説明

成膜方法

【課題】スパッタリング法によってMgF薄膜を形成するにあたり、経時変化による屈折率の変化を抑えることのできる成膜方法を提供する。
【解決手段】酸素及び窒素の少なくとも一方を含むガスを導入しながら、表面の温度を650°C〜1100°Cの間に保持したMgF131をイオンでスパッタリングすることにより、MgFの少なくとも一部を分子状態で跳び出させ、分子状態のMgFで基板102上へ膜を形成する第1成膜工程と、基板上に酸化物を成膜する第2成膜工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法によって薄膜を作製する成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、反射防止膜やハーフミラー、エッジフィルター等の光学薄膜を作製する場合、手法の容易さや成膜速度等の点から、真空蒸着法が主に用いられてきた。これに対し、スパッタリング法は自動化、省力化、大面積基板への適用性、基板への高密着性など多くの利点があり、近年のコーティング分野において広く適用されてきている。
【0003】
光学薄膜における代表的な低屈折率材料として、MgFやその他のフッ化物が挙げられる。例えばMgFをスパッタリング法で成膜すると、MgとFとに解離してしまい、膜中ではFが不足するために、可視光の吸収が生じてしまうという欠点があった。この欠点が、スパッタリング法を光学薄膜に適用する上での大きな障害となっていた。
【0004】
これに対して、特許文献1では、光吸収のないフッ化物膜をスパッタリング法により形成する方法が記載されている。この方法で作製したフッ化物薄膜は、従来の膜と比較して、光吸収及び耐擦傷性の点で改善が見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3808917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で作製したフッ化物薄膜は、経時変化によって屈折率が変化してしまうという問題がある。このフッ化物薄膜は、成膜直後の波長550nmにおける屈折率は1.365であるのに対して、経時変化によって1.378まで変化する。この経時変化後の屈折率1.378は、MgFの理論値にほぼ等しいが、成膜直後の屈折率と、経時変化後の屈折率とが一致しないことにより、実際の生産現場で不便が生じるおそれがある。
【0007】
生産現場では一般的に、成膜終了後、作製した膜の反射率を即座に測定し、所望の値になっているか確認する。作製した膜の屈折率が経時変化してしまうと、成膜直後と経時変化後の反射率特性が変わってしまうので、ひどい場合には、成膜直後の反射率特性は規格を満足していても、出荷時には経時変化により規格を満足しなくなっている可能性がある。それを防ぐためには、成膜から時間が経過した出荷前にも反射率特性の測定を再度行う必要があり、リードタイムが増加してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、スパッタリング法によってMgF薄膜を形成するにあたり、経時変化による屈折率の変化を抑えることのできる成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る成膜方法は、酸素及び窒素の少なくとも一方を含むガスを導入しながら、表面の温度を650°C〜1100°Cの間に保持したMgFをイオンでスパッタリングすることにより、MgFの少なくとも一部を分子状態で跳び出させ、分子状態のMgFで基板上へ膜を形成する第1成膜工程と、基板上に酸化物を成膜する第2成膜工程と、を有することを特徴としている。
【0010】
本発明に係る成膜方法においては、MgFが粒径0.1〜10mmの顆粒状であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る成膜方法においては、MgFの表面の温度は、高周波電力を用いてMgF上へ発生させたプラズマにより保持することが好ましい。
【0012】
本発明に係る成膜方法においては、第1成膜工程と第2成膜工程とを、基板に形成する全膜厚の30%以上において、同時に行うことが好ましい。
【0013】
本発明に係る成膜方法においては、第1成膜工程の膜原料と第2成膜工程の膜原料が互いに混合されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る成膜方法においては、混合された膜原料のうち、酸化物が1〜60%であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る成膜方法においては、第1成膜工程で形成する膜の原料中に混合される酸化物が、粒径0.1〜10mmの顆粒状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る成膜方法は、スパッタリング法によってMgF薄膜を形成するにあたり、経時変化による屈折率の変化を抑えることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態の成膜方法に用いる成膜装置内の構成を示す図である。
【図2】第3実施形態の成膜方法に用いる成膜装置内の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る成膜方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
実施形態の説明に先立って、本発明による作用・効果について説明する。
本発明に係る成膜方法は、酸素及び窒素の少なくとも一方を含むガスを導入しながら、表面の温度を650°C〜1100°Cの間に保持したMgFをイオンでスパッタリングすることにより、MgFの少なくとも一部を分子状態で跳び出させ、分子状態のMgFで基板上へ膜を形成する第1成膜工程と、基板上に酸化物を含む膜を形成する第2成膜工程と、を有することを特徴としている。
【0020】
特許文献1に記載の方法で作製したMgF膜は、膜の密度が理論値よりも低いため、成膜直後は屈折率が理論値よりも低くなる。しかし、経時変化により大気中の水分などが膜中に吸着するために、屈折率が変化する。これに対して、本発明に係る成膜方法では、第2成膜工程、例えばSiOを成膜する工程を有しており、SiOによりMgF膜中に形成される空隙を埋めることができる。そのため、大気中の水分などの吸着量が低減し、屈折率の経時変化を防止することができる。
【0021】
本発明に係る成膜方法において、MgFは粒径0.1〜10mmの顆粒状であることが好ましい。
第1成膜工程では、膜原料が高温になるため、一般的なスパッタリングで使用されるような板状の膜原料を用いると、板状ターゲットが割れたり、膜原料の温度上昇が遅くなるおそれがある。これに対して、顆粒状のMgFを用いることで、ターゲットの割れや膜原料の温度上昇の遅れを防ぐことができる。
【0022】
本発明に係る成膜方法において、MgF表面の温度は、高周波電力を用いて前記MgF上へ発生させたプラズマにより保持することが好ましい。
高周波電力を印加し、膜原料をイオンにより弾き飛ばすことで、基板へ成膜することが可能である。この機構を、膜原料を加熱する手段としても使用することで、別途加熱機構を設ける必要がなく、コスト増加を防ぐことができる。
【0023】
本発明に係る成膜方法において、第1成膜工程と第2成膜工程とを、基板に形成する全膜厚の30%以上において、同時に行うことが好ましい。
これにより、屈折率の経時変化を防止すると共に、屈折率がMgFの理論値に近い膜を作製可能である。
【0024】
本発明に係る成膜方法において、第1成膜工程の膜原料と第2成膜工程の膜原料が互いに混合されていることが好ましい。
これにより、別途酸化物を成膜するための機構を必要とせず、装置サイズ及び装置コストを低減させることができる。
【0025】
本発明に係る成膜方法において、混合された膜原料のうち、酸化物が1〜60%混合されていることが好ましい。
これにより、屈折率の経時変化を防止すると共に、屈折率がMgFの理論値に近い膜を作製可能である。
【0026】
本発明に係る成膜方法において、酸化物は粒径0.1〜10mmの顆粒状であることが好ましい。
これにより、MgF膜原料の温度上昇を妨げることなく成膜することができる。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の成膜方法で用いる成膜装置の内部構成を示す図である。この成膜装置は、真空槽101内に、基板102、保持皿104、流水管108a、108b、シャッター110、111、MgF顆粒131、SiOターゲット132、マグネトロンカソード151、152を備える。
【0028】
真空槽101の内部上方には、基板102が、軸102aを中心に自転可能に設置されている。基板102は、アノードとして機能する基板ホルダに保持されている。
基板102の下方には、保持皿104とSiOターゲット132とが、基板102と等距離となるように並べて配置されている。
【0029】
石英製の保持皿104には、第1成膜工程の膜原料である粒径1〜5mmのMgF顆粒131が入れられている。この保持皿104は、マグネトロンカソード151上に設置されている。マグネトロンカソード151は、第1実施形態における実施例1では、直径4インチ(約100mm)の略円板状をなしている。
【0030】
板状のSiOターゲット132は、マグネトロンカソード152上に設置されている。マグネトロンカソード151、152は、マッチングボックス106a、106bを介して、13.56MHzの高周波電源107a、107bとそれぞれ接続されている。マグネトロンカソード151、152の下部には、マグネトロンカソード151、152の温度を一定に保つために、例えば20±0.5°Cに制御された冷却水を流す流水管108a、108bがそれぞれ設けられている。
【0031】
真空槽101の側面には、真空槽101の外部に設置したガス供給源(不図示)から真空槽101の内部にガスを導入するガス導入口109が設けられている。
真空槽101内には、基板102上に形成された膜の厚さを計測するために、図示しない水晶式膜厚モニタが設けられている。
【0032】
また、マグネトロンカソード151、152と、基板102との間には、シャッター110、111がそれぞれ設けられている。シャッター110、111は、不図示の駆動源により開閉し、マグネトロンカソード151、152から基板102への経路を同時に遮断する閉状態と、マグネトロンカソード151、152から基板102への経路を同時に開いた開状態と、が択一的に実現可能である。
【0033】
以上の構成からなる成膜装置を用いた、基板102上への薄膜の成膜の実施例について説明する。
まず、株式会社オハラ製のS−BSL7(商標、屈折率1.52)からなる光学ガラスを基板102としてセットし、7×10−5Paになるまで真空槽101を排気する。その後、Oガスをガス導入口109から4×10−1Paに達するまで導入する。このとき、基板102と、マグネトロンカソード151、152と、はシャッター110、111によって経路を遮断された閉状態としている。
【0034】
次に、高周波電源107a、107bからマグネトロンカソード151、152に電力を供給し、それぞれプラズマを発生させる。このプラズマにより、保持皿104内のMgF顆粒131は加熱される。このとき、MgF顆粒131は、マグネトロンカソード151の下部の流水管108aを流れる冷却水による冷却能とつり合った温度に保持される。この温度は、MgF顆粒131を基板102へスパッタリングするのに適した温度に設定されており、MgFのスパッタリングが開始される(第1成膜工程)。
一方、MgFのスパッタリングと並行して、マグネトロンカソード152で発生したプラズマにより、SiOターゲット132もスパッタリングが開始される(第2成膜工程)。
【0035】
さらに、基板102を軸102aの周りに回転させるとともに、シャッター110、111を同時に開いて、基板102と、マグネトロンカソード151、152と、の間がシャッター110、111によって遮断されない開状態とする。これにより、基板102上への、MgF及びSiOの混合膜の形成が同時に開始される(第1、第2成膜工程)。このとき、MgF及びSiOは分子状態で飛散し、膜として形成される。成膜開始後、図示しない水晶式膜厚モニタが測定した、混合膜の膜厚が100nmに達したら、マグネトロンカソード151、152への経路をシャッター110、111で閉じて成膜を終了する。この成膜においては、マグネトロンカソード151、152に、投入電力450W、400Wをそれぞれ印加する。
【0036】
以上の条件で作製した実施例1の膜の、成膜直後及び20日経過後の屈折率を測定した結果を表1に示す。表1には、比較例1として、MgFのみをスパッタリングして作製した膜の屈折率測定結果も合わせて示している。表1から、比較例1では、成膜直後に対して20日経過後の屈折率が上昇しており、屈折率の経時変化が起きていることがわかる(評価×)。これに対し、図1の成膜装置で、MgFとSiOを同時に成膜した実施例1の膜は、成膜直後及び20日経過後の屈折率に変化はなく、経時変化を防止することができていることが分かる(評価○)。また、実施例1の膜は、屈折率の値も実用上問題ないレベルであった。さらに、実施例1の膜の吸収率は、波長400nmで0.1%であり、これも実用上問題ないレベルであった。なお、吸収率が0.1%と小さな値であることからもMgFが分子状態で成膜されたことが確認できる。仮にMgとFが解離している場合は、吸収率がより大きな値となる。
【0037】
【表1】

【0038】
表2は、更に、実施例1及び比較例1の膜を、アルコールにより湿らせたレンズクリーニング用ペーパーで強くこすった後、膜表面を肉眼にて観察するいわゆる耐擦傷性試験を実施した結果を示している。
【0039】
【表2】

【0040】
擦り回数100回では、比較例1及び実施例1の両者において、全く傷が発生しなかった。しかし、擦り回数500回という、過酷な使用環境を想定した試験では、比較例1において数本の傷が確認されたのに対して、実施例1の膜には傷が発生しなかった。したがって、実施例1の膜は、耐擦傷性も向上していることが分かる。
【0041】
なお、第1実施形態で用いるMgF顆粒は、0.1〜10mmの範囲の粒径であれば、上述の実施例1と同様の結果が得られ、何等問題なかった。また、上述の説明では、SiOの成膜には、板状のSiOターゲットを用いたが、顆粒状のSiOを用いてもよい。さらに、Siターゲットから反応性スパッタリングによりSiOを作製してもよい。
【0042】
RF電源(高周波電源)を使用した例を記載したが、これに代えて直流電源を用いてもよい。また、真空槽101内で、MgFとSiOの成膜空間を完全に分離し、SiO成膜時にSiO側にのみArガスなどを導入してもよい。
【0043】
MgFとSiOの成膜速度の比によって得られる膜の屈折率が変化するため、マグネトロンカソード151、152への投入電力などの成膜パラメータを変えることによって、MgFとSiOのそれぞれの成膜速度を適宜調整し、所望の屈折率となるようにしてもよい。また、使用する酸化物として、得られる混合膜の屈折率を増加させないためにも低屈折率のSiOが好ましいが、例えばAl、Y、Ga、HfO、MgO、などの酸化物を用いてもよい。
【0044】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る成膜方法においては、MgF及びSiOの成膜開始のタイミングをずらしている点が第1実施形態に係る成膜方法と異なる。以下、第1実施形態に係る成膜方法と同様の説明は省略する。
【0045】
第2実施形態に係る成膜方法においては、2つのシャッター110、111を別個独立に開閉する。これは、2つのシャッター110、111を同時に開閉する第1実施形態の成膜方法と異なる。成膜装置のこれ以外の構成、作用は第1実施形態の成膜装置と同様である。
【0046】
次に、第2実施形態に係る成膜方法による実施例2について、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
まず、基板102を軸102aを中心として回転させるとともに、シャッター110のみを開けて、基板102上にMgFのみの成膜を開始する。その後、図示しない水晶式膜厚モニタの表示が70nmに達したところで、シャッター111も開けてSiOの成膜を開始し、基板102上にMgF及びSiOの混合膜を形成する。さらに、図示しない水晶式膜厚モニタの表示が100nmに達したら、シャッター110、111を同時に閉じて成膜を終了する。これにより、全膜厚100nmの30%にあたる30nmがMgFとSiOの混合膜となる。なお、マグネトロンカソード151、152には、それぞれ投入電力450W、400Wを印加した。
【0047】
以上の条件で作製した実施例2の膜の、成膜直後及び20日間経過後の屈折率を測定した結果を表3に示す。表3には、比較例2として、全膜厚の20%について、MgFとSiOを同時に成膜した場合を示している。比較例2は、全膜厚が100nmで、初めの80nmはMgFのみ、それに続く20nmはMgFとSiOの混合膜である。
【0048】
【表3】

【0049】
表3に示すように、比較例2では、成膜直後に対して20日経過後の屈折率が上昇しており、屈折率の経時変化が起きていることがわかる(評価×)。これに対し、実施例2の膜は、成膜直後及び20日経過後の屈折率が若干変化しているが、その変化量は小さく、問題ないレベルである(評価○)。また、実施例2の膜の屈折率の値は、MgFの理論値に近づけることができた。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態と同様である。
【0050】
(第3実施形態)
図2は、第3実施形態の成膜方法で用いる成膜装置の内部構成を示す図である。この成膜装置は、真空槽201内に、基板202、保持皿204、流水管208、シャッター210、混合顆粒233、マグネトロンカソード251を備える。
真空槽201の内部上方には、基板202が、軸202aを中心に自転可能に設置されている。基板102は、アノードとして機能する基板ホルダに保持されている。
【0051】
基板202の下方に配置された保持皿204には、膜原料である、MgF顆粒とSiO顆粒を混合した混合顆粒233が入れられている。第3実施形態における実施例3では、MgF顆粒とSiO顆粒は、1〜5mmの粒径を有し、MgF顆粒とSiO顆粒の重量比は40:60としている。
【0052】
保持皿204は、マグネトロンカソード251上に設置されている。マグネトロンカソード251は、実施例3では、直径4インチ(約100mm)の略円板状をなしている。マグネトロンカソード251は、マッチングボックス206を介して、13.56MHzの高周波電源207と接続されている。マグネトロンカソード251の下部には、マグネトロンカソード251の温度を一定に保つために、例えば20±0.5°Cに制御された冷却水を流す流水管208が設けられている。
【0053】
真空槽201の側面には、真空槽201の外部に設置したガス供給源(不図示)から真空槽201の内部にガスを導入するガス導入口209が設けられている。
また、真空槽201内には、基板202上に形成された膜の厚さを計測するために、図示しない水晶式膜厚モニタが設けられている。
【0054】
マグネトロンカソード251と基板202との間には、シャッター210が設けられている。シャッター210は、不図示の駆動源により開閉し、マグネトロンカソード251から基板202への経路を遮断する閉状態と、マグネトロンカソード251から基板202への経路を開いた開状態と、が択一的に実現可能である。
【0055】
以上の構成からなる成膜装置を用いた、基板202上への薄膜の成膜の実施例について説明する。
まず、株式会社オハラ製のS−BSL7(商標、屈折率1.52)からなる光学ガラスを基板202としてセットし、真空槽201内が7×10−5Paになるまで排気する。その後、Oガスをガス導入口209から4×10−1Paに達するまで導入する。このとき、基板202とマグネトロンカソード251は、シャッター210によって経路を遮断された閉状態としている。
【0056】
次に、高周波電源207からマグネトロンカソード251に電力を供給し、プラズマを発生させる。このプラズマにより、保持皿204内のMgF顆粒は加熱される。このとき、MgF顆粒及びSiO顆粒は、マグネトロンカソード251の下部の流水管208を流れる冷却水による冷却能とつり合った温度に保持される。この温度は、MgF顆粒及びSiO顆粒を基板202へスパッタリングするのに適した温度に設定されており、MgF及びSiOのスパッタリングが開始される。
【0057】
つづいて、基板202を軸202aの周りに回転させるとともに、シャッター210を開けることにより、基板202とマグネトロンカソード251の間がシャッター210によって遮断されない開状態とする。これにより、基板202上へのMgF及びSiOへの混合膜の形成が開始される(第1、第2成膜工程)。このとき、MgF及びSiOは分子状態で飛散し、膜として形成される。成膜開始後、図示しない水晶式膜厚モニタが測定した、混合膜の膜厚が100nmに達したら、シャッター210を閉じて成膜を終了する。この成膜においては、マグネトロンカソード251に投入電力500Wを印加する。
【0058】
以上の条件で作製した実施例3の膜の、成膜直後及び20日経過後の屈折率を測定した結果を表4に示す。表4には、MgF顆粒とSiO顆粒の重量比を30:70とした比較例3と、MgF顆粒とSiO顆粒の重量比を99:1とした実施例4も示している。
【表4】

【0059】
表4から分かるように、実施例3の膜は、実施例1と同様に、屈折率の経時変化を防止することができた。また、実施例3の膜の屈折率は実用上問題ないレベルであった。第3実施形態の成膜方法では、マグネトロンカソード251の1基のみで成膜が可能であり、装置サイズ、装置コストを低減させることができる。
【0060】
これに対して、表4に示すように、SiOの混合割合が60%よりも高い比較例3(MgF:SiO=30:70)では、屈折率の経時変化は防止できているが、混合膜中のSiOの割合が高いため、作製された膜の屈折率がMgFの理論値よりも大幅に高くなってしまっている。したがって、実施例3と比較例3の結果を比較すると、SiOの混合割合は60%以下が好ましいことが分かる。
なお、反射防止効果の低下が許容できる製品への成膜の場合、SiOの混合割合を60%以上としてもよい。
【0061】
SiOの混合割合が1%の実施例4では、成膜直後及び20日経過後の屈折率が若干変化しているが、その変化量は小さいため問題ないレベルである。また、実施例4の膜の屈折率の値は、MgFの理論値に近づけることができ、実用上問題ないレベルであった。
【0062】
なお、第3実施形態で用いるSiO顆粒の粒径は、0.1〜10mmの範囲であれば、実施例3、4と同様の結果が得られた。また、SiOの混合割合は、1〜60%の範囲であれば、投入電力の値によらず、混合膜の経時変化を防止するとともに、実用上問題ないレベルの屈折率の膜を作製できた。更には、MgF顆粒とSiO顆粒の混合の仕方として、均一に分散させても部分的に偏らせてもよく、特に限定しない。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明に係る成膜方法は、屈折率の経時変化を抑えることにより生産現場での負担軽減を実現可能な成膜方法に適している。
【符号の説明】
【0064】
100
101 真空槽
102 基板
102a 軸
104 保持皿
106a、106b マッチングボックス
107a、107b 高周波電源
108a、108b 流水管
109 ガス導入口
110、111 シャッター
131 MgF顆粒
132 SiOターゲット
151、152 マグネトロンカソード
201 真空槽
202 基板
202a 軸
204 保持皿
206 マッチングボックス
207 高周波電源
208 流水管
209 ガス導入口
210 シャッター
233 混合顆粒
251 マグネトロンカソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素及び窒素の少なくとも一方を含むガスを導入しながら、表面の温度を650°C〜1100°Cの間に保持したMgFをイオンでスパッタリングすることにより、前記MgFの少なくとも一部を分子状態で跳び出させ、前記分子状態のMgFで基板上へ膜を形成する第1成膜工程と、
前記基板上に酸化物を成膜する第2成膜工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記MgFは粒径0.1〜10mmの顆粒状であることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記MgFの表面の温度は、高周波電力を用いて前記MgF上へ発生させたプラズマにより保持することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第1成膜工程と前記第2成膜工程とを、前記基板に形成する全膜厚の30%以上において、同時に行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記第1成膜工程の膜原料と前記第2成膜工程の膜原料は互いに混合されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記混合された膜原料のうち、前記酸化物が1〜60%であることを特徴とする請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記酸化物は粒径0.1〜10mmの顆粒状であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256442(P2011−256442A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132841(P2010−132841)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】