説明

抗菌コーティングを有する医用デバイスの製造方法

本発明は、抗菌金属含有LbLコーティングを医用デバイス上に有する、医用デバイス、好ましくはコンタクトレンズの製造方法であって、その抗菌金属含有LbLコーティングが、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層および/または負に荷電したポリイオン材料の−COO基に結合したAgイオンを還元して形成される銀ナノ粒子を含む、製造方法を提供する。さらに、本発明は、本発明の方法に従って製造される医用デバイスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、抗菌金属を含有する1層ずつのコーティング(layer-by-layer coating)を有する医用デバイスおよび本発明の医用デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズはしばしば装着、保存および取り扱い中に1種以上の微生物に曝される。コンタクトレンズは、微生物が付着し、その後増殖してコロニーを形成することができる面を提供することができる。コンタクトレンズへの微生物付着およびコロニー化は、微生物が増殖し、眼の表面に長期間保持されることを可能とし、それにより、そのレンズが使用される眼の健康に対して感染または他の有害な作用を及ぼすおそれがある。したがって、コンタクトレンズへの微生物付着およびコロニー化の危険性を最小限にし、かつ/またはなくすための多様な努力を払うことが望ましい。
【0003】
抗菌医用デバイスを開発するために多くの試みがなされてきた。二つの手法が提案されている。一つの手法は、コンタクトレンズを成形するためのポリマー組成物に抗菌化合物を配合することである。例えば、Chalkleyらは、Am. J. Ophthalmology 1966, 61: 866-869において、殺菌剤をコンタクトレンズに配合することを開示している。米国特許第4,472,327号は、重合の前に抗菌剤をモノマーに加え、レンズのポリマー構造中に固定することができることを開示している。米国特許第5,358,688号および第5,536,861号は、四級アンモニウム基含有オルガノシリコーンポリマーから抗菌特性を有するコンタクトレンズを製造することができることを開示している。欧州特許出願EP0604369は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび四級アンモニウム基含有コモノマーに基づく親水性コポリマーから抗付着性コンタクトレンズを調製することができることを開示している。もう一つの例は、欧州特許出願EP0947856A2に開示されている、四級ホスホニウム基含有ポリマーを含む眼用レンズ材料である。さらなる例は、ポリマー材料および有効な抗菌成分を含む材料から製造されるコンタクトレンズおよびコンタクトレンズケースを開示する米国特許第5,515,117号である。またさらなる例は、ヒドロゲルとAg、CuおよびZnより選択される少なくとも一つの金属を含む抗菌セラミックを含む材料で作成されるコンタクトレンズを開示する米国特許第5,213,801号である。抗菌コンタクトレンズを製造するこの手法にはいくつかの欠点が伴う。抗菌特性を有するポリマー組成物は、コンタクトレンズ、特に連続装用コンタクトレンズに望まれるすべての特性を有するわけではなく、それがその実用を妨げている。
【0004】
抗菌医用デバイスを製造する他の手法は、滲出性のまたは共有結合した抗菌剤を含有する抗菌コーティングを医用デバイス上に形成することである。滲出性の抗菌剤を含有する抗菌コーティングは、人体の領域で使用される場合、その期間にわたって抗菌活性を提供することができない可能性がある。対照的に、共有結合した抗菌剤を含有する抗菌コーティングは、比較的長い期間にわたって抗菌活性を提供することができる。しかしながら、このようなコーティング中の抗菌化合物は、結合した抗菌化合物またはコーティングそれ自体のいずれかの加水分解の助けがない限り、溶液中で非結合状態の対応する抗菌化合物の活性と比べた場合、減少した活性しか示さないであろう。上記の方法のように、抗菌コーティングは、親水性および/または潤滑性のような所望の表面特性を提供することができず、また、医用デバイスの所望のバルク特性(例えば、コンタクトレンズの酸素透過性)に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
現在、広く多様な抗菌剤がコンタクトレンズのコーティングとしての使用に提案されている(例えば米国特許第5,328,954号を参照)。従来から公知の抗菌コーティングは、抗生物質、ラクトフェリン、金属キレート化剤、置換および非置換の多価フェノール、アミノフェノール、アルコール、酸およびアミン誘導体ならびに四級アンモニウム基含有化合物を含む。しかしながら、このような抗菌コーティングには欠点があり、満足なものとはいえない。抗生物質の過剰使用は抗生物質耐性菌の増殖を招きかねない。他のコーティングは、広いスペクトルの抗菌活性を有しないか、眼の毒性またはアレルギー反応を生じさせたり、角膜の健康を保証し、患者に良好な視力および快適さを提供するために必要なレンズ特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
したがって、高い殺菌効力および広いスペクトルの抗菌活性を低い細胞毒性と合わせて提供することができる抗菌コーティングが要望されている。また、高い殺菌効力、広い抗菌活性スペクトルを有し、装用者の眼の健康および快適さに対して最小限の悪影響しか及ぼさない抗菌コーティングを有する新しいコンタクトレンズが要望されている。このようなコンタクトレンズは、快適さ、簡便さおよび安全性を提供することができる連続装用コンタクトレンズとして増大した安全性を有することができる。
【0007】
さらに、手術および装置に関連する感染は、一般に、医用デバイスの分野およびヘルスケア産業の分野において、主たる臨床的および経済的課題の一つとして残されている。毎年、米国において、二百万人もの病院患者が院内感染にかかっており、院内感染による年間80,000人の死者のうちの約80%は、デバイス関連のものである。医用デバイスの強力で費用効果が高い抗菌コーティングは、感染関連の臨床的課題およびヘルスケアの経済的負担を軽減するための鍵である。
【0008】
本発明の一つの目的は、高い抗菌効力を低い細胞毒性と合わせて有する抗菌コーティングを提供することである。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、高い抗菌効力を低い細胞毒性と合わせて有する抗菌コーティングを有する医用デバイスを提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、医用デバイス上に抗菌コーティングを形成するための費用効果的で効率的な方法を提供することである。
【0011】
発明の概要
本発明のこれらおよび他の目的は、本明細書で記載する本発明の種々の態様によって達成される。
【0012】
一つの態様において、本発明は、医用デバイス上での銀ナノ粒子含有抗菌LbLコーティングの形成方法を提供する。その方法は、高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスを得る工程(ここで、高分子電解質LbLコーティングは、−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料および正に荷電したポリイオン材料の1以上の二重層を含む);高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスを、所望の量のHを銀イオンで置き換えるのに十分な時間の間、銀イオンを含有する溶液中に浸漬する工程;および高分子電解質LbLコーティング中に含有される銀イオンを還元して、銀ナノ粒子を形成する工程、を含む。
【0013】
本発明は、他の態様において、抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスを製造する方法であって、
(a)型が第一の光学表面を規定する第一の型部分および第二の光学表面を規定する第二の型部分を備え、ここでその第一の型部分とその第二の型部分は、医用デバイスを形成する穴がその第一の光学表面とその第二の光学表面との間に形成されるように、互いに支えあうように構成されている、医用デバイスを製造するための型を得る工程、
(b)1層づつ高分子電解質を堆積させる手法を用いて、転写可能なLbLコーティングをその光学表面の少なくとも一つに適用する工程(ここで、転写可能なLbLコーティングが−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料と正に荷電したポリイオン材料の1以上の二重層を含む)、
(c)その型部分が互いに支えあうように、且つその光学表面がその医用デバイスを形成する穴を規定するように、その第一の型部分とその第二の型部分とを位置決めする工程、
(d)重合性組成物をその医用デバイスを形成する穴に分配する工程、および
(e)医用デバイスが形成されるように、その医用デバイスを形成する穴の中でその重合性組成物を硬化し、それにより、その転写可能なLbLコーティングがその型部分の少なくとも一つの光学表面から脱着して、その医用デバイスが抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングされるように、その形成された医用デバイスに再付着する工程を含む、方法を提供する。
【0014】
本発明は、さらなる態様において、コア材料および医用デバイスに共有結合しておらず、且つ医用デバイスに増大した親水性を付与することができる抗菌金属を含有する1層ずつの(LbL)コーティングを有する医用デバイスであって、その抗菌金属含有LbLコーティングが、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層および/または負に荷電したポリイオン材料の−COO基に結合したAgイオンを還元して形成される銀ナノ粒子を含む、医用デバイスを提供する。
【0015】
本発明のこれらの態様および他の態様は、好ましい本実施態様についての以下の説明から明らかとなろう。詳細な説明は、本発明を単に例示するものであって、添付の特許請求の範囲およびその等価物により規定される、本発明の範囲を限定するものではない。当業者に明白であるように、開示の新規な概念の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの変形および改変をなしうるであろう。
【0016】
好ましい実施態様の詳細な説明
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される命名および実験手法は当該技術で周知であり、一般に使用されている。これらの手法、例えば当該技術および種々の一般的参考文献で提供されている手法には従来の方法が使用される。ある用語が単数形で記載されている場合でも、本発明者らは、その用語の複数形をも考慮している。本明細書で使用される命名および実験手法は、当該技術で周知であり、一般に使用されているものである。本開示を通じて使用される以下の用語は、特に断りのない限り、以下の意味を有するものと理解される。
【0017】
「物品」とは、眼用レンズ、眼用レンズを製造するための型、または眼用レンズ以外の医用デバイスをいう。
【0018】
本明細書で使用する「医用デバイス」とは、それらの操作または利用の過程で患者の組織、血液または他の体液に接触する1つ以上の表面を有するデバイスをいう。医用デバイスの例は、(1)手術で使用するための体外デバイス、例えば、後で患者に戻される血液と接触する血液への酸素供給器、血液ポンプ、血液センサ、血液を運ぶために使用される管など、(2)人または動物の体内に埋め込まれる人工器官、例えば血管または心臓に埋め込まれる血管移植片、ステント、ペースメーカリード線、心臓弁など、(3)一時的に血管内で使用するためのデバイス、例えば、モニタリングまたは修復のために血管または心臓の中に配置されるカテーテル、ガイド線など、(4)やけどの患者用の人工皮膚等の人工組織、(5)歯磨剤、歯科用成型品、(6)眼用デバイス、および(7)眼用デバイスまたは眼用溶液を保存するケースまたは容器を含む。
【0019】
本明細書で使用する「眼用デバイス」とは、コンタクトレンズ(ハードまたはソフト)、眼内レンズ、角膜アンレー、眼の上もしくは周囲または眼の付近で使用される他の眼用デバイス(例えばステント、緑内障シャントなど)をいう。
【0020】
本明細書で使用する「生体適合性」とは、眼の環境を有意に損傷することなく、且つ使用者に有意に不快感を与えることなく、長期間患者の組織、血液、または他の体液と密に接触することのできる、材料または材料の表面をいう。
【0021】
本発明で使用する「眼に適合性がある」とは、眼の環境を有意に損傷することなく、且つ使用者に有意に不快感を与えることなく、長期間、眼の環境と密に接触することのできる材料または材料の表面をいう。したがって、眼に適合性があるコンタクトレンズは、有意な角膜腫脹を生じさせず、瞬きによって眼の上で十分に動いて十分な涙液交換を促進し、実質的な量のタンパク質または脂質を吸着せず、所定の装用期間中、装用者に実質的な不快感を生じさせない。
【0022】
本明細書で使用する「眼の環境」とは、視力矯正、薬物送達、外傷治癒、眼の色の変化または他の眼科用途に使用されるコンタクトレンズと密に接触することがある眼性流体(例えば涙液)および眼組織(例えば角膜)をいう。
【0023】
「モノマー」とは、重合させることができる低分子量化合物を意味する。低分子量とは通常、700ダルトン未満の平均分子量を意味する。
【0024】
「マクロマー」とは、さらなる重合が可能である官能基を含有する中程度の分子量および高分子量の化合物またはポリマーをいう。中程度の分子量および高分子量とは通常、700ダルトンを超える平均分子量をいう。
【0025】
「ポリマー」とは、1種以上のモノマーを重合させることによって形成される物質をいう。
【0026】
本明細書で使用する「表面改質」とは、物品が表面処理プロセス(または表面改質プロセス)において処理されていることを意味し、ここで、気体または液体と接触させることにより、および/またはエネルギー源を適用させることにより、(1)コーティングを物品の表面に適用する、(2)化学種を物品の表面に吸着させる、(3)物品の表面上の化学基の化学的性質(例えば、静電電荷)を変化させる、または(4)物品の表面特性を別の形に改質させる。
【0027】
本明細書で使用する「LbLコーティング」とは、物品、好ましくは医用デバイスに共有結合しておらず、且つ物品上にポリイオン材料または荷電した材料の1層ずつの(「LbL」)堆積により得られるコーティングをいう。
【0028】
用語「二重層」とは、本明細書では広い意味で使用され、第一のポリイオン材料(または荷電した材料)の一層および引き続いて、第一のポリイオン材料(または荷電した材料)の電荷と反対の電荷を有する第二のポリイオン材料(または荷電した材料)の一層を、特定の順序ではなく、交互に適用することにより医用デバイス上に形成されるコーティング構造;あるいは第一の荷電したポリマー材料の一層および電荷を有しないポリマー材料または第二の荷電したポリマー材料の一層を、特定の順序ではなく、交互に適用することにより医用デバイス上に形成されるコーティング構造を包含することを意図している。第一と第二のコーティング材料(上記のもの)の層は、二重層中で互いに絡み合っていてもよいと理解されたい。
【0029】
コア材料とLbLコーティングを有する医用デバイスであって、荷電したポリマー材料の少なくとも一層および荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の一層を含む医用デバイスは、
(a)その医用デバイスを、荷電したポリマー材料の溶液と接触させて、荷電したポリマー材料の層を形成する工程;
(b)場合により、その医用デバイスをすすぎ溶液と接触させることによって、その医用デバイスをすすぐ工程;
(c)その医用デバイスを、電荷を有しないポリマー材料の溶液と接触させることによって、荷電したポリマー材料の層の最上部に電荷を有しないポリマー材料の層を形成する工程(ここで、電荷を有しないポリマー材料は、荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できるものである);および
(d)場合により、その医用デバイスをすすぎ溶液と接触させることによって、その医用デバイスをすすぐ工程、を含む方法に従って、製造することができる。
【0030】
本明細書で使用する、眼用レンズに対する「非対称コーティング」とは、眼用レンズの第一の表面と反対側の第二の表面とで異なるコーティングをいう。本明細書で使用する「異なるコーティング」とは、異なる表面特性または官能性を有する2種のコーティングをいう。
【0031】
本明細書で使用する、眼用レンズに対する「非対称コーティング」とは、眼用レンズの第一の表面と反対側の第二の表面とで異なるコーティングをいう。本明細書で使用する「異なるコーティング」とは、異なる表面特性または官能性を有する2種のコーティングをいう。
【0032】
本明細書で使用する「キャッピング層」とは、医用デバイスの表面に適用されるコーティング材料の最後の層をいう。
【0033】
本明細書で使用する「キャッピング二重層」とは、医用デバイスの表面に適用される第一のコーティング材料と第二のコーティング材料との最後の二重層をいう。
【0034】
本明細書で使用する「ポリクォート(polyquat)」とは、ポリマー四級アンモニウム基を含有する化合物をいう。
【0035】
本明細書で使用する「ポリイオン材料」とは、複数の荷電基を有するポリマー材料、例えば、高分子電解質、pおよびn形のドープされた導電性ポリマーをいう。ポリイオン材料は、ポリカチオン材料(正電荷を有する)およびポリアニオン材料(負電荷を有する)の両方を含む。
【0036】
本明細書で使用する「抗菌LbLコーティング」とは、医用デバイスの表面上または医用デバイスから伸展する隣接領域での微生物の増殖を減少させる、失わせる、または阻害する能力を医用デバイスに付与するLbLコーティングをいう。本発明の医用デバイス上の抗菌LbLコーティングは、好ましくは、生きている微生物の、少なくとも1−logの減少(≧90%阻害)、より好ましくは少なくとも2−logの減少(≧99%阻害)を示す。
【0037】
本明細書で使用する「抗菌剤」とは、当該技術で知られているように、微生物の増殖を減らす、失わせる、または阻害することができる薬剤をいう。
【0038】
「抗菌金属」は、そのイオンが抗菌効果を有し、生体適合性である、金属である。好ましい抗菌金属として、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、BiおよびZnが挙げられ、Agが最も好ましい。
【0039】
「抗菌金属含有ナノ粒子」とは、1ミクロン未満のサイズを有し、その1以上の酸化状態で存在する少なくとも1種の抗菌金属を含有する粒子をいう。例えば、銀含有ナノ粒子は、その1以上の酸化状態での銀、例えば、Ag0、Ag1+、およびAg2+を含むことができる。
【0040】
「抗菌金属ナノ粒子」とは、1以上の抗菌金属からなり、1ミクロン未満のサイズを有する粒子をいう。抗菌金属ナノ粒子中の抗菌金属は、その1以上の酸化状態で存在することができる。
【0041】
「平均接触角」とは、少なくとも3個の個々の医用デバイスの計測値を平均化することによって得られる接触角(液滴法(Sessile Drop))をいう。
【0042】
本明細書で使用する、コーティングされた医用デバイスに関連しての「増大した表面親水性」または「増大した親水性」とは、コーティングされた医用デバイスが、コーティングされていない医用デバイスに比べて、減少した平均接触角を有することを意味する。
【0043】
本発明は、一つの態様において、医用デバイス上に銀ナノ粒子含有抗菌LbLコーティングを形成する方法を提供する。その方法は、高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスを得ること(ここで、その高分子電解質LbLコーティングは、−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料および正に荷電したポリイオン材料の1以上の二重層を含む);高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスを、所望の量のHを銀イオンで置き換えるのに十分な時間の間、銀イオンを含有する溶液中に浸漬すること;および高分子電解質LbLコーティング中に含まれる銀イオンを還元して、銀ナノ粒子を形成すること、を含む。
【0044】
ここに、抗菌金属、銀、特に、銀ナノ粒子を、本発明の方法に従って、費用効果的に、LbLコーティング中に組み入れることができることが見出された。本発明の銀ナノ粒子含有LbLコーティングが、以下のように、いくつかの利点を有していることを見出した。それは、医用デバイスに、抗菌活性のみならず、増大した表面親水性を付与できる。それは、例えば、コンタクトレンズの所望のバルク特性、例えば、酸素透過性、イオン透過性、および光学特性に最小の悪影響を及ぼす。医用デバイス上に形成された本発明の銀ナノ粒子含有LbLコーティングは、良好に医用デバイスに接着し、且つ、数サイクルのオートクレーブ処理の後でさえ、安定である。本発明の銀ナノ粒子含有LbLコーティングの形成方法は、自動化に好適であり、任意の幾何学形状の広範囲の基材(ポリマー、ガラス、石英、セラミック、金属)のコーティングに使用することができる。
【0045】
本発明によると、医用デバイスのコア材料(基材)は、広く多様なポリマー材料のいずれであってもよい。コア材料の例は、ヒドロゲル、シリコーン含有ヒドロゲル、ならびに、スチレンおよび置換スチレン、エチレン、プロピレン、アクリレートおよびメタクリレート、N−ビニルラクタム、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸およびメタクリル酸のポリマーおよびコポリマーを含むが、それらに限定されない。
【0046】
コーティングされるコア材料の好ましいグループは、生体医療用デバイス、例えばコンタクトレンズ、特に長時間装用のコンタクトレンズの製造に従来から使用されているものであり、それ自体親水性ではない。このような材料は当業者には公知であり、例えば、ポリシロキサン、ぺルフルオロポリエーテル、フッ素化ポリ(メタ)アクリレートもしくは例えば他の重合可能なカルボン酸から誘導される同等のフッ素化ポリマー、ポリアルキル(メタ)アクリレートもしくは他の重合可能なカルボン酸から誘導される同等のアルキルエステルポリマー、またはフッ素化ポリオレフィン、例えば、フッ素化エチレンもしくはプロピレン、例えばテトラフルオロエチレン、好ましくは特定のジオキソール(例えば、ペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)との組み合わせを含んでいてもよい。好適なバルク材料の例は、例えばロトラフィルコンA(Lotrafilcon A)、ネオホコン(Neofocon)、パシホコン(Pasifocon)、テレホコン(Telefocon)、シラホコン(Silafocon)、フルオロシルホコン(Fluorsilfocon)、パフルホコン(Paflufocon)、シラホコン(Silafocon)、エラストフィルコン(Elastofilcon)、バリフィルコンA(Balifilcon A)、フルオロホコン(Fluorofocon)またはテフロンAF(Teflon AF)材料であり、例えば、約63〜73モル%のペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソールと約37〜27モル%のテトラフルオロエチレンとのコポリマーまたは約80〜90モル%のペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソールと約20〜10モル%のテトラフルオロエチレンとのコポリマーであるテフロンAF1600またはテフロンAF2400である。
【0047】
本発明の複合材料の基礎をなすコア材料は、好ましくは、カチオン基またはアニオン基等のイオン基を有しない材料である。したがって、好ましいコア材料の表面は、カルボキシ、スルホ、アミノ等のようなイオン基をも有さず、したがって、実質的にイオン電荷を有しない。
【0048】
コーティングされる好ましいコア材料のもう一つのグループは、結合または架橋員を介して結合される少なくとも一つの疎水性セグメントと少なくとも一つの親水性セグメントとを含む両親媒性セグメント化コポリマーである。例は、シリコーンヒドロゲル、例えば、PCT出願WO96/31792(Nicolsonら)およびWO97/49740(Hirtら)に開示されているものである。
【0049】
コーティングされるコア材料の特に好ましいグループは、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリメタクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリシロキサン、ペルフルオロアルキルポリエーテル、フッ素化ポリアクリレートもしくはメタクリレート、および少なくとも一つの疎水性セグメント、例えば、ポリシロキサンセグメントもしくはペルフルオロアルキルポリエーテルセグメントもしくは混合ポリシロキサン/ペルフルオロアルキルポリエーテルセグメントと、少なくとも一つの親水性セグメント、例えばポリオキサゾリン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸セグメントまたは二つ以上の基礎をなすモノマーのコポリマー混合物とを含む両親媒性セグメント化コポリマーから選択される有機ポリマーを含む。
【0050】
コーティングされるコア材料は、腎臓透析膜、血液保存バック、ペースメーカーリード線または血管移植片の製造に従来から用いられる任意の血液接触材料であってもよい。例えば、その表面を改質することができる材料は、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、Dacron(商標)もしくはSilastic(商標)タイプのポリマー、またはそれらから製造される複合材であってもよい。
【0051】
さらに、コーティングされるコア材料は、適切な反応性基をもたない無機または金属ベースの材料、例えばセラミック、石英、または金属、例えばケイ素もしくは金、あるいは他のポリマーまたは非ポリマー基材であってもよい。例えば、埋め込み可能な生体医療用途では、セラミックが非常に有用である。さらに、例えば、バイオセンサー用途では、親水性にコーティングされたベース材料は、コーティングの構造がうまく制御されている場合には、非特異的な結合の影響を弱めるものと期待される。バイオセンサーは、金、石英、または他の非ポリマー基材上に、特定の炭水化物コーティングを必要とするかもしれない。
【0052】
コーティングされるコア材料は、抗菌コーティングを適用する前に、表面改質に付すことができる。表面処理プロセスの例として、エネルギー(例えば、プラズマ、静電電荷、照射、または他のエネルギー源)による表面処理、化学的処理、物品の表面への親水性モノマーまたはマクロマーのグラフト、および高分子電解質の1層ずつの堆積が挙げられるが、それらに限定されない。表面処理プロセスの好ましいものは、プラズマ処理であり、そこでは、イオン化ガスが物品の表面に適用される。プラズマガスおよび処理条件は、米国特許第4,312,575号および第4,632,844号明細書に、より十分に記載されている。プラズマガスは、好ましくは、低級アルカン類と窒素、酸素、または不活性ガスとの混合物である。
【0053】
コーティングされるコア材料の形状は、広い範囲内で変化することができる。例は、粒子、顆粒、カプセル、繊維、チューブ、フィルムまたは膜、好ましくは眼用成型品のようなすべての成型品、例えば眼内レンズ、人工角膜、または特にコンタクトレンズである。
【0054】
本発明で使用しうるポリイオン材料として、ポリアニオン性ポリマーおよびポリカチオン性ポリマーが挙げられる。好適なポリアニオン性ポリマーの例は、例えば、カルボキシ、スルホ、スルファト、ホスホノもしくはホスファト基またはこれらの混合物を含む合成ポリマー、バイオポリマーまたは改質バイオポリマー、あるいはこれらの塩、例えば、これらの生体医学的に許容しうる塩および、コーティングされる物品が眼用デバイスである場合には、特に、眼科的に許容しうる塩が挙げられる。
【0055】
合成ポリアニオン性ポリマーの例は、直鎖ポリアクリル酸(PAA)、分枝鎖ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸コポリマー、マレイン酸もしくはフマル酸コポリマー、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)、ポリアミド酸、ジアミンおよびジ−もしくはポリカルボン酸のカルボキシ末端ポリマー(例えば、Aldrich社のカルボキシを末端に有するStarburst(商標)PAMAMデンドリマー)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)(ポリ−(AMPS))、アルキレンポリホスフェート、アルキレンポリホスホネート、炭水化物ポリホスフェートもしくは炭水化物ポリホスホネート(例えば、テイコ酸)である。分枝鎖ポリアクリル酸の例として、Goodrich 社からのCarbophil(登録商標)またはCarbopol(登録商標)タイプが挙げられる。アクリル酸またはメタクリル酸のコポリマーの例として、アクリル酸もしくはメタクリル酸と、ビニルモノマー、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドもしくはN−ビニルピロリドンとの共重合生成物が挙げられる。
【0056】
ポリアニオン性バイオポリマーまたは改質バイオポリマーの例は、ヒアルロン酸、ヘパリンもしくはコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、フコイダン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、アルギネート、ペクチン、ゲラン、カルボキシアルキルキチン、カルボキシメチルキトサン、硫酸化多糖である。
【0057】
好ましいポリアニオン性ポリマーは、直鎖もしくは分枝鎖ポリアクリル酸またはアクリル酸コポリマーである。より好ましいアニオン性ポリマーは、直鎖もしくは分枝鎖ポリアクリル酸である。ここでの分枝鎖ポリアクリル酸は、適量(少量)のジ−またはポリビニル化合物の存在下に、アクリル酸を重合させることによって得ることができるポリアクリル酸を意味するものと理解されたい。
【0058】
二重層の一部として適切なポリカチオン性ポリマーは、例えば、一級、二級もしくは三級アミノ基またはそれらの適切な塩、好ましくはそれらの眼科的に許容される塩、例えば、それらの塩酸塩などのハロゲン化水素塩を主鎖にまたは置換基として含む、合成ポリマー、バイオポリマー、または改質バイオポリマーである。一級もしくは二級アミノ基またはそれらの塩を含むポリカチオン性ポリマーが好ましい。
【0059】
合成ポリカチオン性ポリマーの例は、
(i)場合により改質剤単位を含む、ポリアリルアミン(PAH)ホモ−またはコポリマー;
(ii)ポリエチレンイミン(PEI);
(iii)場合により改質剤単位を含む、ポリビニルアミンホモ−またはコポリマー;
(iv)ポリ(ビニルベンジル−トリ−C1〜C4−アルキルアンモニウム塩)、例えば、ポリ(ビニルベンジル−トリ−メチルアンモニウムクロリド);
(v)脂肪族もしくは芳香脂肪族二ハロゲン化物および脂肪族N,N,N′,N′−テトラ−C1〜C4−アルキル−アルキレンジアミンのポリマー、例えば、(a)1,3−二塩化もしくは二臭化プロピレンまたは二塩化もしくは二臭化p−キシリレンと(b)N,N,N′,N′−テトラメチル−1,4−テトラメチレンジアミンのポリマー;
(vi)ポリ(ビニルピリジン)またはポリ(ビニルピリジニウム塩)のホモ−またはコポリマー;
(vii)ポリ(ハロゲン化N,N−ジアリル−N,N−ジ−C1〜C4−アルキル−アンモニウム);
(viii)四級化アクリル酸またはメタクリル酸ジ−C1〜C4−アルキル−アミノエチルのホモ−またはコポリマー、例えば、ポリ(塩化2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルプロピルトリメチルアンモニウム)などのポリ(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルプロピルトリ−C1〜C2−アルキルアンモニウム塩)ホモポリマー、または四級化ポリ(メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル)もしくは四級化ポリ(ビニルピロリドン−co−メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル);
(ix)ポリクォート;または
(x)ポリアミノアミド(PAMAM)、例えば、直鎖PAMAM、またはアミノを末端に有するStarbust(商標)PAMAMデンドリマー(Aldrich)などのPAMAMデンドリマーである。
【0060】
上述のポリマーは、他に明確に記されていない場合、各々の場合において、遊離アミン、その適切な塩、例えば、生体医学的に許容される塩または特に眼科的に許容されるその塩、およびあらゆる四級化形態を含む。
【0061】
上記(i)、(iii)、(vi)または(viii)のポリマーに、場合により組み入れられる適切なコモノマーは、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドンなどの親水性モノマーである。
【0062】
本発明の二重層に用いられるポリカチオン性バイオポリマーまたは改質バイオポリマーの例は、塩基性ペプチド、タンパク質または糖タンパク、例えば、ポリ−ε−リジン、アルブミンまたはコラーゲン、アミノアルキル化多糖、例えば、キトサンまたはアミノデキストランである。
【0063】
本発明の二重層を形成する特定のポリカチオン性ポリマーは、ポリアリルアミンホモポリマー;上記の式(II)の改質剤単位を含むポリアリルアミン;ポリビニルアミンホモ−もしくはコポリマーまたはポリエチレンイミンホモポリマー、特に、ポリアリルアミンもしくはポリエチレンイミンホモポリマー、またはポリ(ビニルアミン−co−アクリルアミド)コポリマーである。
【0064】
前記リストは例示的であることを意図するが、網羅的でないことは明白である。当業者は、本明細書の開示および教示が与えられると、多数の他の有用なポリイオン材料を選択することができるであろう。
【0065】
荷電したポリマー材料の一層および荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合しうる電荷を有しないポリマー材料の一層を、交互に基材上に堆積して、生体適合性LbLコーティングを形成することができることが以前に見出されている。本発明に係る電荷を有しないポリマー材料は、ビニルラクタムのホモポリマー;1以上の親水性ビニルコモノマーの存在下にもしくは非存在下での、少なくとも1種のビニルラクタムのコポリマー;またはそれらの混合物であることができる。
【0066】
ビニルラクタムは、式(I)の構造を有する。
【0067】
【化1】

【0068】
式中、Rは、2〜8個の炭素原子を有するアルキレン二価基であり;R1は、水素、アルキル、アリール、アラルキルまたはアルカリール、好ましくは水素または7個までの、より好ましくは4個までの炭素原子の低級アルキル、例えば、メチル、エチルもしくはプロピルであり;アリールは10個までの炭素原子を有し、且つまた、アラルキルまたはアルカリールは14個までの炭素原子を有し;R2は、水素または7個までの、より好ましくは4個までの炭素原子の低級アルキル、例えば、メチル、エチルもしくはプロピルである。
【0069】
上面にLbLコーティングを有する医用デバイスは、任意の公知の好適な高分子電解質堆積技術に従って、予め作製された医用デバイス上に、ポリイオン材料および場合により電荷を有しないポリマー材料の層を適用することにより製造することができる。
【0070】
LbLコーティングの適用は、WO99/35520および米国特許出願公開番号2001−0045676号および公開番号2001−0048975号に記載されているような、いくつかの方法で達成することができる。ポリイオン材料をコア材料に結合させる前に、複雑で時間を要するコア材料(医用デバイス)の前処理は要らないということがWO99/35520に見出され、開示されている。医用デバイス、例えばコンタクトレンズのコア材料を、1種以上のポリイオン材料をそれぞれが含有する1以上の溶液と接触させるだけで、医用デバイス上にLbLコーティングを形成することができる。
【0071】
予め作製された医用デバイスとコーティング溶液との接触は、それをコーティング溶液中に浸漬することにより、あるいはそれにコーティング溶液を吹き付けることにより行うことができる。一つのコーティング法の実施態様は、浸漬コーティング工程および場合による浸漬すすぎ工程だけを含む。もう一つのコーティング法の実施態様は、吹き付けコーティング工程および吹き付けすすぎ工程だけを含む。しかしながら、吹き付けおよび浸漬コーティング工程並びにすすぎ工程の種々の組み合わせを含む多数の代替方法が当業者によって設計されることができる。
【0072】
例えば、浸漬コーティングのみの方法は、(a)医用デバイスを第一のポリイオン材料の第一のコーティング溶液に浸漬する工程;(b)場合により、医用デバイスを第一のすすぎ溶液に浸漬することによって医用デバイスをすすぐ工程;(c)その医用デバイスを第二のポリイオン材料の第二のコーティング溶液に浸漬して、第一と第二のポリイオン材料の第一の高分子電解質二重層を形成する工程(ここで、第二のポリイオン材料は、第一のポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有する);(d)場合により、医用デバイスをすすぎ溶液に浸漬することによってその医用デバイスをすすぐ工程;および(e)場合により、工程(a)〜(d)を何回か繰り返してさらに高分子電解質の二重層を形成する工程、を含む。より厚いLbLコーティングは、工程(a)〜(d)を好ましくは2〜40回繰り返すことにより製造することができる。好ましい二重層の数は、約5〜約20の二重層である。20を超える二重層は可能であるが、過度の数の二重層を有する一部のLbLコーティングでは層間剥離が起こりやすいということがわかった。
【0073】
コーティング工程およびすすぎ工程それぞれの浸漬時間は、多数の要因に依存して変わりうる。好ましくは、ポリイオン性溶液へのコア材料の浸漬は、約1〜30分、より好ましくは約2〜20分、最も好ましくは約1〜5分の時間にわたって起こる。すすぎは、一工程で達成することもできるが、複数のすすぎ工程が非常に効率的である。
【0074】
コーティング法のもう一つの実施態様は、米国特許明細書公開番号2001−0048975号に記載されている単回浸漬コーティング法である。このような単回浸漬コーティング法は、負に荷電したポリイオン材料および正に荷電したポリイオン材料をモル電荷比が約3:1〜約100:1になるような量で含有する溶液に、医用デバイスのコア材料を浸漬することを含む。この単回浸漬コーティング法を使用することにより、医用デバイス上に多数の二重層を形成することができる。
【0075】
コーティング法のもう一つの実施態様は、一連の吹き付けコーティング技術を含む。例えば、吹き付けコーティングのみの方法は一般に、(a)医用デバイスに第一のポリイオン材料の第一のコーティング溶液を吹き付ける工程;(b)場合により、医用デバイスにすすぎ溶液を吹き付けることによって医用デバイスをすすぐ工程;(c)その医用デバイスに第二のポリイオン材料の第二のコーティング溶液を吹き付けて、第一と第二のポリイオン材料の第一の高分子電解質二重層を形成する工程(ここで、第二のポリイオン材料は、第一のポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有する);(d)場合により、その医用デバイスにすすぎ溶液を吹き付けることによって医用デバイスをすすぐ工程;(e)場合により、工程(a)〜(d)を何回か繰り返す工程、を含む。より厚いLbLコーティングは、工程(a)〜(d)を好ましくは2〜40回繰り返すことにより製造することができる。
【0076】
吹き付けコーティングの適用は、空気援用噴霧化分配法、超音波援用噴霧化分配法、圧電援用噴霧化分配法、電気機械的ジェット印刷法、圧電ジェット印刷法、圧電静水圧ジェット印刷法および熱ジェット印刷法ならびに眼用レンズに対する吹き付け装置の分配ヘッドの位置決めを制御し、コーティング液を分配することができるコンピューターシステムからなる群より選択される方法により達成されうる。これらの吹き付けコーティング法は米国特許明細書公開番号2002−0182316に記載されている。そのような吹き付けコーティング法を使用することにより、非対称コーティングを医用デバイスに適用することができる。例えば、コンタクトレンズの背面を親水性および/または滑沢なコーティング材料でコーティングし、コンタクトレンズの前面を抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングすることができる。また、装用者に多数の利点を同時に提供するように、機能的なパターンを有するコーティングをコンタクトレンズ上に製造することが可能である。
【0077】
本発明に従って、ポリイオン材料溶液は、多様な方法で調製することができる。特に、本発明のポリイオン性溶液は、ポリイオン材料を水またはこの材料を溶解させることができるあらゆる他の溶媒に溶解させることによって形成することができる。溶媒を使用する場合、溶液中の成分を水中で安定にとどまらせることができるあらゆる溶媒が適している。例えば、アルコール系の溶媒を使用することができる。適切なアルコールとしては、イソプロピルアルコール、ヘキサノール、エタノールなどを挙げることができるが、これらに限定されない。当該技術で一般に使用される他の溶媒を本発明で好適に使用することができることが理解されよう。
【0078】
水に溶解されるか溶媒に溶解されるかにかかわらず、本発明のポリイオン材料の溶液中の濃度は一般に、使用される具体的な材料、所望のコーティング厚さおよび多数の他の要因に依存して異なることができる。しかしながら、ポリイオン材料の比較的希薄な水溶液を調合することが一般的であろう。例えば、ポリイオン材料濃度は、約0.001重量%〜約0.25重量%、約0.005重量%〜約0.10重量%または約0.01重量%〜約0.05重量%であることができる。
【0079】
一般に、上述したポリイオン性溶液は、溶液を調製するための当該技術で周知の方法によって調製することができる。例えば、一つの実施態様では、ポリアニオン性溶液は、一定濃度を有する溶液が形成されるように、適量のポリアニオン材料、例えば約90,000の分子量を有するポリアクリル酸を水に溶解することによって調製することができる。一つの実施態様では、得られる溶液は0.001M PAA溶液である。ひとたび溶解すると、塩基性または酸性の物質を加えることによってポリアニオン性溶液のpHを調節することもできる。上記実施態様では、例えば、適量の1N塩酸(HCl)を加えてpHを2.5に調節することができる。
【0080】
しかしながら、第一のポリイオン材料を含むコーティング溶液が医用デバイスの表面上に本発明の生体適合性LbLコーティングの最内層を形成するために用いられる場合、溶液中の第一の荷電したポリマー材料の濃度は、LbLコーティングの親水性を増大するために十分に高いことが望ましい。好ましくは、LbLコーティングの最内層を形成するための溶液中の荷電したポリマー材料の濃度は、LbLコーティングの引き続く層を形成するためのコーティング溶液中のコーティング材料の濃度よりも少なくとも3倍高い。より好ましくは、LbLコーティングの最内層を形成するための溶液中の荷電したポリマー材料の濃度は、LbLコーティングの引き続く層を形成するためのコーティング溶液中のコーティング材料の濃度よりも少なくとも10倍高い。
【0081】
ポリカチオン性溶液もまた、上記のような方法で形成することができる。例えば、一つの実施態様では、約50,000〜約65,000の分子量を有するポリ(塩酸アリルアミン)を水に溶解して0.001M PAH溶液を形成することができる。その後、適量の塩酸を加えることにより、pHを2.5に調節することができる。
【0082】
本発明のいくつかの実施態様では、ポリアニオン材料およびポリカチオン材料の双方を一つの溶液中に含有する溶液を適用することが望ましいかもしれない。例えば、ポリアニオン性溶液を上記のように形成したのち、同じく上記のように形成されるポリカチオン性溶液と混合することができる。一つの実施態様では、その後、溶液をゆっくりと混合してコーティング溶液を形成することができる。混合物に加えられる各溶液の量は、所望のモル電荷比に依存する。例えば、10:1(ポリアニオン:ポリカチオン)溶液が望まれる場合は、PAH溶液1部(容量部)をPAA溶液10部に混合することができる。混合ののち、所望ならば溶液をろ過することもできる。
【0083】
コーティングの種々の特性、例えば厚さを変えるために、ポリクォートを含むポリイオン材料の分子量を変えることができる。特に、分子量が増えると、一般にコーティングの厚さは増大する。しかしながら、分子量の増加が大きすぎると、取り扱い難さも増す可能性がある。そのため、本発明の方法で使用されるポリイオン材料は通常、約2,000〜約150,000の分子量Mnを有する。いくつかの実施態様では、分子量は約5,000〜約100,000であり、他の実施態様では、約75,000〜約100,000である。
【0084】
ポリイオン性のおよび荷電を有しないポリマー材料に加えて、二重層またはその一部を形成するコーティング溶液はまた、添加剤を含むことができる。本明細書で使用されるように、添加剤としては、一般に、あらゆる化学品または材料を挙げることができる。例えば、活性剤、例えば抗菌剤および/または殺菌剤を、特に生体医療用途に使用されるときに、二重層を形成する溶液に添加することができる。いくつかの抗菌ポリイオン材料として、ポリ四級アンモニウム化合物、例えば米国特許第3,931,319号(Greenら)に記載のもの(例えば、POLYQUAD(登録商標))が挙げられる。
【0085】
また、コーティング溶液に加えられる材料の他の例は、眼用レンズに有用なポリイオン材料、例えば放射線吸収特性を有する材料である。そのような材料として、例えば、可視着色剤、虹彩色修飾染料、および紫外(UV)光着色染料を挙げることができる。
【0086】
コーティング溶液に加えられる材料のさらに他の例は、細胞増殖を阻害または誘起するポリイオン材料である。細胞増殖阻害剤は、究極的には取り除くことが意図されているが長期間ヒトの組織に曝されるデバイス(例えば、細胞の過剰増殖が望ましくない、カテーテルまたは眼内レンズ(IOL))に有用であることができ、一方、細胞増殖誘起性のポリイオン材料は、永久的な埋め込みデバイス(例えば、人工角膜)に有用であることができる。
【0087】
添加剤がコーティング溶液に加えられる場合、そのような添加剤は、電荷を有することが好ましい。正電荷または負電荷を持つことにより、添加剤は、同じモル比で溶液中のポリイオン材料と置き換わることができる。例えば、ポリ四級アンモニウム化合物は、通常正電荷を有する。それで、これらの化合物は、ポリカチオンが適用されると同様の方法で添加剤が物品のコア材料に適用されるように、本発明の溶液中でポリカチオン性成分と置き換わることができる。
【0088】
LbLコーティングにおける好ましい二重層の数は、約5〜約20の二重層である。20を超える二重層は可能であるが、過度の数の二重層を有する一部のLbLコーティングでは層間剥離が起こりやすいということがわかった。
【0089】
LbLコーティングは、少なくとも一つのポリイオン材料、好ましくは、互いに反対の電荷を有する二つのポリイオン材料から形成することができる。
【0090】
LbLコーティングは、好ましくは、PAMAMデンドリマー、PAAm−co−PAA、PVP−co−PAA、グリコサミノグリカン、フコイダン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、アルギネート、ペクチン、ゲラン、カルボキシアルキルキチン、カルボキシメチルキトサン、硫酸化多糖、糖タンパク質、およびアミノアルキル化多糖からなる群より選択される、滑沢なコーティング材料の少なくとも一層を含む。
【0091】
−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料の例としては、直鎖または分枝鎖ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸コポリマー、ジアミンおよびジ−もしくはポリカルボン酸のカルボキシ末端ポリマー(例えば、Aldrich社のカルボキシを末端に有するStarburst(商標)PAMAMデンドリマー)、およびマレイン酸またはフマル酸コポリマーが挙げられるが、それらに限定されない。
【0092】
銀イオンは、−COOH基中のH+を置き換える、イオン交換機構を介して、高分子電解質LbLコーティングに組み込まれると考えられる。
【0093】
銀イオンを、還元剤によるか、加熱(例えば、オートクレーブ)によるか、またはUV照射によるかのいずれかで、銀または銀ナノ粒子に還元することができる。医用デバイス、例えば、コンタクトレンズの製造中に、銀イオンを銀ナノ粒子に還元しながら医用デバイスを殺菌するためにオートクレーブを使用することができる。
【0094】
本発明の医用デバイスはまた、実質的に米国特許出願公開番号2001−0045676号の教示に従って、LbLコーティング(上記のもの)を医用デバイス製造用の型にまず適用し、次いでLbLコーティングを、その型から製造される医用デバイスに転写グラフトすることにより製造することができる。
【0095】
コンタクトレンズをキャスト成型するための型セクションの形成方法は、一般に、当業者に周知である。本発明の方法は、型を形成するいずれか特定の方法に限定されない。事実、本発明においては、型を形成する任意の方法を使用することができる。しかしながら、例証する目的で、本発明に従ってLbLコーティングを形成できるコンタクトレンズ型を形成する一つの実施態様として以下の議論が提供される。
【0096】
一般に、型は、少なくとも二つの型セクション(または部分)または型半、すなわち、第一および第二の型半を含む。第一の型半は第一の光学表面を規定し、第二の型半は第二の光学表面を規定する。第一および第二の型半は、コンタクトレンズを形成する穴が第一の光学表面と第二の光学表面との間に形成されるように、互いを支持するように構成される。第一および第二の型半は、種々の手法、例えば射出成形で形成することができる。これらの半セクションは、コンタクトレンズを形成する穴をその間に形成するように、のちに一緒に合体させることができる。その後、コンタクトレンズは、種々の加工法、例えば紫外硬化を用いて、コンタクトレンズを形成する穴の中で形成することができる。
【0097】
型半を形成する好適な方法の例は、米国特許第4,444,711号(Schad);第4,460,534号(Boehmら);第5,843,346号(Morrill);および第5,894,002号(Bonebergerら)に記載されている。
【0098】
型を製造するための、当該技術で公知の実質的にすべての材料は、コンタクトレンズを製造するための型を製造するために使用することができる。例えば、ポリマー材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、およびPMMAが使用できる。UV光が透過する他の材料、例えば石英ガラスが使用できる。
【0099】
型が形成されると、転写可能なLbLコーティング(上記のもの)を、上記のLbL堆積法を用いることにより、一つまたは両方の型部分の光学表面(内部表面)上に適用できる。型部分の内部表面は、型の穴形成表面であり、レンズ形成材料と直接接触する。転写可能なLbLコーティングは、コンタクトレンズの後面(凹面)を規定する型部分上にあるいはコンタクトレンズの前面を規定する型部分上にまたは両方の型部分上に適用することができる。
【0100】
転写可能なLbLコーティングが、一つまたは両方の型部分の光学表面上に適用されると、レンズ材料は、次いで、組み合わされた型半により規定されるコンタクトレンズを形成する穴に分配することができる。一般に、レンズ材料は、任意の重合性組成物から製造することができる。特に、コンタクトレンズを形成する際、レンズ材料は、酸素透過性材料、例えばフッ素またはシロキサン含有ポリマーであってよい。例えば、好適な基材材料のいくつかの例として、米国特許第5,760,100号(Nicolsonら)に開示されたポリマー材料が挙げられるが、これらに限定されない。レンズ材料は、次いで、コンタクトレンズを形成する穴の中で硬化、すなわち重合されて、コンタクトレンズが形成され、これにより、転写可能なコーティングの少なくとも一部が光学表面から脱着され、形成されたコンタクトレンズに再付着される。
【0101】
熱硬化または光硬化法は、眼用レンズを形成する型中で重合性組成物を硬化するために使用することができる。そのような硬化法は当業者に周知である。
【0102】
本発明は、他の態様において、医用デバイス上への抗菌金属含有LbLコーティングの形成方法を提供する。この方法は、医用デバイス上に、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層および正に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層を特定されない順序で交互に適用して、抗菌金属含有LbLコーティングを形成することを含む。
【0103】
適用工程は、任意の方法、好ましくは上記の方法に従って、達成することができる。−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料は、任意の公知の方法に従って製造することができる。例えば、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料は、可溶性銀塩を、−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料の溶液に添加することにより製造することができる。−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料の例は、上に記載されている。銀塩の例として、硝酸銀、酢酸銀、クエン酸銀、硫酸銀、乳酸銀、およびハロゲン化銀が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
好ましい実施態様において、本発明の医用デバイス上の抗菌金属含有LbLコーティング中のAgを、還元剤によるか、加熱(例えば、オートクレーブ)によるか、またはUV照射によるかのいずれかで、銀または銀ナノ粒子にさらに還元することができる。
【0105】
本発明は、さらなる態様において、コア材料および医用デバイスに共有結合しておらず且つ医用デバイスに増大した親水性を付与することができる抗菌金属を含有する1層ずつの(LbL)コーティングを有する医用デバイスであって、その抗菌金属含有LbLコーティングが、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層および/または負に荷電したポリイオン材料の−COO基に結合したAgイオンを還元して形成される銀ナノ粒子を含む、医用デバイスを提供する。
【0106】
増大した親水性は、好ましくは、80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる。
【0107】
好ましい実施態様において、医用デバイス上に形成された本発明の抗菌LbLコーティングは、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層を含む。
【0108】
他の好ましい実施態様において、医用デバイス上に形成された本発明の抗菌LbLコーティングは、抗菌金属含有LbLコーティングの製造において使用されるコーティング材料の一つである、負に荷電したポリイオン材料の−COO基に結合したAgイオンを還元して形成される銀ナノ粒子を含む。抗菌金属含有LbLコーティングは、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層および正に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層を医用デバイス上に適用することにより形成することができる。あるいは、抗菌金属含有LbLコーティングは、−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層を含むLbLコーティングを有する医用デバイスを、銀イオンを含む溶液中に、所望の量のHを銀イオンで置き換えるのに十分な時間浸漬し;次いで、還元剤、UV照射、または加熱により、LbLコーティング中に含まれる銀イオンを還元して、銀ナノ粒子を形成することにより形成することができる。
【0109】
本発明に従えば、本発明の上記の抗菌LbLコーティングは、最も外側の抗菌金属含有層の最上部に、好ましくは、ポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング層、より好ましくは二種の反対に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング二重層または荷電したポリマー材料と荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の少なくとも一つのキャッピング層を含む。1以上のキャッピング層または二重層は、銀または他の抗菌金属イオンが抗菌LbLコーティングの外に拡散するのを制御するための拡散バリヤーとして働く。
【0110】
本発明の抗菌金属含有LbLコーティングは、連続装用コンタクトレンズにおいて特別な用途が見出される。本発明のLbLコーティングは、レンズの所望のバルク特性、例えば酸素透過性、イオン透過性および光学特性に最小の悪影響しかもたらさないであろう。また、本発明の抗菌金属含有LbLコーティングからの銀または他の抗菌金属の外への拡散は、最小になると考えられる。本発明の抗菌LbLコーティングは、銀イオンの代わりに銀ナノ粒子を含んでいるが、それは依然として医用デバイスに所望のレベルの抗菌活性を付与することが見出されたことは、驚くべきことである。
【0111】
コア材料と抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスは、好ましくは、増大された表面親水性を有し、且つ生きた微生物の少なくとも50%阻害を示しうる。好ましくは、増大された親水性は、約80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる。
【0112】
前記開示は、当業者が本発明を実施することを可能にするであろう。具体的な実施態様およびその利点を読者がよりよく理解することができるように、以下の実施例を参照されたい。
【0113】
実施例1
接触角
接触角は、医用デバイス、例えばコンタクトレンズの表面親水性の一般的な尺度である。特に、低い接触角は、より親水性の表面に対応する。コンタクトレンズの平均接触角(液滴法)は、マサチューセッツ州、ボストンにあるAST, Inc.からのVCA2500XE接触角測定装置を用いて測定した。
【0114】
抗菌活性アッセイ
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するまたは有しないコンタクトレンズの抗菌活性は、角膜潰瘍から単離した、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomnas aeruginosa)GSU#3に対してアッセイした。シュードモナス・アエルギノーザGSU#3の細菌細胞は、凍結乾燥状態で保存した。細菌は、トリプシンの大豆寒天スラント上、37℃で18時間増殖させた。細胞を、遠心分離により収集し、滅菌したダルベッコリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。細菌細胞は、PBS中で懸濁し、光学濃度を108cfuに調整した。細胞懸濁液を、連続的に、103cfu/mlまで希釈した。
【0115】
銀含有抗菌LbLコーティングを有するレンズを、対照レンズ(すなわち、本発明の銀含有抗菌LbLコーティングなしのもの)に対して試験した。200μlの約5x103〜1x104cfu/mlのP.アエルギノーザGSU#3を各レンズの表面に置き、25℃で24時間インキュベートした。レンズから50μlを吸出し、連続的に希釈し、寒天プレート上にプレートアウトして、各レンズの微生物負荷量を測定した。24時間で、コロニーをカウントした。
【0116】
実施例2
化学品
酢酸銀(M.W.166.9)は、Aldrich(製品番号21,667−4)より購入した。
ジメチルアミンボラン(DMAB)(M.W.58.92)は、銀イオンを銀ナノ粒子に還元するための還元剤として使用し、Aldrich(製品番号18,023−8)より購入した。
Mwが〜90,000のPAA(ポリアクリル酸)(25%溶液)は、Polyscienceよりのものであった。
Mwが〜5,000,000のPAAm(ポリアクリルアミド)(1%溶液)は、Polyscienceよりのものであった。
Mwが〜70,000のPAH(ポリアリルアミン塩酸塩)は、Aldrichよりのものであった。
PAAm−co−PAANa(アミド:酸=30:70、Mw〜200,000、固体)、アニオン性アクリルアミドポリマーは、Polyscienceよりのものであった。
PAAm−co−PMAB(アミド:アミン=80:20、Mw〜50,000、20%溶液)、カチオン性アクリルアミドポリマーは、Polyscienceよりのものであった。
【0117】
溶液
銀溶液:銀溶液は、水中に適切な量の酢酸銀(0.1669g/200ml)を溶解して5mM酢酸銀溶液にすることにより、調製した。
DMAB溶液:DMAB溶液は、適切な量のDMAB(0.0589g/1L)を溶解して1mM DMAB溶液にすることにより、調製した。
溶液S1:PAH、約10-2M(0.935g/L)、pH3.0
溶液S2:PAA、約10-2M(2.88g/L)、pH3.0
溶液S3:PAAm、約10-2M(71g/L)、pH3.0
溶液S4:PAA、約10-2M(2.88g/L)、pH2.0、予備コーティング用
溶液S5:PAAm−co−PMAB(カチオン性)、約10-2M(1.0438g/L)、pH3.0
溶液S6:PAAm−co−PAANa、〜10-2M(0.72g/L)、pH3.0
溶液S7:PAH、〜10-2M(0.935g/L)、pH3.0
【0118】
コーティング
グループA(ポリスチレンスライド):浸漬の間に水でのすすぎを行って、21浸漬(各浸漬15分):S1/S2/S3/S2/S3/S2/S3/S2/S3/S2/S3/S2/S3/S2/S3/S2/S3/S2/S3/S2/S3。
グループB(ポリスチレンスライド):浸漬の間に水でのすすぎを行って、22浸漬(各浸漬15分):S7/S4/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6。
グループC(コンタクトレンズ、ロトラフィルコンB):浸漬の間に水でのすすぎを行って、11浸漬(各浸漬5分):S4/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6/S5/S6。
【0119】
試料の記述
グループA
#A1:酢酸銀浴中1時間、すすぎ30分間、DMAB還元浴中10分間
#A2:酢酸銀浴中1時間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#A3:酢酸銀浴中35分間浸漬、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#A4:酢酸銀浴中1時間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間、このプロセスを5回繰り返す(5サイクルローディング)
#A5:酢酸銀浴中1時間、すすぎ5分間、還元なし
#A6:対照、銀なし。堆積され、熱的に安定化されたフィルム
【0120】
グループB
#B1:酢酸銀浴中10分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中10分間
#B2:酢酸銀浴中20分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#B3:酢酸銀浴中30分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#B4:酢酸銀浴中5分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#B5:酢酸銀浴中60分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#B6:酢酸銀浴中10分間、すすぎ5分間、還元なし
#B7:対照、銀なし。堆積され、熱的に安定化されたフィルム
【0121】
グループC(コンタクトレンズ)
#C1:酢酸銀浴中5分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#C2:酢酸銀浴中10分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中10分間
#C3:酢酸銀浴中20分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#C4:酢酸銀浴中30分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#C5:酢酸銀浴中60分間、すすぎ5分間、DMAB還元浴中2分間
#C6:酢酸銀浴中10分間、すすぎ5分間、還元なし
#C7:対照、銀なし。堆積され、熱的に安定化されたフィルム
【0122】
試料A1〜A5の抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。全ての試料は、対照に比較して、生細胞の優れた抗菌活性(少なくとも3−logの減少、すなわち、99.9%阻害によって特徴付けられる)を示した。
【0123】
実施例3
ポリアクリル酸(PAA)溶液
PolyScienceからの分子量約90,000のポリアクリル酸の溶液を、適量の材料を水に溶解して、0.001M PAA溶液にすることによって調製した。PAA濃度は、PAA中の繰り返し単位に基づいて計算した。ひとたび溶解して、ポリアニオン性PAA溶液のpHを、1N硝酸を加えることにより、pHが約2.5となるまで調整した。
【0124】
ポリ(エチレンイミン)(PEI)溶液
Polyscienceからの分子量約70,000のPEIの溶液を、適量の材料を水に溶解して、0.001M PEI溶液にすることによって調製した。PEI濃度は、PEI中の繰り返し単位に基づいて計算した。PEI溶液のpHを、0.1M硝酸を加えることにより、pHが約8.0となるまで調整した。
【0125】
ポリアクリル酸−銀(PAA−Ag)溶液
PAA−Ag溶液を、適量のPAA(分子量約90,000、PolyScienceから)と硝酸銀(AgNO3)を水に溶解して、0.01MのPAAと0.01MのAgNO3にすることによって調製した。PAA濃度は、PAA中の繰り返し単位に基づいて計算した。ひとたび溶解して、PAA−Ag溶液のpHを、1N硝酸を加えることにより、pHが約2.5となるまで調整した。
【0126】
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)溶液
NaBH4溶液を、適量の水素化ホウ素ナトリウム固体(Aldrichより)を水に溶解して、0.001M NaBH4溶液にすることによって調製した。
【0127】
PAA−Ag/PEIの多重二重層を有するコーティングを、シリコンウエハーおよびフルオロシロキサンヒドロゲル材料製のソフトコンタクトレンズ、ロトラフィルコンA(CIBAビジョン)上に形成した。コンタクトレンズ(およびまた、シリコンウエハー)を4つのPAA溶液(0.001M、pH2.5)中に5分間ずつ合計20分間浸漬し、レンズ上に第一の層を形成した。PAAの第一の層を有するレンズを、次いで、PAA−Ag溶液中に5分間浸漬し、その後、PEI溶液中に5分間浸漬した。次いで、PAA−Ag溶液中での5分間の浸漬とそれに続くPEI溶液中での5分間の浸漬の工程を所望の回数繰り返して、レンズ(またはシリコンウエハー)上に、所望の数のPAA−Ag/PEIの二重層を構築した。最後に、レンズをNaBH4溶液中に5分間浸漬した。上記のコーティングプロセス中には、すすぎ工程が含まれた。次いで、全てのレンズを取り出し、水中またはPBS中で、オートクレーブ処理をした。
【0128】
シリコンウエハー上のコーティング厚さは、偏光解析法で測定して、約21nmであった。表1にまとめたように、接触角が約110°のコーティングしていないレンズに比べて、コーティングしたレンズは、接触角が約30〜65°で親水性であった。全てのレンズは、スーダンブラック染色試験をパスした。
【0129】
【表1】

【0130】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。水またはPBSのいずれか中でオートクレーブ処理した、本発明の抗菌LbLコーティングを有する全てのレンズは、対照レンズと比較して、生細胞の97.5%〜99.9%阻害で特徴付けられる、抗菌活性を示した(表1)。
【0131】
具体的な用語、装置および方法を使用して本発明の種々の実施態様を記載したが、このような記載は例を示すためにすぎない。使用した語は説明のための語であり、限定のための語ではない。添付の請求の範囲に記載する本発明の本質または範囲を逸脱することなく当業者によって変形および改変が加えられうるということが理解されよう。さらに、種々の実施態様は、全体的または部分的に相互に交換可能であるということが理解されるべきである。したがって、添付の請求の範囲の精神および範囲は、本明細書に含まれる好ましい態様の記載に限定されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノ粒子含有抗菌LbLコーティングを有する医用デバイスの製造方法であって、
(a)高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスを得る工程(ここで、高分子電解質LbLコーティングは、−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料および正に荷電したポリイオン材料の1以上の二重層を含む);
(b)高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスを、所望の量のH+を銀イオンで置き換えるのに十分な時間の間、銀イオンを含有する溶液中に浸漬する工程;および
(c)高分子電解質LbLコーティング中に含有される銀イオンを還元して、銀ナノ粒子を形成する工程、
を含む、製造方法。
【請求項2】
その還元が、還元剤、UV照射、または加熱により生じる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスが、予め形成された医用デバイス上に、−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層、正に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層、および場合により、ポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング層、二種の反対に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング二重層または荷電したポリマー材料と荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の少なくとも一つのキャッピング層を交互に適用することにより調製される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
高分子電解質LbLコーティングを有する医用デバイスが、
(a)型が第一の光学表面を規定する第一の型部分および第二の光学表面を規定する第二の型部分を備え、ここでその第一の型部分とその第二の型部分は、医用デバイスを形成する穴がその第一の光学表面とその第二の光学表面との間に形成されるように、互いに支えあうように構成されている、医用デバイスを製造するための型を得る工程、
(b)1層づつ高分子電解質を堆積させる手法を用いて、転写可能なLbLコーティングをその光学表面の少なくとも一つに適用する工程(ここで、転写可能なLbLコーティングは、−COOH基を有する負に荷電したポリイオン材料と正に荷電したポリイオン材料の1以上の二重層を含む)、
(c)その型部分が互いに支えあうように、且つその光学表面がその医用デバイスを形成する穴を規定するように、その第一の型部分とその第二の型部分とを位置決めする工程、
(d)重合性組成物をその医用デバイスを形成する穴に分配する工程、および
(e)医用デバイスが形成されるように、その医用デバイスを形成する穴の中でその重合性組成物を硬化し、それにより、その転写可能なLbLコーティングがその型部分の少なくとも一つの光学表面から脱着して、その医用デバイスが高分子電解質LbLコーティングでコーティングされるように、その形成された医用デバイスに再付着する工程、
により調製される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
高分子電解質LbLコーティングが、ポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング層、二種の反対に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング二重層または荷電したポリマー材料と荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の少なくとも一つのキャッピング層をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項6】
抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスの製造方法であって、予め形成された医用デバイス上に、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層および正に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層を特定されない順序で交互に適用して、抗菌金属含有LbLコーティングを形成する工程を含む、製造方法。
【請求項7】
抗菌金属含有LbLコーティング中の銀イオンを、還元剤、UV照射、または加熱により還元して、抗菌金属含有LbLコーティング中に銀ナノ粒子を形成する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスの製造方法であって、
(a)型が第一の光学表面を規定する第一の型部分および第二の光学表面を規定する第二の型部分を備え、その第一の型部分とその第二の型部分は、医用デバイスを形成する穴がその第一の光学表面とその第二の光学表面との間に形成されるように、互いに支えあうように構成されている、医用デバイスを製造するための型を得る工程、
(b)1層づつ高分子電解質を堆積させる手法を用いて、転写可能なLbLコーティングをその光学表面の少なくとも一つに適用する工程(ここで、転写可能なLbLコーティングは、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料と正に荷電したポリイオン材料の1以上の二重層を含む)、
(c)その型部分が互いに支えあうように、またその光学表面がその医用デバイスを形成する穴を規定するように、その第一の型部分とその第二の型部分とを位置決めする工程、
(d)重合性組成物をその医用デバイスを形成する穴に分配する工程、および
(e)医用デバイスが形成されるようにその医用デバイスを形成する穴の中でその重合性組成物を硬化し、それにより、その転写可能なLbLコーティングがその型部分の少なくとも一つの光学表面から脱着して、その医用デバイスが抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングされるように、その形成された医用デバイスに再付着する工程を含む、方法。
【請求項9】
Agイオンを、還元剤、UV照射、または加熱により還元して、抗菌金属含有LbLコーティング中に銀ナノ粒子を形成する工程をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
コア材料および医用デバイスに共有結合しておらず、且つ医用デバイスに増大した親水性を付与することができる抗菌金属含有LbLコーティングを含む医用デバイスであって、その抗菌金属含有LbLコーティングが、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つの層および/または負に荷電したポリイオン材料の−COO基に結合したAgイオンを還元して形成される銀ナノ粒子を含む、医用デバイス。
【請求項11】
増大した親水性が、80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる、請求項10記載の医用デバイス。
【請求項12】
その抗菌金属含有LbLコーティングが、ポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング層、二種の反対に荷電したポリイオン材料の少なくとも一つのキャッピング二重層、または荷電したポリマー材料と荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の少なくとも一つのキャッピング層をさらに含む、請求項10記載の医用デバイス。
【請求項13】
その抗菌金属含有LbLコーティングが、抗菌活性を示すポリクォートの少なくとも一つの層を含む、請求項10記載の医用デバイス。
【請求項14】
負に荷電したポリイオン材料が、直鎖もしくは分枝鎖ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸コポリマー、ジアミンとジ−もしくはポリカルボン酸のカルボキシ末端ポリマー、マレイン酸もしくはフマル酸コポリマー、またはそれらの混合物である、請求項10記載の医用デバイス。
【請求項15】
医用デバイスがコンタクトレンズである、請求項10記載の医用デバイス。
【請求項16】
コア材料が、ヒドロゲル、シリコーン含有ヒドロゲル、あるいはスチレン、置換スチレン、エチレン、プロピレン、アクリレート、メタクリレート、N−ビニルラクタム、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸またはメタクリル酸のポリマーまたはコポリマーである、請求項15記載のコンタクトレンズ。

【公表番号】特表2006−513743(P2006−513743A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561354(P2004−561354)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014531
【国際公開番号】WO2004/056403
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
TEFLON
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【出願人】(505233262)エムアイティー・マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (1)
【氏名又は名称原語表記】MIT MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【Fターム(参考)】