説明

成形回路部品の製造方法

【課題】基体の表面に選択的にめっきして形成する導電性回路に閉じた回路が含まれる場合に、この閉じた回路の内側に被覆材を射出成形するために、別途金型に湯道を設けることを回避でする。
【解決手段】基体1の内部に、閉じた回路21,22の内側表面12と外側表面とにそれぞれ相互に連通する通路16を設ける。このような通路16を基体1の内部に設けることによって、閉じた回路の外側部分11等、または内側部分12のいずれかに被覆材3を射出成形すれば、この通路を経由して閉じた回路の内外側部分のいずれにも被覆材が充填されるため、閉じた回路の内側部分に通じる湯道を、別途金型に設ける必要が回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分にめっきによる導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法に関し、特にめっきによる導電性回路に、閉じた回路または相互に隣接する回路が含まれる成形回路部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から絶縁材からなる基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分に、めっき層からなる導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法が各種提案されている(例えば特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−207989号公報
【特許文献2】特開平11−145583号公報
【特許文献3】特開平2002−344116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した成形回路部品においては、めっきによって形成する導電性回路には、例えば図9に示すような閉じた回路が含まれる場合がある。すなわち導電性回路302は、開いた回路323、324の他に、切れ目のないリング形状からなる閉じた回路321、322を含んでいる場合がある。ところで絶縁性の基体301の表面に、導電性回路302をめっきによって形成する場合には、この導電性回路以外の部分について、めっきがされないように、この基体の表面を被覆材で覆う。すなわち導電性回路302の部分だけを残して、基体301の表面を被覆材で覆う必要がある。その1例として図10に、被覆材303を射出成形して、図9に示す基体301の表面を覆う場合を示す。被覆材303は、基体301を上金型Aと下金型Bとからなる金型に収納して、この被覆材を形成すべきキャビティB1〜B8に、熱可塑性樹脂等を射出して形成する。なお図10示す基体301の断面は、図9においてA−A断面を示すものであって、かつ上下をひっくり返したものを示している。また導電性回路321、322、323、324については、後工程のめっきによって形成するものであるが、被覆材303との位置関係を明確にするための参考として記載してある。
【0005】
図10について詳述すると、基体301の表面(図10では、下側面に相当する。)には、図9における開いた回路323、324をそれぞれ挟む、被覆材303で覆うべき個所313、314、及び315に、この被覆材を射出成形すべきキャビティB3、B4,及びB5が設けてある。これらのキャビティは、基体301の両側面を被覆するためのキャビティB8,及びB7,並びにこの基体の裏面(図10では、上側面に相当する。)を被覆するためのキャビティB6を経由して、相互に連通している。したがって熱可塑性樹脂等からなる被覆材303を金型内に射出する場合には、例えば上金型AにキャビティB6に通じる湯道A1を設ければ、相互に連通するキャビティB1,B3,B4,及びB5にも、熱可塑性樹脂等を充填させることができる。
【0006】
一方図9における閉じた回路321、322の内側であって、被覆材303で覆うべき個所312には、この被覆材を射出成形すべきキャビティB2が設けてある。ところがキャビティB2は、閉じた回路321、322等によって周囲を囲まれているため、この閉じた回路の外側に位置するキャビティB1,B3等のいずれにも連通していない。したがって熱可塑性樹脂等からなる被覆材303をキャビティB2内に射出する場合には、キャビティB2に通じる湯道を、別途下金型Bに追加する必要がある。しかるに金型に別途湯道を形成するためには、金型の製造コストが増加する。また金型を再度使用する場合には、湯道に充填して固まった被覆材を、清掃除去する手間も増加する。特に閉じた回路の数が多くなると、これらのコストと手間等がさらに増大する。
【0007】
さらに図9に示す導電性回路322、323、324で挟まれた、被覆材303で覆うべき個所313、及び314の幅が狭く、かつ奥行きが長い場合には、被覆材303が、コの字形状の開口部分を介してキャビティB3、及びB4に進入するときの流動抵抗が著しく大きくなる。したがって、これを補うために被覆材303の射出圧力を高めると、基体301の変形が生じるという問題がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、基体の表面に選択的にめっきして形成する導電性回路に、閉じた回路が含まれる場合に、この閉じた回路の内側に被覆材を射出成形するために、別途金型に湯道を設けることを回避できる成形回路部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による成形回路部品の製造方法の特徴は、基体の内部に、閉じた回路の内側表面と外側表面とに相互に連通する通路を設けたことにある。このような通路を基体の内部に設けることによって、閉じた回路の外側部分、または内側部分のいずれかに被覆材を射出成形すれば、この通路を経由して閉じた回路の内外側部分のいずれにも被覆材が充填されるため、閉じた回路の内側部分に通じる湯道を、別途下金型に設ける必要が回避できる。
【0010】
すなわち本発明による成形回路部品の製造方法は、基体の絶縁性の表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形して、この導電性回路となる部分にめっきすることによって成形回路部品を製造する方法であって、上記導電性回路となる部分には、閉じた回路が含まれ、上記基体の内部には、この基体の表面であって上記閉じた回路の内側と外側とを相互に連通させる通路を設けるものである。
【0011】
本発明は、絶縁性の基体の表面を無電解めっきで覆い、この無電解めっきの表面に、閉じた回路を含む導電性回路を形成する場合にも適用できる。すなわちこの発明による成形回路部品の製造方法の特徴は、基体の絶縁性の表面を無電解めっきで覆って、上記無電解めっきの表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形して、上記導電性回路となる部分に電解めっきを行なった後に上記被覆材を除去し、上記被覆材を除去した後に、上記電解めっきで覆われていない部分の上記無電解めっきをエッチング除去することによって成形回路部品を製造する方法であって、上記導電性回路となる部分には、閉じた回路が含まれ、上記無電解めっきで覆われた基体の内部には、この無電解めっきの表面であって上記閉じた回路の内側と外側とを相互に連通させる通路が設けることにある。
【0012】
上記いずれかの基体は、相互に対向する2表面を有し、上記2表面のうち一方の表面には、上記閉じた回路が形成され、上記2表面のうち他方の表面には、上記閉じた回路の外側部分が形成され、上記基体の内部には、上記2表面のうち一方の表面であって上記閉じた回路の内側と、上記2表面のうち他方の表面であって上記閉じた回路の外側部分とを相互に連通させる通路が設けることが望ましい。
【0013】
本発明は、開いた回路で挟まれた部分であっても、この回路で挟まれた部分の幅が狭く、長さが長い場合にも、効果的に適用できる。すなわちこの発明による成形回路部品の製造方法の特徴は、基体の絶縁性の表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形して、この導電性回路となる部分にめっきすることによって成形回路部品を製造する方法であって、上記基体は、相互に対向する2表面を有している。上記2表面のうち一方の表面には、相互に隣接する開いた隣接導電性回路が形成され、上記2表面のうち他方の表面には、上記導電性回路が形成されない。そして上記基体の内部には、上記2表面のうち一方の表面であって上記相互に隣接する隣接導電性回路で挟まれた部分と、上記2表面のうち他方の表面とを相互に連通させる通路が設けてあることにある。
【0014】
ここで「基体の絶縁性の表面」とは、基体自体が絶縁性の材料からなる場合に限らず、導電性の部材の表面を絶縁性の材料によって覆ったものも含まれる。また「基体」とは、その表面に導電性回路を形成できる部材を意味し、その形状を問わない。例えば平板状のもの、多角形のブロック状のもの、表面が曲面状のもの、及び棒状のものが該当する。「導電性回路」は、2次元的な回路に限らず、基体の複数の表面に跨る3次元的な回路も含む。「導電性回路となる部分にめっきする」の「めっき」には、無電解めっきの他、無電解めっきの表面に電解めっきを積層する場合も含む。
【0015】
「相互に隣接する開いた隣接導電性回路」とは、所定の幅と長さとを有する導電性回路を形成しない部分を挟んで、相互に対向する2の導電性回路を意味し、一端部が開口し他端部が閉じたコの字形状のものに限らず、両端部が開口したニの字形状のものも含む。なお導電性回路を形成しない部分の長さが、幅に対して10倍を超える場合には、本発明によって優れた効果が期待でき、20倍を超える場合には、さらに優れた効果が得られる。また「通路」の断面形状は問わない。例えば四角形、円形、及び楕円系断面が該当する。また「通路」の数は、1に限らず2以上の場合も含む。特に導電性回路を形成しない部分の長さが、幅に対して30倍を超える場合には、2以上設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
基体の内部に、この基体の表面であって閉じた回路の内側と外側とを相互に連通させる通路を設けることによって、閉じた回路の外側の部分または内側の部分のいずれかに被覆材を射出成形すれば、この通路を経由して閉じた回路の内外側部分のいずれにも被覆材が充填される。したがって閉じた回路の内側部分に通じる湯道を、別途下金型に設ける必要がない。このため金型に別途湯道を形成するために必要となる金型の製造コストの増加、熱可塑性樹脂等を金型内に射出する作業量の増加、さらには金型を再度使用する場合における湯道に充填して固まった熱可塑性樹脂等を清掃除去する手間の増加を防止することができる。
【0017】
基体の表面に、相互に隣接する開いた隣接導電性回路を形成する場合には、上記基体の内部に、この相互に隣接する隣接導電性回路で挟まれた部分と、導電性回路が形成されない基体の裏面等とを、相互に連通させる通路を設けることによって、被覆材を射出成形するときの流動距離を短縮し、流動抵抗を低減することができる。これにより射出圧力を増加する必要性を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】閉じた回路を含む成形回路部品の斜視図である。
【図2】基体の表面に被覆材を射出成形した状態を示す断面図である。
【図3】3次元的な閉じた回路を含む成形回路部品の斜視図である。
【図4】基体の表面に3次元的な被覆材を射出成形した状態を示す断面図である。
【図5】成形回路部品の製造工程を示すブロック図である。
【図6】成形回路部品の製造工程を示す他のブロック図である。
【図7】成形回路部品の製造工程を示す他のブロック図である。
【図8】成形回路部品の製造工程を示す他のブロック図である。
【図9】従来例による閉じた回路を含む成形回路部品の斜視図である。
【図10】従来例による基体の表面に被覆材を射出成形した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜図8を参照しつつ、本発明による成形回路部品の製造方法の具体例を説明する。なお、初めに図1〜図4を参照しつつ、本発明における基体の構造と、被覆材の成形方法とについて説明し、その後に図5〜図8を参照しつつ、本発明による成形回路部品の製造方法の全体工程について説明する。
【0020】
さて図1に示すように、本発明による製造方法で製造される成形回路部品は、平板状の基体1の表面に、導電性回路2を無電解めっきによって形成したものであって、この導電性回路には、コの字形状の開いた回路23、24の他に、ロの字形状の閉じた回路21、22を含んでいる。なお導電性回路2の周囲は、被覆材3で覆う個所11〜15になっている。ここで閉じた回路21、22によって周囲を取囲まれた個所12は、その中央部に、基体1の裏面に連通する長方形断面の通路16が開口している。また開いた回路23、24とで挟まれた個所13、14にも、それぞれ通路16と同等の通路17、18が開口している。
【0021】
図2は、上述した基体1の表面に被覆材3を射出成形した状態であって、図1に示すA―A位置における断面を、上金型A及び下金型Bの断面と共に示している。なお図2に示す基体1は、図1に示す基体1の上下面を逆にして、上金型Aと下金型Bとからなる金型内に挿入してある。また導電性回路21、22、23、24については、後工程のめっきによって形成するものであるが、被覆材3との位置関係を明確にするための参考として記載してある。
【0022】
さて図2において、基体1の下側面(図1では、上側の表面に相当する。)には、図1における開いた回路23、24をそれぞれ挟んで、被覆材3で覆うべき個所13、14、及び15に、この被覆材を射出成形するためのキャビティB3、B4,及びB5が設けてある。これらのキャビティは、基体1の側面を被覆するためのキャビティB8及びB7,並びにこの基体の上側面(図10では、下側の裏面に相当する。)を被覆するためのキャビティB6を経由して、相互に連通している。よって、上金型Aの中央部に設けた湯道A1から熱可塑性樹脂等を注入すれば、キャビティB6、B8及びB7を経由して、キャビティB3、B4,及びB5に、被覆材3を充填することができる。
【0023】
一方図1に示す閉じた回路21、22の内側であって、被覆材3で覆うべき個所12には、この被覆材を射出成形すべきキャビティB2が設けてある。このキャビティB2は、閉じた回路21、22によって周囲を囲まれているため、この閉じた回路の外側に位置するキャビティB1,B3等のいずれにも連通しない。しかるに図1に示すように、被覆材3で覆うべき個所12には、基体1の裏面に連通する通路16が設けてあるため、キャビティB2は、この通路を介してキャビティB6と連通している。したがって、上金型Aの中央部に設けた湯道A1から被覆材3である熱可塑性樹脂等を注入すれば、キャビティB2も、同時に被覆材3を充填することができる。
【0024】
なお図1に示す開いた回路23、24をそれぞれ挟む、被覆材3で覆うべき個所13、及び14にも、基体1の裏面に連通する通路17、18をそれぞれ設けたのは、キャビティB6に注入された被覆材3が、これらの通路を介して、さらに容易にキャビティB3、及びB4に流入するようにするためである。すなわち被覆材3で覆うべき個所13、及び14の長さが、幅に対して20倍を超える場合には、開いた回路23、24の開口部を介するだけでは、被覆材3の流動抵抗が著しく大きくなる。そこで通路17、18を設けることによって、被覆材3の流動距離を短縮し、この幅の狭く長い個所に、被覆材を容易に充填させることができる。
【0025】
以上により、上金型Aに設けた湯道Aから、基体1の裏面を被覆するためのキャビティB6に被覆材3を注入すれば、閉じた回路21、22の外側を覆うキャビティB3、B4,及びB5だけでなく、この閉じた回路の内側を覆うキャビティB2にも、同時に通路16を介して被覆材3を充填することができる。
【0026】
図3は、直方体からなる基体101の表面と左右の側面とに跨って、導電性回路102が、3次元的に形成されている成形回路部品の1例を示している。なお図3及び次の図4に示す部品及び部分であって、図1及び図2に示すものと同等なものについては、参照を容易等にするために、図1と図2とに示す番号に、一律100を加えた番号を付与している。さて導電性回路102は、開いた回路123及び124と、閉じた回路121、122とを有しており、この閉じた回路の両端部分は、それぞれ基体101の左右の側面へ跨って形成されている。
【0027】
閉じた回路121、122の内側を占める個所112であって、基体101の表面の中央部分には、この基体の裏面と連通する通路116が開口しており、さらにこの基体の右側面にも、左側面と連通する通路119が開口している。また通路116と通路119とは、基体101の内部において、互いに直交して連通している。なお開いた回路123、124をそれぞれ挟む基体101の表面にも、通路119と同様に、この基体の裏面と連通する通路117、及び118が設けてある。
【0028】
図4は、上述した基体101の表面に被覆材103を射出成形した状態であって、図3に示すB―B位置における断面を、上金型A及び下金型Bの断面と共に示している。なお図4に示す基体101は、図2に示す基体101の上下面を逆にして、上金型Aと下金型Bとからなる金型内に挿入してある。また閉じた回路の一部である導電性回路125、126については、後工程のめっきによって形成するものであるが、被覆材103との位置関係を明確にするための参考として記載してある。
【0029】
さて図4に示す断面において、基体101上下及び左右の4面上には、後工程のめっきによって、閉じた回路125、126を形成すべき部分を除いて、被覆材103を射出成形するためのキャビティB6及びB2が設けてある。また上下のキャビティB6及びB2と、左右のキャビティB2及びB2とは、通路116と119とによって、それぞれ相互に連通している。
【0030】
したがって上金型Aに設けた湯道A1から、被覆材103を基体101の裏面を覆う位置あるキャビティB6に注入すれば、通路116と119とを経由して、この基体の表面及び左右面であって、閉じた回路125、126、121及び122で囲まれた内側を覆う位置にあるキャビティB2にも、この被覆材を充填することができる。なお開いた回路123、及び124の周囲を覆う位置にあるキャビティには、基体101の左右側面に跨るキャビティB6、及び通路117、178を経由して、同時に被覆材103を充填することができる。すなわち被覆材103で覆うべき個所113、及び114の長さが、幅に対して20倍を超える場合には、開いた回路123、124の開口部を介するだけでは、被覆材103の流動抵抗が著しく大きくなる。そこで通路117、118を設けることによって、流動距離を短縮し、この幅の狭く長い個所に、被覆材を容易に充填させることができる。
【0031】
以上により、上金型Aに設けた湯道A1から、基体101の裏面を被覆するためのキャビティB6に被覆材103を注入すれば、3次元形状を有する開いた回路123、124の周囲を覆うキャビティだけでなく、3次元形状を有する閉じた回路121、122の内側を覆うキャビティB2にも、同時に通路116、119を介して被覆材103を充填することができる。
【0032】
さて次に図5〜図8を参照しつつ、上述した基体1等及び被覆材3等を用いて、成形回路部品を製造する製造方法の全体について説明する。図5に示す成形回路部品の製造方法では、図1及び図2に示す基体1及び被覆材3を用いている。すなわちまず最初に、工程(A)において基体1を射出成形する。基体1には、表裏面を相互に連通する通路16、17、及び18が設けてある。なお通路16の周囲には、後工程において閉じた回路を形成し、通路17、及び18で挟まれた部分、並びに通路18と基体1の側面で挟まれた部分には、それぞれ後工程において開いた回路を形成する。なお基体1の材料としては、熱可塑性樹脂が望ましいが、熱硬化性樹脂であってもよい。かかる樹脂としては、例えば芳香族系液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリアミド、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ノルボルネン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が該当する。
【0033】
次の工程(B)において、基体1の表面を粗化する。基体1の表面に小さな凹凸を形成し、アンカー効果によって、後工程における無電解めっきの密着性を向上すると共に、親水性を付与するためである。粗化の方法としては、例えば、NaOHやKOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、アルコール性ナトリウム、アルコール性カリウム等のアルカリ金属アルコラートの水溶液、またはジメチルホルムアミド等の有機溶剤を使用して、これらの液を基体1の表面に塗布したり、これらの液中にこの基体を浸漬したりする。
【0034】
次の工程(C)において、基体1の粗化した表面に触媒4を付与する。触媒4の付与は公知の方法で行うが、例えば、錫、パラジウム系の混合触媒液に、基体1を浸漬した後、塩酸、硫酸などの酸で活性化し、表面にパラジウムを析出させる。または、塩化第1錫等の比較的強い還元剤を表面に吸着させ、金などの貴金属イオンを含む触媒溶液に浸漬し、表面に金を析出させる。液の温度は15〜23℃で5分間浸漬すれば良い。
【0035】
次の工程(D)において、基体1の表面に、導電性回路となるべき部分を除いて、被覆材3を射出成形する。被覆材3を射出成形する金型の構造は、図2において説明したとおりであり、閉じた回路の内側にも、通路16を介して、基体1の裏面からこの被覆材が充填される。なお被覆材3の材料としては、基体1との相溶性が良い絶縁性の樹脂であれば、特にその種類を問わない。例えば基体1が芳香族系液晶ポリマーのときには、被覆材3の材料も同じ芳香族系液晶ポリマーを使用する。
【0036】
次の工程(E)において、基体1の表面であって被覆材3で覆われていない部分に無電解めっきを行ない、導電性回路21、22、23、24等を形成する。被覆材3で覆われていない部分は、前工程(C)において触媒4が付与されているため、この触媒を核として、無電解めっきの金属が析出するが、被覆材3の表面には、触媒4が付与されていないため、無電解めっきは形成されない。なお無電解めっきは、公知の手段が使用できるが、例えば無電解銅めっきの場合には、めっき液として、金属塩として硫酸銅を5〜15g/リットル、還元剤としてホルマリンの37容量%の溶液を8〜12mリットル/リットル、錯化材としてロッシェル塩を20〜25g/リットル、そしてアルカリ剤として水酸化ナトリウムを5〜12g/リットル混合した、温度20℃の溶液を使用することができる。
【0037】
図6に示す成形回路部品の製造方法は、被覆材3を射出成形後に触媒4を付与する点、及びこの被覆材の除去後に、無電解めっきを行う点において、図5に示した製造方法と相違している。すなわち図5に示した製造方法では、成形回路部品に被覆材3が残ったままになるために、その分成形回路部品が厚くなり、成形回路部品の薄型化、及び小型化が困難となる。そこで図6に示す製造方法では、導電性回路2を形成した後で、被覆材3を溶出して除去する。ここで被覆材3を溶出する場合には、溶出が容易で簡単にできることが望まれる。
【0038】
そこで図6に示す製造方法においては、被覆材3として、水溶性の高分子材料であるポリビニールアルコール系樹脂、または加水分解性の高分子材料であるポリ乳酸樹脂等を使用する。なお被覆材3がポリビニールアルコール系樹脂である場合には、工程(E)において、80℃の温湯に10分間程度浸漬することにより容易に溶出除去できる。また被覆材3がポリ乳酸樹脂等である場合には、工程(E)において、温度25〜70℃のアルカリ水溶液(濃度2〜15重量%)に、1〜120分間程度浸漬することにより容易に溶出除去できる。なお被覆材3を溶出除去した部分は、前工程(D)において、この被覆材で覆われていたために触媒4が付与されておらず、無電解めっきは形成されない。他方被覆材3で被覆されていなかった部分は、触媒4が付与されているので無電解めっきが形成され、導電性回路21、22、23、及び24が選択的に形成される。
【0039】
図7に示す成形回路部品の製造方法は、被覆材3を射出成形して触媒4を付与した後に、この被覆材の表面に付着した触媒を除去する点、及び無電解めっきを行った後に、この被覆材を除去する点において、図6に示した製造方法と相違している。すなわち図6に示した製造方法において、被覆材3として水溶性のポリビニールアルコール系樹脂等の高分子材料を使用した場合には、触媒付与の工程(D)において、この被覆材の表面が膨潤して親水性となり、その結果、被覆材の表面に付着した触媒が、洗浄しても除去できない。このため、後工程において被覆材を溶解して除去するときに、触媒も一緒に溶解液に混入し、この溶解液の廃却と共に、パラジウムや金等の希少金属を含む触媒も廃棄されてしまう。
【0040】
また被覆材3として、ポリ乳酸樹脂等の加水分解性の高分子材料を使用した場合には、触媒を付与した後に、加水分解を促進するためアルカリ性溶液を用いて被覆材を除去するが、この被覆材の除去工程において、被覆材で被覆されていない基体の表面部分、すなわち導電性回路を形成する部分に付与された触媒までもが、このアルカリ性溶液の洗浄効果によって脱落し、その結果、この導電性回路を形成する部分に、無電解めっきが十分析出しない場合がある。
【0041】
そこで図7に示す製造方法においては、工程(C)において射出成形する被覆材3は、触媒液によって膨潤することなく疎水性を維持する加水分解性の高分子樹脂、すなわちポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体からなる樹脂を使用する。すなわち被覆材3は、触媒液によって膨潤することなく疎水性を維持するため、触媒がこの被覆材に強固に密着することを防止できる。また触媒付与後に水洗浄の工程(E)を設けることによって、被覆材の疎水性の表面に付着した触媒を、容易かつ確実に除去できるので、この洗浄水に洗い出された触媒を容易に分離回収可能となり、高価な貴金属の省資源化が可能となる。
【0042】
さらに被覆材3は耐酸性を有するので、この被覆材を被覆したままの状態で行なう無電解めっき工程(F)は、酸性または中性の浴組成で行ない、この被覆材の溶解等を防止して、導電性回路2を精密に形成することができる。また導電性回路2を形成する部分に無電解めっきを形成する工程(F)の後に、被覆材3の溶解除去の工程(G)を設ける。したがってアルカリ性の溶解液によって被覆材3を除去する前に、既に無電解めっきがなされているため、基体1の表面に付与した触媒までもが脱落してしまうという前述した問題を回避できる。
【0043】
なお工程(E)における、被覆材3に付着した触媒4の水洗浄は、例えば水温15℃〜25℃の温水に、5〜30秒間浸して攪拌する、あるいは100℃〜170℃の水蒸気を、高圧で噴き付けることによって行なう。また無電解めっき工程(F)として、電解銅めっきを行う場合、例えば酸性の硫酸銅浴の浴組成は、CuSO・5HO(75g)/lHSO(190g)/lCl(60ppm)/添加剤(適量)とする。また陽極材料を含リン銅として、浴温度は25℃に設定し、陰極電流密度を2.5A/dm2とする。さらに被覆材3の溶解除去の工程(G)においては、この被覆材が、ポリ乳酸樹脂等の場合は、アルカリ水溶液では簡単に加水分解するので、濃度2〜15重量%、温度25〜70℃の苛性アルカリ(NaOH、KOHなど)水溶液中に、1〜120分程度浸漬して、被覆材3を除去する。被覆材3が、水溶性の高分子材料であるポリビニールアルコール系樹脂の場合は、80℃の温湯に10分間程度浸漬することにより容易に溶出除去できる。
【0044】
さて図8に示す成形回路部品の製造方法は、導電性の無電解めっきで覆った絶縁性の基体の表面に、電解めっきを選択的に行い、この電解めっきで覆われていない部分の無電解めっきをエッチング除去して、無電解めっきの表面に電解めっきが積層された導電性回路を形成するものである。具体的には、図8に示す成形回路部品の製造方法は、図5に示した製造方法と、被覆材203を射出成形する工程(E)の前に、基体201の全表面に無電解めっき205の工程(D)を設ける点、この無電解めっきの表面を、工程(E)において導電性回路202となるべき部分を除いて被覆材203で覆う点、次の工程(F)において、この被覆材で覆われていない部分に電解めっき261〜264を行う点、次の工程(G)において、この被覆材を除去した後に、工程(H)において、この電解めっきで覆われていない部分の無電解めっきを、エッチング除去する点で相違している。なお図8に示す部品及び部分であって、図5に示すものと同等なものについては、参照を容易等にするために、図5に示す番号に、一律200を加えた番号を付与している。
【0045】
なお工程(A)において射出成形する絶縁性の基体201としては、図5に示した基体1と同等の樹脂を使用する。また工程(E)において射出成形する被覆材203としては、図6で示した耐酸性の被覆材3と同等の樹脂を使用する。さらに工程(F)における電解めっき261〜264は、酸性または中性のいずれかの浴組成の公知の手段が使用できる。例えば電解銅めっきを行う場合、酸性の硫酸銅浴の浴組成は、CuSO・5HO(75g)/lHSO(190g)/lCl(60ppm)/添加剤(適量)とする。また陽極材料を含リン銅として、浴温度は25℃に設定し、陰極電流密度を2.5A/dm2とする。
【0046】
工程(G)において被覆材203を除去する手段としては、図7に示した工程(G)と同等の手段を使用する。また工程(H)における、無電解めっき205の除去手段としては、公知の化学エッチングを使用できる。例えば塩化第二鉄を溶解した硫酸によって、電解めっき261〜264で被覆されていいない部分の無電解めっき205を溶解除去する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
基体の表面に選択的にめっきして形成する導電性回路に閉じた回路が含まれる場合に、この閉じた回路の内側に被覆材を射出成形するために、別途金型に湯道を設けることを回避できるので、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1、101、201 基体
11、111、211 閉じた回路の外側
12、112、212 閉じた回路の内側
13、113、213 閉じた回路の外側
14、114、214 開いた回路の外側
15、115、215 開いた回路の外側
16、116 通路
2、102、202 導電性回路
21、121、221 閉じた回路(の一部)
22、122、222 閉じた回路(の一部)
23、123、223 開いた回路
24、124、224 開いた回路
3、103、203 被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の絶縁性の表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形して、この導電性回路となる部分にめっきすることによって成形回路部品を製造する方法であって、
上記導電性回路となる部分には、閉じた回路が含まれ、
上記基体の内部には、この基体の表面であって上記閉じた回路の内側と外側とを相互に連通させる通路が設けてある
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項2】
基体の絶縁性の表面を無電解めっきで覆って、
上記無電解めっきの表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形して、
上記導電性回路となる部分に電解めっきを行なった後に、上記被覆材を除去し、
上記被覆材を除去した後に、上記電解めっきで覆われていない部分の上記無電解めっきをエッチング除去することによって成形回路部品を製造する方法であって、
上記導電性回路となる部分には、閉じた回路が含まれ、
上記無電解めっきで覆われた基体の内部には、この無電解めっきでの表面であって上記閉じた回路の内側と外側とを相互に連通させる通路が設けてある
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、上記基体は、相互に対向する2表面を有し、
上記2表面のうち一方の表面には、上記閉じた回路が形成され、
上記2表面のうち他方の表面は、上記閉じた回路の外側部分が形成され、
上記基体の内部には、上記2表面のうち一方の表面であって上記閉じた回路の内側と、上記2表面のうち他方の表面であって上記閉じた回路の外側部分とを相互に連通させる通路が設けてある
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。
【請求項4】
基体の絶縁性の表面に導電性回路となる部分を残して被覆材を射出成形して、この導電性回路となる部分にめっきすることによって成形回路部品を製造する方法であって、
上記基体は、相互に対向する2表面を有し、
上記2表面のうち一方の表面には、相互に隣接する開いた隣接導電性回路が形成され、
上記2表面のうち他方の表面には、上記導電性回路が形成されず、
上記基体の内部には、上記2表面のうち一方の表面であって上記相互に隣接する隣接導電性回路で挟まれた部分と、上記2表面のうち他方の表面とを相互に連通させる通路が設けてある
ことを特徴とする成形回路部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−192551(P2010−192551A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33451(P2009−33451)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】