説明

悪路判定装置

【課題】容易且つ正確に車両が悪路を走行しているか否かを判定する。
【解決手段】悪路判定装置は、車両におけるブレーキペダルの操作変化率を検出する変化率検出手段と、ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数を検出する反転回数検出手段と、ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数が所定値以上になった場合に、車両が悪路を走行していると判定する判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行している道路が悪路か否かを判定する悪路判定装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置では、走行中の車両における各種パラメータを用いることで、車両が悪路を走行しているか否かが判定される。例えば特許文献1では、アクセル開度の変動に基づいて路面状態を判定するという技術が提案されている。特許文献2では、サスペンション変位量に基づいて路面凹凸を推定するという技術が提案されている。特許文献3では、ステアリング操舵角の高周波成分から悪路走行を検出するための信号を生成するという技術が提案されている。
【0003】
このようにして得られる悪路の判定結果は、車両の運転制御に用いられる場合がある。例えば特許文献4では、車両が走行している道路が悪路であると判定された場合に、内燃機関の失火判定を禁止するという技術が提案されている。
【0004】
また、上述したように判定される道路状況は、記憶しておくことで次回の走行に利用することもできる。例えば特許文献5では、識別した道路状況をデータベースに記憶し、次回同じ道路を走行する際には記憶した道路状況データを利用するという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−024547号公報
【特許文献2】特開2008−006954号公報
【特許文献3】特開2005−337168号公報
【特許文献4】特開2003−322053号公報
【特許文献5】特開2009−029321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで本願発明者の研究によれば、車両が悪路を走行している場合には、車両の振動等に起因して運転者によるブレーキペダルの操作が小刻みに変化することが判明している。この小刻みな振れは、ブレーキペダル操作変化率(即ち、ブレーキペダル踏下量の微分値)で見ると、短時間に正負が反転するという通常走行時には見られない特徴がある。よって、このブレーキペダル操作変化率を利用すれば、好適に悪路を判定することができると考えられる。
【0007】
しかしながら、上述した各特許文献のいずれにおいても、ブレーキペダル操作変化率に関する言及はなされていない。言い換えれば、上述した各特許文献に記載されている技術には、ブレーキペダルの操作変化率を用いて悪路を判定することができないという技術的問題点がある。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、容易且つ正確に車両が悪路を走行しているか否かを判定することが可能な悪路判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の悪路判定装置は上記課題を解決するために、車両におけるブレーキペダルの操作変化率を検出する変化率検出手段と、前記ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数を検出する反転回数検出手段と、前記ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数が所定値以上になった場合に、前記車両が悪路を走行していると判定する判定手段とを備える。
【0010】
本発明に係る悪路判定装置によれば、その動作時には、例えばブレーキペダルのストロークセンサやブレーキフルードの圧力センサ等を含んで構成される変化率検出手段によって、車両におけるブレーキペダルの操作変化率が検出される。尚、ここでの「ブレーキペダルの操作変化率」とは、ブレーキペダルの踏下量の瞬間的な変動を示す値であり、例えばブレーキペダルの踏下量の時間微分値を利用することができる。ブレーキペダルの操作変化率は、具体的な数値として検出されてもよいが、本発明では少なくとも「正」及び「負」のいずれであるかが判別できればよい。
【0011】
ブレーキペダルの操作変化率が検出されると、反転回数検出手段によって、ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数(以下、単に「正負反転回数」と称する)が検出される。即ち、ブレーキペダルの操作変化率の値が「正」から「負」になった回数、及び「負」から「正」になった回数が検出される。尚、反転回数検出手段は、ブレーキペダルの操作変化率の値が「正」から「ゼロ」になった回数、「負」から「ゼロ」になった回数、「ゼロ」から「正」になった回数、及び「ゼロ」から「負」になった回数を正負反転回数としてカウントするようにしてもよい。
【0012】
ここで、上述した正負反転回数が所定値以上となった場合、判定手段によって、車両が悪路を走行していると判定される。尚、ここでの「所定値」とは、正負反転回数から悪路走行を判定するための閾値であり、例えば理論的、実験的或いは経験的に求められ、予め判定手段が有するメモリ等に記憶されている。また、正負反転回数は、常にカウントアップされ続ける訳ではなく、所定の条件を満たした場合にリセットされる。例えば、所定時間経過時に正負反転回数をリセットするようにすれば、所定時間当たりの正負反転回数で悪路であるか否かが判定されることになるため、判定精度を向上できる。
【0013】
尚、悪路の判定は、単に悪路であるか否かだけではなく、悪路の程度を示す度数を決定することで行われてもよい。例えば、正負反転回数が第1所定値以上である場合は悪路の程度を「低」であると決定し、正負反転回数が第1所定値より大きい第2所定値以上である場合は、悪路の程度を「高」であると決定すればよい。
【0014】
ちなみに、悪路であるか否かの判定結果は、例えば車両の運転制御に用いることができる。この場合、車両が走行する道路の状況に応じた、より適切な運転制御を行うことが可能となる。
【0015】
以上説明したように、本発明に係る悪路判定装置によれば、ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数を利用することで、容易且つ正確に車両が悪路を走行しているか否かを判定することが可能である。
【0016】
本発明の悪路判定装置の一態様では、前記車両における内燃機関のクランク軸の角速度を検出する角速度検出手段と、前記検出された角速度に基づいて、前記内燃機関における失火又は前記内燃機関に使用される燃料のセタン価を検出する燃焼状態検出手段と、前記判定手段によって前記車両が悪路を走行していると判定された場合に、前記燃焼状態検出手段による前記失火及び前記セタン価の検出を停止する停止手段とを備える。
【0017】
この態様によれば、車両の走行時には、角速度検出手段によって内燃機関のクランク軸の角速度が検出される。クランク軸の角速度は、例えばクランクポジションセンサ等によって検出されるクランク角信号に基づいて検出できる。
【0018】
クランク軸の角速度が検出されると、燃焼状態検出手段によって、内燃機関における失火又は内燃機関に使用される燃料のセタン価が検出される。即ち、燃焼状態検出手段では、失火及びセタン価のいずれか一方、或いは失火及びセタン価の両方が検出される。燃焼状態検出手段は、例えば燃焼不安定性の指標となる内燃機関の回転0.5次振動の抽出処理等によって失火又はセタン価を検出する。
【0019】
ここで本態様では特に、判定手段によって車両が悪路を走行していると判定された場合、停止手段によって、燃焼状態検出手段による失火及びセタン価の検出が停止される。即ち、悪路走行中には、失火及びセタン価の検出が一時的に中断される。
【0020】
燃焼状態検出手段による失火及びセタン価の検出は、上述したようにクランク軸の角速度に基づいて行われるが、悪路走行中には、検出されるクランク軸の角速度にノイズが発生する場合がある。具体的には、内燃機関と変速機が懸架系との共振周波数で振動することや、悪路の路面凹凸に起因して燃焼に依存しない回転変動がタイヤに発生し、この回転変動が伝達系を介してクランクに伝わることによってノイズが発生する。このため、仮に悪路走行中に失火又はセタン価を検出しようとすると、ノイズに起因する誤検出が発生してしまうおそれがある。
【0021】
しかるに本態様では、悪路走行中には燃焼状態検出手段による失火及びセタン価の検出が停止される。従って、失火又はセタン価が誤検出されてしまうことを防止することができる。
【0022】
尚、燃焼状態検出手段による失火及びセタン価の検出は、車両が走行する道路が悪路でなくなったと判定された場合に再開されるようにすればよい。但し、ノイズの原因となる内燃機関や変速機の振動が減衰するまでには一定時間を要すると考えられるため、悪路でないと判定されると同時に検出を再開するのではなく、悪路でないと判定されてから一定時間経過後に検出を再開するようにしてもよい。このようにすれば、失火及びセタン価の検出にデジタルフィルタを用いることによる位相遅れにも対応することが可能となる。
【0023】
本発明の悪路判定装置の他の態様では、前記車両の走行位置を検出する走行位置検出手段と、前記判定手段によって悪路と判定された道路の位置情報を記憶する記憶手段とを備え、前記停止手段は、前記車両が前記記憶手段に記憶された悪路を走行している場合に、前記燃焼状態検出手段による前記失火及び前記セタン価の検出を停止する。
【0024】
この態様によれば、例えばカーナビゲーションシステムに搭載されるGPS(Global Positioning System)機能等を有する走行位置検出手段によって、車両の走行位置が検出される。そして、判定手段によって悪路を走行していると判定されると、車両の走行位置が悪路であるとして記憶手段に記憶される。これにより、車両が一度でも走行した道路においては、ブレーキペダルの操作変化率を用いた判定を行わずとも、悪路であるか否かの判定が可能となる。
【0025】
また本態様では特に、車両が記憶手段に記憶された悪路を走行している場合に、燃焼状態検出手段による失火及びセタン価の検出が停止される。よって、ブレーキペダルの操作変化率を用いた判定を行わずとも、失火又はセタン価が誤検出されてしまうことを防止することができる。
【0026】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】エンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】ECUの構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る悪路判定装置の動作を示すフローチャートである
【図4】通常走行時におけるブレーキペダルの操作変化率の一例を示すグラフである。
【図5】悪路走行時におけるブレーキペダルの操作変化率の一例を示すグラフである。
【図6】悪路判定制御時の各種パラメータの変動を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0029】
<装置構成>
先ず、本実施形態に係るエンジンシステムの構成について、図1を参照して説明する。ここに、図1は、エンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0030】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100及びエンジン200を備える。
【0031】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備えたエンジン200の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、本発明に係る「悪路判定装置」の一例である。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って各種制御を実行可能に構成されている。
【0032】
またECU100は、ブレーキペダルセンサによってブレーキペダルの踏下量を検出可能とされている。ブレーキペダルセンサ101は、例えばブレーキストロークセンサやブレーキフルード圧力センサとして構成されている。
【0033】
加えてECU100は、GPS102によって、車両の走行位置を検出可能に構成されている。GPS102は、本発明の「走行位置検出手段」の一例であり、例えばカーナビゲーションシステムとして構成されている。
【0034】
エンジン200は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、本発明に係る「内燃機関」の一例である。エンジン200は、シリンダ201内において燃料を含む混合気が圧縮自着火した際に生じる爆発力に応じたピストン202の往復運動を、コネクションロッド203を介してクランクシャフト204の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0035】
クランクシャフトは、本発明の「クランク軸」の一例であり、クランクシャフト204近傍には、クランクシャフト204の回転位置を検出するクランクポジションセンサ205が設置されている。クランクポジションセンサ205は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、クランクポジションセンサ205によって検出されたクランクシャフト204の回転位置に基づいて、エンジン200の機関回転数NEを算出することが可能に構成されている。以下に、エンジン200の要部構成を、その動作の一部と共に説明する。
【0036】
シリンダ201内における燃料の燃焼に際し、外部から吸入された空気は、図示せぬエアクリーナで浄化された後、吸気管206を通過し、吸気ポート209を介して吸気バルブ210の開弁時にシリンダ201内に吸入される。この際、シリンダ201内に吸入される吸入空気に係る吸入空気量は、図示せぬエアフローメータにより検出され、ECU100に電気信号として一定又は不定の出力タイミングで出力される構成となっている。
【0037】
吸気管206には、吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ207が配設されている。尚、スロットルバルブ207の開閉状態を表すスロットル開度は、ECU100と電気的に接続された図示せぬスロットルポジションセンサにより検出され、ECU100に一定又は不定のタイミングで出力される構成となっている。
【0038】
エンジン200で使用される燃料は、燃料タンク212に貯留されている。この燃料タンク212には、燃料タンク212に貯留される燃料の量を表す燃料残量を検出可能なフロート式の燃料量センサ217が設置されている。燃料量センサ217は、ECU100と電気的に接続されており、検出された燃料量は、ECU100により、一定又は不定のタイミングで把握される構成となっている。
【0039】
燃料タンク212に貯留される燃料は、インジェクタ211によって、シリンダ201内の燃焼室に直接噴射される。インジェクタ211を介した燃料の噴射に際しては、先ず燃料タンク212に貯留された燃料が、フィードポンプ214の作用によりデリバリパイプ213を介して燃料タンク212から汲み出され、高圧ポンプ215へ供給される。
【0040】
コモンレール216は、ECU100と電気的に接続され、上流側(即ち、高圧ポンプ215側)から供給される高圧燃料をECU100により設定される目標レール圧まで蓄積することが可能に構成された、高圧貯留手段である。尚、コモンレール216には、レール圧を検出することが可能なレール圧センサ及びレール圧が上限値を超えないように蓄積される燃料量を制限するプレッシャリミッタ等が配設されるが、ここではその図示を省略することとする。
【0041】
エンジン200における上述したインジェクタ211は、シリンダ201毎に搭載されており、夫々が高圧デリバリを介してコモンレール216に接続されている。ここで、インジェクタ211の構成について補足すると、インジェクタ211は、ECU100の指令に基づいて作動する電磁弁と、この電磁弁への通電時に燃料を噴射するノズル(いずれも不図示)とを備える。当該電磁弁は、コモンレール216の高圧燃料が印加される圧力室と、当該圧力室に接続された低圧側の低圧通路との間の連通状態を制御することが可能に構成されており、通電時に当該加圧室と低圧通路とを連通させると共に、通電停止時に当該加圧室と低圧通路とを相互に遮断する。
【0042】
一方、ノズルは、噴孔を開閉するニードルを内蔵し、圧力室の燃料圧力がニードルを閉弁方向(噴孔を閉じる方向)に付勢している。従って、電磁弁への通電により加圧室と低圧通路とが連通し、圧力室の燃料圧力が低下すると、ニードルがノズル内を上昇して開弁する(噴孔を開く)ことにより、コモンレール216より供給された高圧燃料を噴孔より噴射することが可能に構成される。また、電磁弁への通電停止により加圧室と低圧通路とが相互に遮断されて圧力室の燃料圧力が上昇すると、ニードルがノズル内を下降して閉弁することにより、噴射が終了する構成となっている。
【0043】
このようにしてシリンダ201内に噴射された燃料は、吸気バルブ210を介して吸入された吸入空気と混合され、上述した混合気となる。この混合気は、圧縮工程において自着火して燃焼し、燃焼済みガスとして、或いは一部未燃の混合気として、吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ218の開弁時に排気ポート219を介して排気管220に導かれる構成となっている。
【0044】
また、排気管220には、DPF(Diesel Particulate Filter)221が設置されている。DPF221は、エンジン200から排出されるスート(煤)或いはスモーク、及びPM(Particulate Matter:粒子状物質)を捕集可能且つ浄化可能に構成されている。尚、説明の煩雑化を防ぐ目的から図示を省略するが、エンジン200には、上記したセンサ以外にも各種のセンサが配されており、例えば、エンジン200の冷却水温を検出する水温センサ、エンジン200のノッキングレベルを検出するノックセンサ、吸入空気の温度たる吸気温を検出する吸気温センサ及び吸入空気の圧力たる吸気圧を検出する吸気圧センサ等が夫々検出対象毎に最適な位置に設置されている。
【0045】
次に、本実施形態に係る悪路判定装置の一例であるECU100の具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0046】
図2において、ECU100は、操作変化率検出部110と、正負反転回数検出部120と、悪路判定部130と、走行位置検出部140と、悪路判定結果記憶部150と、角速度検出部160と、失火・セタン価検出部170とを備えて構成されている。
【0047】
操作変化率検出部110は、本発明の「変化率検出手段」の一例であり、ブレーキペダルセンサ101(図1参照から)入力される情報に基づいて、ブレーキペダルの操作変化率を検出する。操作変化率は、例えばブレーキペダル踏下量の時間微分値として求めることができる。検出されたブレーキペダルの操作変化率は、正負反転回数検出部120へと出力される。
【0048】
正負反転回数検出部120は、本発明の「反転回数検出手段」の一例であり、操作変化率検出部110から伝達されるブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数を検出する。検出された正負反転回数は、悪路判定部130へと出力される。
【0049】
悪路判定部130は、本発明の「判定手段」の一例であり、正負反転回数検出部120において検出されたブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数に基づいて、車両が走行している道路が悪路であるか否かを判定する。具体的には、悪路判定部130は、正負反転回数が予め設定された所定値以上となった場合に悪路であると判定する。悪路であるか否かの判定結果は、悪路判定結果記憶部150及び失火・セタン価検出部170に夫々出力される。
【0050】
走行位置検出部140は、本発明の「走行位置検出手段」の一例であり、GPS102(図1参照)から入力される情報に基づいて、車両が現在走行している位置を検出する。検出された位置情報は、悪路判定結果記憶部150に出力される。
【0051】
悪路判定結果記憶部150は、本発明の「記憶手段」の一例であり、悪路判定部130によって悪路であると判定がなされた場合に、その際の車両の走行位置を悪路であるとして記憶するデータベースである。即ち、悪路判定結果記憶部150には、車両が走行したことのある悪路の位置情報が蓄積されていく。悪路判定結果記憶部150を利用することで、悪路判定部130は、ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数を用いずとも、悪路を走行中であるか否かの判定を行うことが可能となる。具体的には、悪路判定部130は、車両の走行位置が悪路判定結果記憶部150に記憶された悪路の位置と一致するか否かによって、悪路を走行中であるか否かを判定することが可能となる。
【0052】
角速度検出部160は、本発明の「角速度検出手段」の一例であり、クランクポジションセンサ205(図1参照)から出力されるクランク角信号に基づいて、クランクシャフト204の角速度(以下、適宜「クランク角速度」と称する)を検出する。角速度検出部160において検出されたクランク角速度は、失火・セタン価検出部170に出力される。
【0053】
失火・セタン価検出部170は、本発明の「燃焼状態検出手段」の一例であり、角速度検出部160において検出されたクランク角速度に基づいて、エンジン200における失火又はエンジン200に使用される燃料のセタン価を検出する。失火・セタン価検出部170は、例えばクランク角速度に対してフィルタリング処理を行い燃焼不安定性の指標となるエンジン200の回転0.5次振動の抽出することで、失火又はセタン価を検出する。検出された失火又はセタン価情報は外部に出力され、例えばエンジン200における燃料噴射制御等に用いられる。
【0054】
尚、本実施形態では特に、失火・セタン価検出部170における失火又はセタン価の検出動作が、悪路判定部130において悪路走行中と判定された場合に一時的に中断される。即ち、悪路判定部130は、本発明の「停止手段」としても機能する。
【0055】
上述した各部位を含んで構成されたECU100は、一体的に構成された電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記部位の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各部位は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0056】
<処理説明>
次に、本実施形態に係る悪路判定装置の動作について、図3を参照して説明する。ここに図3は、実施形態に係る悪路判定装置の動作を示すフローチャートである。
【0057】
図3において、本実施形態に係る悪路判定装置の動作時には、先ず操作変化率検出部110において、ブレーキペダルの操作変化率が検出される(ステップS101)。続いて、正負反転回数検出部120において、ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数が検出される(ステップS102)。正負反転回数は所定期間カウントされ続け、所定期間あたりの正負反転回数が所定値以上となった場合に(ステップS103:YES)、悪路判定部130で車両が走行している道路が悪路であると判定され、悪路判定フラグがONとされる(ステップS104)。一方、所定期間あたりの正負反転回数が所定値未満である場合には(ステップS103:NO)、悪路判定部130で車両が走行している道路が悪路でないと判定され、悪路判定フラグがOFFとされる(ステップS104)。
【0058】
ここで、通常走行時及び悪路走行時におけるブレーキペダルの操作変化率の違いを、図4及び図5を参照して説明する。ここに図4は、通常走行時におけるブレーキペダルの操作変化率の一例を示すグラフである。また図5は、悪路走行時におけるブレーキペダルの操作変化率の一例を示すグラフである。
【0059】
図4において、本願発明者の研究によれば、車両の通常走行時(即ち、悪路以外の道路を走行時)には、ブレーキペダルの操作変化率が、図に示すように変化することが判明している。即ち、ある一定期間におけるブレーキペダルの操作変化率は、ゼロを中心として正又は負のいずれか一方に偏るように振れる。
【0060】
一方、図5に示すように、車両の悪路走行時には、ある一定期間におけるブレーキペダルの操作変化率は、ゼロを中心として正及び負のいずれにも振れる。これは、悪路に起因する車両振動が運転者の足に伝わることで、意図せずともブレーキペダルを小刻みに振動させてしまうことに原因があると考えられる。
【0061】
以上の結果から、ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数は、通常走行時より悪路走行時の方が多くなると言える。よって、上述したように、正負反転回数を用いて悪路を走行中であるか否かを判定することが可能となる。
【0062】
次に、悪路であるか否かのより具体的な判定方法について、図6を参照して説明する。ここに図6は、悪路判定制御時の各種パラメータの変動を示すタイミングチャートである。
【0063】
図6において、悪路判定制御時には、ブレーキペダルの操作変化率に対応するパラメータとして、悪路判定カウンタ、ブレーキペダル操作変化率正値フラグ、反転エッジ検出カウンタ、悪路判定フラグの計4つのパラメータが用いられる。
【0064】
悪路判定カウンタは、ブレーキペダルの操作変化率が、「正」から「ゼロ」、「負」から「ゼロ」、「正」から「負」、「負」から「正」へと変化することをトリガとしてカウントアップを開始する。また悪路判定カウンタは、ブレーキペダルの操作変化率が、「ゼロ」から「正」、又は「ゼロ」から「負」へと変化し、且つ反転エッジカウンタが「ゼロ」である場合にリセットされる。悪路判定カウンタは更に、所定時間が経過した場合、及び反転エッジ検出カウンタが所定値以上となった場合にもリセットされる。
【0065】
ブレーキペダル操作変化率正値フラグは、ブレーキペダルの操作変化率が「正」である場合ONとされ、「負」である場合にOFFとされる。また、ブレーキペダル操作変化率正値フラグは、ブレーキペダルの操作変化率が「ゼロ」である場合に、前回の値を維持する。
【0066】
反転エッジ検出カウンタは、ブレーキペダル操作変化率正値フラグの変化を検出する度に1ずつカウントアップする。また、反転エッジ検出カウンタは、悪路判定カウンタのリセット時、及び反転エッジ検出カウンタが所定値以上となった場合にリセットされる。
【0067】
悪路判定フラグは、反転エッジ検出カウンタが所定値以上となった場合にONとされる(即ち、悪路であると判定される)。
【0068】
以下では、図6のようにブレーキペダルの操作変化率が変化した場合を例にとり、時系列で各パラメータの変化について説明する。
【0069】
先ず時刻t1では、ブレーキペダルの操作変化率が「正」から「ゼロ」となるため、悪路判定カウンタのカウントアップが開始される。
【0070】
時刻t2では、ブレーキペダルの操作変化率が「ゼロ」から「正」となり、且つ反転エッジ検出カウンタが「ゼロ」であるため、悪路判定カウンタがリセットされる。
【0071】
時刻t3では、ブレーキペダルの操作変化率が「正」から「ゼロ」となるため、再び悪路判定カウンタのカウントアップが開始される。
【0072】
時刻t4では、ブレーキペダルの操作変化率が「ゼロ」から「負」となるため、ブレーキペダル操作変化率正値フラグがOFFとされると共に、反転エッジ検出カウンタが1つカウントアップされる。
【0073】
時刻t5では、ブレーキペダルの操作変化率が「負」から「ゼロ」と変化するが、悪路判定カウンタのカウントアップは続行される。
【0074】
時刻t6では、ブレーキペダルの操作変化率に変化はないが、所定時間が経過したため、悪路判定カウンタがリセットされる。また、悪路判定カウンタのリセットに応じて、反転エッジ検出カウンタもリセットされる。
【0075】
時刻t7では、ブレーキペダルの操作変化率が「ゼロ」から「正」となるため、ブレーキペダル操作変化率正値フラグがONとされる。
【0076】
時刻t8では、ブレーキペダルの操作変化率が「正」から「負」となるため、再び悪路判定カウンタのカウントアップが開始される。また、ブレーキペダル操作変化率正値フラグがOFFとされると共に、反転エッジ検出カウンタが1つカウントアップされる。
【0077】
時刻t9では、ブレーキペダルの操作変化率が「負」から「ゼロ」と変化するが、悪路判定カウンタのカウントアップは続行される。
【0078】
時刻t10では、ブレーキペダルの操作変化率が「ゼロ」から「負」となるが、反転エッジ検出カウンタの値が1なので、悪路判定カウンタのカウントアップは続行される。
【0079】
時刻t11では、ブレーキペダルの操作変化率が「負」から「ゼロ」と変化するが、悪路判定カウンタのカウントアップは続行される。
【0080】
時刻t12では、ブレーキペダルの操作変化率が「ゼロ」から「正」となるため、ブレーキペダル操作変化率正値フラグがONとされと共に、反転エッジ検出カウンタが1つカウントアップされる。ここで、反転エッジ検出カウンタが所定値2以上となるため、悪路判定フラグがONとされる。これに伴い、悪路判定カウンタ及び反転エッジ検出カウンタがリセットされる。
【0081】
以上のように、悪路判定制御時には、ブレーキペダルの操作変化率の変化に応じて、悪路判定カウンタ、ブレーキペダル操作変化率正値フラグ、反転エッジ検出カウンタ、悪路判定フラグの4つのパラメータが夫々変動し、その結果として、車両が走行している道路が悪路であるか否かが判定される。
【0082】
尚、上述した悪路判定制御は一例であり、悪路判定カウンタ、ブレーキペダル操作変化率正値フラグ、反転エッジ検出カウンタ、悪路判定フラグを用いずとも、悪路の判定を行うことは可能である。
【0083】
図3に戻り、悪路判定フラグがONとされると、失火・セタン価検出許可フラグがOFFとされる(ステップS105)。即ち、失火・セタン価検出部170における失火及びセタン価の検出が一時的に中断される。一方で、悪路判定フラグがOFFとされると、失火・セタン価検出許可フラグがONとされる(ステップS107)。即ち、失火・セタン価検出部170における失火及びセタン価の検出が行われる。
【0084】
ここで、失火・セタン価検出部170による失火及びセタン価の検出は、上述したようにクランク角速度に基づいて行われるが、悪路走行中には、検出されるクランク角速度にノイズが発生する場合がある。具体的には、エンジン200と変速機が懸架系との共振周波数で振動することや、悪路の路面凹凸に起因して燃焼に依存しない回転変動がタイヤに発生し、この回転変動が伝達系を介してクランクシャフト204に伝わることによってノイズが発生する。このため、仮に悪路走行中に失火又はセタン価を検出しようとすると、ノイズに起因する誤検出が発生してしまうおそれがある。
【0085】
これに対し本実施形態では、悪路走行中には失火・セタン価検出部170による失火及びセタン価の検出が停止される。従って、失火又はセタン価が誤検出されてしまうことを防止することができる。
【0086】
尚、失火・セタン価検出部170による失火及びセタン価の検出は、車両が走行する道路が悪路でなくなったと判定された場合に再開されるが、ノイズの原因となるエンジン200や変速機の振動が減衰するまでには一定時間を要する場合もある。このため、悪路でないと判定されると同時に検出を再開するのではなく、悪路でないと判定されてから一定時間経過後に検出を再開する方が好ましい。このようにすれば、失火及びセタン価の検出にデジタルフィルタを用いることによる位相遅れにも対応することが可能となる。
【0087】
以上説明したように、本実施形態に係る悪路判定装置によれば、ブレーキペダルの操作変化率に基づいて、車両が走行する道路が悪路であるか否かの判定が行われる。これにより、容易且つ正確に悪路を判定することが可能である。また、車両が悪路を走行中と判定された場合には、失火及びセタン価の検出動作が停止される。これにより、失火及びセタン価の誤検出を防止することができる。
【0088】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う悪路判定装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
100…ECU、101…ブレーキペダルセンサ、102…GPS、110…操作変化率検出部、120…正負反転回数検出部、130…悪路判定部、140…走行位置検出部、150…悪路判定結果記憶部、160…角速度検出部、170…失火・セタン価検出部、200…エンジン、204…クランクシャフト、205…クランクポジションセンサ、211…インジェクタ、212…燃料タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるブレーキペダルの操作変化率を検出する変化率検出手段と、
前記ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数を検出する反転回数検出手段と、
前記ブレーキペダルの操作変化率の正負反転回数が所定値以上になった場合に、前記車両が悪路を走行していると判定する判定手段と
を備えることを特徴とする悪路判定装置。
【請求項2】
前記車両における内燃機関のクランク軸の角速度を検出する角速度検出手段と、
前記検出された角速度に基づいて、前記内燃機関における失火又は前記内燃機関に使用される燃料のセタン価を検出する燃焼状態検出手段と、
前記判定手段によって前記車両が悪路を走行していると判定された場合に、前記燃焼状態検出手段による前記失火及び前記セタン価の検出を停止する停止手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の悪路判定装置。
【請求項3】
前記車両の走行位置を検出する走行位置検出手段と、
前記判定手段によって悪路と判定された道路の位置情報を記憶する記憶手段と
を備え、
前記停止手段は、前記車両が前記記憶手段に記憶された悪路を走行している場合に、前記燃焼状態検出手段による前記失火及び前記セタン価の検出を停止する
ことを特徴とする請求項2に記載の悪路判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63735(P2013−63735A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204606(P2011−204606)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】