説明

抗酸化組成物

【課題】水系および非水系の両方の系の皮膚外用剤や、化粧料、食料品等の消費期限の長い製品において、酸化に対して不安定な有効成分や抗酸化物質を安定化させ、その効果を維持させること。
【解決手段】五倍子の抽出物と、花椒、槐花、ローリエ、バジルおよびタイムから選ばれる植物の抽出物の少なくとも1種とを含むことを特徴とする抗酸化組成物ならびに該抗酸化組成物を含有することを特徴とする化粧料、医療用皮膚外用剤および飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化組成物、さらに詳しくは、水系、非水系の両方において優れた効果を発揮する、特定の生薬抽出物を有効成分とする抗酸化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生薬抽出物を皮膚外用剤や、各種の化粧料等に配合することが種々提案されている。例えば、特許文献1には、50種以上の植物からなる群から選ばれる1種以上の植物の水または低級アルコールもしくは低級アルコール水溶液抽出物を含有する老化防止化粧料用の抗酸化剤が開示され、これらの植物に、五倍子、ローレル、タイム、バジル等が包含されている。また、特許文献2には、活性酸素消去剤とそれを含有する化粧料組成物が開示され、必須成分以外の添加剤の1つとして、五倍子、槐花、バジルを包含する多数の生薬が挙げられている。
これらの化粧料等は主として水系のものであるが、酸化に対して不安定な有効成分や、それを防止するために配合される抗酸化物質には、水溶液のような水系はもとより、油液や有機溶剤溶液のごとき非水系中で不安定になるものも多く、効果は証明されているものの、非水系の皮膚外用剤や化粧料、食料品等、消費期限の長い製品では充分な効力が発揮されないことが多い。
例えば、γ-リノレン酸は、消費期限内に不飽和基が飽和してしまい、γ-リノレン酸を含む油脂は過酸化物価が早く上昇するなど、油液中で安定しない。また、エイコサペンタエン酸は紫外線、熱などの変性を受け易く、溶剤中ではその効力の維持に煩雑な条件を必要とする。そのため、ビタミンEやα-トコフェロールなどの抗酸化効果のある物質を添加し、効力の維持が図られているが、例えば、3ヶ月を超えた段階から徐々に変性が始まり、その効力維持には限界がある。
さらに、抗酸化物質は、水系でも非水系でも安定しない。例えば、溶剤中で、ビタミンCは、低い濃度で逆に酸化剤として作用するなど、その効力の維持に種々の条件を必要とする。N−アセチルシステインやシステイン等は、その効力は高いものの、溶液中では容易に電子が奪われ、その結果、1ヶ月を超えた段階から、効力が急激に落ちるなどの問題がある。
【特許文献1】特開平6−24937号公報
【特許文献2】特開2003−183120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、水系および非水系の両方の系の皮膚外用剤や、化粧料、食料品等の消費期限の長い製品において、酸化に対して不安定な有効成分や抗酸化物質を安定化させ、その効果を維持させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、各種の生薬の抽出物について検討する間に、五倍子の抽出物が抗酸化能を有することを見出し、すでに特許出願した(特願2005−309946号)。この度、酸化に対して不安定な有効成分や抗酸化物質の水系および非水系における不安定化が、これらの有効成分や抗酸化物質中の効果を発揮する基の変化にあること、また、その効果を発揮する基の変化を抑制し、効果を維持するためには、強力な電子ドナーの添加が有効であること、さらに、五倍子の抽出物と、他の特定の生薬の抽出物とを組み合わせが、当該ドナーとして好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)五倍子(Gallae Rhois)の抽出物と、花椒(Zanthoxyli bungeanum)、槐花(Sophorae Flos)、ローリエ、バジルおよびタイムから選ばれる植物の抽出物の少なくとも1種とを含むことを特徴とする抗酸化組成物、
(2)水系または非水系における酸化に対して不安定な有効成分の安定化用である上記(1)記載の抗酸化組成物、
(3)水系または非水系における抗酸化物質の抗酸化力持続用である上記(1)記載の抗酸化組成物、
(4)化粧料添加剤である上記(1)〜(3)いずれか1項記載の抗酸化組成物、
(5)医療用皮膚外用剤添加剤である上記(1)〜(3)いずれか1項記載の抗酸化組成物、
(6)飲食品添加剤である上記(1)〜(3)いずれか1項記載の抗酸化組成物、
(7)上記(1)〜(3)いずれか1項記載の抗酸化組成物を含有することを特徴とする化粧料、
(8)上記(1)〜(3)いずれか1項記載の抗酸化組成物を含有することを特徴とする医療用皮膚外用剤、
(9)上記(1)〜(3)いずれか1項記載の抗酸化組成物を含有することを特徴とする飲食品、
(10)水系または非水系において、五倍子の抽出物と、花椒、槐花、ローリエ、バジルおよびタイムから選ばれる植物の抽出物の少なくとも1種とを、酸化に対して不安定な有効成分と共存させることを特徴とする酸化に対して不安定な有効成分の安定化方法、
(11)水系または非水系において、五倍子の抽出物と、花椒、槐花、ローリエ、バジルおよびタイムから選ばれる植物の抽出物の少なくとも1種とを、抗酸化物質と共存させることを特徴とする抗酸化物質の抗酸化力持続方法などを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明で用いる各生薬の抽出物は、電子ドナーとして優れた効力を有し、かつ、電子ドナーとしての効力が極めて安定であり、対象とする有効成分や抗酸化物質の効力持続に効果を発揮する。また、当該抽出物は香辛料、生薬として、いずれも従来から使用されており、その安全性が確認されているものであり、五倍子抽出物を基本として、他の抽出物を組み合わせることにより水系、非水系の両方で優れた有効成分、抗酸化物質の効力維持効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる五倍子、花椒、槐花、ローリエ、バジル、タイムの抽出物はいずれも公知の香辛料、生薬である。本発明においては、五倍子の抽出物と、花椒、槐花、ローリエ、バジルおよびタイムの5種のうちのいずれか1種以上の植物の抽出物とを使用する。抽出物は、個々の植物の抽出物を個別に使用しても、所定の植物の混合物の抽出物を使用してもよい。他の植物同志の混合割合は任意に選択できる。
五倍子の抽出物と他の植物の抽出物の混合割合は、一般に、乾燥固形分の重量比で、五倍子抽出物:他の植物の抽出物が1:0.1〜1好ましくは、1:1とすることにより所望の効果が得られる。要すれば、この割合に基づいて、五倍子と他の植物を混合して抽出してもよい。
【0008】
抽出エキスは、自体公知の方法で製造したものでよく、例えば、水、エタノールなどのアルコール類、エチルエーテルなどのエーテル類、プロピレングリコール、またはこれらの混合溶媒のような抽出溶媒を用いて、常温抽出または加熱抽出することにより製造でき、必要により、減圧または加圧してもよい。得られた抽出エキスは、通常そのまま使用するが、濃縮または乾固してもよい。
【0009】
本発明の抗酸化組成物は、所望の成分を混合、溶解する等の公知の方法で、粉末、顆粒、錠剤等の固体、ペースト状、軟膏等の半固体、溶液、懸濁液、乳化液等の液体のような剤形、好ましくは、液体の剤形とすることができ、所望により、医療用皮膚外用剤、化粧料、飲食品に許容される賦形剤等を適宜配合してもよい。
【0010】
本発明における、水系とは、水溶液、水性乳化液等の水または水と水溶性溶剤、例えば、エタノール、の混合液をベースとする液体系、非水系とは、水を含有しない水溶性有機溶剤、例えばエタノール、各種油類の溶液、可溶化液等をベースとする液体系を意味する。
【0011】
また、酸化に対して不安定な有効成分としては、例えば、パルミトレイン酸、γ-リノレン酸、γ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸のような不飽和脂肪酸、プロスタグランジン前駆物質等、抗酸化物質としては、例えば、ビタミンC、カテキンなどポリフェノール類、コエンザイムQ10、トコフェロール、N-アセチルシステイン、システイン、グルタチオン等、水系および非水系で容易に効力を失うものが挙げられる。
【0012】
本発明の組成物は、水系および非水系の医療用皮膚外用剤、化粧料、飲食品等の添加剤として使用できる。使用に際しては、酸化に対して不安定な有効成分、抗酸化物質に対して、抽出物の乾燥固形分換算として、0.001〜10重量%、好ましくは0.005〜5重量%程度添加することができる。
かくして、本発明は、本発明の組成物を添加してなる水系および非水系の医療用皮膚外用剤、化粧料、飲食品も提供する。これらの製品は、自体公知の方法で製造でき、他の配合成分は特に限定するものではなく、通常、これらの製品に配合されるものが使用できる。
さらに、本発明の組成物を用いる酸化に対して不安定な有効成分の安定化方法および抗酸化物質の抗酸化力持続方法も本発明の範囲内のものである。
【0013】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、特に断らない限り、%は重量%を意味する。
実施例中、各植物の抽出物は、原料を粉砕後、含水エタノールに浸し、室温で2週間放置し、抽出液を濾過または遠心分離し、固形物を分離後、減圧蒸留して濃縮して調製した。
【実施例1】
【0014】
五倍子エキスの水溶性部分および油溶性部分における効力と安定性を、その有効成分とされる没食子酸と対比した。DPPH(ジフェニルピクリルヒドラジド)ラジカルの消去能を測定し、電子ドナーとしての活性値として対比した。
すなわち、種々の濃度の五倍エキス水溶液を作成し、各水溶液0.5mlとn−オクタノール0.5mlとを混和し、1時間室温にて激しく振盪した。5分間遠心分離後、上層(オクタノール)0.4mlを取り、同量のメタノールと混和し、激しく振盪した。さらに5分間遠心分離後、メタノール画分0.35mlにDPPHメタノール溶液を添加し、混和し、20分間静置後、517nmにて吸光度を測定し、次式にてラジカル消去能を計算した。
【数1】

また、水溶液中の五倍子エキスのDPPH消去能測定のため、水層0.35mlに同量のDPPHメタノール溶液を添加、同様にDPPHラジカル消去能を測定した。対象として、五倍子エキス中の没食子酸と同量の没食子酸水溶液を作成し、五倍子エキスの場合と同様にオクタノール層、水層のDPPH子ラジカル消去能を測定し、油層(オクタノール)への移行度を検討した。
結果を表1および表2に示す。
【表1】

【表2】

表1および表2に示すごとく、水溶液、油液どちらの層においても、五倍子抽出物は電子ドナーとして高い活性値を示し、特に、0.005%以上の濃度では水系・油系どちらの層においても電子ドナーとして充分作用し得ることが示された。
【実施例2】
【0015】
電子ドナーとしての役割を持つものとして、五倍子抽出物:花椒抽出物:槐花抽出物=5:3:2の重量比率で混合したものをドナーエキスとした。
ドコサヘキサエン酸600mg、エイコサペンタエン酸200mgの2種類を混入した油液を作り、この混合油とこれにトコフェロール100mgを加えたもの、これにドナーエキスを0.01%を加えたもの、さらに、この混合油にトコフェロール100mgと0.01%のドナーエキスを加えた4種類の油液を作り、この4種に残存するドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸の残量を求めた。Day0での数値を100として経日変化を比較した。
結果を表3に示す。表3中、各行の欄内の上段がドコサヘキサエン酸(DHA)、下段がエイコサペンタエン酸(EPA)の値を示す。
【表3】

表3から明らかなごとく、ドナーエキスは単体で十分に電子ドナーとして、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸の変化を抑制する効果があることが確認された。特に、抗酸化剤としてのトコフェロール以上にその効果があることが確認された。
【実施例3】
【0016】
水に0.0016モル/リットルのL−システイン塩酸塩を加えた水溶液を作り、そのシステイン塩酸塩の水溶液に、各々0.1%の花椒抽出物、槐花抽出物、五倍子抽出物を加えたもの、これら3種の抽出物を均等に配合して0.1%とした混合生薬抽出物の5種類を200日間常温で保存し、その活性値をDPPHラジカル消去能として測定、比較した。
結果を表4に示す。
【表4】

表4に示すごとく、花椒、槐花、五倍子、混合生薬の各抽出物を加えたものは、システイン単体の水溶液に比べて、長期間その抗酸化能を維持した。さらに、五倍子と混合した抽出物は花椒抽出物、槐花抽出物に比べてかなり高い活性を維持し、五倍子抽出物単体よりも高い活性を維持した。
【実施例4】
【0017】
脂溶性溶媒の代替としてN−オクタノールを溶媒とし、オクタノールに6μmol/lのユビキノールを加えた溶液、6μmol/lのユビキノールに0.01%の五倍子抽出物を加えた溶液の3種類の溶液でのDPPHラジカル消去能として経日変化を比較した。
結果を表5に示す。
【表5】

表5より、抗酸化活性のない溶媒であるオクタノール内において、電子ドナーとしての五倍子抽出物がユビキノールの抗酸化力を補完したことが確認された。
【実施例5】
【0018】
五倍子抽出物:ローリエ抽出物:バジルエ抽出物:タイム抽出物=5:2:1:2の重量比率で混合したものをドナーエキスとした。
0.05モル/リットルのアスコルビン酸と0.002モル/リットルのN−アセチルシステインを加えた水溶液とオリーブ油に1μモル/リットルのユビキノールと1μモル/リットルのエイコサペンタエン酸を混合した油に脂肪酸グリセリンエステルを加えて乳化した液剤において、何も加えないものを乳化液とし、これと0.01%のドナーエキスを加えたものの抗酸化活性をDPPH消去能として計測、さらに、エイコサペンタエン酸の量を保存開始時を100として数値化し、経過日数毎に比較した。
結果を表6に示す。表6中、上段がDPPH、下段がエイコサペンタエン酸(EPA)の値である。
【表6】

表6から明らかなごとく、本発明の抗酸化組成物は優れた抗酸化力持続作用を示す。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上記載したごとく、本発明によれば、水系および非水系の両方の系の皮膚外用剤や、化粧料、食料品等の消費期限の長い製品において、酸化に対して不安定な有効成分や抗酸化物質を安定化させ、その効果を維持させることのできる抗酸化組成物が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
五倍子の抽出物と、花椒、槐花、ローリエ、バジルおよびタイムから選ばれる植物の抽出物の少なくとも1種とを含むことを特徴とする抗酸化組成物。
【請求項2】
水系または非水系における酸化に対して不安定な有効成分の安定化用である請求項1記載の抗酸化組成物。
【請求項3】
水系または非水系における抗酸化物質の抗酸化力持続用である請求項1記載の抗酸化組成物。
【請求項4】
化粧料添加剤である請求項1〜3いずれか1項記載の抗酸化組成物。
【請求項5】
医療用皮膚外用剤添加剤である請求項1〜3いずれか1項記載の抗酸化組成物。
【請求項6】
飲食品添加剤である請求項1〜3いずれか1項記載の抗酸化組成物。
【請求項7】
請求項1〜3いずれか1項記載の抗酸化組成物を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項8】
請求項1〜3いずれか1項記載の抗酸化組成物を含有することを特徴とする医療用皮膚外用剤。
【請求項9】
請求項1〜3いずれか1項記載の抗酸化組成物を含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2008−13461(P2008−13461A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184455(P2006−184455)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(500264375)株式会社ゲオ (11)
【Fターム(参考)】