説明

成膜装置および成膜方法

【課題】水と反応すると危険な成膜原料で薄膜を形成する際、安全に成膜を実施できる成膜装置、および成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜対象である基材9を内部に収納する真空チャンバー2と、真空チャンバー2内で基材9を保持するホルダー4と、ホルダー4に対向する位置に設けられる蒸発源3と、ホルダー4内に冷媒を循環させる循環機構40とを備える成膜装置1である。そして、この成膜装置1においてホルダー4内に循環される冷媒を非水系冷媒とする。このような構成とすることで、ホルダー4に保持される基材9を冷却しつつ、蒸発源3で蒸発させた成膜原料を基材9の表面に成膜することができ、その成膜の際に安全性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜対象を冷却しつつ成膜対象に薄膜を形成することができる成膜装置および成膜方法に関するものである。特に、Li金属や硫化物などの水と反応すると危険な物質を成膜原料とする際に、安全に成膜を実施することができる成膜装置および成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、気相法により成膜対象に薄膜を形成するための成膜装置として、真空蒸着装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の真空蒸着装置は、フィルム(成膜対象)を収納する真空チャンバーと、真空チャンバー内で成膜対象を保持するキャン(ホルダー)と、ホルダーに対向する位置に設けられる蒸発源と、ホルダー内に水冷媒を循環させる循環機構とを備える。この真空蒸着装置で成膜対象に薄膜を形成する際は、ホルダー内に水冷媒を循環させて、ホルダーに保持される成膜対象を冷却しつつ、成膜を行うことができる。
【0003】
一方、近年では、携帯機器の発達に伴い電池の薄型化が望まれており、そのような要請に応える電池として、電池に備わる正極層や負極層、電解質層などの各層を全て薄膜とした全固体型の非水電解質電池が注目されている。そこで、電池に備わる各層を上述したような成膜装置により形成することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−49080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非水電解質電池の代表例であるLiイオン電池、即ち、電池反応にLiを利用した電池では、負極層としてLi金属を利用することがあるし、電解質層としてLiS+Pなどの硫化物を利用することがある。ここで、Li金属は、水を激しく還元して水素を発生させ、水素爆発を起こさせる危険性があるし、硫化物は、水と反応して硫化水素を発生させる危険性がある。そのため、非水電解質電池の各層を形成する成膜装置では、万が一にも循環機構から水冷媒が漏れないようにする必要がある。しかし、成膜装置の使用に伴い当該装置に備わる循環機構も劣化していくので、長期間に亘って循環機構を完全に封止することは困難である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、水と反応すると危険な成膜原料で薄膜を形成する際、安全に成膜を実施できる成膜装置、および成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明成膜装置は、成膜対象を内部に収納する真空チャンバーと、真空チャンバー内で成膜対象を保持するホルダーと、真空チャンバー内でホルダーに対向する位置に設けられる蒸発源と、ホルダー内に冷媒を循環させる循環機構とを備え、ホルダーに保持される成膜対象を冷却しつつ、蒸発源で蒸発させた成膜原料を成膜対象の表面に成膜する成膜装置に係る。そして、本発明成膜装置は、ホルダー内に循環される冷媒を非水系冷媒としたことを特徴とする。
【0008】
本発明成膜装置であれば、Li金属や硫化物などの、水と反応して危険物を生じるような成膜原料を使用して成膜を行う際、仮に循環機構から真空チャンバー内に冷媒が漏れたとしても、冷媒が非水系冷媒であるため上記危険物が発生しない。そのため、本発明成膜装置であれば、Li金属の成膜や硫化物の成膜を安全に行うことができる。
【0009】
(2)本発明成膜装置において、使用する非水系冷媒は、フッ素を含有する高分子であることが好ましい。
【0010】
フッ素を含有する高分子を冷媒とすれば、Li金属を成膜する際、特に成膜の安全性を高めることができる。フッ素含有高分子は、Li金属と反応して安定したLiFを生成するため、水素爆発の危険性をなくすことができる。
【0011】
(3)本発明成膜装置において、フッ素含有高分子は、パーフルオロカーボン、パーフルオロアミン、パーフルオロポリエーテル、又はハイドロフルオロポリエーテル、あるいはこれらを2種以上含む混合物であることが好ましい。
【0012】
上記列挙したフッ素含有高分子は、熱伝導率に優れるので、冷媒として好適である上、ホルダー内を循環させることができる適度な粘度を有する。
【0013】
(4)本発明成膜方法は、真空チャンバー内に配置されるホルダーに成膜対象を保持させ、前記ホルダーに対向する位置に設けられる蒸発源で蒸発させた成膜原料を前記成膜対象の表面に成膜する方法に係る。そして、本発明成膜方法は、ホルダー内に非水系冷媒を循環させて、ホルダーに保持される成膜対象を冷却しつつ、前記成膜対象への成膜を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明成膜方法によれば、水と反応すると危険な物質を成膜原料としても、安全に成膜を実施することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の成膜装置および成膜方法によれば、Li金属や硫化物などの、水と反応すると危険な物質を成膜原料とする際、成膜時の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に示す成膜装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図1に基づいて説明する。
【0018】
<成膜装置の構成>
図1は、抵抗加熱式の真空蒸着により成膜対象(基材9)に薄膜を形成する成膜装置1の概略構成図である。この成膜装置1は、成膜対象である基板9を収納する真空チャンバー2と、真空チャンバー2内で基板9を保持するホルダー4と、基板9に対向する位置に配置され、水と反応すると危険な成膜原料を蒸発させる蒸発源3とを備える。また、この成膜装置1は、基板9を保持するホルダー4内に冷媒を循環させる循環機構40を備えており、ホルダー4に保持される基板9を冷却できるようになっている。このような成膜装置1で成膜を実施する際は、ホルダー4を介して冷媒により基材9を冷却しつつ、蒸発源3から成膜原料を蒸発させ、その蒸発した成膜原料を基板9上に薄膜9Fとして付着させる。このような成膜装置1の最も特徴とするところは、冷媒として非水系冷媒を使用したことにある。以下、成膜装置1に備わる各構成について詳細に説明する。
【0019】
真空チャンバー2は、当該真空チャンバー2内に開口する排気管20と、排気管20に接続される真空ポンプなどの排気機構20Pとを備え、成膜時に真空チャンバー2内を真空排気できるようになっている。また、真空チャンバー2内に配される蒸発源3は、電源30から電力の供給を受けて発熱し、蒸発源3に配される成膜原料を蒸発させる。成膜原料は水と反応すると危険物を生じるもの、例えば、Li金属や硫化物などを使用することができる。
【0020】
また、基材9を保持するホルダー4内に冷媒を循環させる循環機構40は、冷媒が貯留される貯留槽40Tと、貯留槽からホルダー4に連結される往路配管40Aおよび復路配管40Bと、両配管40A,40Bに接続されてホルダー4内に張り巡らされる流路配管(図示せず)とを備える。
【0021】
ここで、本実施形態の成膜装置1では、循環機構40で循環させる冷媒として非水系冷媒を使用する。非水系冷媒としては、フッ素含有高分子、特にパーフルオロカーボン、パーフルオロアミン、パーフルオロポリエーテル、又はハイドロフルオロポリエーテル、あるいはこれらを2種以上含む混合物が好適である。例えば、非水系冷媒であるフッ素含有高分子として、Solvay Solexis社製のGALDEN(登録商標;パーフルオロポリエーテルの一種)やH−GALDEN(登録商標;ハイドロフルオロポリエーテルの一種)などを利用できる。これらフッ素含有高分子は、特に成膜原料がLiの場合に、Liと反応して安定なLiFとなる。そのため、フッ素含有高分子を冷媒とすれば、水冷媒を用いて循環機構40に液漏れが起きたときに生じる虞のある水素爆発を抑制できる。
【0022】
上記非水系冷媒は、成膜時の安全性を飛躍的に向上させる反面、水冷媒よりも若干不利な点がある。例えば、非水系冷媒の熱伝導率は、一般的に水冷媒よりも低いため、ホルダー4の冷却効果の面で非水系冷媒は水冷媒に若干ではあるが劣る。また、非水系冷媒の動粘度は、水のそれに比べて高いため、循環効率の面で非水系冷媒は水冷媒に若干ではあるが劣る。もちろん、これらの不利な点は、成膜時の安全性を向上させることに比べれば重要度は低いものの、改善することが好ましい。例えば、往路配管40Aと復路配管40Bに連結され、ホルダー4内に配される流路配管を網の目状にするなど、ホルダー4と流路配管を流れる非水系冷媒との熱交換率を上げる工夫を施すと良い。その他、水冷媒よりも動粘度の高い非水系冷媒の循環効率を向上させる構成として、網の目状の流路配管を構成する一つ一つの管路を太く、短くすることが挙げられる。
【0023】
上記流路配管以外に、循環機構40に備わる構成の好ましい態様として、非水系冷媒を冷却する冷却機構を貯留槽40Tに設けることが挙げられる。貯留槽40Tが冷却機構を備えていれば、常に最適な温度にホルダー4を冷却することができるし、その結果としてホルダー4に保持される基板9を効率的に冷却することができる。
【0024】
以上説明した本実施形態の構成によれば、基材を冷却しつつ成膜を行うことができるし、成膜途中で真空チャンバー2内に非水系冷媒が漏れたとしても、非水系冷媒と成膜原料とが反応して危険物が生じることがなく、成膜時の安全性を確保することができる。
【0025】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施可能である。例えば、成膜原料を蒸発させる構成は抵抗加熱式に限定されるわけではなく、例えば、電子ビーム式、高周波誘導式、パルスレーザー式などを用いても良い。また、本発明成膜装置は、水と反応して危険物を生じることがない成膜原料を用いた成膜にも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明成膜装置および成膜方法は、Li金属や硫化物などの水と反応すると危険な成膜原料で薄膜を形成することに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 成膜装置
2 真空チャンバー
20 排気管 20P 排気機構
3 蒸発源
30 電源
4 ホルダー
40 循環機構 40A 往路配管 40B 復路配管 40T 貯留槽
9 基材(成膜対象)
9F 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象を内部に収納する真空チャンバーと、
前記真空チャンバー内で前記成膜対象を保持するホルダーと、
前記真空チャンバー内でホルダーに対向する位置に設けられる蒸発源と、
前記ホルダー内に冷媒を循環させる循環機構と、
を備え、前記ホルダーに保持される成膜対象を冷却しつつ、前記蒸発源で蒸発させた成膜原料を成膜対象の表面に成膜する成膜装置であって、
前記冷媒は、非水系冷媒であることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記非水系冷媒は、フッ素を含有する高分子であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記フッ素含有高分子は、パーフルオロカーボン、パーフルオロアミン、パーフルオロポリエーテル、又はハイドロフルオロポリエーテル、あるいはこれらを2種以上含む混合物であることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
真空チャンバー内に配置されるホルダーに成膜対象を保持させ、前記ホルダーに対向する位置に設けられる蒸発源で蒸発させた成膜原料を前記成膜対象の表面に成膜する方法であって、
前記ホルダー内に非水系冷媒を循環させて、前記ホルダーに保持される成膜対象を冷却しつつ、前記成膜対象への成膜を行うことを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−117058(P2011−117058A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277867(P2009−277867)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】