説明

成膜方法

【課題】品質の安定した膜を得ることのできる成膜方法を提供することにある。
【解決手段】成膜用基板の表裏両面の応力方向と膜の応力方向とをあらかじめ把握しておき、両者を適切に組み合わせることによって、所望の品質の膜を形成することができる。すなわち、同一の製造ロットで得られる複数の成膜用基板から、あらかじめ1枚を抜き取って評価基板とし、この評価基板の応力測定を行うことによって、その製造ロット内の成膜用基板の表裏両面の残留応力方向を事前に見積もることができる。膜応力を緩和して界面剥離を防止することを目的とする場合、膜の応力方向と、成膜用基板の成膜面での応力方向とを同方向とする。成膜用基板の平坦度の維持を目的とする場合、膜の応力方向と、成膜用基板の成膜面での応力方向とを逆方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野では、シリコンウエハを基材として用い、この基材上に薄膜素子を形成することが一般的であり、一部の特殊分野ではセラミックを基材として用いる例も見られる。また、液晶分野では薄板ガラスが基材として使用されている。
一方、ステンレス(SUS)等の圧延基板は汎用材料であり安価であるため、これを基板として用いる試みもなされている(特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開平7−142844号公報
【特許文献2】特開平7−176669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記のような薄膜素子では、熱履歴を受けると膜応力や基板の熱変形に起因して歪みが生じることがある。ここで、シリコン基板等の剛性の高い基板上に成膜している場合、基板そのものは熱変形が小さく膜の動きに追従しないため、膜クラックや界面剥離等の欠陥が生じることがある。
【0004】
一方、ステンレス基板上に成膜している場合、基板は圧延材料であるから、基板そのものが圧延時の表面歪みに起因する残留応力をもつ。したがって、熱履歴による歪みの発現は、基板の残留応力に起因して生じる歪みと膜応力による歪みとが合成されたものとなる。このとき、基板の残留応力の大きさや方向が製造ロット毎に異なるため、反りや欠陥の発生が使用した基板の残留応力に依存して変化し、完成した薄膜素子の品質が安定しないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、品質の安定した膜を得ることのできる成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の成膜方法は、標準基板上に形成した膜の残留応力を測定して応力方向を判定する膜応力判定工程と、一の製造ロットにおいて製造された複数枚の成膜用基板のうち一の成膜用基板の残留応力を測定して前記成膜用基板の表裏面の応力方向を判定する基板応力判定工程と、前記膜応力判定工程で判定された膜の応力方向と前記基板応力判定工程で判定された前記成膜用基板の表裏面の応力方向に基づいて、前記成膜用基板の成膜面を決定する成膜面決定工程と、前記一の成膜用基板と同一の製造ロットで製造された他の成膜用基板に対して前記成膜面決定工程で決定された前記成膜面に前記標準基板上に形成された膜と同一の成膜条件で膜を形成する成膜工程と、成膜工程後の前記成膜用基板を熱処理する熱処理工程と、を含むものである。
【0007】
ここで、標準基板としては、形成したい膜よりも残留応力が小さい基板を使用することを要し、残留応力が0である基板を使用することが最も好ましい。残留応力が0であれば、膜形成後の基板の反りは膜の残留応力のみに依存して生じるものとなるため、膜の残留応力方向を正確に把握することができる。
【0008】
本発明の成膜方法においては、基板応力判定工程において成膜用基板の残留応力が開放される開放温度を判定するとともに、熱処理工程における熱処理温度をこの開放温度に基づいて決定することが好ましい。このようにすれば、熱処理工程において確実に成膜用基板の残留応力を開放するための温度を、残留応力方向を把握するための工程を利用して判定することができる。
【0009】
本発明の成膜方法においては、成膜面決定工程において、成膜用基板の表裏両面のうち、膜の応力方向と同一方向の応力方向をもつ面を成膜面としてもよい。このようにすれば、膜の歪みに成膜用基板が追従するため、成膜用基板との界面での膜応力が緩和される。これにより、界面剥離の生じない膜を作成することができる。このような成膜方法は、基材の反りがあまり問題とならず、かつ、界面剥離の低減が求められる用途に好ましく適用可能であり、具体的には、インクジェットプリンタ用の圧電アクチュエータの製造等に適用できる。
【0010】
あるいは、成膜面決定工程において、成膜用基板の表裏両面のうち、膜の応力方向と逆方向の応力方向をもつ面を成膜面としてもよい。このようにすれば、膜と成膜用基板の応力方向が互いに打ち消し合い、成膜用基板の平坦度が維持される。このような成膜方法は、ファインピッチでの素子形成が必要な場合等、高い精度が要求される用途に適用可能であって、具体的には、電子部品実装用の基板上への絶縁層の形成等に好ましく適用できる。
【0011】
本発明において成膜用基板の材質には特に制限はなく、例えばステンレス鋼(SUS430、SUS304等)、42A合金、アルミナ、ジルコニア、チタン製のものを使用できる。特に、ステンレス基板のように残留応力の大きな基板であっても本発明の成膜用基板として利用することができる。本発明の成膜方法によって安価な汎用材料であるステンレス基板を膜形成のための基材として適用することができ、コスト削減が可能となる。
【0012】
また、この成膜用基板上に形成される膜の種類には特に制限はなく、例えばアルミナ、ジルコニア、シリカ、ムライト、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)等のセラミックス膜を形成することができる。また、膜の形成方法にも特に制限はなく、例えば、CVD法(気相成長法)、ゾル−ゲル法、スパッタ法、エアロゾルデポジション法(AD法)等を適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成膜用基板の表裏両面の応力方向と膜の応力方向とをあらかじめ把握しておき、両者を適切に組み合わせることによって、所望の品質の膜を得ることができる。
ここで、残留応力の変動が大きな基板材料であっても、同一の製造ロット内の材料であれば、加工条件が同じとなるため残留応力もほぼ同じであると考えてよい。したがって、同一の製造ロットで得られる複数の基板から、あらかじめ1枚を抜き取って応力測定することによって、その製造ロット内の基板材料の残留応力方向を事前に見積もることができる。これを利用して成膜用基板の残留応力の方向を事前に把握し、膜そのものの応力方向と組み合わせて、所望の品質の膜を基板上に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図8を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態では、インクジェットヘッド10に使用されるアクチュエータプレート1(本発明の圧電アクチュエータに該当する)を製造する場合を例にとり説明する。
【0015】
図1には、本実施形態のインクジェットヘッド10を示す。インクジェットヘッド10は、インク20が収容される複数の圧力室16を備えた流路ユニット11と、この流路ユニット11上に圧力室16を閉じるように接合されたアクチュエータプレート1とを備えている。
【0016】
流路ユニット11は、全体として平板状をなしており、ノズルプレート12、マニホールドプレート13、流路プレート14、および圧力室プレート15を順に積層するとともに、各プレート12、13、14、15を互いにエポキシ系の熱硬化性接着剤にて接合した構成となっている。
【0017】
ノズルプレート12は、ポリイミド系の合成樹脂材料にて形成されており、その内部にはインク20を噴射するための複数のインク吐出ノズル19となる孔が整列して形成されている。マニホールドプレート13は、例えばステンレス(SUS430)にて形成され、その内部には、インク吐出ノズル19に接続する複数のノズル流路18となる孔が設けられている。流路プレート14は、同じくステンレス(SUS430)にて形成されており、内部にノズル流路18に連通した複数のプレッシャ流路17となる孔が設けられている。圧力室プレート15は同じくステンレス(SUS430)にて形成され、その内部にはプレッシャ流路17に連通した複数の圧力室16となる孔が設けられている。圧力室16は、流路プレート14およびマニホールドプレート13に設けられた図示しないマニホールド流路および共通インク室を介してインクタンクに接続されている。このようにして、インクタンクに接続された共通インク室から、マニホールド流路、圧力室16、プレッシャ流路17およびノズル流路18を経てインク吐出ノズル19へと至るインク流路が形成されている。
【0018】
この流路ユニット11に積層されるアクチュエータプレート1は、圧力室16の壁面の一部を構成するとともに下部電極を兼ねる振動板2(本発明の成膜用基板に該当する)と、この振動板2上に形成された圧電膜3と、この圧電膜3上に設けられた上部電極4とで構成されている。
【0019】
振動板2は、例えば圧延加工により形成された矩形状のステンレス(SUS430)基板であり、流路ユニット11の上面に熱圧着により接合されて、流路ユニット11の上面全体を覆う形態となっている。
【0020】
この振動板2において流路ユニット11に接する面と反対側の面には、圧電膜3が設けられている。圧電膜3は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体の圧電セラミックス材料から形成されており、振動板2の表面に均一な厚みで積層されており、その厚み方向に分極するように分極処理が施されている。この圧電膜3は、例えばエアロゾルデポジション法(AD法)ゾルゲル法、スパッタ法、あるいは、CVD(化学蒸着)法により形成することができる。
【0021】
この圧電膜3上において振動板2に密着されている側と逆側の面上には、複数の上部電極4が備えられている。この上部電極4は、各圧力室16の開口部16Aに対応する領域にそれぞれ設けられるとともに、駆動回路ICに接続されており、駆動電極として使用される。
【0022】
次に、このインクジェットヘッド10を構成するアクチュエータプレート1の製造方法について説明する。図2のフローチャートには、成膜面の決定までのプロセスを示した。
【0023】
最初にステップS11にて、標準基板上に膜を形成してその膜応力を測定し、膜の応力方向を判定する(膜応力判定工程)。標準基板としては例えばシリコン基板を使用できる。シリコン基板は一般に、ラッピング、ポリッシュ、またはエッチングにて表面の変質層を除去するとともに、必要に応じて熱処理を行って残留応力をほぼ0とした状態で供給されるため、標準基板として好ましく使用することができる。また、膜応力の測定には公知の方法(例えば光てこ法)を適用できる。具体的には、例えば成膜前後の標準基板について、それぞれ膜が形成された側の面を測定面とし、曲率半径R、Rを測定して、以下の式(1)、(2)により応力値Sを求める。曲率半径の測定は、例えば東明テクノロジー株式会社製薄膜ストレス測定装置 FLX−2320Sにより、測定温度範囲室温〜500℃で行うことができる。
【0024】
ΔR=(R・R)/(R−R)…(1)
(但し、ΔRは曲率半径の変化量(m)、Rは成膜前の標準基板の曲率半径(m)、Rは成膜後の標準基板の曲率半径(m))
【0025】
S=Eh/{(1−v)6ΔRt}…(2)
(但し、Sは応力値(Pa)、E/(1−v)は標準基板の2軸弾性係数(Pa)、hは標準基板の厚さ(m)、tは膜の厚さ(m)、ΔRは曲率半径の変化量(m))
【0026】
この応力値Sに基づいて圧電膜3の応力方向が判定される。応力方向は応力値Sがプラスの値であれば引張方向、マイナスの値であれば圧縮方向と判定される。
【0027】
次に振動板2の残留応力を測定し、その応力方向を判定する(基板応力判定工程)。
【0028】
ステップS12において、振動板2として使用するステンレス基板について、製造ロット毎に1枚を抜き取って評価基板とし、この評価基板について第1の残留応力測定を行う。まず、圧延加工後の圧延板の片面を、キズを防止するために保護フィルムで被覆しておく。次いで、この圧延板を、所定の外形サイズにカットした後、保護フィルムを除去し、圧延板単位で評価基板を1枚ずつ抜き取る。この評価基板について、残留応力を測定する。測定は、上記した膜応力の測定と同様にして行うことができる。
【0029】
この第1の残留応力測定の際に、測定温度範囲内で残留応力の開放が終了したか否かを併せて判定する(ステップS13)。判定は例えば以下のようにして行う。
【0030】
図3〜図6には、残留応力の温度プロファイルの例をいくつか示した。例えば、図3に示すように、温度t1において応力値S(反り量)の急激な増大が生じ、それよりも高い温度では加熱および冷却サイクルの間の応力差が生じていない場合、開放温度t1にて応力開放が完了したと判定する。また、図4には、温度t1およびt2において残留応力が段階的に開放される例を示した。この場合、後述の熱処理工程における熱処理温度がt2以下で良い場合には、開放温度t2で応力開放が完了したとみなす。一方、熱処理温度がt2以上であることを要する場合には、応力開放が完了していないと判定する。また、図5および図6には、測定温度範囲で応力開放が確認されなかった温度プロファイルの例を示した。
【0031】
応力開放が完了したと判定されたら、ステップS14に進み、評価基板の表裏両面の応力方向を判定する。測定面における応力値Sがプラスの値であれば、この測定面での応力方向を引張方向であると判定し、逆側の面の応力方向を圧縮方向と判定する。また、測定面における応力値Sがマイナスの値であれば、この測定面での応力方向を圧縮方向であると判定し、逆側の面の応力方向を引張方向と判定する。(以後、引張方向側の面をA面2A、圧縮方向側の面をB面2Bという。)
【0032】
応力開放が完了していないと判定されたら、ステップS15に進み、評価基板の高温アニール処理を行う。この高温アニール処理は、上記の第1の残留応力測定(ステップS12)後になお残存する残留応力を開放することを目的とするもので、第1の残留応力測定における測定温度範囲の最高値よりも高い温度で行うことを要する。具体的には、850℃程度で行うことが好ましい。
【0033】
高温アニール処理終了後、評価基板について、再度、残留応力測定を行う(第2の残留応力測定;ステップS16)。第2の残留応力測定の手順は、上記第1の残留応力測定(ステップS12)と同様で良い。
【0034】
第2の残留応力測定においても、残留応力の開放が完了したか否かを併せて判定する(ステップS17)。この段階で応力開放の完了が確認された場合、高温アニールにおいて、すなわち、第1の残留応力測定における測定温度の最高値を越える温度であって、かつアニール温度以下の温度で振動板2の残留応力が開放されたと判断することができる。
【0035】
応力開放が完了したと判定されたら、ステップS14に進み、評価基板の表裏両面での応力方向を判定する。一方、応力開放が完了していないと判定された場合には、ステップS21に進み、当該評価基板と同一の製造ロットにより製造されたステンレス基板は使用不可であると判定する。相当な高温で処理しても応力開放が完了しないほど残存応力が高いステンレス基板は、成膜後に熱処理工程を行っても反りの発現が安定せず、品質の安定性が期待できないためである。
【0036】
膜応力判定工程および基板応力判定工程が終了したら、これらの判定結果に基づいて、振動板2のA面2A、B面2Bのいずれを成膜面とするかを決定する(成膜面決定工程;ステップS18)。本実施形態のようなアクチュエータプレート1では、振動板2の反りはあまり問題とならず、むしろ界面剥離の低減の要請が強いため、圧電膜3の応力を緩和して振動板2からの剥離を防止できるよう、振動板2の成膜面における残存応力方向と膜応力方向とを同方向とする。すなわち、膜応力が圧縮方向である場合には、圧縮方向側の面であるB面2Bを成膜面と決定する(ステップS19)。一方、膜応力が引張方向である場合には、引張方向側の面であるA面2Aを成膜面と決定する(ステップS20)。
【0037】
以上のようにして成膜面が決定されたら、成膜を行う(成膜工程)。基材としては基板応力判定工程で試験した評価基板と同一の製造ロットで製造された振動板2を用い、この振動板2において成膜面決定工程で決定された成膜面に圧電膜3を形成する。このとき成膜条件は、膜応力測定工程における標準基板上への膜形成の際の成膜条件と同一とする。
【0038】
まず、膜応力が引張方向である場合について、図7A〜図7Cを参照しつつ説明する。なお、図中において、振動板2における表裏面の応力方向を点線矢印で、圧電膜3の応力方向を実線矢印で示してある。膜応力が引張方向である場合には、振動板2において引張方向側の面であるA面2Aに成膜を行う(図7A)。このとき、膜応力に起因して、成膜面側が凹となる反りが発現する(図7B)。
【0039】
成膜が終了したら、熱処理を行って振動板2の残存応力を開放する(熱処理工程)。熱処理温度は振動板2の残留応力の開放と圧電膜3の特性回復との2つを考慮して決定すべきであるが、残留応力開放の観点からは、応力開放が終了する温度(上記の残留応力測定で決定した開放温度)以上であることを要する。すなわち、第1の残留応力測定(ステップS12)で応力開放の完了が確認された場合、熱処理温度はこの第1の残留応力測定で確認された開放温度以上の温度であれば良い。一方、第1の残留応力測定で応力開放の終了が確認されず、第2の残留応力測定(ステップS16)で応力開放の完了が確認された場合、熱処理温度は高温アニール処理(ステップS15)における処理温度以上の温度であれば良い。
【0040】
この熱処理工程により、振動板2の残留応力が開放され、反り量は膜応力による歪みと振動板2の応力開放に伴う歪みとが合成されたものとなる。具体的には、膜応力および成膜面(A面2A)の残留応力の方向がともに引張方向であるため、膜応力による歪みと振動板2の応力開放に伴う歪みとはともに成膜面側が凹となる反りとなって現れる。したがって、全体としての反り量は大きくなるものの、圧電膜3の歪みに振動板2が追従するため、振動板2との界面での膜応力が緩和される(図7C)。これにより、界面剥離の生じない圧電膜3を作成することができる。
【0041】
次に、膜応力が圧縮方向である場合について、図8A〜図8Cを参照しつつ説明する。なお、図中において、振動板2における表裏面の応力方向を点線矢印で、圧電膜3の応力方向を実線矢印で示してある。膜応力が圧縮方向である場合には、振動板2において圧縮方向側の面であるB面2Bに成膜を行う(図8A)。このとき、膜応力に起因して、成膜面側が凸となる反りが発現する(図8B)。
【0042】
成膜が終了したら、上記と同様に熱処理を行って振動板2の残存応力を開放する(熱処理工程)。この熱処理工程により、振動板2の残留応力が開放され、反り量は膜応力による歪みと振動板2の応力開放に伴う歪みとが合成されたものとなる。具体的には、膜応力および成膜面(A面2A)の残留応力の方向がともに圧縮方向であるため、膜応力による歪みと振動板2の応力開放に伴う歪みとはともに成膜面側が凸となる反りとなって現れる。したがって、全体としての反り量は大きくなるものの、圧電膜3の歪みに振動板2が追従するため、振動板2との界面での膜応力が緩和される(図8C)。これにより、圧電膜3の界面剥離を抑制することができる。
【0043】
次に、圧電膜3の上面に上部電極4、および各上部電極4に接続した複数のリード部(図示せず)を形成する。上部電極4及びリード部を形成するには、例えば、圧電膜3上の全域に導体膜を形成した後、フォトリソグラフィ・エッチング法を利用して所定のパターンに形成してもよく、あるいは圧電膜3の上面に直接スクリーン印刷によりパターン形成しても良い。
【0044】
この後、上部電極4−下部電極(振動板2)間に通常のインク噴射動作時よりも強い電界を印加して、両電極間の圧電膜3を厚み方向に分極する(分極処理)。以上によりアクチュエータプレート1が完成する。
【0045】
以上のように本実施形態によれば、振動板2の表裏両面の応力方向と圧電膜3の応力方向とをあらかじめ把握しておき、両者を適切に組み合わせることによって、所望の品質の圧電膜3を振動板2上に形成することができる。
【0046】
ここで、ステンレスは残留応力の大きさ及び変動が大きな基板材料ではあるが、その品質向上は進んでおり、圧延工程に起因した残留応力を完全になくすことは不可能であっても、製造ロット内で管理することは可能である。すなわち、同一の製造ロット内(圧延板単位)の材料であれば、圧延条件が同じであるから、残留応力もほぼ同じであると考えてよい。したがって、同一の製造ロットで得られる複数の振動板2から、あらかじめ1枚を抜き取って評価基板とし、この評価基板の応力測定を行うことによって、その製造ロット内の振動板2の表裏両面の残留応力方向を事前に見積もることができる。
【0047】
本実施形態のように膜応力を緩和して界面剥離を防止することが重要視される場合、圧電膜3の応力方向と、振動板2の成膜面での応力方向とを同方向とする。このようにすれば、成膜後の熱処理工程によって振動板2の残留応力を開放させることにより、膜応力に起因する圧電膜3の歪みに振動板2の歪みが追従するため、振動板2との界面での膜応力が緩和される。これにより、圧電膜3の界面剥離を抑制することができる。
また、安価な汎用材料である振動板2を膜形成のための基材として適用することができ、コスト削減が可能となる。
【0048】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について、図9〜図12を参照しつつ説明する。本実施形態では、電子部品を実装するための電子部品実装用基板31(以下、「実装用基板31」と略記する)を製造する場合を例にとり説明する。
【0049】
図9には、本実施形態の部品搭載基板30の概略側断面図を示した。この部品搭載基板30は、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器に用いられるものであって、実装用基板31上にIC35等の電子部品を搭載したものである。
【0050】
この部品搭載基板30を構成する実装用基板31は、基材としての2枚のプレート32、33(本実施形態の成膜用基板に該当する)と、上側のプレート32の上面に形成された絶縁膜34とを備えている。
【0051】
2枚のプレート32、33は、熱伝導率の高い金属材料、例えばステンレス鋼、鉄、銅、ニッケル、あるいは、アルミニウム等により形成されている。また、上側のプレート32の上面に形成された絶縁膜34は、アルミナ、窒化アルミ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ムライト、あるいは、ジルコニア等の、熱伝導率の高いセラミックス材料からなる非常に薄い膜(例えば、0.5〜10μm程度)である。この絶縁膜34は、例えばエアロゾルデポジション法(AD法)ゾルゲル法、スパッタ法、あるいは、化学蒸着(CVD)法により形成することができる。
【0052】
この実装用基板31において絶縁膜34の上面には、端子を介してIC35、抵抗(図示せず)、コンデンサ(図示せず)等の電子部品が実装されている。さらに絶縁膜34の上面には、IC35等の電子部品の端子(例えば、端子35A)と接合される複数の配線36が形成されている。
【0053】
絶縁膜34の上面には、熱伝導率の高い金属材料(例えば、銅やアルミニウム等)からなる伝熱部材37がIC35を覆うように設けられている。この伝熱部材37は、IC35の上面に密着する天井壁37Aと、この天井壁37Aの対向する2辺から下方に延びる一対の脚部37Bとを備える。一対の脚部37Bの下端部は、それぞれ接着剤38によって絶縁膜34に接着されている。
【0054】
また、実装用基板31において2枚のプレート32、33の内部には閉ループ状の流路39が形成されている。この流路39には水Wが充填されており、この水Wは図示しない加圧機構によって加圧されて流路39を循環するようになっている。さらに、この流路39の途中には熱を外部へ放散する図示しない放熱器が設けられている。
【0055】
このような部品搭載基板30では、IC35で発生した熱は、端子35Aおよび伝熱部材37を介して絶縁膜34及びプレート32、33に伝わる。プレート32、33は熱伝導性の良い金属により形成されているから、このプレート32、33に伝わった熱は外部へ効率よく放散される。さらに、プレート32、33に伝わった熱は、流路39内を循環する水Wにより放熱器に伝えられ、この放熱器からも外部へ放散される。このようにして放熱が効率よく行われる。
【0056】
次に、この部品搭載基板30を構成する実装用基板31の製造方法について説明する。図10のフローチャートには、成膜面の決定までのプロセスを示した。
【0057】
本実施形態において、膜応力判定工程および基板応力判定工程(ステップS31〜ステップS37、およびステップS41)は、第1実施形態の同工程(ステップS11〜ステップS17、およびステップS21)と同様であるため説明を省略する。
膜応力判定工程および基板応力判定工程が終了したら、これらの判定結果に基づいて、プレート32のA面32A、B面32Bのいずれを成膜面とするかを決定する(成膜面決定工程;ステップS38)。本実施形態のような実装用基板31では、高密度化のために高い精度が要求され、プレート32の平坦度が維持されていることが重要であるため、プレート32の成膜面における残存応力方向と膜応力方向とを逆方向とする。すなわち、膜応力が圧縮方向である場合には、引張方向側の面であるA面32Aを成膜面とする(ステップS39)。一方、膜応力が引張方向である場合には、圧縮方向側の面であるB面32Bを成膜面とする(ステップS40)。
【0058】
以上のようにして成膜面が決定されたら、成膜を行う(成膜工程)。基材としては基板応力判定工程で試験した評価基板と同一の製造ロットで製造されたプレート32を用い、このプレート32において成膜面決定工程で決定された成膜面に絶縁膜34を形成する。このとき成膜条件は、膜応力測定工程における標準基板上への膜形成の際の成膜条件と同一とする。
【0059】
先ず、膜応力が引張方向である場合について、図11A〜図11Cを参照しつつ説明する。なお、図中において、プレート32における表裏面の応力方向を点線矢印で、圧電膜3の応力方向を実線矢印で示してある。膜応力が引張方向である場合には、プレート32において圧縮方向側の面であるB面32Bに成膜を行う(図11A)。このとき、膜応力に起因して、成膜面側が凹となる反りが発現する(図11B)。
【0060】
成膜が終了したら、熱処理を行ってプレート32の残存応力を開放する(熱処理工程)。熱処理温度は第1実施形態と同様で良い。この熱処理工程により、プレート32の残留応力が開放され、反り量は膜応力による歪みとプレート32の応力開放に伴う歪みとが合成されたものとなる。具体的には、成膜面(B面32B)の残留応力の方向が圧縮方向であるため、プレート32の応力開放に伴う歪みは膜応力による歪みとは逆向き、すなわち成膜面側が凸となる反りとなって現れる。このため、絶縁膜34の応力方向に起因する反りとプレート32の成膜面での応力方向に起因する反りが互いに打ち消し合い、プレート32が平坦化される(図11C)。
【0061】
次に、膜応力が圧縮方向である場合について、図12A〜図12Cを参照しつつ説明する。なお、図中において、プレート32における表裏面の応力方向を点線矢印で、圧電膜3の応力方向を実線矢印で示してある。膜応力が圧縮方向である場合には、プレート32において引張方向側の面であるA面32Aに成膜を行う(図12A)。このとき、膜応力に起因して、成膜面側が凸となる反りが発現する(図12B)。
【0062】
成膜が終了したら、上記と同様に熱処理を行ってプレート32の残存応力を開放する(熱処理工程)。この熱処理工程により、プレート32の残留応力が開放され、反り量は膜応力による歪みとプレート32の応力開放に伴う歪みとが合成されたものとなる。具体的には、成膜面(A面32A)の残留応力の方向が引張方向であるため、プレート32の応力開放に伴う歪みは膜応力による歪みとは逆向き、すなわち成膜面側が凹となる反りとなって現れる。このため、絶縁膜34の応力方向に起因する反りとプレート32の成膜面での応力方向に起因する反りが互いに打ち消し合い、プレート32が平坦化される(図12C)。
【0063】
以上のように本実施形態によっても、プレート32の表裏両面の応力方向と絶縁膜34の応力方向とをあらかじめ把握しておき、両者を適切に組み合わせることによって、所望の品質の絶縁膜34を形成することができる。
【0064】
本実施形態のようにプレート32の平坦度の維持を目的とする場合、絶縁膜34の応力方向と、プレート32の成膜面での応力方向とを逆方向とする。このようにすれば、絶縁膜34の応力方向に起因する反りとプレート32の成膜面での応力方向に起因する反りが互いに打ち消し合い、プレート32が平坦化される。
なお、このような方法では、プレート32との界面での膜応力が増大するため、プレート32に対する絶縁膜34の密着度を高くしておくことが好ましい。
【0065】
本発明の技術的範囲は、上記した実施形態によって限定されるものではなく、例えば、次に記載するようなものも本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記各実施形態では、残留応力の開放の終了を2段階(第1の残留応力測定および第2の残留応力測定)で確認したが、残留応力測定における測定温度範囲を本実施形態よりも広くとり、1段階の残留応力測定で残留応力の開放の終了を判断しても構わない。
(2)基板応力判定工程と膜応力判定工程とは、いずれを先に行っても良く、あるいは、両工程を同時進行で行っても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1実施形態の圧電アクチュエータの概略側断面図
【図2】第1実施形態における成膜面の決定までのプロセスを示すフローチャート
【図3】温度t1で基板の残留応力の開放が終了した場合の残留応力の温度プロファイル
【図4】温度t1で基板の残留応力が一部開放された場合の残留応力の温度プロファイル
【図5】基板の残留応力が開放されなかった場合の残留応力の温度プロファイル−1
【図6】基板の残留応力が開放されなかった場合の残留応力の温度プロファイル−2
【図7A】膜応力が圧縮方向であり、ステンレス基板において圧縮方向側の面を成膜面とした場合において、成膜前のステンレス基板の側面図
【図7B】膜応力が圧縮方向であり、ステンレス基板において圧縮方向側の面を成膜面とした場合において、成膜後のステンレス基板の側面図
【図7C】膜応力が圧縮方向であり、ステンレス基板において圧縮方向側の面を成膜面とした場合において、熱処理語のステンレス基板の側面図
【図8A】膜応力が引張方向であり、ステンレス基板において引張方向側の面を成膜面とした場合において、成膜前のステンレス基板の側面図
【図8B】膜応力が引張方向であり、ステンレス基板において引張方向側の面を成膜面とした場合において、成膜後のステンレス基板の側面図
【図8C】膜応力が引張方向であり、ステンレス基板において引張方向側の面を成膜面とした場合において、熱処理後のステンレス基板の側面図
【図9】第2実施形態の部品搭載基板の概略側断面図
【図10】第2実施形態における成膜面の決定までのプロセスを示すフローチャート
【図11A】膜応力が圧縮方向であり、ステンレス基板において引張方向側の面を成膜面とした場合において、成膜前のステンレス基板の側面図
【図11B】膜応力が圧縮方向であり、ステンレス基板において引張方向側の面を成膜面とした場合において、成膜後のステンレス基板の側面図
【図11C】膜応力が圧縮方向であり、ステンレス基板において引張方向側の面を成膜面とした場合において、熱処理語のステンレス基板の側面図
【図12A】膜応力が引張方向であり、ステンレス基板において圧縮方向側の面を成膜面とした場合において、成膜前のステンレス基板の側面図
【図12B】膜応力が引張方向であり、ステンレス基板において圧縮方向側の面を成膜面とした場合において、成膜後のステンレス基板の側面図
【図12C】膜応力が引張方向であり、ステンレス基板において圧縮方向側の面を成膜面とした場合において、熱処理語のステンレス基板の側面図
【符号の説明】
【0067】
1…アクチュエータプレート(圧電アクチュエータ)
2…振動板(成膜用基板)
3…圧電膜(膜)
31…電子部品実装用基板
32…プレート(成膜用基板)
33…絶縁膜(膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準基板上に形成した膜の残留応力を測定して応力方向を判定する膜応力判定工程と、
一の製造ロットにおいて製造された複数枚の成膜用基板のうち一の成膜用基板の残留応力を測定して前記成膜用基板の表裏面の応力方向を判定する基板応力判定工程と、
前記膜応力判定工程で判定された膜の応力方向と前記基板応力判定工程で判定された前記成膜用基板の表裏面の応力方向に基づいて、前記成膜用基板の成膜面を決定する成膜面決定工程と、
前記一の成膜用基板と同一の製造ロットで製造された他の成膜用基板に対して前記成膜面決定工程で決定された前記成膜面に前記標準基板上に形成された膜と同一の成膜条件で膜を形成する成膜工程と、
成膜工程後の前記成膜用基板を熱処理する熱処理工程と、
を含む成膜方法。
【請求項2】
前記基板応力判定工程において、前記成膜用基板の残留応力が開放される開放温度を判定するとともに、
前記熱処理工程における熱処理温度を前記開放温度に基づいて決定する、請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記成膜面決定工程において、前記成膜用基板の表裏両面のうち、前記膜の応力方向と同一方向の応力方向をもつ面を成膜面とする、請求項1または請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記成膜面決定工程において、前記成膜用基板の表裏両面のうち、前記膜の応力方向と逆方向の応力方向をもつ面を成膜面とする、請求項1または請求項2に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜用基板がステンレス基板である、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
標準基板上に形成した圧電膜の残留応力を測定して応力方向を判定する膜応力判定工程と、
一の製造ロットにおいて製造された複数枚の成膜用基板のうち一の成膜用基板の残留応力を測定して前記成膜用基板の表裏面の応力方向を判定する基板応力判定工程と、
前記膜応力判定工程で判定された圧電膜の応力方向と前記基板応力判定工程で判定された前記成膜用基板の表裏面の応力方向に基づいて、前記成膜用基板の表裏両面のうち前記膜の応力方向と同一方向の応力方向をもつ面を成膜面と決定する成膜面決定工程と、
前記一の成膜用基板と同一の製造ロットで製造された他の成膜用基板に対して前記成膜面決定工程で決定された前記成膜面に前記標準基板上に形成された圧電膜と同一の成膜条件で圧電膜を形成する成膜工程と、
成膜工程後の前記成膜用基板を熱処理する熱処理工程と、を含む圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
標準基板上に形成した絶縁膜の残留応力を測定して応力方向を判定する膜応力判定工程と、
一の製造ロットにおいて製造された複数枚の成膜用基板のうち一の成膜用基板の残留応力を測定して前記成膜用基板の表裏面の応力方向を判定する基板応力判定工程と、
前記膜応力判定工程で判定された絶縁膜の応力方向と前記基板応力判定工程で判定された前記成膜用基板の表裏面の応力方向に基づいて、前記成膜用基板の表裏両面のうち前記膜の応力方向と逆方向の応力方向をもつ面を成膜面と決定する成膜面決定工程と、
前記一の成膜用基板と同一の製造ロットで製造された他の成膜用基板に対して前記成膜面決定工程で決定された前記成膜面に前記標準基板上に形成された絶縁膜と同一の成膜条件で絶縁膜を形成する成膜工程と、
成膜工程後の前記成膜用基板を熱処理する熱処理工程と、を含む電子部品実装用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【公開番号】特開2007−302923(P2007−302923A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130637(P2006−130637)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】