説明

成形体及びその成形方法

【課題】 簡単な機構により、予め表面に気体不透過層が設けられた中空形状の部品を、キャビティ内に設置したインサート成形を、当該部品の変形がないように行う技術を提供する。
【解決手段】 開口部を有する中空形状の部品の外側に、気体不透過層を形成した後、前記部品を金型のキャビティ内に設置して、前記部品の中空部に液体を封入し、前記開口部を密封した状態で、前記部品外壁とキャビティ内壁の間の空隙に、溶融した材料を充填する。具体的には溶融した材料の充填を、射出成形法で行うが、前記の液体封入により中空部の変形を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層構造で中空形状を有する射出成形体に関わり、特に2層を構成する第一の層と第二の層との間に、気体を透過しない層を具備する射出成形体と、当該別部品の射出成形による成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形は、主に熱可塑性の高分子材料を成形する方法として、様々な分野に広く用いられている。この成形方法は、開閉可能な固定側及び可動側の二つの部材からなる金型の、当接面の一方または両方に、キャビティと称される、製品形状が転写された凹みが彫り込まれ、当接面を圧接した状態で、スプルー、ランナー、ゲートと称される流路を介して、溶融した高分子材料を高圧で充填して成形体を得るものである。
【0003】
しかしながら、一般的に射出成形に原材料として用いられる高分子材料は、わずかながら気体を透過してしまうため、気体を封入する容器として用いるには不適であり、材質によっては、水蒸気も透過してしまうため、飲料などの容器にも使えない場合がある。身近な例としては、水素で膨らませたゴム風船は、水素が透過してしまい、数日で浮力を失うため、最近は表面に金属層を形成した高分子材料のフィルムが用いられている。
【0004】
一方で、気体を透過せず、しかも一定の可撓性を具備する膜を形成することが可能な材料として、最近開発され、非特許文献1に記載されている材料が注目されている。これは、層状ケイ酸塩を積層するもので、材料を分散溶解した水溶液に、膜を形成する対象物を浸漬した後、引き上げて乾燥すると表面に膜が形成されるというものである。
【0005】
そして、このような膜を外側に形成した中空形状の部品を、射出成形の金型のキャビティの適当な位置に設置しておくことで、当該部品とキャビティとの間隙に充填される材料が一体化された成形体を得ることができる。
【0006】
射出成形においては、このような成形方法、即ち、インサート成形が一般的に行われ、実例を挙げると、シャフトが金属で本体部分がプラスチック製の歯車などがある。また、この方法により、2種以上の色や材質のプラスチックを一体成形した、いわゆる2色成形体も生産されている。
【0007】
ところが、キャビティ内部に設置する部品が中空形状であると、キャビティに溶融した材料を充填する際に、充填圧力により中空部品が押し潰されてしまい、所要の形状が得るのが困難である。この現象は、当該中空部品が別途に成形されたプラスチックの成形体である場合、特に顕著である。
【0008】
このような問題に対処する手段として、特許文献1には、金型を閉じる工程と、溶融した材料をキャビティ内に圧入する工程を並行して行うことにより、キャビティ内に設置する中空部品の変形を防止する技術が開示されている。しかしながら、この方法では、金型の構造が複雑になり、製品の製造コストを押し上げる要因となる他、成形条件の設定の難易度が増加するという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】 http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2004/pr20040811/pr20040811.html
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】 特開2004−268456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そして、前記のような2層構造の中空形状成形体で、層間に気体不透過層を具備したものが得られれば、例えば、今後普及が期待される、水素を用いる燃料電池の燃料容器などに用いることができる。従って、本発明の課題は、簡単な機構により、予め表面に気体不透過層が設けられた中空形状の部品を、キャビティ内に設置したインサート成形を、当該部品の変形がないように行う技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一般に液体は、圧力が加わった場合の圧縮率が、気体に比較すると無視し得る程度に小さい。また、例えば瓶のような中空形状の製品は当然のことながら開口部を有し、液体の注入排出が極めて容易である。よって、このような部品の中空部に液体を充填密封した状態で金型に設置し、インサート成形を行えば、当該中空形状の部品は、溶融材料の充填圧力による変形が小さくなると考えられる。
【0013】
本発明は、このような知見に基づいて、金型内部に設置する中空形状の部品の開口部を密封する方法と、それに適した金型の構造を検討した結果なされたものである。
【0014】
即ち、本発明は、2層構造を有し、開口部を有する中空形状の成形体において、第一の層と第二の層の間に、気体不透過層を有することを特徴とする成形体である。
【0015】
また、本発明は、前記気体不透過層が、層状ケイ酸塩の積層体または金属の少なくともいずれかであることを特徴とする、前記の成形体である。
粘土結晶の積層体
【0016】
また、本発明は、開口部を有する中空形状の部品の外側に、気体不透過層を形成した後、前記部品を金型のキャビティ内に設置して、前記部品の中空部に液体を封入し、前記開口部を密封した状態で、前記部品外壁とキャビティ内壁の間の空隙に、溶融した材料を充填することを特徴とする、前記の成形体の成形方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による成形方法によれば、例えば瓶のような中空形状で、しかも中間に気体不透過層を有する成形体が得られる。このような成形体は、従来適用が困難であった、水素のような気体の容器として用いることが可能となり、容器の軽量化、それに伴う用途拡大に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 射出成形工程における本発明に係る成形体の一例の状態を示す断面図。
【図2】 本発明に係る成形方法により成形した容器の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明の実施の形態を、具体的な図に基づいて説明する。
【0020】
図1は、射出成形工程における、本発明に係る成形体の一例の状態を示す断面図である。図1において、1は可動側金型、2はキャビティ、3は気体不透過層、4は中空形状部品、5はR形状部、6はスライドコア、7はOリング、8は開口部密閉用部材、9は固定側金型である。
【0021】
この例においては、中空形状部品4として、熱可塑性高分子材料をブロー成形や射出成形により調製し、外側に気体不透過層3を予め形成した後、開口部密閉部材8を、中空形状部品4の開口部に取り付けて、Oリング7により開口部を密閉し、固定側金型9の所定の位置に嵌合する。
【0022】
ここで中空形状部品4の内部に充填する液体としては、各種のオイルや水を用いることができる。成形に用いる材料の流動性によっては、200℃以上の温度で充填する場合があり、金型温度もそれに対応させて高く設定する場合がある。この場合は、シリコンオイルなどの沸点の高い液体を用いる必要がある。しかし、液体としては、水が最も取り扱いが容易なので、成形に用いる材料としては、可能な限り流動性の高いものを選択するのが望ましい。
【0023】
次にスライドコア6と可動側金型1を作動させることにより、図1に示した状態とし、キャビティ2に成形機のシリンダ(図示せず)で可塑化した溶融高分子材料を充填する。その後、可動側金型1とスライドコア6を開き、成形体を取り出す。
【0024】
図2は、本発明に係る成形方法により成形した容器の例を示す図である。図2において、10は成形の際に固定側金型9にセットした中空形状部品、即ち、一次成形体、11は気体不透過層、12はキャビティ2に充填して成形した部分、即ち、二次成形体である。
【0025】
このように、本発明によれば、高分子材料を用いながら、従来の方法では得られなかった、気体を透過しない中空形状成形体とそれを用いた容器が得られる。これによって、射出成形などによって得られる、高分子材料の成形体の用途拡大に寄与することができる。
【0026】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本技術分野における通常の知識を有する者が想到し得る変形、修正など、例えば、一次成形体として、各種の熱硬化性高分子を用いた場合も、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0027】
1 可動側金型
2 キャビティ
3,11 気体不透過層
4 中空形状部品
5 R形状部
6 スライドコア
7 Oリング
8 開口部密閉用部材
9 固定側金型
10 一次成形体
12 二次成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層構造を有し、開口部を有する中空形状の成形体において、第一の層と第二の層の間に、気体不透過層を有することを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記気体不透過層は、層状ケイ酸塩の積層体または金属の少なくともいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
開口部を有する中空形状の部品の外側に、気体不透過層を形成した後、前記部品を金型のキャビティ内に設置して、前記部品の中空部に液体を封入し、前記開口部を密封した状態で、前記部品外壁とキャビティ内壁の間の空隙に、溶融した材料を充填することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の成形体の成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−84055(P2011−84055A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256515(P2009−256515)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000128359)株式会社エムジー (6)
【Fターム(参考)】