説明

抗菌性のある不凍タンパク質含有植物抽出物

【課題】不凍活性および抗菌活性を有する、安全性の高い植物抽出物を得る。
【解決手段】ワサビ属の植物の葉を低温保存したものを抽出することにより得られる、抗菌性のある不凍タンパク質含有抽出物、それを含有する不凍剤、氷結晶制御剤、抗菌剤、ならびにそれを用いることを特徴とする食品の品質劣化防止方法、ならびにそれを含有する食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の機能性抽出物に関する。詳細には、ワサビ属の植物の葉に由来する抗菌性のある不凍タンパク質含有抽出物、ならびにその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、低温下で棲息する生物が、不凍タンパク質を生産することが明らかにされている。不凍タンパク質は、食品分野、工業分野、土木建築分野等における応用が期待されている、それらを目的とした新規不凍タンパク質の検索および開発が続けられている。食品分野に応用される不凍タンパク質として、安全性の高い生物に由来するものがいくつか報告されており、魚由来のもの(特許文献1参照)、担子菌由来のもの(特許文献2参照)、冬野菜由来のもの(特許文献3参照)、冬ライ麦由来のもの(特許文献4参照)、ニンジン由来のもの(特許文献5参照)、細菌由来のもの(特許文献6参照)等がある。さらに、カイワレ大根由来の不凍タンパク質(特許文献7参照)や冬野菜スプラウトを用いた機能性タンパク質の製造(特許文献8)も報告されている。また、安全性とは関係なく、地衣類由来の新規な不凍タンパク質(特許文献9)に関する報告もある。
【0003】
特に食品に応用される不凍タンパク質の場合、不凍活性のみならず安全性が高いものを得ることが重要であり、上記の不凍タンパク質もそうした課題を解決せんと開発されているものである。しかしながら、抗菌活性などの食品への応用に適したさらなる機能を有する不凍タンパク質があれば、さらに有用性が高くなる。
【特許文献1】特開2004−083546
【特許文献2】特開2003−66826
【特許文献3】特開2001−245659
【特許文献4】国際公開第92/22581号
【特許文献5】欧州特許公開第843010号
【特許文献6】特開2004−161761
【特許文献7】特願2005−353561
【特許文献8】特願2005−372513
【特許文献9】特公2002−508303
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不凍活性および抗菌活性を有する、安全性の高い植物抽出物を得ることが本発明の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、ワサビ属の植物の葉に由来する抽出物が上記特性を兼ね備えていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は:
(1)ワサビ属の植物の葉を低温保存したものから得られる、抗菌性のある不凍タンパク質含有抽出物;
(2)低温保存が約0℃〜約10℃で行われる、(1)記載の抽出物;
(3)低温保存が約3日〜約2週間行われる、(1)または(2)記載の抽出物;
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の抽出物を含有する不凍剤;
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の抽出物を含有する氷結晶制御剤;
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載の抽出物を含有する抗菌剤;
(7)(1)〜(3)のいずれかに記載の抽出物を食品に適用することを特徴とする、食品の品質劣化防止方法;
(8)(1)〜(3)のいずれかに記載の抽出物を含む食品。
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ワサビ属の植物の葉に由来する抗菌性のある不凍タンパク質含有抽出物、ならびにそれを含有する不凍剤、氷結晶制御剤、抗菌剤、ならびにそれを用いることを特徴とする食品の品質劣化防止方法、ならびにそれを含有する食品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、1の態様において、ワサビ属の植物の葉を低温保存したものから得られる、抗菌性のある不凍タンパク質含有抽出物を提供する。本発明の抽出物の原料である植物の葉はワサビ属の植物の葉であれば、いずれの種類の植物の葉であってもよい。ワサビ属の植物としては、ワサビ、ユリワサビ、オオユリワサビが例示されるが、食品への応用を考慮するとワサビ(Wasabia japonica)の葉が好ましい。本明細書において、「葉」という場合には葉柄および茎を含んでもよい。以下、植物としてワサビを例にとって説明するが、他のワサビ属の植物の場合にもこれらの説明があてはまる。
【0009】
ワサビの葉の収穫時期は、葉があれば1年中可能である。夏季は葉が旺盛に茂るので収穫量が多くなり好ましい。また、ワサビ漬けなどの加工後に出る廃棄物としての葉を用いてもよい(ワサビの葉は収穫時には硬くて食材にならない)。廃棄されるワサビの葉は大量(一生産地で200トン超)で、本発明は未利用資源の有効利用という点からも好ましい。
【0010】
本発明の抽出物を得るには、ワサビの葉を低温保存する必要がある。通常は約10℃以下で保存する。保存温度は約0℃〜約10℃の範囲が好ましい。さらに好ましい保存温度は約2℃〜約6℃である。保存温度が高すぎると自己消化などによる成分の分解が起こり、保存温度が低すぎると葉の活性が低下して所望の活性が得られにくくなる。保存期間は短くても1〜3日、長くても2〜3週間が適当である。好ましい保存期間は約3日〜約2週間である。保存期間が短すぎると不凍タンパク質の生成が不十分となり、保存期間が長過ぎると葉の成分が変化し、所望の不凍活性および抗菌活性が得られなくなる。保存は明所でも暗所でもよい。周囲温度が十分に低い季節(例えば、約10℃以下)においては、収穫したわさびの葉を低温保存することは必須ではなく、収穫してそのまま抽出工程に付してもよい。そのような場合であっても、本明細書における「低温保存」に該当するものとする。
【0011】
上記のごとく低温保存されたワサビの葉を抽出することにより本発明の抽出物を得ることができる。抽出は当業者に知られた種々の方法により行うことができる。抽出の前、あるいは抽出中に粉砕などの処理を加えて、抽出効率を高めてもよい。スプラウトの粉砕手段は各種のものが使用可能である。例えば、加圧型破壊、機械的磨砕、超音波処理、ホモジナイザー等の物理的破砕方法を用いることができる。粉砕手段の典型例としては、ポッター−エルベージェムホモジナイザーなどのホモジナイザー、ワーリングブレンダーなどのブレンダー、ダイノーミルなどの粉砕器、フレンチプレス、乳鉢および乳棒、らいかい器、液体窒素による凍結および破砕、超音波処理などの手段が挙げられる。スプラウトまたはその粉砕物を水、食塩水または適当な緩衝液(例えば、酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液)などの抽出媒体に懸濁し、内容物の抽出を行う。所望により、抽出時に粉砕および/または撹拌してもよい。抽出は、浸漬法、減圧抽出、ミキサー粉砕などの公知手段を用いて行うことができる。抽出媒体は、目的物質の変性が少ないもの、毒性が低いものが好ましい。好ましい抽出媒体としては、水、食塩水、酢酸ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、メタノール、エタノール等の有機溶媒などが挙げられる。本発明の抽出物を食品に適用する場合を考慮すると、好ましい抽出媒体は水、食塩水、酢酸ナトリウム水溶液、あるいはこれらを適宜混合したもの等である。抽出媒体の組成、pH、温度、抽出時間は、ワサビの葉の量や性状などに応じて適宜選択することができる。一般的には、抽出媒体のpHは中性付近(約5〜約9)であり、抽出温度は通常には約10℃〜約100℃、好ましくは約20℃〜約30℃である。
【0012】
得られた抽出物はそのまま用いることができるが、必要に応じ、さらに精製を行ってもよい。例えば、デカンテーション、濾過、遠心分離等の処理を行って夾雑物を除去してもよい。また例えば、硫酸アンモニウム等の塩析やエタノール等の有機溶媒による沈澱、限外ろ過による分画、等電点沈殿法による分画、イオン交換、吸着、ゲル濾過、疎水性クロマトグラフィーもしくはアフイニティー等のクロマトグラフィーを用いて抽出物を精製してもよく、透析や濃縮過程を施してもよい。食品への応用を考慮すると、ゲルろ過等のクロマトグラフィー、限外濾過による分画が好ましい。これらの操作は当業者に公知のものであり、所望活性の種類や純度、あるいは用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0013】
本発明の抽出物は不凍活性および抗菌活性を併せ持つ。本発明の抽出物の不凍活性は分子量約10000以上の画分に見出され、その本体は分子量約330000のタンパク質と考えられる(実施例参照)。
【0014】
必要ならば、得られた抽出物を、デカンテーション、ろ過、または遠心分離などに付して固形分および粒子状物質を除去することができる。得られた抽出物は液状であっても、固形状であっても、あるいは半固形状であってもよい。当業者は用途に応じて本発明の抽出物の形状を選択し、選択した形状の抽出物を得ることができる。抽出物を、公知方法、例えばエバポレーション、限外ろ過、エタノール等の有機溶媒による沈殿法、硫安等の塩析法などにより濃縮してもよい。本発明の抽出物の食品への適用を考慮すると、限外ろ過、エバポレーションなどが好ましい。また、抽出物を、凍結乾燥、スプレー乾燥、温風乾燥等などの公知方法により乾燥し、粉砕して顆粒あるいは粉末状としてもよい。
【0015】
本発明の抽出物の不凍活性は、細胞や組織を凍結から守る用途、例えば、冷凍食品の融解時のドリップ防止、食品の凍結濃縮、チルド食品の食感向上、でんぷん加工食品の低温保存時の品質劣化防止、精子や臓器などの凍結保存、化粧品の分離防止、機器の可動部の凍結防止、自動車の不凍液としての使用、除霜、道路や地盤の凍結防止などへの利用が考えられる。本発明の抽出物は食用とされているワサビ属の植物の葉に由来するものなので、安全性が高く、特に食品への応用に好適である。なお、本明細書において、「不凍活性」には氷結晶制御活性(すなわち、氷結晶の生成を抑制する活性)も包含される。本発明の抽出物を用いて、例えば、でんぷん加工食品の低温保存時のでんぷん老化を抑制し、食品の品質劣化を防止することができる。本明細書において、食品の「品質劣化防止」という場合には、食品の食感の劣化防止のほかに、食品の防腐などの保存性の向上が包含される。
【0016】
本発明の抽出物のもう1つの活性、すなわち抗菌活性を利用して食品の保存性を向上させることができる。本発明の抽出物は安全性が高く、不凍活性と抗菌活性を併せ持つので食品の品質劣化防止に好適である。
【0017】
本発明の抽出物は上記のような性質を有するので、本発明は、さらなる態様において、本発明の抽出物を含有する不凍剤、本発明の抽出物を含有する氷結晶制御剤、および本発明の抽出物を含有する抗菌剤を提供する。
【0018】
本発明の抽出物を含有する不凍剤および氷結晶制御剤は、冷凍食品の融解時のドリップ防止、食品の凍結濃縮、チルド食品の食感向上、でんぷん加工食品の低温保存時の品質劣化防止、精子や臓器などの凍結保存、化粧品の分離防止、機器の可動部の凍結防止、自動車の不凍液としての使用、除霜、道路や地盤の凍結防止などへの利用が考えられる。本発明の不凍剤の形状は液体であってもよく、半固形、固形であってもよい。本発明の不凍剤には、本発明の抽出物のほかに、1種またはそれ以上の他の不凍成分、例えばグリセリンやその誘導体、他の不凍タンパク質、糖類、アミノ酸、アルコールなどが含まれていてもよく、あるいは1種またはそれ以上の他の氷結晶制御成分が含まれていてもよい。本発明の不凍剤または氷結晶制御剤の適用量は当業者が効果を見ながら容易に決定することができる。
【0019】
本発明の抽出物を含有する抗菌剤は、食品の保存性を向上させる目的に好適である。本発明の不凍剤の形状は液体であってもよく、半固形、固形であってもよい。例えば、液体の本発明の抗菌剤を食品にスプレーすることにより適用してもよい。あるいは本発明の抗菌剤をふりかけの形状として食品に適用してもよい。本発明の抗菌剤は食品のほか、化粧品、医薬品にも適用可能である。本発明の抗菌剤には、本発明の抽出物のほかに、1種またはそれ以上の他の抗菌成分あるいは防腐成分、例えば安息香酸、パラベン、アリルイソチオシアネートなどが含まれていてもよい。本発明の抗菌剤の適用量は当業者が効果を見ながら容易に決定することができる。
【0020】
本発明は、もう1つの態様において、本発明の抽出物を食品に適用することを特徴とする、食品の品質劣化防止方法を提供する。本発明の品質劣化防止は、本発明の抽出物の不凍活性、氷結晶制御活性、および抗菌活性が相俟って奏するものである。本発明の抽出物の食品への適用は、種々の手段・方法により行うことができる。あらかじめ本発明の抽出物を適用しておいた食材を用いて食品を製造してもよい。あるいは製造した食品に本発明の抽出物を適用してもよい。本発明の抽出物の食材や食品への適用は、スプレー散布、ふりかけ、混ぜ込み、浸漬、はけ塗り、浸透など様々で、食材または食品の性質や形状、量、所望の効果などに応じて適宜選択することができる。上述のごとく、本発明の抽出物にはでんぷん加工食品の低温保存時のでんぷん老化を抑制する作用があるので、例えばコンビニの弁当などに本発明の抽出物を適用して、低温保存時の食感を保持すると同時に雑菌の繁殖を抑え、品質劣化を防止することができる。上記方法における本発明の抽出物の適用量は当業者が効果を見ながら容易に決定することができる。
【0021】
本発明は、さらにもう1つの態様において、本発明の抽出物を含有する食品を提供する。かかる食品は、本発明の抽出物を食品に適用することによって得られる。ここで食品には食材も包含される。さらに食品には動物の飼料も包含される。本発明の食品は、冷凍保存して解凍した場合にドリップが少なく、食感が劣化しにくいという利点を有する。また、本発明の食品は、雑菌の繁殖が防止され、保存性が向上したものである。本発明の抽出物を食品に適用する手段・方法としては、スプレー散布、ふりかけ、混ぜ込み、浸漬、はけ塗り、浸透など様々なものがあり、食材または食品の性質や形状、量、所望の効果などに応じて適宜選択することができる。
【0022】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【0023】
実施例において用いた実験方法について説明する。
(1)不凍活性の測定方法
低温度制御が可能な位相査顕微鏡(Olympus、L600A)を使用し、ガラスシャーレを−20℃に保持し、その上に1μlの試料を置き、100℃/分で−40℃に温度を低下させる。その後、100℃/分で−5℃にし、そこから5℃/分で氷の結晶を溶解させる。結晶を単一にさせた後、1℃/分で温度を低下させ、氷を再結晶化し、写真を取り込んだ。ブランクとしてはMilliQを使用し、標準としては、AFP I(市販されている魚由来の不凍タンパク質、A/F Protein Inc., MA、 USA)を使用した。また熱ヒステレシス(Thermal hysteresis、℃)の測定は、オスモメーターで測定した。
(2)タンパク質量の測定方法
タンパク質量はBradford法により測定した。
(3)実施例に示す実験で用いた他の実験手法、例えば電気泳動やゲル濾過などは通常の方法により行った。
【実施例1】
【0024】
実施例1 ワサビ葉抽出物の調製
長野県安曇野で水耕栽培されているワサビの葉2.17kg(湿重量)を収穫し、4℃で1週間保存した。葉をそのままの状態で処理し、20mM酢酸ナトリウム緩衝液,pH4.5(1500ml)に浸漬し、30分間、減圧抽出を行った(20℃にて、水流アスピレーターを使用)。得られた抽出物(2.14g)をセントリカット(M.W.10000)にて分画・濃縮し(13000Xg、10分)、分子量10000未満の画分と、分子量10000以上の画分に分けた。得られた各画分を以下の実験に使用した(以下において、このようにして得られた分子量10000以上の画分を「抽出液」という)。
【0025】
実施例2 抽出液の活性測定
実施例1の記載の方法で得られた抽出液(タンパク量2.69mg/ml)、および分子量10000未満の画分(図1で抽出外液と表示)について系列希釈を行って、不凍活性を測定した。図1に示すように、抽出液は4倍希釈(タンパク量0.675mg/ml)まで不凍活性を示したのに対し、抽出外液には不凍活性が見られなかった。この結果より、ワサビ葉の不凍活性は分子量10000以上の画分に存在することがわかった。また、この抽出液を100℃で60分加熱した後、不凍活性を調べたところ、活性が保持されていることがわかった(図2)。コントロールには熱処理しなかった抽出液を用いた。
【0026】
実施例3 抽出液の氷再結晶抑制機能
実施例1の記載の方法で得られた抽出液(タンパク量4.07mg/ml)を用いて、氷再結晶抑制試験を行った。試験は、(1)不凍活性の測定方法に準じて等量の60%ショ糖溶液と混合し、−150℃にて凍結後−6℃に保持したサンプルを観察した。コントロールとして20mM酢酸ナトリウム溶液を使用した。図3に示すように、抽出液は氷再結晶を抑制することがわかった。
【0027】
実施例4 抽出液のゲルろ過による精製
実施例1の記載の方法で得られた抽出液をスーパーロース12カラム(1.0X30cm、溶出液20mM Tris−HClバッファー(pH8.0))に通して、各フラクションの280nmおよび215nmにおける吸光度を測定した(図4)。さらにフラクション#27−29、#32−34、41−43、#50−51、#52−53、および#55−57の不凍活性および熱ヒステリシスも調べた。その結果、フラクション#32−34に不凍活性が認められた(図5)。さらに、これらのフラクションをSDS−PAGEにより解析したところ、不凍活性のあるフラクション#32−34に分子量約330000(約33kDa)のバンドが認められた(図6)。この分子量約330000のタンパク質がワサビ葉の不凍タンパク質(AFP)であると考えられた。
【0028】
実施例5 抽出液の抗菌活性
実施例1の記載の方法で得られた抽出液(タンパク量1μg/ml)に甘エビを浸漬した後、取り出して4℃で3日間保存した。1日毎に一定量をサンプリングして20mM酢酸ナトリウムバッファーに懸濁したものを、標準寒天培地およびBCP(ブロモクレゾールパープル)添加プレート寒天培地に撒き、コロニー数を計測することにより、甘エビに繁殖した菌数を算出した。コントロールとして20mM酢酸ナトリウムバッファーを甘エビに適用したもの、比較として大根葉から実施例1と同様にして調製した抽出液(タンパク量1μg/ml)を甘エビに適用したものを用いた。甘エビの一般生菌数を図7に、甘エビの乳酸菌数を図8に示す。図7に示すように、ワサビ葉抽出液は1日目および2日目には一般生菌数をコントロールの半分以下に抑制した。3日目でも一般性菌数はコントロールの約60%であった。大根葉抽出液は1日目には若干の効果を示したが、2日目および3日目には抗菌効果がほとんどなくなっていた。図8に示すように、ワサビ葉抽出液は3日間にわたり乳酸菌数をコントロールの約半分に抑制し、3日目にはコントロールの半分以下の菌数であった。大根葉抽出液は抗菌効果がなく、3日目の乳酸菌数はコントロールを上回った。これらの結果から、本発明のワサビ葉抽出物は食品の雑菌繁殖を効果的に抑制し、特に、食品の味に大きな影響を及ぼす乳酸期の繁殖を強く抑制することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、ワサビ属の植物の葉に由来する抗菌性のある不凍タンパク質含有抽出物、ならびにそれを含有する不凍剤、氷結晶制御剤、抗菌剤等が得られる。これらの抽出物、ならびに不凍剤、氷結晶制御剤、抗菌剤等は、食品分野のみならず工業分野、土木建築分野等において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、実施例1に記載の方法で得られたワサビ葉抽出液の不凍活性を調べた結果である。
【図2】図2は、実施例1に記載の方法で得られた抽出液の不凍活性に関する耐熱性試験の結果である。
【図3】図3は、実施例1に記載の方法で得られた抽出液の氷再結晶抑制試験の結果である。
【図4】図4は、実施例1に記載の方法で得られた抽出液のスーパーロース12ゲル濾過カラムクロマトグラフィーの溶出パターンを示す。上のパネルは280nmの吸光度のパターン、下のパネルは215nmの吸光度のパターンである。
【図5】図5は、実施例1に記載の方法で得られた抽出液のスーパーロース12ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより得られた各フラクションの氷結晶解析(不凍活性)と熱ヒステリシスを調べた結果である。
【図6】図6は、実施例1に記載の方法で得られた抽出液のスーパーロース12ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより得られた各フラクションのSDS−PAGE解析の結果を示す。
【図7】図7は、実施例1に記載の方法で得られた抽出液の抗菌活性を、甘エビを4℃で保存した場合の一般生菌数にて示したものである。黒はコントロール(酢酸ナトリウムバッファー)、灰色は大根葉抽出液、白はワサビ葉抽出液の結果である。
【図8】図8は、実施例1に記載の方法で得られた抽出液の抗菌活性を、甘エビを4℃で保存した場合の乳酸菌数にて示したものである。黒はコントロール(酢酸ナトリウムバッファー)、灰色は大根葉抽出液、白はワサビ葉抽出液の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワサビ属の植物の葉を低温保存したものから得られる、抗菌性のある不凍タンパク質含有抽出物。
【請求項2】
低温保存が約0℃〜約10℃で行われる、請求項1記載の抽出物。
【請求項3】
低温保存が約3日〜約2週間行われる、請求項1または2記載の抽出物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の抽出物を含有する不凍剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の抽出物を含有する氷結晶制御剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の抽出物を含有する抗菌剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項記載の抽出物を食品に適用することを特徴とする、食品の品質劣化防止方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項記載の抽出物を含む食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−120745(P2008−120745A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307997(P2006−307997)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(300044333)株式会社マル井 (1)
【Fターム(参考)】