抗新生物活性を有するナンキョクコメススキ(DeschampsiaantarcticaDesv.)の新規抽出物
本開示は、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物から得られる新規抗新生物抽出物を提供する。該抗新生物抽出物の有効成分も開示され、該抽出物もしくはその成分を用いて癌細胞または腫瘍細胞の増殖を防ぐ方法が開示される。さらに、抗新生物抽出物を調製する前に植物を物理的または化学的処理に供することによりin vitro生育植物で有効成分の産生を誘導する方法が開示される。本開示は、癌患者を治療するための、または癌疾患の発症を予防するための、錠剤またはペレット剤の組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトに使用するための、具体的には癌状態および腫瘍状態を治癒および予防するための、治療用化合物の供給源としての天然抽出物に関する。より具体的には、本発明は、癌を予防するためのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)由来の抽出物、該抽出物の組成物、および該抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、先進国では第2の死亡原因である。この疾患の発生率の増加は、国民の余命の増加と比較して同傾向にあるので、この病理には、大きな医学的かつ社会的な関心が払われている。世界で最も一般的な5つのタイプの癌は、肺癌、胃癌、乳癌、結腸直腸癌、および子宮癌である。
【0003】
癌の発生率および死亡率は、多くの国々で増加してきた。世界保健機関(WHO)によれば、毎年1000万人を超える人々が癌に罹患する。その数は、毎年2.4%ずつ増加して2020年までに年間1500万人になると予想される。
【0004】
結腸直腸癌(CRC)の特定症例では、世界で毎年約100万例の新規症例および50万例の死亡例が発生し、世界の死亡率は8.1人/100,000人である。このタイプの癌は、より先進的な地域で多く見られ(25.1人/100,000人)、欧州および米国では癌の第2の死亡原因になっている。米国単独では毎年130,000例を超える新規症例および欧州では370,000例を超える新規症例が診断されている。アルゼンチンでは、新規症例の数は、米国で発生する数と同程度である。
【0005】
チリでは、癌は、第2の死亡原因である。腸癌は、この病理の死亡例の46.2%を占める。その数のうち、結腸直腸癌は、第3位の死亡原因であり、頻度が絶えず増加し続けている。この疾患の死亡率は、1990年〜2003年の期間で有意な上昇傾向を示した。
【0006】
結腸直腸癌に罹患した患者の70%近くは、外科的切除を受けなければならないが、30%〜40%は、再発を起こす。肝臓は、CRC転移が最も頻発する部位であり、肝転移の完全切除が唯一の選択肢の治癒法である。しかしながら、手術は、診断の時点で患者のわずか20%で可能であるにすぎず、5年間の平均生存率は、化学療法を行っても25%〜40%である。
【0007】
実際のCRC治療は、疾患の進行した段階では有効でない。第一選択の治療の一部としてErbituxやAvastinのような最新の医薬を投与された転移性結腸直腸癌の患者の平均生存率は、わずか15〜20.5ヵ月間にすぎない。このことは、患者の生存の可能性を増大させるためのより有効な療法を探索する必要性を実証する。
【0008】
一方、結腸内視鏡検査は、前癌性病変の検出および除去を可能にする唯一のスクリーニングである。しかしながら、この検査は、患者の準備および不便ならびに患者の不快感の観点から、非常に煩雑である。したがって、比較的初期のCRC診断は、稀なイベントであり、治癒の可能性がより大きい疾患の第1期では、患者のわずか9%が検出されるにすぎない。したがって、栄養医薬化合物を用いてCRCの発症を予防する可能性は、きわめて重要である。
【0009】
一方、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica Desv.)は、南極地方に集落を形成することに成功した2種の顕花植物のうちの1つである。それは、南方のいくつかの海洋島に見いだされ、南極地方の南極半島および沖合の島に限られる。この分類群は、厳しい条件で生存し続けるように適応してきた。不利な南極の環境でのこのイネ科草本の生存に関与する可能性がある特性としては、細胞外の氷に対する耐性、0℃で最適光合成の30%を保持する光合成器官、およびフルクタンおよびサッカロースとしての炭水化物の蓄積が挙げられる。南極地方は、維管束植物の成長に不利な地域である。ナンキョクコメススキ(D. antarctica)は、夏季にのみ生育するにすぎない。この時季には、光合成有効放射量(PAR)は、2000μmol・m−2・s−1に達する可能性があり、かつ温度は、通常−2〜5℃である。
【0010】
ヒトに使用するための治療用化合物の供給源としての天然物に関する研究は、80年代にそのピークに達した。1981年〜2002年に市場に導入された877種の小分子のうちの49%は、天然物またはその合成誘導体に由来した(Newman, DJ; J. Nat. Prod. 66: 1002-1037 (2003))。それにもかかわらず、天然物に関する薬学的研究は、過去10年間でわずかな減少を示した。これは、本質的には、コンビナトリアルライブラリーの開発および分子生物学の進歩に基づく新規化合物の探索によるものであり、そのような探索が、表皮増殖因子受容体を標的とすることが意図されたIressa/Imanitibのような「洗練された」化学分子の設計につながった。しかしながら、近年の経験から、天然物に由来する化合物に対する製薬会社の関心が復活してきた。なぜなら、そうした化合物は、いかなる合成品または組換えライブラリーよりも多くのキラル中心および立体的複雑性を有することが実証されてきたからである(Free M.J. Chem. Inf. Comput. Sci. 43: 218-227 (2003))。この失敗の主な理由は、組換えライブラリーでは、本質的に化学的利用可能性に基づいて化合物が探索されるが、増大する化学的多様性の点で制約があることである(Martin Y.C.J. Comb. Chem.1:32-45 (1999))。
【0011】
果物および野菜の摂取が結腸直腸癌をはじめとする種々の癌の危険性を低減する有益な効果があることを示唆する文献が存在する。Kaurらは、ブドウ種子果実の化学予防効果を示すデータを提供している(Kaur M, Clin Cancer Res 12(20): 6194-6202 (2006))。Luらは、肺癌に及ぼす緑茶の化学予防効果を示唆するデータを示している(Lu Y, Cancer Res. 66 (4): 1956-1963 (2006))。コンビナトリアルケミストリーでの予測に合致しない化学予防効果を有する天然成分の提供から、天然化合物に対する薬学的関心が復活してきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Newman, DJ; J. Nat. Prod. 66: 1002-1037 (2003)
【非特許文献2】Free M.J. Chem. Inf. Comput. Sci. 43: 218-227 (2003)
【非特許文献3】Martin Y.C.J. Comb. Chem.1:32-45 (1999)
【非特許文献4】Kaur M, Clin Cancer Res 12(20): 6194-6202 (2006)
【非特許文献5】Lu Y, Cancer Res. 66 (4): 1956-1963 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、一般に発生する癌疾患の予防および治癒に役立ちうる天然の化合物および抽出物の必要性が常に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、集団の中で高い発生率を有する疾患の治癒および予防に役立つ抗新生物活性を有する化合物を含有する天然抽出物を包含する。特に、天然物を記載するが、該天然物は、南極大陸で高放射線に耐えて生存するように適応した生物から抽出されるものである。
【0015】
本発明は、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)由来の新規な抗新生物抽出物および該抽出物の取得方法を提供する。
【0016】
本発明は、癌細胞の増殖を予防するための天然の抗新生物抽出物を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、天然の抗新生物抽出物の活性複合体を提供する。
【0018】
本発明はまた、既存の癌状態を有する患者を治療するための組成物を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)組織中の抗新生物化合物の量を増大させる方法およびそれに応じて植物組織の化合物を抽出する方法を提供する。
【0020】
またさらに、本発明は、in vitroで生育されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物から抗新生物抽出物を取得する方法を提供する。
【0021】
そのうえさらに、本発明は、抗新生物製剤の材料用としてin vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物を準備する方法を提供する。
【0022】
したがって、本発明はまた、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の抽出物または該抽出物の成分を含む抗新生物製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】UV−Vis200〜400nmスペクトル図を示す。(A)in vivoで採取されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物。(B)いかなる処理も施すことなくin vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物(対照)。
【図2】NaCl溶液で処理されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)(in vitro)の植物のUV−Vis200〜400nmスペクトル図を示す。(A)2M NaCl、(B)3M NaCl、および(C)4M NaCl。
【図3】UV線で処理されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)(in vitro)の植物のUV−Vis200〜400nmスペクトル図を示す。(A)45μW/cm2、(B)70μW/cm2。
【図4】大腸癌細胞(HT29およびLoVo)、肝臓癌細胞(Hep3B)、および対照細胞(wi38)のin vitro増殖に及ぼす100μg/mlの濃度でのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の抽出物画分の効果を示す。GCB1、GCB2、およびGCB3は、南極産のナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物の3種の異なる採取物の抽出物に対応する。抽出物は、水を用いて調製し、次に乾燥させ、そしてメタノール中に溶解させたものである。対照は、添加された抽出物を含有しておらず、メタノール対照は、乾燥水性抽出物を溶解させるために使用したのと同じくメタノールを5%含有する対照である。
【図5】LoVo結腸直腸癌細胞(aおよびc)ならびにwi38ヒト胎児線維芽細胞(bおよびd)に及ぼす75μg/mlの濃度での酢酸エチル抽出物(aおよびb)ならびにメタノール抽出物(cおよびd)の効果を示す。
【図6】結腸直腸癌細胞LoVoの細胞生存率に及ぼすさまざまな濃度(0.017、0.17、および1.7mM)でのナンキョクコメススキ(Deschampsia antaractica)植物の抽出物から得られたルテオリン誘導体(ピーク1およびピーク2)の効果を示す。(a)は、ピーク2の誘導体の効果を示し、(b)は、ピーク1およびピーク2の誘導体の組合せの効果を示す。
【図7】ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物のセミ分取HPLC分析を示す。
【図8】ナンキョクコメススキ(Deschamcpisa antarcitca)抽出物の主化合物のHPLCクロマトグラムを示す。(A)ピーク1および(B)ピーク2。
【図9】ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物の主化合物のUV−可視スペクトル、すなわち、(a)ピーク1のスペクトルおよび(b)ピーク2のスペクトルを示す。
【図10】ナンキョクコメススキ(Deschampisa antarctica)抽出物から単離された(a)ピーク1および(b)ピーク2の質量スペクトルを示す。
【図11】(A)ピーク1の化合物および(B)ピーク2の化合物の化学構造を示す。
【図12】オリエンチンの化学構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica Desv.)(イネ科(Poacea))は、南極半島沿岸に天然で集落を形成した2種の維管束植物のうちの1つである。近年、基本的には、南極領域に存在するオゾン層のホールが原因で、ナンキョクコメススキ(D. antarctica)は、増大する紫外線曝露を受けてきた。したがって、この植物種は、光防御過程に介入する二次代謝産物の産生を増大させるようにその代謝を改変してきた。
【0025】
ナンキョクコメススキ(D. antarctica)が酸化ストレス(強い光および低い温度)への曝露条件に天然で順化されているという事実から、我々は、この植物が抗酸化性化合物の供給源であると考えるに至った。南極大陸で野生で生育する植物から抗酸化性化合物を取得することは可能であったが、その特性は、植物をin vitroで栽培した場合には実用上失われた。本開示は、in vitroで生育された植物中で抗酸化性化合物を誘導する方法を提供する。さらにまた、本開示に記載の本発明は、該植物から得られる抗新生物抽出物を提供する。
【0026】
本発明は、ナンキョクコメススキ(D. antarctica)から得られる抽出物の抗腫瘍原効果およびその疾患予防能をそのin vitro効果に関する研究により信頼性をもって確証する。
【0027】
本発明はまた、in vitroで生育された植物中で抗新生物化合物を誘導する方法および該化合物の単離さらにはその潜在的用途を記述する。
【0028】
本発明に係る生成物は、ナンキョクコメススキ(D. antarctica)中に存在する抗新生物活性を有する代謝物に基づく。
【実施例】
【0029】
本発明を実施例により以下で説明する。実施例は、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0030】
実施例1
天然で生育された植物の抽出物とストレス誘導を行わずにin vitroで生育された植物の抽出物との吸収ピークの比較
ロバート島のカッパーマイン半島(南緯62°22’、西経59°43’)からナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)材料を採取し、プラスチックバッグに入れて運んだ。殺菌剤(ベノミルおよびカプタン)ならびに次亜塩素酸ナトリウムを用いて材料を殺菌した。in vitroで植物材料を微細繁殖させた。ムラシゲ・スク−グ(MS)培地に基づいて培養培地を調製した。1mg/lのBAPホルモン(N6ベンジルアミノプリン)さらには35mg/lのサッカロースおよび9g/lの寒天を5.7の最終pHで添加した。16/8時間(明/暗)の光周期および2000μmol・m−2・s−1の光子流量を用いて22℃の生育チャンバー内にin vitro生育植物を保持した。
【0031】
in vivoまたはin vitroの生育植物の地上部を採取し、5mlの蒸留水中で浸軟させた。その後、浸軟物を10分間超音波処理し、1,000rpmで15分間遠心分離する。
【0032】
薄層クロマトグラフィーを行った。60 F254シリカゲルスライド(MERCK)上に抽出物を接種し、存在する化合物を可視化した。UV−Vis SHIMADZU UV−160分光光度分析を用いて抽出物を分析した。したがって、200〜400nmで吸光度スクリーニングを行って、抽出物中に存在する化合物類に特有な吸収極大の存在を決定した(図1)。
【0033】
フラボノイドをメタノール中に溶解させた場合、フラボンおよびフラボノールは、UV分光および可視光により調べると、240〜400nmの領域に2つの主吸収ピークを呈する。これらのピークは、一般に、バンドI(300〜400nm)およびバンドII(240〜280nm)を表す。UV−可視200〜400nmスペクトル分析によれば(図1)、フラボノイドは、南極地方でin vivoで採取された植物の代謝抽出物中に見られた。それらは、実験室でin vitroで栽培された植物の抽出物中には実質的に不在である。フラボノイドは、特徴的なピークを呈する。
【0034】
実施例2
in vitro植物中でのポリフェノールの誘導
前の実施例に示されるように、フラボノイドは、in vitroで生育された植物中には実質的に不在であった。この実施例では、種々のストレス条件によりナンキョクコメススキ(Deschampisa antarctica)植物中でフラボノイド産生を誘導可能であることを示す。
【0035】
塩による誘導
50日後、in vitroで繁殖されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物を寒天から完全に取り出し、根からすべての寒天を除去した。
【0036】
寒天から取り出した後、30分間にわたりさまざまな濃度のNaCl水溶液(2M、3M、および4M)中に植物を浸漬した。その後、植物の地上部を5mlの蒸留水中で浸軟させる。その後、浸軟物を10分間超音波処理し、1,000rpmで15分間遠心分離する。
【0037】
UV線への曝露による誘導
寒天中で生育された幼植物に、生育に用いたのと同じジャー中で45μW/cm2および70μW/cm2の強度でUV光を2時間照射した。次に、幼植物を寒天から取り出し、そしてサンプルの地上部を切り離し、5mlのメタノールで浸軟させ、10分間超音波処理し、さらに1000rpmで15分間遠心分離した。抽出されたサンプルを濃縮し、凍結乾燥させ、そして−20℃で貯蔵した。
【0038】
in vivoおよびin vitroで生育された植物の抽出物中のポリフェノール濃度
in vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物とは異なり、自然条件で栽培された植物は、その全発育段階にわたりポリフェノールの連続的誘導を示した。0.5Mの濃度(海水の濃度)を有する食塩溶液の一定のリスクおよび南極大陸の自然放射条件に植物を曝露する。
【0039】
in vitroおよびin vivoで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の植物から得られた抽出物をUV−Vis200〜400nmスペクトルによる分析に付して、SHIMADZU UV−160分光光度計によりメタノールと対比して抽出物中に存在する化合物のピーク吸光度を決定した。100μlの抽出物(浸軟)、具体的には上清からの抽出物を使用し、10mlのメタノール中に溶解させた。
【0040】
処理の効果を評価するために、いかなる処理も施すことなくin vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物を対照として使用した。
【0041】
植物が受けたすべてのストレス処理によりポリフェノールの濃度が対照と比較して増加することは、スペクトルからはっきりとわかる(図1〜3)。
【0042】
ポリフェノールの濃度の最大の増加をもたらすNaCl溶液による処理は、3M NaCl中に植物を浸漬した時に観測されたが、2Mおよび4Mの濃度のNaClも類似の効果を呈した(図2)。また、本データから、3M NaClは、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)が最も高いポリフェノール濃度を呈する濃度であることが実証された。さまざまな濃度のNaClの存在下でのポリフェノール産生に関するナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の応答は、3M>4M>2Mである。
【0043】
45μW/cm2のUV線に2時間曝露された植物は、ポリフェノールの最大の増加を示した(図3)。同一の時間でより強い放射線強度(70μW/cm2)に曝露された植物は、45μW/cm2のときほどの増加を示さなかった。このことは、植物が、緑色物質を消滅させるなんらかのタイプの損傷を受けたか、または植物が、損傷から回復する際に資源を使い尽くすことにより、二次代謝産物の濃度が減少したためである可能性がある。
【0044】
さまざまな処理に付されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)を用いて得られた結果の比較から、最良の結果すなわちポリフェノールの最大の増加は、植物を45μW/cm2の強度のUV線に2時間供した時に観測されたことが明確に示される(図1、2、および3)。
【0045】
実施例3
水性抽出物の分画
ナンキョクコメススキ(Deschampia antarctica)の水性抽出物をHPCL分析により分析した。図7は、HPLC分析のクロマトグラムを示している。クロマトグラムは、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)水性抽出物の主成分を示す。2つの主ピーク(10.6667分の保持時間を有するピーク1および12.0167分の保持時間を有するピーク2)は、注入サンプルの全量の80%(w/w)を占める。
【0046】
セミ分取カラムを用いることにより両方のピークを個別に収集した。純度評価のために、分析カラムを備えたHPLC−DADを使用した。単離ピークに対応するクロマトグラムを図8に示す。各クロマトグラムは、95%超の純度を有する1つのピークだけを示すことから、ピークは、本質的に純粋であることが示唆される。
【0047】
ダイオードアレイ分析HPLCを用いることにより、両方の化合物のUV−可視200〜400nmスペクトルを取得することが可能であった。スペクトルを図9に示す。
【0048】
両方のスペクトルが240〜400nm領域に主吸収バンドを示した。両方とも、260nmに第1の吸収バンドおよび350nmに第2の吸収バンドを示した。それらのピークは、UV−可視分光法により分析した場合、フラボノイドが呈する吸収スペクトルによく一致する。フラボノイドをメタノール中に溶解させた場合、フラボンおよびフラボノールは、バンドI(300〜400nm)およびバンドII(240〜280nm)としてそれぞれ知られる2つの主ピークを示す。
【0049】
化合物の化学構造を解明するために、我々は、HPLCを質量分析計に連結してピーク1および2のマスクロマトグラムを取得した(図10)。マススペクトルクロマトグラムは、ピーク1に対して580のm/zおよびピーク2に対して593のm/zに主ピークを示した。天然化合物のマススペクトルライブラリーを用いることにより、この情報を他のマススペクトルと比較し、得られた構造を図11に示す。ピーク1は、イソスウェルチアジャポニン((7−O−メチルオリエンチン)2”−O−β−アラビノピラノシド)に対応し、ピーク2は、オリエンチン2”−β−アラビノピラノシドに対応する。これらの化合物は、ナンキョクコメススキ(Deschampisa antarctica)の葉ですでに同定されている(Webby R. and Markham K, 1994, Isoswertijaponin 2"-O'beta-arabinopyranoisee and other flavone-C-glycosides from the Antarctic grass Deschampisa antarctica. Phytochemistry 36(5): 1323-1326)。しかしながら、同定された化合物の生物活性は、提案されていない。したがって、本開示は、これらの天然物の生物活性に関する最初の報告である。
【0050】
両方の化合物のマススペクトルが、オリエンチンに属する448のm/zに現れる共通フラグメントを示した(図12)。放射線防護、血管弛緩、抗酸化性、フリーラジカル阻害性、および抗ウイルス活性のようないくつかの生物活性が、オリエンチンで報告されている。
【0051】
実施例4
悪性細胞増殖のin vitro阻害
全抽出物の分画
全植物抽出物をペーパークロマトグラフィーにより化合物に分画した。移動相として15%氷酢酸を用いてサンプルをWhatman No.3ペーパー上に接種した。さまざまな化合物をUV光下で可視化した。メタノール中に浸漬することにより、B1、B2、およびB3と呼ばれる異なる画分をペーパーから回収し、次に、ロトエバポレーターで濃縮した。スライドクロマトグラフィーを行って各画分中の単離化合物を可視化した。
【0052】
生物活性を有する画分の化学構造
HPLC−質量分析により提供された結果によれば(上記の実施例3)、さまざまなグリコシル化度およびC−C結合を介するグリコシドの置換を有するルテオリン(オリエンチン化合物)は、多く存在しかつ生物活性を引き起こす分子であると推測することができる。このタイプの構造は、活性化合物の安定性を増大させる。さらに、これらの化合物は、in vivoで生育された南極地方のコメススキ属(Deschampsia)の植物または4℃に72時間付された植物の抽出物中には存在したが、13℃でin vitroで生産された植物中には存在しない(データは示していない)。このことから、これら化合物は、低温または植物が野生で受ける他のタイプのストレスで誘導可能であることが示唆される。
【0053】
フラボンは、抗酸化剤、フリーラジカルのキレート化剤、抗炎症剤、炭水化物の代謝の促進剤、および免疫系の刺激剤として人体で重要な役割を果たすことが知られている(Rahman, I., Biswas, S.K., Kirkham, P.A. 2006. Regulation of inflammation and redox signaling by dietary polyphenols. Biochem Pharmocol. 702(11): 1439-1452; Kandaswami, C. Lee, L.T. Lee, P.P, Hwang J.J.; Ke. F.C., Huang, Y.T. Lee, M.T. 2005 In Vivo 19(5) 895-909)。しかしながら、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antactica)抽出物が抗新生物性であることを示す研究も示唆も存在しない。
【0054】
ナンキョクコメススキ(D. antarctica)から得られたメタノール抽出物がなんらかの抗新生物効果を有しうるかを調べるために、可溶性画分B1、B2、およびB3を試験した。これらの画分は、全画分から取得したものあり、さまざまなグルコシド置換度を有する。
【0055】
図4は、結腸癌細胞および肝癌細胞のin vitro増殖に及ぼすB1、B2、およびB3の画分の効果を示している。見てわかるように、これらの画分は、ヒト結腸直腸癌細胞HT29およびLoVoならびに肝臓癌細胞Hep3Bの増殖を効果的に阻害し、最も高いグルコシド置換度を有するB3画分が、悪性細胞増殖に対して最大の阻害レベルを呈する(図4のHT29、LoVo、およびHep3B)。WI38(正常肺線維芽細胞)に及ぼすその効果を最大濃度で試験して、特異性および毒性を決定した。WI38細胞増殖に及ぼす阻害効果は、観察されなかった(図4)。
【0056】
これらの化合物は、in vitroで悪性細胞の増殖を阻害しうるが、正常線維芽細胞の増殖には阻害効果を示さなかったと結論付けることが可能である。このデータから、これらの画分の抗新生物効果が示唆される。
【0057】
以上の実施例に示されるように、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)から抽出された抗新生物化合物をin vitroで誘導することが可能であった。したがって、UV光、塩処理、または低温への曝露により、植物中で産生される抗酸化剤の量を調節することが可能である。さらに、植物材料をin vitroで大量に栽培することが可能であるので、抗新生物抽出物の製造は、実際に実用可能になる。
【0058】
先に挙げた可溶性画分を扱う以外に、より高い極性を有する溶媒(酢酸エチルおよびメタノール)を用いてナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物材料を抽出した。この手法の目的は、抽出により植物成分をさまざまな極性の画分に分けることであった。ソックスレー装置を用いて有機溶媒抽出物を作製した。
【0059】
図5aは、ヒト大腸癌細胞(LoVo)のin vitro増殖に及ぼす酢酸エチル抽出物の効果を示している。この腫瘍細胞の細胞増殖では50%の阻害が観察された。同じ抽出物をWI38細胞(正常肺線維芽細胞)で試験した。WI38細胞増殖に及ぼす阻害効果は、観察されなかった(5b)。
【0060】
一方、図5cは、メタノール抽出物の効果を示しており、これは、大腸腫瘍細胞(LoVo)の増殖に対して50%超の阻害を引き起こした。この抽出物を非腫瘍細胞(WI38)で試験したところ、細胞増殖に対して阻害効果を示した(図1D)。メタノール抽出物および酢酸エチル抽出物は、75μg/mlの最低濃度でLoVo結腸直腸癌細胞に対して活性であった。
【0061】
最も活性な画分をさらなる分画工程に使用した。この手順により純粋化合物の単離がもたらされた(上記の実施例3を参照されたい)。本発明者らはまた、これらの純粋化合物(上記の実施例3のピーク1およびピーク2)ならびにそれらの組合せを腫瘍細胞および非腫瘍細胞で試験した。
【0062】
図6aおよび6bは、大腸癌細胞(LoVo)に及ぼす単独のおよび組み合わされた純粋化合物(ピーク2およびピーク1とピーク2との組合せ)の阻害効果を示している。これらの化合物は、上記の実施例3に記載されるようにナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物から単離されたものである。
【0063】
細胞増殖に対する阻害効果は、1000μg/mlに相当する1.7mMの濃度でピーク2を用いた場合およびピーク1と2との組合せを用いた場合に観察された。この濃度は、酢酸エチル抽出物およびメタノール抽出物の阻害濃度の10倍である。この結果から、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)のメタノール抽出物および酢酸エチル抽出物は、精製化合物の1/10の濃度で有効であることが実証される。
【0064】
実施例5
500mgのナンキョクコメススキ(Despchampsia antarcica)抽出物を含む経口投与用速溶性錠剤の調製
本発明者らは、ここで、癌性および腫瘍性の疾患に罹患しているかまたは罹患しやすい患者に対して予防および治癒の目的でナンキョクコメススキ(Deschampsia antarcica)抽出物を経口投与するための組成物を提供する。それぞれ以下の定性的組成および定量的組成を呈する錠剤である:
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物500mg、D−グルコース(D-glucosa)一水和物597.6mg、クロスカルメロースナトリウム35.2mg、微結晶性セルロース160.0mg、無水クエン酸35.2mg、顆粒状ソルビトール160.0mg、アスパルテーム28.8mg、サッカリンナトリウム14.4mg、ジベヘン酸グリセロール16.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.4mg、オレンジ香料46.4mgを次のように調製する:滑沢剤(ステアリン酸マグネシウムおよびジベヘン酸グリセロール)を除くすべての成分を完全な均一物が得られるまでタンブラーにより混合し、ステアリン酸マグネシウムおよびジベヘン酸グリセロールを添加し、再度、均一になるまで混合を行い、次に、直径20mmおよび高さ4.5の大きさの単位重量1.6gを呈する錠剤を得るべく、得られた混合物を錠剤化に付す。こうして調製された錠剤は、30秒間で口内で崩壊する。
【0065】
実施例6
7.5gのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物を含む速溶性錠剤の調製
100gに対して以下の定性的組成および定量的組成を呈する錠剤である:
成分量:ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物7.5g、噴霧乾燥マンニトール71.0g、微結晶性セルロース15.0g、クロスカルメロースナトリウム3.0g、グリシルリチン酸アンモニウム0.3g、アスパルテーム1.0g、L−メントール0.2g、ミント香料1.0g、ステアリン酸マグネシウム1.0gを次のように調製する:ステアリン酸マグネシウムを除くすべての成分を完全な均一物が得られるまでタンブラーにより混合し、ステアリン酸マグネシウムを添加し、再度、均一になるまで混合を行い、次に、混合物を錠剤化に付す。こうして調製された錠剤は、20秒間で口内で崩壊する。
【0066】
実施例7
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物を含有するペレット剤の調製
900gのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物、800gの微結晶性セルロース、12gのコロイド二酸化ケイ素、684gの塩化ナトリウム、および36gの塩化カリウムを混合した。混合物を流動化ロートグラニュレーターに移し、40gの35%ジメチルポリシロキサンエマルジョンと2000mlのイオン交換水との混合物をその上にスプレーした。ペレット化用液体のスプレー速度を50ml/分に設定した。スプレー空気の圧力は2.5barであった。ローターの速度をペレット化の最初の15分間で450rev/分に設定し、その後、600rev/分に保持した。流動化空気の体積速度をペレット化の最初の15分間で60m3/時に保持し、その後、90m3/時に保持した。流動化空気の温度をペレット化の最初の部分で25℃に設定し、乾燥手順に対しては40℃に設定した。乾燥ペレットを1.6mmの篩に通した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトに使用するための、具体的には癌状態および腫瘍状態を治癒および予防するための、治療用化合物の供給源としての天然抽出物に関する。より具体的には、本発明は、癌を予防するためのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)由来の抽出物、該抽出物の組成物、および該抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、先進国では第2の死亡原因である。この疾患の発生率の増加は、国民の余命の増加と比較して同傾向にあるので、この病理には、大きな医学的かつ社会的な関心が払われている。世界で最も一般的な5つのタイプの癌は、肺癌、胃癌、乳癌、結腸直腸癌、および子宮癌である。
【0003】
癌の発生率および死亡率は、多くの国々で増加してきた。世界保健機関(WHO)によれば、毎年1000万人を超える人々が癌に罹患する。その数は、毎年2.4%ずつ増加して2020年までに年間1500万人になると予想される。
【0004】
結腸直腸癌(CRC)の特定症例では、世界で毎年約100万例の新規症例および50万例の死亡例が発生し、世界の死亡率は8.1人/100,000人である。このタイプの癌は、より先進的な地域で多く見られ(25.1人/100,000人)、欧州および米国では癌の第2の死亡原因になっている。米国単独では毎年130,000例を超える新規症例および欧州では370,000例を超える新規症例が診断されている。アルゼンチンでは、新規症例の数は、米国で発生する数と同程度である。
【0005】
チリでは、癌は、第2の死亡原因である。腸癌は、この病理の死亡例の46.2%を占める。その数のうち、結腸直腸癌は、第3位の死亡原因であり、頻度が絶えず増加し続けている。この疾患の死亡率は、1990年〜2003年の期間で有意な上昇傾向を示した。
【0006】
結腸直腸癌に罹患した患者の70%近くは、外科的切除を受けなければならないが、30%〜40%は、再発を起こす。肝臓は、CRC転移が最も頻発する部位であり、肝転移の完全切除が唯一の選択肢の治癒法である。しかしながら、手術は、診断の時点で患者のわずか20%で可能であるにすぎず、5年間の平均生存率は、化学療法を行っても25%〜40%である。
【0007】
実際のCRC治療は、疾患の進行した段階では有効でない。第一選択の治療の一部としてErbituxやAvastinのような最新の医薬を投与された転移性結腸直腸癌の患者の平均生存率は、わずか15〜20.5ヵ月間にすぎない。このことは、患者の生存の可能性を増大させるためのより有効な療法を探索する必要性を実証する。
【0008】
一方、結腸内視鏡検査は、前癌性病変の検出および除去を可能にする唯一のスクリーニングである。しかしながら、この検査は、患者の準備および不便ならびに患者の不快感の観点から、非常に煩雑である。したがって、比較的初期のCRC診断は、稀なイベントであり、治癒の可能性がより大きい疾患の第1期では、患者のわずか9%が検出されるにすぎない。したがって、栄養医薬化合物を用いてCRCの発症を予防する可能性は、きわめて重要である。
【0009】
一方、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica Desv.)は、南極地方に集落を形成することに成功した2種の顕花植物のうちの1つである。それは、南方のいくつかの海洋島に見いだされ、南極地方の南極半島および沖合の島に限られる。この分類群は、厳しい条件で生存し続けるように適応してきた。不利な南極の環境でのこのイネ科草本の生存に関与する可能性がある特性としては、細胞外の氷に対する耐性、0℃で最適光合成の30%を保持する光合成器官、およびフルクタンおよびサッカロースとしての炭水化物の蓄積が挙げられる。南極地方は、維管束植物の成長に不利な地域である。ナンキョクコメススキ(D. antarctica)は、夏季にのみ生育するにすぎない。この時季には、光合成有効放射量(PAR)は、2000μmol・m−2・s−1に達する可能性があり、かつ温度は、通常−2〜5℃である。
【0010】
ヒトに使用するための治療用化合物の供給源としての天然物に関する研究は、80年代にそのピークに達した。1981年〜2002年に市場に導入された877種の小分子のうちの49%は、天然物またはその合成誘導体に由来した(Newman, DJ; J. Nat. Prod. 66: 1002-1037 (2003))。それにもかかわらず、天然物に関する薬学的研究は、過去10年間でわずかな減少を示した。これは、本質的には、コンビナトリアルライブラリーの開発および分子生物学の進歩に基づく新規化合物の探索によるものであり、そのような探索が、表皮増殖因子受容体を標的とすることが意図されたIressa/Imanitibのような「洗練された」化学分子の設計につながった。しかしながら、近年の経験から、天然物に由来する化合物に対する製薬会社の関心が復活してきた。なぜなら、そうした化合物は、いかなる合成品または組換えライブラリーよりも多くのキラル中心および立体的複雑性を有することが実証されてきたからである(Free M.J. Chem. Inf. Comput. Sci. 43: 218-227 (2003))。この失敗の主な理由は、組換えライブラリーでは、本質的に化学的利用可能性に基づいて化合物が探索されるが、増大する化学的多様性の点で制約があることである(Martin Y.C.J. Comb. Chem.1:32-45 (1999))。
【0011】
果物および野菜の摂取が結腸直腸癌をはじめとする種々の癌の危険性を低減する有益な効果があることを示唆する文献が存在する。Kaurらは、ブドウ種子果実の化学予防効果を示すデータを提供している(Kaur M, Clin Cancer Res 12(20): 6194-6202 (2006))。Luらは、肺癌に及ぼす緑茶の化学予防効果を示唆するデータを示している(Lu Y, Cancer Res. 66 (4): 1956-1963 (2006))。コンビナトリアルケミストリーでの予測に合致しない化学予防効果を有する天然成分の提供から、天然化合物に対する薬学的関心が復活してきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Newman, DJ; J. Nat. Prod. 66: 1002-1037 (2003)
【非特許文献2】Free M.J. Chem. Inf. Comput. Sci. 43: 218-227 (2003)
【非特許文献3】Martin Y.C.J. Comb. Chem.1:32-45 (1999)
【非特許文献4】Kaur M, Clin Cancer Res 12(20): 6194-6202 (2006)
【非特許文献5】Lu Y, Cancer Res. 66 (4): 1956-1963 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、一般に発生する癌疾患の予防および治癒に役立ちうる天然の化合物および抽出物の必要性が常に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、集団の中で高い発生率を有する疾患の治癒および予防に役立つ抗新生物活性を有する化合物を含有する天然抽出物を包含する。特に、天然物を記載するが、該天然物は、南極大陸で高放射線に耐えて生存するように適応した生物から抽出されるものである。
【0015】
本発明は、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)由来の新規な抗新生物抽出物および該抽出物の取得方法を提供する。
【0016】
本発明は、癌細胞の増殖を予防するための天然の抗新生物抽出物を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、天然の抗新生物抽出物の活性複合体を提供する。
【0018】
本発明はまた、既存の癌状態を有する患者を治療するための組成物を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)組織中の抗新生物化合物の量を増大させる方法およびそれに応じて植物組織の化合物を抽出する方法を提供する。
【0020】
またさらに、本発明は、in vitroで生育されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物から抗新生物抽出物を取得する方法を提供する。
【0021】
そのうえさらに、本発明は、抗新生物製剤の材料用としてin vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物を準備する方法を提供する。
【0022】
したがって、本発明はまた、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の抽出物または該抽出物の成分を含む抗新生物製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】UV−Vis200〜400nmスペクトル図を示す。(A)in vivoで採取されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物。(B)いかなる処理も施すことなくin vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物(対照)。
【図2】NaCl溶液で処理されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)(in vitro)の植物のUV−Vis200〜400nmスペクトル図を示す。(A)2M NaCl、(B)3M NaCl、および(C)4M NaCl。
【図3】UV線で処理されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)(in vitro)の植物のUV−Vis200〜400nmスペクトル図を示す。(A)45μW/cm2、(B)70μW/cm2。
【図4】大腸癌細胞(HT29およびLoVo)、肝臓癌細胞(Hep3B)、および対照細胞(wi38)のin vitro増殖に及ぼす100μg/mlの濃度でのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の抽出物画分の効果を示す。GCB1、GCB2、およびGCB3は、南極産のナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物の3種の異なる採取物の抽出物に対応する。抽出物は、水を用いて調製し、次に乾燥させ、そしてメタノール中に溶解させたものである。対照は、添加された抽出物を含有しておらず、メタノール対照は、乾燥水性抽出物を溶解させるために使用したのと同じくメタノールを5%含有する対照である。
【図5】LoVo結腸直腸癌細胞(aおよびc)ならびにwi38ヒト胎児線維芽細胞(bおよびd)に及ぼす75μg/mlの濃度での酢酸エチル抽出物(aおよびb)ならびにメタノール抽出物(cおよびd)の効果を示す。
【図6】結腸直腸癌細胞LoVoの細胞生存率に及ぼすさまざまな濃度(0.017、0.17、および1.7mM)でのナンキョクコメススキ(Deschampsia antaractica)植物の抽出物から得られたルテオリン誘導体(ピーク1およびピーク2)の効果を示す。(a)は、ピーク2の誘導体の効果を示し、(b)は、ピーク1およびピーク2の誘導体の組合せの効果を示す。
【図7】ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物のセミ分取HPLC分析を示す。
【図8】ナンキョクコメススキ(Deschamcpisa antarcitca)抽出物の主化合物のHPLCクロマトグラムを示す。(A)ピーク1および(B)ピーク2。
【図9】ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物の主化合物のUV−可視スペクトル、すなわち、(a)ピーク1のスペクトルおよび(b)ピーク2のスペクトルを示す。
【図10】ナンキョクコメススキ(Deschampisa antarctica)抽出物から単離された(a)ピーク1および(b)ピーク2の質量スペクトルを示す。
【図11】(A)ピーク1の化合物および(B)ピーク2の化合物の化学構造を示す。
【図12】オリエンチンの化学構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica Desv.)(イネ科(Poacea))は、南極半島沿岸に天然で集落を形成した2種の維管束植物のうちの1つである。近年、基本的には、南極領域に存在するオゾン層のホールが原因で、ナンキョクコメススキ(D. antarctica)は、増大する紫外線曝露を受けてきた。したがって、この植物種は、光防御過程に介入する二次代謝産物の産生を増大させるようにその代謝を改変してきた。
【0025】
ナンキョクコメススキ(D. antarctica)が酸化ストレス(強い光および低い温度)への曝露条件に天然で順化されているという事実から、我々は、この植物が抗酸化性化合物の供給源であると考えるに至った。南極大陸で野生で生育する植物から抗酸化性化合物を取得することは可能であったが、その特性は、植物をin vitroで栽培した場合には実用上失われた。本開示は、in vitroで生育された植物中で抗酸化性化合物を誘導する方法を提供する。さらにまた、本開示に記載の本発明は、該植物から得られる抗新生物抽出物を提供する。
【0026】
本発明は、ナンキョクコメススキ(D. antarctica)から得られる抽出物の抗腫瘍原効果およびその疾患予防能をそのin vitro効果に関する研究により信頼性をもって確証する。
【0027】
本発明はまた、in vitroで生育された植物中で抗新生物化合物を誘導する方法および該化合物の単離さらにはその潜在的用途を記述する。
【0028】
本発明に係る生成物は、ナンキョクコメススキ(D. antarctica)中に存在する抗新生物活性を有する代謝物に基づく。
【実施例】
【0029】
本発明を実施例により以下で説明する。実施例は、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0030】
実施例1
天然で生育された植物の抽出物とストレス誘導を行わずにin vitroで生育された植物の抽出物との吸収ピークの比較
ロバート島のカッパーマイン半島(南緯62°22’、西経59°43’)からナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)材料を採取し、プラスチックバッグに入れて運んだ。殺菌剤(ベノミルおよびカプタン)ならびに次亜塩素酸ナトリウムを用いて材料を殺菌した。in vitroで植物材料を微細繁殖させた。ムラシゲ・スク−グ(MS)培地に基づいて培養培地を調製した。1mg/lのBAPホルモン(N6ベンジルアミノプリン)さらには35mg/lのサッカロースおよび9g/lの寒天を5.7の最終pHで添加した。16/8時間(明/暗)の光周期および2000μmol・m−2・s−1の光子流量を用いて22℃の生育チャンバー内にin vitro生育植物を保持した。
【0031】
in vivoまたはin vitroの生育植物の地上部を採取し、5mlの蒸留水中で浸軟させた。その後、浸軟物を10分間超音波処理し、1,000rpmで15分間遠心分離する。
【0032】
薄層クロマトグラフィーを行った。60 F254シリカゲルスライド(MERCK)上に抽出物を接種し、存在する化合物を可視化した。UV−Vis SHIMADZU UV−160分光光度分析を用いて抽出物を分析した。したがって、200〜400nmで吸光度スクリーニングを行って、抽出物中に存在する化合物類に特有な吸収極大の存在を決定した(図1)。
【0033】
フラボノイドをメタノール中に溶解させた場合、フラボンおよびフラボノールは、UV分光および可視光により調べると、240〜400nmの領域に2つの主吸収ピークを呈する。これらのピークは、一般に、バンドI(300〜400nm)およびバンドII(240〜280nm)を表す。UV−可視200〜400nmスペクトル分析によれば(図1)、フラボノイドは、南極地方でin vivoで採取された植物の代謝抽出物中に見られた。それらは、実験室でin vitroで栽培された植物の抽出物中には実質的に不在である。フラボノイドは、特徴的なピークを呈する。
【0034】
実施例2
in vitro植物中でのポリフェノールの誘導
前の実施例に示されるように、フラボノイドは、in vitroで生育された植物中には実質的に不在であった。この実施例では、種々のストレス条件によりナンキョクコメススキ(Deschampisa antarctica)植物中でフラボノイド産生を誘導可能であることを示す。
【0035】
塩による誘導
50日後、in vitroで繁殖されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物を寒天から完全に取り出し、根からすべての寒天を除去した。
【0036】
寒天から取り出した後、30分間にわたりさまざまな濃度のNaCl水溶液(2M、3M、および4M)中に植物を浸漬した。その後、植物の地上部を5mlの蒸留水中で浸軟させる。その後、浸軟物を10分間超音波処理し、1,000rpmで15分間遠心分離する。
【0037】
UV線への曝露による誘導
寒天中で生育された幼植物に、生育に用いたのと同じジャー中で45μW/cm2および70μW/cm2の強度でUV光を2時間照射した。次に、幼植物を寒天から取り出し、そしてサンプルの地上部を切り離し、5mlのメタノールで浸軟させ、10分間超音波処理し、さらに1000rpmで15分間遠心分離した。抽出されたサンプルを濃縮し、凍結乾燥させ、そして−20℃で貯蔵した。
【0038】
in vivoおよびin vitroで生育された植物の抽出物中のポリフェノール濃度
in vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物とは異なり、自然条件で栽培された植物は、その全発育段階にわたりポリフェノールの連続的誘導を示した。0.5Mの濃度(海水の濃度)を有する食塩溶液の一定のリスクおよび南極大陸の自然放射条件に植物を曝露する。
【0039】
in vitroおよびin vivoで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の植物から得られた抽出物をUV−Vis200〜400nmスペクトルによる分析に付して、SHIMADZU UV−160分光光度計によりメタノールと対比して抽出物中に存在する化合物のピーク吸光度を決定した。100μlの抽出物(浸軟)、具体的には上清からの抽出物を使用し、10mlのメタノール中に溶解させた。
【0040】
処理の効果を評価するために、いかなる処理も施すことなくin vitroで栽培されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物を対照として使用した。
【0041】
植物が受けたすべてのストレス処理によりポリフェノールの濃度が対照と比較して増加することは、スペクトルからはっきりとわかる(図1〜3)。
【0042】
ポリフェノールの濃度の最大の増加をもたらすNaCl溶液による処理は、3M NaCl中に植物を浸漬した時に観測されたが、2Mおよび4Mの濃度のNaClも類似の効果を呈した(図2)。また、本データから、3M NaClは、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)が最も高いポリフェノール濃度を呈する濃度であることが実証された。さまざまな濃度のNaClの存在下でのポリフェノール産生に関するナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)の応答は、3M>4M>2Mである。
【0043】
45μW/cm2のUV線に2時間曝露された植物は、ポリフェノールの最大の増加を示した(図3)。同一の時間でより強い放射線強度(70μW/cm2)に曝露された植物は、45μW/cm2のときほどの増加を示さなかった。このことは、植物が、緑色物質を消滅させるなんらかのタイプの損傷を受けたか、または植物が、損傷から回復する際に資源を使い尽くすことにより、二次代謝産物の濃度が減少したためである可能性がある。
【0044】
さまざまな処理に付されたナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)を用いて得られた結果の比較から、最良の結果すなわちポリフェノールの最大の増加は、植物を45μW/cm2の強度のUV線に2時間供した時に観測されたことが明確に示される(図1、2、および3)。
【0045】
実施例3
水性抽出物の分画
ナンキョクコメススキ(Deschampia antarctica)の水性抽出物をHPCL分析により分析した。図7は、HPLC分析のクロマトグラムを示している。クロマトグラムは、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)水性抽出物の主成分を示す。2つの主ピーク(10.6667分の保持時間を有するピーク1および12.0167分の保持時間を有するピーク2)は、注入サンプルの全量の80%(w/w)を占める。
【0046】
セミ分取カラムを用いることにより両方のピークを個別に収集した。純度評価のために、分析カラムを備えたHPLC−DADを使用した。単離ピークに対応するクロマトグラムを図8に示す。各クロマトグラムは、95%超の純度を有する1つのピークだけを示すことから、ピークは、本質的に純粋であることが示唆される。
【0047】
ダイオードアレイ分析HPLCを用いることにより、両方の化合物のUV−可視200〜400nmスペクトルを取得することが可能であった。スペクトルを図9に示す。
【0048】
両方のスペクトルが240〜400nm領域に主吸収バンドを示した。両方とも、260nmに第1の吸収バンドおよび350nmに第2の吸収バンドを示した。それらのピークは、UV−可視分光法により分析した場合、フラボノイドが呈する吸収スペクトルによく一致する。フラボノイドをメタノール中に溶解させた場合、フラボンおよびフラボノールは、バンドI(300〜400nm)およびバンドII(240〜280nm)としてそれぞれ知られる2つの主ピークを示す。
【0049】
化合物の化学構造を解明するために、我々は、HPLCを質量分析計に連結してピーク1および2のマスクロマトグラムを取得した(図10)。マススペクトルクロマトグラムは、ピーク1に対して580のm/zおよびピーク2に対して593のm/zに主ピークを示した。天然化合物のマススペクトルライブラリーを用いることにより、この情報を他のマススペクトルと比較し、得られた構造を図11に示す。ピーク1は、イソスウェルチアジャポニン((7−O−メチルオリエンチン)2”−O−β−アラビノピラノシド)に対応し、ピーク2は、オリエンチン2”−β−アラビノピラノシドに対応する。これらの化合物は、ナンキョクコメススキ(Deschampisa antarctica)の葉ですでに同定されている(Webby R. and Markham K, 1994, Isoswertijaponin 2"-O'beta-arabinopyranoisee and other flavone-C-glycosides from the Antarctic grass Deschampisa antarctica. Phytochemistry 36(5): 1323-1326)。しかしながら、同定された化合物の生物活性は、提案されていない。したがって、本開示は、これらの天然物の生物活性に関する最初の報告である。
【0050】
両方の化合物のマススペクトルが、オリエンチンに属する448のm/zに現れる共通フラグメントを示した(図12)。放射線防護、血管弛緩、抗酸化性、フリーラジカル阻害性、および抗ウイルス活性のようないくつかの生物活性が、オリエンチンで報告されている。
【0051】
実施例4
悪性細胞増殖のin vitro阻害
全抽出物の分画
全植物抽出物をペーパークロマトグラフィーにより化合物に分画した。移動相として15%氷酢酸を用いてサンプルをWhatman No.3ペーパー上に接種した。さまざまな化合物をUV光下で可視化した。メタノール中に浸漬することにより、B1、B2、およびB3と呼ばれる異なる画分をペーパーから回収し、次に、ロトエバポレーターで濃縮した。スライドクロマトグラフィーを行って各画分中の単離化合物を可視化した。
【0052】
生物活性を有する画分の化学構造
HPLC−質量分析により提供された結果によれば(上記の実施例3)、さまざまなグリコシル化度およびC−C結合を介するグリコシドの置換を有するルテオリン(オリエンチン化合物)は、多く存在しかつ生物活性を引き起こす分子であると推測することができる。このタイプの構造は、活性化合物の安定性を増大させる。さらに、これらの化合物は、in vivoで生育された南極地方のコメススキ属(Deschampsia)の植物または4℃に72時間付された植物の抽出物中には存在したが、13℃でin vitroで生産された植物中には存在しない(データは示していない)。このことから、これら化合物は、低温または植物が野生で受ける他のタイプのストレスで誘導可能であることが示唆される。
【0053】
フラボンは、抗酸化剤、フリーラジカルのキレート化剤、抗炎症剤、炭水化物の代謝の促進剤、および免疫系の刺激剤として人体で重要な役割を果たすことが知られている(Rahman, I., Biswas, S.K., Kirkham, P.A. 2006. Regulation of inflammation and redox signaling by dietary polyphenols. Biochem Pharmocol. 702(11): 1439-1452; Kandaswami, C. Lee, L.T. Lee, P.P, Hwang J.J.; Ke. F.C., Huang, Y.T. Lee, M.T. 2005 In Vivo 19(5) 895-909)。しかしながら、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antactica)抽出物が抗新生物性であることを示す研究も示唆も存在しない。
【0054】
ナンキョクコメススキ(D. antarctica)から得られたメタノール抽出物がなんらかの抗新生物効果を有しうるかを調べるために、可溶性画分B1、B2、およびB3を試験した。これらの画分は、全画分から取得したものあり、さまざまなグルコシド置換度を有する。
【0055】
図4は、結腸癌細胞および肝癌細胞のin vitro増殖に及ぼすB1、B2、およびB3の画分の効果を示している。見てわかるように、これらの画分は、ヒト結腸直腸癌細胞HT29およびLoVoならびに肝臓癌細胞Hep3Bの増殖を効果的に阻害し、最も高いグルコシド置換度を有するB3画分が、悪性細胞増殖に対して最大の阻害レベルを呈する(図4のHT29、LoVo、およびHep3B)。WI38(正常肺線維芽細胞)に及ぼすその効果を最大濃度で試験して、特異性および毒性を決定した。WI38細胞増殖に及ぼす阻害効果は、観察されなかった(図4)。
【0056】
これらの化合物は、in vitroで悪性細胞の増殖を阻害しうるが、正常線維芽細胞の増殖には阻害効果を示さなかったと結論付けることが可能である。このデータから、これらの画分の抗新生物効果が示唆される。
【0057】
以上の実施例に示されるように、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)から抽出された抗新生物化合物をin vitroで誘導することが可能であった。したがって、UV光、塩処理、または低温への曝露により、植物中で産生される抗酸化剤の量を調節することが可能である。さらに、植物材料をin vitroで大量に栽培することが可能であるので、抗新生物抽出物の製造は、実際に実用可能になる。
【0058】
先に挙げた可溶性画分を扱う以外に、より高い極性を有する溶媒(酢酸エチルおよびメタノール)を用いてナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物材料を抽出した。この手法の目的は、抽出により植物成分をさまざまな極性の画分に分けることであった。ソックスレー装置を用いて有機溶媒抽出物を作製した。
【0059】
図5aは、ヒト大腸癌細胞(LoVo)のin vitro増殖に及ぼす酢酸エチル抽出物の効果を示している。この腫瘍細胞の細胞増殖では50%の阻害が観察された。同じ抽出物をWI38細胞(正常肺線維芽細胞)で試験した。WI38細胞増殖に及ぼす阻害効果は、観察されなかった(5b)。
【0060】
一方、図5cは、メタノール抽出物の効果を示しており、これは、大腸腫瘍細胞(LoVo)の増殖に対して50%超の阻害を引き起こした。この抽出物を非腫瘍細胞(WI38)で試験したところ、細胞増殖に対して阻害効果を示した(図1D)。メタノール抽出物および酢酸エチル抽出物は、75μg/mlの最低濃度でLoVo結腸直腸癌細胞に対して活性であった。
【0061】
最も活性な画分をさらなる分画工程に使用した。この手順により純粋化合物の単離がもたらされた(上記の実施例3を参照されたい)。本発明者らはまた、これらの純粋化合物(上記の実施例3のピーク1およびピーク2)ならびにそれらの組合せを腫瘍細胞および非腫瘍細胞で試験した。
【0062】
図6aおよび6bは、大腸癌細胞(LoVo)に及ぼす単独のおよび組み合わされた純粋化合物(ピーク2およびピーク1とピーク2との組合せ)の阻害効果を示している。これらの化合物は、上記の実施例3に記載されるようにナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物から単離されたものである。
【0063】
細胞増殖に対する阻害効果は、1000μg/mlに相当する1.7mMの濃度でピーク2を用いた場合およびピーク1と2との組合せを用いた場合に観察された。この濃度は、酢酸エチル抽出物およびメタノール抽出物の阻害濃度の10倍である。この結果から、ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)のメタノール抽出物および酢酸エチル抽出物は、精製化合物の1/10の濃度で有効であることが実証される。
【0064】
実施例5
500mgのナンキョクコメススキ(Despchampsia antarcica)抽出物を含む経口投与用速溶性錠剤の調製
本発明者らは、ここで、癌性および腫瘍性の疾患に罹患しているかまたは罹患しやすい患者に対して予防および治癒の目的でナンキョクコメススキ(Deschampsia antarcica)抽出物を経口投与するための組成物を提供する。それぞれ以下の定性的組成および定量的組成を呈する錠剤である:
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物500mg、D−グルコース(D-glucosa)一水和物597.6mg、クロスカルメロースナトリウム35.2mg、微結晶性セルロース160.0mg、無水クエン酸35.2mg、顆粒状ソルビトール160.0mg、アスパルテーム28.8mg、サッカリンナトリウム14.4mg、ジベヘン酸グリセロール16.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.4mg、オレンジ香料46.4mgを次のように調製する:滑沢剤(ステアリン酸マグネシウムおよびジベヘン酸グリセロール)を除くすべての成分を完全な均一物が得られるまでタンブラーにより混合し、ステアリン酸マグネシウムおよびジベヘン酸グリセロールを添加し、再度、均一になるまで混合を行い、次に、直径20mmおよび高さ4.5の大きさの単位重量1.6gを呈する錠剤を得るべく、得られた混合物を錠剤化に付す。こうして調製された錠剤は、30秒間で口内で崩壊する。
【0065】
実施例6
7.5gのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物を含む速溶性錠剤の調製
100gに対して以下の定性的組成および定量的組成を呈する錠剤である:
成分量:ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物7.5g、噴霧乾燥マンニトール71.0g、微結晶性セルロース15.0g、クロスカルメロースナトリウム3.0g、グリシルリチン酸アンモニウム0.3g、アスパルテーム1.0g、L−メントール0.2g、ミント香料1.0g、ステアリン酸マグネシウム1.0gを次のように調製する:ステアリン酸マグネシウムを除くすべての成分を完全な均一物が得られるまでタンブラーにより混合し、ステアリン酸マグネシウムを添加し、再度、均一になるまで混合を行い、次に、混合物を錠剤化に付す。こうして調製された錠剤は、20秒間で口内で崩壊する。
【0066】
実施例7
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物を含有するペレット剤の調製
900gのナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)抽出物、800gの微結晶性セルロース、12gのコロイド二酸化ケイ素、684gの塩化ナトリウム、および36gの塩化カリウムを混合した。混合物を流動化ロートグラニュレーターに移し、40gの35%ジメチルポリシロキサンエマルジョンと2000mlのイオン交換水との混合物をその上にスプレーした。ペレット化用液体のスプレー速度を50ml/分に設定した。スプレー空気の圧力は2.5barであった。ローターの速度をペレット化の最初の15分間で450rev/分に設定し、その後、600rev/分に保持した。流動化空気の体積速度をペレット化の最初の15分間で60m3/時に保持し、その後、90m3/時に保持した。流動化空気の温度をペレット化の最初の部分で25℃に設定し、乾燥手順に対しては40℃に設定した。乾燥ペレットを1.6mmの篩に通した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物から調製される抗新生物抽出物。
【請求項2】
植物がin vitroで生育され、植物組織のポリフェノール含量を増加させる物理的または化学的プロセスで処理される、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
物理的プロセスがUV照射である、請求項2に記載の抽出物。
【請求項4】
植物に対して、45〜75μW/UV照射cm2を2時間行なう、請求項3に記載の抽出物。
【請求項5】
化学的プロセスが塩溶液中でのインキュベーションである、請求項2に記載の抽出物。
【請求項6】
塩溶液が2〜4M NaClである、請求項5に記載の抽出物。
【請求項7】
植物を前記溶液に30分間浸漬する、請求項6に記載の抽出物。
【請求項8】
請求項1もしくは2に記載の抽出物の1つの精製された主成分または該成分の組み合わせを含む、抗新生物組成物。
【請求項9】
前記主成分が、イソスウェルチアジャポニン((7−O−メチルオリエンチン)2”−O−β−アラビノピラノシド)およびオリエンチン2”−β−アラビノピラノシドである、請求項8に記載の抗新生物組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の抽出物を用いて患者を処置することによる、癌細胞の増殖を防止する方法。
【請求項11】
請求項2に記載の抽出物を用いて患者を処置することにより癌細胞の生長の増殖を防止する方法。
【請求項12】
請求項8に記載の組成物を用いて患者を処置することにより癌細胞の生長の増殖を防止する方法。
【請求項13】
請求項9に記載の組成物を用いて患者を処置することにより癌細胞の生長の増殖を防止する方法。
【請求項14】
抽出物を患者に経口投与する、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
細胞が大腸癌細胞である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
細胞が肝臓癌細胞である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の抽出物を含む、抗新生物活性を有する組成物。
【請求項18】
請求項2に記載の抽出物を含む、抗新生物活性を有する組成物。
【請求項19】
前記組成物が錠剤であり、該錠剤が500mgの前記抽出物を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項20】
錠剤が、500mgの前記抽出物、D−グルコース一水和物597.6mg、クロスカルメロースナトリウム35.2mg、微結晶性セルロース160.0mg、無水クエン酸35.2mg、顆粒化ソルビトール160.0mg、アスパルテーム28.8mg、サッカリンナトリウム14.4mg、ジベヘン酸グリセロール16.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.4mg、およびオレンジ香料46.4mgを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
組成物が錠剤であり、該錠剤が7.5gの前記抽出物を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項22】
錠剤が、7.5gの前記抽出物、噴霧乾燥マンニトール71.0g、微結晶性セルロース15.0g、クロスカルメロースナトリウム3.0g、グリシルリチン酸アンモニウム0.3g、アスパルテーム1.0g、L−メントール0.2g、ミント香料1.0g、およびステアリン酸マグネシウム1.0gを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
組成物がペレット剤であり、該ペレット剤が900gの前記抽出物を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項24】
ペレット剤が、900gの前記抽出物、800gの微結晶性セルロース、12gのコロイド状二酸化ケイ素、684gの塩化ナトリウムおよび36gの塩化カリウムを含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項1】
ナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)植物から調製される抗新生物抽出物。
【請求項2】
植物がin vitroで生育され、植物組織のポリフェノール含量を増加させる物理的または化学的プロセスで処理される、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
物理的プロセスがUV照射である、請求項2に記載の抽出物。
【請求項4】
植物に対して、45〜75μW/UV照射cm2を2時間行なう、請求項3に記載の抽出物。
【請求項5】
化学的プロセスが塩溶液中でのインキュベーションである、請求項2に記載の抽出物。
【請求項6】
塩溶液が2〜4M NaClである、請求項5に記載の抽出物。
【請求項7】
植物を前記溶液に30分間浸漬する、請求項6に記載の抽出物。
【請求項8】
請求項1もしくは2に記載の抽出物の1つの精製された主成分または該成分の組み合わせを含む、抗新生物組成物。
【請求項9】
前記主成分が、イソスウェルチアジャポニン((7−O−メチルオリエンチン)2”−O−β−アラビノピラノシド)およびオリエンチン2”−β−アラビノピラノシドである、請求項8に記載の抗新生物組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の抽出物を用いて患者を処置することによる、癌細胞の増殖を防止する方法。
【請求項11】
請求項2に記載の抽出物を用いて患者を処置することにより癌細胞の生長の増殖を防止する方法。
【請求項12】
請求項8に記載の組成物を用いて患者を処置することにより癌細胞の生長の増殖を防止する方法。
【請求項13】
請求項9に記載の組成物を用いて患者を処置することにより癌細胞の生長の増殖を防止する方法。
【請求項14】
抽出物を患者に経口投与する、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
細胞が大腸癌細胞である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
細胞が肝臓癌細胞である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の抽出物を含む、抗新生物活性を有する組成物。
【請求項18】
請求項2に記載の抽出物を含む、抗新生物活性を有する組成物。
【請求項19】
前記組成物が錠剤であり、該錠剤が500mgの前記抽出物を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項20】
錠剤が、500mgの前記抽出物、D−グルコース一水和物597.6mg、クロスカルメロースナトリウム35.2mg、微結晶性セルロース160.0mg、無水クエン酸35.2mg、顆粒化ソルビトール160.0mg、アスパルテーム28.8mg、サッカリンナトリウム14.4mg、ジベヘン酸グリセロール16.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.4mg、およびオレンジ香料46.4mgを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
組成物が錠剤であり、該錠剤が7.5gの前記抽出物を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項22】
錠剤が、7.5gの前記抽出物、噴霧乾燥マンニトール71.0g、微結晶性セルロース15.0g、クロスカルメロースナトリウム3.0g、グリシルリチン酸アンモニウム0.3g、アスパルテーム1.0g、L−メントール0.2g、ミント香料1.0g、およびステアリン酸マグネシウム1.0gを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
組成物がペレット剤であり、該ペレット剤が900gの前記抽出物を含む、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項24】
ペレット剤が、900gの前記抽出物、800gの微結晶性セルロース、12gのコロイド状二酸化ケイ素、684gの塩化ナトリウムおよび36gの塩化カリウムを含む、請求項23に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−503186(P2011−503186A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534045(P2010−534045)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/012819
【国際公開番号】WO2009/064480
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510132716)
【出願人】(510132727)
【出願人】(510132738)
【出願人】(510132749)
【出願人】(510132750)
【出願人】(510132761)
【出願人】(510132772)
【出願人】(510132783)
【出願人】(510132794)
【出願人】(510132808)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/012819
【国際公開番号】WO2009/064480
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510132716)
【出願人】(510132727)
【出願人】(510132738)
【出願人】(510132749)
【出願人】(510132750)
【出願人】(510132761)
【出願人】(510132772)
【出願人】(510132783)
【出願人】(510132794)
【出願人】(510132808)
【Fターム(参考)】
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