説明

意識低下判定装置及びプログラム

【課題】ドライバの意識低下状態を精度よく判定する。
【解決手段】レーン端までの距離L、車速v、及びヨー角θに基づいて車線逸脱予測時間TLCを演算し(102)、TLCが予め定めた閾値thrcより大きい場合には、車両がレーンに近接しており、危険な状況にあると判定して(104)、踏力センサ30及びトルクセンサ32で検出されたセンサ値を取得する(106)。走行開始から所定時間内である場合には、取得したセンサ値を覚醒時バッファに格納し(108、112)、走行開始から所定時間を経過した場合には、現在バッファに格納する(108、110)。覚醒時バッファに格納されたセンサ値の分布と現在バッファに格納されたセンサ値の分布とのマハラノビス距離dを演算し(114)、距離dが予め定めた閾値thrdより大きい場合には、ドライバが意識低下状態にあると判定する(116、118)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意識低下判定装置及びプログラムに係り、特に、車両の走行状態やドライバの運転操作状態に基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する意識低下判定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバの運転操作状態に基づくデータを検出し、検出したデータに基づいて、ドライバが意識低下状態にあるか否かを判定して、ドライバに対して警報を発する等して、ドライバの運転を支援することが行われている。
【0003】
例えば、車両のステアリングにトルクを付与すると共に、ステアリングの回転する量(舵角変化量)を検出し、舵角変化量が、付与したトルクの大きさに基づいて予め定めた閾値以上となった場合に、ステアリングハンドルの把持力が低下していると判定するステアリング保持状態判定装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1のステアリング保持状態判定装置において、舵角変化量が時間経過に伴って減少している場合や、舵角変化量が閾値以上となった回数が所定回数以上となった場合に、ドライバが低覚醒状態であると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−221967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1記載の技術は、低覚醒状態が想定されない状況においてもステアリング保持状態を演算しているため、低覚醒状態によらずステアリング保持力が低下している場合も低覚醒状態として検出される場合があり、いわゆるS/N比が低下して、誤検出や未検出の増加を招く、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ドライバの意識低下状態を精度よく判定することができる意識低下判定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の意識低下判定装置は、自車両の走行状態を検出した走行状態検出値、またはドライバの瞬目を検出した瞬目検出値に基づいて、前記自車両周辺が危険な状況にあるか否かを判定する危険判定手段と、前記ドライバの筋力を使用した運転操作状態を検出した運転操作状態検出値に基づいて、前記ドライバの筋弛緩状態を判定する筋弛緩判定手段と、前記危険判定手段で危険な状況と判定され、かつ前記筋弛緩判定手段で筋弛緩状態であると判定された場合に、前記ドライバの意識が低下していると判定する判定手段と、を含んで構成されている。
【0008】
また、本発明の意識低下判定プログラムは、コンピュータを、自車両の走行状態を検出した走行状態検出値、またはドライバの瞬目を検出した瞬目検出値に基づいて、前記自車両周辺が危険な状況にあるか否かを判定する危険判定手段と、前記ドライバの筋力を使用した運転操作状態を検出した運転操作状態検出値に基づいて、前記ドライバの筋弛緩状態を判定する筋弛緩判定手段と、前記危険判定手段で危険な状況と判定され、かつ前記筋弛緩判定手段で筋弛緩状態であると判定された場合に、前記ドライバの意識が低下していると判定する判定手段として機能させるためのプログラムである。
【0009】
本発明の意識低下判定装置及びプログラムによれば、危険判定手段が、自車両の走行状態を検出した走行状態検出値、またはドライバの瞬目を検出した瞬目検出値に基づいて、自車両周辺が危険な状況にあるか否かを判定する。また、筋弛緩判定手段が、ドライバの筋力を使用した運転操作状態を検出した運転操作状態検出値に基づいて、ドライバの筋弛緩状態を判定する。そして、覚醒状態において、自車両周辺が危険な状況にある場合には、何らかの運転操作が行われるはずであるので、判定手段が、危険判定手段で危険な状況と判定され、かつ筋弛緩判定手段で筋弛緩状態であると判定された場合に、ドライバの意識が低下していると判定する。
【0010】
このように、危険な状況と判定され、かつ筋弛緩状態と判定された場合に意識低下状態であると判定するため、意識低下によらない筋弛緩状態の情報を排除して、ドライバの意識低下状態を精度よく判定することができる。
【0011】
また、本発明の意識低下判定装置及びプログラムにおいて、前記筋弛緩判定手段は、異なる運転操作状態の覚醒時に検出された運転操作状態検出値の分布と現在の運転操作状態検出値の分布との差が予め定めた判定閾値より大きい場合に、筋弛緩状態であると判定するようにすることができる。また、前記差を、異なる運転操作状態の覚醒時に検出された運転操作状態検出値の分布と現在の運転操作状態検出値の分布とのマハラノビス距離またはKL情報量とすることができる。このように、運転操作状態検出値の分布を用いて判定することにより、安定した判定結果を得ることができる。
【0012】
また、本発明の意識低下判定装置及びプログラムにおいて、前記覚醒時に検出された運転操作状態検出値を、走行開始から所定時間内に検出された運転操作状態検出値とすることができる。このように、走行開始から所定時間内は覚醒状態にあるとみなして、実際に検出された運転操作状態検出値を判定基準となる覚醒時に検出された運転操作状態検出値とすることで、車両やドライバの個々の特性が反映され、判定精度を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の意識低下判定装置及びプログラムにおいて、前記筋弛緩判定手段は、前記危険判定手段で危険な状況と判定されたときに検出された運転操作状態検出値に基づいて、前記ドライバの筋弛緩状態を判定するようにすることができる。これにより、危険な状況と判定されたときのみ筋弛緩状態を判定すればよく、無駄な演算を省略することができる。また、運転操作状態検出値の分布を用いて判定する場合には、危険な状況と判定されたときに検出された運転操作状態検出値を用いることにより、危険な状況と判定されていないときに検出された運転操作状態検出値も含めて判定する場合と比較して、運転操作状態検出値の分布のばらつきを抑制して、精度よく判定することができる。
【0014】
また、本発明の意識低下判定装置及びプログラムにおいて、前記危険判定手段は、前記走行状態検出値として検出したレーン位置と自車両との距離または前方車両と自車両との距離が予め定めた近接閾値より小さい場合に、前記自車両周辺が危険な状況にあると判定するようにすることができる。
【0015】
また、本発明の意識低下判定装置及びプログラムにおいて、前記危険判定手段は、前記瞬目検出値に基づいて求まる前記ドライバの閉眼時間が予め定めた時間以上となった場合に、前記自車両周辺が危険な状況にあると判定するようにすることができる。
【0016】
また、本発明の意識低下判定装置及びプログラムにおいて、前記運転操作状態検出値を、ステアリングを操舵するときの操舵トルク、アクセルペダルを踏み込むときの踏力、及びブレーキペダルを踏み込むときの踏力の少なくとも1つを検出した検出値とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の意識低下判定装置及びプログラムによれば、危険な状況と判定され、かつ筋弛緩状態と判定された場合に意識低下状態であると判定するため、意識低下によらない筋弛緩状態の情報を排除して、ドライバの意識低下状態を精度よく判定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施の形態に係る意識低下判定装置の構成を示す概略図である。
【図2】運転操作状態検出値の分布を示すイメージ図である。
【図3】第1の実施の形態の意識低下判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図4】第2の実施の形態に係る意識低下判定装置の構成を示す概略図である。
【図5】第2の実施の形態の意識低下判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図6】第3の実施の形態に係る意識低下判定装置の構成を示す概略図である。
【図7】第3の実施の形態の意識低下判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の意識低下判定装置の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、車両に搭載された意識低下判定装置に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0020】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る意識低下判定装置10は、レーン端から自車位置までの距離を示すレーン位置を検出するレーン位置センサ20と、自車両の車速を検出する車速センサ22と、車線方向に対する自車両の前後方向の角度であるヨー角を検出するヨー角センサ24と、ブレーキ踏力を検出する踏力センサ30と、操舵トルクを検出するトルクセンサ32と、ドライバに対して警報を出力する警報装置40と、各センサからの出力に基づいて、警報装置40による警報出力を制御するコンピュータ50とを備えている。
【0021】
レーン位置センサ20は、例えば、車載カメラ(図示省略)によって撮影された走行時の画像からレーン端を検出し、レーン端から自車位置までの距離を出力すればよいが、必ずしもこれに限定するものではない。
【0022】
ヨー角センサ24は、例えば、車載カメラ(図示省略)によって撮影された走行時の画像からレーンを検出し、車線方向に対する自車両の前後方向の角度をヨー角として出力すればよいが、必ずしもこれに限定するものではない。
【0023】
踏力センサ30は、例えば、ブレーキの油圧回路に設けた油圧を測定する圧力センサを用いることができる。
【0024】
トルクセンサ32は、ステアリングハンドルに接続された操舵軸に生じたトルクを検出する。
【0025】
警報装置40は、コンピュータ50の制御に従って、ドライバに対して警報メッセージを音声出力する。なお、警報装置40は、ドライバに対して警報音を出力するようにしてもよい。
【0026】
コンピュータ50は、意識低下判定装置10全体の制御を司るCPU、後述する意識低下判定処理ルーチンのプログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。
【0027】
このコンピュータ50をハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図1に示すように、レーン位置センサ20、車速センサ22、及びヨー角センサ24の検出値に基づいて、車両周辺が危険な状況にあるか否かを判定する危険状況判定部52と、危険状況判定部52で危険な状況と判定された場合に、踏力センサ30及びトルクセンサ32のセンサ値に基づいて、ドライバの筋弛緩状態を示す値を演算する筋弛緩演算部54と、筋弛緩演算部54で演算された値に基づいて、ドライバが意識低下状態にあるか否かを判定し、判定結果に基づいて警報が出力されるよう警報装置40を制御する判定部56とを含んだ構成で表すことができる。
【0028】
危険状況判定部52は、走行状態としてレーン位置センサ20で検出されるレーン端までの距離L、車速センサ22で検出される車速v、及びヨー角センサ24で検出されるヨー角θを取得し、これらに基づいて、車線逸脱予測時間TLC(Time to Lane Crossing)を下記(1)式により演算する。
【0029】
TLC=L/(v・sinθ) ・・・(1)
そして、演算されたTLCが予め定めた閾値thrcより大きい場合に、車両周辺が危険な状況にあると判定する。
【0030】
筋弛緩演算部54は、車両周辺が危険な状況にあれば何らかの運転操作が行われるはずであるので、危険状況判定部52で危険な状況にあると判定されたときの運転操作状態であるブレーキ踏力及び操舵トルクを用いてドライバの筋弛緩状態を示す値を演算する。
【0031】
具体的には、危険状況判定部52で危険な状況にあると判定され、かつ走行開始から所定時間内に踏力センサ30で検出された踏力及びトルクセンサ32で検出された操舵トルクを覚醒時のセンサ値として覚醒時バッファに格納する。また、危険状況判定部52で危険な状況にあると判定され、かつ走行開始から所定時間経過後に踏力センサ30で検出された踏力及びトルクセンサ32で検出された操舵トルクを現在のセンサ値として現在バッファに格納する。そして、図2に示すように、操舵トルク及びブレーキ踏力を軸とする座標系に、覚醒時バッファに格納されたセンサ値、及び現在バッファに格納されたセンサ値をそれぞれプロットした分布として表す。覚醒時バッファに格納されたセンサ値の分布(以下、「覚醒時の分布」という)と現在バッファに格納されたセンサ値の分布(以下、「現在の分布」という)との距離dを、筋弛緩状態を表す値として演算する。覚醒時の分布と現在の分布との距離dは、例えば、(2)式で示すマハラノビス距離により演算する。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、μは、現在バッファに格納されているセンサ値の平均値、μは、覚醒時バッファに格納されているセンサ値の平均値、及びΣは、共分散行列である。dの値が大きいほど、覚醒時の分布と現在の分布とが相違していることを示している。
【0034】
判定部56は、覚醒時の分布と現在の分布との距離dが予め定めた閾値thrdより大きい場合に、ドライバが意識低下状態にあると判定し、判定結果に基づいて警報が出力されるように警報装置40を制御する。
【0035】
次に、図3を参照して、第1の実施の形態の意識低下判定処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、エンジンが始動された際などに、ROMに記憶された意識低下判定プログラムをCPUが実行することにより開始する。
【0036】
ステップ100で、レーン位置センサ20で検出されたレーン端までの距離L、車速センサ22で検出された車速v、及びヨー角センサ24で検出されたヨー角θを取得する。
【0037】
次に、ステップ102で、上記ステップ100で取得したレーン端までの距離L、車速v、及びヨー角θを上記(1)式に代入して車線逸脱予測時間TLCを演算し、TLCの値を変数cに代入する。
【0038】
次に、ステップ104で、変数cが予め定めた閾値thrcより大きいか否かを判定する。c>thrcの場合には、車両がレーンに近接しており、危険な状況にあると判定して、ステップ106へ進み、c≦thrcの場合には、車両周辺は危険な状況にはないと判定して、ステップ100へ戻る。
【0039】
ステップ106で、踏力センサ30及びトルクセンサ32で検出されたセンサ値を取得する。
【0040】
次に、ステップ108で、走行開始から所定時間が経過したか否かを判定する。この判定は、走行開始から所定時間内は、意識が低下していない覚醒状態であるものとみなし、この間に取得されたセンサ値を覚醒時のセンサ値として用いるためのものである。走行開始から所定時間内である場合には、ステップ110へ進み、上記ステップ106で取得したセンサ値を覚醒時バッファに格納してステップ100へ戻る。
【0041】
一方、ステップ108で、走行開始から所定時間を経過したと判定された場合には、ステップ112へ進み、上記ステップ106で取得したセンサ値を現在バッファに格納する。
【0042】
次に、ステップ114で、覚醒時の分布と現在の分布との距離dを、上記(2)式により演算する。
【0043】
次に、ステップ116で、覚醒時の分布と現在の分布との距離dが予め定めた閾値thrdより大きいか否かを判定する。d>thrdの場合には、ドライバが意識低下状態にあると判定し、ステップ118へ進んで、ドライバに警報を出力する。
【0044】
一方、ステップ116で、d≦thrdと判定された場合には、ステップ120へ進んで、現在の運転操作状態を示す値として直近のセンサ値を用いて判定を行えるようにするために、取得されてから予め定めた時間t秒以上を経過したセンサ値を現在バッファから削除して、ステップ100へ戻る。
【0045】
以上説明したように、第1の実施の形態の意識低下判定装置によれば、危険な状況と判定され、かつ筋弛緩状態と判定された場合に、意識低下状態であると判定するため、意識低下によらない筋弛緩状態の情報がノイズとして含まれることを抑制することができ、意識低下の判定精度が向上する。また、判定基準となる覚醒時のセンサ値を危険状況と判定され、かつ走行開始から所定時間内の期間に取得されたセンサ値を用いているため、覚醒時の分布についてもノイズが含まれることが抑制されたばらつきの少ない分布となり、この覚醒時の分布を基準として演算される筋弛緩状態を示す値も精度よく演算することができる。
【0046】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、危険状況として、ドライバの閉眼状態を判定する点が第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の構成及び処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図4に示すように、第2の実施の形態に係る意識低下判定装置210は、ドライバの瞬目を検出する瞬目センサ26と、踏力センサ30と、トルクセンサ32と、警報装置40と、コンピュータ250とを備えている。
【0048】
瞬目センサ26は、例えば、ドライバの顔を撮影するカメラ(図示省略)によって撮影されたドライバの顔画像を画像認識処理することにより、ドライバの眼の開度を検出すればよいが、必ずしもこれに限定するものではない。
【0049】
コンピュータ250をハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図4に示すように、瞬目センサ26の検出結果に基づいて、ドライバの閉眼状態を判定する閉眼状態判定部53と、閉眼状態判定部53で閉眼時間が所定時間以上継続していると判定された場合に、踏力センサ30及びトルクセンサ32のセンサ値に基づいて、ドライバの筋弛緩状態を示す値を演算する筋弛緩演算部54と、判定部56とを含んだ構成で表すことができる。
【0050】
閉眼状態判定部53は、瞬目センサ26で検出されたドライバの眼の開度が予め定めた開度閾値以下の状態を閉眼状態とし、閉眼状態が所定時間以上継続した場合に、車両周辺が危険な状況にあると判定する。
【0051】
次に、図5を参照して、第2の実施の形態の意識低下判定装置210における意識低下判定処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、エンジンが始動された際などに、ROMに記憶された意識低下判定プログラムをCPUが実行することにより開始する。
【0052】
ステップ220で、瞬目センサ26により検出されたドライバの眼の開度を取得する。
【0053】
次に、ステップ222で、上記ステップ220で取得した眼の開度が予め定めた開度閾値以下か否かを判定することにより、ドライバが閉眼状態か否かを判定する。閉眼状態の場合はステップ224へ進み、閉眼状態ではない場合には、ステップ220へ戻る。
【0054】
ステップ224で、閉眼状態の継続時間が予め定めた閾値threを超えたか否かを判定し、超えていない場合には、ステップ220へ戻り、超えた場合には、ステップ106へ進み、以降第1の実施の形態と同様の処理を実行する。
【0055】
以上説明したように、第2の実施の形態の意識低下判定装置によれば、ドライバが所定時間以上の閉眼となっている場合を意識低下の前兆状態として、危険な状況にあると判定することにより、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、危険状況の判定と筋弛緩状態の判定とを並列的に処理する点、及び走行状態として車間距離を用いる点が第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の構成及び処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
図6に示すように、第3の実施の形態に係る意識低下判定装置310は、自車両と先行車両との車間距離及び相対速度を検出する車間距離センサ28と、トルクセンサ32と、警報装置40と、各センサからの出力に基づいて、警報装置40による警報出力を制御するコンピュータ350とを備えている。
【0058】
車間距離センサ28は、車間距離として先行車両との相対距離を検出すると共に、相対距離の微分値を先行車両との相対速度として検出してコンピュータ350に出力する。車間距離センサ28としては、例えば、レーザレーダを用いることができる。
【0059】
コンピュータ350をハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図6に示すように、車間距離センサ28の検出値に基づいて、車両周辺が危険な状況にあるか否かを判定する危険状況判定部352と、トルクセンサ32のセンサ値に基づいて、ドライバが筋弛緩状態か否かを判定する筋弛緩判定部354と、危険状況判定部352で危険な状況と判定され、かつ筋弛緩判定部354で筋弛緩状態と判定された場合に、ドライバが意識低下状態にあると判定し、警報が出力されるよう警報装置40を制御する判定部356とを含んだ構成で表すことができる。
【0060】
危険状況判定部352は、車間距離センサ28で検出された自車両と先行車両との車間距離l、及び先行車両に対する相対速度v’とに基づいて、下記(3)式に従って、車両衝突時間TTC(Time To Collision)を演算する。
【0061】
TTC=l/v’ ・・・(3)
そして、演算されたTTCが予め定めた閾値thrfより大きい場合に、車両周辺が危険状況にあると判定する。
【0062】
筋弛緩判定部354は、運転操作状態としてトルクセンサ32で検出された操舵トルクを取得し、現在のセンサ値として現在バッファに格納し、格納されたセンサ値の平均値gを演算する。また、実験により得られた覚醒時のセンサ値の平均値を閾値thrgとして予め所定領域に記憶しておき、現在の平均値gと閾値thrgとを比較することにより、筋弛緩状態か否かを判定する。筋弛緩状態の場合には、覚醒時よりも操舵トルクが小さくなるため、g<thrgの場合に、筋弛緩状態であると判定する。
【0063】
次に、図7を参照して、第3の実施の形態の意識低下判定装置における意識低下判定処理ルーチンについて説明する。本ルーチンは、エンジンが始動された際などに、ROMに記憶された意識低下判定プログラムをCPUが実行することにより開始する。
【0064】
ステップ320で、車間距離センサ28で検出された車間距離l、及び相対速度v’を取得する。
【0065】
次に、ステップ322で、上記ステップ320で取得した車間距離l、及び相対速度v’を上記(3)式に代入して車両衝突時間TTCを演算し、TTCの値を変数fに代入する。
【0066】
ステップ324で、トルクセンサ32で検出されたセンサ値を取得し、現在バッファに格納する。
【0067】
次に、ステップ326で、現在バッファに格納されたセンサ値の平均値gを演算する。
【0068】
次に、ステップ328で、変数fが予め定めた閾値thrfより大きく、かつ現在の平均値gが覚醒時の平均値である閾値thrgより小さいか否かを判定する。肯定判定される場合は、危険な状況にあり、かつ筋弛緩状態であるため、ドライバが意識低下状態にあると判定し、ステップ118へ進んで、ドライバに警報を出力する。
【0069】
一方、ステップ328で、否定判定された場合には、ステップ120へ進んで、取得されてから予め定めた時間t秒以上を経過したセンサ値を現在バッファから削除して、ステップ320へ戻る。
【0070】
以上説明したように、第3の実施の形態の意識低下判定装置によれば、危険な状況と判定され、かつ筋弛緩状態と判定された場合に、意識低下状態であると判定するため、意識低下によらない筋弛緩状態の情報がノイズとして含まれることを抑制することができ、意識低下の判定精度が向上する。
【0071】
なお、第1及び第2の実施の形態では、筋弛緩状態をセンサ値の分布を用いて判定し、第3の実施の場合ではセンサ値の平均値を用いて判定する場合について説明したが、第1及び第2の実施の形態においてもセンサ値の平均値を用いて判定するようにしてもよいし、第3の実施の形態においてもセンサ値の分布を用いて判定するようにしてもよい。
【0072】
また、第1及び第2の実施の形態では、覚醒時のセンサ値を走行開始から所定時間内に検出されたセンサ値、第3の実施形態では、実験により得られた覚醒時のセンサ値の平均値を用いて判定基準とする場合について説明したが、第1及び第2の実施の形態においても実験により得られた覚醒時のセンサ値の平均値を用いるようにしてもよいし、第3の実施の形態においても走行開始から所定時間内に検出されたセンサ値を用いるようにしてもよい。
【0073】
また、第1及び第2の実施の形態では、筋弛緩状態を示す値として、覚醒時の分布と現在の分布との距離をマハラノビス距離で演算する場合について説明したが、覚醒時のセンサ値の確率分布と現在のセンサ値の確率分布との相違度を示すKL(kullbuck-leibler)情報量を用いてもよい。KL情報量は、覚醒時の分布と現在の分布との相違度が大きい程、大きな値を示す情報量である。
【0074】
また、第1及び第2の実施の形態では、運転操作状態の1つとしてブレーキ踏力を踏力センサで検出する場合について説明したが、踏力センサをアクセルペダルに設け、アクセル踏力を検出するようにしてもよい。また、運転操作状態は、操舵トルク及び踏力に限定されるものではなく、ドライバの筋力を使用した運転操作状態を検出できる値であればよい。
【0075】
また、上記実施の形態では、ドライバが意識低下状態であると判定された場合に、警報を出力する場合について説明したが、ブレーキをかけるように制御する等、他の方法によりドライバの運転を支援するものでもよい。
【符号の説明】
【0076】
10、210、310 意識低下判定装置
20 レーン位置センサ
22 車速センサ
24 ヨー角センサ
26 瞬目センサ
28 車間距離センサ
30 踏力センサ
32 トルクセンサ
40 警報装置
50、250、350 コンピュータ
52、352 危険状況判定部
53 閉眼状態判定部
54 筋弛緩演算部
354 筋弛緩判定部
56、356 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行状態を検出した走行状態検出値、またはドライバの瞬目を検出した瞬目検出値に基づいて、前記自車両周辺が危険な状況にあるか否かを判定する危険判定手段と、
前記ドライバの筋力を使用した運転操作状態を検出した運転操作状態検出値に基づいて、前記ドライバの筋弛緩状態を判定する筋弛緩判定手段と、
前記危険判定手段で危険な状況と判定され、かつ前記筋弛緩判定手段で筋弛緩状態であると判定された場合に、前記ドライバの意識が低下していると判定する判定手段と、
を含む意識低下判定装置。
【請求項2】
前記筋弛緩判定手段は、異なる運転操作状態の覚醒時に検出された運転操作状態検出値の分布と現在の運転操作状態検出値の分布との差が予め定めた判定閾値より大きい場合に、筋弛緩状態であると判定する請求項1記載の意識低下判定装置。
【請求項3】
前記差を、異なる運転操作状態の覚醒時に検出された運転操作状態検出値の分布と現在の運転操作状態検出値の分布とのマハラノビス距離またはKL情報量とした請求項2記載の意識低下判定装置。
【請求項4】
前記覚醒時に検出された運転操作状態検出値を、走行開始から所定時間内に検出された運転操作状態検出値とした請求項2または請求項3記載の意識低下判定装置。
【請求項5】
前記筋弛緩判定手段は、前記危険判定手段で危険な状況と判定されたときに検出された運転操作状態検出値に基づいて、前記ドライバの筋弛緩状態を判定する請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の意識低下判定装置。
【請求項6】
前記危険判定手段は、前記走行状態検出値として検出したレーン位置と自車両との距離または前方車両と自車両との距離が予め定めた近接閾値より小さい場合に、前記自車両周辺が危険な状況にあると判定する請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の意識低下判定装置。
【請求項7】
前記危険判定手段は、前記瞬目検出値に基づいて求まる前記ドライバの閉眼時間が予め定めた時間以上となった場合に、前記自車両周辺が危険な状況にあると判定する請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の意識低下判定装置。
【請求項8】
前記運転操作状態検出値を、ステアリングを操舵するときの操舵トルク、アクセルペダルを踏み込むときの踏力、及びブレーキペダルを踏み込むときの踏力の少なくとも1つを検出した検出値とした請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の意識低下判定装置。
【請求項9】
コンピュータを、
自車両の走行状態を検出した走行状態検出値、またはドライバの瞬目を検出した瞬目検出値に基づいて、前記自車両周辺が危険な状況にあるか否かを判定する危険判定手段と、
前記ドライバの筋力を使用した運転操作状態を検出した運転操作状態検出値に基づいて、前記ドライバの筋弛緩状態を判定する筋弛緩判定手段と、
前記危険判定手段で危険な状況と判定され、かつ前記筋弛緩判定手段で筋弛緩状態であると判定された場合に、前記ドライバの意識が低下していると判定する判定手段と、
して機能させるための意識低下判定プログラム。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1〜請求項8のいずれか1項記載の意識低下判定装置を構成する各手段として機能させるための意識低下判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−13751(P2011−13751A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155110(P2009−155110)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】