説明

抗腫瘍活性を有するポリケチド化合物

【課題】本発明は、優れた抗腫瘍活性を有する新規なポリケチド化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該ポリケチド化合物を有効成分とする抗腫瘍剤、当該ポリケチド化合物の製造方法、および当該ポリケチド化合物の製造に用い得る新規な渦鞭毛藻類を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明に係るポリケチド化合物は、新規渦鞭毛藻であるAmphidinium sp.KCA09051株またはAmphidinium sp.KCA09053株を有機溶媒で抽出する工程;および、抽出物を精製する工程を含む方法により製造される新規なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリケチド化合物、当該ポリケチド化合物を有効成分とする抗腫瘍剤、当該ポリケチド化合物の製造方法、および当該ポリケチド化合物の製造に用い得る新規な渦鞭毛藻類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗腫瘍剤と称される化合物は、その由来や化学構造を含め、極めて多岐にわたって多数開発されている。これは、副作用、長期使用による薬剤耐性腫瘍細胞の発生、腫瘍の種類による薬効の相違などの理由から、常に新たな抗腫瘍剤の開発が望まれているからである。
【0003】
抗腫瘍剤やその候補化合物を提供し得る天然資源としては、従来、細胞毒性を示す化合物を産生する植物や放線菌などが利用されてきた。例えば、イチイの樹皮から得られるタキソールは、乳がんの治療などに用いられている。
【0004】
また、ポリケチドと呼ばれる化合物の中には細胞毒性を示すものがあり、抗生物質や抗腫瘍剤としての開発が進められている。ポリケチド化合物は、アセチルCoAを出発物質とするポリケトン化合物から生合成されるものであり、大環状構造など特異な化学構造を有することから新たな作用機序による薬剤として期待されている。このようなポリケチド化合物としては、例えば、放線菌から単離精製されるエリスロマイシン、モネンシン、アンフォテリシンなど、既に抗生物質や抗腫瘍剤などとして使用されているものがある。
【0005】
近年、天然資源として藻類が注目を集めている。藻類は、地球上に多量に存在する淡水や海水中に存在するため、その種類や量は放線菌などと比べても莫大であり、新たな有用化合物の発見が期待でき、また、有用化合物の生産源として有望である。
【0006】
藻類からは、既に有用化合物が見出されている。例えば、非特許文献1〜2および特許文献1〜2には、渦鞭毛藻類であるAmphiscolops sp.から単離された、アンフィジノライドA、アンフィジノライドN(カリベノリド−1)を始めとするアンフィジノリド類、カリベノリド−1およびアンフィジニン−1が開示されている。
【0007】
また、本発明者らも、渦鞭毛藻類であるAmphidinium sp.Y−42株およびHYA024株からアンフィジノライドを単離し、その一部については抗腫瘍活性を確認している(特許文献3〜4,非特許文献3〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,494,930号明細書
【特許文献2】特開平8−245607号公報
【特許文献3】特開2009−51745号公報
【特許文献4】国際公開第2008/081568号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Kobayashiら,Tetrahedron Letters(テトラヘドロン・レターズ),第27巻,第5755頁(1986年)
【非特許文献2】M. Ishibashiら,Journal of Chemical Society,Chemical Communication(ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイティー,ケミカル・コミュニケーション),第1455頁(1994年)
【非特許文献3】Masashi.Tsudaら,Journal of Organic Chemistry(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー),第68巻,第5339−5345頁(2003年)
【非特許文献4】Masashi.Tsudaら,Journal of Organic Chemistry(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー),第73巻,第1567−1570頁(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、藻類からも抗腫瘍活性を示すポリケチドが既に見出されている。しかし、新たな抗腫瘍化合物は常に求められている。
【0011】
そこで本発明は、優れた抗腫瘍活性を有する新規なポリケチド化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該ポリケチド化合物を有効成分とする抗腫瘍剤、当該ポリケチド化合物の製造方法、および当該ポリケチド化合物の製造に用い得る新規な渦鞭毛藻類を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らが見出した新規な渦鞭毛藻類の産生する特定のポリケチド化合物が極めて優れた抗腫瘍活性を有することを見出して、本発明を完成した。
【0013】
本発明に係る新規ポリケチド化合物の製造方法は、渦鞭毛藻であるAmphidinium sp.KCA09051株またはAmphidinium sp.KCA09053株を有機溶媒で抽出する工程;および、抽出物を精製する工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係るポリケチド化合物は、下記一般式(1)で表される化合物;
【0015】
【化1】

[式中、R1は、水素原子、C1-6アルキル基、C2-7アルカノイル基、C2-7アルカノイルオキシ−C1-2アルキル基、C1-6アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基、または2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル基を示す]
および、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0016】
【化2】

[式中、R2〜R6はそれぞれ独立して水素原子、C1-6アルキル基、C2-7アルカノイル基、C2-7アルカノイルオキシ−C1-2アルキル基、C1-6アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基、または2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル基を示す]
【0017】
本発明において「C1-6アルキル基」は、炭素数1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0018】
「C2-7アルカノイル基」は、上記C1-6アルキル基に置換されたカルボニル基を意味する。例えば、アセチル基、n−プロピオニル基、イソプロピオニル基、n−ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基、バレリル基、イソバレリル基を挙げることができる。好ましくはC2-5アルカノイル基であり、より好ましくはC2-3アルカノイル基であり、最も好ましくはアセチル基である。
【0019】
「C2-7アルカノイルオキシ−C1-2アルキル基」としては、C2-7アルカノイルオキシメチル基および1−(C2-7アルカノイルオキシ)エチル基が好ましい。よって、「C2-7アルカノイルオキシ−C1-2アルキル基」としては、ピバロイルオキシメチル基、イソブチリルオキシメチル基、1−(イソブチリルオキシ)エチル基、アセトキシメチル基、1−(アセトキシ)エチル基を挙げることができる。
【0020】
「C1-6アルコキシ基」は、C1-6アルキルオキシ基を意味する。また、「C1-6アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基」としては、C1-6アルコキシカルボニルオキシ−メチル基および1−(C1-6アルコキシカルボニルオキシ)エチル基が好ましい。よって、「C1-6アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基」としては、例えば、メトキシカルボニルオキシメチル基、エトキシカルボニルオキシメチル基、イソプロポキシカルボニルオキシメチル基、t−ブトキシカルボニルオキシメチル基、ネオペントキシカルボニルオキシメチル基、1−(メトキシカルボニルオキシ)エチル基、1−(エトキシカルボニルオキシ)エチル基、1−(イソプロポキシカルボニルオキシ)エチル基、1−(t−ブトキシカルボニルオキシ)エチル基、1−(ネオペントキシカルボニルオキシ)エチル基を挙げることができる。好ましくはC1-4アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基であり、最も好ましくはメトキシカルボニルオキシメチル基または1−(メトキシカルボニルオキシ)エチル基である。
【0021】
本発明の抗腫瘍剤は、上記ポリケチド化合物を有効成分とすることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、渦鞭毛藻であるAmphidinium sp.KCA09051株または同じく渦鞭毛藻であるAmphidinium sp.KCA09053株に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る新規なポリケチド化合物は、ヒトを含む動物の腫瘍細胞に対して優れた増殖抑制効果を有し、新規な抗腫瘍剤として利用可能である。さらに、本発明の製造方法は、当該ポリケチド化合物を低コストで簡便に製造可能であり、また、本発明に係る新規な渦鞭毛藻類は、当該製造方法で用い得るものとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のポリケチド化合物は、渦鞭毛藻であるAmphidinium sp.KCA09051株(以下、単に「KCA09051株」という)または同じく渦鞭毛藻であるAmphidinium sp.KCA09053株(以下、単に「KCA09053株」という)から単離精製することにより得られる。
【0025】
本発明に係るKCA09051株およびKCA09053株はいずれも、本発明者らが西表島の近海から見出した新規なものである。
【0026】
KCA09051株およびKCA09053株は、以下の方法により単離することができる。即ち、西表島の海底泥、海藻および/または海草を採取し、目開き:200μmの篩上で海水を用いて洗浄し、得られた洗浄海水を光照射下で数日から数ヶ月にわたりインキュベートする。得られた培養液中に存在する微生物を、顕微鏡観察下、ガラスキャピラリーを用いて渦鞭毛藻を単離し、さらに後述する形態的特徴を有するKCA09051株およびKCA09053株を単離すればよい。
【0027】
KCA09051株およびKCA09053株の形態的特徴はいずれも、以下のとおりである。
大きさ: 縦20〜35μm,横10〜25μm
色: 茶褐色〜黄緑色
形状: 上錐と下錐の長さの比率が1:3〜1:10
殻: 無殻
ピレノイド: 有
鞭毛: 2本有
運動性: 遊泳性有
【0028】
本発明に係るKCA09051株とKCA09053株にはバクテリアが共生しており、各株の細胞内に取り込まれている共生バクテリアを除去することはほぼ不可能であって、且つ共生するバクテリアは採取条件や培養条件などにより異なるので、特許庁長官の指定する寄託機関への寄託は認められなかった。しかし、これら株は下記の公的機関に保管されており、希望者に対しては分譲可能である。
(i) 保管機関の名称
名称: 高知大学海洋コア総合研究センター
(ii) 保管機関の住所
あて名: 郵便番号783−8502 高知県南国市物部乙200
【0029】
本発明化合物を効率的に得るために、KCA09051株およびKCA09053株を事前に培養しておくことが好ましい。
【0030】
培養のための培地は適宜選択すればよいが、KCA09051株およびKCA09053株は海産渦鞭毛藻であることから、海水をベースとした培地を用いることができる。より具体的には、塩類濃度32〜35%、pH7.5〜8.3の海水を加熱や濾過などの常法により殺菌または滅菌した後、炭素源、窒素源、ビタミン類などの微量栄養素や金属類など、KCA09051株およびKCA09053株の生育に適した成分を添加すればよい。必要であれば、炭酸水素ナトリウムや塩酸などを用い、pHを7.0以上、9.0以下程度に調整してもよい。
【0031】
培養温度は適宜調整すればよく、通常、20℃以上、35℃以下程度とすればよい。また、培養時間はKCA09051株およびKCA09053株が十分に増殖するまでとすればよいが、通常、10日以上、20日以下程度とすることができる。
【0032】
KCA09051株およびKCA09053株は光合成を行うので、培養中には光を照射することが好ましい。光量は適宜調整すればよいが、1500ルクス以上、5000ルクス以下程度とすることができる。但し、休眠時間を設けることが好ましい。よって好適には、例えば、5時間以上、10時間以下程度の暗期と、10時間以上、20時間以下程度の明期の明暗サイクルを設定する。
【0033】
培養中は、例えば攪拌、震盪、通気などの物理的衝撃を与えてもよい。攪拌には、プロペラシャフト型攪拌機、マグネティックスターラーを利用することができ、各種形状の攪拌翼にて1〜300rpmの速度に設定する。震盪には、震盪培養器にて往復震盪や回転震盪にて1〜200rpmに設定する。通気はコンプレッサーや圧縮空気ボンベにて、1〜50mL/minで通気する。
【0034】
KCA09051株およびKCA09053株を十分に培養した後、KCA09051株およびKCA09053株から本発明に係るポリケチド化合物を抽出する。
【0035】
本発明のポリケチド化合物は、水に不溶であることから、抽出溶媒としては有機溶媒を用いる。具体的には、メタノールやエタノールなどのアルコール類;ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素類;酢酸エチルなどのエステル類;アセトンなどのケトン類;およびこれら2種以上の混合有機溶媒を用いることができる。
【0036】
上記のとおり、本発明のポリケチド化合物は、水に不溶である。よって、抽出を行う前には、遠心分離、濾過、凍結乾燥などによりKCA09051株およびKCA09053株を培地から分離しておくことが好ましい。また、抽出効率を高めるために、KCA09051株およびKCA09053株をホモジェナイズしてもよいし、KCA09051株およびKCA09053株に抽出溶媒を添加した後に攪拌してもよい。勿論、抽出は2回以上行うことが好ましい。さらに、抽出溶媒としてアルコール類などの水溶性有機溶媒を用いた場合には、水溶性成分を除去するために、溶媒をクロロホルムなどの水不溶性有機溶媒に置換した後に、水や食塩水などで洗浄してもよい。
【0037】
得られた抽出液は、好適には無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮する。
【0038】
次に、抽出液を濃縮することにより得られた残渣から、本発明のポリケチド化合物を単離精製する。
【0039】
精製手段は特に制限されず、常法を適宜組合わせればよい。精製手段としては、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィや、長鎖脂肪族炭化水素基が結合したシリカゲル、アミノ基が結合したシリカゲル、ポリビニル樹脂、ポリスチレン樹脂などを充填剤とするカラムを用いたカラムクロマトグラフィなどを挙げることができる。
【0040】
精製により単離された各化合物の特定は、既知のクロマトグラフィチャートと照らし合わせたり、或いはマススペクトルやNMRなどにより行うことができる。例えば、本発明のポリケチド化合物(1)(R1=H)の[M+Na]+の分子質量は537、ポリケチド化合物(2)(R2〜R6=H)の[M+Na]+の分子質量は647であるので、単離精製した化合物をマススペクトルにより分析し、[M+Na]+の分子質量をこれら値と比較することにより化合物を特定することができる。
【0041】
その他、本発明のポリケチド化合物(1)〜(2)は、当業者公知の方法により、公知化合物から合成することも可能である。
【0042】
本発明のポリケチド化合物(1)〜(2)は、優れた抗腫瘍活性を有するので、抗腫瘍剤として用いることができる。
【0043】
本発明のポリケチド化合物(1)〜(2)は単独で用いてもよいし、或いは一般的に製剤上許容される無機または有機の成分と共に製剤化してもよい。添加成分としては、ビヒクル;担体;カオリン、炭酸カルシウム、微晶性セルロースなどの賦形剤;デンプン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤;コーンスターチ、ゼラチン、デキストリンなどの結合剤;タルクなどの光沢剤;防腐剤;安定剤;湿潤剤;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、オレイン酸エチル、レシチンなどの懸濁補助剤;乳糖やショ糖などの甘味剤;芳香剤;着色剤などを挙げることができる。また、液剤に用いられる希釈剤としては、水や植物油などの不活性なものを用いることができる。
【0044】
本発明製剤の剤形は、投与経路や投与計画などに応じて適宜決定すればよい。投与形態としては、経口投与、経腸投与、局所投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などが挙げられる。剤形としては、注射剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤などを挙げることができる。
【0045】
本発明製剤の投与量は、患者の年齢、病状、重篤度、他の薬剤との併用の有無などにより適宜調整すればよいが、例えば経口投与の場合には、成人に対して1回当たり0.1mg以上、100mg以下程度とすることができ、より好ましくは1mg以上、10mg以下とすることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0047】
実施例1 本発明に係るポリケチド化合物の単離
先ず、表1に示す組成を有する海水補強栄養剤を調製し、当該栄養剤の濃度が1%となるよう海水に添加した後、孔径0.22μmのフィルターを用いて濾過滅菌することにより、培養液を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
上記培養液へ、渦鞭毛藻アンフィジニウムKCA09051株またはKCA09053株を接種し、25℃で14日間静置培養した。培養期間中、明暗サイクルを明期16時間、暗期8時間とし、明期には3000ルクスの光を照射した。
【0050】
培養後、遠心分離により渦鞭毛藻を回収した。得られた渦鞭毛藻(6.7g)にメタノール/トルエン=3/1の混合溶媒(200mL)を加えて攪拌した後、1M塩化ナトリウム水溶液(100mL)を加え、トルエン(100mL)で3回抽出した。トルエン抽出液を減圧乾燥し、得られた残渣(730mg)を下記条件のカラムクロマトグラフィにより順次精製することにより、ポリケチド化合物であると推定される化合物2種を分離回収した。
【0051】
シリカゲルカラム(溶出液:クロロホルム/メタノール)
ODSカラム(和光純薬工業製,ワコーゲルC18,溶出液:アセトニトリル/水=7/3)
アミノシリカゲルカラム(和光純薬工業製,ワコーゲルNH2,溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)
ODSカラム(YMC社製,YMC Pack Pro C18,溶出液:アセトニトリル/水=70/30,流速:2mL/分,検出光:UV210nm)
【0052】
得られた2種の化合物を高分解能エレクトロスプレー質量分析(HRESIMS)とNMRにより分析し、化学構造を決定した。各化学構造式と分析値、物性などを以下に示す。なお、以下では、各化合物をそれぞれアンフィリオニン−2とイソカリベノリド−1という。
【0053】
アンフィリオニン−2
【0054】
【化3】

【0055】
マススペクトル:m/z 537([M+Na]+
NMRスペクトル:
1H-NMR(500MHz,C6D6)δ0.89(3H,t,6.9Hz,H3-30),0.98(3H,d,6.9Hz,H3-31),1.19-1.30(4H,H2-28,H2-29),1.33(2H,quintet,6.9Hz,H2-27),1.37-1.45(2H,m,H-19,H-6),1.45-1.57(4H,m,H-8,H-11,H-4,H-22),1.68(1H,ddd,4.0,10.0,13.8Hz,H-6),1.74(3H,brs,H3-32),1.90-2.01(2H,H-3,H2-26),2.06-2.14(2H,H-8,H-19),2.15-2.26(3H,H-11,H-22,H-17),2.30(1H,brdt,13.8,6.9Hz,H-3),2.37(1H,brdt,14.5,7.3Hz,H-17),3.87(1H,ddd,2.2,4.4,10.0Hz,H-5),4.16(1H,ddt,5.1,10.3,7.3Hz,H-18),4.38-4.45(2H,H-7,H-9),4.51-4.60(4H,H-20,H-10,H-21,H-23),4.99(1H,ddd,5.1,7.6,10.2Hz,H-12),5.03-5.12(2H,H2-1),5.51(1H,brdd,6.9,15.3Hz,H-24),5.55(1H,brd,7.6Hz,H-13),5.65-5.77(2H,H-25,H-16),5.81(1H,ddt,10.1,17.1,6.9Hz,H-2),6.21(1H,d,15.3 Hz,H-15)
13C-NMR(125Hz,C6D6)δ13.1(CH3,C-32),14.0(CH3,C-31),14.2(CH3,C-30),22.8(CH2,C-29),29.2(CH2,C-27),31.6(CH2,C-28),32.5(CH2,C-26),38.2(CH2,C-3),39.1(CH,C-4),39.2(CH2,C-6),39.4(CH2,C-17),41.2(CH2,C-8),41.3(CH2,C-19),42.4(CH2,C-11),42.5(CH2,C-22),71.2(CH,C-5),76.8(CH,C-12),78.3(CH,C-7),79.9(CH,C-18),80.9(CH,C-23),83.8,83.9,84.0,84.1(4CH,C-10,C-21,C-9,C-20),115.9(CH2,C-1),125.8(CH,C-16),131.1(CH,C-24),131.5(CH,C-13),132.5(CH,C-25),135.7(C,C-14),136.8(CH,C-15),137.9(CH,C-2)
形状:無色油状
溶解性:エタノール、エーテル、クロロホルム、酢酸エチル、アセトンに可溶。ヘキサンと水に不溶。
【0056】
イソカリベノリド−1
【0057】
【化4】

【0058】
マススペクトル:m/z 647([M+Na]+
NMRスペクトル:
1H-NMR(500MHz,C6D6)δ0.88(3H,d,6.5Hz,H3-28),0.94(3H,d,6.5Hz,H3-33),1.05-1.20(2H,m,H-26 and H-18),1.13(3H,d,6.7Hz,H3-32),1.16(1H,m,H-22),1.22(3H,d,7.1Hz,H3-29),1.22(1H,m,H-23),1.34-1.50(5H,m,H-18,H-26,H2-20,OH),1.50-1.73(4H,H-17,H-23,H-22,H-27),1.79(3H,brs,H3-31),2.21(1H,m,H-17),2.40(1H,t,13.5Hz,H-13),2.48(1H,brd,12.7Hz,H-13),2.68(1H,dd,2.2,16.7Hz,H-8),2.74(1H,quintet,7.6Hz,H-2),2.98(1H,dd,10.4,16.7Hz,H-8),3.13(1H,dq,2.0,4.8Hz,H-4),3.26(1H,dq,10.6,6.7Hz,H-10),3.58-3.64(2H,H-5,H-16),3.74(1H,m,H-24),3.87(1H,m,H-3),3.95(1H,OH),4.02(1H,OH),4.16(1H,m,H-21),4.22(1H,m,H-19),4.32(1H,m,H-14),4.35(1H,brs,OH),4.86(1H,m,H-7),4.91(1H,brs,OH),4.96(1H,m,H-25),5.16(1H,brd,10.6Hz,H-11),5.31(1H,brs,H-30),5.40(1H,brs,H-30)
13C-NMR(125MHz,C6D6)δ14.1(CH3,C-29),15.7(CH3,C-31),15.8(CH3,C-32),21.7(CH3,C-33),23.6(CH3,C-28),24.7(CH,C-27),25.6(CH2,C-18),26.8(CH2,C-17),28.0(CH2,C-23),32.6(CH2,C-22),40.0(CH2,C-26),40.2(CH2,C-13),41.5(CH2,C-20),44.8(CH,C-2),45.1(CH2,C-8),47.9(CH,C-10),54.5(CH,C-5),62.4(CH,C-4),65.8(2CH,C-16,C-19),69.6(CH,C-7),70.8(CH,C-14),72.9(CH,C-3),73.1(CH,C-25),74.4(CH,C-21),81.0(CH,C-24),98.1(CH,C-15),111.5(CH2,C-30),127.2(CH,C-11),136.3(CH,C-12),147.0(CH,C-6),173.6(C,C-1),210.5(C,C-9)
形状:無色固体
溶解性:アルコール、クロロホルム、酢酸エチル、アセトンに可溶。ヘキサンと水に不溶。
【0059】
試験例1 In vitro抗腫瘍活性試験
20%牛胎児血清(Cell Culture Technologies社)を含むRPMI−1640培地(Sigma社)に、マウス肝臓ガン細胞株(MH134)あるいはヒト上皮ガン細胞株(KB)を1×105/mLとなるように懸濁した。この細胞懸濁液(50μL)を96ウェルマイクロプレートに添加した後、上記培養液(49μL)を添加して全量を99μLとした。別途、本発明に係るポリケチド化合物であるアンフィリオニン−2またはイソカリベノリド−1をジメチルスルホキシドに溶解して0.000005〜5μg/mL溶液とし、各ウェルに1μL添加した。次いで、二酸化炭素濃度:5%、37℃の条件で72時間培養した。また、対照として、既存の抗がん剤である5−FU(Wako社)とアドリアマイシン(Wako社)も同様に処理した。
【0060】
培養後、各ウェルにWako cell counting Kit−8(Wako社)を10μL添加し、二酸化炭素インキュベータ内で呈色反応を3時間行った。マイクロプレートリーダーを用いて波長450nm(参照波長620nm)の吸光度を測定した。測定値からリンパ腫細胞の増殖阻害率を次式より算出し、増殖阻害率が50%となる培養液中の化合物濃度をIC50値として算出した。
増殖阻害率(%)=[1−(サンプル値/ブランク値)]×100
結果を表2に示す。なお、表中、「−」は未測定であることを示す。
【0061】
【表2】

【0062】
上記結果のとおり、アンフィリオニン−2は、マウス肝臓がん細胞MH134細胞に対するIC50値が0.1μg/mLであり、既存の抗がん剤であるアドリアマイシンと5−FUより強い抗腫瘍活性を示した。また、イソカリベノリド−1はマウス肝臓がん細胞MH134細胞に対するIC50値が0.0005μg/mL、ヒト上皮がん細胞KB細胞に対するIC50値が0.00002μg/mLであり、アドリアマイシンと5−FUに比べて極めて強い抗腫瘍活性を示した。
【0063】
試験例2 In vivo抗腫瘍活性試験
DBA/2雌性マウス(日本SLC)の腹腔内にマウス白血病細胞P338を移植し、増殖せしめた。8週齢の雌性マウス(日本SLC,CDF−1,体重:約20g)11匹の腹腔内に、上記マウス白血病細胞P338の懸濁液(1×106cell/500μL)を投与した。当該マウスのうち5匹には、エタノール−生理食塩水混合溶液に懸濁したイソカリベノリド−1を、白血病細胞の移植から第1日目、第4日目および第7日目に250μg/kg体重ずつ腹腔内投与した。
【0064】
白血病細胞の移植から第13日目に体重を測定したところ、イソカリベノリド−1を投与しなかったコントロール群では、腹水の貯留と白血病細胞の増殖により平均23.1%体重が増加していた。
【0065】
一方、イソカリベノリド−1を投与した群では、平均1.0%と体重変化はほとんど見られなかった。
【0066】
以上の結果のとおり、イソカリベノリド−1の強い抗がん活性は、マウスを用いたin vivo実験でも確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新規ポリケチド化合物を製造するための方法であって、
渦鞭毛藻であるAmphidinium sp.KCA09051株またはAmphidinium sp.KCA09053株を有機溶媒で抽出する工程;および
抽出物を精製する工程
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるポリケチド化合物。
【化1】

[式中、R1は、水素原子、C1-6アルキル基、C2-7アルカノイル基、C2-7アルカノイルオキシ−C1-2アルキル基、C1-6アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基、または2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル基を示す]
【請求項3】
下記一般式(2)で表されるポリケチド化合物。
【化2】

[式中、R2〜R6はそれぞれ独立して水素原子、C1-6アルキル基、C2-7アルカノイル基、C2-7アルカノイルオキシ−C1-2アルキル基、C1-6アルコキシカルボニルオキシ−C1-2アルキル基、または2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル基を示す]
【請求項4】
請求項2または3に記載のポリケチド化合物を有効成分とすることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項5】
Amphidinium sp.KCA09051株。
【請求項6】
Amphidinium sp.KCA09053株。

【公開番号】特開2011−184437(P2011−184437A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27732(P2011−27732)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】