説明

感温性粘着剤

【課題】取り外し時に粘着力を十分に低下させることができる感温性粘着剤を提供することである。
【解決手段】感圧性接着剤と、側鎖結晶性ポリマーと、発泡剤とを含有し、前記感圧性接着剤は、反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体であり、前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力の低下を発現する感温性粘着剤である。前記反応性ポリシロキサン化合物が、片末端反応性ポリシロキサン化合物であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品等を仮止めする際に用いる感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば電子部品、半導体ウエハ、液晶等の分野に利用される部品の仮止め用粘着剤には、部品を所定の粘着力で固定でき、部品から剥離する際には、粘着力が低下して簡単に取り外せることが要求される。このような粘着剤としては、例えば発泡粘着剤、感温性粘着剤等が挙げられる。
【0003】
前記発泡粘着剤は、所定の感圧性接着剤に発泡剤を含有してなり、加熱処理による発泡剤の膨脹ないし発泡で粘着力が低下する(例えば、特許文献1,2参照)。
しかしながら、発泡剤による粘着力の低下は十分でないという問題がある。
【0004】
前記感温性粘着剤は、所定の感圧性接着剤に側鎖結晶性ポリマーを含有してなり、該側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にまで加熱処理をすると、該側鎖結晶性ポリマーが流動性を示し、これにより粘着力が低下する(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、側鎖結晶性ポリマーによる粘着力の低下であっても、完全に粘着力が消失するわけではないので、部品から取り外す際には、何らかの力を付与しなければならない。
【0005】
一方、部品によっては、横方向にずらして粘着剤から取り外す必要がある。
しかしながら、前記した従来の粘着剤では、粘着力を十分に低下させることができないので、部品を横方向にずらすことができない。このため、取り外し時に粘着力を十分に低下させることができる粘着剤の開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−33487号公報
【特許文献2】特開平5−43851号公報
【特許文献3】特開2000−355684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、取り外し時に粘着力を十分に低下させることができる感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、感圧性接着剤、側鎖結晶性ポリマーおよび発泡剤を含有し、前記感圧性接着剤が、反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体である場合には、取り外し時に粘着力を十分に低下させることができるという新たな事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の感温性粘着剤は、以下の構成からなる。
(1)感圧性接着剤と、側鎖結晶性ポリマーと、発泡剤とを含有し、前記感圧性接着剤は、反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体であり、前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力の低下を発現することを特徴とする感温性粘着剤。
(2)前記反応性ポリシロキサン化合物が、片末端反応性ポリシロキサン化合物である前記(1)記載の感温性粘着剤。
(3)加熱処理にて前記発泡剤を膨張ないし発泡させた後の23℃における摩擦抵抗が400g以下である前記(1)または(2)記載の感温性粘着剤。
(4)前記側鎖結晶性ポリマーは、融点が50℃以上であり、融点未満の温度で結晶化しかつ融点以上の温度で流動性を示す前記(1)〜(3)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(5)前記側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量が3,000〜30,000である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(6)前記側鎖結晶性ポリマーが、感圧性接着剤100重量部に対して0.1〜20重量部の割合で含有されている前記(1)〜(5)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(7)前記発泡剤が、感圧性接着剤100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で含有されている前記(1)〜(6)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(8)23℃における粘着力が0.1〜20N/25mmである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(9)厚さが5〜50μmである前記(1)〜(8)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【0010】
本発明の粘着シートは、粘着剤層を基材フィルムの片面または両面に設けたものであって、前記粘着剤層が前記(1)〜(9)のいずれかに記載の感温性粘着剤からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、側鎖結晶性ポリマーを含有するので、該側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度に加熱することにより、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示して粘着力が低下する。しかも、発泡剤と、反応性ポリシロキサン化合物をモノマーの1つとする共重合体からなる感圧性接着剤とを含有するので、側鎖結晶性ポリマーによる粘着力の低下に加えて、発泡剤による粘着力の低下と、ポリシロキサン化合物に起因する離型性とが加わる。したがって、取り外し時には粘着力を十分に低下させて簡単に取り外すことができるという効果を有する。
特に、本発明にかかる感温性粘着剤を、被着体(部品)を横方向にずらして取り外す仮止め用に適用すると、本発明の有用性がより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の感温性粘着剤は、感圧性接着剤、側鎖結晶性ポリマーおよび発泡剤を含有する。前記感温性粘着剤とは、温度変化に対応して粘着力が変化する粘着剤を意味する。
【0013】
<感圧性接着剤>
感圧性接着剤は、粘着性を有するポリマーであり、反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体である。前記反応性ポリシロキサン化合物とは、反応性を示す官能基を有し、かつ主鎖にシロキサン結合を有するポリシロキサン化合物のことを意味する。反応性ポリシロキサン化合物は、室温(23℃)でワックス状でもよいが、効率よく重合させる上で、室温で流動性を示すオイル状(すなわちシリコーンオイル)が好ましい。
【0014】
前記反応性を示す官能基としては、例えばビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロキシ基等のエチレン性不飽和二重結合;エポキシ基(グリシジル基およびエポキシシクロアルキル基を含む)、メルカプト基、カルビノール基、カルボキシル基、シラノール基、フェノール基、アミノ基、水酸基等が挙げられる。
【0015】
これらの官能基は、主鎖が有する側鎖に導入してもよく、主鎖の両末端または片末端に導入してもよい。すなわち、導入される官能基の結合位置によって、いわゆる側鎖型、両末端型、片末端型および側鎖両末端型の4種類が挙げられ、特に、優れた粘着性と離型性とが得られる上で、片末端型(すなわち片末端反応性ポリシロキサン化合物)が好ましい。
【0016】
片末端反応性ポリシロキサン化合物の具体例としては、下記一般式(I)で表される変性ポリジメチルシロキサン化合物等が挙げられる。
【化1】

[式中、R1はアルキル基を示す。R2は基:CH2=CHCOOR3−またはCH2=C(CH3)COOR3−(式中、R3はアルキレン基を示す。)を示す。nは5〜200の整数を示す。]
【0017】
前記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキル基が挙げられる。
【0018】
前記アルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の炭素数1〜6の直鎖または分枝したアルキレン基等が挙げられる。
【0019】
前記一般式(I)で表される変性ポリジメチルシロキサン化合物の具体例としては、下記一般式(II)で表される化合物等が挙げられる。
【化2】

[式中、R1,nは、前記と同じである。]
【0020】
このような変性ポリジメチルシロキサン化合物としては、例えば信越化学工業(株)から販売されている商品名「X−22−2404」、「X−24−8201」、「X−22−174DX」、「X−22−2426」等の片末端反応性シリコーンオイル等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
前記反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、粘着性に優れる上でアクリル系モノマーが好ましい。前記アクリル系モノマーとしては、例えば炭素数1〜12のアルキル基を有するアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステル(以下、(メタ)アクリレートという)等が挙げられる。前記(メタ)アクリレートとしては、例えばエチルへキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。また、他の共重合成分として、ヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレートを用いてもよい。このような(メタ)アクリレートとしては、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
反応性ポリシロキサン化合物と、該反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとの割合は、モノマー総量に対して、反応性ポリシロキサン化合物を1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部、反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーを70〜99重量部、好ましくは90〜99重量部であるのがよい。これに対し、前記反応性ポリシロキサン化合物が1重量部未満であると、ポリシロキサン化合物に起因する離型性が得られないおそれがあり、反応性ポリシロキサン化合物が30重量部より多いと、粘着力が低くなり、部品を固定できないおそれがある。
【0023】
前記共重合体の重量平均分子量は、25万〜100万であるのがよい。これに対し、前記共重合体の重量平均分子量が25万より小さいと、感温性粘着剤を部品から取り外す際には、該感温性粘着剤が部品上に残る、いわゆる糊残りが多くなるおそれがある。また、重量平均分子量が100万より大きいと、凝集力が高くなりすぎて粘着力が低くなるおそれがある。前記重量平均分子量は、前記共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0024】
反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとを重合させる重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられる。例えば溶液重合法を採用する場合には、反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとを適当な溶媒に混合し、50〜70℃程度で4〜6時間程度攪拌することによって、反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体を得ることができる。
【0025】
<側鎖結晶性ポリマー>
側鎖結晶性ポリマーは、融点未満の温度で結晶化しかつ融点以上の温度で流動性を示すのが好ましい。すなわち、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こすポリマーであるのがよい。これにより、融点未満の温度では、側鎖結晶性ポリマーが結晶状態であることにより、感温性粘着剤は粘着力を確保することができ、融点以上の温度では、側鎖結晶性ポリマーが流動状態となり、感温性粘着剤の粘着力の低下が発現される。
【0026】
本発明において融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていたポリマーの特定部分が無秩序状態となる温度を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)で、10℃/分の測定条件で測定して得られる値である。本発明にかかる側鎖結晶性ポリマーの融点は50℃以上、好ましくは50〜70℃であるのがよい。これにより、室温では側鎖結晶性ポリマーが結晶状態であることにより、感温性粘着剤が室温で粘着力を示すので、作業性が向上する。
【0027】
側鎖結晶性ポリマーの組成としては、例えば炭素数16以上、好ましくは炭素数16〜22の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート30〜99重量部と、炭素数1〜6のアルキル基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル0〜70重量部と、極性モノマー1〜10重量部とを重合させて得られる重合体等が挙げられる。
【0028】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を側鎖とする(メタ)アクリレートとしては、例えばセチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16〜22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。極性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有エチレン不飽和単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するエチレン不飽和単量体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は3,000〜30,000、好ましくは5,000〜25,000であるのがよい。重量平均分子量がこの範囲内であると、側鎖結晶性ポリマーが融点以上の温度で流動性を示した際には、感温性粘着剤の粘着力が十分に低下する。これに対し、重量平均分子量が3,000未満であると、感温性粘着剤を部品から取外す際に糊残りが多くなるおそれがある。また、重量平均分子量が30,000を超えると、側鎖結晶性ポリマーが融点以上の温度で流動性を示しても粘着力が低下しにくくなるおそれがある。前記重量平均分子量は、側鎖結晶性ポリマーをGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0030】
重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられる。例えば溶液重合法を採用する場合には、上記で例示したモノマーを適当な溶媒に混合し、70〜90℃程度で4〜6時間程度攪拌することによって前記モノマーを重合させることができる。
【0031】
側鎖結晶性ポリマーは、感圧性接着剤100重量部に対して0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部の割合で含有されているのがよい。これにより、側鎖結晶性ポリマーが融点以上の温度で流動性を示した際には、感温性粘着剤の粘着力が十分に低下する。これに対し、側鎖結晶性ポリマーの含有量が0.1重量部未満であると、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にまで加熱しても、粘着力が低下しにくくなる。また、20重量部より多いと、粘着力が低くなり、部品を固定できないおそれがある。
【0032】
<発泡剤>
発泡剤としては、特に限定されるものではなく、通常の化学発泡剤、物理発泡剤がいずれも採用可能である。化学発泡剤には、熱分解型および反応型の有機系発泡剤ならびに無機系発泡剤が包含される。
【0033】
熱分解型の有機系発泡剤としては、例えば各種のアゾ化合物(アゾジカルボンアミド等)、ニトロソ化合物(N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等)、ヒドラジン誘導体[4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等]、セミカルバジド化合物(ヒドラゾジカルボンアミド等)、アジド化合物、テトラゾール化合物等が挙げられ、反応型の有機系発泡剤としては、例えばイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0034】
熱分解型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸塩・炭酸塩(炭酸水素ナトリウム等)、亜硝酸塩・水素化物等が挙げられ、反応型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウムと酸との組み合わせ、過酸化水素とイースト菌との組み合わせ、亜鉛粉末と酸との組み合わせ等が挙げられる。
【0035】
物理発泡剤としては、例えばブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ジクロロエタン、ジクロロメタン等の塩化炭素水素類、フロン等のフッ化塩化炭化水素類等の有機系物理発泡剤;空気、炭酸ガス、窒素ガス等の無機系物理発泡剤等が挙げられる。
【0036】
また、他の発泡剤として、マイクロカプセル化された熱膨張性微粒子(いわゆるマイクロバルーン発泡剤)を採用することができる。マイクロバルーン発泡剤とは、熱可塑性または熱硬化性樹脂で作られたポリマー殻の内部に、固体、液体または気体からなる加熱膨張性物質を封入したものである。このマイクロバルーン発泡剤は加熱によって体積が40倍以上も膨張し、独立気泡形式の発泡体が得られる。したがって、マイクロバルーン発泡剤は、通常の発泡剤に比べて、発泡倍率がかなり大きくなるという特性を有する。
【0037】
発泡剤は、感圧性接着剤100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部の割合で含有されているのがよい。これに対し、発泡剤の含有量が0.1重量部未満であると、発泡剤による粘着力の低下を十分に得られず、粘着力が低下しにくくなるおそれがある。また、100重量部より多いと、感温性粘着剤の表面に発泡剤由来の凹凸が発生して表面性が低下すると共に、粘着力が低くなるおそれがある。
【0038】
発泡剤が膨脹ないし発泡する温度としては、特に限定されるものではないが、通常180℃以下であるのがよく、塗工乾燥時に発泡するのを抑制する上で、80℃以上の温度であるのが好ましい。発泡剤の平均粒径は、特に限定されるものではないが、通常5〜50μm程度である。前記平均粒径は、粒度分布測定装置で測定して得られる値である。
【0039】
本発明にかかる感温性粘着剤は、加熱処理にて感温性粘着剤中の発泡剤を膨張ないし発泡させた後の23℃における摩擦抵抗が400g以下、好ましくは200g以下、より好ましくは5〜200gであるのがよい。このような摩擦抵抗を有すると、粘着力を低下させた際には、表面滑り性に優れたものになり、被着体(部品)を横方向にずらして簡単に取り外すことができる。前記摩擦抵抗は、後述するように、加熱処理にて前記発泡剤を膨張ないし発泡させた後、23℃の雰囲気温度におけるアクリル樹脂製のプレートに対する摩擦抵抗を、速度300mm/分、面積25mm×25mm、加重50gの条件で摩擦抵抗測定機を用いて測定して得られる値である。
【0040】
本発明にかかる感温性粘着剤は、23℃における粘着力が0.1〜20N/25mmであるのが好ましい。これに対し、前記粘着力が0.1N/25mm未満であると、部品を固定できないおそれがあり、20N/25mmを超えると、粘着力が低下しにくくなるおそれがある。前記粘着力は、23℃の雰囲気温度におけるポリエチレンテレフタレートフィルムに対する剥離強度(粘着力)をJIS Z0237に準じて測定して得られる値である。
【0041】
前記粘着力および摩擦抵抗を所定の値にするには、例えば感圧性接着剤に対する側鎖結晶性ポリマーおよび/または発泡剤の割合、感圧性接着剤および/または側鎖結晶性ポリマーの組成、分子量等を変えることによって任意に行うことができる。具体例を挙げると、感圧性接着剤に対する側鎖結晶性ポリマーおよび/または発泡剤の割合を前記した範囲内において少なくすると、粘着力を上げることができる。これとは逆に、感圧性接着剤に対する側鎖結晶性ポリマーおよび/または発泡剤の割合を前記した範囲内において多くすると、摩擦抵抗を下げることができる。
【0042】
本発明にかかる感温性粘着剤は、厚さを5〜50μmにして使用するのがよい。なお、この感温性粘着剤の厚さを調整することによっても、前記粘着力および摩擦抵抗を調整することができる。すなわち、厚さを前記した範囲内において厚くすると、粘着力を上げることができる。これとは逆に、厚さを前記した範囲内において薄くすると、摩擦抵抗を下げることができる。
【0043】
また、感温性粘着剤の凝集力を上げるために、架橋剤を添加してもよい。前記架橋剤としては、例えばイソシアネート系化合物、アジリジン系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物等が挙げられる。必要に応じて可塑剤、タッキファイヤー、フィラー等のような任意の成分を添加してもよい。前記タッキファイヤーとしては、例えば特殊ロジンエステル系、テルペンフェノール系、石油樹脂系、高水酸基価ロジンエステル系、水素添加ロジンエステル系等があげられる。
【0044】
本発明の感温性粘着剤の使用形態は、特に限定されるものではなく、例えばフィルム状またはシート状の形態で用いることもでき、あるいは感温性粘着剤に適当な溶剤を加えて、被着体に直接塗布して乾燥するようにしてもよい。
【0045】
また、本発明の感温性粘着剤は、粘着シートとして使用してもよい。この場合には、本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの片面または両面に設ければよい。前記基材フィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレンエチルアクリレート共重合体フィルム、エチレンポリプロピレン共重合体フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等の合成樹脂フィルムが挙げられる。また、該フィルムは、単層体またはこれらの複層体からなるものであってもよく、厚さは、通常、5〜500μm程度である。基材フィルムの表面には、粘着剤層に対する密着性を向上させるため、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施してもよい。
【0046】
粘着剤層を基材フィルムに設けるには、一般的にナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター等が多く用いられる。また、塗工厚みや材料の粘度によっては、グラビアコーター、ロッドコーター等により行うことができる。粘着剤層の厚さは、5〜50μmであるのがよい。
【0047】
次に、本発明の感温性粘着剤を粘着シートの使用形態で使用する一例について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の粘着シートを用いて電子部品をダイシングする方法を示す概略説明図である。
【0048】
まず、図1(a)に示すように、本発明の粘着シート2を介して電子部品3を台座1上に固定する。すなわち、粘着シート2には、基材フィルムの両面に図示しない本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層が設けられており、片面の粘着剤層を電子部品3に、他面の粘着剤層を台座1にそれぞれ貼着させて、電子部品3を台座1上に固定する。
【0049】
電子部品3を台座1上に固定した後、電子部品3を切断する。切断は、図1(b)に示すように、回転刃4による切断であり、これにより複数の切断片5を形成する。この切断の際には、回転刃に押されて横方向の力と振動が電子部品3に加わり、電子部品3が粘着シートから飛散しやすいが、粘着シート2を用いることによって、前記飛散を抑制することができる。
【0050】
次に、粘着シート2を加熱処理する。該加熱は、粘着剤層中の側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度でありかつ発泡剤が膨張ないし発泡する温度にまで加熱する。これにより、側鎖結晶性ポリマーが融点以上の温度で流動性を示し、さらに発泡剤が膨脹ないし発泡すると共に、ポリシロキサン化合物に起因する離型性も加わるので、粘着剤層の粘着力が十分に低下する。この状態で、図1(c)に示すように、切断片5を横方向(矢印Aに示す方向)にずらして粘着シート2から取り出す。このとき、粘着剤層の表面は表面滑り性に優れるので、簡単に取り外すことができる。
【0051】
なお、上記では本発明にかかる粘着シート(感温性粘着剤)を電子部品のダイシングに使用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば積層セラミックインダクター、抵抗器、フェライト、センサー素子、サーミスタ、バリスタ、圧電セラミック等のセラミック電子部品、半導体ウエハ、液晶等の製造にも同様にして適用可能である。
【0052】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明の感温性粘着剤を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明で「部」は重量部を意味する。
【0053】
(合成例1:側鎖結晶性ポリマー)
ベヘニルアクリレート(日本油脂社製)を40部、ステアリルアクリレート(日本油脂社製)を35部、メチルアクリレート(日本触媒社製)を20部、アクリル酸を5部、ドデシルメルカプタン(花王社製)を6部、およびパーヘキシルPV(日本油脂社製)を1部の割合で、それぞれトルエン100重量部に混合し、80℃で5時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は7,900、融点は51℃であった。
【0054】
(合成例2:感圧性接着剤)
エチルヘキシルアクリレート(日本触媒社製)を52部、メチルアクリレートを35部、ヒドロキシエチルアクリレート(日本触媒社製)を8部、変性ポリジメチルシロキサン化合物(信越化学工業(株)製の「片末端反応性シリコーンオイル」であり、商品名「X−22−174DX」)を5部、およびパーブチルND(日本油脂社製)を0.5部の割合で、それぞれ酢酸エチル/トルエン(70/30)230重量部に混合し、60℃で5時間攪拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は48万であった。
【0055】
(比較合成例1:感圧性接着剤)
エチルヘキシルアクリレート(日本触媒社製)を52部、メチルアクリレートを40部、ヒドロキシエチルアクリレート(日本触媒社製)を8部、およびパーブチルND(日本油脂社製)0.5部の割合で、それぞれ酢酸エチル/n−ヘプタン(70/30)230重量部に混合し、60℃で5時間攪拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は47万であった。
【0056】
合成例1,2および比較合成例1で得た各共重合体を表1に示す。なお、前記重量平均分子量は、共重合体をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。また、合成例1の共重合体の融点は、DSCで、10℃/分の測定条件で測定した。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例1〜10および比較例1〜6]
<粘着シートの作成>
まず、上記で得た側鎖結晶性ポリマーと感圧性接着剤とを表2に示す組み合わせで用いて、共重合体溶液を調製した。ついで、この共重合体溶液に発泡剤を表2に示す割合で添加した。なお、発泡剤としては、マイクロカプセル化された熱膨張性微粒子(EXPANCEL社製の「551DU40」)を用いた。また、表2中、側鎖結晶性ポリマーおよび発泡剤の添加量は、いずれも感圧性接着剤100重量部に対する値である。
【0059】
この共重合体溶液を厚さ100μmの基材フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)の片面に塗布し、これを乾燥させて表2に示す厚みを有する粘着剤層を形成し、各粘着シートを得た(表2中の実施例1〜10および比較例1〜6)。
【0060】
<評価>
上記で得た各粘着シートについて、剥離強度、剥離性および摩擦抵抗を評価した。各評価方法を以下に示すと共に、結果を表2に併せて示す。
【0061】
(剥離強度)
23℃におけるポリエチレンテレフタレートフィルムに対する剥離強度(粘着力)をJIS Z0237に準じて測定した。
【0062】
(剥離性)
ポリエチレンテレフタレートフィルムに粘着シートを23℃で貼着した後、130℃(側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度であり、発泡剤が膨張する温度)まで昇温することにより、粘着シートがポリエチレンテレフタレートフィルムからテープの自重のみで剥離するか否かを目視観察した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:テープの自重のみで剥離した
×:テープの自重のみで剥離しない
【0063】
(摩擦抵抗)
まず、アクリル樹脂製のプレートに粘着シートを23℃で貼着した後、130℃まで昇温することにより粘着剤層中の発泡剤を膨張させた。ついで、23℃に冷却し、該23℃における摩擦抵抗を以下の測定条件にて測定した。
摩擦抵抗測定機:新東化学(株)製の「トライボアギアHEIDON-14DR」
速度:300mm/分
面積:縦25mm×横25mm
加重:50g
被着体:アクリル樹脂製のプレート
【0064】
【表2】

【0065】
表2から明らかなように、実施例1〜10の粘着シートは、23℃における剥離強度、すなわち所定の粘着力を維持しつつ、剥離性および摩擦抵抗に優れているのがわかる。これに対し、比較例1,2の粘着シートは、感圧性接着剤が反応性ポリシロキサン化合物を共重合成分として含まない単なる感圧性接着剤であり、側鎖結晶性ポリマーも含まないため、剥離性および摩擦抵抗に劣る結果を示した。比較例3,4の粘着シートは、側鎖結晶性ポリマーを含まないため、剥離性および摩擦抵抗に劣る結果を示した。比較例5,6の粘着シートは、感圧性接着剤が反応性ポリシロキサン化合物を共重合成分として含まない単なる感圧性接着剤のため、摩擦抵抗に劣る結果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の粘着シートを用いて電子部品をダイシングする方法を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 台座
2 粘着シート
3 電子部品
4 回転刃
5 切断片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感圧性接着剤と、側鎖結晶性ポリマーと、発泡剤とを含有し、
前記感圧性接着剤は、反応性ポリシロキサン化合物と、この反応性ポリシロキサン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体であり、
前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で粘着力の低下を発現することを特徴とする感温性粘着剤。
【請求項2】
前記反応性ポリシロキサン化合物が、片末端反応性ポリシロキサン化合物である請求項1記載の感温性粘着剤。
【請求項3】
加熱処理にて前記発泡剤を膨張ないし発泡させた後の23℃における摩擦抵抗が400g以下である請求項1または2記載の感温性粘着剤。
【請求項4】
前記側鎖結晶性ポリマーは、融点が50℃以上であり、融点未満の温度で結晶化しかつ融点以上の温度で流動性を示す請求項1〜3のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項5】
前記側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量が3,000〜30,000である請求項1〜4のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項6】
前記側鎖結晶性ポリマーが、感圧性接着剤100重量部に対して0.1〜20重量部の割合で含有されている請求項1〜5のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項7】
前記発泡剤が、感圧性接着剤100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で含有されている請求項1〜6のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項8】
23℃における粘着力が0.1〜20N/25mmである請求項1〜7のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項9】
厚さが5〜50μmである請求項1〜8のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項10】
粘着剤層を基材フィルムの片面または両面に設けた粘着シートであって、前記粘着剤層が請求項1〜9のいずれかに記載の感温性粘着剤からなることを特徴とする粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2009−120743(P2009−120743A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296976(P2007−296976)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】