説明

成形同時転写用金型及び成形同時転写品の製造方法

【課題】成形同時転写品の成形品質が低下し難くする。
【解決手段】型締めにより転写シート1との間で樹脂充填用のキャビティを形成する第1金型A1と、転写シートが当接する凹状のキャビティ面C2、型締時に第1金型との間で転写シートを挟持する把持部8を備えた第2金型A2と、型締時及び樹脂注入時に、転写シートをキャビティ面の側に吸引する吸引機構10とを備え、型締時の吸引に際し、転写シートのうち、キャビティ面に対向する対向領域1aと把持部8により挟持される把持領域1bとの境界部分1cが、凹状のキャビティ面の縁部で過度に曲がるのを防止するよう、把持領域を縁部に対して第1金型の側に位置させる曲げ緩和部11を第2金型の把持部に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写シートを挟持しつつ樹脂注入用のキャビティを形成可能な一対の金型を備えた成形同時転写用金型、及び、第1金型と第2金型とで転写シートを挟持しつつキャビティを形成し、前記第1金型と前記転写シートとの間に樹脂を注入して成形した成形同時転写品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の上記成形同時転写用金型及び成形同時転写品の製造方法では、図9に示すように、転写層14が基体フィルム15に積層された転写シート1の基体フィルム15の側が当接する凹状のキャビティ面C、及び、当該キャビティ面Cの周囲にあって型締時に第1金型(図示せず)との間で転写シート1を挟持する扁平な挟持面8aを有する把持部8を備えた第2金型A2と、型締時及び樹脂注入時に、転写シート1をキャビティ面Cの側に吸引する吸引通路10aを有する吸引機構10とを備え、図9(a)に示すように第2金型A2の挟持面8aと平行に配置された転写シート1が、図9(b)に示すようにクランプ枠9aで第2金型A2の挟持面8aにクランプされた後、図9(c)に示すように第2金型A2のキャビティ面Cの側に吸引される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−230531号公報(図2,図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、図9(c)に示すように転写シート1が第2金型A2のキャビティ面Cの側に吸引されるにともなって、転写シート1のうちの、キャビティ面Cに対向する対向領域1aと当該対向領域1aの周辺にあって把持部8により挟持される把持領域1bとの境界部分1cが、凹状のキャビティ面Cの縁部に押し付けられ、当該境界部分1cが縁部に沿って大きな曲率で屈曲される。
境界部分1cが縁部に沿って大きな曲率で屈曲されると、境界部分1cが破れたり、境界部分1cの転写層14が基体フィルム15から剥離するなどの転写シート1の破損が起こり易くなり、成形同時転写品の成形品質が低下する。
特に、成形同時転写品の表面を硬くするための硬質の転写層や成形同時転写品の表面に耐磨耗性を付与するために厚さが厚い転写層などの曲げ剛性が高い転写層が設けられている転写シートを使用する場合は、一層、転写シートの破損が起こり易くなり、成形同時転写品の成形品質が低下するおそれが高くなる。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、成形同時転写品の成形品質が低下し難い成形同時転写用金型及び成形同時転写品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による成形同時転写用金型の第1特徴構成は、転写シートを挟持しつつ樹脂注入用のキャビティを形成可能な一対の金型を備えた成形同時転写用金型であって、
型締めにより、前記転写シートとの間で樹脂充填用のキャビティを形成する第1金型と、前記転写シートが当接する凹状のキャビティ面、及び、当該キャビティ面の周囲にあって型締時に前記第1金型との間で転写シートを挟持する把持部を備えた第2金型と、前記型締時及び前記樹脂注入時に、前記転写シートを前記キャビティ面の側に吸引する吸引機構とを備え、
前記型締時の吸引に際し、前記転写シートのうち、前記キャビティ面に対向する対向領域と当該対向領域の周辺にあって前記把持部により挟持される把持領域との境界部分が、前記凹状のキャビティ面の縁部で過度に曲がるのを防止するよう、前記把持領域を前記縁部に対して前記第1金型の側に位置させる曲げ緩和部を前記第2金型の把持部に設けてある点にある。
【0006】
本構成の成形同時転写用金型であれば、型締時の吸引に際し、転写シートのうち、キャビティ面に対向する対向領域と当該対向領域の周辺にあって把持部により挟持される把持領域との境界部分が、凹状のキャビティ面の縁部で過度に曲がるのを防止するよう、把持領域を縁部に対して第1金型の側に位置させる曲げ緩和部を第2金型の把持部に設けてある。
したがって、転写シートが第2金型のキャビティ面の側に吸引されるにともなって境界部分が凹状のキャビティ面の縁部に強く押し付けられるおそれが少なくなり、当該境界部分が縁部に沿って大きな曲率で屈曲されるおそれが少ない。
よって、転写シートの破損が起こり難くなり、成形同時転写品の成形品質が低下し難い。
特に、曲げ剛性が高い転写層が設けられている転写シートを使用する場合でも、成形同時転写品の成形品質が低下し難い。
【0007】
本発明による成形同時転写用金型の第2特徴構成は、前記曲げ緩和部が、前記縁部に対して前記第1金型の側に突出した突出部である点にある。
【0008】
本構成であれば、把持領域を突出部で縁部に対して第1金型の側に位置させて、境界部分が凹状のキャビティ面の縁部で過度に曲がるのを防止することができる。
【0009】
本発明による成形同時転写用金型の第3特徴構成は、前記突出部が、前記把持部に対して前記第1金型の側に出退可能に構成してある点にある。
【0010】
本構成であれば、把持領域を縁部に対して第1金型の側に位置させている突出部を、必要に応じて第1金型の側に引退させることができる。
したがって、第1金型と第2金型との型締めを所望のタイミングで開始させ易い。
【0011】
本発明による成形同時転写用金型の第4特徴構成は、前記突出部の引退速度を調節可能に構成してある点にある。
【0012】
転写シートの性状はその温度に応じて変化するので、転写シートの温度に応じて境界部分の曲率も変化する。
転写シートの温度が低くて境界部分の曲率が小さいときに突出部の引退速度を速くしてあると、転写シートの破損が起こり易い。
また、転写シートの温度が高くなって境界部分の曲率が大きくなっており、突出部の引退速度を速くしても境界部分の破損が起こり難くなっているときでも突出部の引退速度を遅くしてあると、成形に要する時間が長くなって能率良く成形することができない。
本構成であれば、このような場合に、転写シートの破損が生じないように、また、成形に要する時間が長くならないように、突出部の引退速度を調節することができる。
【0013】
本発明による成形同時転写用金型の第5特徴構成は、前記突出部が、前記転写シートを加熱する温度調節機に接続してある点にある。
【0014】
本構成であれば、把持領域を縁部に対して第1金型の側に移動させるときや、第1金型の側に位置させているときに、転写シートを能率良く加熱して軟化させることができ、転写シートの破損が一層起こり難い。
【0015】
本発明による成形同時転写品の製造方法の第1特徴構成は、第1金型と第2金型とで転写シートを挟持しつつキャビティを形成し、前記第1金型と前記転写シートとの間に樹脂を注入する成形同時転写品の製造方法であって、
前記第2金型に、注入した樹脂によって前記転写シートを押し付ける凹状のキャビティ面と、当該キャビティ面の周囲にあって前記第1金型との型締めの際に前記転写シートを挟持する把持部とを備えると共に、前記把持部に、前記キャビティ面の縁部よりも前記第1金型の側に偏位した突出部を備えておき、
前記転写シートが有する、前記キャビティ面に対向する対向領域と、当該対向領域の周囲であって前記第1金型と前記第2金型とで挟持される把持領域とのうち、前記把持領域を前記突出部で受け止めつつ前記転写シートを前記第2金型の上に載置する載置工程と、
前記第2金型に設けた吸引機構によって、前記転写シートを前記第2金型の側に吸引する吸引工程と、
前記転写シートのうち、前記対向領域と前記把持領域との境界部分の曲がり状態を調節しつつ、前記第1金型と第2金型とを型締めする型締工程と、
前記転写シートと前記第1金型との間に樹脂を注入し、前記転写シートを前記キャビティ面に押付けて樹脂成形を行う注入工程とを有する点にある。
【0016】
本構成の成形同時転写品の製造方法であれば、載置工程において、転写シートの把持領域を突出部で受け止めてキャビティ面の縁部よりも第1金型の側に偏位した位置に位置させておくので、吸引工程において、転写シートが第2金型のキャビティ面の側に吸引されるにともなって境界部分が凹状のキャビティ面の縁部に強く押し付けられるおそれが少なくなり、当該境界部分が縁部に沿って大きな曲率で屈曲されるおそれが少ない。
したがって、転写シートの破損が起こり難くなり、成形同時転写品の成形品質が低下し難い。
特に、曲げ剛性が高い転写層が設けられている転写シートを使用する場合でも、成形同時転写品の成形品質が低下し難い。
また、転写シートの性状はその温度に応じて変化するので、転写シートの温度に応じて境界部分の曲率も変化する。
転写シートの温度が低くて境界部分の曲率が小さいときに、第1金型と第2金型とを高速で互いに近接させて型締めを行うと、境界部分の破損が起こり易い。
転写シートの温度が高くなって境界部分の曲率が大きくなっており、第1金型と第2金型とを高速で互いに近接させて型締めを行っても境界部分の破損が起こり難くなっているときに、第1金型と第2金型とを低速で互いに近接させて型締めを行うと、成形に要する時間が長くなって能率良く成形することができない。
本構成であれば、型締工程において、転写シートのうち、対向領域と把持領域との境界部分の曲がり状態を調節しつつ型締めするので、このような場合に、転写シートの破損が生じないように、また、成形に要する時間が長くならないように、型締めすることができる。
【0017】
本発明による成形同時転写品の製造方法の第2特徴構成は、前記突出部を前記把持部に対して出退可能に構成しておき、前記第2金型に対する前記第1金型の型締動作に連動して前記突出部を引退させる点にある。
【0018】
本構成であれば、第2金型に対する第1金型の型締動作に連動して突出部を引退させるので、型締めを所望のタイミングで開始させ易い。
【0019】
本発明による成形同時転写品の製造方法の第3特徴構成は、前記載置工程において、前記突出部を加熱しつつ行う点にある。
【0020】
本構成であれば、突出部で受け止めた転写シートをその突出部で加熱して、転写シートに柔軟性を付与することができる。
したがって、転写シートの破損が一層生じ難いと共に、転写シートをキャビティ面に沿うように吸引し易くなり、成形同時転写品の成形品質が一層低下し難い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置の転写シート供給工程を示す要部断面図である。
【図2】成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置の転写シート載置工程を示す要部断面図である。
【図3】成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置の転写シートクランプ工程を示す要部断面図である。
【図4】成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置の突出部材引退工程を示す要部断面図である。
【図5】成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置の型締工程を示す要部断面図である。
【図6】成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置の溶融樹脂注入工程を示す要部断面図である。
【図7】成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置の成形同時転写品取出工程を示す要部断面図である。
【図8】第2金型の要部斜視図である。
【図9】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
図1〜図8は、本発明による成形同時転写用金型を備えた成形同時転写装置を示す。
【0023】
成形同時転写装置は、成形同時転写用金型Aと、成形同時転写用金型Aに転写シート1を送り込む転写シート送り装置2と、キャビティ3に溶融樹脂4を射出供給する射出装置5と、成形同時転写用金型Aを開閉させる型締め装置6とを備えている。
【0024】
成形同時転写用金型Aは、図5に示すように転写シート1を挟持しつつ樹脂注入用のキャビティ3を形成可能な一対の金型A1,A2を備えている。
つまり、図7,図8に示す成形同時転写品Bの裏面を成形する凸状の第1キャビティ面C1を備えた可動の第1金型A1と、転写シート1が当接して成形同時転写品Bの意匠面(表面)を成形する凹状の第2キャビティ面C2を備えた固定の第2金型A2とを備えている。
【0025】
第1金型A1は、第2金型A2との型締めにより転写シート1と第1キャビティ面C1との間で樹脂充填用のキャビティ3を形成し、射出装置5によりキャビティ3に溶融樹脂4を射出するための樹脂注入路5aと、成形同時転写品Bを第1キャビティ面C1から押し出すための出退自在な押し出しピン7とを備えている。
【0026】
第2金型A2は、図8にも示すように、第2キャビティ面C2の周囲にあって型締時に第1金型A1との間で転写シート1を挟持する扁平な挟持面8aを有する把持部8と、転写シート1を第2キャビティ面C2に対して位置決め状態で保持するクランプ機構9と、転写シート1を第2キャビティ面C2の側に吸引する吸引機構10と、曲げ緩和部11とを備えている。
【0027】
クランプ機構9は、図1,図2,図7に示すように、第2金型A2から離間させて転写シート1の移動を許容する離間位置と、図3〜図6,図8に示すように、転写シート1を第2金型A2の側に押圧して第2キャビティ面C2に対して位置決め状態で保持する保持位置とに、枠状のクランプ部材9aを駆動移動自在に設けてある。
吸引機構10は、第2金型A2に形成してある吸引通路10aを例えば0.08Mpa以下に減圧するための真空ポンプなどを接続して構成されている。
【0028】
曲げ緩和部11は、型締時の吸引機構10による吸引に際し、転写シート1のうち、第2キャビティ面C2に対向する対向領域1aと当該対向領域1aの周辺にあって把持部8により挟持される把持領域1bとの境界部分1c、つまり、第2キャビティ面C2の縁部に対向する対向部分が、その縁部で過度に曲がるのを防止するように、把持領域1bを縁部に対して第1金型A1の側に位置させる。
【0029】
すなわち、転写シート1の把持領域1bが第2キャビティ面C2の縁部まで挟持面8aに沿った状態のまま、転写シート1の対向領域1aが、吸引機構10による吸引又は溶融樹脂4の射出により、転写シート1の境界部分1cが破損する程度に第2キャビティ面C2の側に吸引されて過度に曲がることを、転写シート1の把持領域1bを縁部に対して第1金型A1の側に位置させることにより防止する。
【0030】
曲げ緩和部11は、先端が第2キャビティ面C2の縁部よりも第1金型A1の側に偏位した位置に突出する突出部12で構成してある。
具体的には、第2金型A2の把持部8に、当該把持部8に対して第1金型A1の側に出退可能に構成してある突出部材を設けて構成してあり、この突出部材12を縁部に対して第1金型A1の側に突出させて、把持領域1bを縁部に対して第1金型A1の側に位置させるように構成してある。
【0031】
突出部材12は、熱伝導率が大きい金属で転写シート1の全幅に亘る長さの板状に形成され、第2金型A2に形成してあるシリンダ部13に空気圧シリンダ又は油圧シリンダを接続して、空気圧シリンダ又は油圧シリンダの作動で板面に沿った方向で第1金型A1の側に突出し、第2金型A2の内部に引退する。
突出部剤12の引退速度は、空気圧シリンダ又は油圧シリンダの作動圧力を調節することにより調節することができる。
【0032】
突出部材12の先端面は、突出方向に脹らんだ湾曲面に形成されており、転写シート1との大きい接触面積を確保することができるので、突出部材12からの転写シート1への伝熱面積を大きくすることができると共に、転写シート1との接触圧力を低下させて、突出部材12に接触している箇所における転写シート1の急激な曲げ変形を防止することができる。
尚、突出部材12は、複数の軸部材であっても、第2キャビティ面C2を囲むように配置された枠状の部材であってもよい。
【0033】
転写シート1は、剥離層を介して、転写層14を基体フィルム15に積層して構成してある。転写シート送り装置2は、基体フィルム15の側が第2キャビティ面C2に対向するように、転写シート1を第1金型A1と第2金型A2との間に送り込む。
したがって、突出部材12は、基体フィルム15に接触して把持領域1bを第1金型A1の側に位置させる。
【0034】
第1金型A1及び第2金型A2の夫々は、溶融樹脂4の射出時にその全体が例えば120℃になるように加熱し、溶融樹脂4の射出後にその全体が例えば50℃〜60℃になるように冷却するための図外の温調回路を備えている。
【0035】
型締め装置6は、第1金型A1を、図5,図6に示すように転写シート1を挟んで第2金型A2の把持面8aに密着するように型締めされる型締め位置と、図1〜図4,図7に示すように第2金型A2から離間している型開き位置とに亘って往復駆動移動させる。
【0036】
射出装置5は、第1金型A1と第2金型A2との型締めが完了すると同時に、キャビティ3に対して例えば260℃〜300℃程度の溶融樹脂4を射出する。
吸引機構10は、溶融樹脂4を射出し終えると吸引を停止し、成形同時転写品Bを取り出すと吸引を再開する。
【0037】
温調回路は、溶融樹脂4を射出し終えると第1金型A1と第2金型A2を冷却し、成形同時転写品Bを成形同時転写用金型Aから取り出すと第1金型A1と第2金型A2の加熱を再開する。
転写シート1は、温調回路による第1金型A1と第2金型A2の加熱により間接的に加熱される。したがって、第1金型A1と第2金型A2とが、転写シート1を加熱する温度調節機として機能する。
【0038】
突出部材12は、温調回路による第2金型A2の加熱により間接的に加熱される。したがって、突出部材12が、転写シート1を加熱する温度調節機としての第2金型A2に接続されている。
【0039】
上記成形同時転写装置を使用する本発明による成形同時転写品Bの製造方法(以下、単に製造方法という。)を図1〜図7に基づいて説明する。
本発明による製造方法は、第1金型A1と第2金型A2とで転写シート1を挟持しつつキャビティ3を形成し、第1金型A1と転写シート1の転写層14との間に溶融樹脂4を注入する。
【0040】
すなわち、図1に示す転写シート1の供給工程と、図2に示す転写シート1の載置工程と、図3に示す転写シート1のクランプ工程と、図4に示す突出部材12の引退工程と、図5に示す型締工程と、図6に示す溶融樹脂4の注入工程と、図7に示す成形同時転写品Bの取出工程とを有する。
【0041】
吸引機構10によって転写シート1を第2金型A2の側に吸引する吸引工程は、図2に示す転写シート1の載置工程の開始と同時に実質的に開始され、図7に示す成形同時転写品の取出工程において第1金型A1を成形同時転写品Bと共に第2金型A2の側から離間させると同時に実質的に終了する。
【0042】
図1に示す転写シート1の供給工程では、突出部材12が第2金型A2の内部に引退し、かつ、クランプ部材9aが離間位置に移動している状態で、転写シート送り装置2により、基体フィルム15の側が第2キャビティ面C2に対向するように転写シート1を第1金型A1と第2金型A2との間に送り込む。
【0043】
図2に示す転写シート1の載置工程では、突出部材12が第1金型A1の側に突出している状態で、吸引機構10により転写シート1を吸引しながら、転写シート1の把持領域1bを突出部材12の先端面で受け止めつつ当該転写シート1を第2金型A2の上に載置する。
【0044】
前述のように、温調回路は、成形同時転写品Bを成形同時転写用金型Aから取り出すと第1金型A1と第2金型A2の加熱を再開するので、把持領域1bの突出部材12による受け止めは、当該突出部材12を加熱しつつ行われる。
【0045】
転写シート1の把持領域1bを突出部材12で受け止めるにともなって、突出部材12からの伝導熱により転写シート1の加熱も開始される。
尚、突出部材12とは別に、転写シート1の加熱具(図示せず)を第1金型A1と第2金型A2との間に入り込ませて、突出部材12からの伝導熱に加えて、その加熱具の熱で転写シート1を加熱してもよい。
【0046】
図3に示す転写シート1のクランプ工程では、吸引機構10により転写シート1を吸引しながら、クランプ部材9aを保持位置に移動させて、転写シート1を第2キャビティ面C2に対して位置決め状態で保持する。
【0047】
図4に示す突出部材12の引退工程では、吸引機構10により転写シート1を吸引しながら、図5に示す型締工程における第2金型A2に対する第1金型A1の型締動作に連動して、突出部材12を第2金型A2の内部に引退させる。
突出部材12の引退速度は、対向領域1aと把持領域1bとの境界部分1cの曲がり状態に応じて調節してもよい。
【0048】
図5に示す型締工程では、吸引機構10により転写シート1を吸引しながら、転写シート1のうちの境界部分1cの曲がり状態を調節しつつ、第1金型A1と第2金型A2とを型締めする。
【0049】
つまり、型締工程の前半においては、転写シート1の比較的温度が低くて境界部分1cの曲率が小さいので、境界部分1cの破損が起こらないように、第1金型A1を第2金型A2の側に低速で近接させ、型締工程の後半においては、転写シート1の温度が比較的高くなって境界部分1cの曲率が大きくなっているので、第1金型A1を第2金型A2の側に高速で近接させて型締めを行う。
【0050】
図5に示す型締工程は、転写シート1が十分に加熱されるように、図4に示すように突出部材12を第2金型A2の内部に引退させた後、設定時間、例えば5秒経過後に開始される。
【0051】
図6に示す溶融樹脂4の注入工程では、吸引機構10により転写シート1を吸引しながら、射出装置5により転写シート1と第1金型A1との間に溶融樹脂4を注入する。
転写シート1は、注入された溶融樹脂4の熱により更に加熱されると共に、溶融樹脂4の注入圧力で第2キャビティ面C2に押し付けられ、成形同時転写品Bが樹脂成形される。
【0052】
図7に示す成形同時転写品の取出工程では、吸引機構10により転写シート1を吸引しながら、第1金型A1を成形同時転写品Bと共に第2金型A2の側から離間させて転写層14を基体フィルム15から剥離させる。
【0053】
転写層14が基体フィルム15から剥離した成形同時転写品Bは、第1金型A1と第2金型A2との間に入り込ませた吸引式の取り出し具16で吸引保持すると共に押し出しピン7で第1キャビティ面C1から押し出して、成形同時転写用金型Aから取り出す。
【0054】
尚、図7に示すように、第1金型A1を第2金型A2の側から離間させると同時に、新しい転写フイルム部分を第1金型A1と第2金型A2との間に送り込んで、次の成形同時転写品Bの成形動作を開始する。
【0055】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による成形同時転写用金型及び成形同時転写品の製造方法は、意匠面を形成するための転写層を積層してある転写シート以外の、例えば、成形同時転写品の表面を硬くするための硬質の転写層や成形同時転写品の表面に耐磨耗性を付与するために厚さが厚い転写層が剥離層を介して基材フィルムに積層してある転写シートを使用して、成形同時転写品を成形してもよい。
2.本発明による成形同時転写用金型及び成形同時転写品の製造方法は、曲げ緩和部を構成する突出部が、縁部に対して第1金型の側に突出するように、第2金型に一体に備えられていてもよい。
3.本発明による成形同時転写用金型及び成形同時転写品の製造方法は、曲げ緩和部を構成する突出部を吸引通路を備えた筒状に形成して、その吸引通路を通して転写シートを吸引してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 転写シート
1a 対向領域
1b 把持領域
1c 境界部分
3 キャビティ
4 樹脂
8 把持部
10 吸引機構
11 曲げ緩和部
12 突出部
A1 第1金型
A2 第2金型
C2 凹状のキャビティ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写シートを挟持しつつ樹脂注入用のキャビティを形成可能な一対の金型を備えた成形同時転写用金型であって、
型締めにより、前記転写シートとの間で樹脂充填用のキャビティを形成する第1金型と、
前記転写シートが当接する凹状のキャビティ面、及び、当該キャビティ面の周囲にあって型締時に前記第1金型との間で転写シートを挟持する把持部を備えた第2金型と、
前記型締時及び前記樹脂注入時に、前記転写シートを前記キャビティ面の側に吸引する吸引機構とを備え、
前記型締時の吸引に際し、前記転写シートのうち、前記キャビティ面に対向する対向領域と当該対向領域の周辺にあって前記把持部により挟持される把持領域との境界部分が、前記凹状のキャビティ面の縁部で過度に曲がるのを防止するよう、前記把持領域を前記縁部に対して前記第1金型の側に位置させる曲げ緩和部を前記第2金型の把持部に設けてある成形同時転写用金型。
【請求項2】
前記曲げ緩和部が、前記縁部に対して前記第1金型の側に突出した突出部である請求項1に記載の成形同時転写用金型。
【請求項3】
前記突出部が、前記把持部に対して前記第1金型の側に出退可能に構成してある請求項2に記載の成形同時転写用金型。
【請求項4】
前記突出部の引退速度を調節可能に構成してある請求項3に記載の成形同時転写用金型。
【請求項5】
前記突出部が、前記転写シートを加熱する温度調節機に接続してある請求項3又は4に記載の成形同時転写用金型。
【請求項6】
第1金型と第2金型とで転写シートを挟持しつつキャビティを形成し、前記第1金型と前記転写シートとの間に樹脂を注入する成形同時転写品の製造方法であって、
前記第2金型に、注入した樹脂によって前記転写シートを押し付ける凹状のキャビティ面と、当該キャビティ面の周囲にあって前記第1金型との型締めの際に前記転写シートを挟持する把持部とを備えると共に、前記把持部に、前記キャビティ面の縁部よりも前記第1金型の側に偏位した突出部を備えておき、
前記転写シートが有する、前記キャビティ面に対向する対向領域と、当該対向領域の周囲であって前記第1金型と前記第2金型とで挟持される把持領域とのうち、前記把持領域を前記突出部で受け止めつつ前記転写シートを前記第2金型の上に載置する載置工程と、
前記第2金型に設けた吸引機構によって、前記転写シートを前記第2金型の側に吸引する吸引工程と、
前記転写シートのうち、前記対向領域と前記把持領域との境界部分の曲がり状態を調節しつつ、前記第1金型と第2金型とを型締めする型締工程と、
前記転写シートと前記第1金型との間に樹脂を注入し、前記転写シートを前記キャビティ面に押付けて樹脂成形を行う注入工程とを有する成形同時転写品の製造方法。
【請求項7】
前記突出部を前記把持部に対して出退可能に構成しておき、前記第2金型に対する前記第1金型の型締動作に連動して前記突出部を引退させる請求項6に記載の成形同時転写品の製造方法。
【請求項8】
前記載置工程において、前記突出部を加熱しつつ行う請求項6または7に記載の成形同時転写品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−104961(P2011−104961A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265404(P2009−265404)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】