説明

成形用樹脂シート及び成形体

【課題】ポリカーボネート系樹脂を主材料として用いた樹脂シートにおいて、熱成形した時、特に深絞り成形した時であっても、白化、クラック、発泡が生じない成形用樹脂シートを提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えた積層シートであって、該ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内である成形用樹脂シートを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂を主材料として用いた樹脂シートであって、真空成形や圧空成形など熱成形するのに好適な成形用樹脂シート、及びこの成形用樹脂シートを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート系樹脂は、透明性に優れるばかりか、ガラスと比較して加工性、耐衝撃性に優れるばかりか、他のプラスチック材料に比べて有毒ガスの心配もないため、様々な分野で広く用いられており、真空成形や圧空成形などの熱成形用材料としても使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリカーボネート系樹脂は、一般的に表面硬度が低いため、ポリカーボネート系樹脂からなる成形品の表面に傷が入り易いという問題点を抱えていた。そこで従来、ポリカーボネート系樹脂層の表面にアクリル系樹脂からなる保護層を形成し、製品表面に傷が入らないようにする提案が為されている。
【0004】
例えば特許文献1では、ポリカーボネート系樹脂層の一方の面に、厚さ50〜120μmのアクリル系樹脂層を共押出しによって積層して総厚さを0.5〜1.2mmとする積層体が提案されている。
【0005】
また、特許文献2においては、携帯型情報端末の表示窓保護板に好適な耐擦傷性アクリルフィルムとして、メタクリル樹脂中にゴム粒子を分散させたアクリル系樹脂層を含むアクリルフィルムにハードコート処理を施して耐擦傷性を付与してなる耐擦傷性アクリルフィルムが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−103169号公報
【特許文献2】特開2004−143365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ポリカーボネート系樹脂層の表面にアクリル系樹脂からなる保護層を形成した場合、一般的にアクリル系樹脂はポリカーボネート系樹脂に比べて伸び難いため、熱成形した時、特に深絞り成形した時に、ポリカーボネート系樹脂層とアクリル系樹脂層との界面に剥離が生じて表面が白化したり、クラックが生じたりすることがあった。また、熱成形前に十分に乾燥させないと、発泡することもあった。
【0008】
そこで本発明は、かかる積層構造を備えた成形用樹脂シートにおいて、熱成形した時、特に深絞り成形した時であっても、白化やクラック、さらには発泡が生じない新たな成形用樹脂シート、及びこれを成形してなる成形体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えた積層シートであって、該ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内であることを特徴とする成形用樹脂シートを提案する。
【0010】
本発明の成形用樹脂シートは、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えているため、成形用樹脂シートの被覆層表面、並びに該成形用樹脂シートを成形してなる製品表面に傷が入り難いという特徴を備えている。
しかも、基材層の主成分であるポリカーボネート系樹脂組成物(A)と、被覆層の主成分であるアクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差(絶対値)を30℃以内に設定したことにより、熱成形した時、特に深絞り成形した時にも、白化やクラック、さらには発泡を生じないようにすることができた。
よって、本発明の成形用樹脂シートを用いて熱成形すれば、意匠性に優れた成形体は勿論、例えば意匠性に優れたインモールド成型体なども提供することができる。
【0011】
なお、ポリカーボネート系樹脂組成物(A)とアクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差(絶対値)を30℃以内とする方法としては様々な方法が存在する可能性があるが、本発明は、シートの透明性維持などの観点から、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とをポリマーアロイ化してガラス転移温度を低下させることにより、両者のガラス転移温度の差(絶対値)を30℃以内とする方法を採用するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明が下記実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係る成形用樹脂シート(以下「本成形用樹脂シート」という)は、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えた積層シートであり、該ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度(Tg)の差の絶対値が30℃以内、すなわち0℃〜30℃、好ましくは0〜20℃、特に好ましくは0〜10℃であることを特徴とする成形用樹脂シートである。
【0014】
<基材層>
本成形用樹脂シートの基材層は、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分として形成することができる。
【0015】
[芳香族ポリカーボネート(A1)]
本成形用樹脂シートに用いる芳香族ポリカーボネートは、芳香環を有するポリカーボネートであれば特に限定するものではない。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物、又は芳香族ジヒドロキシ化合物と少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンとの界面重合法によって得られるか、或いは、前記芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により得られる熱可塑性ポリカーボネート重合体等を挙げることができる。より具体的には、例えばビスフェノールAを主原料とする炭酸エステル重合体を挙げることができる。
【0016】
芳香族ポリカーボネートの分子量は、通常の押出成形によりシートを製造できることができれば、特に限定するものではないが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]が15,000〜40,000、特に20,000〜35,000、中でも特に22,000〜30,000であるのが好ましい。
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネートを混合してもよい。
【0017】
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4M0.83、から算出される値を意味する。極限粘度[η]は、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定して算出した値である。
【0018】
また、芳香族ポリカーボネートの末端水酸基濃度は、1000ppm以下、特に800ppm以下、中でも特に600ppm以下であるのが好ましい。下限値としては、10ppm以上、特に30ppm以上、中でも特に40ppm以上であるのが好ましい。
【0019】
ここで、上記の末端水酸基濃度は、芳香族ポリカーボネートの質量に対する、末端水酸基の質量をppm単位で示したものであり、例えば四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88215(1965)に記載の方法)で測定することができる。
【0020】
[他の樹脂(A2)]
他の樹脂(A2)は、芳香族ポリカーボネート(A1)と溶融ブレンド(;混合して加熱溶融すること)してポリマーアロイ化することができ、さらに該ポリマーアロイのガラス転移温度(Tg)を前記芳香族ポリカーボネート(A1)のガラス転移温度(Tg)よりも低下させるものであればよい。
一般的に、芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)は150℃付近であり、アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも50℃近く高いため、ポリカーボネート系樹脂組成物(A)とアクリル系樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)の差(絶対値)を30℃以内にするには、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とをポリマーアロイ化させて、該ポリマーアロイのガラス転移温度(Tg)をより低温にすることができるものであることが重要である。
【0021】
かかる観点から、他の樹脂(A2)としては、芳香族ポリエステルが好ましい。そこで次に、芳香族ポリエステルについて説明する。
【0022】
(芳香族ポリエステル)
他の樹脂(A2)として用いる芳香族ポリエステルとしては、例えば、「芳香族ジカルボン酸成分」と「ジオール成分」とが縮合重合してなる樹脂を挙げることができる。
【0023】
ここで、上記の「芳香族ジカルボン酸成分」の代表的なものとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。テレフタル酸の一部が「他のジカルボン酸成分」で置換されたものであってもよい。
「他のジカルボン酸成分」としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ネオペンチル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。これらは、一種でも二種以上の混合物であってもよく、また、置換される他のジカルボン酸の量も適宜選択することができる。
【0024】
上記の「ジオール成分」の代表的なものとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。エチレングリコールの一部が「他のジオール成分」で置換されたものでもよい。
「他のジオール成分」としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロール、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。これらは、一種でも二種以上の混合物であってもよく、また、置換される他のジオールの量も適宜選択することができる。
【0025】
「芳香族ポリエステル」の具体例として、テレフタル酸とエチレングリコールとを縮合重合させたポリエチレンテレフタレート、テレフタル酸或いはテレフタル酸ジメチルと1,4−ブタンジオールを縮合重合させたポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。また、テレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分及び/又はエチレングリコール以外の他のジオール成分を含んだ「共重合ポリエステル」も好ましい芳香族ポリエステルとして挙げることができる。
【0026】
中でも好ましい例として、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの一部、好ましくは55〜75モル%をシクロヘキサンジメタノールで置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、ポリブチレンテレフタレートにおけるテレフタル酸の一部、好ましくは10〜30モル%をイソフタル酸で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、これら共重合ポリエステルの混合物を挙げることができる。
【0027】
以上説明した芳香族ポリエステルの中で、芳香族ポリカーボネート(A1)と溶融ブレンドすることによりポリマーアロイ化し、且つ、該ポリマーアロイのガラス転移温度(Tg)を該芳香族ポリカーボネート(A1)よりも十分に低下させることができるものを選択するのが好ましい。
【0028】
このような観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)のジオール成分であるエチレングリコールの50〜75モル%を1・4−シクロヘキサンジメタノール(1.4−CHDM)で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル(所謂「PCTG」)、或いは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のテレフタル酸の一部、好ましくは10〜30モル%をイソフタル酸で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、これらの混合物は最も好ましい例である。これらの共重合ポリエステルは、芳香族ポリカーボネートと溶融ブレンドすることによって、完全相溶してポリマーアロイ化することが知られており、しかも効果的にガラス転移温度を下げることができる。
【0029】
なお、ポリマーブレンド(混合した樹脂組成物)がポリマーアロイとなっているか、言い換えれば完全相溶しているか否かは、例えば示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が単一となるかどうかで判断することができる。ここで、混合樹脂組成物のガラス転移温度が単一であるとは、混合樹脂組成物をJISK7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示すピークが1つだけ現れるという意味である。
また、前記混合樹脂組成物を、歪み0.1%、周波数10Hzにて動的粘弾性測定(JISK−7198A法の動的粘弾性測定)により測定した際に、損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するかどうかでも判断することができる。
ポリマーブレンド(混合樹脂組成物)が完全相溶(ポリマーアロイ化)すれば、ブレンドされた成分が互いにナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶した状態となる。
【0030】
なお、ポリマーアロイ化する手段として、相溶化剤を用いたり、二次的にブロック重合やグラフト重合させたり、或いは、一方のポリマーをクラスター状に分散させたりする手段も採用可能である。
【0031】
[混合比率]
芳香族ポリカーボネート(A1)と芳香族ポリエステル(A2)との混合比率は、混合して得られるポリカーボネート系樹脂組成物(A)とアクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度(Tg)の差(絶対値)が30℃以内になる比率であれば制限するものではないが、透明性維持の観点から、質量比率でA1:A2=20:80〜75:25であるのが好ましく、特にA1:A2=30:70〜60:40、中でも特にA1:A2=45:55〜55:45であるのが好ましい。
【0032】
<被覆層>
本熱成形用樹脂シートの被覆層は、アクリル系樹脂(B)を主成分とする樹脂組成物から形成することができる。
【0033】
[アクリル系樹脂(B)]
本熱成形用樹脂シートに用いるアクリル系樹脂は、アクリル基を有する樹脂であれば特に制限はない。例えば、メチルメタクリレートと、メチルアクリレート又はエチルアクリレートとの共重合体を挙げることができる。中でも、主成分がメチルメタクリル酸より重合されるメチルメタクリル樹脂(PMMA:ポリメチルメタ(ア)クリレートともいう)が好ましい。
【0034】
アクリル系樹脂の共重合組成は、製造条件、例えば共押出条件により適宜選択するのが好ましい。例えば、メチルメタクリレートと、メチルアクリレート又はエチルアクリレートとの共重合体の場合には、メチルメタクリレート:メチル又はエチルアクリレート=80:20〜1:99のモル比とするのが好ましい。
また、押出成形が可能な範囲で架橋成分を含有してもよい。
【0035】
アクリル系樹脂の分子量は、一般的に重量平均分子量で3万〜30万であるが、この範囲に制限されるものではない。
【0036】
アクリル系樹脂として、市販品を用いることもできる。例えば住友化学工業(株)社製:SUMIPEXシリーズ、三菱レイヨン(株)社製:アクリペットシリーズ、(株)クラレ社製:パラペットシリーズ、旭化成製:デルペット等のメチルメタクリル樹脂を用いることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0037】
アクリル系樹脂(B)は、耐候性を長期間保持する目的のために、紫外線吸収剤を含有するものでもよい。紫外線吸収剤の含有量はアクリル系樹脂の0.01〜3.0質量%であるのが好ましい。
また、共押出し成形時にアクリル系樹脂の熱劣化を防止するため、酸化防止剤、着色防止剤等を含有してもよい。この際、酸化防止剤の含有量はアクリル系樹脂の0.01〜3質量%であるのが好ましく、着色防止剤の含有量は0.01〜3質量%であるのが好ましい。
上記いずれの場合も、アクリル系樹脂の0.01質量%未満であると、十分な効果を得られないことが想定され、逆に5質量%を超えて含有しても、さらなる効果が期待できないばかりか、ブリードアウトを起こして白化の原因になったり、密着性や衝撃強度の低下を招いたりすることがあるため好ましくない。
【0038】
また、表面硬度をさらに高めるため、アクリル系樹脂中に、高Tgアクリル等を分散させて透明性を維持するようにしてもよい。そのほか、メタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(MS樹脂)を添加することにより、吸水率を下げて発泡を抑えることもできる。
【0039】
<シート厚さ>
本成形用樹脂シートの各層及びシート全体の厚さは、表面硬度及び成形性に問題が生じない範囲で適宜設定可能である。但し、一般的にはシート全体の厚さは0.2mm〜2.0mmであるのが好ましく、被覆層の厚さは10μm〜40μm、特に30μm〜40μmであるのが好ましい。
【0040】
<製造方法>
本成形用樹脂シートの製造方法は、特に制限されるものではないが、生産性の観点から、共押出しによって基材層と被覆層とを積層させるのが好ましい。
例えば、ポリカーボネート系樹脂組成物(A)及びアクリル系樹脂(B)を各々別々の押出機で加熱溶融し、Tダイのスリット状の吐出口からそれぞれ押出して積層し、次いで冷却ロ−ルに密着固化させるようにする製造方法を挙げることができる。
【0041】
芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とは、ポリカーボネート系樹脂組成物(A)を押出機で加熱溶融する際に混合するようにしてもよいが、予め混合溶融(溶融ブレンド)し、必要に応じて相溶化剤などを加えて、ポリマーアロイを調製しておくのが好ましい。
【0042】
また、押出機で加熱溶融する温度は、それぞれの樹脂のガラス転移温度(Tg)の80〜150℃高い温度にするのが好ましい。一般的には、ポリカーボネート系樹脂組成物(A)を押出すメイン押出機の温度条件は、通常230〜290℃、好ましくは240〜280℃とするのが好ましく、アクリル系樹脂(B)を押出すサブ押出機の温度条件は通常220〜270℃、好ましくは230〜260℃である。
【0043】
また、2種類の溶融樹脂を共押出する方法としては、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式などの公知の方法を採用することができる。
例えばフィードブロック方式の場合であれば、フィードブロックで積層した溶融樹脂をTダイなどのシート成形ダイに導き、シート状に成形した後、表面が鏡面処理された成形ロール(ポリッシングロール)に流入させてバンクを形成し、該成形ロール通過中に鏡面仕上げと冷却を行うようにすればよい。
マルチマニホールド方式の場合には、マルチマニホールドダイ内で積層した溶融樹脂を、ダイ内部でシート状に成形した後、成形ロールにて表面仕上げおよび冷却を行うようにすればよい。
いずれにしても、ダイの温度は、通常230〜290℃、中でも250〜280℃に設定し、成形ロール温度は、通常100〜190℃、中でも110〜190℃に設定するのが好ましい。
【0044】
<特徴及び用途>
本成形用樹脂シートは、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えているため、成形用樹脂シートの被覆層表面、並びに該成形用樹脂シートを成形してなる製品表面に傷が入り難いという特徴を備えている。しかも、基材層の主成分であるポリカーボネート系樹脂組成物(A)と、被覆層の主成分であるアクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内に設定したことにより、被覆層側が製品の表面となるように熱成形した時でさえ、特に深絞り成形した時でさえ、白化やクラック、さらには発泡を生じないようにすることができる。
よって、本成形用樹脂シートを用いて熱成形すれば、意匠性に優れた熱成形体、特に深絞り成形して得られる意匠性に優れた熱成形体を得ることができる。
なお、本発明では、成形する際の深絞り高さが3mm以上、特に5mm以上である場合を深絞りといい、本成形用樹脂シートの場合、深絞り高さが7mm以上の深絞りであっても、白化やクラック、さらには発泡を生じないようにすることができる。
また、本成形用樹脂シートは上記のような特徴を備えているため、例えば成形用樹脂シートの基材層側に印刷層を形成して熱成形する一方、前記印刷層側に溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成することにより、意匠性に優れたインモールド成形体を製造することもできる。
【0045】
<用語の説明>
本発明において「主成分」とは、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。この際、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分(2成分以上が主成分樹脂である場合には、これらの合計量)が組成物中の50質量%以上、特に70質量%以上、中でも特に90質量%以上(100%含む)を占めるのが好ましい。
また、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0046】
次に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<ガラス転移温度の測定方法>
パーキンエルマー社製示差走査熱量計DSC−7型を用いて、窒素雰囲気下、−40℃で1分間保持後、10℃/分の昇温速度下で測定し、得られたDSC曲線の微分の極大値となる温度をガラス転移温度として求めた。
【0048】
(実施例1)
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)及びアクリル系樹脂(B)を各々別々の押出機で加熱溶融し、Tダイのスリット状の吐出口から2種類の樹脂を同時に溶融押出し、2種2層に積層した。
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)を押出すメイン押出機は、バレル直径65mm、スクリューのL/D=35、シリンダー温度270℃に設定した。アクリル系樹脂(B)を押出すサブ押出機は、バレル直径32mm、スクリュウのL/D=32、シリンダー温度250℃に設定した。
【0049】
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)は、芳香族ポリカーボネート(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量28000、末端水酸基濃度=150ppm,Tg145℃)と、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂(PETのエチレングリコールの65モル%を1.4−CHDMで置換した構造を有する低結晶性の共重合ポリエステル。Tg86℃)とを、質量比で50:50の割合で混合し、加熱しながら溶融混練してポリマーアロイ化させたポリカーボネート系樹脂組成物を用意した。このポリカーボネート系樹脂組成物のガラス転移温度を測定したところ、DSC曲線の微分の極大値は単一(Tg110℃)であり、ポリマーアロイであることが確認できた。
アクリル系樹脂(B)としては、アクリル系樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名アクリペットMD、組成:ポリメチルメタクリレート、Tg110℃)を用いた。
【0050】
2種2層に積層するためにフィードブロックを使用した。ダイヘッド内温度は250℃とし、ダイ内で積層した樹脂を、鏡面仕上げされた横型配置の3本のキャストロールに導くようにした。この際、1番ロール温度110℃、2番ロール温度140℃、3番ロール温度185℃に設定した。
そして、メイン押出機とサブ押出機回転数は、吐出量比がメイン/サブ=470/30となるように設定して、0.5mm厚さとなるように共押出して成形用樹脂シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ30μm)を得た。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表1に示した。
【0051】
(実施例2)
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で成形用樹脂シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ40μm)を得た。
【0052】
本実施例で用いたポリカーボネート系樹脂組成物(A)は、芳香族ポリカーボネート(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量28000、末端水酸基濃度=150ppm,Tg145℃)と、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂(PETのエチレングリコールの65モル%を1.4−CHDMで置換した構造を有する低結晶性の共重合ポリエステル。Tg86℃)とを、質量比で80:20の割合で混合し、加熱しながら溶融混練してポリマーアロイ化させてなるポリカーボネート系樹脂組成物を使用した。このポリカーボネート系樹脂組成物のガラス転移温度を測定したところ、DSC曲線の微分の極大値は単一(Tg135℃)であり、ポリマーアロイであることが確認できた。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表1に示した。
【0053】
(実施例3)
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で成形用樹脂シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ40μm)を得た。
【0054】
本実施例で用いたポリカーボネート系樹脂組成物(A)は、芳香族ポリカーボネート(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量28000、末端水酸基濃度=150ppm,Tg145℃)と、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂(PETのエチレングリコールの65モル%を1.4−CHDMで置換した構造を有する低結晶性の共重合ポリエステル。Tg86℃)と、共重合ポリエステル(ポリブチレンテレフタレートにおけるテレフタル酸の30モル%をイソフタル酸で置換した構造を有する共重合ポリエステル。Tg30℃)とを、質量比70:20:10の割合で混合し、加熱しながら溶融混練してポリマーアロイ化させたポリカーボネート系樹脂組成物を使用した。このポリカーボネート系樹脂組成物のガラス転移温度を測定したところ、DSC曲線の微分の極大値は単一(Tg140℃)であり、ポリマーアロイであることが確認できた。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表1に示した。
【0055】
(実施例4)
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で成形用樹脂シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ30μm)を得た。
【0056】
本実施例で用いたポリカーボネート系樹脂組成物(A)は、芳香族ポリカーボネート(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量28000、末端水酸基濃度=150ppm,Tg145℃)と、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂(PETのエチレングリコールの65モル%を1.4−CHDMで置換した構造を有する低結晶性の共重合ポリエステル。Tg86℃)とを、質量比で35:65の割合で混合し、加熱しながら溶融混練してポリマーアロイ化させたポリカーボネート系樹脂組成物を用いた。このポリカーボネート系樹脂組成物のガラス転移温度を測定したところ、DSC曲線の微分の極大値は単一(Tg105℃)であり、ポリマーアロイであることが確認できた。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表1に示した。
【0057】
(実施例5)
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で成形用樹脂シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ35μm)を得た。
【0058】
本実施例で用いたポリカーボネート系樹脂組成物(A)は、芳香族ポリカーボネート(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量28000、末端水酸基濃度=150ppm,Tg145℃)と、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂(PETのエチレングリコールの65モル%を1.4−CHDMで置換した構造を有する低結晶性の共重合ポリエステル。Tg86℃)とを、質量比で25:75の割合で混合し、加熱しながら溶融混練してポリマーアロイ化させたポリカーボネート系樹脂組成物を使用した。このポリカーボネート系樹脂組成物のガラス転移温度を測定したところ、DSC曲線の微分の極大値は単一(Tg90℃)であり、ポリマーアロイであることが確認できた。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表1に示した。
【0059】
(比較例1)
実施例1と同様の成形条件にて、アクリル系樹脂(B)を共押出せず、ポリカーボネート系樹脂組成物(A)の単層シート(シート全体厚さ0.5mm)を得た。
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)を押出す押出機は、バレル直径65mm、スクリューのL/D=35、シリンダー温度270℃に設定した。
【0060】
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)としては、芳香族ポリカーボネート(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量28000、末端水酸基濃度=150ppm,Tg145℃)を用いた。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表2に示した。
【0061】
(比較例2)
ポリカーボネート系樹脂組成物(A)の種類を変えた以外は、実施例1と同じ製造条件で成形用樹脂シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ35μm)を得た。
【0062】
本比較例で用いたポリカーボネート系樹脂組成物(A)には、芳香族ポリカーボネート(界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量28000、末端水酸基濃度=150ppm,Tg145℃)を用いた。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表2に示した。
【0063】
(比較例3)
成形温度を110℃に変えた以外は、比較例2と同じ製造条件で成形用樹脂シート(シート全体厚さ0.5mm、被覆層厚さ35μm)を得た。
得られた成形用樹脂シートの評価結果を表2に示した。
【0064】
<試験及び評価>
1)鉛筆硬度
JIS K5400に準拠し、1Kg荷重で、実施例及び比較例で得られた成形用樹脂シートの表面(被覆層が形成されている場合は被覆層表面)における鉛筆硬度を測定した。
そして、実用上問題ないレベルである「H」を基準とし、これ以上の「H」「2H」などを合格(「○」)と評価し、これ未満の「B」を不合格(「×」)と評価した。
【0065】
2)成形加工性(深絞り性)
実施例及び比較例で得られた成形用樹脂シートを、100mm×200mm×(厚さ)0.5mmに裁断し、得られたサンプルシートを120〜150℃に予熱し、当該温度(表1及び表2参照)で5MPaの高圧空気により、表1及び表2に示した深絞り高さに圧空成形を行なった。なお、深絞り高さは、1mm、2mm・・・5mmのように、1mmきざみで深絞り高さを変更した金型を使用して設定した。
得られた成形体の表面状態(クラック、白化、発泡、ムラ)状態を観察し、クラック、白化、発泡及びムラのいずれも観察されない場合に「外観異常無」と評価し、さらに、5mm以上深絞り高さの成型体を外観異常無の状態に成形できたものを合格(「○」)と総合評価した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
(考察)
以上の結果、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を形成することにより、成形用樹脂シート表面(被覆層表面)の硬度を十分に高めることできることを確認できた。よって、成形用樹脂シートは勿論、これを成形してなる製品表面に傷が入り難くすることができる。
また、基材層の主成分であるポリカーボネート系樹脂組成物(A)と、被覆層の主成分であるアクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内に設定することにより、深絞り高さ7mm以上に深絞り成形してもクラック、白化、発泡、ムラなどの外観不良を生じることなく成形品を得ることができることが判明した。
これより、本発明の成形用樹脂シートを用いれば、表面が傷つき難く、且つ成形性が優れた成形品を得ることができるばかりか、印刷インクの色やけのないインモールド成型品を製造することができると予想される。
【0069】
また、上記結果を考察すると、ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と、アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内に設定する方法として、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とポリマーアロイを作製してポリカーボネート系樹脂組成物(A)のガラス転移温度を低下させる方法が好ましいこと、並びに、その際、他の樹脂(A2)としては、芳香族ポリエステル、中でも特にポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの一部をシクロヘキサンジメタノールで置換してなる共重合ポリエステル、又は、ポリブチレンテレフタレートにおけるテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換してなる共重合ポリエステル、又は、これらの混合物であるのが好ましいと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えた積層シートであって、
該ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内であることを特徴とする成形用樹脂シート。
【請求項2】
他の樹脂(A2)が、芳香族ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の成形用樹脂シート。
【請求項3】
上記芳香族ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの一部をシクロヘキサンジメタノールで置換してなる共重合ポリエステル、又は、ポリブチレンテレフタレートにおけるテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換してなる共重合ポリエステル、又は、これらの混合物であることを特徴とする請求項2に記載の成形用樹脂シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の成形用樹脂シートを熱成形して得られる熱成形体であって、深絞り高さ5mm以上に熱成形してなる熱成形体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の成形用樹脂シートの基材層側に印刷層を形成して熱成形する一方、前記印刷層側に溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成してなるインモールド成形体。


【公開番号】特開2009−196153(P2009−196153A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38520(P2008−38520)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】