説明

意匠性に優れた塗装金属板とその製造方法

【課題】作業性と模様の再現性と密着性がよく、意匠性に優れた塗装金属板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下地処理2が施された金属板1の少なくとも片面に、下地処理層2の全面又は一部を連続的に覆う上塗り塗膜6を備える塗装金属板であって、上塗り塗膜6が凹凸形状を有しており、その凸部又は凹部によって模様外観を発現させることを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板。下地処理層2と上塗り塗膜6の間に下塗り塗膜を設けてもよい。また、上塗り塗膜6の代わりに、下塗り塗膜が凹凸形状を有するものであってもよい。表面が平滑なアプリケーターロールと、表面にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、ロール塗装により凹凸形状を有する上塗り塗膜6又は下塗り塗膜を形成することで、上記の意匠性に優れた塗装金属板を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品や屋内外の建材等に使用するのに適した、意匠性に優れた塗装金属板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を使用した製品において、人の目に触れる外板は、耐食性や意匠性の向上を目的として、何らかの塗装が施されて使用されることがほとんどである。
【0003】
そのような塗装は、従来は製品の組立終了後に塗装するアフターコート方式で行ってきたが、最近は予め塗装を施した塗装金属板(プレコート金属板)の使用が増加してきている。
【0004】
塗装金属板の使用割合が増えているのは、(1) 客先の工程省略に役立つ、(2) 脱脂、塗装といった薬品を使用する煩雑な作業を避けることができる、(3) 都会近郊に立地した家電製品工場の場合は塗装工場を更新しにくい、(4) 特殊な機能付与が可能、(5) 意匠性付与が可能、といった理由が挙げられる。
【0005】
これらの理由のうち、特に塗装金属板の持つ意匠性に着目して、模様塗装金属板が求められるようになってきた。
【0006】
模様塗装金属板についての従来技術は、鱗片状の顔料を塗膜に含有させることによって、光の反射方向を変化させて模様を発現するメタリック塗装金属板と、メタリック塗装層金属板の変形例としてハンマートーン模様(ハンマ−で叩いたような凹凸模様)を有するメタリック塗装金属板などが知られている。
【0007】
メタリック塗装金属板は塗膜中にアルミニウムフレーク等の鱗片状の顔料を含有しているため、鱗片状の顔料の配向方向と視認方向によって、光の反射が大きく変化して模様が発現する。しかしながら、塗装方向と平行に形成されるリブ状の凹凸模様に起因して、ロール目が大変目立ちやすいという問題がある。このため、3ロール塗装やカーテンロール塗装などを用いることによって、ロール目が目立つことを抑制することがなされている。
【0008】
また、3ロール塗装やカーテンロール塗装などを用いないで、ロール目が目立つことを抑制する提案もなされている。たとえば、特許文献1には、鱗片状基体にFe基合金やNi基合金等の金属をコーティングした顔料を、有機ビーズと併せて含有させることで、指向性のないメタリック観を発現させてなるメタリック塗装金属板が得られることが記載されている。
【0009】
一方、メタリック塗装にスプレー塗装を組合せることによって、指向性をなくすとともに美粧性を付与してなるメタリック塗装金属板が提案されている。たとえば、特許文献2には、上塗り塗膜を上塗り着色ベース塗料と上塗りクリヤ塗料とから構成し、上塗り着色ベース塗料には有機樹脂微粒子と着色顔料を含有させるとともに上塗りクリヤ塗料には光輝性粉末を含有させ、かつ上塗り着色ベース塗料が乾燥しないうちに上塗りクリヤ塗料をウェットオンウェット塗装することが記載されている。また、特許文献3には、上塗り塗膜を上塗り着色ベース塗料と上塗りクリヤ塗料とから構成し、上塗り着色ベース塗料には有機樹脂微粒子と着色顔料を含有させるとともに上塗りクリヤ塗料には光輝性粉末を含有させた縮み塗料を用い、かつ上塗り着色ベース塗料が乾燥しないうちに上塗りクリヤ塗料をウェットオンウェット塗装することが記載されている。
【0010】
次に、未乾燥状態のメタリック塗料の上に溶剤をスプレーして、ハンマートーン模様(ハンマ−で叩いたような凹凸模様)を有するメタリック塗装金属板を製造することが提案されている。たとえば、特許文献4には、金属板の表面に下塗り塗料を塗布、乾燥後、この下塗り塗料のうえに、アルミニウム粉末、パールマイカ粉末又はステンレス鋼粉末を含有する上塗り塗料を塗布し、この上塗り塗料が未乾燥状態にある間に、この上塗り塗料の上に溶剤をスプレーしたのち、乾燥・焼き付けして、ハンマートーン模様を有するメタリック塗装金属板を得る方法が記載されている。
【0011】
なお、模様塗装金属板に類似するものとして、模様印刷金属板がある。これは高濃度の顔料を含有するインクを、金属板の全面に塗布した下塗り塗膜を乾燥させたのちに、塗膜上に転写印刷させて模様を発現するものである。
【0012】
【特許文献1】特開2000−107680号公報
【特許文献2】特開平11−19581号公報
【特許文献3】特開平11−19582号公報
【特許文献4】特開2005−324122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
メタリック塗装金属板のロール目が目立つことを抑制するために、3ロール塗装やカーテンロール塗装などを用いることができるが、3ロール塗装を施そうとすると、そのための設備を新たに設ける必要があるだけでなく、洗浄作業が繁雑になるという問題点がある。また、カーテンフロー塗装を施そうとすると、そのための設備を新たに設ける必要があるだけでなく、安定なカーテンを形成することが可能な塗料が限られ、また、塗装も限られるという問題点がある。
【0014】
3ロール塗装やカーテンフロー塗装を施す代わりに、上述のとおり、未乾燥状態のメタリック塗料の上にスプレー塗装をすることによって、指向性のないメタリック塗装鋼板やハンマートーン模様を有するメタリック塗装鋼板を得ることが提案されている。しかしながら、スプレー塗装をする又は溶剤をスプレーするためには、そのためのスプレー塗装設備を新たに設ける必要があるし、ロールコーターに比べて塗料の塗着効率がかなり低いため、塗料や溶剤のロスが大きい。また、スプレー塗装で得られる模様は、再現性に乏しいという問題点がある。
【0015】
次に、高濃度の顔料を含有するインクを転写してなる模様印刷金属板は、転写されたインクが塗膜上に凸状に点在して模様を形成するので、模様印刷金属板の模様はスプレー塗装で得られるものとは違って、再現性に優れている。しかしながら、塗膜を隠蔽することはできないので、模様印刷金属板の色調は塗膜の色調がベースとならざるを得ず、模様印刷金属板の意匠性は塗膜の色調によって大きく左右されることになる。また、転写されたインクは、乾燥した塗膜上に凸状に点在して模様を形成しているため、塗膜との密着性に乏しく、インクが剥がれて模様部分が欠落するおそれがある。
【0016】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、意匠性に優れた塗装金属板とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、塗装金属板に模様外観を発現させることについて種々検討した結果、次の(a)〜(j)の知見を得た。
【0018】
(a) 鱗片状の顔料を塗膜に含有させてなるメタリック塗装金属板は、3ロール塗装やカーテンフロー塗装を用いることによって、指向性のないメタリック外観を発現させることができる。あるいは、メタリック塗料を塗布後に、メタリック塗料が乾燥しないうちに、その上面にスプレー塗装することで又は溶剤をスプレーすることで、指向性のないメタリック外観を発現させることができる。しかしながら、いずれも、新たな設備を必要とするし、その作業性や模様の再現性にも難点が多い。
【0019】
(b) これに対して、模様印刷金属板は、模様が転写によって形成されるので、スプレー塗装で得られるものとは違って再現性に優れているし、ロールによって転写が可能であるから作業性も良好である。しかし、高濃度の顔料を含有するインクは、塗膜との密着性に乏しいという難点がある。
【0020】
図1の模様印刷金属板の模式図を用いて説明する。この模様印刷金属板は、基材となる金属板1に、下地処理層2を介して塗膜3が一面に形成され、その塗膜3の上にインク層4が模様を形成するように印刷される。印刷は乾燥後の塗膜3の上に転写されるため、転写されたインク層4は必ず凸形状をなし、塗膜3との相溶性が小さいため、激しい加工が加えられた場合には、模様を形成するインク層4が剥がれて脱落するおそれがある。
【0021】
(c) これを解決するためには、高濃度の顔料を含有するインクからなる模様を転写する代わりに、塗膜との相溶性のある有機樹脂塗料からなる模様を転写すればよい。有機樹脂塗料からなる凸部模様は、高濃度の顔料を含有するインクからなる凸部模様より下地処理層又は塗膜との密着性を格段に向上させることができる。
【0022】
すなわち、有機樹脂塗料を用いて模様をロール上に形成したのち、下地処理してなる金属板に、あるいは下地処理層の上に塗装した金属板に、この模様を転写すれば、模様塗装金属板が形成されることになる。有機樹脂塗料を用いて模様を上記金属板上に転写するためには、表面が平滑なロールの表面に凹部模様からなるグラビアセルを彫刻したグラビアロールをアプリケーターロールとして用い、この凹部だけに有機樹脂塗料を付着させてから、この凹部内の有機樹脂塗料を金属板に転写すれば、有機樹脂塗料からなる凸部模様が上記金属板上に形成されることになる。ロールの凹部だけに有機樹脂塗料を付着させるためには、一旦ロールの全面に有機樹脂塗料を付着させてから、ロール面が上記金属板に接触する前に、ブレード等によってロールの平滑面に付着した有機樹脂塗料を掻き取ればよい。
【0023】
図2の模式図を用いて説明する。この模様印刷金属板は、基材となる金属板1に、下地処理層2を介して塗膜3が一面に形成され、その塗膜3の上に島状の模様塗膜5が転写される。ここでは、塗膜3との相溶性のある有機樹脂塗料からなる島状の模様塗膜5を、塗膜3の乾燥前に転写することができるため、一面に形成された塗膜3と島状の模様塗膜5との密着性に優れている。
【0024】
(d) しかしながら、この方法で得られた模様塗装金属板は、転写された有機樹脂塗料が下地処理層上に、あるいは下地処理層上の上に塗装した金属板に、凸状に点在して凸部模様を形成していることに変わりはないため、下地処理層又は塗膜を隠蔽することはできない。凸部模様部分の色相は各種の顔料を含有させることで変化を持たせることができるものの、模様塗装金属板の色調は下地処理層又は塗膜の色相がベースとならざるを得ないため、模様塗装金属板の色調の自由度が制限されることになる。
【0025】
(e) 下地処理層又は塗膜を隠蔽するためには、転写される有機樹脂塗料を点在させて凸部模様を形成するのではなく、転写される有機樹脂塗料で下地処理層又は塗膜の全面又は一部を連続的に覆う上塗り塗膜を形成するとともに、その上塗り塗膜が凹凸形状を有しておりかつその上塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって模様外観を発現させるのがよい。このような凹凸形状を有する上塗り塗膜を備える塗装金属板は、下地処理層又は下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆って隠蔽することができるので、下地処理層又は下塗り塗膜の色相に左右されることはない。したがって、模様塗装金属板の色相の自由度が大きい。また、有機樹脂塗料を点在させて凸部模様を形成するのではなく、有機樹脂塗料が連続的に繋がった上塗り塗膜が有する凹凸形状によって模様外観を発現させるとともに、その塗膜は下地処理層又は下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆っているのであるから、模様を発現する有機樹脂塗膜と、下地処理層又は下塗り塗膜との密着性は、一層大きくなる。
【0026】
図3の模様印刷金属板の模式図を用いて説明する。この模様印刷金属板は、後述するように、本発明に係る模様塗装金属板の一例であり、基材となる金属板1に、下地処理層2を介して、凹凸形状を有する上塗り塗膜6が転写される。ここでは、上塗り塗膜6がそれ自体島状の模様(凸部分)を有していて、上塗り塗膜6が模様外観を発現するので、このような凹凸形状を有する上塗り塗膜6を備える塗装金属板は、下地処理層2の全面又は一部を連続的に覆って隠蔽することができるので、下地処理層2の色相に左右されることはない。
【0027】
図4の模様印刷金属板の模式図を用いて説明する。この模様印刷金属板は、後述するように、本発明に係る模様塗装金属板の他の例であり、下地処理層2と凹凸形状を有する上塗り塗膜6との間に、下塗り塗膜7を設けたときの模様塗装金属板である。この場合でも同様の効果が得られることが分かる。
【0028】
(f) 以上は、凹凸形状を有する上塗り塗膜を備え、上塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって模様外観を発現させてなる塗装金属板について説明したが、上塗り塗膜に凹凸形状を形成するのではなく、下塗り塗膜に凹凸形状を形成し、その上に一定膜厚の上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜に形成された凸部又は凹部によって上塗り塗膜に模様外観を発現させてもよい。すなわち、下地処理層を介して下塗り塗膜を有する金属板の少なくとも片面に、下塗り塗膜の全面又は一部を覆う一定膜厚の上塗り塗膜を備える塗装金属板であって、下塗り塗膜が凹凸形状を有しかつ下地処理層又は下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆っており、下塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって上塗り塗膜に模様外観を発現させてもよい。
【0029】
図5の模様印刷金属板の模式図を用いて説明する。この模様印刷金属板は、後述するように、本発明に係る模様塗装金属板の他の例であり、基材となる金属板1に、下地処理層2を介して、凹凸形状を有する下塗り塗膜8が転写され、そして、その上に一定膜厚の上塗り塗膜9が塗布される。下塗り塗膜に形成された凹凸形状は、上塗り塗膜9に反映されて上塗り塗膜9に模様外観を発現させることができる。この場合は、凹凸形状を有する下塗り塗膜8が下地処理層2の全面又は一部を連続的に覆い、そして、上塗り塗膜9がさらに凹凸形状を有する下塗り塗膜8の全面又は一部を連続的に覆って隠蔽することができるので、下地処理層2や凹凸形状を有する下塗り塗膜8の色相に左右されることはない。
【0030】
(g) 転写される有機樹脂塗料を点在させて凸部模様を形成するのではなく、転写される有機樹脂塗料で下地処理層又は下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆うことが可能な、凹凸形状を有する上塗り塗膜を形成するためには、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面に部分的にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、ロール塗装をすればよい。すなわち、平滑なロールの表面に凹部模様からなるグラビアセルを彫刻した金属製グラビアロールをピックアップロールとして用い、このピックアップロールの凹部とロール平滑面の両方に付着した有機樹脂塗料を、ブレード等で掻き取ることなく、アプリケーターロールに転写し、その後、アプリケーターロール上の有機樹脂塗料をさらに金属板に転写すればよい。
【0031】
(h) まず、ロール塗装について説明すると、ロール塗装は、ピックアップロールとアプリケータロールを用いて、バックアップロールに巻き付けられた鋼帯に塗料が塗装される。ピックアップロールが塗料パン内の塗料と接触しながら回転することによって、塗料がピックアップロールに持ち上げられ、ピックアップロールとアプリケータロールとの間の間隙により塗料の厚みが調整されつつ、塗料がアプリケータロールに転写される。厚みが調整された塗料は、コイルから巻き戻され、アプリケータロールと接するようにバックアップロールに巻き付けられて搬送されている鋼帯に転写され、塗装が行われる。鋼帯はその後、適当は手段で加熱されて、塗膜が焼き付けられ、冷却後にコイルに巻き取られる。
【0032】
図6に、2ロール・リバース方式のロール塗装の概略図を示す。2ロール・リバース方式はアプリケータロール21の回転方向が塗装を受ける鋼帯20の搬送方向と逆方向である。アプリケータロール21の回転方向が塗装を受ける鋼帯20の搬送方向と同一方向となるナチュラル回転方式もあるが、リバース回転方式の方が厚肉塗装が可能であり、塗装筋が発生しないなど塗装仕上げもよくなることから、塗装鋼板の製造においてはリバース回転方式の方が多く用いられている。なお、ピックアップロール22とアプリケータロール21を使用する2ロール方式のロール塗装では、これらの2つのロールの間の間隙で塗膜厚みを制御することから、有機樹脂塗料25がこの間隙をスムーズに通過できるように、ピックアップロール22はアプリケータロール21に対してナチュラル回転させるのが通常である。
【0033】
(i)このような2ロール・リバース方式のロール塗装をする際には、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面に部分的にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いればよい。
【0034】
図7は、後述するように、本発明に係る模様塗装金属板を製造するための塗装装置の一例である。表面にグラビアセルが彫刻されたピックアップロール22を用いて、そのグラビアセルの模様をアプリケーターロール21に転写し、さらにその模様をバックアップロール23に巻き付けられた鋼帯20に転写する状態を示す。
【0035】
すなわち、平滑なロールの表面に凹部模様からなるグラビアセル(図示せず)を彫刻した金属製グラビアロールをピックアップロール21として用いて有機樹脂塗料25をピックアップし、このピックアップロール21の凹部とロール平滑面の両方に付着した有機樹脂塗料を、ブレード等で掻き取ることなく、アプリケーターロール21に転写し、その後、アプリケーターロール21に付着した有機樹脂塗料をさらに金属板に転写すればよい。
【0036】
(j) 転写される有機樹脂塗料によって上塗り塗膜が形成されるが、この上塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって模様外観を発現させるためには、上塗り塗膜を形成する有機樹脂塗料として、(i)鱗片状顔料を含有してなる塗料、(ii)低光沢性塗料、(iii)縮み塗料のいずれかを用いればよい。
【0037】
(i) 鱗片状顔料を含有してなる塗料からなる上塗り塗膜は、塗膜中での鱗片状顔料の配向の違いによって光沢が変化するため、見る角度によって、黒っぽくなったり、白っぽくなったりする。鱗片状顔料を含有してなる塗料を用いて、有機樹脂塗料が連続的に繋がった凹凸形状を有する上塗り塗膜を形成すると、凹凸形状の平坦部分と傾斜部分とでは、鱗片状顔料の配向角度が異なるため、その凸状輪郭が模様となって発現する。また、上塗り塗膜に凹凸形状を形成するのではなく、下塗り塗膜に凹凸形状を形成し、その上に一定膜厚の上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜に形成された凸部又は凹部によって上塗り塗膜に模様外観を発現させてもよい。下塗り塗膜の凹凸形状が上塗り塗膜にも反映されるから、同様にして、その上塗り塗膜の凸状輪郭が模様となって発現する。なお、鱗片状顔料としては、アルミニウムフレークやマイカなどを用いることができる。
【0038】
(ii) 低光沢性塗料とは、微細なシリカ粒子や樹脂ビーズ塗料に含有させ、そのシリカ粒子や樹脂ビーズの頭部分を上塗り塗膜の表面から上方にはみ出させることによって、上塗り塗膜の表面に微細な凸部を付与するものであり、もって塗膜の光沢を低下させることができる。60度光沢として、広義には30以下のもの、狭義には10以下のものを指すのが一般的である。このような低光沢性塗料は、上塗り塗膜の表面のシリカ粒子や樹脂ビーズの微細な凹凸によって、光沢が変化する。すなわち、上塗り塗膜の表面のシリカ粒子や樹脂ビーズが大きければ低光沢になり、はみ出し具合が小さいか全くはみ出していなければ高光沢になる。したがって、低光沢性塗料を用いて凹凸形状を有する上塗り塗膜を形成すると、凸部分が高光沢となり易く、凹部分が低光沢となり易い。したがって、低光沢性塗料を用いて凹凸のある上塗り塗膜を形成すると、高光沢の凸部分と低光沢の凹部分からなる模様塗装金属板が得られる。また、上塗り塗膜に凹凸形状を形成するのではなく、下塗り塗膜に凹凸形状を形成し、その上に一定膜厚の上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜に形成された凸部又は凹部によって上塗り塗膜に模様外観を発現させてもよい。下塗り塗膜の凹凸形状が上塗り塗膜にも反映されるから、低光沢性上塗り塗料で凹凸のある下塗り塗膜を覆うと、同様にして、高光沢の凸部分と低光沢の凹部分からなる模様塗装金属板が得られる。なお、濃色塗料からなる塗膜の場合は、高光沢部分が黒っぽく見え、低光沢部分が白っぽく見える。
【0039】
(iii) 縮み塗料とは、塗膜表面と塗膜内部の硬化速度差を利用して、塗膜表面に小さな皺(微細な凹凸面)を形成することができる塗料であり、皺があると光沢が低下する。この光沢低下手法も、塗膜厚みの影響を受ける。すなわち、縮み塗料を用いて凹凸形状を有する上塗り塗膜を形成すると、凸部分は皺を形成し易いため低光沢となり易く、凹部分は皺を形成しにくいため高光沢となり易い。したがって、縮み塗料を用いて凹凸形状を有する上塗り塗膜を形成すると、低光沢の凸部分と高光沢の凹部分からなる模様塗装金属板が得られる。また、上塗り塗膜に凹凸形状を形成するのではなく、下塗り塗膜に凹凸形状を形成し、その上に一定膜厚の上塗り塗膜を形成し、下塗り塗膜に形成された凸部又は凹部によって上塗り塗膜に模様外観を発現させてもよい。下塗り塗膜の凹凸形状が上塗り塗膜にも反映されるから、縮み塗料からなる上塗り塗料で凹凸のある下塗り塗膜を覆うと、同様にして、低光沢の凸部分と高光沢の凹部分からなる模様塗装金属板が得られる。
【0040】
本発明は、上記の(a)〜(j)の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は、次の(1)〜(9)に示す塗装金属板及び次の(10)及び(11)に示す塗装金属板の製造方法である。
【0041】
(1) 下地処理が施された金属板の少なくとも片面に、下地処理層の全面又は一部を連続的に覆う上塗り塗膜を備える塗装金属板であって、上塗り塗膜が凹凸形状を有しており、上塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって模様外観を発現させることを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板。
【0042】
(2) 下地処理層を介して下塗り塗膜を有する金属板の少なくとも片面に、下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆う上塗り塗膜を備える塗装金属板であって、上塗り塗膜が凹凸形状を有しており、上塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって模様外観を発現させることを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板。
【0043】
(3) 上塗り塗膜が鱗片状顔料を含有することを特徴とする、上記(1)又は(2)の意匠性に優れた塗装金属板。
【0044】
(4) 上塗り塗膜が低光沢性塗料からなることを特徴とする、上記(1)又は(2)の意匠性に優れた塗装金属板。
【0045】
(5) 上塗り塗膜が縮み塗料からなることを特徴とする、上記(1)又は(2)の意匠性に優れた塗装金属板。
【0046】
(6)下地処理層を介して下塗り塗膜を有する金属板の少なくとも片面に、下塗り塗膜の全面又は一部を覆う上塗り塗膜を備える塗装金属板であって、下塗り塗膜が凹凸形状を有しかつ下地処理層又は下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆っており、下塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって上塗り塗膜に模様外観を発現させることを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板。
【0047】
(7) 上塗り塗膜が鱗片状顔料を含有することを特徴とする、上記(6)の意匠性に優れた塗装金属板。
【0048】
(8) 上塗り塗膜が低光沢性塗料からなることを特徴とする、上記(6)の意匠性に優れた塗装金属板。
【0049】
(9) 上塗り塗膜が縮み塗料からなることを特徴とする、上記(6)の意匠性に優れた塗装金属板。
【0050】
(10) 上記(1)〜(5)のいずれかの意匠性に優れた塗装金属板を製造する方法であって、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面に部分的にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、ロール塗装により凹凸形状を有する上塗り塗膜を形成することを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板の製造方法。
【0051】
(11) 上記(6)〜(9)のいずれかの意匠性に優れた塗装金属板を製造する方法であって、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面に部分的にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、ロール塗装により凹凸を有する下塗り塗膜を形成することを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、作業性と模様の再現性と密着性がよく、意匠性に優れた模様塗装金属板とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に、本発明の意匠性に優れた塗装金属板及びその製造方法について説明する。
【0054】
(1)塗装金属板の基材となる金属板:
塗装金属板の基材となる金属板としては、特に限定されるものではなく、例えば、冷延鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板などを挙げることができる。
【0055】
屋内や屋外建材用、家電機器用として使用される塗装金属板であれば、亜鉛系やアルミ系のめっき鋼板が耐食性や経済性の面から好適である。
【0056】
めっき金属板は、溶融めっき、電気めっき、気相めっき等のいずれの方法によりめっきしたものでもよく、めっき金属種は亜鉛、錫、アルミニウム等とそれらの合金が用いられる。具体的には、溶融亜鉛めっき金属板、5%Alを含有した溶融Zn−Al合金めっき金属板、溶融アルミニウムめっき金属板、55%Alを含有した溶融Al−Zn合金めっき金属板等が挙げられる。
【0057】
(2)下地処理について:
塗装金属板の基材となる金属板は、基材金属板と塗膜との密着性の向上を図るために、金属板表面に下地処理を施すことで、下地処理層を形成する。
【0058】
下地処理は、リン酸亜鉛処理、クロメート処理などの化成処理を施すことによってなされる。クロメート処理は、電解型や反応型クロメート処理も適用可能であるが、作業性の面からは塗布型クロメート処理が好ましい。金属クロム換算のクロメート付着量は、20〜80mg/mの範囲が好ましい。クロメート付着量があまりに少ないと、塗膜の密着性が十分得られず、過大になると加工性の低下を招くことになる。本発明で使用するのに好適な塗布型クロメート処理液の市販品の1例は、日本ペイント(株)製「NRC 300」である。塗布型クロメート処理液は、常法に従ってロールコータ等で塗布し、熱風で50〜100℃に加熱して乾燥させることで下地処理を実施すればよい。
【0059】
環境問題から6価クロムを使うクロメート処理を実施したくない場合には、シリカ、樹脂、ジルコニウムやチタンを含有するクロムフリー下地処理を施すこともできる。本発明に使用するのに好適な1例は、シリカ系下地処理液である日本ペイント(株)製「サーフコート EC2000」である。
(3)下塗り塗膜について:
金属板表面に下地処理を施したのち、直接、上塗り塗膜を形成しても良いが、特に耐食性が要求される場合など、用途によっては、上塗り塗膜の下に1層又は2層以上の下塗り塗膜を形成しておくのが好ましい。
【0060】
塗装金属板の基材となる金属板に塗装される下塗り塗膜の塗料は、例えば、エポキシ系、ポリエステル系およびウレタン系の樹脂が使用できる。金属板に対して密着性に優れ、加工性も良好な塗膜を形成することができる樹脂が好ましい。使用する塗料の溶媒は水性系と有機溶剤系のいずれでもよいし、溶媒を使用しない粉体塗料でもよい。
【0061】
エポキシ系塗料は各種のものが市販されており、それらを適宜、使用すればよい。例えば、メラミン、アミン、またはイソシアネートを架橋剤として含有するエポキシ系塗料でよい。エポキシ樹脂種としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0062】
ポリエステル系塗料の例として、熱可塑性ポリエステル樹脂にメラミンやイソシアネートを架橋剤として配合したものが挙げられる。ポリエステルとしては、分子量が5千から2万程度のいわゆる高分子量ポリエステル樹脂が、加工性の観点から好適である。架橋剤としては、エチルアルコールやブチルアルコールで変性したメラミンを使用することができ、場合によってパラトルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸等を触媒として適宜使用することができる。
【0063】
ウレタン系塗料の例としては、ポリエステルポリオールを黄変型ポリイソシアネートまたは無黄変型ポリイソシアネートで架橋反応させるものが挙げられる。架橋剤の例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等が使用できる。この場合も、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)等の触媒を適宜使用してもよい。
【0064】
下塗り塗膜の塗料は、2種以上の樹脂種を含有してもよい。下塗り塗膜は1層でよいが、用途に応じて2層以上としてもよい。下塗り塗膜は、防錆顔料等の添加剤を含有させてもよい。防錆顔料としては、ストロンチウムクロメートやジンククロメート等のクロム系防錆顔料やリン酸系防錆顔料が挙げられる。
【0065】
下塗り塗膜の膜厚及び形状は、下塗り塗膜の上に形成される上塗り塗膜の形状によって、異なる。
【0066】
すなわち、上塗り塗膜が凹凸形状を有する塗膜の場合には下塗り塗膜は一定膜厚の塗膜が用いられるのに対して、上塗り塗膜が一定膜厚の塗膜の場合には下塗り塗膜は凹凸形状を有する塗膜が用いられる。
【0067】
凹凸形状を有する上塗り塗膜を備える場合には、上塗り塗膜に形成される凸部又は凹部によって模様外観を発現させることになる。この場合の下塗り塗膜は一定膜厚の塗膜であり、乾燥膜厚で1〜30μm程度の塗膜厚みとすることが好ましい。塗膜厚みが1μm以上のとき密着性や耐食性が良好であるが、塗膜厚みが30μmを上回ると、耐食性が飽和する一方、コストが増加するのみならず、加工性が低下する。また、樹脂種によっては、「ワキ」を発生する。
【0068】
これに対して、上塗り塗膜が一定膜厚の塗膜の場合には、下塗り塗膜は凹凸形状を有する塗膜が用いられ、下塗り塗膜の有する凹凸形状が一定膜厚の上塗り塗膜の表面形状に反映され、この上塗り塗膜の表面に形成された凸部又は凹部によって模様外観が発現されることになる。この場合の凹凸形状を有する下塗り塗膜の厚みは、凸部での塗膜厚みを乾燥膜厚で10〜30μm程度とすることが好ましく、凹部での塗膜厚みを乾燥膜厚で1〜15μm程度とすることが好ましい。塗膜厚は適宜決定すればよいが、凹凸部で5μm以上の塗膜厚とするのが好ましい。塗膜厚みが厚いと密着性や耐食性が良好であるが、厚すぎても耐食性が飽和する一方、コストが増加するのみならず、加工性が低下する。また、樹脂種によっては、「ワキ」を発生する。
【0069】
一定膜厚を有する下塗り塗膜の塗料は、下地処理を施した金属板の上に、ロールコータ等の適当な塗布装置を使用して、塗装される。塗装は、塗布だけでなく、スプレーコータを用いた静電塗装や電着塗装によってもよい。
【0070】
凹凸形状を有する下塗り塗膜の塗料は、下地処理を施した金属板の上に、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、塗装される。
【0071】
塗料粘度は、フォードカップ#4で30〜150秒に調整し、塗装後、加熱して焼き付けがなされる。焼付けは、金属板の最高到達温度が約150〜230℃となるように約20〜60秒の焼付けにより行うことができ、従来の熱風吹き付け型オーブンや、誘導加熱、赤外線加熱などの加熱方法が利用できる。
【0072】
なお、下塗り塗膜の焼き付けは、上塗り塗膜の塗料の焼き付けと同時に行っても良いし、上塗り塗膜の塗料を塗装する前に行っても良い。
【0073】
(4)上塗り塗膜について:
上塗り塗膜は、金属板に下地処理を施した上に直接又は下塗り塗膜を介して、形成される。
【0074】
上塗り塗膜の膜厚及び形状は、下塗り塗膜の有無及び下塗り塗膜の形状によって、異なる。
【0075】
すなわち、下地処理層に直接上塗り塗膜を形成する場合および一定膜厚の下塗り塗膜を介して上塗り塗膜を形成する場合には、上塗り塗膜は凹凸形状を有する塗膜が用いられるのに対して、下塗り塗膜に凹凸形状を有する塗膜が用いられる場合には上塗り塗膜は一定膜厚の塗膜が用いられる。
【0076】
凹凸形状を有する上塗り塗膜を備える場合には、上塗り塗膜に形成される凸部又は凹部によって模様外観を発現させることになる。この場合の凹凸形状を有する上塗り塗膜の厚みは、凸部での塗膜厚みを乾燥膜厚で15〜40μm程度とすることが好ましく、凹部での塗膜厚みを乾燥膜厚で10〜30μm程度とすることが好ましい。塗膜厚は適宜決定すればよいが、凹凸部で5μm以上の塗膜厚とするのが好ましい。塗膜厚みが厚いと密着性や耐食性が良好であるが、厚すぎても耐食性が飽和する一方、コストが増加するのみならず、加工性が低下する。また、樹脂種によっては、「ワキ」を発生する。塗膜厚みが薄すぎると、隠蔽性に劣るので、着色が不十分となる恐れがある。また、下塗り層に紫外線が透過しやすくなり、耐候性に劣る恐れがある。なお、凸部と凹部の塗膜厚の差が小さすぎると、意匠性を発揮し難くなるので、凸部と凹部の塗膜厚の差を5μm以上にするのが好ましい。
【0077】
これに対して、上塗り塗膜が一定膜厚の塗膜の場合には、下塗り塗膜は凹凸形状を有する塗膜が用いられ、下塗り塗膜の有する凹凸形状が一定膜厚の上塗り塗膜の表面形状に反映され、この上塗り塗膜の表面に形成された凸部又は凹部によって模様外観が発現されることになる。この場合の上塗り塗膜は、乾燥膜厚で10〜40μm程度の塗膜厚みとすることが好ましい。塗膜厚は適宜決定すればよいが、凹凸部で5μm以上の塗膜厚とするのが好ましい。塗膜厚みが厚いと密着性や耐食性が良好であるが、厚すぎても耐食性が飽和する一方、コストが増加するのみならず、加工性が低下する。また、樹脂種によっては、「ワキ」を発生する。塗膜厚みが薄すぎると、隠蔽性に劣るので、着色が不十分となる恐れがある。また、下塗り層に紫外線が透過しやすくなり、耐候性に劣る恐れがある。なお、凸部と凹部の塗膜厚の差が小さすぎると、意匠性を発揮し難くなるので、凸部と凹部の塗膜厚の差を5μm以上にするのが好ましい。
【0078】
凹凸形状を有する上塗り塗膜の塗料は、金属板に下地処理を施した上に直接又は一定膜厚の下塗り塗膜を介して、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、塗装される。
【0079】
一定膜厚を有する上塗り塗膜の塗料は、下地処理を施した金属板の上に、凹凸形状を有する下塗り塗膜の上に、ロールコータ等の適当な塗布装置を使用して、塗装される。塗装は、塗布だけでなく、スプレーコータを用いた静電塗装や電着塗装によってもよい。
【0080】
なお、下塗り塗料の塗膜を介して上塗り塗料を塗装する場合は、上塗り塗膜の塗料の塗装は、下塗り塗料を乾燥、硬化した後に行うのが好ましい。
【0081】
上塗り塗膜を形成する有機樹脂塗料としては、特に限定されるものではない。上塗り塗膜の塗料は、塗装金属板が使用される製品の部位に応じて適宜、選択することが可能であるが、下地処理層又は下塗り塗膜との間で優れた密着性を有するものが好ましい。
【0082】
上塗り塗料に使用される樹脂種としては、下塗り塗料に関して上述した樹脂種に加えて、フッ素系樹脂も使用できる。耐候性や加工性が求められる場合には、ポリエステル系、ウレタン系及びフッ素系の樹脂が好ましい。エポキシ系、ポリエステル系及びウレタン系の樹脂種の具体的に態様については、上述の(3)下塗り塗膜において説明したものと同様である。
【0083】
フッ素系樹脂塗料としては、例えば、アクリル樹脂とPVdF(ポリフッ化ビニリデン)の混合物が挙げられる。質量比で50:50から10:90の混合比のものが好ましい。フッ素系樹脂塗料は、特に耐候性が要求される用途に好適である。
【0084】
使用する塗料の溶媒は水性系と有機溶剤系のいずれでもよいし、溶媒を使用しない粉体塗料でもよい。
【0085】
上塗り塗膜の塗料は、2種以上の樹脂種を含有してもよい。上塗り塗膜は1層でよいが、用途に応じて2層以上としてもよい。上塗り塗膜は、必要に応じて、着色顔料を含有させることができる。
【0086】
通常の塗装金属板では、上塗り塗膜を1層だけ形成させるので十分であるが、目的に応じて、上塗り塗膜を2層又はそれ以上の層とすることも可能である。
【0087】
上塗り塗膜の塗料の焼付けは、下塗り塗料について説明したのと同様に実施できる。塗料粘度は、フォードカップ#4で30〜150秒に調整し、塗装後、加熱して焼き付けがなされる。上塗り塗膜の焼付けは、金属板の最高到達温度が180〜250℃となるように約40〜80秒の焼付けで行うことができる。
【0088】
なお、上塗り塗膜の焼き付けは、上塗り塗膜の塗料を塗装する前に行っておく必要がある。
【0089】
(5)その他:
なお、本発明に従った塗膜は、素材の外板となる片面だけに形成してもよいが、所望により素材の両面に形成してもよい。片面だけに形成する場合、未塗装の面は、裸でもよく、或いは下地処理だけを施してもよく、さらには本発明とは異なる塗装を施してもよい。両面に形成する場合、模様塗膜の構成は両面で同じにしてもよいし、異なる構成にしてもよい。
【実施例1】
【0090】
Al:55質量%、Zn:44質量%及びSi:1質量%のめっき組成を有する溶融55%Al−Zn合金めっき金属板(金属板厚み0.35mm)を素材とし、この素材の片面に下地処理として、塗布型クロメート処理液(日本ペイント(株)製[NRC 300])を、クロム付着量が30mg/mとなるようにバーコータで塗布し、最高到達温度が100℃となるように5秒間加熱して、乾燥させることによって、クロメート処理を施した。
【0091】
別途、下塗り塗膜に使用する塗料として、エポキシ塗料(日本ファインコーティングス(株)製エポキシプライマー「NEP48」)を用意し、シンナーを加えて塗料粘度がフォードカップ#4で40秒となるように調整した。
【0092】
また、上塗り塗膜に使用する塗料として、ポリエステル樹脂系のメタリック塗料(日本ファインコーティングス(株)製「メタリック塗料SE506」)を用意し、塗料粘度がフォードカップ#4で40秒となるように調整した。
【0093】
上記のクロメート処理を施したAl−Zn合金めっき金属板(300mm×2000mm)を使用し、2ロール・リバース方式のロールコータ試験機を用いて、下塗りと上塗りのロール塗装を施した。
【0094】
使用したロールコータ試験機は、金属ロール製のピックアップロールとウレタンゴムをライニングしたアプリケータロールとを備え、アプリケータロールの下側に配置された、ウレタンゴムをライニングしたバックアップロールにより、塗装金属板の基材を水平方向に一定速度で搬送できるようになっている。
【0095】
各ロールの回転方向は、図7に示したのと同様であり、ピックアップロールによって持ち上げられた塗料は、ナチュラル回転でアプリケータロールに転写され、次いでリバース回転で基材に転写されるようにした。
【0096】
下塗り塗装は、楕円模様を彫刻したグラビアロールをピックアップロールに使用して、テストコーター(幅300mm×長さ1000mm)で直径5mmのドット模様を形成した。ピックアップロール、アプリケーターロール、バックアップロールの周速は、それぞれ、30m/min、96m/min、80m/minとした。下塗り塗装後の下塗り塗膜の乾燥は、金属板の最高到達温度が200℃となるように約60秒の焼き付けで行った。その結果、ドットの中央部が凹んだ凹凸形状を有する下塗り塗膜が形成された。塗膜の厚みは、凸部で15μm、そして、凹部で5μmであった。
【0097】
次に、この凹凸形状を有する下塗り塗膜の上に、平坦なピックアップロールを使用して、メタリック塗料を塗装したのち、金属板の最高到達温度が230℃となるように約60秒の焼き付けを行って、上塗り塗膜を形成した。ここでは、塗装条件を種々変化させて、3種類の一定膜厚を有する上塗り塗膜を得た。上塗り塗膜の膜厚は、乾燥時で、10μm、16μm、23μmの3種類であった。
【0098】
いずれの塗装金属板も、下塗り塗膜の凹凸形状を反映して、上塗り塗膜表面には模様外観が発現されており、特に斜めから観察した場合には、下塗り塗膜の凹凸形状の輪郭が強調されており、意匠性に優れていた。また、いずれの膜厚の塗装金属板も、隠蔽性が良好で、ワキの発生も見られなかった。
【実施例2】
【0099】
実施例1と同様にして、Al:55質量%、Zn:44質量%及びSi:1質量%のめっき組成を有する溶融55%Al−Zn合金めっき金属板(金属板厚み0.35mm)を素材とし、この素材の片面に下地処理として、塗布型クロメート処理液(日本ペイント(株)製[NRC 300])を、クロム付着量が30mg/mとなるようにバーコータで塗布し、最高到達温度が100℃となるように5秒間加熱して、乾燥させることによって、クロメート処理を施した。
【0100】
また、下塗り塗膜に使用する塗料として、実施例1と同様に、エポキシ塗料(日本ファインコーティングス(株)製エポキシプライマー「NEP48」)を用意し、シンナーを加えて塗料粘度がフォードカップ#4で40秒となるように調整した。
【0101】
ただし、上塗り塗膜に使用する塗料として、ポリエステル樹脂系の艶消し黒色塗料(関西ペイント(株)製「艶消し黒色塗料MZ911」)を、塗料粘度がフォードカップ#4で80秒となるように調整して用いた。
【0102】
上記のクロメート処理を施したAl−Zn合金めっき金属板(300mm×2000mm)を使用し、2ロール・リバース方式のロールコータ試験機を用いて、下塗りと上塗りのロール塗装を施した。使用したロールコータ試験機及び各ロールの回転方向は、実施例1と同様である。
【0103】
下塗り塗膜は、平坦なピックアップロールを使用して、エポキシ塗料からなる下塗り塗料を乾燥時の膜厚で5μmとなるように塗装したのち、金属板の最高到達温度が200℃となるように約60秒の焼き付けすることで、形成した。
【0104】
次に、実施例1で用いたのと同様に、矩形模様を彫刻したグラビアロールをピックアップロールに使用して、テストコーター(幅300mm×長さ1000mm)で一辺50mmの方形の模様を形成した。ピックアップロール、アプリケーターロール、バックアップロールの周速は、それぞれ、30m/min、96m/min、80m/minとした。上塗り塗装後の上塗り塗膜の乾燥は、金属板の最高到達温度が230℃となるように約60秒の焼き付けで行った。その結果、ドットの中央部が突起した凹凸形状を有する上塗り塗膜が形成された。上塗り塗膜の厚みは、凸部で20〜25μm、そして、凹部で10〜15μmであった。
【0105】
この塗装金属板は、上塗り塗膜の有する凹凸形状によって上塗り塗膜表面には模様外観が発現されており、光沢の異なるドット模様)を有しており、意匠性に優れていた。凸部が高光沢で光沢度10〜12であり、凹部が低光沢で光沢度5〜8であった。また、この塗装金属板は、隠蔽性が良好で、ワキの発生も見られなかった。
【0106】
なお、光沢度の測定は、凹部と凸部をそれぞれ切り出して光沢度計により測定した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明により、作業性と模様の再現性と密着性がよく、意匠性に優れた塗装金属板及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】模様印刷金属板の一例である。
【図2】模様塗装金属板の一例である。
【図3】本発明に係る模様塗装金属板の一例である。
【図4】本発明に係る模様塗装金属板の他の例である。
【図5】本発明に係る模様塗装金属板の他の例である。
【図6】2ロール・リバース方式のロール塗装の概略図を示す。
【図7】本発明に係る模様塗装金属板を製造するための塗装装置の一例である。
【符号の説明】
【0109】
1 金属板
2 下地処理層
3 塗膜
4 インク層
5 模様塗膜
6 凹凸形状を有する上塗り塗膜
7 下塗り塗膜
8 凹凸形状を有する下塗り塗膜
9 上塗り塗膜
20 鋼帯
21 アプリケータロール
22 ピックアップロール
23 バックアップロール
25 有機樹脂塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地処理が施された金属板の少なくとも片面に、下地処理層の全面又は一部を連続的に覆う上塗り塗膜を備える塗装金属板であって、上塗り塗膜が凹凸形状を有しており、上塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって模様外観を発現させることを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項2】
下地処理層を介して下塗り塗膜を有する金属板の少なくとも片面に、下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆う上塗り塗膜を備える塗装金属板であって、上塗り塗膜が凹凸形状を有しており、上塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって模様外観を発現させることを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項3】
上塗り塗膜が鱗片状顔料を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項4】
上塗り塗膜が低光沢性塗料からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項5】
上塗り塗膜が縮み塗料からなることを特徴とする、請求項項1又は2に記載の意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項6】
下地処理層を介して下塗り塗膜を有する金属板の少なくとも片面に、下塗り塗膜の全面又は一部を覆う上塗り塗膜を備える塗装金属板であって、下塗り塗膜が凹凸形状を有しかつ下地処理層又は下塗り塗膜の全面又は一部を連続的に覆っており、下塗り塗膜が有する凸部又は凹部によって上塗り塗膜に模様外観を発現させることを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項7】
上塗り塗膜が鱗片状顔料を含有することを特徴とする、請求項6に記載の意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項8】
上塗り塗膜が低光沢性塗料からなることを特徴とする、請求項6に記載の意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項9】
上塗り塗膜が縮み塗料からなることを特徴とする、請求項6に記載の意匠性に優れた塗装金属板。
【請求項10】
請求項1から5までのいずれかに記載の意匠性に優れた塗装金属板を製造する方法であって、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面に部分的にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、ロール塗装により凹凸形状を有する上塗り塗膜を形成することを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板の製造方法。
【請求項11】
請求項6から9までのいずれかに記載の意匠性に優れた塗装金属板を製造する方法であって、表面が平滑なアプリケーターロールと、表面に部分的にグラビアセルが彫刻された金属製ピックアップロールを用いて、ロール塗装により凹凸形状を有する下塗り塗膜を形成することを特徴とする意匠性に優れた塗装金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−94013(P2008−94013A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279654(P2006−279654)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【Fターム(参考)】