説明

抗菌フィルム

【課題】可撓性があり任意の場所に設置することができ、かつ抗菌性能に優れる抗菌フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】可撓性高分子フィルム基材の少なくとも一方の表面に少なくとも1層の好ましくは銀、銅、またはその合金で形成される抗菌性金属薄膜を形成してなり、該金属薄膜は金属蒸発源を加熱溶融させて行う真空蒸着法により形成されている抗菌フィルムである。本発明では基材の一方の面に粘着剤層が形成され、少なくとも粘着剤層が形成されている側と反対側の面には抗菌性金属が形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建造物や機器、什器などの表面に設置して、その表面に生息する有害微生物を低減するための抗菌フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品を扱う事業所や一般家庭の調理場、医療施設などにおいては、床や壁などの内装、機器、什器などに付着した病原菌などの有害微生物に起因した接触感染や中毒を防止するため、これら内装、機器、什器の表面を無菌状態に保つことが強く求められている。接触感染のリスクは従来から強く認識されており、水拭きや各種消毒薬を用いた清掃が励行されてきた。しかし全ての内装、機器、什器類の表面を残すことなく完全に清掃するには多大な労力と注意力が必要であり、接触感染による食中毒や院内感染を完全に防ぐことはできていないのが現状である。
【0003】
このような状況の中、より少ない労力で有効に有害微生物を低減するために、微生物を死滅または増殖を抑制する効果のある物質即ち抗菌剤を含む材料が使用されるようになってきている。病院や食品工場で、抗菌剤を練りこんだ塗料で床を塗装するなどがその例として挙げられる。また、より簡易に表面に有害微生物低減効果を持たせるために、抗菌剤を練りこんだ抗菌壁紙などを表面に設置することも広く行われてきている。特に銅などの抗菌性金属が、有機系の抗菌剤と比べてより広範囲の有害微生物に効果を発揮し、かつ人体への毒性が低いことに着目し、例えば銅の薄膜を紙やフィルムなどの可撓性基材に設けることが特許文献1〜8および非特許文献1に提案されている。
【0004】
しかしながら前述のような抗菌フィルムは、以下のような問題から必ずしも充分有用なものとは言えなかった。有機系の抗菌剤を練りこみもしくは表面に塗工したものは、作用する菌種が限定されること、および該抗菌剤に耐性を有する菌が出現する恐れが高いといった事情から、菌の低減効果が必ずしも充分とは言えなかった。
一方、無機系抗菌剤は比較的菌の低減効果に優れるものの、抗菌剤を高分子材料等に練りこんで配合したものは、フィルムの表面全面に抗菌剤が露出しているわけではないので、抗菌剤の露出していない部位に付着した有害微生物は抗菌剤の影響を受けることなく生き延びてしまうという問題があった。
また一方で、フィルムの表面全面に抗菌性の金属薄膜を形成したフィルムが提案されているものの、その効果の厳密な評価および、より効果の高い構成および手段については詳細には検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−179870
【特許文献2】特開2004−183030
【特許文献3】特開昭61−182943
【特許文献4】特許第2947934
【特許文献5】特表平9―505112
【特許文献6】特表平8―500392
【特許文献7】特開2006−152353
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】富山県工業技術センター平成9年度研究報告 p.II-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、可撓性があり任意の場所に設置することができ、かつ抗菌性能に優れる抗菌フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点に対して、本発明者らは金属薄膜の膜の構造や密度が薄膜形成の方法により異なることに着目し、銅などの抗菌性を有する金属の薄膜の抗菌力と薄膜形成方法との関係に関して詳細な検討を加えてきた。その結果、薄膜の形成方法によって抗菌効果の発現の度合いが異なることを発見し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は抗菌性金属薄膜として、金属蒸発源を加熱溶融させて行う真空蒸着法(以下蒸着法)により形成された薄膜(以下蒸着膜)を用いることで、他の製造方法で製造したものよりも高い抗菌力を得るものである。金属の薄膜をプラスチック基材上に形成する場合、膜厚が比較的薄い場合は膜厚制御性と基材への付着力に優れたスパッタリング法を用いるか、膜厚制御性や基材への付着力は劣るが生産性に優れる蒸着法が一般に用いられる。また、膜厚を概ね1マイクロメートル以上と厚くする場合は、基材への電解めっきまたは電解精錬により製造された銅箔を用いることが一般的である。
【0009】
これらの製造方法の中で蒸着膜が他の方法で形成された金属薄膜より高い抗菌力を示す理由は明確ではない。しかし、蒸着膜はスパッタリング法やめっき法で形成された金属層と比較して膜の密度が低いため、水分や空気中の酸素による金属の酸化反応がより速く起こると考えられる。この高い酸化反応速度が、細菌を死滅させる活性物質である活性酸素や金属イオンの生成を加速して、より大きな殺菌力が得られていると考えられる。
【発明の効果】
【0010】
実施例ならびに比較例の抗菌試験結果から明らかなように、本発明の抗菌フィルムは同じ抗菌性金属を他の方法で形成した抗菌フィルムに比べて短時間により多くの菌を殺すことが可能である。
【0011】
本発明の抗菌フィルムを、壁・床・天井・窓枠・押入れ内張り・手摺・ドアノブなど建造物の建材表面、あるいはテーブル・食器棚・作業台・カーテンなど家具または室内装飾品の表面に設置することにより、従来提案されてきた構成の抗菌フィルムや銅箔・銅板に比べ低コストで、かつより効果的に室内環境中の黴や有害細菌類の増殖を抑制して健康被害のリスクを低減することができる。
さらに本発明の抗菌フィルムを容易に除去可能な状態で設置することにより、建材や家具または室内装飾品といった対象物自体に抗菌加工を施す場合と違い、前記外観の変化を機に該抗菌フィルムを除去したり別のフィルムと交換したりすることで、良好な環境を保つことが容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
抗菌性金属を、金属蒸発源を加熱溶融させて行う真空蒸着法により形成することにより、高い抗菌効果を得ることが可能になる。金属蒸発源を加熱溶融させて行う手段としては、成膜速度の制御性が良好なことから電子ビームを照射して加熱を行う方法(いわゆるEB蒸着)、通電加熱、誘導加熱など一般に利用されている全ての加熱方法を利用できる。これらの加熱方法で金属蒸発源を加熱して溶融、さらに蒸発させる蒸着方法を採用することにより、他の金属薄膜形成方法、例えばスパッタリング法、電解析出(めっき)法を用いるのに比べてより高い有害微生物低減効果を得ることができる。
【0013】
抗菌性金属層の構成物質は、銅、銀、または銅合金、銀合金から選ぶのが最も好ましいが、人体に対して毒性の低い金属として亜鉛、白金、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属やアルミニウムなど、また前記金属を含有する合金も使用することができる。
また、該抗菌フィルムを望ましい位置に設置し固定するために、基材の一方の面に粘着剤層が形成され、粘着剤層が形成されている側と反対側の面には抗菌性金属が形成された構成とすることで容易に固定が可能になる。さらに設置だけでなく抗菌性能が劣化した際に容易に除去できるように、粘着剤層には再剥離可能な粘着剤を使用することが望ましい。また、基材の選択によっては粘着剤層との剥離強度が低く、除去した際に設置対象に粘着剤が残留する、いわゆる糊残りが発生するため、該粘着剤層は基材に近い側から遠い側に向かって順に剥離強度が小さくなるように少なくとも2層形成されていることが好ましい場合もある。
【0014】
また、抗菌性金属薄膜を形成したフィルムを少なくとも2層以上積層し、かつ積層した後に抗菌性金属に接しない最外層の粘着剤層の剥離強度が他の層の粘着剤層の剥離強度よりも大きくなるように予め構成した抗菌フィルムを使用することにより、最表層の抗菌性能や外観が劣化した際には最表層のみを除去することで容易に抗菌性能や外観を回復することができる。
【0015】
抗菌性金属薄膜の膜厚を概ね5ナノメートル以上とすることで、基材の表面全面を金属薄膜で完全に被覆することができる。一方、抗菌性金属薄膜の膜厚を1マイクロメートル以下とすることにより、該抗菌フィルムを取り扱う際にその端面で手を切傷する危険を避けることができる。さらに抗菌性金属薄膜の膜厚を20ナノメートル以下にすることで、該金属薄膜を光線が透過できるようになるため、基材に施された各種意匠を該抗菌フィルムの外観に反映させることが可能になり、該抗菌フィルムを設置した建造物内装や家具または室内装飾品全体の意匠性を向上させることが可能になる。
【実施例】
【0016】
次に本発明を実施例及び比較例に基づき更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0017】
市販の二軸延伸ポリプロピレンフィルム(以下OPPフィルム、東セロ株式会社製「エコネージュ」(登録商標)、フィルム厚50マイクロメートル)の片側表面に、電子ビーム加熱真空蒸着法により、純銅薄膜を膜厚50ナノメートル形成した。このときの装置内の圧力(Base Pressure)は2×10のマイナス4乗パスカル、蒸着源の銅の純度は99.9%以上、銅薄膜の形成速度は毎秒10ナノメートルであった。こうして作製した銅薄膜つきフィルムを50ミリメートル四方の大きさに切り出し、大腸菌および黄色ブドウ球菌について、JISZ2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」に基づく試験と、それに加えて試験時間だけを通常の24時間器加え以外に15分間に変えての試験を、それぞれ1検体3連性にて行った。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0018】
市販の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下OPETフィルム、帝人デュポンフィルム株式会社製「OX」グレード、フィルム厚50マイクロメートル)の片側表面に、実施例1と同一条件で同じ膜厚の純銅薄膜を形成した。こうして作製した銅薄膜つきフィルムを50ミリメートル四方の大きさに切り出し、実施例1と同一の抗菌性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0019】
[比較例1]
実施例1と同じ仕様のOPPフィルムの片側表面に、高周波スパッタリング法により、実施例1と同一膜厚である50ナノメートルの純銅薄膜を形成した。このときの装置内の圧力(Base Pressure)は2×10のマイナス4乗パスカル、成膜雰囲気ガスはアルゴンで成膜時圧力は0.5パスカル、銅薄膜の形成速度は毎秒0.02ナノメートル、スパッタターゲットの銅の純度は99.9%以上であった。こうして作製した銅薄膜つきフィルムを50ミリメートル四方の大きさに切り出し、実施例1と同一の抗菌性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0020】
[比較例2]
実施例2と同じ仕様のOPETフィルムの片側表面に、比較例1と同一条件で同じ膜厚の純銅薄膜を形成した。こうして作製した銅薄膜つきフィルムを50ミリメートル四方の大きさに切り出し、実施例1と同一の抗菌性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0021】
[比較例3]
市販の電解銅シートを50ミリメートル四方の大きさに切り出して被試験体とし、実施例1と同一の抗菌性試験を実施した。結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性高分子フィルム基材の少なくとも一方の表面に少なくとも1層の抗菌性金属薄膜を形成してなり、該金属薄膜は金属蒸発源を加熱溶融させて行う真空蒸着法により形成されている抗菌フィルム。
【請求項2】
抗菌性金属薄膜の材質が銅、銀、銅合金、銀合金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属である請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項3】
基材の一方の面に粘着剤層が形成され、少なくとも粘着剤層が形成されている側と反対側の面には抗菌性金属が形成されている請求項1ないし2に記載の抗菌フィルム。
【請求項4】
再剥離可能な粘着剤層が形成されている請求項3に記載の抗菌フィルム。

【公開番号】特開2010−247450(P2010−247450A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100132(P2009−100132)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】