生中であるか又は発生した領域に近い領域の疾患冠動脈組織の治療に有用である。方法は一般に冠動脈血管閉塞に起因する組織壊死(梗塞)を減少させる。
【0007】
本発明の別の側面は包装材料と包装材料内に収容された医薬組成物を含む製品であり、医薬組成物は冠動脈血管閉塞による血流低下状態の冠動脈組織の壊死を減少させることができる。包装材料は医薬組成物を心筋梗塞の治療に使用できること及び、医薬組成物は医薬的に許容可能なキャリヤー中に治療有効量のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含有することを示すラベルを含む。
【0008】
本発明の目的に適したSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤としては4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1872)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1879)等のピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;ラディシコールR2146、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA等の大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;PD173955等のピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;SKI−606等の4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;及びその混合物が挙げられる。
【0009】
本発明の方法は心筋梗塞の治療に有用である。特に、本発明の方法は心臓病、傷害又は外傷による冠動脈血管閉塞に起因する心臓組織壊死の改善に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
A.定義
本明細書で使用する「アミノ酸残基」なる用語はポリペプチドがそのペプチド結合部位で化学的に消化(加水分解)されて形成されるアミノ酸を意味する。本明細書に記載するアミノ酸残基は「L」異性形が好ましい。しかし、所望機能特性がポリペプチドにより維持される限り、任意L−アミノ酸残基を「D」異性形に置換してもよい。NH2とはポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を意味する。COOHとは(J Biol. Chem.,243:3552−59(1969)に記載され、37 CFR §1.822(b)(2)で認可された)標準ポリペプチド命名法に従ってポリペプチドのカルボキシル末端に存在する遊離カルボキシル基を意味する。
【0011】
なお、本明細書では慣用方法に従って左から右に向かってアミノ末端(N末端)からカルボキシル末端(C末端)に向かう方向で全アミノ酸残基配列を示す。更に、アミノ酸残基配列の始点と終点のダッシュは1個以上のアミノ酸残基のさらなる配列とのペプチド結合を示す。
【0012】
本明細書で使用する「ポリペプチド」なる用語は近接したアミノ酸残基のα−アミノ基とカルボキシル基の間のペプチド結合により相互に結合したアミノ酸残基の直鎖系列を意味する。
【0013】
本明細書で使用する「ペプチド」なる用語はポリペプチドのように相互に結合した約50アミノ酸残基以下の直鎖系列を意味する。
【0014】
本明細書で使用する「蛋白質」なる用語はポリペプチドのように相互に結合した50アミノ酸残基を上回る直鎖系列を意味する。
【0015】
B.一般事項
本発明は一般に(1)VEGFにより誘導される血管透過性(VP)がSrcやYes等のチロシンキナーゼ蛋白質により特異的に媒介され、Srcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害によりVPを調節できるという発見;及び(2)Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤をin vivo投与すると、疾患又は傷害に関連する血管浸透性の増加に起因する組織損傷が減少するという発見に関する。
【0016】
この発見は血管透過性が各種疾患プロセスに果たす役割により重要である。本発明はSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の阻害により血管透過性を特異的に調節し、改善することができるという発見に関する。特に、本発明はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤をin vivo投与すると、癌又は形成新生に関連しない疾患又は傷害に関連する血管透過性の増加に起因する組織損傷が減少するという発見に関する。
【0017】
血管透過性は血管の外傷による急激なVP増加により組織損傷が生じる種々の疾患プロセスに関与している。従って、VPを特異的に調節できるならば、脳卒中の有害な作用を減らすために有効な新規治療が可能になる。
【0018】
Srcファミリーキナーゼ阻害剤を使用する特異的阻害調節が有効である疾患又は傷害により誘導される血管漏出及び/又は浮腫に関連する組織の例としてはリウマチ様関節炎、糖尿病性網膜症、炎症性疾患、再狭窄、脳卒中、心筋梗塞等が挙げられる。
【0019】
VEGF受容体IgG融合蛋白質を使用してVEGF蛋白質を全身中和すると、脳虚血後の梗塞サイズが減少することが報告されている。この効果はVEGFにより媒介される血管透過性の低下に起因すると考えられている。N.van Bruggenら,J.Clin.Inves.104:1613−1620(1999)。しかし、VEGFではなく、Srcが血管透過性増加の重要なメディエーターであることが分かった。更に、SrcはVEGF以外の刺激により活性化されることができる。例えば、Erpelら.,Cell Biology,7:176−182(1995)参照。
【0020】
本発明は特に、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、特にSrcの阻害剤が冠動脈血管閉塞による哺乳動物の冠動脈組織損傷を改善することにより心筋梗塞を治療するために有用であるという発見に関する。
【0021】
C.Srcファミリーチロシンキナーゼ蛋白質
本明細書と、クレームで使用する「Srcファミリーチロシンキナーゼ蛋白質」なる用語とその文法的変形は特にv−Src、N末端ミリストイル化に相同なアミノ酸配列をもち、N末端可変領域に続いてSH3ドメイン、SH2ドメイン、チロシンキナーゼ触媒ドメイン及びC末端調節ドメインをもつ保存ドメイン構造をもつ蛋白質を意味する。「Src蛋白質」及び「Src」なる用語は60kDa分子量と、2個のPKCリン酸化部位と1個のPKAリン酸化部位を含むN末端可変領域と、他のSrcファミリーサブグループの公知メンバー(例えばYes,Fyn,Lck,及びLyn)よりも公知Src蛋白質に比較的高い総アミノ酸配列一致度をもち、配列番号2の416位のチロシンに等価のチロシンのリン酸化により活性化される各種形態のチロシンキナーゼSrc蛋白質の総称として使用される。「Yes蛋白質」及び「Yes」なる用語は62kDa分子量と、リン酸化部位を全くもたないN末端可変領域と、他のSrcファミリーサブグループの公知メンバー(例えば、Src,Fyn,Lck,及びLyn)よりも公知Yes蛋白質に比較的高い総アミノ酸配列一致度をもち、配列番号4の426位のチロシンに等価のチロシンのリン酸化により活性化される各種形態のチロシンキナーゼYes蛋白質の総称として使用される。
【0022】
冠動脈虚血を測定するために好適なアッセイは下記に詳細に記載するように冠動脈結紮によりラットに虚血を誘導し、心筋梗塞のサイズをMRI、心エコー等の技術により経時的に測定することを含む。
【0023】
D.心筋梗塞の治療及び予防方法
本発明の方法は少なくとも1種の化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物と虚血性冠動脈組織を接触させることを含む。
【0024】
本発明の目的に適したSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤としては、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及び4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤等の化学的Src阻害剤が挙げられる。
【0025】
好ましいピラゾロピリミジンクラスの阻害剤としては、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP1又はAGL1872と言う場合もある)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP2又はAGL1879と言う場合もある)等が挙げられ、製造の詳細についてはWaltenbergerら,Circ.Res.,85:12−22(1999)に記載されており、その関連開示内容を参考資料として本明細書に組込む。AGL1872とAGL1879の化学構造を図8に示す。AGL1872(PP1)はPfizer,Inc.からのライセンスに基づきBiomolから入手可能である。AGL1879(PP2)はPfizer,Inc.からのライセンスに基づきCalbiochemから入手可能である(Hankeら,J.Biol.Chem.271(2):695−701(1996)も参照)。
【0026】
好ましい大環状ジエノン阻害剤としては、例えばラディシコールR2146、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA等が挙げられる。ラディシコールR2146、ゲルダナマイシン及びハービマイシンAの構造を図9に示す。ゲルダナマイシンはLife Technologiesから入手可能である。ハービマイシンAはSigmaから入手可能である。ラディシコールは各社(例えばCalbiochem,RBI,Sigma)から市販されており、非特異的蛋白質チロシンキナーゼ阻害剤としても作用する抗真菌大環状ラクトン抗生物質であり、Srcキナーゼ活性を阻害することが分かった。大環状ジエノン阻害剤はα,β,γ,δ−ビス−不飽和ケトン(即ちジエノン)部分と酸素化アリール部分を大環状環の一部として含む12〜20炭素の大環状ラクタム又はラクトン環構造を含む。
【0027】
好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラス阻害剤としては例えばPD173955等が挙げられる。Parke Davisにより開発された阻害剤であるPD173955の構造はMoasserら,Cancer Res.,59:6145−6152(1999)に開示されており、その関連開示内容を参考資料として本明細書に組込む。PD172955の化学構造を図10に示す。
【0028】
好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラス阻害剤としては例えばWyethから入手可能であるSKI−606が挙げられる。4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrc阻害剤の例は米国特許公開第2001/0051520号及び2002/00260052号に開示されており、その関連開示内容を参考資料として本明細書に組込む。
【0029】
本発明の方法及び組成物で有用な他の特定Srcキナーゼ阻害剤としてはParke Davisにより開発されたPD162531(Owensら,Mol.Biol.Cell 11:51−64(2000))が挙げられるが、その構造は文献に記載されていない。
【0030】
化学的阻害剤としてはピラゾロピリミジン阻害剤が好ましく、AGL1872とAGL1879がより好ましく、AGL1872が最も好ましい化学的阻害剤である。別の好ましいSrc阻害剤は4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606としても知られる)である。
【0031】
他の適切なSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤も当業者に公知の標準アッセイを使用して同定及び特性決定することができる。例えば、Src又は他のチロシンキナーゼの強力な選択的阻害剤に関する化合物のスクリーニングは実施されており、その結果、Srcファミリーチロシンキナーゼの強力な阻害剤で有用な化学的部分が同定されている。
【0032】
例えば、天然物質に由来する多数のチロシンキナーゼ阻害剤の重要な結合エレメントとしてカテコールが同定され、c−Srcの選択的阻害剤の組み合わせターゲット選択により選択された化合物の中に発見されている。Malyら“Combinatorial target−guided ligand assembly:Identification of potent subtype−selective c−Src inhibitors”PNAS(USA)97(6):2419−2424(2000)参照。Src阻害に重要であることが分かっている部分を出発点として使用して候補阻害剤化合物をコンビナトリアル化学に基づいてスクリーニングすることは、Srcファミリーチロシンキナーゼの他の化学的阻害剤を単離及び特性決定するために強力且つ有効な手段である。
【0033】
しかし、ポリペプチドと核酸に存在する広範な官能基の摸倣の可能性に基づいて潜在的結合エレメントを注意深く選択することは、活性阻害剤のコンビナトリアルスクリーニングを実施するすることに使用できる。例えば、O−メチルヒドロキシルアミンと多数の市販アルデヒドのいずれかとの縮合によりライブラリーが容易に作製されるならば、O−メチルオキシムライブラリーがこの作業に特に適している。O−アルキルオキシム形成は生理的pHで安定な広範な官能基と適合可能である。Malyら,前出参照。
【0034】
当然のことながら本発明の原理は本方法が非ヒト哺乳動物についても有効であるが、本発明の態様である方法により治療することができる哺乳動物はヒトが望ましい。この点で、哺乳動物とは組織損傷に関連する血管漏出又は浮腫の治療が望ましい任意の哺乳動物種、農業用及び家庭哺乳動物種、並びにヒトを含むと理解すべきである。
【0035】
好ましい治療方法は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、特に化学的(即ち非ペプチド)Src阻害剤を含有する治療有効量の生理的に許容可能な組成物を心筋梗塞の哺乳動物に投与することを含む。
【0036】
心筋梗塞の好ましい予防方法は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、特に化学的(即ち非ペプチド)Src阻害剤を含有する予防量の生理的に許容可能な組成物を心筋梗塞の危険のある哺乳動物に投与することを含む。
【0037】
AGL1872やSKI−606等の化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の投与用量範囲は約0.1mg/kg体重〜約100mg/kg体重、又は活性剤の医薬キャリヤー溶解限界までとすることができる。好ましい用量は約1.5mg/kg体重である。本発明の態様である医薬組成物は経口投与することもできる。具体的経口投与剤形としてはカプセル、タブレット等とすることができ、腸溶コーティングを付けても付けなくてもよい。
【0038】
急性傷害又は外傷の場合には、事故の発生後できるだけ早く治療薬を投与することが最善である。しかし、Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の有効投与時間は急性事故の場合には傷害又は外傷の発生から約48時間以内とすることができる。発生から約24時間以内に投与することが好ましく、6時間以内がより好ましい。Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を傷害から約45分以内に患者に投与することが最も好ましい。初期傷害から48時間後に投与しても後続血管漏出又は浮腫による後続組織損傷を改善するのに適していると思われるが、このような場合には初期組織損傷に対する有益な効果は減ると思われる。
【0039】
外科手術に関連する心筋梗塞を予防するため、又は診断基準の素因をもつ場合に予防投与する際には、いかなる急性冠動脈血管閉塞の前、又は例えば冠動脈血管形成等の経皮的心臓血管介入のような閉塞の原因となるイベント中に投与することができる。冠動脈血管閉塞の原因となる慢性症状の治療には、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を連続投与レジメンで投与することができる。一般に、用量は年齢、症状、性別及び患者の被った傷害の程度により変えることができ、当業者が決定することができる。用量は合併症の場合には個々の主治医が調節することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物は、好ましくは注射又は逐次輸液により経時的に非経口投与される。治療する組織は典型的に全身投与により体内に供給することができるので、治療組成物の静脈内投与により治療することが最も多いが、標的組織が標的分子を含む可能性がある場合には他の組織及び送達手段も考えられる。従って、本発明の組成物は静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、経皮、経口投与することができ、蠕動手段により投与することもできる。
【0041】
静脈内投与は例えば単位用量の注射により実施される。本発明の治療組成物に関して使用する場合に「単位用量」なる用語は必要な希釈剤、即ちキャリヤー又はビークルと共に所望治療効果を生じるように計算された所定量の活性材料を各々含有する単位であり、患者への単位用量として適した物理的に分離した単位を意味する。
【0042】
1好適態様では、一回用量で活性剤を静脈内投与する。局所投与は直接注射又は解剖学的に分離された区画、標的臓器系の微量循環、循環系の再潅流、又は疾患組織に関連する血管構造の標的領域のカテーテルによる一時的閉塞を分離することにより実施することができる。
【0043】
医薬組成物は投与製剤に適合可能な方法で治療有効量を投与する。本明細書と特許請求の範囲で医薬組成物に関して使用する「治療有効量」及び「予防量」なる用語は臨床医が望む患者の生物学的又は医学的応答(例えば、組織損傷の改善又は心筋梗塞の予防)を誘発する医薬組成物の量を意味する。
【0044】
投与量と時機は治療する対象、患者の系が活性成分を利用する能力、及び所望される治療効果の程度により異なる。活性成分の厳密な投与量は医師の判断により異なり、各個体に固有である。しかし、全身投与に適した用量範囲は本明細書に開示する通りであり、投与経路による異なる。適切な投与レジメンも多様であるが、典型的には、初期投与後に後続注射又は他の投与(例えば経口投与)により1時間以上の間隔で連続投与する。あるいは、in vivo治療に特定される範囲の血中濃度を維持するために十分な連続静脈内輸液も考えられる。
【0045】
各種形態の冠動脈疾患に関連する冠動脈血管閉塞又は心臓の傷害もしくは外傷に起因する組織損傷を改善する本発明の方法は疾患の症状を改善し、疾患によっては疾患の治癒に寄与することができる。組織における壊死の程度、従って本発明により達成される阻害の程度は種々の方法により評価することができる。特に、本発明の方法は心筋梗塞の治療に特に適している。
【0046】
冠動脈血管閉塞に起因する組織損傷の改善は治療組成物の投与後短時間に得ることができる。急性の傷害又は外傷の場合には、殆どの治療効果は投与から24時間以内に目視確認することができる。他方、慢性治療効果は容易には現れない。
【0047】
律速因子としては組織吸収速度、細胞内取込み、(治療に応じて)蛋白質転位又は核酸翻訳及び蛋白質ターゲティングが挙げられる。従って、組織損傷の調整効果は阻害剤の投与から1時間ほどの短時間で得ることができる。心臓組織は適正な条件を使用してSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤と追加又は延長接触させることができる。従って、このようなパラメーターを調節することにより種々の所望治療時間枠を設計することができる。
【0048】
E.治療用組成物
本明細書に記載するSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤は心筋梗塞の治療用医薬を製造するために使用することができる。阻害剤は本明細書に記載する治療又は予防方法を実施するために有用な医薬組成物に配合することができる。本発明の医薬組成物は本明細書に記載する化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を活性成分として生理的に許容可能なキャリヤーに溶解又は分散することができる。1好適態様では、治療目的でヒト等の哺乳動物患者に投与する場合には医薬組成物は非免疫原性である。
【0049】
組成物、キャリヤー、希釈剤及び試薬に関して本明細書で使用する「医薬的に許容可能」、「生理的に許容可能」なる用語とその文法的変形は同義に使用し、悪心、めまい、胃の異常等の望ましくない生理的作用を生じることなく哺乳動物に材料を投与できることを意味する。
【0050】
溶解又は分散された活性成分を含む医薬組成物の製造は当業者に周知であり、製剤により限定する必要はない。典型的に、このような組成物は液体溶液又は懸濁液形態の注射液として製造される。使用前に液体に溶解又は懸濁するのに適した固体形態を製造することもできる。製剤は乳化してもよいし、リポソーム組成物としてもよい。
【0051】
活性成分は医薬的に許容可能で活性成分と適合可能な賦形剤と、本明細書に記載する治療方法で使用するのに適した量を混合することができる。適切な賦形剤は例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等及びその組み合わせである。更に、所望により、活性成分の効果を増す量の湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤等の助剤を組成物に添加することができる。
【0052】
本発明の治療用組成物は活性成分の医薬的に許容可能な塩を含むことができる。医薬的に許容可能な塩としては、例えば塩酸やリン酸等の無機酸又は酢酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸等と共に形成される(ポリペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)酸付加塩を含む。遊離カルボキシル基と共に形成される塩も例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは水酸化第二鉄等の無機塩基又はイソプルピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等の有機塩基から誘導することができる。
【0053】
生理的に許容可能なキャリヤーも当業者に周知である。液体キャリヤーの例は活性成分と水以外の材料を含まない滅菌水溶液か、又は生理的pH値のリン酸ナトリウム、生理的食塩水もしくは両者を含有する緩衝液(例えばリン酸緩衝食塩水)を含む滅菌水溶液である。更に、水性キャリヤーは2種以上の緩衝液塩や、塩化ナトリウム、塩化カリウム、デキストロース、ポリエチレングリコール及び他の溶質等の塩を含有することができる。
【0054】
液体組成物は更に水に加え、及び水を含まずに、液相を含むこともできる。このような付加液相の例はグリセリン、植物油(例えば綿実油)、及び水−油エマルションである。
【0055】
本発明の化学的治療用組成物はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を活性成分として溶解又は分散した生理的に許容可能なキャリヤーを含む。
【0056】
適切なSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤はSrcファミリーチロシンキナーゼのチロシンキナーゼ生物活性を阻害する。より適切なSrcファミリーチロシンキナーゼはSrc蛋白質の活性の阻害に主特異性をもち、最も近縁のSrcファミリーチロシンキナーゼを二次的に阻害する。
【0057】
F.製品
本発明は治療有効量のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を提供するためのラベル付き容器である製品も意図する。阻害剤は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の単一パッケージでもよいし、2種以上の阻害剤の組み合わせでもよい。製品は包装材料と包装材料内に収容された薬剤を含む。製品は相乗作用により冠動脈血管閉塞に起因する組織損傷を改善する2種以上の治療有効量を下回る量の医薬組成物を併用してもよい。
【0058】
本明細書で使用する包装材料なる用語は固定手段の内側に薬剤を保持することが可能なガラス、プラスチック、紙、箔等の材料を意味する。従って、例えば、包装材料は薬剤を含有する医薬組成物を収容するために使用されるプラスチック又はガラスバイアル、積層エンベロープ等の容器とすることができる。
【0059】
好ましい態様では、包装材料は製品の内容物と収容された薬剤の用途について記載した有形表現であるラベルを含む。
【0060】
製品に含まれる薬剤は開示指定に従って本明細書に記載するような医薬的に許容可能な形態に製剤化されたSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を提供するのに適した本発明の組成物の任意のものである。本発明の目的に適したSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤としては4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン等のピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;ラディシコールR2146、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA等の大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;PD173955等のピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;SKI−606等の4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤;及びその混合物等の化学的Src阻害剤が挙げられる。製品は単位又は多回投与で本明細書に指定する適応症の治療に使用するのに十分な量の薬剤を含有する。
【0061】
包装材料は収容した薬剤の用途、例えば血管透過性増加の阻害により助長される症状等の本明細書に開示する症状を治療するために使用できることを指示したラベルを含む。ラベルは更に使用説明及び販売に必要な関連情報を記載することができる。包装材料は薬剤の保存容器を含むことができる。
【0062】
本発明に関する以下の実施例は例証であり、当然のことながら、本発明を特に限定するものと解釈すべきではない。更に、当業者に現在公知であるか又は将来開発される本発明の同等の変形も特許請求の範囲に記載する本発明の範囲内に含むものとみなす。
【実施例1】
【0063】
VEGFにより媒介されるVP活性はSrc及びYesに依存するが、Fynには依存しない。
【0064】
Srcと同様に内皮細胞で発現されることが知られているFyn又はYes等のSFKに関連するVEGFにより誘導されるVP活性を試験することにより、VPに関するSrc要求の特異性を検討した(Bullら,FEBS Letters,361:41−44(1994);Kieferら.,Curr.Biol.4:100−109(1994))。これらの3種のSFKは野生型マウスの大動脈で同等に発現されることが確認された。src−/−マウスと同様に、Yesを欠損する動物はVEGFにより誘導されるVPも欠損していた。しかし、驚くべきことに、Fynを欠損するマウスはVEGFに応答して高いVPを維持し、対照動物と有意差がなかった。src−/−又はyes−/−マウスにおけるVEGFにより誘導されるVPの破壊は、特異的SFKのキナーゼ活性が血管新生ではなくVP活性を誘導するVEGFにより媒介されるシグナリングイベントに必須であることを実証するものである。
【0065】
エバンスブルー色素を予め静脈内注射したマウスに食塩水又はVEGF(400ng)を皮内注射することにより、src+/−(図5A,左パネル)又はsrc−/−(図5A,右パネル)マウスの皮膚におけるVEGFの血管透過性を測定した。15分後に皮膚パッチを写真撮影した(スケールバー1mm)。星印は注射部位を示す。VEGF、bFGF又は食塩水の注射部位の周囲の領域を剥離し、エバンスブルー色素をホルムアミドに58℃で24時間溶出させてVPを定量し、500nmの吸光度を測定した(図5B,左グラフ)。炎症関連VPを誘導することが知られている炎症メディエーター(イソチオシアン酸アリル)の能力をsrc+/−又はsrc−/−マウスで試験した(図5B,右)。
【0066】
VEGFがVPを誘導する能力をsrc−/−、fyn−/−、又はyes−/−マウスでMilesアッセイにて比較した(図5C)。動物3匹の平均±SDとしてMilesアッセイの各々のデータを表す。対照動物に比較してsrc−/−及びyes−/−のVP欠損は統計的に有意(*p<0.05,対応t検定)であったが、VEGFを投与したfyn−/−マウスとイソチオシアン酸アリルを投与したsrc+/−マウスのVP欠損は統計的に有意ではなかった(**p<0.05)。
【実施例2】
【0067】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与したマウスとSrc−/−マウスは無投与野生型マウスに比較して血管外傷又は傷害に関連する組織損傷の低下を示す。
【0068】
Srcファミリーキナーゼの阻害剤は脳卒中等の血管傷害又は障害後の病的血管漏出及び透過性を低下させる。血管内皮細胞は多数の合図に応答して腫瘍の血管新生中に新血管の発生等のプロセスを調節し、脳卒中により誘導される浮腫及び組織損傷中に血管壁の透過性を調節する動的細胞種である。
【0069】
2種のマウス脳卒中モデルではSrc経路の薬剤阻害により血管透過性を低下させれば虚血により誘導される血管漏出を減少させることにより脳損傷を抑制するために十分である。更に、遺伝的にSrcを欠損し、血管漏出/透過性が低下しているマウスでは、梗塞体積も小さい。合成Src阻害剤データの組み合わせは、脳卒中及び他の関連モデルにおける血管漏出が低下しているという遺伝的証拠の支えとともに、このアプローチが脳卒中後の脳損傷を減少させるのに生理的に適切であることは明らかである。これらのシグナリングカスケードの各種市販Srcファミリーキナーゼ阻害剤によるこれらの経路の阻害は血管透過性に関連する組織損傷に起因する脳損傷を緩和する治療効果がある。
【0070】
局所脳虚血の誘導方法として2種の異なる方法を使用した。どちらの局所脳虚血動物モデルもよく確立され、脳卒中研究で広く使用されている。どちらのモデルも脳虚血の病態生理を検討し、新規脳卒中治療薬を試験するために従来使用されている。
【0071】
(a)マウスを2,2,2,−トリブロモエタノール(AVERTIN(登録商標))で麻酔し、加温パッド上に動物を保持することにより体温を維持した。右耳と右眼の間を切開した。側頭筋を押しのけて頭蓋を露出させ、中大脳動脈(MCA)間の領域に小さいバーホールをあけた。髄膜を除去し、加熱フィラメントを使用して凝固させることにより右MCAを閉塞させた。動物を回復させ、そのケージに戻した。24時間後に脳を潅流し、摘出し、1mm横断面切片に切断した。切片を塩化2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム(TTC)の2%溶液に浸漬し、生存(赤)組織に囲まれた未染色(白色)組織として梗塞脳領域を識別した。切片の未染色面積にその厚さを掛けた積の合計として梗塞体積を計算した。
【0072】
Src欠損マウス(Src−/−)を使用して脳虚血におけるSrcの役割を試験した。Src+/−マウスを対照として使用した。Src−/−マウスの梗塞体積は傷害から24時間後に26±10mm3から対照の16±4mm3まで減少することが確認された。血管閉塞から30分後にC57B16野生型マウスに1.5mg/kg AGL1872を腹腔内(i.p.)注射すると、効果は更に顕著であった。梗塞サイズは未投与群では31±12mm3であったが、AGL1872投与群では8±2mm3まで減少した。
【0073】
(b)第2の局所脳虚血モデルでは、MCAの始点に塞栓を配置することによりMCAを閉塞した。変形PE−50カテーテルを使用して発生から24時間後の単一の無傷フィブリンリッチ同種血栓をMCAの始点に配置した。対側片麻痺に対する同側片麻痺の脳血流の減少により脳虚血の誘導を確認した。24時間後に脳を摘出し、連続切片を作成し、ヘマトキシリン−エオシン(HE)で染色した。連続HE切片における梗塞面積に各切片間の距離を掛けた値を合計することにより梗塞体積を計算した。
【0074】
本試験で使用したAGL1872の用量(1.5mg/kg i.p.)は経験により選択した。VEGFは脳虚血から約3時間後にまず脳で発現され、12〜24時間後に最大となることが知られている。本試験では、梗塞の発生から30分後にAGL1872を投与し、VEGFにより誘導される血管透過性増加を完全に阻止した。典型的VEGF発現の時間経過に従って、Src阻害剤投与の潜在的治療有効血中濃度投与量は脳卒中後12時間までとすることができる。血管透過性の持続的な増加を伴う疾患では、Src阻害薬の慢性投与が適切である。
【0075】
図6は傷害後のマウス脳における平均梗塞体積(mm3)の比較結果を示すグラフであり、マウスは、異種Src(Src+/−)、ドミナント陰性Src突然変異体(Src−/−)、野生型マウス(WET)、又は1.5mg/kg AGL1872を投与した野生型マウスであった。
【0076】
図7はCNS傷害の誘導処置後に摘出潅流したマウス脳のサンプル連続MRIスキャンを示し、AGL1872を投与した動物のスキャン推移(右)は対照無投与動物のスキャン推移(左)よりも脳梗塞が明らかに少ない。
【実施例3】
【0077】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与したラットとSrc−/−マウスは無投与野生型マウスに比較して冠動脈血管外傷又は傷害に関連する組織損傷の減少を示す。
【0078】
Sprague−Dawleyラットの左前下行冠動脈を結紮することにより心筋虚血を誘導した。虚血誘導後にピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤AGL1872又はSKI−606の腹腔内(i.p.)注射により悪影響を与えられた心臓組織を化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤と接触させた。術後24時間後に高分解能磁気共鳴イメージング(MRI)、乾燥重量測定値、梗塞サイズ、心臓体積、及び危険面積を測定した。心筋梗塞(MI)後に用量約1.5mg/kgの阻害剤をi.p.注射したラットで術後4週間後に生存率と心エコーを測定した。
【0079】
図11はエオシン色素で染色(生体染色)した投与(左)及び対照(右)ラット心臓組織の顕微鏡写真を示す。対照組織(右上写真)は組織の周辺部に大面積の壊死を示す。他方、投与組織(左上写真)は壊死組織を殆ど示さない。
【0080】
図12は投与から24時間後の梗塞サイズ(mg組織)を阻害剤(AGL1872)濃度の関数として示す棒グラフである。最適阻害レベルは約1.5mg/kgの用量で達成された。約3mg/kgの用量では梗塞サイズの有意減少は生じなかった。
【0081】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を投与した結果、梗塞サイズと危険面積は術後24時間以内に用量依存的に減少した。梗塞誘導から約45分後に用量約1.5mg/kgの阻害剤が送達された場合に梗塞サイズの約68%(p<0.05)の最大阻害が達成された(図13)。阻害剤は虚血誘導から約6時間後に投与した場合にも有効であり、梗塞サイズは約42%減少した(p<0.05)。免疫組織化学分析によると、Src阻害は虚血組織におけるVEGF発現を妨げなかった。梗塞サイズの減少は心筋含水率の低下(約5%±1.3%;p<0.05)とMRIにより検出される浮腫組織の体積減少を伴い、Src阻害の有益な効果がVEGFにより媒介されるVPの予防に関連することを示している(図14)。術後約4週間後の心エコーにより測定した短縮率は対照で約29%であり、投与ラットでは約34%であった(p<0.05)。注目すべき点として、処理ラットの4週間生存率(100%)は対照ラット(約63%)に比較して予想外に高かった。
【0082】
浮腫を精密にin vivoモニターするために、高分解能磁気共鳴イメージング(MRI)を使用し、永続的左前下行(LAD)閉塞後にSrc阻害剤AGL1872又はSKI−606を投与するか又は投与しないラットの心臓組織を評価した。浮腫領域は含水率が増加するので非浮腫領域よりもT2緩和時間が長いと予想される。浮腫を定量するために、T2>49ms(通常通りに潅流した心筋の平均を上回る2個の標準偏差よりも大)の領域を決定した。虚血発生の1時間後にT2加重シグナリングはSrc阻害が初期細胞毒性浮腫に影響しないことを示した。しかし、24時間後には、AGL1872による心筋関連心筋浮腫はビヒクルに比較して47%減少することが計算T2マップから判明した(n=2 AGL1872群,n=1 ビヒクル群)。この結果は非虚血心筋の湿潤/乾燥重量を使用してex−vivo計算した心筋含水率に相関する。AGL1872は浮腫及び梗塞サイズを用量依存的に減少させ、1.5mg/kgで最大の減少が得られた(各群n>5,P<0.001)。SKI−606もマウス及びラットで永続的閉塞後に投与した場合に梗塞サイズの有意減少を生じた。この応答の動力学を評価するために、閉塞後各種時点でAGL1872を投与した。最大効果(梗塞サイズの50%減少)は閉塞から45分後の投与に達成されたが、6時間後に投与した場合にも25%の保護が得られた(各群n=5,P<0.05)。
【0083】
心エコーによると、Src阻害は4週間にわたって未投与ラットに比較して短縮率と拡張期左室(LV)径の有意維持をもたらすことが判明し、救済組織における収縮機能が長期間維持されることを示した。Src阻害は収縮期LV径と局所壁運動にも好ましい効果があった(表1)。SKI−606 Src阻害剤を投与した場合にも短縮率と局所壁運動スコアに好ましい効果があった(各群n=7,P<0.01)。MI後の生存率を評価するために、LAD結紮後の顕著な死亡率(>40%)を特徴とするモデルとして2年齢C57ブラックマウスを使用した。MIから45分後にAGL1872(1.5mg/kg)を投与すると、生存率は最初の4週間以内に対照よりも増加し(58.3%に対して91.7%,各群n=12)、Src阻害の長期治療効果が実証された。
【0084】
【表1】
【0085】
梗塞後には慢性心筋線維症が発生し、MI後の組織壊死の程度を直接反映する。ラットでMIから4週間後の線維症に及ぼすSrc阻害の効果を評価するために、弾性トリクロム染色を使用して線維組織の組織病理分析を実施した。Src阻害は対照に比較してLV線維組織の52%減少を生じた(40.0±3.0%に対して19.1±2.2%,各群n=4,P<0.01)。これに一致して、Src阻害剤を投与したサンプルには心筋繊維とLV構造の良好な保存が観察され、Src阻害はMI後の心筋に長期保護効果をもつことが判明した。
【0086】
一過性虚血後のSrc阻害の有効性を立証するために、ラットを閉塞後に再潅流した後、24時間後の心室機能と梗塞サイズを評価した。AGL1872によるSrc阻害は対照に比較して左室(LV)短縮率と共に梗塞サイズの減少を維持した(各群n=4,P<0.05)。虚血−再潅流後の梗塞サイズの18%減少は低酸素刺激により誘導されるVEGF発現が維持される間の永続的閉塞後の50%減少に匹敵する。更に、SKI−606(5mg/kg)は虚血−再潅流モデルで梗塞サイズの43%減少を生じた(各群n=5,P<0.01)。総合すると、このデータは一過性虚血後のSrc阻害の有益な効果を実証するものである。
【実施例4】
【0087】
梗塞周囲ゾーンにおける血管完全性と筋細胞生存能に対するMIの効果
VEGF発現は主に梗塞周囲ゾーンで増加するので、Src阻害がこの領域の小血管に及ぼす超微細構造効果をMIから3〜24時間後に試験した。表2は透過型電子顕微鏡を使用して各群250本の血管を試験した観察結果の要約である。正常心筋組織とは対照的に梗塞組織では梗塞周囲ゾーンの多数の損傷例が観察された。間質には明らかに近傍血管から漏出したと思われる遊出血球(RBC、血小板、及び好中球)が存在していた。内皮細胞(EC)が膨潤し、血管内腔の一部を閉塞している場合もあり、多くは電子が光り、多数の小窩を含んでいた。内皮細胞には大きな円形液胞があり、多くはEC厚みの数倍であった。筋細胞傷害はMI後の時間と共に増加し、隣接細胞間で異なり、ミトコンドリア破壊、ミトコンドリアクリスタ障害、細胞内浮腫、及び筋フィラメント分解として識別可能であった。最も損傷度の高い筋細胞は多くが傷害血管又は遊離血球に隣接していた。傷害への急性応答に関与し、VEGF産生に寄与すると思われる好中球はMIから24時間後に観察されることが多かった。
【0088】
【表2】
【0089】
各群について左室組織を透過型電子顕微鏡で4時間(微小血管約250本)試験し、観察結果を計数し、以下の群に分類した。
(a)ECバリアー機能障害:ギャップ、開窓、遊出血球;
(b)血小板活性化/接着:血小板、脱顆粒血小板、血小板クラスター、血小板のECM接着;
(c)EC傷害:電子が光るEC、膨潤EC、大きなEC液胞、閉塞血管内腔;及び
(d)心臓損傷:ミトコンドリア膨潤、クリスタ変性、筋フィラメント分解。
【0090】
MIから3時間後に隣接EG間にギャップが高頻度で観察され、周囲間質スペースへの血球の遊出を説明することができた。驚くべきことに、ギャップの多くは血小板で塞がれていた。血小板がEC間に露出した基底膜に接触している場合もあったが、基底膜が破壊しているように見える場合もあった。血小板が脱顆粒し、循環血小板の更なる活性化、接着、及び凝集を増強する可能性のある場合もあった。これらの血小板プラグはそれ以上の血管漏出を防いでいる可能性もあるが、微小血栓形成により小血管の潅流低下という負の効果があり、更に虚血関連組織疾患を誘発する恐れがある。
【実施例5】
【0091】
MIと全身VEGF注射は同様の血管応答を生じる。
【0092】
複合疾患又はMIに及ぼすVEGFの効果を調べるために、VEGFを正常マウスに静脈内注射し、30分後に心臓組織を超微細構造レベルで評価した。驚くべきことに、VEGFにより誘導される内皮細胞バリアー機能障害と血管傷害の程度はMI後の梗塞周囲ゾーンで観察されるのと同等であった(表2)。EC基底膜への著しい血小板接着が筋細胞損傷と同様に観察された。全身VEGF注射後にも同様の脳損傷が認められ、これらの効果が全身性であることが示唆された。これらの結果はVEGFにより媒介されるVPがMI後の血管効果の多くと類似していることを示す。
【0093】
VEGFがMIに関連する長期疾患を媒介するに十分であるか否かを試験するために、マウスにVEGFを2時間にわたって4回注射した。この処置によりMIから24時間後に観察されると同様の損傷が生じた。血小板接着、好中球、及び有意筋細胞損傷が認められ、更に多数のECは電子が光り、その多くは膨潤し、血管内腔を閉塞していた。以上をまとめると、MIから3時間後に観察されると同様の超微細構造を誘導するためにはVEGFに30分間暴露すれば十分であり、この時間までにVEGF発現は梗塞周囲ゾーンで有意に増加した。更に長時間VEGF暴露すると、MIから24時間後に組織に観察されると同様の血管リモデリングが誘発された。
【0094】
Src欠損マウスがMI後に保護され、局所VEGF注射後に皮膚と脳にVPを欠損していたという事実は、Src欠損マウスを、心臓においてVEGFが誘導したVPから免れさせたことを示唆している。Src阻害剤結果と一致して、野生型マウスにおけるギャップ、血小板活性、EC障害、及び遊出血球と比較して、pp60Src−/−マウス(表2)ではVEGF注射後の血管応答の徴候は認められなかった。応答の完全な阻止はVEGFにより媒介されるSrc活性が虚血疾患中にVPにより誘導される傷害をもたらすカスケードを開始することを示唆している。
【0095】
考察
マウスにVE−カドヘリン抗体を全身投与すると、VEGF投与後に観察される損傷と超微細構造レベルで類似すると思われる、心臓及び肺のVP、間質浮腫、及び暴露した基底膜の病巣を生じた。マウス胚では、β−カテニン−ヌル血管は頻繁な出血に関連する平板な有窓内皮細胞を含む。従来のin vitro試験によると、VEGFはVE−カドヘリン機能の調節に関与するとされている。流動条件下のECでは、VE−カドヘリンはFlkと複合体を形成する。VE−カドヘリン−VEGF複合体をin vivo評価するために、VEGFを注射したマウスと注射しないマウスから心臓溶解液を調製した。これらの溶解液を抗Flkで免疫沈降後にVE−カドヘリンとβ−カテニンについてイムノブロットした。対照マウスでは、血管中にFlk、β−カテニン及びVE−カドヘリンの既存複合体が観察された。この複合体はVEGF刺激後2〜5分以内に迅速に破壊され、in vivo血管内で15分までに再会合した。複合体の解離時間はFlk、β−カテニン、及びVE−カドヘリンリン酸化とVE−カドヘリンからのβ−カテニンの解離と全く同様であった。Flk−カドヘリン−カテニンシグナリング複合体は無傷のままであり、Src阻害剤を予め投与したVEGF刺激マウスではβ−カテニンとVE−カドヘリンのリン酸化は生じなかったので、これらのVEGFにより媒介されるイベントはSrc依存的であった。これらのイベントは血管透過性を促進しない類似血管新生増殖因子である塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)の注射後には観察されなかった。
【0096】
VEGFの単回注射により可逆的で迅速な一過性シグナリング応答が生じ、15分以内に基線に戻ったが、(30分間隔で)4回VEGF注射すると、長期シグナリング応答を生じた。例えば、長期VEGF暴露後にFlk−カテニン解離とErkリン酸化は維持された。MI後の生理的状況では低酸素症によりVEGF発現が増加し、数日間発現が続くが、このような状況にもこのモデルを適用することができる。
【0097】
Srcは急性MI又は全身VEGF投与後にVPで生理的及び分子的役割を果たす。MI後の不良転帰の一因は明らかに梗塞ゾーンの周囲の潅流心臓微細血管の透過性亢進である。これらの血管はVEGFによる悪影響を受け、Src依存的にVPが増加する結果、血管閉塞又は崩壊を招き、最終的に周囲筋細胞の損傷に至る。これは再潅流中の血管開口にも拘わらず、MI後に報告されている不良な組織潅流の持続及び高い死亡率と一致する。MIから6時間後のSrc阻害でもVEGFにより誘導されるVPに対して有意保護が得られ、臨床条件下でこのアプローチが適切であることを示している。MI後のSrc阻害剤の投与は内皮バリアー機能を維持するFlk−カドヘリン−カテニン複合体の解離を防止することによりVPを制限すると思われる。
【0098】
超微細構造データによると、MI後のVEGFの初期効果は内皮細胞接合部の開口により内皮細胞基底膜を露出することを含むと思われる。血小板の多くは脱顆粒、活性化され、これらの部位と接着している。血小板はVEGFを含み、血小板活性化により局所的に放出されるとVP応答を増加することができるのでこの点は重要である。実際に、Src阻害の有益な効果の一部は血小板活性化に対するその効果に起因する可能性がある。本データから明らかなように、MI後の初期イベントは浮腫蓄積、組織損傷とそれに伴う線維症及び心臓組織のリモデリングに至るカスケードを開始する。リモデリングした線維状心臓組織は正常心臓組織よりも機能的に劣る点を留意すべきである。従って、傷害の影響を早期に制限することにより、心臓組織をリモデリングする必要を減らすことにより長期効果を期待することができる。単一冠動脈の遮断が梗塞ゾーンの増殖、線維症及び場合によっては死に至る急性傷害を促進するので、このプロセスへの有効な早期介入は長期保護及び効果をもたらすと考えられる。
【0099】
本データによると、Src阻害剤はこのような役割を十分に果たすと考えられる。Src阻害はFlk−カドヘリン−カテニン複合体を維持し、内皮細胞接合部をVEGFの透過性促進効果を受けにくくする。
【0100】
驚くべきことに、VEGFを全身注射すると、MI後に認められる心臓血管への超微細構造効果の多くを生じた。内皮細胞バリアー機能障害及び血管損傷をin vivoで誘導するにはVEGF単独で十分であった。同様に、SrcをSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤で遮断することを含む本発明の方法はMI後のこれらのイベントを抑制するのみならず、全身VEGF注射後にも抑制した。Src阻害はVEGF刺激にも拘わらずFlk−カドヘリン−カテニン複合体を安定化した。VEGFにより誘導されるVPの他の要因としては、小窩又は小胞−液胞オルガネラ(VVOs)及び有窓が挙げられる。pp60Src−/−マウスはVEGF注射後に透過性の徴候を示さなかったので、これらの透過性形態もSrc依存的であると考えられた。あるいは、内皮細胞ギャップ、遊出血球、及び露出基底膜も有窓及びVVOsを誘導すると考えられる。
【0101】
VEGFは種々の因子(サイトカイン、癌遺伝子、低酸素症)に応答してin vivo発現され、透過性及び血管新生に加え、内皮細胞増殖、遊走及びアポトーシスからの保護を誘導するように作用する。腫瘍は血流中に検出可能な多量のVEGFを産生する。実際に、腫瘍内又は近傍の血管はVEGF注射後に本試験で観察される特徴の多く(例えば有窓性内皮細胞、内皮細胞間接合部の開口、及び融合小窩クラスター)をもつ。種々の癌患者における血清VEGF値は100〜3000pg/mlであるが、局所細胞又は組織VEGF値は10〜100倍となる。MI後の患者では、血清VEGF値は100〜400pg/mlであると報告されており、急性MI患者のほうが安定狭心症よりも高い。所定の原発性及び転移性腫瘍では、梗塞周囲領域における局所VEGF値は血清値を優に上回る。循環系におけるVEGF蓄積の増加は血小板を吸引して血流低下をもたらすVP応答を誘発するので、本データは所定癌患者で血栓性疾患が増加するという知見を説明することができる。更に、最近報告された所見から末期癌に関連する胸水と一般的な浮腫を説明することができる。Srcの阻害は癌関連浮腫性疾患にも顕著な効果があると考えられる。
【0102】
AGL1872はSrcファミリーチロシンキナーゼを阻害するだけでなく種々の他のキナーゼも破壊するが、SKI−606はSrcとYesにより選択性が高いと報告されている。これらの阻害剤はいずれもSrc欠損マウスで認められる効果とよく似た同様の生物活性パターンを示した。薬理的Src阻害剤を野生型動物に投与すると、組織傷害、生化学及び心臓血管の超微細構造にノックアウトマウスで認められると同一の効果を生じたという事実は、効果が主にECにより媒介される漏出に起因し、これらの動物の遺伝的素因に関連しないことを示唆している。VEGFにより媒介されるVP応答と、脳の虚血性傷害後の梗塞組織の増殖にはSrcとYesが必須であるが、Fynは必須ではない。以上をまとめると、このデータはMI後のSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤投与の有益な効果が実際にSrcキナーゼ阻害の機能であり、関与している可能性が最も高いSrcキナーゼはpp60Srcとpp62Yesであることを意味している。
【0103】
MI又は直接VEGF注射後に本質的に同一の超微細構造変化が観察された。VEGFが主に内皮細胞に作用し、他の細胞種には作用しないという事実はScrがECの内部で阻止されたことが超微細構造所見となったことを説明している。更に、観察された変化の大半はEC細胞−細胞接触と血管完全性の変化に直接関係があり、このような変化はSrcノックアウト動物やSrc阻害剤を投与した野生型動物には全く認められなかった。重要な点として、VPにおけるSrcの役割はVE−カドヘリンとβ−カテニンをリン酸化し、これらの接合蛋白質とVEGF受容体であるFlkとの複合体の解離を促進できる点にあると考えられる。
【0104】
Srcファミリーチロシンキナーゼ作用の標的阻害は傷害からの回復に有益でありうる他のVEGFにより誘導される応答に長期効果を与えずにVPに阻害を集中するので、本発明の方法はVPにより誘導される組織損傷、特に心筋梗塞に起因する組織損傷の特異的改善に特に適切である。
【0105】
SrcはVEGFにより媒介される血管透過性に作用することにより組織損傷を調節すると思われ、従って、心筋虚血の病態生理における新規治療ターゲットである。Srcファミリーチロシンキナーゼの急性薬理阻害により冠動脈閉塞後の心筋損傷の程度を有意に低下させることができる。
【0106】
比較的小分子の合成化学的阻害剤の使用は一般に比較的大型の蛋白質を使用するよりも安全で監理し易い。従って、このような阻害剤は治療活性剤として好ましい。
【0107】
以上の記載に基づいて当業者は本発明を実施することができる。実際に、本明細書に教示及び記載したもの以外の本発明の種々の変形が上記記載から当業者に自明であり、特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1−1】Braeuningerら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:10411−10415(1991)により最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。この配列はGenBankアクセション番号X59932 X71157で入手可能である。この配列は2187ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置134〜1486位である。
【図1−2】Braeuningerら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:10411−10415(1991)により最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。この配列はGenBankアクセション番号X59932 X71157で入手可能である。この配列は2187ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置134〜1486位である。
【図1−3】Braeuningerら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:10411−10415(1991)により最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。この配列はGenBankアクセション番号X59932 X71157で入手可能である。この配列は2187ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置134〜1486位である。
【図2】図1に示すコーディング配列によりコードされるヒトc−Srcのアミノ酸残基配列(配列番号2)である。
【図3−1】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−2】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−3】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−4】ヒトc−Yes蛋白質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。この配列はGenBankアクセション番号M15990で入手可能である。この配列は4517ヌクレオチドを含み、蛋白質コーディング部分はヌクレオチド位置208〜1839位であり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図4−1】c−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図4−2】c−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図5】Src、Fyn及びYesを欠損するマウスの皮膚におけるVEGFのVPに関する改変Milesアッセイの結果を示す。図5Aは治療後の耳の写真である。図5Bは各種欠損マウスの刺激の実験結果のグラフである。図5Cは投与後の組織により溶出されたエバンスブルー色素の量のプロットである。
【図6】Src+/−、Src−/−、野生型(WET)、及びAGL1872(即ち4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン)を投与した野生型マウスにおける脳梗塞の相対サイズを示すグラフである。用量は1.5mg/kg体重とした。
【図7】対照とAGL1872を投与したマウス脳の連続MRIスキャンを示し、AGL1872を投与した動物(右)は対照動物(左)よりも脳梗塞が少ないことを示す。
【図8】本発明の好ましいピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の構造を示す。
【図9】本発明の好ましい大環状ジエノンSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の構造を示す。
【図10】本発明の好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の構造を示す。
【図11】心筋梗塞を誘導するように外傷を与えた生体染色ラット心臓組織の顕微鏡写真を示し、右側の写真は対照であり、有意レベルの壊死を示し、左側の写真は化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(AGL1872)を投与した組織であり、壊死レベルの劇的な低下を示す。
【図12】阻害剤(AGL1872)濃度の関数として心筋梗塞のサイズを示す棒グラフである。
【図13】阻害剤(AGL1872)投与後の時間の関数として心筋梗塞のサイズを示す棒グラフである。
【図14】阻害剤(AGL1872)濃度の関数として心筋含水量を示す棒グラフである。
【配列表】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含有する治療有効量の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む心筋梗塞にかかった哺乳動物の治療方法。
【請求項2】
哺乳動物がヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSrc蛋白質の阻害剤である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
化学的阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及びその混合物から構成される群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群の構成要素である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がゲルダナマイシン、ハービマイシンA、ラディシコールR2146、及びその混合物から構成される群の構成要素である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がPD173955である請求項5に記載の方法。
【請求項9】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSKI−606である請求項5に記載の方法。
【請求項10】
医薬組成物を腹腔内注射により哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
医薬組成物を静脈内注射により哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
医薬組成物を心筋梗塞後約6時間以内に哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
医薬組成物を心筋梗塞後約24時間以内に哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
包装材料と包装材料内に収容された医薬組成物を含む製品であって、医薬組成物が血液供給を妨害された冠動脈組織で壊死を減少させることが可能な量で存在しており、包装材料が前記医薬組成物を心筋梗塞の治療に使用できることを示すラベルを含み、医薬組成物が化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤と医薬的に許容可能なそのキャリヤーを含む前記製品。
【請求項15】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSrc蛋白質の阻害剤である請求項14に記載の製品。
【請求項16】
化学的阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及びその混合物から構成される群から選択される請求項15に記載の製品。
【請求項17】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群から選択される請求項16に記載の製品。
【請求項18】
大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がゲルダナマイシン、ハービマイシンA、ラディシコールR2146、及びその混合物から構成される群から選択される請求項15に記載の製品。
【請求項19】
ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がPD173955である請求項15に記載の製品。
【請求項20】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSKI−606である請求項15に記載の製品。
【請求項21】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含有する予防量の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む心筋梗塞の危険のある哺乳動物の予防的治療方法。
【請求項22】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
哺乳動物がヒトである請求項21に記載の方法。
【請求項24】
医薬組成物を哺乳動物に経口投与する請求項21に記載の方法。
【請求項25】
医薬組成物を哺乳動物に非経口投与する請求項21に記載の方法。
【請求項26】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である請求項21に記載の方法。
【請求項27】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項28】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル化合物である請求項21に記載の方法。
【請求項29】
心筋梗塞の治療用医薬の製造における化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の使用。
【請求項30】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及びその混合物から構成される群から選択される請求項29に記載の使用。
【請求項31】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群から選択される請求項30に記載の使用。
【請求項32】
大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がゲルダナマイシン、ハービマイシンA、ラディシコールR2146、及びその混合物から構成される群から選択される請求項30に記載の使用。
【請求項33】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSKI−606である請求項30に記載の使用。
【請求項1】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含有する治療有効量の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む心筋梗塞にかかった哺乳動物の治療方法。
【請求項2】
哺乳動物がヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSrc蛋白質の阻害剤である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
化学的阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及びその混合物から構成される群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群の構成要素である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がゲルダナマイシン、ハービマイシンA、ラディシコールR2146、及びその混合物から構成される群の構成要素である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がPD173955である請求項5に記載の方法。
【請求項9】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSKI−606である請求項5に記載の方法。
【請求項10】
医薬組成物を腹腔内注射により哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
医薬組成物を静脈内注射により哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
医薬組成物を心筋梗塞後約6時間以内に哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
医薬組成物を心筋梗塞後約24時間以内に哺乳動物に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
包装材料と包装材料内に収容された医薬組成物を含む製品であって、医薬組成物が血液供給を妨害された冠動脈組織で壊死を減少させることが可能な量で存在しており、包装材料が前記医薬組成物を心筋梗塞の治療に使用できることを示すラベルを含み、医薬組成物が化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤と医薬的に許容可能なそのキャリヤーを含む前記製品。
【請求項15】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSrc蛋白質の阻害剤である請求項14に記載の製品。
【請求項16】
化学的阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及びその混合物から構成される群から選択される請求項15に記載の製品。
【請求項17】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群から選択される請求項16に記載の製品。
【請求項18】
大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がゲルダナマイシン、ハービマイシンA、ラディシコールR2146、及びその混合物から構成される群から選択される請求項15に記載の製品。
【請求項19】
ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がPD173955である請求項15に記載の製品。
【請求項20】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSKI−606である請求項15に記載の製品。
【請求項21】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤を含有する予防量の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む心筋梗塞の危険のある哺乳動物の予防的治療方法。
【請求項22】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
哺乳動物がヒトである請求項21に記載の方法。
【請求項24】
医薬組成物を哺乳動物に経口投与する請求項21に記載の方法。
【請求項25】
医薬組成物を哺乳動物に非経口投与する請求項21に記載の方法。
【請求項26】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である請求項21に記載の方法。
【請求項27】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項28】
Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル化合物である請求項21に記載の方法。
【請求項29】
心筋梗塞の治療用医薬の製造における化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤の使用。
【請求項30】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、及びその混合物から構成される群から選択される請求項29に記載の使用。
【請求項31】
ピラゾロピリミジンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤が4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、及びその混合物から構成される群から選択される請求項30に記載の使用。
【請求項32】
大環状ジエノンクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がゲルダナマイシン、ハービマイシンA、ラディシコールR2146、及びその混合物から構成される群から選択される請求項30に記載の使用。
【請求項33】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤がSKI−606である請求項30に記載の使用。
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図3−4】
【図4−1】
【図4−2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図3−4】
【図4−1】
【図4−2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2006−510620(P2006−510620A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554028(P2004−554028)
【出願日】平成15年11月18日(2003.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/037653
【国際公開番号】WO2004/045563
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年11月18日(2003.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/037653
【国際公開番号】WO2004/045563
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】
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