説明

抗菌性樹脂成形体、および抗菌性樹脂成形体からなる食品飲料用送液ホース

【課題】銀イオンよりも抗菌性が良好で透明材料に用いた場合にも透明性を維持することができ、溶出物が極力少なく、かつ食品用途にも用いることができる抗菌性樹脂成形体を提供する。
【解決手段】化学構造式(1)


(Xは酸素、硫黄あるいはセレンを表し、aは0〜10の整数。)で示される繰り返し単位を有する樹脂と、アルキレンイミンの繰り返し単位を有する樹脂を含有する抗菌性樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌特性を有する樹脂成形体に関するものであり、詳しくは、透明性樹脂にも不透明樹脂にも用いることができ、特に管状材料として好適に用いられる抗菌性樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、室内水回り関係や高温多湿の場所等の衛生的な環境を必要とされる部分に、カビや細菌の発生を予防できる製品が要望されている。
【0003】
他にも、具体的には食品包材、建築関係、衣類、衛生用品、台所用品および水処理装置などの各種高分子素材に抗菌性物質を含有させ、有害な微生物の生育を制御する技術は以前から存在している。
【0004】
特に、食品包材や水処理装置の場合には、人間への安全性から無機系化合物である銀イオン置換ゼオライトを主な抗菌性物質として用いることが一般的であった。金属イオンの中では銀イオンの抗菌性が最も強く、特に硝酸銀溶液は、医療や軍事用にも殺菌剤として用いられてきた歴史がある。しかしながら、銀含有抗菌剤は、無機系化合物中では抗菌能が優れている反面、高温あるいは光照射により変色したり、透明性を損なう等の問題があり、また、抗菌性能が経時で低下する。抗菌性物質としては、無機系化合物だけでなく天然品も安全性の面から注目を集めているが、天然品は抗菌性能が低い等の問題がある。
【0005】
一方、有機系化合物は、一般的に抗菌性能が天然品や無機系化合物よりも優れているが、水や有機溶媒等に溶解しやすく、かつ揮発や分離もしやすい。また、その毒性のために、かえって敬遠されがちである。したがって、衣服、日用品、家具または建材のような抗菌性能を長期間必要とする用途には適さない。
【0006】
このような状況において、最近では、ポリマー素材に有機系抗菌剤をイオン結合または共有結合させた、不溶性で毒性を示さない固定化抗菌材料が開発されている。
【0007】
具体的に、カルボキシル基やスルホン酸基等の酸性基とイオン結合した4級アンモニウム塩基を有する抗菌成分を含む高分子物質を主体とした抗菌性材料が提案されている(特許文献1参照)。また、ホスホニウム塩を高分子物質に固定化して用途の拡大を試みた発明として、ホスホニウム塩系ビニル重合体の抗菌剤についての提案(特許文献2参照)、ビニルベンジルホスホニウム塩系ビニル重合体の抗菌剤についての提案(特許文献3参照)、そして他にも高分子系抗菌剤と親水性ビニル系重合体を含む抗菌性樹脂組成物についての提案(特許文献4参照)がなされている。
【特許文献1】特開昭54−86584号公報
【特許文献2】特開平4−814365号公報
【特許文献3】特開平5−310820号公報
【特許文献4】特開2001−055518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、銀置換ゼオライトのプラスティックシートへの練り込みにおいては、利用される銀イオンは表面に露出しているごくわずかな銀置換ゼオライト分だけであり、このことは高価な銀の利用効率が非常に低いことを示している。さらに、抗菌性シートを栄養供給源のある状態で用いると、抗菌性は銀イオンによる微生物の生育阻止能と微生物の成長速度との競争関係によって決まるため微生物に接触可能な銀イオンの絶対量を増やす必要がある。しかしながら、従来の練り込み法では、連続生産性やピンホールによるバリヤー性低下などから、ゼオライトの含有率は重量比で5%が上限であり、表面の銀イオン濃度は非常に限られた範囲でしか変えられないという問題があった。また、透明な樹脂でも銀イオンを練り込むことで、白濁してしまい食品包材用途や水処理装置用途では、内容物の変化が目視できなくなるという課題や、効用期間に限度があるなどの問題もある。
【0009】
また、高分子系抗菌剤と親水性ビニル系重合体とを含む抗菌性樹脂組成物等については、例えば、食品用途等には親水性ビニル系重合体が食品に溶出したり、また抗菌効果が長持ちしない等の問題が生じる。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記した問題を解決し、銀イオンよりも抗菌性が良好で透明材料に用いた場合にも透明性を維持することができ、かつ食品用途にも用いることができる抗菌性樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の抗菌性樹脂成形体以下の構成からなるものである。すなわち、本発明の抗菌性樹脂成形体は、下記の化学構造式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Xは酸素、硫黄あるいはセレンを表し、aは0〜10の整数である。)で示される繰り返し単位を有する樹脂と、下記の化学構造式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、x、yおよびzはそれぞれ1〜10の整数で、mとnの比は0.1:99.9〜99.9:0.1であり、AおよびBはそれぞれ独立に水素原子および結合から選ばれる。)で示される繰り返し単位を有する樹脂を含有することを特徴とする抗菌性樹脂成形体である。
【0016】
本発明の抗菌性樹脂成形体の好ましい態様においては、前記の化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂はポリビニルピロリドンまたはその共重合体であり、また、前記の化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂はポリエチレンイミンまたはその共重合体である。
【0017】
本発明の抗菌性樹脂成形体の好ましい態様において、本発明の抗菌性樹脂成形体は、ポリスルホンおよび/またはポリエーテルスルホンの繰り返し単位からなる樹脂を含むものである。
【0018】
本発明の抗菌性樹脂成形体の好ましい態様において、本発明の抗菌性樹脂成形体は、エチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂を含むものである。
【0019】
本発明の抗菌性樹脂成形体の好ましい態様において、本発明の抗菌性樹脂成形体は、アルキル基の炭素数が1〜10であるポリアルキレングリコールを含むものである。
【0020】
本発明の抗菌性樹脂成形体の好ましい態様において、本発明の抗菌性樹脂成形体の水中溶出量は500ppm以下である。
【0021】
本発明の抗菌性樹脂成形体の好ましい態様において、本発明の抗菌性樹脂成形体の形体は管状であり、この管状の抗菌性樹脂成形体は、飲料用送液ホース等に好適であり、この飲料用送液ホースは、浄水器等に好適に用いられる。
【0022】
本発明の抗菌性樹脂成形体の好ましい態様においては、抗菌性樹脂成形体は成形工程後に放射線が照射されてなるものであり、放射線としては電子線やγ線が好適である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、優れた抗菌特性を持ち、元々透明な高分子化合物素材を用いることで透明な抗菌成形体を得ることができ、親水性ポリマーを含有していても水中溶出量は極めて小さい抗菌性樹脂成形体が得られる。また、本発明の抗菌性樹脂成形体は、親水性ポリマーを含有しており、滑り性を向上させているため、水垢のような付着物が付きにくいという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の抗菌性樹脂成形体は、下記の化学構造式(1)
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、Xは酸素、硫黄あるいはセレンを表し、aおよびbは0〜1の整数である。)で示される繰り返し単位を有する樹脂と、下記の化学構造式(2)
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、x、yおよびzはそれぞれ1〜10の整数で、mとnの比は0.1:99.9〜99.9:0.1であり、AおよびBはそれぞれ独立に水素原子および炭素原子との結合から選ばれる。)で示される繰り返し単位を有する樹脂を含有することを特徴とする抗菌性樹脂成形体である。AおよびBはそれぞれ独立に水素原子および結合から選ばれるとは、A及びBが水素原子で構成される1級アミンのような直鎖状高分子、A又はBの一方が水素原子、もう一方が炭素原子との結合である2級アミンや、A及びBが炭素原子との結合である3級アミン等の分岐状高分子を表すものである。
【0029】
本発明においては、賦与すべき機能に応じて種々のモノマーの繰り返し単位を高分子素材中に含有させて使用することができる。親水性、生体適合性および制電性を賦与するために、上記の化学構造式(1)中、Xは酸素、硫黄あるいはセレンの中から選択可能で、aは0〜10の整数の範囲で選択することができる。また、上記の化学構造式(2)中、x、yおよびzもそれぞれ0〜10の整数の範囲で選択することができる。
【0030】
上記の各構造式で示される繰り返し単位を有する樹脂の代表的な例を挙げると、化学構造式(1)については、ポリビニルピロリドン、ポリアリルピロリドン、またはその共重合体等が挙げられ、放射線照射時のグラフト活性を考慮すると、特に、Xが酸素で、a=1かつb=0である次の化学式構造式(3)
【0031】
【化5】

【0032】
で示されるポリビニルピロリドンまたはその共重合体が好適である。
【0033】
また、化学構造式(2)については、例えば、ポリエチレンイミン、ポリトリメチレンイミン、ポリテトラメチレンイミン、ポリペンタメチレンイミン、ポリヘキサメチレンイミン、ポリポリヘプタメチレンイミン、ポリオクタメチレンイミン、ポリノナンメチレンイミン、ポリデカンメチレンイミンおよび1−プロパンイミンまたはそれらの共重合体等が挙げられ、他にもポリビニルアミンやポリアリルアミン等の合成高分子化合物、およびポリオルニチンやポリリジン等のポリアミノ酸等を用いることができる。これらの中でも、放射線照射時のグラフト活性を考慮すると、x、yおよびzの全てが2で、mとnの比が1:1である、ポリエチレンイミンまたはその共重合体が好適である。
【0034】
本発明で用いられる化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂には、親水性ポリマーが好適に用いられる。モノマーよりもポリマーが好適な点は、樹脂成形後に抗菌材料として各種水溶液などと接触した場合に、全般的にモノマーよりもポリマーの方が各種水溶液に溶出しにくいためである。
【0035】
本発明で好適に用いられるポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、好ましくは2000〜2000000であり、より好ましくは10000〜1500000である。入手の容易さの点からは、市販されている重量平均分子量110万、4.5万、2.9万、9000、2900のポリビニルピロリドンが好適に用いられる。ここで記したポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、原料段階での分子量である。後工程で放射線架橋などの手段を用いた場合にはポリビニルピロリドンの分子量は、原料段階での分子量より大きなものとなっている。
【0036】
ポリビニルピロリドンの商品例としては、“コリドン”(登録商標)12 PF、同17 PF、同25、同30、同90(BASF社製)、“ルビスコール”(登録商標)K17、同K 30、同K 80、同K90(BASF社製)、および“プラスドン”(登録商標)K−29/32、同K−25、同K−90、同K−90D、同K90−M(ISP社製)等のポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0037】
本発明で用いられるポリビニルピロリドンは、ホモポリマーが好適であるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合されたものであってもかまわない。共重合されるモノマーの例を挙げると、ビニルアルコール、アルキレングリコールおよびカチオン性モノマー(ビニルイミダゾリウムメトクロライド)等が挙げられる。共重合モノマーの量は、特に限定するものではないが、80重量%以下であることが好ましい。
【0038】
ポリビニルピロリドン共重合体の商品例としては、“コリドン”(登録商標)VA 64、(BASF社製)、“ルビスコール”(登録商標)VA 64(BASF社製)、“ルビテック”(登録商標)VPI55K18P、同VPI55 K72W、同Quat 73W、同VPMA 91W、同VPC 55 K65W(BASF社製)、および“プラスドン”(登録商標)S−630(ISP社製)等のポリビニルピロリドン共重合体が挙げられる。
【0039】
本発明において、ポリビニルピロリドンを材料形態として安定に保持し、大量に溶出したり、変形したり、崩壊したりすることを防ぐために、ポリビニルピロリドンを他の樹脂素材を複合させて用いることが好ましい。ポリビニルピロリドンと前記他の樹脂素材との構成および複合方法は、特に限定されるものではなく、他の樹脂素材とポリビニルピロリドンが積層されていても良いが、混合または相溶されている方が好ましい。
【0040】
本発明の抗菌性樹脂成形体に含まれるポリビニルピロリドンの量は、多くの場合、抗菌性樹脂成形体にある程度の強度が必要であるため、好ましくは0.1重量%以上70重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以上50重量%以下であり、最も好ましくは1重量%以上30重量%以下である。
【0041】
本発明の抗菌性樹脂成形体に含まれるポリエチレンイミンの量は、抗菌性樹脂成形体にある程度の強度が必要であるため、好ましくは0.01重量%以上40重量%以下であり、さらに好ましくは0.01重量%以上20重量%以下であり、最も好ましくは0.01重量%以上10重量%以下である。抗菌性樹脂成形体の透明性の点を考慮すると、ポリエチレンイミンの量は、ポリビニルピロリドンの量よりも少ないことが好ましく、更に好ましくはポリビニルピロリドン:ポリエチレンイミンの配合比が3:1以下であり、最も好ましくは5:1以下である。
【0042】
このポリビニルピロリドンの含有量は、元素分析やNMR(核磁気共鳴分析法)などの公知の方法を単独もしくは組み合わせて確認することができる。
【0043】
本発明では、抗菌性樹脂成形体中に、前記の化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂の他に、前記の化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂を併用する。このようにアミノ基を持つポリマーを組み合わせて用いることにより、抗菌効果を一層高めることがてきる。化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂の中でも、前述のようにポリエチレンイミンとその共重合体が最も好ましく用いられる。
【0044】
本発明で用いられるポリエチレンイミンの数平均分子量は、好ましくは200〜100000であり、より好ましくは250〜70000である。入手の容易さの点からは、市販されている数平均分子量250、300、600、1000、1200、1800、10000および70000のポリエチレンイミンが好適である。ここで記したポリビニルピロリドンの数重量平均分子量は、原料段階での分子量である。後工程で放射線架橋などの手段を用いた場合にはポリエチレンイミンの分子量は、原料段階での分子量より大きなものとなっている。
【0045】
ポリエチレンイミンの商品例としては、“エポミン”(登録商標)SP−003、同SP−006、同SP−012、同SP−018、同SP−200、同SP−200、同SP−103、同SP−110、P−1000(日本触媒社製)等のポリエチレンイミンが挙げられる。
【0046】
本発明で用いられるポリエチレンイミン共重合体の数平均分子量は、好ましくは300〜1500000であり、1級アミンである直鎖状高分子だけでなく、2級、3級アミンを含む分岐状のものが好ましく用いられ、1級、2級、3級アミンがそれぞれ単独でも2種類以上が混合されていても用いることができる。また、共重合するものとして、アルキレングリコール、ビニルアルコール、エチレンオキシド、ビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0047】
化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有するポリエチレンイミン等の樹脂は、化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂と組み合わせて用いられる。本発明の抗菌性樹脂成形体に含まれる、化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂と、化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂を組み合わせた総量は、好ましくは0.1重量%以上70重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以上50重量%以下、最も好ましくは1重量%以上30重量%以下である。
【0048】
本発明においては、材料形態として安定に保持し、大量に溶出したり、変形したり、崩壊したりすることを防ぐために、化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂と、化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂を、他の樹脂素材と併用する好ましい。
【0049】
本発明の抗菌性樹脂成形体で用いられる他の樹脂素材としては、熱可塑性樹脂や熱硬化樹脂等が挙げられ、他にも汎用な樹脂やゴム等を用いることができる。中でも他の樹脂素材としては疎水性高分子化合物が好ましく用いられる。
【0050】
このような他の樹脂素材の具体例を挙げると、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリイミン、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレン、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケイ素樹脂、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、AS樹脂(スチレンとアクリロニトリルの共重合体)、ABS樹脂、ACS樹脂(塩素化ポリエチレンにアクリロニトリルとスチレンをグラフト重合したもの)、メタクリル樹脂、ポリエチレン(低密度または/および高密度)、EVA樹脂(エチレンと酢酸ビニル共重合体)、EVOH樹脂(エチレンビニルアルコ−ル)、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリブチレン樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリブタジエン樹脂、フッ素樹脂、(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、ポリアミド、ポリアセタール、飽和ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルエ−テルケトン、液晶プラスチック、セルロース系ポリマー、熱可塑性エラストマー、人工ゴムおよび天然ゴム等が挙げられる。
【0051】
本発明において特に好ましく用いられる他の樹脂素材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルクロリド、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンなどの放射線架橋型樹脂または共重合樹脂であり、同様なビニル型モノマーでもポリイソブチレンやポリビニリデンクロライドなどの放射線崩壊型ポリマーの場合には放射線照射量を極めて低減して反応させる必要がある。これらの区別は、温度や雰囲気等の放射線照射時の条件に影響されるため、条件次第でポリオレフィン樹脂に限らず、ナイロンやポリジメチルシロキサンなども利用することができる。
【0052】
放射線照射を行う際、ポリテトラフルオロエチレン等は、極度に強い放射線を照射すると、経年劣化しやすく物性低下等を引き起こすことがある。他にも、ポリ塩化ビニルは架橋型ポリマーではあるが、放射線により脱塩酸反応を起こし着色する。着色の程度は放射線量によって変わり、色は低線量で飴色になり、高線量で茶褐色になるが、添加剤によっても着色の程度や色合いが変化する。そのため、これらの高分子素材である他の樹脂素材に放射線照射するときには、物性の変化に注意して放射線量を調整する。
【0053】
本発明では他の樹脂素材として、ポリスルホン系ポリマーが最も好ましく用いられる。特に、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基をもつもので、例えば、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンが好適に使用される。これらのポリマー(樹脂)の好ましい数平均分子量は、5000〜100000であり、より好ましくは10000〜50000である。
【0054】
ポリスルホンの商品例としては、“ユーデル”(登録商標)P−1700、同P−3500(テイジンアモコ社製)、“ウルトラゾーン”(登録商標)S3010、同S6010(BASF社製)、“ビクトレックス”(登録商標)(住友化学)、“レーデル”A−200A、同A−300、“レーデル”(登録商標)R−5000、同R−5800(テイジンアモコ社製)、“ウルトラゾーン”(登録商標)E(BASF社製)、“スミカエクセル”(住友化学工業社製)等のポリスルホンが挙げられる。
【0055】
本発明で用いられるポリスルホン系ポリマ−は抗菌効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合したものでも、他のポリマーとのブレンド体であっても良い。他の共重合モノマー、またはブレンドポリマーの添加量は特に限定するものではないが、使用割合はいずれも30重量%以下であることが好ましい。
【0056】
本発明では、他の樹脂素材として、エチレンビニルアルコ−ルポリマー(EVOHポリマー)が最も好ましく用いられる。このポリマーの好ましい数平均分子量は、100〜10000000である。また、エチレン含有率は10〜90%が好ましく、最も好ましくは15〜50%である。
【0057】
エチレンビニルアルコ−ルポリマーの商品例としては、“エバール”(登録商標)L101、F101、H101、E101、G101(クラレエバールカンパニ−社製)、および“ソアノール”(登録商標)V2603、D2908、AT4403、A4412、H4815(日本合成化学社製)等のエチレンビニルアルコ−ルポリマーが挙げられる。
【0058】
本発明で用いられるエチレンビニルアルコ−ルポリマーは、抗菌効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合したものでも、他のポリマーとのブレンド体であっても良い。他の共重合モノマー、またはブレンドポリマーの添加量は特に限定するものではないが、使用割合はいずれも30重量%以下であることが好ましい。
【0059】
本発明の抗菌性樹脂成形体には、抗菌性樹脂成形体の主成分である他の樹脂素材、化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂、および化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂の他に、さらに他のポリマーや添加剤などが、本発明の効果を妨げない範囲で混合されていても良い。
【0060】
具体的に、本発明の抗菌性樹脂成形体には、さらに光増感剤を用いることも可能である。光増感剤を用いると、光子を吸収して励起し、抗菌性樹脂成形体を構成する素材から水素を引抜き、抗菌性樹脂成形体にラジカル活性点を形成することができる。このような光増感剤の例として、ベンゾフエノン、3,3’ ,4,4’−ベンゾフエノンテトラカルボン酸無水物、4,4’−ジメトキシベンゾフエノン、4−クロロベンゾフエノン、2,4−ジクロロベンゾフエノン、4,4’−ジクロロベンゾフエノン、4−フロロベンゾフエノン、4−トリフロロメチルベンゾフエノン、4−メトキシベンゾフエノン、4−メチルベンゾフエノン、4,4’−ジメチルベンゾフエノン、4−シアノベンゾフエノン、o−ベンゾイルベンゾフエノン等のベンゾフエノン系光増感剤、ベンジル、ジベンジルケトン等のベンジル系光増感剤、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系光増感剤、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン系光増感剤、ベンズアルデヒド、4−メトキシベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、1−ナフトアルデヒド等のベンズアルデヒド系光増感剤、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン等のジオン系光増感剤、ジベンゾスベロン、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、9−フルオレノン、3,4−ベンゾフルオレン、1−アセチルナフタレン、ベンズアントロン、9,10−フエナントレンキノン、2−ベンゾイルナフタレン、3,5−ジメチルアセトフエノンおよび4−ブロモアセトフエノン等を挙げることができる。本発明における光増感剤の配合量は、0.0001重量〜5重量%の範囲で好ましく用いられる。
【0061】
本発明の抗菌性樹脂成形体においては、さらに、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールを混合して用いることができる。その配合比は、抗菌性樹脂成形体の主成分である他の樹脂素材、化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂、および化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂との相溶性の問題が無い範囲で使用することができる。
【0062】
ポリエチレングリコールの好ましい数平均分子量は100〜30000であり、より好ましくは100〜20000である。配合比も0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜30重量%、更に好ましくは1〜20重量%の範囲で用いることができる。ポリエチレングリコールを混合することで、樹脂の成形温度を下げ、更に成形時の流動性が向上し、成形歪み、着色および抗菌効果低下を未然に防ぐことが可能となる。
【0063】
本発明の抗菌性樹脂成形体の形態は特に限定されるものではなく、延伸成形、射出成形、押出成形、キャスト製膜法および湿式凝固法等を用いることによって様々な形状のものを得ることができる。抗菌性樹脂成形体は、例えば、チューブ等の管状体、ビーズ、編み地、不織布、カットファイバー、平膜、中空糸膜、フィルムおよびシートなどの形態で用いられる。
【0064】
また、本発明で用いられる各種樹脂の溶媒としては、基本的に使用する樹脂を溶解さえすれば特に限定されるものではない。例えば、ポリスルホン系ポリマーの溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサン、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどが好ましく用いられ、安全性と毒性の面からジメチルアセトアミドが最も好ましい。
【0065】
この場合において、ポリスルホン系ポリマーの溶液濃度は、10〜35重量%が好ましく、より好ましくは15〜30重量%である。ポリスルホン系ポリマーを不溶または膨潤させる貧溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサノールおよび1,4−ブタンジオールなどがあるが、生産コストを考えると、水が特に好ましく使用される。ここで、水を使用した場合、ポリスルホン系ポリマーの凝固性が高いため、水の添加量は7重量%以下であることが好ましく、特に1〜5重量%であることが好ましい。凝固性が小さな添加剤を用いるときは添加量が多くなってもよく、適宜好適な量を選択することができる。
【0066】
この樹脂溶液を、既知のキャスト製膜法で製膜すれば、抗菌性フィルムが得られ、既知の湿式凝固法を用いれば、中空糸膜を得ることができ、また、既知の押出成形法を用いれば中空のチューブを得ることもできる。
【0067】
他にも成形体を得るためには、高濃度の樹脂溶液を作製後、溶媒を蒸発させることで成形体を製造することができるが、これを延伸成形・射出成形・押出成形をすることによって様々な成形体を形成できる。例えば、円形口金から押し出せば、管状のチューブを成形することも可能である。本発明のチュ−ブ状の抗菌性樹脂成形体は、使用用途や、内圧または外圧等の要求で複数層にする場合は、1層〜10層チューブとして用いることができる。また、本発明のチューブ状の抗菌性樹脂成形体は、その抗菌作用を最大限に生かすためには、1層〜10層チューブの最内層または最外層に最も好ましく用いられる。
【0068】
本発明の抗菌性樹脂成形体の形態は、上記のように、板状、棒状、シート状、チューブ状、フィルム状、繊維状、ビーズ状、粉末状、中空糸状、およびその他の成形品などいかなる形状であっても良く、特に放射線照射できるものが好ましい。
【0069】
本発明の抗菌性樹脂成形体に放射線を照射するときには、抗菌性樹脂成形体の主成分である化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂および化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂と、他の樹脂素材とが、相溶状態であることが好ましいが、両者が海島状態に分離していても構わないので、このような混合体の抗菌性樹脂成形体に放射線照射を行うことは可能である。
【0070】
本発明の抗菌性樹脂成形体に放射線照射を行うタイミングは、特に限定されないが、樹脂成形体にする前のペレット状やパウダー状の成形体に放射線を照射し、その後に既知の成形法にて管状のチューブや中空糸、フィルム等の成形体にする方法、あるいは、予め既知の成形法にて管状のチューブや中空糸、フィルム等の成形体にしてから、放射線を照射する方法があるが、成形工程後であればどちらの方法を用いても構わない。
【0071】
他の樹脂素材に、化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂および化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂が含まれた状態で、放射線や紫外線等を照射したり、アーク、直流グロー、高周波、マイクロ波およびコロナ放電等によりプラズマ処理したり、UV−オゾン処理する等の方法において、発生させたラジカルを開始点として、これにラジカル重合性モノマーを作用させて、表面にグラフト重合層を形成させる方法も広く用いられている。例えば、A.Henglein, Angew. Chem., 70,461(1955)には、放射線を用いたグラフト重合が提案されており、またY. Ogiwara, et. al., Poym. Sci., Polym Letter Ed., 19,457(1981)には、ポリ酢酸ビニル水溶液を用いたメチルメタクリレートまたはアクリル酸を、ポリプロピレン表面上あるいはポリエチレン表面上でグラフト 重合させる方法等が提案されており、本発明においては放射線(α線、β線、γ線、電子線およびX線等)、または紫外線照射によるグラフト層の形成が好ましく、中でもγ線、電子線および紫外線のいずれかの照射がも好ましく用いられる。最も好ましくはγ線と電子線である。
【0072】
本発明においては、抗菌性樹脂成形体に含まれるポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等の親水性ポリマーを加熱したり、放射線を照射することで親水性ポリマーを架橋させて、親水性ポリマーが極力溶出しない成形体を得ることができる。ここで記載した放射線とは、特に電子線とγ線が好ましく、特に電子線特性として、透過力と活性化効率の面から、加速電圧が少なくとも10Kv以上であり、電子線加速器としては、例えば、エレクトロカーテンシステム、スキャンニングタイプ、ダブルスキャンニングタイプ、バンデグラフおよびコールドカソード等でも良い。γ線等の放射線の照射量は、好ましくは10kGy以上であり、より好ましくは20kGy以上であり、最も好ましくは25kGy以上である。その理由は、放射線照射量が少ないと抗菌性樹脂成形体の架橋が十分の行われず、溶出物の低減効果が十分でないためである。反面、放射線量が大きすぎると、得られる成形体の物性低下、経年劣化および着色の問題がある。
【0073】
放射線照射に際しては、酸素濃度が高いとグラフト活性種(主にフリーラジカル)の失活を招いたり、酸化反応によるポリマーの崩壊を招いたりするため、窒素やヘリウム等の不活性ガスによる置換を行い酸素濃度低下をはかることが好ましい。ただし、過酸化物をグラフト活性種として用いる場合にはこの限りではない。グラフト化反応は、放射線照射後、モノマーと直接、あるいは溶媒を用いて反応させるか、あるいは気化させたモノマーと反応させることにより達成できる。一般にモノマー単独では反応速度が遅いことが多いので溶媒を用いた溶液系での反応が有利である。モノマー単独でのホモ重合を防ぐ目的でモール塩のようなラジカル重合抑制剤、金属銅や第1塩化銅のようなレドックス系添加剤、またはハイドロキノンモノメチルエーテルのような重合禁止剤を併用してもよい。
【0074】
これらの放射線照射によるグラフト化反応は、高線量率であるために反応が早く、低温で行うことができ、かつグラフト量が大きいという利点がある。また、放射線照射により他の樹脂素材の事前殺菌が可能である。また、反応開始にあたって、反応終了後もグラフト層中に有害かつ悪臭の分解物が残る重合開始剤を用いることなくグラフトが可能である点も、特に食品と接触する用途の場合には重要なポイントである。放射線照射によるグラフト化反応では他の樹脂素材とグラフト化されるべきポリマーを共存させて同時に放射線照射する方法(同時照射法)が効率的であるが、グラフト化されるべきポリマー単独の重合が避けられないため、単独重合物がその作用(抗菌性や機械的特性)を妨げない場合のみ有効である。
【0075】
抗菌性樹脂成形体への放射線照射時は、乾式(ドライ)、湿式(ウェット)状態でも特に限定されるものではないが、湿式状態での放射線照射が好ましく用いられる。
本発明の抗菌性樹脂成形体は、透明であることが好ましい。本発明で言うところの透明とは、抗菌性樹脂成形体の厚さ70ミクロンのフィルムの光線透過率が40%以上で、60%以上のものが好ましく、透過率80%以上のものが更に好ましく、最も好ましいのは88%以上のものである。
【0076】
透明な抗菌性樹脂成形を得るためには、他の樹脂素材とポリビニルピロリドンおよび/またはポリエチレンイミンが均一に相溶していることが重要である。相溶方法は、溶液で相溶させても溶融で相溶させても特に限定されない。
【0077】
本発明における水中溶出量については、食品衛生法(厚生労働省告示)告示370号に挙げられる、(第3器具及び容器包装の中、B.器具又は容器包装一般の試験法中、1.過マンガン酸カリウム消費量試験法)試験方法を用いる。操作法、溶出試験時の浸出用液作成法を下記する。
【0078】
(操作法)
三角フラスコに水100ml、硫酸5ml及び0.002mol/l過マンガン酸カリウム溶液5mlを入れ、5分間煮沸した後、液を捨て水で洗う。この三角フラスコに試験溶液100mlを採り、硫酸5mlを加え、更に0.002mol/l過マンガン酸カリウム溶液10mlを加え加熱して5分間煮沸する。次いて、加熱をやめ直ちに0.01mol/lシュウ酸ナトリウム溶液10mlを加えて脱色した後、0.002mol/l過マンガン酸カリウム溶液で微紅色が消えずに残るまで滴定する。別に同様な方法で空試験を行い、式(1)により過マンガン酸カリウム消費量を求める。
【0079】
過マンガン酸カリウム消費量(ppm)={(a−b)×0.316×1000}/100 (1)
ただし、aは本試験の0.002mol/l過マンガン酸カリウム溶液の滴定量(ml)であり、bは空試験の0.002mol/l過マンガン酸カリウム溶液の滴定量(ml)である。
【0080】
(浸出溶液作成法)
試料を水でよく洗い、試料の表面積1cm辺りにつき2mlの割合の純水を用いる。浸出条件は純水を60℃に保ちながら試料を30分間浸積し浸出用液を得た。
【0081】
本発明の抗菌性樹脂成形体は、水中溶出物の量は500ppm以下が好ましく、更に好ましくは150ppm以下であり、更には60ppm以下であることが好ましく、最も好ましくは水中溶出量が30ppm以下である。より好ましくは10ppm以下である。また飲料水や食品用途等では人体への影響があるため、水中溶出物の量は5ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは1000ppb以下であり、更には500ppb以下であることが好ましく、最も好ましくは水中溶出量が100ppb以下である。
【0082】
水中溶出物の量を少なくするには、γ線で架橋するなどして不溶物を変化させる方法、すなわち、架橋度で調整する方法、例えば架橋していない余計な溶出物を洗浄で取り除く方法を採用することができる。
【0083】
本発明で得られる管状の抗菌性樹脂成形体は、透明なため内部を観察することが容易で、更に雑菌を抑制することから食品や飲料用送液ホースにも好ましく用いられる。例えば、食品製造工場等では醤油やソースの送液ホース、飲食店などで用いられる清涼飲料サーバーや、ビールサーバー等の送液ホースに非常に有用である。
【0084】
他にも、家庭用浄水器などにも有効に用いることができる。浄水器用カートリッジがキッチン下に設置されているアンダーシンク型浄水器では、キッチン下のカードリッジとキッチン上の水栓出口までの区間は、従来はポリエチレンチューブやステンレスチューブ等が用いられている。これらのチューブ内は、カートリッジで脱塩素された浄水で満たされている。このような状態で、放置すると浄水中は細菌増殖が酷く、酷い場合は細菌増殖で生成した代謝物(白い塊物)が発生していた。従来のポリエチレンチューブやステンレスチューブでは、チューブ内部を観察することができなかったため、浄水を出すまでは異常に気づくことができなかった。
【0085】
本発明の飲料用送液ホースを用いることで、細菌増殖を抑制することが可能で、かつ内部を観察することができるので、非常に有効である。
【実施例】
【0086】

実施例に基づき本発明を説明する。
(抗菌性試験方法)
抗菌試験においてはJIS Z2801−2004に準処して行う。
【0087】
(1)試験菌の前培養
試験菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌)を普通寒天培地で35℃の温度で18〜24時間培養後、更に継代し、普通寒天培地で35℃の温度で18〜20時間培養する。
【0088】
(2)試験菌液の調整
培養後の試験菌の菌体を1/500普通ブイヨン寒地(普通ブイヨン培地を精製水で500倍に希釈したもの)に均一に分散させ、菌数が2.5〜10×10/mlとなるように調整する。
【0089】
(3)試験菌液の接種
試験片(5cm×5cmのフィルム)の試験菌に菌液0.4mlを滴下後、菌液の上からポリエチレン(4cm×4cmフィルム)を被せ、菌液を試験片に密着させる。
【0090】
(4)接種直後の試験片の生菌数測定
無加工試験片の生菌数を測定する。
【0091】
(5)培養
菌液を接種した試験片を35℃の温度で、相対湿度90以上で24時間培養する。
【0092】
(6)培養後の試験片の生菌数測定
試験片(無加工及び抗菌加工)の生菌数を測定する。上記(1)〜(6)の測定を1サンプル、1菌種につき3検体行った。
(水中溶出量測定)
ガスクロマトグラフィ−(GC)にて、成形体中に有機溶媒(ジメチルアセトアミド)の検出ピークが無いことを確認した。
【0093】
ジメチルアセトアミドの検出ピーク:4.5〜4.8min
ガスクロマトグラフィ−測定条件
使用装置:ガスクロマトグラフィ−(島津製作所社製GC−14B)
カラム:TC−1(ジ−エルサイエンス社製、100% Dimethyl polysiloxane、長さ60m、内径:0.25mm、膜厚:0.25ミクロン)
測定温度条件:100℃(10分保持)、昇温(4℃/min)、250℃(10分保持)
検出器:FID 250℃、H:60Kpa、air:50Kpa、
メイクアップガス:N(40ml/min)
キャリアガス:He、入口圧:250Kpa、全流量:77ml/min
カラム流量:1.45ml/min、INJパージ:3ml/min、
線速度:29.2cm/s
アナログ信号:リニア、レンジ:*1
サンプル注入法:スプリット法、 スプリット比:50:1
試料調整:ポリマー濃度を7wt%になるように塩化メチレンに溶解する。
【0094】
GC注入量:1.0μl
60℃に保たれた4mlの純水中に成形体(1cm×1cmのフィルム)を30分間浸積して浸出液を得た。
【0095】
上記で得た浸出用液を食品衛生法(厚生労働省告示)告示370号に挙げられる器具又は容器包装一般の試験法である過マンガン酸カリウム消費量試験法を行った。
(透過率測定)
スガ試験機社製のSMカラーコンピュータSM−7−CHを用いて測定した。測定は、70μmの厚さの成形体について、25℃の温度に温調された部屋で行った。
【0096】
(実施例1)
ポリスルホン(ソルベイ社製Udel−P3500)80重量%と、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)19.99重量%およびポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)0.01重量%をジメチルアセトアミドに溶解させ、20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を、ナイフクリアランス320μmでガラス板(200mm×200mm)上にキャストした。この樹脂溶液をキャストしたガラス板を、90℃の温度の恒温乾燥機に入れ30分間乾燥し、120℃の温度の恒温乾燥機に入れ熱処理を行った。乾燥後、ガラス板を取り出し、水浴へ浸漬しフィルムを剥離させて厚さ70μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムを、水で満たしたポリエチレン(PE)製の袋に入れ、コバルト−60線源にてγ線を照射し、放射線処理フィルムを得た。γ線吸収線量は、25kGyであった。得られた放射線処理フィルムについて、光線透過率と水中溶出量の測定、および抗菌性試験を行った。測定結果は、3個の測定値の平均値を用いた。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例2)
ポリスルホン(ソルベイ社製Udel−P3500)75重量%、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)20重量%およびポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)5重量%を、ジメチルアセトアミドに溶解させ、20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。以降は、実施例1と同様にして製膜し、放射線処理後、得られた放射線処理フィルムについて、光線透過率および抗菌性試験を行った。測定結果は、3個の測定値の平均値を用いた。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例3)
ポリスルホン(ソルベイ社製Udel−P3500)80重量%、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)15重量%およびポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)5重量%を、ジメチルアセトアミドに溶解させ20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。以降は、実施例2と同様にして製膜し評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例4)
ポリエーテルスルホン(住友化学工業社製“スミカエクセル”(登録商標)3600P)80重量%、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)19.99重量%およびポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)0.01重量%をジメチルアセトアミドに溶解させ、20時間攪拌し濃度25重量%の溶液を得た。以降は、実施例1と同様にして製膜し評価を行った。結果を表2に示す。
【0100】
(実施例5)
ポリエーテルスルホン(住友化学工業社製“スミカエクセル”(登録商標)3600P)75重量%、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)20重量%およびポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)5重量%を、ジメチルアセトアミドに溶解させ、20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。以降は、実施例2と同様にして製膜し評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例6)
ポリスルホン(ソルベイ社製Udel−P3500)70重量%、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)20重量%、ポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)5重量%およびポリエチレングリコール5重量%(和光純薬工業社製ポリエチレングリコール200)を、ジメチルアセトアミドに溶解させ、20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。以降は、実施例2と同様にして製膜し評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例7)
ポリエーテルスルホン(住友化学工業社製スミカエクセル3600P)75重量%、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)20重量%、ポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)5重量%およびポリエチレングリコール5重量%(和光純薬工業社製ポリエチレングリコール400)を、ジメチルアセトアミドに溶解させ、20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。以降は、実施例2と同様にして製膜しフィルムを180℃で24時間放置し加熱処理を行い、実施例2と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例8)
エチレンビニルアルコ−ルポリマー(日本合成化学社製ソアノールD2908)98%、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製ポリビニルピロリドンK90 重量平均分子量36万)1重量%、ポリエチレンイミン(和光純薬工業社製ポリエチレンイミン、平均分子量10000)1重量%をブレンドしたものを、15mm1軸押出機(田辺プラスチッック社製)にて220℃にて押出し、そのままプレス成形しフィルム状にした。フィルムを150℃で24時間放置し加熱処理を行った。以降は、実施例2と同様に放射線処理、評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例9)
実施例1で得られた放射線照射フィルムを家庭用のジュースミキサーで粉砕、乾燥し、オリフィス型二重円筒型口金(外形12mm、内径9mm)を装着した溶融押出機(15粍式押出機:田辺プラスチック社製)にて、透明なチューブ(外形10mm、内径8mm、肉厚1mm)を得た。抗菌試験は上記の抗菌生試験の(2)に記載した試験菌液を用い、長さ10cmのチュ−ブの片側に封(キャップ)をし試験菌液を充填させ、口を封(キャップ)じて試験菌液が漏れないようにした。このチューブを35℃、相対湿度90以上で24時間培養し、その後、封を外して試験菌液内の生菌数を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例10)
アンダーシンク型浄水器(“トレビーノ”(登録商標)SK55、東レ株式会社製)のカートリッジ→水栓出口間の樹脂チューブを、実施例9で得られたチューブに差し替えた。このアンダーシンク型浄水器を35℃の温度の温調室の水道に接続し、水道水を通水した。その後水道を止め、30日間放置した。30日後に、1L容器に800ccを通水し細菌増殖で生成した代謝物の発生がないか観察した。結果を表1に示す。
【0106】
(比較例1)
ポリスルホン(ソルベイ社製Udel−P3500)を、ジメチルアセトアミドに溶解させ20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を、ナイフクリアランス320μmでガラス板上にキャストした。この樹脂溶液をキャストしたガラス板を、90℃の温度の恒温乾燥機に入れ30分間乾燥した。乾燥後、ガラス板を取り出し水浴へ浸漬しフィルムを剥離させて厚さ70μmの透明フィルムを得た。この透明フィルムを、コバルト−60線源にてγ線を照射し放射線処理フィルムを得た。γ線吸収線量は25kGyであった。得られた放射線処理フィルムについて、光線透過率と水中溶出量の測定と、抗菌性試験を行った。測定結果は、3個の測定値の平均値を用いた。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例2)
ポリエーテルスルホン(住友化学工業社製スミカエクセル3600P)を、ジメチルアセトアミドに溶解させ、20時間攪拌し濃度25重量%の樹脂溶液を得た。以降は、比較例1と同様にして製膜し評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例3)
比較例1で得られた放射線照射フィルムを家庭用のジュースミキサーで粉砕し、オリフィス型二重円筒型口金(外形12mm、内径9mm)を装着した溶融押出機(15粍式押出機:田辺プラスチック社製)にて、透明なチューブを得た。抗菌試験は上記の抗菌生試験の(2)に記載した試験菌液を用い、長さ10cmのチュ−ブの片側に封(キャップ)をし試験菌液を充填させ、口を封(キャップ)じて試験菌液が漏れないようにした。このチューブを35℃、相対湿度90以上で24時間培養し、その後、封を外して試験菌液内の生菌数を測定した。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例4)
アンダーシンク型浄水器(“トレビーノ”(登録商標)SK55、東レ株式会社製)のカートリッジ→水栓出口間の樹脂チューブを、比較例3で得られたチューブに差し替えた。このアンダーシンク型浄水器を35℃の温調室の水道に接続し、水道水を通水した。その後水道を止め、30日間放置した。30日後に1L容器に800ccを通水し細菌増殖で生成した代謝物の発生がないか観察した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
実施例1〜10と比較例1〜4について、表1にて各種項目を比較すると、本発明の実施例1〜10は、高い透過率から透明かつ水中溶出量も低く押さえられている。抗菌性試験において本発明の実施例1〜10は、比較例1〜4に対し、黄色ブドウ球菌と大腸菌の生菌数を激減していることがわかる。また、本発明のチューブ状成形体を、実施例9で記載したようにアンダーシンク型浄水器の樹脂ホースと交換して用いたところ、比較例では発生していた細菌増殖による代謝物が発生しなかった。以上のことから、本発明によって透明かつ水中溶出量が低い抗菌性成形体を得ることが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の抗菌性樹脂成形体は、上記した問題を解決し透明かつ抗菌特性に優れるため、あらゆる用途へ使用することができる。なかでも透明かつ抗菌特性で、溶出物質が極力少ないことが要求される飲料、食品用途、なかでも食品や飲料等の送液チューブや包装容器等にも有用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学構造式(1)
【化1】

(式中、Xは酸素、硫黄あるいはセレンを表し、aは0〜10の整数である。)で示される繰り返し単位を有する樹脂と、下記の化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂を含有することを特徴とする抗菌性樹脂成形体。
【化2】

(式中、x、yおよびzはそれぞれ1〜10の整数で、mとnの比は0.1:99.9〜99.9:0.1であり、AおよびBはそれぞれ独立に水素原子および炭素原子との結合から選ばれる。)で示される繰り返し単位を有する樹脂を含有することを特徴とする抗菌性樹脂成形体。
【請求項2】
化学構造式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂が、ポリビニルピロリドンまたはその共重合体であることを特徴とする請求項1記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項3】
化学構造式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂が、ポリエチレンイミンまたはその共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項4】
ポリスルホンおよび/またはポリエーテルスルホンを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項5】
エチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項6】
アルキル基の炭素数が1〜10であるポリアルキレングリコールを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項7】
水中溶出量が500ppm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項8】
管状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項9】
成形工程後に放射線が照射されてなる請求項1〜8のいずれかに記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項10】
放射線が電子線および/またはγ線であることを特徴とする請求項9記載の抗菌性樹脂成形体。
【請求項11】
請求項8記載の抗菌性樹脂成形体からなることを特徴とする食品飲料用送液ホース。
【請求項12】
請求項11記載の食品飲料用送液ホースを装着してなることを特徴とする浄水器。

【公開番号】特開2007−84644(P2007−84644A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273367(P2005−273367)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】