説明

成形品及びその製造方法

【課題】導電材料層を含む基材に折れ曲がり部が設けられている成形品を安価に製造し得る成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】成形品の製造方法は、(a)透明なプラスチック材料から成る基材11の表面に、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法に基づき、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)12を形成した後、(b)導電材料層12を含む基材の部分に折れ曲がり部13を設ける工程から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタッチパネル等に代表されるディスプレイ上の接触型センサーは、導電性フィルムから構成されている。ここで、導電性フィルムは、通常、可撓性を有する透明な高分子フィルム上に、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛等の金属酸化物から成る透明導電材料層をスパッタリング法や真空蒸着法等に基づき低温にて成膜することで作製される。ところで、このような金属酸化物から成る透明導電材料層に極度な曲げ応力、伸縮応力が加えられた場合、透明導電材料層にクラックが入り、導電特性の劣化の原因となる。それ故、基本的には、導電性フィルムは平面状態で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−321942
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然るに、近年、使用者が接触型センサーに接触したことを使用者に確実に認識させるために、接触型センサーを構成する導電性フィルムに対して凸部を設けることへの強い要請がある(例えば、特開2005−321942参照)。このような導電性フィルムに凸部を設けるためには、即ち、導電性フィルムに立体的な形状を付与するためには、例えば、熱プレス装置を用いて導電性フィルムを加熱及び/又は加圧すればよい。しかしながら、このような操作によっては、上述したとおり、透明導電材料層にクラックが入り、導電特性が劣化するといった問題が生じる。予め立体的に成形された高分子フィルム上に、後から透明導電材料層を形成することは、技術的に困難が伴うし、導電性フィルムの製造に手間がかかり、安価に製造することができないといった問題がある。また、折れ曲がり部あるいはその近傍において均質な透明導電材料層を形成することは、屡々、困難である。
【0005】
従って、本発明の目的は、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部が設けられている成形品を安価に製造し得る成形品の製造方法、及び、係る成形品の製造方法によって得られる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明の成形品の製造方法は、
(a)透明なプラスチック材料から成る基材の表面に、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法に基づき、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)を形成した後、
(b)導電材料層を含む基材の部分に折れ曲がり部を設ける、
各工程から成る。
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の成形品は、
(A)透明なプラスチック材料から成る基材、及び、
(B)基材の表面に形成された、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)、
から成り、
折れ曲がり部が形成されており、
折れ曲がり部を跨って導電材料層が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の成形品あるいはその製造方法にあっては、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)が、透明なプラスチック材料から成る基材の表面に形成されているので、折れ曲がり部を跨って導電材料層が形成されているにも拘わらず、導電材料層にクラック等が発生し難い。それ故、導電材料層に高い信頼性を有し、様々な形状、曲面を持つ成形品(透明導電成形品)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1及び実施例2の成形品(タッチパネル)の模式的な一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本発明の成形品及びその製造方法、全般に関する説明
2.実施例1(本発明の成形品及びその製造方法)
3.実施例2(実施例1の変形)、その他
【0011】
[本発明の成形品及びその製造方法、全般に関する説明]
本発明の成形品の製造方法にあっては、前記工程(b)において、導電材料層を含む基材の部分(具体的には、少なくとも折れ曲がり部を形成すべき部分であり、以下においても同様)を加熱することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部を設ける形態とすることができる。そして、このような形態を含む本発明の成形品の製造方法にあっては、前記工程(b)において、導電材料層を含む基材の部分を加圧することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部を設ける形態とすることができる。これらの形態を実行するためには、例えば、熱プレス装置を使用して、導電材料層を含む基材の部分を加熱及び/又は加圧すればよい。加熱温度、加熱時間、加圧時の圧力、加圧時間は、各種の試験を行い、決定すればよい。
【0012】
また、本発明の成形品にあっては、導電材料層を含む基材の部分を加熱することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部が設けられている形態とすることができる。そして、このような形態を含む本発明の成形品にあっては、導電材料層を含む基材の部分を加圧することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部が設けられている形態とすることができる。
【0013】
上記の好ましい形態を含む本発明の成形品あるいはその製造方法において、導電材料は、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーから成る構成とすることができるが、これに限定するものではなく、その他、例えば、金ナノワイヤーや銀ナノワイヤー、銅ナノワイヤー、ニッケルナノワイヤー、コバルトナノワイヤー、錫ナノワイヤー、酸化亜鉛ナノワイヤー等のナノスケールの針状の導電材料(一次元導電材料)、リソグラフィ技術により0.1μm〜5μmの幅(径)に加工された細線を挙げることができるし、これらを混合して使用してもよい。このような材料から導電材料層を構成することで、導電材料層に透明性を付与することができる。ここで、針状の導電材料とは、例えば、導電材料のアスペクト比[=(導電材料の平均長さ)/(導電材料の平均断面積/π)0.5]の値が、例えば、1×102乃至1×105であることを意味する。
【0014】
sp2結合を有する炭素原子は、通常、6個の炭素原子から六員環を構成し、通常、これらの六員環の集まりがカーボングラファイトシートを構成する。このカーボングラファイトシートが巻かれたチューブ構造を有するもの、具体的には、規則的に配列された炭素原子の本質的に連続的な多数層から成る外側領域と、内部中空領域とを有し、各層と中空領域とがフィブリルの円柱軸の周囲に実質的に同心に配置されている本質的に円柱状のフィブリルが、カーボンナノチューブである。一方、カーボングラファイトシートが巻かれておらず、カーボングラファイトのフラグメントが重なってファイバー状になったものが、カーボンナノファイバーである。カーボンナノチューブとして、1層のカーボングラファイトシートが巻かれた構造を有する単層カーボンナノチューブ、あるいは、2層以上のカーボングラファイトシートが巻かれた構造を有する所謂カーボンナノチューブを挙げることができる。カーボンナノチューブは、アーク法、フィジカルバイブレーション法、レーザーアブレーション法、CVD法、DIPS法、HiPCO法、スーパーグロースCVD法といった周知の製造方法にて得ることができる。カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーとして、直径1×10-9m乃至1×10-7m、好ましくは直径1×10-9m乃至1×10-8nm、長さ5×10-8m乃至1×10-4m、好ましくは1×10-7m乃至2×10-5mのものを用いることが望ましい。
【0015】
更には、上記の好ましい形態、構成を含む本発明の成形品あるいはその製造方法において、基材は、高分子フィルム(プラスチックフィルム)又は高分子シート(プラスチックシート)から成る構成とすることができる。具体的には、基材(高分子フィルム、高分子シート)を構成する高分子として、シクロオレフィンポリマーやポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレートといったポリエステル樹脂等の透明性が高い樹脂を挙げることができるが、中でも耐熱性、透明性に優れたポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることがより好ましい。特に全光線透過率が80%以上の高分子フィルムあるいは高分子シートを用いることが好ましい。一般に、高分子フィルムと高分子シートとの区別は明確ではなく、本発明においては、厚さが0.5mm未満のもの(例えば、厚さ1μm以上、0.5mm未満のもの)を高分子フィルムと称し、厚さが0.5mm以上のもの(例えば、厚さが0.5mm以上、2mm以下のもの)を高分子シートと称する。
【0016】
更には、上記の好ましい形態、構成を含む本発明の成形品あるいはその製造方法においては、補助導電材料層が更に形成されていてもよい。補助導電材料層は、透明導電材料が二次元的に連続した層状の形態を有していてもよいし、例えば、格子状やグリッド状、メッシュ状、網目状等、一種の線分の集合体といった形態を有していてもよい。ここで、補助導電材料層を構成する材料として、インジウム−錫酸化物(ITO,Indium Tin Oxide,SnドープのIn23、結晶性ITO及びアモルファスITO、銀添加ITOを含む)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO,Indium Zinc Oxide)、In23系材料(FドープのIn23であるIFOを含む)、酸化錫系材料(SbドープSnO2であるATOやFドープのSnO2であるFTOを含む)、酸化亜鉛系材料(ZnO、AlドープのZnOやBドープのZnO、GaドープのZnOを含む)、Sb25系材料、In4Sn312、InGaZnO、酸化チタン(TiO2)、スピネル型酸化物、YbFe24構造を有する酸化物等の導電性金属酸化物を例示することができる。あるいは又、不透明な金属や合金から構成された電極とすることもできる。具体的には、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)等の金属;これらの金属元素を含む合金(例えばMoW)あるいは化合物(例えばTiN等の窒化物や、WSi2、MoSi2、TiSi2、TaSi2等のシリサイド);シリコン(Si)等の半導体;ダイヤモンド等の炭素薄膜を例示することができる。補助導電材料層は、単層構成であってもよいし、多層構成であってもよい。補助導電材料層の形成方法として、例えば、電子ビーム蒸着法や熱フィラメント蒸着法といった蒸着法、スパッタリング法、CVD法やイオンプレーティング法;スクリーン印刷法;メッキ法(電気メッキ法や無電解メッキ法);リフトオフ法;レーザアブレーション法;ゾル−ゲル法等を挙げることができる。基材、導電材料層及び補助導電材料層の積層順は、本質的に任意であり、基材を基準としたとき、
[A]基材、導電材料層、補助導電材料層の順
[B]基材、補助導電材料層、導電材料層の順
[C]補助導電材料層、基材、導電材料層の順
を挙げることができるが、導電材料層と補助導電材料層とが接する[A]あるいは[B]の積層順とすることが好ましい。
【0017】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の成形品あるいはその製造方法(以下、これらを総称して、単に、『本発明』と呼ぶ場合がある)において、折れ曲がり部には、曲面部や段差が含まれる。成形品の平坦部から折れ曲がり部が立ち上がる場合、折れ曲がり部が立ち上がる部分と平坦部との成す角度θとして30度以上、90度以下を挙げることができる。角度θが90度あるいは90度に近い場合、折れ曲がり部が立ち上がる部分に丸みを帯びさせる(所謂、Rを付ける)ことが、折れ曲がり部に損傷が発生することを防止するといった観点から望ましい。
【0018】
導電材料層の厚さは、例えば、電子顕微鏡による断面観察によって求めることができる。透明な導電材料層の厚さや光線透過率は、成形品の用途に応じて異なるが、例えば、厚さとして1×10-9m乃至1×10-7m、好ましくは5×10-9m乃至1×10-8mを例示することができるし、光線透過率として、80%乃至99%、好ましくは90%乃至98%を例示することができる。
【0019】
本発明の成形品の製造方法にあっては、針状の導電材料が分散した溶液を以下の方法で調製することができる。即ち、針状の導電材料を、水系溶液、有機系溶液、若しくは、これらの混合溶液中に超音波処理等によって分散させることで、導電材料の分散液を得ることができる。ここで、水系溶液を用いる場合、分散剤を使用することによって、良好な分散状態を得ることができる。分散剤として、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、CHCl3、フッ素系ノニオン系界面活性剤[具体的には、例えば、E.I.DuPont de Nemours & Co.製のZonyl FSN−100(ポリオキシアルキレン−2−パーフルオロアルキルエチルエーテル)や、Zonyl FSO−100]、Triton X−100[ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテルの商品名]、炭素原子数6〜40の直鎖アルキル基を有する陰イオン性界面活性剤[具体的には、例えば、ドデシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸ナトリウム(SDSA)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)]等を挙げることができる。また、有機系溶液として、エタノール、メタノール、クロロフォルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2ピロリドン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。尚、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)やポリアミド樹脂等の導電性高分子を溶液に混合してもよい。
【0020】
本発明において、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法として塗布法を挙げることができる。ここで、塗布法として、具体的には、スピンコート法;浸漬法;キャスト法;スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、反転オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト法といった各種印刷法;スタンプ法;スプレー法;エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法、キャピラリーコーター法といった各種コーティング法;ディスペンサーを用いる方法といった、液状材料を塗布する各種の方法を挙げることができる。あるいは又、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法として、電着法を挙げることができる。電着法は、酸処理されたカーボンナノチューブが極性溶媒中で負の電荷を持つことを利用して、カーボンナノチューブ溶液に電極を浸し、直流若しくは交流電場を印加することで電極表面にカーボンナノチューブ層が成膜される現象を利用している。
【0021】
基材に対する導電材料層の密着性の向上、基材に対する補助導電材料層の密着性の向上を図るために、予め、基材の製造時、あるいは、基材の製造後、基材の表面に接着樹脂をコーティングしてもよいし、あるいは又、基材の表面に放電処理等の表面処理を施してもよい。また、基材に熱処理を施し、基材の熱収縮を取り除いておいてもよい。
【0022】
成形品の最表面(例えば、導電材料層)に、透明なプラスチック材料、具体的には、高分子フィルム(プラスチックフィルム)又は高分子シート(プラスチックシート)から成る表面保護層を設けてもよい。
【0023】
本発明の成形品は、例えば、タッチパネル、表示装置上の接触型センサー、曲面構造を含んだ電磁波シールド、可撓性を有する表示装置、建築資材等として使用、適用、応用することができる。タッチパネルから本発明の成形品を構成する場合、使用者がタッチパネルのスイッチ部に接触したことを使用者に確実に認識させるために、スイッチ部に対応する部分に凸部あるいは凹凸部から成る折れ曲がり部が設けられている。
【実施例1】
【0024】
実施例1は、本発明の成形品及びその製造方法に関する。実施例1における成形品は、図1の(A)に模式的な一部断面図を示すように、静電容量結合方式のタッチパネル10であり、例えば、表示装置(ディスプレイ)上の接触型センサーを構成する。タッチパネル10は、透明なガラス板20に取り付けられており(具体的には、接着されており)、タッチパネル10の四辺には電極部15が設けられている。静電容量結合方式のタッチパネルは、使用者の指がタッチパネルに接触することによって静電容量(コンデンサ)が形成され、このコンデンサを介して微弱電流を流し、その変化分を検出することで、タッチパネルのどの位置に指が接触したかを算出する。具体的には、1つの電極部に電圧を加えると、タッチパネル10の全体に均一な電圧勾配が形成される。全て同位相ならば、タッチパネル10に形成されている容量分が充放電される程度なので、電流は殆ど流れない。使用者をコンデンサと仮定し、指でタッチパネル10に接触すると、コンデンサと接続した状態となり、四辺から指を経由して電流が流れる。接触された場所に近い電極部ほど電流値が変化するので、四辺から流れた電流量の比率で接触された場所を特定することができる。
【0025】
実施例1の成形品であるタッチパネル10は、
(A)透明なプラスチック材料から成る基材11、及び、
(B)基材11の表面に形成された、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)12、
から成る。
【0026】
具体的には、基材11は、公称厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから成る。また、導電材料は、平均直径1nm乃至3nm、平均長さ5μm乃至20μmのカーボンナノチューブから成る。透明な導電材料層12の平均厚さは5nm乃至10nmであり、光線透過率は85%乃至95%である。また、導電材料層12のシート抵抗値は1.2kΩ/□である。
【0027】
そして、タッチパネル10には折れ曲がり部13が形成されており、折れ曲がり部13を跨って導電材料層12が形成されている。ここで、折れ曲がり部13は、具体的には凸部であり、ガラス板20との間には隙間が存在し、使用者がタッチパネルのスイッチ部20に接触したことを使用者に確実に認識させるためにスイッチ部20に対応する部分に設けられており、使用者が接触すると(押下すると)、折れ曲がり部13は変形して凹む。そして、これによって、使用者は押し込み感を得ることができる。折れ曲がり部13の形状を、直径18mmの球の一部(より具体的には、直径15mm、高さ4mmである球の一部から構成された形状)とした。タッチパネル10の平坦部14から折れ曲がり部13が立ち上がる部分と平坦部14との成す角度θは約30度である。実施例1にあっては、導電材料層12を含む基材11の部分を加熱及び加圧することで、導電材料層12を含む基材11に折れ曲がり部13が設けられている。
【0028】
以下、実施例1の成形品の製造方法を説明する。
【0029】
実施例1にあっては、針状の導電材料が分散した溶液を調製する。具体的には、溶液として純水を使用し、カーボンナノチューブを0.01重量%、溶液(純水)に投入し、超音波処理を行うことで、カーボンナノチューブを溶液中に分散させた。尚、分散剤としてドデシルスルホン酸を使用した。
【0030】
[工程−100]
そして、基材11の表面を洗浄した後、基材11の表面に、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法に基づき、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)12を形成した。具体的には、実施例1にあっては、スプレー法に基づき導電材料層12を基材11の表面に成膜(形成)した後、導電材料層12を乾燥し、更に、導電材料層12中の残留分散剤を純水で洗浄した後、導電材料層12を再び乾燥し、カーボンナノチューブ間の伝導度を向上させた。
【0031】
[工程−110]
次いで、得られた導電材料層12を含む基材11の部分(具体的には、少なくとも折れ曲がり部13を形成すべき部分)に折れ曲がり部13を設けた。具体的には、凸部が設けられた金型部と、凸部に対応する凹部が設けられた金型部を有する熱プレス装置を準備する。そして、この熱プレス装置を使用して、導電材料層12を含む基材11の部分を加熱及び加圧した。具体的には、加熱温度として50゜C乃至150゜Cを挙げることができるし、加熱時間として30秒乃至10分を挙げることができる。また、圧力として4.9×106Pa/m2(50kgf/cm2)乃至2.0×107Pa/m2(200kgf/cm2)を挙げることができる。実施例1にあっては、公称厚さ188μmのPETフィルムを基材11として使用したので、90゜C、30秒〜1分、50kgf/cm2乃至200kgf/cm2で、あるいは又、70゜C、5分〜10分、50kgf/cm2乃至200kgf/cm2で、折れ曲がり部(凸部)13を設けることができる。より具体的には、90゜C、30秒、9.8×106Pa/m2(100kgf/cm2)の条件で加熱・加圧成型を行い、折れ曲がり部(凸部)13を設けた。
【0032】
[工程−120]
その後、成形品の最表面(具体的には、透明な導電材料層12)に、透明なプラスチック材料から成る表面保護層(図示せず)を貼り合わせた。そして、適切な接着剤(図示せず)を用いて、得られた成形品(タッチパネル10)を透明なガラス板20に接着した。尚、この透明なガラス板20は、実際には、表示装置の画像あるいは映像を表示する部分に該当する。
【0033】
[比較例1]
比較例1として、インジウム−錫酸化物(ITO)層を公称厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面にスパッタリング法により成膜し、シート抵抗値20Ω/□を有する透明導電性フィルムを作製した。そして、実施例1と同様に熱プレス装置を用いて、実施例1と同じ条件にて折れ曲がり部(凸部)を設けた。
【0034】
尚、シート抵抗値測定のために、[工程−100]と[工程−110]との間で、凸部と凸部の間の平坦部において、導電材料層12あるいはITO層をレーザ光を用いて切断し、導電材料層12あるいはITO層を相互に分離して、分離された12個の凸部を得た。
【0035】
そして、[工程−100]の完了後の12個の凸部のシート抵抗値SR1、及び、[工程−110]の完了後の12個の凸部のシート抵抗値SR2を測定した。その結果を以下の表1に示す。シート抵抗値は4端子プローブ法により測定した。
【0036】
[表1]
実施例1 比較例1
SR2/SR1 平均1.17 平均6.9
【0037】
尚、参考のために、実施例1において、凸部と凸部の間の平坦部におけるシート抵抗値の変化割合SR2’/SR1’も調べた。その結果、変化割合は1.19であった。また、比較例1の成形品の顕微鏡観察を行った結果、凸部においてフィルムの伸張方向と直角の方向に無数のクラックが観測された。その結果、比較例1にあっては、シート抵抗値の急激な増加が生じた。
【0038】
実施例1にあっては、針状の導電材料(具体的には、カーボンナノチューブ)が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)が基材の表面に形成され、基材表面に網目状に連結した導電性ネットワーク構造を得ることができる。この導電性ネットワーク構造は伸張性、柔軟性を有するが故に、基材の表面に導電材料層を成膜した後、基材と導電材料層とを加熱及び/又は加圧したときにも、基材の表面に形成された一次元導電材料のネットワークは分断され難く、ネットワークが維持され、これによって、加熱及び/又は加圧後においても、導電特性を維持することができる。即ち、折れ曲がり部を跨って導電材料層が形成されているにも拘わらず、導電材料層にクラック等が発生することが無く、折れ曲がり部の形成に伴う導電材料層のシート抵抗値の変化が小さく、高い信頼性を有する成形品を効率的に提供することができる。しかも、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法に基づき導電材料層を得ることができるので、製造コストの低減、製造プロセスの簡素化を図ることができる。
【実施例2】
【0039】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2にあっては、図1の(B)に模式的な一部断面図を示すように、基材11と導電材料層12との間に、インジウム−錫酸化物(ITO)から成る補助導電材料層16が形成されている。実施例2の成形品は、[工程−100]に先立ち、基材11の表面に、例えばスパッタリング法にてITOから成る補助導電材料層16を形成し、[工程−100]においては、補助導電材料層16上に、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法に基づき、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層(一次元導電材料のネットワークから成る導電材料層)12を形成すればよい。これらの点を除き、実施例2の成形品は、実施例1の成形品と同様の方法で製造することができるので、詳細な説明は省略する。
【0040】
実施例2の成形品にあっては、実施例1の[工程−110]と同様の工程において、導電材料層12を含む基材11の部分に折れ曲がり部13を設ける際、補助導電材料層16にクラックが生じ得るが、補助導電材料層16と導電材料層12の2層構造となっているが故に、折れ曲がり部13の形成に伴うシート抵抗値の変化を小さく抑えることができ、しかも、全体のシート抵抗値の低減を図ることができる。
【0041】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。実施例において使用した材料、製造条件、成形品の形態等は例示であり、適宜、変更することができる。実施例にあっては、ガラス板と接する基材の面とは反対側に面に導電材料層を設けたが、これとは逆に、ガラス板と接する基材の面に導電材料層を設けてもよい。折れ曲がり部では、導電材料層の伸張に伴って導電材料層の伝導性の低下が生じ得るが、この現象を利用することにより成形品面内に導電性の異なるパターンを意図的に設けることも可能である。
【符号の説明】
【0042】
10・・・タッチパネル、11・・・基材、12・・・導電材料層、13・・・折れ曲がり部、14・・・平坦部、15・・・電極部、16・・・補助導電材料層、20・・・ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)透明なプラスチック材料から成る基材の表面に、針状の導電材料が分散した溶液を用いた成膜法に基づき、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層を形成した後、
(b)導電材料層を含む基材の部分に折れ曲がり部を設ける、
各工程から成る成形品の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)において、導電材料層を含む基材の部分を加熱することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部を設ける請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)において、導電材料層を含む基材の部分を加圧することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部を設ける請求項1又は請求項2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
導電材料はカーボンナノチューブから成る請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
基材は、高分子フィルム又は高分子シートから成る請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
基材には、更に、補助導電材料層が形成されている請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
(A)透明なプラスチック材料から成る基材、及び、
(B)基材の表面に形成された、針状の導電材料が無秩序に堆積して成る導電材料層、
から成り、
折れ曲がり部が形成されており、
折れ曲がり部を跨って導電材料層が形成されている成形品。
【請求項8】
導電材料層を含む基材の部分を加熱することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部が設けられている請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
導電材料層を含む基材の部分を加圧することで、導電材料層を含む基材に折れ曲がり部が設けられている請求項7又は請求項8に記載の成形品。
【請求項10】
導電材料はカーボンナノチューブから成る請求項7に記載の成形品。
【請求項11】
基材は、高分子フィルム又は高分子シートから成る請求項7に記載の成形品。
【請求項12】
基材には、更に、補助導電材料層が形成されている請求項7に記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−121183(P2011−121183A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278370(P2009−278370)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】