説明

成形加工用樹脂被覆アルミニウム板およびその製造方法

【課題】 加工時の絞り工程の破断や、かじりによる塗膜剥離の不具合を解消する。
【解決手段】 素材の表面酸化被膜中のMgを規制し、高分子樹脂及びワックスからなる塗装皮膜を設けた樹脂被覆アルミニウム板の、該皮膜層中に樹脂層厚みの70%以下の粒径となるような粒状ワックスが分散しており、かつ表面に同成分のワックスが層状に拡がっている皮膜で、皮膜量が0.1〜3.0g/m、皮膜中の粒状ワックス量が皮膜量の1〜50%、皮膜上の層状ワックス量が皮膜量の10〜50%、かつ層状ワックスの皮膜表面に占める面積が25%以上とする。高分子樹脂がエポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の中の1種または2種以上からなる樹脂であり、かつ、ワックスがポリエチレンワックスであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた成形加工性を有する樹脂被覆金属板に関するもので、特に高速連続プレス加工において、加工性、耐かじり性、塗膜密着性に優れており、缶エンド材、缶ボディ材、電気電子機器部材、自動車用ボディ材や建材などで使用される樹脂被覆金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板及びアルミニウム合金板(以下、総称してアルミニウム板という)は、耐食性が良好で軽量であることから、飲料缶材料、建材、電機及び電子部品を含む家電材並びに自動車材等の用途に広く適用されている。アルミニウム板を前記用途に適用する場合は、通常、アルミニウム板を所定の形状にプレス成形して適用する。アルミニウム板のプレス成形は、プレス機に枚葉状のシートを1枚ずつ供給して行う方法と、プレス機にコイル状のアルミニウム板を連続的に供給して行う方法とがあり、後者は生産性が優れた製造方法として前記用途の事業分野において広く採用されている。また、前記用途のアルミニウム板は、耐食性のより一層の向上、外観の向上及びキズ付きの防止等を目的として、表面に塗料が塗布されて使用されることが多い。
【0003】
しかし、上述の従来技術により製造されたアルミニウム塗装板を適用すると潤滑性が不足するため、強い加工を受ける部分、金型に対する塗膜の焼付きや塗膜剥離などの、いわゆるカジリ現象を生じることがある。これは、プレス成形品の商品価値を著しく低減するため、その抑止が求められる。
【0004】
このような不具合を低減するために塗膜の表面にアウターワックスと呼ばれる潤滑成分をロールコーターまたは静電塗布等の方法により設ける処理が提案されている。特許文献1(特開平06−254490)ではパラフィンワックスを塗布する方法が,また特許文献2(特開平06−055137)ではパラフィやラノリン等を塗布する方法が述べられている。しかしこれらの方法ではアウターワックス塗布のためにさらに1工程を必要とし,製造コストが嵩む。また表面の潤滑性は得られるものの,カジリのように塗膜が削られアルミ面が露出するような場合には潤滑性を失い十分な加工性が得られないという欠点を有する。
【0005】
特許文献3(特開平08−164585),特許文献4(特開2005−343043)や特許文献5(特開2005−74790)には塗膜中にワックス成分を添加したインナーワックスタイプの潤滑皮膜が開示されている。また特許文献6(特開平06−210792)や特許文献7(特開平06−099226)にはワックス粒径の規定が述べられており,基剤樹脂膜厚の1〜10倍のワックスが好適とされている。しかしこれらの方法でもまだカジリに対する抵抗力が小さく加工面に傷が入る場合がある。また基材樹脂厚みに対するワックス粒径が大きかったり,粒状ワックスの先端が皮膜表面から飛び出しているような場合は粒状ワックスが脱落しやすく十分な成形性を確保できない。
【特許文献1】特開平06−254490号公報
【特許文献2】特開平06−055137号公報
【特許文献3】特開平08−164585号公報
【特許文献4】特開2005−343043号公報
【特許文献5】特開2005−074790号公報
【特許文献6】特開平06−210792号公報
【特許文献7】特開平06−099226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、加工時の絞り工程の破断や、かじりによる塗膜剥離の不具合を解消することができるアルミニウム塗膜材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、GDS深さ方向分析において表面酸化被膜中のMgの最大発光強度が2V以下のアルミニウム板表面に、高分子樹脂及びワックスからなる塗装皮膜を設けた樹脂被覆アルミニウム板であって、該皮膜層中に樹脂層厚みの70%以下の粒径となるような粒状ワックスが分散しており、かつ表面に同成分のワックスが層状に拡がっている皮膜で、皮膜量(樹脂とワックスの合計量)が0.1〜3.0g/m、皮膜中の粒状ワックス量が皮膜量の1〜50%、皮膜上の層状ワックス量が皮膜量の10〜50%、かつ層状ワックスの皮膜表面に占める面積が25%以上であることを特徴とする成形加工用樹脂被覆アルミニウム板である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1において、高分子樹脂がエポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の中の1種または2種以上からなる樹脂であり、かつ、ワックスがポリエチレンワックスであることを特徴とする。
【0009】
さらに、請求項3に記載の発明は、 アルミニウム板を連続的にアルカリ洗浄、リンス、酸洗、リンス、水洗、乾燥し、GDS深さ方向分析において表面酸化被膜中のMgの最大発光強度が2V以下としたアルミニウム板上に、樹脂及び粒状ワックスを含む塗料を塗布し、添加したワックスの融点以下で皮膜を加熱乾燥させる一段目の焼付工程、冷却後または連続してワックスの融点以上の温度に再加熱する二段目の焼付工程、更に引き続き室温まで冷却する工程により皮膜層中に樹脂厚みの70%以下の粒径になるような粒状ワックスが分散しており、かつ表面に同成分のワックスが層状に拡がっている皮膜で、皮膜量(樹脂とワックスの合計量)が0.1〜3.0g/m、皮膜中のワックス量が皮膜量の1〜50%、かつ層状ワックスの皮膜表面に占める面積が25%以上であるような皮膜を形成することを特徴とする成形加工用樹脂被覆アルミニウム板の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
表面酸化被膜中のMgの濃度、樹脂塗装皮膜量、樹脂塗装皮膜中の粒状ワックス径・量、
樹脂塗装皮膜表面の層状ワックス量・面積率等を適切に規定することにより、加工性、塗膜密着性ともに優れた成形加工用樹脂被覆アルミニウム板を得ることができ、特に高速連続プレス加工を受ける、缶エンド材、缶ボディ材、電気電子機器部材、自動車用ボディ材や建材などへの適用範囲が広がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において使用したアルミニウム材料は、表面におけるMg濃度を抑えたアルミニウム材料を用いる。
通常、アルミニウム合金板の製造は、材料特性を得るためにアルミニウム合金鋳塊を均質化処理、焼鈍処理等の熱処理を施される。
【0012】
すなわち、一般的にMg含有アルミニウム合金を大気中で熱処理すると、合金中Mgが表面に濃化し、酸素と結合してMgOとなり、それが室温に冷却され、製造後の保管経時により大気中の水分を吸収して、水和物MgO・(HO)ならびに水酸化物Mg(OH)となり、密着性の低下を生じ、過酷な成形においては充分な塗膜密着性が得られず潤滑皮膜層の脱落,それに伴うカジリ発生等の不具合が誘発されやすい。
【0013】
Mg酸化物ならびに水酸化物量を規定することにより、潤滑皮膜との密着性を良好にし,苛酷な成形条件においても潤滑膜が脱落せず良好な成形性を発揮することができる。しかしながら、アルミニウム合金表面にはアルミニウムの水和酸化物、水酸化物も存在し、このためMgO・(HO)ならびにMg(OH)を個別に測定することは困難である。そのため、本発明ではMg量をGDSにより深さ方向のMg発光強度を測定したときのMg最大発光強度で規定することにした。
【0014】
具体的にはGDSにより深さ方向のMg発光強度を測定したときのMg最大発光強度が2Vを超えると塗膜密着性が十分に得られない。よって、表面におけるMg濃度が、GDS深さ方向分析において表面酸化被膜中のMgの最大発光強度が2V以下であることによって、塗膜密着性が良好な樹脂被覆アルミニウム材を得ることができる。なお、Mgの最大発光強度として、アルゴンガスで置換後の圧力600Pa、出力30W、モジュール650、フェーズ350、アノード径4mmφでのMg検出波長384nm、Mg感度750Vの条件にて測定した値である。
【0015】
本発明では、表面におけるMg濃度の抑制方法として、Mgの表面層への析出を最初から抑制する、または表面Mgを取り除く、及び表面皮膜の水和化、酸化を防止するなどが考えられる。一般的に表面Mgを除去する方法として、通常は酸、アルカリ中でのエッチング、酸溶液中でのスマット(不溶解性残渣)除去を適宜選択して行なうことが望ましい。
【0016】
これらのアルカリエッチング処理、酸洗処理としては、通常アルミニウム材の処理法として行われている方法で良く、市販の処理液を使用することも可能である。例えば、アルカリエッチング処理としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどを、酸洗処理としては、硫酸、硝酸、フッ酸、硝酸+フッ酸混合液などを用いることができる。好ましくはアルカリエッチング処理後水洗し、更にその後酸洗し水洗後乾燥することによって、表面Mgを除去する方法が良い。なお、前記の乾燥条件として、表面のMgを抑えるために300℃以下で行うのが好ましい。
【0017】
さらに上記のようなアルミニウム材表面に、高分子樹脂及びポリエチレンワックスからなり,基剤樹脂層中に樹脂層厚みの70%以下の粒径となるような粒状ワックスが分散し、かつ表面に同成分のワックスが層状に拡がっている形態の潤滑皮膜層を設けることにより、カジリ発生を抑制し成形性を大幅に引き上げることができた。
【0018】
また、本発明に適用可能なワックスの形態として、被膜中のワックス量は皮膜量の1〜50%、かつ層状ワックスの被膜表面に占める面積が25%以上にすることがある。
【0019】
ここで皮膜中のワックスはプレス成形加工における耐かじり性に寄与している。皮膜中に分散されているワックス量として、皮膜量の1%未満では、加工時におけるかじり性を満足することはできなく、50%を超えると、皮膜におけるワックスの保持も低下し、かじり性も低下してしまう。
【0020】
皮膜中に分散するワックスの平均粒径は、乾燥時の膜厚との関係で選択し、焼付け後の樹脂層厚みの70%以下にする必要がある。樹脂層の厚みの70%を超えると、成形時において脱落しやすくなり、かじり性を劣化させる。
【0021】
また、本発明では、層状ワックスを形成することにより、絞り性を向上させる。層状ワックスの被覆率を25%以上形成することにより、表面の潤滑性を保持することができる。被覆率が25%未満であると、動摩擦係数の高い樹脂成分の面積が大きくなり、絞り性が低下する。
【0022】
また、皮膜上の層状ワックス量が皮膜量の10〜50%とすることにより、絞り性を向上させる。層状ワックス量が10%未満であると、成形時における潤滑性が不十分となり、絞り性を満足することはできない。ワックス量が50%を超えても、効果が飽和し、不経済となる。
【0023】
また、本発明では、樹脂、皮膜中に分散したワックス及び層状に形成されたワックスによる皮膜量を0.1〜3.0g/mとする。皮膜量が0.1mg/m未満であると、皮膜が薄すぎて、成形時に金型とアルミニウム材が接触し、絞り性、かじり性とも十分に満足できない。一方、皮膜量が3.0g/mを超えると、その効果が飽和し、不経済である。
【0024】
また、本発明で使用する有機樹脂は、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂の1種または2種以上の混合物であるのが好ましい。なお、ベース樹脂中に、反応促進剤、安定剤、分散剤等の一般的な添加剤を、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜添加することは差し支えなく、むしろ好ましい。その中でもエポキシ、ウレタン、アクリルいずれかを含む樹脂を用いることにより、加工性、塗膜密着性ともに優れており、本材料として好ましい。
【0025】
次ぎに、上述の本発明に係る皮膜の形成方法は特定の方法でなくとも良い。塗装材における皮膜形成方法としては、ロールコーター法、ロールスクイズ法、ケミコーター法、エアナイフ法、浸漬法、スプレー法、静電塗装法等の方法が用いられ、乾燥は一般的な加熱法、誘電加熱法などにより行うことができる。これらの方法のうち塗膜の均一性に優れ、生産性が良好なロールコーター法が好ましい。ロールコーター法としては、塗布量管理が容易なグラビアロール方式や、厚塗りに適したナチュラルコート方式や、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。
【0026】
本発明における皮膜を形成するには、塗装における焼付は二段階で行うのが好ましい。
一段階目ではワックスの融点以下で焼付を行うことにより、塗料中に分散させた粒状ワックスが皮膜中に粒状に分散したまま残る。焼付け温度が融点以上ならば樹脂が固まる前にワックスが溶融してしまうので、塗膜中に粒状のワックスが形成されない。温度はワックスの融点に合わせて設定すればよいが、生産性等を考慮すると40〜130℃程度が好ましい。
また時間は樹脂の特性、膜厚に合わせて設定すれば良いが、あまり長時間にすると炉が長くなりコストアップとなる。よって5〜120秒程度が好ましい。
【0027】
二段目の焼付工程ではワックスの融点以上で焼付を行うことが効果的である。融点以下だと表面には層状のワックスが形成され難い。1段目の焼付け工程と同様に温度はワックスの融点に合わせて設定すれば良いが、あまり高温では塗膜内の粒状ワックスのすべてが融解してしまうので、好ましくない。焼付けにおける加熱時間にもよるが200℃以下が好ましい。
【0028】
二段目の焼付工程の時間は生産性を考慮して適宜設定すれば良いが、あまり長時間加熱すると塗膜中の粒状ワックスが全て溶融してしまう。反対に短時間では溶融したワックスが塗膜表面に層状に析出できないので、5〜60秒が好ましい。要は、最終の乾燥樹脂皮膜中で樹脂厚みの70%以下の粒径になるような粒状ワックスが分散し、皮膜表面に層状ワックスが25%以上の面積を占める様に加熱乾燥・再加熱の工程を調整すれば良い。
【0029】
上記2段の焼付工程を経て、その後冷却工程を行うことが好ましい。冷却方法は乾燥後、室温またはそれ以下まで急速に冷却する。乾燥炉から出たまま巻き取ると、板温が高く表面のワックスが溶融したまま巻き取ってしまうために溶融ワックス同士が融着し、ブロッキング等の不具合を生じる。この冷却工程は空冷、水冷どちらでも良い。ただし水冷の場合はその後さらに低温エアブロー等により水分を除去した後に巻き取ることが必要である。
【0030】
上記のような構造をとることにより、加工性、密着性とも良好な成形加工用樹脂被覆アルミニウム板を得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0032】
熱処理を行ったJISA5182−O(0.8mm厚さ)を中エッチングタイプアルカリエッチング工程→水洗工程→酸洗工程→水洗工程→乾燥工程にて処理した材料を供試材とした。処理液は板表面にスプレーにて噴霧させ、乾燥はブローにて行った。これらの工程を経た供試材をGDSにてMgの最大発光強度を測定した。
【0033】
その後、所定の塗料をロールコーターにて塗布し、所定の到達板表面温度(PMT)・時間で1段目の焼付けを行い、更に所定の到達板表面温度(PMT)・時間で1段目の焼付けを行い、所定の皮膜構成をとる樹脂被覆アルミニウム板を作製した。また、比較のために、それぞれの製造方法によって製造された塗装板を作製した。それぞれのサンプルの製造方法及びそれによって得られた塗膜構成を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
GDS測定
GDS装置は、堀場製作所製JY5000RFを用いた。Mgの測定条件は、アルゴンガスで置換後の圧力600Pa、出力30W、モジュール650、フェーズ350、アノード径4mmφでのMg検出波長384nm、Mg感度750Vとした。上記試料から幅50mm×長さ60mmの測定試料を切断した。測定試料の酸化皮膜表面層からスパッタ時間1秒以内でスパッタされるMgの最大ピーク高さをそれぞれ発光強度(V)として測定した。
【0036】
成形性(絞り性)
ポンチ径50mmφ、肩R5mmRの金型にて、BHF600N、成形速度5mm/sで深絞り成形 を行い、限界絞り比(L.D.R.)を求めた。
○ :LDR 2.1を超える
△ :LDR 1.9〜2.1
× :LDR 1.9未満
【0037】
成形性(カジリ性)
試験荷重=500gf,摺動速度=0.6mm/s,鋼球直径=3/16インチ でのバウデン式磨耗試験器にて、50往復目の動摩擦係数(μ)を測定した。なお、50往復未満で、かじりを発生したものについては、×とした
○ :μ ≦ 0.2
△ :μ > 0.2
× :50往復未満で、かじり発生
【0038】
塗膜密着性
180度曲げ試験後、テープ剥離試験にて、塗膜剥離状況を目視にて観察した。
○ :剥離無し
× ;剥離有り
【0039】
結果を表1に示す。
【0040】
表1に示すように本発明例は、いずれも絞り性、かじり性の成形性、塗膜密着性に不具合はみられず、十分に満足している。
【0041】
比較例1〜12は、本発明例1〜12とともに、成形性及び接着性、及ぼすポリエチレンワックスの性状及び種類の影響を示したものである。
【0042】
比較例1ではアルカリ洗浄、リンス、酸洗、リンス、水洗、乾燥し、GDS深さ方向分析において表面酸化被膜中のMgの最大発光強度が2V以下としたアルミニウム素板のため、十分な成形性が得られず絞り性が確保されず、比較例2ではアルカリ洗浄、リンス、酸洗、リンス、水洗、乾燥の工程を省いているため、比較例3ではアルカリ洗浄、リンスしか行っていないため塗膜密着性に問題を生じた。
【0043】
比較例4では塗膜厚が薄いため、成形時に金型とアルミニウム材が接触しかじり性に問題が生じた。比較例5・6では本発明例と異なり焼付作業を一段で行った為、比較例5では皮膜表面に層状ワックスが形成されず、6ではポリエチレンワックスの層状ワックスが形成されたものの皮膜中のポリエチレンワックスの粒径が小さくなりすぎた為、十分な成形性が得られず、その結果、比較例5は絞り性が劣り、比較例6は成形時に金型とアルミニウム材が接触しかじり性が劣った。比較例7では本発明例と同じ二段での焼付作業を行ったものの温度が異なるため、ポリエチレン層状ワックスが形成されず、十分な成形性が得られず絞り性に問題を生じた。
【0044】
比較例8では粒状ポリエチレンワックスの膜厚に対する粒経比が異なり、成形時に金型とアルミニウム材が接触しかじり性に問題を生じた。比較例9では粒状ポリエチレンワックス量が1%より少なく成形時に金型とアルミニウム材が接触しかじり性に問題を生じた。比較例10では粒状ポリエチレンワックス量が50%より多く成形時に金型とアルミニウム材が接触しかじり性に問題を生じた。
【0045】
比較例11では層状ポリエチレンワックス量が20%より少なく十分な成形性が得られず絞り性に問題が生じた。比較例12では表面に占める層状ポリエチレンワックス量が35%より少なく十分な成形性が得られず絞り性に問題が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GDS深さ方向分析において表面酸化被膜中のMgの最大発光強度が2V以下のアルミニウム板表面に、高分子樹脂及びワックスからなる塗装皮膜を設けた樹脂被覆アルミニウム板であって、該皮膜層中に樹脂層厚みの70%以下の粒径となるような粒状ワックスが分散しており、かつ表面に同成分のワックスが層状に拡がっている皮膜で、皮膜量(樹脂とワックスの合計量)が0.1〜3.0g/m、皮膜中の粒状ワックス量が皮膜量の1〜50%、皮膜上の層状ワックス量が皮膜量の10〜50%、かつ層状ワックスの皮膜表面に占める面積が25%以上であることを特徴とする成形加工用樹脂被覆アルミニウム板。
【請求項2】
高分子樹脂がエポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の中の1種または2種以上からなる樹脂であり、かつ、ワックスがポリエチレンワックスであることを特徴とする請求項1記載の成型加工用樹脂被覆アルミニウム板。
【請求項3】
アルミニウム板を連続的にアルカリ洗浄、リンス、酸洗、リンス、水洗、乾燥し、GDS深さ方向分析において表面酸化被膜中のMgの最大発光強度が2V以下としたアルミニウム板上に、樹脂及び粒状ワックスを含む塗料を塗布し、添加したワックスの融点以下で皮膜を加熱乾燥させる一段目の焼付工程、冷却後または連続してワックスの融点以上の温度に再加熱する二段目の焼付工程、更に引き続き室温まで冷却する工程により皮膜層中に樹脂厚みの70%以下の粒径になるような粒状ワックスが分散しており、かつ表面に同成分のワックスが層状に拡がっている皮膜で、皮膜量(樹脂とワックスの合計量)が0.1〜3.0g/m、皮膜中のワックス量が皮膜量の1〜50%、かつ層状ワックスの皮膜表面に占める面積が25%以上であるような皮膜を形成することを特徴とする成形加工用樹脂被覆アルミニウム板の製造方法。

【公開番号】特開2008−207423(P2008−207423A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45186(P2007−45186)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】