説明

成膜装置

【課題】面内方向における膜厚分布・膜質分布を均一にすることができ、かつ、成膜材料を交換するために成膜を一時的に停止せずに成膜できる成膜装置を提供する。
【解決手段】被処理対象を走行させる搬送手段と、被処理対象の走行方向に対して直交する方向に沿うように設けられたライン状の一以上の蒸着原料と、蒸着原料を溶融し、走行方向に対して直交する方向に列設される電子ビーム装置と、蒸着原料にイオンビームを照射し、走行方向に対して直交する方向に列設されるイオンソースとを備え、蒸着原料を支持する支持部材24と、蒸着原料を昇降させる昇降部材25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、反射防止膜や透明導電膜などの機能性薄膜層は、基板やフィルム基材などの上に蒸着法、スパッタリング法などにより形成されている。この場合に、ロール状になった基材を巻き取りながら成膜を行ういわゆるロール・ツー・ロール方式を用いることで、生産性を向上させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、被処理対象であるフィルムに対して垂直に蒸着原料からの蒸着イオンが到達するように、フィルムが巻き付かれた成膜ドラムがロールに対向して蒸着原料が設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−18828号公報(請求項1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、被処理対象の大型化によりロール状のフィルムの幅も長くなってきている。これにより、上述した特許文献1に記載されたような装置を用いて成膜すると、フィルムの幅方向において膜厚や膜質などの面内分布が均一にならないという問題がある。
【0005】
また、このようなロール状のフィルムを成膜する場合には、フィルムが長いことから成膜途中で成膜材料を交換する必要があり、成膜を一時的に停止しなければならない場合があるという問題がある。
【0006】
このような問題は大型の基板に成膜する場合であっても同様に存在する。
【0007】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、成膜対象の面内方向における膜厚分布・膜質分布を均一にすることができ、かつ、成膜材料を交換するために成膜を一時的に停止せずに成膜できる成膜装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の成膜装置は、被処理対象を走行させる搬送手段と、被処理対象の走行方向に対して直交する方向に沿うように設けられたライン状の一以上の蒸着原料と、蒸着原料を溶融し、前記走行方向に対して直交する方向に列設される電子ビーム装置と、蒸着原料にイオンビームを照射し、前記走行方向に対して直交する方向に列設されるイオンソースとを備え、前記蒸着原料を支持する支持部材と、該蒸着原料を昇降させる昇降部材とを備えることを特徴とする。
【0009】
本実施形態では、蒸着原料を溶融し、前記走行方向に対して直交する方向に列設される電子ビーム装置と、蒸着原料にイオンビームを照射し、前記走行方向に対して直交する方向に列設されるイオンソースとを備えることで、成膜対象の面内方向における膜厚分布・膜質分布を均一にすることができる。また、前記蒸着原料を支持する支持部材と、該蒸着原料を昇降させる昇降部材とを備えることで、成膜中に蒸着原料が連続的に溶融されて電子ビームが照射しにくくなった場合にも昇降部材により蒸着原料を電子ビームが照射されやすい位置に上昇させることができるので、成膜材料を交換するために成膜を一時的に停止せずに成膜できる。
【0010】
前記支持部材は、蒸着原料を、前記電子ビーム装置とは逆側に傾けた状態で保持することが好ましい。このように蒸着原料を保持することで、電子ビームが蒸着原料に照射されやすい。
【0011】
前記支持部材は、金属からなることが好ましい。金属からなることで、支持部材が電極として機能するので蒸着原料に電圧を印加することが可能である。
【0012】
前記昇降部材の昇降制御を行う制御部を備え、該制御部は、前記蒸着原料が溶融されて欠け落ちると前記昇降部材を上昇させることが好ましい。このように構成されていることで、蒸着原料が溶融されて欠け落ちて電子ビームが照射されにくくなると自動的に蒸着原料を電子ビームが照射されやすい位置まで昇降させることができる。
【0013】
前記蒸着原料と、イオンソースとの間には、フィラメントが設けられていると共に、該フィラメントには、電圧印加手段が設けられていることが好ましい。電圧印加手段によりフィラメントに電圧を印加することにより、フィラメントから放出された電子が第1イオンソースにおけるプラズマを大きくすることができる。これにより、第1イオンソースでの電流密度を上昇させることができる。
【0014】
前記電子ビーム装置は、前記電子ビームの照射されるビーム形状が前記蒸着原料の長手方向に沿うような非円形形状となるように構成されていることが好ましい。このように構成されていることで、蒸着原料をその長手方向に沿って均一に溶融することができ、その結果、前記被処理対象の走行方向に対して直交する方向に亘って膜厚及び膜質がより均一となるように成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】蒸着装置の構成を示す概略正面図である。
【図2】蒸着装置の構成を示す概略上面図である。
【図3】蒸着手段について説明するための拡大断面図である。
【図4】蒸着装置使用中の蒸着原料を説明するための上面図である。
【図5】蒸着装置の使用状態を説明するための図である。
【図6】イオンソースの構成を示す概略断面図及び概略平面図である。
【図7】昇降手段についての別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2は、本実施の形態によるロール・ツー・ロール式のイオンビームアシスト蒸着装置の概略構成例を示す図である。本実施形態においては、イオンビームアシスト蒸着装置である蒸着装置1は、インジウムを有さない透明導電膜をフィルム状の基材Sに対して成膜するためのものである。
【0017】
蒸着装置1は、真空チャンバ10を有する。真空チャンバ10の排気口11には真空排気装置12が設けられている。真空排気装置12により真空チャンバ10内を真空排気して真空チャンバ10内部を真空状態にすることが可能である。このような真空排気装置12としては、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の公知の真空ポンプがあげられ、本実施形態では、ターボ分子ポンプ及びクライオポンプを併用して用いている。
【0018】
真空チャンバ10内には、帯状であるフィルム状の基材Sを巻装してなる巻き出しロール13と、このフィルム状の基材Sを巻き取る巻き取りロール14と、成膜ドラム15とが配置されている。また、巻き出しロール13と、成膜ドラム15との間、及び巻き取りロール14と成膜ドラム15との間には、基材Sを巻き出しロール13から巻き取りロール14へ搬送するための駆動ロール16がそれぞれ設けられている。フィルム状の基材Sは、巻き出しロール13から、駆動ロール16、成膜ドラム15及び駆動ロール16を走行し通過して巻き取りロール14で所定速度で巻き取られる。フィルム状の基材Sの成膜ドラム15の下端部17に位置する領域が成膜面S1となる。
【0019】
真空チャンバ10の底面には、成膜ドラム15の最下端部に対向する位置に、蒸着手段21が設けられている。この蒸着手段21により、フィルム状の基材Sの成膜面S1に成膜を行う。この蒸着手段21は、図2に示すように、成膜ドラム15の幅方向に亘ってライン状に設けられている。
【0020】
このような蒸着手段21について、以下詳細に説明する。
【0021】
各蒸着手段21は、図3、4に示すように、蒸着原料22aが収納された坩堝22と、坩堝22の蒸着原料22aを溶融するための電子ビーム装置23と、磁場発生手段28とを有する。蒸着原料22aは、本実施形態では、板状である。かかる蒸着原料22aは、酸化亜鉛又は亜鉛からなる。このように、インジウムを用いないことで、本実施形態では、低コストで透明導電膜を形成することが可能である。
【0022】
坩堝22は基材Sの幅に略一致するように延設された箱状であり、坩堝22内には、傾斜面を構成する板状の支持部材24が設置されている。板状の支持部材24は、坩堝22の長手方向に延設されている。支持部材24は、図示しない支持部により電子ビーム装置23とは逆側に傾けた状態で保持されている。この支持部材24の下端部側には、支持部材24による傾斜面を上昇移動可能であるように構成された板状の昇降部材25が設けられている。昇降部材25は、例えば、図示しないアクチュエータ等の動力発生手段により昇降部材25の下面側に設けられた支持軸25aを移動させて支持部材24の傾斜面を移動可能であるように構成されている。なお、本実施形態では蒸着原料22aは基材Sの幅方向に亘って設けられた板状の蒸着原料であるので、昇降部材25を昇降させるために複数の支持軸25aが昇降部材25の下面側に離間して設けられている。
【0023】
そして、この支持部材24と昇降部材25とで板状の蒸着原料22aが支持されている。即ち、板状の蒸着原料22aは、板面が支持部材24の傾斜面に載置され、下端面が昇降部材25に載置されて支持されている。そして、昇降部材25がこの傾斜面を移動することにより、蒸着原料22aも同時に昇降することができる。
【0024】
支持部材24は金属部材(例えば銅、もしくは銅を含む合金)からなる。これにより、支持部材24に電圧印加手段を接続すれば、電極としても構成することができる。通常は坩堝22が電極としての機能を果たしているが、このように支持部材24を電極としても機能するように構成することで、より電子ビームが蒸着原料22aに照射されやすくなる。特に、昇降部材25の上昇のタイミングよりも早く蒸着原料22aの溶融が進んだ場合には坩堝22を電極としていると蒸着原料22aに電圧を印加することができない場合も考えられるので、支持部材24を電極として構成することが好ましい。
【0025】
電子ビーム装置23は、坩堝22の近傍に設けられている。電子ビーム装置23は、放出する電子ビームが各蒸着原料22aに照射できるように設置されている。電子ビームが蒸着原料22aに照射されることで、蒸着原料22aが溶融されて、蒸着粒子が基材Sの処理面に付着し堆積する。
【0026】
本実施形態においては、この電子ビーム装置23からの電子ビームは、蒸着原料22aの照射時のビーム形状(照射するビームの断面形状)が、蒸着手段21の長手方向とは直交する方向においてのみ焦点があうように(フォーカスされるように)、磁場発生手段28が坩堝22の電子ビーム装置23とは逆側に、電子ビーム装置23とは対向して設置されている。即ち、蒸着手段21では、磁場発生手段28により、蒸着原料22aに照射された電子ビームが蒸着手段21の長手方向に平行な線状(本実施形態ではアスペクト比が3の楕円形状)となるように構成されている。
【0027】
磁場発生手段28は、磁石を芯としてその外周にコイルを設けたものであり、該磁場発生手段28への電流を制御することで、発生する磁場の強度を調整して電子ビームのフォーカスを調整する。本実施形態では、蒸着手段21は、磁場発生手段としてはこの磁場発生手段28のみを有しており、坩堝22と電子ビーム装置23とに対して直交する位置に、磁場発生手段を有していない。
【0028】
また、本実施形態では、この電子ビーム装置23は、電子ビームを蒸着手段21の並設方向(ライン状に設けられた蒸着原料の長手方向)に掃引することができるように構成されている。ビーム形状が並設方向に沿った線状である電子ビームを並設方向に掃引できることで、蒸着原料22aを溶融し放出された蒸着粒子を、成膜面S1の蒸着原料22aに対向する領域だけでなく、蒸着原料22aに対向しない領域にも付着させることができる。
【0029】
このような線状の電子ビームを蒸着手段21の長手方向において掃引できることで、蒸着原料22aに対して電子ビーム装置23が対向していなくても、各蒸着原料22aは、その中央部から、蒸着手段21の長手方向に沿って溶融されていく。このようにして、本実施形態では、複数の電子ビーム装置を離間して設けることで、膜厚及び膜質の均一化を保持できると共に電力消費量を抑制することが可能である。
【0030】
このように、各蒸着原料22aが蒸着手段21の長手方向である一方向に亘って溶融されることで基材Sの幅方向全域に亘って均一に蒸着原料22aが溶融されるので、これにより本実施形態では基材の幅方向に対して膜厚、膜質が均一となるように成膜を行うことが可能である。ちなみに、電子ビーム装置がその並設方向に直交する方向に対して焦点があうと共に並設方向においても焦点があっているとすれば、本実施形態のように並設方向に沿って蒸着原料22aが溶解されないので、基材Sの幅方向に亘って均一に成膜することはできない。
【0031】
また、本実施形態では、上述したように蒸着手段21は、蒸着原料22aが成膜中に昇降できるように構成されている。即ち、図5(1)に示すように、蒸着原料22aが電子ビームにより溶融し続けた結果、蒸着原料22aが欠け落ちて電子ビームが蒸着原料22aの上面に届かなくなった場合には、図5(2)に示すように、昇降部材25を支持部材24の傾斜面を上方へ摺動させるように上昇させて蒸着原料22aを溶融可能な位置まで上昇させている。
【0032】
かかる昇降部材25が設けられていないと、以下のような不都合が考えられる。例えば、基材に対して蒸着を行っている間に蒸着原料が完全に溶融されると新しいものに取り替える必要が生じる場合があるが、取り替えのタイミング毎に成膜を停止させるとすれば装置の稼動率が低下してしまう。他方で、ロール状となっている基材に対して全て成膜するのに必要な量の蒸着原料を設けたとしても、坩堝の電子ビームが照射される位置に蒸着原料を全て収納しきれないという問題が発生する可能性がある。また、この場合に坩堝を大きくして坩堝内に蒸着原料を収容できるように構成すると、坩堝内に収容された蒸着原料に電子ビームが到達することができずに、溶融することができない可能性がある。
【0033】
これに対し、本実施形態では、蒸着原料22aが電子ビームにより溶融可能な位置よりも溶融された場合には、昇降部材25により蒸着原料22aを溶融可能な位置まで上昇させることができる。この昇降部材25の上昇は、一定時間経過毎に行ってもよい。
【0034】
また、この場合に蒸着原料22aが傾斜面からなる支持部材24に支持されることで傾斜状態において保持されていることから、溶融されて蒸着原料22aの一部が欠け落ちたとしても坩堝22の内部に落ちるので、パーティクルや異常放電等の原因とはならないため、好ましい。
【0035】
さらに、このように支持部材24により蒸着原料22aが傾斜状態で保持され、この状態で溶融されていると、図5(1)に示すように蒸着原料22aに角部が残りやすい。そうすると、図5(2)に示すように上昇した場合に蒸着原料22aの坩堝22の表面に角部が露出しやすいが、このように角部が露出していると、電子ビーム装置23からの電子ビームが到達しやすいので、好ましい。
【0036】
図1及び図2に戻り、真空チャンバ10内には、第1イオンソース31が、基材Sの進行方向の上流側(逆側)に、蒸着手段21の並設方向に沿って複数並設されている。即ち、第1イオンソース31が並設されてなる列は、蒸着手段21が並設されてなる列に対して平行である。
【0037】
真空チャンバ10には、さらに複数の電圧印加手段32が設けられている(図2中図示せず)。電圧印加手段32は、例えばDC電源であり、正電圧側が各第1イオンソース31に接続されると共に、負電圧側が成膜ドラム15に接続されている。
【0038】
蒸着手段21の成膜アシスト手段である第1イオンソース31は、詳しくは後述するように、図示しないガス供給ラインからガスが供給されると、その内部でイオンを生成し、この生成したイオンからなるイオンビームを基材Sに向けて放出する。本実施形態では第1イオンソース31に導入したOガスとCxFyを含むガスとのプラズマから、正に帯電したイオン(O,CxFy)を引き出し、電圧印加手段32の加速電圧により加速して基材Sに向けて放出する。
【0039】
そして、放出されたイオンビームは、電圧印加手段32により第1イオンソース31と基材Sとの間に形成された電界により、基材Sの成膜面S1に到達し、成膜面S1に堆積した蒸着粒子と反応し、又は蒸着粒子に付着して、所望の膜が形成される。本実施形態では、所望の膜としては、CxFyドープされた酸化亜鉛膜が形成される。
【0040】
ここで、第1イオンソース31について図6を用いて詳細に説明する。
【0041】
第1イオンソース31は、筐体41と、筐体41に収納されたアノード電極として機能するアノード部42とを備える。アノード部42は、その中央部にすり鉢状の凹部43を有している。この凹部43により形成される空間が、イオン形成空間44となる。アノード部42の凹部43の表面は、TiN膜に覆われている。これにより、後述するようにイオン形成空間44にOガスとCxFyを含むガスとが導入されてプラズマが形成された場合であっても、酸素イオンにより表面が荒れることがなく、かつ、酸素を含むプラズマを安定して形成することができる。
【0042】
この凹部43に対向する位置に、カソードとしても機能する第1フィラメント45が設けられている。この第1フィラメント45には、図示しない電圧印加手段が設けられていて、第1フィラメント45に電圧を印加することが可能である。
【0043】
凹部43は、その底部に突起部46が設けられている。突起部46は、イオン形成空間44側に突出しており、断面視において円弧状となっている。このような突起部46が設けられていることで、カソードから放出された電子を効率よくイオン形成空間44に閉じ込めることが可能である。
【0044】
筐体41には、第1貫通孔51が設けられている。第1貫通孔51は、筐体41の壁面を貫通している。また、筐体41とアノード部42との間には、間隙52が設けられている。間隙52に第1貫通孔51が臨んでいる。また、アノード部42には、アノード部42を貫通する第2貫通孔53が設けられている。第2貫通孔53は、一端側で間隙52に臨み、他端側で、イオン形成空間44に臨む。即ち、第2貫通孔53を介して、間隙52とイオン形成空間44とが連通している。なお、図6(b)に示すように、第2貫通孔53は、複数設けられている。
【0045】
この第1貫通孔51、間隙52及び第2貫通孔53により、イオン形成空間44にガスを導入するためのガス導入路が構成されている。即ち、図示しないガス供給ラインが第1貫通孔51に連通し、ガス導入路により、イオン形成空間44にOガスとCxFyを含むガスとが導入される。
【0046】
また、アノード部42の凹部43とは逆側には、磁石47が設けられている。この磁石47により、カソードである第1フィラメント45と、アノード部42との間に形成される電場に対して直交する磁場が形成され、ガス導入時にイオン形成空間44にプラズマが形成される。
【0047】
なお、この場合に非常に第1イオンソース31が高温になるのを抑制すべく、アノード部42の突起部46の後方(イオン形成空間44とは逆側)には、冷却手段48が設けられている。冷却手段48は、本実施形態では、水冷手段であり、冷却手段48の内部を冷却液が通過することで、アノード部42を冷却できるように構成されている。
【0048】
また、この第1イオンソース31では、電圧印加手段32(図1参照)からアノード部42に電圧が印加されるように構成されており、この電圧印加手段32により印加される電圧は、200V以下である。本実施形態では、エンドホール型のイオンソースであり、かつ、直流放電可能であるので、低電圧を印加しても大電流を流すことができ、安定してイオン化することが可能である。
【0049】
図1及び図2に示すように、この各第1イオンソース31の蒸着手段21側には、第1イオンソース31から離間して各第1イオンソース31に対向する位置にそれぞれ第2フィラメント6が設けられている。即ち、第2フィラメント6は、蒸着手段21の並設方向に沿ってライン状に複数並設されている。この第2フィラメント6にはフィラメント電圧印加手段61が設けられている(図2中図示せず)。本実施形態では、フィラメント電圧印加手段61から、所定電圧、即ち―5kVの直流電圧が第2フィラメント6に印加されている。このような所定電圧としては、―4〜―10kVの範囲にあれば良い。
【0050】
このように第2フィラメント6に所定電圧が印加されることにより、第1イオンソース31がこの第2フィラメント6から発生する電子を受け取って形成されるプラズマが大きくなり、その結果、後述するように本実施形態ではCFのイオンビームを形成することが可能である。
【0051】
また、蒸着手段21の第1イオンソース31とは逆側、即ち基材Sの進行方向の上流側には、さらに第2イオンソース63が、蒸着手段21の並設方向に沿って複数並設されている。第2イオンソース63は、成膜面S1に成膜された膜の表面のアニールを行うことができるように、アルゴンのイオン電流を放出して、成膜された膜のアニールを行うように構成されている。このような第2イオンソース63としては、上述した第1イオンソースと同様の構成からなるものを用いてもよく、また、アニールを行うためのアルゴン等のイオン電流を放出することができれば異なる構成のものを用いてもよい。
【0052】
かかる蒸着装置1による成膜方法について説明する。
【0053】
初めに、真空チャンバ10内を真空排気装置12により真空排気して、約10−5Torr(1.33×10−4Pa)程度の真空状態とする。
【0054】
所定の真空状態となった後、巻き出しロール13からフィルム状の基材Sの走行を開始させる。
【0055】
その後、電子ビーム装置23から出射される線状の電子ビームを蒸着原料22aに照射しながら掃引し、酸化亜鉛である蒸着原料22aを溶融する。これにより蒸着原料22aが蒸発し、基材Sの成膜面S1に酸化亜鉛が蒸着される。酸化亜鉛膜の堆積速度は、ほぼ一定の蒸着速度になるように電子ビーム装置23の出力を制御することができる。その堆積速度は、好ましくは0.5〜10nm/sである。この範囲より堆積速度が早いと、膜の密度が荒くなり膜質が低下してしまい、また、この範囲より堆積速度が遅いと成膜時間がかかり過ぎて実用的ではないため、この範囲が好ましい。より好ましい膜質の膜を得ると同時に実用的な好ましい堆積速度としては、1〜5nm/sである。
【0056】
そして、成膜時において蒸着原料22aが溶融されて電子ビーム装置23からの電子ビームが照射されにくくなると、昇降部材25が支持部材24の傾斜面を上昇して蒸着原料22aが上昇し、これにより蒸着原料22aに再度電子ビームが照射されやすくなり蒸着原料22aが溶融されることが可能である。
【0057】
このように蒸着原料22aを蒸発させて蒸着させると同時に、第1イオンソース31からイオンビームを基材Sに照射する。本実施形態では第1イオンソース31で、ガスをガス導入路からイオン形成空間44内に導入しながら、第1フィラメント45に電圧を印加して熱電子を放出させる。放出された熱電子は、磁石47により形成された磁場によりスパイラル運動しながら、カソードとして機能する第1フィラメント45とアノード部42との間に形成された電場により、アノード部42側へ加速され移動する。そして、導入されたガスがイオン形成空間44でプラズマ化、即ちイオン化される。これにより形成されたイオンビームが、アースである基板に向けて照射される。即ち、第1イオンソース31に導入したOガスとCxFyを含むガスとのプラズマから、正に帯電したイオン(O,CxFy)が引き出され、電圧印加手段32の加速電圧により加速されて基材Sに向けて放出する。
【0058】
このように、本実施形態では、第1イオンソース31に供給されるガスは、OガスとCxFy含有ガスである。Oガスを導入することで、十分に酸化された酸化亜鉛膜を形成できる。またCxFy含有ガスを添加することで、CxFyドープされた酸化亜鉛膜を形成することができる。このようなCxFyドープされた酸化亜鉛膜は、高い導電率を有すると共に、高い光透過率を有する。
【0059】
CxFy含有ガスとしては、xは0以上、yは1以上の自然数であるものが挙げられる。このようなCxFyガスとしては、例えば、C、C、C、C10、C10、C12、C、C、C、C、CF、C、及びCから選ばれた少なくとも一種のフロロカーボンガスが挙げられる。また、CxFy含有ガスとして、CxFyIzで表されるガスを用いることも可能である。
【0060】
これらのOガスとCxFy含有ガスとを1:99〜20:80の混合割合となるように第1イオンソース31に供給する。この範囲であることで、所望の酸化亜鉛膜を形成することができる。CxFy含有ガスの割合が少なすぎれば、CxFyドープされた膜とすることができず、他方で、CxFy含有ガスの割合が多すぎれば、酸素量が少なすぎて所望の酸化亜鉛膜を形成することができない。
【0061】
この場合に、OガスとCxFyガスとの混合ガスの流量は、0.5〜5sccmである。
【0062】
また、Oガスの解離率は、好ましくは70%以上である。70%以上であることで、十分に蒸発粒子と反応することができる。
【0063】
この場合に第2フィラメント6に電圧を印加することで、第1イオンソース31に電子を供給することができ、その結果、第1イオンソース31からのイオンビームの電流密度を向上させることができる。第1イオンソース31からのイオンビームの電流密度は、好ましくは、200〜1500μA/cmである。この範囲であることで、イオンビームの加速が十分であり、基材Sの表面で蒸着粒子とイオンビームとが反応しやすく、所望の膜を形成しやすい。
【0064】
本実施形態では、イオンビームアシスト蒸着法を用いているので、基板に付着した蒸着粒子とイオンビームの反応性が高く、その結果、反応性を高めるために基板温度を高くする必要がない。このため、例えば、成膜温度を100℃以下とすることができ、例えば基材SとしてPETフィルム等を用いることができる。このように第1イオンソース31により成膜アシストすることで膜質のよい酸化亜鉛膜を形成することができると共に、CxFyイオンを導入することで、酸化亜鉛膜にCxFyドープすることが可能である。得られたCxFyドープ酸化亜鉛膜は、例えば、380〜780nmの波長の光での平均波長は90%以上であり、370nm以上の波長の波を70%以上透過することができると共に、抵抗率が1.87×10―4Ω・cm以下であり、高い透過率を有すると共に、低い抵抗率を有する。
【0065】
本実施形態の蒸着装置1では、ライン状となるように複数の蒸着手段21を配すると共に、複数の第1イオンソース31を配することで、ロール状であり、幅広である基材Sに対して成膜することが可能である。この場合に蒸着手段21が有する電子ビーム装置23からの電子ビームのビーム形状が非円形であることから、基材Sの幅方向に亘って均一に蒸着粒子が付着して均一な膜厚、均一な膜質で成膜することが可能である。
【0066】
そして、成膜時において蒸着原料22aが電子ビームが照射されにくくなるまで溶融された場合には、昇降部材25を昇降させて蒸着原料22aを上昇させることができるので、ロール状である基材Sに成膜する場合であっても成膜中に蒸着原料22aを交換する必要がない。
【0067】
本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、本実施形態では、酸化亜鉛を含有する透明導電膜を形成したが、これに限定されず、所望の膜、例えばインジウムを含む透明導電膜や、他の機能性膜を形成することができる。
【0068】
本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、昇降部材25の昇降を自動的に行うように構成してもよい。図7に示す実施形態では、蒸着装置1は制御部71を有する。なお、図7では、図1と同一の構成要素については同一の番号を付してあるが、説明のため省略している構成要素もある。
【0069】
制御部71は、昇降部材25を昇降させるアクチュエータ装置72を制御するものである。電子ビーム装置23は、フィラメント73とフィラメント73に電圧を印加するための直流電源74とを有する。この直流電源74からフィラメント73に電圧が印加されることで、フィラメントから電子が放出されて電子ビームが形成され、蒸着原料22aに照射される。
【0070】
また、電子ビーム装置23と蒸着原料22aとの間には電源75が接続されていると共に、電源75と蒸着原料22aとの間には、この間を流れる電流値を検出する電流検出部76が設けられている。制御部71は、電源75から蒸着原料22aに印加している電圧値を得ると共に、電流検出部76で検出された電流値を得る。
【0071】
蒸着原料22aが溶融されてその一部が欠けて坩堝22内に落ちると電源75と蒸着原料22aとの間の電流値が下がる。制御部71は、電圧値が一定であるのに電流検出部76から検出された電流値が下がると、蒸着原料22aが溶融されて欠けて落ちたと判断する。従って、制御部71は、この電流値の低下を検出すると、制御部71を昇降部材25を上昇させて、蒸着原料22aの位置を上昇させる。
【0072】
このように、本実施形態では、蒸着原料22aが溶融不可能な位置に達するまで溶融されると自動的に蒸着原料22aの位置を上昇させることができ、ロール状のフィルムの成膜中に成膜を中止せずに連続的に行うことが可能である。
【0073】
本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、本実施形態では、酸化亜鉛を含有する透明導電膜を形成したが、これに限定されず、所望の膜、例えばインジウムを含む透明導電膜や、他の機能性膜を形成することができる。
【0074】
本実施形態では、蒸着原料22aである一つの細長いペレットを真空チャンバ10内に設けたが、これに限定されない。例えば、帯状の基材Sの幅に合わせて複数のペレットを列設しても良い。また、本実施形態では、電子ビーム装置23を蒸着手段21の長手方向に掃引することで電子ビーム装置23を離間して設けたが、これに限定されない。一つの電子ビーム装置23を隙間無く並べるようにして設けてもよい。
【0075】
本実施形態では電子ビームのビーム形状が線状となるように構成しているが、これに限定されない。ビーム形状は、非円形形状(アスペクト比が2〜10)であって、蒸着手段21の長手方向とビーム形状の長手方向とが一致すればよい。このように構成することで、基材Sの幅方向(基材Sの走行方向とは直交する方向)に亘って成膜することができる。なお、本実施形態のように楕円形状ではなく線状となるように構成することで、膜厚及び膜質をより均一とすることが可能である。
【0076】
また、本実施形態では、成膜ドラム15は断面視において円形状となっていたが、これに限定されない。例えば、真空チャンバ10の底面側が凹となっている曲面から構成されていてもよい。このように構成することで、蒸着原料22aについては蒸着手段21の長手方向及び並設方向に直交する方向において焦点があっていたとしても、この場合の蒸着材料の分布に一致するので、基材Sの幅方向に亘って均一に成膜することが可能である。この場合には、成膜ドラム15としては、例えば静電チャックなどを用いても良い。
【0077】
本実施形態では、基材Sをロール・ツー・ロール式で成膜したが、これに限定されない。例えば、基板をトレイに載置してローラーで搬送し、蒸着させてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 蒸着装置
10 真空チャンバ
11 排気口
12 真空排気装置
13 巻き出しロール
14 巻き取りロール
21 蒸着手段
22a 蒸着原料
23 電子ビーム装置
31 第1イオンソース
32 電圧印加手段
63 第2イオンソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理対象を走行させる搬送手段と、
被処理対象の走行方向に対して直交する方向に沿うように設けられたライン状の一以上の蒸着原料と、前記蒸着原料を溶融し、前記走行方向に対して直交する方向に列設される電子ビーム装置と、前記蒸着原料にイオンビームを照射し、前記走行方向に対して直交する方向に列設されるイオンソースとを備え、
前記蒸着原料を支持する支持部材と、該蒸着原料を昇降させる昇降部材とを備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記蒸着原料を、前記電子ビーム装置とは逆側に傾けた状態で保持することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記支持部材は、金属からなることを特徴とする請求項1又は2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記昇降部材の昇降制御を行う制御部を備え、
該制御部は、前記蒸着原料が溶融されて欠け落ちると前記昇降部材を上昇させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記蒸着原料と、イオンソースとの間には、フィラメントが設けられていると共に、該フィラメントには、電圧印加手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記電子ビーム装置は、電子ビームの照射されるビーム形状が前記蒸着原料の長手方向に沿うような非円形形状となるように構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−172261(P2012−172261A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39040(P2011−39040)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(500357552)株式会社エス・エフ・シー (20)
【Fターム(参考)】