説明

感温性粘着剤

【課題】粘着力が時間経過につれて徐々に低下する感温性粘着剤を提供することである。
【解決手段】側鎖結晶性ポリマーを含有し、該側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、前記側鎖結晶性ポリマーが、環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーと、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を重合させて得られる共重合体からなるように構成した。前記環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、イソボルニル(メタ)アクリレートが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定温度で粘着力が低下する感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
感温性粘着剤は、粘着力を熱によって可逆的に制御できる粘着剤である(例えば、特許文献1参照)。より具体的には、感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有し、この側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却すると、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下する粘着剤である。
【0003】
感温性粘着剤の一使用形態である感温性粘着テープは、特許文献1に記載されているように、積層セラミックコンデンサの製造等に使用される。感温性粘着テープを使用する積層セラミックコンデンサの製造は、通常、下記(a)〜(f)の工程を含む。
(a)粘着力を発現させた感温性粘着テープをセラミックグリーンシート積層体に貼着する。
(b)このセラミックグリーンシート積層体を、感温性粘着テープを介して台座上に固定する。
(c)台座上に固定したセラミックグリーンシート積層体を切断し、複数の生チップを形成する。
(d)形成された複数の生チップの状態を検査する。
(e)ついで複数の生チップを感温性粘着テープから取り出す。
(f)取り出した生チップを焼成してセラミックチップを得、このセラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得る。
【0004】
ここで、上述した(c)の工程では、形成される生チップに割れや欠けが発生するのを抑制する上で、雰囲気温度を比較的高温にし、セラミックグリーンシート積層体を柔軟な状態にして行うのが一般的である。それゆえ、次の(d)の工程では、検査を安全に行う上で、雰囲気温度を下げる必要がある。
【0005】
一方、(d)の工程の次に行う(e)の工程では、感温性粘着テープを側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却し、感温性粘着テープの粘着力を下げる必要がある。したがって、(d)の工程で、予め雰囲気温度を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度にまで下げておけば、次の(e)の工程で感温性粘着テープを冷却する必要がなく、生産性が向上してよいと考えられる。
【0006】
ところが、特許文献1に記載されているような従来の感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却すると、側鎖結晶性ポリマーが速やかに結晶化して粘着力が比較的短時間に低下してしまう。そのため、(d)の工程で雰囲気温度を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度にまで下げると、検査中に粘着力が低下してしまい、生チップが感温性粘着テープから剥離するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−251923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、粘着力が時間経過につれて徐々に低下する感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)側鎖結晶性ポリマーを含有し、該側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、前記側鎖結晶性ポリマーが、環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーと、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を重合させて得られる共重合体からなることを特徴とする感温性粘着剤。
(2)前記環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーが、イソボルニル(メタ)アクリレートである前記(1)記載の感温性粘着剤。
(3)前記融点未満の温度で、粘着力が時間経過につれて徐々に低下する前記(1)または(2)記載の感温性粘着剤。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの少なくとも片面に設けたことを特徴とする感温性粘着テープ。
(5)前記(4)記載の感温性粘着テープを用いてセラミック部品を製造する方法であって、粘着力を発現させた前記感温性粘着テープをセラミックグリーンシート積層体に貼着する工程と、このセラミックグリーンシート積層体を、前記感温性粘着テープを介して台座上に固定する工程と、台座上に固定した前記セラミックグリーンシート積層体を切断し、複数の生チップを形成する工程と、前記感温性粘着テープを側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却し、前記複数の生チップの状態を検査する工程と、ついで前記複数の生チップを前記感温性粘着テープから取り出す工程と、を含むことを特徴とするセラミック部品の製造方法。
(6)前記(5)記載のセラミック部品の製造方法で得られる生チップを焼成してセラミックチップを得、このセラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを製造することを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却したとき、粘着力が時間経過につれて徐々に低下するので、例えば粘着テープの形態で積層セラミックコンデンサの製造に用いる場合には、形成された複数の生チップの状態を検査する工程で雰囲気温度を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に下げても、検査中に生チップが感温性粘着テープから剥離するのを抑制することができ、それゆえ次の複数の生チップを感温性粘着テープから取り出す工程において感温性粘着テープを冷却する必要がなく、生産性を向上させることができる。また、側鎖結晶性ポリマーの相変化を利用するものであるため、繰り返し使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを含有する。側鎖結晶性ポリマーは、融点未満の温度で結晶化し、かつ融点以上の温度で相転移して流動性を示すポリマーである。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こすポリマーである。
【0012】
本発明の感温性粘着剤は、融点未満の温度で側鎖結晶性ポリマーが結晶化した際に粘着力が低下する割合で側鎖結晶性ポリマーを含有する。つまり、本発明の感温性粘着剤は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有する。これにより、被着体から感温性粘着剤を剥離する際には、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却すれば、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することによって粘着力が低下する。また、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度に加熱すれば、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによって粘着力が回復するので、繰り返し使用することができる。
【0013】
融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態となる温度を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)により10℃/分の測定条件で測定して得られる値である。融点としては20℃以上であるのが好ましく、20〜60℃であるのがより好ましい。融点を所定の値とするには、側鎖結晶性ポリマーの組成等を変えることによって任意に行うことができる。
【0014】
側鎖結晶性ポリマーは、環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーと、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を重合させて得られる共重合体からなる。この共重合体からなる側鎖結晶性ポリマーは、融点未満の温度に冷却したとき、粘着力が時間経過につれて徐々に低下する。この理由としては、以下の理由が推察される。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、側鎖に長鎖アルキル基を有する櫛形のポリマーであり、この側鎖が分子間力等によって秩序ある配列に整合されることにより結晶化する。環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーをモノマー単位として含有すると、環状構造によって側鎖が秩序ある配列に整合され難くなり、その結果、結晶化の進行が遅延され、粘着力が時間経過につれて徐々に低下するようになるものと推察される。
【0015】
環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば脂環式構造を有するエチレン性不飽和モノマー等が挙げられ、脂環式構造を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えばイソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式構造を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、特にイソボルニル(メタ)アクリレートは、嵩高く、上述した効果が得られ易いので好適である。なお、環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、上述した効果を奏する限り、例示したものに限定されるものではない。
【0016】
側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーとしては、例えば炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、極性モノマー等が挙げられる。
【0017】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばセチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16〜22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、極性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
側鎖結晶性ポリマーの組成としては、環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーと、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーとを、重量比で、好ましくは1:99〜70:30、より好ましくは3:97〜55:45、さらに好ましくは3:97〜40:60、さらに好ましくは5:95〜30:70の割合で重合させた共重合体がよい。環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーの割合があまり少ないと、相対的に側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーの割合が多くなるので、側鎖の割合が多くなり、粘着力が比較的短時間に低下するようになるので好ましくない。また、環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーの割合があまり多いと、相対的に側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーの割合が少なくなるので、側鎖の割合が少なくなり、時間が十分に経過しても粘着力が所定の値にまで低下し難くなるので好ましくない。
【0019】
重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられる。例えば溶液重合法を採用する場合には、上述したモノマーを溶剤に混合し、40〜90℃程度で2〜10時間程度攪拌すればよい。
【0020】
側鎖結晶性ポリマーを構成する共重合体の重量平均分子量としては、20万〜100万であるのが好ましく、40万〜70万であるのがより好ましい。これにより、感温性粘着剤が適度な凝集力を示すようになり、優れた貼着安定性を得ることができる。これに対し、共重合体の重量平均分子量があまり小さいと、被着体から感温性粘着剤を剥離する際に感温性粘着剤が被着体上に残る、いわゆる糊残りが多くなるおそれがある。また、共重合体の重量平均分子量があまり大きいと、感温性粘着剤の凝集力が必要以上に高くなるので好ましくない。重量平均分子量は、共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0021】
本発明の感温性粘着剤の使用形態としては、特に限定されるものではなく、例えば基材レスのシート状の形態で使用することができ、あるいは感温性粘着剤に適当な溶剤を加えて、被着体に直接塗布して乾燥するようにしてもよい。
【0022】
感温性粘着剤をシート状の形態にし、感温性粘着シート(以下、「粘着シート」と言うことがある。)として使用する場合には、その厚さを10〜400μmとするのが好ましい。粘着シートの厚さがあまり薄いと、粘着力が低下し、被着体を固定し難くなるので好ましくない。また、粘着シートの厚さがあまり大きいと、粘着シートの厚さにバラツキを生じるおそれがあるので好ましくない。
【0023】
粘着シートの両面には、離型処理を施したフィルム、すなわち離型フィルムを設けるのが好ましい。離型フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート等からなるフィルムの表面に、シリコーン等の離型剤を塗布したものが挙げられる。粘着シートの両面に離型フィルムを設けるには、例えば感温性粘着剤を溶剤に加えた塗布液を、離型フィルム上に塗布して乾燥させて粘着シートを得、この粘着シートの表面に離型フィルムを配置すればよい。
【0024】
塗布液には、例えば架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を添加することができる。塗布は、一般的にナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター等により行うことができる。また、塗工厚みや塗布液の粘度によっては、グラビアコーター、ロッドコーター等により行うこともできる。なお、感温性粘着剤は、塗布の他、例えば押し出し成形やカレンダー加工によってもシート状に成形することができる。
【0025】
本発明の感温性粘着剤は、粘着テープの形態で使用することもできる。粘着テープの形態によれば、上述した粘着シートと同様の効果を奏するとともに、基材フィルムを含む分、粘着シートよりも剛性が高く、取り扱い性に優れるという効果を奏する。
【0026】
感温性粘着剤を粘着テープの形態にし、感温性粘着テープ(以下、「粘着テープ」と言うことがある。)として使用する場合には、本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの少なくとも片面に設ければよい。
【0027】
基材フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂フィルムが挙げられる。
【0028】
基材フィルムは、単層体または複層体からなるものであってもよく、厚さは、通常、5〜500μm程度である。基材フィルムには、粘着剤層に対する密着性を向上させるため、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施すことができる。
【0029】
基材フィルムの少なくとも片面に粘着剤層を設けるには、感温性粘着剤を溶剤に加えた塗布液を、基材フィルムの片面または両面に塗布して乾燥させればよい。塗布は、上述した粘着シートで説明したのと同じ方法で行うことができる。
【0030】
粘着剤層の厚さとしては、5〜60μmであるのが好ましく、5〜50μmであるのがより好ましく、5〜40μmであるのがさらに好ましい。基材フィルムの両面に粘着剤層を設ける場合には、片面の粘着剤層の厚さと、他面の粘着剤層の厚さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
粘着テープは、片面の粘着剤層が本発明の感温性粘着剤からなる限り、他面の粘着剤層の組成は、特に限定されない。他面の粘着剤層を、例えば片面の粘着剤層と同様に本発明の感温性粘着剤からなる粘着剤層で構成する場合には、片面の粘着剤層の組成と、他面の粘着剤層の組成とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
また、他面の粘着剤層として、例えば感圧性接着剤からなる粘着剤層を用いることもできる。感圧性接着剤は、粘着性を有するポリマーであり、例えば天然ゴム接着剤、合成ゴム接着剤、スチレン/ブタジエンラテックスベース接着剤、アクリル系接着剤等が挙げられる。
【0033】
次に、上述した本発明の粘着シートを用いて行う本発明のセラミック部品の製造方法および積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。本発明にかかるセラミック部品および積層セラミックコンデンサの各々の製造方法は、以下の(A)〜(F)の工程を含む。
【0034】
(A)粘着力を発現させた感温性粘着テープをセラミックグリーンシート積層体に貼着する。
(B)このセラミックグリーンシート積層体を、感温性粘着テープを介して台座上に固定する。
(C)台座上に固定したセラミックグリーンシート積層体を切断し、複数の生チップを形成する。
(D)感温性粘着テープを側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却し、複数の生チップの状態を検査する。
(E)ついで複数の生チップを感温性粘着テープから取り出す。
(F)得られた生チップを焼成してセラミックチップを得、このセラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得る。
【0035】
より具体的に説明すると、(A)の工程におけるセラミックグリーンシート積層体は、セラミック粉末のスラリーをドクターブレードで薄く延ばしてセラミックグリーンシートを形成し、このセラミックグリーンシートの表面に複数の電極を印刷した後、複数のセラミックグリーンシートを積層一体化して得られる。
【0036】
(B)の工程における台座上への固定方法としては、特に限定されるものではなく、例えば粘着テープの基材フィルムと、台座との間に所定の粘着剤や接着剤を介在させることによって固定する方法や、吸着機構等の固定手段を備えた台座を採用する方法等が挙げられる。また、粘着テープの構成が、基材フィルムの両面に粘着剤層を設けた両面テープである場合には、セラミックグリーンシート積層体を貼着している片面の粘着剤層と反対の他面の粘着剤層を介して固定することもできる。
【0037】
(C)の工程における切断は、切断刃による押し切りであってもよいし、回転刃による切断であってもよい。形成される生チップは、粘着テープに貼着固定されているので、切断時における衝撃でチップが飛散するのを抑制することができる。(D)の工程における冷却は、例えば冷風器等の冷却手段を用いて行うことができる。
【0038】
ここで、生チップを貼着固定している粘着テープの粘着剤層は、上述した本発明の感温性粘着剤で構成されているので、その粘着力は時間経過につれて徐々に低下する。したがって、(D)の工程で雰囲気温度を側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に下げても、粘着力が急に低下することはなく、それゆえ検査中に生チップが粘着テープから剥離するのを抑制することができる。しかも、次の(E)の工程において粘着テープを冷却する必要がないので、生産性よく積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0039】
なお、セラミック部品および積層セラミックコンデンサの製造は、上述した粘着テープに代えて、本発明の感温性粘着剤やその粘着シートを用いても行うことができる。また、本発明の感温性粘着剤、粘着シートおよび粘着テープの用途は、積層セラミックコンデンサ用に限定されるものではなく、例えばセラミックインダクタ、セラミックバリスタ等の他のセラミック部品についても適用することができ、さらにセラミック部品以外の粘着力を徐々に低下させることが要求される他の分野においても、好適に用いることができる。
【0040】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明で「部」は重量部を意味する。
【0041】
<合成例1>
ベヘニルメタクリレートを36部、ステアリルメタクリレートを29部、イソボルニルアクリレートを30部、メタクリル酸を5部、およびパーブチルND(日油社製)を0.2部の割合で、それぞれ酢酸エチル230部に添加して混合し、55℃で4時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は50万、融点は24℃であった。なお、イソボルニルアクリレートは、大阪有機化学工業社製の「IBXA」を用いた。
【0042】
<合成例2>
ベヘニルメタクリレートを36部に代えて50部にし、ステアリルメタクリレートを29部に代えて40部にし、イソボルニルアクリレートを30部に代えて5部にした以外は、合成例1と同様にしてモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は55万、融点は45℃であった。
【0043】
<比較合成例1>
ベヘニルメタクリレートを36部に代えて53部にし、ステアリルメタクリレートを29部に代えて42部にし、イソボルニルアクリレートを添加しなかった以外は、合成例1と同様にしてモノマーを重合させた。得られた共重合体の重量平均分子量は55万、融点は48℃であった。
【0044】
<比較合成例2>
イソボルニルアクリレートを95部、メタクリル酸を5部、およびパーブチルND(日油社製)を0.2部の割合で、それぞれ酢酸エチル230部に添加して混合し、55℃で4時間撹拌して、これらのモノマーを重合させた。イソボルニルアクリレートは、合成例1と同じものを用いた。得られた共重合体の重量平均分子量は20万であった。この共重合体の融点は測定されなかった。
【0045】
合成例1,2および比較合成例1,2の各共重合体を表1に示す。なお、重量平均分子量は、共重合体をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。融点は、DSCを用いて10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例1,2および比較例1,2]
<粘着テープの作製>
まず、合成例1,2および比較合成例1,2で得られた各共重合体を、酢酸エチルを用いて固形分が30重量%になるよう調整して共重合体溶液を得た。ついで、この共重合体溶液を、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に塗布して乾燥させ、厚さ40μmの粘着剤層が形成された粘着テープを得た。
【0048】
<評価>
得られた粘着テープについて、結晶化度および180°剥離強度を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表2に併せて示す。
【0049】
(結晶化度)
得られた粘着テープについて、雰囲気温度を23℃にしてから10分後、8時間後、および24時間後の3点における結晶化度を測定した。具体的には、雰囲気温度を23℃にし、上述の所定時間を経過した後に粘着テープの粘着剤層から試験片を採取し、この試験片の溶融に要する熱量(mJ/mg)を、DSCを用いて10℃/分の測定条件で測定し、熱量(A)を得た。
【0050】
一方、上述した3点の試験片とは別に、予め粘着テープの粘着剤層から採取した試験片を−30℃の雰囲気温度で完全結晶状態にし、この完全結晶状態の試験片の溶融に要する熱量(mJ/mg)を、DSCを用いて10℃/分の測定条件で測定し、熱量(B)を得た。そして、得られた熱量(A),(B)を式:〔熱量(A)/熱量(B)〕×100に当てはめ、結晶化度(%)を算出した。
【0051】
(180°剥離強度)
得られた粘着テープについて、雰囲気温度を23℃にしてから10分後、8時間後、および24時間後の3点における180°剥離強度を、JIS Z0237に準拠して測定した。具体的には、23℃の雰囲気温度で粘着テープをステンレス鋼製の板に貼着し、上述の所定時間を経過した後、ロードセルを用いて300mm/分の速度で粘着テープを180°剥離した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から明らかなように、実施例1,2は、10分後、8時間後および24時間後の順に結晶化度の値が大きくなっていることから、結晶化の進行が遅延されているのがわかる。また、実施例1は、10分後、8時間後および24時間後の順に180°剥離強度の値が小さくなっており、実施例2は、10分後よりも8時間後および24時間後の方が180°剥離強度の値が小さくなっていることから、粘着力が時間経過につれて徐々に低下しているのがわかる。これに対し、従来の感温性粘着剤である比較例1は、実施例1,2よりも短時間で結晶化し、かつ粘着力が低下する結果を示した。また、感温性粘着剤ではない比較例2は、粘着力が時間経過によって変化することなく、一定であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖結晶性ポリマーを含有し、該側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、
前記側鎖結晶性ポリマーが、環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーと、側鎖結晶性ポリマーを構成する他のモノマーと、を重合させて得られる共重合体からなることを特徴とする感温性粘着剤。
【請求項2】
前記環状構造を有するエチレン性不飽和モノマーが、イソボルニル(メタ)アクリレートである請求項1記載の感温性粘着剤。
【請求項3】
前記融点未満の温度で、粘着力が時間経過につれて徐々に低下する請求項1または2記載の感温性粘着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の感温性粘着剤からなる粘着剤層を、基材フィルムの少なくとも片面に設けたことを特徴とする感温性粘着テープ。
【請求項5】
請求項4記載の感温性粘着テープを用いてセラミック部品を製造する方法であって、
粘着力を発現させた前記感温性粘着テープをセラミックグリーンシート積層体に貼着する工程と、
このセラミックグリーンシート積層体を、前記感温性粘着テープを介して台座上に固定する工程と、
台座上に固定した前記セラミックグリーンシート積層体を切断し、複数の生チップを形成する工程と、
前記感温性粘着テープを側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却し、前記複数の生チップの状態を検査する工程と、
ついで前記複数の生チップを前記感温性粘着テープから取り出す工程と、
を含むことを特徴とするセラミック部品の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のセラミック部品の製造方法で得られる生チップを焼成してセラミックチップを得、このセラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを製造することを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2012−211262(P2012−211262A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77767(P2011−77767)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】