説明

感光性誘電体樹脂組成物及び感光性誘電体樹脂フィルム

【課題】 アルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる感光性誘電体樹脂組成物であって、良好な熱安定性及び貯蔵安定性を有し、かつ可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる感光性誘電体樹脂組成物を得る。
【解決手段】 アルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂組成物であって、樹脂成分として、(A)ラジカル重合性基及びカルボン酸基を含有する樹脂と、(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂とラジカル重合性基含有モノカルボン酸との付加物とを含み、付加物(B)の含有量が樹脂成分中20〜80重量%であり、樹脂成分を含む全固形分中20〜80体積%となるように(C)誘電体セラミックスを含有させたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる感光性誘電体樹脂組成物及び該樹脂組成物から形成した感光性誘電体樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器に対する小型化、薄型化、高密度化の要請に応えるために、プリント配線板に多層板が多く使用されるようになってきた。この多層板の内層または表層に高誘電率の層を設けることにより、この層をコンデンサとして積極的に利用し実装密度を向上させることができる。しかしながら、従来の高誘電率材料はセラミック粉末を成形後焼成して得たセラミック焼結体であるため、その寸法・形状は成形法による制約を受けた。また、焼結体は高硬度で脆性であるため、自由な加工は困難であり、任意の形状や複雑な形状を得ることが必ずしも容易ではなかった。
【0003】
上記の問題を解決するため、樹脂中に無機誘電体粒子を分散させた複合誘電体が注目されている。特許文献1においては、エポキシ樹脂に、高誘電率を有する誘電体セラミックスを含有させた誘電体ペーストが開示されている。このような誘電体ペーストをスクリーン印刷等により塗布し、乾燥させることにより、可撓性を有する誘電体層を形成することができる。
【0004】
しかしながら、このような方法によれば、スクリーン印刷等により誘電体層を形成するため、膜厚精度及びパターン精度に限界があり、配線基板上により高い精度でコンデンサを形成する場合に、静電容量管理幅に限界がある場合があった。
【0005】
特許文献2においては、エポキシ樹脂と、不飽和基含有ポリカルボン酸と、誘電体セラミックスを含有した感光性高誘電率樹脂組成物が提案されている。この感光性高誘電率樹脂組成物は、アルカリ性水溶液による現像が可能であるため、この樹脂組成物を塗布して感光層を形成した後、感光層にネガフィルム等を用いて選択的に露光し、その後アルカリ現像することによりパターニングすることができる。従って、フォトリソグラフィー法によりパターニングすることができ、高いパターン精度を得ることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された樹脂組成物を用いた場合、エポキシ樹脂を用いているため、熱安定性及び貯蔵安定性が悪いことが予測される。
【特許文献1】特開2004−172531号公報
【特許文献2】特開2004−339260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる感光性誘電体樹脂組成物であって、良好な熱安定性及び貯蔵安定性を有し、かつ可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる感光性誘電体樹脂組成物及び該樹脂組成物から形成した感光性誘電体樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の感光性誘電体樹脂組成物は、アルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂組成物であり、樹脂成分として、ラジカル重合性基及びカルボン酸基を含有する樹脂(A)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂とラジカル重合性基含有モノカルボン酸との付加物(B)とを含み、付加物(B)の含有量が樹脂成分中20〜80重量%であり、樹脂成分を含む固形分中20〜80体積%となるように誘電体セラミックス(C)を含有させたことを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、良好な貯蔵安定性を有し、かつ可撓性を有したアルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる感光性誘電体樹脂組成物とすることができる。
【0010】
本発明においては、樹脂成分として、樹脂(A)と、付加物(B)とを含み、付加物(B)の含有量が樹脂成分中20〜80重量%である。付加物(B)の含有量が20重量%未満であると、本発明の樹脂組成物により形成する感光性誘電体樹脂フィルムの可撓性が十分でない場合がある。また、80重量%を超えると、感光性誘電体樹脂フィルムのアルカリ現像性が低下する場合がある。
【0011】
本発明の樹脂組成物において、誘電体セラミックス(C)の含有量は、樹脂成分を含む固形分中20〜80体積%である。すなわち、樹脂成分と誘電体セラミックス(C)とその他の固形分の合計100体積部において、20〜80体積部である。誘電体セラミックスの含有量が20体積%未満であると、感光性誘電体樹脂フィルムの誘電特性が不十分な場合がある。また、誘電体セラミックスの含有量が80体積%を超えると、感光性誘電体樹脂フィルムの可撓性が十分に得られない場合がある。
【0012】
以下、樹脂(A)、付加物(B)、及び誘電体セラミックス(C)について詳細に説明する。
【0013】
<ラジカル重合性基及びカルボン酸基を含有する樹脂(A)>
樹脂(A)は、ラジカル重合性基及びカルボン酸基を含有する樹脂である。ラジカル重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチリル基などが挙げられ、特に好ましくは、アクリロイル基及びメタクリロイル基である。
【0014】
カルボン酸基は、いわゆるカルボキシル基(−COOH)であり、本発明においてカルボン酸基とカルボキシル基とは実質的に同一のものである。以下に説明する樹脂(A1)及び(A2)において原料として用いている化合物におけるカルボキシル基と区別するため、樹脂(A)においてはカルボン酸基と称している。
【0015】
樹脂(A)の酸価は、30〜200mgKOH/gであることが好ましい。酸価が30mgKOH/g未満であると、現像性が低下する場合がある。また、酸価が200mgKOH/gを超えると、アルカリ溶解性が上がり、パターン形成が不十分な場合があり、またBステージ(硬化前の状態)での可撓性が低下する場合がある。
【0016】
また、樹脂(A)のラジカル重合性基含有量は5×10-4〜1×10-2mol/gの範囲内であることが好ましい。ラジカル重合性基含有量が5×10-4mol/g未満であると、パターン形成が不十分となる場合がある。ラジカル重合性基含有量が1×10-2mol/gを超えると、現像性が低下し、仕上がり膜が脆くなる場合がある。
【0017】
樹脂(A)の一例としては、カルボキシル基含有ビニル単量体をモノマー成分として含むラジカル共重合体のカルボキシル基に環状エーテル基含有ビニル単量体の環状エーテル基を開環付加して得られる樹脂(A1)が挙げられる。
【0018】
カルボキシル基含有ビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと酸無水物との付加物などが挙げられる。酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸などが挙げられる。カルボキシル基含有ビニル単量体をモノマー成分として含むラジカル共重合体は、一般にアクリル樹脂と呼ばれているもので、ラジカル開始剤を用いた溶液重合が一般的であるが、合成方法は限定されない。
【0019】
上記ラジカル共重合体に開環付加させる環状エーテル基含有ビニル単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3−エチル−3−オキセタニルメチルアクリレートなどが挙げられる。
【0020】
上記のようにしてラジカル共重合体に環状エーテル基含有ビニル単量体を開環付加させて得られる樹脂(A1)は、上記の酸価及びラジカル重合性基含有量の範囲となるように反応させることが好ましい。
【0021】
上記樹脂(A)の他の例としては、エポキシ化合物に、ラジカル重合性基とカルボキシル基を有する化合物を反応させ、さらにこの反応により生じた水酸基に酸無水物を反応させて得られる樹脂(A2)が挙げられる。
【0022】
樹脂(A2)の原料として用いるエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ化合物、エポキシ基含有アクリル樹脂などが挙げられる。
【0023】
ラジカル重合性基とカルボキシル基を有する化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと酸無水物との付加物などが挙げられる。酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸などが挙げられる。
【0024】
樹脂(A2)においては、上記のように、エポキシ化合物のエポキシ基に、ラジカル重合性基とカルボキシル基を有する化合物のカルボキシル基を反応させ、エポキシ化合物のエポキシ基を開環させる。この反応により生じた水酸基に、さらに酸無水物を反応させ、カルボキシル基(カルボン酸基)を導入する。酸無水物としては、テトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸などが挙げられる。
【0025】
樹脂(A2)におけるエポキシ化合物、ラジカル重合性基とカルボキシル基を有する化合物、及び酸無水物の割合は、上記樹脂(A)の酸価及びラジカル重合性基含有量の範囲となるように定められることが好ましい。
【0026】
樹脂(A2)は市販品として入手することもできる。樹脂(A2)の市販品としては、共栄社化学(株)のEXシリーズ、昭和高分子(株)のSPシリーズなどが挙げられる。
【0027】
樹脂(A)の分子量としては、数平均分子量として1000〜20000の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは2000〜10000の範囲内である。分子量が小さすぎると、Bステージでのフィルムの乾燥性が不十分となり、粘着性(タック)があり、取り扱いに支障が生じる場合がある。また、アルカリ溶解性が高くなり、パターン形成が不十分になる場合がある。分子量が大きすぎると、Bステージでのフィルムの可撓性が低下し、またアルカリ溶解性が低下して現像性が低下する場合がある。
【0028】
<ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂とラジカル重合性基含有モノカルボン酸との付加物(B)>
本発明において用いる付加物(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂とラジカル重合性基含有モノカルボン酸との付加物である。
【0029】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、室温において液状である樹脂が好ましく用いられる。また、付加物(B)も室温において液状であることが好ましい。このようなビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、東都化成(株)のエポトートYD−128、旭電化工業(株)のアデカレジンEP−4100などが挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、東都化成(株)のエポトートYDF−170、ジャパンエポキシレジン(株)のエピコート807などが挙げられる。
【0030】
ラジカル重合性基含有モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと酸無水物との付加物などが挙げられる。酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸などが挙げられる。
【0031】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂に対するラジカル重合性基含有モノカルボン酸の割合は、0.9〜1.1の範囲内が好ましい。
【0032】
付加物(B)のラジカル重合性基含有量は、5×10-4〜1×10-2mol/gの範囲内であることが好ましい。ラジカル重合性基含有量の割合が少なすぎると、パターン形成が不十分となり、ラジカル重合性基含有量の割合が多すぎると、現像性が低下し、仕上がり膜が脆くなる場合がある。
【0033】
付加物(B)の分子量は、数平均分子量として2000以下の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは500〜2000の範囲内である。分子量が大きすぎると、Bステージでのフィルムの可撓性が低下する場合がある。
【0034】
付加物(B)は市販品としても入手することができる。付加物(B)の市販品としては、エポキシエステル3000A(共栄社化学社製)、リポキシVR−77、リポキシVR−90、リポキシSP−1506、リポキシSP−1509(いずれも昭和高分子社製)などが挙げられる。
【0035】
<誘電体セラミックス(C)>
本発明においては、樹脂成分に対して20〜80体積%となるように誘電体セラミックス(C)を含有させる。
【0036】
誘電体セラミックスとしては、単体で測定したときの誘電率が200以上である誘電体セラミックスが好ましく、特にペロブスカイト構造を有する強誘電体セラミックスが好ましく用いられる。本発明において用いる誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)及びPbTi1/2Zr1/23などのチタン酸鉛系セラミックス、チタン酸マグネシウム系セラミックス、チタン酸ビスマス系セラミックス、その他チタン酸金属系セラミックス、Pb(Mg2/3Nb1/3)O3、Ba(SnxMgyTaz)O3、Ba(ZrxZnyTaz)O3、TiO2、ZrO2、SnO2、酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニウム系セラミックス、ジルコン酸鉛系セラミックス、ジルコン酸バリウム系セラミックス、その他ジルコン酸金属系セラミックス、鉛複合酸化物系セラミックス、その他の公知の誘電体セラミックスが挙げられる。誘電体セラミックスは単独でも組み合わせても使用できる。また、これらの誘電体セラミックスを無機質あるいは有機質で表面処理したものを用いてよい。高誘電率を有する誘電体セラミックスは、球状、あるいは様々な形のブロック片的形状であってもよく、その形状については特に限定されない。
【0037】
本発明において用いる誘電体セラミックスの平均粒子径は、0.01〜10μmの範囲内であることが好ましい。誘電体セラミックスの平均粒子径が0.01μm未満であると、誘電体セラミックスを含有さるせことによる誘電体樹脂フィルムの比誘電率の向上が十分でない場合がある。また、誘電体セラミックスの平均粒子径が10μmを超えると、樹脂への均一な分散及び混合が困難となり、誘電体樹脂フィルム表面に粒子による凹凸が現れてフィルム表面の平滑性が損なわれ、この結果基板に対する密着性が悪くなったり、耐湿性が劣る場合がある。また、誘電特性がばらついたりする場合がある。
【0038】
本発明における誘電体セラミックスとして、以下のような無機−有機ハイブリッド化物を用いてもよい。すなわち、誘電体セラミックスを摩擦することによりその表面を活性化した後、エポキシ基を有する化合物やカルボキシル基を有する化合物と撹拌混合することによって、表面に該化合物を強固に付着させた無機−有機ハイブリッド化物を調製し、これを誘電体セラミックスとして用いてもよい。
【0039】
エポキシ基を有する化合物としては、末端または主鎖中にエポキシ基を有する飽和鎖式炭化水素化合物やその飽和鎖式炭化水素において水素をフッ素で置換したフッ素化エポキシ化合物が挙げられる。また一方、カルボキシル基を有する化合物としては、次式で示すことができるカルボキシル基含有フッ素樹脂が挙げられる。
【0040】
H−(CF2−CF2−CH2−CHX)n−(CF2−CF2−CH2−CHY)m−H
(ここで、Xはカルボキシル基含有基、Yはビニルエ−テル基、ビニルエステル基、水酸基のいずれかまたはそれらの組み合わせたものである。)
<光重合開始剤(D)>
本発明の感光性誘電体樹脂組成物には、さらに光重合開始剤(D)が含有されることが好ましい。光重合開始剤(D)の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルのようなベンゾイン及びベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンのようなアセトフェノン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,N,N−ジメチルアミノアセトフェノンのようなアミノアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンのようなアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンのようなチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールのようなケタール類;ベンゾフェノン、4,4'−ビスジエチルアミノベンゾフェノンのようなベンゾフェノン類またはキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらは、単独または2種以上の混合物として使用でき、さらにトリエタノールアミンなどの第3アミン、ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの光増感剤を加えて用いることができる。
【0041】
光重合開始剤(D)の含有量は、特に限定されるものではないが、感光性誘電体樹脂組成物の樹脂成分中に0.1〜10重量%程度含有されることが好ましい。
【0042】
<アクリルモノマー(E)>
また、本発明の感光性誘電体樹脂組成物には、多官能アクリルモノマーなどのアクリルモノマー(E)が含有されていてもよい。多官能アクリルモノマー(E)の具体例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びこれらに対応するメタクリレート類などを挙げることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
アクリルモノマー(E)の含有量は、特に限定されるものではないが、感光性誘電体樹脂組成物中に0〜20重量%程度含有されることが好ましい。このようなアクリルモノマー(E)を含有することにより、感光性誘電体樹脂フィルムの物性を制御することができる。
【0044】
<感光性誘電体樹脂フィルム>
本発明の感光性誘電体樹脂フィルムは、上記本発明の感光性誘電体樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得られる、可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルムである。
【0045】
本発明の感光性誘電体樹脂フィルムは、例えば、上記本発明の感光性誘電体樹脂組成物を溶剤に溶解または分散した液体から、溶剤を蒸発することによりフィルム状に成形することにより得ることができる。
【0046】
基材としては、配線基板の上に感光性誘電体樹脂フィルムを直接形成する場合には、配線基板を基材として用いることができる。また、基材として、剥離処理が施されたプラスチックフィルムを用いてもよい。このようなプラスチックフィルム上に本発明の感光性誘電体樹脂組成物を塗布してフィルム状に成形し、成形後当該フィルム状感光性誘電体樹脂組成物から基材を剥離してもよい。このような場合、剥離した当該フィルム状感光性誘電体樹脂組成物を配線基板などの誘電体層を形成したい基板の上に載置して用いることができる。
【0047】
基材として用いることができるプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、アラミド、カプトン、ポリメチルペンテン等のフィルムを挙げることができる。プラスチックフィルムとしては、感光性誘電体樹脂溶液中の有機溶剤に不溶のものを用いることが好ましい。
【0048】
また、基材として用いるプラスチックフィルムの厚みとしては、1〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜50μmである。
【0049】
また、基材表面上に施す離型処理としては、シリコーン、ワックス、フッ素樹脂などを表面に塗布する離型処理が好ましく用いられる。
【0050】
基材上に感光性誘電体樹脂溶液を塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な塗布方法を用いることができる。例えば、ローラー法、スプレー法、シルクスクリーン法等により塗布することができる。
【0051】
上記本発明の感光性誘電体樹脂フィルムの製造方法は、上記本発明の製造方法により製造するものに限定されるものではなく、その他の方法により製造することができるものである。例えば、カレンダー法等により、感光性誘電体樹脂組成物を押出成形して、フィルム上に形成してもよい。押出成形した誘電体樹脂フィルムは、上記の基材上に押し出されるように成形されてもよい。
【0052】
本発明の感光性誘電体樹脂フィルムは、可撓性を有するものである。従って、可撓性を有する配線基板の上に設けることができる。本発明の感光性誘電体樹脂フィルムは、感光性を有するものであるので、選択的に露光することによりパターニングすることができる。このようなパターニング後、加熱して乾燥または硬化させることができる。
【0053】
<配線基板>
本発明の配線基板は、上記本発明の感光性誘電体樹脂フィルムをアルカリ現像して得られるパターン化した誘電体層を有することを特徴としている。
【0054】
上記本発明の感光性誘電体樹脂フィルムは、フォトリソグラフィー法によりパターニングすることができるものであるので、精度の高いパターニングを行うことができる。また、感光性誘電体樹脂フィルムは、可撓性を有するものであるので、可撓性を有する配線基板の上にパターン化した誘電体層を形成することができる。
【0055】
本発明の配線基板の製造方法は、上記本発明の配線基板を製造することができる方法であり、上記本発明の感光性誘電体樹脂組成物を溶剤に溶解または分散した液体を配線基板の所定箇所の上に塗布した後溶剤を蒸発させて可撓性を有した感光性誘電体樹脂層を形成するか、あるいは上記本発明の感光性誘電体樹脂組成物を溶剤に溶解または分散した液体を支持体の上に塗布した後溶剤を蒸発することにより支持体上に可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルムを形成し、支持体上に形成したこの感光性誘電体樹脂フィルムを配線基板の所定箇所にラミネートした後支持体を剥離し配線基板上に感光性誘電体樹脂層を形成する工程と、感光性誘電体樹脂層を、形成するパターンに応じて選択的に露光する工程と、露光した感光性誘電体樹脂層をアルカリ現像する工程と、アルカリ現像後の感光性誘電体樹脂層を加熱し乾燥または硬化させて誘電体層を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0056】
本発明によれば、配線基板の上に誘電体層を所望のパターンでかつ簡易な工程で形成することができる。
【0057】
感光性誘電体樹脂層の選択的な露光は、フォトリソグラフィー法において一般的なマスクなどを用いて行うことができる。また、アルカリ現像は、一般的な方法で行うことができ、アルカリ性水溶液を用いて現像するのが一般的である。
【0058】
また、本発明においては、アルカリ現像後の感光性誘電体樹脂層を加熱し乾燥または硬化させて誘電体層を形成する。乾燥または硬化するときの加熱温度は、60℃〜200℃の範囲内とするのが一般的である。なお、「硬化」は、誘電体層の樹脂を硬化反応させることを意味しており、このような熱硬化が必要でない場合には、加熱により単に「乾燥」を行っている。
【0059】
乾燥または硬化させることにより、誘電体層が本来有している電気特性を発現させることができ、また耐熱性等の安定した物性を得ることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の感光性誘電体樹脂組成物は、良好な熱安定性及び貯蔵安定性を有し、かつ可撓性を有したアルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる。
【0061】
本発明の感光性誘電体樹脂フィルムは可撓性を有するものであるので、可撓性を有する配線基板の上に形成することができる。また、フォトリソグラフィー法によりパターニングすることができるので、高いパターン精度で誘電体層を配線基板の上に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
以下において、部及び%は、特に断らない限り、重量部及び重量%を示す。
【0064】
<樹脂合成例1>(樹脂(A1)の合成)
攪拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、プロピレングリコ−ルモノメチルエ−テル390部を仕込み、温度を110℃に調節した。ここに、イソボロニルメタクリレ−ト90部、メチルメタクリレ−ト30部、メタクリル酸180部、タ−シャリ−ブチルパ−オキシ2エチルヘキサノエ−ト12部の混合液を2時間かけて滴下し、更に1時間反応を継続した。次いで、プロピレングリコ−ルモノメチルエ−テル30部とタ−シャリ−ブチルパ−オキシ2エチルヘキサノエ−ト0.6部の混合液を30分かけて滴下した後、温度を120℃に昇温し2時間保持した。温度を100℃に下げた後、ここにグリシジルメタクリレ−ト165部、トリエチルアミン3部、ハイドロキノンモノメチルエ−テル0.15部の混合物を1時間かけて滴下し、次いで空気流下に8時間反応させて、樹脂溶液(A1)を得た。固形分は53.5%、数平均分子量は8000、固形分の酸価は115mgKOH/g、ラジカル重合性基含有量は2.5×10-3mol/gであった。
【0065】
<樹脂合成例2>(樹脂(A2)の合成)
攪拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、プロピレングリコ−ルモノメチルエ-テルアセテ−ト90部とYDCN−703(東都化成株式会社製、ο−クレゾ−ルノボラック型エポキシ樹脂、数平均分子量1500)300部とハイドロキノンモノメチルエ−テル0.15部とトリエチルアミン1.5部を仕込み、100℃に昇温した。空気気流下、アクリル酸105部を30分かけて滴下し、更に酸価が1以下になるまで反応を継続した。次いで、プロピレングリコ−ルモノメチルエ−テルアセテ−ト30部とテトラヒドロ無水フタル酸135部の混合液を30分かけて滴下した後、酸価が変化しなくなるまで反応を継続した。これに、プロピレングリコ−ルモノメチルエ−テルアセテ−ト45部を加え、樹脂溶液(A2)を得た。固形分は69.5%、数平均分子量は2000、固形分の酸価は93.0mgKOH/g、ラジカル重合性基含有量は3.5×10-3mol/gであった。
【0066】
<樹脂合成例3>(付加物(B)の合成)
攪拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、YD−128(東都化成株式会社製、ビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、数平均分子量360)500部とハイドロキノンモノメチルエ−テル0.25部とトリエチルアミン2.5部を仕込み、100℃に昇温した。これに空気気流下、アクリル酸190部を30分かけて滴下し、更に酸価が1以下になるまで反応を継続した。次いで、プロピレングリコ−ルモノメチルエ−テルアセテ−ト75部を加え、樹脂溶液(B1)を得た。固形分は89.5%、数平均分子量は500、固形分の酸価は0.5mgKOH/g、ラジカル重合性基含有量は2.7×10-3mol/gであった。
【0067】
<樹脂合成例4>(付加物(B)の合成)
樹脂合成例3において、YD−128の500部を、YDF−170(東都化成社製)の450部に変更する以外は、同様の方法で樹脂溶液(B2)を得た。固形分は90.0%、数平均分子量は480、固形分酸価は0.3mgKOH/g、ラジカル重合性基含有量は4.1×10-3mol/gであった。
【0068】
<実施例1>
誘電体セラミックスとしてのチタン酸バリウム(平均粒径1.16μm)170部、樹脂溶液(A1)46.7部、樹脂溶液(B1)16.8部、光重合開始剤としてのイルガキュア−907(チバ・スペシャリティ−・ケミカルズ社製)2部、光増感剤としてのカヤキュア−DETX−S(日本化薬株式会社製)2部、及びプロピレングリコ−ルモノメチルエ−テルアセテ−ト5部を石川式攪拌らいかい機で常温・常圧下に30分攪拌して、実施例1の感光性誘電体樹脂組成物を得た。
【0069】
<実施例2〜5及び比較例1〜4>
実施例1と同様の方法で、実施例2〜5及び比較例1〜4の感光性誘電体樹脂組成物を合成した。それぞれの配合を表1に示す。
【0070】
なお、表1におけるTMPTA、YD−011、YDCN−703は以下の通りである。
【0071】
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート
YD−011:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、東都化成株式会社製、数平均分子量950
YDCN−703:o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、東都化成株式会社製、数平均分子量1500
<実施例6>
誘電体セラミックスとしてのチタン酸バリウム(平均粒子径:1.16μm)200gの石川式撹拌らいかい機で常温・常圧下において4時間機械的摩擦を与えた後、メチルカルビトール100gに2−エチルヘキシルグリシジルエーテル10gを溶解させた溶液を添加し、4時間撹拌した。混合物の溶剤を除去した後、固形分をメチルエチルケトンで洗浄し乾燥させて、無機−有機ハイブリッド化物(1)を得た。ハイブリッド化の確認は、得られた粉末をメタノールに分散し、すみやかに沈降することを確認して判断した。また、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルのチタン酸バリウムへの付着量は、TGAによる加熱重量減測定結果から、0.8重量%であることが確認された。
【0072】
上記無機−有機ハイブリッド化物(1)170部、樹脂溶液(A1)46.7部、樹脂溶液(B1)16.8部、光重合開始剤としてのイルガキュアー907(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)2部、光増感剤としてのカヤキュアーDETX−S(日本化薬株式会社製)2部、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5部を石川式撹拌らいかい機で常温・常圧下に30分撹拌して、実施例6の感光性誘電体樹脂組成物を得た。
【0073】
<実施例7>
誘電体セラミックスとしてのチタン酸バリウム(平均粒子径:1.16μm)200gに石川式攪拌らいかい機で常温・常圧下において4時間機械的摩擦を与えた後、下記の式で表されるカルボキシル基を有する化合物としてダイキン工業社製ゼッフルGK510(数平均分子量:12000、酸価:10mgKOH/樹脂1g、水酸価:60mgKOH/樹脂1g、ワニス固形分:50重量%、ワニス溶剤:酢酸ブチル)50gとメチルカルビトール50gを添加し、4時間攪拌した。混合物の溶剤を除去した後、固形分を酢酸ブチルで洗浄し乾燥させて、無機−有機ハイブリッド化物(2)を得た。ハイブリッド化の確認は、得られた粉末をメタノールに分散し、すみやかに沈降することを確認して判断した。また、下記の式で表されるカルボキシル基を有する化合物のチタン酸バリウムへの付着量は、TGAによる加熱重量減測定結果から、1.7重量%であることが確認された。
【0074】
H-(CF2-CF2-CH2-CHX)n-(CF2-CF2-CH2-CHY)m−H
(ここで、Xはカルボキシル基含有基、Yはビニルエーテル基、ビニルエステル基、水酸基を組み合わせたもの)
上記無機−有機ハイブリッド化物(2)170部、樹脂溶液(A1)46.7部、樹脂溶液(B1)16.8部、光重合開始材としてのイルガキュア−907(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)2部、光増感剤としてのカヤキュア−DETX−S(日本化薬株式会社製)2部、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5部を石川式攪拌らいかい機で常温・常圧下に30分攪拌して、実施例7の感光性誘電体樹脂組成物を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
〔フィルムの可暁性評価〕
実施例1〜7及び比較例1〜4の感光性誘電体樹脂組成物を4ミルスのドクタ−ブレ−ドを用いて、厚み25μmのポリエチレンテレフタレ−トフィルム上に塗布し、室温で30分放置後、熱風乾燥機で80℃で10分間乾燥し、感光性誘電体樹脂フィルムを作製した。このフィルムの溶剤含有量をガスクロマトグラフィーで分析後、溶剤含有量が1重量%以下であることを確認し、直径が2mm、3mm、4mm、及び5mmの各ステンレス棒を挟むようにして折り曲げ、可撓性を評価した。クラックが発生せず問題なく折り曲げられたものを「合格」、クラックが発生したものを「不合格」とした。結果を表3に示す。
【0077】
〔現像性評価〕
実施例1〜7及び比較例1〜4の感光性誘電体樹脂組成物を4ミルスのドクタ−ブレ−ドを用いて、厚み0.5mmの銅板(JIS H 3100、C1100P)の上に塗布し、室温で30分放置後、熱風乾燥機で80℃10分間、または100℃30分間乾燥した。乾燥後のフィルムにネガフィルムを当て500mJ/cm2で露光した後、スプレ−圧2Kgf/cm2、温度30℃の1%炭酸ソ−ダ水溶液で1分間現像し、100μm/100μmのライン/スペ−スのパタ−ンの形成を評価した。また、80℃10分間乾燥したフィルムを20℃で1週間放置したものを同様に露光し、現像した。結果を表3に示す。なお、表3において、現像性(80℃10分)、現像性(100℃30分)、及び現像性(1週間放置)の評価は以下の基準で行った。
【0078】
合格:ラインにおいては、一部または全部が欠けたり、基板から剥離したり、歪曲していないものを合格とした。スペースにおいては、一部または全部に樹脂層が残ってなく、銅表面が見えているものを合格とした。いずれも、顕微鏡での観察である。
【0079】
不合格:上記の合格の基準を満たさないものを不合格とした。
【0080】
前述のフィルムの可撓性評価で厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に得られた実施例1〜7の感光性誘電体樹脂フィルムを表2に示す条件で真空ラミネーターを用いて厚み0.5mmの銅板(JIS H 3100、C1100P)の上に積層し、上記と同様の方法でパターンの形成を評価したところ、上記の銅板上に直接塗布したものと同等の結果が得られた。
【0081】
【表2】

【0082】
〔誘電率〕
実施例1〜7及び比較例1〜4の感光性誘電体樹脂組成物を4ミルスのドクタ−ブレ−ドを用いて、厚み0.5mmの銅板(JIS H 3100、C1100P)の上に塗布し、室温で30分間放置後、熱風乾燥機で80℃10分間乾燥した。その後、500mJ/cm2で露光した後、170℃で1時間加熱硬化させた。フィルム上に金を蒸着させ、銅板及び金蒸着膜を電極として、Impedance/Gain−Phase Analyzer(横河ヒュ−レットパッカ−ド社製4194A)を用いて、100Hz〜10MHzにおける比誘電率及び誘電損失を測定した。1KHzにおける測定結果を表3に示す。
【0083】
〔誘電体セラミックスの体積分率の測定〕
誘電率の測定で得られたサンプルの断面をSEM(走査型電子顕微鏡)撮影し、面積法により誘電体セラミックスの感光性誘電体樹脂層中での体積分率を算出した。結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示すように、本発明に従う実施例1〜7の感光性誘電体樹脂組成物を用いて形成した感光性誘電体樹脂フィルムは、フィルム可撓性の試験において、直径2mmのステンレス棒を挟むようにして折り曲げた際にもクラックが発生しておらず、良好な可撓性を有していることがわかる。また、現像性のいずれの試験においても、100μm/100μmのライン/スペースのパターンが問題なく形成でき、良好なパターン精度が得られている。また、比誘電率が高く、誘電損失も小さいことがわかる。
【0086】
これに対して、付加物(B)に代えて、トリメチルプロパントリアクリレートを用いた比較例1においては、フィルムに十分な可撓性がないことがわかる。また、付加物(B)に代えてビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた比較例2及び比較例3においては、現像性(100℃30分)及び現像性(1週間放置)において良好な結果が得られておらず、熱安定性及び貯蔵安定性において劣っていることがわかる。
【0087】
また、付加物(B)とエポキシ樹脂を併用した比較例4においても、現像性(100℃30分)及び現像性(1週間放置)において良好な結果が得られておらず、熱安定性及び貯蔵安定性において劣っていることがわかる。
【0088】
以上のように、本発明に従う感光性誘電体樹脂組成物は、現像性において良好な熱安定性及び貯蔵安定性を有するとともに、良好な可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルムを形成することができる。
【0089】
上記実施例1〜7の感光性誘電体樹脂組成物を用いて、配線基板の上に感光性誘電体樹脂層を形成し、これを選択的に露光した後アルカリ現像することによりパターン化した誘電体層を形成したところ、100μm/100μmのライン/スペースのパターンが問題なく形成でき、良好なパターン精度を有する誘電体層を形成することができた。
【0090】
従って、本発明に従う感光性誘電体樹脂組成物を用いることにより、良好なパターン精度で配線基板の上にパターン化した誘電体層を形成することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ現像可能な感光性誘電体樹脂組成物であって、
樹脂成分として、(A)ラジカル重合性基及びカルボン酸基を含有する樹脂と、(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂とラジカル重合性基含有モノカルボン酸との付加物とを含み、付加物(B)の含有量が樹脂成分中20〜80重量%であり、樹脂成分を含む全固形分中20〜80体積%となるように(C)誘電体セラミックスを含有させたことを特徴とする感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂(A)が、カルボキシル基含有ビニル単量体をモノマー成分として含むラジカル共重合体のカルボキシル基に環状エーテル基含有ビニル単量体の環状エーテル基を開環付加して得られる樹脂(A1)であることを特徴とする請求項1に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂(A)が、エポキシ化合物に、ラジカル重合性基とカルボキシル基を有する化合物を反応させ、さらにこの反応により生じた水酸基に酸無水物を反応させて得られる樹脂(A2)であることを特徴とする請求項1に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂(A)が、請求項2に記載の樹脂(A1)と請求項3に記載の樹脂(A2)とからなるものであることを特徴とする請求項1に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂(A)の酸価が30〜200mgKOH/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂(A)のラジカル重合性基含有量が5×10-4〜1×10-2mol/gであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項7】
付加物(B)のラジカル重合性基含有量が5×10-4〜1×10-2mol/gであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項8】
さらに(D)光重合開始剤を含有させたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項9】
さらに(E)アクリルモノマーを含有させたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項10】
誘電体セラミックスを摩擦することによりその表面を活性化した後、エポキシ基を有する化合物と攪拌混合することによって、表面に該化合物を強固に付着させた誘電体セラミックスを調製し、該誘電体セラミックスを前記誘電体セラミックスとして用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項11】
前記エポキシ基を有する化合物が、末端または主鎖中にエポキシ基を有する飽和鎖式炭化水素化合物であることを特徴とする請求項10に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項12】
前記エポキシ基を有する化合物が、水素をフッ素で置換したフッ素化エポキシ化合物であることを特徴とする請求項10または11に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項13】
誘電体セラミックスを摩擦することによりその表面を活性化した後、カルボキシル基を有する化合物と攪拌混合することによって、表面に該化合物を強固に付着させた誘電体セラミックスを調製し、該誘電体セラミックスを前記誘電体セラミックスとして用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
【請求項14】
前記カルボキシル基を有する化合物が、次式で表される化合物であることを特徴とする請求項13に記載の感光性誘電体樹脂組成物。
H−(CF2−CF2−CH2−CHX)n−(CF2−CF2−CH2−CHY)m−H
(ここで、Xはカルボキシル基含有基、Yはビニルエ−テル基、ビニルエステル基、水酸基のいずれかまたはそれらの組み合わせたものである。)
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物をフィルム状に成形して得られることを特徴とする可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルム。
【請求項16】
前記感光性誘電体樹脂組成物を溶剤に溶解または分散した液体から、溶剤を蒸発することによりフィルム状に成形されることを特徴とする請求項15に記載の可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルム。
【請求項17】
感光性誘電体樹脂層をアルカリ現像して得られるパターン化した誘電体層を有する配線基板であって、前記感光性誘電体樹脂層が、請求項1〜14のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物を溶剤に溶解または分散した液体を配線基板上に塗布した後、溶剤を蒸発することにより配線基板上に形成されたものであることを特徴とする配線基板。
【請求項18】
感光性誘電体樹脂層をアルカリ現像して得られるパターン化した誘電体層を有する配線基板であって、前記感光性誘電体樹脂層が、請求項15または16に記載の感光性誘電体樹脂フィルムを配線基板上にラミネートすることにより形成したものであることを特徴とする配線基板。
【請求項19】
請求項17に記載の配線基板を製造する方法であって、
請求項1〜14のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物を溶剤に溶解または分散した液体を配線基板の所定箇所の上に塗布した後、溶剤を蒸発させて可撓性を有した感光性誘電体樹脂層を形成する工程と、
前記感光性誘電体樹脂層を、形成するパターンに応じて選択的に露光する工程と、
前記露光した感光性誘電体樹脂層をアルカリ現像する工程と、
前記アルカリ現像後の感光性誘電体樹脂層を加熱し乾燥または硬化させて誘電体層を形成する工程とを備えることを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項20】
請求項18に記載の配線基板を製造する方法であって、
請求項1〜14のいずれか1項に記載の感光性誘電体樹脂組成物を溶剤に溶解または分散した液体を支持体の上に塗布した後、溶剤を蒸発することにより支持体上に可撓性を有した感光性誘電体樹脂フィルムを形成する工程と、
前記支持体上に形成した感光性誘電体樹脂フィルムを配線基板の所定箇所にラミネートした後支持体を剥離し、配線基板上に感光性誘電体樹脂層を形成する工程と、
前記感光性誘電体樹脂層を、形成するパターンに応じて選択的に露光する工程と、
前記露光した感光性誘電体樹脂層をアルカリ現像する工程と、
前記アルカリ現像後の感光性誘電体樹脂層を加熱し乾燥または硬化させて誘電体層を形成する工程とを備えることを特徴とする配線基板の製造方法。


【公開番号】特開2007−25171(P2007−25171A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206079(P2005−206079)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】