説明

感光性組成物および平版印刷版

【課題】本発明の目的は、高感度で経時保存性が改善された、水現像が可能な感光性組成物および平版印刷版を提供することにある
【解決手段】水溶性重合体として、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体または側鎖にビニル基が置換したフェニル基およびスルホン酸塩基を有する水溶性重合体、光重合開始剤または光酸発生剤、および下記の一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする感光性組成物およびこれを用いた平版印刷版。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版、プリント配線基板作製用レジスト、カラーフィルター、及び蛍光体パターン等の作製に用いることができる感光性組成物に関し、特に平版印刷版に好適な感光性組成物に関する。更に、レーザー等の走査露光による画像形成が可能で、且つ水現像が可能な感光性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水による現像が可能な感光性組成物としては、例えばカラーフィルター用材料としてゼラチンやポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーに重クロム酸塩を添加した感光性組成物が使用されてきたが、クロム廃液処理の問題等があることから、これらに代わる感光性組成物として種々の系が検討されてきた。
【0003】
一つには、ポリビニルアルコールにスチリルピリジニウム塩化合物やスチリルキノリニウム塩化合物等の4級アンモニウム塩化合物を縮合付加させたポリマーを利用した水現像性感光材料の例が特公昭56−5761号、同昭56−5762号、特開昭56−11906号公報等に記載されているが、解像度及び感度の点で十分な特性を示すものではなかった。
【0004】
或いは、水溶性アジド化合物とこれにより架橋可能な水溶性ポリマーを組み合わせた感光材料が良く知られている。この場合の水溶性ポリマーとして、特開昭48−97602号公報にはポリビニルアルコール−マレイン酸共重合体が、特開昭48−97603号公報にはポリビニルアルコール−アクリルアミド共重合体が示されているが低感度であった。同様に、特開昭48−90185号公報等に見られるように、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドンを使用した場合には、ある程度高感度が得られるが、まだ十分ではなかった。また、特公昭52−20225号公報や特開2000−248027号公報等に見られるようなポリ(メタ)アクリルアミド−ジアセトンアクリルアミド共重合体を使用した系に於いても、解像度及び感度の点で満足できるものではなかった。
【0005】
高感度化を狙って、水溶性ポリマー自体に感光性アジド基を導入した例が、例えば、特開平9−185163号、同平11−84655号公報等に記載されているが、高感度化と保存安定性の両立が困難であり、実用上問題があった。
【0006】
同様に高感度化を狙って、ポリビニルアルコールの側鎖に重合性不飽和結合基を導入し、更に光重合開始剤を用いた水現像可能な感光性組成物の例が、例えば特開2000−181062号公報等に見られる。この場合には側鎖に導入される重合性不飽和結合基を有する基が、アセタール化反応によりポリビニルアルコールの側鎖として導入されるため、感度を高めるために導入率を上げると、得られるポリマーの水溶性が低下し、その結果、水現像性が低下するという問題があった。
【0007】
更には、上記のような水現像可能な感光性組成物を平版印刷版用途に利用しようとした場合には、現像後の画像部が親油性に極めて乏しく、また水により膨潤するなどして画像強度が弱く、到底通常の平版印刷に耐えられるものではなかった。
【0008】
また、特公昭55−13020号公報には、不飽和結合基を有するカチオン性水溶性重合体を用いた感光性組成物が開示されている。同公報の感光性組成物は不飽和結合基同士の光二量化を利用するものであって、これは良く知られたケイ皮酸の光二量化やスチリルピリジニウム塩の光二量化と同様の反応機構である。この光二量化の反応機構は、光重合開始剤や光酸発生剤を介在させないものである。従って、本発明に於いて必須とする光重合開始剤や光酸発生剤による架橋反応とは異なり、また上記公報には本発明の構成は全く記載されていない。また、同公報の感光性組成物は実質的に紫外線のみにしか感光せず、増幅過程がないために低感度であり、露光には高いエネルギーを必要とし、更に可視光〜近赤外光には感度を有しておらず、後述するレーザー光を用いた出力機に対応できるものではなかった。
【0009】
特開平9−101620号公報には、カチオン性基と(メタ)アクリロイル基を側鎖に有するポリマーを用いた感光性組成物が開示されている。これは、フレキソ印刷に対応した印刷版材であるが、水現像性に劣り、現像に長時間を必要とする問題があった。更に、該感光性組成物を通常の平版印刷版用途に使用した場合には、インキの着肉性及び耐刷性に劣るという問題があった。
【0010】
平版印刷版の分野に於いては、近年、画像形成技術の進歩に伴い、可視光に対して高感度を示す感光性組成物が求められるようになってきた。例えば、アルゴンレーザー、ヘリウム・ネオンレーザー、赤色LED等を用いた出力機に対応した感光性組成物及び感光性平版印刷版の研究も活発に行われている。
【0011】
更に、半導体レーザーの著しい進歩によって700〜1300nmの近赤外レーザー光源を容易に利用できるようになったことに伴い、該レーザー光に対応する感光性組成物及び感光性平版印刷版が注目されている。加えて、400nm付近に発光する近紫外光半導体レーザーを利用した描画装置(プレートセッター)も市場に現れてきており、これらにより画像形成(製版)可能な高感度である感光性組成物及び感光性平版印刷材料が望まれている。
【0012】
上記可視光〜近赤外光に感光性を有する光重合性組成物として、特開平9−134007号公報にはエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合可能な化合物と400〜500nmに吸収ピークを持つ光増感色素と重合開始剤とを含有する平版印刷版材料が開示され、特開昭62−143044号、同昭62−150242号、同平5−5988号、同平5−194619号、同平5−197069号、同2000−98603号公報等には、有機ホウ素アニオンと色素との組み合わせが開示され、特開平4−31863号、同平6−43633号公報等には色素とs−トリアジン系化合物との組み合わせが開示され、特開平7−20629号、同平7−271029号公報等にはレゾール樹脂、ノボラック樹脂、赤外線吸収剤及び光酸発生剤の組み合わせが開示され、特開平11−212252号、同平11−231535号公報等には特定の重合体と光酸発生剤と近赤外増感色素の組み合わせが開示されている。また、特公平6−105353号、特開2001−290271号公報等には、ビニル基が置換したフェニル基を有する重合体を用いた感光性組成物が開示されている(特許文献1、2)。
【0013】
しかしながら、上記いずれの例に於いても感光層に用いられるバインダーポリマーは水溶性ではなく、現像を行う場合には、現像液として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸カリウム等の強アルカリ性化合物を溶解したアルカリ性水溶液を使用する必要があり、到底水現像できるものではなかった。また現像に於いては専用の自動現像装置を用いて現像を行う必要があった。
【0014】
これに対して、水現像可能な、或いは現像処理自体が不要である平版印刷版が望まれており、例えば、高出力近赤外半導体レーザーの照射によりバインダーポリマーのアブレーション除去を利用した現像不要の無処理印刷版が提案されている。例えば、特開平8−48018号公報等にはアブレーションによりインキ受容性ポリマーを除去し、洗浄剤にて親水性支持体表面を露出することで平版印刷版を作製する方法が開示されているが、デブリと呼ばれるアブレーションカス残りが発生し光学系の汚染或いは印刷版の地汚れの原因となる場合があり問題があった。
【0015】
別の試みとして、上記高出力近赤外半導体レーザーを利用し、感熱層として熱可塑性ポリマー微粒子を含む層を設け、レーザー照射部に於いて発生する高熱を利用してポリマー微粒子を融着することで水不溶性とする、水現像可能な感熱性平版印刷版の例が特開平9−171250号、同平10−186646号、同平11−265062号公報、及び米国特許第6,001,536号公報等に記載されている。これらは現像処理を行うことなく、そのまま印刷機に装着し、印刷することが可能な好ましい系であるが、レーザー光に対する感度が低い問題や、地汚れが発生し易い等の問題があった。
【0016】
これらの問題を解決するために特開2003−215801号公報(特許文献3)には新規の感光性組成物及びそれを用いた平版印刷版の提案がある。この方法によれば少なくとも初期特性においては上記課題を満たしていた。しかしながら、経時保存により感度等の特性が変化する場合があるということが分かってきた。
【0017】
これに対し、特開平10−60296号、同平10−226706号、同2003−206307号、特許3711646号公報には光重合開始剤を用いた系の経時保存を改良するために、ある種の増感色素を用いることが提案されている(特許文献4〜7)。しかしながら、これらの改良効果は十分なものではなく、また水現像可能な系に対するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平6−105353号公報
【特許文献2】特開2001−290271号公報
【特許文献3】特開2003−215801号公報
【特許文献4】特開平10−60296号公報
【特許文献5】特開平10−226706号公報
【特許文献6】特開2003−206307号公報
【特許文献7】特許3711646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、高感度で経時保存性が改善された、水現像が可能な感光性組成物、および平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の上記目的は、水溶性重合体として、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体または側鎖にビニル基が置換したフェニル基およびスルホン酸塩基を有する水溶性重合体、光重合開始剤または光酸発生剤、および下記の一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする感光性組成物、および支持体上に該感光性組成物を塗布して光硬化性感光層を設けた平版印刷版によって達成される。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、RとRはアルキル基、Lは炭素数1〜7のメチン基、Xはカウンターイオン、mは電荷を中和するのに必要な整数、QとQは置換されていてもよい芳香環を形成するのに必要な原子群を表す。但し、QとQは置換基も含めて互いに同一ではない。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、高感度で経時保存性が改善された、水現像が可能な感光性組成物、および感光性印刷版を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の感光性組成物は、水溶性重合体として、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体(以降、水溶性重合体Aと称す)または側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸塩基を有する水溶性重合体(以降、水溶性重合体Bと称す)、及び光重合開始剤または光酸発生剤、下記一般式(1)で示される増感剤を含有する感光性組成物である。
【0025】
【化2】

【0026】
上記一般式(1)で示される増感剤について以下説明する。
【0027】
式中R、Rはアルキル基を表し、これらは互いに同一であっても異なっていても良く、メチル基、エチル基、カルボキシ基、スルホニル基および、フェニル基やナフチル基等のアリール基等で置換されていてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を示す。Lは炭素数1から7のメチン基を表し、メチル基、エチル基および、フェニル基やナフチル基等のアリール基等で置換されていてもよい。Xはトリエチルアンモニウム、ピリジニウム、カリウム、ナトリウムなどのカチオン、塩素イオン、臭素イオン、よう素イオン、パークロラート、p−トルエンスルホナート、エチル硫酸、メチル硫酸などのアニオンからなるカウンターイオンを示す。mは電荷を中和するのに必要な整数を示す。Q、Qはメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、塩素、よう素等のハロゲン元素、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基のようなアリールオキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルボキシ基、スルホニル基等で置換されていてもよいベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環を形成するのに必要な原子群を表す。但し、QとQは置換基も含めて互いに同一ではない。
【0028】
とQの置換基としてはフェニル基、ナフチル基等のアリール基を有するものが特に好ましい。
【0029】
とQが同一でないことが好ましい理由は定かではないが、分子としてある程度以上の双極子モーメントを有することで高感度であって経時保存性が改善可能となるものと推察している。
【0030】
以下に一般式(1)で示される増感剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
上記増感剤は光重合開始剤および/または光酸発生剤の使用量合計に対して1〜1000質量%、好ましくは5〜500質量%を使用する。
【0036】
本発明に用いる水溶性重合体として、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体(水溶性重合体A)または側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸塩基を有する水溶性重合体(水溶性重合体B)を以下説明する。
【0037】
本発明に用いられる水溶性重合体Aとは、カチオン性基を有する水溶性ポリマー中の側鎖にビニル基が置換したフェニル基が導入されている重合体を表す。以下に水溶性重合体Aについて詳細に説明する。
【0038】
水溶性重合体Aに於けるカチオン性基とは、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基、ヨードニウム基、オキソニウム基等の有機オニウム基から選ばれる基であり、これらのうち4級アンモニウム基が最も好ましい。
【0039】
上記した有機オニウム基を導入した重合体は、特公昭55−13020号、特開昭55−22766号、同平11−153859号、同2000−103179号、米国特許第4,693,958号、同第5,512,418号公報等に記載されている従来公知の化学反応を用いて合成することができる。即ち、所望の有機オニウム基を含有するモノマーを重合反応させたり、重合体を構成するポリマー鎖上に導入された三価のN原子、二価のS原子或いは三価のP原子等を、通常のアルキル化反応によって、有機オニウム基を導入する方法が挙げられる。更には、アミン類、スルフィド類、ホスフィン類のような求核試薬とポリマー鎖上の脱離基(例えば、スルホン酸エステル類やハロゲン化物)との求核置換反応により、ポリマー主鎖または側鎖に有機オニウム基を導入する方法も挙げられる。
【0040】
水溶性重合体Aに於けるビニル基が置換したフェニル基とは、光重合開始剤または光酸発生剤の作用により、光重合反応或いは光架橋反応に寄与しうる基である。ビニル基が置換したフェニル基は、適当な連結基を介して重合体中に導入されている場合が好ましい。この場合の連結基としては特に限定されず、任意の基、原子またはそれらの複合した基が挙げられる。更に、該ビニル基及び該フェニル基は置換基を有していても良い。ビニル基が置換したフェニル基を導入した重合体とは、更に詳細には、下記一般式(2)で表される基を側鎖に有するものである。
【0041】
【化7】

【0042】
式中、R71、R72及びR73は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基から選ばれる基を表し、これらの基を構成するアルキル基及びアリール基は、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。これらの基の中でも、R71が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基等)であり、R72およびR73が水素原子であるものが特に好ましい。
【0043】
式中、R74はハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等のフェニル基の水素原子を置換可能な基を表す。また、これらの基を構成するアルキル基及びアリール基は、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。
【0044】
式中、m71は0〜4の整数を表し、p71は0または1の整数を表し、q71は1〜4の整数を表す。
【0045】
式中、L71は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子またはこれらの原子群に水素原子を加えた原子群からなる多価の連結基を表す。具体的には下記に例示される構造単位より構成される基及び下記に示す複素環基が挙げられる。これらの基は単独でも任意の2つ以上が組み合わされていても良い。更には、これらの基は置換基を有していても良い。
【0046】
【化8】

【0047】
71を構成する複素環の例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらの複素環は置換基を有していても良い。
【0048】
上述した多価の連結基が置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等が挙げられる。
【0049】
連結基(L71)を構成する任意の原子団に於いて、この中にカチオン性基を形成する4級アンモニウム基等の有機オニウム基が含まれている場合が特に好ましく利用される。連結基中にこうした有機オニウム基が含まれない場合に於いては主鎖を構成する繰り返し単位中に、別途有機オニウム基を有する繰り返し単位を含むことが必要である。
【0050】
重合体中にビニル基が置換したフェニル基を導入する方法については特に制限はなく、例えば特公昭49−34041号、同平6−105353号公報、特開2000−181062号、同2000−187322号公報等に示されるようないずれの方法を用いても良い。これらの場合には予め前駆体であるポリマーを合成する際に、有機オニウム基を有する繰り返し単位を共重合体の形で導入しておくか、前駆体ポリマーに重合性不飽和結合基を導入した後で、上述した方法等により、有機オニウム基を形成することが必要である。
【0051】
水溶性重合体Aを構成することができるモノマーの具体例としては、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、(4−ビニルベンジル)トリメチルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩モノマー、ジメチル−2−メタクリロイルオキシエチルスルホニウムメトスルフェート等の3級スルホニウム塩モノマー、2−クロロメチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−ブロモメチルスチレン、2−クロロエチルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート等のハロゲン化アルキル基含有モノマー等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0052】
また、水溶性重合体Aは、任意の他のモノマーとの共重合体を構成していても良く、これら共重合体を構成するモノマーは水溶性であっても非水溶性であっても良い。水溶性モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、アクリルアミド−N−グリコール酸等のカルボキシル基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホ基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマー及びこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら水溶性モノマーは1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。
【0053】
また、水現像性を最適化し、画像部の強度を向上させるために、非水溶性の任意のモノマーとの共重合体を形成することも好ましく行われ、これらの例としては、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアリール(メタ)アクリレート類またはアリールアルキル(メタ)アクリレート類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを挙げることができる。これらの任意の組み合わせで構成される共重合体を水溶性重合体Aとして使用することができる。
【0054】
本発明の水溶性重合体Aは、ビニル基が置換したフェニル基がカチオン性基を介して主鎖と結合している場合が特に好ましい。ビニル基が置換したフェニル基を主鎖に結合するための連結基を構成する任意の原子団に於いて、この中にカチオン性基を形成する4級アンモニウム基等の有機オニウム基が含まれている場合が最も好ましい。この場合に於いては、重合体中に含まれるビニル基が置換したフェニル基の数と有機オニウム基の数が正比例するため、感度を向上させるために重合体中のビニル基が置換したフェニル基の割合を増加しても水に対する溶解性が低下しないことから感度と水現像性の両方を同時に満足することができる。上述したような、ビニル基が置換したフェニル基がカチオン性基を介して主鎖と結合している場合の重合体の単位構造は、具体的には下記一般式(3)で表すことができる。
【0055】
【化9】

【0056】
式中、A91+はアンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基、ヨードニウム基、オキソニウム基等の有機オニウム基から選ばれる有機オニウム基を表し、n91及びn92はそれぞれ0または1を表す。A91+がヨードニウム基の場合はn91=n92=0であり、A91+がスルホニウム基またはオキソニウム基の場合はn91=1且つn92=0であり、A91+がアンモニウム基またはホスホニウム基の場合はn91=n92=1である。
【0057】
式中、R91及びR92は、同じであっても異なっていても良く、それぞれアルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、ベンジル基等)、またはアリール基(例えばフェニル基、1−ナフチル基等)を表し、これらの基は置換されていても良く、この場合の置換基の例としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等が挙げられる。更に、R91及びR92は、前記一般式(2)で表されるビニル基が置換したフェニル基を含有する基であっても良い。
【0058】
式中、R93、R94及びR95は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ前記一般式(2)に於けるR71、R72及びR73と同義である。これらの基の中でも、R93が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基等)であり、R94及びR95が水素原子であるものが特に好ましい。R96は、前記一般式(2)に於けるR74と同義である。L91及びL92は、それぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子またはこれらの原子群に水素原子を加えた原子群からなる多価の連結基を表し、具体的には前記一般式(2)に於けるL71と同義である。m91は0〜4の整数を表し、p91は0または1の整数を表し、q91は1〜4の整数を表す。
【0059】
また、A91+で表される有機オニウム基を形成する窒素原子、硫黄原子及びりん原子等と、R91、R92或いはL91、L92から任意に選ばれる基とが組み合わさって環構造(例えば、ピリジニウム環、2−キノリニウム環、モルホリニウム環、ピペリジニウム環、ピロリジニウム環、テトラヒドロチオフェニウム環等)を形成していても良い。これら環構造は、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。
【0060】
また、本発明の水溶性重合体Aの中には、上記したようなビニル基が置換したフェニル基がカチオン性基を介して主鎖と結合した繰り返し単位を有する重合体の他に、ビニル基が置換したフェニル基が直接もしくはカチオン性基を含まない連結基を介して主鎖に結合した繰り返し単位とカチオン性基を有する繰り返し単位とを有する重合体も用いることができる。
【0061】
本発明に於ける水溶性重合体Aの例を以下に示すが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例示された構造式の中の数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
【化12】

【0065】
【化13】

【0066】
【化14】

【0067】
【化15】

【0068】
本発明の水溶性重合体Aを構成する各繰り返し単位が、全重合体中に占める割合については好ましい範囲が存在する。上述したようにビニル基が置換したフェニル基がカチオン性基を介して主鎖と結合している場合には、その繰り返し単位が重合体トータル組成100質量%中に占める割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%から80質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0069】
また、ビニル基が置換したフェニル基が直接もしくはカチオン性基を含まない連結基を介して主鎖に結合した繰り返し単位とカチオン性基を有する繰り返し単位とからなる重合体の場合には、ビニル基が置換したフェニル基を有する繰り返し単位の割合は、5質量%から70質量%の範囲にあることが好ましく、10質量%から50質量%の範囲にあることが特に好ましい。そして、カチオン性基を有する繰り返し単位が占める割合は、30質量%から95質量%の範囲にあることが好ましく、50質量%から90質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0070】
本発明の水溶性重合体Aが、任意の水溶性或いは非水溶性モノマーとの共重合体である場合には、その水溶性モノマー或いは非水溶性モノマーに由来する繰り返し単位の割合は、65質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0071】
本発明の水溶性重合体Aの分子量については好ましい範囲が存在し、質量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、更に1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。本発明に於ける水溶性重合体Aは、1種のみの単独で用いても良いし、任意の2種以上を混合して用いても良い。
【0072】
次に、側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸塩基を有する水溶性重合体(水溶性重合体B)について詳細に説明する。
【0073】
本発明の水溶性重合体Bは、ビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸塩基がそれぞれ直接もしくは任意の連結基を介して主鎖と結合した水溶性重合体である。これらの連結基としては特に限定されず、任意の基、原子またはそれらの複合した基が挙げられる。ビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸塩基は、それぞれ独立して主鎖に結合していても良いし、或いはビニル基が置換したフェニル基とスルホン酸塩基が連結基の一部または全部を共有する形で結合していても良い。
【0074】
上記ビニル基が置換したフェニル基に於いて、該フェニル基は置換されていても良く、また、該ビニル基はハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等で置換されていても良い。
【0075】
本発明の水溶性重合体Bは、更に詳細には、下記一般式(4)で表される基を側鎖に有するものである。
【0076】
【化16】

【0077】
式中、R161、R162及びR163は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ前記一般式(2)に於けるR71、R72及びR73と同義であり、R164は前記一般式(2)に於けるR74と同義である。L161は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子またはこれらの原子群に水素原子を加えた原子群からなる多価の連結基を表し、具体的には前記一般式(2)におけるL71と同義である。m161は0〜4の整数を表し、p161は0または1の整数を表し、q161は1〜4の整数を表す。
【0078】
上記一般式(4)で表される基の中でも、R161が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であり、且つR162及びR163が水素原子であるものが好ましい。また、連結基L161としては複素環を含むものが好ましく、q161は1または2であるものが好ましい。
【0079】
スルホン酸塩基は下記のように表される。
【0080】
【化17】

【0081】
式中、L171は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子またはこれらに水素原子を加えた原子群からなる多価の連結基を表し、具体的には前記一般式(2)におけるL71と同義である。更にL171は、上記一般式(4)のL161の一部または全部を共有しても良い。
【0082】
式中、Xはスルホアニオンを中和するのに必要な電荷を供給するカチオンを表し、1価であっても良いし、2価以上の多価カチオンであっても良い。このようなカチオンの具体例としては、アルカリ金属イオン(例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、リチウム、カルシウム、バリウム、亜鉛等)、有機アンモニウムイオン(例えばアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ピリジニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム等)、ヨードニウムイオン(例えばジフェニルヨードニウム等)、スルホニウムイオン(例えばトリフェニルスルホニウム等)、ジアゾニウムイオン等が挙げられ、これらの中でも、アルカリ金属イオンまたは有機アンモニウムイオンが特に好ましい。
【0083】
重合体中にビニル基が置換したフェニル基を導入する方法については特に制限はないが、該ビニル基が置換したフェニル基を有するモノマーを重合させた場合には、該ビニル基も反応し、ゲル化等を起こしてしまうことが予想され好ましくない。このため、ビニル基が置換したフェニル基を有さない前駆体ポリマーを合成しておき、しかる後、従来公知の高分子反応により該ビニル基が置換したフェニル基を導入する方法が特に好ましい。
【0084】
重合体中にスルホン酸塩基を導入する方法については特に制限はなく、該スルホン酸塩基を有するモノマーを共重合させても良いし、スルホン酸塩基を有さない前駆体ポリマーを合成しておき、しかる後、従来公知の高分子反応により該スルホン酸塩基を導入しても良い。
【0085】
本発明の水溶性重合体Bは、上述した側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する繰り返し単位、及びスルホン酸塩基を有する繰り返し単位からのみなる重合体であっても良いし、或いは本発明の効果を妨げない限り、更に他の繰り返し単位を導入した重合体であっても良い。また更に、他のモノマーとの共重合体であっても良く、このようなモノマーの具体例としては、水溶性重合体Aで例示した全ての水溶性モノマー及び非水溶性モノマーが挙げられ、これらモノマーは1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。
【0086】
本発明の水溶性重合体Bの例を以下に示すが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例示された構造式の中の数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0087】
【化18】

【0088】
【化19】

【0089】
【化20】

【0090】
【化21】

【0091】
【化22】

【0092】
【化23】

【0093】
【化24】

【0094】
【化25】

【0095】
【化26】

【0096】
本発明の水溶性重合体Bにおいて、ビニル基が置換したフェニル基が直接もしくは任意の多価の連結基を介して主鎖と結合した繰り返し単位、及びスルホン酸塩基が任意の多価の連結基を介して主鎖と結合した繰り返し単位が、全重合体中に占める割合については好ましい範囲が存在する。ビニル基が置換したフェニル基が直接もしくは任意の多価の連結基を介して主鎖と結合した繰り返し単位が、重合体トータル組成100質量%中に占める割合は、5質量%から70質量%の範囲にあることが好ましく、10質量%から50質量%の範囲にあることが特に好ましい。そして、スルホン酸塩基が任意の多価の連結基を介して主鎖と結合した繰り返し単位の割合は、10質量%から95質量%の範囲にあることが好ましく、30質量%から90質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0097】
本発明の水溶性重合体Bが、他の任意の繰り返し単位と共に構成されている場合、他の繰り返し単位の割合は、65質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0098】
本発明の水溶性重合体Bの質量平均分子量は、1000から100万の範囲であることが好ましく、更に1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。本発明に於ける水溶性重合体Bは1種のみの単独で用いても良いし、任意の2種以上を混合して用いても良い。
【0099】
前述した本発明の水溶性重合体A及びBの水に対する溶解性については好ましい範囲が存在する。即ち、25℃のイオン交換水100mlに対して、前記水溶性重合体は0.5g以上溶解することが好ましく、更に2.0g以上溶解することが特に好ましい。
【0100】
本発明の感光性組成物は、上記した水溶性重合体AもしくはBの他に、任意の公知の各種バインダー樹脂を混合して用いることもできる。この場合のバインダー樹脂は特に制限されず、具体的には、上記で例示した全てのモノマーから任意に構成される重合体や、ポリビニルフェノール、フェノール樹脂、ポリヒドロキシベンザール、ゼラチン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらバインダー樹脂としては水溶性であることが好ましく、上記で例示したような水溶性モノマーを少なくとも1種以上用いた水溶性バインダー樹脂やゼラチン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性バインダー樹脂であることが好ましい。
【0101】
本発明の水溶性重合体A或いはBを用いた感光性組成物は、露光部(光が当たった領域)に於いて重合体中のビニル基が置換したフェニル基が光重合開始剤または光酸発生剤の作用により架橋を行うことで水不溶性となり、一方、未露光部(光が当たらない領域)に於いてはカチオン性基或いはスルホン酸塩基の導入により水溶性が極めて高くなる。従って、水現像によって未露光部(非画像部)は溶解除去され、一方露光部(画像部)は溶解されずに残ってレリーフ画像を形成する。
【0102】
本発明の感光性組成物は、前記した水溶性重合体AもしくはBと併せて、光重合開始剤または光酸発生剤を含有する。本発明に用いられる光重合開始剤としては、光または電子線の照射によりラジカルを発生しうる化合物であれば任意の化合物を用いることができる。
【0103】
本発明に用いられる光重合開始剤の例としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)アジニウム化合物、(g)活性エステル化合物、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、及び(j)有機ホウ素化合物等が挙げられる。
【0104】
(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、”RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY”J.P.FOUASSIER,J.F.RABEK (1993)、P.77〜P.177に記載のベンゾフェノン骨格、或いはチオキサントン骨格を有する化合物、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン類、特公昭60−26403号、特開昭62−81345号公報に記載のベンゾインエーテル類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン類、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類を挙げることができる。
【0105】
(b)芳香族オニウム塩の例としては、N、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、TeまたはIの芳香族オニウム塩が含まれる。このような芳香族オニウム塩は、特公昭52−14277号、同昭52−14278号、同昭52−14279号公報等に例示されている化合物を挙げることができる。
【0106】
(c)有機過酸化物の例としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物の殆ど全てが含まれるが、例えば、3,3′,4,4′−テトラ−(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ−(tert−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−tert−ブチルジパーオキシイソフタレート等の過酸化エステル系が好ましい。
【0107】
(d)ヘキサアリールビイミダゾールの例としては、特公昭45−37377号、同昭44−86516号公報に記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0108】
(e)ケトオキシムエステルの例としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0109】
(f)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号、同昭63−142345号、同昭63−142346号、同昭63−143537号、特公昭46−42363号公報等に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0110】
(g)活性エステル化合物の例としては特公昭62−6223号公報等に記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号、特開昭59−174831号公報等に記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0111】
(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号、同昭61−151197号、同昭63−41484号、同平2−249号、同平2−4705号公報等に記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号、同平1−152109号公報等に記載の鉄−アレーン錯体等を挙げることができる。
【0112】
(i)トリハロアルキル置換化合物の例としては、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも1個以上有する化合物であり、米国特許第3,954,475号、同第3,987,037号、同第4,189,323号、特開昭61−151644号、同昭63−298339号、同平4−69661号、同平11−153859号公報等に記載のトリハロメチル−s−トリアジン化合物、特開昭54−74728号、同昭55−77742号、同昭60−138539号、同昭61−143748号、同平4−362644号、同平11−84649号公報等に記載の2−トリハロメチル−1,3,4−オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合した、特開2001−290271号公報等に記載のトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0113】
(j)有機ホウ素塩化合物の例としては、特開平8−217813号、同平9−106242号、同平9−188685号、同平9−188686号、同平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素アンモニウム化合物、特開平6−175561号、同平6−175564号、同平6−157623号公報等に記載の有機ホウ素スルホニウム化合物及び有機ホウ素オキソスルホニウム化合物、特開平6−175553号、同平6−175554号公報等に記載の有機ホウ素ヨードニウム化合物、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素ホスホニウム化合物、特開平6−348011号、同平7−128785号、同平7−140589号、同平7−292014号、同平7−306527号公報等に記載の有機ホウ素遷移金属配位錯体化合物等が挙げられる。また、特開昭62−143044号、同平5−194619号公報等に記載の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有するカチオン性色素が挙げられる。
【0114】
本発明に用いられる光酸発生剤としては、光または電子線の照射により分解し、塩酸、スルホン酸等の強酸やルイス酸の如き酸を発生しうる化合物であれば任意の化合物を用いることができる。本発明に用いることのできる光酸発生剤の例としては、(k)芳香族ジアゾニウム塩化合物、(l)ピバリン酸−o−ニトロベンジルエステル、ベンゼンスルホン酸−o−ニトロベンジルエステル等のo−ニトロベンジルエステル類、(m)9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルホン酸−4−ニトロベンジルエステル、ピロガロールトリスメタンスルホネート、ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸エステル類等のスルホン酸エステル誘導体、(n)ジベンジルスルホン、4−クロロフェニル−4′−メトキシフェニルジスルホン等のスルホン類、(o)リン酸エステル誘導体及び(p)米国特許第3,332,936号、特開平2−83638号、同平11−322707号、同2000−1469号公報等に記載のスルホニルジアゾメタン化合物等を挙げることができる。
【0115】
本発明に於ける感光性組成物を、450nm以下の短波長光に対応させる場合には、上記した光重合開始剤及び光酸発生剤はいずれも好適に用いることができるが、中でも、(b)芳香族オニウム塩化合物、(g)活性エステル化合物、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)有機ホウ素塩化合物、(k)芳香族ジアゾニウム塩化合物、(m)スルホン酸エステル誘導体、(p)スルホニルジアゾメタン化合物が好ましい。
【0116】
また、本発明の感光性組成物を、450nm〜750nmの可視光に対応させる場合には、(b)芳香族オニウム塩化合物、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)有機ホウ素塩化合物、(k)芳香族ジアゾニウム塩化合物が特に好ましい。
【0117】
また、本発明の感光性組成物を750nm以上の近赤外〜赤外光に対応させる場合には、(b)芳香族オニウム塩化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)有機ホウ素塩化合物が特に好ましい。
【0118】
上記光重合開始剤及び光酸発生剤は単独で用いても良いし、任意の2種以上の組み合わせで用いても良い。また、任意の光重合開始剤と任意の光酸発生剤を組み合わせて用いることもできる。特に、(i)トリハロアルキル置換化合物と(j)有機ホウ素塩化合物を組み合わせて用いた場合には、感度が大幅に向上するために好ましい。光重合開始剤及び光酸発生剤の含有量は、水溶性重合体に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更に1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0119】
本発明に於ける感光性組成物を構成する他の好ましい要素として、分子内に重合性不飽和結合基を有する重合性モノマーを挙げることができる。重合性不飽和結合基とは、光重合開始剤または光酸発生剤の作用により、光重合反応或いは光架橋反応に寄与しうるエチレン性不飽和二重結合基を表す。特に、分子内に重合性不飽和結合基を2つ以上有する多官能重合性モノマーを使用することが好ましい。このような重合性モノマーの例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールグリセロールトリアクリレート、グリセロールエポキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート系モノマー、これら例示化合物のアクリレートをメタクリレートに代えた多官能メタクリレート系モノマー、同様にイタコン酸エステル系モノマー、クロトン酸エステル系モノマー、マレイン酸エステル系モノマー等が挙げられる。
【0120】
他の重合性モノマーの例としては、スチレン誘導体が挙げられる。このスチレン誘導体としては、分子内に2つ以上のビニルフェニル基を有する化合物が好ましい。例えば、1,4−ジビニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ビス(4−ビニルベンジルオキシ)ベンゼン、1,2,3−トリス(4−ビニルベンジルオキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−ビニルベンジルオキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−ビニルベンジルオキシ)フェニル]プロパン、1,1,2,2−テトラキス[4−(4−ビニルベンジルオキシ)フェニル]エタン、α,α,α′,α′−テトラキス[4−(4−ビニルベンジルオキシ)]p−キシレン、1,2−ビス(4−ビニルベンジルチオ)エタン、1,4−ビス(4−ビニルベンジルチオ)ブタン、ビス[2−(4−ビニルベンジルチオ)エチル]エーテル、2,5−ビス(4−ビニルベンジルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,4,6−トリス(4−ビニルベンジルチオ)−1,3,5−トリアジン、N,N−ビス(4−ビニルベンジル)−N−メチルアミン、N,N,N′,N′−テトラキス(4−ビニルベンジル)−1,2−ジアミノエタン、N,N,N′,N′−テトラキス(4−ビニルベンジル)p−フェニレンジアミン、マレイン酸ビス(4−ビニルベンジル)エステル等が挙げられる。
【0121】
或いは、上記の重合性モノマーに代えてラジカル重合性を有する重合性オリゴマーも好ましく用いることができる。例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種オリゴマーとしてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等を重合性モノマーと同様に用いることができる。
【0122】
上記したような重合性モノマー或いは重合性オリゴマーと、本発明の水溶性重合体との比率に関しては好ましい範囲が存在する。即ち、重合体1質量部に対して重合性モノマー或いは重合性オリゴマーは0.01質量部から10質量部の範囲が好ましく、更に0.05質量部から1質量部の範囲が特に好ましい。
【0123】
本発明の感光性組成物は分子内に重合性不飽和結合基を2個以上有するカチオン性モノマー(以下カチオン性モノマーと略す)を含有することもできる。
【0124】
該カチオン性モノマーは、カチオン性基を少なくとも1個有する。好ましくはカチオン性基を1〜4個含む化合物である。カチオン性基とは、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基、ヨードニウム基、オキソニウム基等の有機オニウム基から選ばれる基であり、これらのうち4級アンモニウム基が最も好ましく用いられる。
【0125】
本発明に於ける重合性不飽和結合基とは、光重合開始剤または光酸発生剤の作用により、光重合反応或いは光架橋反応に寄与しうるエチレン性不飽和二重結合基を表す。この重合性不飽和結合基は任意の連結基を介して前記有機オニウム基と結合している。即ち、本発明に於ける好ましいカチオン性モノマーは、1〜4個の有機オニウム基を有し、該有機オニウム基に合計で2個以上の重合性不飽和結合基が、任意の原子団から構成される連結基を介して結合した化合物である。
【0126】
更に詳細には、上記カチオン性モノマーの好ましい代表例は、下記一般式(5)で表される単位構造を少なくとも1個有する。
【0127】
【化27】

【0128】
式中、A271+はアンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基、ヨードニウム基、オキソニウム基から選ばれる有機オニウム基を表す。R271、R272及びR273は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ前記一般式(2)に於けるR71、R72及びR73と同義である。これらの基の中でも、R271が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基等)であり、R272及びR273が水素原子であるものが特に好ましい。L271は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子またはこれらの原子群に水素原子を加えた原子群からなる多価の連結基を表し、具体的には前記一般式(2)におけるL71と同義である。
【0129】
式中、q271は1〜4の整数を表す。但し、本発明のカチオン性モノマーが上記一般式(5)で表される単位構造を一分子中に1個のみ含む場合は、q271は2〜4の整数となり、また該単位構造を一分子中に2個以上含む場合は、有機オニウム基同士が任意の多価の連結基を介して結合したものである。この連結基としては、前記L71で説明した連結基が挙げられ、またこの連結基と有機オニウム基を形成するN原子、S原子、P原子等とが組み合わさって環構造(例えば、ピリジニウム環、2−キノリニウム環、モルホリニウム環、ピペリジニウム環、ピロリジニウム環、テトラヒドロチオフェニウム環等)を形成していても良い。これら環構造は、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。
【0130】
上記の分子内に重合性不飽和結合基を2個以上有するカチオン性モノマーの具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0131】
【化28】

【0132】
【化29】

【0133】
【化30】

【0134】
【化31】

【0135】
【化32】

【0136】
カチオン性モノマーに導入される重合性不飽和結合基としては、ビニル基が置換したフェニル基、及びビニル基が置換した複素環基(例えば、ピリジン環、キノリン環等)が好ましい。これらの重合性不飽和結合基を導入した場合には、種々の光重合開始剤または光酸発生剤との組み合わせに於いて極めて高感度となり、且つ酸素の影響を受け難くなる。
【0137】
カチオン性モノマーの添加量は、重合体1質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で含まれることが好ましく、更に0.05質量部から1質量部の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0138】
上述した本発明の感光性組成物の中でも、特に、水溶性重合体Bを用いた感光性組成物が、画像部の強度が特に優れている点で好ましい。水溶性重合体Bからなる感光性組成物を平版印刷版として使用した場合には、水現像が可能であり、且つ耐刷性により優れた平版印刷版を得ることができる。
【0139】
本発明の感光性組成物は、本発明の増感剤に加えて可視光から赤外光の各種光源に対応できるように、可視光から赤外光の波長領域に吸収を有し、前述の光重合開始剤または光酸発生剤を増感する増感剤を併せて含有することができる。増感剤としては、各種増感色素が好ましく用いられる。このような増感色素として、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポルフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物、チオピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号、米国特許第4,508,811号、同5,227,227号明細書等に記載の化合物も用いることができる。
【0140】
本発明の感光性組成物は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加することも好ましく行われる。特に、重合性不飽和結合基の熱重合或いは熱架橋を防止し、長期にわたる保存性を向上させる目的で、種々の重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。この場合の重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物等が好ましく使用され、特にハイドロキノンが好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、重合体100質量部に対して0.1質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0141】
感光性組成物を構成する他の要素として、着色剤の添加も好ましく行うことができる。着色剤としては、露光及び現像処理後に於いて、画像部の視認性を高める目的で使用されるものであり、カーボンブラック、フタロシアニン系色素、トリアリールメタン系色素、アントラキノン系色素、アゾ系色素等の各種の色素及び顔料を使用することができ、重合体1質量部に対して0.005質量部から0.5質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0142】
感光性組成物を構成する要素については、上述の要素以外にも種々の目的で他の要素を追加して添加することもできる。例えば、感光性組成物のブロッキングを防止する目的もしくは現像後の画像のシャープネス性を向上させる等の目的で無機物微粒子或いは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。また、最上層に保護層として例えば、ポリビニルアルコールからなる層を設けることも好ましい。
【0143】
本発明の平版印刷版が有する光硬化性感光層は上述した要素から構成される感光性組成物の塗液を、支持体上に塗布、乾燥して作製される。塗布方法としては、公知の種々の方法を用いることができ、例えば、バーコーター塗布、カーテン塗布、ブレード塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、回転塗布、ディップ塗布等を挙げることができる。平版印刷版として使用する場合の光硬化性感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.5μmから10μmの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、更に1μmから5μmの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために好ましい。
【0144】
上記感光性組成物の塗液が塗布される支持体については、公知の種々の支持体を使用することができる。例えば、紙、ポリエチレン被覆紙、フィルム、金属板等を挙げることができる。本発明の感光性組成物を平版印刷版として使用する場合には、未露光部の支持体表面が非画像部となるため、親水性表面を有する支持体が使用される。このための支持体としては、粗面化処理され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板及び親水性表面を有するプラスチックフィルムが特に好ましく用いられる。
【0145】
本発明の平版印刷版の支持体として用いられる好適なアルミニウム板は、光硬化性感光層との接着性を良好にし、非画像部に保水性を与える目的で、機械的粗面化、化学的粗面化、電気化学的粗面化等によって粗面化され、続いて陽極酸化処理が施される。また必要に応じて各種親水化処理や封孔処理等が施され、そのような親水化処理の例としては、アルカリ金属のケイ酸塩水溶液を用いたシリケート処理、フッ化ジルコン酸カリウムによる処理、ポリビニルホスホン酸による処理等が挙げられる。特に現像処理を行わずに印刷を行う場合には、非画像部の除去性及び保水性を向上させるために、シリケート処理されたアルミニウム板を使用することが特に好ましい。
【0146】
本発明の平版印刷版の支持体として用いられる好適なプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロース等が挙げられる。これらプラスチックフィルムの表面は、感光層との接着性を良好にし、非画像部に保水性を与える目的で、各種親水化処理が施される。このような親水化処理としては、化学的処理、放電処理、グロー放電処理、火焔処理、紫外線処理、高周波処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面処理、及び表面に親水性層を塗設する方法等が挙げられ、これらの処理は組み合わせて実施しても良い。平版印刷用途として用いる場合には、耐刷性が要求されるため、親水性表面が強固にプラスチックフィルムと結合する必要がある。このためプラスチックフィルムに化学的、物理的な表面処理を施した後、水に対して溶解や膨潤のすることのない親水性層を塗設し、その結合力を高める方法が特に好ましく行われる。
【0147】
該プラスチックフィルム表面に塗設される親水性層としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、特公昭49−2286号公報に記載のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレート系ポリマーによる親水性樹脂層、特公昭56−2938号公報に記載の尿素樹脂と顔料から構成される親水性層、特開昭48−83902号公報に記載のアクリルアミド系ポリマーをアルデヒド類で硬化させて得られる親水性層、特開昭62−280766号公報に記載の水溶性メラミン樹脂、ポリビニルアルコール、水不溶性無機粉体を含有する組成物を硬化させて得られる親水性層、特開平8−184967号公報に記載の側鎖にアミジノ基を有する繰り返し単位を含む水溶性ポリマーを硬化して得られる親水性層、特開平8−272087号に記載の親水性(共)重合体を含有し、加水分解されたテトラアルキルオルソシリケートで硬化された親水性層、特開平10−296895号公報に記載のオニウム基を有する親水性層、特開平11−311861号公報に記載のルイス塩基部分を有する架橋親水性ポリマーを多価金属イオンとの相互作用によって三次元架橋させて得られる親水性層、特開2000−122269号公報に記載の親水性樹脂及び水分散性フィラーを含有する親水性層等を挙げることができる。また、特開昭57−179852号、同2001−166491号公報等に開示された、プラスチックフィルム表面と親水性層との結合力を高める目的で、表面グラフト重合等により両者を化学的に結合させた支持体も好ましく用いることができる。
【0148】
特に水溶性ポリマーと該水溶性ポリマーを架橋する架橋剤とコロイダルシリカを含有する親水性層を形成することが好ましい。
【0149】
上記コロイダルシリカとは、光散乱方式粒度分布計で計測される平均粒子径が好ましくは5〜200nmである球状、針状、不定形或いは、球状粒子が連なってできるネックレス状などの種々の形状、粒子径のシリカ粒子であり、水中に安定的に分散したシリカゾルが好ましく用いられる。こうした素材は、例えば日産化学工業(株)からスノーテックスの商品名で各種のコロイダルシリカが提供されており、球状のシリカゾルとしてスノーテックスXS(粒子径4〜6nm)、スノーテックスS(粒子径8〜11nm)、スノーテックス20(粒子径10〜20nm)、スノーテックスXL(粒子径40〜60nm)、スノーテックスYL(粒子径50〜80nm)、スノーテックスZL(粒子径70〜100nm)、スノーテックスMP−2040(粒子径200nm)および表面のナトリウム塩を除去した酸性タイプのシリカゾルとしてスノーテックスOXS、OS等が好ましく使用できる。針状或いは不定形のシリカゾルとして、例えばスノーテックスUP、OUPや触媒化成工業(株)から出されているファインカタロイドF−120等が挙げられる。ネックレス状のシリカゾルとして、スノーテックスPS−S(粒子径80〜120nm)、PS−M(粒子径80〜150nm)およびこれらの酸性タイプであるPS−SOおよびPS−MO等が挙げられる。これらのうちでも特にネックレス状シリカゾルが好ましく、後述する感光層との接着性が良好で耐刷性が向上し、且つ地汚れの発生を防止する効果があり極めて好ましく使用することができる。
【0150】
水溶性ポリマーとしては、上記の種々のコロイダルシリカと混合した際に、コロイダルシリカの凝集を引き起こさず、均一な分散状態を保つ系を形成するものが好ましく、更には、塗膜を形成した際にも、コロイダルシリカと該水溶性ポリマーが相分離を起こさず、均一な皮膜を形成し、多孔質構造を生起しない系を形成するものが最も好ましい。このことを実現するためには、コロイダルシリカと該水溶性ポリマーのみからなる塗布物は外観上透明もしくはやや白濁した半透明であることが好ましく、相分離して白濁した不透明な親水性層は本発明に於いては好ましくない。更に、表面形状に於いても均一であることが好ましく、粗面化を引き起こすようなコロイダルシリカと水溶性ポリマーの組み合わせは好ましくない。水溶性ポリマーはコロイダルシリカによる多孔質構造の形成を防止し、粒子間間隙を埋めることで印刷中のインキの進入を防止する働きを示すことが本質的に重要で、こうした機能を有する限りは任意の水溶性ポリマーを使用することができる。
【0151】
本発明に於いて使用できる水溶性ポリマーの例としては、アクリル酸、アクリルアミド、スチレン、スチレンスルホン酸、ビニルピロリドン及びこれらの誘導体からなるポリマーおよびそれらの共重合体ポリマー、変性澱粉、変性セルロース等を用いることができる。
【0152】
上記水溶性ポリマーを架橋するための架橋剤としては、公知の種々の化合物が挙げられる。具体的にはエポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物およびその誘導体、ホルマリン等のアルデヒド化合物およびメチロール化合物、ヒドラジド化合物などが好ましい例として挙げられる。これらのうちで特にエポキシ化合物が好ましい例として挙げられる。
【0153】
エポキシ化合物としては分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物で、水溶性であるものが好ましく使用される。こうしたエポキシ化合物は中性から弱酸性条件では水中でも比較的安定であり、親水性層を形成するための塗工液を作製した場合に、塗液寿命が長く連続した生産において極めて有利であり好ましい。
【0154】
上記のようにして支持体上に形成された光硬化性感光層を有する感光性組成物は、密着露光或いはレーザー走査露光を行った後、現像液により未露光部を除去することでパターン形成が行われる。露光された部分は架橋することで現像液に対する溶解性が低下し、画像部が形成される。
【0155】
本発明の感光性組成物は、水現像できることが大きな特徴である。水現像に用いられる現像液は、従来から一般に用いられているアルカリ剤を多量に含有する強アルカリの現像液(通常pH10を超える)とは異なり、実質的にアルカリ剤は含まない。従って、本発明の水現像に用いられる現像液のpHは10以下であり、好ましくはpH9.5以下であり、より好ましくはpH9以下である。pHの下限は3程度である。本発明の水現像に用いられる現像液は、水が現像液全体の70質量%以上、更には80質量%以上を占めるものであり、他に添加剤として、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルセルソルブ、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種有機溶剤、或いは、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の界面活性剤等を添加することもできる。
【0156】
更に本発明の感光性組成物を平版印刷版に適用した場合には、現像処理を行わずに、印刷を行うことができることができる。この場合の態様として、平版印刷版を露光後、現像処理を行わずに、直ちに印刷機に装着し印刷する態様、及び平版印刷版を印刷機に装着した状態で露光し直ちに印刷する態様がある。これらのケースでは、インキや湿し水等により架橋されていない未露光部の光硬化性感光層が膨潤し、紙やブランケットロール等に転写し、印刷初期の段階で支持体から除去される。光硬化性感光層が除去されて露出した支持体表面にはインキが着肉せず非画像部となる。露光部の光硬化性感光層は架橋されて硬化するためにインキが着肉し、印刷画像を形成する。即ち、本発明の感光性組成物を平版印刷版として使用した場合には、特に現像処理やその他の処理を行うことなく、印刷を行うことが可能となる。
【0157】
次に本発明の増感剤の代表的な合成例を挙げるが、他の例示化合物も同様の方法を参考にして容易に合成することができる。
【0158】
合成例1(S−4の合成)
5−クロロ−2−メチルベンゾオキサゾール 18.7gと2−エチルチオベンゾオキサゾール 20.0gとジエチル硫酸 5.16gを混合し、浴温130℃で1時間撹拌した。室温まで冷後、トリエチルアミン 6.19g、アセトニトリル2Lを加え1時間撹拌した。その後、溶媒を減圧下留去し、残さに酢酸エチル200mlを加えて析出した結晶を濾取し27.5gを得た。
【0159】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【実施例】
【0160】
(実施例1)
(親水性層を有するポリエチレンテレフタレート層)
塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを使用して、この上に下記の処方で示される親水性層を形成した。親水性層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり2gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料は更に40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、引き続く光硬化性感光層の塗布に給した。
(親水性層塗液処方)
水溶性ポリマー(S−1)溶液(10%濃度) 10g
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックスPS−S)
(20%濃度) 10g
架橋剤(H−1) 0.2g
純水 10g
【0161】
【化33】

【0162】
(光硬化性感光層)
上記のように作製した親水性層の上に、下記光硬化性感光層塗液処方の塗布液を塗布し、光硬化性感光層を形成した。光硬化性感光層は乾燥厚みが1μmになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で10分間加熱して乾燥を行った。
(光硬化性感光層塗液処方)
ポリマー(SP−15)溶液(25%濃度) 4g
光重合開始剤(BC−1) 0.1g
光重合開始剤(T−1) 0.05g
増感剤 (表1に記載)0.03g
ビクトリアブルー(着色用染料) 0.02g
ジオキサン 9g
エタノール 1g
【0163】
【化34】

【0164】
これらの版を2版準備し、一方は直後に(以下フレッシュ版と称する)、他方は強制保存性試験として50℃の乾燥器内に2週間保存した(以下経時版と称する)後に露光試験を行った。
【0165】
(露光〜現像試験)
上記の通りにして得られたフレッシュ版と経時版をそれぞれ405nmの波長光を透過する干渉フィルターを通して超高圧紫外線ランプからの光を平版印刷版の光硬化性感光層面に照射し、濃度差0.1のステップウエッジを用いることで光硬化性感光層が硬化し水不溶性となる最小量の露光エネルギーを求めた。即ち、現像は、露光後に30℃に調節した水浴中に10秒間平版印刷版を浸し、その後水道水で洗い流しながら表面をスポンジで擦り現像を行った。更に現像後の平版印刷版を乾燥し、露光部の画像濃度を反射濃度計を使用して測定を行い、残膜が生じる最小の露光量を求め、この値を感度とした。このようにして求めた感度に関する結果を表1に示した。
【0166】
(印刷性試験)
上記経時版を用いて、印刷機として、リョービ(株)製オフセット枚葉印刷機リョービ560を使用し、印刷インキは大日本インキ化学工業(株)製ニューチャンピオンFグロス85墨Fを使用し、湿し水は東邦精機(株)製トーホーエッチ液を1%に希釈して使用した。印刷枚数は3万枚まで実施し、印刷評価項目として、耐刷性についてテスト画像中の最小露光量に対応するウエッジの後退段数を調べた。即ち、印刷を行っていくにつれ、最小露光量に対するウエッジはより高露光量部分に後退していく。印刷前の段数に対して何段後退したかの結果(耐刷性(ウエッジの後退))を同じく示した。
【0167】
【表1】

【0168】
【化35】

【0169】
上記の結果から、本発明の増感剤を添加した系では強制保存性試験による感度変化が殆どないことが分かる。また、本発明の増感剤を添加した系では経時版の露光部において、より強固な膜を形成していることが分かる。
【0170】
(実施例2)
実施例1の平版印刷版1〜9の光硬化性感光層および親水性層まで設けた、露光前の平版印刷版(フレッシュ版および経時版)を用いて下記の露光試験を行った。
【0171】
(露光試験)
光波長が405nmのレーザーを搭載したVIPLAS(三菱製紙(株)製)を使用した。露光エネルギーは、フィルム表面上で100μJ/cm程度になるように設定した。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の網点階調パターンを出力した。
【0172】
(現像試験)
上記露光済み版を厚さ200μmのアルミ板上に貼り付けて(光硬化性感光層が上側)、自動現像機として大日本スクリーン製造株式会社製PS版用自動現像機PD−1310を用いて現像処理を行い、印刷用のプレートを得た。なお、現像処理の条件は、該自動現像機の第1槽(処理工程中にモルトン機構を有する)にイオン交換水を張り、液温度が30℃、処理時間が15秒の設定で上記露光済み版の処理を行い、第1槽の出口から処理済み版を取り出し、後に自然乾燥した。
【0173】
(網点面積の評価)
測定器(エックスライト社製X−RiteDot)を用いて経時版とフレッシュ版の対応する網点面積の変化を比較した。
【0174】
この結果、比較例として用いたRS−1〜4の増感剤を添加した比較例の平版印刷版6〜9の経時版は、フレッシュ版に比べて網点面積の減少が見られた。一方本発明のS−2〜4、S−6、及びS−9の増感剤を用いた平版印刷版1〜5では経時版もフレッシュ版と同等の画像が得られた。
【0175】
(実施例3)
実施例1で用いた増感色素の代わりに増感色素としてS−13(平版印刷版10、本発明)およびRS−5(平版印刷版11、比較例)を用いて光硬化性感光層および親水性層まで設けた、露光前の印刷版を作製した。これらの版を2分し一方は直後に(以下フレッシュ版と称する)、他方は強制保存性試験として50℃の乾燥器内に2週間保存した(以下経時版と称する)後に露光試験を行った。
【0176】
【化36】

【0177】
(露光試験)
光波長が532nmのレーザーを搭載したTigercat(ECRM社製)を使用した。露光エネルギーは、フィルム表面上で100μJ/cm程度になるように設定した。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の網点階調パターンを出力した。
【0178】
(現像試験)
実施例2と同様にして行った。
【0179】
(網点面積の評価)
実施例2と同様にして行った。
【0180】
(印刷性試験)
上記経時版を用いて、印刷機として、リョービ(株)製オフセット枚葉印刷機リョービ560を使用し、印刷インキは大日本インキ化学工業(株)製ニューチャンピオンFグロス85墨Fを使用し、湿し水は東邦精機(株)製トーホーエッチ液を1%に希釈して使用した。印刷枚数は3万枚まで実施し、印刷評価項目として、耐刷性について印刷開始前の網点面積に対する印刷終了後の網点面積の変化を調べた。
【0181】
印刷前のフレッシュ版と経時版では、比較例として用いたRS−5の増感剤を添加した比較例の平版印刷版11の経時版は、フレッシュ版に比べて網点面積の減少が見られた。一方本発明のS−13の増感剤を用いた平版印刷版10では経時版もフレッシュ版と同等の画像が得られた。また、印刷試験において比較例として用いたRS−5の増感剤を添加した比較例の平版印刷版11の経時版は殆ど網点が残らなかった。一方本発明のS−13の増感剤を用いた平版印刷版10では印刷前に比べて網点面積が僅か10%減少しただけであった。
【0182】
上記の結果から、本発明の増感剤を添加した系では強制保存性試験による感度変化が殆どないことが分かる。また、本発明の増感剤を添加した系では経時版の露光部において、より強固な膜を形成していることが分かる。
【0183】
(実施例4)
実施例1で用いたポリマー(SP−15)の代わりにCP−1を用いた以外は同様にして平版印刷版1a〜9aを作製し、実施例1と同様にして試験を行った。この結果、本発明の増感剤を添加した系では比較の系とは異なり、強制保存性試験による感度変化が殆どなかった。また、印刷によるウエッジ後退段数は発明の増感剤を添加した系では印刷枚数25000枚までは見られなかった。一方比較の系では10000枚からウエッジの後退が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性重合体として、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体または側鎖にビニル基が置換したフェニル基およびスルホン酸塩基を有する水溶性重合体、光重合開始剤または光酸発生剤、および下記一般式(1)で表される増感剤を含有することを特徴とする感光性組成物。
【化1】

(式中、RとRはアルキル基、Lは炭素数1〜7のメチン基、Xはカウンターイオン、mは電荷を中和するのに必要な整数を表し、QとQは置換されていてもよい芳香環を形成するのに必要な原子群を表す。但し、QとQは置換基も含めて互いに同一ではない。)
【請求項2】
支持体上に前記請求項1記載の感光性組成物を塗布して光硬化性感光層を設けた平版印刷版。

【公開番号】特開2010−164907(P2010−164907A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9166(P2009−9166)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】