説明

成形構造体とその製造方法

【課題】 基材上に熱可塑性樹脂によって形成された取付体を固定した低コストな成形構造体と、その製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 繊維状のポリプロピレンとケナフ繊維とを混綿し、所定の厚さを有する板状のプレボード2Aを形成し、これを加熱した後、上型4と下型5との間で加圧する。この時、ブラケット3をプレボード2Aに押圧し、その外表面に設けられた突起部35を、プレボード2Aの表面に挿入する。プレボード2Aと接する表面積が増大するように、内部に中空部35aを備えた突起部35は、プレボード2Aの熱により溶融して、プレボード2Aの合成樹脂材料と混融する。その後、突起部35は、冷却されてプレボード2Aと一体的に固化し、トリムボード2上にブラケット3が強固に固定されることにより、ドアトリム1が完成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に熱可塑性樹脂によって形成された取付体を固定した成形構造体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然繊維あるいは合成繊維を合成樹脂材料によるバインダーでつないで形成された基材上に、熱可塑性樹脂材料によるブラケットを固定して形成した、内装基材に関する従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。これは、加熱した基材上にブラケットを押圧して、ブラケットの外表面に設けられた複数の突起を基材に挿入し、基材の熱によって突起を溶融させ、その後、冷却することにより突起を基材とともに固化させて、ブラケットを基材上に固定するものであった。これは、ブラケットの突起が基材と混融した後、基材と一体となって固化するものであって、接着剤あるいはリベット等を使用しなくとも、ブラケットを基材上に強固に固定することができるものであった。
【特許文献1】特開平8−229966号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来技術においては、ブラケットの基材への接合強度を向上させるために、突起を十分に溶融させようとすれば、基材に加える熱量を増大させる必要があり、そのためには、基材を加熱するオーブン等の設備を大型、高性能化しなければならず、加熱設備に要する費用が増大することになる。また、加熱のための燃料あるいは電気量も増大し、基材を形成するのに多大なコストを要することになる。
【0004】
基材に加える熱量を増大させずに、ブラケットの突起の溶融を進行させるために、突起を細くして、溶融に必要とする熱量を低減することが考えられる。しかしながら、そうすれば、突起の機械的強度が低下して、基材への挿入時に、突起の折損が発生する恐れがあった。本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、基材上に熱可塑性樹脂によって形成された取付体を固定した低コストな成形構造体と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、合成樹脂材料を含んだ基材を加熱した状態で、該基材上に、熱可塑性樹脂によって形成された取付体を押圧して、該取付体の外表面に設けられた突起部が前記基材の表面に挿入されるようにし、前記基材の熱により前記突起部が溶融した後、前記突起部が冷却されることにより、前記基材と一体的に固化して、前記基材上に前記取付体が固定された成形構造体において、前記突起部は、前記基材と接するその表面積が増大するような形状を呈していることを特徴とする成形構造体とした。
【0006】
請求項2の発明は、前記突起部は、前記基材に挿入される時に、前記基材側に位置する一端が開口した中空部を有することを特徴とする請求項1記載の成形構造体とした。
【0007】
請求項3の発明は、合成樹脂材料を含んだ基材を加熱する基材加熱工程、加熱された該基材上に、熱可塑性樹脂によって形成された取付体を押圧して、該取付体の外表面に設けられた突起部を前記基材の表面に挿入する取付体押圧工程、および前記基材の熱により前記突起部が溶融した後、前記突起部を冷却することにより、前記基材と一体的に固化して、前記基材上に前記取付体を固定する基材冷却工程によって構成された成形構造体の製造方法において、前記突起部は、前記基材と接するその表面積が増大するような形状を呈していることを特徴とする成形構造体の製造方法とした。
【発明の効果】
【0008】
<請求項1の発明>
突起部は、基材と接するその表面積が増大するような形状を呈していることにより、基材に加える熱量を増大しなくとも、突起部が基材から受ける熱量を増大させることができるため、突起部を十分に溶融させることができる。また、突起部は単純に細く形成されたわけではないため、十分な強度を有しており、基材に挿入する場合に折損することがない。
【0009】
<請求項2の発明>
突起部は、基材に挿入される時に、基材側に位置する一端が開口した中空部を有することにより、基材に挿入されると、基材の一部が中空部に進入するため、その外周面に加えて中空部が基材から熱を受け取り、その溶融状態をより進行させることができる。また、突起部は中実のものに比べて実質的な体積が少なく、基材からの熱量が少なくても、十分に溶融されることができる。
【0010】
<請求項3の発明>
突起部は、基材と接するその表面積が増大するような形状を呈していることにより、基材に加える熱量を増大しなくとも、突起部が基材から受ける熱量を増大させることができるため、突起部を十分に溶融させる成形構造体の製造方法にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を、図1乃至図9によって説明する。本発明の成形構造体に該当するドアトリム1は、図示しない車両ドアのインナパネルに装着されるもので、トリムボード2(本発明の基材に該当する。尚、本発明において基材とは、後述するように、ハンドリングのために嵩高な繊維マット体を押し固めたトリムボード2を形成する前の中間状態であるプレボード2Aをも含んだ概念である。)上にブラケット3(本発明の取付体に該当する。)が固定されて形成されている。トリムボード2は、靭皮植物繊維であるケナフ繊維を含んだ熱可塑性樹脂材料であるポリプロピレンによって形成された板材を、所定形状に成形したものである。ブラケット3は熱可塑性の合成樹脂材料であるポリプロピレンによって形成され、トリムボード2の車室外側に位置する面(図1において右側面)に固定されている(図2示)。
【0012】
図3及び図4に示すように、ブラケット3は一体に成形され、トリムボード2の取付面と対向する座板31上に箱形の取付部32が設けられている。取付部32の上面には、円形の係合孔33が貫通しており、係合孔33は、切欠部34を介して上面の一側端部に到達している。係合孔33には、切欠部34を通して樹脂クリップ(図示せず)が取り付けられ、樹脂クリップをインナパネルに装着することにより、ドアトリム1を車両ドアに取り付けることができる。また、座板31の下面からは、略円筒形状をした複数の突起部35が突出している。図5に示すように、各突起部35は内部に中空部35aを有し、この中空部35aは、軸方向に延びるとともに、先端側(トリムボード2に挿入される際に、トリムボード2側に位置する端部)が開口して、これによりトリムボード2と接する表面積が増大するようになっている。また、突起部35の外周面は、トリムボード2への挿入が容易となるように、先細り状となっている。
【0013】
次に、図6乃至図9に基づいて、ドアトリム1の製造方法について説明する。図6において、プレボード2Aは、繊維状のポリプロピレンとケナフ繊維とを混綿させた後、加熱しながらプレスすることにより、所定の厚さを有する板状に形成されている。プレボード2Aは、更に、約200℃に加熱された(基材加熱工程)後、上型4と下型5との間に配置される(図6示)。下型5中には、成形済みのブラケット3が、その突起部35のみを下型5の上面から突出させた状態に配置されている(図7示)。
【0014】
その後、上型4と下型5とを閉じて、ブラケット3をプレボード2Aに押圧し、その外表面に設けられた突起部35を、プレボード2Aの表面に挿入する(図8示、取付体押圧工程)。この時、中空部35aはプレボード2A側に位置する一端が開口しているため、中空部35a内にもプレボード2Aの一部は進入し、双方の接触面積を増大することができる。プレボード2Aの熱により、突起部35は溶融してプレボード2Aの合成樹脂材料と混融する(図9示)。その後、プレボード2Aは双方の型4、5間で圧縮されるとともに冷却され、その合成樹脂材料が固化してトリムボード2となる。この時、突起部35も冷却されてトリムボード2と一体的に固化して、ブラケット3がトリムボード2上に強固に固定されることにより(基材冷却工程)、ドアトリム1が完成する。
【0015】
本実施形態によれば、突起部35は、プレボード2Aと接するその表面積が増大するような形状を呈していることにより、プレボード2Aに加える熱量を増大しなくとも、突起部35がプレボード2Aから受ける熱量を増大させることができるため、突起部35を十分に溶融させることができる。また、突起部35は単純に細く形成されたわけではないため、十分な強度を有しており、プレボード2Aに挿入する場合に折損することがない。
【0016】
また、突起部35は、プレボード2Aに挿入される時に、プレボード2A側に位置する一端が開口した中空部35aを有することにより、プレボード2Aに挿入されると、プレボード2Aの一部が中空部35aに進入するため、その外周面に加えて、中空部35aの内周面がプレボード2Aから熱を受け取り、その溶融状態をより進行させることができる。また、突起部35は中実のものに比べて実質的な体積が少なく、プレボード2Aからの熱量が少なくても、十分に溶融されることができる。また、突起部35は、プレボード2Aと接するその表面積が増大するような形状を呈していることにより、プレボード2Aに加える熱量を増大しなくとも、突起部35がプレボード2Aから受ける熱量を増大させることができるため、突起部35を十分に溶融させるドアトリム1の製造方法にすることができる。
【0017】
<実施形態2>
本発明の実施形態2を、図10(A)によって説明する。図10(A)に示したように、トリムボード2に接する表面積を増大させるために、突起部36は、軸方向に延びる凹部36aを備えている。これにより、突起部36は、その軸方向に垂直な断面形状が略C形状をしており、凹部36aの外部と連通している部位だけ、実施形態1による突起部35よりも、更にその表面積が増大している。従って、他の温度条件等が同じであれば、突起部35以上に、トリムボード2から受ける熱量を増大させることができ、いっそう溶融を進行させることができる。
【0018】
<実施形態3>
本発明の実施形態3を図10(B)によって説明する。図10(B)に示したように、突起部37は、その外周面に複数の突出部37aが形成され、その軸方向に垂直な断面形状が略星形をしており、更に、その表面積が増大している。尚、突起部37の断面中央部に、実施形態1のように先端側が開口した中空部を更に設けてもよい。
【0019】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)突起部の形状は、上述した実施形態によるもののみでなく、トリムボードと接する表面積を増大するものであれば、どのような形状であってもよい。
(2)本発明は、ドアトリムばかりでなく、他の車両用内装部材、あるいは住宅用内装部材等にも適用可能である。
(3)トリムボードのバインダーとしての合成樹脂材料は、熱硬化性樹脂でもよい。
(4)トリムボードは繊維を含まず、単一の合成樹脂材料にて形成されていてもよい。
(5)トリムボードがプレボード状態を経由して形成する過程を踏まず、繊維マット体からトリムボードを直接押圧成形する際に、取付体の突起部を繊維マット体に挿入して、取付体を形成されるトリムボード上に固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1によるドアトリムの断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図1に示したブラケットの斜視図である。
【図4】図3に示したブラケットの断面図である。
【図5】図3に示したブラケットが有する突起部の軸方向断面図(A)、およびそのA−A断面図(B)である。
【図6】双方の型間にプレボードを配置したところを示した断面図である。
【図7】図6の部分拡大図である。
【図8】双方の型を閉じてドアトリムを成形したところを示した断面図である。
【図9】図8の部分拡大図である。
【図10】実施形態2による突起部の軸方向に対して垂直な断面図(A)、および実施形態3による突起部の軸方向に対して垂直な断面図(B)である。
【符号の説明】
【0021】
1…ドアトリム
2…トリムボード
2A…プレボード
3…ブラケット
35、36、37…突起部
35a…中空部
36a…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材料を含んだ基材を加熱した状態で、該基材上に、熱可塑性樹脂によって形成された取付体を押圧して、該取付体の外表面に設けられた突起部が前記基材の表面に挿入されるようにし、前記基材の熱により前記突起部が溶融した後、前記突起部が冷却されることにより、前記基材と一体的に固化して、前記基材上に前記取付体が固定された成形構造体において、
前記突起部は、前記基材と接するその表面積が増大するような形状を呈していることを特徴とする成形構造体。
【請求項2】
前記突起部は、前記基材に挿入される時に、前記基材側に位置する一端が開口した中空部を有することを特徴とする請求項1記載の成形構造体。
【請求項3】
合成樹脂材料を含んだ基材を加熱する基材加熱工程、
加熱された該基材上に、熱可塑性樹脂によって形成された取付体を押圧して、該取付体の外表面に設けられた突起部を前記基材の表面に挿入する取付体押圧工程、および
前記基材の熱により前記突起部が溶融した後、前記突起部を冷却することにより、前記基材と一体的に固化して、前記基材上に前記取付体を固定する基材冷却工程によって構成された成形構造体の製造方法において、
前記突起部は、前記基材と接するその表面積が増大するような形状を呈していることを特徴とする成形構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−62301(P2007−62301A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254328(P2005−254328)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】