成形材料
【課題】熱可塑性樹脂との接着性、特にポリオレフィン系樹脂との接着性に優れ、取扱い性が良好な強化繊維束を提供すること
【解決手段】下記成分(A)〜(D)を有してなる成形材料であって、該成分(A)〜(C)を有してなる複合体に、該成分(D)が接着されており、重量平均分子量Mwの序列が成分(D)>成分(B)>成分(C)である成形材料。
(A)強化繊維束 1〜75重量%
(B)第1のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(C)重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(D)第3のプロピレン系樹脂 30〜98.98重量%
【解決手段】下記成分(A)〜(D)を有してなる成形材料であって、該成分(A)〜(C)を有してなる複合体に、該成分(D)が接着されており、重量平均分子量Mwの序列が成分(D)>成分(B)>成分(C)である成形材料。
(A)強化繊維束 1〜75重量%
(B)第1のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(C)重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(D)第3のプロピレン系樹脂 30〜98.98重量%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂をマトリックスとする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に関する。さらに詳しくは、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性を活かして成形を容易にし、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0003】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
【0004】
一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題がある。低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。従って、得られた成形品は、強化繊維の繊維長を従来よりも上げることができ、良好な力学特性と、優れた外観品位を合わせ持つことができる。
【0006】
しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになり、成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料により軽量性・経済性が求められるようになり、マトリックス樹脂には軽量なオレフィン系樹脂、とりわけプロピレン系樹脂が使用されるようになってきた。特許文献2には、酸変性オレフィン系樹脂を、酸基と反応可能な官能基を有するサイジング剤で処理した炭素繊維に含浸させた長繊維ペレットが開示されている。しかしながら、熱可塑性樹脂は酸変性オレフィン系樹脂のみであり、粘度が高いため炭素繊維束をマトリックス樹脂中に分散させるのが非常に困難となり、成形品の力学特性や外観には課題があった。
【0007】
かかる状況において、極性の低いオレフィン系樹脂をマトリックス樹脂に用いた場合においても高い力学特性を発揮し、強化繊維の分散性も良好な長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が要求されるようになってきた。
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【特許文献2】特開2005−125581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の背景に鑑み、プロピレン系樹脂をマトリックスとする長繊維強化熱可塑性樹脂の射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記課題を達成することができる、次の成形材料を見出した。
【0010】
(1)下記成分(A)〜(D)を有してなる成形材料であって、該成分(A)〜(C)を有してなる複合体に、該成分(D)が接着されており、重量平均分子量Mwの序列が成分(D)>成分(B)>成分(C)である成形材料。
(A)強化繊維束 1〜75重量%
(B)第1のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(C)重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(D)第3のプロピレン系樹脂 5〜98.98重量%
(2)前記成分(C)が、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量の濃度でカルボン酸塩を少なくとも有してなる、(1)に記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
(3)前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩より選択される、1種または2種以上の金属塩で転化されてなるものである、(1)または(2)のいずれかに記載の成形材料。
【0011】
(4)前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、アンモニウム塩で転化されてなるものである、(1)または(2)に記載の強化繊維束。
【0012】
(5)前記成分(C)の重量平均分子量Mwが1,000〜50,000の範囲である、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形材料。
【0013】
(6)前記成分(B)が、重量平均分子量Mwが30,000以上150,000未満の範囲であるプロピレン系樹脂(B−1)30〜100重量%と、重量平均分子量Mwが150,000以上500,000以下の範囲であるプロピレン系樹脂(B−2)0〜70重量%とを有してなる、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料。
【0014】
(7)前記成分(B)が、プロピレンから導かれる構成単位50モル%以上を有してなる、(1)〜(6)のいずれかに記載の成形材料。
【0015】
(8)前記成分(B)が、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも有してなり、重量平均分子量Mwが50,000を超えて150,000以下である、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形材料。
【0016】
(9)前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなる、(1)〜(8)のいずれかに記載の成形材料。
【0017】
(10)前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(D−1)5〜50重量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(D−2)50〜95重量%とを有してなる、(9)に記載の成形材料。
【0018】
(11)カルボン酸および/またはその塩の基の、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算でのミリモル当量の序列が、成分(C)≧成分(B)≧成分(D)である、(8)〜(10)のいずれかに記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
(12)前記成分(A)の強化繊維が、炭素繊維である、(1)〜(11)のいずれかに記載の成形材料。
【0019】
(13)前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、(12)に記載の成形材料。
【0020】
(14)前記成分(A)の強化繊維束が、20,000〜100,000本の単繊維からなる、(1)〜(13)のいずれかに記載の成形材料。
【0021】
(15)前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、(1)〜(14)のいずれかに記載の成形材料。
【0022】
(16)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(15)のいずれかに記載の成形材料。
【0023】
(17)前記複合体が芯構造であり、前記成分(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、(16)に記載の成形材料。
【0024】
(18)前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、(1)〜(17)のいずれかに記載の成形材料。
【0025】
(19)前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、(1)〜(18)のいずれかに記載の成形材料。
【発明の効果】
【0026】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造でき、またプロピレン系樹脂を用いているため軽量性に優れた成形品を得ることができる。本発明の成形材料は、自動車、電気・電子機器、家電製品などの各種部品・部材に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、強化繊維束(A)、第1のプロピレン系樹脂(B)、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂(C)、第3のプロピレン系樹脂(D)を有してなる成形材料である。まず、これらの構成要素について説明する。
【0028】
本発明に係る強化繊維束としては特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0029】
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが例示できる。
【0030】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0031】
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とする。
【0032】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0033】
また、強化繊維の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。強化繊維束の単糸数には、特に制限はなく、100〜350,000本の範囲内で使用することができ、とりわけ1,000〜250,000本の範囲内で使用することが好ましい。また強化繊維の生産性の観点からは、単糸数が多いものが好ましく、20,000〜100,000本の範囲内で使用することが好ましい。本発明の効果である、射出成形の際に強化繊維の成形品中への分散が良好である点は、より単糸数の多い強化繊維束に対しても優れた効果を発揮でき、生産性と成形品特性とを両立できる。
【0034】
本発明の成形材料に用いられる、強化繊維束(A)とは、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることを意味するが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
【0035】
本発明の第1のプロピレン系樹脂(B)は、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体が挙げられる。
【0036】
α−オレフィンを構成する単量体繰り返し単位には、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンを構成する単量体繰り返し単位にはブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられ、これらその他の単量体繰り返し単位には、1種類または2種類以上を選択することができる。
【0037】
第1のプロピレン系樹脂(B)の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロック共重合体、または他の熱可塑性単量体との共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0038】
とりわけ、第3のプロピレン系樹脂(D)との親和性を高めるために、第1のプロピレン系樹脂(B)はプロピレンから導かれる構成単位を50モル%以上有してなることが好ましい。さらに、第1のプロピレン系樹脂(B)の結晶性を落として第2のプロピレン系樹脂(C)との親和性を高め、得られる成形品の強度を高めるために、第1のプロピレン系樹脂(B)はプロピレンから導かれる構成単位を50〜99モル%有してなることが好ましく、より好ましくは55〜98モル%、さらに好ましくは60〜97モル%を有してなることである。 プロピレン系樹脂における前記単量体繰り返し単位の同定には、IR、NMR、質量分析および元素分析等の通常の高分子化合物の分析手法を用いて行うことができる。
【0039】
第2のプロピレン系樹脂(C)は、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂である。これは強化繊維との相互作用を高めるうえでカルボン酸塩を含むことが効果的であるためである。
【0040】
上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料としては、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体で代表される、プロピレンとα−オレフィンの単独または2種類以上との共重合体に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/またはケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。上記プロピレンとα−オレフィンの単独または2種類以上との共重合体の単量体繰り返し単位および骨格構造は、第1のプロピレン系樹脂(B)と同様の考えで選定することができる。
【0041】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、およびケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、たとえば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物が挙げられ、またこれらのエステル、さらにはオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物なども挙げられる。
【0042】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸 TM(エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
【0043】
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、N、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジエチルアミノエチル(メタアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N、N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
【0044】
これらの単量体は単独で用いることもできるし、また2種類以上のものを用いることもできる。また、これらの中でも、酸無水物類が好ましく、さらには無水マレイン酸が好ましい。
【0045】
上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料は、種々の方法で得ることができるが、例えば、有機溶剤中でプロピレン系樹脂と不飽和ビニル基を有するエチレン系不飽和カルボン酸やオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体とを重合開始剤の存在下で反応させた後に脱溶剤する方法や、プロピレン系樹脂を加熱溶融し得られた溶融物に不飽和ビニル基を有するカルボン酸および重合開始剤を攪拌下で反応させる方法や、プロピレン系樹脂と不飽和ビニル基を有するカルボン酸と重合開始剤とを混合したものを押出機に供給して加熱混練しながら反応させる方法等を挙げることができる。
【0046】
ここで重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3、1,4−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
また有機溶剤としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、イソオクタン、イソデカン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、n−酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3メトキシブチルアセテート等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等の有機溶剤を用いることができ、またこれらの2種以上からなる混合物であっても構わない。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素がより好適に用いられる。
【0048】
上記のように得られた第2のプロピレン系樹脂(C)の原料を中和またはケン化することにより、第2のプロピレン系樹脂(C)を得ることができる。中和またはケン化する場合には、上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料を水分散体にして処理することが容易であり好ましい。
【0049】
上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料の水分散体の中和またはケン化に用いる塩基性物質としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属および/またはその他金属類、ヒドロキシルアミン、水酸化アンモニウム等の無機アミン、アンモニア、(トリ)メチルアミン、(トリ)エタノールアミン、(トリ)エチルアミン、ジメチルエタノールアミン、モルフォリン等の有機アミン、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および/またはその他金属類、水酸化物、水素化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属および/またはその他金属類の弱酸塩を挙げることができる。塩基物質により中和またはケン化されたカルボン酸塩の基あるいはカルボン酸エステル基としては、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩またはカルボン酸アンモニウムが好適である。
【0050】
また、中和度またはけん化度、すなわち、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料が有するカルボン酸基の上記金属塩やアンモニウム塩等への転化率は、水分散体の安定性と、繊維との接着性の観点より、通常50〜100%、好ましくは70〜100%、更に好ましくは85〜100%である。したがって、上記第2のプロピレン系樹脂(C)におけるカルボン酸基は、上記塩基物質によりすべて中和またはケン化されていることが望ましいが、中和またはケン化されずに一部カルボン酸基が残存していてもよい。上記のような酸基の塩成分を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を行う方法や、IR、NMR、質量分析および元素分析等を用いて酸基の塩の構造を同定する方法が挙げられる。
【0051】
ここでカルボン酸基の中和塩への転化率は、加熱トルエン中にプロピレン系樹脂を溶解し、0.1規定の水酸化カリウム−エタノール標準液で滴定し、プロピレン系樹脂の酸価を下式より求め、元のカルボン酸基の総モル数と比較して算出する。
【0052】
酸価=(5.611×A×F)/B (mgKOH/g)
A:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)
F:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター
B:試料採取量(g)。
【0053】
上記で算出した酸価を下式を用いて中和されていないカルボン酸基のモル数に換算する。
【0054】
中和されていないカルボン酸基のモル数=酸価×1000/56(モル/g)。
カルボン酸基の中和塩への転化率は、別途IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸基のカルボニル炭素の定量をおこなって算出したカルボン酸基の総モル数(モル/g)を用いて下式にて算出する。
【0055】
転化率%=(1−r)×100(%)
r:中和されていないカルボン酸基のモル数/カルボン酸基の総モル数。
【0056】
また、強化繊維との相互作用を高める観点から、前記第2のプロピレン系樹脂(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の含有量は、第2のプロピレン系樹脂1g当たり、−C(=O)−O−で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量であることが好ましい。より好ましくは0.1〜4ミリモル当量、さらに好ましくは0.3〜3ミリモル当量である。上記のようなカルボン酸塩の含有量を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を定量的に行う方法や、IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸塩のカルボニル炭素の定量をおこなう方法が挙げられる。
【0057】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に第3のプロピレン系樹脂(D)が接着するように配置されており、成分(B)、(C)、(D)の重量平均分子量の序列が(D)>(B)>(C)となる成形材料である。
【0058】
強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)は、この三者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間に第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物が満たされている。すなわち、第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物の海に、強化繊維(A)が島のように分散している状態である。
【0059】
本発明の成形材料において、第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物が強化繊維束(A)に良好に含浸した複合体とすることで、第3のプロピレン系樹脂(D)とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物が、第3のプロピレン系樹脂(D)に拡散し、強化繊維束(A)が第3のプロピレン系樹脂(D)に分散することを助け、同時に第3のプロピレン系樹脂(D)が強化繊維束(A)に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。この役割を達成するうえで、成分(B)、(C)、(D)の重量平均分子量の序列が(D)>(B)>(C)であれば、成分(B)、(C)が容易に成分(D)中に拡散可能となる。
【0060】
上記した含浸助剤・分散助剤としての役割を果たす観点および第1のプロピレン系樹脂(B)との分子鎖同士の絡み合いを形成し、第1のプロピレン系樹脂(B)との相互作用を高める観点とから、第2のプロピレン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwは、1,000〜50,000であることが好ましい。より好ましくは2,000〜40,000、さらに好ましくは5,000〜30,000である。なお重量平均分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定する。
【0061】
また、第1のプロピレン系樹脂(B)は、上記した含浸助剤・分散助剤としての役割を果たす観点および第3のプロピレン系樹脂(D)との親和性の観点から、重量平均分子量Mwが30,000以上150,000未満であるプロピレン系樹脂(B−1)を30〜100重量%と、重量平均分子量Mwが150,000以上500,000以下であるプロピレン系樹脂(B−2)を0〜70重量%とを有してなることが好ましい。プロピレン系樹脂(B−1)の重量平均分子量Mwは好ましくは35,000以上140,000以下である。またプロピレン系樹脂(B−2)の重量平均分子量Mwは好ましくは150,000以上450,000以下である。上限については重量平均分子量Mwが大きくなりすぎると、含浸助剤・分散助剤としての役割を果たすことが困難になる場合があり、上記する範囲内とすることが好ましい。配合量は、より好ましくはプロピレン系樹脂(B−1)を35〜100重量%と、プロピレン系樹脂(B−2)を0〜65重量%である。
【0062】
本発明の第3のプロピレン系樹脂(D)は、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体が挙げられる。
【0063】
α−オレフィンを構成する単量体繰り返し単位には、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンを構成する単量体繰り返し単位にはブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられ、これらその他の単量体繰り返し単位には、1種類または2種類以上を選択することができる。
【0064】
第3のプロピレン系樹脂(D)の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロック共重合体、または他の熱可塑性単量体との共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0065】
また第3のプロピレン系樹脂(D)は、本発明の目的を損なわない範囲で、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0066】
ここで第3のプロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量は前記したように序列が成分(D)>(B)>(C)となることが重要である。つまり第3のプロピレン系樹脂(D)は本発明の成形材料を成形した成形品におけるいわばマトリックス樹脂としての役割を果たすため、樹脂自体の強度が要求されることから重量平均分子量を成分(B)、(C)よりも高くすることが重要である。
【0067】
また第3のプロピレン系樹脂(D)は得られる成形品の力学特性を向上させる観点より、変性プロピレン系樹脂であることが好ましい。好ましくは酸変性プロピレン系樹脂であり、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である。上記酸変性プロピレン系樹脂は、種々の方法で得ることができ、例えば前記した第2のプロピレン系樹脂(B)の原料や、第2のプロピレン系樹脂の製造例と同様の方法である。
【0068】
第3のプロピレン系樹脂(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である場合には、該樹脂の力学特性を高く保つことと、原料コストを考慮し、無変性のプロピレン系樹脂との混合物とすることが好ましい。具体的には重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(D−1)5〜50重量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(D−2)50〜95重量%とを有してなることが好ましい。より好ましくは成分(D−1)が5〜45重量%、成分(D−2)が55〜95重量%、さらに好ましくは成分(D−1)が5〜35重量%、成分(D−2)が65〜95重量%である。
【0069】
第3のプロピレン系樹脂(D)が酸変性プロピレン系樹脂である場合には、前記第1のプロピレン系樹脂(B)も変性されていることが、親和性を高めるうえで好ましい。具体的には第1のプロピレン系樹脂(B)が、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも有してなることである。また前記したように第1のプロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwは第2のプロピレン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwよりも大きくなることが必要であり、具体的には第1のプロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwは重量平均分子量Mwが50,000を超えて150,000以下であることが好ましい。より好ましくは60,000〜130,000である。前記重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第1のプロピレン系樹脂(B)の製造方法としては、前述の第2のプロピレン系樹脂(C)と同様にして製造することができる。
【0070】
前記第1〜第3のプロピレン系樹脂が重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂である場合、そのカルボン酸および/またはその塩の含有量は、樹脂1g当たり−C(=O)−O−で表される基換算での総量、すなわち、樹脂1g当たり−C(=O)−O−でのミリモル当量の序列が成分(C)≧成分(B)≧成分(D)であることが好ましい。これは強化繊維に複合されている第1、第2のプロピレン系樹脂は強化繊維への密着性の観点から、より多くの酸変性量が好ましく、特に重量平均分子量の小さな第2のプロピレン系樹脂(C)は強化繊維近傍に存在させて、より強化繊維との密着性および強化繊維の分散性を向上させるうえで、最も酸変性量が多いことが好ましい。第3のプロピレン系樹脂(A)の酸変性量は、樹脂コストの観点から、強化繊維との相互作用を考慮した第1、第2のプロピレン系樹脂よりも少ないことが好ましい。
【0071】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)、第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および第3のプロピレン系樹脂(D)で構成され、各構成成分の合計が100重量%となる。
【0072】
このうち、強化繊維束(A)は1〜75重量%、好ましくは5〜65重量%、より好ましくは10〜50重量%である。強化繊維束(A)が1重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、75重量%を超えると射出成形の際に流動性が低下する場合がある。
【0073】
また、第1のプロピレン系樹脂(B)は0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜9重量%、より好ましくは1〜8重量%である。さらに第2のプロピレン系樹脂(C)は0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜9重量%、より好ましくは1〜8重量%である。第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)が0.1重量%未満では、成形材料の成形性、すなわち成形時の強化繊維の分散が不十分となる場合があり、10重量%を超えると、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の力学特性を低下させる場合がある。また、第3のプロピレン系樹脂(D)は5〜98.98重量%、好ましくは25〜94重量%、より好ましくは50〜88重量%であり、この範囲内で用いることで、本発明の効果を達成することができる。
【0074】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に第3のプロピレン系樹脂(D)が接着するように配置されて構成される成形材料である。成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維束(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0075】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30重量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20重量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。強化繊維束(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0076】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0077】
成形材料の断面の形状は、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に、第3のプロピレン系樹脂(D)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり第3のプロピレン系樹脂(D)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0078】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、第3のプロピレン系樹脂(D)が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を第3のプロピレン系樹脂(D)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0079】
複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)の境界は接着され、境界付近で部分的に第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の一部に入り込み、複合体中の第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0080】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0081】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に、第3のプロピレン系樹脂(D)を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、重量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0082】
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維である強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に対して、第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維である強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体が芯構造であり、第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。このような配置であれば、複合体が第3のプロピレン系樹脂(D)をより強固な複合化ができる。また、第3のプロピレン系樹脂(D)が強化繊維束(A)と第1のプロピレン樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0083】
前述したように、強化繊維束(A)は第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および一部の第3のプロピレン系樹脂(D)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維と第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および一部の第3のプロピレン系樹脂(D)からなる複合体にはある程度の空隙が存在する。特に強化繊維の含有率が大きい場合には空隙が多くなるが、ある程度の空隙が存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただし空隙率が20%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、空隙率は0〜20%の範囲が好ましい。より好ましい空隙率の範囲は15%以下である。空隙率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定するか、または成形材料の断面において、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および一部の第3のプロピレン系樹脂(D)により形成される複合体部分に存在する空隙を観察し、複合体部の全面積と空隙部の全面積とから次式を用いて算出することができる。
【0084】
空隙率(%)=空隙部の全面積/(複合体部の全面積+空隙部の全面積)×100
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0085】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、軽量性、高強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
【0086】
本発明の成形材料は、公知の成形法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品に好適である。さらに電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。また、本発明の成形材料は、成形性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、プラズマディスプレーなどに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【0087】
また、上記した成形材料は射出成形用ペレットとして用いることができる。射出成形においては、ペレット状とした成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられるから、本発明によればその際に第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)が分散・含浸助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維がマトリックス樹脂中に良分散し、繊維への樹脂の含浸が良好な成形品を得ることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0089】
(1)プロピレン系樹脂の重量平均分子量測定
第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および第3のプロピレン系樹脂(D)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。GPCカラムにはポリスチレン架橋ゲルを充填したものを用いた。溶媒に1,2,4−トリクロロベンゼンを用い、150℃にて測定した。分子量は標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0090】
(2)プロピレン系樹脂の構造解析
第1、第2および第3の各プロピレン系樹脂について、有機化合物元素分析、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析、IR(赤外吸収)スペクトル分析、1H−NMR測定および13C−NMR測定を実施し、プロピレン系樹脂の含有元素量、官能基構造の同定、各帰属プロトン、カーボンのピーク強度より単量体構造の含有割合について評価を実施した。
【0091】
有機化合物元素分析は、有機元素分析装置2400II(PerkinElmer社製)を用いて実施した。ICP発光分析はICPS−7510(島津製作所社製)を用いて実施した。IRスペクトル分析はIR−Prestige−21(島津製作所製)を用いて実施した。1H−NMR測定および13C−NMR測定はJEOL JNM−GX400スペクトロメーター(日本電子製)を用いて実施した。
【0092】
(3)複合体空隙率
ASTM D2734(1997)試験法に準拠して、複合体の空隙率(%)を算出した。
【0093】
複合体空隙率の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0094】
A:0〜5%未満
B:5%以上20%未満
C:20%以上40%未満
D:40%以上。
【0095】
(4)成形材料を用いて得られた成形品の繊維分散性
100mm×100mm×2mmの成形品を成形し、表裏それぞれの面に存在する未分散CF束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品についておこない、その合計個数について繊維分散性の判定を以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0096】
A:未分散CF束が1個以下
B:未分散CF束が1個以上5個未満
C:未分散CF束が5個以上10個未満
D:未分散CF束が10個以上。
【0097】
(5)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、"インストロン"(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0098】
曲げ強度の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0099】
A:150MPa以上
B:130MPa以上150MPa未満
C:100MPa以上130MPa未満
D:100MPa未満。
【0100】
(6)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1重量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0101】
アイゾット衝撃試験の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0102】
A:250J/m以上
B:200J/m以上250J/m未満
C:150J/m以上200J/m未満
D:150J/m未満。
【0103】
参考例1.炭素繊維1
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0104】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.06
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0105】
ここで表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行ったあとの炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0106】
参考例2.炭素繊維2
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0107】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.12
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0108】
参考例3.プロピレン系樹脂の混合物PP(1)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−1)(プロピレンから導かれる構成単位(以下「C3」とも記載する)=66モル%、Mw=90,000)91重量部、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)9重量部、界面活性剤として、オレイン酸カリウム3重量部を混合した。この混合物を2軸スクリュー押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM−30,L/D=40)のホッパーより3000g/時間の速度で供給し、同押出機のベント部に設けた供給口より、20%の水酸化カリウム水溶液を90g/時間の割合で連続的に供給し、加熱温度210℃で連続的に押出した。押出した樹脂混合物を、同押出機口に設置したジャケット付きスタティックミキサーで110℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入してエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは固形分濃度:45%であった。
【0109】
尚、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)は、プロピレン・エチレン共重合体 96重量部、無水マレイン酸 4重量部、および重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)0.4重量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って得られた。
【0110】
参考例4.プロピレン系樹脂の混合物PP(2)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=98モル%、Mw=5,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0111】
参考例5.プロピレン系樹脂の混合物PP(3)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=95モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.1ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0112】
参考例6.プロピレン系樹脂の混合物PP(4)の調整
20%水酸化カリウム水溶液の供給量を90g/時間から43g/時間に変更した以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0113】
参考例7.プロピレン系樹脂の混合物PP(5)の調整
20%水酸化カリウム水溶液を20%アンモニア水に変更し、供給量を90g/時間から150g/時間に変更した以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0114】
参考例8.プロピレン系樹脂の混合物PP(6)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=95モル%、Mw=40,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0115】
参考例9.プロピレン系樹脂の混合物PP(7)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−1)(C3=66モル%、Mw=90,000)45.5重量部と、プロピレン・ブテン共重合体(B−2)(C3=81モル%、Mw=300,000)45.5重量部との混合樹脂を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0116】
参考例10.プロピレン系樹脂の混合物PP(8)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、無水マレイン酸変性プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−3)(C3=66モル%、Mw=70,000、酸含有量:0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0117】
参考例11.プロピレン系樹脂の混合物PP(9)の調整
無変性のポリプロピレン樹脂(重量平均分子量100,000)を粉砕し、平均粒径10μmのポリプロピレン樹脂パウダーを得た。該パウダーをn−ヘキサン中に投入し、撹拌することで無変性ポリプロピレン樹脂の懸濁液を調整した。固形分濃度は45%であった。
【0118】
参考例12.プロピレン系樹脂の混合物PP(10)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料に用いた無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(B−4)(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0119】
参考例13.プロピレン系樹脂の混合物PP(11)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=95モル%、Mw=200,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0120】
参考例14.プロピレン系樹脂の混合物PP(12)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−1)(プロピレンから導かれる構成単位(以下「C3」とも記載する)=66モル%、Mw=90,000)50重量部、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)50重量部とを用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0121】
参考例15.第3のプロピレン系樹脂(D)に用いる酸変性プロピレン樹脂の合成
プロピレン重合体 99.6重量部、無水マレイン酸 0.4重量部、および重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)0.4重量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って、酸変性ポリプロピレン樹脂(Mw=400,000、酸含有量=0.08ミリモル当量)得た。
【0122】
実施例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維束に、参考例3で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンを固形分濃度27重量%に調整してローラー含浸法にて付着させた後、オンラインで210℃で2分間乾燥し、水分を除去して炭素繊維束と第1および第2のプロピレン系樹脂との複合体を得た。得られた複合体の特性を表1に記載した。プロピレン系樹脂の混合物PP(1)の付着量は20重量%であった。
【0123】
次いでポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)を200℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた連続した強化繊維束(A)と第1および第2のプロピレン系樹脂からなるストランドも上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(D)を成分(A)、成分(B)および成分(C)の複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(D)の量を調整した。
【0124】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。
【0125】
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた成形材料を80℃、5時間以上真空下で乾燥させた。得られた成形材料を、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:210℃、金型温度:60℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0126】
実施例2.
第3のプロピレン系樹脂(D)に、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)50重量%と、参考例15で作製した酸変性プロピレン系樹脂50重量%とからなる樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0127】
実施例3.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンの固形分濃度を10重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0128】
実施例4.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンの固形分濃度を45重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0129】
実施例5.
参考例14で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(12)のエマルジョンの固形分濃度35%を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0130】
実施例6.
参考例4で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(2)のエマルジョンの固形分濃度27重量%を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0131】
実施例7.
押出機を用いて炭素繊維束にポリプロピレン樹脂を被覆する前に、該炭素繊維束にヤスハラケミカル社製“クリアロン”K110(テルペン系水素添加樹脂)を15重量%となるように含浸させてから、ポリプロピレン樹脂を被覆したこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0132】
実施例8.
参考例5で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(3)のエマルジョンを用いた以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0133】
実施例9.
参考例6で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(4)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0134】
実施例10.
参考例7で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(5)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0135】
実施例11.
参考例8で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(6)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0136】
実施例12.
参考例9で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(7)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0137】
実施例13.
参考例10で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(8)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0138】
実施例14.
参考例2で得られた連続炭素繊維を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0139】
実施例15.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンをローラー含浸法にて付着させる前に、炭素繊維束に10cmあたり5回の撚りを加えておき、エマルジョンを含浸させたこと以外は実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0140】
比較例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維束にプロピレン系樹脂の混合物を付着させずにそのまま評価に供した。長繊維ペレット作製時に炭素繊維が毛羽立ち、これ以上プロセスを進めることができなくなった。
【0141】
比較例2.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンをローラー含浸法にて付着させた後に、再度炭素繊維束に同じ濃度のエマルジョンをローラー含浸法にて付着させたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0142】
比較例3.
参考例11で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(9)の懸濁液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0143】
比較例4.
参考例12で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(10)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0144】
比較例5.
参考例13で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(11)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
以上のように、実施例1〜15においては、成形材料(長繊維ペレット)は取扱い性に優れ、また該成形材料を用いることで力学特性に優れた成形品を得ることができた。
【0149】
一方比較例1においては、炭素繊維束に何も付着させておらず、成形材料(長繊維ペレット)作製が不可能であった。また、比較例2〜5では繊維分散性、力学特性を両立できる成形材料は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の強化繊維束は取り扱い性に優れ、マトリックス樹脂にポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン樹脂を用いた場合に優れた接着性を発揮し、高い力学特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることが可能であり、種々の用途に展開できる。特に自動車部品、電気・電子部品、家庭・事務電気製品部品に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0152】
1 強化繊維束(A)
2 第2のプロピレン系樹脂(B)および第3のプロピレン系樹脂(C)
3 強化繊維束(A)と第2のプロピレン系樹脂(B)および第3のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体
4 第3のプロピレン系樹脂(D)
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂をマトリックスとする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に関する。さらに詳しくは、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性を活かして成形を容易にし、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0003】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
【0004】
一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題がある。低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。従って、得られた成形品は、強化繊維の繊維長を従来よりも上げることができ、良好な力学特性と、優れた外観品位を合わせ持つことができる。
【0006】
しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになり、成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料により軽量性・経済性が求められるようになり、マトリックス樹脂には軽量なオレフィン系樹脂、とりわけプロピレン系樹脂が使用されるようになってきた。特許文献2には、酸変性オレフィン系樹脂を、酸基と反応可能な官能基を有するサイジング剤で処理した炭素繊維に含浸させた長繊維ペレットが開示されている。しかしながら、熱可塑性樹脂は酸変性オレフィン系樹脂のみであり、粘度が高いため炭素繊維束をマトリックス樹脂中に分散させるのが非常に困難となり、成形品の力学特性や外観には課題があった。
【0007】
かかる状況において、極性の低いオレフィン系樹脂をマトリックス樹脂に用いた場合においても高い力学特性を発揮し、強化繊維の分散性も良好な長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が要求されるようになってきた。
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【特許文献2】特開2005−125581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の背景に鑑み、プロピレン系樹脂をマトリックスとする長繊維強化熱可塑性樹脂の射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記課題を達成することができる、次の成形材料を見出した。
【0010】
(1)下記成分(A)〜(D)を有してなる成形材料であって、該成分(A)〜(C)を有してなる複合体に、該成分(D)が接着されており、重量平均分子量Mwの序列が成分(D)>成分(B)>成分(C)である成形材料。
(A)強化繊維束 1〜75重量%
(B)第1のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(C)重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(D)第3のプロピレン系樹脂 5〜98.98重量%
(2)前記成分(C)が、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量の濃度でカルボン酸塩を少なくとも有してなる、(1)に記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
(3)前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩より選択される、1種または2種以上の金属塩で転化されてなるものである、(1)または(2)のいずれかに記載の成形材料。
【0011】
(4)前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、アンモニウム塩で転化されてなるものである、(1)または(2)に記載の強化繊維束。
【0012】
(5)前記成分(C)の重量平均分子量Mwが1,000〜50,000の範囲である、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形材料。
【0013】
(6)前記成分(B)が、重量平均分子量Mwが30,000以上150,000未満の範囲であるプロピレン系樹脂(B−1)30〜100重量%と、重量平均分子量Mwが150,000以上500,000以下の範囲であるプロピレン系樹脂(B−2)0〜70重量%とを有してなる、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料。
【0014】
(7)前記成分(B)が、プロピレンから導かれる構成単位50モル%以上を有してなる、(1)〜(6)のいずれかに記載の成形材料。
【0015】
(8)前記成分(B)が、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも有してなり、重量平均分子量Mwが50,000を超えて150,000以下である、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形材料。
【0016】
(9)前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなる、(1)〜(8)のいずれかに記載の成形材料。
【0017】
(10)前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(D−1)5〜50重量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(D−2)50〜95重量%とを有してなる、(9)に記載の成形材料。
【0018】
(11)カルボン酸および/またはその塩の基の、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算でのミリモル当量の序列が、成分(C)≧成分(B)≧成分(D)である、(8)〜(10)のいずれかに記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
(12)前記成分(A)の強化繊維が、炭素繊維である、(1)〜(11)のいずれかに記載の成形材料。
【0019】
(13)前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、(12)に記載の成形材料。
【0020】
(14)前記成分(A)の強化繊維束が、20,000〜100,000本の単繊維からなる、(1)〜(13)のいずれかに記載の成形材料。
【0021】
(15)前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、(1)〜(14)のいずれかに記載の成形材料。
【0022】
(16)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(15)のいずれかに記載の成形材料。
【0023】
(17)前記複合体が芯構造であり、前記成分(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、(16)に記載の成形材料。
【0024】
(18)前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、(1)〜(17)のいずれかに記載の成形材料。
【0025】
(19)前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、(1)〜(18)のいずれかに記載の成形材料。
【発明の効果】
【0026】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、かつ力学特性に優れた成形品を製造でき、またプロピレン系樹脂を用いているため軽量性に優れた成形品を得ることができる。本発明の成形材料は、自動車、電気・電子機器、家電製品などの各種部品・部材に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、強化繊維束(A)、第1のプロピレン系樹脂(B)、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂(C)、第3のプロピレン系樹脂(D)を有してなる成形材料である。まず、これらの構成要素について説明する。
【0028】
本発明に係る強化繊維束としては特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0029】
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが例示できる。
【0030】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0031】
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とする。
【0032】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0033】
また、強化繊維の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。強化繊維束の単糸数には、特に制限はなく、100〜350,000本の範囲内で使用することができ、とりわけ1,000〜250,000本の範囲内で使用することが好ましい。また強化繊維の生産性の観点からは、単糸数が多いものが好ましく、20,000〜100,000本の範囲内で使用することが好ましい。本発明の効果である、射出成形の際に強化繊維の成形品中への分散が良好である点は、より単糸数の多い強化繊維束に対しても優れた効果を発揮でき、生産性と成形品特性とを両立できる。
【0034】
本発明の成形材料に用いられる、強化繊維束(A)とは、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることを意味するが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
【0035】
本発明の第1のプロピレン系樹脂(B)は、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体が挙げられる。
【0036】
α−オレフィンを構成する単量体繰り返し単位には、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンを構成する単量体繰り返し単位にはブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられ、これらその他の単量体繰り返し単位には、1種類または2種類以上を選択することができる。
【0037】
第1のプロピレン系樹脂(B)の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロック共重合体、または他の熱可塑性単量体との共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0038】
とりわけ、第3のプロピレン系樹脂(D)との親和性を高めるために、第1のプロピレン系樹脂(B)はプロピレンから導かれる構成単位を50モル%以上有してなることが好ましい。さらに、第1のプロピレン系樹脂(B)の結晶性を落として第2のプロピレン系樹脂(C)との親和性を高め、得られる成形品の強度を高めるために、第1のプロピレン系樹脂(B)はプロピレンから導かれる構成単位を50〜99モル%有してなることが好ましく、より好ましくは55〜98モル%、さらに好ましくは60〜97モル%を有してなることである。 プロピレン系樹脂における前記単量体繰り返し単位の同定には、IR、NMR、質量分析および元素分析等の通常の高分子化合物の分析手法を用いて行うことができる。
【0039】
第2のプロピレン系樹脂(C)は、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂である。これは強化繊維との相互作用を高めるうえでカルボン酸塩を含むことが効果的であるためである。
【0040】
上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料としては、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体で代表される、プロピレンとα−オレフィンの単独または2種類以上との共重合体に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/またはケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。上記プロピレンとα−オレフィンの単独または2種類以上との共重合体の単量体繰り返し単位および骨格構造は、第1のプロピレン系樹脂(B)と同様の考えで選定することができる。
【0041】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、およびケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、たとえば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物が挙げられ、またこれらのエステル、さらにはオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物なども挙げられる。
【0042】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸 TM(エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
【0043】
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、N、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジエチルアミノエチル(メタアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N、N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
【0044】
これらの単量体は単独で用いることもできるし、また2種類以上のものを用いることもできる。また、これらの中でも、酸無水物類が好ましく、さらには無水マレイン酸が好ましい。
【0045】
上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料は、種々の方法で得ることができるが、例えば、有機溶剤中でプロピレン系樹脂と不飽和ビニル基を有するエチレン系不飽和カルボン酸やオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体とを重合開始剤の存在下で反応させた後に脱溶剤する方法や、プロピレン系樹脂を加熱溶融し得られた溶融物に不飽和ビニル基を有するカルボン酸および重合開始剤を攪拌下で反応させる方法や、プロピレン系樹脂と不飽和ビニル基を有するカルボン酸と重合開始剤とを混合したものを押出機に供給して加熱混練しながら反応させる方法等を挙げることができる。
【0046】
ここで重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3、1,4−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
また有機溶剤としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、イソオクタン、イソデカン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、n−酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3メトキシブチルアセテート等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等の有機溶剤を用いることができ、またこれらの2種以上からなる混合物であっても構わない。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素がより好適に用いられる。
【0048】
上記のように得られた第2のプロピレン系樹脂(C)の原料を中和またはケン化することにより、第2のプロピレン系樹脂(C)を得ることができる。中和またはケン化する場合には、上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料を水分散体にして処理することが容易であり好ましい。
【0049】
上記第2のプロピレン系樹脂(C)の原料の水分散体の中和またはケン化に用いる塩基性物質としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属および/またはその他金属類、ヒドロキシルアミン、水酸化アンモニウム等の無機アミン、アンモニア、(トリ)メチルアミン、(トリ)エタノールアミン、(トリ)エチルアミン、ジメチルエタノールアミン、モルフォリン等の有機アミン、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および/またはその他金属類、水酸化物、水素化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属および/またはその他金属類の弱酸塩を挙げることができる。塩基物質により中和またはケン化されたカルボン酸塩の基あるいはカルボン酸エステル基としては、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩またはカルボン酸アンモニウムが好適である。
【0050】
また、中和度またはけん化度、すなわち、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料が有するカルボン酸基の上記金属塩やアンモニウム塩等への転化率は、水分散体の安定性と、繊維との接着性の観点より、通常50〜100%、好ましくは70〜100%、更に好ましくは85〜100%である。したがって、上記第2のプロピレン系樹脂(C)におけるカルボン酸基は、上記塩基物質によりすべて中和またはケン化されていることが望ましいが、中和またはケン化されずに一部カルボン酸基が残存していてもよい。上記のような酸基の塩成分を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を行う方法や、IR、NMR、質量分析および元素分析等を用いて酸基の塩の構造を同定する方法が挙げられる。
【0051】
ここでカルボン酸基の中和塩への転化率は、加熱トルエン中にプロピレン系樹脂を溶解し、0.1規定の水酸化カリウム−エタノール標準液で滴定し、プロピレン系樹脂の酸価を下式より求め、元のカルボン酸基の総モル数と比較して算出する。
【0052】
酸価=(5.611×A×F)/B (mgKOH/g)
A:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)
F:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター
B:試料採取量(g)。
【0053】
上記で算出した酸価を下式を用いて中和されていないカルボン酸基のモル数に換算する。
【0054】
中和されていないカルボン酸基のモル数=酸価×1000/56(モル/g)。
カルボン酸基の中和塩への転化率は、別途IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸基のカルボニル炭素の定量をおこなって算出したカルボン酸基の総モル数(モル/g)を用いて下式にて算出する。
【0055】
転化率%=(1−r)×100(%)
r:中和されていないカルボン酸基のモル数/カルボン酸基の総モル数。
【0056】
また、強化繊維との相互作用を高める観点から、前記第2のプロピレン系樹脂(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の含有量は、第2のプロピレン系樹脂1g当たり、−C(=O)−O−で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量であることが好ましい。より好ましくは0.1〜4ミリモル当量、さらに好ましくは0.3〜3ミリモル当量である。上記のようなカルボン酸塩の含有量を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を定量的に行う方法や、IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸塩のカルボニル炭素の定量をおこなう方法が挙げられる。
【0057】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に第3のプロピレン系樹脂(D)が接着するように配置されており、成分(B)、(C)、(D)の重量平均分子量の序列が(D)>(B)>(C)となる成形材料である。
【0058】
強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)は、この三者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間に第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物が満たされている。すなわち、第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物の海に、強化繊維(A)が島のように分散している状態である。
【0059】
本発明の成形材料において、第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物が強化繊維束(A)に良好に含浸した複合体とすることで、第3のプロピレン系樹脂(D)とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)との混合物が、第3のプロピレン系樹脂(D)に拡散し、強化繊維束(A)が第3のプロピレン系樹脂(D)に分散することを助け、同時に第3のプロピレン系樹脂(D)が強化繊維束(A)に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。この役割を達成するうえで、成分(B)、(C)、(D)の重量平均分子量の序列が(D)>(B)>(C)であれば、成分(B)、(C)が容易に成分(D)中に拡散可能となる。
【0060】
上記した含浸助剤・分散助剤としての役割を果たす観点および第1のプロピレン系樹脂(B)との分子鎖同士の絡み合いを形成し、第1のプロピレン系樹脂(B)との相互作用を高める観点とから、第2のプロピレン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwは、1,000〜50,000であることが好ましい。より好ましくは2,000〜40,000、さらに好ましくは5,000〜30,000である。なお重量平均分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定する。
【0061】
また、第1のプロピレン系樹脂(B)は、上記した含浸助剤・分散助剤としての役割を果たす観点および第3のプロピレン系樹脂(D)との親和性の観点から、重量平均分子量Mwが30,000以上150,000未満であるプロピレン系樹脂(B−1)を30〜100重量%と、重量平均分子量Mwが150,000以上500,000以下であるプロピレン系樹脂(B−2)を0〜70重量%とを有してなることが好ましい。プロピレン系樹脂(B−1)の重量平均分子量Mwは好ましくは35,000以上140,000以下である。またプロピレン系樹脂(B−2)の重量平均分子量Mwは好ましくは150,000以上450,000以下である。上限については重量平均分子量Mwが大きくなりすぎると、含浸助剤・分散助剤としての役割を果たすことが困難になる場合があり、上記する範囲内とすることが好ましい。配合量は、より好ましくはプロピレン系樹脂(B−1)を35〜100重量%と、プロピレン系樹脂(B−2)を0〜65重量%である。
【0062】
本発明の第3のプロピレン系樹脂(D)は、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体が挙げられる。
【0063】
α−オレフィンを構成する単量体繰り返し単位には、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンを構成する単量体繰り返し単位にはブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられ、これらその他の単量体繰り返し単位には、1種類または2種類以上を選択することができる。
【0064】
第3のプロピレン系樹脂(D)の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のうちの1種類または2種類以上のランダムあるいはブロック共重合体、または他の熱可塑性単量体との共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0065】
また第3のプロピレン系樹脂(D)は、本発明の目的を損なわない範囲で、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0066】
ここで第3のプロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量は前記したように序列が成分(D)>(B)>(C)となることが重要である。つまり第3のプロピレン系樹脂(D)は本発明の成形材料を成形した成形品におけるいわばマトリックス樹脂としての役割を果たすため、樹脂自体の強度が要求されることから重量平均分子量を成分(B)、(C)よりも高くすることが重要である。
【0067】
また第3のプロピレン系樹脂(D)は得られる成形品の力学特性を向上させる観点より、変性プロピレン系樹脂であることが好ましい。好ましくは酸変性プロピレン系樹脂であり、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である。上記酸変性プロピレン系樹脂は、種々の方法で得ることができ、例えば前記した第2のプロピレン系樹脂(B)の原料や、第2のプロピレン系樹脂の製造例と同様の方法である。
【0068】
第3のプロピレン系樹脂(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなるプロピレン系樹脂である場合には、該樹脂の力学特性を高く保つことと、原料コストを考慮し、無変性のプロピレン系樹脂との混合物とすることが好ましい。具体的には重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(D−1)5〜50重量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(D−2)50〜95重量%とを有してなることが好ましい。より好ましくは成分(D−1)が5〜45重量%、成分(D−2)が55〜95重量%、さらに好ましくは成分(D−1)が5〜35重量%、成分(D−2)が65〜95重量%である。
【0069】
第3のプロピレン系樹脂(D)が酸変性プロピレン系樹脂である場合には、前記第1のプロピレン系樹脂(B)も変性されていることが、親和性を高めるうえで好ましい。具体的には第1のプロピレン系樹脂(B)が、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも有してなることである。また前記したように第1のプロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwは第2のプロピレン系樹脂(C)の重量平均分子量Mwよりも大きくなることが必要であり、具体的には第1のプロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwは重量平均分子量Mwが50,000を超えて150,000以下であることが好ましい。より好ましくは60,000〜130,000である。前記重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第1のプロピレン系樹脂(B)の製造方法としては、前述の第2のプロピレン系樹脂(C)と同様にして製造することができる。
【0070】
前記第1〜第3のプロピレン系樹脂が重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂である場合、そのカルボン酸および/またはその塩の含有量は、樹脂1g当たり−C(=O)−O−で表される基換算での総量、すなわち、樹脂1g当たり−C(=O)−O−でのミリモル当量の序列が成分(C)≧成分(B)≧成分(D)であることが好ましい。これは強化繊維に複合されている第1、第2のプロピレン系樹脂は強化繊維への密着性の観点から、より多くの酸変性量が好ましく、特に重量平均分子量の小さな第2のプロピレン系樹脂(C)は強化繊維近傍に存在させて、より強化繊維との密着性および強化繊維の分散性を向上させるうえで、最も酸変性量が多いことが好ましい。第3のプロピレン系樹脂(A)の酸変性量は、樹脂コストの観点から、強化繊維との相互作用を考慮した第1、第2のプロピレン系樹脂よりも少ないことが好ましい。
【0071】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)、第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および第3のプロピレン系樹脂(D)で構成され、各構成成分の合計が100重量%となる。
【0072】
このうち、強化繊維束(A)は1〜75重量%、好ましくは5〜65重量%、より好ましくは10〜50重量%である。強化繊維束(A)が1重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、75重量%を超えると射出成形の際に流動性が低下する場合がある。
【0073】
また、第1のプロピレン系樹脂(B)は0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜9重量%、より好ましくは1〜8重量%である。さらに第2のプロピレン系樹脂(C)は0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜9重量%、より好ましくは1〜8重量%である。第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)が0.1重量%未満では、成形材料の成形性、すなわち成形時の強化繊維の分散が不十分となる場合があり、10重量%を超えると、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の力学特性を低下させる場合がある。また、第3のプロピレン系樹脂(D)は5〜98.98重量%、好ましくは25〜94重量%、より好ましくは50〜88重量%であり、この範囲内で用いることで、本発明の効果を達成することができる。
【0074】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に第3のプロピレン系樹脂(D)が接着するように配置されて構成される成形材料である。成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維束(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0075】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30重量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20重量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。強化繊維束(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0076】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0077】
成形材料の断面の形状は、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に、第3のプロピレン系樹脂(D)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり第3のプロピレン系樹脂(D)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0078】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、第3のプロピレン系樹脂(D)が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を第3のプロピレン系樹脂(D)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0079】
複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)の境界は接着され、境界付近で部分的に第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の一部に入り込み、複合体中の第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0080】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0081】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に、第3のプロピレン系樹脂(D)を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、重量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0082】
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維である強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体に対して、第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維である強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体が芯構造であり、第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。このような配置であれば、複合体が第3のプロピレン系樹脂(D)をより強固な複合化ができる。また、第3のプロピレン系樹脂(D)が強化繊維束(A)と第1のプロピレン樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と第3のプロピレン系樹脂(D)が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、第3のプロピレン系樹脂(D)が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0083】
前述したように、強化繊維束(A)は第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および一部の第3のプロピレン系樹脂(D)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維と第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および一部の第3のプロピレン系樹脂(D)からなる複合体にはある程度の空隙が存在する。特に強化繊維の含有率が大きい場合には空隙が多くなるが、ある程度の空隙が存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただし空隙率が20%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、空隙率は0〜20%の範囲が好ましい。より好ましい空隙率の範囲は15%以下である。空隙率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定するか、または成形材料の断面において、強化繊維束(A)と第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および一部の第3のプロピレン系樹脂(D)により形成される複合体部分に存在する空隙を観察し、複合体部の全面積と空隙部の全面積とから次式を用いて算出することができる。
【0084】
空隙率(%)=空隙部の全面積/(複合体部の全面積+空隙部の全面積)×100
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0085】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、軽量性、高強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
【0086】
本発明の成形材料は、公知の成形法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品に好適である。さらに電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。また、本発明の成形材料は、成形性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、プラズマディスプレーなどに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【0087】
また、上記した成形材料は射出成形用ペレットとして用いることができる。射出成形においては、ペレット状とした成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられるから、本発明によればその際に第1のプロピレン系樹脂(B)および第2のプロピレン系樹脂(C)が分散・含浸助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維がマトリックス樹脂中に良分散し、繊維への樹脂の含浸が良好な成形品を得ることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0089】
(1)プロピレン系樹脂の重量平均分子量測定
第1のプロピレン系樹脂(B)、第2のプロピレン系樹脂(C)および第3のプロピレン系樹脂(D)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。GPCカラムにはポリスチレン架橋ゲルを充填したものを用いた。溶媒に1,2,4−トリクロロベンゼンを用い、150℃にて測定した。分子量は標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0090】
(2)プロピレン系樹脂の構造解析
第1、第2および第3の各プロピレン系樹脂について、有機化合物元素分析、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析、IR(赤外吸収)スペクトル分析、1H−NMR測定および13C−NMR測定を実施し、プロピレン系樹脂の含有元素量、官能基構造の同定、各帰属プロトン、カーボンのピーク強度より単量体構造の含有割合について評価を実施した。
【0091】
有機化合物元素分析は、有機元素分析装置2400II(PerkinElmer社製)を用いて実施した。ICP発光分析はICPS−7510(島津製作所社製)を用いて実施した。IRスペクトル分析はIR−Prestige−21(島津製作所製)を用いて実施した。1H−NMR測定および13C−NMR測定はJEOL JNM−GX400スペクトロメーター(日本電子製)を用いて実施した。
【0092】
(3)複合体空隙率
ASTM D2734(1997)試験法に準拠して、複合体の空隙率(%)を算出した。
【0093】
複合体空隙率の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0094】
A:0〜5%未満
B:5%以上20%未満
C:20%以上40%未満
D:40%以上。
【0095】
(4)成形材料を用いて得られた成形品の繊維分散性
100mm×100mm×2mmの成形品を成形し、表裏それぞれの面に存在する未分散CF束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品についておこない、その合計個数について繊維分散性の判定を以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0096】
A:未分散CF束が1個以下
B:未分散CF束が1個以上5個未満
C:未分散CF束が5個以上10個未満
D:未分散CF束が10個以上。
【0097】
(5)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、"インストロン"(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0098】
曲げ強度の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0099】
A:150MPa以上
B:130MPa以上150MPa未満
C:100MPa以上130MPa未満
D:100MPa未満。
【0100】
(6)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1重量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0101】
アイゾット衝撃試験の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
【0102】
A:250J/m以上
B:200J/m以上250J/m未満
C:150J/m以上200J/m未満
D:150J/m未満。
【0103】
参考例1.炭素繊維1
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0104】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.06
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0105】
ここで表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行ったあとの炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0106】
参考例2.炭素繊維2
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0107】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
表面酸素濃度比 [O/C]:0.12
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa。
【0108】
参考例3.プロピレン系樹脂の混合物PP(1)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−1)(プロピレンから導かれる構成単位(以下「C3」とも記載する)=66モル%、Mw=90,000)91重量部、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)9重量部、界面活性剤として、オレイン酸カリウム3重量部を混合した。この混合物を2軸スクリュー押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM−30,L/D=40)のホッパーより3000g/時間の速度で供給し、同押出機のベント部に設けた供給口より、20%の水酸化カリウム水溶液を90g/時間の割合で連続的に供給し、加熱温度210℃で連続的に押出した。押出した樹脂混合物を、同押出機口に設置したジャケット付きスタティックミキサーで110℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入してエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは固形分濃度:45%であった。
【0109】
尚、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)は、プロピレン・エチレン共重合体 96重量部、無水マレイン酸 4重量部、および重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)0.4重量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って得られた。
【0110】
参考例4.プロピレン系樹脂の混合物PP(2)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=98モル%、Mw=5,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0111】
参考例5.プロピレン系樹脂の混合物PP(3)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=95モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.1ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0112】
参考例6.プロピレン系樹脂の混合物PP(4)の調整
20%水酸化カリウム水溶液の供給量を90g/時間から43g/時間に変更した以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0113】
参考例7.プロピレン系樹脂の混合物PP(5)の調整
20%水酸化カリウム水溶液を20%アンモニア水に変更し、供給量を90g/時間から150g/時間に変更した以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0114】
参考例8.プロピレン系樹脂の混合物PP(6)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=95モル%、Mw=40,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0115】
参考例9.プロピレン系樹脂の混合物PP(7)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−1)(C3=66モル%、Mw=90,000)45.5重量部と、プロピレン・ブテン共重合体(B−2)(C3=81モル%、Mw=300,000)45.5重量部との混合樹脂を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0116】
参考例10.プロピレン系樹脂の混合物PP(8)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、無水マレイン酸変性プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−3)(C3=66モル%、Mw=70,000、酸含有量:0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0117】
参考例11.プロピレン系樹脂の混合物PP(9)の調整
無変性のポリプロピレン樹脂(重量平均分子量100,000)を粉砕し、平均粒径10μmのポリプロピレン樹脂パウダーを得た。該パウダーをn−ヘキサン中に投入し、撹拌することで無変性ポリプロピレン樹脂の懸濁液を調整した。固形分濃度は45%であった。
【0118】
参考例12.プロピレン系樹脂の混合物PP(10)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料に用いた無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(B−4)(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0119】
参考例13.プロピレン系樹脂の混合物PP(11)の調整
第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン重合体(C3=95モル%、Mw=200,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)を用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0120】
参考例14.プロピレン系樹脂の混合物PP(12)の調整
第1のプロピレン系樹脂(B)として、プロピレン・ブテン・エチレン共重合体(B−1)(プロピレンから導かれる構成単位(以下「C3」とも記載する)=66モル%、Mw=90,000)50重量部、第2のプロピレン系樹脂(C)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体(C3=98モル%、Mw=25,000、酸含有量=0.81ミリモル当量)50重量部とを用いた以外は、参考例3と同様にしてエマルジョンを作製した。該エマルジョンは固形分濃度45重量%であった。
【0121】
参考例15.第3のプロピレン系樹脂(D)に用いる酸変性プロピレン樹脂の合成
プロピレン重合体 99.6重量部、無水マレイン酸 0.4重量部、および重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)0.4重量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って、酸変性ポリプロピレン樹脂(Mw=400,000、酸含有量=0.08ミリモル当量)得た。
【0122】
実施例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維束に、参考例3で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンを固形分濃度27重量%に調整してローラー含浸法にて付着させた後、オンラインで210℃で2分間乾燥し、水分を除去して炭素繊維束と第1および第2のプロピレン系樹脂との複合体を得た。得られた複合体の特性を表1に記載した。プロピレン系樹脂の混合物PP(1)の付着量は20重量%であった。
【0123】
次いでポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)を200℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた連続した強化繊維束(A)と第1および第2のプロピレン系樹脂からなるストランドも上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(D)を成分(A)、成分(B)および成分(C)の複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(D)の量を調整した。
【0124】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。
【0125】
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた成形材料を80℃、5時間以上真空下で乾燥させた。得られた成形材料を、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:210℃、金型温度:60℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0126】
実施例2.
第3のプロピレン系樹脂(D)に、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製プライムポリプロJ105G樹脂)50重量%と、参考例15で作製した酸変性プロピレン系樹脂50重量%とからなる樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0127】
実施例3.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンの固形分濃度を10重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0128】
実施例4.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンの固形分濃度を45重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0129】
実施例5.
参考例14で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(12)のエマルジョンの固形分濃度35%を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0130】
実施例6.
参考例4で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(2)のエマルジョンの固形分濃度27重量%を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0131】
実施例7.
押出機を用いて炭素繊維束にポリプロピレン樹脂を被覆する前に、該炭素繊維束にヤスハラケミカル社製“クリアロン”K110(テルペン系水素添加樹脂)を15重量%となるように含浸させてから、ポリプロピレン樹脂を被覆したこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0132】
実施例8.
参考例5で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(3)のエマルジョンを用いた以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0133】
実施例9.
参考例6で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(4)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0134】
実施例10.
参考例7で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(5)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0135】
実施例11.
参考例8で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(6)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0136】
実施例12.
参考例9で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(7)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0137】
実施例13.
参考例10で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(8)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0138】
実施例14.
参考例2で得られた連続炭素繊維を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0139】
実施例15.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンをローラー含浸法にて付着させる前に、炭素繊維束に10cmあたり5回の撚りを加えておき、エマルジョンを含浸させたこと以外は実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0140】
比較例1.
参考例1で得られた連続炭素繊維束にプロピレン系樹脂の混合物を付着させずにそのまま評価に供した。長繊維ペレット作製時に炭素繊維が毛羽立ち、これ以上プロセスを進めることができなくなった。
【0141】
比較例2.
プロピレン系樹脂の混合物PP(1)のエマルジョンをローラー含浸法にて付着させた後に、再度炭素繊維束に同じ濃度のエマルジョンをローラー含浸法にて付着させたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0142】
比較例3.
参考例11で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(9)の懸濁液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0143】
比較例4.
参考例12で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(10)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0144】
比較例5.
参考例13で調整したプロピレン系樹脂の混合物PP(11)のエマルジョンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを得、成形評価をおこなった。特性評価結果はまとめて表1に記載した。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
以上のように、実施例1〜15においては、成形材料(長繊維ペレット)は取扱い性に優れ、また該成形材料を用いることで力学特性に優れた成形品を得ることができた。
【0149】
一方比較例1においては、炭素繊維束に何も付着させておらず、成形材料(長繊維ペレット)作製が不可能であった。また、比較例2〜5では繊維分散性、力学特性を両立できる成形材料は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の強化繊維束は取り扱い性に優れ、マトリックス樹脂にポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン樹脂を用いた場合に優れた接着性を発揮し、高い力学特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることが可能であり、種々の用途に展開できる。特に自動車部品、電気・電子部品、家庭・事務電気製品部品に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0152】
1 強化繊維束(A)
2 第2のプロピレン系樹脂(B)および第3のプロピレン系樹脂(C)
3 強化繊維束(A)と第2のプロピレン系樹脂(B)および第3のプロピレン系樹脂(C)からなる複合体
4 第3のプロピレン系樹脂(D)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)〜(D)を有してなる成形材料であって、該成分(A)〜(C)を有してなる複合体に、該成分(D)が接着されており、重量平均分子量Mwの序列が成分(D)>成分(B)>成分(C)である成形材料。
(A)強化繊維束 1〜75重量%
(B)第1のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(C)重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(D)第3のプロピレン系樹脂 5〜98.98重量%
【請求項2】
前記成分(C)が、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量の濃度でカルボン酸塩を少なくとも有してなる、請求項1に記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
【請求項3】
前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩より選択される、1種または2種以上の金属塩で転化されてなるものである、請求項1または2のいずれかに記載の成形材料。
【請求項4】
前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、アンモニウム塩で転化されてなるものである、請求項1または2に記載の強化繊維束。
【請求項5】
前記成分(C)の重量平均分子量Mwが1,000〜50,000の範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(B)が、重量平均分子量Mwが30,000以上150,000未満の範囲であるプロピレン系樹脂(B−1)30〜100重量%と、重量平均分子量Mwが150,000以上500,000以下の範囲であるプロピレン系樹脂(B−2)0〜70重量%とを有してなる、請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記成分(B)が、プロピレンから導かれる構成単位50モル%以上を有してなる、請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記成分(B)が、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも有してなり、重量平均分子量Mwが50,000を超えて150,000以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の成形材料。
【請求項9】
前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなる、請求項1〜8のいずれかに記載の成形材料。
【請求項10】
前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(D−1)5〜50重量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(D−2)50〜95重量%とを有してなる、請求項9に記載の成形材料。
【請求項11】
カルボン酸および/またはその塩の基の、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算でのミリモル当量の序列が、成分(C)≧成分(B)≧成分(D)である、請求項8〜10のいずれかに記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
【請求項12】
前記成分(A)の強化繊維が、炭素繊維である、請求項1〜11のいずれかに記載の成形材料。
【請求項13】
前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、請求項12に記載の成形材料。
【請求項14】
前記成分(A)の強化繊維束が、20,000〜100,000本の単繊維からなる、請求項1〜13のいずれかに記載の成形材料。
【請求項15】
前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、請求項1〜14のいずれかに記載の成形材料。
【請求項16】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜15のいずれかに記載の成形材料。
【請求項17】
前記複合体が芯構造であり、前記成分(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、請求項16に記載の成形材料。
【請求項18】
前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、請求項1〜17のいずれかに記載の成形材料。
【請求項19】
前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、請求項1〜18のいずれかに記載の成形材料。
【請求項1】
下記成分(A)〜(D)を有してなる成形材料であって、該成分(A)〜(C)を有してなる複合体に、該成分(D)が接着されており、重量平均分子量Mwの序列が成分(D)>成分(B)>成分(C)である成形材料。
(A)強化繊維束 1〜75重量%
(B)第1のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(C)重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含む第2のプロピレン系樹脂 0.01〜10重量%
(D)第3のプロピレン系樹脂 5〜98.98重量%
【請求項2】
前記成分(C)が、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量の濃度でカルボン酸塩を少なくとも有してなる、請求項1に記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
【請求項3】
前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩より選択される、1種または2種以上の金属塩で転化されてなるものである、請求項1または2のいずれかに記載の成形材料。
【請求項4】
前記成分(C)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の50〜100%が、アンモニウム塩で転化されてなるものである、請求項1または2に記載の強化繊維束。
【請求項5】
前記成分(C)の重量平均分子量Mwが1,000〜50,000の範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(B)が、重量平均分子量Mwが30,000以上150,000未満の範囲であるプロピレン系樹脂(B−1)30〜100重量%と、重量平均分子量Mwが150,000以上500,000以下の範囲であるプロピレン系樹脂(B−2)0〜70重量%とを有してなる、請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記成分(B)が、プロピレンから導かれる構成単位50モル%以上を有してなる、請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記成分(B)が、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも有してなり、重量平均分子量Mwが50,000を超えて150,000以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の成形材料。
【請求項9】
前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有してなる、請求項1〜8のいずれかに記載の成形材料。
【請求項10】
前記成分(D)が、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するプロピレン系樹脂(D−1)5〜50重量%と、カルボン酸および/またはその塩の基を有しないプロピレン系樹脂(D−2)50〜95重量%とを有してなる、請求項9に記載の成形材料。
【請求項11】
カルボン酸および/またはその塩の基の、樹脂1グラム当たり、式(I)で表される基換算でのミリモル当量の序列が、成分(C)≧成分(B)≧成分(D)である、請求項8〜10のいずれかに記載の成形材料。
−C(=O)−O−・・・式(I)
【請求項12】
前記成分(A)の強化繊維が、炭素繊維である、請求項1〜11のいずれかに記載の成形材料。
【請求項13】
前記炭素繊維のX線光電子分光法(ESCA)で測定される表面酸素濃度比(O/C)が0.05〜0.5である、請求項12に記載の成形材料。
【請求項14】
前記成分(A)の強化繊維束が、20,000〜100,000本の単繊維からなる、請求項1〜13のいずれかに記載の成形材料。
【請求項15】
前記成形材料において、成分(A)に対する空隙率が20%以下である、請求項1〜14のいずれかに記載の成形材料。
【請求項16】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜15のいずれかに記載の成形材料。
【請求項17】
前記複合体が芯構造であり、前記成分(D)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、請求項16に記載の成形材料。
【請求項18】
前記成形材料の形態が長繊維ペレットである、請求項1〜17のいずれかに記載の成形材料。
【請求項19】
前記長繊維ペレットの長手方向の長さが1〜50mmである、請求項1〜18のいずれかに記載の成形材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−150358(P2010−150358A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329110(P2008−329110)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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