説明

成膜方法および成膜装置

【課題】良好な膜質及び特性の薄膜を、良好な生産性で成膜可能な成膜装置および成膜方法の提供。
【解決手段】本発明の成膜装置1は、レーザー光Lによってターゲット7から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を基材25の表面上に堆積させ、基材25上に薄膜を形成する装置であって、送出装置13と巻取装置14との間に長手方向に沿って移動する基材25を保持する基材ホルダ12を配置し、基材ホルダ12に接した状態にある基材25の表面と対向するようにターゲット7を配置するとともに、ターゲット6と基材ホルダ12の間に、基材25とヒーター8との距離SH=0.55TS〜0.85TS、基材ホルダ12の中心線とヒーター8との最短距離PH=0.35TS〜0.55TSを満たすようにヒーター8を配置したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光によってターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を帯状の基材上に堆積させ、薄膜を形成する成膜方法(レーザー蒸着方法)および成膜装置(レーザー蒸着装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
RE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−x:REはY、Gdなどの希土類元素)は、液体窒素温度(77K)よりも高い臨界温度を有しており、超電導デバイス、超電導変圧器、超伝導限流器、超電導モータ又はマグネット等の超電導機器への応用が期待されている。
RE−123系酸化物超電導体を導電体として使用するためには、テープ状基材などの長尺基材上に、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成する必要がある。これは、この種の希土類酸化物系超電導体の結晶が、その結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流しやすいが、c軸方向には電気を流し難いという電気的異方性を有しており、長尺基材上に酸化物超電導層を形成する場合、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要があるためである。
ところが、一般には、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、金属テープ上に直接、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成することは難しい。そこで、金属テープからなる基材の上に、結晶配向性の優れた多結晶中間薄膜を形成し、この多結晶中間薄膜上に酸化物超電導体の薄膜を形成する手法が検討されている。
【0003】
本発明者は、金属テープ上に多結晶中間薄膜が形成された基材上に、RE123系酸化物超電導体を成膜して酸化物超電導層を形成する技術として、レーザ光をターゲットに集光照射し、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させて構成粒子のプルームを発生させ、このプルームの粒子を長尺の基材上に堆積させるパルスレーザ蒸着法(PLD法)について研究を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
図11に、特許文献1に記載されたレーザー蒸着装置の一例を示す。このレーザー蒸着装置100は、一方の側で複数の転向部材を同軸的に配列した第1の転向部材群103と、他方の側で複数の転向部材を同軸的に配列した第2の転向部材群104と、転向部材群103、104間に複数レーンを構成するように巻回された基材105に対向するように配されたターゲット107と、ターゲット107にレーザー光Laを照射するレーザー光発光手段108と、ターゲット107に対向する領域111を走行する基材105を支持する基台106と、基材105を転向部材群103、104に向けて送り出す送出リール101と、基材105を巻き取る巻取リール102を備えている。
【0005】
送出リール101と巻取リール102とは、駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動されており、転向部材群103、104によって移動方向が転向した基材105を転向部材群103、104の間で複数列(複数のレーン)とした状態で搬送するための搬送手段を構成している。
レーザー光Laによりターゲット107から叩き出され若しくは蒸発されたターゲット107の構成粒子はプルーム109となり、ターゲット107に対向する領域111を走行する基材105の表面に堆積して薄膜が形成される。また、ターゲット107に対して複数レーンの基材105が対向しているので、一度に蒸着される面積を広く取ることができ、プルーム109内の構成粒子を有効に利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−263227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11に示す従来のレーザー蒸着装置100においては、ターゲット107に対向する領域111を走行する基材105を支持する基台106の内部にヒーター(図示略)が設けられており、基材105の裏面(薄膜が形成される面とは反対側の面)から接触加熱により、成膜される基材105の成膜面の温度を制御している。
結晶配向性の高い超電導層を成膜するためには、成膜される基材の表面(成膜面)を、結晶配向に最適な温度に保つ必要がある。しかしながら、従来のレーザー蒸着装置100では、ヒーターが内蔵された基台106からの接触加熱のため、ターゲット109の移動等の熱外乱による成膜表面の温度変動に対して感度が低く、成膜表面を最適温度にするために、基台106の温度を小まめに制御する必要がある。また、基台106からの接触加熱方式では、基材105の裏面からの加熱であり、基材105の表面である成膜面を急速加熱することが難しく、そのため、基材105を高速で搬送して成膜しようとすると、基材105の加熱が不十分となり、安定的な温度制御が難しいという問題がある。
【0008】
また、基材105の裏面からの加熱方式では、成膜回数を増やして厚い膜を成膜しようとすると、基材105の裏面からの接触加熱では、厚く積層した膜の表面にまで十分に熱が伝わらないうちに基材105がヒーターから離れてしまうので、基材105の表面温度を一定に保つことが難しいため、結晶配向性の高い超電導層を成膜することが難しいという問題がある。この問題を解決するために、積層毎にヒーターによる加熱温度を上昇させることも考えられるが、加熱温度の上昇に伴い、基材105に形成されている多結晶中間薄膜と成膜される超電導層との界面反応が起こり易くなり、超電導特性が低下してしまうため、単に加熱温度を上昇させるとする解決手段は好ましくない。さらに、生産性を上げるためにターゲット109からの構成粒子の飛散量を増やして、成膜速度を高くすると、基材105の成膜面に堆積する粒子量が多くなり、成膜表面の温度制御が難しくなるという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、良好な膜質及び特性の薄膜を、良好な生産性で成膜可能な成膜装置および成膜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の成膜装置は、レーザー光によってターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流であるプルームを生成し、このプルームからの粒子を基材の表面上に堆積させ、該基材上に薄膜を形成する成膜装置であって、前記基材を長手方向に沿って移動させる送出装置及び巻取装置と、前記送出装置と前記巻取装置との間に配置され、該送出装置と該巻取装置の間を移動する前記基材の裏面と接した状態で該基材を保持する基材ホルダと、前記基材ホルダに接した状態にある前記基材の表面と対向配置されたターゲットと、 前記ターゲットにレーザー光を照射するレーザー光発光手段と、前記ターゲットと前記基材ホルダの間に前記基材の表面に対向するように配置され、該基材を表面側から加熱するヒーターと、を少なくとも備え、前記ターゲットと前記基材との距離TS、前記基材と前記ヒーターとの距離SH、前記基材ホルダの中心線と前記ヒーターとの最短距離PHとしたとき、SH=0.55TS〜0.85TS、PH=0.35TS〜0.55TSを満たすことを特徴とする。
本発明の成膜装置において、前記送出装置と前記巻取装置の間に配置された前記基材の移動方向を転向させる転向部材を備え、前記基材は、前記基材ホルダと前記転向部材との間に複数回巻回されて複数の隣接するレーンを構成することもできる。
本発明の成膜装置は、酸化物超電導体薄膜の成膜用であることが好ましい。
【0011】
本発明の成膜方法は、レーザー光をターゲットの表面に照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させてターゲットの構成粒子の噴流であるプルームを生成させ、このプルームが生成している成膜領域に基材を通過させて、該プルームからの粒子を該基材の表面上に堆積させることにより、該基材上に薄膜を形成する成膜方法であって、前記成膜領域を通過する前記基材を基材ホルダにより保持して、前記ターゲットと前記基材との距離TSで該ターゲットと対向配置し、前記ターゲットと前記基材ホルダの間に、前記基材と前記ヒーターとの距離SH=0.55TS〜0.85TS、前記基材ホルダの中心線と前記ヒーターとの最短距離PH=0.35TS〜0.55TSを満たすようにヒーターを配置し、このヒーターにより前記基材を表面側から加熱しながら前記成膜領域を通過させて該基材上に薄膜を形成することを特徴とする。
本発明の成膜方法において、前記基材を前記成膜領域を複数回通過させて、該成膜領域の通過毎に該基材上に薄膜を形成することもできる。
本発明の成膜方法において、前記ターゲットが酸化物超電導体用材料であり、前記薄膜が酸化物超電導体薄膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の位置に配置したヒーターにより、基材の表面側から基材の成膜面を加熱するため、基材の表面(成膜面)の温度を良好な膜質の薄膜を成膜するのに適した最適温度に安定して制御することができる。したがって、成膜面の温度を最適温度に保つことができるので、良好な膜質および特性の薄膜を安定して成膜することができる。
また、本発明によれば、ヒーターにより基材の表面側から成膜面を直接加熱するため、基材を高速に搬送して成膜する場合にも、基材の成膜面を十分に加熱することができるので、成膜面の温度を安定して制御することができる。したがって、良好な膜質および特性の薄膜を、良好な生産性で成膜することができる。また、生産性を上げるためにターゲットからの構成粒子の飛散量を増やして成膜速度を高くする場合にも、基材の表面側から加熱するため、成膜速度の増加により基材の成膜面に堆積する粒子量が多くなっても、成膜表面の温度を安定して制御することができる。
さらに、本発明によれば、基材の表面(成膜面)側から加熱しているため、薄膜の膜厚を厚くするのに伴って成膜表面の温度が徐々に下がることも抑制できるので、温度設定を変化させる必要がない。したがって、本発明において酸化物超電導膜を成膜する場合には、従来の成膜装置のような裏面からの加熱に比べ、中間層(多結晶中間薄膜)と超電導層(酸化物超電導体薄膜)の界面反応を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の成膜装置により長尺基材上に成膜された酸化物超電導体薄膜を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】図2に示す成膜装置の要部を示す斜視図である。
【図4】図2に示す成膜装置の要部の配置を説明する図である。
【図5】図5(a)は本発明の成膜装置及び成膜方法を用いて酸化物超電導膜を成膜する場合の成膜領域を通過する基材の温度分布を示す図であり、図5(b)は基材の裏面から加熱する従来の成膜装置及び成膜方法を用いて酸化物超電導膜を成膜する場合の成膜領域を通過する基材の温度分布を示す図である。
【図6】本発明の成膜装置の他例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の成膜装置の他例を示す概略構成図である。
【図8】本発明の成膜装置の他例を示す概略構成図である。
【図9】実施例1および比較例1の結果を示すグラフである。
【図10】実施例2および比較例2の結果を示すグラフである。
【図11】従来のレーザー蒸着装置の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る成膜方法および成膜装置の一実施形態を図面に基づき説明する。以下に示す実施形態では、長尺基材上に形成される薄膜として、酸化物超電導体薄膜を例に挙げて説明するが、この酸化物超電導体薄膜は、本発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【0015】
図1は、本発明に係る成膜装置を用いて作製された酸化物超電導体薄膜を示す概略斜視図であり、この酸化物超電導体薄膜23は、長尺テープ状の金属基材21上にイオンビームアシストスパッタリング法等によりGZO(GdZr)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、酸化マグネシウム(MgO)等の多結晶中間薄膜(中間層)22が形成されてなる長尺基材25上に形成されている。
【0016】
酸化物超電導体薄膜23は、YBaCu、GdBaCuに代表されるRE123系の酸化物超電導体等からなり、臨界温度(Tc)が90Kあるいはそれ以上の酸化物超電導体の薄膜である。また、酸化物超電導体薄膜23は、単層構造でもよいし、複数層を積層してなる積層構造であってもよい。
【0017】
酸化物超電導体薄膜23の厚みは1〜3μm程度が好ましく、しかも各層の面内均一性が極めて優れたものとなっている。この酸化物超電導体薄膜23では、この薄膜23の各層の結晶のc軸とa軸とb軸は、多結晶中間薄膜22の結晶に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化しており、結晶配向性が優れたものとなっている。
【0018】
金属基材21としては、ステンレス鋼、銅、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)等のニッケル合金等、各種金属材料から適宜選択される長尺の金属テープが好適に用いられ、その厚さは0.1mm程度が好ましい。
【0019】
多結晶中間薄膜(中間層)22としては、GdZr(GZO)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)等からなり、立方晶系の結晶構造を有する結晶の集合した微細な結晶粒が多数相互に結晶粒界を介して接合一体化されてなるものが好適に用いられ、その厚さは例えば1μm程度とされる。各結晶粒の結晶軸のc軸は金属基材21の上面(成膜面)に対してほぼ垂直に向けられ、各結晶粒の結晶軸のa軸同士およびb軸同士は、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。このような面内配向を実現するためには、成膜法としてIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法が用いられる。
【0020】
図2は本発明に係る成膜装置の第1実施形態の一例を示す概略構成図であり、図3は図2に示す成膜装置の要部を示す斜視図であり、図4は図2に示す成膜装置の要部の配置を説明する図である。
本実施形態の成膜装置1は、レーザー光Lによってターゲット7から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流であるプルーム9を生成し、このプルーム9からの構成粒子を長尺基材25上に堆積させ、この構成粒子による薄膜を長尺基材25上に形成する、レーザー蒸着法による成膜装置である。
【0021】
図2および図3に示す成膜装置1は、長尺基材25を収容する処理容器2と、長尺基材25の移動方向を転向させる転向部材を同軸的に配列してなる転向部材群11と、長尺基材25をその裏面に接した状態で保持し、かつ、長尺基材25の移動方向を転向させる転向部材を同軸的に配列してなる基材ホルダ12と、転向部材群11の上方に配置された長尺基材25を送り出すための送出リール13と、転向部材群11の上方に配置された長尺基材25を巻き取るための巻取リール14と、基材ホルダ12に接した状態にある基材25の表面に対向するように配されたターゲット7と、水平に設置されたターゲット7にレーザー光Lを照射するレーザー光発光手段6と、ターゲット7と基材ホルダ12の間に配置された長尺基材25を表面側から加熱するヒーター8とを少なくとも備えている。
【0022】
転向部材群11と基材ホルダ12は離間して対向配置されており、長尺基材25は成膜面側が外側となるように転向部材群11及び基材ホルダ12間に巻回されており、これらの転向部材群11及び基材ホルダ12を周回することにより、ターゲット7の構成粒子の噴流であるプルーム9が生成している成膜領域10にて複数列レーンを構成するように配置されている。転向部材群11、基材ホルダ12、送出リール(送出装置)13及び巻取リール(巻取装置)14を駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより、送出リール13から送り出された長尺基材25が転向部材群11及び基材ホルダ12を周回し、ターゲット7に対向した成膜領域10を複数回通過して、巻取リール14に巻き取られるようになっている。
【0023】
転向部材群11は、同径の転向部材が同軸的に配列してなる構成である。転向部材群11を構成する各転向部材は、円柱状もしくは円板状、半円柱状もしくは半円板状、楕円柱状もしくは楕円板状など、長尺基材25の移動方向を滑らかに転向させる湾曲した側面(湾曲面)を有するものが好ましい。転向部材群11を構成する各転向部材は、搬送される長尺基材25とともに回転する構成でも良く、各転向部材は動かずに、その側面上で長尺基材25が滑っている構成でも良い。転向部材群11を構成する各転向部材を回転させる場合には、長尺基材25の移動速度に合わせて各転向部材を回転させる駆動手段(図示略)を設けても良い。
【0024】
基材ホルダ12は、同径の転向部材が同軸的に配列してなる構成であり、基材ホルダ12に長尺基材25をその裏面が接した状態で保持しつつ、各転向部材によって移動方向が転向した状態にある長尺基材25のうち、ターゲット7に対向する部分である成膜領域10を走行する長尺基材25が、ターゲット7から等距離に位置している。
基材ホルダ12を構成する各転向部材は、円柱状もしくは円板状、半円柱状もしくは半円板状、楕円柱状もしくは楕円板状など、長尺基材25の移動方向を滑らかに転向させる湾曲した側面(湾曲面)を有するものが好ましい。これにより、転向部材によって移動方向が転向した状態にある長尺基材25は、ターゲット7に対向する部分において、ターゲット7に向かって凸形状に湾曲するようになる。なお、「円柱状もしくは円板状」等は、転向部材の径と軸方向の長さとの比を特に限定しない趣旨である。
基材ホルダ12を構成する各転向部材は、搬送される長尺基材25とともに回転する構成でも良く、各転向部材は動かずに、その側面上で長尺基材25が滑っている構成でも良い。基材ホルダ11を構成する各転向部材を回転させる場合には、長尺基材25の移動速度に合わせて各転向部材を回転させる駆動手段(図示略)を設けても良い。
【0025】
基材ホルダ12は、比較的熱容量の大きいものより形成されていることが好ましい。基材ホルダ12が熱容量の大きいものより形成されることにより、ターゲット7の移動などの外乱による温度の変動を抑制することができ、長尺基材25の成膜面の温度をより安定して保持することができる。基材ホルダ12を構成する比較的熱容量の大きい材料としては、熱容量が400J/kg・K以上のものが好ましく、具体的にはインコネル(INCONEL(登録商標);熱容量444J/kg・K)等のニッケル基合金が挙げられる。
【0026】
処理容器2には、排気孔3を介して真空排気装置4が接続され、この真空排気装置4により処理容器2内を所定の圧力に減圧するようになっている。
長尺基材25の移動方向を転向させる転向部材群11、基材ホルダ12、送出リール13および巻取リール14は処理容器2内に収容され、処理容器2内が所定の圧力に減圧されている間は、長尺基材25の長手方向の全体が、処理容器2内の減圧下に置かれるようになっている。
【0027】
ターゲット7は、成膜する薄膜の組成に合わせて適宜材料が選択される。薄膜として臨界温度(Tc)が90Kあるいはそれ以上の酸化物超電導体薄膜23を成膜する場合は、所望の酸化物超電導体薄膜23と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体、あるいは酸化物超電導体などの板体等がターゲット7として使用される。
この酸化物超電導体としては、YBaCu、GdBaCuに代表されるRE123系の酸化物超電導体等が好ましい。このターゲット7の形状としては、例えば、円板状、矩形状等のものが用いられる。
【0028】
ターゲット7にレーザー光Lを照射するレーザー光発光手段6は、ターゲット7からその構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させることができるレーザー光Lを発生するものであれば良い。レーザーの波長、出力、照射エネルギー等は、ターゲット7の材質や成膜速度等に応じて、適宜設定することが可能である。ターゲット27にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段6としては、Ar−F(193nm)、Kr−F(248nm)、Xe−Cl(308nm)などのエキシマレーザー、YAGレーザー、CO2レーザーなどのいずれのものを用いても良い。
【0029】
処理容器2には、レーザー光発光手段6のレーザ光Lを取り込むための窓5が設けられている。本実施形態においては、レーザ光発光手段6は処理容器2の外側に設置されているが、処理容器2の内側に配置することも可能である。
レーザー光Lは、その照射位置を移動させる手段(図示略)により、レーザー光Lの照射位置をターゲット7の表面上で移動可能とされていることが好ましい。このようにレーザー光Lの照射位置をターゲット7の表面上で移動可能とすることにより、ターゲット7が局所的に削られて、ターゲット7の寿命が短くなることを防止することができる。また、ターゲット7の表面上でレーザー光Lの照射位置を移動可能とすることにより、ターゲット7からのプルーム9を複数発生させて、ターゲット7の構成粒子が基材25上に堆積する成膜領域10を広くすることができ、基材ホルダ12上で複数列とされた長尺基材25に達する構成粒子の濃度の均一性を高め、均一な膜厚、膜質および特性の薄膜を効率よく成膜することができる。
【0030】
ターゲット7はターゲットホルダ(図示略)により固定され、ターゲット移動機構(図示略)によって、平行な面に沿って移動可能に設けられている。さらに、ターゲット7は、ターゲット7の中心を軸として回転可能に設けられていることが好ましい。このように、ターゲット7を移動可能及び回転可能に設けるならば、長時間の成膜を継続して実施しても、ターゲット7の表面がほぼ均一に削られるので、ターゲット7表面の形状乱れによってプルーム9の大きさが変わる不具合を防止することができ、長尺基材25の長手方向に均一な膜厚、膜質および特性の薄膜を形成することが可能となる。
【0031】
ターゲット7と基材ホルダ12との間には、基材ホルダ12に保持された長尺基材25の表面に対向するようにヒーター8が配置されている。ヒーター8は、ターゲット7からのプルーム9が形成された成膜領域10以外の部分に設けられており、図2〜4に示す成膜装置1においては、2個のヒーター8、8が、成膜領域10を挟んで対向配置されている。
ヒーター8は、赤外線などにより、長尺基材25をその表面側から非接触で直接加熱することができる。ヒーター8は、例えば通電式の加熱ヒーターが挙げられる。なお、図2および図3に示す例では、2個のヒーター8が設けられた例を示しているが、本発明はこれに限定されず、後述する位置関係を満たすように配置されていれば、3個以上のヒーターを有する構成とすることも可能である。また、複数のヒーター8、8は、成膜領域10を中心として対称に配されている例に限定されず、後述する位置関係を満たしていれば、成膜領域10を中心として非対称に配されていてもよい。
【0032】
図4は、本実施形態の成膜装置1のヒーター8の配置を説明する模式図である。図4に示すように、ヒーター8は、ターゲット7と長尺基材25との距離TS、長尺基材25とヒーター8との距離SH、基材ホルダ12の中心線A1とヒーター8との最短距離PHとしたとき、SH=0.55TS〜0.85TS、PH=0.35TS〜0.55TSを満たすように配置されている。ターゲット7と長尺基材25との距離TSは、具体的には、80〜150mmの範囲に設定することが好ましい。ターゲット7と長尺基材25との距離TSを前記範囲に設定することにより、ターゲット7からの構成粒子を長尺基材25の成膜面上に安定して配向させることができる。
ここで、長尺基材25とヒーター8との距離SHとは、長尺基材25とヒーター8との最短距離を表し、基材ホルダ12の中心線A1(以下、「基材ホルダ中心線A1」と略称することがある。)とヒーター8との最短距離PHとは、基材ホルダ中心線A1とヒーター8の端部8aとの距離を表し、成膜装置1が複数個のヒーター8を有する場合は、成膜領域10に最も近いヒーター8の端部8aと基材ホルダ中心線A1との距離を表す。
【0033】
このような関係を満たすようにヒーター8を配置することにより、長尺基材25の表面を効率的に加熱し、長尺基材25の表面(成膜面)の温度を容易に安定させることができ、良好な膜質および特性の薄膜を成膜することができる。
長尺基材25とヒーター8との距離SHを0.55TS以上とすることにより、ヒーター8と長尺基材25との距離が近くなり、長尺基材25の表面温度が高くなってしまい、後述する中間層と酸化物超電導薄膜が界面反応を起こすことを抑制することができる。また、長尺基材25とヒーター8との距離SHを0.85TS以下とすることにより、長尺基材25とヒーター8とが離れすぎてしまい、長尺基材25の搬送速度を速くした場合に、長尺基材25の表面温度を所望の温度に制御することが難しくなることを抑制することができる。
【0034】
また、基材ホルダ中心線A1とヒーター8との最短距離PHを0.35TS以上とすることにより、ターゲット7の構成粒子の噴流であるプルーム9を阻害せず、構成粒子を長尺基材25の表面に到達させて薄膜を形成することができる。さらに、基材ホルダ中心線A1とヒーター8との最短距離PHを0.55TS以下とすることにより、成膜領域10の長尺基材25の表面を効率的に加熱し、長尺基材25の表面(成膜面)の温度を所望の温度に制御することができる。
【0035】
図5は、図11に示す従来の成膜装置のように基材の裏面から加熱を行う場合と、本実施形態の成膜装置1により長尺基材25の表面側から加熱を行う場合の基材ホルダと長尺基材と成膜される薄膜との温度分布を模式的に示した図である。図5では、金属基材上に中間層(他結晶中間薄膜)が形成された長尺基材上に、超電導薄膜(酸化物超電導体薄膜)を成膜する場合を例として示している。
【0036】
図5(b)に示すように、従来の成膜装置では、ヒーターが内蔵された基材ホルダとの接触加熱により、長尺基材の裏面から加熱を行っていたため、成膜される基材表面まで熱が伝わるのに若干の時間を要し、成膜表面の温度が良好な膜質の薄膜を成膜するのに適した最適温度よりも低くなってしまうという問題があった。また、長尺基材が成膜領域を複数回通過するようにして薄膜(超電導薄膜)の膜厚を厚くしていくほど、長尺基材の裏面からの加熱では、成膜面の温度を最適温度に保つことが難しくなり、積層毎に数℃ずつ成膜温度を上げるなどの温度制御を行う必要があった。
【0037】
これに対し、本実施形態の成膜装置1は、所定の位置に配置したヒーター8により、長尺基材25の表面側から長尺基材25の成膜面を加熱するため、図5(a)に示すように、長尺基材25の表面(成膜面)の温度を良好な膜質の薄膜を成膜するのに適した最適温度に安定して制御することができる。したがって、長尺基材25の表面(成膜面)の温度を安定して最適温度に保つことができるので、良好な膜質および特性の薄膜を安定して成膜することができる。
また、長尺基材25の表面(成膜面)側から加熱しているため、薄膜(超電導薄膜)の膜厚を厚くするのに伴って成膜表面の温度が徐々に下がることも抑制できるので、温度設定を変化させる必要がない。したがって、従来の成膜装置のように、成膜温度を上昇させることにより起こる中間層と超電導薄膜との界面反応を抑制することができる。そのため、特性を低下させることなく、厚い酸化物超電導膜を成膜することが可能となる。
さらに、本実施形態の成膜装置1では、ヒーター8により長尺基材25の表面側から成膜面を直接加熱するため、長尺基材25を高速に搬送して成膜する場合にも、長尺基材25の成膜面を十分に加熱することができるので、成膜面の温度を安定して制御することができる。したがって、良好な膜質および特性の薄膜を、良好な生産性で成膜することができる。また、生産性を上げるためにレーザー光発光手段6からのレーザー光Lの発振周波数を増加させて、ターゲット7からの構成粒子の飛散量を増やして、成膜速度を高くする場合にも、長尺基材25の表面側から加熱するため、成膜速度の増加により長尺基材25の成膜面に堆積する粒子量が多くなっても、成膜表面の温度を安定して制御することができる。
【0038】
次に、本発明の成膜方法の一実施形態として、成膜装置1を用いた成膜方法の一例について説明する。
以下、本発明の成膜装置1を用いた成膜方法の一実施形態として、長尺基材25の上にYBaCuからなる酸化物超電導体薄膜23を形成する場合の成膜方法について説明する。
ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)からなる長尺テープ状の金属基材21上にGdZr(GZO)からなる多結晶中間薄膜(中間層)22が形成された長尺基材25を、多結晶中間薄膜22側がターゲット7側になるように基材ホルダ12及び転向部材群11間に図3に示すように巻回する。また、酸化物超電導体のターゲットとしてYBaCuからなる長方形状のターゲット7をセットする。
【0039】
次いで、処理容器2内を真空排気手段4により所定の圧力に減圧する。ここで必要に応じて処理容器2内に酸素ガスを導入して処理容器2内を酸素雰囲気としても良い。
次いで、送出リール13、転向部材群11、基材ホルダ12及び巻取リール14を同時に駆動し、長尺基材25を送出リール13から巻取リール14に向けて所定の速度にて移動させる。同時に、ヒーター8を作動させて、長尺基材25の表面側から成膜面を加熱し、長尺基材34の表面(成膜面)温度を所望の温度に制御する。ヒーター8により加熱される長尺基材25の表面(成膜面)の温度制御は、処理容器2内の適所に複数の温度センサを設置しておき、成膜領域10を走行する長尺基材25の表面(成膜面)の温度が均一になるようにヒーター8をON/OFF制御すること等によって行うことができる。
【0040】
次いで、レーザー光発光手段6によりレーザー光Lをターゲット7に照射する。この際、レーザー光Lによりターゲット7から叩き出され若しくは蒸発される構成粒子は、その放射方向の断面積が拡大したプルーム9となり、成膜領域10を走行する長尺基材25の表面上を覆う。さらに、この際、レーザー光Lの照射位置を振幅させたり、ターゲット7を水平方向に移動させることにより、ターゲット7の表面に照射するレーザー光Lの位置を移動させることが好ましい。これにより成膜領域10において基材ホルダ12に保持されて複数レーンを構成する長尺基材25の表面に達する構成粒子の濃度を均一にすることができる。
【0041】
次に、長尺基材25を、基材ホルダ12に長尺基材25の裏面が接しつつ、長手方向に移動する状態で、成膜領域10内を通過させる。長尺基材25は、基材ホルダ12、転向部材群11間を周回する毎に成膜領域10を通過し、この通過毎に長尺基材25の表面上に酸化物超電導体からなる薄膜である酸化物超電導体薄膜31が成膜される。
【0042】
本実施形態の成膜方法によれば、所定の位置にヒーター8を配し、このヒーター8により長尺基材25の表面側より成膜面を直接加熱することにより、長尺基材25の表面(成膜面)の温度を良好な膜質の薄膜を成膜するのに適した最適温度に安定して制御しながら成膜することができる。したがって、長尺基材25の表面(成膜面)の温度を安定して最適温度に保つことができるので、良好な膜質および特性の薄膜を安定して成膜することができる。
また、本実施形態の成膜方法では、ヒーター8により長尺基材25の表面側から成膜面を直接加熱するため、長尺基材25を高速に搬送して成膜する場合にも、長尺基材25の成膜面を十分に加熱することができるので、成膜面の温度を安定して制御しながら成膜することができる。したがって、良好な膜質および特性の薄膜を、良好な生産性で成膜することができる。
【0043】
なお、本発明の成膜装置は、上記実施形態の成膜装置1の構成に限定されるものではなく、ヒーターの配置が図4に示す位置関係を満たしている限り適宜変更可能である。
例えば、図6に示すように、複数のヒーター8B(図6に示す例では8個)を、対向する基材ホルダ12の曲面に沿うように配置してもよく、必要に応じて基材ホルダ12及びヒーター8Bを覆うように囲み部材17を設けてもよい。囲み部材17を設ける場合は、囲み部材17の側壁部にレーザ光Lを取り込むための窓17aを、囲み部材17の底面部にターゲット7からのプルーム9を長尺基材25まで行き渡らせるための開口部16を、囲み部材17の上面部に長手方向に移動する長尺基材25を通すための窓17b、17cを設ける構成とする。この際、囲み部材17の開口部16を形成する開口縁部17A、17Aは、成膜領域10の最近接位置に配置されたヒーター8Bの成膜領域10側端部とほぼ同等の位置とすることが好ましい。このような配置とすることにより、開口縁部17A、17Aによりターゲット7からのプルーム9が阻害されることを抑止できる。
【0044】
なお、転向部材群11を省略して、ターゲット7に対向する基材ホルダ12に対し、複数本の長尺基材25を複数組の送出リール13および巻取リール14で搬送するようにし、複数列とされた各長尺基材25が、成膜領域10を1回通過する構成とすることも可能である。
また、基材を複数列とする代わりに、図7に示すように、長尺基材25の幅を広くすることもできる。この場合は、複数の転向部材が同軸的に配置されてなる基板ホルダ12ではなく、長尺基材34の幅またはそれ以上の軸方向の長さを有する一つの転向部材よりなる基材ホルダ12Aを用いることができる。
さらに、送出リール13と巻取リール14の役割を入れ替え可能にして、リールに巻き取った長尺基材25を再度ターゲットに対向する位置に送出できるように構成し、長尺基材25の一端側のリールと、長尺基材25の他端側のリールとの間で、長尺基材25の往復動作を繰り返すことにより、厚い膜を成膜することが可能である。
【0045】
また、上記した実施形態では、ターゲット7に対向配置された基材ホルダ12が円筒状であり、この基材ホルダ12と転向部材群11との間に長尺基材25が巻回される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図8に示すような装置構成とすることもできる。なお、図8に示す成膜装置1Bにおいて、図2に示す成膜装置1と同一または類似の構成要素には同一または類似の符号を付してある。
【0046】
図8に示す成膜装置1Bは、長尺基材25の移動方向を転向する転向部材を複数個同軸的に配列してなり、離間して対向配置された一対の転向部材群11a、11bと、転向部材群11aの外側に配置された長尺基材25を送り出すための送出リール13Bと、転向部材群11bの外側に配置された長尺基材25を巻き取るための巻取リール14Bと、転向部材群11a、11bの間に配置され、転向部材群11a、11bの巻回により複数列とされた長尺基材25を支持する基板ホルダ12Bと、基材ホルダ12Bに接した状態にある基材25の表面に対向するように配されたターゲット7と、ターゲット7にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段6と、ターゲット7と基材ホルダ12Bの間に配置された長尺基材25を表面側から加熱するヒーター8とを少なくとも備えて構成されている。転向部材群11a、11b、送出リール13B及び巻取リール14Bを駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより、送出リール13Bから送り出された長尺基材25が転向部材群11a、11bを周回する毎に成膜領域10を通過し、この通過毎に長尺基材25の表面上にターゲット7の構成粒子を堆積させて薄膜を形成し、巻取リール14Bに巻き取られるようになっている。成膜装置1Bにおいて、送出リール13B、巻取リール14B、転向部材群11a、11bは、上記第1実施形態の送出リール13、巻取リール14、転向部材群11と、夫々、同様である。
【0047】
図8に示す成膜装置1Bは、基材ホルダ12Bは転向部材群11a、11bの間に配されており、転向部材群11a、11bの間を長手方向に移動する長尺基材25を、その裏面に接した状態で保持している。基材ホルダ12Bは、ターゲット7側の面が緩やかに膨出した湾曲形状をしている。基材ホルダ12Bを構成する材質は、上記第1実施形態の基材ホルダ12と同様である。
長尺基材25は、成膜面が外側となるように転向部材群11a、11bに巻回されており、ターゲット7からのプルーム9が生成された成膜領域10にて、基材ホルダ12Bに保持されて複数列レーンを構成するように配置されている。
【0048】
ヒーター8は、上記第1実施形態と同様に、ターゲット7と長尺基材25との距離TS、長尺基材25とヒーター8との距離SH、基材ホルダ12Bの中心線A1とヒーター8との最短距離PHとしたとき、SH=0.55TS〜0.85TS、PH=0.35TS〜0.55TSを満たすように配置されている。そのため、上記した成膜装置1と同様に、ヒーター8により長尺基材25の表面側から長尺基材25の成膜面を加熱して長尺基材25の表面(成膜面)の温度を安定して最適温度に保つことができるので、良好な膜質および特性の薄膜を安定して成膜することができる。また、ヒーター8により長尺基材25の表面側から成膜面を直接加熱するため、長尺基材25を高速に搬送して成膜する場合にも、長尺基材25の成膜面を十分に加熱することができるので、成膜面の温度を安定して制御することができる。したがって、良好な膜質および特性の薄膜を、良好な生産性で成膜することができる。
【0049】
本発明の成膜方法および成膜装置は、酸化物超電導体薄膜の成膜用として、好適に用いることができる。
また上述した実施形態では、酸化物超電導体薄膜を形成する場合に、本発明の成膜方法及び成膜装置を適用した例を詳述したが、例えば、IBAD法により形成された多結晶中間薄膜上にCeO中間層を形成し、次いで酸化物超電導体薄膜を形成する場合においては、本発明の成膜方法及び成膜装置をCeO中間層の形成にも使用することが可能である。
【0050】
以上、本発明の成膜方法及び成膜装置について説明してきたが、本発明は上記の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下に示す実施例では、図2および図3に示す本発明の成膜装置を用い、比較例では、図11に示す成膜装置を用いて、長尺基材上にY−Ba−Cu−O系(YBaCu)の酸化物超電導体薄膜を成膜した。なお、実施例および比較例において、レーザーは一定エリアをスキャンし、レーン数は図7に示す如く1レーンとし、成膜を複数回繰り返すことにより膜厚1μmの酸化物超電導薄膜を成膜した。
長尺基材としては、実施例および比較例のいずれも共通に、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)テープ上に、IBAD法によりGdZr(GZO)からなる厚さ1μmの多結晶中間薄膜(中間層)を形成したものを用いた。
【0053】
(実施例1)
線速(長尺基材の搬送速度)40m/hで、レーザー発振器(レーザー光発光手段)の台数の増減により、ターゲットに照射するレーザー光の発振周波数を調整し、ターゲットからの構成粒子の濃度を調整することで、長尺基材の表面への単位面積当たりの成膜レートを変化させて成膜を行い、得られた酸化物超電導体薄膜の臨界電流値Ic(A)を測定した。なお、ターゲットと長尺基材との距離TS=100mm、長尺基材とヒーターとの距離SH=70mm、基材ホルダの中心線とヒーターとの最短距離PH=45mmとして、長尺基材の成膜面の温度を約800℃に制御して成膜を行った。
【0054】
(比較例1)
ヒーターが内蔵された基台への接触加熱により、長尺基材の裏面から加熱を行ったこと以外は実施例1と同様にして成膜を行い、得られた酸化物超電導体薄膜の臨界電流値Ic(A)を測定した。
【0055】
実施例1および比較例1の結果を図9に示す。
図9の結果より、従来の成膜装置を用いて成膜した比較例1では、レーザー発振周波数が300Hzを超えると急速に臨界電流値Icが低下していた。これに対し、本発明の成膜装置1を用いて成膜した実施例1では、レーザー発振周波数1200Hzまで臨界電流値Icが維持されていた。ただし、レーザー発振周波数1800Hzとした成膜では、レーザーエネルギーがターゲットに集中しすぎたためにターゲット表面が歪により破壊され、正常なプルームが発生せず、安定した状態で成膜ができなかったために臨界電流値Icが低下したものであり、成膜装置1により安定成膜できる成膜レートの限界に達したものではない。この結果より、本発明によれば、高い成膜レートで成膜した場合にも、良好な超電導特性の酸化物超電導体薄膜を形成することができることが明らかである。
【0056】
(実施例2)
ターゲットに照射するレーザー光の発振周波数を300Hzとし、線速(長尺基材の搬送速度)を変化させて成膜を行い、得られた酸化物超電導体薄膜の臨界電流値Ic(A)を測定した。なお、ターゲットと長尺基材との距離TS=100mm、長尺基材とヒーターとの距離SH=70mm、基材ホルダの中心線とヒーターとの最短距離PH=45mmとして、長尺基材の成膜面の温度を約800℃に制御して成膜を行った。
【0057】
(比較例2)
ヒーターが内蔵された基台への接触加熱により、長尺基材の裏面から加熱を行ったこと以外は実施例1と同様にして成膜を行い、得られた酸化物超電導体薄膜の臨界電流値Ic(A)を測定した。
【0058】
実施例2および比較例2の結果を図10に示す。
図10の結果より、従来の成膜装置を用いて成膜した比較例2では、線速が40m/hを越えると急速に臨界電流値Icが低下していた。これに対し、本発明の成膜装置1を用いて成膜した実施例2では、線速160m/hまでは臨界電流値Ic>300Aであり、線速240m/hにおいても臨界電流値Icが約280Aであった。
この結果より、速い線速で成膜した場合にも、超電導特性を低下させることなく酸化物超電導体薄膜を形成することができており、本発明によれば、良好な生産性で良好な超電導特性の酸化物超電導体薄膜を成膜することができることが明らかである。
【0059】
図9及び図10の結果より、従来の成膜装置では、レーザー発振器(レーザー光発光手段)の台数を増やして成膜レートを上げると、成膜面の温度を所望の温度に制御することが難しく、成膜温度を安定にすることができないため、レーザー周波数が300Hzを超えると、成膜される酸化物超電導体薄膜の膜質が低下し、超電導特性Icが低下していた。また、単位面積の成膜レートを下げた場合にも、線速を上げていくと、長尺基材の裏面からの加熱であるため、長尺基材の成膜面まで伝熱する前に長尺基材が成膜領域を通過してしまうため、所定の成膜温度を安定に保つことができず、40m/hを超える線速での成膜は難しかった。
これに対し、本発明の成膜装置1では、長尺基材の表面側から成膜面を直接加熱するため、成膜レートを上げた場合にも、成膜面の温度を所定の温度に安定して保つことができ、良好な膜質および超電導特性の酸化物超電導薄膜を製造することができた。また、本発明の成膜装置1は、従来の成膜装置のような基材裏面側からの加熱ではなく、基材表面側から成膜面を直接加熱するため、線速を上げた場合にも、成膜面を所望の温度に安定して制御することができ、良好な膜質および超電導特性の酸化物超電導薄膜を、良好な生産性で製造することができた。
【0060】
(実施例3)
線速80m/h、レーザー発振周波数600Hz、ターゲットと長尺基材との距離TS=100mmとし、長尺基材とヒーターとの距離SHおよび基材ホルダの中心線とヒーターとの最短距離PHを表1に示す位置となるようにヒーターを配置し、長尺基材の成膜面の温度を約800℃に制御して成膜を行った。得られた酸化物超電導体薄膜の臨界電流値Ic(A)を測定した。結果を表1に併記した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果より、本発明の成膜装置1において、長尺基材とヒーターとの距離SH=0.55TS〜0.85TS、基材ホルダの中心線とヒーターとの最短距離PH=0.35TS〜0.55TSの関係を満たすようにヒーターを配置して成膜することにより、良好な超電導特性の酸化物超電導体薄膜を形成できることが確認された。
【0063】
(実施例4)
線速80m/h、レーザー発振周波数600Hz、ターゲットと長尺基材との距離TS、長尺基材とヒーターとの距離SH、および基材ホルダの中心線とヒーターとの最短距離PHを表2に示す位置となるようにヒーターを配置し、長尺基材の成膜面の温度を約800℃に制御して成膜を行った。得られた酸化物超電導体薄膜の臨界電流値Ic(A)を測定した。結果を表2に併記した。
【0064】
【表2】

【0065】
表2の結果より、本発明の成膜装置1において、長尺基材とヒーターとの距離SH=0.55TS〜0.85TS、基材ホルダの中心線とヒーターとの最短距離PH=0.35TS〜0.55TSの関係を満たすようにヒーターを配置して成膜することにより、良好な超電導特性の酸化物超電導体薄膜を形成できることが確認された。特に、ターゲットと長尺基材との距離TSを80〜150mmの範囲として成膜することにより、より良好な超電導特性の酸化物超電導薄膜を形成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、レーザー光をターゲットに照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させ、この構成粒子を帯状の基材上に堆積させることにより薄膜を形成する成膜方法及び成膜装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1、1B…成膜装置、2…処理容器、4…真空排気装置、6…レーザー光発光手段、7…ターゲット、8、8B…ヒーター、9…プルーム、10…成膜領域、11、11a、11b…転向部材群、12、12A、12B…基材ホルダ、13、13B…送出ロール、14、14B…巻取ロール、21…金属基材、22…多結晶中間薄膜(中間層)、23…薄膜(酸化物超電導体薄膜)、25…長尺基材(基材)、L…レーザー光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光によってターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流であるプルームを生成し、このプルームからの粒子を基材の表面上に堆積させ、該基材上に薄膜を形成する成膜装置であって、
前記基材を長手方向に沿って移動させる送出装置及び巻取装置と、
前記送出装置と前記巻取装置との間に配置され、該送出装置と該巻取装置の間を移動する前記基材の裏面と接した状態で該基材を保持する基材ホルダと、
前記基材ホルダに接した状態にある前記基材の表面と対向配置されたターゲットと、
前記ターゲットにレーザー光を照射するレーザー光発光手段と、
前記ターゲットと前記基材ホルダの間に前記基材の表面に対向するように配置され、該基材を表面側から加熱するヒーターと、
を少なくとも備え、
前記ターゲットと前記基材との距離TS、前記基材と前記ヒーターとの距離SH、前記基材ホルダの中心線と前記ヒーターとの最短距離PHとしたとき、SH=0.55TS〜0.85TS、PH=0.35TS〜0.55TSを満たすことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記送出装置と前記巻取装置の間に配置された前記基材の移動方向を転向させる転向部材を備え、
前記基材は、前記基材ホルダと前記転向部材との間に複数回巻回されて複数の隣接するレーンを構成することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
酸化物超電導体薄膜の成膜用であることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
レーザー光をターゲットの表面に照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させてターゲットの構成粒子の噴流であるプルームを生成させ、このプルームが生成している成膜領域に基材を通過させて、該プルームからの粒子を該基材の表面上に堆積させることにより、該基材上に薄膜を形成する成膜方法であって、
前記成膜領域を通過する前記基材を基材ホルダにより保持して、前記ターゲットと前記基材との距離TSで該ターゲットと対向配置し、
前記ターゲットと前記基材ホルダの間に、前記基材と前記ヒーターとの距離SH=0.55TS〜0.85TS、前記基材ホルダの中心線と前記ヒーターとの最短距離PH=0.35TS〜0.55TSを満たすようにヒーターを配置し、
このヒーターにより前記基材を表面側から加熱しながら前記成膜領域を通過させて該基材上に薄膜を形成することを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
前記基材を前記成膜領域を複数回通過させて、該成膜領域の通過毎に該基材上に薄膜を形成することを特徴とする請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記ターゲットが酸化物超電導体用材料であり、前記薄膜が酸化物超電導体薄膜であることを特徴とする請求項4または5に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−87359(P2012−87359A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234867(P2010−234867)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】