説明

手動操作式パーキングブレーキの作動方法

【課題】錯誤によるパーキングブレーキの解除が生じても、車両を安全な状態へと移行することができるパーキングブレーキ作動方法を提供すること。
【解決手段】原動機を備えて成る車両の、手動操作式パーキングブレーキの作動方法であって、パーキングブレーキが、操作手段と、車輪回転数センサからの検出信号が入力される電子制御ユニットと、パーキングブレーキ力を発生させる少なくとも1つの調節ユニットと、該調節ユニットにより少なくとも1つのアクスルにパーキングブレーキ力を負荷するブレーキ装置とで構成され、車両の発進を検出した後、パーキングブレーキを解除するよう電子制御ユニットが調節ユニットを制御する前記パーキングブレーキ作動方法において、前記車両の発進の検出が錯誤によるものである場合、パーキングブレーキ力を高めるよう前記電子制御ユニットが前記調節ユニットを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的なマニュアルトランスミッションを備えた原動機を備えて成る車両の、手動操作式パーキングブレーキの作動方法であって、該パーキングブレーキが、操作手段と、車輪回転数センサからの検出信号が入力される電子制御ユニットと、パーキングブレーキ力を発生させる少なくとも1つの調節ユニットと、該調節ユニットにより少なくとも1つのアクスルにパーキングブレーキ力を負荷するブレーキ装置とで構成され、前記車両の発進を検出した後、パーキングブレーキを解除するよう前記電子制御ユニットが前記調節ユニットを制御する前記パーキングブレーキ作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動のパーキングブレーキを備えたブレーキシステムの制御方法が特許文献1に開示されている。この方法によれば、クラッチが入り始めてからいわゆる半クラッチ位置に相当するクラッチ反応時点までの第1の時間がクラッチペダル踏込量センサにより計測される。
【0003】
この従来の方法によれば、電動のパーキングブレーキを解除する時点はクラッチ反応時点の前の第2の時点に設定されている。即ち、クラッチペダル踏込量センサの検出信号とは無関係にパーキングブレーキが解除されることとなる。更に、安全のために、ギヤが入れられたか確認するためのギヤ段センサを付加することもできるが、このギヤ段センサを用いなければ、車両の発進の検出に錯誤が生じてしまい、パーキングブレーキ解除後に危険な状況に陥ってしまいかねないという問題がある。
【特許文献1】独国特許第10324446号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的とする処は、錯誤によるパーキングブレーキの解除が生じても、車両を安全な状態へと移行することができるパーキングブレーキ作動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、車両の発進の検出が錯誤によるものである場合、パーキングブレーキ力を高めるよう電子制御ユニットが調節ユニットを制御することにより達成される。
【0006】
又、本発明によれば、パーキングブレーキ解除後所定時間の間に、クラッチペダル、フットブレーキペダル及びアクセルペダルが何れも操作されず、且つ車両速度が3km/hより小さい場合に、車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴としている。
【0007】
そして、本発明の他の有利な形態によれば、パーキングブレーキ解除後所定時間の間に、クラッチペダル、フットブレーキペダル及びアクセルペダルが何れも操作されず、且つセンサによってドアの開放が検知された場合に、車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴としている。
【0008】
更に、本発明によれば、パーキングブレーキ解除後所定時間の間に、クラッチペダル、フットブレーキペダル及びアクセルペダルが何れも操作されず、且つセンサによって運転者の安全ベルトの解除が検出された場合に、車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴としている。
【0009】
又、本発明の他の有利な形態によれば、車両速度が3km/hよりも小さく、且つ原動機のイグニッションスイッチがオフされた場合に、車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴としている。
【0010】
更に、本発明によれば、車両速度を前記車輪回転数センサにより算出し、又、上記所定時間を、可変に設定するとともに、路面の勾配に応じて決定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、錯誤によるパーキングブレーキの解除が生じても、車両を安全な状態へと移行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に液圧式ブレーキ装置の配線図を示している。当該液圧式ブレーキ装置は第1のアクスルであるフロントアクスルに設けられたホイールブレーキ2を備えており、ブレーキフルードがフットブレーキの操作により第1の液圧通路9を通って前記ホイールブレーキ2へ到達して制動がなされる。
【0014】
ここで、最適なブレーキ減速度の制御、アンチロック制御及び車両速度の検出を行えるよう、フロントアクスルに取り付けられた車輪(前輪)の回転数を検出する車輪回転数センサ12が当該車輪近傍に設けられており、その出力信号はフットブレーキに組み込まれた電子制御ユニット(ECU)5に入力される。
【0015】
又、液圧式ブレーキ装置は第2のアクスルであるリヤアクスルに設けられたホイールブレーキ3を備えており、上記同様ブレーキフルードがフットブレーキの操作により第2の液圧通路10を通って前記ホイールブレーキ3へ到達して制動がなされる。ここでも、リヤアクスルに取り付けられた車輪(後輪)の回転数を検出する車輪回転数センサ13が当該車輪近傍に設けられており、その出力信号は上記同様フットブレーキに組み込まれた電子制御ユニット(ECU)5に入力される。
【0016】
ところで、後輪は、フットブレーキで作用するホイールブレーキ3近傍に電子・機械的に作動するパーキングブレーキを備えており、それぞれ不図示のエキスパンダを有する2つのドラムブレーキ4を備えている。ここで、ドラムブレーキ4は、前記エキスパンダが電子・機械的な調節ユニット1で制御されるワイヤケーブル11により操作されて作用する。
【0017】
又、パーキングブレーキは運転者が操作手段7を操作することにより作動し、このとき、操作手段7の出力信号がパーキングブレーキに組み込まれた電子制御ユニット(ECU)6に入力される。尚、この電子制御ユニット(ECU)6は、前記調節ユニット1と適切に接続されているとともに、フットブレーキに組み込まれた電子制御ユニット(ECU)5と通信ケーブル8を介して通信し、ここに例えばローカルエリアネットワークが形成されている。
【0018】
ところで、図1には更にクラッチペダル14、該クラッチペダル14の踏込量を検出するクラッチペダル踏込量センサ18、フットブレーキペダル15、アクセルペダル16及び勾配センサ17が図示されており、勾配センサ17の出力信号はパーキングブレーキに組み込まれた電子制御ユニット(ECU)6に入力される。尚、勾配センサ17の具体的な機能は後述する。
【0019】
図2は原動機を備えた車両(以下、車両という)の発進を検出する手順を示すフローチャートであり、パーキングブレーキに組み込まれた電子制御ユニット(ECU)6は、前記車両の発進を検出すると、パーキングブレーキを解除するよう調節ユニット1を制御する。
【0020】
而して、発進を検出するために、先ず、ステップ21において、車両の不図示のイグニッションスイッチに接続された不図示の信号回路によりイグニッションスイッチがオンされているか確認される。ここで、イグニッションスイッチがオンされていれば、後続のステップを条件として車両が発進するものと判断される。このため、ステップ22では、原動機が作動しているかどうかが確認される。
【0021】
続いて、パーキングブレーキが作動しているかが確認され(ステップ23)、ステップ24では、図1に示した車輪回転数センサ12,13に基づき車両が停止しているかが確認される。次に、アクセルペダル16の踏込位置が検出されるが、このとき、アクセルペダル16は、運転者により所定の閾値以上の強さで操作されなければならない(ステップ25)。
【0022】
次に、ステップ26において、クラッチペダル踏込量センサ18の出力信号に基づき、運転者がクラッチペダル14を踏み込んだかが確認される。そして、運転者がクラッチペダル14を踏み込んだ位置から戻し始めると、前述の各条件と合わせて車両の発進が認識され、図1に示す電子制御ユニット(ECU)6が調節ユニット1に対してパーキングブレーキを解除するよう信号を発する(ステップ27,28)。
【0023】
ところで、上記のような条件は、運転者が意図しなくとも満たされてしまう場合がある。即ち、運転者が車両を発進させようとしていないにも拘らずパーキングブレーキが解除されてしまう場合がある。
【0024】
そこで、本発明においては、運転者の意に反してパーキングブレーキの解除がなされた場合には、このパーキングブレーキの解除後に再びパーキングブレーキを作用させるよう電子制御ユニット(ECU)6が調節ユニット1を制御する。言い換えれば、車両の不意の発進が検出されてパーキングブレーキの解除がなされた場合には、パーキングブレーキ力が再び高められる。
【0025】
ここで、上記のような車両の不意の発進は、パーキングブレーキ解除後所定時間Δtの間に、運転者がクラッチペダル14、フットブレーキペダル15及びアクセルペダル16の何れも操作せず、且つ車両速度が3km/hより小さい場合に検知される。
【0026】
即ち、パーキングブレーキ解除後所定時間Δtの間に、運転者がクラッチペダル14、フットブレーキペダル15及びアクセルペダル16の何れも操作せず、車両がほぼ停止状態を維持していれば、運転者はパーキングブレーキの解除を意図していないものと判断される。
【0027】
又、車両の不意の転動によって他の交通に危険を及ぼさないよう、前記所定時間Δtは、可変であり、路面の勾配に応じて設定することができる。前述の勾配センサ17はこの目的で使用される。
【0028】
又、パーキングブレーキ解除後所定時間Δtの間に、運転者がクラッチペダル14、フットブレーキペダル15及びアクセルペダル16の何れも操作せず、且つ不図示のセンサによってドアの開放が検知された場合にも、運転者はパーキングブレーキの解除を意図しておらず、車両の発進が誤認されたと判断される。この場合にも、前記同様、パーキングブレーキの解除後に再びパーキングブレーキを作用させるよう調節ユニット1が制御され、車両の停止状態が確実に維持される。
【0029】
更に、車両の発進が誤認されたと判断される、他の推測される組み合わせとして、パーキングブレーキ解除後所定時間Δtの間に、運転者がクラッチペダル14、フットブレーキペダル15及びアクセルペダル16の何れも操作せず、且つ不図示のセンサにより運転者の安全ベルト(シートベルト)の解除が検出された場合が考えられる。この場合にも、運転者はパーキングブレーキの解除を意図していないと判断され、パーキングブレーキが再び作用する。
【0030】
尚、車両がほぼ停止状態であって、即ち車両速度が3km/hよりも小さく、且つ原動機のイグニッションスイッチがオフされた場合にも、運転者はパーキングブレーキの解除を意図していないと判断され、パーキングブレーキが再び作用する。
【0031】
図3は、車両の発進が誤認され、パーキングブレーキが再び作用する場合のパーキングブレーキの解除過程を横軸に時間tをとって示したものである。尚、この図3において縦軸は調節ユニット1により生じるパーキングブレーキ力Fと、クラッチペダル14及びアクセルペダル16の操作状態を示している。
【0032】
図3におけるt0時点で、パーキングブレーキは作用しており(位置30)、クラッチペダル14は位置31に示すように完全に踏み込まれているが、アクセルペダル16は操作されていない(位置32)。尚、本実施の形態において、各ペダル14,15,16は、それらの踏込量が最大踏込量の例えば10%に満たなければ、操作されたとみなされない。
【0033】
又、図3には、図が煩雑となるのを避けて、フットブレーキペダル15については記載していないが、このフットブレーキ15は非操作状態を維持するものと仮定し、又、車両速度も図3の記載全体を通して3km/hに満たないものと仮定する。
【0034】
而して、t1時点において、パーキングブレーキの自動解除が図2に示した、イグニッションスイッチがオンであり、原動機が作動しており、パーキングブレーキが作用しているという条件に従ってパーキングブレーキの自動解除が開始される。
【0035】
そして、この時点で車両速度が0km/hであり、アクセルペダル16が所定の閾値以上に操作され(位置35)、クラッチペダル14はその完全踏込位置から運転者により復帰が開始されて(位置34)、調節ユニット1によりパーキングブレーキ解除が開始される(位置33)。
【0036】
尚、パーキングブレーキの解除に要する時間に相当する所定時間後にパーキングブレーキが完全に解除される(位置36)。
【0037】
そして、運転者によりクラッチペダル14が完全に非操作位置まで復帰される(位置37)。ここで、完全踏込量の10%まで復帰されれば、非操作位置であるとみなされる。
【0038】
次に、t2時点で運転者がアクセルペダル16の操作を中止する(位置38)。そして、このt2時点からt3時点に至る所定時間Δtの間までクラッチペダル14、フットブレーキペダル15及びアクセルペダル16の何れも操作されず、且つ車両速度が3km/hより小さいため、このt3時点で運転者はパーキングブレーキの解除を意図していないと判断され、調節ユニット1によりパーキングブレーキの作用が開始されて(位置39)パーキングブレーキ力が再び高められる(位置40)。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る方法を実施し、パーキングブレーキの制御をする電子制御ユニット(ECU)を備えた液圧式ブレーキ装置の配線図である。
【図2】車両の発進を検出する手順を示すフローチャートである。
【図3】車両の発進の認識が誤解され、パーキングブレーキが再び作用する場合のパーキングブレーキの解除過程を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 調節ユニット
2,3 ホイールブレーキ
4 ドラムブレーキ
5,6 電子制御ユニット(ECU)
7 操作手段
9 第1の液圧通路
10 第2の液圧通路
11 ワイヤケーブル
12,13 車輪回転数センサ
14 クラッチペダル
15 フットブレーキペダル
16 アクセルペダル
17 勾配センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的なマニュアルトランスミッションを備えた原動機と、
クラッチペダル(14)と、
アクセルペダル(16)と、
フットブレーキペダル(15)と
を備えて成る車両の、手動操作式パーキングブレーキの作動方法であって、
該パーキングブレーキが、
操作手段(7)と、
車輪回転数センサ(12,13)からの検出信号が入力される電子制御ユニット(6)と、
パーキングブレーキ力を発生させる少なくとも1つの調節ユニット(1)と、
該調節ユニット(1)により少なくとも1つのアクスルにパーキングブレーキ力を負荷するブレーキ装置(4)と
で構成され、前記車両の発進を検出した後、パーキングブレーキを解除するよう前記電子制御ユニット(6)が前記調節ユニット(1)を制御する前記パーキングブレーキ作動方法において、
前記車両の発進の検出が錯誤によるものである場合、パーキングブレーキ力を高めるよう前記電子制御ユニット(6)が前記調節ユニット(1)を制御することを特徴とするパーキングブレーキ作動方法。
【請求項2】
前記パーキングブレーキ解除後所定時間(Δt)の間に、前記クラッチペダル(14)、前記フットブレーキペダル(15)及び前記アクセルペダル(16)が何れも操作されず、且つ車両速度が3km/hより小さい場合に、前記車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴とする請求項1記載のパーキングブレーキ作動方法。
【請求項3】
前記パーキングブレーキ解除後所定時間(Δt)の間に、前記クラッチペダル(14)、前記フットブレーキペダル(15)及び前記アクセルペダル(16)が何れも操作されず、且つセンサによってドアの開放が検知された場合に、前記車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴とする請求項1記載のパーキングブレーキ作動方法。
【請求項4】
前記パーキングブレーキ解除後所定時間(Δt)の間に、前記クラッチペダル(14)、前記フットブレーキペダル(15)及び前記アクセルペダル(16)が何れも操作されず、且つセンサによって運転者の安全ベルトの解除が検出された場合に、前記車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴とする請求項1記載のパーキングブレーキ作動方法。
【請求項5】
車両速度が3km/hよりも小さく、且つ前記原動機のイグニッションスイッチがオフされた場合に、前記車両の発進の検出が錯誤によるものであると判断することを特徴とする請求項1記載のパーキングブレーキ作動方法。
【請求項6】
前記車両速度を前記車輪回転数センサ(12,13)により算出することを特徴とする請求項2又は5記載のパーキングブレーキ作動方法。
【請求項7】
前記所定時間(Δt)を、可変に設定するとともに、路面の勾配に応じて決定することを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載のパーキングブレーキ作動方法。
【請求項8】
前記勾配を勾配センサ(17)により検出することを特徴とする請求項7記載のパーキングブレーキ作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−517827(P2008−517827A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538430(P2007−538430)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055633
【国際公開番号】WO2006/045841
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】