説明

抗炎症剤

【課題】ニキビの原因となるアクネ菌もしくはマラセチア毛包炎の原因となるマラセチアによって誘導される炎症を制御する皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】尿素は、アクネ菌もしくはマラセチアに対するヒト表皮角化細胞の自然免疫反応に対して、強い阻害効果を示した。また、尿素を含有した化粧水及びクリームは、ニキビ及びマラセチア毛包炎における炎症に対して優れた改善効果を示し、安全性、安定性にも優れていた。これらのことから、本発明の尿素含有皮膚外用剤は、ニキビ及びマラセチア毛包炎における炎症の改善に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素を含有してなることを特徴とし、アクネ菌もしくはマラセチアに対する表皮角化細胞の自然免疫反応による炎症を阻害する効果を有する皮膚外用剤である。
【背景技術】
【0002】
尿素は皮膚上にある天然保湿因子(NMF成分)の一つで、角質層の水分保持能を高めると共に、角質溶解・剥離作用があると言われており、以前より化粧品、医薬部外品や医薬品等、広く使用されている(特許文献1)。抗ニキビ製剤に用いられることもあるが(特許文献2)、これまでニキビの原因菌であるアクネ菌やマラセチア毛包炎の原因菌であるマラセチアによる炎症に対する改善効果は知られていなかった。
【0003】
ニキビは医学的には尋常性ざ瘡と呼ばれており、その炎症にはアクネ菌が関与している。また、ニキビに類似した炎症性皮膚疾患としてマラセチアによるマラセチア毛包炎が挙げられる。アクネ菌もしくはマラセチアの産生するリパーゼは皮脂を分解し、それによって発生した脂肪酸が炎症を引き起こすと言われている(非特許文献1、2)。また、近年では、アクネ菌もしくはマラセチアに対するヒトの自然免疫反応がニキビ及びマラセチア毛包炎の炎症に深く関与すると考えられている。
【0004】
細菌であるアクネ菌をターゲットとしたニキビの治療においては抗生物質やビタミン類が、真菌であるマラセチアをターゲットとしたマラセチア毛包炎の治療においては抗真菌剤が内服や外用によって用いられている(非特許文献3、4)。しかし、自然免疫反応による炎症は、抗菌剤や抗真菌剤によって死滅させられたアクネ菌やマラセチアの菌体成分によっても惹起されるため、ニキビやマラセチア毛包炎の炎症を効果的に緩和するためには、抗炎症剤の併用が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−263666
【特許文献2】特表2005−517649
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Eur J Dermatol,Vol.14,PP.4−12(2004)
【非特許文献2】J Med Vet Mycol,Vol.31,PP.77−85(1993)
【非特許文献3】佐山義克,フレグランスジャーナル,昭和60年,第74号,P.21−29
【非特許文献4】J Clin Microbiol,Vol.43,PP.2824−2829(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、ニキビの原因となるアクネ菌もしくはマラセチア毛包炎の原因となるマラセチアによって誘導される炎症を制御する皮膚外用剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決に向けた鋭意研究の結果、尿素がアクネ菌もしくはマラセチアに対するヒト表皮角化細胞の自然免疫反応抑制効果を有することを見出した。さらに、尿素を含有した皮膚外用剤はニキビ及びマラセチア毛包炎における炎症の改善効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明で使用する尿素には特に限定はなく、ハンドクリーム、ローション等の化粧品、医薬部外品や医薬品の皮膚外用剤、あるいは入浴剤等に配合されている、化学合成により得た尿素、尿から濃縮精製した尿素等、いずれも好適に用いることができる。
【0010】
本発明における尿素の皮膚外用剤への配合量は、好ましくは0.1〜20重量%である。0.1重量%未満では十分な効果を得にくく、20重量%を超えると効果の増強は小さく、また不経済である。
【0011】
本発明の皮膚外用剤には、その効果を損なわない範囲内で、通常の抗菌剤に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。
【0012】
本発明において、尿素は、化粧品、医薬部外品及び医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、軟膏等が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
尿素は、アクネ菌もしくはマラセチアに対するヒト表皮角化細胞の自然免疫反応を抑制した。また、尿素を含有する皮膚外用剤は、ニキビ及びマラセチア毛包炎における炎症に対して優れた改善効果を示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
処方例1 化粧水
成分 配合量(部)
1.尿素 1.0
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.リン酸二水素ナトリウム 0.064
6.リン酸水素二ナトリウム 1.35
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 0.1
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜6及び11と、成分7〜10とをそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0016】
比較例1 従来の化粧水
処方例1において、成分1を精製水1.0部に置き換えたものを従来の化粧水とした。
【0017】
処方例2 クリーム
成分 配合量(部)
1.尿素 5.0
2.スクワラン 6.0
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.1,3−ブチレングリコール 8.5
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.水酸化ナトリウム 0.17
15.リン酸二水素カリウム 0.68
16.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合した後、70℃に保ち油相とする。成分1及び11〜16を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0018】
比較例2 従来のクリーム
処方例2において、成分1を精製水5.0部に置き換えたものを従来のクリームとした。
【0019】
処方例3 乳液
成分 配合量(部)
1.尿素 3.0
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.ホウ酸ナトリウム十水和物 1.0
14.塩酸 0.17
15.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び10〜15を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分9を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0020】
処方例4 ゲル剤
成分 配合量(部)
1.尿素 2.0
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 0.1
6.1,3−ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.8
12.塩酸 0.12
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜5と、成分1及び6〜13とをそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0021】
処方例5 パック
成分 配合量(部)
1.尿素 3.0
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 0.1
10.リン酸二水素カリウム 0.09
11.リン酸水素二ナトリウム 0.09
12.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜12を均一に溶解し製品とする。
【実施例2】
【0022】
実験例1 尿素によるヒト表皮角化細胞の自然免疫反応抑制試験
アクネ菌としては、Propionibacterium acnes JCM6425を用いた。変法GAMカンテン培地(日水製薬)を用いて37℃、2日間嫌気培養した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に濁度1.0(660nm)となるように分散し、試験菌液とした。マラセチアとしては、Malassezia furfur NBRC 0656を用いた。Leeming&Notman agar medium(J Clin Microbiol,Vol.25,PP.2017−2019,1987)を用いて32℃、2日間培養した後、PBSに濁度1.0(660nm)となるように分散し、試験菌液とした。新生児包皮由来ヒト表皮角化細胞(Invitrogen)は、12ウェルプレート中でHKGS(Invitrogen)を所定量添加した154S medium(Invitrogen)700μLを用い、37℃5%CO条件下で培養し、被覆率60%で試験に供した。前培養に用いた培地を除去した後、培地560μL、10重量%の尿素(和光純薬)を含有する培地70μL、試験菌液70μLを添加し、37℃5%CO条件下で3時間培養した。Trizol reagent(Invitrogen)を用いたmRNA抽出、SYBR Green Two−step qRT−PCR Kit(Invitrogen)を用いた逆転写反応を行った後、Step One Plus Real−Time PCR system(Applied Biosystems)を用いて炎症性サイトカインIL−8の発現量を測定した(J Dermatol,Vol.36,PP.213−223,2009)。データは、尿素を添加しなかった場合(アクネ菌のみ添加した場合)におけるIL−8の発現量を100とした場合の比率(%)として求めた。
【0023】
アクネ菌を試験菌とした場合における結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の表1から、尿素を添加した場合、ヒト表皮角化細胞のアクネ菌に対する自然免疫反応が抑制されていることが明らかである。
【0026】
マラセチアを試験菌とした場合における結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
上記の表2から、尿素を添加した場合、ヒト表皮角化細胞のマラセチアに対する自然免疫反応が抑制されていることが明らかである。
【0029】
実験例2 使用試験1
処方例1及び比較例1の従来の化粧水を用いて、顔面にニキビを有する成人30名(男性15名、女性15名)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。被験者の半数が処方例1、残りの半数が比較例1を使用した。使用後、アンケート調査によりニキビにおける炎症の改善について判定した。その結果、尿素を含有してなることを特徴とする皮膚外用剤は、ニキビにおける炎症に対して優れた改善効果を示した(表3)。なお、試験期間中皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。
【0030】
【表3】

【0031】
実験例3 使用試験2
処方例2及び比較例2の従来のクリームを用いて、体部にマラセチア毛包炎を有する成人30名(男性15名、女性15名)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。被験者の半数が処方例2、残りの半数が比較例2を使用した。使用後、アンケート調査によりマラセチア毛包炎における炎症の改善について判定した。その結果、尿素を含有してなることを特徴とする皮膚外用剤は、マラセチア毛包炎における炎症に対して優れた改善効果を示した(表4)。なお、試験期間中皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。
【0032】
【表4】

【0033】
処方例3〜5で得られた化粧品、医薬品についても同様に使用試験を行った結果、いずれもニキビ及びマラセチア毛包炎における炎症に対して優れた改善効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の尿素を含有してなることを特徴とする皮膚外用剤は、ニキビ及びマラセチア毛包炎における炎症の改善を目的とする化粧品、医薬部外品、医薬品に利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素を含有することを特徴とする、アクネ菌による炎症に対する外用抗炎症剤。
【請求項2】
尿素を含有することを特徴とする、マラセチアによる炎症に対する外用抗炎症剤。






【公開番号】特開2013−75848(P2013−75848A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215959(P2011−215959)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】