惰行制御装置
【課題】惰行制御の開始・終了が正確・円滑・快適に行われる惰行制御装置を提供する。
【解決手段】アクセル開度センサ信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値をアクセル開度とするアクセル開度検出部72と、アクセル開度の所定時間分を微分し、そのアクセル開度速度が開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部73と、惰行制御しきい線Tが設定された惰行制御判定マップ74と、惰行制御開始の判定が許可されており、惰行制御判定マップ74上で座標点が惰行制御しきい線Tをアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部75とを備える。
【解決手段】アクセル開度センサ信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値をアクセル開度とするアクセル開度検出部72と、アクセル開度の所定時間分を微分し、そのアクセル開度速度が開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部73と、惰行制御しきい線Tが設定された惰行制御判定マップ74と、惰行制御開始の判定が許可されており、惰行制御判定マップ74上で座標点が惰行制御しきい線Tをアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部75とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、惰行制御の開始・終了が正確・円滑・快適に行われる惰行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、クラッチが断のとき、アクセルペダルが踏み込まれると、アクセルが開かれてエンジンがいわゆる空ぶかしとなり、エンジン回転数は、アクセル開度に対応したエンジン回転数に落ち着く。このとき、エンジンが発生させた駆動力とエンジン内部抵抗(フリクション)とが均衡し、エンジン出力トルクは0である。すなわち、エンジンは、外部に対して全く仕事をせず、燃料が無駄に消費される。例えば、エンジン回転数が2000rpmで空ぶかしをしたとすると、運転者には大きなエンジン音が聞こえるので、相当な量の燃料が無駄に消費されていることが実感できる。
【0003】
エンジンが外部に対して仕事をしない状態は、前述したクラッチ断のときの空ぶかしに限らず、車両の走行中にも発生している。すなわち、エンジンは、空ぶかしのときと同じようにアクセル開度に対応したエンジン回転数で回転するだけで、車両の加速・減速に寄与しない。このとき、エンジンを回転させるためだけに燃料が消費されており、非常に無駄である。
【0004】
本出願人は、エンジンが回転はしているが外部に対して仕事をしないときに、クラッチを断にし、エンジンをアイドル状態に戻して燃料消費を抑える惰行制御を行う惰行制御装置を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−67175号公報
【特許文献2】特開2006−342832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の惰行制御では、運転者が加速の意志でアクセルを踏み込んでいるときにもクラッチが断にされる場合があり、運転者にとっては減速から加速に移行する時にトルク抜けが感じられ、違和感がある。
【0007】
そこで、本出願人は、アクセル開度とクラッチ回転数を指標とする惰行制御判定マップを作成し、この惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点があらかじめ設定された惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御装置を提案中である。
【0008】
ところで、アクセル開度は、アクセルペダルのストロークをセンサで検出したアナログ信号であるため、減少あるいは増加が長期的に継続する滑らかな変化をするとは限らず、センサのゆらぎやキャブ振動等の外的要因も影響して、減少と増加の小さな繰り返しが含まれる。したがって、このアクセル開度のアナログ信号の減少や増加をトリガにして惰行制御を開始・終了すると、惰行制御が遅延あるいは開始されない場合や、ハンチングが生じる場合や、運転者の意志とは違った状態で惰行制御が開始・終了される場合が発生する。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、惰行制御の開始・終了が正確・円滑・快適に行われる惰行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、所定時間ごとにアクセル開度センサの出力信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値を所定時間ごとのアクセル開度とするアクセル開度検出部と、アクセル開度の所定時間分を微分してアクセル開度速度を演算し、そのアクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部と、アクセル開度とクラッチ回転数を指標とし、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域とエンジン出力トルクが正となるプラス領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線に沿わせて惰行制御しきい線が設定された惰行制御判定マップと、上記惰行制御開始の判定が許可されており、上記惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部とを備えたものである。
【0011】
上記判定条件検出部は、アクセル開度の上記所定時間分より少ない所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可し、上記惰行制御判定マップは、上記マイナス領域と上記プラス領域との間に上記惰行制御しきい線を含む有限幅の惰行制御可能領域が設定され、上記惰行制御実行判定部は、惰行制御終了の判定が許可されており、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御可能領域から外に出たとき、惰行制御を終了してもよい。
【0012】
上記惰行制御実行判定部は、クラッチ回転数が下限しきい値を超えているときのみ、上記惰行制御を開始してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0014】
(1)惰行制御の開始・終了が正確・円滑・快適に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の惰行制御装置の演算を説明する図であり、(a)はアクセル開度の時間波形図、(b)〜(d)はアクセル開度の時間波形の部分図である。
【図2】本発明の惰行制御装置が図1(b)で説明した演算を行うための手順を示したフローチャートである。
【図3】本発明の惰行制御装置が図1(c)、図1(d)で説明した演算を行うための手順を示したフローチャートである。
【図4】本発明の惰行制御装置が適用される車両のクラッチシステムのブロック構成図である。
【図5】図4のクラッチシステムを実現するアクチュエータの構成図である。
【図6】本発明の惰行制御装置が適用される車両の入出力構成図である。
【図7】本発明の惰行制御装置のブロック構成図である。
【図8】惰行制御の概要を説明するための作動概念図である。
【図9】惰行制御判定マップのグラフイメージ図である。
【図10】惰行制御による燃費削減効果を説明するためのグラフである。
【図11】実際に惰行制御が行われた惰行制御判定マップの図である。
【図12】本出願人が提案中の惰行制御装置の演算を説明する図であり、(a)はアクセル開度の時間波形図、(b)は惰行制御判定マップ、(c)、(d)はアクセル開度の時間波形の部分図である。
【図13】本発明の効果を説明する図であり、(a)はデジタルサンプリングされたアクセル開度のグラフ、(b)は1サンプルごとの差分のグラフ、(c)は10サンプルごとの差分のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
本発明に係る惰行制御装置は、アクセル開度センサの出力信号の移動平均値をアクセル開度とする点と、アクセル開度の比較的長い所定時間分を微分してアクセル開度速度(以下、長時間アクセル開度速度という)を演算し、その長時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可し、アクセル開度の比較的短い所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可する点に特徴を有する。
【0018】
図1(a)に示されるように、アクセル開度センサの出力信号の移動平均値として求めたアクセル開度の時間波形11は、減少と増加の小さな繰り返しが含まれない比較的円滑な波形となる。なお、縦の破線は1サンプリング周期Δtごとの時間区切りを示している。
【0019】
図示した時間波形11(移動平均値であるアクセル開度)において、アクセル開度が最も大きくなった状態から説明すると、最初はアクセル開度が緩やかに減少し(円A1内)、その後急速に減少し(円A2内)、ほぼ0に至っている。この移動平均値であるアクセル開度について、2種類の時間単位を用いて微分を行う。すなわち、長い時間単位での微分として、長い所定時間分(例えば1000ms分)にわたりアクセル開度を微分する。短い時間単位での微分として、短い所定時間分(例えば100ms分)にわたりアクセル開度を微分する。
【0020】
図1(b)に示されるように、アクセル開度の長い所定時間分を微分して得られた長時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、つまり、グラフ上で所定サンプリング周期(図では9サンプリング周期)にわたる傾斜について、傾斜が右下がりであって傾斜の傾きがしきい値(図示せず)より緩くなったとき、惰行制御開始の判定を許可する。
【0021】
図1(c)に示されるように、アクセル開度の短い所定時間分を微分して得られた短時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、つまり、グラフ上で所定サンプリング周期(図では1サンプリング周期)にわたる傾斜について、傾斜が右下がりであって傾斜の傾きがしきい値(図示せず)よりきつくなったとき、惰行制御終了の判定を許可する。
【0022】
図1(d)に示されるように、アクセル開度の比較的短い所定時間分を微分して得られた短時間アクセル開度速度が正であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、つまり、グラフ上で所定サンプリング周期(図では1サンプリング周期)にわたる傾斜について、傾斜が右上がりであって傾斜の傾きがしきい値(図示せず)よりきつくなったとき、惰行制御終了の判定を許可する。
【0023】
以上説明したように、本発明に係る惰行制御装置は、
(1)アクセル開度センサの出力信号のデジタルサンプリングデータをそのままアクセル開度とするのではなく、デジタルサンプリングデータについて所定の時間間隔で移動平均演算し、移動平均値をアクセル開度とする。
【0024】
(2)移動平均演算で得たアクセル開度を比較的長い所定時間分と比較的短い所定時間分で微分して2種類のアクセル開度速度とする。
【0025】
(3)長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する。
【0026】
(4)短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可する。
という制御を行うものである。
【0027】
図1で説明した条件検出は、図2、図3の手順で実現される。
【0028】
図2に示されるように、惰行制御開始判定に移行するための手順は、惰行制御中かどうかを判定するステップS21、惰行制御中でないとき長時間アクセル開度速度を演算するステップS22、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さい(符号が負で絶対値が開始基準値より小さい)かどうかを判定するステップS23、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さいとき惰行制御開始判定に移行するステップS24を有する。
【0029】
図2の手順により、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さくないときは後述する惰行制御判定マップによる惰行制御開始の判定は行われることがなく、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さくなったときのみ惰行制御開始の判定が有効となる。
【0030】
図3に示されるように、惰行制御終了判定に移行するための手順は、惰行制御中かどうかを判定するステップS31、惰行制御中のとき短時間アクセル開度速度を演算するステップS32、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きい(符号に関係なく絶対値が終了基準値より大きい)かどうかを判定するステップS33、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きいとき惰行制御終了判定に移行するステップS34を有する。
【0031】
図3の手順により、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きくないときは惰行制御判定マップによる惰行制御終了の判定は行われることがなく、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きくなったときのみ惰行制御終了の判定が有効となる。
【0032】
以下、本発明の惰行制御装置を搭載する車両について説明する。
【0033】
図4に示されるように、車両のクラッチシステム41は、マニュアル式とECU制御による自動式との両立方式である。クラッチペダル42に機械的に連結されたクラッチマスターシリンダ43は、クラッチフリーオペレーティングシリンダ44に動作油を供給するようになっている。一方、ECU(図示せず)で制御されるクラッチフリーアクチュエータユニット45もまた、クラッチフリーオペレーティングシリンダ44に動作油を供給するようになっている。クラッチフリーオペレーティングシリンダ44は、クラッチスレーブシリンダ46に動作油を供給するようになっている。クラッチスレーブシリンダ46のピストン47がクラッチ48の可動部に機械的に連結されている。
【0034】
図5に示されるように、図4のクラッチフリーオペレーティングシリンダ44である中間シリンダ51、クラッチフリーアクチュエータユニット45を構成するソレノイドバルブ52、リリーフバルブ53、油圧ポンプ54がクラッチフリーアクチュエータ55に設けられる。中間シリンダ51は、プライマリピストン56とセカンダリピストン57とが直列配置されており、クラッチマスターシリンダ43からの動作油によりプライマリピストン56がストロークすると、セカンダリピストン57が随伴してストロークするようになっている。また、クラッチフリーアクチュエータユニット45からの動作油によりセカンダリピストン57がストロークするようになっている。セカンダリピストン57のストロークに応じてクラッチスレーブシリンダ46に動作油が供給されるようになっている。この構成により、マニュアル操作が行われたときには、優先的にマニュアル操作どおりのクラッチ断・接が実行され、マニュアル操作が行われていないときにはECU制御どおりのクラッチ断・接が実行される。
【0035】
なお、本発明の惰行制御装置は、マニュアル式のない自動式のみのクラッチシステムにも適用できる。
【0036】
図6に示されるように、車両には、主として変速機・クラッチを制御するECU61と、主としてエンジンを制御するECM62が設けられる。ECU61には、シフトノブスイッチ、変速機のシフトセンサ、セレクトセンサ、ニュートラルスイッチ、T/M回転センサ、車速センサ、アイドルスイッチ、マニュアル切替スイッチ、パーキングブレーキスイッチ、ドアスイッチ、ブレーキスイッチ、半クラッチ調整スイッチ、クラッチセンサ、油圧スイッチの各入力信号線が接続されている。また、ECU61には、クラッチシステム41の油圧ポンプ54のモータ、ソレノイドバルブ、坂道発進補助用バルブ、ウォーニング&メータの各出力信号線が接続されている。ECM62には、図示しないがエンジン制御に利用される各種の入力信号線と出力信号線が接続されている。ECM62は、エンジン回転数、アクセル開度、エンジン回転変更要求の各信号をCAN(Controller Area Network;車載ネットワーク)の伝送路を介してECU61に送信することができる。なお、本発明で使用するクラッチ回転数は、クラッチのドリブン側の回転数であり、トランスミッションのインプットシャフトの回転数と同一である。そこで、図示しないクラッチ回転数センサがインプットシャフトからクラッチ回転数を検出する。
【0037】
図7に示されるように、本発明に係る惰行制御装置71は、所定時間ごとにアクセル開度センサの出力信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値を所定時間ごとのアクセル開度とするアクセル開度検出部72と、アクセル開度の所定時間分を微分してアクセル開度速度を演算し、そのアクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部73と、アクセル開度とクラッチ回転数を指標とし、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域とエンジン出力トルクが正となるプラス領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線に沿わせて惰行制御しきい線が設定された惰行制御判定マップ74と、上記惰行制御開始の判定が許可されており、上記惰行制御判定マップ74上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部75とを備える。
【0038】
判定条件検出部73は、アクセル開度の上記所定時間分より少ない所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可するようになっている。
【0039】
惰行制御判定マップ74は、上記マイナス領域と上記プラス領域との間に上記惰行制御しきい線を含む有限幅の惰行制御可能領域が設定され、上記惰行制御実行判定部は、惰行制御終了の判定が許可されており、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御可能領域から外に出たとき、惰行制御を終了するようになっている。
【0040】
惰行制御実行判定部75は、クラッチ回転数が下限しきい値を超えているときのみ、上記惰行制御を開始するようになっている。
【0041】
惰行制御装置71を構成するアクセル開度検出部72、判定条件検出部73、惰行制御判定マップ74、惰行制御実行判定部75は、例えば、ECU61に搭載されるのが好ましい。
【0042】
以下、本発明の惰行制御装置71の動作を説明する。
【0043】
図8により、惰行制御の作動概念を説明する。横軸は時間と制御の流れを示し、縦軸はエンジン回転数を示す。アクセルペダル81が大きく踏み込まれてアクセル開度が70%の状態が継続する間、エンジン回転数82が上昇し、車両が加速される。エンジン回転数82が安定し、アクセルペダル81の踏み込みが小さくなりアクセル開度が35%になったとき後述する惰行制御開始条件が成立したとする。惰行制御開始により、クラッチが断に制御され、エンジン回転数82がアイドル回転数に制御される。その後、アクセルペダルの踏み込みがなくなってアクセル開度が0%になるか又はその他の惰行制御終了条件が成立したとする。惰行制御終了により、エンジンが回転合わせ制御され、クラッチが接に制御される。この例では、アクセル開度が0%であるので、エンジンブレーキの状態となり、車両は減速される。
【0044】
惰行制御が行われなかったとすると、惰行制御の実行期間の間、破線のようにエンジン回転数が高いまま維持されることになるので、燃料が無駄に消費されるが、惰行制御が行われることで、エンジン回転数82がアイドル回転数となり燃料が節約される。
【0045】
図9に惰行制御判定マップ74をグラフイメージで示す。
【0046】
惰行制御判定マップ74は、あらかじめエンジン2についてアクセル開度とクラッチ回転数の相関をクラッチ断の状態にて計測して作成される。
【0047】
図9に示されるように、惰行制御判定マップ74は、横軸をアクセル開度とし、縦軸をクラッチ回転数とするマップである。惰行制御判定マップ74は、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域Mと、エンジン出力トルクが正となるプラス領域Pとに分けることができる。すなわち、マイナス領域Mは、エンジン要求トルクよりもエンジンのフリクションが大きく、エンジン出力トルクが負となる領域である。プラス領域Pは、エンジン要求トルクがエンジンのフリクションよりも大きいため、エンジン出力トルクが正となる領域である。マイナス領域Mとプラス領域Pの境界となるエンジン出力トルクゼロ線Zは、背景技術で述べたようにエンジンが外部に対して仕事をせず、燃料が無駄に消費されている状態を示している。
【0048】
本実施形態では、惰行制御判定マップ74のエンジン出力トルクゼロ線Zよりやや左(アクセル開度が小さい側)に惰行制御しきい線Tが設定される。
【0049】
惰行制御判定マップ74には、マイナス領域Mとプラス領域Pとの間に惰行制御しきい線Tを含む有限幅の惰行制御可能領域CAが設定される。
【0050】
惰行制御判定マップ74には、クラッチ回転数の下限しきい線Uが設定されている。下限しきい線Uは、アクセル開度とは無関係にクラッチ回転数の下限しきい値を規定したものである。下限しきい線Uは、アイドル状態におけるクラッチ回転数よりも図示のようにやや上に設定される。
【0051】
惰行制御装置71は、次の4つの惰行開始条件が全て成立したとき、惰行制御を開始するようになっている。
【0052】
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲内
(2)惰行制御判定マップ74において惰行制御しきい線Tをアクセル戻し方向で通過
(3)惰行制御判定マップ74へのプロット点が惰行制御可能領域CA内
(4)惰行制御判定マップ74においてエンジン回転数が下限しきい線U以上
惰行制御装置71は、次の2つの惰行終了条件がひとつでも成立したとき、惰行制御を終了するようになっている。
【0053】
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲外
(2)惰行制御判定マップ74へのプロット点が惰行制御可能領域CA外
惰行開始条件の(1)は、長時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値が開始基準値より小さいことを意味する。また、惰行終了条件の(1)は、短時間アクセル開度速度の絶対値が終了基準値より大きいことを意味する。
【0054】
次に、本発明の特徴である移動平均値、長時間アクセル開度速度、短時間アクセル開度速度を用いない場合について、惰行制御装置71の動作を説明する。
【0055】
惰行制御実行判定部75は、ECM62がエンジンに出力したアクセル開度と、クラッチ回転数センサが検出したクラッチ回転数とを常に監視し、図9の惰行制御判定マップ74上に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。時間の経過に伴い座標点が移動する。このとき、座標点が惰行制御可能領域CA内に存在する場合、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始するか否かの判定を行うようになる。座標点が惰行制御可能領域CA内に存在しない場合、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始するか否かの判定を行わない。
【0056】
次に、座標点が惰行制御しきい線Tをアクセル開度が減少する方向に通過すると、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始する。すなわち、惰行制御装置71は、クラッチを断に制御すると共に、アクセル開度を0%に制御する。これにより、クラッチは断となり、エンジンはアイドル状態になる。
【0057】
図9に座標点の移動方向を矢印で示したように、アクセル開度が減少する方向とは、図示左方向である。もし、座標点が惰行制御しきい線Tを通過しても、座標点の移動方向が図示右方向の成分を有する場合、アクセル開度は増加するので、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始しない。
【0058】
惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始した後も、アクセル開度とクラッチ回転数とを常に監視し、惰行制御判定マップ74に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。座標点が惰行制御可能領域CAから外に出たとき、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を終了する。これにより、エンジンにはアクセルセンサが検出した踏み込み量に応じてECM62が決定したアクセル開度が与えられ、クラッチは接となる。
【0059】
以上の動作により、アクセルペダルが踏み込み側に操作されているときは、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線Tを通過しても惰行制御が開始されず、アクセルペダルが戻し側に操作されているときのみ、座標点が惰行制御しきい線Tを通過することで惰行制御が開始されるので、運転者は、違和感がなくなる。
【0060】
惰行制御実行判定部75は、座標点が下限しきい線Uよりも下に存在する(クラッチ回転数が下限しきい値より低い)ときは、惰行制御を開始しない。これは、エンジンがアイドル状態のときにクラッチを断にしても燃料消費を抑える効果が多くは期待できないからである。よって、惰行制御実行判定部75は、座標点が下限しきい線Uよりも上に存在するときのみ、惰行制御を開始することになる。
【0061】
図10により、惰行制御による燃費削減効果を説明する。
【0062】
まず、惰行制御を行わないものとする。エンジン回転数は、約30sから約200sまでの間、1600〜1700rpmの範囲で遷移しており、約200sから約260sまでの間に、約1700rpmから約700rpm(アイドル回転数)へ低下している。
【0063】
エンジントルクは、約30sから約100sまでの間に増加しているが、その後、減少に転じ、約150sまで減少を続けている。エンジントルクは、約150sから約160sまでほぼ0Nmであり、約160sから約200sまでの間に増加するが、約200sにてほぼ0Nmになる。結果的に、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間は、約150sから約160sまで(楕円B1)、約200sから約210sまで(楕円B2)、約220sから約260sまで(楕円B3)の3箇所である。
【0064】
燃料消費量(縦軸目盛りなし;便宜上、エンジントルクと重なるように配置してある)は、約50sから約200sまではエンジントルクの遷移にほぼ随伴して変化している。エンジントルクがほぼ0Nmであっても、燃料消費量は0ではない。
【0065】
ここで、惰行制御を行うものとすると、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間において、エンジン回転数がアイドル回転数に制御されることになる。グラフには、惰行制御を行わないエンジン回転数の線(実線)から別れるように惰行制御時のエンジン回転数の線(太い実線)が示される。惰行制御は、楕円B1,B2,B3の3回にわたり実行された。この惰行制御が行われた期間における燃料消費量は、惰行制御を行わない場合の燃料消費量を下回っており、燃料消費が節約されたことが分かる。
【0066】
図11に、実際に惰行制御が行われた惰行制御判定マップ111を示す。各点は、実際に検出されたアクセル開度とクラッチ回転数の点を示す。惰行制御判定マップ111には、マイナス領域M、プラス領域P、惰行制御しきい線T、惰行制御可能領域CAが設定されている。
【0067】
次に、図12を用いて課題を考察する。
【0068】
図12(a)に示されるように、惰行制御装置71は、アナログ信号であるアクセルペダルの踏み込み量121を所定のサンプリング周期Δt(例えば、32ms)ごとにデジタル変換し、アクセル開度(注;移動平均をしていないアクセル開度)として取り込む。円C1において、2つの黒点で示すように、1サンプリング周期Δt間にアクセル開度がやや減少している。また、楕円C2において、2つの黒点で示すように、1サンプリング周期Δt間にアクセル開度が大きく減少している。
【0069】
いま、この円C1内のデータ変化が、図12(b)の惰行制御判定マップ122において円C3に示したように、惰行制御開始条件を成立させる変化であったとすると、惰行制御が開始される。一方、楕円C2内のデータ変化が、図12(b)の惰行制御判定マップ121において円C4に示したように、惰行制御終了条件を成立させる変化であったとすると、惰行制御が終了される。
【0070】
ここで、図12(c)のように、サンプリング周期Δtを顕著に長くしてみると、1サンプリング周期Δt内にアクセルペダルの踏み込み量121が変化しており、例えば、円C5において惰行制御開始条件が成立している。しかし、次のサンプリングまで惰行制御装置は、惰行制御開始条件の成立を認識することができない。このように、あまり大雑把にサンプリングを行うと、惰行制御の開始が時間的に遅れたり、条件の成立を見落としたりすることになる。
【0071】
一方、図12(d)のように、アクセルペダルの踏み込み量121の時間的変化の速さに対してサンプリング周期Δtが比較的短いと、比較的短時間に踏み込み量121の減少や増加があるときに、惰行制御開始条件が成立(円C6)してから、直後に惰行制御終了条件が成立(円C7)し、その直後に惰行制御開始条件が成立(円C8)するという状況が生じる。このように、あまり細かにサンプリングを行ったために、各条件の成立が過多となり、ハンチングを起こす。
【0072】
本発明の惰行制御装置71は、図12で説明した課題を解決するために、図1で説明した、
(1)アクセル開度センサの出力信号のデジタルサンプリングデータをそのままアクセル開度とするのではなく、デジタルサンプリングデータについて所定の時間間隔で移動平均演算し、移動平均値をアクセル開度とする。
【0073】
(2)移動平均演算で得たアクセル開度を比較的長い所定時間分と比較的短い所定時間分で微分して2種類のアクセル開度速度とする。
【0074】
(3)長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する。
【0075】
(4)短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可する。
という制御を採用した。
【0076】
これにより、次のような効果が得られる。
【0077】
(1)移動平均の実施により、アクセル開度のノイズ成分(キャブ振動や路面入力による)を除去でき、安定した惰行制御の開始・終了が可能となる。
【0078】
(2)惰行制御開始の判定への移行、惰行制御終了の判定への移行を、アクセル開度速度により判定するため、惰行制御の見落としや終了遅れが発生し難くなる。
【0079】
(3)惰行制御開始の条件判定に用いるアクセル開度速度の演算時間と惰行制御終了の判定条件に用いるアクセル開度速度の演算時間とを異ならせたので、双方の条件成立にヒステリシスを設けることができ、ハンチングが防止される。
【0080】
(4)惰行制御開始の条件判定に長い所定時間分の微分を使用するので、不必要な(又は効果が少ない)惰行制御の開始を防止することができる。
【0081】
図13により、本発明の効果を説明する。
【0082】
図13(a)に示されるように、アクセル開度センサの出力信号のデジタルサンプリングデータの移動平均値がアクセル開度131としてECU61に読み込まれる。アクセル開度131は、図示のように階段状に漸増するが、アクセル開度131の増加の程度は緩やかである。縦軸に目盛りは付さないが、アクセル開度131の増加は2サンプリング周期に1程度である。
【0083】
図13(b)に示されるように、アクセル開度131を1サンプリング周期ごとに差分(あるサンプリング周期のデータとすぐ次のサンプリング周期のデータとの差を求める)してアクセル開度速度132を求めると、アクセル開度速度132は0か1の値をとる。ここで、アクセル開度速度にしきい値133を設けてアクセル開度の緩やかな増加(緩やかな減少でも同様)によるグラフの傾斜を検出しようとすると、しきい値133は0か1とせざるを得ない。しきい値133を所望する値に設定できないため、アクセル開度の傾斜を判定する自由度が著しく制限される。
【0084】
図13(c)に示されるように、アクセル開度131を10サンプリング周期ごとに差分(あるサンプリング周期のデータと10サンプリング周期後のデータとの差を求める)してアクセル開度速度134を求めると、アクセル開度131の増加が緩やかであっても、アクセル開度速度134は1より十分に大きい値となる。これにより、実際のアクセル開度速度(アクセルペダルが操作される速度)と正しく比例するアクセル開度速度134が得られる。また、しきい値135を設定できる数値範囲が広くなるので、しきい値135を所望する値に設定できる。
【符号の説明】
【0085】
61 ECU
62 ECM
71 惰行制御装置
72 アクセル開度検出部
73 判定条件検出部
74 惰行制御判定マップ
75 惰行制御実行判定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、惰行制御の開始・終了が正確・円滑・快適に行われる惰行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、クラッチが断のとき、アクセルペダルが踏み込まれると、アクセルが開かれてエンジンがいわゆる空ぶかしとなり、エンジン回転数は、アクセル開度に対応したエンジン回転数に落ち着く。このとき、エンジンが発生させた駆動力とエンジン内部抵抗(フリクション)とが均衡し、エンジン出力トルクは0である。すなわち、エンジンは、外部に対して全く仕事をせず、燃料が無駄に消費される。例えば、エンジン回転数が2000rpmで空ぶかしをしたとすると、運転者には大きなエンジン音が聞こえるので、相当な量の燃料が無駄に消費されていることが実感できる。
【0003】
エンジンが外部に対して仕事をしない状態は、前述したクラッチ断のときの空ぶかしに限らず、車両の走行中にも発生している。すなわち、エンジンは、空ぶかしのときと同じようにアクセル開度に対応したエンジン回転数で回転するだけで、車両の加速・減速に寄与しない。このとき、エンジンを回転させるためだけに燃料が消費されており、非常に無駄である。
【0004】
本出願人は、エンジンが回転はしているが外部に対して仕事をしないときに、クラッチを断にし、エンジンをアイドル状態に戻して燃料消費を抑える惰行制御を行う惰行制御装置を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−67175号公報
【特許文献2】特開2006−342832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の惰行制御では、運転者が加速の意志でアクセルを踏み込んでいるときにもクラッチが断にされる場合があり、運転者にとっては減速から加速に移行する時にトルク抜けが感じられ、違和感がある。
【0007】
そこで、本出願人は、アクセル開度とクラッチ回転数を指標とする惰行制御判定マップを作成し、この惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点があらかじめ設定された惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御装置を提案中である。
【0008】
ところで、アクセル開度は、アクセルペダルのストロークをセンサで検出したアナログ信号であるため、減少あるいは増加が長期的に継続する滑らかな変化をするとは限らず、センサのゆらぎやキャブ振動等の外的要因も影響して、減少と増加の小さな繰り返しが含まれる。したがって、このアクセル開度のアナログ信号の減少や増加をトリガにして惰行制御を開始・終了すると、惰行制御が遅延あるいは開始されない場合や、ハンチングが生じる場合や、運転者の意志とは違った状態で惰行制御が開始・終了される場合が発生する。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、惰行制御の開始・終了が正確・円滑・快適に行われる惰行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、所定時間ごとにアクセル開度センサの出力信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値を所定時間ごとのアクセル開度とするアクセル開度検出部と、アクセル開度の所定時間分を微分してアクセル開度速度を演算し、そのアクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部と、アクセル開度とクラッチ回転数を指標とし、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域とエンジン出力トルクが正となるプラス領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線に沿わせて惰行制御しきい線が設定された惰行制御判定マップと、上記惰行制御開始の判定が許可されており、上記惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部とを備えたものである。
【0011】
上記判定条件検出部は、アクセル開度の上記所定時間分より少ない所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可し、上記惰行制御判定マップは、上記マイナス領域と上記プラス領域との間に上記惰行制御しきい線を含む有限幅の惰行制御可能領域が設定され、上記惰行制御実行判定部は、惰行制御終了の判定が許可されており、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御可能領域から外に出たとき、惰行制御を終了してもよい。
【0012】
上記惰行制御実行判定部は、クラッチ回転数が下限しきい値を超えているときのみ、上記惰行制御を開始してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0014】
(1)惰行制御の開始・終了が正確・円滑・快適に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の惰行制御装置の演算を説明する図であり、(a)はアクセル開度の時間波形図、(b)〜(d)はアクセル開度の時間波形の部分図である。
【図2】本発明の惰行制御装置が図1(b)で説明した演算を行うための手順を示したフローチャートである。
【図3】本発明の惰行制御装置が図1(c)、図1(d)で説明した演算を行うための手順を示したフローチャートである。
【図4】本発明の惰行制御装置が適用される車両のクラッチシステムのブロック構成図である。
【図5】図4のクラッチシステムを実現するアクチュエータの構成図である。
【図6】本発明の惰行制御装置が適用される車両の入出力構成図である。
【図7】本発明の惰行制御装置のブロック構成図である。
【図8】惰行制御の概要を説明するための作動概念図である。
【図9】惰行制御判定マップのグラフイメージ図である。
【図10】惰行制御による燃費削減効果を説明するためのグラフである。
【図11】実際に惰行制御が行われた惰行制御判定マップの図である。
【図12】本出願人が提案中の惰行制御装置の演算を説明する図であり、(a)はアクセル開度の時間波形図、(b)は惰行制御判定マップ、(c)、(d)はアクセル開度の時間波形の部分図である。
【図13】本発明の効果を説明する図であり、(a)はデジタルサンプリングされたアクセル開度のグラフ、(b)は1サンプルごとの差分のグラフ、(c)は10サンプルごとの差分のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
本発明に係る惰行制御装置は、アクセル開度センサの出力信号の移動平均値をアクセル開度とする点と、アクセル開度の比較的長い所定時間分を微分してアクセル開度速度(以下、長時間アクセル開度速度という)を演算し、その長時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可し、アクセル開度の比較的短い所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可する点に特徴を有する。
【0018】
図1(a)に示されるように、アクセル開度センサの出力信号の移動平均値として求めたアクセル開度の時間波形11は、減少と増加の小さな繰り返しが含まれない比較的円滑な波形となる。なお、縦の破線は1サンプリング周期Δtごとの時間区切りを示している。
【0019】
図示した時間波形11(移動平均値であるアクセル開度)において、アクセル開度が最も大きくなった状態から説明すると、最初はアクセル開度が緩やかに減少し(円A1内)、その後急速に減少し(円A2内)、ほぼ0に至っている。この移動平均値であるアクセル開度について、2種類の時間単位を用いて微分を行う。すなわち、長い時間単位での微分として、長い所定時間分(例えば1000ms分)にわたりアクセル開度を微分する。短い時間単位での微分として、短い所定時間分(例えば100ms分)にわたりアクセル開度を微分する。
【0020】
図1(b)に示されるように、アクセル開度の長い所定時間分を微分して得られた長時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、つまり、グラフ上で所定サンプリング周期(図では9サンプリング周期)にわたる傾斜について、傾斜が右下がりであって傾斜の傾きがしきい値(図示せず)より緩くなったとき、惰行制御開始の判定を許可する。
【0021】
図1(c)に示されるように、アクセル開度の短い所定時間分を微分して得られた短時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、つまり、グラフ上で所定サンプリング周期(図では1サンプリング周期)にわたる傾斜について、傾斜が右下がりであって傾斜の傾きがしきい値(図示せず)よりきつくなったとき、惰行制御終了の判定を許可する。
【0022】
図1(d)に示されるように、アクセル開度の比較的短い所定時間分を微分して得られた短時間アクセル開度速度が正であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、つまり、グラフ上で所定サンプリング周期(図では1サンプリング周期)にわたる傾斜について、傾斜が右上がりであって傾斜の傾きがしきい値(図示せず)よりきつくなったとき、惰行制御終了の判定を許可する。
【0023】
以上説明したように、本発明に係る惰行制御装置は、
(1)アクセル開度センサの出力信号のデジタルサンプリングデータをそのままアクセル開度とするのではなく、デジタルサンプリングデータについて所定の時間間隔で移動平均演算し、移動平均値をアクセル開度とする。
【0024】
(2)移動平均演算で得たアクセル開度を比較的長い所定時間分と比較的短い所定時間分で微分して2種類のアクセル開度速度とする。
【0025】
(3)長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する。
【0026】
(4)短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可する。
という制御を行うものである。
【0027】
図1で説明した条件検出は、図2、図3の手順で実現される。
【0028】
図2に示されるように、惰行制御開始判定に移行するための手順は、惰行制御中かどうかを判定するステップS21、惰行制御中でないとき長時間アクセル開度速度を演算するステップS22、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さい(符号が負で絶対値が開始基準値より小さい)かどうかを判定するステップS23、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さいとき惰行制御開始判定に移行するステップS24を有する。
【0029】
図2の手順により、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さくないときは後述する惰行制御判定マップによる惰行制御開始の判定は行われることがなく、長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さくなったときのみ惰行制御開始の判定が有効となる。
【0030】
図3に示されるように、惰行制御終了判定に移行するための手順は、惰行制御中かどうかを判定するステップS31、惰行制御中のとき短時間アクセル開度速度を演算するステップS32、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きい(符号に関係なく絶対値が終了基準値より大きい)かどうかを判定するステップS33、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きいとき惰行制御終了判定に移行するステップS34を有する。
【0031】
図3の手順により、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きくないときは惰行制御判定マップによる惰行制御終了の判定は行われることがなく、短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きくなったときのみ惰行制御終了の判定が有効となる。
【0032】
以下、本発明の惰行制御装置を搭載する車両について説明する。
【0033】
図4に示されるように、車両のクラッチシステム41は、マニュアル式とECU制御による自動式との両立方式である。クラッチペダル42に機械的に連結されたクラッチマスターシリンダ43は、クラッチフリーオペレーティングシリンダ44に動作油を供給するようになっている。一方、ECU(図示せず)で制御されるクラッチフリーアクチュエータユニット45もまた、クラッチフリーオペレーティングシリンダ44に動作油を供給するようになっている。クラッチフリーオペレーティングシリンダ44は、クラッチスレーブシリンダ46に動作油を供給するようになっている。クラッチスレーブシリンダ46のピストン47がクラッチ48の可動部に機械的に連結されている。
【0034】
図5に示されるように、図4のクラッチフリーオペレーティングシリンダ44である中間シリンダ51、クラッチフリーアクチュエータユニット45を構成するソレノイドバルブ52、リリーフバルブ53、油圧ポンプ54がクラッチフリーアクチュエータ55に設けられる。中間シリンダ51は、プライマリピストン56とセカンダリピストン57とが直列配置されており、クラッチマスターシリンダ43からの動作油によりプライマリピストン56がストロークすると、セカンダリピストン57が随伴してストロークするようになっている。また、クラッチフリーアクチュエータユニット45からの動作油によりセカンダリピストン57がストロークするようになっている。セカンダリピストン57のストロークに応じてクラッチスレーブシリンダ46に動作油が供給されるようになっている。この構成により、マニュアル操作が行われたときには、優先的にマニュアル操作どおりのクラッチ断・接が実行され、マニュアル操作が行われていないときにはECU制御どおりのクラッチ断・接が実行される。
【0035】
なお、本発明の惰行制御装置は、マニュアル式のない自動式のみのクラッチシステムにも適用できる。
【0036】
図6に示されるように、車両には、主として変速機・クラッチを制御するECU61と、主としてエンジンを制御するECM62が設けられる。ECU61には、シフトノブスイッチ、変速機のシフトセンサ、セレクトセンサ、ニュートラルスイッチ、T/M回転センサ、車速センサ、アイドルスイッチ、マニュアル切替スイッチ、パーキングブレーキスイッチ、ドアスイッチ、ブレーキスイッチ、半クラッチ調整スイッチ、クラッチセンサ、油圧スイッチの各入力信号線が接続されている。また、ECU61には、クラッチシステム41の油圧ポンプ54のモータ、ソレノイドバルブ、坂道発進補助用バルブ、ウォーニング&メータの各出力信号線が接続されている。ECM62には、図示しないがエンジン制御に利用される各種の入力信号線と出力信号線が接続されている。ECM62は、エンジン回転数、アクセル開度、エンジン回転変更要求の各信号をCAN(Controller Area Network;車載ネットワーク)の伝送路を介してECU61に送信することができる。なお、本発明で使用するクラッチ回転数は、クラッチのドリブン側の回転数であり、トランスミッションのインプットシャフトの回転数と同一である。そこで、図示しないクラッチ回転数センサがインプットシャフトからクラッチ回転数を検出する。
【0037】
図7に示されるように、本発明に係る惰行制御装置71は、所定時間ごとにアクセル開度センサの出力信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値を所定時間ごとのアクセル開度とするアクセル開度検出部72と、アクセル開度の所定時間分を微分してアクセル開度速度を演算し、そのアクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部73と、アクセル開度とクラッチ回転数を指標とし、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域とエンジン出力トルクが正となるプラス領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線に沿わせて惰行制御しきい線が設定された惰行制御判定マップ74と、上記惰行制御開始の判定が許可されており、上記惰行制御判定マップ74上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部75とを備える。
【0038】
判定条件検出部73は、アクセル開度の上記所定時間分より少ない所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可するようになっている。
【0039】
惰行制御判定マップ74は、上記マイナス領域と上記プラス領域との間に上記惰行制御しきい線を含む有限幅の惰行制御可能領域が設定され、上記惰行制御実行判定部は、惰行制御終了の判定が許可されており、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御可能領域から外に出たとき、惰行制御を終了するようになっている。
【0040】
惰行制御実行判定部75は、クラッチ回転数が下限しきい値を超えているときのみ、上記惰行制御を開始するようになっている。
【0041】
惰行制御装置71を構成するアクセル開度検出部72、判定条件検出部73、惰行制御判定マップ74、惰行制御実行判定部75は、例えば、ECU61に搭載されるのが好ましい。
【0042】
以下、本発明の惰行制御装置71の動作を説明する。
【0043】
図8により、惰行制御の作動概念を説明する。横軸は時間と制御の流れを示し、縦軸はエンジン回転数を示す。アクセルペダル81が大きく踏み込まれてアクセル開度が70%の状態が継続する間、エンジン回転数82が上昇し、車両が加速される。エンジン回転数82が安定し、アクセルペダル81の踏み込みが小さくなりアクセル開度が35%になったとき後述する惰行制御開始条件が成立したとする。惰行制御開始により、クラッチが断に制御され、エンジン回転数82がアイドル回転数に制御される。その後、アクセルペダルの踏み込みがなくなってアクセル開度が0%になるか又はその他の惰行制御終了条件が成立したとする。惰行制御終了により、エンジンが回転合わせ制御され、クラッチが接に制御される。この例では、アクセル開度が0%であるので、エンジンブレーキの状態となり、車両は減速される。
【0044】
惰行制御が行われなかったとすると、惰行制御の実行期間の間、破線のようにエンジン回転数が高いまま維持されることになるので、燃料が無駄に消費されるが、惰行制御が行われることで、エンジン回転数82がアイドル回転数となり燃料が節約される。
【0045】
図9に惰行制御判定マップ74をグラフイメージで示す。
【0046】
惰行制御判定マップ74は、あらかじめエンジン2についてアクセル開度とクラッチ回転数の相関をクラッチ断の状態にて計測して作成される。
【0047】
図9に示されるように、惰行制御判定マップ74は、横軸をアクセル開度とし、縦軸をクラッチ回転数とするマップである。惰行制御判定マップ74は、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域Mと、エンジン出力トルクが正となるプラス領域Pとに分けることができる。すなわち、マイナス領域Mは、エンジン要求トルクよりもエンジンのフリクションが大きく、エンジン出力トルクが負となる領域である。プラス領域Pは、エンジン要求トルクがエンジンのフリクションよりも大きいため、エンジン出力トルクが正となる領域である。マイナス領域Mとプラス領域Pの境界となるエンジン出力トルクゼロ線Zは、背景技術で述べたようにエンジンが外部に対して仕事をせず、燃料が無駄に消費されている状態を示している。
【0048】
本実施形態では、惰行制御判定マップ74のエンジン出力トルクゼロ線Zよりやや左(アクセル開度が小さい側)に惰行制御しきい線Tが設定される。
【0049】
惰行制御判定マップ74には、マイナス領域Mとプラス領域Pとの間に惰行制御しきい線Tを含む有限幅の惰行制御可能領域CAが設定される。
【0050】
惰行制御判定マップ74には、クラッチ回転数の下限しきい線Uが設定されている。下限しきい線Uは、アクセル開度とは無関係にクラッチ回転数の下限しきい値を規定したものである。下限しきい線Uは、アイドル状態におけるクラッチ回転数よりも図示のようにやや上に設定される。
【0051】
惰行制御装置71は、次の4つの惰行開始条件が全て成立したとき、惰行制御を開始するようになっている。
【0052】
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲内
(2)惰行制御判定マップ74において惰行制御しきい線Tをアクセル戻し方向で通過
(3)惰行制御判定マップ74へのプロット点が惰行制御可能領域CA内
(4)惰行制御判定マップ74においてエンジン回転数が下限しきい線U以上
惰行制御装置71は、次の2つの惰行終了条件がひとつでも成立したとき、惰行制御を終了するようになっている。
【0053】
(1)アクセルペダルの操作速度がしきい値範囲外
(2)惰行制御判定マップ74へのプロット点が惰行制御可能領域CA外
惰行開始条件の(1)は、長時間アクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値が開始基準値より小さいことを意味する。また、惰行終了条件の(1)は、短時間アクセル開度速度の絶対値が終了基準値より大きいことを意味する。
【0054】
次に、本発明の特徴である移動平均値、長時間アクセル開度速度、短時間アクセル開度速度を用いない場合について、惰行制御装置71の動作を説明する。
【0055】
惰行制御実行判定部75は、ECM62がエンジンに出力したアクセル開度と、クラッチ回転数センサが検出したクラッチ回転数とを常に監視し、図9の惰行制御判定マップ74上に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。時間の経過に伴い座標点が移動する。このとき、座標点が惰行制御可能領域CA内に存在する場合、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始するか否かの判定を行うようになる。座標点が惰行制御可能領域CA内に存在しない場合、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始するか否かの判定を行わない。
【0056】
次に、座標点が惰行制御しきい線Tをアクセル開度が減少する方向に通過すると、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始する。すなわち、惰行制御装置71は、クラッチを断に制御すると共に、アクセル開度を0%に制御する。これにより、クラッチは断となり、エンジンはアイドル状態になる。
【0057】
図9に座標点の移動方向を矢印で示したように、アクセル開度が減少する方向とは、図示左方向である。もし、座標点が惰行制御しきい線Tを通過しても、座標点の移動方向が図示右方向の成分を有する場合、アクセル開度は増加するので、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始しない。
【0058】
惰行制御実行判定部75は、惰行制御を開始した後も、アクセル開度とクラッチ回転数とを常に監視し、惰行制御判定マップ74に、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点をプロットする。座標点が惰行制御可能領域CAから外に出たとき、惰行制御実行判定部75は、惰行制御を終了する。これにより、エンジンにはアクセルセンサが検出した踏み込み量に応じてECM62が決定したアクセル開度が与えられ、クラッチは接となる。
【0059】
以上の動作により、アクセルペダルが踏み込み側に操作されているときは、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線Tを通過しても惰行制御が開始されず、アクセルペダルが戻し側に操作されているときのみ、座標点が惰行制御しきい線Tを通過することで惰行制御が開始されるので、運転者は、違和感がなくなる。
【0060】
惰行制御実行判定部75は、座標点が下限しきい線Uよりも下に存在する(クラッチ回転数が下限しきい値より低い)ときは、惰行制御を開始しない。これは、エンジンがアイドル状態のときにクラッチを断にしても燃料消費を抑える効果が多くは期待できないからである。よって、惰行制御実行判定部75は、座標点が下限しきい線Uよりも上に存在するときのみ、惰行制御を開始することになる。
【0061】
図10により、惰行制御による燃費削減効果を説明する。
【0062】
まず、惰行制御を行わないものとする。エンジン回転数は、約30sから約200sまでの間、1600〜1700rpmの範囲で遷移しており、約200sから約260sまでの間に、約1700rpmから約700rpm(アイドル回転数)へ低下している。
【0063】
エンジントルクは、約30sから約100sまでの間に増加しているが、その後、減少に転じ、約150sまで減少を続けている。エンジントルクは、約150sから約160sまでほぼ0Nmであり、約160sから約200sまでの間に増加するが、約200sにてほぼ0Nmになる。結果的に、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間は、約150sから約160sまで(楕円B1)、約200sから約210sまで(楕円B2)、約220sから約260sまで(楕円B3)の3箇所である。
【0064】
燃料消費量(縦軸目盛りなし;便宜上、エンジントルクと重なるように配置してある)は、約50sから約200sまではエンジントルクの遷移にほぼ随伴して変化している。エンジントルクがほぼ0Nmであっても、燃料消費量は0ではない。
【0065】
ここで、惰行制御を行うものとすると、エンジントルクがほぼ0Nmとなる期間において、エンジン回転数がアイドル回転数に制御されることになる。グラフには、惰行制御を行わないエンジン回転数の線(実線)から別れるように惰行制御時のエンジン回転数の線(太い実線)が示される。惰行制御は、楕円B1,B2,B3の3回にわたり実行された。この惰行制御が行われた期間における燃料消費量は、惰行制御を行わない場合の燃料消費量を下回っており、燃料消費が節約されたことが分かる。
【0066】
図11に、実際に惰行制御が行われた惰行制御判定マップ111を示す。各点は、実際に検出されたアクセル開度とクラッチ回転数の点を示す。惰行制御判定マップ111には、マイナス領域M、プラス領域P、惰行制御しきい線T、惰行制御可能領域CAが設定されている。
【0067】
次に、図12を用いて課題を考察する。
【0068】
図12(a)に示されるように、惰行制御装置71は、アナログ信号であるアクセルペダルの踏み込み量121を所定のサンプリング周期Δt(例えば、32ms)ごとにデジタル変換し、アクセル開度(注;移動平均をしていないアクセル開度)として取り込む。円C1において、2つの黒点で示すように、1サンプリング周期Δt間にアクセル開度がやや減少している。また、楕円C2において、2つの黒点で示すように、1サンプリング周期Δt間にアクセル開度が大きく減少している。
【0069】
いま、この円C1内のデータ変化が、図12(b)の惰行制御判定マップ122において円C3に示したように、惰行制御開始条件を成立させる変化であったとすると、惰行制御が開始される。一方、楕円C2内のデータ変化が、図12(b)の惰行制御判定マップ121において円C4に示したように、惰行制御終了条件を成立させる変化であったとすると、惰行制御が終了される。
【0070】
ここで、図12(c)のように、サンプリング周期Δtを顕著に長くしてみると、1サンプリング周期Δt内にアクセルペダルの踏み込み量121が変化しており、例えば、円C5において惰行制御開始条件が成立している。しかし、次のサンプリングまで惰行制御装置は、惰行制御開始条件の成立を認識することができない。このように、あまり大雑把にサンプリングを行うと、惰行制御の開始が時間的に遅れたり、条件の成立を見落としたりすることになる。
【0071】
一方、図12(d)のように、アクセルペダルの踏み込み量121の時間的変化の速さに対してサンプリング周期Δtが比較的短いと、比較的短時間に踏み込み量121の減少や増加があるときに、惰行制御開始条件が成立(円C6)してから、直後に惰行制御終了条件が成立(円C7)し、その直後に惰行制御開始条件が成立(円C8)するという状況が生じる。このように、あまり細かにサンプリングを行ったために、各条件の成立が過多となり、ハンチングを起こす。
【0072】
本発明の惰行制御装置71は、図12で説明した課題を解決するために、図1で説明した、
(1)アクセル開度センサの出力信号のデジタルサンプリングデータをそのままアクセル開度とするのではなく、デジタルサンプリングデータについて所定の時間間隔で移動平均演算し、移動平均値をアクセル開度とする。
【0073】
(2)移動平均演算で得たアクセル開度を比較的長い所定時間分と比較的短い所定時間分で微分して2種類のアクセル開度速度とする。
【0074】
(3)長時間アクセル開度速度が開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する。
【0075】
(4)短時間アクセル開度速度が終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可する。
という制御を採用した。
【0076】
これにより、次のような効果が得られる。
【0077】
(1)移動平均の実施により、アクセル開度のノイズ成分(キャブ振動や路面入力による)を除去でき、安定した惰行制御の開始・終了が可能となる。
【0078】
(2)惰行制御開始の判定への移行、惰行制御終了の判定への移行を、アクセル開度速度により判定するため、惰行制御の見落としや終了遅れが発生し難くなる。
【0079】
(3)惰行制御開始の条件判定に用いるアクセル開度速度の演算時間と惰行制御終了の判定条件に用いるアクセル開度速度の演算時間とを異ならせたので、双方の条件成立にヒステリシスを設けることができ、ハンチングが防止される。
【0080】
(4)惰行制御開始の条件判定に長い所定時間分の微分を使用するので、不必要な(又は効果が少ない)惰行制御の開始を防止することができる。
【0081】
図13により、本発明の効果を説明する。
【0082】
図13(a)に示されるように、アクセル開度センサの出力信号のデジタルサンプリングデータの移動平均値がアクセル開度131としてECU61に読み込まれる。アクセル開度131は、図示のように階段状に漸増するが、アクセル開度131の増加の程度は緩やかである。縦軸に目盛りは付さないが、アクセル開度131の増加は2サンプリング周期に1程度である。
【0083】
図13(b)に示されるように、アクセル開度131を1サンプリング周期ごとに差分(あるサンプリング周期のデータとすぐ次のサンプリング周期のデータとの差を求める)してアクセル開度速度132を求めると、アクセル開度速度132は0か1の値をとる。ここで、アクセル開度速度にしきい値133を設けてアクセル開度の緩やかな増加(緩やかな減少でも同様)によるグラフの傾斜を検出しようとすると、しきい値133は0か1とせざるを得ない。しきい値133を所望する値に設定できないため、アクセル開度の傾斜を判定する自由度が著しく制限される。
【0084】
図13(c)に示されるように、アクセル開度131を10サンプリング周期ごとに差分(あるサンプリング周期のデータと10サンプリング周期後のデータとの差を求める)してアクセル開度速度134を求めると、アクセル開度131の増加が緩やかであっても、アクセル開度速度134は1より十分に大きい値となる。これにより、実際のアクセル開度速度(アクセルペダルが操作される速度)と正しく比例するアクセル開度速度134が得られる。また、しきい値135を設定できる数値範囲が広くなるので、しきい値135を所望する値に設定できる。
【符号の説明】
【0085】
61 ECU
62 ECM
71 惰行制御装置
72 アクセル開度検出部
73 判定条件検出部
74 惰行制御判定マップ
75 惰行制御実行判定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間ごとにアクセル開度センサの出力信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値を所定時間ごとのアクセル開度とするアクセル開度検出部と、
アクセル開度の所定時間分を微分してアクセル開度速度を演算し、そのアクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部と、
アクセル開度とクラッチ回転数を指標とし、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域とエンジン出力トルクが正となるプラス領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線に沿わせて惰行制御しきい線が設定された惰行制御判定マップと、
上記惰行制御開始の判定が許可されており、上記惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部とを備えたことを特徴とする惰行制御装置。
【請求項2】
上記判定条件検出部は、アクセル開度の上記所定時間分より少ない所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可し、
上記惰行制御判定マップは、上記マイナス領域と上記プラス領域との間に上記惰行制御しきい線を含む有限幅の惰行制御可能領域が設定され、
上記惰行制御実行判定部は、惰行制御終了の判定が許可されており、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御可能領域から外に出たとき、惰行制御を終了することを特徴とする請求項1記載の惰行制御装置。
【請求項3】
上記惰行制御実行判定部は、クラッチ回転数が下限しきい値を超えているときのみ、上記惰行制御を開始することを特徴とする請求項1〜2いずれか記載の惰行制御装置。
【請求項1】
所定時間ごとにアクセル開度センサの出力信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値を所定時間ごとのアクセル開度とするアクセル開度検出部と、
アクセル開度の所定時間分を微分してアクセル開度速度を演算し、そのアクセル開度速度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部と、
アクセル開度とクラッチ回転数を指標とし、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域とエンジン出力トルクが正となるプラス領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線に沿わせて惰行制御しきい線が設定された惰行制御判定マップと、
上記惰行制御開始の判定が許可されており、上記惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部とを備えたことを特徴とする惰行制御装置。
【請求項2】
上記判定条件検出部は、アクセル開度の上記所定時間分より少ない所定時間分を微分して短時間アクセル開度速度を演算し、その短時間アクセル開度速度の絶対値があらかじめ設定された終了基準値より大きいとき、惰行制御終了の判定を許可し、
上記惰行制御判定マップは、上記マイナス領域と上記プラス領域との間に上記惰行制御しきい線を含む有限幅の惰行制御可能領域が設定され、
上記惰行制御実行判定部は、惰行制御終了の判定が許可されており、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が上記惰行制御可能領域から外に出たとき、惰行制御を終了することを特徴とする請求項1記載の惰行制御装置。
【請求項3】
上記惰行制御実行判定部は、クラッチ回転数が下限しきい値を超えているときのみ、上記惰行制御を開始することを特徴とする請求項1〜2いずれか記載の惰行制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−223345(P2010−223345A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71788(P2009−71788)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
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