説明

押し出し型塗布コーター、塗布物の生産方法、光学フィルム

【課題】押し出し型塗布コーターを使用して塗布を行う時、塗布開始時の帯状支持体への液付きを改良した押し出し型塗布コーターと、押し出し型塗布コーターを使用して生産された光学フィルム及び塗布物の生産方法と、塗布物の生産方法による光学フィルムの提供。
【解決手段】連続搬送される帯状の支持体上に押し出し塗布方式により塗布液を塗布する押し出し型塗布コーターであり、前記押し出し型塗布コーターの塗布液吐出部に、支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させるための溶剤流下機構を有し、前記溶剤が流下する部分が樹脂部材で被覆されていることを特徴とする押し出し型塗布コーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押し出し塗布方式により塗布液を塗布する塗布コーター、この塗布コーターを使用した塗布物の生産方法、塗布コーター及び塗布物の生産方法により生産された光学フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被塗布物上に塗布液を塗布する塗布工程では様々な塗布方式が存在する。その塗布方式は大きく2つに大別される。1つは必要な塗布液膜を形成する量だけ塗布液を吐出させて被塗布物上に塗布液を塗布する前計量型塗布方式、他の1つは予め必要な塗布液膜形成量よりも余剰な塗布液を被塗布物上に吐出させ、その後なんらかの掻き取り手段で余剰分を取り除く後計量型塗布方式である。後計量型塗布方式としては、ブレード型塗布方式、エアーナイフ型塗布方式、ワイヤーバー型塗布方式などが挙げられる。又、前計量型塗布方式としては、押し出し方式であるエクストルージョン型の塗布コーターを使用した塗布方式、カーテン型の塗布ヘッドを使用した塗布方式、スライド型の塗布コーターを使用した塗布方式等が挙げられる。
一般的には、前計量方式では装置構成等は複雑ではあるが高精度な塗布液膜が得られ、後計量方式では装置構成等は簡便で加工速度は高速であるが前者に比較して塗布液膜の精度は落ちる。又、前計量方式と後計量方式を塗布液の消費量という観点で比較した場合には当然ながら前計量方式の方が少なく、生産効率上有利であることから前計量方式の塗布方法が採用されることが多かった。前計量型塗布方式としての押し出し方式の塗布コーターは高精度な塗布液膜が得られることから、押し出し方式の塗布コーターを使用した製品としては、フォトレジスト、LCDや有機ELに代表される電気光学パネルのデバイス、特に反射防止性や防眩性を有する膜を支持体上に塗布した光学フィルム等が挙げられる。押し出し方式であるエクストルージョン型の塗布コーターを使用した塗布方法を図で説明する。
【0003】
図6は押し出し方式であるエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、塗布を行っている状態の概略図である。
【0004】
図中、1はエクストルージョン型の塗布コーターを示す。塗布コーター1は2つのブロック101aと、ブロック101bとを有し、ボルトなどで締結することで組み立てられている。102はブロック101aと、ブロック101bとの間隙で出来たスリットを示し、103はマニホールドと呼ばれる塗布液を一旦溜めるための部分であり、ここには塗布液供給管104から塗布液が送り込まれる。マニホールド103で塗布幅方向に溜められた塗布液はスリット102を通り塗布幅方向に均一な厚みとなりスリット102の先端の塗布液吐出口105から吐出した塗布液はビード401を形成しバックアップロール2に巻回し支持された帯状支持体3の上に塗布され塗膜4が形成される。105aはバックリップ、105bはフロントリップを示す。ビード401は、リップ(バックリップ105aとフロントリップ105b)とバックアップロール2に巻回し支持された帯状支持体3の間の狭い間隙A(コーターギャップ)に形成されている。5はビード401を安定に形成するための減圧室を示し、必要に応じて設けられている。
【0005】
Pは塗布液吐出口105から吐出した塗布液が帯状支持体3に塗布される塗布位置を示す。塗布位置Pを境にして、塗布前の帯状支持体3側を上流側、塗膜4が形成された帯状支持体3側を下流側と言う。
【0006】
本図に示す様にエクストルージョン型の塗布コーター1を使用した塗布は、塗布の開始に合わせ、必要とする塗布液を塗布液吐出口から吐出した状態で、待機位置から塗布位置に移動手段(不図示)により移動し、塗布コーター1の先端のリップ(バックリップ105aとフロントリップ105b)を帯状支持体に近接させそのリップと帯状支持体間の狭い間隙A(コーターギャップ)にビード401を形成させ、塗布液を支持体に転移(液付き)させる塗布方式である。
【0007】
ところで、押し出し塗布方式では被塗布体である支持体とリップの間隙A(コーターギャップ)は塗膜4の湿潤時の膜厚をHwとした時、間隙A(コーターギャップ)と、膜厚をHwとの関係は、減圧室を使用しない時はA<2Hw、減圧室を使用する時はA<10Hwと塗布中の塗膜厚より広く設定するのが好ましいとされている。このため、塗布開始前に塗布液吐出口から吐出する塗布液は塗布開始のために、コーターギャップを所定の距離になるように塗布コーターを支持体に近接させても、吐出量、支持体の搬送速度、塗布液の粘度等が原因で塗布液が支持体に乗り移らない、いわゆる液付きが起こらないことがある。
【0008】
この傾向は広いコーターギャップでより薄膜の塗膜を得ることが出来る減圧室を使用した押し出し塗布方式で顕著となる。液付きが上手く起こらない場合、支持体と塗布コーターとの間隙に薄いフィルム状のものを幅手の一部に挿入し、液架橋を誘発することで液付きさせることが出来るが、リップ近傍を塗布液で部分的に汚し、塗布筋などの故障を発生させることがある。又、人が介在しての作業となると発塵が多くなり、製品の性能や品位を低下させることがしばしば発生する。
【0009】
塗布開始時の液付きを改良するためには、例えば塗布開始時に一時的に塗布液の吐出量を増加し、液付き終了後に所定の吐出量に戻す、コーターギャップを一時的に狭くし、液付き終了後に所定のコーターギャップに戻す等が挙げられるが、何れも正常な条件に戻すまでに発生する不良品の量を考えると現実的ではない。
このため、塗布開始時にみかけの塗布量を増加させ、液付きを改良する方法としてエクストルージョン型塗布ヘッドの支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させる塗布方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0010】
特許文献1、特許文献2に記載の如く、溶剤を塗布液吐出部に流下することは塗布開始時にスリットから流下する塗布液の液量を補足的に増やす効果が得られ、液付きが良化する効果は認められるが、揮発性の溶剤を流下した場合、蒸発することで気化熱により塗布コーターが部分的に冷えリップ部が変形することで液付きが悪くなる危険がある。
【0011】
これらの状況から、押し出し型塗布コーターを使用して塗布を行う時、塗布開始時の帯状支持体への液付きを改良するために溶剤を流下させる際、塗布コーターの変形を生じさせることなく、安定した液付きが可能な押し出し型塗布コーター、塗布物の生産方法、押し出し型塗布コーター及び塗布物の生産方法による光学フィルムの開発が望まれている。
【特許文献1】特開平6−114318号公報
【特許文献2】特開平7−108213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記状況に鑑み成されたものであり、その目的は、押し出し型塗布コーターを使用して塗布を行う時、塗布開始時の帯状支持体への液付きを改良した押し出し型塗布コーターと、押し出し型塗布コーターを使用して生産された光学フィルム及び塗布物の生産方法と、塗布物の生産方法による光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成された。
【0014】
1.連続搬送される帯状の支持体上に押し出し塗布方式により塗布液を塗布する押し出し型塗布コーターであり、前記押し出し型塗布コーターの塗布液吐出部に、支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させるための溶剤流下機構を有し、前記溶剤が流下する部分が樹脂部材で被覆されていることを特徴とする押し出し型塗布コーター。
【0015】
2.前記樹脂部材の幅手端に溶剤の幅方向への広がりを規制する広がり規制機構を有することを特徴とする前記1に記載の押し出し型塗布コーター。
【0016】
3.前記樹脂部材に溶剤流下方向に伸びる複数の溝を有することを特徴とする前記1又は2に記載の押し出し型塗布コーター。
【0017】
4.連続的に搬送されている支持体上に押し出し塗布方式によって塗布液を塗布する押し出し型塗布コーターを使用し塗布物を生産する方法であって、前記押し出し型塗布コーターは、塗布液吐出部へ支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させるための溶剤流下機構を有し、前記溶剤と接する部分が樹脂部材により被覆されており、前記塗布液吐出部へと溶剤を流下しながら、前記塗布液を前記塗布液吐出部より吐出し、前記支持体に対して塗布を開始することを特徴とする塗布物の生産方法。
【0018】
5.前記樹脂部材の幅手端に塗布液の幅方向への広がりを規制する広がり規制機構を有することを特徴とする前記4に記載の塗布物の生産方法。
【0019】
6.前記樹脂部材は溶剤流下方向に伸びる複数の溝を有することを特徴とする前記4又は5に記載の塗布物の生産方法。
【0020】
7.前記1〜3の何れか1項に記載の塗布コーターを使用して製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【0021】
8.前記4〜6の何れか1項に記載の塗布物の生産方法により生産されたことを特徴とする光学フィルム。
【発明の効果】
【0022】
押し出し型塗布コーターを使用して塗布を行う時、塗布開始時の帯状支持体への液付きを改良した押し出し型塗布コーターと、押し出し型塗布コーターを使用して生産された光学フィルム及び塗布物の生産方法と、塗布物の生産方法による光学フィルムを提供することが出来、生産効率の向上、安定した品質の塗布物の生産が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態を図1〜図5を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
図1は従来の溶剤流下機構を有する押し出し型塗布コーターであるエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、塗布を行っている状態の概略図である。図1(a)は溶剤流下機構を有する押し出し型塗布コーターであるエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、塗布を行っている状態の概略断面図である。図1(b)は図1(a)に示されるエクストルージョン型の塗布コーターの概略斜視図である。
【0025】
図中、6は溶剤流下機構の溶剤流下装置を示す。溶剤流下装置6は塗布コーター1の塗布液吐出部に、支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させるため、塗布コーター1を構成しているブロック101aの天面101a1に設けられている。支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させるとは、支持体と対向する位置に設置された塗布コーター1を構成しているブロック101aが支持体の搬送方向の下流側と対向する位置にあることから、溶剤をブロック101aの傾斜している第1面101a2の上部から塗布コーター1の塗布液吐出部に向けて流下させることを言う。本図の場合、第1面101a2を流下する溶剤は、第2面101a3と、第3面101a4とを有する第1面101a2に設けられた切り欠き部101Aを流下して塗布液吐出部に到達する。本図で示される第1面101a2と、第2面101a3と、第3面101a4とが溶剤が流下する部分に該当し、これらを合わせて溶剤流下面と称する。尚、塗布コーター1の形状によっては溶剤流下面の構成は異なり、例えば第1面101a2のみの場合もある。
【0026】
溶剤流下装置6は2つのブロック601aと、ブロック601bとを有し、ボルトなどで締結することで組み立てられている。602はブロック601aと、ブロック601bとの間隙で出来たスリットを示し、603はマニホールドと呼ばれる溶剤を一旦溜めるための部分であり、ここには溶剤供給管604から溶剤が送り込まれる。マニホールド603で溶剤流下幅方向に溜められた溶剤はスリット602を通り溶剤流下幅方向に均一な厚みとなりスリット602の先端の溶剤吐出口605から吐出するようになっている。溶剤吐出口605から吐出した溶剤は、塗布コーター1を構成しているブロック101aの溶剤流下面を塗布液吐出部に向けて流下(図中の矢印B方向)する。本発明では、塗布液吐出部とは、塗布液吐出口105とバックリップ105aとフロントリップ105bを含めた領域を言う。塗布コーター1は2つのブロック101aと、ブロック101bとをボルトで締結することで組み立てられている。他の符号は図6と同義である。
【0027】
本図に示す塗布コーター1を使用して塗布開始時に溶剤を流下する場合、次の問題点が挙げられる。
1)一般的に押し出し型の塗布コーターは製作精度の得やすさ、有機溶剤を含むことの多い塗布液に対する耐久性の観点からステンレスに代表される金属で製作される。しかしながら、溶剤が塗布コーターの上を流下する場合、金属表面の液に対する濡れ広がり性が高いことから流下面は全面均一となり液付きのためにリップ上で必要となる液量はかなり多く必要とされる。
2)溶剤の液量がかなり多く必要とされることから、無駄な費用がかかる。
3)溶剤の液量がかなり多く必要とされることから、指示体への塗布液の液付きが終了した後、溶剤の流下を停止するまでに時間がかかるため、ロスが多くなり稼働率の低下の一つの原因となる。
4)多くの溶剤が塗布コーターの溶剤流下面を流下する時、溶剤の蒸発量が多くなることで気化熱により、塗布コーターの温度低下は大きくなる。この結果、熱収縮により塗布コーターの変形を生じ、スリット間隙、コーターギャップの幅手不均一を生じ均一な塗布を行うことが困難になる。
5)変形した塗布コーターが正常な形に戻るまで間、塗膜の仕上がり状況が変化し均一な品質を維持することが出来ない。
【0028】
本発明は、本図に示すように塗布開始時に溶剤を流下し、塗布液の支持体への液付きを改良した塗布コーターと、塗布コーターを使用して生産された光学フィルム、及び塗布コーターを使用した塗布物の生産方法と、生産方法により生産された光学フィルムに関するものである。
【0029】
図2は溶剤の流下する部分を樹脂部材で被覆した、図1に示す溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略図である。図2(a)は溶剤の流下する部分を樹脂部材で被覆した、図1に示す溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略斜視図である。図2(b)は図2(a)に示す塗布コーターの樹脂部材で被覆した部分の拡大概略平面図である。
【0030】
図中、101a5は塗布コーター1の溶剤の流下する第1面101a2に設けられた塗布コーター1の素材の金属より溶剤に対する濡れ性の劣る樹脂部材を示す。本図は、樹脂部材を第1面101a2の一部に設けた場合を示しているが、切り欠き部101A(第2面101a3、第3面101a4とを有する)にも設けることが可能である。但し、第3面101a4にまで設ける場合は、第3面101a4の端辺(バックリップ105aの下流端)から0.5mm以上離すことが好ましい。溶剤吐出口605から吐出した溶剤は、樹脂部材101a5の表面、第2面101a3、第3面101a4を流下しバックリップ105aに到達する。
【0031】
本図に示す如き切り欠き部101A(第2面101a3、第3面101a4とを有する)を有する溶剤流下面を有している場合、溶剤吐出口605から樹脂部材101a5の上に吐出された溶剤は、第2面101a3に達すると塗布液吐出部へ向かう流れとは別にこの部分で幅手に広がる流れになり、流下すべきでない部分へ液が廻り込むことがあるため切り欠き部101A(第2面101a3、第3面101a4とを有する)に幅手への流れを遮るダム構造を設けることが好ましい。ダム構造の一例としては図3に示す防止部材101a7を切り欠き部101Aの樹脂部材101a5の両端に設けることが好ましい。
【0032】
溶剤吐出口605からの溶剤吐出量は、塗布コーター1の塗布液吐出口105からの塗布液吐出量に対して、塗布開始時の塗布液の支持体への液付き性、塗布液吐出口の乾燥防止を行うのに十分で、流下途中での液膜の安定性、溶剤蒸発による熱変形に伴うダイス変形を発生防止等を考慮し、20〜600%が好ましい。
【0033】
又、本図に示す樹脂部材101a5の配置の方法では、溶剤吐出口605から吐出する溶剤の量によっては、溶剤の一部が樹脂部材101a5の幅手の端辺から樹脂部材101a5が設けられていない第1面101a2上に広がり、第2面101a3、第3面101a4を流下しバックリップ105aに到達する場合があるため、溶剤吐出量を調整する必要がある。
【0034】
溶剤が流下する部分を、塗布コーターの素材の金属より溶剤に対する濡れ性の劣る樹脂部材で被覆することで、溶剤流下装置6の溶剤吐出口605から吐出した溶剤は、樹脂部材の表面を流下する時、流下流れが幅手で乱れ、部分的に流下膜厚が厚くなった状態で第2面101a3を経由し第3面101a4の端辺(バックリップの下流端)に到達し、塗布コーター1の塗布液吐出口105から吐出している塗布液と合流することでバックリップの幅手で部分的に溶剤の流下流量が多くなった状態となる。この状態で、塗布開始に際して塗布コーターを所定の塗布位置まで移動させた時、幅手で部分的に支持体と近接する部分が生じ液架橋を生じる。液架橋は塗布全幅に広がり塗布先頭での液付きが完了し、安定した液付きが可能となる。尚、樹脂部材101a5の表面に、図4に示す如く複数の溝を設ける、又は表面を粗面加工することはより液付き性を安定にする上から好ましい。
【0035】
Cは樹脂部材101a5の幅を示す。幅Cは、2cmから溶剤吐出口605の幅方向の両端から6cm広い範囲が好ましく、更には溶剤吐出口605の幅方向の両端から2〜4cm広い範囲が更に好ましい。
【0036】
樹脂部材101a5による塗布コーター1の溶剤が流下する部分を被覆する長さは、溶剤の流下する方向の樹脂部材による溶剤の流れを適度に乱す観点から塗布コーター1の溶剤が流下する部分の長さの50%以上であることが好ましく、リップの近傍であることが好ましい。樹脂部材101a5による断熱効果を考慮すると、溶剤が流下する部分の全面を被覆することが好ましいが、溶剤が流下する部分は本図に示す如く単純な斜面ではない場合もあることから現実的には全面を被覆することは難しく、溶剤が流下する部分の長さの95%を被覆することが現実的である。
【0037】
溶剤が流下する部分を樹脂部材で被覆することで断熱効果も発揮し、溶剤の気化による塗布コーターの温度低下を抑制することで熱変形による塗布コーターの精度劣化を抑制する効果も得られる。この時樹脂部材の選定、及び厚みに関しては伝熱抵抗値が2m2・K/W以上であることが好ましい。伝熱抵抗は以下の式で表される。
【0038】
熱抵抗値[m2・K/W]= 厚み[m]÷熱伝導率[W・m/K]
熱伝導率は物質に固有の値で伝熱のし易さを表し、この樹脂部材の厚みが厚いほど伝熱に対する抵抗値が大きくなることを意味する。断熱効果も加味すると樹脂部材の厚みは0.3〜1.5mmが好ましい。他の符号は図6と同義である。
【0039】
溶剤が流下する部分を、塗布コーターの素材の金属より溶剤に対する濡れ性の劣る樹脂部材で被覆することで次の効果が挙げられる。
1)溶剤量を増加することなく、バックリップ上で液付きに必要な流量が得られ、塗布開始時の安定した液付きが可能となった。
2)樹脂部材の断熱効果により、溶剤の気化熱に伴う塗布コーターの温度変化を抑えることが可能となり、塗布コーターの変形が発生しないため安定した塗布が可能となった。
3)溶剤量を増加することがないため、コストを抑えることが可能となった。
【0040】
図3は溶剤吐出口からの溶剤の流下する部分に溶剤の広がりを規制する広がり規制機構を設けた、溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略斜視図である。図3(a)は溶剤吐出口からの溶剤の流下する部分に溶剤の広がりを規制する広がり規制機構を設け、広がり規制機構に樹脂部材を設けた溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略斜視図である。図3(b)は図3(a)のXで示される部分の拡大部分概略斜視図である。図3(c)は図3(a)のXで示される部分の部分概略正面図である。
【0041】
図中、101a6は溶剤吐出口605から樹脂部材101a5の上に吐出された溶剤の幅方向への広がりを規制するために溶剤吐出口605の幅手の両端に位置する第1面101a2に溶剤の流下方向に向かって設けられた広がり規制機構の段差部を示す。段差部101a6の幅は、溶剤吐出口605の幅手の両端から片側で10mm以内が好ましく、より好ましくは5mm以内である。広がり規制機構は、溶剤吐出口605から第1面101a2に吐出された溶剤の幅方向への広がりを規制することが出来れば設置方法は特に限定はなく、例えば段差部101a6は塗布コーター1を構成するブロック101aを作製する時に切削加工で形成する、第1面101a2上に溶剤吐出口605の幅手の両端に位置する第1面101a2に溶剤の流下方向に向かって塗布コーター1と同じ素材で出来た板状部材をネジで固定する方法等が挙げられる。本図は切削加工で形成した場合を示している。
【0042】
101a61は段差部101a6の底面を示す。本図の場合、樹脂部材101a5は段差部101a6の底面101a61に設けられている。Dは第1面101a2の表面から樹脂部材101a5の表面迄の深さを示す。深さDは溶剤の流下時の液膜の厚さより深ければよく、0.05〜1mmが好ましい。尚、深さDはノギスで測定した値を示す。
【0043】
101a7は樹脂部材101a5の幅手の端辺に位置する切り欠き部101A(第2面101a3、第3面101a4とを有する)に設けられた広がり防止部材を示す。同じ広がり防止部材を樹脂部材101a5の幅手の他方の端辺に位置する切り欠き101Aに設けることで、防止部材の間が幅手への流れを遮るダム構造となっている。切り欠き部101A(第2面101a3、第3面101a4とを有する)の樹脂部材101a5の幅手の両端辺に位置する箇所に防止部材を設けることは、本図に示す如き切り欠き部101A(第2面101a3、第3面101a4とを有する)を有する溶剤流下面を有している場合、溶剤吐出口605から樹脂部材101a5の上に吐出された溶剤は段差部により樹脂部材101a5の幅手への広がりを規制されて流下し、第2面101a3に達すると塗布液吐出部へ向かう流れとは別にこの部分で幅手に広がる流れになり、流下すべきでない部分へ液が廻り込むことが防止されるため好ましい。
【0044】
溶剤吐出口605からの溶剤吐出量は、塗布コーター1の塗布液吐出口105からの塗布液吐出量に対して、塗布開始時の塗布液の支持体への液付き性、塗布液吐出口の乾燥防止を行うのに十分で、流下途中での液膜の安定性、溶剤蒸発による熱変形に伴うダイス変形を発生防止等を考慮し、20〜500%が好ましい。他の符号は図6と同義である。
【0045】
広がり規制機構の段差部101a6を樹脂部材101a5の幅手の両端に設けることで、流下する溶剤の幅手方向への広がりが規制されることから、図2に示した第1面101a2の上に樹脂部材101a5を設けた時よりも溶剤吐出口605から吐出する溶剤の量を減らすことが可能となり、図2に示す塗布コーターで得られた効果を維持しながら、更にコスト抑制が可能となった。
【0046】
図4は図3に示した塗布コーターに設けられた平坦な樹脂部材に代わり、溶剤の流下方向に向かって複数の溝が設けられた樹脂部材を設けた図3に示す溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略図である。図4(a)は図3に示した塗布コーターに設けられた平坦な樹脂部材に代わり、溶剤の流下方向に向かって複数の溝が設けられた樹脂部材を設けた図3に示す溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略斜視図である。図4(b)は図4(a)のE−E′に沿った概略部分拡大断面図である。
【0047】
図中、101a51は溶剤の流下方向に向かって樹脂部材101a5に設けられた溝を示す。Fは隣接する溝101a51の中心までの距離を示し溝101a51のピッチを表す。距離Fは、0.1〜1mmが好ましい。Gは溝101a51の深さを示す。深さGは、0.05〜0.5mmが好ましい。他の符号は図6と同義である。
【0048】
溝101a51の形状は特に限定はなく、例えば断面形状が矩形、半円形、三角形等が挙げられる。本図は三角形の場合を示している。
【0049】
本図に示す如き第2面101a3、第3面101a4を有する溶剤流下面を有している場合、溶剤吐出口605から樹脂部材101a5の上に吐出された溶剤は段差部により樹脂部材101a5の幅手への広がりを規制されて流下し、第2面101a3に達すると塗布液吐出部へ向かう流れとは別にこの部分で幅手に広がる流れになり、流下すべきでない部分へ液が廻り込むことがあるため、図3(b)に示す様に切り欠き部101A(第2面101a3、第3面101a4とを有する)に幅手への溶剤の流れ遮る広がり防止部材を設けることが好ましい。
【0050】
溶剤吐出口605からの溶剤吐出量は、塗布コーター1の塗布液吐出口105からの塗布液吐出量に対して、塗布開始時の塗布液の支持体への液付き性、塗布液吐出口の乾燥防止を行うのに十分で、流下途中での液膜の安定性、溶剤蒸発による熱変形に伴うダイス変形を発生防止等を考慮し、20〜400%が好ましい。
【0051】
溝101a51を付けることで、塗布コーターの素材の金属より溶剤に対する濡れ性の劣る樹脂部材で被覆しても溶剤流下装置の溶剤吐出口から吐出した溶剤は、溝に沿って流下するため、幅手での乱れが矯正され、溝のピッチに対応して流量が多くなった状態で第2面101a3を経由し第3面101a4の端辺(バックリップの下流端)に到達し、塗布コーターの塗布液吐出口から吐出している塗布液と合流することでバックリップの幅手で溝のピッチに対応して溶剤流下量が多くなった状態となる。この状態で、塗布開始に際して塗布コーターを所定の塗布位置まで移動させた時、幅手で溝のピッチに対応して塗布液流量が多くなった複数の箇所で支持体と近接し液架橋を生じるため、図3に示す塗布コーターよりも更に安定した塗布先頭での液付きが可能となった。
【0052】
本図に示す様に樹脂部材に溝を設けることで、図2、図3に示す塗布コーターで得られた効果を維持しながら、更に安定した塗布開始時の液付きが可能となった。
【0053】
図2〜図4に示す樹脂部材を塗布コーターの溶剤が流下する部分に設ける方法としては特に限定はなく、例えば樹脂部材と同じ樹脂材料を使用した接着剤、樹脂部材と異なる樹脂材料を使用した接着剤、熱処理による接着等が挙げられ適宜選択することが可能である。溝を設ける方法としては特に限定はなく、例えばレーザ加工、機械研削等が挙げられる又、本図に示した溝を設けた場合と同じ効果は、表面を粗面加工した樹脂部材を使用しても得られる。粗度としてはJIS B0601 2001に準拠した算術平均粗さ(Ra)が、1〜10μmであることが好ましい。
【0054】
図5は他の形式の溶剤流下機構を配設した塗布コーターの概略図である。(a)に付き説明する。7は保持機構(不図示)により保持されており、必要によっては移動手段(不図示)を備えている溶剤流下機構の押し出し塗布コーター型溶剤流下装置を示す。701は溶剤供給管702より送られてくる溶剤の吐出口を示す。溶剤供給管702から供給された溶剤は吐出口701より吐出され、塗布コーター1の第1面101a2、第2面101a3、第3面101a4を流下して塗布液吐出部に到達する。吐出口の幅は図1に示される溶剤流下装置6の溶剤吐出口605と同じであることが好ましい。
【0055】
(b)に付き説明する。8は塗布コーター1を構成しているブロック101aに配設した溶剤流下装置を示し、小型マニホールド801と、スリット802と、溶剤供給管804とを有している。溶剤供給管804から供給された溶剤は吐出口803より吐出され、塗布コーター1の第1面101a2、第2面101a3、第3面101a4を流下して塗布液吐出部に到達する。吐出口803の幅は図1に示される溶剤流下装置6の溶剤と出口607と同じであることが好ましい。
【0056】
(c)に付き説明する。9は塗布コーター1の第1面101a2の上に配設された溶剤流下機構の溶剤流下装置を示す。溶剤流下装置9は、第1面101a2とで溶剤の吐出口9aを形成する溶剤供給管9bを有する部材9cで構成されている。溶剤供給管9cから供給された溶剤は吐出口9aより吐出され、塗布コーター1の第1面101a2、第2面101a3、第3面101a4を流下して塗布液吐出部に到達する。吐出口9aの幅は図1に示される溶剤流下装置6の溶剤吐出口605と同じであることが好ましい。他の符号は図6と同義である。
【0057】
本発明の塗布コーターに使用する材質としては、例えばオーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、析出硬化系の各種ステンレス等が挙げられる。
【0058】
本発明の塗布コーターの溶剤が流下する部分を被覆するのに使用する樹脂部材としては特に限定されることはなく、例えば熱可塑性樹脂に分類される超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、アイオノマー、塩素化ポリエチレン、エチレン塩化ビニルコポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルベンテン、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリパラビニルフェノール、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS樹脂)、ABS/PVCアロイ、ABS/ポリエステルアロイ、SAN樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、メタクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル)、ノルボルネン樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル変性ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリルアミン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、石油樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、熱硬化性樹脂に分類されるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラフィン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート、グアナミン、ケトン樹脂、セルロース系樹脂に分類される酢酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、アセチルセルロース、その他工業用途で広く使われているポリアミド(6ナイロン,66ナイロン)、ポリアセタール、ポリカーボネート、PC/ABSアロイ、PC/ポリエステルアロイ、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性ポリエステル系コンポジットシート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクテックポリスチレン、液晶ポリマー、ナイロン620、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ポリアミドMDX6、MCナイロン、変性ナイロン、ポリイミド、フッ素樹脂(4フッ化エチレン、4フッ化エチレンペルフォルオロアルコキシビニルエーテル、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、ポリクロロトリルフルオロエチレン、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフロライド、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルフロライド)、ポリアミノビスマレインイミド、シリコーン樹脂、ポリトリアジン、架橋ポリアミドイミド、耐熱エポキシ樹脂、更には天然ゴム(イソプレン)やポリブタジエン系、ブタジエン-アクリロニトリル系、クロロプレン系などの合成ゴム等が挙げられる。これらの樹脂材料の中から使用する溶剤との適合性を考慮し適宜選択して使用することが好ましい。例えば、使用する溶剤がケトン、エーテルの場合は、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどが好ましい。
【0059】
溶剤流下装置から塗布液吐出部に流下させる溶剤としては、水、アルコール(例、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル)、脂肪族炭化水素(例、ヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例、メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン)、アミド(例、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン)、エーテル(例、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラハイドロフラン)、エーテルアルコール(例、1−メトキシ−2−プロパノール)などを単体で、或いは組み合わせて用いることが出来る。溶剤流下を休止してから溶剤流下面の溶剤が流下、蒸発し、塗膜へ影響を与えなくなるまでの時間を短縮するためには速乾性の溶剤を使用するべきであるが、溶媒蒸発時の気化熱をダイスから奪う速度も速くなるため状況に応じて選択する。中でも、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールが好ましいが、これらに限定されない。塗布液へ混合した時の影響を考慮し、塗布液中に使用されている溶媒と同種のものが好ましい。
【0060】
本発明の塗布コーターを使用した塗布物の生産方法により作製される塗布物としては、特に限定はなく、例えば一般用及び産業用ハロゲン化銀感光材料、感熱材料、熱現像感光材料、フォトレジスト、LCDや有機EL等に代表される電機光学パネルのデバイス用に使用する光学材料等の機能材料が挙げられる。これらの中でも、特に高性能が要求されるLCDや有機EL等に代表される電機光学パネルのデバイス用に使用する機能層を有する光学材料である光学フィルムを製造するのに使用することが好ましい。
【0061】
本発明に係る支持体に使用する材料としては特に限定はなく、例えば、セルロースエステル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、セルロースジアセテートフィルム、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレートフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム(アートン(JSR社製)、ゼオネックス、ゼオネア(以上、日本ゼオン社製))、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、アクリルフィルム等を挙げられる。これらのフィルムは、溶融押し出し法で製造されたフィルムであっても、溶液流延製膜で製造されたフィルムであってもよい。製造する製品に合わせ適宜選択することが可能である。これらの材料の中で光学材料としては、セルロースエステルが透明性、耐熱性及び液晶とのマッチング性に優れ、固有複屈折率が低く、光弾性係数が小さいので特に好適に用いられる。
【0062】
本発明に係るセルロースエステルは、脂肪酸アシル基、置換若しくは無置換の芳香族アシル基の中から少なくとも何れかの構造を含む、単独又は混合酸エステルである。芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環である時、ベンゼン環の置換基の例としてハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールオキシスルホニル基、−S−R、−NH−CO−OR、−PH−R、−P(−R)2、−PH−O−R、−P(−R)(−O−R)、−P(−O−R)2、−PH(=O)−R−P(=O)(−R)2、−PH(=O)−O−R、−P(=O)(−R)(−O−R)、−P(=O)(−O−R)2、−O−PH(=O)−R、−O−P(=O)(−R)2−O−PH(=O)−O−R、−O−P(=O)(−R)(−O−R)、−O−P(=O)(−O−R)2、−NH−PH(=O)−R、−NH−P(=O)(−R)(−O−R)、−NH−P(=O)(−O−R)2、−SiH2−R、−SiH(−R)2、−Si(−R)3、−O−SiH2−R、−O−SiH(−R)2及び−O−Si(−R)3が含まれる。上記Rは脂肪族基、芳香族基又はヘテロ環基である。置換基の数は、1個〜五個であることが好ましく、1個〜4個であることがより好ましく、1個〜3個であることが更に好ましく、1個又は2個であることが最も好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基及びウレイド基が好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基及びカルボンアミド基がより好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基及びアリールオキシ基が更に好ましく、ハロゲン原子、アルキル基及びアルコキシ基が最も好ましい。
【0063】
上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれる。上記アルキル基は、環状構造或いは分岐を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル及び2−エチルヘキシルが含まれる。上記アルコキシ基は、環状構造或いは分岐を有していてもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基は、更に別のアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ、ブチルオキシ、ヘキシルオキシ及びオクチルオキシが含まれる。
【0064】
上記アリール基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリール基の例には、フェニル及びナフチルが含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールオキシ基の例には、フェノキシ及びナフトキシが含まれる。上記アシル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アシル基の例には、ホルミル、アセチル及びベンゾイルが含まれる。上記カルボンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。カルボンアミド基の例には、アセトアミド及びベンズアミドが含まれる。上記スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド及びp−トルエンスルホンアミドが含まれる。上記ウレイド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。ウレイド基の例には、(無置換)ウレイドが含まれる。
【0065】
上記アラルキル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることが更に好ましい。アラルキル基の例には、ベンジル、フェネチル及びナフチルメチルが含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルが含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることが更に好ましい。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニルが含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は、8〜20であることが好ましく、8〜12であることが更に好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例には、ベンジルオキシカルボニルが含まれる。上記カルバモイル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。カルバモイル基の例には、(無置換)カルバモイル及びN−メチルカルバモイルが含まれる。上記スルファモイル基の炭素原子数は、20以下であることが好ましく、12以下であることが更に好ましい。スルファモイル基の例には、(無置換)スルファモイル及びN−メチルスルファモイルが含まれる。上記アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アシルオキシ基の例には、アセトキシ及びベンゾイルオキシが含まれる。
【0066】
上記アルケニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルケニル基の例には、ビニル、アリル及びイソプロペニルが含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルキニル基の例には、チエニルが含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。
【0067】
本発明に係るセルロースエステルにおいて、セルロースの水酸基部分の水素原子が脂肪族アシル基との脂肪酸エステルである時、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で、具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
【0068】
本発明において前記脂肪族アシル基とは、更に置換基を有するものも包含する意味であり、置換基としては上述の芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環である時、ベンゼン環の置換基として例示したものが挙げられる。
【0069】
又、上記セルロースエステルのエステル化された置換基が芳香環である時、芳香族環に置換する置換基Xの数は0又は1〜5個であり、好ましくは1〜3個で、特に好ましいのは1又は2個である。更に芳香族環に置換する置換基の数が2個以上の時、互いに同じでも異なっていてもよいが、又、互いに連結して縮合多環化合物(例えば、ナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリンなど)を形成してもよい。
【0070】
上記セルロースエステルにおいて置換若しくは無置換の脂肪族アシル基、置換若しくは無置換の芳香族アシル基の少なくとも何れか1種選択された構造を有する構造を有することが本発明に係るセルロースエステルに用いる構造として用いられ、これらは、セルロースの単独又は混合酸エステルでもよく、2種以上のセルロースエステルを混合して用いてもよい。
【0071】
本発明に係るセルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0072】
混合脂肪酸エステルの置換度として、更に好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂である。
【0073】
式(I) 2.6≦X+Y≦3.0
式(II) 0≦X≦2.5
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも1.9≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦0.9であることが好ましい。上記アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することが出来る。
【0074】
更に、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、更に好ましくは2.5〜5.0であり、更に好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0075】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することが出来る。
【0076】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることが出来る。
【0077】
本発明に係る塗布液はとしては、高分子成分を0.5〜20質量%含んでいることが好ましい。高分子成分としては、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、天然ゴム等が挙げられる。
【0078】
これらの高分子成分を含んだ塗布液としては特に制限はなく、例えば、一般用及び産業用ハロゲン化銀感光材料、感熱材料、熱現像感光材料、フォトレジスト、LCDや有機EL等に代表される電機光学パネルのデバイス用の塗布液が挙げられる。電気光学パネル用のデバイスとしてはCRTや液晶表示装置の視認性を改善するために、表示装置前面に貼り付ける反射防止層が形成された光学材料が挙げられる。ところで、テレビのような大画面の表示装置では、直接、物が接触することがあり傷が付き易い。そこで、通常は傷つき防止のためにクリアハードコート層を支持体上に形成した光学材料、又は反射防止層が形成された光学材料が用いられる。以下、クリアハードコート層を支持体上に形成した光学材料、又は反射防止層が形成された光学材料に付き説明する。
【0079】
クリアハードコート層を有した光学材料に付き説明する。クリアハードコート層としては活性線硬化樹脂層が好ましく用いられる。活性線硬化樹脂層とは紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂を主たる成分とする層を言う。活性線硬化樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられ、紫外線や電子線のような活性線を照射することによって硬化させてハードコート層が形成される。活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線照射によって硬化する樹脂が好ましい。
【0080】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、又は紫外線硬化型エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。
【0081】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、又はプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることが出来る。例えば、特開昭59−151110号に記載のものを用いることが出来る。例えば、ユニディック17−806(大日本インキ(株)製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン(株)製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
【0082】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させると容易に形成されるものを挙げることが出来、特開昭59−151112号に記載のものを用いることが出来る。
【0083】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることが出来、特開平1−105738号に記載のものを用いることが出来る。
【0084】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることが出来る。
【0085】
これら紫外線硬化性樹脂の光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることが出来る。光増感剤と共に使用してもよい。上記光反応開始剤も光増感剤として使用出来る。又、エポキシアクリレート系の光反応開始剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることが出来る。紫外線硬化樹脂組成物に用いられる光反応開始剤又光増感剤は該組成物100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
【0086】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が1つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることが出来る。又不飽和二重結合を2つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることが出来る。
【0087】
本発明において使用し得る紫外線硬化樹脂の市販品としては、アデカオプトマーKR・BYシリーズ:KR−400、KR−410、KR−550、KR−566、KR−567、BY−320B(旭電化(株)製);コーエイハードA−101−KK、A−101−WS、C−302、C−401−N、C−501、M−101、M−102、T−102、D−102、NS−101、FT−102Q8、MAG−1−P20、AG−106、M−101−C(広栄化学(株)製);セイカビームPHC2210(S)、PHC X−9(K−3)、PHC2213、DP−10、DP−20、DP−30、P1000、P1100、P1200、P1300、P1400、P1500、P1600、SCR900(大日精化工業(株)製);KRM7033、KRM7039、KRM7130、KRM7131、UVECRYL29201、UVECRYL29202(ダイセル・ユーシービー(株)製);RC−5015、RC−5016、RC−5020、RC−5031、RC−5100、RC−5102、RC−5120、RC−5122、RC−5152、RC−5171、RC−5180、RC−5181(大日本インキ化学工業(株)製);オーレックスNo.340クリヤ(中国塗料(株)製);サンラッドH−601、RC−750、RC−700、RC−600、RC−500、RC−611、RC−612(三洋化成工業(株)製);SP−1509、SP−1507(昭和高分子(株)製);RCC−15C(グレース・ジャパン(株)製)、アロニックスM−6100、M−8030、M−8060(東亞合成(株)製)等を適宜選択して利用出来る。
【0088】
又、具体的化合物例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることが出来る。
【0089】
これらの活性線硬化樹脂層はグラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、インクジェット法等公知の方法で塗設することが出来る。
【0090】
紫外線硬化性樹脂を光硬化反応により硬化させ、硬化皮膜層を形成するための光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用出来る。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることが出来る。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、活性線の照射量は好ましくは、5〜150mJ/cm2であり、特に好ましくは20〜100mJ/cm2である。
【0091】
又、活性線を照射する際には、フィルムの搬送方向に張力を付与しながら行うことが好ましく、更に好ましくは幅方向にも張力を付与しながら行うことである。付与する張力は30〜300N/mが好ましい。
【0092】
紫外線硬化樹脂層組成物塗布液の有機溶媒としては、例えば、炭化水素類(トルエン、キシレン、)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル)、グリコールエーテル類、その他の有機溶媒の中から適宜選択し、或いはこれらを混合し利用出来る。プロピレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)又はプロピレングリコールモノアルキルエーテル酢酸エステル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)等を5質量%以上、より好ましくは5〜80質量%以上含有する上記有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0093】
又、紫外線硬化樹脂層組成物塗布液には、特にシリコーン化合物を添加することが好ましい。例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどが好ましく添加される。ポリエーテル変性シリコーンオイルの数平均分子量は、例えば、1,000〜100,000、好ましくは、2,000〜50,000が適当であり、数平均分子量が1,000未満では、塗膜の乾燥性が低下し、逆に、数平均分子量が100,000を越えると、塗膜表面にブリードアウトしにくくなる傾向にある。
【0094】
シリコーン化合物の市販品としては、DKQ8−779(ダウコーニング社製商品名)、SF3771、SF8410、SF8411、SF8419、SF8421、SF8428、SH200、SH510、SH1107、SH3749、SH3771、BX16−034、SH3746、SH3749、SH8400、SH3771M、SH3772M、SH3773M、SH3775M、BY−16−837、BY−16−839、BY−16−869、BY−16−870、BY−16−004、BY−16−891、BY−16−872、BY−16−874、BY22−008M、BY22−012M、FS−1265(以上、東レ・ダウコーニングシリコーン社製商品名)、KF−101、KF−100T、KF351、KF352、KF353、KF354、KF355、KF615、KF618、KF945、KF6004、シリコーンX−22−945、X22−160AS(以上、信越化学工業社製商品名)、XF3940、XF3949(以上、東芝シリコーン社製商品名)、ディスパロンLS−009(楠本化成社製)、グラノール410(共栄社油脂化学工業(株)製)、TSF4440、TSF4441、TSF4445、TSF4446、TSF4452、TSF4460(GE東芝シリコーン製)、BYK−306、BYK−330、BYK−307、BYK−341、BYK−344、BYK−361(ビックケミ−ジャパン社製)日本ユニカー(株)製のLシリーズ(例えばL7001、L−7006、L−7604、L−9000)、Yシリーズ、FZシリーズ(FZ−2203、FZ−2206、FZ−2207)等が挙げられ、好ましく用いられる。
【0095】
これらの成分は基材や下層への塗布性を高める。積層体最表面層に添加した場合には、塗膜の撥水、撥油性、防汚性を高めるばかりでなく、表面の耐擦り傷性にも効果を発揮する。これらの成分は、塗布液中の固形分成分に対し、0.01〜3質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0096】
紫外線硬化性樹脂組成物塗布液の塗布方法としては、前述のものを用いることが出来る。塗布量はウェット膜厚として0.1〜30μmが適当で、好ましくは、0.5〜15μmである。又、ドライ膜厚としては0.1〜20μm、好ましくは1〜20μmである。特に好ましくは8〜20μmである。
【0097】
又、鉛筆硬度は、2H〜8Hのハードコート層であることが好ましい。特に好ましくは3H〜6Hであることが好ましい。鉛筆硬度は、作製したハードコートフィルム試料を温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS−K−5400が規定する鉛筆硬度評価方法に従い、1kgの加重にて各硬度の鉛筆で引っ掻きを10回繰り返し、傷が全く認められない引っ掻きの本数を表したものである。
【0098】
紫外線硬化性樹脂組成物は塗布乾燥中又は後に、紫外線を照射するのがよく、前記の5〜150mJ/cm2という活性線の照射量を得るための照射時間としては、0.1秒〜5分程度がよく、紫外線硬化性樹脂の硬化効率又は作業効率の観点から0.1〜10秒がより好ましい。又、これら活性線照射部の照度は50〜150mW/m2であることが好ましい。
【0099】
反射防止層を有した光学材料に付き説明する。本発明の光学材料に用いられる反射防止層は低屈折率層のみの単層構成でも、又多層の屈折率層でもどちらでも構成することが出来る。通常、反射防止層は支持体上のハードコート層(クリアハードコート層或いは防眩層)の表面上に光学干渉によって反射率が減少するように屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して積層出来る。反射防止層は、支持体よりも屈折率の高い高屈折率層と、支持体よりも屈折率の低い低屈折率層を組み合わせて構成したり、特に好ましくは、3層以上の屈折率層から構成される反射防止層であり、支持体側から屈折率の異なる3層を、中屈折率層(支持体又はハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているものが好ましい。ハードコート層が高屈折率層を兼ねてもよい。
【0100】
本発明に係わる反射防止層の好ましい層構成の例を下記に示す。ここで/は積層配置されていることを示している。
【0101】
支持体/ハードコート層/低屈折率層
支持体/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層
支持体/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
支持体/帯電防止層/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
支持体/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
支持体/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
〈低屈折率層〉
本発明に用いられる低屈折率層では以下の中空シリカ系微粒子が好適に用いられる。
【0102】
(中空シリカ系微粒子)
中空微粒子は、(I)多孔質粒子と該多孔質粒子表面に設けられた被覆層とからなる複合粒子、又は(II)内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体又は多孔質物質で充填された空洞粒子である。尚、低屈折率層には(I)複合粒子又は(II)空洞粒子の何れかが含まれていればよく、又双方が含まれていてもよい。
【0103】
尚、空洞粒子は内部に空洞を有する粒子であり、空洞は粒子壁で囲まれている。空洞内には、調製時に使用した溶媒、気体又は多孔質物質等の内容物で充填されている。この様な中空球状微粒子の平均粒子径が5〜300nm、好ましくは10〜200nmの範囲にあることが望ましい。使用される中空球状微粒子は、形成される透明被膜の厚さに応じて適宜選択され、形成される低屈折率層等の透明被膜の膜厚の2/3〜1/10の範囲にあることが望ましい。これらの中空球状微粒子は、低屈折率層の形成のため、適当な媒体に分散した状態で使用することが好ましい。分散媒としては、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)及びケトン(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、ケトンアルコール(例えばジアセトンアルコール)が好ましい。
【0104】
複合粒子の被覆層の厚さ又は空洞粒子の粒子壁の厚さは、1〜20nm、好ましくは2〜15nmの範囲にあることが望ましい。複合粒子の場合、被覆層の厚さが1nm未満の場合は、粒子を完全に被覆することが出来ないことがあり、後述する塗布液成分である重合度の低いケイ酸モノマー、オリゴマー等が容易に複合粒子の内部に進入して内部の多孔性が減少し、低屈折率の効果が十分得られないことがある。又、被覆層の厚さが20nmを越えると、前記ケイ酸モノマー、オリゴマーが内部に進入することはないが、複合粒子の多孔性(細孔容積)が低下し低屈折率の効果が十分得られなくなることがある。又空洞粒子の場合、粒子壁の厚さが1nm未満の場合は、粒子形状を維持出来ないことがあり、又厚さが20nmを越えても、低屈折率の効果が十分に現れないことがある。
【0105】
複合粒子の被覆層又は空洞粒子の粒子壁は、シリカを主成分とすることが好ましい。又、シリカ以外の成分が含まれていてもよく、具体的には、Al23、B23、TiO2、ZrO2、SnO2、CeO2、P23、Sb23、MoO3、ZnO2、WO3等が挙げられる。複合粒子を構成する多孔質粒子としては、シリカからなるもの、シリカとシリカ以外の無機化合物とからなるもの、CaF2、NaF、NaAlF6、MgF等からなるものが挙げられる。この内、特にシリカとシリカ以外の無機化合物との複合酸化物からなる多孔質粒子が好適である。シリカ以外の無機化合物としては、Al23、B23、TiO2、ZrO2、SnO2、CeO2、P23、Sb23、MoO3、ZnO2、WO3等との1種又は2種以上を挙げることが出来る。この様な多孔質粒子では、シリカをSiO2で表し、シリカ以外の無機化合物を酸化物換算(MOX)で表した時のモル比MOX/SiO2が、0.0001〜1.0、好ましくは0.001〜0.3の範囲にあることが望ましい。多孔質粒子のモル比MOX/SiO2が0.0001未満のものは得ることが困難であり、得られたとしても細孔容積が小さく、屈折率の低い粒子が得られない。又、多孔質粒子のモル比MOX/SiO2が、1.0を越えると、シリカの比率が少なくなるので、細孔容積が大きくなり、更に屈折率が低いものを得ることが難しいことがある。
【0106】
この様な多孔質粒子の細孔容積は、0.1〜1.5ml/g、好ましくは0.2〜1.5ml/gの範囲であることが望ましい。細孔容積が0.1ml/g未満では、十分に屈折率の低下した粒子が得られず、1.5ml/gを越えると微粒子の強度が低下し、得られる被膜の強度が低下することがある。尚、この様な多孔質粒子の細孔容積は水銀圧入法によって求めることが出来る。又、空洞粒子の内容物としては、粒子調製時に使用した溶媒、気体、多孔質物質等が挙げられる。溶媒中には空洞粒子調製する際に使用される粒子前駆体の未反応物、使用した触媒等が含まれていてもよい。又多孔質物質としては、前記多孔質粒子で例表した化合物からなるものが挙げられる。これらの内容物は、単一の成分からなるものであってもよいが、複数成分の混合物であってもよい。
【0107】
この様な中空球状微粒子の製造方法としては、例えば特開平7−133105号公報の段落番号[0010]〜[0033]に開示された複合酸化物コロイド粒子の調製方法が好適に採用される。
【0108】
この様にして得られた中空微粒子の屈折率は、内部が空洞であるので屈折率が低く、それを用いた本発明に用いられる低屈折率層の屈折率は、1.30〜1.50であることが好ましく、1.35〜1.44であることが更に好ましい。
【0109】
外殻層を有し、内部が多孔質又は空洞である中空シリカ系微粒子の低屈折率層塗布液中の含量(質量)は、10〜80質量%が好ましく、更に好ましくは20〜60質量%である。
【0110】
(テトラアルコキシシラン化合物又はその加水分解物)
本発明の低屈折率層には、ゾルゲル素材としてテトラアルコキシシラン化合物又はその加水分解物が含有されることが好ましい。本発明に用いられる低屈折率層用の素材として、前記無機珪素酸化物以外に有機基を有する珪素酸化物を用いることも好ましい。これらは一般にゾルゲル素材と呼ばれるが、金属アルコレート、オルガノアルコキシ金属化合物及びその加水分解物を用いることが出来る。特に、アルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン及びその加水分解物が好ましい。これらの例としては、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等)、アルキルトリアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等)、アリールトリアルコキシシラン(フェニルトリメトキシシラン等)、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシラン等が挙げられる。
【0111】
本発明に用いられる低屈折率層は前記珪素酸化物と下記シランカップリング剤を含むことが好ましい。具体的なシランカップリング剤の例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン等が挙げられる。
【0112】
又、珪素に対して2置換のアルキル基を持つシランカップリング剤の例として、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0113】
シランカップリング剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製KBM−303、KBM−403、KBM−402、KBM−403、KBM−1403、KBM−502、KBM−503、KBE−502、KBE−503、KBM−603、KBE−603、KBM−903、KBE−903、KBE−9103、KBM−802、KBM−803等が挙げられる。
【0114】
これらシランカップリング剤は予め必要量の水で加水分解されていることが好ましい。シランカップリング剤が加水分解されていると、前述の珪素酸化物粒子及び有機基を有する珪素酸化物の表面が反応し易く、より強固な膜が形成される。又、加水分解されたシランカップリング剤を予め塗布液中に加えてもよい。
【0115】
又、低屈折率層は、5〜50質量%の量のポリマーを含むことも出来る。ポリマーは、微粒子を接着し、空隙を含む低屈折率層の構造を維持する機能を有する。ポリマーの使用量は、空隙を充填することなく低屈折率層の強度を維持出来るように調整する。ポリマーの量は、低屈折率層の全量の10〜30質量%であることが好ましい。ポリマーで微粒子を接着するためには、(1)微粒子の表面処理剤にポリマーを結合させるか、(2)微粒子をコアとして、その周囲にポリマーシェルを形成するか、或いは(3)微粒子間のバインダーとして、ポリマーを使用することが好ましい。
【0116】
バインダーポリマーは、飽和炭化水素又はポリエーテルを主鎖として有するポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素を主鎖として有するポリマーであることが更に好ましい。バインダーポリマーは架橋していることが好ましい。飽和炭化水素を主鎖として有するポリマーは、エチレン性不飽和モノマーの重合反応により得ることが好ましい。架橋しているバインダーポリマーを得るためには、2以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを用いることが好ましい。2以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼン及びその誘導体(例えば、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例えば、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例えば、メチレンビスアクリルアミド)及びメタクリルアミドが挙げられる。
【0117】
又、本発明に用いられる低屈折率層が、熱又は電離放射線により架橋する含フッ素樹脂(以下、「架橋前の含フッ素樹脂」とも言う)の架橋からなる低屈折率層であってもよい。架橋前の含フッ素樹脂としては、含フッ素ビニルモノマーと架橋性基付与のためのモノマーから形成される含フッ素共重合体を好ましく挙げることが出来る。上記含フッ素ビニルモノマー単位の具体例としては、例えばフルオロオレフィン類(例えば、フルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等)、(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えば、ビスコート6FM(大阪有機化学製)やM−2020(ダイキン製)等)、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられる。架橋性基付与のためのモノマーとしては、グリシジルメタクリレートや、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルグリシジルエーテル等のように分子内に予め架橋性官能基を有するビニルモノマーの他、カルボキシル基やヒドロキシル基、アミノ基、スルホン酸基等を有するビニルモノマー(例えば、(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル等)が挙げられる。後者は共重合の後、ポリマー中の官能基と反応する基ともう1つ以上の反応性基を持つ化合物を加えることにより、架橋構造を導入出来ることが特開平10−25388号、同10−147739号に記載されている。架橋性基の例には、アクリロイル、メタクリロイル、イソシアナート、エポキシ、アジリジン、オキサゾリン、アルデヒド、カルボニル、ヒドラジン、カルボキシル、メチロール及び活性メチレン基等が挙げられる。含フッ素共重合体が、加熱により反応する架橋基、若しくは、エチレン性不飽和基と熱ラジカル発生剤若しくはエポキシ基と熱酸発生剤等の相み合わせにより、加熱により架橋する場合、熱硬化型であり、エチレン性不飽和基と光ラジカル発生剤若しくは、エポキシ基と光酸発生剤等の組み合わせにより、光(好ましくは紫外線、電子ビーム等)の照射により架橋する場合、電離放射線硬化型である。
【0118】
架橋前の含フッ素共重合体を形成するために用いられる上記各モノマーの使用割合は、含フッ素ビニルモノマーが好ましくは20〜70モル%、より好ましくは40〜70モル%、架橋性基付与のためのモノマーが好ましくは1〜20モル%、より好ましくは5〜20モル%、併用されるその他のモノマーが好ましくは10〜70モル%、より好ましくは10〜50モル%の割合である。
【0119】
本発明に用いられる低屈折率層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号)により、塗布により形成することが出来る。又、2以上の層を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許2,761,791号、同2,941,898号、同3,508,947号、同3,526,528号及び原崎勇次著、コーティング工学、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。本発明の低屈折率層の膜厚は50〜200nmであることが好ましく、60〜150nmであることがより好ましい。
【0120】
〈高屈折率層及び中屈折率層〉
本発明においては、反射率の低減のために透明支持体と低屈折率層との間に、高屈折率層を設けることが好ましい。又、該透明支持体と高屈折率層との間に中屈折率層を設けることは、反射率の低減のために更に好ましい。高屈折率層の屈折率は、1.55〜2.30であることが好ましく、1.57〜2.20であることが更に好ましい。中屈折率層の屈折率は、透明支持体の屈折率と高屈折率層の屈折率との中間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.55〜1.80であることが好ましい。高屈折率層及び中屈折率層の厚さは、5nm〜1μmであることが好ましく、10nm〜0.2μmであることが更に好ましく、30nm〜0.1μmであることが最も好ましい。高屈折率層及び中屈折率層のヘイズは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが最も好ましい。高屈折率層及び中屈折率層の強度は、1kg荷重の鉛筆硬度でH以上であることが好ましく、2H以上であることが更に好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0121】
本発明に用いられる中、高屈折率層は下記一般式(1)で表される有機チタン化合物のモノマー、オリゴマー又はそれらの加水分解物を含有する塗布液を塗布し乾燥させて形成させた屈折率1.55〜2.5の層であることが好ましい。
【0122】
一般式(1) Ti(OR14
式中、R1としては炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基がよいが、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基である。又、有機チタン化合物のモノマー、オリゴマー又はそれらの加水分解物は、アルコキシド基が加水分解を受けて−Ti−O−Ti−のように反応して架橋構造を作り、硬化した層を形成する。
【0123】
本発明に用いられる有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーとしては、Ti(OCH34、Ti(OC254、Ti(O−n−C374、Ti(O−i−C374、Ti(O−n−C494、Ti(O−n−C374の2〜10量体、Ti(O−i−C374の2〜10量体、Ti(O−n−C494の2〜10量体等が好ましい例として挙げられる。これらは単独で、又は2種以上組み合わせて用いることが出来る。中でもTi(O−n−C374、Ti(O−i−C374、Ti(O−n−C494、Ti(O−n−C374の2〜10量体、Ti(O−n−C494の2〜10量体が特に好ましい。
【0124】
本発明に用いられる有機チタン化合物のモノマー、オリゴマー又はそれらの加水分解物は、塗布液に含まれる固形分中の50.0質量%〜98.0質量%を占めていることが望ましい。固形分比率は50質量%〜90質量%がより好ましく、55質量%〜90質量%が更に好ましい。この他、塗布組成物には有機チタン化合物のポリマー(予め有機チタン化合物の加水分解を行って架橋したもの)或いは酸化チタン微粒子を添加することも好ましい。
【0125】
本発明に用いられる高屈折率層及び中屈折率層は、微粒子として金属酸化物粒子を含み、更にバインダーポリマーを含むことが好ましい。
【0126】
上記塗布液調製法で加水分解/重合した有機チタン化合物と金属酸化物粒子を組み合わせると、金属酸化物粒子と加水分解/重合した有機チタン化合物とが強固に接着し、粒子の持つ硬さと均一膜の柔軟性を兼ね備えた強い塗膜を得ることが出来る。
【0127】
高屈折率層及び中屈折率層に用いる金属酸化物粒子は、屈折率が1.80〜2.80であることが好ましく、1.90〜2.80であることが更に好ましい。金属酸化物粒子の1次粒子の質量平均径は、1〜150nmであることが好ましく、1〜100nmであることが更に好ましく、1〜80nmであることが最も好ましい。層中での金属酸化物粒子の質量平均径は、1〜200nmであることが好ましく、5〜150nmであることがより好ましく、10〜100nmであることが更に好ましく、10〜80nmであることが最も好ましい。金属酸化物粒子の平均粒径は、20〜30nm以上であれば光散乱法により、20〜30nm以下であれば電子顕微鏡写真により測定される。金属酸化物粒子の比表面積は、BET法で測定された値として、10〜400m2/gであることが好ましく、20〜200m2/gであることが更に好ましく、30〜150m2/gであることが最も好ましい。
【0128】
金属酸化物粒子の例としては、Ti、Zr、Sn、Sb、Cu、Fe、Mn、Pb、Cd、As、Cr、Hg、Zn、Al、Mg、Si、P及びSから選択される少なくとも1種の元素を有する金属酸化物であり、具体的には二酸化チタン(例、ルチル、ルチル/アナターゼの混晶、アナターゼ、アモルファス構造)、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムが挙げられる。中でも、酸化チタン、酸化錫及び酸化インジウムが特に好ましい。金属酸化物粒子は、これらの金属の酸化物を主成分とし、更に他の元素を含むことが出来る。主成分とは、粒子を構成する成分の中で最も含有量(質量%)が多い成分を意味する。他の元素の例としては、Ti、Zr、Sn、Sb、Cu、Fe、Mn、Pb、Cd、As、Cr、Hg、Zn、Al、Mg、Si、P及びS等が挙げられる。
【0129】
金属酸化物粒子は表面処理されていることが好ましい。表面処理は、無機化合物又は有機化合物を用いて実施することが出来る。表面処理に用いる無機化合物の例としては、アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム及び酸化鉄が挙げられる。中でもアルミナ及びシリカが好ましい。表面処理に用いる有機化合物の例としては、ポリオール、アルカノールアミン、ステアリン酸、シランカップリング剤及びチタネートカップリング剤が挙げられる。中でも、シランカップリング剤が最も好ましい。
【0130】
高屈折率層及び中屈折率層中の金属酸化物粒子の割合は、5〜65体積%であることが好ましく、より好ましくは10〜60体積%であり、更に好ましくは20〜55体積%である。
【0131】
上記金属酸化物粒子は、媒体に分散した分散体の状態で、高屈折率層及び中屈折率層を形成するための塗布液に供される。金属酸化物粒子の分散媒体としては、沸点が60〜170℃の液体を用いることが好ましい。分散溶媒の具体例としては、水、アルコール(例、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル)、脂肪族炭化水素(例、ヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例、メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン)、アミド(例、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン)、エーテル(例、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラハイドロフラン)、エーテルアルコール(例、1−メトキシ−2−プロパノール)が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びブタノールが特に好ましい。
【0132】
又金属酸化物粒子は、分散機を用いて媒体中に分散することが出来る。分散機の例としては、サンドグラインダーミル(例、ピン付きビーズミル)、高速インペラーミル、ペッブルミル、ローラーミル、アトライター及びコロイドミルが挙げられる。サンドグラインダーミル及び高速インペラーミルが特に好ましい。又、予備分散処理を実施してもよい。予備分散処理に用いる分散機の例としては、ボールミル、三本ロールミル、ニーダー及びエクストルーダーが挙げられる。
【0133】
本発明に用いられる高屈折率層及び中屈折率層は、架橋構造を有するポリマー(以下、架橋ポリマーとも言う)をバインダーポリマーとして用いることが好ましい。架橋ポリマーの例として、ポリオレフィン等の飽和炭化水素鎖を有するポリマー、ポリエーテル、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミン、ポリアミド及びメラミン樹脂等の架橋物が挙げられる。中でも、ポリオレフィン、ポリエーテル及びポリウレタンの架橋物が好ましく、ポリオレフィン及びポリエーテルの架橋物が更に好ましく、ポリオレフィンの架橋物が最も好ましい。
【0134】
本発明に用いられるモノマーとしては、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーが最も好ましいが、その例としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼン及びその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)及びメタクリルアミド等が挙げられる。アニオン性基を有するモノマー、及びアミノ基又は4級アンモニウム基を有するモノマーは市販のモノマーを用いてもよい。好ましく用いられる市販のアニオン性基を有するモノマーとしては、KAYAMARPM−21、PM−2(日本化薬(株)製)、AntoxMS−60、MS−2N、MS−NH4(日本乳化剤(株)製)、アロニックスM−5000、M−6000、M−8000シリーズ(東亞合成化学工業(株)製)、ビスコート#2000シリーズ(大阪有機化学工業(株)製)、ニューフロンティアGX−8289(第一工業製薬(株)製)、NKエステルCB−1、A−SA(新中村化学工業(株)製)、AR−100、MR−100、MR−200(第八化学工業(株)製)等が挙げられる。又、好ましく用いられる市販のアミノ基又は4級アンモニウム基を有するモノマーとしてはDMAA(大阪有機化学工業(株)製)、DMAEA,DMAPAA(興人(株)製)、ブレンマーQA(日本油脂(株)製)、ニューフロンティアC−1615(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0135】
ポリマーの重合反応は、光重合反応又は熱重合反応を用いることが出来る。特に光重合反応が好ましい。重合反応のため、重合開始剤を使用することが好ましい。例えば、ハードコート層のバインダーポリマーを形成するために用いられる熱重合開始剤、及び光重合開始剤が挙げられる。
【0136】
重合開始剤として市販の重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤に加えて、重合促進剤を使用してもよい。重合開始剤と重合促進剤の添加量は、モノマーの全量の0.2〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0137】
反射防止層の各層又はその塗布液には、前述した成分(金属酸化物粒子、ポリマー、分散媒体、重合開始剤、重合促進剤)以外に、重合禁止剤、レベリング剤、増粘剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、帯電防止剤や接着付与剤を添加してもよい。
【0138】
中〜高屈折率層及び低屈折率層の塗設後、金属アルコキシドを含む組成物の加水分解、又は硬化を促進するため、活性エネルギー線を照射することが好ましい。より好ましくは、各層を塗設するごとに活性エネルギー線を照射することである。
【0139】
本発明に使用する活性エネルギー線は、紫外線、電子線、γ線等で、化合物を活性させるエネルギー源であれば制限なく使用出来るが、紫外線、電子線が好ましく、特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。紫外線反応性化合物を光重合させる紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用出来る。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることが出来る。又、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプ又はシンクロトロン放射光等も用いることが出来る。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は20mJ/cm2〜10,000mJ/cm2が好ましく、更に好ましくは、100mJ/cm2〜2,000mJ/cm2であり、特に好ましくは、400mJ/cm2〜2,000mJ/cm2である。
【実施例】
【0140】
以下実施例により本発明を詳細に説明するが本発明はこれにより限定されるものではない。
【0141】
実施例1
(クリアハードコート層形成済みセルロースエステルフィルムの作製)
(セルロースエステルフィルムの作製)
下記のように各種添加液、各種ドープを調製して、フィルム両端に幅10mm、高さ10μmのナーリング加工を施し、幅1200mm、長さ2500m、膜厚80μmの長尺広幅のセルロースエステルフィルムを作製した。
【0142】
(セルロースエステルフィルムの作製)
〈酸化珪素分散液Aの調製〉
アエロジルR972V (日本アエロジル(株)製) 1kg
エタノール 9kg
以上をディゾルバで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリン型高圧分散装置を用いて分散を行い、酸化珪素分散液Aを調製した。
【0143】
〈添加液Bの調製〉
セルローストリアセテート(アセチル基の置換度2.88) 6kg
メチレンクロライド 140kg
以上を密閉容器に投入し、加熱、撹拌しながら完全に溶解し、濾過した。これに10kgの上記酸化珪素分散液Aを撹拌しながら加えて、更に30分間撹拌した後、濾過し、添加液Bを調製した。
【0144】
〈ドープCの調製〉
メチレンクロライド 440kg
エタノール 35kg
セルローストリアセテート(アセチル基の置換度2.88) 100kg
トリフェニルホスフェート 10kg
エチルフタリルエチルグリコレート 2kg
チヌビン326(チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.3kg
チヌビン109(チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.5kg
チヌビン171(チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.5kg
上記の溶剤を密閉容器に投入し、攪拌しながら残りの素材を投入し、加熱、撹拌しながら完全に溶解し、混合した。ドープを流延する温度まで下げて一晩静置し、脱泡操作を施した後、溶液を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。更に上記溶液に添加液Bを3kg添加し、インラインミキサー(東レ(株)製静止型管内混合機Hi−Mixer、SWJ)で混合し、濾過し、ドープCを調製した。
【0145】
ドープCを濾過した後、ベルト流延装置を用い、35℃のドープを35℃のステンレスバンド支持体上に均一に流延した。その後、支持体上で乾燥させた後、ステンレスバンド支持体上からフィルムを剥離した。この時のフィルムの残留溶媒量は80%であった。ステンレスバンド支持体から剥離した後、80℃に維持された乾燥ゾーンで1分間乾燥させた後、2軸延伸テンターを用いて、残留溶媒量3〜10質量%である時に100℃の雰囲気下で長手方向に0.98倍、幅方向に1.1倍に延伸し、幅把持を解放して、多数のロールで搬送させながら125℃の乾燥ゾーンで乾燥し作製した。
【0146】
《クリアハードコート層の形成》
(クリアハードコート層形成用塗布組成物の調製)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 100質量部 (2量体及び3量体以上の成分を含む)
光反応開始剤(イルガキュア184 チバスペシャルティケミカルズ社製) 4質量部 プロピレングリコールモノメチルエーテル 75質量部 メチルエチルケトン 75質量部
これらの素材を混合しクリアハードコート層形成用塗布液とした。
(クリアハードコート層形成用塗布液の塗布)
準備したセルロースエステルフィルムの一方の面に調製したクリアハードコート層形成用塗布液を図2に示すエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、表1に示す様な条件で塗布を行いクリアハードコート層を形成し試料No.101〜123とした。尚、溶剤が流下する部分を樹脂部材で被覆しない塗布コーターを使用した以外は全て同じ条件でクリアハードコート層形成用塗布液を塗布しクリアハードコート層を形成し比較試料No.124とした。
【0147】
尚、溶剤流下は、溶剤としてアセトンを使用し、塗布コーターの塗布液吐出量が設定された後、塗布液吐出量に対して表1に示す様に変更して吐出し、塗布コーターを待機位置から塗布位置に移動し塗布を開始し、塗布が開始した5秒後溶剤の流下を停止した。搬送速度は30m/minとし、塗布幅1000mm、ウェット膜厚10μm、塗布コーターとセルロースエステルフィルムの最も小さい間隙を80μmで塗布を行い、その後乾燥温度120℃で残留溶媒を除去し乾燥させた後、硬化処理部で150mJ/cm2の照射強度で紫外線照射することにより塗布膜を硬化させ、室温まで冷却した。
【0148】
使用した塗布コーターは、材質として析出硬化系ステンレス、全幅は1400mm、塗布液吐出口の幅は1000mm、溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅1020mm、樹脂部材は第3面101a4の端辺(バックリップ105aの下流端)から0.5mm離して被覆した。樹脂部材の固定は、エポキシ系接着剤を使用して行った。尚、表中の樹脂部材の幅は溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅の片側の端辺からの幅を示す。樹脂部材による溶剤流下面の被覆率(%)の測定は、流下長さ方向の樹脂部材長さと流路長の関係から算出した。
【0149】
評価
作製した各試料No.101〜124に付き、塗布開始時の液付き、溶剤流下停止5秒後に塗布した塗膜の幅手膜厚分布を以下に示す方法で試験し、以下に示す評価ランクに従って評価した結果を表1に示す。
【0150】
塗布開始時の液付きの試験方法
塗布液を所定量で吐出した状態で溶剤流下量を各条件で吐出、この状態でコーターと支持体の塗布位置への近接離間を10回繰り返し、液付きが生じるか確認した。
【0151】
塗布開始時の液付きの評価ランク
◎:10回中10回液付きし、液付きが幅手同時に発生し、支持体搬送方向長さ20cm以内で液付き完了
○:10回中10回液付き
△:10回中9回液付き
×:10回中8回以下の液付き
塗膜の幅手分布の測定方法
作製した試料を幅手に100mmピッチで12点、長さ方向に2m離れた位置で更に12点、計24点で、大塚電子(株)製 光干渉膜厚計 FE−3000を用い、膜厚を測定し、以下の式で計算し膜厚均一性とした。
【0152】
塗膜厚のバラツキ=(最大膜厚−最小膜厚)/平均膜厚
膜厚均一性の評価ランク
◎:4%未満
○:4%以上8%未満
△:8%以上18%未満
×:18%以上
【0153】
【表1】

【0154】
尚、表中、PPはポリプロピレン、PETはポリエチレンテレフタレート、EPはエポキシ樹脂を示す。本発明の有効性が確認された。
【0155】
実施例2
(クリアハードコート層形成済みセルロースエステルフィルムの作製)
(セルロースエステルフィルムの作製)
実施例1と同じ材料を使用し、同じ方法でセルロースエステルフィルムを作製した。
【0156】
《クリアハードコート層の形成》
(クリアハードコート層形成用塗布組成物の調製)
実施例1と同じ組成のクリアハードコート層形成用塗布液を調製した。
(クリアハードコート層形成用塗布液の塗布)
準備したセルロースエステルフィルムの一方の面に調製したクリアハードコート層形成用塗布液を図3に示すエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、表2に示す様な条件で塗布を行いクリアハードコート層を形成し試料No.201〜222とした。尚、溶剤が流下する部分を樹脂部材で被覆しない塗布コーターを使用した以外は全て同じ条件でクリアハードコート層形成用塗布液を塗布し、クリアハードコート層を形成し比較試料No.223とした。図1で示される塗布コーターを使用した他は全て同じ条件でクリアハードコート層形成用塗布液を塗布しクリアハードコート層を形成し比較試料No.224とした。
【0157】
尚、溶剤流下は、溶剤としてアセトンを使用し、塗布コーターの塗布液吐出量が設定された後、塗布液吐出量に対して表2に示す様に変化して吐出し、塗布コーターを待機位置から塗布位置に移動し塗布を開始し、塗布が開始した5秒後溶剤の流下を停止した。搬送速度は30m/minとし、塗布幅1000mm、ウェット膜厚10μm、塗布コーターとセルロースエステルフィルムの最も小さい間隙を80μmで塗布を行い、その後乾燥温度120℃で残留溶媒を除去し乾燥させた後、硬化処理部で150mJ/cm2の照射強度で紫外線照射することにより塗布膜を硬化させ、室温まで冷却した。
【0158】
使用した塗布コーターは、材質として析出硬化系ステンレス、全幅は1400mm、の塗布液吐出口の幅は1000mm、溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅は1020mm、樹脂部材は第3面101a4の端辺(バックリップ105aの下流端)から0.5mm離して被覆した。樹脂部材の幅は溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅の片側の端辺から40mmまでとし、全幅で1100mmとした。段差部の深さは図3(C)に示すDに該当する。
樹脂部材の固定は、エポキシ系接着剤を使用して行った。尚、表中の樹脂部材による溶剤流下面の被覆率(%)の測定は実施例1と同じ方法で行った。
【0159】
評価
作製した各試料No.201〜224に付き、塗布開始時の液付きを実施例1と同じ方法で試験し、溶剤流下停止5秒後に塗布した塗膜の幅手膜厚分布を実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表2に示す。
【0160】
【表2】

【0161】
尚、表中、PPはポリプロピレン、PETはポリエチレンテレフタレート、EPはエポキシ樹脂を示す。本発明の有効性が確認された。
【0162】
実施例3
(クリアハードコート層形成済みセルロースエステルフィルムの作製)
(セルロースエステルフィルムの作製)
実施例1と同じ材料を使用し、同じ方法でセルロースエステルフィルムを作製した。
【0163】
《クリアハードコート層の形成》
(クリアハードコート層形成用塗布組成物の調製)
実施例1と同じ組成のクリアハードコート層形成用塗布液を調製した。
【0164】
(クリアハードコート層形成用塗布液の塗布)
準備したセルロースエステルフィルムの一方の面に調製したクリアハードコート層形成用塗布液を図4に示すエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、表3に示す様な条件で塗布を行いクリアハードコート層を形成し試料No.301〜322とした。尚、図1で示される塗布コーターを使用した他は全て同じ条件でクリアハードコート層形成用塗布液を塗布しクリアハードコート層を形成し比較試料No.323とした。
【0165】
尚、溶剤流下は、溶剤としてアセトンを使用し、塗布コーターの塗布液吐出量が設定された後、塗布液吐出量に対して表3に示す様に変化して吐出し、塗布コーターを待機位置から塗布位置に移動し塗布を開始し、塗布が開始した5秒後溶剤の流下を停止した。搬送速度は30m/minとし、塗布幅1000mm、ウェット膜厚10μm、塗布コーターとセルロースエステルフィルムの最も小さい間隙を80μmで塗布を行い、その後乾燥温度120℃で残留溶媒を除去し乾燥させた後、硬化処理部で150mJ/cm2の照射強度で紫外線照射することにより塗布膜を硬化させ、室温まで冷却した。
【0166】
使用した塗布コーターは、材質として析出硬化系ステンレス、全幅は1400mm、段差部の深さ(図3(C)に示すDに該当する)は0.5mm、塗布液吐出口の幅は1000mm、溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅:1020mm、樹脂部材は第3面101a4の端辺(バックリップ105aの下流端)から0.5mm離して被覆した。樹脂部材の厚さは1.0mmとし、樹脂部材の溝は研削加工を行い設けた。樹脂部材の固定は、エポキシ系接着剤を使用して行った。樹脂部材の幅は溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅の片側の端辺から40mmまでとし、全幅で1100mmとした。尚、表中の樹脂部材による溶剤流下面の被覆率(%)の測定は、実施例1と同じ方法で行った。
【0167】
評価
作製した各試料No.301〜323に付き、塗布開始時の液付きを実施例1と同じ方法で試験し、溶剤流下停止5秒後に塗布した塗膜の幅手膜厚分布を実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表3に示す。
【0168】
【表3】

【0169】
尚、表中、PPはポリプロピレン、PETはポリエチレンテレフタレート、EPはエポキシ樹脂を示す。本発明の有効性が確認された。
【0170】
実施例4
(クリアハードコート層形成済みセルロースエステルフィルムの作製)
実施例3の試料No.303と同じ条件でクリアハードコート層形成済みセルロースエステルフィルムを2000m作製した。
【0171】
(クリアハードコート層及び低屈折率層形成済みのセルロースエステルフィルムの作製)
(低屈折率層形成用塗布液の調製)
テトラエトキシシラン加水分解物* 27g
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 0.8g
アルミニウムトリスエチルアセトアセテート 0.8g
2%アセトン分散微粒子シリカ(超音波分散) 30ml
(商品名:アエロジル200、日本アエロジル(株)製)
シクロヘキサノン 50ml
フッ素系界面活性剤 0.1g
(メガファックF−172 大日本インキ社製)
*テトラエトキシシラン加水分解物の調製方法
テトラエトキシシラン250gにエタノール380gを加え、この溶液に3gの塩酸(12N)を235gの水に溶解した塩酸水溶液を室温で、ゆっくり滴下した。滴下後、3時間室温で撹拌して調製した。
(低屈折率層形成用塗布液の塗布)
準備した、クリアハードコート層形成済みセルロースエステルフィルムのクリアハードコート層の上に調製した低屈折率層形成用塗布液を図4に示す塗布コーターを使用し、表5に示す様な条件で塗布を行い低屈折率層を形成し試料No.401〜422とした。尚、図1で示される塗布コーターを使用した他は全て同じ条件で低屈折率層形成用塗布液を塗布し低屈折率層を形成し比較試料No.423とした。
【0172】
尚、溶剤流下は、溶剤としてアセトンを使用し、塗布コーターの塗布液吐出量が設定された後、塗布液吐出量に対して表4に示す様に変化して吐出し、塗布コーターを待機位置から塗布位置に移動し塗布を開始し、塗布が開始した5秒後溶剤の流下を停止した。搬送速度は30m/minとし、塗布幅1000mm、ウェット膜厚10μm、塗布コーターとセルロースエステルフィルムの最も小さい間隙を80μmで塗布を行い、その後乾燥温度120℃で残留溶媒を除去し乾燥させた後、硬化処理部で150mJ/cm2の照射強度で紫外線照射することにより塗布膜を硬化させ、室温まで冷却した。
【0173】
使用した塗布コーターは、材質として析出硬化系ステンレス、全幅は1400mm、塗布液吐出口の幅は1000mm、溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅は1020mmとした。樹脂部材は第3面101a4の端辺(バックリップ105aの下流端)から0.5mm離して被覆し、樹脂部材の固定は、エポキシ系接着剤を使用して行った。樹脂部材の幅は溶剤吐出装置の溶剤吐出口の幅の片側の端辺から40mmまでとし、全幅で1100mmとした。又、低屈折率層形成用塗布液の塗布幅は1000mmとし、溶剤吐出量は塗布液の吐出量に対して100%で行った。尚、表中の樹脂部材による溶剤流下面の被覆率(%)の測定は実施例1と同じ方法で測定した。
【0174】
評価
作製した各試料No.401〜423に付き、塗布開始時の液付きを実施例1と同じ方法で試験し、溶剤流下停止5秒後に塗布した塗膜の幅手膜厚分布を実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表4に示す。
【0175】
【表4】

【0176】
尚、表中、PPはポリプロピレン、PETはポリエチレンテレフタレート、EPはエポキシ樹脂を示す。本発明の有効性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】従来の溶剤流下機構を有する押し出し型塗布コーターであるエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、塗布を行っている状態の概略図である。
【図2】溶剤の流下する部分を樹脂部材で被覆した、図1に示す溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略図である。
【図3】溶剤吐出口からの溶剤の流下する部分に溶剤の広がりを規制する広がり規制機構を設けた、溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略斜視図である。
【図4】図3に示した塗布コーターに設けられた平坦な樹脂部材に代わり、溶剤の流下方向に向かって複数の溝が設けられた樹脂部材を設けた図3に示す溶剤流下機構を有する塗布コーターの概略図である。
【図5】他の形式の溶剤流下機構を配設した塗布コーターの概略図である。
【図6】押し出し方式であるエクストルージョン型の塗布コーターを使用し、塗布を行っている状態の概略図である。
【符号の説明】
【0178】
1 塗布コーター
101A 切り欠き部
101a、101b、601a、601b ブロック
101a5 樹脂部材
101a51 溝
101a6 段差部
101a61 底面
101a7 広がり防止部材
102 スリット
105 塗布液吐出口
105a バックリップ
105b フロントリップ
2 バックアップロール
3 帯状支持体
4 塗膜
401 ビード
6、8、9 溶剤流下装置
605 溶剤吐出口
7 塗布コーター型溶剤流下装置
701、803、9a 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続搬送される帯状の支持体上に押し出し塗布方式により塗布液を塗布する押し出し型塗布コーターであり、
前記押し出し型塗布コーターの塗布液吐出部に、支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させるための溶剤流下機構を有し、
前記溶剤が流下する部分が樹脂部材で被覆されていることを特徴とする押し出し型塗布コーター。
【請求項2】
前記樹脂部材の幅手端に溶剤の幅方向への広がりを規制する広がり規制機構を有することを特徴とする請求項1に記載の押し出し型塗布コーター。
【請求項3】
前記樹脂部材に溶剤流下方向に伸びる複数の溝を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の押し出し型塗布コーター。
【請求項4】
連続的に搬送されている支持体上に押し出し塗布方式によって塗布液を塗布する押し出し型塗布コーターを使用し塗布物を生産する方法であって、
前記押し出し型塗布コーターは、塗布液吐出部へ支持体搬送方向下流側から溶剤を流下させるための溶剤流下機構を有し、
前記溶剤と接する部分が樹脂部材により被覆されており、
前記塗布液吐出部へと溶剤を流下しながら、前記塗布液を前記塗布液吐出部より吐出し、前記支持体に対して塗布を開始することを特徴とする塗布物の生産方法。
【請求項5】
前記樹脂部材の幅手端に塗布液の幅方向への広がりを規制する広がり規制機構を有することを特徴とする請求項4に記載の塗布物の生産方法。
【請求項6】
前記樹脂部材は溶剤流下方向に伸びる複数の溝を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の塗布物の生産方法。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか1項に記載の塗布コーターを使用して製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項8】
請求項4〜6の何れか1項に記載の塗布物の生産方法により生産されたことを特徴とする光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−268324(P2007−268324A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93461(P2006−93461)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】