説明

扉の制動構造

【課題】 回転ダンパの制動力の変化を少なくすることができ、扉を操作性よく閉めることができるとともに、付勢部材で扉の回動のアシストおよび扉の制動のアシストをすることのできる扉の制動構造を提供する。
【解決手段】 水平に配置した支持軸4に対して垂直方向へ回動する扉5の回動を、回転ダンパ11内の粘性流体14の粘性抵抗で制動させる扉の制動構造おいて、回転ダンパ11内に、一端がハウジング12に固定され、他端がロータ13に固定されたコイルスプリング16を設け、このコイルスプリング16の付勢力を開放させた状態で、扉5の重心Gを支持軸4の軸線の略鉛直線上に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、垂直方向へ回動する、例えばプリンタなどの扉の回動を制動する扉の制動構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】水平に配置した支持軸に対して垂直方向へ回動する、例えばプリンタなどの扉の回動を制動する場合、粘性流体の粘性抵抗で制動力を得る回転ダンパを利用している。この扉の制動構造では、単に扉の回動を制動するため、扉を開ける方向へ回動させても、扉を閉める方向へ回動させても制動力が作用する。また、扉の重心が支持軸の軸線の略鉛直線上に位置する状態から、扉を閉める方向へ、または、扉をさらに開ける方向へ回動させると、扉の回動によって重心が移動するので、扉が回動するにしたがって扉の回動速度が速くなるため、扉の回動に対する品位が落ちる。
【0003】そこで、回転ダンパ内に、一端がハウジングに固定され、他端がロータに固定された付勢部材を設け、付勢部材に扉を開ける方向の付勢力を蓄積させた状態で回転ダンパを取り付ける、扉の制動構造が提案されている。この扉の制動構造によれば、付勢部材が扉を開ける方向の付勢力を蓄積しているので、扉を閉じ、その位置にロックするロック機構を解除すると、付勢部材の付勢力が粘性流体の粘性抵抗によって制動されるものの、扉は付勢部材の付勢力によって開けられる。そして、扉は、付勢部材の付勢力によって開く方向へ付勢されているので、閉じる方向へ回動しなくなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記した後者の扉の制動構造は、ロック機構を解除して扉を開けた場合、付勢部材の付勢力によって扉が開いて扉の重心が支持軸の軸線の鉛直線上を通過すると、扉の回動によって扉の重心が移動するとともに、扉に付勢部材の付勢力が作用することにより、扉が回動するにしたがって扉の回動速度が速くなるため、扉の回動に対する品位が落ちる。また、扉を閉じる場合、付勢部材に付勢力を蓄積させるように、付勢部材の付勢力に抗して扉を回動させなければならないので、扉の操作性が悪くなる。
【0005】この発明は、上記したような不都合を解消するためになされたもので、回転ダンパの制動力の変化を少なくすることができ、扉を操作性よく閉めることができるとともに、付勢部材で扉の回動のアシストおよび扉の制動のアシストをすることのできる扉の制動構造を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、水平に配置した支持軸に対して垂直方向へ回動する扉の回動を、回転ダンパ内の粘性流体の粘性抵抗で制動させる扉の制動構造おいて、扉の重心を支持軸の軸線の略鉛直線上に位置させた状態で、付勢力を開放させた付勢部材の一端を、扉を備えた機器のハウジングに固定し、付勢部材の他端を扉に固定したり、または、回転ダンパ内に、一端がハウジングに固定され、他端がロータに固定された付勢部材を設け、この付勢部材の付勢力を開放させた状態で、扉の重心を支持軸の軸線の略鉛直線上に位置させたものである。なお、付勢部材を、コイルスプリングとするのが望ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1はこの発明の一実施形態である扉の制動構造を適用したプリンタの扉を開けた状態の斜視図、図2はこの発明の一実施形態に使用する回転ダンパの一例を示す断面図、図3は図1に適用したこの発明の一実施形態である扉の制動構造を示す断面図、図4は動作説明図である。なお、図3に示す制動構造は、図1の丸で囲んだ部分に配置されている。
【0008】これらの図において、プリンタ1は、上側に開口3を有するハウジング2と、このハウジング2の開口3部分に水平に設けられた支持軸4、ハウジング2に取り付けられた支持軸としての回転タンパ11のロータ13に対して垂直方向へ回動可能に支持され、開口3を開閉する扉5とを備えている。
【0009】上記した、支持軸4と水平方向で対向するハウジング2の部分には、回転ダンパ11のハウジング12が挿入される円筒状の凹部2aと、この凹部2aに連通して軸方向へ延び、ハウジング12の外周に設けられた係合突条12fが挿入されて係合する係止凹部2bとが設けられている。そして、ハウジング2の凹部2aと水平方向で対向する扉5の部分には、回転ダンパ11のロータ13の一部が挿入される円筒状の凹部5aと、この凹部5aの底の中心に設けられた円柱状の軸5bと、凹部5aに連通して軸方向へ延び、ロータ13の外周に設けられた係合突条13iが挿入されて係合する係止凹部5cとが設けられている。なお、支持軸4と対向する扉5の部分には、支持軸4が回動可能に係合する凹部5aが設けられている。
【0010】上記した回転ダンパ11は、ハウジング2の凹部2a内へ挿入される有底円筒状のハウジング12と、このハウジング12内へ一部が挿入され、ハウジング12から突出する部分が扉5の凹部5a内へ挿入される円柱状のロータ13と、ハウジング12とロータ13とが形成する空間に充填されたシリコンオイルなどの粘性流体14と、この粘性流体14が流出しないようにハウジング12とロータ13との間をシールするOリング15と、一端がハウジング12に固定され、他端がロータ13に固定された付勢部材としてのコイルスプリング16と、ロータ13をハウジング12からを抜けないように止めるカバー17とで構成されている。
【0011】そして、ハウジング12には、円柱状の収容部12aの底の中心に円柱状の取付部12eが設けられ、外周に軸方向へ延び、ハウジング2の係止凹部2b内へ挿入される係合突条12fが設けられ、外周の先端に所定間隔で係止爪12gが設けられている。なお、収容部12aは、開放端側に位置する太径部分12bと、底側に位置し、太径部分12bと同心の細径部分12cとで構成され、太径部分12bと細径部分12cとの境に周回した段部12cが設けられている。
【0012】次に、ロータ13は、ハウジング12内に挿入される円柱状の挿入部分13aと、ハウジング12、カバー17から突出する円柱状の突出部分13gとで構成されている。そして、挿入部分13aは、太径部分12bに回転可能に嵌合する太径部分13bと、僅かな間隔をおいて細径部分12cに回転可能に嵌合する細径部分13cとで構成され、太径部分13bと細径部分13cとの境に、Oリング15を収容する空間を、段部12dとで形成する周回した段部13dが設けられている。
【0013】さらに、挿入部分13aには、細径部分13cの端から太径部分13b側へ取付部12eを収容する円筒状の凹部13eが設けられるとともに、凹部13eの天井の中心に円柱状の取付部13fが設けられている。また、突出部分13gには、扉5の軸5bが嵌合する円筒状の凹部13hが突出端に設けられ、外周に軸方向へ延び、扉5の係止凹部5c内へ挿入される係合突条13iが設けられている。
【0014】上記したコイルスプリング16は、ロータ13の凹部13e内に収容され、一端がハウジング12の取付部12eに固定され、他端がロータ13の取付部13fに固定される。
【0015】そして、カバー17には、中心にロータ13の突出部分13gが回転可能に貫通する鍵穴状の挿通孔17aが設けられ、ハウジング12と対向する側に、係止爪12gに係合する係合部17bが係止爪12gに対応させて所定間隔で設けられている。
【0016】この発明の一実施形態に使用する回転ダンパ11は、通常の組立方で組み立てることができるので、組立方の説明を省略する。
【0017】次に、回転ダンパ11および扉5の取付について説明する。まず、回転ダンパ11のハウジング12をプリンタ1のハウジング2に設けた凹部2a内へ挿入するとともに、係合突条12fを係止凹部2b内へ挿入する。このようにハウジング12を凹部2a内へ挿入し、係合突条12fを係止凹部2b内へ挿入すると、係止凹部2bが係合突条12fを係止するので、ハウジング12が凹部2a内で回転しなくなる。
【0018】そして、扉5の一方の凹部5a内へ支持軸4を挿入し、扉5の他方の凹部5a内へ回転ダンパ11のロータ13を挿入するとともに、係止凹部5c内へ係合突条13iを挿入して軸5bを凹部13hに嵌合させる。このように扉5を支持軸4、ロータ13(回転ダンパ11)で支持すると、支持軸4、ロータ13に対して垂直方向へ扉5を回動させることができる。また、ロータ13を凹部5a内へ挿入し、係合突条13iを係止凹部5c内へ挿入すると、係止凹部5cが係合突条13iを係止するので、ロータ13が凹部5a内で回転しなくなる。
【0019】なお、上記したようにして回転ダンパ11および扉5を取り付けると、コイルスプリング16の付勢力を開放させた状態、すなわち、コイルスプリング16が付勢力を蓄積していない状態で、図4に示すように、扉5の重心Gを支持軸4の軸線の略鉛直線上に位置するように、係合突条12f,13iの係合する係止凹部2b,5cが設けられている。
【0020】次に、動作について説明する。まず、図4に示すように、扉5を開けて扉5の重心Gを支持軸4の軸線の略鉛直線上に位置させると、コイルスプリング16が付勢力を開放した状態になるので、扉5を、この開けた状態に停止させることができる。そして、図4の状態から、扉5を反時計方向へ回動させて閉じ、または、扉5を時計方向へ回動させてさらに開けても、コイルスプリング16に付勢力を蓄積させることになるため、すなわち、扉5が回動することによって扉5の重心Gが移動しても、扉5の重心Gの移動に連れてコイルスプリング16に付勢力が蓄積されるため、回転ダンパ11の制動力の変化を少なくすることができ、扉5の回動速度の変化が少なくなり、扉5の回動に対する品位を維持できる。
【0021】また、図4の状態から扉5を反時計方向へ回動させて閉じる場合、コイルスプリング16に付勢力が蓄積されていない状態から扉5を回動させて閉じることになるので、扉5を閉じた状態で、コイルスプリング16に蓄積される付勢力は従来例よりも遙かに少なくなる。したがって、扉5を操作性よく閉めることができる。
【0022】さらに、扉5を閉じた状態から開ける場合、または、図4の状態よりも時計方向へさらに開いている状態から図4の状態へ扉5を回動させる場合、コイルスプリング16に付勢力が蓄積されているので、コイルスプリング16の付勢力により、扉5の回動をアシストすることができる。また、図4の状態から、扉5を反時計方向へ回動させて閉じ、または、扉5を時計方向へ回動させてさらに開けても、コイルスプリング16に付勢力を蓄積させることになるので、コイルスプリング16で扉5の制動をアシストすることができる。
【0023】上記した実施形態では、ハウジング2の係止凹部2bと、扉5の係止凹部5cとを1つずつにした例を示したが、係止凹部2b,5cを複数設け、複数の係止凹部2b,5cの中から任意のものを選択することにより、扉5の重心Gを支持軸4の軸線の略鉛直線上に位置させた状態で、コイルスプリング16の付勢力を開放させる構成としてもよい。
【0024】そして、コイルスプリング16を回転ダンパ11内に組み込んみ、コイルスプリング16の付勢力を開放させた状態で、扉5の重心Gを支持軸4の軸線の略鉛直線上に位置させた例を示したが、コイルスプリングを回転ダンパ11と別体にし、扉5の重心Gを支持軸4の軸線の略鉛直線上に位置させた状態で、付勢力を開放させたコイルスプリングの一端を、プリンタ1のハウジング2に固定し、付勢力を開放させたコイルスプリングの他端を扉5に固定しても、同様な効果を得ることができる。このようにコイルスプリングを取り付ける場合、上記した条件にコイルスプリングを取り付けることができるように、さらには、コイルスプリングの取付位置を調整できるように、例えば複数の取付孔などを設けておき、これを選択すればよい。
【0025】また、付勢部材をコイルスプリング16とした例を示したが、同様に機能すれば、例えば渦巻きばね(ぜんまいばね)などの付勢部材であってもよい。そして、回転ダンパ11を扉5の支持軸とした例を示したが、歯車などを介して扉5の回動を制動する構成にしてもよいことは言うまでもない。
【0026】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、扉の重心を支持軸の軸線の略鉛直線上に位置させた状態で、付勢力を開放させた付勢部材の一端を、扉を備えた機器のハウジングに固定し、付勢部材の他端を扉に固定したので、扉の重心を支持軸の軸線の略鉛直線上に位置させた状態で、扉を回動させて閉じ、または、扉を回動させてさらに開けても、付勢部材に付勢力を蓄積させることになるため、すなわち、扉が回動することによって扉の重心が移動しても、扉の重心の移動に連れて付勢部材に付勢力が蓄積されるため、回転ダンパの制動力の変化を少なくすることができ、扉の回動速度の変化が少なくなり、扉の回動に対する品位を維持できる。
【0027】また、扉の重心を支持軸の軸線の略鉛直線上に位置させた状態から扉を回動させて閉じる場合、付勢部材に付勢力が蓄積されていない状態から扉を回動させて閉じることになるので、扉を閉じた状態で、付勢部材に蓄積される付勢力は従来例よりも遙かに少なくなる。したがって、扉を操作性よく閉めることができる。
【0028】さらに、扉を閉じた状態から開ける場合、または、扉の重心が支持軸の軸線の略鉛直線上に位置する状態よりもさらに扉が開いている状態から扉の重心が支持軸の軸線の略鉛直線上に位置する状態へ扉を回動させる場合、付勢部材に付勢力が蓄積されているので、付勢部材の付勢力により、扉の回動をアシストすることができる。また、扉の重心が支持軸の軸線の略鉛直線上に位置する状態から、扉を回動させて閉じ、または、扉を回動させてさらに開けても、付勢部材に付勢力を蓄積させることになるので、付勢部材で扉の制動をアシストすることができる。
【0029】そして、付勢部材を回転ダンパ内に設けることにより、一部品としたので、部品管理が容易になり、また、組み付け作業が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態である扉の制動構造を適用したプリンタの扉を開けた状態の斜視図である。
【図2】この発明の一実施形態に使用する回転ダンパの一例を示す断面図である。
【図3】図1に適用したこの発明の一実施形態である扉の制動構造を示す断面図である。
【図4】動作説明図である。
【符号の説明】
1 プリンタ
2 ハウジング
2a 凹部
2b 係止凹部
3 開口
4 支持軸
5 扉
5a 凹部
5b 軸
5c 係止凹部
11 回転ダンパ
12 ハウジング
12a 収容部
12b 太径部分
12c 細径部分
12d 段部
12e 取付部
12f 係合突条
12g 係止爪
13 ロータ
13a 挿入部分
13b 太径部分
13c 細径部分
13d 段部
13e 凹部
13f 取付部
13g 突出部分
13h 凹部
13i 係合突条
14 粘性流体
15 Oリング
16 コイルスプリング
17 カバー
17a 挿通孔
17b 係合部
G 重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水平に配置した支持軸に対して垂直方向へ回動する扉の回動を、回転ダンパ内の粘性流体の粘性抵抗で制動する扉の制動構造おいて、前記扉の重心を前記支持軸の軸線の略鉛直線上に位置させた状態で、付勢力を開放させた付勢部材の一端を、前記扉を備えた機器のハウジングに固定し、前記付勢部材の他端を前記扉に固定した、ことを特徴とする扉の制動構造。
【請求項2】 水平に配置した支持軸に対して垂直方向へ回動する扉の回動を、回転ダンパ内の粘性流体の粘性抵抗で制動する扉の制動構造おいて、前記回転ダンパ内に、一端がハウジングに固定され、他端がロータに固定された付勢部材を設け、この付勢部材の付勢力を開放させた状態で、前記扉の重心を前記支持軸の軸線の略鉛直線上に位置させた、ことを特徴とする扉の制動構造。
【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の扉の始動構造において、前記付勢部材を、コイルスプリングにした、ことを特徴とする扉の制動構造。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開2003−19847(P2003−19847A)
【公開日】平成15年1月21日(2003.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−207563(P2001−207563)
【出願日】平成13年7月9日(2001.7.9)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】